説明

熱マグノンによるスピントルク発振素子(STO)

【課題】 熱マグノンによるスピントルク発振素子を提供する。
【解決手段】 「熱マグノンによる」スピントルク発振素子(STO)は、熱流のみを用いて、スピントルク(ST)効果を惹起しかつ自由層磁化の持続的な振動を発生させる。熱マグノンによるSTOは、従来型の自由層および基準層に加えて、さらに、固定された面内磁化を有する磁性酸化物層と、その磁性酸化物層の1つの表面上の強磁性金属層と、自由層および金属層間の非磁性導電層と、磁性酸化物層のもう一方の表面上の電気抵抗性ヒータとを含む。熱マグノン効果のために、金属層と伝導層と自由層とを通る磁性酸化物層からの熱流によって、最終的に、自由層に対するスピン移行トルク(STT)が生じる。熱流と反対方向に流れるセンス電流が、自由層磁化の振動周波数を監視するために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的にはスピントルク発振素子(spin−torque oscillator:STO)に関し、さらに具体的には、磁界センサ、およびSTOセンサを用いる感知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録ディスクドライブにおける読み取りヘッドとして用いられる従来型の磁気抵抗型(magnetoresistive:MR)センサの1つのタイプは、巨大磁気抵抗(giant magnetoresistance:GMR)効果に基づく「スピンバルブ(spin−valve)」センサである。GMRスピンバルブセンサは、典型的には銅(Cu)である非磁性の導電スペーサ層によって分離される2つの強磁性層を含む積層体(層スタック)を有する。スペーサ層に隣接する1つの強磁性層は、例えば、隣接する反強磁性層との交換結合によってピン止めされることによって、自身の磁化の方向が固定されており、基準層と呼称される。スペーサ層に隣接するもう一方の強磁性層は、外部磁界の存在によって自身の磁化の方向が自由に回転し、自由層と呼称される。センサにセンス電流が印加されると、例えばディスク上の記録磁気ビットからの外部磁界の存在によって、基準層の磁化に対して自由層の磁化が回転し、それを、電気抵抗における変化として検出できる。センス電流がセンサ積層体における層の平面を貫通するように垂直に導かれる場合は、そのセンサは、面直電流(current−perpendicular−to−the−plane:CPP)センサと呼称される。
【0003】
CPP−GMR読み取りヘッドに加えて、もう1つのタイプのCPPセンサがあり、それは、トンネルMRまたはTMRセンサとも呼称される磁気トンネル接合センサである。このセンサにおいては、非磁性のスペーサ層が、非常に薄い非磁性のトンネル障壁層である。CPP−TMRセンサにおいては、層を垂直に貫通するトンネル電流は、2つの強磁性層における磁化の相対的な配向(orientation)によって変化する。CPP−GMR読み取りヘッドにおいては、非磁性のスペーサ層は、通常CuまたはAgのような金属である導電材料から形成されるが、CPP−TMR読み取りヘッドにおいては、非磁性のスペーサ層は、TiO、MgOまたはAlのような電気絶縁性の材料から形成される。
【0004】
CPP−MRセンサにおいては、信号および信号対ノイズ比(signal−to−noise ratio:SNR)を最大化するために、センサを高いセンス電流密度で操作することが望ましい。しかし、CPP−MRセンサは、電流によって誘起されたノイズに非常に敏感でありかつ不安定であることが知られている。スピン偏極されたセンス電流は強磁性層を垂直に貫通して流れ、局在的な磁化に対するスピントルク(spin−torque:ST)効果を生成する。これは、自由層の磁化のゆらぎをもたらす可能性があり、センス電流が大きい場合には、相当程度の低周波磁気ノイズを生じさせる。比較的最近には、ST効果が熱勾配によって惹起されることが可能であり、その場合、絶縁性のフェライト内に生成されるマグノン(magnon)が、強磁性層内において電子スピン流に転化されることが示されている(非特許文献1)。
【0005】
スピントルク発振素子(STO)は、自由層に対して作用するST誘導力を利用するために、Iよりも大きい電流において操作されるデバイスである。Iよりも高い固定された直流電流がSTOを通るように導かれると、ST効果のために、自由層の磁化の持続的な振動が生起する。CPP−GMRまたはCPP−TMRセンサに基づくSTOセンサが提案されてきた。STO磁界センサにおいては、自由層磁化の振動周波数が外部磁界の印加によって偏移し、この周波数の偏移を、外部磁界の変化の検出に用いることができる。CPP−GMRまたはCPP−TMRセンサに基づくSTOセンサにおいては、センサを通る電流が、自由層の磁化の持続的な振動を駆動すると共に、外部磁界による自由層磁化の振動における周波数の偏移を感知するのにも用いられる。しかし、STOセンサにおいては、センス電流が、自由層の磁化の持続的な振動を惹起するのに必要な電流値である閾値電流より大幅に高くなるべきではないので、出力信号の振幅出力が制限される。本願と同じ譲受人に譲渡される(特許文献1)と、(特許文献2)とは、磁気記録ディスクドライブにおける読み取りヘッドとして使用するためのSTOセンサを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0328799A1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0201614A1号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Slonczewski、「Initiation of spin−transfer torque by thermal transport from magnons」、Physical Review B82.054403(2010)
【非特許文献2】K.Mizushimaら、「Signal−to−noise ratios in high−signal−transfer−rate read heads composed of spin−torque oscillators」、J.Appl.Phys.107、063904 2010
【非特許文献3】Bonettiら、「STO frequency vs.magnetic field angle:The prospect of operation beyond 65 GHz」、APL 94 102507(2009)
【非特許文献4】J.G.Zhuら、「Microwave Assisted Magnetic Recording」、IEEE Transactions on Magnetics、Vol.44、No.1、2008年1月、p125−131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
必要であるのは、自由層磁化の振動周波数の監視を可能にするSTOであり、自由層磁化の振動周波数における偏移を感知するSTOセンサであって、閾値電流によって制限されない高い出力信号振幅を有するSTOおよびSTOセンサである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるSTOは、熱流のみを用いてST効果を惹起しかつ自由層磁化の持続的な振動を発生させる「熱マグノンによる」STOである。熱マグノンによるSTOは、例えば、磁気記録ディスクドライブの読み取りヘッドのようなSTO磁界センサとしても機能し得る。熱マグノンによるSTOは、従来型の自由層および基準層に加えて、さらに、固定された面内磁化を有する磁性酸化物層と、その磁性酸化物層の1つの表面上の強磁性金属層と、自由層および金属層間の非磁性導電層と、磁性酸化物層のもう一方の表面上の電気抵抗性ヒータとを含む。熱マグノン効果のために、金属層と伝導層と自由層とを通る磁性酸化物層からの熱流によって、最終的に、自由層に対するスピン移行トルク(spin transfer torque:STT)が生じる。熱流と反対方向に流れるセンス電流が、自由層磁化の振動周波数を監視するために用いられる。センス電流の電子の流れは熱流と同じ方向であるので、電子の流れが、自由層に相当程度のスピントルクを加えることはない。この方式において、熱流は、自由層にSTを発生させる手段であって振動の感知に用いられる電荷電流とは無関係な手段を提供する。これによって、大きな電荷電流を印加できるようになり、大きなSTO出力、すなわち、振動の発生に電荷電流に付随するスピン流のみが用いられる場合より遥かに大きなSTO出力が得られる。
【0010】
本発明の特性および利点をさらに完全に理解するためには、添付の図面を参照してなされる以下の詳細説明を参照するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来型の磁気記録ハードディスクドライブの、カバーが取り外された状態の概略的な上面図である。
【図2】図1の2−2の方向から見たスライダの拡大端面図およびディスクの断面図である。
【図3】図2の3−3の方向から見た図であり、読み取り/書き込みヘッドの端部を含むスライダの空気ベアリング表面(ABS)を示す。
【図4】膜面垂直方向電流磁気抵抗型(CPP−MR)読み取りヘッドのABSの断面模式図であり、先行技術による磁気シールド層の間に配置される積層体を示している。
【図5】磁気記録ディスクドライブとして実施した場合の本発明の一実施形態に基づく熱マグノンによるスピントルク発振素子(STO)感知システムの模式図である。
【図6】STOセンサ積層体における特定の層が実質的に自由層の膜面内に配置される図5の実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるSTOは、磁界センサとしての用途以外の応用分野を有するが、以下においては、磁気記録ディスクドライブの読み取りヘッドとして詳細に説明する。
【0013】
図1〜図4は、従来型のCPP磁気抵抗型(MR)磁界感知センサおよびシステムを表している。図1は、従来型の磁気記録ハードディスクドライブのブロック図である。このディスクドライブは、磁気記録ディスク12と、ディスクドライブのハウジングまたはベース16の上に支持される回転ボイスコイルモータ(voice coil motor:VCM)アクチュエータ14とを含む。ディスク12は、回転中心13を有し、ベース16に装着されるスピンドルモータ(図示されていない)によって15の方向に回転される。アクチュエータ14は、軸17の回りに旋回すると共に、剛性のアクチュエータアーム18を含んでいる。一般的に可撓性のサスペンション20は、フレクシャー要素(flexure)23を含み、アーム18の末端に取り付けられる。ヘッドキャリヤまたは空気ベアリングスライダ22はフレクシャー要素23に取り付けられる。磁気記録読み取り/書き込みヘッド24は、スライダ22のトレーリング表面25に形成される。フレクシャー23およびサスペンション20は、スライダが、回転ディスク12によって生成される空気ベアリング上で「ピッチング(前後方向での傾斜)」および「ローリング(左右方向での傾斜)」することを可能にする。通常、スピンドルモータによって回転されるハブ上には複数のディスクが積み重ねられ、別個のスライダおよび読み取り/書き込みヘッドが各ディスク表面に付属している。
【0014】
図2は、図1の2−2の方向から見たスライダ22の拡大端面図およびディスク12の断面図である。スライダ22は、フレクシャー要素23に取り付けられると共に、ディスク12に面する空気ベアリング表面(air−bearing surface:ABS)27と、ABSに略垂直なトレーリング表面25とを有する。ABS27によって、回転ディスク12からの空気流が、スライダ22をディスク12の表面に非常に近接して、あるいはそれにほぼ接触するように支持する空気ベアリングを生成する。読み取り/書き込みヘッド24は、トレーリング表面25の上に形成される。また、読み取り/書き込みヘッド24は、トレーリング表面25上の端子パッド29への電気接続によって、ディスクドライブの読み取り/書き込み電子装置に接続される。図2の断面図に示すように、ディスク12は、クロストラック方向に間隔をおいて配置される離散的なデータトラック50を含むパターン化媒体ディスクであり、そのデータトラック50の1つが読み取り/書き込みヘッド24と位置合わせされて示されている。離散的なデータトラック50は、クロストラック方向におけるトラック幅(track width)TWを有し、円周方向において連続的な磁化可能材料から形成することができる。この場合、パターン化媒体ディスク12は、離散トラック媒体(discrete−track−media:DTM)ディスクと呼称される。代替方式として、データトラック50が、トラックに沿って間隔をおいて配置される離散的なデータアイランドを含むことができる。この場合は、パターン化媒体ディスク12は、ビットパターン化媒体(bit−patterned−media:BPM)ディスクと呼称される。ディスク12は、記録層がパターン化されずに、記録材料の連続的な層である従来型の連続媒体(continuous−media:CM)ディスクとすることもできる。CMディスクにおいては、書き込みヘッドが連続記録層の上に書き込む際に、トラック幅TWの同心のデータトラックが作成される。
【0015】
図3は、図2の3−3の方向から見た図であり、ディスク12から見た読み取り/書き込みヘッド24の端部を示す。読み取り/書き込みヘッド24は、スライダ22のトレーリング表面25の上に堆積され、かつリソグラフィーによってパターン化された一連の薄膜である。書き込みヘッドは、垂直の書き込み磁極(magnetic write pole:WP)を含み、トレーリングシールドおよび側部シールド(図示されていない)の両方またはいずれか一方を含むことができる。CPP−MRセンサまたは読み取りヘッド100は、2つの磁気シールドS1およびS2の間に配置される。磁気シールドS1、S2は、透磁性の材料、典型的にはNiFe合金から形成され、また導電性とすることもできるので、それは、読み取りヘッド100に対する電気的リードとして機能することが可能である。この磁気シールドは、読み取りヘッド100を、読み取られているデータビットに隣接する記録データビットからシールドするように機能する。別個の電気的リードを用いてもよいが、この場合は、読み取りヘッド100は、例えば、タンタル、金または銅のような導電性のリード材料の層であって磁気シールドS1、S2と接触している層と接触するように形成される。図3は、非常に小さい寸法を示すことが困難なので、縮尺どおりではない。典型的には、各磁気シールドS1、S2は、トラックに沿う方向において数ミクロンであり、これに対して、トラックに沿う方向における読み取りヘッド100の全厚さは20〜40nmの範囲とすることができる。
【0016】
図4は、ディスクから見たABSの図であって、CPP−MRセンサ構造を構成する層を示す図である。センサ100は、2つの磁気シールド層S1、S2の間に形成される積層体を含むCPP−MR読み取りヘッドである。センサ100は、ABSにおける前端部と、トラック幅(TW)を画定する離隔配置される側端部102、104とを有する。磁気シールドS1、S2は、導電性の材料から形成され、従って、センス電流Iのための電気的リードとしても機能することができる。このセンス電流Iは、一般的にセンサ積層体の各層を垂直に貫通して導かれる。代替方式として、別個の電気的リード層を、シールドS1、S2とセンサ積層体との間に形成してもよい。下部の磁気シールドS1は、通常、センサ積層体の成長用の平滑な基板とするために、化学的機械的研摩(chemical−mechanical polishing:CMP)によって研摩される。例えば薄いRu/NiFe二重層であるシード層101が、通常スパッタリングによって磁気シールドS2の下に堆積され、相対的に厚い磁気シールドS2の電気メッキを容易にする。
【0017】
センサ100の層は、横方向(ページの中に)に向けられた固定された磁気モーメントまたは磁化の方向121を有する基準強磁性層120と、ディスク12からの横方向の外部磁界に応じて層110の面内に回転できる磁気モーメントまたは磁化の方向111を有する自由強磁性層110と、基準層120および自由層110の間の非磁性スペーサ層130とを含む。CPP−MRセンサ100は、CPP−GMRセンサとすることもできる。この場合は、非磁性スペーサ層130を、通常Cu、AuまたはAgのような金属の導電材料から形成することになるであろう。代わりの方式として、CPP−MRセンサ100をCPPトンネルMR(CPP−TMR)センサとすることもできる。この場合は、非磁性スペーサ層130は、TiO、MgOまたはAlのような電気絶縁性の材料から形成されるトンネル障壁になるであろう。
【0018】
CPP−MRセンサにおけるピン止め(pinned)される強磁性層は、単一のピン止め層、あるいは、図4に示すような逆平行の(antiparallel:AP)ピン止め構造とすることができる。APピン止め構造は、非磁性の逆平行結合(antiparallel coupling:APC)層123によって分離される第1(AP1)強磁性層122および第2(AP2)強磁性層120を有するが、その場合、2つのAPピン止め強磁性層の磁化の方向は実質的に逆平行に向けられている。AP2層120は、一方の側で非磁性APC層123に接触し、もう一方の側でセンサの電気的非磁性スペーサ層130に接触しており、このAP2層120は、通常、基準層と呼称される。AP1層122は、通常、一方の側で反強磁性層124または硬質マグネットピンニング層(hard magnet pinning layer)に接触し、もう一方の側で非磁性のAPC層123に接触しており、このAP1層122は、通常、ピン止め層と呼称される。APピン止め構造は、基準/ピン止め層とCPP−MR自由強磁性層との間の純静磁気結合を最小化する。APピン止め構造は、時に、「層状化(laminated)」ピン止め層、または合成反強磁性体(synthetic antiferromagnet:SAF)とも呼称される。
【0019】
図4のCPP−GMRセンサにおけるピン止め層は、AP結合(APC)層123を挟んで反強磁性的に結合された、基準強磁性層120(AP2)と下部の強磁性層122(AP1)とを有する周知のAPピン止め構造である。APC層123は、通常Ru、Ir、Rh、Crまたはこれらの合金である。AP1およびAP2層並びに自由強磁性層110は、通常、結晶性のCoFeまたはNiFe合金、あるいはCoFe/NiFe二重層のような多層のこれらの材料から形成される。AP1およびAP2強磁性層は、逆平行に向けられたそれぞれの磁化方向127、121を有する。AP1層122は、図4に示すように、反強磁性(antiferromagnetic:AF)層124に対して交換結合することによってその磁化方向をピン止めすることができる。AF層124は、通常、Mn合金、例えば、PtMn、NiMn、FeMn、IrMn、PdMn、PtPdMnまたはRhMnである。代替的に、APピン止め構造を「自己ピン止め(self−pinned)」とすることができる。「自己ピン止め」センサにおいては、AP1およびAP2層の磁化方向127、121は、通常、製作されたセンサ内に存在する磁気ひずみおよび残留応力によって、一般的にディスク表面に垂直に設定される。AP1およびAP2層は同様のモーメントを有することが望ましい。これによって、APピン止め構造の純磁気モーメントが小さくなることが保証され、その結果、自由層110に対する静磁気結合が最小化されると共に、APピン止め構造の純モーメントにほぼ反比例するAF層124の有効ピンニング磁界が高いままで維持される。
【0020】
シード層125を下部のシールド層S1とAPピン止め構造との間に配置することができる。AF層124を用いる場合は、シード層125は、AF層124の成長を促進する。シード層125は、通常、1層または多層のNiFeCr、NiFe、Ta、CuまたはRuである。キャッピング層112は、自由強磁性層110と上部のシールド層S2との間に配置される。キャッピング層112は、腐食を防止し、Ru、Ta、Tiのような、あるいは、Ru/Ta/Ru、Ru/Ti/RuまたはCu/Ru/Taの三重層のような、単層または異なる材料の多層とすることができる。
【0021】
また、CoPtまたはCoCrPt硬質磁気バイアス層のような強磁性バイアス層115も、通常、センサ100の側端部102、104近傍のセンサ積層体の外側に形成される。バイアス層115は、絶縁層116によって、センサ100の側端部102、104から電気的に絶縁される。場合によっては、特にバイアス層がCoPtまたはCoPtCr層である場合には、バイアス層115の成長を容易にするため、例えばCrMoまたはCrTiのCr合金のようなシード層114を絶縁層116の上に堆積することができる。バイアス層115の頂部には、例えばCrの層または多層のTa/Crのようなキャッピング層118を堆積する。キャッピング層118の上層部、例えばCrは、センサ製作の間の化学的機械的研摩(CMP)の停止層としての役目を果たす。バイアス層115は、一般的にABSに平行な磁化117を有し、従って、自由層110の磁化111を面内にバイアスをかける。このため、外部磁界が存在しない場合には、その磁化117は自由層110の磁化111に平行である。強磁性バイアス層115は、反強磁性層に交換結合される硬質磁気バイアス層または強磁性層とすることができる。シールド層S2のための、例えばNiFe層のようなシード層101を、センサ100およびキャッピング層118の上部に配置することができる。
【0022】
対象の範囲となる外部磁界、すなわちディスク12に記録されたデータからの磁界が存在する場合には、自由層110の磁化の方向111は回転し、一方、基準層120の磁化の方向121は実質的に固定されたままで回転しないであろう。自由層の磁化111が基準層の磁化121に対して回転する結果、電気抵抗に変化が生じる。従って、センス直流電流Iがセンサ100内の積層体を通って導かれると、この抵抗変化が、ディスク上の記録データからの信号磁界の強さに比例する電圧信号として検出される。センス電流は強磁性層を貫通して垂直に流れ、局在する磁化に対するスピントルク(spin−torque:ST)効果を作出する。Iがある臨界電流(I)よりも大きいと、このST効果は自由層の磁化の旋回またはゆらぎを生成する。比較的最近、ST効果が熱勾配によって惹起される可能性があり、その場合、絶縁性のフェライト内に生成されるマグノンが、強磁性層内において電子スピン流に転化されることが示されている(非特許文献1)。
【0023】
スピントルク発振素子(STO)は、自由層に対して作用するST誘導力を利用するために、Iよりも大きい電流において操作されるデバイスである。Iよりも高い固定された直流電流が、適正に選択された層を含むSTOを通るように導かれると、ST効果のために、自由層の磁化の持続的な振動が生起する。CPP−GMRまたはCPP−TMRセンサに基づくSTOセンサが提案されてきた。STO磁界センサにおいては、自由層磁化の振動周波数が外部磁界の印加によって偏移し、この周波数の偏移を、外部磁界の変化の検出に用いることができる。従って、磁気記録ディスクドライブにおける読み取りヘッドとして使用するためのSTO磁界センサが、従来型のCPP−GMRおよびCPP−TMR読み取りヘッドに代わるものとして提案されてきた。これは、例えば、本願と同じ譲受人に譲渡される(特許文献1)と、(特許文献2)とに記載されているとおりである。商業的に入手できる磁気記録ディスクドライブの読み取りヘッドにおいて使用されるCPP−TMRまたはCPP−GMRセンサにおいては、センサを通る電流は、電気抵抗の変化、従ってディスクからの磁界の変化を感知するために用いられるので、通常、センス電流と呼称される。CPP−GMRまたはCPP−TMRセンサに基づくSTOセンサにおいては、センサを通る電流を電荷電流とも呼称することができる。それは、その電流が、自由層の振動周波数の偏移、すなわち外部磁界を感知するために用いられることに加えて、ST効果を惹起する電子の流れをも発生させるからである。
【0024】
本発明によるSTOは、ST効果を惹起しかつ自由層磁化の持続的な振動を発生させるために熱流のみを用いる。熱流と反対方向に流れるセンス電流が、自由層磁化の振動周波数を監視するために用いられる。この「熱マグノンによる(thermagnonic)」STOは、磁気記録ディスクドライブの読み取りヘッドのようなSTO磁界センサとしても機能することが可能である。STを発生させるスピン流は、絶縁性のフェライト内のマグノンから生じ、センス電流によって生成されるスピン流から切り離されている。従来型のSTOにおいては、STOを、閾値電流を僅かに超えた電荷電流レベル、すなわち自由層磁化の持続的な振動を惹起するだけの電流において操作することが望ましい。従って、本発明のSTOにおいては、熱流のみによってST効果を惹起するので、STOを通るセンス電流をこの閾値電流よりもかなり高くすることができ、従ってより高い出力信号が生成される。
【0025】
図5は、本発明の一実施形態に基づく熱マグノンによるSTOセンサ200を用いた磁界感知システムの模式図である。このシステムは、STOセンサ200を備えた磁気記録ディスクドライブであって、そのABSがディスク250に面する磁気記録ディスクドライブとして表現されている。センサ200は、個々の層のセットを含み、かつ、CPPセンサ100に関して上に述べたCPP−GMRまたはCPP−TMRセンサの特徴を有する。
【0026】
ディスク250は、基板252と、磁気記録媒体として機能する記録層254であって、ABSの方を向くまたはそれと反対側を向く矢印によって表現される磁化領域を備えた記録層254とを有する。ディスクが回転すると、磁化領域は、センサ200を通過して矢印215の方向に動く。記録層254は、記録層254の平面に垂直に磁化される領域を含む垂直磁気記録媒体として表現されているが、代わりの方式として、その領域が記録層254の面内において磁化される面内磁気記録媒体(longitudinal magnetic recording medium)とすることもできる。
【0027】
STOセンサ200は、層のセットを堆積するための基板として機能し得る第1シールド層S1と、第2シールド層S2と、感知されるべき外部磁界が存在すると自由に振動する実質的に面内の磁化211を有する自由強磁性層210とを有する。自由層210は、非磁性のスペーサ層230および固定された面内磁化221を有する基準層220を含むCPP構造の一部分である。CPP構造は、スペーサ層230が絶縁性のトンネル障壁層であるCPP−TMR構造であってもよいし、あるいは、スペーサ層230が非磁性の伝導スペーサ層であるCPP−GMR構造であってもよい。基準層220は、単一のピン止め層、あるいはAPピン止め構造のAP2層とすることができる。従って、基準層220、スペーサ層230および自由層210の組成および厚さは、CPP−TMRおよびCPP−GMR構造用として前記に述べたものと同様にすることができる。S1および基準層220の間に非強磁性の伝導金属層225を配置して、S1と、基準層220またはセンサ積層体における他の強磁性層との間のいかなる磁気交換相互作用をも破棄すると共に、一方では導電性を許容するようにする。層225用の典型的な材料として、Cu、Ag、TaおよびRuが含まれる。熱マグノンによるSTOセンサ200は、さらに、固定された面内磁化261を有する磁性酸化物層260と、磁性酸化物層260の1つの表面上の強磁性金属層265と、自由層210および金属層265の間の非磁性導電層270とを含む。外部磁界が存在しない場合は、自由層210の磁化211は、基準層220の磁化221に実質的に逆平行で、磁性酸化物層260の磁化261に平行であり、かつABSに実質的に垂直であるべきである。自由層210の磁化211は、記録層254に向かう方向またはそれから離れる方向を指すことができる。
【0028】
磁性酸化物層260と第2シールドS2との間において、磁性酸化物層260のもう一方の表面上に電気抵抗性のヒータ層280が配置される。電気抵抗性ヒータ層280として用いる材料には、グラファイトライクカーボン、クロム(Cr)、ニクロム(NiCr)、タンタル(Ta)およびチタン(Ti)が含まれる。この電気抵抗性ヒータ層280は、ヒータ回路310に接続され、このヒータ回路310は、磁性酸化物層260をシールドS1の温度T0より高い温度T1に加熱するヒータ電流Iを発生する。これによって、磁性酸化物層260から、金属層265、伝導層270および自由層210を通る熱流を惹起する熱勾配が生成される。
【0029】
センス電流回路320は、端子301を介してS1に、かつ、端子302を介して伝導層270に接続されており、S1から自由層210を通って伝導層270に至るセンス電流Iを発生させる。センス電流の方向は、熱流の方向と反対向きである。従って、センス電流の電子の流れは熱流と同じ方向であり、その結果、電子の流れが自由層に相当程度のスピントルクを加えることはない。この方式において、熱流は、自由層に対してスピントルクを発生させる手段であって、振動の感知に用いられる電荷の流れとは無関係な手段を提供する。これによって、大きな電荷電流の印加が可能になり、大きな発振素子出力、すなわち、振動の発生に電荷電流に付随するスピン流のみが用いられる場合より遥かに大きな出力が得られるであろう。また、電荷電流を反対方向に流すことも可能であるが、通常、これは、熱によって発生するスピン流が振動を発生するのを補助するためには低い電荷電流が必要になると見られるために、低い発振素子出力しかもたらさないであろう。検出器350は、センス電流I用の回路320に結合される。検出器350は、記録層254の磁化領域からの外部磁界に応じた自由層磁化211の振動周波数の基礎周波数からの偏移を検出する。
【0030】
STOセンサ200は、ABSから後退した背面領域に、S1、伝導層270およびS2を相互に電気絶縁するための絶縁材料290を含む。積層体におけるセンサ層の順序は、図5に示すものから逆転させることができる。この場合は、抵抗性ヒータ層280を最初にS1上に堆積し、続いて、磁性酸化物層260、金属層265、伝導層270、自由層210、非磁性スペーサ層230、基準層220および層225を順次堆積し、S2は層225の上に配置する。
【0031】
磁性酸化物層260は、1〜20nmの範囲の厚さを有する実質的に絶縁性の強磁性フェライトである。従って、磁性酸化物層260は、バリウムフェライト、鉄フェライト、イットリウムフェライト、コバルトフェライト、ニッケル亜鉛フェライトおよび酸化クロムから選択することができる。金属層265は、磁性酸化物層260および伝導層270の間にその両者に直接接触するように配置され、かつ、強磁性の金属または合金である。好ましい材料として、Co、Ni、Feおよびそれらの合金、並びにMnを含むホイスラー(Heusler)合金、例えば、CoMnGe、CoMnSiおよびCoMnAl、の1つ以上が含まれる。金属層265は、磁性酸化物層260の全表面をカバーするような連続膜であるべきであり、従って少なくとも0.5nmの厚さであるべきであるが、そのスピン拡散長さより大きくないことが望ましい。このスピン拡散長さは、Co、Fe、Niおよびその合金の場合2〜5nmである。層265の厚さは通常約2nmになるであろう。スピン拡散長さは、スピン流が散乱からその振幅の1/eを失う距離である。金属層265および自由層210の間の非磁性伝導層270は、好ましくはCuであるが、Ag、AuまたはAl、あるいはそれらの合金とすることもできる。非磁性伝導層270は、AlおよびCuの場合数100nmの大きさになり得るスピン拡散長さよりも薄い厚さを有することができる。狭い読み取り間隙を維持する記録ヘッドの場合は、層270の厚さは、大幅に小さく、好ましくは約1〜5nmとするべきである。
【0032】
本発明に基づく熱マグノンによるSTOの操作においては、ヒータ層280が磁性酸化物層260の片面を温度T1>T0に加熱し、その結果、熱が、磁性酸化物層の片面からもう一方の面に、そしてさらに自由層210に流れる。温度勾配は、酸化物内部に局在するスピンの熱的なゆらぎを発生させ、これは、隣接スピン間の交換相互作用のために、スピン波として知られる空間的相関波を形成する。光が波であり、かつ同時に個々の光子(それぞれ角運動量量子
【数1】

を有する。但し、
【数2】

で、hはPlanck定数)から構成されるのと全く同様に、スピン波は個々のマグノン(それぞれ同様に角運動量量子を有する)から構成される。「スピン」が意味するのは、電子のような荷電粒子におけるこの角運動量の結果である磁気モーメントである。すなわち、電子から構成される各マグノンはスピンモーメントの1つの量子(Bohr磁子と呼称され、
【数3】

である。但し、eは電子の電荷、mは電子の質量である)を伴っている。酸化物中のマグノンは、酸化物自体の磁化とは反対向きのスピンを有する。デバイス200において、マグノンが、磁性酸化物層260の強磁性金属層265との界面に達すると、強磁性金属は、1つの伝導電子のスピンを(スピン軌道の相互作用を介して)反転させることによって、磁化の1量子単位(磁子)をマグノンから強磁性金属の伝導電子の中に移行するように作用する。この電子は、続いて、非磁性伝導層270に流入し、さらに引き続いて強磁性の自由層210と相互作用する。磁性酸化物層260の強磁性金属層265との界面の磁化に反対向きのスピンを有する電子の正味の発生があるために、そしてまたその電子が高温で、従って高速であるために、磁性酸化物層260から自由層210への正味のスピン流が存在し、このスピン流は、自由磁化および酸化物磁化が実質的に平行に向けられる場合には、名目上の自由層磁化の方向に実質的に反対向きになるであろう。熱的に駆動されるスピン流に加えて、スピンの濃度勾配(concentration gradient)もスピン流に寄与することが可能である。スピンが強磁性金属に注入される場所(高スピン濃度)と自由層(スピンの散乱によって低スピン濃度が生成される場所)との間の濃度差によって、スピンの流動、すなわちスピン流が生じる。自由層210において生起するスピン流の消散によって、結果的に自由層210に対するスピン移行トルク(STT)が生じる。磁性酸化物層260および自由層210の磁化261、211は、それぞれ平行に向いており、その結果、熱流によって発生するSTTが、自由層210の磁化211の持続的な振動を誘起するのである。
【0033】
STTを発生させるためのマグノンからの熱輸送の概念は、前記に引用した(非特許文献1)にさらに詳細に記述されている。著者のSlonczewskiは、熱マグノンによるSTTの効率を、電荷電流によるSTTよりも60〜80倍まで高くし得ることを推定している。従って、磁性酸化物層260/金属層265の界面と自由層210との間の10〜100℃の温度差によって、自由層磁化211の持続的な振動を惹起するのに十分なSTTがもたらされるであろう。本発明の熱マグノンによるSTOにおいては、センス電流の方向が、電荷電流のみによる自由層磁化の持続的な振動の惹起が望ましい場合に選択されるであろう方向と反対向きである。電荷電流のみによって駆動される従来型のSTOにおける電荷電流の好ましい操作点は、閾値電流のすぐ上であり、30nm×30nmのデバイスの場合、約0.2〜1mAである。しかし、CPP−GMRデバイスとして操作される同じサイズの同様のデバイスの場合には、センス電流の限界は約3mA以上である。従って、CPP−GMRデバイスに用いられるものに関するセンス電流の3〜10倍に及ぶ改善、すなわち出力信号の振幅における同様の改善は、本発明に基づく熱マグノンによるSTOによって達成可能になる。
【0034】
本発明によるディスクドライブSTOセンサの一例として、自由層磁化の持続的な振動が電荷電流のみによって駆動される場合には、閾値電流密度は約1〜2×10A/cmになるであろう。外部磁界が存在しない場合、約4〜8GHzの共振または基礎周波数(使用する強磁性材料の飽和磁化に応じて変化する)における自由層磁化の持続的な振動を発生させるために、磁性酸化物層/金属層の界面から自由層に至る約20℃の熱勾配を発生させる電気抵抗性ヒータで十分であろう。記録層254における正および負の磁化は、センサが媒体上部を通過する高さにおいて100〜500Oeの磁界を発生することができ、かつ、2GHzまでの周波数で自由層210を通過することができる。この磁界は、自由層210の磁化211の振動の基礎振動周波数における約±1GHzの偏移を惹起するであろう。センス電流密度は、閾値電流密度を大きく超える約2×10A/cmまでにすることができる。検出器350は、電気抵抗の変化を測定することによって自由層磁化の振動周波数を測定できる。1つの検出技術においては、自由層の磁化の振動からの周波数変調(frequency modulation:FM)信号が電圧パルス列(デジタル信号)に変換され、FM検出用の遅延検波法が用いられる(非特許文献2)。
【0035】
磁気記録用途の場合には、トラックに沿う方向(図5における矢印215に平行な方向)における記録磁気ビットの最高度の空間分解能(spatial resolution)を達成するために、STOセンサ層を、積層体として、磁気シールド間のできるだけ狭い空間内に適合させることが望ましい。図6は、本発明に基づく熱マグノンによるSTOセンサの一実施形態を示す。このセンサにおいては、磁性酸化物層260aと、金属層265aと、非磁性の伝導層270aとが積層体内にあるのではなく、全体として自由層210と同じ面内に形成されている。磁性酸化物層260aと、金属層265aと、非磁性伝導層270aとは、図6においてABSから後退した位置に示されており、さらに、電気抵抗性のヒータ層280aは磁性酸化物層260aよりもABSからなお一層後退しているが、磁性酸化物層260aの1つの表面と接触している。絶縁体290と同様の絶縁体291が、S1を、層260a、265aおよび270aと、抵抗性ヒータ層280aとから分離する。いかなる磁気交換相互作用をも破棄するために、層225のような非強磁性の伝導金属層267がS2と自由層210との間に配置される。層260a、265aおよび270aは、ABSから後退する位置に配置する代わりに、自由層210のどちらかの側面(クロストラック方向)に配置することができる。この場合は、それらの端部が、自由層210の端部と同様に実質的にABSの位置にあり、しかも全体として自由層210と同じ面内に形成される。いずれの場合においても、S1−S2間のシールド対シールド間隔は図5の実施形態よりも縮減される。この実施形態においては、センス電流用の電気回路320aは、それぞれS1およびS2上の端子301、303間に接続され、自由層210を通る電流の方向は熱流の方向に反対向きとなるであろう。
【0036】
前記のように、本発明に基づく熱マグノンによるSTOを、磁界センサ、特に磁気記録ディスクドライブの読み取りヘッドとしての用途に関して詳細に記述したが、本発明は他の用途をも有する。熱マグノンによるSTOの他の用途はすべて、自由層の振動の周波数または位相の検出にセンス電流を利用し得るという利点を享受できるが、この用途分野としては、ミクサー、無線、携帯電話およびレーダ(車両レーダを含む)が含まれる。例えば(非特許文献3)を参照されたい。
【0037】
さらに別の用途は、磁気記録ディスクドライブのような磁気記録における高周波アシスト書き込み用である。マイクロ波アシスト磁気記録(microwave−assisted magnetic recording:MAMR)とも呼称されるこの技術においては、STOは、高周波の振動磁界を、従来型の書き込みヘッドからの書き込み磁界に対する補助的な磁界として記録層の磁気粒子に印加する。この補助磁界は、記録層における磁気粒子の共振周波数に近い周波数を有することができるので、アシスト記録なしの場合に可能であるよりは低い従来型の書き込みヘッドからの書き込み磁界において、粒子の磁化の切り換えを可能にする。MAMRシステムの1つのタイプにおいては、GMRまたはTMRのいずれかに基づくSTOが、外部磁界が存在しない場合に、層の面に垂直に向けられた基準層の磁化および自由層の磁化によって操作される。例えば(非特許文献4)を参照されたい。従って、図5に示すような本発明に基づく熱マグノンによるSTOを、MAMR用のSTOとして用いる場合には、基準層220および磁性酸化物層260の磁化221、261は、それぞれ、層の面に垂直に向けられ、自由層210の磁化211も、熱流がない場合には層の面に垂直に向けられるであろう。その場合、センス電流Iが、自由層の磁化211の振動周波数の監視用として用いられる。
【0038】
本発明を、好ましい実施形態を参照して具体的に示しかつ説明したが、当業者は、形式および詳細における種々の変更が、本発明の本質および範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解するであろう。従って、開示された発明は、単に例示的なものと見做されるべきであり、添付の特許請求の範囲に規定される範囲においてのみ限定される。
【符号の説明】
【0039】
12 磁気記録ディスク
13 回転中心
14 アクチュエータ
15 回転方向
16 ベース
17 軸
18 アーム
20 サスペンション
22 スライダ
23 フレクシャー
24 ヘッド
25 トレーリング表面
27 空気ベアリング表面
29 端末パッド
50 データトラック
100 読み取りヘッド
101 シード層
102 側端部
104 側端部
110 自由層
111 磁化方向
112 キャッピング層
114 シード層
115 バイアス層
116 絶縁層
117 磁化方向
118 キャッピング層
120 第2強磁性層、基準層
121 磁化方向
122 第1強磁性層、ピン止め層
123 逆平行結合層
124 反強磁性層
125 シード層
127 磁化方向
130 スペーサ層
200 STOセンサ
210 自由層
211 磁化方向
215 移動方向
220 基準層
221 磁化方向
225 伝導金属層
230 スペーサ層
250 ディスク
252 基板
254 記録層
260、260a 磁性酸化物層
261、261a 磁化方向
265、265a 金属層
267 伝導金属層
270、270a 伝導層
280 ヒータ層
290 絶縁体
291 絶縁体
301 端子
302 端子
303 端子
310 ヒータ回路
320、320a センス電流回路
350 検出器
ABS 空気ベアリング表面
AP1 第1強磁性層
AP2 第2強磁性層
APC 逆平行結合層
ヒータ電流
センス電流
S1 第1シールド層
S2 第2シールド層
T0、T1、TW 温度
WP 書き込み磁極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上の層のセットと、
熱源と、
電気端子と、
を備え、
前記層のセットが、
固定された磁化を有する強磁性の基準層と、
振動可能な磁化を有する強磁性の自由層と、
前記基準層と前記自由層との間の非磁性スペーサ層と、
固定された磁化を有する磁性酸化物層と、
前記磁性酸化物層の1つの表面と接触する強磁性金属層と、
前記金属層と前記自由層との間の非磁性導電層と、
を含み、
前記熱源は、前記磁性酸化物層の他方の表面に結合されており、前記熱源は、前記磁性酸化物層の他方の表面から、前記磁性酸化物層を横断しかつ前記金属層および前記非磁性導電層を横断して前記自由層に至る熱勾配を生成し、
前記電気端子は、前記基準層から前記自由層にセンス電流を供給する電気回路に接続している、熱マグノンによるスピントルク発振素子(STO)。
【請求項2】
前記磁性酸化物層の磁化が、前記自由層の磁化に実質的に平行に向けられ、かつ、前記基準層の磁化に実質的に逆平行に向けられる、請求項1に記載のスピントルク発振素子(STO)。
【請求項3】
前記熱源は、電気抵抗性の材料の層であり、かつ、前記熱源を電気回路に接続するための電気端子をさらに含む、請求項1に記載のスピントルク発振素子(STO)。
【請求項4】
前記磁性酸化物層が、バリウムフェライト、鉄フェライト、イットリウムフェライト、コバルトフェライト、ニッケル亜鉛フェライトおよび酸化クロムから選択される実質的に絶縁性の強磁性フェライトを含む、請求項1に記載のスピントルク発振素子(STO)。
【請求項5】
前記強磁性金属層が、Co、NiおよびFe、あるいはMnを含むホイスラー(Heusler)合金の1つ以上から選択され、かつ少なくとも0.5nmの厚さを有する金属または合金を含む、請求項1に記載のスピントルク発振素子(STO)。
【請求項6】
前記電気端子に接続される電気回路であって、前記基準層から前記自由層を通って前記非磁性導電層に電荷電流を供給するための電気回路をさらに含む、請求項1に記載のスピントルク発振素子(STO)。
【請求項7】
前記非磁性スペーサ層が導電性スペーサ層である、請求項1に記載のスピントルク発振素子(STO)。
【請求項8】
前記非磁性スペーサ層が電気絶縁性のトンネル障壁層である、請求項1に記載のスピントルク発振素子(STO)。
【請求項9】
外部磁界を感知するためのスピントルク発振素子(STO)センサであって、
基板と、
前記基板上の層のセットと、
電気端子と、
を備え、
前記層のセットが、
面内に固定された磁化を有する強磁性の基準層と、
振動可能な磁化を有する強磁性の自由層と、
前記基準層と前記自由層との間の非磁性スペーサ層と、
面内に固定された磁化を有する磁性酸化物層であって、前記自由層および磁性酸化物層の磁化は前記基準層の磁化に実質的に逆平行である、磁性酸化物層と、
前記磁性酸化物層の1つの表面と接触する強磁性金属層と、
前記金属層と前記自由層との間の非磁性導電層と、
前記磁性酸化物層の他方の表面に結合される電気抵抗性のヒータ層であって、熱を、前記他方の磁性酸化物層表面から、前記磁性酸化物層を横断しかつ前記金属層および前記非磁性導電層を横断して前記自由層に流れるように導くための電気抵抗性ヒータ層と、
を含み、
前記電気端子が、電気回路と接続しており、前記電気回路が、前記基準層から前記自由層を通って前記非磁性導電層に、前記熱流の方向と反対向きの方向においてセンス電流を供給する、スピントルク発振素子(STO)センサ。
【請求項10】
前記基板が、透磁性材料の第1シールド層であり、かつ、透磁性材料の第2シールド層をさらに含み、前記層のセットは、前記第1シールド層と第2シールド層との間に配置される、請求項9に記載のスピントルク発振素子(STO)センサ。
【請求項11】
前記層のセットが積層体である、請求項10に記載のスピントルク発振素子(STO)センサ。
【請求項12】
前記自由層が、前記非磁性導電層と実質的に同じ面内に配置される、請求項9に記載のスピントルク発振素子(STO)センサ。
【請求項13】
前記磁性金属層および磁性酸化物層が、前記非磁性導電層と実質的に同じ面内に配置される、請求項12に記載のスピントルク発振素子(STO)センサ。
【請求項14】
前記磁性酸化物層が、バリウムフェライト、鉄フェライト、イットリウムフェライト、コバルトフェライト、ニッケル亜鉛フェライトおよび酸化クロムから選択される実質的に絶縁性の強磁性フェライトを含む、請求項9に記載のスピントルク発振素子(STO)センサ。
【請求項15】
前記強磁性金属層が、少なくとも0.5nmの厚さを有する金属または合金であって、Co、NiおよびFe、並びにMnを含むホイスラー合金の1つ以上から選択される金属または合金を含む、請求項9に記載のスピントルク発振素子(STO)センサ。
【請求項16】
請求項9に記載のスピントルク発振素子(STO)センサと、
前記抵抗性ヒータ層を加熱するために前記抵抗性ヒータ層に接続される第1電気回路であって、前記抵抗性ヒータ層からの熱が、外部磁界が存在せずかつセンス電流が存在しない場合に、前記自由層の磁化に基礎周波数における振動を生じさせる、第1電気回路と、
前記自由層に連結接続される第2電気回路であって、前記自由層を通るセンス電流を、前記自由層を通る熱流と反対向きの方向に供給するための第2電気回路と、
前記電流回路に連結される検出器であって、外部磁界に応答した前記自由層の磁化の振動周波数における前記基礎周波数からの偏移を検出するための検出器と、
を備えた磁界感知システム。
【請求項17】
磁気記録ディスクと、前記ディスクから記録されたデータを読み取るための読み取りセンサとを有するディスクドライブであって、
磁界を供給する磁化領域を有し、磁化領域間の遷移が記録されたデータを表している回転磁気記録ディスクと、
前記回転磁気記録ディスクの近傍に読み取りセンサを支持し、ディスクに面する表面を有するキャリヤと、
前記キャリヤ上の第1および第2の透磁性シールドと、
前記第1の透磁性シールドと前記第2の透磁性シールドとの間にあり、前記ディスク上の磁化領域からの前記磁界を検出するための読み取りセンサと、
電気抵抗性のヒータ層と、
第1電気回路と、
第2電気回路と、
検出器と、
を備え、
前記読み取りセンサは、
実質的に自由に振動する面内の磁化を有する強磁性自由層であって、前記面内の磁化が、前記ディスクからの磁界が存在しない場合には、前記キャリヤのディスクに面する表面に実質的に直交する方向に向けられる、強磁性の自由層と、
前記自由層と接触していない強磁性の基準層であって、前記ディスクからの磁界が存在しない場合には、前記自由層の磁化に実質的に逆平行の方向に向けられる固定された面内磁化を有する強磁性の基準層と、
前記自由層および前記基準層の間の非磁性のスペーサ層と、
前記ディスクからの磁界が存在しない場合には、前記自由層の磁化に実質的に平行の方向に向けられる固定された面内磁化を有する磁性酸化物層と、
前記磁性酸化物層の1つの表面と接触する強磁性の金属層と、
前記金属層および前記自由層の間の非磁性導電層と、
を含み、
前記電気抵抗性のヒータ層は、前記磁性酸化物層の他方の表面に結合されており、前記電気抵抗性のヒータ層は、熱を、前記他方の磁性酸化物層表面から、前記磁性酸化物層を横断しかつ前記金属層および前記非磁性導電層を横断して前記自由層に流れるように導き、熱流は、外部磁界が存在しない場合に、前記自由層の磁化の基礎周波数における振動を惹起させるようになっており、
前記第1電気回路は、前記ヒータ層を加熱するために前記ヒータ層に接続されており、
前記第2電気回路は、前記自由層に連結されており、前記自由層を通るセンス電流を、前記自由層を通る熱流と反対向きの方向に供給し、
前記検出器は、前記センス電流に反応して、前記ディスクからの磁界に応じた前記自由層の磁化の振動周波数における前記基礎周波数からの偏移を検出する、ディスクドライブ。
【請求項18】
前記ディスクの磁化領域が前記ディスクに実質的に垂直な方向に磁化される、請求項17に記載のディスクドライブ。
【請求項19】
前記自由層が前記非磁性導電層と実質的に同じ面内に配置される、請求項17に記載のディスクドライブ。
【請求項20】
前記非磁性導電層と、前記磁性酸化物層と、前記金属層とが、前記キャリヤのディスクに面する表面から後退している、請求項17に記載のディスクドライブ。
【請求項21】
前記磁性酸化物層が、バリウムフェライト、鉄フェライト、イットリウムフェライト、コバルトフェライト、ニッケル亜鉛フェライトおよび酸化クロムから選択される実質的に絶縁性の強磁性フェライトを含む、請求項17に記載のディスクドライブ。
【請求項22】
前記強磁性金属層が、少なくとも1nmの厚さを有する金属または合金であって、Co、NiおよびFe、並びにCoMnGe、CoMnSiおよびCoMnAlから選択されるホイスラー合金の1つ以上から選択される金属または合金を含む、請求項17に記載のディスクドライブ。
【請求項23】
前記非磁性スペーサ層が導電性スペーサ層である、請求項17に記載のディスクドライブ。
【請求項24】
前記非磁性スペーサ層が電気絶縁性のトンネル障壁層である、請求項17に記載のディスクドライブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−58756(P2013−58756A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196703(P2012−196703)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【出願人】(503116280)エイチジーエスティーネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】