説明

燃圧センサの異常判定装置

【課題】コストの増加及び車両搭載性の悪化を生じることなく燃圧センサの異常判定を行う。
【解決手段】内燃機関(200)と、燃料を貯留する燃料タンク(320)と、駆動負荷(Vmt)に応じて燃料を汲み上げ且つ内燃機関のインジェクタ(211)に供給する燃料ポンプ(310)と、該供給される燃料の燃圧(Pfl)を検出する燃圧センサ(350)とを備え、且つ前記内燃機関の運転状態に応じた要求吐出量が得られるように前記駆動負荷が制御される車両(10)において、燃圧センサの異常判定装置(100)は、前記燃料ポンプの燃料吐出量を推定する手段と、前記推定された燃料吐出量、前記駆動負荷並びに予め与えられた前記燃圧、前記駆動負荷及び前記燃料吐出量の相互関係に基づいて前記燃圧を推定する手段と、前記検出された燃圧と前記推定された燃圧との比較結果から前記異常の有無を判定する手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の燃圧を検出する燃圧センサの異常を判定する燃圧センサの異常判定装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、特許文献1に開示された内燃機関の燃料供給装置がある。この装置によれば、燃料ポンプの目標吐出圧(燃圧)と燃圧センサにより検出される燃圧との偏差に応じて燃料ポンプの駆動電圧がフィードバック制御される過程において、フィードバック制御量の変化量の積算値が所定値を超えた場合に、燃圧センサにより検出される実燃圧の変化量に基づいた異常判定が実行される。このため、フィードバック制御量の変化率が大きい程燃圧センサの異常判定が早く行われ、例えばエンジンストールの発生を防止することが出来るとされている。
【0003】
尚、特許文献2には、高圧ポンプの吐出量と燃料噴射弁の噴射量とからデリバリパイプ内の燃圧を予測する発明が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、等弾性係数が所定範囲外であるときに高圧燃料系の異常と判定する装置も開示されている。
【0005】
更に、特許文献4には、燃圧センサが所定時間以上設定値を下回っている場合に燃圧センサの故障と判定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−336460号公報
【特許文献2】特開2009−103059号公報
【特許文献3】特開2008−240532号公報
【特許文献4】特開2007−291904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示される装置は、燃圧(燃料ポンプの吐出圧と実質的に等価である)を目標圧に維持するフィードバック制御の実行を前提としている。フィードバック制御を前提とすれば、燃圧センサが実燃圧よりも高圧側或いは低圧側の検出値でスタックした場合に生じるフィードバック制御量の変化に基づいた燃圧センサの異常検出は有効となり得る。
【0008】
ところで、近年、燃料ポンプとして制御性の良好な電動ポンプが使用される場合の制御態様として、デマンド制御が注目されている。デマンド制御とは、平易に言えば、電動ポンプを介して常時必要量の燃料のみを吐出する制御であり、電動ポンプの性能向上に伴って実現可能となった、上記フィードバック制御とは全く異なる制御である。デマンド制御は、例えば、上記フィードバック制御と較べて不要な燃料供給を極力排除し得ることから、例えば、余剰燃料リターン用の配管を省略することを可能とし、コストの削減や車両搭載性の向上に効果的である。或いは、デマンド制御は、同様の理由から、電動ポンプの効率的な駆動を可能とし、またベーパの発生抑制を可能とする。これらは、車両の燃料消費率の向上に極めて効果的である。
【0009】
ここで、デマンド制御の実行過程において、燃料の要求吐出量が決定されると、燃圧センサにより検出されるその時点の燃圧(吐出圧)及びその他条件に応じて、必要となる駆動電圧の値は概ね定まり得る。従って、デマンド制御の実行時における電動ポンプの駆動電圧は、燃圧センサが正常であっても、燃料の要求吐出量に応じて比較的リニアに且つ広範に変化する。即ち、この点で、燃圧センサの正常時において駆動電圧の大きな変化が生じ難い上述した特許文献1の装置と異なる振る舞いとなる。このような理由から、特許文献1の装置における燃圧センサの異常判定プロセスをデマンド制御の実行過程における燃圧センサの異常判定に適用することは出来ない。
【0010】
即ち、特許文献1に開示された装置には、電動ポンプを利用して燃料タンクから燃料を汲み上げるにあたってデマンド制御がなされる構成において、燃圧センサの異常判定を正確に行うことが出来ないという技術的問題点がある。一方、特許文献2及び3に開示される高圧燃料ポンプは、通常、内燃機関の回転状態に応じて燃料吐出圧が一義的に決まる機械式ポンプとして構成される。従って、燃料の吐出量を比較的自由にコントロールし得る電動ポンプを使用したデマンド制御を行う構成に、その制御内容を適用することは出来ない。また、特許文献4の装置のように、燃圧センサのセンサ値と設定値との比較に基づいてセンサの異常判定を行う構成では、当該設定値を通常採り得ない値に設定しておく必要があり、燃圧センサの異常判定を精度良く実行することは不可能に近い。
【0011】
また、燃圧センサが複数備わる構成においては、一方に対し他方をリファレンスとして使用することができるが、コストの増加及び車両搭載性の悪化が回避され難い。
【0012】
本発明は、係る技術的問題点に鑑みてなされたものであり、コストの増加及び車両搭載性の悪化を生じることなく燃圧センサの異常判定を正確に行い得る燃圧センサの異常判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明に係る燃圧センサの異常判定装置は、内燃機関と、該内燃機関の燃料を貯留する燃料タンクと、該燃料タンクから駆動負荷に応じて燃料を汲み上げ且つ前記内燃機関のインジェクタに供給する燃料ポンプと、該供給される燃料の燃圧を検出する燃圧センサとを備え、且つ前記内燃機関の運転状態に応じた要求吐出量が得られるように前記駆動負荷が制御される車両において、前記燃圧センサの異常の有無を判定する燃圧センサの異常判定装置であって、前記燃料ポンプの燃料吐出量を推定する吐出量推定手段と、前記推定された燃料吐出量、前記駆動負荷並びに予め与えられた前記燃圧、前記駆動負荷及び前記燃料吐出量の相互関係に基づいて前記燃圧を推定する燃圧推定手段と、前記検出された燃圧と前記推定された燃圧との比較結果から前記異常の有無を判定する判定手段とを具備することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る車両においては、燃料を内燃機関に供給するにあたってデマンド制御が実行される。
【0015】
デマンド制御とは、内燃機関における燃料の要求噴射量に応じて燃料ポンプの要求吐出量(例えば、気筒1回当たりの燃料噴射量×気筒数×内燃機関の機関回転速度に比例する)が決定され、当該要求吐出量が得られるように燃料ポンプの駆動負荷(端的には、駆動電圧)が制御される制御態様を意味し、燃圧を目標圧に維持すべく、燃圧の偏差に応じて駆動負荷がフィードバックされる制御態様とは異なる制御態様である。尚、駆動負荷を任意に制御可能である点から明らかなように、本発明に係る燃料ポンプは、所謂「電動ポンプ」と称される電気駆動型の流体吐出装置として構成される。
【0016】
駆動負荷に応じた燃料吐出量が得られるこの種の燃料ポンプにおいては、駆動負荷が、内燃機関の機械的(メカ的)動作に駆動負荷が律束される機械式ポンプ装置と較べて必然的に大きく変化する。即ち、駆動負荷は、予め与えられた、燃圧、燃料ポンプの物理的、機械的及び電気的特性、粘性や温度等の各種燃料性状、環境負荷(外気圧や外気温)、燃料吐出量並びに駆動負荷との相互関係(例えば、各種制御マップ等として保持されていてもよい)と、燃圧センサにより検出される燃圧(以下、適宜「検出燃圧」と表現する)とに基づいて、例えば、数V〜数十V程度の電圧範囲で適宜決定される。
【0017】
尚、本発明に係る「燃圧」とは、燃料ポンプから内燃機関に至る燃料供給経路における燃料の圧力を意味し、例えば、燃料ポンプの燃料吐出圧、燃料供給用配管の圧力或いは当該配管と各気筒のインジェクタとを繋ぐデリバリ内の圧力等を意味する。燃圧は、燃料タンクからポート噴射インジェクタに供給される低圧燃料であれば、概ね100〜400kPa程度の範囲内で推移する。また、この種の低圧燃料が更に昇圧された、筒内直噴インジェクタに供給される高圧燃料であれば、概ね数万kPa程度の値である。
【0018】
このように、デマンド制御においては、要求吐出量に対し、その時点の燃圧や上記各種要件に応じて燃料ポンプの駆動負荷が概ね一義に決定される。この際、一の駆動負荷において燃圧が変化すれば、当然燃料吐出量も変化するから、常時必要量の燃料のみを供給することにより燃料供給の効率化や燃費低減等の各種実践上の利益を得ようとするデマンド制御において、燃圧センサによる燃圧の検出精度は重要である。即ち、この種の燃料供給システムにおいては必然的に、少なくとも周期的な燃圧センサの異常判定の実行が望まれる。
【0019】
本発明に係る燃圧センサの異常判定装置は、このような必然的要求に応えるものであり、コストの増加や車両搭載性の悪化等の弊害を招来することなく燃圧センサの異常の有無を正確に判定することを可能とするものである。尚、燃圧センサの異常判定装置は、その実践的態様として、ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)等の各種コンピュータ装置やプロセッサ等の形態を採り得る。この際、コンピュータ装置やプロセッサは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の記憶装置を備えていてもよいし、車両において内燃機関や各種補機類の動作を制御するECUと、少なくとも一部が共有又は共用されていてもよい。
【0020】
本発明に係る燃圧センサの異常判定装置によれば、例えば、内燃機関の稼動期間において一定の周期毎に或いはある特定の条件下で異常判定プロセスが起動し、吐出量推定手段により、燃料ポンプの燃料吐出量が推定される。
【0021】
ここで、デマンド制御の実行過程において、燃料ポンプの燃料吐出量とインジェクタの燃料噴射量とは定常的には一定の関係となる。特に、吐出された燃料が燃料ポンプへ還流することがなければ、両者は理想的には一致する。具体的には、ある時点で燃圧センサが異常値を出力して実燃圧と検出燃圧とが乖離し始めると、デマンド制御により、誤った検出燃圧に基づいて要求吐出量が満たされるように駆動負荷が変化する。然るに、実際に燃圧は変化していないから、駆動負荷が変化すると燃料吐出量が変化する。燃料吐出量が変化すると、燃料噴射量と燃料吐出量との均衡が過渡的に変化して、燃圧が変化する。この燃圧の変化は、燃料噴射量と燃料吐出量とが平衡するまで継続し、燃圧は、最終的にある値に収束することになる。この状態では、燃料吐出量は燃料噴射量と一義的な関係になる(極端な場合、一致する)から、燃料噴射量によりその時点の燃料吐出量を推定することが出来るのである。
【0022】
尚、実際の燃料噴射量は、内燃機関の機関回転速度、吸気量相当値(吸入空気量、負荷率、或いは適宜EGR率等)及び空燃比の変化率相当値(空燃比の変化量、変化率或いは空燃比フィードバックに係るフィードバック制御量の変化量又は変化率等)に基づいて推定することが出来る。この際、気筒内の燃焼効率は一定であると仮定してもよい。
【0023】
燃料ポンプの燃料吐出量が推定されると、この推定された燃料吐出量に基づいて実際の燃圧が推定される。この際、先に述べたように、燃圧、燃料ポンプの物理的、機械的及び電気的特性、粘性や温度等の各種燃料性状、環境負荷(外気圧や外気温)、燃料吐出量並びに駆動負荷との相互関係は既知であるから、例えば、推定された燃料吐出量とその時点の駆動負荷とに基づいて、実際の燃圧を推定することは容易にして可能である(これ以降、燃圧の推定値を適宜「推定燃圧」と称する)。
【0024】
このようにして得られた推定燃圧と検出燃圧との偏差は、燃圧センサの燃圧検出精度が低下するのに応じて拡大する。従って、判定手段は、これらの比較結果から、燃圧センサの異常の有無を判定することができる。この際、好適な判定手法の一つとして、当該偏差が予め実験的に、経験的に又は理論的に策定された基準値以上であるか否かが判定され、当該基準値以上である場合に燃圧センサが異常であるとの判定がなされてもよい。或いは、その偏差の度合いを複数に区分して、燃圧センサの異常の度合いがより精細に診断されてもよい。
【0025】
以上説明したように、本発明に係る燃圧センサの異常判定装置によれば、デマンド制御の実行に供される燃圧センサのラショナリティチェックを行うにあたって、センサ出力との比較に供し得る適切なリファレンス値を燃圧推定手段による燃圧の推定により得ることが出来る。従って、燃圧センサの異常の有無を、コストの増加や車両搭載性の悪化を招来することなく判定することが出来るのである。
【0026】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1の車両におけるエンジンの模式的側面断面図である。
【図3】図1の車両における燃料ポンプの燃料吐出特性を説明する図である。
【図4】図1の車両においてECUにより実行されるラショナリティチェック処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<発明の実施形態>
以下、適宜図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0029】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0030】
図1において、車両10は、ECU(Electronic Control Unit)100、エンジン200及び燃料供給装置300を備える。
【0031】
ECU100は、図示せぬCPU(Central Processing Unit)、ROM及びRAM等を備え、車両10の動作を制御可能に構成された、本発明に係る「燃圧センサの異常判定装置」の一例たるコンピュータ装置である。ECU100は、ROMに格納された制御用のプログラムに従って、後述するラショナリティチェック処理を実行可能に構成される。
【0032】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンである。ここで、図2を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、エンジン200の模式的側面断面図である。尚、図2において、図1と重複する箇所には同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
【0033】
図2において、エンジン200は、金属製のシリンダブロック201A内に形成された気筒201Bにおける燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換可能に構成された機関である。
【0034】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。クランクポジションセンサ206は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたクランク角は、一定又は不定の周期でECU100に供出される構成となっている。ECU100は、クランクポジションセンサ206によって検出されたクランク角に基づいて、点火装置202の点火時期等を制御する構成となっている。また、ECU100は、この検出されたクランク角を時間処理することによって、エンジン200の機関回転速度NEを算出可能に構成されている。
【0035】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート209において、PFI(Port Fuel Injector:ポート噴射インジェクタ)211から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。尚、燃料は、後述する燃料供給装置300から供給される。PFI211は、ECU100と電気的に接続されており、この供給される燃料を、ECU100の制御に従って吸気ポート209に噴射可能に構成されている。尚、燃料を噴射する噴射手段の形態は、図示するような所謂吸気ポートインジェクタの構成を採らずともよく、高温高圧の気筒201B内部へ燃料を直接噴射可能に構成された、所謂直噴インジェクタ等の形態を有していてもよい。
【0036】
気筒201B内部と吸気管207とは、吸気バルブ210の開閉によってその連通状態が制御される。気筒201B内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブ210の開閉に連動して開閉する排気バルブ212の開弁時に排気ポート213を介して排気管214に導かれる構成となっている。
【0037】
一方、吸気管207上には、不図示のクリーナが配設されており、外部から吸入される空気が浄化される構成となっている。このクリーナの下流側(気筒201B側)には更に、不図示のエアフローメータが配設されている。エアフローメータは、ホットワイヤ式と称される形態を有しており、吸入された空気の質量流量を直接検出可能に構成される。エアフローメータは、ECU100と電気的に接続されており、検出された吸入空気の質量流量たる吸入空気量GAは、ECU100に対し一定又は不定の周期で供出される構成となっている。
【0038】
吸気管207におけるエアフローメータの下流側には、気筒201B内部へ吸入される空気に係る吸入空気量を調節可能な、スロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208には、不図示のスロットルポジションセンサが電気的に接続されており、その開度たるスロットル開度thrを検出可能に構成されている。
【0039】
また、このスロットルバルブ208は、不図示のスロットバルブモータにより駆動される。スロットルバルブモータは、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、車両10に備わる不図示のアクセルポジションセンサによって検出される、不図示のアクセルペダルの操作量を意味するアクセル開度Taに基づいて、スロットルバルブモータの駆動状態を制御し、スロットルバルブ208の開閉状態(即ち、スロットル開度)を制御する構成となっている。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブであり、スロットル開度は、ECU100により運転者の意思(即ち、アクセル開度)とは無関係に制御され得る。
【0040】
尚、エンジン200には、例えば、冷却水温Twを検出する水温センサや、排気空燃比AFを検出する空燃比センサ等、不図示の各種のセンサを備える。これらは全てECU100と電気的に接続されており、ECU100によりそのセンサ値が適宜参照可能となっている。
【0041】
尚、本発明に係る内燃機関は、例えば気筒数、気筒配列、燃料供給態様、吸排気系の構成、動弁系の構成或いは過給の有無等、その実践的態様において何ら限定されない。
【0042】
図1に戻り、燃料供給装置300は、燃料ポンプ310、燃料タンク320、フィードパイプ330、デリバリパイプ340及び燃圧センサ350を備える。
【0043】
燃料ポンプ310は、本発明に係る「燃料ポンプ」の一例たる渦巻き式の電気駆動型流体吐出装置である。燃料ポンプ310は、フィードパイプ330を介して燃料タンク320と連通しており、不図示の直流モータの回転力によって燃料タンク320から燃料たるガソリンを吸引し、デリバリパイプ340を介して不図示の燃料デリバリへ燃料を供給する構成となっている。尚、燃料デリバリは、上述したPFI211に連通する一時的な燃料プールである。各気筒のPFI211は、この燃料デリバリに接続され、燃料噴射弁の開弁期間TAUと、燃料デリバリ内の燃圧Pflとに応じた燃料を吸気ポート209に噴霧として噴射する構成となっている。
【0044】
燃料ポンプ310の直流モータは、不図示の電力供給源(例えば、車載用12Vバッテリ、或いは他のバッテリ)を介して印加される駆動電圧Vmt(即ち、本発明に係る「駆動負荷」の一例)によりそのポンプ回転速度Nmtが変化する構成となっており、燃料ポンプ310の燃料吐出量Qfは、このポンプ回転速度Nmtに応じて変化する構成となっている。即ち、燃料ポンプ310の燃料吐出量Qfは、駆動電圧Vmtにより可変である。尚、燃料ポンプ310は、ECU100と電気的に接続されており、駆動電圧Vmtは、ECU100の制御下にある。
【0045】
尚、燃料ポンプ310の物理的、機械的又は電気的構成は、燃料ポンプ310のものに限定されず、本発明に係る燃料ポンプとしては、公知の各種態様を適用可能である。
【0046】
燃圧センサ350は、デリバリパイプ340内の燃料圧力たる燃圧Pfを検出可能に構成された圧力センサである。燃圧センサ350は、ECU100と電気的に接続されており、検出された燃圧Pfは、検出燃圧Pfsとして、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0047】
<実施形態の動作>
<デマンド制御の概要>
ECU100は、本実施形態に係る燃料供給装置300に対し、デマンド制御を実行する構成となっている。
【0048】
デマンド制御とは、エンジン200の要求噴射量Qnに応じた燃料吐出量Qfが得られるように燃料ポンプ310に対してなされるオンデマンド型の制御である。より具体的には、ECU100は、空燃比センサを介して得られる排気空燃比AFに基づいて、排気空燃比AFを目標空燃比AFtg(例えば、理論空燃比)に収束させるための公知の空燃比フィードバック制御を実行する。その制御過程において、ECU100は、エアフローメータにより得られる吸入空気量GA及びクランクポジションセンサ206のセンサ値を時間処理して得られる機関回転速度NE(尚、機関回転速度NEの取得太陽は、これに限定される訳ではない)等に応じて燃料の要求噴射量Qnを決定し、最終的に、各気筒のPFI211における燃料噴射弁の開弁期間、即ち燃料噴射期間TAUを決定する。燃料噴射期間TAUは、燃圧Pfと要求噴射量Qnとが定まれば、PFI211の構成上一義的に決定され得る。
【0049】
一方、燃料ポンプ310は、この要求噴射量Qnに応じた燃料吐出量Qfが得られるように制御される。具体的には、ECU100は、予めROMに格納された、燃料ポンプ310の燃料吐出特性を規定する制御マップを参照して、最終的に燃料ポンプ310の燃料吐出量Qfに対応する上述の駆動電圧Vmtを決定する。ECU100は、この決定された駆動電圧Vmtが燃料ポンプ310の直流モータに印加されるように電源及び適宜昇圧電源(昇圧コンバータ等)を制御する構成となっている。その結果、燃料ポンプ310の燃料吐出量Qfと、エンジン200の要求噴射量Qnとが、ある程度の幅をもって一義的な関係となる。
【0050】
ここで、図3を参照し、上記制御マップの詳細について説明する。ここに、図3は、燃料ポンプ310の燃料吐出特性を説明する図である。
【0051】
図3において、縦軸には燃料ポンプ310の燃料吐出量Qfが、また横軸には燃圧Pfが夫々表わされる。ここで、図示Li(i=135,120,100,80,60)(実線参照)は、燃料ポンプ310における直流モータの駆動電圧Vmtがi×0.1(V)である場合の燃料吐出特性線を表わし、特に標準偏差に対応している。また、図示Liσ(i=135,120,100,80,60)(破線参照)は、燃料ポンプ310における直流モータの駆動電圧Vmtがi×0.1(V)である場合の燃料吐出特性線を表わし、特に標準偏差−3σに対応している。尚、標準偏差−3σとは、正規分布に従った値のほぼ100%(約99.7%)が満たす値を意味する。例えば、図示破線L135σは、駆動電圧Vmtが13.5Vである場合に最低限保証される燃料吐出特性を意味する。上述した「ある程度の幅」とは、この標準偏差−3σを意味する。
【0052】
このように、燃料ポンプ310の燃料吐出量Qfは、定性的には駆動電圧Vmtが高い程高くなり、燃圧Pfが高い程低くなる。これは、燃料ポンプ310の燃料吐出圧がポンプ回転速度Nmtと一義的となるためである。燃料吐出量Qfは、燃料吐出圧が燃圧Pfよりも高い程多くなり、また燃圧Pfが一定であれば燃料吐出圧が高い程多くなるのである。尚、図3では、駆動電圧Vmtが離散的に表現されるが、無論これは説明を平易にするためであり、実際には、駆動電圧Vmtはより多段階に区分されている。
【0053】
上記制御マップには、図3に例示される関係が数値化されて格納されており、ECU100が絶えず参照可能となっている。尚、図3に例示される燃料吐出特性は、燃料温度(ポンプ温度)によっても若干変化する。従って、実際には、燃料温度(ポンプ温度)に応じた複数の制御マップが格納されているものとする。
【0054】
デマンド制御の説明に戻ると、エンジン200側の要請により燃料の要求噴射量Qn(ここでは、便宜上、各気筒のPFI211の燃料噴射量×気筒数×期間回転速度NE(rpm)×60(min)なる演算により、図3の縦軸と同様にL/h(リットル/時間)なる単位であるとする)が計算されると、ECU100は、制御マップを参照し、その時点の燃圧Pf及び要求吐出量の組み合わせに対応する一の駆動電圧Vmtを選択し、この選択された駆動電圧Vmtに応じて燃料ポンプ310を制御する。尚、燃料ポンプ310の構成によっては、要求吐出量=燃料吐出量Qf=要求噴射量Qnであるが、本実施形態においては、下記(1)式が成立するものとする。下記(1)式における「Qrt」は、予め設計的に与えられた、ポンプ内リターン量である。
【0055】
Qf=Qn+Qrt・・・(1)
このようにして燃料ポンプ310の駆動電圧Vmtが制御される結果、エンジン200の定常的な稼働期間においては、燃料噴射量と燃料吐出量Qfとは一致し、燃圧Pfは一定に維持される。即ち、エンジン200内部で消費される分の燃料のみが、燃料ポンプ310からオンデマンドに供給されるのである。
【0056】
<ラショナリティチェック処理の詳細>
燃料のデマンド制御を正確に行うためには、燃圧センサ350が正常に機能している(即ち、実践上問題無い精度で燃圧Pfを検出し得ることを意味する)必要がある。燃圧センサ350が正常に機能しない場合、例えば、検出燃圧Pfsが実際の燃圧Pfよりも高い値である場合、燃料噴射期間TAUが本来必要な値よりも小さくなるから、燃料噴射量が減少する。その結果、極端な場合にはエンジン200が失火する可能性がある。また、燃料ポンプ320側は、実際よりも高い検出燃圧Pfsに基づいて、要求噴射量Qnに応じた燃料吐出量Qfを得ようとするため、駆動電圧Vmtが本来の要求値よりも高くなる。その結果、燃料吐出量Qf>燃料噴射量の関係が成立し、デマンド制御の均衡が崩れてしまう。一方、例えば、検出燃圧Pfsが実際の燃圧Pfよりも低い値である場合、燃料噴射期間TAUが本来必要な値よりも大きくなるから、燃料噴射量が増加する。その結果、エンジン200のエミッションが悪化する可能性がある。また、燃料ポンプ320側は、実際よりも低い検出燃圧Pfsに基づいて、要求噴射量Qnに応じた燃料吐出量Qfを得ようとするため、駆動電圧Vmtが本来の要求値よりも低くなる。その結果、燃料吐出量Qf<燃料噴射量の関係が成立し、デマンド制御の均衡が崩れてしまう。
【0057】
従って、この種の燃料供給装置においては、燃圧センサ350のラショナリティチェックが必要となる。この際、複数の燃圧センサを備える構成であれば、一の燃圧センサと他の燃圧センサとのセンサ値を比較することにより一の燃圧センサの合理性(ラショナリティ)を判定可能であるが、このような手法はコストを増加させ、また車両搭載性を悪化させる懸念があり望ましくない。本実施形態では、ECU100がラショナリティチェック処理を実行することにより、このようなコストの増加や車両搭載性の悪化を招くことなく、燃圧センサ350のラショナリティチェックが実現される。
【0058】
ここで、図4を参照し、ラショナリティチェック処理の詳細について説明する。ここに、図4は、ラショナリティチェック処理のフローチャートである。
【0059】
図4において、ECU100は、チェック時期であるか否かを判定する(ステップS101)。このチェック時期は、どのように設定されてもよく、例えば、極端な場合、このチェックは、エンジン200の稼働期間において絶えず繰り返し実行されてもよい。但し、実践的運用面においては、例えば(1)エンジン200の暖機が完了していること、(2)エンジン200が定常的運転状態にあること及び(3)前回実行時から所定時間が経過していることが満たされた場合等としてもよい。チェック時期でない場合(ステップS101:NO)、ECU100は、処理を実質的に待機状態に制御する。
【0060】
チェック時期である場合(ステップS101:YES)、ECU100は、検出燃圧Pfsを取得する(ステップS102)。続いて、ECU100は、推定燃圧Pfdを取得する。ここで、推定燃圧Pfdとは、燃圧センサ350と独立性を保って推定される燃圧Pfのリファレンス値である。推定燃圧Pfdは以下の如くにして推定される。
【0061】
即ち、先に述べたように、燃圧センサ350に異常が発生すると、検出燃圧Pfsが実際の燃圧Pfに対して大きく或いは小さくなり、いずれにせよデマンド制御の均衡は崩れることとなる。ここで、デマンド制御の均衡が崩れると、燃料デリバリにおける燃料の収支が正負いずれかの側に傾くこととなるから、実際の燃圧も正負いずれかの側へ変化することになる。この燃圧の変化は、燃料噴射量と燃料吐出量Qfとが略一致するまで継続する。即ち、燃料噴射量を燃料吐出量Qfの代替指標値として使用することができる。
【0062】
燃料噴射量(エンジン200における燃料消費量)によって燃料吐出量Qfを代替的に表わせれば、図3に示した燃料ポンプ310の燃料吐出特性に基づいて、この燃料吐出量Qfと駆動電圧Vmtとに対応する燃圧Pfを推定燃圧Pfdとして取得することができる。
【0063】
ここで、実際の燃料噴射量(エンジン200内で消費される燃料量)は、空燃比フィードバック制御の実行プロセスを利用して推定することができる。空燃比フィードバック制御は、元より燃圧Pfとは無関係であり、その実行過程では、制御目標となる空燃比が得られるように、機関回転速度NEや吸入空気量GAに応じて燃料噴射量或いはそのフィードバック制御量が決定されている。
【0064】
このような状況下で要求噴射量Qnに対して実際の燃料噴射量が増加又は減少すれば、それは空燃比センサによって検出される排気空燃比AFの減少又は増加となって顕在化する。この現象を利用すれば、排気空燃比AFの変化量、変化率或いはプロファイルに基づいて、燃料噴射量の過剰分或いは不足分を特定することが可能となる。即ち、実際の燃料噴射量を推定することが可能となるのである。
【0065】
尚、駆動電圧VmtはECU100の制御値であるので、ECU100は難なく取得可能である。但し、駆動電圧の指示値と実際の駆動電圧値との間には、電気配線の抵抗分に相当する電圧降下が発生するので、この電圧降下分を補償するのが更に望ましい。
【0066】
推定燃圧Pfdを取得すると、ECU100は、検出燃圧Pfsと推定燃圧Pfdとの差分の絶対値に相当する燃圧偏差ΔPfを求め、許容値A以上であるか否かを判定する(ステップS104)。燃圧偏差ΔPfが許容値A以上であれば(ステップS104:YES)、ECU100は、燃圧センサ350が異常状態にあることを示す燃圧センサ異常フラグFG_pfsflをオン設定する(ステップS105)。一方、燃圧偏差ΔPfが許容値A未満であれば(ステップS104:NO)、ECU100は、燃圧センサ350が正常状態にあると判定して、燃圧センサ異常フラグFG_pfsflをオフ設定する(ステップS106)。ステップS105又はステップS106が実行されると、処理はステップS101に戻される。ラショナリティチェック処理はこのように実行される。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係るラショナリティチェック処理によれば、燃料のデマンド制御がなされる構成において、燃圧センサのラショナリティチェックを実現するにあたり、予め与えられた、燃圧Pf、駆動電圧Vmt(駆動負荷)及び燃料吐出量Qfの相互関係(例えば、図3参照)に基づいて燃圧のリファレンス値となる推定燃圧Pfdを得ることができる。このため、ラショナリティチェックのために複数の燃圧センサを備えておく必要はなく、コストの増加や車両搭載性の悪化を防止することができる。
【0068】
また、デマンド制御の実行過程においては、燃圧センサが正常であれば、推定燃圧Pfdと検出燃圧Pfsとの偏差は、図3の標準偏差―3σに相当するばらつきに応じて生じる程度のもので済み、燃圧センサが異常である場合との間では明確な差が生じる。従って、このような異常判定によれば、異常判定に係る判定精度も実践上十分に担保される。
【0069】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う燃圧センサの異常判定装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、燃料タンクから燃料デリバリに至る燃料供給経路に設置された燃圧センサの異常判定に利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
10…車両、100…ECU、200…エンジン、300…燃料供給装置、310…燃料ポンプ、320…燃料タンク、330…フィードパイプ、340…デリバリパイプ、350…燃圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、該内燃機関の燃料を貯留する燃料タンクと、該燃料タンクから駆動負荷に応じて燃料を汲み上げ且つ前記内燃機関のインジェクタに供給する燃料ポンプと、該供給される燃料の燃圧を検出する燃圧センサとを備え、且つ前記内燃機関の運転状態に応じた要求吐出量が得られるように前記駆動負荷が制御される車両において、前記燃圧センサの異常の有無を判定する燃圧センサの異常判定装置であって、
前記燃料ポンプの燃料吐出量を推定する吐出量推定手段と、
前記推定された燃料吐出量、前記駆動負荷並びに予め与えられた前記燃圧、前記駆動負荷及び前記燃料吐出量の相互関係に基づいて前記燃圧を推定する燃圧推定手段と、
前記検出された燃圧と前記推定された燃圧との比較結果から前記異常の有無を判定する判定手段と
を具備することを特徴とする燃圧センサの異常判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−241676(P2012−241676A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115119(P2011−115119)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】