説明

発光素子及びその製造方法

【課題】InTiO電極とAlGaAs層の間に低抵抗のオーミックコンタクトを形成し、これにより高い発光効率を有する発光素子を提供する。
【解決手段】本発明による発光素子は、近赤外線を発生する主発光層5と、主発光層5を被覆するp−AlGaAs層7と、p−AlGaAs層7の上に直接に接合された、高濃度にドープされたp−GaAs層8と、p−GaAs層8の上に直接に接合されたInTiO層9とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、及びその製造方法に関しており、特に、発光ダイオードやレーザダイオードのような半導体発光素子においてオーミックコンタクト電極を形成するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光素子では、しばしば、駆動電流を供給する電極として透明電極が使用される。これは、面発光素子は、電極が形成される面から光を放出するように構成されるためである。光の放出効率を向上させるためには、電極の光透過率が高いことが望ましい。
【0003】
ITO(indium tin oxide)は、透明電極として最も広く使用される材料である。ITOは、2021cm−3台の高いキャリア電子密度を有しており、従って導電率が高い。このような利点により、ITOは、面発光の発光素子の電極として、広く使用される。
【0004】
しかしながら、ITOは、高いキャリア電子密度を有するため、近赤外線に対する光透過率が充分に高くない。ITOのようにn型半導体として振舞う酸化物導電体では、キャリア電子が近赤外線と相互作用し、近赤外線を吸収したり反射したりする。従って、キャリア電子密度が高いほど、近赤外線の光透過率が低くなる。キャリア電子密度が高いITOは、近赤外線を発光する面発光素子の電極として好適な材料であるとはいえない。
【0005】
近赤外線に対する光透過率が高い透明電極としては、InTiOが知られている(例えば、特開2004−168636号公報、特開2004−207221号公報)。InTiOは、そのキャリア電子密度が2020cm−3台であり、ITOと比較してキャリア電子密度が低い。従って、InTiOは、ITOよりも近赤外線に対する光透過率が高い。その一方で、InTiOは、高い電子移動度を有しており、ITOと同等の高い導電率を実現できる。このように、InTiOは、近赤外線を発光する面発光素子の透明電極として有望な材料である。
【0006】
近赤外線を発光する面発光素子の透明電極としてInTiOを使用する上での一つの問題は、低抵抗のオーミックコンタクトの実現である。近赤外線を発光する発光素子は、一般に、主としてAlGaAsで形成されるが、InTiO電極とAlGaAs層の間に低抵抗のオーミックコンタクトを形成する技術は知られていない。特開2002−232005号公報は、p−AlGaInP層とITO電極との間にp−InGaAs層を挿入することにより、p−AlGaInP層とITO電極との間でオーミックコンタクトを実現できることを開示している。しかしながら、この公報は、InTiO電極とAlGaAs層との間のオーミックコンタクトの形成については言及がない。
【特許文献1】特開2004−168636号公報
【特許文献2】特開2004−207221号公報
【特許文献3】特開2002−232005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、InTiO電極とAlGaAs層の間に低抵抗のオーミックコンタクトを形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下に述べられる手段を採用する。その手段の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号が付加されている。但し、付加された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0009】
本発明による発光素子は、赤外線を発生する発光部(5)と、発光部(5)を被覆するp−AlGaAs層(7)と、p−AlGaAs層(7)の上に直接に接合された、高濃度にドープされたp−GaAs層(8)と、p−GaAs層(8)の上に直接に接合されたInTiO層(9)とを具備する。このように構成された発光素子では、p−AlGaAs層(7)とInTiO層(9)との間にp−GaAs層(8)が設けられていることにより、p−AlGaAs層(7)とInTiO層(9)との間にオーミックコンタクトを実現することができる。
【0010】
p−GaAs層(8)は、ZnとCの少なくとも一方をp型不純物として含む一方で、Mgをp型不純物として含まないことが好ましい。
【0011】
p−GaAs層(8)の膜厚は、5nm以上であることが好ましく、発光部(5)によって発生される赤外線の波長が、GaAsの吸収領域にある場合には、p−GaAs層(8)の膜厚が5〜20nmであることが好ましい。
【0012】
本発明による発光素子の製造方法は、
赤外線を発生する発光部(5)を形成する工程と、
発光部(5)を被覆するp−AlGaAs層(7)を形成する工程と、
p−AlGaAs層(7)の上に高濃度にドープされたp−GaAs層(8)を直接に形成する工程と、
p−GaAs層(8)の上にInTiO層(9)を直接に形成する工程
とを備える。
【0013】
当該発光素子の製造方法は、InTiO層(9)の形成の後、不活性雰囲気でアニールを行う工程を備えることが好ましい。
【0014】
なお、発光部(5)及びp−AlGaAs層(7)の形成が液相成長法によって行われる場合であっても、p−GaAs層(8)の形成が、CVD(chemical vapor deposition)法又はMBE(molecular beam epitaxy)法によって行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、InTiO電極とAlGaAs層の間に低抵抗のオーミックコンタクトを形成し、これにより高い発光効率を有する発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態の発光素子1の概略的な構造を示す断面図である。
発光素子1は、n−GaAs基板2と、その上に形成されたn−GaAsバッファ層3、n型クラッド層4、主発光層5、p型クラッド層6、及びp−AlGaAsコンタクト層7を備えている。n−GaAs基板2及びp−AlGaAsコンタクト層7は、高濃度にドープされており、高い導電率を有している。一実施形態では、n型クラッド層4は、n−AlGa(1−x)As(0<x<1)で形成されており、p型クラッド層6は、p−AlGa(1−x)As(0<x<1)で形成されている。主発光層5は、赤外線を発生するように形成されており、本実施形態では、主発光層5は、p−AlGa(1−y)As(0≦y<x)で形成されている。本実施形態の発光素子1では、ダブルへテロ構造が採用されている。即ち、主発光層5におけるアルミニウムのガリウムに対する比率yは、n型クラッド層4及びp型クラッド層6におけるアルミニウムのガリウムに対する比率xよりも小さく、主発光層5のバンドギャップは、n型クラッド層4及びp型クラッド層6のバンドギャップより小さい。厳密には、赤外線は、主発光層5のみならず、p型クラッド層6のうちの主発光層5との界面の近傍でも発生するが、赤外線の大部分は、主発光層5で発生する。主発光層5としては、様々な構造の層が使用可能であり、例えば、MQW(multi quantum well)が使用されることも可能である。n−GaAs基板2の裏面には、金属電極10が形成されている。
【0017】
−AlGaAsコンタクト層7の上には、p−GaAs層8及びInTiO層9が順次に形成されている。p−GaAs層8は、p−AlGaAsコンタクト層7の上に直接に形成され、InTiOx層9は、p−GaAs層8の上に直接に形成されている。一実施形態では、p−GaAs層8の膜厚は10nmであり、InTiO層9の膜厚は0.5μmである。後述のように、p−AlGaAsコンタクト層7とInTiO層9の間のp−GaAs層8は、低抵抗のオーミックコンタクトを実現するために重要な役割を果たしている。発光素子1は、面発光構造を採用しており、主発光層5によって発生された近赤外線は、主として、InTiO層9を介して外部に放出される。
【0018】
InTiOx層9の上には、ボンディングのための金属電極11が形成されている。発光素子1の実装の際には、ボンディングワイヤーは金属電極11にボンディングされる。
【0019】
本実施形態の発光素子1の一つの特徴は、高濃度にドープされたp−GaAs層8がp−AlGaAsコンタクト層7とInTiO層9との間に形成され、これにより、低抵抗のオーミックコンタクトが実現されていることである。p−GaAs層8による作用は、完全には理解されているわけではない。しかしながら、p−GaAs層8による作用の一つは、p−AlGaAsコンタクト層7の酸化を防止することにある。p−AlGaAsコンタクト層7の上にInTiO層9を直接に形成しようとすると、p−AlGaAsコンタクト層7に含まれているAlが酸化してp−AlGaAsコンタクト層7とInTiO層9との界面に高抵抗層が形成されてしまう。p−GaAs層8は、Alが酸化されることによる高抵抗層の形成を防ぎ、低抵抗のオーミックコンタクトの実現を可能にする。
【0020】
−GaAs層8のp型不純物の濃度は、p−GaAs層8が縮退する程度に高い。具体的には、p−GaAs層8の不純物濃度は、1×1018cm−3以上である。発明者の検討によれば、p−GaAs層8が高濃度にドープされることは、オーミックコンタクトを実現するために必要な条件である。
【0021】
低抵抗のオーミックコンタクトを形成するためには、p−GaAs層8の膜厚は5nm以上の厚さであることが好ましい。p−GaAs層8の膜厚が過剰に薄いと、Alの酸化を防止する効果が失われるために好適でない。一方、p−GaAs層8の膜厚が過剰に厚い場合には、主発光層5の発光波長によっては、発生された赤外線の透過を妨げることがある。より具体的には、主発光層5をp−AlGaAsで形成した場合には、その組成によって650〜950nmの範囲で発生する波長を調整可能であるが、GaAsは、860nm以下の光に対する吸収係数が大きい。このような観点から、主発光層5の発光波長がGaAsの吸収領域にある場合には(より具体的には、主発光層5の発光波長が860nm以下である場合には)、p−GaAs層8の膜厚は、5〜20nmの範囲にあることが望ましい。
【0022】
−GaAs層8のp型不純物は、Zn(亜鉛)又はC(炭素)であることが好ましい。一般的にp−GaAsのp型不純物として広く使用されるMg(マグネシウム)は、p−GaAs層8のp型不純物として好適ではない。図2は、p−GaAs層8に含まれるp型不純物がZn、C、及びMgである場合における、InTiOx層9のコンタクト抵抗の大きさを示すグラフである。p−GaAs層8に含まれるp型不純物がZn、C、及びMgのいずれであっても、InTiOx層9のコンタクト抵抗は、p−GaAs層8の膜厚の増加にしたがって減少する。しかしながら、p−GaAs層8に含まれるp型不純物がMgである場合には、1×10Ω・cmを超える接触抵抗しかえられなかった。一方、p−GaAs層8のp型不純物としてZn又はCを使用すると、p−GaAs層8のコンタクト抵抗を1×10Ω・cm以下に抑えることができる。このように、p−GaAs層8に含まれるp型不純物としてZn又はCを使用することにより、低抵抗のオーミックコンタクトを実現することが出来る。
【0023】
上述の発光素子1は、好適には下記の手順で形成される。まず、n−GaAs基板2の上に、液相成長法(LPE)により、n−GaAsバッファ層3、n−AlGaAsクラッド層4と、主発光層5と、p−AlGaAsクラッド層6と、p−AlGaAsコンタクト層7とが順次に形成される。液相成長法は、各層を高いスループットで形成できる点で、n−GaAsバッファ層3、n−AlGaAsクラッド層4、主発光層5、p−AlGaAsクラッド層6、及びp−AlGaAsコンタクト層7の形成に好適である。
【0024】
続いて、CVD(chemical vapor deposition)法により、p−GaAs層8が形成される。下層が液相成長法によって形成されているにも関らず、p−GaAs層8の形成にCVD法が使用されることは有効である。上述のように、p−GaAs層8は、5〜20nmの膜厚を有することが好適であり、CVD法を使用することは、均一な膜厚のp−GaAs層8を制御性良く形成するために好適である。均一な膜厚のp−GaAs層8を形成するためには、CVD法の中でも、MOCVD(metal-organic CVD)法を使用することが好適である。MOCVD法の使用は、カーボンドープのp−GaAs層8を容易に形成できる点でも好適である。CVD法の代わりに、MBE(molecular beam epitaxy)法によってp−GaAs層8を形成してもよい。MBE法の使用は、均一な膜厚のp−GaAs層8を制御性良く形成するために好適である。MBE法の中でも、ガスソースMBE法が使用されてもよいし、MOMBE法(metal-organic MBE)が使用されてもよい。
【0025】
続いて、高周波マグネトロンスパッタ法により、InTiOx層9が形成される。InTiOx層9の膜厚は、好適には0.5μm程度である。
【0026】
続いて、金属電極10がn−GaAs基板2の裏面に形成され、更に、金属電極11がInTiOx層9の表面に形成され、図1の発光素子1の作製が完了する。
【0027】
以上に説明されているように、本実施形態の発光素子1では、高濃度にドープされたp−GaAs層8がp−AlGaAsコンタクト層7とInTiO層9との間に形成されている。これにより、低抵抗のオーミックコンタクトが実現され、高い発光効率を有する発光素子を提供することができる。
【0028】
なお、以上には本発明の好適な実施形態が記載されているが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。図1には、最も簡単な面発光の発光素子1の構造が開示されているが、構造の詳細は、様々に変更され得る。上述のように、例えば、ダブルへテロ構造が発光素子1に採用されることが可能である。
【0029】
また、本発明の発光素子に、DDH構造が採用されてもよい。図3は、DDH構造が採用された発光素子1Aの構造を示す断面図である。図3の発光素子1Aは、図1の発光素子1からn−GaAs基板2とn−GaAsバッファ層3とが除去された構造を有している。このような構造は、GaAs基板による発光した光の吸収を減少させ、裏面の反射を増加させる効果があり、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態における発光素子の構造を示す断面図である。
【図2】図2は、p−GaAs層に含まれるp型不純物がZn、C、及びMgである場合における、InTiOx層のコンタクト抵抗の大きさを示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の他の実施形態における発光素子の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1、1A:発光素子
2:n−GaAs基板
3:n−GaAsバッファ層
4:n型クラッド層
5:主発光層
6:p型クラッド層
7:p−AlGaAsコンタクト層
8:p−GaAs層
9:InTiO
10、11:金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を発生する発光部と、
前記発光部を被覆するp−AlGaAs層と、
前記p−AlGaAs層の上に直接に接合された、高濃度にドープされたp−GaAs層と、
前記p−GaAs層の上に直接に接合されたInTiO
とを具備する
発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の発光素子であって、
前記p−GaAs層が、ZnとCの少なくとも一方をp型不純物として含む
発光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発光素子であって、
前記p−GaAs層の膜厚が、5〜20nmである
発光素子。
【請求項4】
赤外線を発生する発光部を形成する工程と、
前記発光部を被覆するp−AlGaAs層を形成する工程と、
前記p−AlGaAs層の上に高濃度にドープされたp−GaAs層を直接に形成する工程と、
前記p−GaAs層の上にInTiO層を直接に形成する工程
とを備える
発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の発光素子の製造方法であって、
前記InTiO層の形成の後、不活性雰囲気でアニールを行う工程を備える
発光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の発光素子の製造方法であって、
前記発光部及びp−AlGaAs層の形成が液相成長法によって行われ、
前記p−GaAs層の形成が、CVD(chemical vapor deposition)法又はMBE(molecular beam epitaxy)法によって行われる
発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−10191(P2009−10191A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170557(P2007−170557)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【出願人】(501045021)株式会社ナノテコ (9)
【Fターム(参考)】