説明

発熱体及びこれを用いた結晶成長装置並びに気相成長装置

【課題】被加熱物を効率良く均等に加熱することができる新規な構造の発熱体及びこれを用いた結晶成長装置並びに気相成長装置を提供する。
【解決手段】発熱体1は、板状又は円筒状の抵抗体2にスリット3を切って発熱領域4を形成してなり、スリット3を、抵抗体2の表面に対し、斜め方向に穿っているものである。つまり、発熱体1は、板状又は筒状の抵抗体2と、抵抗体2の厚さ方向に貫通するように形成されたスリット3とを有し、スリット3が、厚さ方向に直交する抵抗体表面から、厚さ方向に対し傾斜又は屈曲して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を効率良く、均一に加熱するための発熱体及びこれを用いた結晶成長装置並びに気相成長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体単結晶の製造方法のひとつに引上げ法があり、SiやGaAs、InP等の単結晶成長に広く用いられている。その一例として、LEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法でGaAs単結晶を製造する方法を述べる。
【0003】
図17に示すように、GaAsの原料融液170は、ルツボ171の内部に収容されており、その表面には液体封止剤172が浮かべられている。ルツボ171は、ルツボ収容容器(サセプタ)173に収容され、回転、昇降自在のサセプタ支持軸(ペデスタル)174により支持されている。原料融液170は、発熱領域175を備えたヒータ(発熱体)176により加熱されており、ヒータ176の外周及び下部には、断熱材177が配置されている。また、これら全体は、圧力容器178の内部に納められて、不活性ガスの加圧下に置かれることで、融液からのV族元素の解離を防いでいる。
【0004】
結晶成長を行うには、回転、昇降自在の引上げ軸179の先端に固定された種結晶を、原料融液170に接触させ、ヒータ温度を徐々に下げながら、ゆっくりと引上げていく。こうすることで、種結晶の下にGaAsの単結晶180が、液体封止剤172を通して引上げられていく。このとき、引上げ軸179及びサセプタ支持軸174は、いずれも回転させるのが一般的である。
【0005】
ここで用いられるヒータ176は、通常、等方性黒鉛部材からの削り出しによって製造される抵抗加熱ヒータであり、一般的に図2に示すような外観、即ち、円筒状の抵抗体2に複数のスリット3を切って発熱領域4を形成した構造を呈している。このスリット3は、図5に示すように、円筒状の抵抗体2の表面に対し、垂直に穿たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−315292号公報
【特許文献2】特開2004−217504号公報
【特許文献3】特開2004−217503号公報
【特許文献4】特開2004−217502号公報
【特許文献5】特開平8−151291号公報
【特許文献6】特開平5−148078号公報
【特許文献7】特開2001−192292号公報
【特許文献8】特開平11−273835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
結晶成長炉に用いられるヒータは、被加熱物を効率良く均等に加熱できる性能を有することが望ましい。しかしながら、従来ヒータに用いられている発熱体は、発熱領域の間にあるスリットからは熱が放射されないため、加熱の状態にムラができやすかった。そればかりか、被加熱物であるルツボ収容容器の表面からスリットを通して温度の低い断熱材側へと輻射熱が逃げることとなり、加熱効率が良くなかった。
【0008】
前述した問題は、熱輻射の観点から述べたものであるが、対流熱伝達の観点からも問題があった。即ち、発熱体のスリットは炉内のガスの通り道にもなるため、発熱体のスリットを通してガスの対流が生じ、被加熱物の温度が不安定になりやすく、かつ加熱効率も良くなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、前述の従来技術の問題点を解決し、被加熱物を効率良く均等に加熱することができる新規な構造の発熱体及びこれを用いた結晶成長装置並びに気相成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために創案された本発明は、板状又は筒状の抵抗体と、前記抵抗体の厚さ方向に貫通するように形成されたスリットとを有する発熱体において、前記スリットは、前記厚さ方向に直交する抵抗体表面から、前記厚さ方向に対し傾斜又は屈曲して形成される発熱体である。
【0011】
前記抵抗体に形成される複数のスリットと、複数の前記スリット間に形成される発熱領域とを有し、前記スリット間における前記発熱領域の断面形状が、平行四辺形又は台形であると良い。
【0012】
前記抵抗体の厚さをt、前記スリットの幅をw、前記スリットと前記抵抗体の表面がなす角度をθとしたとき、|tanθ|<t/wの関係が成り立つように前記スリットを形成していると良い。
【0013】
前記抵抗体の表面を正面から見たとき、前記スリットを透かして前記抵抗体の裏面側にあるものが見えない構造になっていると良い。
【0014】
前記抵抗体がグラファイトで形成されると良い。
【0015】
前記抵抗体の表面には、前記抵抗体とは異質の材料でコーティングが施されていると良い。
【0016】
また、本発明は、前記発熱体を、結晶成長用の炉体に組み込んだ結晶成長装置である。
【0017】
この結晶成長装置は、引上げ法又は縦型ボート法のいずれかに用いると良い。
【0018】
また、本発明は、前記発熱体を、薄膜結晶成長用の炉体に組み込んだ気相成長装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被加熱物を効率良く均等に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における発熱体の好ましい断面形状を説明する図である。
【図2】円筒状発熱体の外観図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る円筒状発熱体の断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る円筒状発熱体の断面図である。
【図5】従来技術に係る円筒状発熱体の断面図である。
【図6】円板状発熱体の外観図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る円板状発熱体の断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る円板状発熱体の断面図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る円板状発熱体の断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る円板状発熱体の断面図である。
【図11】従来技術に係る円板状発熱体の断面図である。
【図12】板状発熱体の外観図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る板状発熱体の断面図である。
【図14】本発明の一実施の形態に係る板状発熱体の断面図である。
【図15】本発明の一実施の形態に係る板状発熱体の断面図である。
【図16】従来技術に係る板状発熱体の断面図である。
【図17】LEC炉の断面構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0022】
図1は、本発明における発熱体の好ましい断面形状を説明する図である。
【0023】
図1に示すように、本発明の発熱体1は、板状又は円筒状の抵抗体2にスリット3を切って発熱領域4を形成してなり、スリット3を、抵抗体2の表面に対し、斜め方向に穿っているものである。つまり、発熱体1は、板状又は筒状の抵抗体2と、抵抗体2の厚さ方向に貫通するように形成されたスリット3とを有し、スリット3が、厚さ方向に直交する抵抗体表面から、厚さ方向に対し傾斜又は屈曲して形成されているものである。
【0024】
発熱体1の種類としては、図2に示すような円筒状発熱体20、図6に示すような円板状発熱体60、図12に示すような板状発熱体120等がある。
【0025】
抵抗体2は、グラファイト、特に等方性黒鉛で作製することができるが、その他にもグラファイトのコンポジット材や焼結SiC(炭化珪素)等の材料で作製することができる。また、その表面を抵抗体2とは異質の材料、即ち、pBN(窒化硼素)やPG(パイロリティックグラファイト)、SiC、ガラス状カーボン等でコーティングすることできる。
【0026】
抵抗体2には複数のスリット3が形成されており、複数のスリット3間に発熱領域4が形成されている。ここで、スリット3間における発熱領域4の断面形状(スリット3の長手方向に垂直な発熱領域4の断面形状)が、平行四辺形又は台形であることが好ましい(図1では平行四辺形)。
【0027】
また、抵抗体2の厚さをt、スリット3の幅をw、スリット3と抵抗体2の表面がなす角度をθとしたとき、|tanθ|<t/wの関係が成り立つようにスリット3を穿っていることが好ましい。これは、抵抗体2の表面を正面から見たとき、スリット3を透かして抵抗体2の裏面側にあるものが見えないような構造になっていることと、本質的に同義である。
【0028】
即ち、抵抗体2がスリット3で前後に重なり合うような構造とすることで、平板状の発熱体であれば、発熱体を正面から見たときに、発熱体の向こう側にあるものがスリット3を通して見えない構造になっていることであり、円筒状の発熱体であれば、発熱体を正面から見たときに、発熱体の中に置かれた被加熱物、例えば前述のルツボ収容容器173の表面等が見えない構造になっているということである。これは、スリット3を通じて輻射熱のやり取りが行われ難い構造であり、また、ガス流に対しても抵抗の大きな構造と言える。
【0029】
この発熱体1は、炉体に組み込んで使用することができる。炉体とは、引上げ法又は縦型ボート法のいずれかに係る結晶成長装置の半導体の結晶成長用の炉体、並びにMOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法に係る気相成長装置の半導体の薄膜結晶成長用の炉体のことであり、これらの炉体に適用することで発明の効果が発揮されやすい。
【0030】
このような構成の発熱体1によれば、スリット3を通じた輻射熱や加熱されたガスの往来を抑制することができるようになるため、被加熱物の加熱効率が向上し、エネルギーの消費を従来よりも低減することが可能である(省エネ効果)。従って、本発明に係る発熱体1を用いた結晶成長装置又は気相成長装置においては、より少ない消費エネルギーでの結晶成長が可能になる。また、加熱効率が向上することで、発熱体1や炉内の構成部材にかかる負荷が軽減され、当該部材や装置の寿命が向上する。これにより、装置のランニングコストを抑制することができ、前述の省エネ効果とあいまって、結晶の生産コストを大幅に低減することが可能になる。
【0031】
また、本発明に係る発熱体1によれば、スリット3を通じた輻射熱の放散を抑制することができるようになるため、被加熱物を均等に加熱することができるようになる。従って、本発明に係る発熱体1を用いた引上げ法又は縦型ボート法の結晶成長装置においては、融液や成長結晶中の温度が局所的に変化する領域が無くなり、結晶成長の再現性が向上し、また転位等の欠陥低減にも効果がある。また、本発明に係る発熱体1を用いたMOVPE法の気相成長装置においては、結晶を成長させる基板面内の温度均一性が高まり、エピタキシャル成長層の膜厚や電気特性の面内均一性が改善される。
【0032】
更に、本発明に係る発熱体1によれば、加熱されたガスがスリット3を通じて往来することを抑制できるようになるため、発熱体1や被加熱物の周囲の熱対流を小さく抑えることができ、結果として被加熱物の温度変動を抑制できるようになる。従って、本発明に係る発熱体1を用いた引上げ法又は縦型ボート法の結晶成長装置においては、融液や成長結晶の温度変動が少なくなり、結晶成長の再現性が向上し、また、転位等の欠陥低減にも効果がある。本発明に係る発熱体1を用いたMOVPE法の気相成長装置においては、結晶を成長させる基板表面を含む成長系内の温度変動が軽減され、成長が安定するとともに、エピタキシャル成長層の膜厚や電気特性の再現性、面内均一性が改善される。
【0033】
また、本発明に係る発熱体1によれば、スリット3を通じて流れるガスの流量や流れ方向をデザインできるようになり、発熱体1を収容する炉内のガスの流れや、それに伴う温度分布の制御性に自由度が増す。
【0034】
更に、本発明に係る発熱体1によれば、炉内の温度分布やガスの流れをシミュレーションしたとき、計算結果と実態との解離が少なくなり、炉内の温度分布やガスの流れが予測しやすくなる。一般に、計算機シミュレーションでは、軸対象モデルで計算が行われることが多く、このモデルでは発熱体の発熱領域は連続面として扱われる。このため、発熱体に設けられたスリットの影響が計算に反映されず、計算結果と実態との解離が少なからず生じるのである。本発明に係る発熱体1を用いると、スリット3を通じた輻射熱の放散や加熱されたガスの往来が抑制されるため、発熱領域4を連続面として扱うシミュレーションの結果と、実際の現象が良く合うようになり、加熱中の炉内の状態を推測しやすくなる。また、これにより、炉内構成部材の構造設計がやりやすくなる。
【0035】
また、本発明に係る発熱体1は、従来の抵抗体材料及び加工技術を用いて簡便に作製が可能である。
【0036】
前述の実施の形態においては、発熱体1のスリット3を、抵抗体2の表面に対し斜め方向に穿つことで、被加熱物を効率良く均等に加熱できる発熱体1を提供しているが、同様の効果を得るために、スリット3の部分を赤外線に対して透明ではなく、かつ電気的に絶縁性を有するセラミックスや樹脂等で埋めた構造とする変形例が考えられる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
本発明を、図2に示した円筒状発熱体20に適用した実施例を図3に示す。図3は、図2におけるA−A線断面図である。
【0038】
実施例1に係る発熱体20aは、高純度等方性黒鉛からなり、外径360mm、内径328mm、高さ360mmの外形寸法を有している。この発熱体20aには、幅6mmのスリット3が等間隔に20本切られており、スリット3間の発熱領域4の幅は、50mmとしてある。この発熱体20aのスリット3は、発熱体20aの外表面に対し、60°の角度で穿たれている。詳しくは、発熱体20aの外表面は曲面であるため、スリット3の中央部に当たる位置の発熱体20aの外表面への接面に対し、60°の角度を持つようにスリット加工を施した。
【0039】
スリット3を、発熱体20aの外表面に対し、斜めに穿ったことにより、発熱領域4の長手方向に垂直な断面の形状は、略平行四辺形となった。
【0040】
この発熱体20aにおいては、抵抗体2の厚さt=16mm、スリット3の幅w=6mm、スリット3と抵抗体2の表面がなす角度θ=60°であることから、|tanθ|(≒1.7)<t/w(≒2.7)の関係が成り立っている。
【0041】
この発熱体20aの中に結晶成長用のルツボを配置して、発熱体20aの外側から観察したが、スリット3は表面に対して斜めに穿った抵抗体2の手前側と奥側の部分が重なっており、スリット3を介して発熱体20aの中に置いたルツボの表面を見ることはできなかった。
【0042】
(変形例1)
実施例1の変形例として、図4に示すような発熱体20bを作製した。図4も、図2におけるA−A線断面図である。
【0043】
この発熱体20bの外形寸法は、実施例1と同じであるが、スリット3を切る角度を、発熱体20bの外表面に対し、60°、120°と交互に変えて加工した(スリット3a、3b)。
【0044】
スリット3をこのように加工したことにより、当該発熱体20bの発熱領域4の長手方向に垂直な断面の形状は、略台形となった。また、この発熱体20bにおいても、|tanθ|<t/wの関係は成り立っており、発熱体20bの外側からスリット3a、3bを介して発熱体20bの内側に置いたものを見ることはできなかった。
【0045】
この変形例1のように、スリット3を切る角度を変えることは、発熱体20bの加熱時にスリット3を通過するガスの流れが、隣接するスリット3a(又は3b)からのガスの流れと干渉するため、定常的な流れを弱める効果が期待できるようになる。このとき気を付けなければいけないことは、発熱体20bの発熱領域4の長手方向に垂直な断面の面積が、発熱体20bのどこを取っても一定になるようにスリット3a、3bを切ることである。こうしないと、発熱の不均一性を生む要因となってしまう。
【0046】
(実施例2)
本発明を、図6に示した円板状発熱体60に適用した実施例を図7に示す。
【0047】
実施例2に係る発熱体60aは、高純度グラファイトのコンポジット材からなっており、その表面に厚さ〜0.5mmのSiCコーティングを施した構造となっている。円板部の外径寸法は200mm、厚さは15mmである。スリット3は、従来技術の場合、図11に示すように、発熱体60eの表面に対し垂直に切られるが、本実施例では、幅5mmで、発熱体60aの表面(図7における上面)に対し60°の角度で加工した。ここで、図7、図11とも、図6におけるB−B線断面図を示している。
【0048】
この発熱体60aにおいても、抵抗体2の厚さt=15mm、スリット3の幅w=5mm、スリット3と抵抗体2の表面がなす角度θ=60°であることから、|tanθ|(≒1.7)<t/w(=3)の関係が成り立っており、発熱体60aの上面側から、スリット3を介して発熱体60aの下側に置いたものを見ることはできなかった。
【0049】
(変形例2)
実施例2の変形例として、図8に示すような発熱体60bを作製した。図8も、図6におけるB−B線断面図を示す。この発熱体60bの外形寸法は実施例2と同じであるが、スリット3を切る角度を、発熱体60bの外表面に対し120゜とした。
【0050】
変形例2に係る発熱体60bは、実施例2とほぼ同じ性能を有するが、その違いは、スリット3を介してのガスの流れ方である。発熱体60bに通電加熱した際、暖められたガスは上昇流を生む。このため、発熱体60bを水平に設置して加熱した場合、スリット3を介して流れるガスの流れは、実施例2の発熱体60aでは発熱体上方の中央部に集まるような流れとなり、変形例2の発熱体60bでは発熱体上方の外周部へ広がるような流れとなる。どちらの流れが好ましいかは、個々の場合により異なるため一概に決められる性格のものではないが、本発明により、発熱体のスリット3を介して生じるガスの流れの方向が、初めてデザイン可能となった。
【0051】
(変形例3)
実施例2の変形例として、図9に示すような発熱体60cを作製した。図9も、図6におけるB−B線断面図を示す。この発熱体60cの外形寸法も実施例2と同じであるが、スリット3を切る角度を、変形例1と同様に発熱体60cの外表面に対し60゜又は120゜となるよう組み合わせた(スリット3a、3b)。このようにすることで、発熱体加熱時にスリット3a、3bを通過するガスの流れが、隣接するスリット3a(又は3b)からのガスの流れと干渉するため、定常的な流れを弱める効果を期待できるようになる。
【0052】
(変形例4)
実施例2の変形例として、図10に示すような発熱体60dを作製した。図10も、図6におけるB−B線断面図を示す。この発熱体60dの特徴は、円板部の外周も60°の角度で切り落とした点にある。このようにすることで、発熱体60dの発熱領域4のスリット3の長手方向に垂直な断面の形状が、発熱体60dの中央部を除いて、どこも一定の平行四辺形となり、より均一な発熱が実現できるようになる。
【0053】
(実施例3)
本発明を、図12に示した角型の板状発熱体120に適用した実施例を図13に示す。
【0054】
実施例3に係る発熱体120aは、高純度グラファイトから製作されている。角板部の外形寸法は100mm×81mmで、厚さは7mmである。スリット3は、従来技術の場合、図16に示すように、発熱体120dの表面に対し垂直に切られるが、実施例3では、幅4mmで、発熱体120aの表面(図13における上面)に対し45°の角度で加工した。ここで、図13、図16とも、図12におけるC−C線断面図を示している。
【0055】
この発熱体120aにおいても、抵抗体2の厚さt=7mm、スリット3の幅w=4mm、スリット3と抵抗体2の表面がなす角度θ=45゜であることから、|tanθ|(=1)<t/w(≒1.75)の関係が成り立っており、発熱体120aの上面側から、スリット3を介して発熱体120aの下側に置いたものを見ることはできなかった。
【0056】
(変形例5)
実施例3の変形例として、図14に示すような発熱体120bを作製した。図14も、図12におけるC−C線断面図を示す。この発熱体120bの外形寸法は実施例3と同じであるが、スリット3を切る角度を、発熱体120bの外表面に対し70°とした。
【0057】
これまでの実施例では、|tanθ|<t/wの関係が成り立っているような例ばかりを述べたが、必ずしもこの関係が成り立っている必要はない。この変形例では故意に|tanθ|>t/wとなるようにして、スリット3を介して発熱体120bの反対側に置いたものの一部が見えるような構造とした。
【0058】
この場合も、図16に示した従来技術に係る発熱体120dに比べれば、スリット3を通過する輻射熱量やスリット3を介して流れるガスの流量を絞ることができる。
【0059】
このように、スリット3を切る角度を変えてスリット3の開口面積を制御してやれば、そこを通過する輻射熱量やガス流量をデザインすることが可能となる。
【0060】
(変形例6)
実施例3の変形例として、図15に示すような発熱体120cを作製した。図15も、図12におけるC−C線断面図を示す。この発熱体120cの外形寸法は実施例3と同じであるが、スリット3の加工を抵抗体2の表裏両面側から斜め方向に行って、スリット3の断面形状が「く」の字状(屈曲形状)となるように構成した。こうすることで、スリット3の加工を抵抗体2の表裏両面側から行わなければならないという加工の手間が増えるが、スリット3を通じてのガスの行き来をより少なくすることができ、加熱温度の安定性や加熱効率の向上に、より高い効果が期待できるようになる。スリット3の断面形状(屈曲形状)は、「く」の字形に限定されるものではなく、円弧状(アーチ状)としてもよい。
【0061】
(実施例4)
実施例1で述べた発熱体20aを用いて、GaAs結晶の単結晶成長を実施した例を述べる。GaAs結晶の単結晶成長は、図17に示すようなLEC炉を用いて行った。
【0062】
直径280mm径のpBN製のルツボ171に、GaAs多結晶原料を30kgと液体封止剤172であるB23を1.6kg充填し、圧力容器178内に設置した。原料を収容したルツボ171は、グラファイト製のルツボ収容容器173に収容した。ルツボ171を収容したルツボ収容容器173は、回転、昇降自在のサセプタ支持軸174上に載置した。
【0063】
原料をチャージした成長炉内は、真空引きした後、不活性ガスを充填した。次に、ルツボ171内をGaAsの融点である1238℃以上まで昇温し、原料多結晶を融解させた。次に、引上げ軸179を下げ、種結晶の先端を融液に接触させ温度を十分なじませた後、ヒータ176の設定温度を3℃/hの割合で下げながら、種結晶を5〜16mm/hの速度でゆっくりと引上げて行った。結晶成長時の種結晶の回転数は、時計まわりに5rpm、ルツボ171の回転数は、反時計まわりに10rpmとした。ヒータ176の消費電力の目安として、結晶成長開始時(種結晶の引上げ開始時)におけるヒータ176の投入パワーをモニターしたところ、40.7kWであった。
【0064】
結晶の肩部成長が終了し、直径が約160mmになったところで外径の自動制御を開始した。これは、成長した結晶の重量を、引上げ軸179に設置したロードセルでリアルタイムに計測し、単位時間当たりの重量の増加分と引上げ軸179の移動量から結晶の外径をモニターし、外径が設定した値になるように、ヒータ176の温度制御にフィードバックを行うものである。
【0065】
結晶成長中は、成長量の増加に伴い融液量が徐々に減少し、液面位置が低下していく。これを補正すべく、前述のロードセル出力から液面の低下量を計算し、常に液面がヒータ176に対して定位置に来るように、ルツボ171を自動で上昇させる制御を行った。
【0066】
こうして成長させた結晶は、チャージした原料の95%が引上げられた時点でヒータ176の温度を上昇させ、結晶の尾部形状を形成した後、結晶を融液から切り離した。
【0067】
ヒータ176の温度は、ヒータ176の発熱体近傍に設置した熱電対によってモニターしている。この結晶成長中の熱電対の指示温度のばらつきは、ヒータ温度の設定値に対し±0.2℃の範囲に納まっていた。
【0068】
成長した結晶は、全長に渡って単結晶となっており、その外径は、160mmの目標値に対して、頭部〜尾部に亘って全域で±3%以内の変動に抑えられていて、外径の制御性が非常に良好であった。
【0069】
(比較例1)
比較例1として、図5に示した従来型の発熱体176を用いて、実施例4とまったく同条件でGaAsの結晶成長を行った。
【0070】
比較例1においても、実施例4と同様に全長に渡って単結晶が得られたが、ヒータ176の消費電力の目安としてモニターしていた、結晶成長開始時(種結晶の引上げ開始時)におけるヒータ176の投入パワーは、44.8kWと、実施例4に比して約10%多くかかっていた。
【0071】
また、結晶成長中のヒータ温度モニター用熱電対の指示温度のばらつきは、ヒータ温度の設定値に対し±0.4℃と、実施例4に比して倍のばらつきとなっていた。このことが影響していると思われるが、得られた結晶の外径は、160mmの目標値に対して、頭部〜尾部に亘って全域で±4%の変動を有しており、実施例4で得られた結晶に比べて、外径の変動が大きかった。
【0072】
以上の実施例より、本発明によれば、被加熱物を効率良く均等に加熱することができることを確認した。
【符号の説明】
【0073】
1 発熱体
2 抵抗体
3 スリット
4 発熱領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状又は筒状の抵抗体と、前記抵抗体の厚さ方向に貫通するように形成されたスリットとを有する発熱体において、
前記スリットは、前記厚さ方向に直交する抵抗体表面から、前記厚さ方向に対し傾斜又は屈曲して形成されることを特徴とする発熱体。
【請求項2】
前記抵抗体に形成される複数のスリットと、複数の前記スリット間に形成される発熱領域とを有し、前記スリット間における前記発熱領域の断面形状が、平行四辺形又は台形である請求項1に記載の発熱体。
【請求項3】
前記抵抗体の厚さをt、前記スリットの幅をw、前記スリットと前記抵抗体の表面がなす角度をθとしたとき、|tanθ|<t/wの関係が成り立つように前記スリットを形成している請求項1又は2に記載の発熱体。
【請求項4】
前記抵抗体の表面を正面から見たとき、前記スリットを透かして前記抵抗体の裏面側にあるものが見えない構造になっている請求項1〜3のいずれかに記載の発熱体。
【請求項5】
前記抵抗体がグラファイトで形成される請求項1〜4のいずれかに記載の発熱体。
【請求項6】
前記抵抗体の表面には、前記抵抗体とは異質の材料でコーティングが施されている請求項1〜5のいずれかに記載の発熱体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の発熱体を、結晶成長用の炉体に組み込んだことを特徴とする結晶成長装置。
【請求項8】
引上げ法又は縦型ボート法のいずれかに用いる請求項7に記載の結晶成長装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の発熱体を、薄膜結晶成長用の炉体に組み込んだことを特徴とする気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−51775(P2012−51775A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197475(P2010−197475)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】