説明

硬化性組成物およびその硬化物

【課題】封止用シリコーン樹脂の欠点であったガスバリア性が改良された硬化物、さらに加えて耐熱性に優れた硬化物を与える硬化性組成物の提供。
【解決手段】(A)Si−H基を2つ以上含む化合物、(B)Si−H基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を2つ以上含む化合物、(C)ヒドロシリル化反応触媒を含む硬化性組成物であって、(A)成分が、下記式(1)で表される有機化合物(a1)と、Si−H基を2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)とを、有機化合物(a1)の炭素−炭素二重結合数をx、シリコーン化合物(a2)のSi−H基数をyとするとき、10≧y/x≧2の範囲となる比でヒドロシリル化反応することで得られる、2つ以上のSi−H基を含有するヒドロシリル化生成物である。


(式中R1,R2は、各々独立して水素原子またはメチル基を表す。式中Xは炭素原子数0〜25かつ酸素原子数1〜8を有する基を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物およびその硬化物に関する。さらに詳しくは、青色および白色発光ダイオード(LED)等の発光素子や半導体チップ等の電子部品の封止材として有用な、耐熱性、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れた硬化物を与える硬化性組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオード(LED)素子や半導体チップの封止材としては、基板との接着性や強靭性などの点から一般にエポキシ樹脂が用いられている。
しかし、エポキシ樹脂を封止材として用いた場合、樹脂の耐熱性や耐光性が十分でないため、発熱や光エネルギーの大きい青色および白色LEDにおいて封止材の着色が見られ、LED素子の性能を大きく低下させている。
【0003】
そこで、耐熱性および耐光性に優れたシリコーン樹脂をLED封止材として用いる検討が多く実施されている(例えば、特許第4071639号公報および特開2004−186168号公報)。しかしシリコーン樹脂は、配線部の金属面や、反射板(リフレクタ)として用いられる有機樹脂との接着性が悪いため、シリコーン樹脂をLED封止樹脂として用いた場合には、長時間の使用により封止樹脂の剥離がみられる。
【0004】
シリコーン樹脂の欠点を改善させるために、Si−H結合を有するシリコーン化合物、炭素―炭素二重結合を有する有機化合物及びヒドロシリル化触媒を含む硬化組成物が提案されている (例えば、特許第4066229号公報および特許第4112443号公報)。この組成物を用いることにより、シリコーン樹脂が有する耐熱性を大きく悪化させることなく封止材に硬度、強度、接着性を付与することができることが開示されている。
【0005】
特許文献3では、Si−H結合を有するシリコーン化合物として、ビニル基を一分子中に1〜6個有する有機化合物、その中でも
【0006】
【化1】

からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である有機物(α1)と、一分子中に少なくとも2個のSi−H基を有するポリオルガノシロキサン(β1)とのヒドロシリル化反応により得ることができる硬化剤を含む硬化性組成物が開示されている。しかしながら、上記特許文献3に記載の硬化剤を用いた場合、ビニル基を有する化合物を原料として用いているため、樹脂中に耐熱性の低い鎖状炭化水素部位を多く含むこととなり、耐熱性が悪化することがある。また、ビニル基を含む有機化合物をヒドロシリル化する際に、ビニル基が内部転位し、ヒドロシリル化反応に対する反応性が極めて低い副生成物を生じることが知られており(特開2007−302825号公報および特開2004−189959号公報)、この炭素−炭素二重結合(以下「残存内部炭素―炭素二重結合」ともいう。)を含む副生成物が耐熱性へ悪影響を与えることが問題となる。
【0007】
また、特許文献4では、Si−H結合と反応性を有する炭素−炭素二重結合をもつ化合物として、5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、6−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンまたは前記両者の組み合わせと、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンとの付加反応物を用いている。特許文献4には、この付加反応の際、上記ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプトエン中のビニル基と環内炭素−炭素二重結合とで、反応性に大きな差が無い旨が特許中に記載されている。そのため得られる炭素−炭素二重結合をもつ化合物中には、未反応あるいは内部転位したビニル基が残存し、これが硬化の際に着色の原因となることが考えられる。
【0008】
さらに近年、シリコーン樹脂の欠点として、ガス透過性の高さが問題となっている。例えば、封止樹脂を通り抜けた水蒸気によるLED中の無機蛍光体の劣化や、酸素による基盤の配線の銀メッキ表面の酸化劣化などが問題点として挙げられている。これに関し、上記特許文献1〜6においては、記載の樹脂を用いることによる、耐熱性・耐光性・透明性・硬度・収縮率等の改良に関しては述べられているものの、ガスバリア性の向上に関しては全く記載されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4071639号公報
【特許文献2】特開2004-186168号公報
【特許文献3】特許第4066229号公報
【特許文献4】特許第4112443号公報
【特許文献5】特開2007−302825号公報
【特許文献6】特開2004−189959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、シリコーン樹脂の欠点であったガスバリア性が大きく改良された硬化物を与える硬化性組成物、さらにはガスバリア性に加えて耐熱性に優れた硬化物を与える硬化性組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に対して検討した結果、Si−H基を有するシリコーン化合物と、炭素―炭素二重結合を有する有機化合物及びヒドロシリル化触媒を含む硬化組成物を熱硬化して得られる硬化物が、硬度、強度、接着性に優れるのみならず、一般のシリコーン樹脂と比較して、ガスバリア性に若干ではあるが優れていることを新たに見出した。しかしそのガスバリア性の程度は十分でなく、さらに、耐熱黄変性はシリコーン樹脂と比較した場合、満足できるものではなかった。
【0012】
そこで更なる鋭意検討の結果、Si−H基を有するシリコーン化合物として、従来用いられていたビニル基の代わりに、ノルボルネン部位をもち、尚且つエーテルあるいはエステルなどの酸素原子を含む基をもつ化合物を硬化剤の原料として用いることで、分子間相互作用によりガスバリア性がさらに向上した硬化物を与える樹脂を得ることができ、さらには鎖状炭化水素部位や残存内部炭素―炭素二重結合が少なく耐熱性に優れる硬化物を与える樹脂を得ることもできることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、以下の実施態様を有する。
[1](A)Si−H基を分子内に2つ以上含む化合物
(B)Si−H基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を分子内に2つ以上含む化合物
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含む硬化性組成物であって、
前記(A)成分が、下記一般式(1)
【0014】
【化2】

(式中R1, R2は、各々独立して水素原子またはメチル基を表す。式中Xは炭素原子数0〜25かつ酸素原子数1〜8を有する基を表す。)
で表される有機化合物(a1)と、Si−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)とを、前記有機化合物(a1)の全炭素−炭素二重結合数をx、前記シリコーン化合物(a2)の全Si−H基数をyとするとき、10≧y/x≧2の範囲となる混合比でヒドロシリル化反応することで得られる化合物であることを特徴とする硬化性組成物。
[2]前記一般式(1)中のXがエーテル結合またはエステル結合を有する基である、[1]に記載の硬化性組成物。
[3]前記有機化合物(a1)が、5−ノルボルネン−2−カルボン酸−5−ノルボルネニル−2−メチルエステルである、[1]に記載の硬化性組成物。
[4]前記有機化合物(a1)が、ビス(5−ノルボルネニル−2−メチル)エーテルである、[1]に記載の硬化性組成物。
[5]前記シリコーン化合物(a2)が、下記一般式(2)で表される環状シロキサン化合物、または下記一般式(3)で表される鎖状シロキサン化合物である[1]〜[4]のいずれかに記載の硬化性組成物。
【0015】
【化3】

(式中、R3、R4、R5は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、mは2〜6、lは0〜10の整数である。)
【0016】
【化4】

(式中、R6、R7、R8、R9は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、pは2〜10、qは0〜50の整数である。)
[6]前記シリコーン化合物(a2)が、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンである、 [5]に記載の硬化性組成物。
[7]前記(B)成分が、骨格中にシロキサン単位およびノルボルネン部位を有する化合物である、[1]〜[6]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[8]前記シロキサン単位が、環状シロキサン単位である、[7]に記載の硬化性組成物。
[9]光学電子材料用硬化性組成物である[1]〜[8]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[10] 電子部品封止材用硬化性組成物である[1]〜[8]のいずれかに記載の硬化性組成物。
[11][1]〜[8]のいずれかに記載の硬化性組成物を熱硬化することにより得られる硬化物。
[12] [9] に記載の硬化物を封止材として含む光学素子。
[13] [9] に記載の硬化物を封止材として含む電子部品。
【発明の効果】
【0017】
本発明の硬化性組成物によれば、青色および白色発光ダイオード等の発光素子、半導体チップの電子部品用封止材などの分野への利用が期待される、耐熱性、ガスバリア性に優れた硬化物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】製造例1で得られたアリル-5-ノルボルネン-2-メチルエーテルの1H−NMRスペクトルである。
【図2】製造例2で得られた5-ノルボルネン-2-カルボン酸-5-ノルボルネニル-2-メチルエステルの1H−NMRスペクトルである。
【図3】製造例3で得られたビス(5-ノルボルネニル-2-メチル)エーテルの1H−NMRスペクトルである。
【図4】合成例1で得られたSi4-NNEs反応物の1H−NMRスペクトルである。
【図5】合成例2で得られたSi4-NNEt反応物の1H−NMRスペクトルである。
【図6】合成例3で得られたSiNA4反応物の1H−NMRスペクトルである。
【図7】合成例4で得られたSiNA4反応物の1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明を具体的に説明する。
〔硬化性組成物〕
本発明の硬化性組成物は、
(A)Si−H基を分子内に2つ以上含む化合物
(B)Si−H基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を分子内に2つ以上含む化合物
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含む。
(A)成分について
本発明における(A)成分は、下記一般式(1)
【0020】
【化5】

(式中R1, R2は、各々独立して水素原子またはメチル基を表す。式中Xは炭素原子数0〜25かつ酸素原子数1〜8を有する基を表す。)
で表される有機化合物(a1)と、Si−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)とを、前記有機化合物(a1)の全炭素−炭素二重結合数をx、前記シリコーン化合物(a2)の全Si−H基数をyとするとき、10≧y/x≧2の範囲となる混合比でヒドロシリル化反応することで得られる、一分子中に2つ以上のSi−H基を含有するヒドロシリル化生成物である。
【0021】
式(1)中の基Xについては、炭素原子数0〜25、酸素原子数1〜8の2価の有機残基であれば特に制限は無く、例えば、エーテル基、ケトン基、エステル基、アミド基、カーボネート基、ウレア基、ウレタン基、シリルエーテル基などを有する残基が挙げられる。これらの内好ましくは、エーテル基、エステル基、カーボネート基を有する残基であり、官能基の安定性からエーテル基を有する残基がさらに好ましい。また、これらの基が共有結合によりつながって、炭素原子数0〜25、酸素原子数1〜8の基を形成していてもよい。R1, R2は、原料の入手の容易さの点では水素原子が好ましい。これらの基を有する有機化合物(a1)の具体例としては、
【0022】
【化6−1】

【0023】
【化6−2】

(式中R、R’は炭素数1〜10の1価の有機基を表し、nは1〜10の整数を表す)
などが挙げられる。nが1〜10の範囲のものは原料として入手しやすく、また、炭化水素鎖が長すぎるとガスバリア性が低下する。基Xに不対電子を有する酸素原子を含むことで分子間相互作用が生じ、その結果、本組成物から得られる硬化物のガスバリア性が向上すると考えられる。基X中には炭素−炭素二重結合を含むことができる。基X中に含まれる炭素−炭素二重結合は上記例示したいくつかの化合物中に含まれるようなノルボルネンの炭素−炭素二重結合であることが好ましい。
【0024】
本発明における(A)成分を調製する際、基質となるSi−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)は、異なるSi原子に水素原子が結合して形成される2つ以上のSi−H基を分子内に含む下記一般式(2)で表される環状シロキサン化合物、または下記一般式(3)で表される鎖状シロキサン化合物であることが好ましい。同一のSi原子に複数の水素原子が結合して形成される複数のSi−H基を分子内に有する場合は、有機化合物(a1)との反応の際の立体障害が大きいため好ましくない。
【0025】
【化7】

(式中、R3、R4、R5は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、mは2〜6、lは0〜10の整数である。)
【0026】
【化8】

(式中、R6、R7、R8、R9は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、pは2〜10、qは0〜50の整数である。)
前記有機基としては、たとえばメチル基、エチル基、ヘキシル基、フェニル基、オクチル基、デシル基等を挙げることができる。
【0027】
またシリコーン化合物(a2)は硬化物の架橋密度を高める目的から、Si−H基の官能基当量が 50〜300g/eqであることが好ましい。Si−H基の官能基当量とは、Si−H基1個あたりのシリコーン化合物の分子量、すなわち、(シリコーン化合物の分子量/Si−H基数)で定義される。またシリコーン化合物(a2)としては、耐熱性の観点からは、メチルヒドロシロキサン化合物を用いることが好ましく、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンが特に好ましい。
【0028】
本発明における(A)成分を調製する際、上記有機化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との混合比率は、有機化合物(a1)の全炭素−炭素二重結合数をx、シリコーン化合物(a2)の全Si−H基数をyとするとき、10≧y/x≧2の範囲であり、より好ましくは8≧y/x≧3 である。y/xが10より大きい場合、シリコーン化合物(a2)の残留が多くなり非効率である。また、y/xの比が2より小さい場合、目的とする化合物を得ることが困難である。ここで、有機化合物(a1)の全炭素−炭素二重結合数xおよびシリコーン化合物(a2)の全Si−H基数yは、各々の化合物の仕込み割合を考慮した数であり、1分子の有機化合物(a1)が有する炭素−炭素二重結合数および1分子のシリコーン化合物(a2)が有するSi−H基数を意味するものではない。一例を挙げると、有機化合物(a1)として炭素−炭素二重結合を2つ有する化合物をtモル、シリコーン化合物(a2)としてSi−H基を2つ有する化合物を2tモル用いる場合、y/xは2である。なお、有機化合物(a1)の全炭素−炭素二重結合数xには、式(1)中の基Xに含まれる炭素−炭素二重結合も含まれる。
【0029】
本発明における(A)成分を調製する際、有機化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との反応に用いるヒドロシリル化触媒は特に限定されず、公知の金属触媒を使用することができる。例えば、白金黒、アルミナ・シリカ・カーボン等の担体に固体白金を担持させた触媒、塩化第2白金、塩化白金酸、白金‐オレフィン錯体、白金‐ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、Karstedt触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒、イリジウム系触媒、ルテニウム系触媒等が挙げられる。
【0030】
本発明における(A)成分を調製する際、前記触媒の添加量は特に限定されないが、十分な反応性を有し、かつ生成物の着色・ゲル化を低く抑えるために、有機化合物(a1)中の炭素−炭素二重結合1モルに対して、10-3〜10-8モルの範囲が好ましく、より好ましくは、10-4〜10-7モルの範囲である。
【0031】
本発明における(A)成分を調製する際の上記反応の反応温度は、原料とする有機化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との反応性、用いる溶媒などによっても異なるため特に限定されないが、反応速度が十分大きくなり、且つ望まない副反応を抑制するためには、40℃〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは、60℃〜120℃の範囲である。反応温度が40℃を下回ると、効率的に反応が進行せず、また150℃を上回ると、残存するSi−H基の副反応によりゲル化する可能性がある。
【0032】
本発明における(A)成分を調製する際に、原料であるシリコーン化合物(a2)の副反応を抑制するために、溶媒を用いることが好ましい。用いる溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒等が挙げられる。これらのうち、基質の溶解性の点から、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサンを用いるのが特に好ましい。また、これらの溶媒は単独で使用してもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
本発明における(A)成分を調製する際の上記反応の反応時間は、原料とする有機化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)の反応性、反応温度などによっても異なるため特に限定されないが、転化率を十分大きくするためには、1時間〜12時間の範囲とすることが好ましい。反応時間が1時間未満の場合、未反応原料が残存することがあり、また12時間以上反応させたとしても、原料の転化率が効率的に上昇しない場合が多い。
【0034】
本発明における(A)成分を調製する際の反応雰囲気は、窒素・アルゴン等の不活性ガス雰囲気下でも、空気下でも良いが、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、より好ましくは窒素雰囲気である。
【0035】
本発明における(A)成分を調製する際の有機化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との反応方法は、原料であるシリコーン化合物(a2)の副反応を抑制するために、シリコーン化合物(a2)に対し、有機化合物(a1)と触媒とを溶媒で希釈した溶液を滴下する方法が好ましい。シリコーン化合物(a2)と触媒とを共存させた場合、脱水素反応により、シリコーン化合物(a2)のゲル化が進行する可能性がある。
【0036】
本発明における(A)成分を調製する際、上記反応液から溶媒や残存シリコーン化合物を留去して目的物を得る。このとき、溶媒や残存シリコーン化合物を留去するのに先立ち、ヒドロシリル化反応の際に用いた触媒成分を低減させておくことが、副反応抑制の観点から好ましい。ヒドロシリル化反応の際に用いた触媒成分を低減させる方法としては、例えば、活性炭・セライト・シリカゲル・アルミナ等の吸着剤を反応液に通すことにより、触媒成分を吸着除去する方法などが挙げられる。
【0037】
本発明における(A)成分の貯蔵安定性を高めるために、反応終了後に硬化遅延剤を反応液に添加しても良い。硬化遅延剤としては、例えば、トリフェニルホスフィンなどの有機リン化合物、ベンゾチアゾールなどの有機硫黄化合物、1−エチニルシクロヘキサノールなどの不飽和結合を有する化合物などが挙げられる。
【0038】
硬化遅延剤の添加量は、使用するヒドロシリル化触媒1モルに対し、1〜100モルの範囲が好ましい。
本発明における(A)成分としては、5−ノルボルネン−2−カルボン酸−5−ノルボルネニル−2−メチルエステルまたはビス(5−ノルボルネニル−2−メチル)エーテルと、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンとをヒドロシリル化することで得られる化合物が合成の容易さの点から好ましい。
(B)成分について
本発明の(B)成分は、上記(A)成分中のSi−H基との反応性を有する炭素−炭素二重結合を分子内に2つ以上含む化合物であれば特に限定されるものではないが、耐熱性の観点から、ノルボルネン部位に含まれる炭素−炭素二重結合を前記炭素−炭素二重結合として含む化合物であることが好ましい。
【0039】
本発明の(B)成分は、(A)成分との相溶性の観点から、骨格中にシロキサン単位を含むものが好ましい。そのような化合物は、例えば、Si−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物に対し、Si−H基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を分子内に2つ以上含む化合物をヒドロシリル化することにより調製することができる。
【0040】
上記(B)成分を調製する際に用いる、炭素−炭素二重結合を分子内に2つ以上含む化合物としては、生成物の高分子量化を抑えるために、ヒドロシリル化に対する反応性が異なる2つ以上の炭素−炭素二重結合を含むものを用いるのが好ましい。そのような化合物としては、ノルボルネン部位と、アリル基やビニル基等の炭素−炭素二重結合を有する化合物であり、例えばアリル−5−ノルボルネン−2−メチルエーテルおよび2−ビニル−5−ノルボルネンが挙げられる。
【0041】
本発明における(B)成分としては、好ましくは、環状シロキサン単位とノルボルネン部位を有する化合物であり、具体的にはアリル−5−ノルボルネン−2−メチルエーテルと、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンとをヒドロシリル化することで得られる化合物が挙げられる。両者のヒドロシリル化反応においてはアリル−5−ノルボルネン−2−メチルエーテルのアリル基が優先的に1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンのSi−H基とヒドロシリル化反応し、ノルボルネン部位の炭素−炭素二重結合は一般に残存する。1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン1分子にアリル−5−ノルボルネン−2−メチルエーテルが2分子以上反応し、その結果ノルボルネン部位の炭素−炭素二重結合を2つ以上有する(B)成分が得られる。
【0042】
本発明の組成物における(B)成分の配合量は、硬化物に十分な硬度をもたせるために、(A)成分中のSi−H基1モルに対して、(B)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合が 0.3〜2.0モル、好ましくは0.5〜1.2モルの範囲とすることが好ましい。
【0043】
(C)成分について
本発明における(C)成分であるヒドロシリル化反応触媒は特に限定されず、公知の金属触媒を使用することができる。例えば、白金黒、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させた触媒、塩化第2白金、塩化白金酸、白金‐オレフィン錯体、白金‐ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、Karstedt触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒、イリジウム系触媒、ルテニウム系触媒等が挙げられる。
【0044】
本発明における(C)成分の添加量は特に限定されないが、十分な反応性を有し、かつ硬化物の着色を低く抑えるために、(B)成分中の炭素−炭素二重結合1モルに対して、10-3〜10-7モルの範囲が好ましく、より好ましくは、10-4〜10-6モルの範囲である。
【0045】
なお、本発明の(A)成分および前述の好ましい(B)成分中に、調製の際に用いたヒドロシリル化反応触媒が残存する場合には、その残存量が上記範囲内であれば、新たに触媒を追加しなくとも硬化させることができる。
【0046】
本発明の硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分を混合することにより調製することができる。
本発明の硬化性組成物は、後述のように、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れた硬化物を形成することができ、さらには耐熱性にも優れた硬化物を形成することができるので、特に光学電子材料用硬化性組成物および電子部品封止材用硬化性組成物等として有用である。
【0047】
〔硬化物〕
本発明の硬化物は、上記硬化性組成物を熱硬化させることにより作製することができる。
【0048】
上記硬化性組成物を熱硬化させる条件としては特に限定はされないが、一般的には、温度60〜150℃、時間1〜8時間の条件とするのが好ましい。
本発明の硬化物は、1mm厚における40℃、1気圧での透湿度が2.0 g/m2・24hr 以下であることが好ましい。前記透湿度が2.0 g/m2・24hr 以下であると、封止材を通り抜けた水蒸気による無機蛍光体の劣化が十分に遅くなると考えられる。
【0049】
また、本発明の硬化物は、1mm厚における40℃での酸素透過度が600 cc/m2・24hr・atm 以下であることが好ましい。前記酸素透過度が600 cc/m2・24hr・atm 以下であると、封止材を通り抜けた酸素による基板表面の銀メッキの酸化が十分遅くなると考えられる。
【0050】
本発明の硬化物は、光学電子用封止材および半導体等の電子回路用封止材などの封止材として好適に利用でき、これらの封止材を含んだ有用な光学素子および電子部品を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
【0052】
製造例1
アリル-5-ノルボルネン-2-メチルエーテルの合成
滴下漏斗、三方コック、玉栓を付け、十分に乾燥させ窒素置換した300mLの三口フラスコに、50%含油の水素化ナトリウム(油性、和光純薬工業(株)製、純度50〜72%)17.9g (0.37mol) を入れた。前記滴下漏斗にモレキュラーシーブスで乾燥させたテトラヒドロフラン(THF) 20mLを入れ、窒素気流下で系を氷浴で冷却しつつ15分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下漏斗に 5-ノルボルネン-2-メタノール 30.8g (0.25mol)、脱水THF 50mLを入れ、系を氷浴で冷却しつつ90分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後氷浴から水浴に代え徐々に昇温しながら、さらに4時間撹拌を継続した。その後滴下漏斗に水 100mL を入れ、氷浴で冷却しつつ15分かけて三口フラスコ内に滴下し反応をクエンチした。再び水浴に代え、徐々に昇温しつつ発熱が治まるまで反応液を撹拌した。得られた反応物の水層を分液漏斗で分離した後、有機層から溶媒を留去させ、残存物に酢酸エチル 50mL を加えた。この液体を水 100mL、飽和塩化ナトリウム水溶液 100mLで洗浄後、再び溶媒留去することで 46.0gの粗生成物を褐色液体として得た。この褐色液体をシリカゲル(関東化学(株)製、60N、中性)を用いたカラムクロマトグラフィー (展開溶媒:ヘキサンと酢酸エチルの10:1(容量比)混合溶液) により精製することで、42.1g のアリル-5-ノルボルネン-2-メチルエーテルを無色透明液体として得た (収率 100%)。図1はその1H−NMRスペクトルである。図1示した構造式に付された(a)等の符号が示す位置の水素原子に対応するピークに、その符号と同じ符号が付されている。図2以降も同様である。
【0053】
【化9】

製造例2
5-ノルボルネン-2-カルボン酸-5-ノルボルネニル-2-メチルエステルの合成
ディーン・スターク還流脱水装置を付けた500mLのナスフラスコに、5-ノルボルネン-2-カルボン酸 20g (145mmol)、5-ノルボルネン-2-メタノール 18g (145mmol)、p-トルエンスルホン酸 0.24g (1.39mmol)、トルエン 20g を入れた。系をオイルバスで135℃まで加熱し、10時間還流を続けた。還流終了後、反応液を炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した後、水で洗浄した。エバポレーターを用いて溶媒留去し、得られた粗生成物をシリカゲル(関東化学(株)製、60N、中性)を用いたカラムクロマトグラフィー (展開溶媒:ヘキサン) で精製することにより、15.1g の 5-ノルボルネン-2-カルボン酸-5-ノルボルネニル-2-メチルエステルを白色固体として得た (収率 43%)。図2はその1H−NMRスペクトルである。
【0054】
【化10】

製造例3
ビス(5-ノルボルネニル-2-メチル)エーテルの合成
100mLのオートクレーブに、ジシクロペンタジエン 48.5g (0.37mol)、ジアリルエーテル 40g (0.41mol) を入れ、オートクレーブ内を窒素で置換した。系を密閉し、200℃で9時間撹拌を継続した。得られた反応混合物に対し、シリカゲル(関東化学(株)製、60N、中性)を用いたカラムクロマトグラフィー(ヘキサンで展開後、溶媒を酢酸エチルに変えて再展開) をおこなうことで無極性副生成物を除いた。溶媒留去し、精密蒸留をおこなうことで、25.2g の ビス(5-ノルボルネニル-2-メチル)エーテルを白色固体として得た (収率 30%)。図3はその1H−NMRスペクトルである。
【0055】
【化11】

合成例1
Si4-NNEs反応物((A)成分)の調製
滴下漏斗、還流管、温度計を付けた100mLの三口フラスコに 1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン 8.86g (36.8mmol)、トルエン 9g を入れ、三口フラスコ内を窒素置換した。前記滴下漏斗に製造例2で得られた5-ノルボルネン-2-カルボン酸-5-ノルボルネニル-2-メチルエステル 3.0g (12.3mmol)、Pt(dvs)の3%IPA溶液(エヌ・イー ケムキャット社製 3%-PT-VTS-IPA溶液(ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体イソプロピルアルコール溶液)) 3mg、トルエン 6gの混合溶液を入れ、80℃で30分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、系を100℃に昇温しさらに3時間撹拌を継続した。系を室温まで冷却した後、反応液に窒素気流下150℃で3時間加熱乾燥させた活性炭 15g を加え、15時間撹拌を継続した。この反応液にゲル化防止剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール 6mgを加え、ろ過した後に真空乾燥させることで 6.7g の無色透明液体を得た。図4はその1H−NMRスペクトルである。得られた反応混合物(以下、Si4-NNEs反応物と記載)は、主成分として、5-ノルボルネン-2-カルボン酸-5-ノルボルネニル-2-メチルエステル中の二箇所の炭素−炭素二重結合が、それぞれ一分子の1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンと反応した以下の化合物(Si4-NNEs)を含む。Si4-NNEs反応物のSi−H当量を反応の転化率より算出したところ、135g/eqであった。
【0056】
【化12】

合成例2
Si4-NNEt反応物((A)成分)の調製
滴下漏斗、還流管、温度計を付けた100mLの三口フラスコに 1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン 5.34g (22.2mmol)、トルエン 5g を入れ、三口フラスコ内を窒素置換した。前記滴下漏斗に製造例3で得られたビス(5-ノルボルネニル-2-メチル)エーテル 1.7g (7.4mmol)、Pt(dvs)の3%IPA溶液(エヌ・イー ケムキャット社製 3%-PT-VTS-IPA溶液(ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体イソプロピルアルコール溶液))2mg、トルエン 4gの混合溶液を入れ、60℃で30分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、系を120℃に昇温しさらに4時間撹拌を継続した。系を室温まで冷却した後、反応液に窒素気流下150℃で3時間加熱乾燥させた活性炭 10g を加え、15時間撹拌を継続した。この反応液にゲル化防止剤としてトリフェニルホスフィン 10mgを加え、ろ過した後に真空乾燥させることで 4.0g の無色透明液体を得た。図5はその1H−NMRスペクトルである。得られた反応混合物(以下、Si4-NNEt反応物と記載)は、主成分として、ビス(5-ノルボルネニル-2-メチル)エーテル中の二箇所の炭素−炭素二重結合が、それぞれ一分子の1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンと反応した以下の化合物(Si4-NNEt)を含む。Si4-NNEt反応物のSi−H当量を反応の転化率より算出したところ、139g/eqであった。
【0057】
【化13】

合成例3
SiNA4反応物((B)成分)の調製
滴下漏斗、還流管、温度計を付けた300mLの三口フラスコに製造例1で得られたアリル-5-ノルボルネン-2-メチルエーテル 20g (0.12mol)、Pt(dvs)の3%IPA溶液(エヌ・イー ケムキャット社製 3%-PT-VTS-IPA溶液(ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体イソプロピルアルコール溶液))71mg、トルエン 25g を入れ、三口フラスコ内を窒素置換した。前記滴下漏斗に 1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン 6.73g (28mmol)、トルエン 20g を入れ、60℃で1.5時間かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、系を100℃に昇温してさらに4時間撹拌を継続した。系を室温まで冷却した後、反応液に窒素気流下150℃で3時間加熱乾燥させた活性炭 10g を加え、15時間撹拌を継続した。この反応液にゲル化防止剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノール 6mgを加え、ろ過した後に真空乾燥させることで 15.1g の無色透明液体を得た。図6はその1H−NMRスペクトルである。得られた反応混合物(以下、SiNA4反応物と記載)は、主成分として、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン中の四箇所のSi−H基が、それぞれ一分子のアリル-5-ノルボルネン-2-メチルエーテルのアリル基と反応した以下の化合物(SiNA4)を含む。SiNA4反応物のオレフィン当量を反応の転化率より算出したところ、236g/eqであった。
【0058】
【化14】

合成例4((B)成分)
SiNV反応物((B)成分)の調製
還流管、滴下漏斗、温度計を付けた300mLの三口フラスコに2-ビニル-5-ノルボルネン 25g (0.21mol)、Pt(dvs)の3%IPA溶液(エヌ・イー ケムキャット社製 3%-PT-VTS-IPA溶液(ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体イソプロピルアルコール溶液))11mg、トルエン25g を入れた。前記滴下漏斗に 1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン 10g (41.6mmol)、トルエン 10g を入れ、65℃で90分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、系を120℃まで昇温しさらに4時間撹拌を継続した。系を室温まで冷却した後、反応液に水酸化ナトリウムの5%MeOH溶液 4.2g を加え、室温で2時間撹拌を続けた。この反応液にエチレンクロロヒドリン 3.75g を加え、温度を75℃に昇温して2時間撹拌を継続した。この反応液を室温まで冷却した後、活性炭 0.5g を加え4時間撹拌を続けた。反応液をセライト(和光純薬工業(株)製)を用いてろ過し、溶媒留去することにより、24.9gの無色透明液体を得た。図7はその1H−NMRスペクトルである。得られた反応混合物(以下、SiNV反応物と記載)は、主成分として、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン中の四箇所のSi−H基が、それぞれ一分子の2-ビニル-5-ノルボルネンのビニル基と反応した以下の化合物(SiNV)を含む。SiNV反応物のオレフィン当量を反応の転化率より算出したところ、203g/eqであった。
【0059】
【化15】

比較合成例1((A’)成分)
TVCH反応物((A’)成分)の調製
滴下漏斗、温度計、玉栓を付けた200mLの三口フラスコに1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン 33.4g (139mmol)、トルエン 30g を入れ、三口フラスコ内を窒素置換した。前記滴下漏斗に 1,2,4-トリビニルシクロヘキサン 5g (30.8mmol)、Pt(dvs)の3%IPA溶液(エヌ・イー ケムキャット社製 3%-PT-VTS-IPA溶液(ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体イソプロピルアルコール溶液))8mg、トルエン 15g を入れ、60℃で60分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、60℃でさらに4時間撹拌を継続した。系を室温まで冷却した後、反応液に窒素気流下150℃で3時間加熱乾燥させた活性炭 20g を加え、15時間撹拌を継続した。この反応液にゲル化防止剤として1-エチニル-1-シクロヘキサノールを加え、ろ過した後に真空乾燥させることで 20.6g の無色透明液体を得た。得られた反応混合物(以下、TVCH反応物と記載)は、主成分として、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン中の三箇所のビニル基が、それぞれ一分子の1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンの1つのSi―H基と反応した以下の化合物(TVCH)を含む。TVCH反応物のSi−H当量を反応の転化率より算出したところ、109g/eqであった。
【0060】
【化16】

硬化物の作成
実施例1
Si4-NNEs樹脂の作成
(A)成分として合成例1で得られた Si4-NNEs反応物 32質量部と、(B)成分として合成例3で得られたSiNA4反応物 68質量部とを均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。このとき、硬化性組成物中に含まれる(C)成分量は、(B)成分中の炭素−炭素二重結合1モルに対して9×10-6モルであった。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、70℃−1時間、80℃−1時間、90℃−1時間、120℃−1時間、150℃−1時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
【0061】
実施例2
Si4-NNEt樹脂の作成
(A)成分として合成例2で得られたSi4-NNEt反応物35質量部と、(B)成分として合成例3で得られたSiNA4反応物65質量部とを均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。このとき、硬化性組成物中に含まれる(C)成分量は、(B)成分中の炭素−炭素二重結合1モルに対して9×10-6モルであった。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、70℃−1時間、80℃−1時間、90℃−1時間、120℃−1時間、150℃−1時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
【0062】
実施例3
(A)成分として合成例1で得られた Si4-NNEs反応物 71質量部と、(B)成分として1,2,4-トリビニルシクロヘキサン(TVC) 29質量部とを均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。このとき、硬化性組成物中に含まれる(C)成分量は、(B)成分中の炭素−炭素二重結合1モルに対して1×10-6モルであった。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、70℃−1時間、80℃−1時間、90℃−1時間、120℃−1時間、150℃−1時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
【0063】
比較例1
TVCH樹脂の作成
(A’)成分として比較合成例1で得られた TVCH反応物67質量部と、(B)成分として1,2,4-トリビニルシクロヘキサン(TVC) 33質量部とを均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。このとき、硬化性組成物中に含まれる(C)成分量は、(B)成分中の炭素−炭素二重結合1モルに対して1×10-6モルであった。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、70℃−1時間、80℃−1時間、90℃−1時間、120℃−1時間、150℃−1時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
【0064】
比較例2
SiNV樹脂の作成
(A’)成分として 1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(LS-8600) 23質量部と、(B)成分として合成例4で得られたSiNV反応物77質量部とを均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。このとき、硬化性組成物中に含まれる(C)成分量は、(B)成分中の炭素−炭素二重結合1モルに対して5×10-6モルであった。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、70℃−1時間、80℃−1時間、90℃−1時間、120℃−1時間、150℃−1時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
【0065】
比較例3
ジメチルシリコーン樹脂の作成
LPS-3412A (信越化学(株)製) 50質量部と、LPS-3412B (信越化学(株)製) 50質量部とを均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、70℃−1時間、80℃−1時間、90℃−1時間、120℃−1時間、150℃−1時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
【0066】
色調の測定
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々測色色差計(日本電色工業株式会社製、ZE-2000)により透過モードでの CIE1976 L*a*b* 表色系のデータ L*,a*,b* を求めた。
【0067】
透湿度の測定
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々ガス透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR-30XASD)により、40℃、1気圧での透湿度 [g/m2・24hr] を求めた。
【0068】
酸素透過度の測定
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々ガス透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR-30XASD)により、40℃での酸素透過度 [cc/m2・24hr・atm] を求めた。
【0069】
耐熱性の測定
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々測色色差計(日本電色工業株式会社製、ZE-2000)により透過モードでの色数 L*,a*,b* を測定した。次に該硬化物を150度の回転ギア付きオーブンに入れ、100時間加熱した後の硬化物の色数 L*,a*,b*を測定した。加熱前後の色差ΔEを求めた。
【0070】
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた硬化板を用いて測定した上記特性値を表1にまとめて記した。
【0071】
【表1】

実施例1,2の透湿度、酸素透過度、ΔE値はいずれも比較例1,2に比べて小さく、耐熱性、水蒸気バリア性、酸素バリア性に優れた硬化物を与えることが分かる。実施例3では(B)成分としてノルボルネン骨格を有さない材料を使用しているため耐熱性にはやや劣るが、酸素透過度は比較例1,2に比べて小さく、水蒸気バリア性も実施例1に比べて大きな遜色はないレベルであった。比較例3は従来のシリコーン樹脂の一例であるジメチルシリコーン樹脂を同様に評価した結果であり、耐熱性は良好であるが実施例1〜3と比較して著しく水蒸気バリア性、酸素バリア性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、青色・白色発光ダイオード等の光学電子用封止材、半導体等の電子回路用封止材などの分野への利用が期待される、耐熱性、ガスバリア性に優れた硬化物を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Si−H基を分子内に2つ以上含む化合物
(B)Si−H基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を分子内に2つ以上含む化合物
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含む硬化性組成物であって、
前記(A)成分が、下記一般式(1)
【化17】

(式中R1, R2は、各々独立して水素原子またはメチル基を表す。式中Xは炭素原子数0〜25かつ酸素原子数1〜8を有する基を表す。)
で表される有機化合物(a1)と、Si−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)とを、前記有機化合物(a1)の全炭素−炭素二重結合数をx、前記シリコーン化合物(a2)の全Si−H基数をyとするとき、10≧y/x≧2の範囲となる混合比でヒドロシリル化反応することで得られる化合物であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)中のXがエーテル結合またはエステル結合を有する基である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記有機化合物(a1)が、5−ノルボルネン−2−カルボン酸−5−ノルボルネニル−2−メチルエステルである、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記有機化合物(a1)が、ビス(5−ノルボルネニル−2−メチル)エーテルである、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記シリコーン化合物(a2)が、下記一般式(2)で表される環状シロキサン化合物、または下記一般式(3)で表される鎖状シロキサン化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【化18】

(式中、R3、R4、R5は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、mは2〜6、lは0〜10の整数である。)
【化19】

(式中、R6、R7、R8、R9は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、pは2〜10、qは0〜50の整数である。)
【請求項6】
前記シリコーン化合物(a2)が、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンである、請求項5に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記(B)成分が、骨格中にシロキサン単位およびノルボルネン部位を有する化合物である、請求項1〜6のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記シロキサン単位が、環状シロキサン単位である、請求項7に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
光学電子材料用硬化性組成物である請求項1〜8のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項10】
電子部品封止材用硬化性組成物である請求項1〜8のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の硬化性組成物を熱硬化することにより得られる硬化物。
【請求項12】
請求項9に記載の硬化物を封止材として含む光学素子。
【請求項13】
請求項9に記載の硬化物を封止材として含む電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−111523(P2011−111523A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268717(P2009−268717)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】