説明

磁性膜の製造方法及びこれを用いた磁気デバイス

【課題】加熱処理温度をできるだけ抑えてL10型の規則相を有するFePtからなる磁性膜を製造する方法、及びこの磁性膜を用いた磁気デバイスを提供する。
【解決手段】Feを主成分とする層3aと、Ptを主成分とする層3bとを交互に積層し、(110)配向させて成膜する成膜工程と、前記Feを主成分とする層3aと前記Ptを主成分とする層3bを加熱し、前記Feを主成分とする層と前記Ptを主成分とする層との界面においてFeとPtとを拡散させ、L10型に規則化させる加熱工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
L10型の規則相を有するFePtからなる磁性膜の製造方法、及びこの磁性膜を用いた磁気ヘッド等の磁気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置に搭載されている磁気ヘッドにおいては、磁気ディスクの高記録密度化にともない、磁気再生ヘッドの狭リードギャップ化が必須である。磁気再生ヘッドは、磁化自由層のリファレンス層として磁化固定層を有する。この磁化固定層は磁化を一方向に固定した層であり、磁化方向を固定するために、反強磁性層と強磁性層とを積層し、交換異方性を利用する方法がなされている。一般に、交換異方性を発現するには、反強磁性層の膜厚は5nm以上必要であり、反強磁性層は磁気再生ヘッドにおいて最も厚い膜厚を占めている。
【0003】
したがって、磁気再生ヘッドを狭リードギャップにするには、反強磁性層の膜厚を薄くするか、もしくは反強磁性層を排除することが有効である。反強磁性層を排除して磁気抵抗効果膜を形成する方法として、磁化固定層として硬磁性層を用いる、いわゆる保磁力差型の磁気抵抗素子が知られている。
硬磁性層を用いて狭ギャップ化を実現するには、硬磁性層の厚さを3nm以下にする必要がある。また、磁化固定層の磁化方向を安定させて固定するには、10kOe以上の大きな保磁力を備えることが求められる。
【0004】
一般に、保磁力は磁気異方性エネルギーと相関があり、大きな保磁力を得るためには大きな磁気異方性エネルギーを持つ材料を選択し、さらに磁気再生ヘッドの磁化固定層として適用するために、磁化容易軸方向が磁性層の面内に向くように制御する必要がある。
L10型の規則相を有するFePtは、7×107erg/cm3という大きな一軸磁気異方性エネルギーを有することから、次世代の磁気記録媒体材料として注目されている。このL10型の規則相を有するFePtを使用すれば、3nm以下といった薄い膜厚で、10kOe以上の大きな保磁力を得ることが可能である。
【0005】
【非特許文献1】T.Seki et al.,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 100,043915(2006)
【非特許文献2】T.Maeda et al.,Appl.Phys.Lett.80,2147(2002).
【非特許文献3】H.Zhao et al.,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 102,023909(2007)
【特許文献1】特開2000−276714号公報
【特許文献2】特開2007−299880号公報
【特許文献3】特開2003−272944号公報
【特許文献4】特開2004−11050号公報
【特許文献5】特開2006−236486号公報
【特許文献6】特開2006−344336号公報
【特許文献7】国際公開第2002/541671
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、FePtをL10型に規則化させる方法として、FePtを成膜するときの基板温度や、成膜した後の熱処理温度を300℃以上に加熱して規則化する方法が知られている。しかしながら、磁気ヘッド等の磁気デバイスの製造工程において300℃程度以上に加熱して処理すると、あらかじめ設定されている磁性層の磁化方向を乱し、磁気ヘッドとして所定の特性が得られなくなるという製造上の問題がある。
したがって、磁気再生ヘッドをはじめとする磁気デバイスへの適用を考慮すると、加熱温度を300℃程度以下に抑えた条件下でFePtをL10型に規則化できるようにする必要がある。同様に、磁気デバイスへの適用を考慮すると、非単結晶基板上に成膜して磁化容易軸方向が膜面内となるようにすることも求められる。
【0007】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、加熱処理温度をできるだけ抑えてL10型の規則相を有するFePtからなる磁性膜を製造する方法、及びこの磁性膜を用いた磁気デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一観点によれば、Feを主成分とする層と、Ptを主成分とする層とを交互に積層し、(110)配向させて成膜する成膜工程と、前記Feを主成分とする層と前記Ptを主成分とする層を加熱し、前記Feを主成分とする層と前記Ptを主成分とする層との界面においてFeとPtとを拡散させ、L10型に規則化させる加熱工程と、を有する磁性膜の製造方法が提供される。
また、磁化方向が固定した硬磁性膜として、Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層と、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層とが積層され、前記Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層と、前記Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層との界面においてFeとPtとが拡散し、L10型に規則化され、(110)配向膜として形成されている磁性膜を備える磁気デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る磁性膜の製造方法によれば、Feを主成分とする層と、Ptを主成分とする層とを交互に積層し、(110)配向させて成膜することにより、膜面内に磁化容易軸方向が位置するL10規格相を有するFePtからなる磁性膜が得られる。L10規格相を有するFePtからなる磁性膜は、大きな保磁力を有し、磁気再生ヘッド等の磁気デバイスを構成する硬磁性層として有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(磁性膜の製造方法)
L10型の規則相を有するFePtからなる磁性層は大きな保磁力を有することから、磁気再生ヘッド等の磁気デバイスの硬磁性層として有効に利用することができる。
このL10型の規則相を有するFePtからなる磁性層を、磁気再生ヘッドの硬磁性層として使用する場合は、磁性層の磁化容易軸方向が膜面内に向く必要がある。膜面内に磁化容易軸方向が向くようにするには、FePt膜を(110)配向させて成膜する必要がある。
【0011】
FePt膜を(110)配向するように成膜するには、例として、CrもしくはFe、もしくはこれらの合金を、微量酸素もしくは窒素添加スパッタリング法により成膜した下地層の上にFePt膜を成膜すればよい。微量酸素もしくは窒素を添加した反応性スパッタリング法によれば、成膜面の表面エネルギーの制御が可能となり、非単結晶基板上においても結晶構造が体心立方格子である下地層は(211)配向する。下地層を(211)配向膜として形成すれば、その上に成膜されるFePt膜は(110)配向する。
なお、L10型の規則相とは、格子の各頂点と格子外面の6面のうちの2面の中央にFe原子が位置し、残りの4面の中央にPt原子が位置する配置のことである。
【0012】
本発明においては、基板上にL10型の規則相を有するFePt膜を形成する方法として、Feを主成分とする膜とPtを主成分とする膜を交互に積層し、加熱して規則化させる方法を利用する。
原子拡散現象によって規則化させるに必要な熱エネルギー(温度)を低減させるには、規則化に必要な原子拡散距離を低減させることが有効である。本発明においては、その方策としてFeを主成分とする膜とPtを主成分とする膜を交互に積層し、厚さ方向に周期構造を持たせた多層膜構造とすることによって、規則化に必要な拡散距離を低減化させ、規則化に必要な加熱温度を低くする。
【0013】
また、規則化するための温度を低くする方策として、FePt単層膜で有効とされたCuやAgといった第三元素を添加する方法を利用する。本発明においては、貴金属元素の類似性からPt膜についてAgを添加することとする。Ag添加量は5 at.%以上から30 at.%以下の範囲、好ましくは10 at.%以上から25 at.%以下の範囲である。これはAgの添加量が多すぎると母相となるL10型FePt相の量が減少すること、Agの添加量が少なすぎると規則化温度を低減する効果が得られにくくなるためである。
【0014】
磁性膜の保磁力を増大させるには、一軸磁気異方性エネルギーが大きいこと、ならびに、磁気的に孤立していることが必要となる。磁気的に孤立している状態を促進する添加材料としてはBやCrなどが知られている。本発明においては、最終的に規則相を形成するため、確実に結晶相が得られる5at.%以下の添加量としてFeを主性分とする層にBやCrを添加する。
【0015】
磁気ヘッドの磁化固定層として使用する磁性膜は、膜厚が3nm以下であることが望ましく、保磁力は10kOe以上であることが望ましい。L10型-FePtの一軸磁気異方向性エネルギーは7×107erg/cm3、飽和磁化値が1100emu/cm3であることから、理論的に予想される最大の保磁力は50kOeであり、膜厚3nmとして、保磁力10kOeは十分実現可能な値である。
磁性材にBやCr、Agといった元素を添加すると一般に飽和磁化値が低下するから、その場合には、一軸磁気異方向性エネルギーが低下しなければ、最大保磁力は更に大きくなる。
ここで、一軸磁気異方向性エネルギーをKu、飽和磁化をMs、異方性磁界をHk、保磁力をHcとすると、面内磁化膜では保磁力の最大値はHc/Hk〜0.4で記述されることが一般に知られている。Hk=2Ku/MsであることからHc/Hk=0.4として上記の最大値を算出した。
【0016】
(磁性膜の規則化について)
図1は、基板1に下地層2を成膜し、下地層2上に、L10型の規則相を有するFePtからなる磁性膜3を形成した状態を示す。
本実施の形態においては、下地層2と磁性膜3をともにスパッタリング法によって形成した。スパッタリング法は磁気ヘッド等を量産する方法として有効である。
基板1には、AlTiC(Al2O3-TiC)基板や、熱酸化膜付Si基板からなる非単結晶基板を用いる。
下地層2は、結晶構造が体心立方格子であるCrもしくはFe、もしくはこれらの合金を、微量酸素もしくは窒素添加スパッタリング法により成膜して形成する。基板1上において、下地層2は(211)配向膜として形成される。下地層2を成膜する際の基板1の温度は、液体窒素温度(77K)、室温、もしくは300℃以下に基板を加熱した温度のいずれでもよい。
【0017】
磁性膜3は、Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層と、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層とを交互に積層した多層膜として形成する。図2に磁性膜3の積層構造例を示す。
図2(a)は、Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層3aと、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層3bとを交互に積層して、磁性膜3を6層構造とした例である。Fe-X層3aとPt-Ag層3bの膜厚は、例えば0.5nmに設定する。Fe-X層3aとPt-Ag層3bは、スパッタリング法によって形成する。スパッタリングに用いる希ガス種にはAr、Kr、Xe、He、Neのいずれを用いてもよい。
【0018】
図2(b)は、Fe-X層(X=B,Cr)(X<5at.%)層3aと、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層3bと、Fe-X層(X=B,Cr)(X<5at.%)層3aをこの順に積層して磁性膜3を3層構造とした例である。Fe-X層3aとPt-Ag層3bの膜厚は、例えば1.0nmに設定する。
図2(c)は、磁性膜3を、Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層3aとPt-Ag(5<Ag<30 at.%)層3bの2層構造とした例である。Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層3aとPt-Ag(5<Ag<30 at.%)層3bの膜厚は、膜厚は例えば1.5nmに設定する。
【0019】
図3は、Fe-X層3aとPt-Ag層3bとからなる多層膜3(図3(a)、(b)、(c))と、FePt単層膜4(図3(d)、(e)、(f))について、L10-FePt規則相へ規則化する過程の模式図を示す。
ここではモデルを単純化するために、FeとPtとの2元合金を考える。多層膜3ではFe-X層3aにBまたはCrが添加され、Pt-Ag層3bにはAgが添加されている。これらの添加元素は、結晶粒界に析出されるため、モデルを単純化しても一般性は失われない。
【0020】
図3(b)、(c)、(e)、(f)は、Fe原子5とPt原子6のモデル図を示したものである。
Fe-X層3aとPt-Ag層3bの多層膜の場合(図3(b)、(c))では、各層が単元素で形成されているから、膜厚方向に周期構造を明瞭にもつ。界面拡散等を考慮すると界面近傍では局所的に規則化していることが予想される。
一方、FePt単層膜(図3(e)、(f))では、Fe原子5とPt原子6とがランダムに存在することから局所的にも規則化していることは考え難い。
【0021】
一般に、熱エネルギーにより形成される規則相は、構成原子の移動により生じる。
構成原子を移動させて規則相を形成させる場合を考えると、ランダムに構成原子が配置した単層膜の場合(図3(e))よりも、構成原子に周期構造をもたせた多層膜(図3(b))の方が、規則化するために要する原子移動距離は小さくなると考えられる。
多層膜として形成した場合は、膜の界面近傍では局所的に規則相に類似する原子配列が実現すると考えられる。多層膜構造である図3(b)、(c)の例では、規則相になるためには、多層膜の点線で囲った範囲で上下の原子が相互拡散するだけでよい(図3(c))。これに対して、単層膜の場合(図3(e)、(f))は、規則相になるためには、ほとんどの原子が拡散、移動しなければならない。
すなわち、原子の拡散現象により規則化する場合は、原子の配列に周期構造をもたせる方が、ランダム構造の場合よりも原子の拡散距離が小さくなり、規則化の点で有利である。したがって、単層膜よりも多層膜とする方が、低いエネルギーで規則化することができ、規則化させるための温度を低くすることが可能であると考えられる。
【0022】
以上の観点より、比較的エネルギーが高いスパッタリング法によって成膜する場合は、0.2nm程度の原子層厚での制御は困難であるが、0.5nm〜1.5nm程度の厚さを制御することは容易である。0.5nm〜1.5nm程度の膜厚は、原子層では2〜5層程度に相当する。したがって、規則化させる温度を低くするために、Fe層とPt層とを積層した周期構造となるように制御することは可能である。
【0023】
磁性膜が大きな保磁力を発現するようにするには、磁性体を磁気的に孤立させる必要がある。本実施形態において、磁性層(Fe層)にBあるいはCrを添加しているのは、Feを磁気的に孤立させる状態を形成するためである。ただし、磁性膜は規則相に形成するから、これらの添加量は制限される。BあるいはCrの添加量は、確実に結晶相が得られる5at.%以下とするのがよい。これ以上の添加量とすると、アモルファス構造が形成されやすくなる。
【0024】
(磁性膜の製造例)
次に、L10型の規則相を有するFePt磁性膜の製造例を示す。磁性膜を成膜する基板として、熱酸化膜付Si基板を使用する。この基板上に、磁気シールドを兼ねる電極材料としてNiFe層を成膜し、このNiFe層に、以下のような膜構造としてL10-FePt膜を形成する。
基板/電極/Ta(1nm)/Cr(2nm)/Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)(0.5nm)/Pt-Ag(0.5nm)/Fe-X
(X=B,Cr)(X<5at.%)(0.5nm)/Pt-Ag(0.5nm)/Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)(0.5nm)
/Pt-Ag(0.5nm)/Ta(1nm)
【0025】
電極上に形成するTaは、電極の結晶情報をリセットするためのシード層である。
次に、微量酸素添加スパッタリング法により、室温でCrを成膜する。このCr層がL10-FePt膜の下地層である。
下地層を形成した後、基板を300℃まで加熱し、基板を加熱した状態で、Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層とPt-Ag(5<Ag<30 at.%)層とを交互に成膜する。この成膜には、スパッタリングターゲットにFe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)合金と、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)合金を用いて、DCまたはRFマグネトロンスパッタリング法により作製する方法、Fe、X、Pt、Ag単体ターゲットを使用し、同時放電により所望の合金組成に制御したDCまたはRFマグネトロンスパッタリング法により作製する方法のいずれも可能である。
【0026】
このように基板を300℃に加熱した状態でFe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層とPt-Ag(5<Ag<30 at.%)層とを交互に成膜することにより、Fe層にPt層が拡散し、L10型の規則相を有するFePtからなる磁性膜が形成される。下地層のCr層が(211)配向膜として形成されることによって、その上に積層されるFe-X層とPt-Ag層からなる磁性膜は(110)配向となり、磁化容易軸が面内方向に向くようになる。
なお、Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層とPt-Ag(5<Ag<30 at.%)層の膜厚は必ずしも、等しくする必要はない。
また、本実施形態においては、基板を加熱する温度を300℃としてFe層とPt層とを交互に成膜したが、Fe-X層とPt-Ag層の多層膜を室温にて成膜した後、大気開放することなく、熱処理温度300℃以下で真空中加熱を施す方法、あるいは大気解放後に、熱処理温度300℃以下で熱処理を施す方法によることも可能である。
【0027】
(磁気抵抗素子)
図4、5、6、7に、L10型の規則相を有するFePtからなる磁性膜を利用した磁気デバイスの例として、磁気抵抗効果素子を形成した例を示す。
なお、図4〜7において、同一の構成層については、同一の番号を付している。
図4に示す磁気抵抗効果素子10は、下部シールド層21、下地層22、硬磁性層23、トンネルバリア層もしくはスペーサー層27、磁化自由層28、キャップ層29、上部シールド層30からなる。なお、下部シールド層21は下部電極を兼ね、上部シールド層30は上部電極を兼ねる。
【0028】
これらの磁気抵抗効果素子10を形成する各層は、スパッタリング法により順次成膜して積層形成する。
下部シールド層21には、軟磁性材料としてたとえばNiFeを使用する。下地層22には、TaとCrを積層して形成する。Cr層は硬磁性層23の下地層となるものであり、硬磁性層23を(110)方向に結晶配向させるために設けている。Cr層を成膜する際には、(211)配向膜を得るために、微量酸素もしくは窒素添加スパッタリング法を用いる。
【0029】
硬磁性層23は、Fe-X層(X=B,Cr)(X<5at.%)層とPt-Ag(5<Ag<30 at.%)層とを積層した多層膜構造により、全厚が3.0nm以下に形成する。前述したように、基板温度を300℃とし、Fe-X層とPt-Ag層とを交互に積層して形成する。
【0030】
トンネルバリア層もしくはスペーサー層27には、たとえばMgOやCuを形成する。
磁化自由層28は、CoFe、CoFeB、Ta、NiFeの4層構造とした。磁化自由層28はNiFeの単層構造とすることも可能である。
キャップ層29は、保護層として作用するものであり、TaとRuの2層構造とした。上部シールド層30は、下部シールド層21と同様にNiFeによって形成した。
【0031】
本実施形態の磁気抵抗効果素子10においては、L10型規則相を有するFePtからなる(110)配向膜を硬磁性層23としたことによって、成膜面内に磁化容易軸方向が向き、かつ保磁力の大きな磁性層として形成され、磁化自由層28に対するリファレンス層として作用する。硬磁性層23の膜厚が3nm以下と薄いこと、磁化固定層の磁化方向を固定するための反強磁性層を備えないことから、磁気再生ヘッドの狭リードギャップ化を図ることができる。
【0032】
図5に示す磁気抵抗効果素子11は、下層側から、下部シールド層21、下地層22、硬磁性層23、磁化固定層26、トンネルバリア層もしくはスペーサー層27、磁化自由層28、キャップ層29、上部シールド層30からなる。
本実施形態の磁気抵抗効果素子11においては、磁化固定層26を、硬磁性層23に積層して形成している。MR比を向上させるためにスピン分極率の高い材料を磁化固定層26に使用する。磁化固定層26には、CoFeB、CoFe合金やCo基またはFe基ホイスラー合金などを用いることができる。
硬磁性層23に積層して磁化固定層26を形成したことにより、磁化固定層26の磁化方向が硬磁性層23によってより強く固定され、MR比を大きくすることが可能である。
【0033】
図6に示す磁気抵抗効果素子12は、下層側から、下部シールド層21、下地層22、硬磁性層23、反強磁性結合層25、磁化固定層26、トンネルバリア層もしくはスペーサー層27、磁化自由層28、キャップ層29、上部シールド層30からなる。
磁化固定層26は、外部磁界が作用してもできるだけ磁化方向が固定されている必要がある。本実施形態における磁化固定層26は、反強磁性結合層25に積層することによって磁化固定層26の磁化方向をより安定させた構造としている。
反強磁性結合層25としてはRuやCr、Ruを含む合金を用いることができる。
本実施形態においても、硬磁性層23を反強磁性結合層25の下層に配置したことによって、磁化固定層26の磁化方向をさらに強固に固定し、かつMR比を大きくすることが可能となる。
【0034】
図7に示す磁気抵抗素子13は、下層側から、下部シールド層21、下地層22、硬磁性層23、第1の磁化固定層24、反強磁性結合層25、第2の磁化固定層26、トンネルバリア層もしくはスペーサー層27、磁化自由層28、キャップ層29、上部シールド層30からなる。
本実施形態の磁気抵抗効果素子13は、第1の磁化固定層24を、硬磁性層23に積層して形成している。
第1の磁化固定層24としては、Ruと強い交換結合作用を有するCoFeを使用し、反強磁性結合層25にRuもしくはRuを含む合金、第2の磁化固定層26としてCoFeB、CoFe合金やCo基またはFe基ホイスラー合金などを使用する。
本実施形態においても、第1の磁化固定層24の下層に硬磁性層23を配置したことによって、MR比を大きくすることが可能となる。
【0035】
なお、図4〜7に示した磁気抵抗効果素子10、11、12、13は、磁気抵抗効果素子の層構成として典型的な構成を示したものである。磁気抵抗効果素子は、上述した構成以外に種々の層構成とすることが可能である。硬磁性層23については、層構成が上記例とは異なる磁気抵抗効果素子についても同様に適用することができる。
また、磁気抵抗効果素子の各層を構成する材料についても適宜選択可能であり、前述した非磁性材、強磁性材等は一例である。
【0036】
Feを主成分とする層とPtを主成分とする層を積層してL10型としたFePtからなる磁性膜は、上述したように、磁気再生ヘッドの磁性層として利用する他に不揮発性メモリとして利用することも可能である。不揮発性メモリは、トンネルバリア層を挟んで固定磁化層と磁化自由層を配置した磁気トンネル接合(MagneticTunnelJunction)を備える。磁化自由層の磁化方向はビット線によって制御され、磁化自由層の磁化方向によってトンネル磁気抵抗が異なることを利用して記録信号を検出する。磁化自由層の磁化状態を利用することにより不揮発性となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】基板上に磁性膜を形成した状態を示す説明図である。
【図2】磁性膜を多層膜構造に形成した状態を示す断面図である。
【図3】多層膜と単層膜の規則化過程の相異を示す説明図である。
【図4】磁気抵抗素子の層構成を示す説明図である。
【図5】磁気抵抗素子の他の層構成を示す説明図である。
【図6】磁気抵抗素子のさらに他の層構成を示す説明図である。
【図7】磁気抵抗素子のさらに他の層構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
10、11、12、13 磁気抵抗効果素子
21 下部シールド層
22 下地層
23 硬磁性層
24 第1の磁化固定層
25 反強磁性結合層
26 磁化固定層(第2の磁化固定層)
27 スペーサー層
28 磁化自由層
29 キャップ層
30 上部シールド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分とする層と、Ptを主成分とする層とを交互に積層し、(110)配向させて成膜する成膜工程と、
前記Feを主成分とする層と前記Ptを主成分とする層を加熱し、前記Feを主成分とする層と前記Ptを主成分とする層との界面においてFeとPtとを拡散させ、L10型に規則化させる加熱工程と、
を有することを特徴とする磁性膜の製造方法。
【請求項2】
前記Feを主成分とする層として、Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層を成膜することを特徴とする請求項1記載の磁性膜の製造方法。
【請求項3】
前記Ptを主成分とする層として、Agを添加した、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層を成膜することを特徴とする請求項1または2記載の磁性膜の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程においては、300℃を超えない加熱温度に設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の磁性膜の製造方法。
【請求項5】
前記成膜工程の前工程として、磁性膜の下地層として結晶構造が体心立方格子であり、これが(211)配向膜を成膜する工程を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の磁性膜の製造方法。
【請求項6】
前記(211)配向膜を成膜する工程として、CrもしくはFe、もしくはこれらの合金を、微量酸素もしくは窒素添加スパッタリング法により成膜することを特徴とする請求項5記載の磁性膜の製造方法。
【請求項7】
Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層と、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層とが積層され、
前記Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層と、前記Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層との界面においてFeとPtとが拡散し、L10型に規則化され、(110)配向膜として形成されていることを特徴とする磁性膜。
【請求項8】
磁化方向が固定した硬磁性膜として、
Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層と、Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層とが積層され、
前記Fe-X(X=B,Cr)(X<5at.%)層と、前記Pt-Ag(5<Ag<30 at.%)層との界面においてFeとPtとが拡散し、L10型に規則化され、(110)配向膜として形成されている磁性膜を備える磁気デバイス。
【請求項9】
非単結晶基板上に、結晶構造が体心立方格子である(211)配向膜が形成され、
該(211)配向膜を下地層として、前記硬磁性膜が形成されていることを特徴とする請求項8記載の磁気デバイス。
【請求項10】
前記硬磁性膜が磁化自由層のリファレンス層として形成されていることを特徴とする請求項8または9記載の磁気デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−62483(P2010−62483A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229267(P2008−229267)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】