説明

移動体の位置検出装置、および位置検出装置を利用した車両制御装置

【課題】高精度で相対位置を測定すると共に相対位置に誤差が積算されることを防止することが可能な位置検出装置、および当該位置検出装置を利用した車両制御装置を提供する。
【解決手段】移動体の位置検出装置10は、複数のGPS衛星からのGPS信号を受信する受信アンテナ11と、各GPS信号の搬送波の位相を検出開始時刻から所定時間ごとに検出し、当該所定時間ごとの位相差を積算することにより、検出開始時刻からの位相変化量を演算する位相差積算部15と、位相差積算部により演算された位相変化量に基づいて、検出開始時刻における基準位置に対する相対位置を演算する相対位置演算部16と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の位置検出装置、および位置検出装置を利用した車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来文献(特許文献1)には、移動体の運動状態を計測するための位置検出装置が示されている。この従来技術の位置検出装置では、GPS衛星からのGPS信号を受信して、当該GPS信号の搬送波の位相変化に基づいて移動体の移動速度を所定周期で演算する。そして、所定周期ごとの移動体の移動速度を積分することにより相対位置を演算する。
【0003】
また、他のGPS位置検出方式として、単独測位方式、ドップラー周波数計測方式、RTK‐GPS方式などがある。単独測位方式やドップラー周波数計測方式などでは、計測された位置の誤差が大きく、車両運動制御に必要な精度を確保できない。また、RTK‐GPS方式などでは、2周波受信機を利用するため、位置検出装置の価格が高価となってしまう。
【特許文献1】特開2007−57242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術(特許文献1)の位置検出装置では、所定周期ごとの移動体の移動速度を積分することにより相対位置を演算するため、演算された相対位置には、移動速度の積分演算に伴う誤差が含まれることとなる。特に、従来技術の位置検出装置を用いて相対位置の演算を長時間継続した場合には、移動速度の積分演算が多数回繰り返されるため、相対位置には移動速度の積分演算に伴う誤差が蓄積してしまう。このようにして演算された相対位置は誤差が大きいため、例えば車両の運動制御などには適していない。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、高精度で相対位置を測定すると共に相対位置に誤差が積算されることを防止することが可能な位置検出装置、および当該位置検出装置を利用した車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明に係る移動体の位置検出装置は、複数のGPS衛星からのGPS信号を受信する受信アンテナと、各GPS信号の搬送波の位相を検出開始時刻から所定時間ごとに検出し、当該所定時間ごとの位相差を積算することにより、検出開始時刻からの位相変化量を演算する位相差積算部と、位相差積算部により演算された位相変化量に基づいて、検出開始時刻の基準位置に対する相対位置を演算する相対位置演算部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の位置検出装置によれば、複数のGPS衛星からのGPS信号の各々について、GPS信号の搬送波の位相が検出開始時刻から所定時間ごとに検出され、当該所定時間ごとの位相差を積算することにより、検出開始時刻からの位相変化量が演算される。そして、検出開始時刻からの位相変化量に基づいて、検出開始時刻の基準位置に対する相対位置が演算される。よって、演算された相対位置には、相対位置の演算に伴う誤差が蓄積されることなく、誤差の小さな相対位置を演算することができる。
【0008】
また、本発明に係る移動体の位置検出装置において、位相差積算部は、GPS信号の搬送波の位相を検出開始時刻から所定時間ごとに検出し、当該所定時間ごとの位相差を積算して得た位相差積算値が2πを上回った場合に、搬送波の波数を表す整数値バイアスに1を加算すると共に、位相差積算値から2πを減算することが好ましい。この構成によれば、GPS信号の搬送波の位相が検出開始時刻から所定時間ごとに検出され、当該所定時間ごとの位相差を積算して得た位相差積算値が2πを上回った場合に、搬送波の波数を表す整数値バイアスに1が加算されると共に、位相差積算値から2πが減算される。よって、検出開始時刻からの位相変化量を、整数値バイアスおよび位相差積算値を用いて好適に演算することができる。
【0009】
また、本発明に係る車両制御装置は、上記の位置検出装置と、車輪回転速度を検出して当該車輪回転速度に基づいて車速を演算する車輪速センサと、スリップ状態を抑制するように車両運動を制御する車両運動制御部と、を備え、位置検出装置は、GPS信号の搬送波の所定時間ごとの位相差に基づいて速度を演算し、位置検出装置により演算される車両速度と車輪速センサにより演算される車両速度とが略一致する場合に車両が路面をグリップするグリップ状態であることを判定し、当該グリップ状態における車両位置を基準位置として設定するものであり、車両運動制御部は、位置検出装置により検出された基準位置に対する相対位置を利用して、車両のスリップ状態を抑制するように車両運動を制御することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る車両制御装置によれば、GPS信号の搬送波の所定時間ごとの位相差に基づいて演算される車両速度と車輪回転速度に基づいて演算される車両速度とが略一致する場合に、車両が路面をグリップするグリップ状態であることを判定し、当該グリップ状態における車両位置を基準位置として設定する。このように設定した基準位置に対する相対位置を利用することにより、車両のスリップ状態を抑制するように車両運動を制御することができる。例えば、車両が路面に対して比較的低速でスリップしているスリップ状態(比較的低速の横すべり状態、比較的低速のスピン状態などのヨーレートが小さいスリップ状態)を検出し、スリップ状態を抑制するように車両運動を制御することができる。
【0011】
また、本発明に係る車両制御装置において、車両運動制御部は、基準位置を基準として車両の目標走行軌跡を演算し、位置検出装置により検出された相対位置が当該目標走行軌跡から乖離した場合に、車両が路面に対してスリップするスリップ状態であることを判定し、当該スリップ状態を抑制するように車両運動を制御することが好ましい。この構成によれば、車両運動制御部は、基準位置を基準として車両の目標走行軌跡を演算し、位置検出装置により検出された相対位置が当該目標走行軌跡から乖離した場合に、車両が路面に対してスリップするスリップ状態であることを判定し、当該スリップ状態を抑制するように車両運動を制御する。よって、車両が路面に対して比較的低速でスリップしているスリップ状態(比較的低速の横すべり状態、比較的低速のスピン状態など)を検出して、当該スリップ状態を抑制することができる。
【0012】
また、本発明に係る車両制御装置において、車両運動制御部は、基準位置を基準として車両の目標走行軌跡を演算し、位置検出装置により検出された相対位置が当該目標走行軌跡から乖離した場合に、車両が路面に対してスリップするスリップ状態であることを判定し、当該スリップ状態を抑制するように車両運動を制御し、さらに、車両がスリップ状態からグリップ状態に移行した後に、目標走行軌跡に復帰するように車両運動を制御することが好ましい。この構成によれば、車両運動制御部は、基準位置を基準として車両の目標走行軌跡を演算し、位置検出装置により検出された相対位置が当該目標走行軌跡から乖離した場合に、車両が路面に対してスリップするスリップ状態であることを判定し、当該スリップ状態を抑制するように車両運動を制御する。そして、車両運動制御部は、車両がスリップ状態からグリップ状態に移行した後に、目標走行軌跡に復帰するように車両運動を制御する。よって、車両が路面に対して比較的低速でスリップしているスリップ状態(比較的低速の横すべり状態、比較的低速のスピン状態など)を検出して、車両のスリップ状態を抑制してから、車両を目標復帰軌跡に復帰させることができる。
【0013】
また、本発明に係る車両制御装置において、位置検出装置は、GPS信号を受信する受信アンテナを少なくとも2つ有し、基準位置に対する各受信アンテナの相対位置を演算するものであり、車両運動制御部は、少なくとも2つの受信アンテナの相対位置に基づいて車両進行方向を演算し、当該車両進行方向に基づいて車両がスリップ状態であるか否かを判定することが好ましい。この構成によれば、車両運動制御部は、少なくとも2つの受信アンテナの相対位置に基づいて車両進行方向を演算し、当該車両進行方向に基づいて車両がスリップ状態であるか否かを判定する。よって、車両が目標走行軌跡から乖離せずに目標走行軌跡上でスピンをしている場合でも、車両のスピン状態を検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高精度で相対位置を測定すると共に相対位置に誤差が積算されることを防止することが可能な位置検出装置、および当該位置検出装置を利用した車両制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素または同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
(位置検出装置の構成)
図1は、本実施形態の位置検出装置であるGPS速度計10の構成を示すブロック図である。GPS速度計10は、GPSアンテナ11と、絶対位置検出部12と、移動速度検出部13と、基準位置設定部14と、位相差積算部15と、相対位置演算部16と、を含んで構成されている。
【0017】
GPSアンテナ11は、GPS衛星から送信されるGPS信号を受信する。このGPS信号は、波長λが約19cmの搬送波にGPS衛星に搭載された原子時計の時刻情報やGPS衛星の軌道情報などを変調して乗せた信号である。絶対位置検出部12は、GPS信号に含まれる時刻情報に基づいてGPS速度計10の絶対位置を演算する処理部である。移動速度検出部13は、所定時間ごとにGPS信号の搬送波の位相を検出し、所定時間当たりの搬送波の位相変化に基づいてGPS速度計10の移動速度を演算する処理部である。
【0018】
基準位置設定部14は、GPS速度計10の演算処理に利用される基準位置を決定して設定する処理部である。基準位置とは、位置検出開始時刻にGPS速度計10が存在する位置である。なお、基準位置設定部14は、外部装置(例えば車両運動制御部30、図5参照)からの指令に応じて、基準位置を設定できるように構成されている。位相差積算部15は、位置検出開始時刻からGPS信号の搬送波の位相変化量を演算する処理部である。すなわち、位相差積算部15は、GPS信号の搬送波の位相を検出開始時刻から所定時間ごとに検出し、当該所定時間ごとの位相差を積算することにより、検出開始時刻からの位相変化量を演算する。相対位置演算部16は、位相差積算部15により演算された位相変化量に基づいて、基準位置に対する相対位置を演算する処理部である。
【0019】
(相対位置検出原理)
図2は、GPS速度計における相対位置検出原理を示す図である。図2には、GPS衛星101と、移動前のGPS速度計10BEFOREと、移動後のGPS速度計10AFTERとが示されている。破線Sは、GPS衛星101からの等距離面を示している。
【0020】
移動前のGPS速度計10BEFOREが移動後のGPS速度計10AFTERの位置まで移動した場合には、GPS衛星101とGPS速度計10までの距離は変化する。このため、移動前のGPS速度計10BEFOREが受信する搬送波の位相と、移動後のGPS速度計10AFTERが受信する搬送波の位相との間には、GPS速度計10の移動距離に応じた位相差(位相変化量)が生じることとなる。
【0021】
GPS信号の搬送波の位相変化量は、2πの倍数分Nと、位相差から2πの倍数分を除いた端数分θとからなる。移動前後におけるGPS衛星101からGPS速度計10までの距離差Dは、次の数式(1)により求められる。
D = (N+θ)× λ ・・・(1)
ここで、
N:位相差のうち2πの倍数分
θ:位相差のうち2πより小さい端数分
λ:搬送波の波長(19cm)
【0022】
複数のGPS衛星の夫々について各GPS衛星からGPS速度計10までの距離差Dを演算して、これらの複数の距離差Dを公知の演算式に適用すると、GPS速度計10の移動ベクトル(移動方向および移動距離からなるベクトル)を算出することができる。この移動ベクトルが、移動前の基準位置に対する相対位置を表している。
【0023】
本実施形態のGPS速度計10では、位相差積算部15は、位相差のうち2πの倍数分Nを整数値バイアスのパラメータnに格納し、位相差のうち端数分θを位相差積算値のパラメータθsumに格納する。そして、相対位置演算部15は、整数値バイアスnおよび位相差積算値θsumを上記の数式(1)に適用することにより、相対位置を演算する。なお、整数値バイアスとは、一般的にはGPS衛星101からGPS速度計10までの間の波数を意味するが、本実施形態では移動前後におけるGPS衛星101からGPS速度計10までの間の波数の変化量として定義している。
【0024】
(位置検出装置の相対位置検出処理)
図3は、GPS速度計10の相対位置検出処理を示すフローチャートである。この相対位置検出処理において、GPS速度計10は、複数のGPS衛星から受信するGPS信号の夫々について位相変化量を検出し、これらの位相変化量に基づいて相対位置を算出する。
【0025】
GPS速度計10は、複数のGPS衛星から受信するGPS信号の夫々について、整数値バイアスのパラメータnと、搬送波の位相を示すパラメータθ0,θ1,θ2と、検出開始時刻から搬送波の位相を積算して得られる位相差積算値を示すパラメータθsumとを用意している。そして、GPS速度計10は、複数のGPS信号の夫々について、以下に説明する処理を行う。
【0026】
相対位置の測定開始時に、GPS速度計10は、整数値バイアスnに0をセットして、整数値バイアスnを初期化する(S301)。次に、GPS速度計10は、GPS信号の搬送波の位相を検出し、検出された搬送波の位相をパラメータθ0にセットする(S302、図4(a)参照)。ここで、搬送波の位相を検出した時刻が検出開始時刻であり、搬送波の位相を検出した位置が計測基準位置である。なお、初期的に検出される搬送波の位相は、0から2πまでの範囲内の値である。
【0027】
次に、GPS速度計10は、微小時間(例えば100ms)の経過後に、GPS信号の搬送波の位相を検出し、検出された搬送波の位相をパラメータθ1にセットする(S303〜S304、図4(a)参照)。ここで、ステップ302の位相検出からステップ304の位相検出までの微小時間とは、θ0からθ1までの位相差が確実に0からπまでの範囲内の値となる短い時間である。
【0028】
次に、GPS速度計10は、次の数式(2)に従って、位相差積算値θsumを演算する(S305)。
θsum=(θ1−θ0+2π)mod2π ・・・(2)
ここで、modは、割算した場合の余りを演算するための関数である。AmodBは、AをBで割った場合に生じる余りを意味している。よって、上記の数式(1)によれば、θ0とθ1の位相差が、0から2πまでの範囲内の値として算出され、位相差積算値θsumにセットされる。
【0029】
次に、GPS速度計10は、さらに上記の微小時間(例えば100ms)の経過後に、GPS衛星からの搬送波の位相を検出し、検出された搬送波の位相をパラメータθ2にセットする(S306〜S307、図4(a)参照)。ステップ302からステップ304までの位相変化と同様に、ステップ305からステップ307までの位相差は、確実に0からπまでの範囲内の値となる。
【0030】
次に、GPS速度計10は、次の数式(3)に従って、位相差積算値θsumに位相増加分を加算する(S308)。
θsum=θsum+(θ2−θ1) ・・・(3)
ここで、位相差積算値θsumは、1回目のステップ308の演算では0から2πまでの範囲内の値となるが、2回目以降のステップ308の演算では0から2πまでの範囲内の値となる場合もあるし2πを越える値となる場合もある。
【0031】
次に、GPS速度計10は、位相差積算値θsumの絶対値が2πより小さいか否かを判定する(S309)。ここで、GPS速度計10は、位相差積算値θsumの絶対値が2π以上であると判定した場合には、ステップ310の処理に進む。一方、GPS速度計10は、位相差積算値θsumの絶対値が2πより小さいと判定した場合には、ステップ311の処理に進む。
【0032】
ステップ309からステップ310に進んだ場合には、GPS速度計10は、次の数式(4),(5)の演算を実行し、パラメータn,θsumを更新する(図4(b),(c)参照)。
n=n+int(θsum/2π) ・・・(4)
θsum=((θ2−θ0+2π+π)mod2π)−π ・・・(5)
【0033】
数式(3)において、intは、指定した実数の小数点以下の値を切り捨てて、指定した実数をこの実数よりも0に近い整数に丸めた値にするための関数である。数式(4)および数式(5)によれば、θ0からθ2までの位相差が2π以上となったことに対応して、整数値バイアスnに1が加算されると共に、位相差積算値θsumから2πが減算されて位相差積算値θsumが−π〜+πの範囲内の値に調整される。
【0034】
ステップ309からステップ311に進んだ場合には、GPS速度計10は、整数値バイアスnおよび位相差積算値θsumに基づいて、ステップ302の処理を実行した地点からステップ307の処理を実行した地点までの移動距離(相対位置)を算出する。ここで、GPS速度計10が採用する移動距離算出法は、上記の数式(1)を用いた算出処理である。
【0035】
次に、GPS速度計10は、上記の処理で得られた位相θ2を位相θ1にセットする(S312、図4(c)参照)。このように位相θ2を位相θ1にセットすることにより、パラメータθ2が空きとなるため、次に検出される搬送波の位相をパラメータθ2にセットすることが可能となる。最後に、GPS速度計10は、相対位置の算出を継続する場合にはステップ306の処理に戻り、相対位置の算出を終了する場合には位置測定処理を終了する(S313)。
【0036】
本実施形態の位置検出処理によれば、複数のGPS衛星からのGPS信号の各々について、GPS信号の搬送波の位相が検出開始時刻から所定時間ごとに検出され、当該所定時間ごとの位相差を積算することにより、検出開始時刻からの位相変化量が演算される。そして、検出開始時刻からの位相変化量に基づいて、検出開始時刻の基準位置に対する相対位置が演算される。よって、演算された相対位置には、相対位置の演算に伴う誤差が蓄積されることなく、誤差の小さな相対位置を演算することができる。
【0037】
従来技術の位置検出処理では、所定時間ごとに搬送波の位相差を検出して、この搬送波の位相差に基づいて所定時間ごとの速度ベクトルを演算し、演算された速度ベクトルを積分することにより相対位置を演算していた。しかし、この位置検出処理では、演算された相対位置には、速度ベクトルの演算に伴う誤差が蓄積される。このため、従来技術の位置検出処理では、長時間に渡り相対位置を演算すると、相対位置の誤差が無視できない程度(例えば、3分の位置計測で2m以上の誤差)に大きくなってしまい、演算された相対位置を車両運動制御に利用することは困難であった。
【0038】
これに対して、本実施形態の位置検出処理では、微小時間ごとの位相差に基づいて速度ベクトルを演算するのではなく、微小時間ごとに搬送波の位相を検出して検出開始時刻からの位相変化量(整数値バイアスnおよび位相差積算値θsum)を演算し、この位相変化量に基づいて1回の演算処理で移動ベクトルを演算する。そして、検出開始時刻における基準位置を起点として移動ベクトルが指し示す先を、相対位置として演算する。よって、本実施形態の位置検出処理によれば、相対位置に速度ベクトルの演算に伴う誤差が蓄積されることがないため、相対位置を高精度に求めることができる。
【0039】
特に、本実施形態の位置検出処理により演算された相対位置は、車両運動制御に利用できる程度に精度が高められている。走行中における車両のスリップ状態に対応するために、車両のスリップを抑制するだけでなく、車両を安全な方向に誘導するように車両制御技術が進化している。このような車両制御技術では、正常な走行状態(例えば、車輪が路面をグリップした状態)における車両の基準位置に対して、スリップ中の車両の相対位置を数cm以下の精度で正確に検出する必要がある。本実施形態の位置検出処理によれば、車両の相対位置を数cm以下の精度で検出することが可能であり、進化した車両制御技術にも対応することができる。
【0040】
(車両制御装置の構成)
図5は、本実施形態の車両制御装置1の構成を示すブロック図である。車両制御装置1は、自動車などの車両に搭載され、車両の走行を支援する制御を行うものである。車両制御装置1には、前述したGPS速度計(位置検出装置)10を含んで構成されている。また、車両制御装置1は、ハンドルセンサ21と、ブレーキセンサ22と、アクセルセンサ23と、ヨーレートセンサ24と、車輪速センサ25と、ナビゲーションシステム27と、車両運動制御装置30と、操舵制御装置32と、操舵アクチュエータ33と、加減速制御装置35と、エンジン36と、ブレーキアクチュエータ37と、を含んで構成されている。
【0041】
ハンドルセンサ21は、車輪を転舵させるために運転者が操作するハンドルの操作量を検出するためのセンサである。ブレーキセンサ22は、運転者が車両を減速させるために用いるブレーキペダルの踏込み量を検出するためのセンサである。アクセルセンサ23は、運転者が車両を加速させるために用いるアクセルペダルの踏込み量を検出するためのセンサである。ヨーレートセンサ24は、車両に作用するヨーレートを検出するためのセンサである。車輪速センサ25は、車輪の回転速度を検出して、車輪の回転速度に基づいて車速を演算するためのセンサである。
【0042】
ナビゲーションシステム27は、運転者に目的地までの経路を知らせるために車両に搭載された装置である。ナビゲーションシステム27は、車両位置の周囲のマップデータを有しており、運転者により目的地が指定されると車室内に設置されたモニタに目的地までの経路を表示する。なお、ナビゲーションシステム27のマップデータには、道路形状のデータが含まれており、この道路形状のデータが車両運動制御に利用される。
【0043】
GPS速度計10は、車両の絶対位置、移動速度および相対位置を検出し、これらの検出値を車両運動制御部30に出力する。前述したとおり、GPS速度計10は、基準位置を設定し、この基準位置に対する相対位置を設定する。ここで、GPS速度計10が基準位置を設定するタイミングは、車両運動制御部30により決定される。すなわち、車両運動制御部30がタイミング信号をGPS速度計10に与えると、GPS速度計10がこのタイミング信号に応じて基準位置を設定し、相対位置の演算を開始する。
【0044】
車両運動制御装置30は、複数のセンサ21〜25、ナビゲーションシステム27およびGPS速度計10からの出力を取り込んで、これらの出力に基づいて車両の運動状態を制御する。特に、本実施形態では、車両運動制御装置30は、車両のスリップ状態を抑制したり、車両が目標走行軌跡に復帰するように、車両の運動状態を制御する。車両運動制御装置30は、車両の運動状態を制御するために、操舵制御装置32に操舵量指令値を与えると共に、加減速制御装置35に加減速指令値を与える。
【0045】
操舵制御装置32は、車両運動制御装置30からの操舵量指令値に応じて操舵アクチュエータ33を制御する。操舵アクチュエータ33は、車輪の転舵角を調節するためのアクチュエータであり、運転者のハンドル操作を補助するように車輪に転舵トルクを与える。操舵アクチュエータ33は、車輪に与える転舵トルクの大きさおよび方向を調節自在に構成されている。よって、操舵制御装置32は、車両運動制御装置30からの操舵量指令値に応じて、操舵アクチュエータ33が車輪に与える転舵トルクの大きさおよび方向を調節する。
【0046】
加減速制御装置35は、車両運動制御装置30からの加減速指令値に応じて、車両の駆動源であるエンジン(内燃機関)36およびブレーキアクチュエータ37を制御する。加減速制御装置35は、車両運動制御装置30からの加減速指令値が車両の加速を指令するものである場合には、車両運動制御装置30からの加減速指令値に応じて、車両に作用する駆動力を調節するためのエンジン36を制御する。一方、加減速制御装置35は、車両運動制御装置30からの加減速指令値が車両の減速を指令するものである場合には、車両運動制御装置30からの加減速指令値に応じて、車両に作用する制動力を調節するためのブレーキアクチュエータ37を制御する。
【0047】
(車両制御装置の第1対応処理)
図6は、車両運動制御部30による車両挙動異常(スリップ状態)に対する第1対応処理を示すフローチャートである。図7は、車両運動制御部30により第1対応処理が実行される際の車両挙動を示す図である。図6および図7を参照して、車両運動制御部30による第1対応処理を説明する。
【0048】
車両運動制御部30は、ハンドルセンサ21により検出された操舵角に基づいて、車両が直進状態であるか否かを判定する(S601)。車両運動制御部30は、操舵角の絶対値が予め設定された閾値(例えば1deg)以下である場合には、車両が直進状態であることを判定し、ステップ602の処理に進む。一方、車両運動制御部30は、操舵角の絶対値が上記閾値より大きい場合には、車両が直進状態でないことを判定し、ステップ601の処理を繰り返す。
【0049】
次に、車両運動制御部30は、ヨーレートセンサ24により検出されたヨーレートに基づいて、車両が直進状態であるか否かを判定する(S602)。車両運動制御部30は、ヨーレートの絶対値が予め設定された閾値(例えば1deg/sec)以下である場合には、車両が直進状態であり車両に殆どヨーレートが作用していないことを判定し、ステップ603の処理に進む。一方、車両運動制御部30は、ヨーレートの絶対値が上記閾値より大きい場合には、車両が直進状態でなく車両に大きなヨーレートが作用していることを判定し、ステップ601の処理に戻る。
【0050】
次に、車両運動制御部30は、車輪速に基づき演算した車両の対地速度とGPS速度計10により演算された車両の対地速度との差分に基づいて、車輪が路面をグリップした状態であるか否かを判定する(S603)。車両運動制御部30は、2つの対地速度が略一致しており、2つの対地速度の差分の絶対値が予め設定された閾値(例えば0.01km/h)以下である場合には、車両が路面をグリップした状態であることを判定し、ステップ604の処理に進む。一方、車両運動制御部30は、2つの対地速度が略一致しておらず、2つの対地速度の差分の絶対値が上記閾値より大きい場合には、車両が路面をグリップした状態でないことを判定し、ステップ601の処理に戻る。
【0051】
次に、車両運動制御部30は、ステップ601〜ステップ603の全ての条件が満たされている場合には、車輪が路面をグリップしており車両の走行状態が安定していることが判断できるため、その時点での車両位置を基準位置として設定する(S604)。ここで、車両運動制御部30は、GPS速度計10が基準位置を設定するためのタイミング信号を、GPS速度計10に与える。GPS速度計10は、基準位置を設定した時点から、基準位置に対する相対位置の演算を開始する。図7において、カーブ路に進入する直前の車両Aの位置が、基準位置として設定される。
【0052】
次に、車両運動制御部30は、ハンドルセンサ21、ブレーキセンサ22およびアクセルセンサ23の検出出力を継続的に監視し、ハンドルセンサ21、ブレーキセンサ22およびアクセルセンサ23の検出値に基づいて、その後の数秒間において車両が走行することが予想される軌跡(目標軌跡)を生成する(S605)。ここで、車両運動制御部30は、基準位置を基準として車両の目標走行軌跡を演算する。なお、車両運動制御部30は、目標軌跡を生成するために、道路形状のデータも利用する。図7において、曲線Tが目標軌跡である。
【0053】
次に、車両運動制御部30は、GPS速度計10により演算された相対位置を取り込む(S606)。図7において、カーブ路に走行している車両A2の位置が、相対位置として取り込まれる。
【0054】
次に、車両運動制御部30は、車両がスリップ状態であるか否かを判定する(S607)。言い換えれば、車両運動制御部30は、目標軌跡に対する相対位置の乖離が予め設定された閾値(例えば1m)よりも小さいか否かを判定する(S607)。ここで、車両運動制御部30は、目標軌跡に対する相対位置の乖離が上記閾値よりも小さい場合には、車両がスリップ状態でないことを判定し、処理を終了する。一方、目標軌跡に対する相対位置の乖離が上記閾値よりも大きい場合には、車両がスリップ状態であることを判定し、車両の挙動を安定させるためにVSC(Vehicle Stability Control)制御や減速制御などのスリップ抑制制御を実行する(S608)。
【0055】
上述した第1対応処理によれば、GPS信号の搬送波の所定時間ごとの位相差に基づいて演算される車両速度と車輪回転速度に基づいて演算される車両速度とが略一致する場合に、車両が路面をグリップするグリップ状態であることを判定し、当該グリップ状態における車両位置を基準位置として設定する。このように設定した基準位置に対して相対位置を検出することにより、高精度な位置検出が可能となるため、車両が路面に対して比較的低速でスリップしているスリップ状態(比較的低速の横すべり状態、比較的低速のスピン状態などのヨーレートが小さいスリップ状態)を検出することができる。
【0056】
そして、上述した第1対応処理では、比較的低速のスリップ状態を検出するため、比較的低速のスリップ状態を抑制するためのスリップ抑制制御を実行することができる。なお、従来技術に係るスリップ検出技術では、操舵角、車速、ヨーレートの関係から車両のスリップ状態を判定するため、センサ誤差よりも速度の小さい横滑り状態や、センサ誤差よりも速度の小さいスピン状態を検出できない。
【0057】
(車両制御装置の第2対応処理)
図8は、車両運動制御部30による車両挙動異常(スリップ状態)に対する第2対応処理を示すフローチャートである。図9は、車両運動制御部30により第2対応処理が実行される際の車両挙動を示す図である。図8および図9を参照して、車両運動制御部30による第2対応処理を説明する。
【0058】
車両運動制御部30は、前述した第1対応処理(S601〜S606)と同様な手順で、車両がグリップ状態である場合に基準位置を設定し、基準位置を基準として目標軌跡を生成し、さらに基準位置に対する相対位置を検出する(S801、S802、S803)。次に、車両運動制御部30は、前述した第1対応処理(S607)と同様な方法で、車両がスリップ状態であるか否かを判定する(S804)。ここで、車両運動制御部30は、スリップ状態であることを判定した場合には、VSC制御や減速制御などのスリップ抑制制御を実行する(S805)。一方、車両運動制御部30は、スリップ状態でないことを判定した場合には、処理を終了する。
【0059】
次に、車両運動制御部30は、スリップ抑制制御を実行している最中に、車両がスリップ状態からグリップ状態に移行したか否かを判定する(S806)。ここで、車両運動制御部30は、車両がグリップ状態に移行した場合には、ステップ807の処理に進む。一方、車両運動制御部30は、車両がスリップ状態のままである場合には、スリップ抑制制御を継続する(S805)。図9では、車両運動制御部30は、車両が目標軌跡Tから乖離してから位置Aに至るまでの間、スリップ抑制制御を継続する。
【0060】
次に、車両運動制御部30は、車両がグリップ状態に移行した直後に、VSC等のスピン防止機能で一般的に用いられているヨーレートの積分値を用いたスリップ角推定技術を用いて、車両進行方向を推定する(S807)。ここで、車両進行方向とは、車両の前後方向に延びる車両中心線に沿った方向である。図9では、車両は位置Aでグリップ状態に移行し、車両運動制御部30は車両進行方向Cを推定する。
【0061】
次に、車両運動制御部30は、車両進行方向が目標軌跡との乖離を減少させる方向であるか否かを判定する(S808)。ここで、車両運動制御部30は、車両進行方向が目標軌跡との乖離を減少させる方向である場合には、ステップ809の処理に進む。一方、車両運動制御部30は、車両進行方向が目標軌跡との乖離を減少させる方向でない場合には、ステップ811の処理に進む。図9では、車両進行方向が目標軌跡との乖離を減少させる方向でないため、車両運動制御部30はステップ811の処理に進む。
【0062】
ステップ809では、車両運動制御部30は、車両位置や車両進行方向などの情報に基づいて、車両位置から目標軌跡まで延びる復帰軌跡を生成する(S809)。図9では、車両運動制御部30は、復帰軌跡Oを生成する。そして、車両運動制御部30は、車両を復帰軌跡方向に誘導するための指令を操舵制御部32に与える(S810)。操舵制御部32は、車両運動制御部30からの指令を受けると、弱いトルクで車輪を転舵して車両を復帰軌跡方向に誘導するように操舵アクチュエータ33を制御する。
【0063】
次に、車両運動制御部30は、車両がグリップ状態に移行してから予め設定された距離(例えば数メートル程度の距離)を走行したか否かを判定する(S808)。ここで、予め設定された距離とは、ヨーレートを積分して求めた車両スリップ角の精度が十分に高まる距離である。図9では、車両が位置Aに到達した時に、位置Aから数メートル走行している。ここで、車両運動制御部30は、車両が予め設定された距離を走行した場合には、ステップ812の処理に進む。一方、車両運動制御部30は、車両が予め設定された距離を走行していない場合には、弱めの操舵誘導制御を継続する(S807〜S810)。図9では、ステップ812の処理に進む時には、車両は位置Aの位置にある。
【0064】
ステップ812では、車両運動制御部30は、車両進行方向を再演算して、GPS速度計10の検出位置に基づいて車両進行方向を補正する(S812)。詳しくは、車両運動制御部30は、車両がグリップ状態に移行した位置からGPS速度計10の検出位置へ向かう方向(図9において位置Aから位置Aへの方向D)と、車両がグリップ状態に移行した位置から復帰軌跡が延びる方向(図9において位置Aから復帰軌跡Oが延びる方向)との成す角度αを演算し、この角度αを補正角とする。そして、車両運動制御部30は、車両進行方向を再演算し、この車両進行方向に補正角αを加算して補正する。このようにして、GPS速度計10の検出位置に基づいて車両進行方向を補正することができる。
【0065】
車両運動制御部30は、補正済みの車両進行方向の情報に基づいて、復帰軌跡を再生成する(S813)。図9では、再生成される復帰軌跡は、位置Aから目標軌跡Tまで延びる軌跡Oである。車両運動制御部30は、車両を復帰軌跡方向に誘導するための指令を操舵制御部32に与える(S814)。操舵制御部32は、車両運動制御部30からの指令を受けると、強いトルクで車輪を転舵して車両を復帰軌跡方向に誘導するように操舵アクチュエータ33を制御する。
【0066】
上述した第2対応処理によれば、GPS信号の搬送波の所定時間ごとの位相差に基づいて演算される車両速度と車輪回転速度に基づいて演算される車両速度とが略一致する場合に、車両が路面をグリップするグリップ状態であることを判定し、当該グリップ状態における車両位置を基準位置として設定する。このように設定した基準位置に対して相対位置を検出することにより、高精度な位置検出が可能となるため、車両が路面に対して比較的低速でスリップしているスリップ状態(比較的低速の横すべり状態、比較的低速のスピン状態などのヨーレートが小さいスリップ状態)を検出することができる。
【0067】
そして、上述した第2対応処理では、比較的低速のスリップ状態を検出するため、比較的低速のスリップ状態を抑制するためのスリップ抑制制御を実行することができ、さらに、車両がスリップ状態からグリップ状態に移行した後に、車両を目標軌跡に復帰させるための操舵誘導制御を実行することができる。よって、車両のスリップ状態を抑制してから、車両を目標軌跡に復帰させることができる。
【0068】
(車両制御装置の第3対応処理)
図10は、車両運動制御部30による車両挙動異常(スリップ状態)に対する第3対応処理を示すフローチャートである。図11は、車両運動制御部30により第3対応処理が実行される際の車両挙動を示す図である。図10および図11を参照して、車両運動制御部30による第3対応処理を説明する。
【0069】
第3対応処理を実行するために、車両には2つのGPSアンテナ11A,11Bが搭載されている。一方のGPSアンテナ11Aは、車両中心線上において車両前側に配置されている。他方のGPSアンテナ11Bは、車両中心線上において車両後側に配置されている。車両運動制御部30は、車両後側のGPSアンテナ11Bの位置から車両前側のGPSアンテナ11Aの位置への方向を、車両進行方向として検出することができる。
【0070】
車両運動制御部30は、前述した第1対応処理(S601〜S606)および第2対応処理(S1001〜S1003)と同様な手順で、車両がグリップ状態である場合に基準位置を設定し、基準位置を基準として目標軌跡を生成し、さらに基準位置に対する相対位置を検出する(S1001、S1002、S1003)。次に、車両運動制御部30は、前述した第1対応処理(S607)および第2対応処理(S804)と同様な方法で、車両がスリップ状態であるか否かを判定する(S1004)。ここで、車両運動制御部30は、スリップ状態であることを判定した場合には、第2対応処理のステップ805以降の処理に進む。
【0071】
一方、ステップ1004において車両運動制御部30がスリップ状態でないことを判定した場合であっても、実際には車両が路面に対してスリップしている場合がある。すなわち、車両が目標軌跡に沿って移動しながらスピンしているような状況では、ステップ1004でスリップ状態でないと判定されるにも拘らず、実際には車両は路面に対してスリップしている。第3対応処理では、このような状況に対処するために、車両運動制御部30はステップ1005以降の処理に進む。
【0072】
ステップ1005において、車両運動制御部30は、基準位置に対するGPSアンテナ11Bの相対位置から基準位置に対するGPSアンテナ11Aの相対位置への方向を、車両進行方向として検出する。図11では、車両運動制御部30は車両進行方向として直線Cに沿った方向を検出する。
【0073】
次に、車両運動制御部30は、車両重心の移動方向を検出する(S1006)。例えば、車両運動制御部30は、2つのGPSアンテナ11A,11Bの中央位置の移動方向を、車両重心の移動方向として検出すればよい。図11では、車両運動制御部30は車両重心の移動方向として直線Eに沿った方向を検出する。
【0074】
次に、車両運動制御部30は、車両進行方向および重心移動方向に基づいて、車両スリップ角を算出する(S1007)。ここで、車両スリップ角とは、車両進行方向と重心移動方向との角度差である。図11では、車両運動制御部30は車両スリップ角として角度βを検出する。
【0075】
次に、車両運動制御部30は、車両スリップ角が最大スリップ角よりも大きいか否かを判定する(S1008)。ここで、最大スリップ角とは、車輪の発生する横力が最大となる車輪スリップ角のことであり、例えば25度程度の角度である。最大スリップ角はタイヤ試験機を用いて事前に測定可能であり、車両運動制御部30は事前に測定された最大スリップ角のデータを保持している。
【0076】
車両がスピンをしておらず、且つ、車両スリップ角が最大スリップ角よりも大きくなることは、現実にはあり得ない。よって、ステップ1008において、車両運動制御部30は、車両スリップ角が最大スリップ角よりも大きいことを判定した場合には、車両が目標軌跡に沿って移動しながらスピンしていることを判定し、VSC制御や減速制御などのスリップ抑制制御を実行し、車両がグリップ状態となるまでスリップ抑制制御を継続する(S1009、S1010)。
【0077】
そして、車両運動制御部30は、車両がグリップ状態となってから直ちに、車両を目標軌跡に復帰させるための復帰軌跡を生成し、車両を復帰軌跡方向に誘導するための指令を操舵制御部32に与える(S1011、S1012)。操舵制御部32は、車両運動制御部30からの指令を受けると、強いトルクで車輪を転舵して車両を復帰軌跡方向に誘導するように操舵アクチュエータ33を制御する。なお、第3対応処理では、2つのGPSアンテナの相対位置に基づいて演算された車両進行方向は高精度であるため、第2対応処理とは異なり車両進行方向の精度が高まるまで強い操舵誘導制御の実行を待つ必要はなく、車両がグリップ状態となってから直ちに強い操舵誘導制御の実行することができる。
【0078】
一方、車両スリップ角が最大スリップ角よりも小さくなることは、現実にあり得る車両の走行状態である。よって、ステップ1008において、車両運動制御部30は、車両スリップ角が最大スリップ角よりも小さいことを判定した場合には、車両がスピンしていないことを判定し、第3対応処理を終了する。
【0079】
上述した第3対応処理によれば、車両運動制御部は、2つのGPSアンテナの相対位置に基づいて車両進行方向を演算し、当該車両進行方向に基づいて車両がスリップ状態であるか否かを判定する。少なくとも2つのGPSアンテナの相対位置は高精度であるため、これらの相対位置に基づいて演算された車両進行方向も高精度である。よって、車両運動制御部は、車両進行方向に基づいて、車両の比較的低速のスピン状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施形態の位置検出装置であるGPS速度計の構成を示すブロック図である。
【図2】GPS速度計の相対位置検出原理を示す図である。
【図3】GPS速度計の相対位置検出処理を示すフローチャートである。
【図4】GPS速度計の相対位置検出処理を説明するための図である。
【図5】本実施形態の車両制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】車両運動制御部による車両挙動異常に対する第1対応処理を示すフローチャートである。
【図7】車両運動制御部により第1対応処理が実行される際の車両挙動を示す図である。
【図8】車両運動制御部による車両挙動異常に対する第2対応処理を示すフローチャートである。
【図9】車両運動制御部により第2対応処理が実行される際の車両挙動を示す図である。
【図10】車両運動制御部による車両挙動異常に対する第3対応処理を示すフローチャートである。
【図11】車両運動制御部により第3対応処理が実行される際の車両挙動を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1…車両制御装置、10…GPS速度計(位置検出装置)、11…GPSアンテナ、12…絶対位置検出部、13…移動速度検出部、14…基準位置設定部、15…位相差積算部、16…相対位置演算部、21…ハンドルセンサ、22…ブレーキセンサ、23…アクセルセンサ、24…ヨーレートセンサ、25…車輪速センサ、27…ナビゲーションシステム、30…車両運動制御部、32…操舵制御部、33…加減速制御部、35…操舵アクチュエータ、36…エンジン、37…ブレーキアクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のGPS衛星からのGPS信号を受信する受信アンテナと、
各GPS信号の搬送波の位相を検出開始時刻から所定時間ごとに検出し、当該所定時間ごとの位相差を積算することにより、前記検出開始時刻からの位相変化量を演算する位相差積算部と、
前記位相差積算部により演算された前記位相変化量に基づいて、前記検出開始時刻の基準位置に対する相対位置を演算する相対位置演算部と、
を備えることを特徴とする移動体の位置検出装置。
【請求項2】
前記位相差積算部は、GPS信号の搬送波の位相を検出開始時刻から所定時間ごとに検出し、当該所定時間ごとの位相差を積算して得た位相差積算値が2πを上回った場合に、搬送波の波数を表す整数値バイアスに1を加算すると共に、前記位相差積算値から2πを減算することを特徴とする請求項1に記載の移動体の位置検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の位置検出装置と、
車輪回転速度を検出して当該車輪回転速度に基づいて車速を演算する車輪速センサと、
スリップ状態を抑制するように車両運動を制御する車両運動制御部と、
を備え、
前記位置検出装置は、GPS信号の搬送波の所定時間ごとの位相差に基づいて速度を演算し、前記位置検出装置により演算される車両速度と前記車輪速センサにより演算される車両速度とが略一致する場合に車両が路面をグリップするグリップ状態であることを判定し、当該グリップ状態における車両位置を前記基準位置として設定するものであり、
前記車両運動制御部は、前記位置検出装置により検出された前記基準位置に対する前記相対位置を利用して、車両のスリップ状態を抑制するように車両運動を制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
前記車両運動制御部は、前記基準位置を基準として車両の目標走行軌跡を演算し、前記位置検出装置により検出された相対位置が当該目標走行軌跡から乖離した場合に、車両が路面に対してスリップするスリップ状態であることを判定し、当該スリップ状態を抑制するように車両運動を制御することを特徴とする請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車両運動制御部は、前記基準位置を基準として車両の目標走行軌跡を演算し、前記位置検出装置により検出された相対位置が当該目標走行軌跡から乖離した場合に、車両が路面に対してスリップするスリップ状態であることを判定し、当該スリップ状態を抑制するように車両運動を制御し、さらに、車両がスリップ状態からグリップ状態に移行した後に、目標走行軌跡に復帰するように車両運動を制御することを特徴とする請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記位置検出装置は、GPS信号を受信する受信アンテナを少なくとも2つ有し、前記基準位置に対する各受信アンテナの相対位置を演算するものであり、
前記車両運動制御部は、前記少なくとも2つの受信アンテナの相対位置に基づいて車両進行方向を演算し、当該車両進行方向に基づいて車両がスリップ状態であるか否かを判定することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−281737(P2009−281737A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131018(P2008−131018)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】