説明

移動体の方向推定システム、及び該方向推定システムを備える移動体ナビゲーションシステム。

【課題】本発明は、移動軌跡や地磁気を用いることなく移動体の方向情報を直接的に取得するためのシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、移動体が移動する平面に無線ICタグを埋設する。該無線ICタグに記憶された座標情報を、移動体が備える2つのアンテナによって同時に2箇所から取得しこれを演算することによって移動体の進行方向を推定する。また、正三角形の各頂点に配置された3つの無線ICタグの信号が発信する無線信号の受信状態を、移動体が備える回転するアンテナによって追跡することによって、該移動体の進行方向を基準とした3つの無線ICタグのそれぞれの方位角情報を演算することによって移動体の進行方向を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向推定システムに関し、より詳細には、ナビゲーションシステムにおける方向情報を取得する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GPSを使用した自動車などに代表される移動体の屋外用ナビゲーションシステムが広く実用化されており、さらに高精度なナビゲーションを実現すべく種々の改良が検討されている。ナビゲーションシステムにおいては、自己の進行方向と案内地図上の方向を整合させるため自己の方向情報が必須となるが、一般に、GPSを使用する屋外用ナビゲーションにおいては、GPS衛星との交信によって自己の現在位置を測位し、ジャイロセンサを用いて自己の回転を計測し、さらに、スピードセンサによって移動距離を計測して、これら3つの情報を経時的に解析することによって導出された自己の移動軌跡から現在の方向を推定している。
【0003】
しかしながら、この方法では移動軌跡が未だ発生していない移動開始時点での自己の方向を瞬時に推定することができず、さらに移動に伴う累積誤差の影響を避けられないという問題があった。また当然のことながら、GPS衛星との交信が不可能な屋内においてはナビゲーションシステムが機能しないという問題があった。
【0004】
一方、近年、車椅子利用者を対象にしたナビゲーション・システムの開発について種々の検討がなされており、特開2001−304908号公報(特許文献1)及び特開2003ー10257号公報(特許文献2)は、上述したGPSを使用した屋外用ナビゲーション・システムを開示する。しかしながら、特許文献1及び2は、いずれもGPS衛星との交信が不可能な屋内においても正確に機能する屋内ナビゲーションシステムについて開示するものではない。一方、特開2002−341939号公報(特許文献3)及び特開2005−309596号公報(特許文献4)は、屋内の走行通路に埋設された無線ICタグの位置情報を使用して、車椅子を所定の経路に沿って自動走行させる車椅子の自動走行システムを開示する。しかしながら、特許文献3及び4は、あくまで決められた経路に従って車椅子を強制的に搬送するものであり、車椅子の搭乗者に対して所望の目的地までの経路情報を案内するナビゲーションシステムではなく、当然に車椅子の方向情報を取得するための構成を開示するものではない。
【0005】
そこで、車椅子の方向情報を取得するための手段として、地磁気を検出することによって東西南北の方位を取得する電子コンパスを採用することが考えられる。しかしながら、建造物の屋内においては、建材である鉄筋、鉄骨などの金属の影響で地磁気が乱れるため、ただでさえ電子コンパスが正確な方向を示さない上に、電動車椅子にシステムを構築する場合に至っては、駆動源であるモータやその他の金属部材の影響によって地磁気はさらに乱れ、電子コンパスの正確性が担保されないという問題が生じる。
【0006】
上述したように、屋内屋外を問わず正確に機能する移動体のナビゲーション・システムが求められており、そのために、移動軌跡を用いることなく移動体の方向情報を直接的に取得するためのシステムの構築が求められていた。
【特許文献1】特開2001−304908号公報
【特許文献2】特開2003−10257号公報
【特許文献3】特開2002−341939号公報
【特許文献4】特開2005−309596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、移動軌跡や地磁気を用いることなく移動体の方向情報を直接的に取得するためのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、移動軌跡や地磁気を用いることなく移動体の方向情報を直接的に取得するためのシステムにつき鋭意検討した結果、移動体が移動する平面に無線ICタグを埋設し、該無線ICタグに記憶された情報を、移動体が備えるアンテナによって読み取り解析することによって直接的に移動体に進行方向を推定することができる機構を見出し、本発明に至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明によれば座標として定義される移動平面を移動する移動体の進行方向を推定する方向推定システムであって、前記移動平面に配置され、前記座標情報を示す無線信号を発信する複数の無線信号発信手段と、前記移動体に配設され、少なくとも2つの前記無線信号発信手段が発信する無線信号を受信するための無線信号受信手段と、前記無線信号受信手段が受信した前記無線信号から少なくとも2つの前記座標情報を読み取る座標情報取得手段とを含み、読み取られた少なくとも2つの前記座標情報から前記移動体の進行方向を演算する、方向推定システムが提供される。本発明においては、前記無線信号受信手段を、前記移動平面に相対する前記移動体の底面に、互いに離間して配設される2つの無線信号受信部を含むものとすることができる。また本発明においては、前記2つの無線信号受信部の各中心を結ぶ線分が、前記移動体の進行方向を定義する直線に対し垂線となるように、前記無線信号受信部が配設することができる。
【0010】
本発明の別の構成においては、座標として定義され且つ分割された領域の集合として定義される移動平面を移動する移動体のナビゲーションシステムであって、前記ナビゲーションシステムは、前記移動平面に配置され、前記座標情報ならびに前記座標情報が属する前記領域の識別情報を示す無線信号を発信する複数の無線信号発信手段と、前記移動体に配設され、少なくとも2つの前記無線信号発信手段が発信する無線信号を受信するための無線信号受信手段と、前記無線信号受信手段が受信した前記無線信号から前記識別情報および少なくとも2つの前記座標情報を読み取る情報取得手段とを備え、読み取られた前記領域の識別情報を前記移動体の位置情報として前記移動体の移動軌跡を追跡し、読み取られた少なくとも2つの前記座標情報から前記移動体の進行方向を演算する、ナビゲーションシステムが提供される。
【0011】
さらに、本発明によれば、固有の識別情報を示す無線信号を発信する第1、第2、および第3の無線信号発信手段がそれぞれの中心を結ぶ線分によって正三角形を形成するように配置される移動平面を移動する移動体の進行方向を推定する方向推定システムであって、前記移動体に設けられ、前記移動平面に相対する平面を円運動することによって前記第1、第2、および第3の無線信号発信手段が発信する無線信号を順次受信する回転式無線信号受信部を備える無線信号受信手段を含み、前記回転式無線信号受信部は、前記移動体の進行方向に対して最後尾となる位置を原点として前記円運動を開始し、前記無線信号受信手段が受信した前記無線信号の示す識別情報と、前記無線信号の受信状態から導出される前記移動体の進行方向を基準とした前記第1、第2、および第3の無線信号発信手段の方位角情報から前記移動体の進行方向を演算する方向推定システムが提供される。本発明においては、前記円運動に伴って変化する前記無線信号の受信状態を追跡して前記無線信号の検出が開始される検出開始点と前記無線信号が検出されなくなる検出終了点とを抽出し、前記検出開始点と前記検出終了点から前記第1、第2、および第3の無線信号発信手段の前記方位角情報を推定することができる。さらに加えて、本発明によれば、上述した方向推定システムによって移動体の進行方向情報を取得する、移動体のナビゲーションシステムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明によれば、移動軌跡や地磁気を用いることなく移動体の方向情報を直接的に取得するためシステムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
最初に、本発明の方位推定システムの第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の方位推定システムを採用する移動体ナビゲーションシステムにおける移動平面10の上面図を示す。移動平面10は、予め任意の一点を原点(0,0)とするXY座標として定義される。このとき、座標軸方向を、方位に合わせてXY座標を定義することもでき、方位とは無関係に移動平面10の形状等に鑑みて任意の方向を座標軸方向を定義することもできる。図1に示されるように、移動平面10には複数の無線信号発信手段としての無線ICタグ12が規則的に配設されている。各無線ICタグ12のメモリ領域には、配設された移動平面10上の位置のX座標値、Y座標値、およびエリア番号が格納されている。エリア番号については後に詳細に述べる。
【0015】
本実施形態においては、無線ICタグ12は、規則的に配置されていれば特にその配置態様を限定するものではないが、全ての無線ICタグ12の通信範囲が等しい半径の正円であると仮定すると、図1に示すように、各無線ICタグ12の中心が正三角形の頂点となるように互いを配置することが通信範囲の重なりを回避する上で好ましい。また、無線ICタグ12は、その無線信号の受信が可能な限度で移動平面10の最外表面よりも下方に埋設することが好ましい。さらに、本実施形態における、無線ICタグ12は、パッシブ型を用いることが好ましい。パッシブ型の無線ICタグはタグリーダが放つ電波による電磁誘導を利用して駆動するため、電源を必要とするアクティブ型に比べて遙かに安価であるという点でシステムの低コスト化および保守性に寄与し、また、その通信範囲がアクティブ型に比べて短く、数mmから長くても数十cmに限られるため、その通信範囲を適宜選択することによって、図1に示すように、複数の無線ICタグ12を所望の密度で配置することが可能になる。続いて、本実施形態の方位推定システムを採用する移動体ナビゲーションシステムにおける移動体について以下説明する。
【0016】
図2は、本実施形態における移動体としての車椅子14を示す図であり、図2(a)は、側面図を示し、図2(b)は、上面図を示す。図2(a)に示されるように車椅子14は、移動平面10に相対するその底面14bに、無線信号受信手段としてのアンテナ16を備えている。アンテナ16は、車椅子14が移動平面10の上を移動することに伴って、アンテナ16の受信面に相対する位置の移動平面10に埋設された無線ICタグ12が発信する無線信号を選択的に受信する。アンテナ16によって受信された無線信号は、車椅子14に搭載された図示しないタグリーダによって読み取られる。上述したように無線ICタグ12には、その配置位置に関連したXY座標値が記録されており、図示しないタグリーダは、無線ICタグ12が発信する無線信号からXY座標値を読み取り、車椅子14に搭載された図示しない情報処理装置のメモリにXY座標値を格納する。情報処理装置は、格納されたXY座標値を用いて後述する所定の演算を行うことによって移動平面10における車椅子14の現時点の進行方向を推定する。本実施形態における情報処理手段は、マイコンなどを用いて適宜構成することができる。情報処理装置によって推定された車椅子14の現時点の進行方向情報を利用した具体的なナビゲーションは、インターフェイス18を介して視覚情報または音声情報などを車椅子の搭乗者に提示することによって実行される。
【0017】
図2(b)に示されるように、車椅子14は、2つのアンテナ16a、16bを備えている。各アンテナ16は、お互いが所定の間隔をもって配設されており、各アンテナ16の中心を結ぶ線分が図中の矢印が示す進行方向Dを定義する直線に対して垂線となるように配置されている。このように2つのアンテナ16a、16bを配置することによって、車椅子14の移動に伴って、それぞれのアンテナが別々の無線ICタグ12からの無線信号を受信することができる。すなわち、上述した構成を採用することによって、ある時点の車椅子14の進行方向Dに関連して、2つのXY座標値を同時に取得することが可能になるのである。なお、本実施形態においては、単一の無線ICタグ12から同時に2つのアンテナ16a、16bが干渉することのないように充分な離間距離をもって配設されることが好ましい。次に、上述した2つのアンテナ16を用いて移動体の進行方向を逐次的且つ直接的に推定する具体的な方法について以下説明する。
【0018】
図3は、車椅子14が移動平面10を移動する態様を示す上面図である。図3においては、アンテナ16と無線ICタグ12の位置関係を説明する便宜上、車椅子14の本体部分を破線で示す。図3に示す状態においては、アンテナ16aは、●が示す無線ICタグ12a、12b、12cのうち、1つ以上3つ以下のタグから無線信号を受信することができ、同じくアンテナ16bは、●が示す無線ICタグ12d、12e、12fのうち、1つ以上3つ以下のタグから無線信号を受信することができることが理解されよう。さらに、図4を参照しながら、本実施形態の移動体の進行方向の方向を推定する方法を演算アルゴリズムを用いて説明する。
【0019】
上述したように各タグから受信した無線信号は、各タグが配置された移動平面10上のXY座標値を示すものであることから、アンテナ16が受信した無線ICタグ12が複数ある場合には、その座標値を平均することによって、移動平面10上におけるアンテナ16の中心点の位置座標が導かれる。すなわち、図4に示されるように、無線ICタグ12a、12b、12cから読み取ることができた座標値を平均することによって、アンテナ16aの中心点の位置座標P1(Xp1,Yp1)が導かれ、無線ICタグ12d、12e、12fから読み取ることができた座標値を平均することによって、アンテナ16bの中心点の位置座標P2(Xp2,Yp2)が導かれる。なお、アンテナ16が受信した無線ICタグ12が一つの場合には、該タグの座標値がそのままアンテナ16の中心点の位置座標となるのはいうまでもない。図4の矢印が示す車椅子14の進行方向Dを図4に示すθとして定義した場合、進行方向θは、下記式(1)によって導かれる。
【0020】
【数1】

続いて、本実施形態の方位推定システムを含む移動体ナビゲーションシステムの機能について、図5を参照して以下説明する。
【0021】
図5は、本実施形態の移動体ナビゲーションシステムが採用された建物20の見取り図を示す。図5において斜線のハッチングで示す廊下には図示しない複数の無線ICタグ12が、図1に示したように規則的に埋設されているものとする。本実施形態の移動体ナビゲーションシステムにおいては、車椅子14の位置情報を無線ICタグ12のメモリに格納された「エリア番号」から得る。ここで「エリア番号」とは、建物20内の廊下を予め分割してなる「エリア」を識別する情報である。図5は、破線に囲まれた12個のエリア1〜12を示す。建物20の廊下の各エリア内には、それぞれ同じように複数の無線ICタグ12が埋設されており、同一エリア内の無線ICタグ12は全て、共通の「エリア番号」を格納している。したがって、車椅子14の図示しないタグリーダは、廊下のいずれかのエリアに出た場合、該エリア内に存在するいずれかの無線ICタグ12からXY座標値を読み取ると同時に、該タグに格納された「エリア番号」を読み取ることによって自分が現在何処のエリアにいるのかという位置情報を取得する。
【0022】
また、本実施形態の移動体ナビゲーションシステムにおいては、建物内の各施設間の移動の最短経路の演算を「エリアタグ」として特別に定義される無線ICタグ12を用いて行う。「エリアタグ」とは、例えば、各施設の入口近傍や廊下の分岐点など、経路の各起点として採用するのに最適な位置に配設された任意の無線ICタグ12を特別に「エリアタグ」として定義することができる。図5は、建物20の廊下の各エリア1〜12の中で特別に定義されたエリアタグA1〜A12を●で示す。図5に示されるように、本実施形態においては、1つのエリア内には必ず1つのエリアタグが定義される。続いて、本実施形態の移動体ナビゲーションシステムの機能作用を、具体例を参照しながら以下詳細に説明する。
【0023】
本実施形態のナビゲーションは、以下の手順で行われる。ここでは、図5に示されるように車椅子14の現在地が「502号室」であるとし利用者の目的地が「男子トイレ」であるとする。最初に、車椅子14が図中の矢印の方向に進んで廊下に出ると車椅子14のタグリーダーが廊下に埋設されたいずれかの無線ICタグ12から現在地のエリア番号を取得して情報処理装置に格納する。情報処理装置は、格納されたエリア番号から車椅子14の現在地が「502号室」の出口近傍の「エリア5」であると判断する。ここで車椅子14の搭乗者が所定のインターフェイスを介して目的地を「男子トイレ」として入力すると、情報処理装置が予め格納されている「男子トイレ」に対応するエリア番号と現在地のエリア番号とから最短経路を導出する。すなわち、情報処理装置は、「男子トイレ」に対応するエリアをエリア11と判断した上で、最短経路「エリア5→エリア6→エリア7→エリア10→エリア11」を導出する。なお、最短経路の導出についてはダイクストラ法など既知のアルゴリズムを適宜用いることができる。
【0024】
情報処理装置は、上述した最短経路の導出と並行して目的進行方向を導出する。目的進行方向は、最短経路において隣り合う2つのエリアのエリアタグAn(nはエリア番号)のXY座標値から求められる。上述した例に戻れば、「エリア5」の「エリアタグA5」のXY座標値と「エリア6」の「エリアタグA6」のXY座標値とから一番初めの目標進行方向θを、下記式(2)によって求めることができ、求められたθは、情報処理装置のメモリに格納される。
【0025】
【数2】

同時に、車椅子14のタグリーダは、二つのアンテナ16a、16bを介してエリア5内の無線ICタグ12から二つのアンテナ16a、16bのそれぞれの中心P1およびP2のXY座標値を取得し、上述した式(1)によって車椅子14の現在の進行方向θを求めることができ、求められたθは、同じく情報処理装置のメモリに格納される。情報処理装置は、このように格納された情報を利用して目標進行方向と現在の進行方向の誤差θ−θを演算し、該誤差を解消するために、車椅子14の搭乗者に対して「前進」「後退」「左折」「右折」の案内を所定のインターフェイスを介して提示する。
【0026】
その後、車椅子14が目標進行方向θに進んで「エリア6」に到着すると、情報処理装置は、上述したのと同様の手順で「エリア6」の「エリアタグA6」のXY座標値と「エリア7」の「エリアタグA7」のXY座標値とから次の目標進行方向θを導出するとともに、車椅子14の現在の進行方向θを導出し、車椅子14の搭乗者に対して、目標進行方向と実際の進行方向の誤差θ−θに基づいて進行方向の案内を提示する。このステップが繰り返されることによって、当初に導出された最短経路「エリア5→エリア6→エリア7→エリア10→エリア11」が車椅子14の搭乗者に順次提示されることになる。なお、移動平面が限定された室内のナビゲーションにおいては前後左右の4方向を識別できれば充分にその目的を果たすことができるため、進行方向を「前進」「後退」「左折」「右折」というような直感的な案内によって行う場合には、本実施形態において導出された現在の進行方向θと実際の進行方向θに間に生じうる多少の誤差が問題になることはない。また、さらに例えば10度ずつヒステリシスを持たせることによって安定して方向を識別することが可能となる。以上、図1〜5を参照して、本発明の方位推定システムおよび該方位推定システムを採用する移動体ナビゲーションシステムの第1の実施形態を説明してきたが、本発明は、方位推定システムの別の構成として第2の実施形態を開示する。以下、本発明の方位推定システムの第2の実施形態を詳細に説明する。なお、第2の実施形態の説明においては、第1の実施形態について既に説明した構成要素と共通するものに関しては、図において共通の符号を使用して示すものとし、その説明を省略する。
【0027】
図6は、第2の実施形態における移動体としての車椅子30を示す図であり、図6(a)は、側面図を示し、図6(b)は、上面図を示す。図6(a)に示されるように車椅子30は、移動平面10に相対するその底面30bに、埋設された無線ICタグ32が発信する無線信号を受信するための無線信号受信手段としてのアンテナ34を備えている。図6(b)に示されるように本実施形態おいては、アンテナ34は、回転軸Sを回転中心として移動平面10に平行して円運動することができるように構成される。また、アンテナ34は、常に、車椅子30の進行方向Dに対して最後尾となる位置を原点として円運動を開始するように制御される。図6においては、アンテナ34の原点を★で示す。車椅子30に搭載された図示しない情報処理装置は、アンテナ34の円運動を制御する手段を含み、原点を基準としたアンテナ34の回転角を追跡する制御ならびにアンテナ34の原点復帰制御を行う。本実施形態においては、アンテナ34を、ステッピングモータを用いて回転させることによって、所定の分解能でその回転角の追跡制御を行うことができる。また、アンテナ34の原点復帰制御はフォトセンサを用いる方法などを適宜採用することができる。次に、図7を参照して本実施形態における無線信号発信手段について説明する。
【0028】
図7は、本実施形態において移動平面10に配置される無線信号発信手段の例示としてタグ・ゲート40を示す図である。一般に電動車椅子は、ジョイスティックなどの入力デバイスを用いて操作されるが、その操作の習得は、特に高齢者にとって非常に困難であり、例えば電動車椅子として構成される車椅子30が図7(a)に示されるような比較的狭い通路38に対して斜め方向dから進入する場合、ジョイスティック操作の未熟さから充分な方向修正ができないまま通路38に進入してしまい、車椅子30が通路38の側壁に衝突してしまうといった事故が発生する。本実施形態におけるタグ・ゲート40は、そのような事故を未然に回避するために車椅子30の進行方向を自動修正する際に用いられる方位推定システムの構成要素である。タグ・ゲート40は、その他、施設の出入口やナビゲーションシステムにおける移動経路の分岐点など、車椅子30がその進行方向を正確に修正する必要性の高い場所に配置される。車椅子30の図示しないタグリーダは、図7(b)および(c)に示されるように、タグ・ゲート40に乗り上げると、タグ・ゲート40を構成する複数の無線ICタグ42から通路38に進入するのに好適な指定方向Dを示す情報を読み取り、該情報に基づいて自己の進行方向dを修正する。タグ・ゲート40は、無線信号発信手段としての複数の無線ICタグ42が移動平面10に埋設されて形成されるものである点で、第1の実施形態において説明した無線信号発信手段と共通するものであるが、無線ICタグに格納されている情報が異なり、またその配置態様に特徴を有するものである。以下、図8を参照してタグ・ゲート40を構成する無線信号発信手段としての複数の無線ICタグ42について詳細に説明する。
【0029】
図8は、タグ・ゲート40における無線ICタグ42の配置の態様を示す図である。タグ・ゲート40においては、複数の無線ICタグ42は、その各々の中心が互いに正三角形の頂点となるように配置される。各無線ICタグ42には、自己のID情報と、自己を1つの頂点とする上述した正三角形の他の2つの頂点の位置に配置される他の無線ICタグ42のID情報を格納している。図8を例にとれば、無線ICタグ「A」のメモリには、無線ICタグ「B」、「C」、「X」、「Y」の4つの他の無線ICタグ42のID情報を格納している。さらに、タグ「A」のメモリには、タグ「A」から見て、指定方向Dに対し+30°の位置にあるタグとしてタグ「B」を、同じく指定方向Dに対し−30°の位置にあるタグとしてタグ「C」を定義する情報を格納し、さらに同じく指定方向Dに対し+90°の位置にあるタグならびに−90°の位置にあるタグとしてそれぞれタグ「X」およびタグ「Y」を定義する情報を格納している。換言すれば、無線ICタグ「A」、「B」、「C」を頂点とする正三角形の一辺BCの垂線方向を、タグ・ゲート40の指定方向Dとして定義するための情報が格納されているということができる。本実施形態における無線ICタグ42は、座標情報などの相対的な位置情報を何ら格納するものではないが、移動平面10において無線ICタグ42を所定の配置に並べることによって所望の指定方向を定義することを可能にするものである。ここで、図9を参照して、本実施形態の方位推定システムを利用した進行方向修正の機構を以下説明する。
【0030】
図9(a)は、5つの無線ICタグ42から構成されるタグ・ゲート40に対し電動車椅子として構成された車椅子30が矢印d方向から斜めに進入する態様を示している。タグ・ゲート40が定義する指定方向Dは、無線ICタグ「A」、「B」、「C」を頂点とする正三角形の一辺BCの垂線方向であり、図9においては破線の矢印で示している。車椅子30の進行方向dは、タグ・ゲート40が定義する指定方向Dとずれているため、車椅子30は、タグ・ゲート40において進行方向を修正される必要がある。そのため車椅子30に搭載された方位推定システムは修正に必要な角度情報を取得する。以下、その機構について図9を参照しながらさらに説明を続ける。
【0031】
図9(a)が示す状態から矢印d方向に車椅子30がさらに進入すると、図9(b)に示すようにアンテナ34がその原点位置において無線ICタグ「A」が発信する無線信号を最初に受信する。車椅子30は、最初の無線ICタグ42を検出するとその場で停止するように駆動制御されている。車椅子30が停止すると、引き続いてアンテナ34はその原点を開始点として矢印Rが示すように円運動をはじめ、360度回転して再び原点に戻る。アンテナ34は、その回転に伴って無線ICタグ「A」に引き続き、無線ICタグ「B」および無線ICタグ「C」が発信する無線信号を順次受信する。本実施形態において複数の無線ICタグ42は、その各々の中心が互いに正三角形の頂点となるように配置されることは既に述べたが、この正三角形の大きさ、すなわち各無線ICタグ42の離間距離とアンテナ34の円運動の回転半径は関連づけて決定されることが好ましい。すなわち、アンテナ34が回転することによって3つのタグの信号が好適に取得できるように両者のスケールは決定されることが望ましい。このように構成することによって、最初の無線ICタグ42を検出した直後に車椅子30をその場で停止させ、アンテナ34を回転させると必ず対になる2以上の他の無線ICタグ42を検出することができることになる。
【0032】
図9(b)に示される状態において、アンテナ34は、原点を起点として360度回転しながら、無線ICタグ「A」、「B」、「C」のID情報を順次情報処理装置のメモリに格納する。さらに加えて、アンテナ34の回転中心から見た無線ICタグ「A」、「B」、「C」の方向に関する情報を上述したID情報に関連づけてメモリに格納する。すなわち、情報処理装置は、無線信号の受信状態から導出される車椅子30の進行方向dを基準としたタグ「A」、「B」、「C」の方位角情報を取得し、この方位角情報を用いて演算することによって進行方向dを推定する。ここで、無線ICタグにパッシブ型を採用した場合、無線ICタグ「A」、「B」、「C」の方向は、指向性が非常にブロードであるため一義的に求めることが困難である。したがって、本実施形態においては、アンテナ34の受信状態を追跡し、無線ICタグ「A」、「B」、「C」それぞれについて、アンテナ34によって無線信号の検出がされ始める原点を基準としたアンテナ34の回転角の情報と無線信号の検出ができなくなったアンテナ34の回転角の情報を利用することによって、無線ICタグ「A」、「B」、「C」の方向を求めることが出来る。本実施形態においては、上述したID情報及びアンテナ34の回転中心を基準とした無線ICタグ「A」、「B」、「C」の方向の情報を利用して車椅子30の進行方向を修正するために必要な角度を推定する。以下、その推定アルゴリズムを、図10および図11を参照して説明する。
【0033】
図10(a)に示されるように、本実施形態においては、アンテナ34は、★が示す原点を起点として時計回りに360°回転しながら無線信号を受信する。本実施形態のアルゴリズムは、その前提として、図10(b)に示すように、無線信号の検出がされ始めるアンテナ34の位置Sとアンテナ34の回転中心Dと無線信号の検出ができなくなった位置Eとを結ぶ線分がなす角の二等分線上に無線信号の発生源であるそれぞれの無線ICタグ42が存在すると仮定する。図10(b)に示す矢印A1、矢印B1、矢印C1は、角の二等分線を示す。次に、図11(a)に示すように原点から矢印A1、矢印B1、矢印C1までの回転角を、それぞれθa、θb、θcとすると、無線ICタグ「A」と「B」の成す角度「α」は下記式(3)によって、無線ICタグ「A」と「C」の成す角度「β」は下記式(4)によって求められる。
【0034】
【数3】

【0035】
【数4】

本実施形態においては、無線ICタグ「A」、「B」、「C」は、図11(b)が示すように、正三角形の頂点に配置されていることから、図11(b)に示されるθについて下記の関係式が成立する。すなわち、三角形ADBについての余弦定理より、下記式(5)および(6)が成立する。
【0036】
【数5】

【0037】
【数6】

上記式(5)と上記式(6)からaを消去し、cでまとめると、下記式(7)が導出される。
【0038】
【数7】

また、三角形ADCについて余弦定理より、下記式(8)および(9)が成立する。
【0039】
【数8】

【0040】
【数9】

上記式(8)と上記式(9)からbを消去し、cでまとめると、下記式(10)が導出される。
【0041】
【数10】

上記式(7)と上記式(10)の両式を等号で結びcを消去して、θを初期値π/6、範囲0〜π/3でニュートン法や二分法を用いてθを求める。求められたθは、上述したθa分だけオフセットされた値となっているので、θからθaを差し引くことにより最終値となる。
【0042】
図12は、上述した手順で求められた最終値θと車椅子30の進行方向dの関係を示す。θが30度のときは、タグ・ゲート40が定義する指定方向Dに対してズレがない状態であり、θが30度より小さい場合は左方向に、大きい場合には右方向にズレがあることを示す。ズレがあると判断された場合には、これを修正する。修正は、上記θに関連して図示しない駆動手段によって車椅子30を回転させ自動的に行うことが好ましい。また、検出された無線ICタグ42が無線ICタグ「A」「X」「B」の場合や、「A」「C」「Y」の場合には、θの結果にπ/3を加減することにより方向を計算することができる。
【0043】
以上、本発明の方位推定システムの第2の実施形態を、移動体の進行方向が所定の指定方向に対してずれている場合にこれを修正する用途に実施する場合の例として説明してきた。しかしながら、本実施形態の方位推定システムは方向修正にその用途を限定するものではない。例えば、無線ICタグによって定義する指定方向を方位(たとえば北)と定義することによって、第2の実施形態の方位推定システムは、移動体の進行方向の方位を推定する目的に用いることもできる。また、第2の実施形態の方位推定システムが、移動体の方向情報を提供する手段として既存のナビゲーションシステムに組み込まれることが可能であることは、当業者には容易に理解されるところである。
【0044】
以上、本発明を第1および第2の実施形態をもって説明してきたが、本発明における移動体は、第1および第2の実施形態において例示した車椅子に限定されるものでは当然なく、乳母車、ショッピングカート、高齢者用手押し車などを含む概念であり、また、エンジンまたは電気モータなどの駆動源の有無によっても限定されるものではなく自動車を始めとする、既存のナビゲーションの対象となっている全ての移動体を含むものとして理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上、説明したように、本発明によれば、移動軌跡を用いることなく移動体の方向情報を直接的に取得するためシステムが提供される。本発明の
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態の方位推定システムを採用する移動体ナビゲーションシステムにおける移動平面の上面図。
【図2】本実施形態における移動体としての車椅子14を示す図。
【図3】車椅子14が移動平面10を移動する態様を示す上面図。
【図4】本実施形態の移動体の進行方向の方向を推定する演算アルゴリズムを示す概念図。
【図5】本実施形態の移動体ナビゲーションシステムが採用された建物20の見取り図。
【図6】第2の実施形態における移動体としての車椅子30を示す図。
【図7】本実施形態において移動平面10に配置されるタグ・ゲート40を示す図。
【図8】タグ・ゲート40における無線ICタグ42の配置の態様を示す図。
【図9】本実施形態の方位推定システムを利用した進行方向修正の機構を示す図。
【図10】アンテナ34が原点を起点として時計回りに回転しながら無線信号を受信する態様を示す図。
【図11】原点から矢印A1、矢印B1、矢印C1までの回転角を表す図。
【図12】演算によって求められた最終値θと車椅子30の進行方向dの関係を示す図。
【符号の説明】
【0047】
10…移動平面、12…無線ICタグ、14…車椅子、16…アンテナ、18…インターフェイス、20…建物、30…車椅子、32…無線ICタグ、34…アンテナ、38…通路、40…タグ・ゲート、42…無線ICタグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標として定義される移動平面を移動する移動体の進行方向を推定する方向推定システムであって、
前記移動平面に配置され、前記座標情報を示す無線信号を発信する複数の無線信号発信手段と、
前記移動体に配設され、少なくとも2つの前記無線信号発信手段が発信する無線信号を受信するための無線信号受信手段と、
前記無線信号受信手段が受信した前記無線信号から少なくとも2つの前記座標情報を読み取る座標情報取得手段とを含み、
読み取られた少なくとも2つの前記座標情報から前記移動体の進行方向を演算する、方向推定システム。
【請求項2】
前記無線信号受信手段は、前記移動平面に相対する前記移動体の底面に、互いに離間して配設される2つの無線信号受信部を含む、
請求項1に記載の方向推定システム。
【請求項3】
前記2つの無線信号受信部の各中心を結ぶ線分が、前記移動体の進行方向を定義する直線に対し垂線となるように、前記無線信号受信部が配設される、請求項2に記載の方向推定システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向推定システムによって移動体の進行方向情報を取得する、移動体のナビゲーションシステム。
【請求項5】
座標として定義され且つ分割された領域の集合として定義される移動平面を移動する移動体のナビゲーションシステムであって、
前記ナビゲーションシステムは、
前記移動平面に配置され、前記座標情報ならびに前記座標情報が属する前記領域の識別情報を示す無線信号を発信する複数の無線信号発信手段と、
前記移動体に配設され、少なくとも2つの前記無線信号発信手段が発信する無線信号を受信するための無線信号受信手段と、
前記無線信号受信手段が受信した前記無線信号から前記識別情報および少なくとも2つの前記座標情報を読み取る情報取得手段とを含み、
読み取られた前記領域の識別情報を前記移動体の位置情報として前記移動体の移動軌跡を追跡し、読み取られた少なくとも2つの前記座標情報から前記移動体の進行方向を演算する、ナビゲーションシステム。
【請求項6】
固有の識別情報を示す無線信号を発信する第1、第2、および第3の無線信号発信手段がそれぞれの中心を結ぶ線分によって正三角形を形成するように配置される移動平面を移動する移動体の進行方向を推定する方向推定システムであって、
前記移動体に設けられ、前記移動平面に相対する平面を円運動することによって前記第1、第2、および第3の無線信号発信手段が発信する無線信号を順次受信する回転式無線信号受信部を備える無線信号受信手段を含み、
前記回転式無線信号受信部は、前記移動体の進行方向に対して最後尾となる位置を原点として前記円運動を開始し、
前記無線信号受信手段が受信した前記無線信号の示す識別情報と、前記無線信号の受信状態から導出される前記移動体の進行方向を基準とした前記第1、第2、および第3の無線信号発信手段の方位角情報から前記移動体の進行方向を演算する方向推定システム。
【請求項7】
前記円運動に伴って変化する前記無線信号の受信状態を追跡して前記無線信号の検出が開始される検出開始点と前記無線信号が検出されなくなる検出終了点とを抽出し、前記検出開始点と前記検出終了点から前記第1、第2、および第3の無線信号発信手段の前記方位角情報を推定する、
請求項6に記載の方向推定システム。
【請求項8】
請求項6または7のいずれか1項に記載の方向推定システムによって移動体の進行方向情報を取得する、移動体のナビゲーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−128993(P2008−128993A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317843(P2006−317843)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年5月26日 社団法人 日本機械学会発行の「ロボティクス・メカトロニクス 講演会2006 講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月11日 国立大学法人 信州大学・蘇州大学機電工程学院・福州大学発行の「第3回日中メカトロニクス国際会議 講演論文集」に発表
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】