説明

窒化物半導体の積層体及びその製造方法

【課題】反り量を低減できる窒化物半導体の積層体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】実施形態によれば、窒化物半導体の積層体は、主面に凸部を有する基板と、前記基板の前記主面上に直接設けられて前記凸部を覆う単結晶層と、前記単結晶層上に設けられた窒化物半導体層と、を備えている。前記基板は窒化物半導体を含まない。前記単結晶層はクラックを内在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、窒化物半導体の積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体層を気相成長させるにあたって、結晶成長雰囲気中での安定性や価格などの観点から、サファイア基板が多く使用されている。サファイア基板は、窒化物半導体と格子整合せず、また窒化物半導体との熱膨張係数差が大きいことから、サファイア基板上に成長したGaN結晶中には多くの結晶欠陥ができやすい。その欠陥の導入には前記した二つの物性が係わっていると考えられる。一つはサファイア基板と窒化物半導体との格子定数差に起因する歪であり、他の一つは成長温度から室温まで冷却する過程における基板と成長層との熱膨張係数差に起因する歪である。
【0003】
それら歪は結晶成長後の基板に反りを生じさせる原因となる。基板の反りは、その後の素子化プロセスに影響を与える。特にリソグラフィー工程では、マスクと基板との並行度がパターン転写の精度に大きく影響を与えるため、反りの影響は大きい。今後、素子コスト低減に向け更なる基板の大口径化が進むことが考えられ、基板の反りが大きな問題として顕在化してくると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−246698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反り量を低減できる窒化物半導体の積層体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、窒化物半導体の積層体は、主面に凸部を有する基板と、前記基板の前記主面上に直接設けられて前記凸部を覆う単結晶層と、前記単結晶層上に設けられた窒化物半導体層と、を備えている。前記基板は窒化物半導体を含まない。前記単結晶層はクラックを内在している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)は実施形態の積層体の模式断面図であり、(b)はその積層体における基板及び単結晶層の拡大断面図。
【図2】(a)は図1(b)に示す構造の模式斜視図であり、(b)はその上面図。
【図3】実施形態の積層体における基板主面に形成された凸部の平面パターン例を示す模式図。
【図4】実施形態の積層体に形成された窒化物半導体素子の模式断面図。
【図5】反りが生じた積層体の模式図。
【図6】AlN層膜厚と、上層への伝播欠陥密度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照し、実施形態について説明する。なお、各図面中、同じ要素には同じ符号を付している。
【0009】
図1(a)は、実施形態の積層体10の模式断面図であり、図1(b)は、その積層体10における基板11及び単結晶層21の拡大断面図である。
図2(a)は、図1(b)に示す構造の模式斜視図であり、図2(b)は、その上面図である。
【0010】
本実施形態の積層体10は、基板11上に単結晶層21を介して窒化物半導体層30が積層された構造を有する。
【0011】
基板11は、例えばサファイア基板であり、窒化物半導体を含まない。ここで、窒化物半導体とはInAlGaN系半導体である。また、基板11としては、窒化物半導体と格子整合せず、熱膨張係数が異なる材料であり、例えば、サファイアの他にSiC、ZnO、Siなども用いることができる。
図1(b)には、例えばサファイア基板11の結晶方位を示している。
【0012】
基板11の主面には凸部12が形成されている。ここで、主面は(0001)面であり、また(0001)面からのオフ角度が0〜0.3°の面も含む。凸部12は、傾斜側面を有する、断面が台形状に形成されている。複数の凸部12が、<1−100>方向に延びるストライプ状の平面パターンで形成されている。なお、結晶方位の表示における“−1”は、“1”の上に“−”が付された指数を表す。
【0013】
単結晶層21は、AlGa1−xN(0.8≦x≦1)層である。例えば、本実施形態では、単結晶層21は、Al組成比xが1.0のAlN層である。その単結晶層21は、例えば、MOCVD(metal organic chemical vapor deposition)法により、成長温度約1200℃で、基板11の主面上に直接成長された。単結晶層21の膜厚は、例えば100(nm)である。単結晶層21は、凸部12の側面及び上面を覆い、その上面はほぼ平坦である。
【0014】
単結晶層21上に設けられた窒化物半導体層30は、例えば、GaN単結晶層であり、その膜厚は3(μm)である。
【0015】
本積層構造の断面を顕微鏡で観察すると、単結晶層21にクラックcが発生しているのが確認できた。このクラックcは、基板(サファイア基板)11と、この基板11の主面上に直接成長された単結晶層(AlN層)21との格子定数差(約11%)に応じた臨界膜厚以上で発生するものと考えられる。
【0016】
図1(b)及び図2(a)に示すように、凸部12の傾斜側面の上部(凸部12の上面と傾斜側面との境界)の上にクラックcが発生した。さらに、凸部12の傾斜側面の下部(基板11の主面と凸部12の傾斜側面との境界)の上にもクラックcが発生した。
【0017】
また、図2(a)及び(b)に示すように、クラックcは、凸部12がストライプ状に延びる方向(基板11の<1−100>方向)だけでなく、凸部12が延びる方向に交差する方向にも発生していることが確認できた。
【0018】
ストライプ状の凸部12に交差する方向に延びているクラックcは、凸部12に沿って延びているクラックcの位置で終端している。また、ストライプ状の凸部12に交差する方向に延びているクラックcが延びている方向は、凸部12が延びている<1−100>方向に結晶学的に等価な方向である。すなわち、サファイア基板11の<1−100>方向及びそれに等価な複数方向に沿ってクラックcが発生している。
【0019】
これらのことから単結晶層21中のクラックcは、所定の結晶方位に沿って形成された凸部12に起因して発生し、ひいてはその凸部12によってクラックcが制御されていると言える。
【0020】
すなわち、サファイア基板11の(0001)面に単結晶層21であるAlGaN層を直接成長させる具体例においては、サファイア基板11の(0001)面に、<1−100>方向もしくはその等価方向に延びる凸部12があると、それら方向に沿ってクラックcが発生しやすくなる。そして、凸部12のレイアウト、本数、密度、形状、サイズ、AlGaN層の膜厚、Al組成比などを適切に設定することで、クラークcの発生位置、密度、本数などを制御することが可能である。
【0021】
また、単結晶層21中にクラックcが発生し始める臨界膜厚は、サファイア基板11と単結晶層21との格子定数差、および単結晶層21のAl組成xに依存することがわかった。本発明者等の鋭意実験によれば、単結晶層21であるAlGaN層の膜厚が概ね50(nm)以上でクラックcの発生が見られるようになり、AlGaN層のAl組成比xが1.0(AlN層)の場合は膜厚85(nm)以上、Al組成比xが0.8の場合は110(nm)以上でクラックcが顕著に発生した。
【0022】
Al組成比xが1.0及び0.8の場合、ともに膜厚が1000(nm)以上で、前述した結晶方位に延びるクラック以外のクラック、すなわち凸部12に起因しないクラックも顕著に発生していまい、クラックの発生を凸部12によって制御できなくなってしまうことがわかった。
【0023】
次に、本実施形態の積層体10の製造方法について説明する。
【0024】
例えば、直径が4インチ、厚さが900(μm)のサファイア基板11を用いた。そのサファイア基板11の主面((0001)面)に、例えばRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング法で複数の凸部12を形成する。あるいは、ウェットエッチングで凸部12を形成してもよい。
【0025】
複数の凸部12は、周期的なストライプ状の平面パターンで形成される。凸部12は、サファイア基板11の<1−100>方向に延びている。なお、サファイア基板11の(0001)面上に成長されるAlGaN層中には、サファイア基板11の<1−100>方向もしくはその方向と結晶学的に等価な方向に沿ってクラックが発生しやすい。このため、凸部12は、<1−100>方向と等価な方向に延びるように形成してもよい。
【0026】
凸部12の高さは約30(nm)、幅は約1(μm)、周期は約5(μm)、側面の傾斜角(図1(b)におけるθ)は約60°である。
【0027】
そのような凸部12が形成された基板11の主面は必要に応じ薬液溶剤で洗浄処理された後、ロードロック機構を介して反応炉内に搬入される。
【0028】
そして、反応炉内に水素を導入しながら基板11の温度を1250℃に加熱してサーマルクリーニングを行った後、基板11の温度を1200℃に安定化させ、窒素、アンモニア及びアルミニウム原料となるトリメチルアルミニウムを反応炉内に導入して、AlNの単結晶層21を100(nm)の厚さで成長させる。
【0029】
本実施形態におけるサファイア基板11上に直接成長される単結晶層21は、例えば600℃程度の温度で成長されるいわゆる低温バッファ層と呼ばれるアモルファス層とは異なり、1000℃以上の高温で気相成長される単結晶層である。
【0030】
続いて水素、窒素及びアンモニアを含む雰囲気中で基板11の温度を1100℃に安定化させ、ガリウム原料であるトリメチルガリウムを反応炉内に加えて、AlNの単結晶層21上に、GaN単結晶の窒化物半導体層30を3(μm)の厚さで成長させる。
【0031】
このGaN層の成長後、トリメチルガリウムを除いた雰囲気下で基板11の温度を室温まで降温し、基板11上に単結晶層21を介して窒化物半導体層30が積層された積層体10を、ロードロック機構を介して反応炉から取り出す。
【0032】
こうして得られたウェーハ状の積層体10は、サファイア基板11と、GaN層である窒化物半導体層30との熱膨張係数差(約25.5%)により、図5に示すように、反っている場合がある。前述した材料を用いた積層体10においては、サファイア基板11を下側にした状態で、面方向の中央部が上に凸となる形状に反りやすい。
【0033】
ここで、積層体10における面方向の中心部と、端面との間の高さを反り量hとする。前述した本実施形態の積層体10において単結晶層21を設けずに、サファイア基板11上に直接GaN層を成長させた構造を比較例の積層体とする。その比較例の積層体では、反り量hが約100(μm)であった。
【0034】
これに対して、本実施形態の積層体10は、反り量hが約80(μm)であり、比較例に比べて反り量が低減している。これは、クラックcを内在する単結晶層21が緩衝材となって、サファイア基板11とGaN層との熱膨張係数差を主因とする歪を軽減したと考えられる。
【0035】
なお、単結晶層21の厚さを、上記臨界膜厚よりも小さい30(nm)にした場合、クラックの発生は見られず、反り量hも100(μm)と、比較例と同じ結果であった。したがって、単結晶層21の膜厚を、基板11との格子定数差及びAl組成比から決まる臨界膜厚以上の膜厚にすれば、単結晶層21にクラックが発生し、反り量の低減が可能になる。
【0036】
また、クラックの位置、数、密度、方向性などは、単結晶層21のAl組成比、凸部12の数、密度、形状、位置、サイズ、周期などによって制御できる。したがって、基板11の主面に形成する凸部12及び単結晶層21のAl組成比を適切に設計することで、積層体10の反り量の制御が可能である。
【0037】
すなわち、本実施形態によれば、凸部12を有する基板11の主面上に直接成長させた単結晶層21に、凸部12を起因としたクラックcが発生するのを利用することで、上層の窒化物半導体層30と、サファイア基板11との熱膨張係数差を主因とする歪みを緩和できる。この結果、高温での結晶成長を経て室温に戻された基板11に生じる反り量を低減できる。
【0038】
基板11の反り量の低減は、その後の基板11上への素子形成を容易にする。例えば、各種コート膜の塗布工程、リソグラフィー工程、エッチング工程において、基板11面内での特性均一性を高くできる。
【0039】
凸部の平面レイアウトは、ストライプ状に限らない。図3(a)に示すように、複数の島状の凸部13を、基板11の主面に形成してもよい。
【0040】
一つの凸部13は、例えば円形の平面形状を有する。あるいは、凸部13の平面形状は、楕円形、四角形、三角形、多角形等であってもよい。複数の島状の凸部13は、例えば5(μm)周期でもって正三角形状の平面レイアウトで形成されている。このような凸部13を形成した積層体では、上記反り量hを、ストライプ状の凸部12のときの80(μm)よりも小さい70(μm)に低減することができた。
【0041】
複数の島状の凸部13は、基板主面を上方から見た平面視で複数方向に配列され、すなわち等方的に配列されている。このため、クラックを基板面方向に等方的に発生させることができ、歪みを基板面方向に等方的に分散できたと考えられる。この結果、ある一方向のみに延びるストライプ状の凸部12を形成した積層体よりも、複数の島状の凸部13を形成した積層体では反り量hが低減したものと考えられる。
【0042】
したがって、ストライプ状の凸部にする場合も、図3(b)に示すように、所定の結晶方向に延びる凸部14a、その所定の結晶方向に対して等価であって且つ交差する方向に延びる凸部14b及び14cの複数本の凸部14a〜14cを形成してもよい。これにより、基板面方向で歪みを等方的に分散でき、反り量をより低減できる可能性がある。
【0043】
クラックが所定の結晶方位に沿って入りやすい場合、その結晶方位の方向に凸部が存在すると、クラックはその結晶方位に沿って入りやすく、且つクラックの延びる方向や位置を制御することが容易になる。クラックの容易な制御は、反り量をより小さくするための凸部の設計を容易にする。
【0044】
したがって、ストライプ状の凸部12の場合、その凸部12を所定の結晶方位もしくはそれと等価な方向に延びるように形成すると、反り量を低減するための凸部の設計が容易になることがある。また、島状の凸部13の場合には、複数の島状の凸部13を、所定の結晶方位もしくはそれと等価な方向に沿って配列すると、反り量を低減するための凸部の設計が容易になることがある。
【0045】
また、凸部が周期性を有すると、その周期とクラックとの因果関係に基づいて、反り量を低減するための凸部の設計が容易になることがある。
【0046】
凸部は前述した形態に限らず、その高さ、幅、側面の傾斜角、周期、位置など、任意に変形して実施可能である。また、凸部の側面が、基板11の主面に対して垂直であってもよい。また、周期性を有さないレイアウトで凸部が形成されていてもよい。いずれにしても、凸部が存在することで、その凸部の形成位置で、凸部をきっかけとして単結晶層21にクラックが発生しやすくなる。凸部とクラックとの相関関係が見出されると、凸部の設計によって、クラックの発生を制御することが可能になる。結果として、基板の反り量の低減を図れる。
【0047】
InAlGaN系の窒化物半導体は、その光学遷移が直接遷移型であるため高効率発光再結合が可能であり、またその遷移エネルギ−が2〜6.2(eV)と広く、LD(Laser Diode)あるいは高輝度可視LED(Light Emitting Diode)などの高効率発光素子材料としてその開発が行われている。また、InGa1−YNは、In組成比Yを変化させることによりバンドギャップエネルギ−をGaNの3.4(eV)からInNの2(eV)まで変えることができ、可視発光素子用の発光層(活性層)として用いることができる。InGaN混晶を発光層とした発光素子は、蛍光体との組合せにより白色光源を構成することができ、液晶のバックライトや照明用光源として用いることができる。
【0048】
図4は、本実施形態の積層体に形成された例えばLED素子の断面構造を表す。
【0049】
サファイア基板11の直径は、例えば4インチであり、そのウェーハ状のサファイア基板11上に多数のLED素子が形成されている。図4は、そのうちの一つのLED素子の断面を表す。
【0050】
サファイア基板11の主面には、例えば図3(a)に示す複数の島状の凸部13が形成されている。サファイア基板11の厚さは、例えば900(μm)である。
【0051】
サファイア基板11の主面上に、クラックを内在する単結晶層としてAlN層21が形成されている。AlN層21の厚さは、例えば100(nm)である。
【0052】
AlN層21上には、意図的な不純物の添加がないアンドープ層としてアンドープGaN層22が形成されている。アンドープGaN層22の厚さは、例えば500(nm)である。
【0053】
アンドープGaN層22上には、n形GaN層23が形成されている。n形GaN層23は、n側のコンタクト層及びクラッド層として機能する。n形GaN層23の厚さは、例えば3(μm)である。
【0054】
n形GaN層23上には、発光層(活性層)24が形成されている。発光層24は、例えば、InGaN系のMQW(Multiple Quantum well)構造を有する。発光層24は、例えば、厚さ3(nm)のIn0.15Ga0.85Nの井戸層と、厚さ10(nm)のGaNの障壁層とを交互に複数積層した構造を有する。
【0055】
発光層24上には、p形Al0.2Ga0.8Nのクラッド層25が形成されている。p形クラッド層25の厚さは、例えば10(nm)である。
【0056】
p形クラッド層25上には、p形GaNのコンタクト層26が形成されている。p形コンタクト層26の厚さは、例えば100(nm)である。
【0057】
サファイア基板11上の前述した各層は、MOCVD法により気相成長され、その成長原料はトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、アンモニアが用いられ、ドーピング原料としてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)、モノシラン(SiH)を用いることができる。
【0058】
p形コンタクト層26上には、p側電極51が形成されている。p側電極51は、p形コンタクト層26と電気的に接続され、また発光層24からの光をほぼ透過するように薄膜化されている。
【0059】
n形GaN層23の一部の表面は露出され、その露出された表面にn側電極52が形成されている。n側電極52は、n形GaN層23と電気的に接続されている。
【0060】
前述したMOCVD法による各層の成長後、反応炉から取り出された本積層体の反り量hを測定したところ、80(μm)程であり、LED素子を作り込んでも反り量の低減効果を発揮できていることがわかった。
【0061】
また、p側電極51及びn側電極52を介して本LED素子にバイアスを与えたところ、発光波長450(nm)の光がp側電極51を透過して得られ、動作電流20(mA)での光出力は20(mW)であった。この光出力は、クラックを内在するAlN層21がない構造と同等であり、本LED素子がクラックの悪影響を受けていないことが判明した。
【0062】
これは、クラックが、光が放射される発光層24から見て波長以下の構造となっているため、光透過に対して影響を与えないことによると考えられる。発光層24とAlN層21との距離は3.5(μm)以上であり、クラックは内部が概ね空気で約100(nm)の高さを有する。
【0063】
また、図4に示すLED素子において、クラックを内在するAlN層21がない構造と同等の光出力が得られたことは、クラックによる上層への転位増加の影響も無いことを示している。
【0064】
図6は、AlN層の膜厚と、上層への伝播欠陥密度との関係を表す。横軸は、AlN層の膜厚(nm)を表し、縦軸は上層への伝播欠陥密度(cm−3)を表す。
【0065】
AlN層の膜厚が臨界膜厚の85(nm)以上になるとクラックが発生し、以降膜厚が増大するにしたがい伝播欠陥密度が増えていく。
【0066】
図4に示す構造において、発光層24の下地層に当たるn形GaN層23中の結晶欠陥密度は、サファイア基板11との格子不整合及び熱膨張係数差により、約10(cm−3)程度になっている。
【0067】
これに対し、AlN層中に内在するクラックに基づくと考えられる上層への伝播欠陥密度は、図6に示すように、AlN層の膜厚が250(nm)程度までは10(cm−3)以下であり、上層自身が有する欠陥密度よりも低くなっていることがわかる。
【0068】
したがって、サファイア基板11上にAlN層を直接成長させる具体例においては、AlN層の膜厚の適切な範囲は、85(nm)以上250(nm)以下であると言うことができる。すなわち、基板上にクラックを内在させつつ成長させる単結晶層の膜厚を適切に制御することで、発光素子特性に影響を与えずに、基板の反りを抑制することが可能である。
【0069】
クラックを内在する単結晶層上に直接形成される層が不純物を含むと、クラックに起因する欠陥が上層に伝播される懸念がある。そのため、クラックを内在する単結晶層上に直接形成される層は、アンドープ層が好ましい。
【0070】
そのアンドープ層は、前述したアンドープGaN層に限らず、アンドープAlGaN層であってもよい。クラックを内在する単結晶層としてAlN層を用いた場合、その上にアンドープAlGaN層を形成すると、AlN層との格子不整合を起因とするAlN層とアンドープ層との界面での欠陥発生を抑制することができる。
【0071】
また、発光層24からの光の伝播を考えた場合に、上記アンドープAlGaN層の存在は屈折率整合に適している。図4のLED素子においてアンドープ層22としてアンドープAlGaN層を用いた場合、発光波長450(nm)の光がp側電極51を透過して得られ、動作電流20(mA)での光出力は22(mW)であった。
【0072】
また、クラックを内在する単結晶層上に直接形成される層は、クラックの埋め込み層として機能し、上層の形成に影響を与えない平坦な上面で形成されることが好ましい。例えば、マグネシウムを添加した層を、クラックを内在する単結晶層上に直接形成すると、横方向成長が促進され、クラックの埋め込み性を向上でき、比較的薄い膜厚でも平坦な上面を得やすい。デバイス特性への寄与に乏しい埋め込み層の膜厚増大を抑制できることで、コスト低減を図れる。
【0073】
サファイア基板11の直径は4インチに限らない。より大きな直径の基板ほど反りの影響は大きくなるため、より大きな直径の基板に対して本実施形態は有効となる。
【0074】
また、クラックを発生させる単結晶層としてAlGa1−xN(0.8≦x≦1)層を例示したが、基板の反りを緩和させる前述した効果と同効果をもたらすクラックを、基板上への成長時に生じさせることができればよい。例えばAlを40%以上含むInAlGaN系結晶の単結晶層でも同様な効果が期待できる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
10…窒化物半導体の積層体、11…基板、12,13,14a〜14c…凸部、21…単結晶層、22…アンドープ窒化物半導体層、23…n形窒化物半導体層、24…発光層(活性層)、25…p形クラッド層、26…p形コンタクト層、30…窒化物半導体層、51…p側電極、52…n側電極、c…クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体を含まず、主面に凸部を有する基板と、
前記基板の前記主面上に直接設けられて前記凸部を覆い、クラックを内在する単結晶層と、
前記単結晶層上に設けられた窒化物半導体層と、
を備えたことを特徴とする窒化物半導体の積層体。
【請求項2】
前記クラックは、前記凸部の側面の上部の上に存在することを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項3】
前記クラックは、前記凸部の側面の下部の上に存在することを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項4】
複数の前記凸部が周期性を有する平面パターンで形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項5】
複数の前記凸部がストライプ状に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項6】
前記凸部は、前記基板の所定の結晶方位に延びていることを特徴とする請求項5記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項7】
前記複数の凸部が、前記所定の結晶方位と等価な複数方向に延びていることを特徴とする請求項6記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項8】
前記クラックは、前記凸部に沿って延びていることを特徴とする請求項6または7に記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項9】
複数の前記凸部が島状に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項10】
前記島状の複数の凸部は、前記基板の所定の結晶方位に配列されていることを特徴とする請求項9記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項11】
前記島状の複数の凸部が、前記所定の結晶方位と等価な複数方向に配列されていることを特徴とする請求項10記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項12】
前記クラックは、前記凸部の配列方向に延びていることを特徴とする請求項10または11に記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項13】
前記単結晶層は、AlGa1−xN(0.8≦x≦1)層であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項14】
前記単結晶層は、AlN層であることを特徴とする請求項13記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項15】
前記単結晶層は、前記基板との格子定数差及びAl組成比から決まる臨界膜厚以上の厚さを有することを特徴とする請求項13または14に記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項16】
前記基板は、サファイア基板であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項17】
前記窒化物半導体層は、発光層を含むことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1つに記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項18】
前記窒化物半導体層は、前記単結晶層上に直接設けられたアンドープ層を含むことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1つに記載の窒化物半導体の積層体。
【請求項19】
窒化物半導体を含まず、主面に凸部を有する基板の前記主面上に直接、単結晶層をクラックを生じさせつつ成長させ、前記単結晶層で前記凸部を覆う工程と、
前記単結晶層上に窒化物半導体層を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする窒化物半導体の積層体の製造方法。
【請求項20】
前記単結晶層を1000℃以上の温度で前記基板上に気相成長させることを特徴とする請求項19記載の窒化物半導体の積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−134294(P2012−134294A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284523(P2010−284523)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】