説明

窒化物半導体発光素子およびその製造方法

【課題】金属の密着層のようにpn接合のショートおよび光の吸収を抑制するための膜厚制御性を必要とせず、かつ共振器端面と端面コート膜の密着性を向上させる密着層により、信頼性、生産効率の高い窒化物半導体発光素子を提供することである。
【解決手段】III−V族窒化物半導体層を有した窒化物半導体レーザバー100の前面側の共振器端面113に、六方晶の結晶からなる密着層115を積層し、密着層115に端面コート膜116を積層し、同様に背面側の共振器端面114にも六方晶半導体層からなる密着層118を積層し、密着層118に端面コート膜117を積層した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
III−V族窒化物半導体層と共振器の端面に形成された端面コート膜とを備えた窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの記憶容量の更なる高密度化が要求されており、青色半導体レーザを使用したBD(Blu−ray Disc)やHD−DVD(High Definition DVD)の規格化およびデコーダ等の製品化が行われている。これらの新規のディスクは更なる高密度化(二層ディスク対応)および高速書込みを可能とするために、信頼性の高い高出力青色半導体レーザが必要とされている。
【0003】
従来のCDまたはDVDの再生および書込みを行うAlGaAs系またはInGaAlP系半導体レーザでは、共振器端面の劣化および共振器端面の光学的な損傷を防ぐためにSiO2、Si34、Al23等の誘電体膜を共振器端面にコーティングしている。この手法を青色半導体レーザに用いると、駆動電流の急速な増加が観察された。そこで、コーティング技術の改善が必要となっている。
【0004】
特許文献1には、端面劣化の原因の一つが共振器端面と端面コート膜の密着性が良好でないことにあり、共振器端面に金属の密着層を介して端面コート膜を形成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2002−335053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、密着層に金属膜を用いると、共振器端面上におけるpn接合がショートし、さらに光の吸収も大きくなる。窒化物半導体レーザにおいては、発振波長が短く光のエネルギーが大きいので、わずかな光吸収により出射端面が劣化するため、光出力が100mWを越えるような高出力のデバイスを実現することが困難である。一方、pn接合のショートおよび光の吸収を抑制する観点からは膜厚が10nm以下、より好適には5nm以下、さらに好適には2nm以下に制御する必要がある。この場合、膜厚制御の困難さが歩留り低下の原因になる。
【0006】
本発明は、金属の密着層のようにpn接合のショートおよび光の吸収を抑制するための膜厚制御性を必要とせず、かつ共振器端面と端面コート膜の密着性を向上させる密着層により、信頼性、生産効率の高い窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の窒化物半導体発光素子は、共振器の端面と端面コート膜との間に六方晶の結晶からなる密着層を設けたものである。
【0008】
この構成によると、密着層として六方晶の結晶を用いることにより、同じく六方晶の単結晶からなる窒化物半導体層との相性がよいため、密着層が共振器の端面に、強固に接合される。
【0009】
なお、密着層は、共振器端面の光学的な損傷を防ぐために少なくとも共振器の光出射端面と端面コート膜との間に設ければ足りる。
【0010】
また、密着層の層厚は20nm以下であればクラックが生じずに良好な膜を作製できる。密着層であるAlN、GaN、又はBN等は、窒化物半導体の劈開端面に製膜すると、緻密な膜が形成できるものの、内部応力が大きく、それが原因で微小なクラックが生じるとともに剥がれる怖れがある。しかし、密着層の層厚を20nm以下、より好ましくは10nm以下と非常に薄くし、その上に端面コート膜を設けることで、このような問題を解決できる。また、密着層の層厚が1nm未満であると、層としての形成が十分でなく、密着性向上の機能を果たさなくなる怖れがある。よって、密着層の層厚は1nm以上20nm以下であることが好ましい。
【0011】
また、密着層にはZnOを好適に用いることができる。このとき、端面コート膜は酸化物を用いることが好ましい。この酸化物としては、Al、Si、Ti、Hf、Nb、Ta、Zrの何れかの酸化物の単層又は何れかの酸化物の層を含む多層構造を用いることができる。
【0012】
また、密着層にはAlN、GaN、又はBNを好適に用いることができる。このとき、端面コート膜は窒化物を用いることが好ましい。また、端面コート膜は酸化物を用いることも好ましく、この酸化物としては、Al、Si、Ti、Hf、Nb、Ta、Zrの何れかの酸化物の単層又は何れかの酸化物の層を含む多層構造を用いることができる。また、高反射率の端面コート膜は一般に酸化物系の材料の多層膜が用いられている。
【0013】
このように、端面コート膜は、積層する密着層と共通の組成元素を含む化合物を用いることが好ましい。例えば、ZnO等の酸素を含む密着層にはAl、Si、Ti等を含む酸化物を、AlN、GaN、BN等の窒素を含む密着層にはSi等を含む窒化物を用いることができる。また、Alの窒化物を密着層に用いた場合、同じくAlを含むAlの酸化物を端面コート膜として特に好適に用いうる。ZnOとAl23のように酸素が共通である場合、界面の数原子層にてZn、Alの相互拡散が発生し、ZnxAlyO(x<1、y<1、x+y=1)が生成する。
【0014】
端面コート膜はSiの窒化物の単層またはSiの窒化物と酸化物の多層構造としてもよい。
【0015】
また、密着層をAlの窒化物、端面コート膜をAlの酸化物とすることにより、Alが共通であるため、密着層と端面コート膜との界面で密着層の窒素と端面コート膜の酸素とが相互拡散が発生して密着層と端面コート膜とが強固に密着する。
【0016】
また、密着層はマグネトロンスパッタリング法、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法、又はECR(Electron Cyclotron Resonance;電子サイクロトロン共鳴型)スパッタリング法で作製される。一般に六方晶の結晶はMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;有機金属気相成長)法を用いて400℃以上の高温で成長させられるが、マグネトロンスパッタリング法又はECRスパッタリング法では室温、プラズマCVD法では200℃以下で成長可能である。従って、活性層を劣化させることなく密着層を形成することができる。
【0017】
また本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、III−V族窒化物半導体層を形成する工程と、前記III−V族窒化物半導体層を劈開することにより前記III−V族窒化物半導体層共振器を形成する工程と、劈開によって形成された前記共振器の端面を不活性ガスによってとクリーニングする工程と、クリーニングを完了した前記共振器の端面に窒化アルミニウムからなる層を形成する工程と、前記窒化アルミニウムからなる層の表面に端面コート膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0018】
密着層は非常に薄いため、不活性ガスクリーニングによって密着層を形成する共振器の端面の水分や酸化膜をできる限り除去しておいた方が、端面との密着性が高まるため密着層としての効果を高めることができる。不活性ガスによるプラズマを用いたECRスパッタによって、共振器の端面のクリーニングを行ってから、密着層を形成する方が好ましい。また、不活性ガスのプラズマであれば、希ガスであるHe、Ne、Ar、Xeや窒素ガスを用いてECRスパッタを行っても、同じ効果が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、密着層として六方晶の結晶を用いることにより、電流のリーク及び光吸収を抑え、且つ端面コート膜を強固に共振器の端面に密着させることができる。その結果、信頼性、生産効率が向上する。また、密着層の層厚は、1nm以上20nm以下が好ましいが、この範囲であれば細かい制御をすることなく容易に密着層を形成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
レーザ構造及び電極が形成された窒化物半導体ウエハをダイヤモンドポイントによるスクライブ及びブレークの手法にてバーに劈開する。図1は、窒化物半導体レーザバーの共振器長に垂直な方向の断面図である。窒化物半導体レーザバー100は、n型GaN基板101側から順に、n−AlGaInNバッファ層102、n−AlGaInNクラッド層103、n−AlGaInNガイド層104、AlGaInN多重量子井戸活性層105、p−AlGaInNガイド層106、p−AlGaInNクラッド層107、p−AlGaInNコンタクト層108が積層されている。なお、これら窒化物半導体層にはIII−V族窒化物半導体を用いることができる。
【0021】
なお、活性層105にはAs、P等のV族材料が0.01〜10%程度含まれていても良い。p−AlGaInNガイド層106、p−AlGaInNクラッド層107及びp−AlGaInNコンタクト層108の少なくとも一部には、共振器方向に延伸したストライプ状のリッジ111が設けられる。ストライプの幅は、1.2〜2.4μm程度、代表的には1.8μm程度である。
【0022】
p−AlGaInNコンタクト層108に接してp電極110が設けられ、p電極110下部には、リッジ111部分を除いて絶縁膜109が設けられている。このように、窒化物半導体レーザバー100は、いわゆるリッジストライプ構造を有している。さらに、窒化物半導体レーザバー100の裏面側には、n電極112が形成されている。
【0023】
図2は、共振器長の横方向から見た窒化物半導体レーザバーの側面図である。共振器端面113に六方晶の結晶からなる密着層115、密着層115の表面に端面コート膜116、共振器端面114に端面コート膜117が積層される。密着層115としてはZnO、AlN、GaN、BN等から選定できる。
【0024】
窒化物半導体レーザバー100の劈開面が共振器端面113、114となる。製造方法としては、窒化物半導体レーザバー100をホルダーに固定してECRスパッタリング装置に導入する。ArのECRスパッタにて前面の共振器端面113の表面処理を行い、表面の吸着水分および自然酸化膜などの酸化物の除去を行う。この表面処理は、Ar以外にも不活性ガスであるHe、Ne、Kr、Xeや窒素ガスで行ってもよい。続いて共振器端面113の表面にECRスパッタにて厚さ10nmのZnO(密着層115)、単層のAl23(端面コート膜116)を順次成膜する。単層のAl23の厚さは反射率が5%になるように3λ/4nまたはλ/4n(λ:発振波長、n:屈折率)付近に設定されている。
【0025】
次に、ArのECRスパッタにて背面の共振器端面114の表面処理を行い、表面の吸着水分および酸化物の除去を行う。続いて共振器端面114の表面にECRスパッタにて端面コート膜117を成膜する。端面コート膜117はAl23/TiO2を1周期とする4周期分、合計8層の多層膜からなり、反射率が95%になるように各層の厚さがλ/4nに設定されている。多層膜は、一層目(共振器端面114側)がAl23である。
【0026】
この窒化物半導体レーザバー100を窒化物半導体レーザ素子のチップに分割し、パッケージングを行い寿命試験を行った。図3は、窒化物半導体レーザ素子の寿命試験のデータである。試験の条件は、60℃のパッケージ温度下で、120mWの一定ピーク光出力となるパルス電流駆動とした。7個のサンプルについて測定した結果をそれぞれ示している。図3に示すように、通電中の駆動電流の増加は減少し、MTTF(Mean Time To Failure;平均故障時間)は約5000時間(500、1000時間の駆動電流増加より予想)であった。そして、端面リーク電流による歩留り悪化は皆無であった。また、通電中の駆動電流の急激な増加は皆無であった。
【0027】
一方、従来の金属密着層を設けたレーザ素子のMTTFは約3000時間、端面リーク電流による歩留り悪化は投入素子:10個中5個の50%であった。端面リーク電流が発生したレーザ素子は、エージングの有無に関わらず、初期特性として既に動作電流が大きくなっているものである。また、MTTFが悪化している原因として、駆動中に突如、駆動電流値が急激に増加する現象があり、これは、共振器端面での光吸収や、膜の剥がれ、変質により引き起こされた端面の破壊的な劣化に伴うものである。従来の金属層を密着層に用いた場合、密着層がごく薄いとはいえ、光の吸収があるために、このような劣化が引き起こされるが、本発明によれば、密着層115の光吸収がなく、また、密着層115を介した共振器端面113と端面コート膜116との間の密着性にも優れ、さらに、密着層115自体の品質にも優れるので、このような現象が防止される。
【0028】
図4は、共振器長の横方向から見た他の窒化物半導体レーザバーの側面図である。共振器端面113に六方晶の結晶からなる密着層115、密着層115の表面に端面コート膜116、共振器端面114に六方晶の結晶からなる密着層118、密着層118の表面に端面コート膜117が積層されている。
【0029】
製造方法としては、窒化物半導体レーザバー100をホルダーに固定してECRスパッタリング装置に導入する。ArのECRスパッタにて前面の共振器端面113の表面処理を行い、表面の吸着水分および酸化物の除去を行う。続いて共振器端面113の表面にECRスパッタにて厚さ20nmのGaN(密着層115)、単層のSiO2(端面コート
膜116)を順次成膜する。単層のSiO2の厚さは反射率が5%になるように3λ/4n(λ:発振波長、n:屈折率)付近に設定されている。
【0030】
次に、ArのECRスパッタにて背面の共振器端面114の表面処理を行い、表面の吸着水分および酸化物の除去を行う。続いて共振器端面114の表面にECRスパッタにて厚さ20nmのGaN(密着層118)、端面コート膜117を成膜する。端面コート膜117はSiO2/TiO2を1周期とする4周期分、合計8層の多層膜からなり、反射率が95%になるように各層の厚さがλ/4nに設定されている。
【0031】
この窒化物半導体レーザバー100を窒化物半導体レーザ素子のチップに分割し、パッケージングを行い、前述した条件と同様の条件で寿命試験を行った(測定データは省略)。この場合も、通電中の駆動電流の急激な増加は皆無であった。
【0032】
なお、本実施形態において、密着層115、118は、透明な半導体であるZnO、AlN、GaN、BN等の六方晶の結晶であればよい。従来の密着層は金属層であり、この場合、端面コート膜は弱い結合力である分子間力で密着層に接合していたが、窒化物半導体層を形成するAlGaInN半導体と同じ結晶系である六方晶の結晶を密着層115、118に用いることにより、密着層115、118が、端面コート膜116、117および共振器端面113、114により強固に接合する。従って、金属層を密着層に用いた場合に生じていた電流のリーク及び光吸収を抑えつつ、端面コート膜116、117を、密着層115、118を介して共振器端面113、114に強固に密着させることができる。
【0033】
密着層115、118が六方晶の結晶であることは、TEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)での観察により確認が可能である。本発明の密着層115、118は、観察像のディフラクションパターンを見ると、六方晶の回折パターンが検出される。密着層115、118が六方晶でない場合、例えば密着層115、118の共振器端面113、114に接する部分の一部がアモルファス状であると、共振器端面113、114との接合が十分に得られないため、膜剥がれの不良が起こり得る。
【0034】
本発明においては、密着層115、118が六方晶であることが重要であるが、ただ単に共振器端面113、114にZnO、AlN、GaN、BN等を成膜するだけでは、20nm以下という薄い膜厚において、六方晶を得ることは困難である。六方晶を得るためには、密着層115、118の成膜直前に、前述したように共振器端面113、114へのプラズマ照射により、自然酸化膜や水分といった不純物を除去し、六方晶である窒化物半導体層を完全に露出させることが有効である。他にも、成膜後に熱処理を施すことも六方晶を得るのに有効である。
【0035】
また、端面コート膜116、117は、積層する密着層115、118と共通の組成元素を含む化合物を用いることができる。例えば、ZnO等の酸素を含む密着層115、118にはAl、Si、Ti、Hf、Nb、Ta、Zr等を含む酸化物を、AlN、GaN、BN等の窒素を含む密着層115、118にはSi等を含む窒化物を用いることができる。ZnOとAl23のように酸素が共通である場合、界面数原子層にてZn、Alの相互拡散が発生し、ZnxAlyO(x<1、y<1、x+y=1)が生成し、密着層115、118と端面コート膜116、117とがより強固に密着する。
【0036】
また、端面コート膜116、117は、上記の酸化物や窒化物の多層構造としてもよい。また端面コート膜116、117はSiの窒化物と酸化物の多層構造としてもよい。
【0037】
また密着層115、118は、少なくとも共振器の光出射端面と端面コート膜116、117との間に設けてあればよい。また、密着層115、118の層厚は20nm以下であればクラックが生じずに良好な膜を作製できる。また、密着層115、118は上記のようにECRスパッタリング法を用いるほかに、プラズマCVD法やマグネトロンスパッタリング法を用いてもよい。一般にZnO、AlN、GaN、BN等の六方晶の結晶はMOCVD法を用いて400℃以上の高温で成長させられるが、マグネトロンスパッタリング法又はECRスパッタリング法では室温、プラズマCVD法では200℃以下で成長可能である。従って、活性層105を劣化させることなく密着層115、118を形成することができる。
【0038】
次に、本実施形態において密着層115が六方晶のAlNである場合について、より詳細に説明する。
【0039】
図1の構造を有する窒化物半導体レーザバー100において、密着層115として6nmの六方晶のAlの窒化物(AlN)が前面の共振器端面113および背面の共振器端面114に形成されており、前面の端面コート膜116として76nmのAlの酸化物(Al23)が形成されている。
【0040】
密着層115と端面コート膜116が共通の組成元素としてAlを有するため、端面コート膜116と密着層115との界面数原子層においてNとOの相互拡散が発生し、AlNxy(x<1、y<1、x+y=1)が生成する。このAlNxyが生成することによって、密着層115と端面コート膜116の密着性がより良好となる。密着層115および端面コート膜116の成膜方法としては、Alをターゲットとした反応性スパッタ、例えばECRスパッタリング法を用いれば、ガスを窒素から酸素に切り替えることができるため、窒化物半導体レーザバー100をECRスパッタリング装置から取り出すことなく、密着層115と端面コート膜116を大気暴露せずに連続して成膜することができる。このため、端面コート膜116を形成する前の密着層115の表面に、自然酸化膜が生成したり、空気中の不純物が付着したりすることが抑えられるため、密着層115を介した共振器端面113と端面コート膜116との密着性も向上する。
【0041】
密着層115のAlNの層厚は1nm以下であると厚さが不十分であり、端面コート膜116と共振器端面113の密着性を向上させる機能を果たさなくなる怖れがある。また、20nm以上であると応力によるクラックや膜剥がれが生じてしまう。よって、密着層115のAlNの層厚は1nm以上20nm以下であることが好ましい。前面の端面コート膜116であるAl23の膜厚は、反射率が5%となるように設定されている。この場合、窒化物系半導体レーザ素子であり、レーザ光の発振波長λ=400nm付近である。また、酸化アルミニウムの屈折率n=1.6であるため、λ/4n=62.5nmであるので、70nm程度とすることにより、5%の低反射率を実現することができる。なお、背面の端面コート膜117は、上述の場合と同じくAl23/TiO2を1周期とする4周期分、合計8層の多層膜からなり、反射率が95%になるように各層の厚さがλ/4nに設定されている。
【0042】
この密着層115を六方晶のAlNとした窒化物半導体レーザバー100を分割して窒化物半導体レーザ素子を作製した。これらのうち、4個の窒化物半導体レーザ素子について、70℃、100mW(CW;Continuous Wave)の寿命試験を行った。その結果を図5に示す。4素子とも共振器端面の破壊的な劣化による寿命試験中の駆動電流の急激な上昇(頓死)発生は皆無であり、初期駆動電流値の1.4倍となるのに要する予想時間(300時間と400時間の増加率より算出)は、4素子平均で1984時間(各素子:1007時間、2840時間、1470時間、2620時間)と良好な特性が得られた。
【0043】
一方、従来の金属層を密着層に用いた、3個の窒化物半導体レーザ素子(密着層:3nmのAl、端面コート膜:80nmのAl23)の、70℃、100mW(CW)の寿命試験結果を図6に示す。3個の素子の内、300時間以内に2個の素子でリークによると考えられる頓死が発生している。頓死していない1個の素子についても、駆動電流の増加は、本実施の形態の窒化物半導体レーザに比べて大きく、初期駆動電流値の1.4倍となるのに要する予想時間(300時間と400時間の増加率より算出)は、423時間と短くなっている。
【0044】
以上のように、密着層115としてAlN、端面コート膜116としてAl23を用いた窒化物半導体レーザ素子は、従来の金属層を密着層として用いた場合に比べて寿命試験結果に大きな改善が見られた。
【0045】
なお、本実施形態では、劈開によって形成した窒化物半導体端面に関して詳細に記述したが、端面がRIE(Reactive Ion Etching)ICPなどの気相エッチング、KOH(水酸化カリウム)などの溶液によるウエットエッチングによって、形成されたもの(エッチドミラー)であっても、本発明はなんら問題なく適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の窒化物半導体発光素子は、窒化物半導体レーザ装置、例えば、単体の半導体レーザ装置、ホログラム素子を備えたホログラムレーザ装置、駆動もしくは信号検出等の処理のためのICチップと一体化してパッケージされたオプトエレクトロニクスIC装置、導波路あるいは微小光学素子と一体化してパッケージされた複合光学装置などに応用可能である。また、本発明は、これらの装置を備えた光記録システム、光ディスクシステムや、紫外から緑色領域の光源システムなどに応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】は、窒化物半導体レーザバーの共振器長に垂直な方向の断面図である。
【図2】は、共振器長の横方向から見た窒化物半導体レーザバーの側面図である。
【図3】は、窒化物半導体レーザ素子の寿命試験のデータである。
【図4】は、共振器長の横方向から見た他の窒化物半導体レーザバーの側面図である。
【図5】は、密着層をAlNとした窒化物半導体レーザ素子の寿命試験のデータである。
【図6】は、従来の窒化物半導体レーザ素子の寿命試験のデータである。
【符号の説明】
【0048】
100 窒化物半導体レーザバー
113、114 共振器端面
115、118 密着層
116、117 端面コート膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族窒化物半導体層と、前記III−V族窒化物半導体層に設けられた共振器と、前記共振器の端面に形成された端面コート膜とを備えた窒化物半導体発光素子において、
前記共振器の端面と前記端面コート膜との間に六方晶の結晶からなる密着層を設けたことを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記密着層は、前記共振器の光出射端面と前記端面コート膜との間に設けたことを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記密着層の層厚が20nm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記密着層がZnOであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記密着層がAlN、GaN、又はBNであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記端面コート膜が酸化物を含んでなることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記酸化物は、Al、Si、Ti、Hf、Nb、Ta、Zrの何れかの酸化物の単層、又は何れかの酸化物の層を含む多層構造であることを特徴とする請求項6記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記端面コート膜が窒化物であることを特徴とする請求項5記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
前記端面コート膜がSiの窒化物の単層、またはSiの窒化物と酸化物の多層構造であることを特徴とする請求項4又は5記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
前記密着層がAlの窒化物であり、前記端面コート膜がAlの酸化物であることを特徴とする1〜3の何れかにに記載の窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記密着層がマグネトロンスパッタリング法、プラズマCVD法、又はECRスパッタリング法で作製されることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項12】
III−V族窒化物半導体層を形成する工程と、前記III−V族窒化物半導体層を劈開することにより前記III−V族窒化物半導体層共振器を形成する工程と、劈開によって形成された前記共振器の端面を不活性ガスによってとクリーニングする工程と、クリーニングを完了した前記共振器の端面に窒化アルミニウムからなる層を形成する工程と、前記窒化アルミニウムからなる層の表面に端面コート膜を形成する工程とを有することを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記不活性ガスが希ガスであることを特徴とする請求項12に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記不活性ガスがArガスであることを特徴とする請求項12に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする請求項12に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−203162(P2006−203162A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298361(P2005−298361)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】