説明

窒化物半導体装置及びその製造方法

【課題】電流コラプスを抑制し、高出力動作可能な窒化物半導体装置を提供する。
【解決手段】ショットキ接触する電極(ゲート電極16)16とオーミック接触する電極(ソース電極17a、ドレイン電極17b)との間のIII−V族窒化物半導体層14表面に、ECRスパッタリング法により珪素膜15を形成する。ショットキ接触する電極16とIII−V族窒化物半導体層14との間に、珪素膜15を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、能動層に窒化物半導体を用いた窒化物半導体装置及びその製造方法に関し、特に高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)や電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)の表面に保護膜を備えた窒化物半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来のIII−V族窒化物半導体からなる半導体装置の断面図を示している。図4に示す半導体装置は、いわゆるHEMT構造を示しており、サファイア基板からなる基板101上には、窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層102、窒化ガリウムからなるチャネル層103、ノンドープの窒化アルミニウムガリウムからなるバリア層104が順次積層した構造となっており、チャネル層103とバリア層104とからなるヘテロ接合界面近傍に、ポテンシャル井戸からなる電子移動度が極めて大きい2次元電子ガス層が形成されている。このような構造の半導体装置では、バリア層104にショットキ接触するゲート電極106(制御電極)に印加する電圧を制御することにより、ソース電極107aとドレイン電極107bとの間を流れるキャリア(2次元電子ガス)を制御している。
【0003】
この種の半導体装置は、上記構造の他、例えば特許文献1に開示されているような様々
な構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−335637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層や窒化ガリウム(GaN)層などの窒化物半導体層上にゲート電極を形成した半導体装置では、窒化物半導体層の表面準位にトラップされた電子により、表面のポテンシャルが揺らぐことで、高いドレイン電圧印加時に準静的条件(パルス測定、高周波動作)でのドレイン電流が減少するコラプス現象(以下、電流コラプスという)が生じるという問題があった。本発明は、このような課題を解消し、高出力動作可能な窒化物半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、III−V族窒化物半導体層上に、該窒化物半導体層にショットキ接触する第1の電極と、前記窒化物半導体層にオーミック接触する第2の電極とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記窒化物半導体層表面、あるいはさらに前記第1の電極と前記窒化物半導体層との間に珪素膜を備えていることを特徴とする。
【0007】
本願請求項2に係る発明は、基板上にバッファ層を介して積層されたIII−V族窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上に積層された珪素膜と、前記珪素膜上、あるいは前記窒化物半導体層上に形成されたゲート電極と、前記窒化物半導体層上に前記ゲート電極を挟んで形成されたソース電極およびドレイン電極とを備え、少なくとも前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記窒化物半導体層表面は、前記珪素膜で被覆されていることを特徴とする。
【0008】
本願請求項3に係る発明は、III−V族窒化物半導体層上に、該窒化物半導体層にショットキ接触する第1の電極を形成する工程と、前記窒化物半導体層にオーミック接触する第2の電極を形成する工程と、前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記窒化物半導体層表面、あるいはさらに前記第1の電極と前記窒化物半導体層との間に珪素膜を形成する工程とを含む窒化物半導体装置の製造方法において、前記珪素膜は、ECRスパッタリング法により形成することを特徴とする。
【0009】
本願請求項4に係る発明は、基板上にバッファ層を介してIII−V族窒化物半導体層を積層形成する工程と、前記窒化物半導体層上に珪素膜を積層形成する工程と、前記珪素膜上、あるいは前記窒化物半導体層上にゲート電極を形成する工程と、前記窒化物半導体層上に前記ゲート電極を挟んでソース電極およびドレイン電極とを形成する工程とを含み、少なくとも前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記窒化物半導体層表面が、前記珪素膜で被覆されている窒化物半導体装置の製造方法において、前記珪素膜は、ECRスパッタリング法により形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の窒化物半導体装置は、電流コラプスの発生起因となるIII−V族窒化物半導体層表面を珪素膜で被覆することで、電流コラプスを抑制でき、高出力動作可能な窒化物半導体装置を提供することが可能となる。
【0011】
本発明の窒化物半導体装置の製造方法は、珪素膜を、通常の半導体装置の製造工程で使用されるECRスパッタリング法で形成することで、簡便で、制御性が良く、電流コラプスを抑制できる窒化物半導体装置を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例を説明する図である。
【図2】本発明の窒化物半導体装置の特性図である。
【図3】従来の窒化物半導体装置の特性図である。
【図4】従来の窒化物半導体装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の窒化物半導体装置について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
まず、本発明の窒化物半導体装置について、III−V族窒化物半導体装置であるHEMTを例にとり、詳細に説明する。図1は本発明の実施例であるIII−V族窒化物半導体装置であるHEMTの断面図を示している。図1に示すように、例えばサファイアからなる基板11上に、MOCVD法により、厚さ30nm程度の窒化ガリウム(GaN)からなるバッファ層12、厚さ2.5μmのノンドープ窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層13、チャネル層13との界面にキャリアとなる2次元電子ガス層を形成する厚さ25nmのノンドープ窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなるバリア層14を積層形成している。バリア層14上には、チタン(Ti)/アルミニウム(Al)/チタン(Ti)/金(Au)からなるソース電極17a、ドレイン電極17bが形成されている。
【0015】
そして、本発明では、さらにECRスパッタリング法を用い、厚さ30nmの珪素(Si)膜15を、少なくともソース電極17a、ドレイン電極17b間に露出するバリア層14上を被覆するように成膜する。そして珪素膜15上に、ニッケル(Ni)/金(Au)からなるゲート電極16を形成している。
【0016】
図2は、図1に示す本発明の窒化物半導体装置の特性図で、DC測定およびパルス測定によるドレイン電流(Ids)−ドレイン電圧(Vds)特性を示している。比較のため、図4に示す従来の窒化物半導体装置の特性図を図3に示す。図2、図3に示すようにドレインのスイープ電圧は、0〜20Vであり、ゲート電圧は、図2に示す本発明の窒化物半導体装置では、−7V〜0Vの範囲で、図3に示す従来の窒化物半導体装置では、−6V〜0Vの範囲で、それぞれ1Vステップで印加して測定している。パルス測定は、ゲートにパルス印加しており、パルス周期は10ms、パルス幅は1msとした。
【0017】
その結果、図2に示すように、本発明の窒化物半導体装置では、DC測定とパルス測定のドレイン電流がほぼ一致しており、特性変動が少なくなっていることがわかる。一方、従来の窒化物半導体装置では、パルス測定でのドレイン電流の低下が大きく、特性劣化が著しくなっている。このように、本発明の電流コラプス抑制効果が非常に高いことがわかる。
【0018】
このように本発明では、珪素膜と窒化物半導体との界面状態の不安定性が解消され、電流コラプス抑制効果が非常に高くなることから、高出力動作可能な窒化物半導体装置が提供可能となる。なお、本実施例では、HEMTの例を示したが、MESFETにおいても同様の効果が得られる。また、ゲート電極16の下に珪素膜15がなく、ソース電極17aとゲート電極16間およびゲート電極16とドレイン電極17b間にのみ珪素膜15がある場合でも同様な効果が得られる。なお、ゲート電極16の下に珪素膜15がある場合は、珪素膜の加工が不要で、製造上の利点がある。
【0019】
次に、本発明に使用される珪素膜の製造方法について、具体的に説明する。本発明の珪素膜15は、ECRスパッタリング法により形成する。ECRスパッタリング法による珪素膜15の成膜には、Siターゲットを用い、たとえば、アルゴン(Ar)ガス流量を15sccm、マイクロ波電源電力500W、高周波(RF)電源電力500Wの条件で成膜できる。ECRスパッタ装置において、磁界中にある電子のサイクロトロン周波数と同一のマイクロ波を加えることによって、サイクロトロン共鳴が起こり、磁力線の周りを高速回転する電子とプラズマ室内に導入されたアルゴンガス分子との衝突により高密度のアルゴンプラズマが発生する。発生したプラズマは、プラズマ流として引き出され、Siターゲットをスパッタし、ノンドープ窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなるバリア層14表面に入射し、珪素膜15が形成される。
【0020】
ECRスパッタリング法は、圧力などの条件を変えることによって、試料表面に入射される粒子のエネルギーを変えることが可能である。たとえば、0.01Pa台の低圧力で安定な高密度プラズマを維持することが可能で、10〜30eV程度のエネルギーで試料表面に入射される。この程度のエネルギーでは試料表面に与えるダメージは小さく、成膜に適したエネルギーを試料表面に入射する粒子に与えることで、エネルギー制御された高密度の粒子が試料表面に入射した状態で薄膜形成が進行する。
【0021】
そのため、ECRスパッタリング法では、化学的に安定した高い結合力を有する薄膜を形成することが可能となる。加えて、ECRスパッタリング法は、表面反応をともなわないため、CVD法で問題となるAlGaNからなるバリア層14表面からの窒素抜けも低減でき、反応生成物などによる汚染が発生しないため、良質な珪素膜を形成できる方法として好適である。
【符号の説明】
【0022】
11、101:基板、12、102:バッファ層、13、103:チャネル層、
14、104:バリア層、15:表面保護膜、16、106:ゲート電極、
17a、107a:ソース電極、17b、107b:ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族窒化物半導体層上に、該窒化物半導体層にショットキ接触する第1の電極と、前記窒化物半導体層にオーミック接触する第2の電極とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記窒化物半導体層表面、あるいはさらに前記第1の電極と前記窒化物半導体層との間に珪素膜を備えていることを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項2】
基板上にバッファ層を介して積層されたIII−V族窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層上に積層された珪素膜と、
前記珪素膜上、あるいは前記窒化物半導体層上に形成されたゲート電極と、
前記窒化物半導体層上に前記ゲート電極を挟んで形成されたソース電極およびドレイン電極とを備え、少なくとも前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記窒化物半導体層表面は、前記珪素膜で被覆されていることを特徴とする窒化物半導体装置。
【請求項3】
III−V族窒化物半導体層上に、該窒化物半導体層にショットキ接触する第1の電極を形成する工程と、前記窒化物半導体層にオーミック接触する第2の電極を形成する工程と、前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記窒化物半導体層表面、あるいはさらに前記第1の電極と前記窒化物半導体層との間に珪素膜を形成する工程とを含む窒化物半導体装置の製造方法において、
前記珪素膜は、ECRスパッタリング法により形成することを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項4】
基板上にバッファ層を介してIII−V族窒化物半導体層を積層形成する工程と、前記窒化物半導体層上に珪素膜を積層形成する工程と、前記珪素膜上、あるいは前記窒化物半導体層上にゲート電極を形成する工程と、前記窒化物半導体層上に前記ゲート電極を挟んでソース電極およびドレイン電極とを形成する工程とを含み、少なくとも前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記窒化物半導体層表面が、前記珪素膜で被覆されている窒化物半導体装置の製造方法において、
前記珪素膜は、ECRスパッタリング法により形成することを特徴とする窒化物半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−49204(P2012−49204A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187714(P2010−187714)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】