説明

絶縁層、電子デバイス、電界効果トランジスタ及びポリビニルチオフェノール

【課題】電子デバイスに用いた場合に素子特性を改善できる絶縁層を提供する。
【解決手段】絶縁層に下記式で表される繰り返し単位を含む高分子絶縁体を含有させる。


aは直接結合又は任意の連結基を表わし、
Arは置換されていても良い2価の芳香族基を表わし、
bは水素原子、フッ素原子又は一価の有機基を表わす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層、それを備えた電子デバイス及び電界効果トランジスタ、並びに、ポリビニルチオフェノールに関し、詳しくは、電気的性能を向上させることが可能な絶縁層、それを備えた電子デバイス及び電界効果トランジスタ、並びに、それに用いることができるポリビニルチオフェノールに関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタ等の構成部材として期待される有機絶縁層としては、例えば、ポリイミド、ベンゾシクロブテン(benzocyclobutene)、フォトアクリル(photoacryl)などが使用されている。しかし、有機絶縁層は、無機絶縁層を代替する程度までの素子特性を現していないのが実情である(特許文献1参照)。したがって、有機薄膜トランジスタ等の有機電子デバイスを実現するためには、素子特性に優れ、且つプリンティング工程に有利な有機絶縁物質の開発が求められている。
【0003】
この有機絶縁物質に対する要求に、近年ではポリビニルフェノールと架橋剤とを組み合わせた有機絶縁層が見出されている(非特許文献1参照)。
また、別の有機絶縁層の材料として、特許文献2には、桂皮酸ビニルを重合した高分子が使用されている。
【特許文献1】米国特許第6,232,157号明細書
【特許文献2】特開2005−303270号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.2002,81(2),289
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者等の検討によると、以下の課題が見出された。
非特許文献1記載のポリビニルフェノールと架橋剤とを組み合わせた有機絶縁層を使用して有機薄膜トランジスタを作製すると、ポリビニルフェノールの有している水酸基と架橋剤の有している反応性基とにより、有機半導体(半導体特性を示す有機化合物)が容易にドーピングされてしまう。このため、非特許文献1記載の有機絶縁層を用いた有機薄膜トランジスタでは、移動度、オンオフ比(On/Off比)、閾値電圧Vtなどの素子特性が劣化する可能性があることが分かった。
【0005】
一方、特許文献2記載の技術において、ポリ桂皮酸ビニルは、ポリビニルフェノールと異なり、水酸基などの極性基を有しない。このため、ポリ桂皮酸ビニルに対して架橋反応による有機溶媒への不溶化を行い、有機薄膜トランジスタの絶縁層とした場合、半導体へのドーピングに伴う閾値電圧Vtの低下に有効であった。しかし、この特許文献2記載の技術によっても、元々閾値電圧Vtが高い半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタには、閾値電圧Vtの低下などの効果は見られなかった。
【0006】
このように、有機薄膜トランジスタに用いた場合に、移動度、On/Off比及び閾値電圧Vtなどの素子特性を向上させることができる有機絶縁層は、その開発が望まれているものの、未だ実現していなかった。また、有機薄膜トランジスタ以外の電子デバイスにおいても、同様に、前記のような有機絶縁層は実現していない。
本発明は、かかる従来の技術の課題を解決するためのもので、素子特性を向上させることが可能な絶縁層、それを用いた電子デバイス及び電界効果トランジスタ、並びに、それに用いることができるポリビニルチオフェノールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、絶縁層に、少なくともポリビニル芳香族チオール及び/又はポリビニル芳香族チオエーテル誘導体を使用することで、当該絶縁層を用いた電界効果トランジスタ等の電子デバイスにおいて、移動度、On/Off比、閾値電圧Vtなどの素子特性を改善することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、少なくとも下記式(A)で表される繰り返し単位を含む高分子絶縁体を含有することを特徴とする絶縁層に存する(請求項1)。
【化1】

(式(A)中、Raは直接結合又は任意の連結基を表わし、Arは置換されていても良い2価の芳香族基を表わし、Rbは水素原子、フッ素原子又は一価の有機基を表わす。)
【0009】
このとき、前記Raが直接結合であることが好ましい(請求項2)。
また、前記Arが置換されても良い炭化水素系芳香環であることが好ましい(請求項3)。
さらに、前記Rbが水素原子又は直鎖状又は分岐状炭化水素基であることが好ましい(請求項4)。
また、該高分子絶縁体が少なくともビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体に由来する繰り返し単位を含むことが好ましい(請求項5)。
さらに、該高分子絶縁体が、架橋性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい(請求項6)。
また、該高分子絶縁体が、耐熱性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位を含むことも好ましい(請求項7)。
さらに、本発明の絶縁層は、電気伝導度が1×10-12S/cm以下であることが好ましい(請求項8)。
【0010】
本発明の別の要旨は、本発明の絶縁層を備えることを特徴とする電子デバイスに存する(請求項9)。
【0011】
本発明の更に別の要旨は、本発明の絶縁層を備えることを特徴とする電界効果トランジスタに存する(請求項10)。
このとき、本発明の電界効果トランジスタは、ポルフィリンを含有する半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備えることが好ましい(請求項11)。
【0012】
本発明の更に別の要旨は、少なくともビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体に由来する繰り返し単位と架橋性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリビニルチオフェノールに存する(請求項12)。
【0013】
本発明の更に別の要旨は、少なくともビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体に由来する繰り返し単位と耐熱性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位とを含むことを特徴とするポリビニルチオフェノールに存する(請求億13)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の絶縁層によれば、有機電界効果トランジスタなどの電子デバイスに用いた場合に、その素子特性を改善することができる。
本発明の電子デバイスによれば、素子特性を改善することができる。
本発明の電界効果トランジスタによれば、移動度、On/Off比及び閾値電圧Vt
改善することができる。
本発明のポリビニルチオフェノールによれば、それを用いた絶縁層を備える有機電界効果トランジスタなどの電子デバイスの素子特性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について例示物や実施形態を示して説明するが、本発明は以下の例示物や実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0016】
[I.絶縁層]
本発明の絶縁層は、少なくとも、下記式(A)で表される繰り返し単位を含む高分子絶縁体を含有する。
【化2】

(式(A)中、Raは直接結合又は任意の連結基を表わし、Arは置換されていても良い芳香族環を表わし、Rbは水素原子、フッ素原子又は一価の有機基を表わす。)
【0017】
[I−1.高分子絶縁体]
本発明に係る高分子絶縁体は、前記式(A)で表わされる繰り返し単位を有するものである。
ここで、前記式(A)において、Raは直接結合又は任意の連結基を表わす。任意の連結基としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用できる。中でも、炭素数1以上6以下のアルキレン基、アルケニレン基が好ましい。その中でも、Raとしては、直接結合及び炭素数1以上3以下のアルキレン基がより好ましく、直接結合及び炭素数1以上2以下のアルキレン基が特に好ましく、直接結合が特に好ましい。
【0018】
前記式(A)において、Arは置換されていても良い2価の芳香族基を表わす。ここで、Arを構成する2価の芳香族基は、芳香族性を有する2価の基であれば特に制限は無い。したがって、Arとしては芳香環を有する任意の基を用いることが可能であり、例えば、芳香環自体であっても良く、芳香環と脂肪族炭化水素基とが結合して構成された基であってもよい。ただし、中でもArを構成する芳香族基は芳香環自体であることが好ましく、その中でも、炭化水素系芳香環(即ち、アリーレン基)がより好ましい。
【0019】
また、Arが有していても良い置換基の種類に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、フルオロ基等のハロゲン基;炭素数1以上24以下の、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、前記アルキル基に1又は2以上のフルオロ基が置換したフッ素置換アルキル基、フェニル基等のアリール基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシ基等の有機基;ニトロ基;アミノ基;スルホン酸基;水酸基などが挙げられる。なお、Arは置換基を1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していても良い。また、置換基の数は、1でも良く、2以上でもよい。
【0020】
さらに、Arの炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常42以下、好ましくは18以下、より好ましくは14以下である。炭素数が多すぎると溶解性に乏しくなる可能性があるためである。また、下限に制限は無いが、通常4以上である。
【0021】
Arの例としては、以下の式(i)〜(xi)で表わされる構造が挙げられる。但し、これらはあくまでも例示であり、本発明に適用可能なArは以下の式(i)〜(xi)の構造のものに限定されるわけではない。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
なお、上記式(i)〜(xi)において、各符号の定義はそれぞれ以下の通りである。
1〜R68は、各々独立に、H、F、CH3−、CH3(CH2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、CH3(CH2n(CF2m−(n及びmは各々独立に、1以上23以下の整数を表わす。)、CF3−、CF3(CF2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、CF3(CH2n(CF2m−(n及びmは各々独立に、1以上23以下の整数を表わす。)、フェニル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、又はアルコキシ基を表わす。
【0034】
4〜A18及びA20〜A30は、各々独立に、炭素原子又は窒素原子を表わす。
1〜Q7は、各々独立に、−CR6970−、−NR71−、−N−、−S−、−SiR7273−、又は−Se−を表わす(R69〜R73は、各々独立に、水素原子、炭素数1以上23以下の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、又はそのアルキル基が1又は2以上のフッ素原子で置換されたフッ素置換アルキル基を表わす。)。
【0035】
1は、窒素原子又は
【化14】

を表わす。
【0036】
1及びn2は、各々独立に、0以上6以下の整数を表わす。
3及びn4は、各々独立に、1以上8以下の整数を表わす。
5〜n12は、各々独立に、0以上10以下の整数を表わす。
【0037】
上述した例示物の中でも、特に、式(iii)においてn2が0であるフェニレン基、n2が1であるナフタレン基、n2が3であるアントラセン基が好ましい。その中でも特に好ましいのはフェニレン基及びナフタレン基である。
【0038】
前記式(A)において、Rbは水素原子、フッ素原子又は一価の有機基を表わし、中でも水素原子又は直鎖状又は分岐状炭化水素基が好ましい。
前記一価の有機基として好適なものの具体例を挙げると、CH3−、CH3(CH2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、CH3(CH2n(CF2m−(n及びmは各々独立に、1以上23以下の整数を表わす。)、CF3−、CF3(CF2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、CF3(CH2n(CF2m−(n及びmは各々独立に、1以上23以下の整数を表わす。)等のフッ素原子で置換されていても良いアルキル基;フェニル基;炭素数6以下の炭化水素基で置換されたカルボキシル基などが挙げられる。この中でも、Rbとして特に好ましいものは、水素原子、CH3−、CF3−、CH3(CH2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、炭素数6以下の炭化水素基で置換されたカルボキシル基であり、更にこの中でも、水素原子、CH3−、CH3(CH2n−(nは1以上23以下の整数を表わす。)、炭素数6以下の炭化水素基で置換されたカルボキシル基がより好ましい。
【0039】
また、前記式(A)で表わされる繰り返し単位は、下記式(B)で表わされるビニル化合物に由来する繰り返し単位といえる。したがって、モノマーの点から見れば、本発明に係る高分子絶縁体は下記式(B)で表わされるビニル化合物に由来する繰り返し単位を含むポリビニル芳香族チオール及び/又はポリビニル芳香族チオエーテル誘導体ということができる。なお、下記式(B)において、Ra、Ar及びRbは、いずれも式(A)と同様である。
【化15】

【0040】
本発明に係る高分子絶縁体の中でも、少なくとも、式(A)のArが置換されていても良いフェニレン基である繰り返し単位を含むものが好ましい。即ち、本発明に係る高分子絶縁体は、ビニルチオフェノール及びビニルチオエーテル並びにそれらの誘導体に由来する繰り返し単位の少なくともいずれかを含むことが好ましい。中でも好適には、下記(I)の構造を有する化合物に由来する繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0041】
【化16】

【0042】
式(I)において、Rはそれぞれ独立に水素原子又はフッ素原子を表わす。また、iは、1以上、また、5以下、好ましくは3以下の整数を表わす。Rが全て水素原子である場合には式(I)はビニルチオフェノールを表わすものとなり、Rのうち少なくとも1つがフッ素であれば式(I)はビニルチオフェノール誘導体を表わすものとなる。またRcは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基を表わす。
【0043】
以上のように、本発明に係る高分子絶縁体は式(A)で表わされる構造単位を含むため、芳香族チオール基及び/又は芳香族チオエーテル基を有することになる。これにより、本発明の絶縁層は、素子特性を改善することができるようになっている。特に、上記式(A)においてArが置換されていてもよいフェニレン基である場合に、前記改善の程度が大きい。さらに、これら本発明の高分子絶縁体の中でも、ビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体に由来する繰り返し単位(即ち、Arが置換されていても良いフェニレン基であり、且つ、Rbが水素原子である場合における式(A)で表わされる繰り返し単位。以下適宜、「ビニルチオフェノール/誘導体単位」という)を有するものが、上記の改善の効果が顕著であるため、好ましい。
【0044】
式(A)で表わされる構造単位を有することによって前記の利点が得られる理由は定かではないが、本発明者らの検討によれば、芳香族チオール基又は芳香族チオエーテル基が、有機半導体に存在する過剰で固有のキャリアを取り除く効果があるため、本発明の絶縁層は閾値電圧Vtの低減とOn/Off比の向上に効果的であると推察される。なお、原理としては、芳香族チオール基又は芳香族チオエーテル基に代えて還元性の官能基を用いた場合でも同様の効果が期待できるとも考えられる。しかし、還元性の官能基として例えばアミノ基を用いると、キャリアを取り除く能力が強すぎ、キャリアトラップとして作用するため、閾値電圧Vtの大幅な低下が起こりすぎると思料される。しかし、チオール基であればそのような懸念はなく、素子特性を効果的に改善することが可能となると推察される。
【0045】
なお、式(A)で表わされる繰り返し単位は、1種のみを用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。したがって、本発明に係る高分子絶縁体を製造する際には、その繰り返し単位に対応するモノマー(即ち、式(B)、(I)で表わされる化合物)も、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0046】
本発明に係る高分子絶縁体中の式(A)で表わされる繰り返し単位のモル分率は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、また、通常1以下、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下である。式(A)で表わされる繰り返し単位が少なすぎると閾値電圧Vtが悪化する可能性がある。なお、前記重合比が1未満である場合、本発明に係る高分子絶縁体は共重合体となる。なお、前記のモル分率は、1H−NMRによってSRb基の比を求めることにより測定することができる。
【0047】
本発明に係る高分子絶縁体は、式(B)で表わされるビニル化合物のホモポリマーであってもよいが、他の繰り返し単位を有する共重合ポリマーであってもよい。本発明に係る高分子絶縁体が有していてもよい式(A)で表わされる繰り返し単位以外の繰り返し単位に特に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意の繰り返し単位を使用できるが、中でも、架橋性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位(以下適宜、「架橋性ビニルモノマー単位」という)、耐熱性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位(以下適宜、「耐熱性ビニルモノマー単位」という)が好ましい。
【0048】
架橋性ビニルモノマー単位に対応する架橋性ビニルモノマーは、ビニル基を有するモノマーであって、共重合した際に側鎖に炭素−炭素二重結合を有するモノマーである。この架橋性ビニルモノマーは、光照射又は加熱により、炭素−炭素二重結合が環化二量化反応を起こし、脂環式炭化水素基による架橋を形成するようになっている。
【0049】
架橋性ビニルモノマーの具体的構造に制限は無いが、中でも、以下の式(II)〜(V)の構造を含む側鎖を有するビニルモノマーが好ましい。
【化17】

【0050】
式(IV)及び(V)中、Rc1、Rc2、Rc3及びRc4は、各々独立して、脂肪族炭化水素基、シアノ基又は水素原子を示す。
【0051】
これらの側鎖の中でも、前記式(II)又は(III)で表される構造を含む側鎖が好ましい。その具体例としては、例えば、2−プロペン酸基、3−フェニルプロペン酸基(シンナモイル基)、2,4−ペンタジエン酸基、及び、6−フェニル−2,4−ペンタジエン酸基等が挙げられ、中でも、3−フェニルプロペン酸基(シンナモイル基)、又は6−フェニル−2,4−ペンタジエン酸基が好ましく、3−フェニルプロペン酸基(シンナモイル基)が特に好ましい。
【0052】
架橋性ビニルモノマーのうち好ましいものの具体例を挙げると、3−フェニルプロペン酸ビニル、又は6−フェニル−2,4−ペンタジエン酸ビニルなどが挙げられる。中でも、3−フェニルプロペン酸ビニルが特に好ましい。
【0053】
前記の架橋性ビニルモノマーは側鎖に炭素−炭素二重結合を有するため、架橋の際にはこの側鎖によって架橋性ビニルモノマー同士が架橋することになる。したがって、例えば、前記の式(II)又は(IV)で表わされる構造を含む側鎖同士を環化反応させ二量化させることにより、下記式(VI)で表わされるようにしてシクロブチレン基が生じることになる。また、例えば、前記の式(II)又は(IV)で表わされる構造を含む側鎖と式(III)又は(V)で表わされる構造を含む側鎖とを環化反応させ二量化させることにより、下記式(VII)で表わされるようにしてシクロヘキセニレン基を生じることになる。よって、架橋性ビニルモノマー単位においては、架橋性ビニルモノマーの構造に対応して、前記のような環化反応による架橋製骨格が形成されるようになっている。なお、前記の環化反応は、通常は光照射又は加熱により進行し、好ましくは光照射により進行する。
【0054】
【化18】

【0055】
本発明の絶縁層は、架橋性骨格を有することにより、有機薄膜トランジスタ等の、有機材料を用いた電子デバイスに好適に用いることができるようになる。例えば有機薄膜トランジスタを例に挙げて説明すると、溶液プロセスにより有機薄膜トランジスタを形成する場合、有機半導体層と有機絶縁層とは界面が接するため、有機絶縁層は有機溶媒によりダメージを受ける可能性が非常に高い。しかしながら、本発明の絶縁層においては架橋性骨格を有するので、有機半導体層の形成に使用される有機溶媒に対して不溶化されることになる。したがって、本発明の絶縁層を前記の有機絶縁層として用いた場合には、溶液プロセスによる絶縁層の破壊を抑えることが可能となり、非常に有効である。
【0056】
また、架橋性骨格の種類によっても、本発明の絶縁層の性質は変化することがある。例えば、ポリビニルフェノール等を用いた架橋反応を行って架橋性骨格を形成した場合、ポリビニルフェノールが水酸基等の極性基を有することになるため、本発明の絶縁層を電子デバイスに用いた場合に半導体へのドーピングに伴う閾値電圧Vtの変化が生じる可能性があり、電子デバイス(特に、有機薄膜トランジスタ)の構成部材としては好ましくない。しかしながら、架橋性ビニルモノマーを架橋させて架橋性骨格を得るようにすれば、前記のような閾値電圧Vtの変化は抑制されるため、本発明の絶縁層を電子デバイスに好適に用いることができる。
【0057】
上記のような架橋性ビニルモノマー単位を組み合わせて使用することにより得られる利点は、本発明の高分子絶縁体が式(A)で表わされる繰り返し単位としてビニルチオフェノール/誘導体単位を含む場合に特に顕著である。したがって、少なくともビニルチオフェノール/誘導体単位と架橋性ビニルモノマー単位とを含むポリビニルチオフェノールは、絶縁層の構成材料として非常に優れている。
【0058】
なお、架橋性ビニルモノマーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。したがって、本発明に係る高分子絶縁体が有する架橋性ビニルモノマー単位は、1種のみでもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いても良い。
【0059】
本発明に係る高分子絶縁体が架橋性ビニルモノマー単位を含む場合、本発明に係る高分子絶縁体中の架橋性ビニルモノマー単位のモル分率に制限は無いが、通常0.1以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上、また、通常0.9以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下である。架橋性ビニルモノマー単位が、少なすぎると架橋性ビニルモノマー単位を有する利点が十分に得られず、架橋密度が低下し有機溶媒に対する不溶化効果が消失する可能性があり、多すぎるとチオール基の有する効果(即ち、有機半導体の過剰なキャリアを取り除く効果)が減少する可能性がある。なお、前記のモル分率は、1H−NMRにより測定することができる。
【0060】
一方、耐熱性ビニルモノマー単位に対応する耐熱性ビニルモノマーは、ビニル基を有するモノマーであって、所定の耐熱性を有するモノマーである。ここで耐熱性とは、耐熱性ビニルモノマーを数平均分子量1000のホモポリマーにした場合に、ガラス転移温度Tgが140℃以上であることをいう。
【0061】
耐熱性ビニルモノマーの具体的構造に制限は無いが、中でも無水マレイン酸とアミンから得られる耐熱性骨格を有するものが好ましく、特に、マレイミドが好ましい。マレイミドのなかでも好適なものの例を挙げると、下記式(VIII)の構造を有するものが挙げられる。
【0062】
【化19】

【0063】
なお、前記式(VIII)中、Rc5は水素原子または下記式(IX)で表される基を示す。
【化20】

【0064】
前記式(IX)中、Xはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又はニトロ基を表わし、好ましくは水素原子又はフッ素原子を表わす。また、mは1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、また、10以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下の整数を表わす。
【0065】
前記式(VIII)の構造を有するマレイミドの中でも、特に、Rc5がフェニル基であるものが好ましい。フェニル基は極性基がなく、イミド基の窒素原子に対し立体障害となるため、窒素原子の影響を少なく出来るためである。窒素原子の影響が少ないと、窒素原子は還元性基であるため、閾値電圧Vtを安定して0付近にできるという利点があるため、好ましい。
【0066】
このような耐熱性ビニルモノマー単位を含むことにより、本発明に係る高分子絶縁体の耐熱性を向上させることが可能となる。具体的には、本発明に係る高分子絶縁体のガラス転移温度を、通常120℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上にすることが可能である。電子デバイスは使用時に発熱することがあり、そのため絶縁層にも耐熱性が要求されるが、本発明に係る高分子絶縁体の耐熱性を向上させることにより、本発明の絶縁層の耐熱性を向上させて、電子デバイスの動作の安定性を向上させることが可能となる。
【0067】
上記のような耐熱性ビニルモノマー単位を組み合わせて使用することにより得られる利点は、本発明の高分子絶縁体が式(A)で表わされる繰り返し単位としてビニルチオフェノール/誘導体単位を含む場合に特に顕著である。したがって、少なくともビニルチオフェノール/誘導体単位と耐熱性ビニルモノマー単位とを含むポリビニルチオフェノールは、絶縁層の構成材料として非常に優れている。
【0068】
なお、耐熱性ビニルモノマーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。したがって、本発明に係る高分子絶縁体が有する耐熱性ビニルモノマー単位は、1種のみでもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いても良い。
【0069】
本発明に係る高分子絶縁体が耐熱性ビニルモノマー単位を含む場合、本発明に係る高分子絶縁体中の耐熱性ビニルモノマー単位のモル分率に制限は無いが、通常0より大きく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、また、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。耐熱性ビニルモノマー単位が、少なすぎると耐熱性ビニルモノマー単位を有する利点が十分に得られず十分な耐熱性が得られない可能性があり、多すぎるとイミド基の窒素原子が半導体のキャリアをトラップする可能性がある。なお、架橋性ビニルモノマー単位が本発明に係る高分子絶縁体に大量に含まれている場合、架橋密度の上昇とともに耐熱性が上がることから、耐熱性ビニルモノマー単位を用いなくても十分な耐熱性を得られることがある。なお、前記のモル分率は、1H−NMRにより測定することができる。
【0070】
また、本発明に係る高分子絶縁体は、前記の式(A)で表わされる繰り返し単位、架橋性ビニルモノマー単位および耐熱性ビニルモノマー単位以外の繰り返し単位を有していてもよい。
ただし、本発明に係る高分子絶縁体に含まれる繰り返し単位は、いずれも、極性基を有さないことが好ましい。また、本発明に係る高分子絶縁体に含まれる繰り返し単位が極性基を有している場合であってもその数は少ないことが好ましい。具体的な範囲を挙げると、本発明に係る高分子絶縁体に含まれる繰り返し単位当たりの平均個数として、1個以下であるのが好ましく、0.5個以下であるのがより好ましく、0.4個以下であるのが更に好ましい。本発明の絶縁層に含有される高分子絶縁体が極性基を多く有する場合、当該絶縁層中及び層表面に水分の付着を引き起こし易くなり、それにより、例えば当該絶縁層に隣接する半導体層などに水分によりドーピングが起こり、オフ電流が増大や閾値電圧Vtの変化などを生じる傾向があるためである。
【0071】
また、本発明に係る高分子絶縁体が共重合体である場合、その重合形式に制限は無く、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体など、いずれの重合形式であっても良い。中でも、交互共重合体、ランダム共重合体が好ましい。共重合体中のSRb基が均一に分散するためである。
【0072】
本発明に係る高分子絶縁体の好適な具体例としては、下記式(X)で表わされる構造のものが挙げられる。
【0073】
【化21】

【0074】
前記式(X)において、Rc6は式(VIII)で説明したRc5と同様のものを表わし、Rc7は(II)〜(V)の構造を含む側鎖を表わす。また、n1:n2:n3=0.1:0.3:0.6である。なお、前記式(X)においてカッコ内は繰り返し単位を表わし、それらの繰り返し単位の結合順は式中の順に限られない。
【0075】
本発明の高分子絶縁体の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下である。重量平均分子量が、小さすぎると本発明の絶縁層の成膜性と絶縁性を良好なものにできなくなる可能性があり、大きすぎると本発明の高分子絶縁体を溶液にした際に粘度上昇を引き起こし、薄膜化できなくなる可能性がある。
【0076】
本発明に係る高分子絶縁体の製造方法に制限は無いが、例えば、式(B)で表わされるビニル化合物を重合して得ることができる。また、Rbが水素原子である場合、即ち、SRbがチオール基である場合には、あらかじめ前記チオール基を保護して重合を行い、重合後に脱保護反応を行うことにより製造できる。チオフェノール基等は容易に解離ラジカルを発生するため、チオフェノール基等を残したままでは高分子を得られないことがあるが、保護基を導入することで安定して重合が可能である。以下、この方法について、ビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体から、本発明に係る高分子絶縁体としてポリビニルチオフェノールを製造する場合を例に挙げて詳しく説明する。
【0077】
まず、モノマーであるビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体を用意し、そのチオフェノール基を保護基で保護する(保護工程)。保護基は、チオフェノール基の保護が可能であれば他に制限は無いが、例えば、アセチル基、t−ブトキシカルボニル基(t−BOC基)などが好適である。なお、保護基は、1種を用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、保護の方法にも制限は無い。例えばアセチル基で保護を行う場合、チオール基を塩基で処理し、アセチルクロライドなどの酸クロライドと反応させることにより保護が可能である。
【0078】
チオフェノール基を保護した後、反応溶媒中において所定の反応条件に保持し、重合反応を進行させる(重合工程)。
反応溶媒としては、重合反応を阻害しない限り任意の溶媒を用いることができる。通常は有機溶媒を使用し、好適には、例えば、テトラヒドロフラン、トルエン等の、通常ビニル系ポリマーを重合する際に使用される溶媒を用いることができる。なお、反応溶媒は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0079】
反応溶媒中のモノマーの濃度は重合反応が進行する限り制限は無いが、通常0.001mol/L以上、好ましくは0.002mol/L以上、より好ましくは0.003mol/L以上、また、通常100mol/L以下、好ましくは80mol/L以下、より好ましくは60mol/L以下である。反応溶媒中のモノマーの濃度が、低すぎると低分子量となりすぎる可能性があり、高すぎると高分子量となりすぎる可能性がある。
【0080】
重合反応時の温度条件は、重合反応が進行する限り制限は無いが、通常25℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下である。反応温度が低すぎると重合が進行せず、高分子にならない可能性がある。一方、反応温度が高すぎるとモノマーが沸騰して、共重合を行う場合には共重合比が所望の値とならない可能性がある。
【0081】
反応時間に制限は無いが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは20時間以下、より好ましくは18時間以下である。反応時間が短すぎると低分子量となりすぎる可能性があり、長すぎると高分子量となりすぎる可能性がある。
【0082】
反応時の雰囲気は、不活性雰囲気が好ましい。例えば、窒素雰囲気、真空封緘などが好ましい。
【0083】
重合反応に際して重合開始剤を使用する場合、重合反応が進行する限り任意の重合開始剤を使用できる。その例を挙げると、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)などが挙げられる。また、重合開始剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、その使用量に制限は無いが、反応溶液中において、通常0.01mol%以上、好ましくは0.02mol%以上、また、通常10mol%以下、好ましくは8mol%以下とする。
【0084】
また、ポリビニルチオフェノールが式(A)で表わされる繰り返し単位以外の繰り返し単位を有する場合には、この反応溶媒中に、その繰り返し単位に対応するその他のモノマー(例えば、架橋性ビニルモノマーや耐熱性ビニルモノマー等)を共存させるようにすればよい。したがって、本発明に係る高分子絶縁体が架橋性ビニルモノマー単位を有するようにするためには反応溶媒中に架橋性ビニルモノマーを共存させるようにし、本発明に係る高分子絶縁体が耐熱性ビニルモノマー単位を有するようにするためには反応溶媒中に耐熱性ビニルモノマーを共存させるようにする。これにより、ビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体と、架橋性ビニルモノマーや耐熱性ビニルモノマー等のその他のモノマーとの共重合が進行する(共重合工程)。
【0085】
共重合を行う場合、反応溶媒中の架橋性ビニルモノマー及び耐熱性ビニルモノマーの量は、それぞれ、本発明に係る高分子絶縁体中の架橋性ビニルモノマー単位及び耐熱性ビニルモノマー単位のモル分率と同様に設定すればよい。
また、共重合を行う場合の反応条件は、ビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体を単独重合する場合と同様の条件で行うことができる。ただし、架橋性モノマーを共重合する場合には、遮光条件で重合することが好ましい。遮光しないとケイ酸などの架橋性部位が反応する可能性があるためである。
【0086】
重合後、チオフェノール基を保護していた保護基を除去することにより脱保護を行い、本発明に係る高分子絶縁体としてポリビニルチオフェノールを得る(脱保護工程)。脱保護の方法は任意であるが、例えば、重合により得られた重合体を水酸化ナトリウム等の塩基で処理した後、塩酸を加えてチオールとすればよい。なお、この脱保護を行わなければ、導入した保護基をRbとして有する高分子絶縁体を得ることができる。
【0087】
また、通常は、脱保護の後で精製を行う(精製工程)。精製方法に制限は無いが、例えば、ヘキサン、メタノール等の精製用溶媒で再沈殿を行い、メタノール等の洗浄用溶媒によって洗浄することにより、精製することができる。なお、洗浄方法としては、ソクスレー洗浄が好ましい。
【0088】
このような製造方法により本発明に係る高分子絶縁体としてポリビニルチオフェノールを製造した場合、その収率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。また、収率の上限は、理想的には100%であるが、現実的には98%以下である。
【0089】
また、本発明に係る高分子絶縁体としてポリビニルチオフェノール以外のものを製造する場合にも、モノマーの種類を変更し、各工程の条件を最適化すれば、上記の製造方法と同様にして目的とする高分子絶縁体を製造できる。
なお、上述した製造方法によれば、本発明に係る高分子絶縁体をモノマーから製造するようにしたが、モノマーを一旦オリゴマーにしておき、そのオリゴマーを重合させることによって、又は、モノマーとオリゴマーを重合させることによって、本発明の高分子絶縁体を製造するようにしてもよい。
【0090】
[I−2.絶縁層の物性等]
本発明の絶縁層の電気伝導度は、用途に応じて要求される絶縁性が確保できる範囲であれば他に制限は無いが、通常1×10-12S/cm以下、好ましくは1×10-13S/cm以下、より好ましくは1×10-14S/cm以下である。電気伝導度が大きすぎると、本発明の絶縁層を用いてトランジスタを構成した場合にリーク電流の上昇を招く可能性がある。一方、下限に制限は無いが、通常1×10-16S/cm以上である。なお、電気伝導度は、電流−電圧測定により測定できる。
【0091】
本発明の絶縁層の膜厚に制限は無く、用途に応じて任意に設定することができるが、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、また、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。本発明の絶縁層の膜厚が薄すぎると本発明の絶縁層を用いてトランジスタを構成した場合にリーク電流の上昇を招く可能性があり、厚すぎると本発明の絶縁層を用いてトランジスタを構成した場合に十分なドレイン電流を確保できなくなる可能性がある。
【0092】
[I−3.絶縁層の形成方法]
本発明の絶縁層の形成方法に制限は無いが、例えば、プリンティング、スピンコーティング、ディッピング(dipping)などによって形成することができる。具体的な例を挙げると、以下の方法により製造することができる。
【0093】
まず、適切な溶媒に本発明に係る高分子絶縁体を溶解し、塗布液を用意する。そして、この塗布液を、絶縁層を形成しようとする部位に上記例示の方法等で塗布し、その後、溶媒を乾燥等によって除去することにより、絶縁層を形成することができる。
【0094】
塗布液調製用の溶媒としては、本発明に係る高分子絶縁体を溶解しうるものであれば任意のものを使用できる。その例を挙げると、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。なお、これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0095】
塗布液中の高分子絶縁体の濃度に特に制限は無いが、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。塗布液の濃度が低すぎると脱溶媒が困難となる可能性があり、高すぎると粘度が上昇して成膜性が低下する可能性がある。
【0096】
塗布液を乾燥によって除去する場合、加熱乾燥を用いてもよく、減圧乾燥を用いてもよく、両者を併用しても良い。その際の温度条件、圧力条件、乾燥時間などに制限は無い。ただし、温度条件は、通常は使用溶媒の沸点以上であり、具体的温度範囲としては、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。また、圧力条件は、通常1Pa以上、好ましくは5Pa以上、より好ましくは10Pa以上、また、通常105Pa以下、好ましくは104Pa以下、より好ましくは103Pa以下である。さらに、乾燥時間は、通常3分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、また、通常120分以下、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下である。
【0097】
ただし、本発明に係る高分子絶縁体が架橋性ビニルモノマー単位を有する場合、架橋がなされていると、本発明に係る高分子絶縁体は溶媒に溶解せず、塗布プロセスにより絶縁層を形成できなくなる可能性がある。このため、本発明に係る高分子絶縁体が架橋性ビニルモノマー単位を有する場合には、塗布液の塗布前においては架橋を進行させず、塗布後に架橋を進行させることが好ましい。また、架橋前において本発明に係る高分子絶縁体が液状であるならば、溶媒を使用せずに本発明に係る高分子絶縁体を塗布し、架橋反応を進行させることによって本発明に係る高分子絶縁体を硬化させ、絶縁層を形成しても良い。なお、架橋反応を進行させるには、上述したように、光照射又は加熱を行うようにすればよい。
【0098】
[I−4.本発明の絶縁層による効果]
本発明の絶縁層を用いることにより、電子デバイスの素子特性を向上させることが可能である。
例えば、半導体層を有する電界効果トランジスタ等の電子デバイスに本発明の絶縁層を備えさせた場合、当該半導体層における電荷の移動度は、通常10-5cm2/Vs以上、好ましくは10-3cm2/Vs以上、より好ましくは10-2cm2/Vs以上である。なお、上限に制限は無いが、通常10000cm2/Vs以下である。また、移動度は、通常の半導体測定法により測定できる。
【0099】
また、例えば、トランジスタに本発明の絶縁層を備えさせた場合、当該トランジスタのOn/Off比は、通常100以上、好ましくは1000以上、より好ましくは10000以上である。なお、上限に制限は無いが、通常108以下である。また、On/Off比は、通常の半導体測定法により測定できる。
更に、例えば、トランジスタに本発明の絶縁層を備えさせた場合、当該トランジスタの閾値電圧Vtは、通常±20以下、好ましくは±10以下、より好ましくは±5以下である。また、閾値電圧Vtは、通常の半導体測定法により測定できる。
なお、本発明の絶縁層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明に係る高分子絶縁体以外の成分を含んでいても良い。
【0100】
[II.電子デバイス]
本発明の絶縁層は、絶縁層を備える電子デバイスに任意に適用することが可能であり、特に、有機半導体を使用する電子デバイスに用いて好適である。そのような電子デバイスの例を挙げると、トランジスタなどが挙げられる。中でもトランジスタに用いることが好ましく、特に、有機薄膜トランジスタに用いることが好ましい。また、トランジスタのうちでも、機能面の分類によれば、電界効果トランジスタ(FET)に用いて好適である。以下、本発明の絶縁層を備える電子デバイスの一例として、電界効果トランジスタについて説明する。ただし、本発明の電子デバイス及び電界効果トランジスタの構成は以下に例示するものに限定されず、本発明の絶縁層を備える限り任意の構成とすることができる。
【0101】
電界効果トランジスタは、支持基板上に、絶縁層により隔離されたゲート電極及び半導体層と、半導体層に接して設けられたソース電極及びドレイン電極とを備える。また、ゲート電極に電圧が印加されると、ソース電極−ドレイン電極間の半導体層と隣接する層との界面には電流の流路(チャネル)が形成されるようになっている。この構成により、電界効果トランジスタでは、ゲート電極から印加する入力電圧によってソース電極とドレイン電極との間を流れる電流を制御する機構となっている。
【0102】
電界効果トランジスタの構造を図面に基づいて説明すると、図1(A)〜図1(D)は、各々、電界効果トランジスタの代表的構造を模式的に表わす縦断面図であり、図1(A)〜図1(D)において、1は支持基板、2はゲート電極、3は絶縁層、4は半導体層、5はソース電極、6はドレイン電極をそれぞれ表わす。また、図1(A)にはボトムゲート・ボトムコンタクト型、図1(B)にはボトムゲート・トップコンタクト型、図1(C)にはトップゲート・ボトムコンタクト型、図1(D)にはトップゲート・トップコンタクト型の電界効果トランジスタを示してあるが、電界効果トランジスタの構成はこれらの例に限定されるものではない。さらに、図示省略するが、各電界効果トランジスタの図面上最上部には、オーバーコート層が形成されている場合もある。
【0103】
<支持基板>
電界効果トランジスタにおいて、支持基板1としては、従来の電界効果トランジスタにおいて用いられている基板を用いることができる。その材料としては、電界効果トランジスタ及びその上に作製される表示素子、表示パネル等を支持できるものであればよい。その例を挙げると、公知のガラス、酸化珪素、及び珪素等の金属等の無機材料、並びに各種有機ポリマー等の有機材料等が挙げられる。また、これらは、1種を用いても良く、例えば無機材料の基板の表面に有機ポリマー等をコーティングして表面に絶縁層を形成した基板等の無機材料と有機材料との併用の場合も含めて、2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、有機ポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルフォン、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリパラバン酸、ポリシルセスキオキサン、ポリビニルフェノール、及びポリオレフィン等が挙げられる。更に、これらの有機ポリマーは、必要に応じて、充填材、添加剤等を含んでいてもよい。
【0104】
支持基板の厚みに制限は無いが、通常0.01mm以上、好ましくは0.05mm以上、また、通常10mm以下、好ましくは2mm以下である。これら範囲の中で、例えば、有機ポリマーの基板の場合は、0.05〜0.1mmとし、ガラス、珪素等の基板の場合は、0.1〜10mmとするのが好ましい。さらに、基板は、複数の層からなる積層体であってもよい。
【0105】
<ゲート電極>
電界効果トランジスタにおいて、ゲート電極2としては、従来の電界効果トランジスタにおいて用いられている導電性材料を用いることができる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属;InO2、SnO2、ITO等の導電性金属酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記の導電性高分子に塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、沃素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等のドーパントを添加したもの、並びに、カーボンブラック、グラファイト粉、金属微粒子等を分散した導電性の複合材料などが挙げられる。また、これらの材料は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0106】
これらの導電性材料によるゲート電極の形成方法に制限は無いが、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等により形成された膜を、必要に応じて所望の形状にパターンニングすることにより形成される。そのパターンニング法にも制限は無いが、例えば、フォトレジストのパターニングと、エッチング液によるウェットエッチングや反応性のプラズマによるドライエッチング等のエッチングとを組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれらの手法を複数組み合わせた手法等が挙げられる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去したり、材料の導電性を変化させることにより、直接パターンを形成することも可能である。
【0107】
これらゲート電極の厚みは任意であるが、1nm以上であるのが好ましく、10nm以上であるのが特に好ましい。また、100nm以下であるのが好ましく、50nm以下であるのが特に好ましい。
【0108】
<絶縁層>
絶縁層3としては、本発明の絶縁層を用いる。
【0109】
<半導体層>
半導体層4に用いる半導体に制限は無いが、本発明の利点を有効に活用する観点からは、有機半導体を用いることが好ましい。有機半導体としては、例えばπ共役系の低分子及び高分子であれば、公知のもののいずれをも用いることができる。具体例を挙げると、ポルフィリン、ペンタセン(pentacene)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine)、ポリチオフェン(polythiophene)、オリゴチオフェン、ポリアニリン(polyaniline)、ポリアセチレン(polyacetylene)、ポリピロール(polypyrrole)、ポリフェニレンビニレン(polyphenylene vinylene)またはこれらの誘導体などが挙げられる。中でも好ましくは、ポルフィリン、ポリチオフェン、オリゴチオフェンであり、より好ましくはポルフィリンである。ポルフィリンを含有する半導体層を用いれば、電界効果トランジスタとした際のオンオフ比(on/off比)が増加し、閾値電圧Vtが改善するという利点がある。なお、半導体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0110】
また、前記の半導体の中でも、半導体層としての、電界効果移動度とソース電極−ドレイン電極方向の電気伝導度、及び電荷素量から求めたキャリア密度が、1×107/cm3以上であるものが好ましく、1×108/cm3以上であるものがより好ましく、また、1×1018/cm3以下であるものが好ましく、1×1017/cm3以下であるものがより好ましい。キャリア密度が小さすぎると半導体とならない可能性があり、大きすぎるとオフ電流が上がる可能性がある。
【0111】
半導体層の形成方法に制限は無いが、例えば有機半導体層の場合、スピンコーティング、スタンプ印刷、スクリーン印刷、ジェット印刷等の公知の方法で溶液処理し、乾燥させることにより形成することができる。
【0112】
前記半導体層の膜厚は任意であるが、1nm以上が好ましく、10nm以上が更に好ましい。また、10μm以下が好ましく、1μm以下が更に好ましく、500nm以下が特に好ましい。
【0113】
<ソース電極、ドレイン電極>
電界効果トランジスタにおいて、ソース電極5は、配線を通じて外部から電流が流入する電極であり、ドレイン電極6は、配線を通じて外部に電流を送り出す電極であり、前述した半導体層4に接して設けられている。電界効果トランジスタにおいて、ソース電極5及びドレイン電極6の材料としては、従来の電界効果トランジスタに用いられている導電性材料を用いることができ、例えば、前記ゲート電極2の材料として挙げたと同様の材料が挙げられる。
【0114】
また、これらの導電性材料によるソース電極及びドレイン電極の形成方法も、前記ゲート電極の成膜法及び必要に応じたパターンニング法として挙げたと同様の成膜法及びパターンニング法により形成される。さらに、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して電極外の部分を除去したり、電極材の導電性を変化させたりすることにより、直接にパターンを形成することもできる。
【0115】
中でも、ソース電極及びドレイン電極におけるパターンニング法としては、フォトリソグラフィー法による方法が好ましい。そのフォトリソグラフィー法としては、電極材を成膜し、成膜の電極外の部分をエッチングにより除去する方法、及び、電極外の部分にレジスト等を塗布等によりパターンニングした後、その上に電極材を成膜し、しかる後、レジスト等を溶解する溶剤で溶出することにより、その上に成膜された電極材を除去する方法(リフトオフ法)、に大別されるが、本発明では、前者の、電極材成膜の電極外の部分をエッチングにより除去する方法が好ましい。なお、エッチングを行う場合には、エッチング液に対する耐性の点から、ポリビニル芳香族チオエーテル誘導体を含有する絶縁層を用いることが好ましい。
【0116】
ソース電極及びドレイン電極の厚みは任意であるが、1nm以上が好ましく、10nm以上が特に好ましい。また、100nm以下が好ましく、50nm以下が特に好ましい。
さらに、ソース電極とドレイン電極との間の間隔(チャネル長さL)も任意であるが、100μm以下が好ましく、50μm以下が特に好ましい。また、チャネル幅Wは、2000μm以下が好ましく、500μm以下が特に好ましい。さらに、L/Wは、1以下が好ましく、0.1以下が特に好ましい。
【0117】
<オーバーコート層>
電界効果トランジスタにおいて、オーバーコート層の材料としては、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂等の有機ポリマー、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の金属酸化物や窒化物等の無機物が挙げられる。なお、これらは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0118】
オーバーコート層の形成方法に制限は無く、公知の各種方法を任意に用い得る。例えば、オーバーコート層が有機ポリマーからなる場合は、その溶液を塗布した後、乾燥させて有機ポリマー層とする方法、それらのモノマーを塗布した後、重合してポリマー層とする方法等が挙げられ、成膜後に架橋処理等の後処理を適宜行ってもよい。また、例えば、オーバーコート層が無機物からなる場合は、スパッタリング法、蒸着法等による方法や、ゾルゲル法に代表される溶液を用いた方法等が挙げられる。さらに、オーバーコート層は複数層形成してその効果を高めることもできる。
【0119】
<その他の層>
電界効果トランジスタには、支持基板1、ゲート電極2、絶縁層3、半導体層4、ソース電極5、ドレイン電極6及びオーバーコート層以外にも、1層又は2層以上の層を設けても良い。また、これらを設ける位置は、電界効果トランジスタの機能を妨げない限り任意である。
【0120】
[III.その他]
ところで、本発明に係る高分子絶縁体の欄において説明した高分子絶縁体のうち、少なくともビニルチオフェノール/誘導体単位と、架橋性ビニルモノマー単位及び耐熱性ビニルモノマー単位のうち一方又は両方とを含むポリビニルチオフェノールは、従来知られていない新規なポリマーである。この新規なポリマーは、上述したような優れた性質を有する物質であり、本発明の絶縁層の材料としての用途をはじめ、様々な用途への応用が期待される。したがって、少なくともビニルチオフェノール/誘導体単位と架橋性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位とを含むポリビニルチオフェノール、並びに、少なくともビニルチオフェノール/誘導体単位と耐熱性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位とを含むポリビニルチオフェノールも、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明は以下の実施例に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0122】
[合成例1:p−ビニルベンゼンチオールの合成]
室温、窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(THF)53mLにMg粉末1.64gを分散させ、4−ブロモスチレン(アルドリッチ製)8mLをゆっくり滴下した。途中反応熱の上昇を抑えるために段階的に冷却を行い、−15℃まで冷却してグリニャール反応液を調製した。この温度のまま反応液に硫黄粉末(アルドリッチ製)を投入し3時間かけて徐々に0℃まで戻した。3時間後、反応液に1NのNaOH水溶液を加えて撹拌した。この反応液をろ別し、エーテルで分液した。水層を回収し、室温で減圧濃縮した。この水層に1NのHClを徐々に加えてpH6.5に調整すると薄黄色に着色した。この水層をベンゼンで分液して、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮して、目的物であるp−ビニルベンゼンチオールを得た。
なお、得られた生成物について1H−NMR及びGC−MSを測定した結果は、次の通りであった。
1H−NMR:3.45(−SH,s,1H)、7.02−7.38(−C64−,m,4H)。
GC−MS:m/e=136。
また、合成例1で得たp−ビニルベンゼンチオールの質量分析スペクトルを図2に示す。
【0123】
[合成例2:アセチル基によるチオール保護]
−5℃、窒素雰囲気下でTHF300mLに合成例1で得られたp−ビニルベンゼンチオール2.7gを溶解させ、脱酸剤としてピリジン10mLを加えた。1時間良く撹拌し、その後アセチルクロライド3gをゆっくり滴下した。滴下終了後、1時間撹拌するとピリジン塩酸塩が析出した。このピリジン塩酸塩を濾別してろ液を低温で減圧濃縮し、さらにベンゼンと水で分液抽出し、有機層を低温で減圧濃縮して薄黄色液体を得た。この液体をアルミナカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン)で精製して、目的物であるアセチル保護基つきp−ビニルベンゼンチオールを得た。
なお、得られた生成物について1H−NMR及びGC−MSを測定した結果は、次の通
りであった。
1H−NMR:7.02−7.38(−C64−,m,4H)。
GC−MS:m/e=178。
【0124】
[合成例3:メルカプト基含有ポリマーA(共重合)]
合成例2で精製したアセチル保護基つきp−ビニルベンゼンチオール1.8gと桂皮酸ビニル(アルドリッチ製)1.7g=1:1を遮光状態、窒素中でTHFに10重量%濃度で溶解させ、重合開始剤2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル(キシダ化学製)をモノマーに対して0.01モル%の割合で加え、8時間加熱還流を行った。反応終了後、反応液をメタノールに投入して再沈殿を行い、白色固体ポリマーを得た。ポリスチレン換算によるGPC測定の結果、数平均分子量は30,000、重量平均分子量は90,000であった。得られたポリマーのアセチル基脱保護反応は、ポリマーを再び水酸化ナトリウム水溶液とTHFの混合液に溶解させ、1N塩酸水溶液に再沈殿させて行った。脱保護反応を行ったポリマーの乾燥は減圧下で行い、下記構造式のポリマーAを得た。なお、下記構造式においてカッコ内は繰り返し単位を表わし、それらの繰り返し単位の結合順、重合比は下記構造式に限られない。
【0125】
【化22】

【0126】
[合成例4:メルカプト基含有ポリマーB(共重合三元系)]
合成例2で精製したアセチル保護基つきp−ビニルベンゼンチオール1.8gと桂皮酸ビニル(アルドリッチ製)0.9gおよび無水マレイン酸(アルドリッチ製)0.5g=2:1:1を遮光状態、窒素中でTHFに10重量%濃度で溶解させ、重合開始剤2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル(キシダ化学製)をモノマーに対して0.01モル%の割合で加え、8時間加熱還流を行った。反応終了後、反応液をメタノールに投入して再沈殿を行い、白色固体ポリマーを得た。このポリマーをN−メチルピロリドン200mLに溶解させ、遮光状態、窒素雰囲気下にしてアニリン100mLを加えて、3時間加熱還流した。反応終了後、1N塩酸水溶液に再沈殿させてアセチル基の脱保護反応を併せて行い、白色固体ポリマーを得た。ポリスチレン換算によるGPC測定の結果、数平均分子量は20,000、重量平均分子量は70,000であった。得られたポリマーのアセチル基脱保護反応は、ポリマーを再び水酸化ナトリウム水溶液とTHFの混合液に溶解させ、1N塩酸水溶液に再沈殿させて行った。脱保護反応を行ったポリマーの乾燥は減圧下で行い、下記構造式のポリマーBを得た。なお、下記構造式においてカッコ内は繰り返し単位を表わし、それらの繰り返し単位の結合順、重合比は下記構造式に限られない。
【0127】
【化23】

【0128】
[合成例5:メルカプト基含有ポリマーC(単独重合)]
合成例2で精製したアセチル保護基つきp−ビニルベンゼンチオール1.8gを窒素中でTHFに10重量%濃度で溶解させ、重合開始剤2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル(キシダ化学製)をモノマーに対して0.01モル%の割合で加え、8時間加熱還流を行った。反応終了後、反応液をメタノールに投入して再沈殿を行い、白色固体ポリマーを得た。ポリスチレン換算によるGPC測定の結果、数平均分子量は29,000、重量平均分子量は88,000であった。得られたポリマーのアセチル基脱保護反応は、ポリマーを再び水酸化ナトリウム水溶液とTHFの混合液に溶解させ、1N塩酸水溶液に再沈殿させて行った。脱保護反応を行ったポリマーの乾燥は減圧下で行い、下記構造式のポリマーCを得た。
【0129】
【化24】

【0130】
[合成例6:メチル基によるチオール保護]
−5℃、窒素雰囲気下でTHF100mLに合成例1で得られたp−ビニルベンゼンチオール0.9gを溶解させ、脱酸剤としてピリジン50mLを加えた。1時間良く撹拌し、その後ヨードメタン1gをゆっくり滴下した。滴下終了後、2時間低温で攪拌した。反応終了後、反応液を低温で減圧濃縮し、さらにジエチルエーテルと水で分液抽出し、有機層を低温で減圧濃縮して薄黄色液体を得た。この液体をアルミナカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン)で精製して、目的物であるメチル保護基つきp−ビニルベンゼンチオールを得た。
なお、得られた生成物について1H−NMR及びGC−MSを測定した結果は、次の通りであった。
1H−NMR:7.00−7.34(−C64−,m,4H)。
GC−MS:m/e=151。
【0131】
[合成例7:メルカプト基含有ポリマーD(共重合)]
合成例6で精製したメチル保護基つきp−ビニルベンゼンチオール1.5gとビニルアセテート(アルドリッチ製)0.87g=1:1を窒素中でTHFに10重量%濃度で溶解させ、重合開始剤2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル(キシダ化学製)をモノマーに対して0.01モル%の割合で加え、8時間加熱還流を行った。反応終了後、反応液をメタノールに投入して再沈殿を行い、白色固体ポリマーを得た。この白色ポリマーをピリジン100mLに溶解させ、桂皮酸クロライド1.5gをゆっくり滴下した。滴下終了後、2時間低温で攪拌するとピリジン塩酸塩が析出した。このピリジン塩酸塩を濾別してろ液をメタノールに投入して再沈殿を行い、白色固体である下記構造式のポリマーDを得た。なお、下記構造式においてカッコ内は繰り返し単位を表わし、それらの繰り返し単位の結合順、重合比は下記構造式に限られない。ポリスチレン換算によるGPC測定の結果、数平均分子量は30,000、重量平均分子量は90,000であった。
【0132】
【化25】

【0133】
[実施例1]
ITOガラス板(豊和産業社製、2.5cm×2.5cm)上に、フォトレジスト(日本ゼオン社製「ZPN1100」)を用いてパターニングを行い、1重量%の塩化鉄(II)を溶解させた1規定の塩化水素水溶液で不要のITOをエッチングし、洗浄することによりゲート電極を形成した。次いで、その上に、合成例3で得られたポリマーAの10重量%N−メチルピロリドン溶液(0.2μmのPTFEフィルターで加圧濾過したもの)を、2000rpmの回転数でスピンコートし、膜厚3000Åのフィルムを作製した。このフィルムに超高圧水銀灯を用いた紫外線露光装置で紫外線を照射して、桂皮酸部位の光架橋反応を行い、溶媒に対する不溶化を行ってゲート絶縁層を形成した。引き続いて、このゲート絶縁層上を、ソース電極及びドレイン電極を形成するためフォトリソグラフィー(ナガセケムテックス社:ポジ型リフトオフレジストNPR9700T)でパターニングを行い、クロムを50Å、金を1000Åの厚さで蒸着することにより、間隔(L)10μm、幅(W)500μmでソース電極及びドレイン電極を形成し、その上に、下記構造を有するポルフィリン化合物の0.7重量%クロロホルム溶液をスピンコートし、180℃で10分間加熱して、該ポルフィリン化合物をテトラベンゾポルフィリンに変換させることにより、テトラベンゾポルフィリンからなる半導体層を有し、前記図1(A)に示されるボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを作製した。なお、その際の層形成、及び電極の形成は、全て窒素雰囲気中で行った。
【化26】

【0134】
前記で得られた電界効果トランジスタについて、アジレントテクノロジー社製半導体パラメーターアナライザー「4155C」を用いて、以下に示す方法で、移動度μ、閾値電圧Vt、及びOn/Off比を測定したところ、移動度μ=0.13cm2/V・s、閾値電圧Vt=−3.5V、On/Off比=3×105であった。
また、ゲート電極とソース・ドレイン電極の重なり部分から、絶縁層の電気伝導度を測定した結果、電気伝導度は1×10-12S/cm以下であった。
【0135】
〔移動度μ、閾値電圧Vtの測定方法〕
ソース電極とドレイン電極との間に印加された電圧Vdに対して流れる電流をId、ソース電極とゲート電極に印加される電圧をVg、閾値電圧をVt、ゲート絶縁層の単位面積当たりの静電容量をCi、ソース電極とドレイン電極の間隔をL、幅をW、半導体層の移動度をμとすると、その動作は下記(1)又は(2)式の関係で表わすことができ、異なるVgに対するIdの変化を測定し、Id1/2とVgとをプロットしたグラフにおける傾きとして移動度μを求め、又、そのグラフのId切片から閾値電圧Vtを求めた。
d<Vg−Vtのとき、
d=μCi(W/L)〔(Vg−Vt)Vd−(Vd2/2)〕 (1)
d>Vgのとき、
d=(1/2)μCi(W/L)(Vg−Vt2 (2)
【0136】
〔On/Off比〕
ソース電極とドレイン電極間に印加された電圧Vdを−30Vに固定し、ソース電極とゲート電極に印加される電圧Vgを、−50V、+30Vにした時のソース電極とドレイン電極間に流れる電流Id(−50V)、Id(+30V)をそれぞれ測定し、これらの比Id(−50V)/Id(+30V)によってOn/Off比を算出した。
【0137】
[実施例2]
合成例3で得られたポリマーAの代わりに、合成例4で得られたポリマーBを用いた他は実施例1と同様にして、前記図1(A)に示されるボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを作製した。
【0138】
前記で得られた電界効果トランジスタについて、実施例1と同様にして、移動度μ、閾値電圧Vt、及びOn/Off比を測定したところ、移動度μ=0.3cm2/V・s、閾値電圧Vt=5V、On/Off比=2.3×105であった。
また、ゲート電極とソース・ドレイン電極の重なり部分から、絶縁層の電気伝導度を測定した結果、電気伝導度は1×10-12S/cm以下であった。
【0139】
[実施例3]
ITOガラス板(豊和産業社製、2.5cm×2.5cm)上に、フォトレジスト(日本ゼオン社製「ZPN1100」)を用いてパターニングを行い、1重量%の塩化鉄(II)を溶解させた1規定の塩化水素水溶液で不要のITOをエッチングし、洗浄することによりゲート電極を形成した。次いで、その上に、合成例5で得られたポリマーCの10重量%N−メチルピロリドン溶液(0.2μmのPTFEフィルターで加圧濾過したもの)を、2000rpmの回転数でスピンコートし、膜厚3000Åのフィルム(ゲート絶縁層)を作製した。引き続いて、このゲート絶縁層上を、ソース電極及びドレイン電極を形成するためフォトリソグラフィー(ナガセケムテックス社:ポジ型リフトオフレジストNPR9700T)でパターニングを行い、クロムを50Å、金を1000Åの厚さで蒸着することにより、間隔(L)10μm、幅(W)500μmでソース電極及びドレイン電極を形成し、その上に、アルドリッチ社の3−ヘキシルポリチオフェン1重量%クロロホルム溶液をスピンコートして半導体層を形成し、前記図1(A)に示されるボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを作製した。なお、その際の層形成、及び電極の形成は、全て窒素雰囲気中で行った。
【0140】
前記で得られた電界効果トランジスタについて、実施例1と同様にして、移動度μ、閾値電圧Vt、及びOn/Off比を測定したところ、移動度μ=0.05cm2/V・s、閾値電圧Vt=6V、On/Off比=2.3×104であった。
また、ゲート電極とソース・ドレイン電極の重なり部分から、絶縁層の電気伝導度を測定した結果、電気伝導度は1×10-12S/cm以下であった。
【0141】
[実施例4]
〔ゲート電極作製〕
コーニング社のEagle2000ガラスウェハーに、Cr(厚さ30nm)を、アルバック社の真空蒸着装置EX−400にて電子線蒸着した。
次いで、東京応化社のポジ型レジストOFPR−800LB(1500rpm,20秒にてスピンコートし、次いで80℃,10分にてプリベーク)にてレジストパターニングを施し、三菱化学製Crエッチング液にて1分20〜30秒エッチングを行った。
エッチング終了後に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、エキシトラン、純水、イソプロパノール(IPA)の順で30分ずつ超音波洗浄を行った後、140℃にて10分乾燥を行った。
【0142】
〔ゲート絶縁層作製〕
前記のウェハーに、ポリマーDの10重量%シクロヘキサノン溶液(0.2μmのPTFEフィルターで加圧濾過したもの)を1500rpm,120秒でスピンコートし、500nmの絶縁層を作製した。
この絶縁層に1J/cm2のUV照射を行い、有機溶媒の現像液で1分30秒現像し、次いでアセトンで30秒リンスを行って絶縁層のパターニングを施した。
【0143】
〔ソース・ドレイン電極作製〕
上記で作製したポリマーDからなる絶縁層の上に、アルバック社の真空蒸着装置EX−400を用いて、全面に、Cr(厚さ5nm)及びAu(厚さ100nm)を真空蒸着した。
次いで、東京応化社のポジ型レジストOFPR−800LB(1500rpm,20秒にてスピンコートし、次いで80℃,10分にてプリベーク)にてレジストパターニングを施し、三菱化学製Auエッチング液にて1分5秒、Crエッチング液にて15秒エッチングした後、さらにAuエッチング液にて5秒、エッチングを行った。
その後、中和処理としてアンモニア水に1分浸漬した。
さらに、DMF、アセトン、IPAの順に洗浄を行った後、120℃にて1時間乾燥を行い、ソース・ドレイン電極付ポリマーゲート絶縁層素子を作製した。
【0144】
〔半導体層作製〕
上記で作製した電極付ポリマーゲート絶縁層素子に、実施例1で使用したポルフィリン化合物の0.7重量%クロロホルム溶液をスピンコートし、180℃で10分間加熱して、該ポルフィリン化合物をテトラベンゾポルフィリンに変換させることにより、テトラベンゾポルフィリンからなる半導体層を有し、前記図1(A)に示されるボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを作製した。なお、その際の層形成、及び電極の形成は、全て窒素雰囲気中で行った。
【0145】
こうして得られた、ポリマーDからなる絶縁層を有する電界効果トランジスタについて、実施例1と同様にして、移動度μ、閾値電圧Vt、及びOn/Off比を測定したところ、移動度μ=0.5cm2/V・s、閾値電圧Vt=−1V、On/Off比=4.3×104であった。
また、ゲート電極とソース・ドレイン電極の重なり部分から、絶縁層の電気伝導度を測定した結果、電気伝導度は1×10-12S/cm以下であった。
【0146】
[実施例5]
〔ゲート電極作製〕
実施例4と同様にして、ウェハー上にゲート電極を作製した。
【0147】
〔ゲート絶縁層作製〕
ポリマーDの代わりにポリマーAを用いた他は実施例4と同様にして、絶縁層を形成した。
【0148】
〔ソース・ドレイン電極作製〕
上記で作製したポリマーAからなる絶縁層の上に、アルバック社の真空蒸着装置EX−400を用いて、全面に、Au(厚さ100nm)を真空蒸着した。
また、ポリマーAの場合は、チオール基が表面にあるため、実施例4に比較して接着層のCrを除くことが出来るという利点がある。
次いで、実施例4と同様にしてレジストパターニング、エッチング、中和処理、洗浄及び乾燥を行い、ソース・ドレイン電極付ポリマーゲート絶縁層素子を作製した。
【0149】
〔半導体層作製〕
上記で作製した電極付ポリマーゲート絶縁層素子の上に、実施例4と同様にして半導体層を作製し、前記図1(A)に示されるボトムゲート・ボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを作製した。
【0150】
得られたポリマーAからなる絶縁層を有する電界効果トランジスタについて、実施例1と同様にして、移動度μ、閾値電圧Vt、及びOn/Off比を測定したところ、移動度μ=1.2cm2/V・s、閾値電圧Vt=−4.7V、On/Off比=1.3×105であった。
また、ゲート電極とソース・ドレイン電極の重なり部分から、絶縁層の電気伝導度を測定した結果、電気伝導度は1×10-12S/cm以下であった。
【0151】
[比較例1]
ポリビニルフェノール(PVP):Aldrich製(Mw=20000(GPC法))と架橋剤としてポリ(メラミン−co−ホルムアルデヒド)メタクリレート(Aldrich社製)とを、4:1(重量比)の割合で混合し、この混合物を5重量%濃度でテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた後、0.45μmの(PTFE)フィルターで濾過を行った。このPVP溶液を、実施例3と同様にして基板上に展開し、3000rpmで120secの間スピンコートを行った。その後、120℃にて熱処理を3分行い、熱架橋PVP膜を作製して絶縁体層としたこと以外は、実施例3と同様にしてトランジスタ素子を作製し、同様に評価を行った。
【0152】
前記で得られた電界効果トランジスタについて、実施例1と同様にして、移動度μ、閾値電圧Vt、及びOn/Off比を測定したところ、移動度μ=0.04cm2/V・s、閾値電圧Vt=22V、On/Off比=4.7×103であった。
また、ゲート電極とソース・ドレイン電極の重なり部分から、絶縁層の電気伝導度を測定した結果、電気伝導度は1×10-12S/cm以下であった。
【0153】
[まとめ]
実施例1〜5と比較例1から、ゲート絶縁層に式(A)で表わされる繰り返し単位を含有させることにより、トランジスタの素子特性を改善できることが分かる。また、実施例1,2の方が実施例3よりも素子特性がより改善されていることから、本発明の高分子絶縁体に架橋性ビニルモノマー単位及び耐熱性ビニルポリマー単位を含有させることで素子特性が更に改善されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明は、産業上の任意の分野で使用可能であり、例えば、電子デバイス等の絶縁層を用いる素子に用いることができる。さらに、電子デバイスの中でも、電界効果トランジスタに用いて好適である。
【0155】
電界効果トランジスタは、例えば、ディスプレイのアクティブマトリクスにおける表示ピクセル画素のスイッチング素子として利用することができる。これは、ゲート電極に印加される電圧でソース電極とドレイン電極間の電流をスイッチングできることを利用して、ある表示素子に電圧を印加或いは電流を供給する時のみスイッチを入れ、その他の時間は回路を切断することにより、高速、高コントラストな表示を行うものである。適用される表示素子としては、例えば、液晶表示素子、高分子分散型液晶表示素子、電気泳動表示素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子等が挙げられる。
【0156】
特に、電界効果トランジスタは、低温プロセスでの素子作製が可能であり、プラスチックや紙等の高温処理に耐え難い基板を用いることができ、又、塗布或いは印刷プロセスでの素子作製が可能であることから、大面積のディスプレーへの応用にも適している。さらに、従来のアクディブマトリクスで使用されるシリコン半導体を用いた画素用スイッチ素子の代替としても、省エネルギー、低コストプロセスの可能な素子として有利である。
【0157】
また、トランジスタを集積することにより、デジタル素子やアナログ素子が実現できる。これらの例としては、AND、OR、NAND、NOT等の論理回路、メモリー素子、発振素子、増幅素子等が挙げられる。更にこれらを組み合わせることにより、ICカードやICタグ等を作製することもできる。
【0158】
また、有機半導体が、ガスや化学物質、温度等の外部の刺激により、特性が大きく変化することを利用して、センサーへの応用も考えられる。例えば、気体や液体との接触により変化する量を測定することにより、定性的或いは定量的にそれに含まれている化学物質を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】(A)〜(D)は、いずれも、本発明の一実施形態としての電界効果トランジスタの代表的構造を模式的に示す縦断面図である。
【図2】合成例1で得たp−ビニルベンゼンチオールの質量分析スペクトルを表わす図である。
【符号の説明】
【0160】
1 支持基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁層(絶縁層)
4 半導体層
5 ソース電極
6 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記式(A)で表される繰り返し単位を含む高分子絶縁体を含有する
ことを特徴とする絶縁層。
【化1】

(式(A)中、
aは直接結合又は任意の連結基を表わし、
Arは置換されていても良い2価の芳香族基を表わし、
bは水素原子、フッ素原子又は一価の有機基を表わす。)
【請求項2】
前記Raが直接結合であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁層。
【請求項3】
前記Arが置換されても良い炭化水素系芳香環であることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁層。
【請求項4】
前記Rbが水素原子又は直鎖状又は分岐状炭化水素基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁層。
【請求項5】
該高分子絶縁体が少なくともビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体に由来する繰り返し単位を含む
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁層。
【請求項6】
該高分子絶縁体が、架橋性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の絶縁層。
【請求項7】
該高分子絶縁体が、耐熱性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の絶縁層。
【請求項8】
電気伝導度が1×10-12S/cm以下である
ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の絶縁層。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の絶縁層を備える
ことを特徴とする電子デバイス。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の絶縁層を備える
ことを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項11】
ポルフィリンを含有する半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極とを備えることを特徴とする、請求項10に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項12】
少なくともビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体に由来する繰り返し単位と架橋性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位とを含む
ことを特徴とするポリビニルチオフェノール。
【請求項13】
少なくともビニルチオフェノール及び/又はビニルチオフェノール誘導体に由来する繰り返し単位と耐熱性ビニルモノマーに由来する繰り返し単位とを含む
ことを特徴とするポリビニルチオフェノール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−60558(P2008−60558A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201410(P2007−201410)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】