説明

絶縁膜

【課題】本発明は、絶縁膜、さらに詳しくは、半導体素子デバイスなどにおける層間絶縁膜として使用するのに適した、適当な均一な厚さを有する膜が形成可能な、しかも誘電率、ヤング率などの膜特性に優れた絶縁膜を提供することを目的とする。
【解決手段】シロキサン構造を有する化合物を含む膜に周波数5.8GHzのマイクロウエーブを照射して形成される絶縁膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜に関し、さらに詳しくは、半導体素子などにおける絶縁膜で、適当な均一な厚さを有する塗膜が形成可能な、しかも、絶縁特性などに優れた半導体デバイスの絶縁膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁膜や光学用途に使用される膜として、気相成長(CVD)法などの真空プロセスで形成されたシリカ(SiO2)膜が多用されている。そして、近年、より均一な層間絶縁膜を形成することを目的として、SOG(Spin on Glass)膜と呼ばれるテトラアルコキシランの加水分解生成物を主成分とする塗布型の絶縁膜も使用されるようになっている。また、半導体素子などの高集積化に伴い、有機SOGと呼ばれるポリオルガノシロキサンを主成分とする低誘電率の層間絶縁膜が開発されている。
【0003】
しかし、無機材料の膜は概して誘電率があまり低くない。低誘電率CVD膜として最近検討されているSiOF膜の比誘電率は約3.3〜3.5であるが、この膜は吸湿性が高く、使用しているうちに誘電率が上昇するという問題があった。
【0004】
かかる状況下、絶縁性、耐熱性、耐久性に優れた絶縁膜材料として、オルガノポリシロキサンに高沸点溶剤や熱分解性化合物を添加して空孔を形成し、誘電率を下げる方法が知られている。しかしながら、上記のような多孔質膜では、多孔化することにより誘電率特性が下がっても、機械強度が低下すること、吸湿による誘電率増加がおこることなどが問題になっていた。また、互いに連結した空孔が形成されるため、配線に用いられた銅が、絶縁膜中に拡散することなどが問題となっていた。
【0005】
一方、有機ポリマーに低分子のカゴ型化合物を添加した溶液を塗布することによって、低屈折率、低密度の膜を得る試みも知られている(特許文献1参照)。しかし、カゴ型化合物単量体を添加する方法では、屈折率、誘電率の低下効果が不十分であるばかりでなく、塗布面状悪化や焼成時の膜減りが大きいなどの問題点があった。このように、絶縁膜として要求される低誘電率・機械的特性などの諸要求性能を十分に満足する材料は未だ見出されておらず、さらなる改良が必要とされていた。
【0006】
【特許文献1】特開2000−334881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記問題点を解決するための絶縁膜に関し、さらに詳しくは、半導体素子デバイスなどにおける層間絶縁膜として使用するのに適した、適当な均一な厚さを有する膜が形成可能な、しかも誘電率、ヤング率などの膜特性に優れた絶縁膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<6>の構成により解決されることを見出した。
【0009】
<1> シロキサン構造を有する化合物を含む膜に周波数5.8GHzのマイクロウエーブを照射して形成される絶縁膜。
<2> 前記シロキサン構造を有する化合物を含む膜が、シロキサン構造を有する化合物を含む膜形成用組成物の塗布膜である<1>に記載の絶縁膜。
<3> 前記シロキサン構造を有する化合物が、シルセスキオキサン化合物である<2>に記載の絶縁膜。
<4> 前記シルセスキオキサン化合物が、カゴ型シルセスキオキサン化合物である<3>に記載の絶縁膜。
<5> 前記カゴ型シルセスキオキサン化合物が、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体である<4>に記載の絶縁膜。
一般式(1)
(RSiO3/2
(一般式(1)中、Rはそれぞれ独立して非加水分解性基を表し、Rのうち少なくとも2つはビニル基またはエチニル基を含む基を表す。nは8〜16の整数を表す。)
<6> <1>〜<5>のいずれかに記載の膜を有する電子デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体素子デバイスなどにおける層間絶縁膜として使用するのに適した、膜質の均一性に優れ、低い誘電率、ヤング率などの膜特性に優れた膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る絶縁膜およびその製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る絶縁膜は、シロキサン構造を有する化合物を含む膜に周波数5.8GHzのマイクロウエーブを照射して形成される。本発明に係る絶縁膜は、半導体素子デバイスなどにおける層間絶縁膜や、さらには光学デバイスにおける低屈折率膜としての使用に適している。シロキサン構造を有する化合物を含む膜とは、ケイ素原子と酸素原子からなるシロキサン結合(Si−O)を有する化合物が含まれている膜であり、優れた耐熱性や機械特性、また低誘電性などが期待できる。このような膜の形成方法としては、主に、プラズマCVDなどにより成膜するCVD方法と、シロキサン構造を有する化合物、好ましくはカゴ型シルセスキオキサン化合物、より好ましくはカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体を含んだ膜形成用組成物をスピンコート法などで塗布、成膜を行う塗布法との二つがある。なかでも低コスト・高生産性という観点から、塗布法が好ましい。
【0013】
<CVD法>
本発明のシロキサン構造を有する化合物を含む膜は、CVD法により製造することができ、例えばプラズマCVD法などが挙げられる。プラズマCVD法とは、反応ガスを低温プラズマ状態にして化学的に活性なイオンやラジカルに分解させて膜を形成する方法である。プラズマCVD法としては、通常用いられる方法を採用でき、例えば、平行平板型のプラズマ成膜装置などが挙げられる。反応ガスとしては、TEOS(テトラエトキシシラン)−O系ガスを用いることができ、SiO、SiOCなどが含まれたケイ素含有膜を得ることができる。成膜条件は、使用する反応ガス、装置などによって適宜最適な条件が選択される。
【0014】
<塗布法>
塗布法とは、シロキサン構造を有する化合物、好ましくはカゴ型シルセスキオキサン化合物、より好ましくは一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体を含む膜形成用組成物をスピンコートなどで塗布して塗布膜を製造する方法である。
【0015】
<シロキサン構造を有する化合物>
本発明に係るシロキサン構造を有する化合物とは、シロキサン結合(Si−O結合)をもつ化合物であり、シロキサン構造を有する化合物は、低分子化合物および高分子化合物を含む。本発明の効果を損なわない限り、いかなるシロキサン構造を有する化合物であってもよい。
【0016】
シロキサン構造を有する化合物の好ましい態様としては、低誘電特性、機械的特性が優れるという観点から、シルセスキオキサン化合物が好ましい。シルセスキオキサン化合物は、少なくともシルセスキオキサン構造を有する化合物である。シルセスキオキサン構造とは、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している構造(珪素原子数に対する酸素原子数が1.5)である。シルセスキオキサン化合物としては、例えば、ラダー型、カゴ型、カゴ型の一部が欠損した不完全カゴ型、およびこれらの混合物などが挙げられ、耐熱性などの観点から、カゴ型が好ましい。また、シルセスキオキサン化合物がビニル基やエチニル基などの不飽和基を有すると、後述するマイクロウエーブ照射による性能向上が大きく好ましい。なお、カゴ型は、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような構造を指す。
【0017】
上述のシルセスキオキサン化合物の好ましい態様として、耐熱性に優れるという観点から、下記一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体が挙げられる。
一般式(1)
(RSiO3/2
(一般式(1)中、Rはそれぞれ独立して非加水分解性基を表し、Rのうち少なくとも2つはビニル基またはエチニル基を含む基を表す。nは8〜16の整数を表す。)
【0018】
一般式(1)中のRは、非加水分解性基を表す。非加水分解性基とは室温で1当量の中性水と1時間接触させた場合に95%以上残存する基であり、この条件で99%以上残存していることが好ましい。具体的には、置換もしくは無置換の炭化水素基、ケイ素原子含有基、およびそれらを組み合わせた基が挙げられる。炭化水素基とは、脂肪族炭化水素基やアリール基をさす。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基がある。Rは、同一でも異なっていてもよい。
【0019】
上記アルキル基は、特に限定されず、直鎖、分岐鎖、または環状でもよい。具体的には、メチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0020】
上記アルケニル基は、特に限定されず、直鎖、分岐鎖、または環状でもよい。具体的には、ビニル基、アリル基などが挙げられる。
【0021】
上記アルキニル基は、特に限定されず、直鎖、分岐鎖、または環状でもよく、具体的には、エチニル基などが挙げられる。
【0022】
アリール基は、芳香族性を有する環であれば特に制限されるものではないが、具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
【0023】
ケイ素原子含有基としては、ケイ素が含有されていれば特に制限されないが、一般式(2)で表される基が好ましい。
一般式(2)
*−L−Si−(R
(一般式(2)中、Lはアルキレン基、−O−、−S−、−Si(R11)(R12)−、−N(R13)−または、これらを組み合わせた2価の連結基を表す。R11、R12、R13およびRは、それぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基を表す。*はケイ素原子との結合位置を表す。)
【0024】
一般式(2)中、Lはアルキレン基、−O−、−S−、−Si(R11)(R12)−、−N(R13)−または、これらを組み合わせた2価の連結基を表す。なかでも、アルキレン基、−O−または、これらを組み合わせた2価の連結基が好ましい。
【0025】
一般式(2)中、R11、R12、R13およびRで表されるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基の定義は、上述のRの定義と同じであり、好ましくはメチル基、ビニル基、エチニル基などが挙げられる。一般式(2)で表される基として具体的には、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基などのシリルオキシ基が挙げられる。
【0026】
一般式(2)中、Lが−O−の場合(一般式(3))、以下の一般式(4)で表される化合物と一般式(5)で表される化合物を反応させることにより合成することができる。*はケイ素原子との結合位置を表す。
(R−Si−O−* (一般式(3))
(MO-SiO3/2 (一般式(4))
(R−Si−Cl (一般式(5))
【0027】
一般式(4)で表される化合物は、たとえば、Angew. Chem. Int. Chem. Int. Ed. Engl. 1997, 36, No.7, 743−745などに記載の方法に従って合成できる。一般式(3)および(5)中のRはそれぞれ独立に非加水分解性基を表す。該非加水分解性基の定義は、上記Rの非加水分解性基の定義と同一である。一般式(4)中のmの定義は、一般式(1)中のnの定義と同一である。Mは金属原子(例えばNa、K、Cu、Ni、Mn)またはオニウムカチオン(例えばテトラメチルアンモニウム)を表す。なお、Mが多価の金属原子である場合は、複数の−O−SiO3/2が多価の金属原子Mに結合した形態を意味する。一般式(4)で表される化合物と、一般式(5)で表される化合物との反応は、例えば、溶媒中に、一般式(4)で表される化合物と、一般式(4)で表される化合物中に含まれるSi−OM基数の1〜100倍モルの一般式(5)で表される化合物を添加し、撹拌しながら、通常0〜180℃、10分〜20時間行う。溶媒としては、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶剤が好ましい。
【0028】
一般式(1)中、ビニル基またはエチニル基を含む基とは、ビニル基、エチニル基、または以下の一般式(6)で表される基が好ましく、なかでも分子量制御のしやすさの観点より、ビニル基、エチニル基が好ましい。
一般式(6)
*―L−R
(一般式(6)中、Lはアルキレン基、−O−、−S−、−Si(R21)(R22)−、−N(R23)−、−O−Si(R24)(R25)−または、これらを組み合わせた2価の連結基を表す。R21〜R25はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、またはフェニル基を表す。Rはビニル基またはエチニル基を表す。*はケイ素原子との結合位置を表す。)
【0029】
一般式(6)中、Lはアルキレン基、−O−、−S−、−Si(R21)(R22)−、−N(R23)−、−O−Si(R24)(R25)−または、これらを組み合わせた2価の連結基を表す。なかでも、アルキレン基、−O−、−O−Si(R24)(R25)−、または、これらを組み合わせた2価の連結基が好ましい。R21〜R25はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、またはフェニル基を表す。
【0030】
一般式(1)中、nは8〜16の整数を表し、好ましくは8〜12であり、さらに好ましくは8である。
【0031】
一般式(1)で表される化合物は、Rのうち少なくとも2つがビニル基であることが好ましく、さらにRのうち少なくとも半数がビニル基であることが好ましく、特にRのすべてがビニル基であることが好ましい。
【0032】
一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物は、以下の一般式(7)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物として表すこともできる。
一般式(7)
(RSiO3/2p―q(RSiO3/2
(一般式(7)中、Rは非加水分解性基を表す。Rはビニル基またはエチニル基を含む基を表す。pは8〜16の整数を表す。qは2〜pの整数を表す。)
【0033】
一般式(7)中、pは8〜16の整数を表し、さらに好ましくは8〜12であり、特に好ましくは8である。qは2〜p以下の整数を表し、好ましくは4〜pで、さらに好ましくは8〜pである。例えば、pが8で、qが8の場合は以下のように表すことができる。
【0034】
【化1】

【0035】
一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。本発明は、これらに限定されるものではない。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体は、炭素−炭素不飽和結合同士の重合反応を用いて製造されることが好ましく、特に一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサンを溶媒に溶解させ、重合開始剤を添加してビニル基またはエチニル基を反応させることが好ましい。重合反応としてはどのような重合反応でも良いが、例えばラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、開環重合、重縮合、重付加、付加縮合、遷移金属触媒重合などが挙げられる。
【0041】
重合反応終了時に残存している一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物は添加量の25%質量以下が好ましく、20%質量以下がより好ましく、15質量%以下が最も好ましい。重合時にこの条件を満たせば、塗布面状がよく、焼成時の膜減りが小さい膜形成用組成物を収率よく製造することができる。
【0042】
重合反応終了時の一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体の重量平均分子量(Mw)が3万〜18万であることがより好ましく、5万〜17万であることがさらに好ましく、7万〜16万であることが最も好ましい。重合反応終了時の一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体には、分子量300万以上の成分を実質的に含まないことが好ましく、200万以上の成分を実質的に含まないことがより好ましく、100万以上の成分を含まないことが最も好ましい。
【0043】
一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合反応は非金属の重合開始剤の存在下で行うことが好ましく、例えば、加熱によって炭素ラジカルや酸素ラジカルなどの遊離ラジカルを発生して活性を示す重合開始剤の存在下で重合することが出来る。重合開始剤としては特に有機過酸化物または有機アゾ系化合物が好ましく、試薬自体の安全性および重合反応の分子量再現性から、有機アゾ系化合物が好ましく、なかでもポリマー中に有害なシアノが取り込まれないV−601などのアゾエステル化合物が最も好ましい。
【0044】
重合反応で使用する溶媒は、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物が必要な濃度で溶解可能であり、かつ得られる重合体から形成する膜の特性に悪影響を与えないものであればどのようなものを使用しても良いが、より好ましい溶剤はエステル系溶剤であり、特に好ましくは、酢酸エチル、酢酸ブチルである。
【0045】
反応時に重合開始剤を分解させるのに必要な温度まで反応液を加温でき、反応終了後に有機溶媒を留去できるために、有機溶媒の沸点は75℃以上140℃以下であることが好ましい。重合開始剤の添加方法としては一括添加、分割添加、連続添加などが挙げられるが、少ない重合開始剤添加量で高分子量化でき、膜強度の点からも有利であるので、分割添加および連続添加が好ましい。
【0046】
本発明における重合反応の最適な条件は、重合開始剤、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物、溶媒の種類、濃度などによって異なるが、好ましくは内温0℃〜200℃、より好ましくは40℃〜170℃、特に好ましくは70℃〜140℃で、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜20時間、特に好ましくは3〜10時間の範囲である。また、酸素による重合開始剤の不活性化を抑制するために不活性ガス雰囲気下(例えば窒素、アルゴン等)で反応させることが好ましい。反応時の酸素濃度は好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。
【0047】
後述する膜形成用組成物を製造する際には、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合反応を行った反応液をそのまま膜形成用組成物として用いてもよいが、反応溶媒を留去し、濃縮して用いることが好ましい。また、再沈殿処理を行った後に用いることが好ましい。
【0048】
シロキサン構造を有する化合物の別の好ましい態様としては、下記一般式(8)で表される環状シロキサン化合物である。
【0049】
【化6】

(一般式(8)中、Rはビニル基またはエチニル基を表す。Rはアルキル基を表す。lは3〜17の整数を表す。)
【0050】
一般式(8)中、Rはビニル基またはエチニル基を表す。分子量制御のしやすさの観点より、ビニル基が好ましい。
【0051】
一般式(8)中、Rはアルキル基を表す。Rで表されるアルキル基は、直鎖、分岐または環状でもよく、ビシクロアルキル基のように多環アルキル基であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などが挙げられる。
【0052】
一般式(8)中、lは3〜17の整数を表し、好ましくは3〜10で、さらに好ましくは3〜8である。
【0053】
上述のシロキサン構造を有する化合物は、市販のものを使用してもよいし、公知の方法で合成してもよい。
【0054】
更に、シロキサン構造を有する化合物を含む膜形成用組成物には、得られる膜の特性(耐熱性、誘電率、機械強度、塗布性、密着性等)を損なわない範囲で、ラジカル発生剤、コロイド状シリカ、界面活性剤、シランカップリング剤、密着剤などの添加剤を添加してもよい。
【0055】
ラジカル発生剤とは、熱または光エネルギーの照射によって、炭素、酸素、窒素等の原子のラジカルを発生する化合物を指し、硬膜反応を促進する機能を有するものである。
【0056】
膜形成用組成物は、コロイド状シリカを含有していてもよい。例えば、高純度の無水ケイ酸を親水性有機溶媒若しくは水に分散した分散液であり、通常、平均粒径5〜30nm、好ましくは10〜20nm、固形分濃度が5〜40質量%のものである。
【0057】
膜形成用組成物は、界面活性剤を含有していてもよい。例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられ、さらにシリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が挙げられる。本発明に用いることができる界面活性剤は、一種類でもよいし、二種類以上でもよい。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が好ましく、特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。本発明に用いることができる界面活性剤の含有量は、膜形成塗布液の全量に対して、0.01〜1質量%以下であることが好ましく、0.1〜0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明において、シリコーン系界面活性剤とは、少なくとも1原子のSi原子を含む界面活性剤である。本発明に使用するシリコーン系界面活性剤としては、いかなるシリコーン系界面活性剤でもよく、アルキレンオキシドおよびジメチルシロキサンを含む構造であることが好ましい。下記化学式を含む構造であることがさらに好ましい。
【0059】
【化7】

上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、xは1〜20の整数であり、a、bはそれぞれ独立に2〜100の整数である。また、Rが複数存在する場合、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0060】
本発明に用いることができるシリコーン系界面活性剤としては、例えばBYK306、BYK307(ビックケミー社製)、SH7PA、SH21PA、SH28PA、SH30PA(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、TroysolS366(トロイケミカル社製)などを挙げることができる。
【0061】
本発明に用いることができるノニオン系界面活性剤としては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなるノニオン系界面活性剤でもよい。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアリールエーテル類、ポリオキシエチレンジアルキルエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、脂肪酸変性ポリオキシエチレン類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などを挙げることができる。
【0062】
本発明に用いることができる含フッ素系界面活性剤としては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなる含フッ素系界面活性剤でもよい。例えば、パーフルオルオクチルポリエチレンオキシド、パーフルオルデシルポリエチレンオキシド、パーフルオルドデシルポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0063】
本発明に用いることができるアクリル系界面活性剤としては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなるアクリル系界面活性剤でもよい。例えば、(メタ)アクリル酸系共重合体などが挙げられる。
【0064】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなるシランカップリング剤を使用してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノグリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、1−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。本発明に用いることができるシランカップリング剤は、一種類単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0065】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなる密着促進剤を使用してもよい。密着促進剤としては、例えば、トリメトキシシリル安息香酸、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレート、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルジフエニルクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフエニルジメトキシシラン、フエニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、ジメチルトリメチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾール、ビニルトリクロロシラン、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、インダゾール、イミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、ウラゾール、チオウラシル、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリミジン、1,1−ジメチルウレア、1,3−ジメチルウレア、チオ尿素化合物などを挙げることができる。官能性シランカップリング剤が密着促進剤として好ましい。密着促進剤の使用量は、全固形分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に0.05〜5質量部であることがより好ましい。
【0066】
膜形成用組成物には、有機溶媒が含まれていてもよく、塗布液として使用できる。使用できる有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレンカーボネート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、キシレン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼンなどがある。これらは単独で用いても、混合して用いてもよい。
【0067】
本発明の膜形成用組成物の全固形分濃度は、使用目的に応じて適宜調整されるが、好ましくは1〜30質量%である。上記範囲内であると、塗膜の膜厚が適当な範囲となり、また組成物の保存安定性もより優れるものとなる。なお、固形分とは、この膜形成用組成物を塗布して得られる膜を構成する全固形分に相当するものである。なお、有機溶媒のような膜形成後に膜中に残らないものは固形分に含めない。
【0068】
シロキサン構造を有する化合物を含む膜形成用組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体、有機溶媒、ならびに必要に応じて上記各任意成分を入れ、混合ミキサーなどのかくはん機を用いて十分にかくはんする方法を用いることができる。
【0069】
シロキサン構造を有する化合物を含む膜形成用組成物はフィルターろ過により、不溶物、ゲル状成分などを除いてから膜形成に用いることが好ましい。その際に用いるフィルターの孔径は0.001〜0.2μmが好ましく、孔径0.005〜0.05μmがより好ましく、孔径孔径0.005〜0.03μmが最も好ましい。フィルターの材質はPTFE、ポリエチレン、ナイロンが好ましく、ポリエチレンおよびナイロンが、より好ましい。
【0070】
本発明の膜に良好な特性(誘電率、機械強度)を付与する観点から、膜形成用組成物に含まれる全固形分中の元素数に占める総ケイ素数の比率が55%以下であることが好ましい。ここで、膜形成用組成物に含まれる全固形分とは、この組成物を塗布して得られる膜を構成する全固形分に相当するものである。なお、有機溶媒や発泡剤のような膜形成後に膜中に残らないものは固形分に含めない。
【0071】
上述の膜形成用組成物を、スピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法、スプレー法、バー塗布法などの任意の方法により塗布する。塗布後、加熱による乾燥処理を施すことで溶媒を除去してもよい。基板に塗布する方法としては、スピンコーティング法,スキャン法が好ましく、特にスピンコーティング法が好ましい。スピンコーティングについては、市販の装置を使用できる。例えば,クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン製)、D−スピンシリーズ(大日本スクリーン製)、SSシリーズあるいはCSシリーズ(東京応化工業製)などが好ましく使用できる。なお、乾燥処理の際には、膜が硬化しない温度条件下で実施する。なお、硬化とは、例えば、シロキサン構造を有する化合物に含まれる炭素―炭素二重結合や炭素―炭素三重結合などの反応性基が、加熱により更に重合して硬化することを意味する。よって、乾燥処理の際の温度条件とは、膜形成用組成物中に含まれる炭素―炭素二重結合や炭素―炭素三重結合などの反応性基が実質的に消費されず、残存できる温度条件であることを意味する。具体的には、溶媒を乾燥するための加熱は100℃〜250℃で1分間以上5分間未満行うことが好ましい。乾燥処理は、条件を変えて複数回に分けて実施してもよい。乾燥処理は、条件を変えて複数回に分けて実施してもよい。乾燥雰囲気は、特に限定されず、空気中または不活性ガス(窒素、アルゴンなど)中など適宜選択される。また、基板の搬送の観点より、基板エッジ部の膜を残存させないための処理(エッジリンス、バックリンス)をすることも好ましい。
【0072】
使用される基板としては、特に限定されず、例えば、シリコンウエハー、SiO2ウエハー、SiNウエハー、ガラス基板,セラミックス基板,プラスチック基板などが使用目的に応じて選択される。特に、金属配線を有する基板、例えば、銅を含有する配線を有する半導体集積回路が好ましい。
【0073】
上述の塗布膜のうち、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体の合計が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが、さらに好ましく、95質量%以上であることが最も好ましい。また、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物のビニル基またはエチニル基のうち、10〜90モル%が未反応で残存していることが好ましく、20〜80モル%が未反応で残存していることが好ましく、30〜70モル%が未反応で残存していることが最も好ましい。
【0074】
塗布膜の膜厚は、特に制限は無いが、通常50nm〜1000nm、好ましくは60nm〜500nm、特に好ましくは70nm〜400nmである。膜厚が、該範囲内であると膜の低誘電性や耐熱性の点から好ましい。
【0075】
<マイクロウエーブ照射>
本発明に係る絶縁膜は、上述のシロキサン構造を有する化合物を含む膜に周波数5.8GHzのマイクロウエーブを照射して形成される。使用されるマイクロウエーブの周波数は、いわゆるISMバンドに対応した5.8GHz帯の5,800±75MHzの周波数をさす。
【0076】
マイクロウエーブの照射時間は、シロキサン構造を有する化合物などによって適宜最適な条件が選択される。
【0077】
マイクロウエーブ照射時の基板温度は、250〜450℃が好ましく、より好ましくは250〜400℃、特に好ましくは250〜350℃である。本発明の重合物の酸化を防止するという観点から、基盤周囲の雰囲気はAr、He、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。また、その際の圧力は0〜133kPaが好ましい。
【0078】
加熱処理をマイクロウエーブ線処理照射と同時にまたは順次行ってもよい。加熱の方法は、特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した方法、RTP(Rapid Thermal Processor)などによるキセノンランプを使用した光照射加熱などを適用することができる。加熱処理の条件は、好ましくは100〜450℃、より好ましくは200〜420℃、特に好ましくは300℃〜400℃で、好ましくは1分〜30分、より好ましくは1分〜15分、特に好ましくは1分〜5分の範囲である。加熱処理は数回に分けて行ってもよい。
【0079】
より具体的には、膜形成用組成物を、例えばスピンコート法により、基板(通常は金属配線を有する基板)上に塗布し、予備熱処理を行うことにより溶媒を乾燥させ、次いでマイクロウエーブ照射を行うことにより低誘電率の絶縁膜を形成できる。
【0080】
上述の本発明の方法により得られる絶縁膜の比誘電率は、使用する材料によって異なるが、測定温度25℃において、比誘電率が2.5以下、好ましくは2.3以下、つまり1.8〜2.3であることが好ましい。
【0081】
本発明の絶縁膜のヤング率は、使用する材料によって異なるが、3.0〜15.0GPaであることが好ましく、5.0〜15.0GPaであることがより好ましい。
【0082】
本発明の絶縁膜は、半導体用層間絶縁膜として使用する際、その配線構造において、配線側面にはメタルマイグレーションを防ぐためのバリア層があってもよく、また、配線や層間絶縁膜の上面底面にはCMPでの剥離を防ぐキャップ層、層間密着層の他、エッチングストッパー層等があってもよく、更には層間絶縁膜の層を必要に応じて他種材料で複数層に分けてもよい。
【0083】
本発明の絶縁膜は、他の含Si絶縁膜または有機膜と積層構造を形成させて用いてもよい。炭化水素系の膜と積層して用いることが好ましい。
【0084】
本発明の絶縁膜は、銅配線あるいはその他の目的でエッチング加工をすることができる。エッチングとしてはウエットエッチング、ドライエッチングのいずれでもよいが、ドライエッチングが好ましい。ドライエッチングは、アンモニア系プラズマ、フルオロカーボン系プラズマのいずれもが適宜使用できる。これらプラズマにはArだけでなく、酸素、あるいは窒素、水素、ヘリウムなどのガスを用いることができる。また、エッチング加工後に、加工に使用したフォトレジストなどを除く目的でアッシングすることもでき、さらにはアッシング時の残渣を除くため、洗浄することもできる。
【0085】
本発明の絶縁膜は、銅配線加工後に、銅めっき部を平坦化するためCMP(化学的機械的研磨)をすることができる。CMPスラリー(薬液)としては,市販のスラリー(例えば、フジミ製、ロデールニッタ製、JSR製、日立化成製など)を適宜使用できる。また、CMP装置としては市販の装置(アプライドマテリアル社製,荏原製作所製など)を適宜使用することができる。さらにCMP後のスラリー残渣除去のため、洗浄することができる。
【0086】
本発明の絶縁膜は、多様の目的に使用することができ、特に電子デバイスへ好適に用いることができる。電子デバイスとは、半導体装置や、磁気記録ヘッドなどを含めた広範な電子機器を意味する。例えばLSI、システムLSI、DRAM、SDRAM、RDRAM、D−RDRAMなどの半導体装置、マルチチップモジュール多層配線板などの電子部品における絶縁皮膜として好適であり、半導体用層間絶縁膜、エッチングストッパー膜、表面保護膜、バッファーコート膜の他、LSIにおけるパッシベーション膜、α線遮断膜、フレキソ印刷版のカバーレイフィルム、オーバーコート膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜などとして使用することが出来る。また、光学装置用の表面保護膜、反射防止膜、位相差膜としても用いることができる。
【0087】
本発明においては、ポリシロキサン構造を有する化合物を含む膜に周波数5.8GHzマイクロウエーブを照射することにより、誘電率、機械強度など膜特性に優れた絶縁膜を得ることができる。本発明の詳細な機構については不明であるが、マイクロウエーブ照射により膜組成物中に残存している炭素―炭素二重結合や炭素―炭素三重結合などの反応性基による反応や、水素引抜反応などにより各膜組成物間での架橋構造が形成されると推測される。従来の加熱硬化処理とは異なり、膜内部までマイクロウエーブが浸透し、架橋構造が形成される。特に、周波数が5.8GHzと高いことからエネルギーも高く、より短時間で処理が進行する。
【0088】
また、カゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体の場合は、カゴ構造による耐熱性、機械的特性などの向上が期待されると共に、多数のラジカル重合性基を持つため硬化膜の架橋密度が上昇し、さらなる性能向上が期待できる。さらに、かご型構造が立体的で嵩高い基であるため硬化収縮が小さく、内部応力の発生に伴うクラックが抑制され、基板との密着性が向上すると共に、硬化時の膜減りが小さくなることが期待できる。
本発明の絶縁膜を半導体素子、例えば半導体集積回路の層間絶縁膜として使用する場合、マイクロウエーブ照射により非常に短時間に膜形成を行うことができるため、その生産性が飛躍的に向上する。一般には、半導体素子など精密加工されたものにマイクロウエーブ照射を行うと半導体素子へ悪影響を与えることが懸念されたが、本発明では積極的に実施しその効果を見出したものである。さらには、大規模な加熱装置などが必要なくなるため、工業的、経済的な観点からも好ましい。
【実施例】
【0089】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により制約されるものではない。
【0090】
以下のGPC測定は、Waters2695およびShodex製GPCカラムKF−805Lを使用し、カラム温度40℃で、溶出溶媒としてテトラヒドロフランを毎分1mlの流量で測定を行い、Mw、MnおよびMz+1は標準ポリスチレンを用いて作製した検量線を用いて計算した。
【0091】
【化8】

【0092】
<合成例1>
上記の例示化合物(I)(アルドリッチ社製)1gを酢酸ブチル80gに加えた。窒素気流中で、加熱還流しながら(内温127℃)、重合開始剤として和光純薬工業社製V−601(10時間半減温度66℃)5mgを酢酸ブチル4mlで希釈した液を2時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間加熱還流した。重合禁止剤として4−メトキシフェノール20mgを加えた後、室温まで冷却し、液重量2gまで減圧濃縮し、メタノール20mlを加え、1時間攪拌した後、固形物をろ取、乾燥した。これをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、攪拌しながら水1.8mlを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、メタノール10mlを加えた。固形分をろ取、乾燥し固形分0.49gを得た。固形分をGPCで分析すると、例示化合物(I)より分子量が大きい成分は、Mw=15.8万、Mz+1=31万、Mn=8.9万であった。固形物中には未反応の例示化合物(I)は3質量%以下であった。分子量300万以上の成分は含まれなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合してできたアルキル基由来のプロトンピークと、残存したビニル基由来のプロトンピークが48:52の積分比率で観察され、ビニル基同士が重合していることがわかった。
この組成物0.5gにプロピレングリコールメチルエーテルアセテート5mlを加えて40℃で3時間攪拌したところ、均一に溶解した。これを0.2μm孔径のテフロン(登録商標)製フィルターでろ過して、本発明の組成物Aを得た。
残存する単量体の重量および添加剤の重量より、組成物中の全固形分中の元素数に占める総ケイ素数の比率が55 % 以下であった。
【0093】
<合成例2>
例示化合物(I)(アルドリッチ社製)1gを酢酸ブチル26.4gに加えた。窒素気流中で、加熱還流しながら(内温127℃)、重合開始剤として和光純薬工業製V−601(10時間半減温度66℃)1.8mgを酢酸ブチル2mlで希釈した液を2時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間加熱還流した。重合禁止剤として4−メトキシフェノール20mgを加えた後、室温まで冷却し、液重量2gまで減圧濃縮し、メタノール20mlを加え、1時間攪拌した後、固形物をろ取、乾燥した。これをテトラヒドロフラン15mlに溶解し、攪拌しながら水5mlを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、メタノール10mlを加えた。固形分をろ取、乾燥し、固形分0.60gを得た。固形分をGPCで分析すると、化合物(I)より分子量が大きい部分は、Mw=11.8万、Mz+1=27万、Mn=3.1万であった。固形物中には未反応の例示化合物(I)は3質量%以下であった。分子量300万以上の成分は含まれなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合してできたアルキル基由来のプロトンピークと、残存したビニル基由来のプロトンピークが42:58の積分比率で観察され、ビニル基同士が重合していることがわかった。
この組成物0.5gにプロピレングリコールメチルエーテルアセテート5mlを加えて40℃で3時間攪拌したところ、均一に溶解した。これを0.2μm孔径のテフロン(登録商標)製フィルターでろ過して、本発明の組成物Bを得た。
残存する単量体の重量および添加剤の重量より、組成物中の全固形分中の元素数に占める総ケイ素数の比率が55% 以下であった。
【0094】
<合成例3>
例示化合物(I)(アルドリッチ社製)1gを酢酸ブチル13.2gに加えた。窒素気流中で、加熱還流しながら(内温127℃)、重合開始剤として和光純薬工業製V−40(10時間半減温度88℃)1mgを酢酸ブチル1mlで希釈した液を4時間かけて滴下し、滴下終了後、1時間加熱還流した。重合禁止剤として4−メトキシフェノール20mgを加えた後、室温まで冷却し、液重量2gまで減圧濃縮し、メタノール20mlを加え、1時間攪拌した後、固形物をろ取、乾燥した。これをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、攪拌しながら水1.8mlを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、メタノール10mlを加えた。固形分をろ取、乾燥し固形分0.41gを得た。固形分をGPCで分析すると、化合物(I)より分子量が大きい成分は、Mw=12.8万、Mz+1=38万、Mn=3.3万であった。固形物中には未反応の例示化合物(I)は3質量%以下であった。分子量300万以上の成分は含まれなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、固形分のH−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合してできたアルキル基由来のプロトンピークと、残存したビニル基由来のプロトンピーク53:47の積分比率で観察され、ビニル基同士が重合していることがわかった。
この組成物0.5gにプロピレングリコールメチルエーテルアセテート5mlを加えて40℃で3時間攪拌したところ、均一に溶解した。これを0.2μm孔径のテフロン(登録商標)製フィルターでろ過して、本発明の組成物Cを得た。
残存する単量体の重量および添加剤の重量より、組成物中の全固形分中の元素数に占める総ケイ素数の比率が55% 以下であった。
【0095】
上記合成例で作製した組成物A〜Cを0.1ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、スピンコート法で4インチシリコンウエハ上に塗布後、ホットプレート上で130℃で1分間ついで200℃で1分間、基板を予備乾燥し、塗布膜<A>〜<C>を作製した。各塗布膜の膜厚は450nmであった。
【0096】
塗布膜<A>〜<C>を以下の表1の条件でマイクロウエーブ照射(マイクロ波キュアともいう)を実施した。マイクロ波キュアは、DSG社製AXOM200/300により処理を行った。また、比較例として各塗布膜を以下の表1の条件で加熱処理(熱キュアともいう)した。熱キュアは、光洋サーモ社製クリーンオーブンCLH-21CD(III)により窒素雰囲気中で実施した。
【0097】
【表1】

比誘電率:測定温度25℃で、フォーディメンジョンズ社製水銀プローバ及び横河ヒューレットパッカード社製のHP4285ALCRメーターを用いて1MHzにおける容量値から算出した。
ヤング率:MTS社ナノインデンターSA2を使用して測定した。
【0098】
上記よりすべての塗布膜について熱キュア膜よりも短時間,低温の処理によって比誘電率が低く,機械強度に優れた膜がマイクロ波キュアによって形成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン構造を有する化合物を含む膜に周波数5.8GHzのマイクロウエーブを照射して形成される絶縁膜。
【請求項2】
前記シロキサン構造を有する化合物を含む膜が、シロキサン構造を有する化合物を含む膜形成用組成物の塗布膜である請求項1に記載の絶縁膜。
【請求項3】
前記シロキサン構造を有する化合物が、シルセスキオキサン化合物である請求項2に記載の絶縁膜。
【請求項4】
前記シルセスキオキサン化合物が、カゴ型シルセスキオキサン化合物である請求項3に記載の絶縁膜。
【請求項5】
前記カゴ型シルセスキオキサン化合物が、一般式(1)で表されるカゴ型シルセスキオキサン化合物の重合体である請求項4に記載の絶縁膜。
一般式(1)
(RSiO3/2
(一般式(1)中、Rはそれぞれ独立して非加水分解性基を表し、Rのうち少なくとも2つはビニル基またはエチニル基を含む基を表す。nは8〜16の整数を表す。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の膜を有する電子デバイス。

【公開番号】特開2009−206457(P2009−206457A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50124(P2008−50124)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】