説明

脂溶性薬物封入微粒子、その製造法およびそれを含有する製剤

【課題】 生分解性の多孔性無機微粒子、特に生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトをキャリヤとして使用し、特に注射投与等の非経口投与、あるいは経口投与により、良好に生体内吸収性を得ることができる脂溶性薬物を封入した微粒子、その製造法およびそれを含有する製剤の提供。
【解決手段】 脂溶性薬物を、平均粒径が1〜20μmを有する生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子に封入させてなることを特徴とする脂溶性薬物封入微粒子であり、これをヒドロキシメチルセルロース(CMC)などの分散剤で分散することにより、静脈内、皮下、筋肉内投与が可能な注射剤とすることができ、その生体内吸収性は優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性薬物を多孔性無機微粒子に封入した微粒子に関する。さらに詳しくは、脂溶性薬物を、生分解性の多孔性無機微粒子である生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトに封入した微粒子、その製造法およびそれを含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から生体に投与されている薬物は、水溶性薬物と、脂溶性薬物に分類することができる。脂溶性薬物の投与方法として経口投与の他に、非経口投与、特に注射投与が行われている。脂溶性薬物を経口投与した場合には、生体内吸収性が悪く、薬物によっては吸収性にばらつきがあり、また肝臓で分解し、薬効が失活するなどの問題がある。
【0003】
一方、注射投与はこれらの問題をある程度解決するものであるが、脂溶性薬物のために注射用蒸留水による注射製剤は不可能であり、通常油性溶剤または界面活性剤を用いたミセル剤の形態で皮下注射あるいは筋肉内注射が行われている。またまれに有機溶媒に溶解して多量の水性液剤で希釈する静脈注射が用いられているが、これらの投与方法でも注射製剤として不可能な脂溶性薬物がある。
【0004】
また、注射製剤による投与は、投与部位における疼痛以外に刺激性が散見され、また副作用が強くでること、生物学的利用能(バイオアベイラビリティー)の低下・ばらつきが多いこと、患者に苦痛を与えることなどの問題点があった。したがって、経口投与において吸収を促進するとともに、生体内吸収性にばらつきのない脂溶性薬物の投与技術の開発、あるいは、注射投与にあたって油性溶剤、界面活性剤あるいは有機溶剤などを使用しないで投与でき、副作用の発現がない脂溶性薬物を含有する注射製剤技術の開発が、医療現場で望まれている。
【0005】
ところで最近、カルシウム含有の水難溶性無機物微粒子にタンパク質、低分子化合物または遺伝子を封入した微粒子(特許文献1)が知られているが、ここで使用される薬物は水溶性薬物であり、脂溶性薬物を多孔性無機微粒子に封入させる技術は具体的に知られていない。また、薬物をカルシウム化合物に分散、付着させた経鼻吸収用組成物(特許文献2)、あるいはカルシウム含有の微粒子の表面にカルシトニンを吸着させた経鼻吸収剤(非特許文献1)などが知られている。
【0006】
【特許文献1】WO 02/096396号公報
【特許文献2】特開平8−027031号公報
【非特許文献1】臨床薬理(Jpn. J. Clin. Pharmacol. Ther.,)26 (1), p.127〜128
【0007】
本発明者等は、脂溶性薬物の投与技術を開発するべく鋭意検討を行い、上述の技術をさらに発展させ、カルシウム含有の生分解性の多孔性無機微粒子、特に生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトに着目した。生分解性のハイドロキシアパタイトは生体内においてすみやかに生分解されることから、極めて良好な薬物輸送キャリヤとなり得るものであるが、これまで生分解性ハイドロキシアパタイト自体を注射投与させ、そこに封入した薬物を生体内吸収させようとする考え方は一切知られていなかった。
【0008】
そこで、本発明者等は、生分解性ハイドロキシアパタイトの多孔質性に着目し、かかるハイドロキシアパタイトを微粒子とし、脂溶性薬物を生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子に封入した場合に、得られた微粒子は、自重量と同程度以上の脂溶性薬物を封入しており、経口投与あるいは注射投与することにより、当該多孔性の微粒子がキャリヤとなって生体内に移行し、その場で微粒子中に封入された脂溶性薬物を放出し、良好な生体内吸収性を示すことを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明は、生分解性の多孔性無機微粒子、特に生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトをキャリヤとして使用し、特に注射投与等の非経口投与、あるいは経口投与により、良好に生体内吸収性を得ることができる脂溶性薬物を封入した微粒子、その製造法およびそれを含有する製剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、脂溶性薬物を封入し、生体内へ注射投与し得るキャリヤとしての、生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するための本発明は、具体的には、
(1)脂溶性薬物を、平均粒径が1〜20μmを有する生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子に封入させてなることを特徴とする脂溶性薬物封入微粒子;
(2)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、100〜800℃で焼成して得たハイドロキシアパタイトである(1)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(3)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、ハイドロキシアパタイトにリン酸カルシウムを加えて焼成して得たハイドロキシアパタイトである(2)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(4)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの平均粒径が1〜8μmであって、注射投与可能な(1)ないし(3)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(5)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの平均粒径が1〜20μmであって、局所投与または経口投与可能な(1)ないし(3)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(6)脂溶性薬物がステロイドホルモン、脂溶性ビタミン、脂溶性生物由来薬物および脂溶性合成薬物から選ばれるものである上記(1)ないし(5)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(7)ステロイドホルモンがエナント酸テストステロン、プロピオン酸テストステロン、テストステロン・エストラジオール、吉草酸エストラジオール、安息香酸エストラジオール、酢酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾンおよび酢酸プレドニゾロンから選ばれるものである(6)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(8)脂溶性生物由来薬物がシクロスポリン、タクロリムス、パクリタキセルおよび塩酸イリノテカンから選ばれるものである(6)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(9)脂溶性合成薬物がジアゼパム、ケトプロフェン、クロルプロマジン、ニフェジピン、塩酸ニカルジピン、カンデサルタンシレキセチルおよびアシクロビルから選ばれるものである(6)に記載の脂溶性薬物封入微粒子;
(10)前記(1)ないし(9)のいずれかに記載された脂溶性薬物封入微粒子を有効成分として含有することを特徴とする経口的または非経口的投与用製剤;
(11)経口的投与用製剤が錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、粉末剤、腸溶性錠剤、腸溶性カプセル剤または腸溶性顆粒剤である(10)に記載の製剤。
(12)非経口的投与用製剤が皮下注射剤、静脈注射剤または筋肉注射剤のいずれかである(10)に記載の製剤。
(13)脂溶性薬物を封入し、生体内へ注射投与し得るキャリヤとしての生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子;
(14)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、100〜800℃で焼成して得たハイドロキシアパタイトである(13)に記載の微粒子;
(15)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの平均粒径が1〜8μmである(13)に記載の微粒子;
(16)自重量と同程度以上の脂溶性薬物を封入し得る上記(13)ないし(15)に記載の微粒子。
(17)脂溶性薬物を有機溶媒または含水有機溶媒に溶解し、当該溶液に平均粒子が1〜20μmを有する生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子を加え、非封入の薬物を除去したのち、溶媒を凍結乾燥、噴霧乾燥または減圧濃縮によって留去することからなる脂溶性薬物封入微粒子の製造方法;
(18)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、100〜800℃で焼成して得たハイドロキシアパタイトである(17)に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法;
(19)生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、ハイドロキシアパタイトにリン酸カルシウムを加えて焼成して得たハイドロキシアパタイトである(18)に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法;
(20)凍結乾燥後、得られた微粒子を分散剤とともに懸濁することを特徴とする(17)ないし(19)に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法;
(21)分散剤がカルボキシメチルセルロースまたは非イオン性界面活性剤である(20)に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法;および、
(22)有機溶媒がアセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール、エチルエーテルおよび酢酸エチルから選ばれる1種または2種以上である(17)に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提供する脂溶性薬物を封入した生分解性の微粒子は、例えば脂溶性薬物であるエナント酸テストステロン、シクロスポリンなどを生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトに封入した微粒子であり、その粒子径が極めて小さいため25〜27ゲイジを有する細い注射針にて皮下注射、静脈注射、筋肉注射が可能である。
また、注射投与された場合には、脂溶性薬物はキャリヤである生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトから放出され、良好な生体内吸収を示し、その吸収性は徐放的であり、さらに、有機溶剤あるいは油性溶剤を使用することなく、注射用製剤に製剤化しうる利点を有している。
また、キャリヤとしての生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトは、投与後速やかに生分解されるため、安全性にも優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、上記するように、脂溶性薬物を、平均粒子が1〜20μmを有する生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子に封入させてなることを特徴とする脂溶性薬物封入微粒子である。
かかる脂溶性薬物を封入するハイドロキシアパタイトは、生分解性であり、特に、100〜800℃で焼成したハイドロキシアパタイトが本発明の目的を最も良く達成できる。また、ハイドロキシアパタイトに対し10〜50%(重量比)のリン酸カルシウムを加えて焼成することにより、本発明の脂溶性薬物を封入した微粒子を体内へ投与したとき、キャリヤとして使用されたハイドロキシアパタイトの生分解を早めることも本発明の特徴である。
【0013】
ハイドロキシアパタイトは、いわゆる骨成分として生体適合性を有するため種々の医療用材料として使用されてきているものである。しかしながら、本発明で使用するハイドロキシアパタイトは、その生分解性を確保し、微粒子として注射投与し得るまで細かく粉砕されたものである。したがって、注射投与し得る微細な粒径を有する生分解性ハイドロキシアパタイトとして、極めて特異的なものである。
【0014】
本発明で使用するハイドロキシアパタイトは、微粒子であると共に多孔質性であり、その多孔のなかに脂溶性薬物を封入し得るものであり、ハイドロキシアパタイトの自重と同程度以上、例えば、ハイドロキシアパタイト1gに対して1g以上の脂溶性薬物を封入し得る特徴を有している。また、生分解性であるため、キャリヤとして封入した脂溶性薬物を放出した後は、容易に生分解され、生体内吸収性を高めるものである。
【0015】
もちろん、かかる生分解性ハイドロキシアパタイトの多孔質性を利用し、その微粒子に脂溶性薬物を封入した本発明の脂溶性薬物封入微粒子は、注射投与のみならず、経口投与によりハイドロキシアパタイト中に封入された脂溶性薬物を生体内吸収させることも可能である。注射投与が可能な微粒子であるか、また経口投与が可能な微粒子であるかは、その粒径を選択することによって可能となる。したがって、その粒径の選択も、本発明の特徴のひとつである。
【0016】
すなわち、静脈注射の場合のキャリヤとして使用する場合には、ハイドロキシアパタイトの粒子直径は1〜8μm、好ましくは3〜5μm程度であり、皮下注射、筋肉注射の場合もほぼ同様の粒径のハイドロキシアパタイトが使用される。また、点眼、経鼻、経皮等の局所投与あるいは経口投与の場合には、ハイドロキシアパタイトの粒径は1〜20μm程度のものが好ましい。このように投与形態によって、使用するハイドロキシアパタイトの粒径を適宜選択することが好ましい。
なお、ハイドロキシアパタイトの微粒子における粒径の調整は、スプレードライ法の強さ、遠心分離の仕方などにより行うことができる。
【0017】
一方、上記した生分解性ハイドロキシアパタイトに封入する脂溶性薬物としては、「水にとけにくい〜水にほとんど溶けない」の範囲内のものであって、有機溶媒に溶ける脂溶性薬物であればいずれでも使用可能である。具体的には、例えば、エナント酸テストステロン、プロピオン酸テストステロン、テストステロン・エストラジオール、吉草酸エストラジオール、安息香酸エストラジオール、酢酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、酢酸プレドニゾロンなどのステロイドホルモン;ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどの脂溶性ビタミン;シクロスポリン、タクロリムス、パクリタキセル、塩酸イリノテカンなどの脂溶性生物由来薬物;ジアゼパム、ケトプロフェン、クロルプロマジン、ニフェジピン、塩酸ニカルジピン、カンデサルタンシレキセチル、アシクロビルなどの脂溶性合成薬物をあげることができるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明が提供する脂溶性薬物を生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトに封入した微粒子は、例えば以下のようにして調製することができる。すなわち、封入するべき脂溶性薬物を有機溶媒または含水有機溶媒に溶解し、当該溶液に生分解性ハイドロキシアパタイトの微粒子を加え、5〜30分間振とう、遠心後、非封入の薬物を除去したあと、溶媒を凍結乾燥、噴霧乾燥、減圧濃縮などのいずれかによって留去することにより製造される。
【0019】
使用しうる有機溶媒または含水有機溶媒としては、脂溶性薬物を完全に溶解できる溶媒であればどのようなものでも使用することができるが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール、エチルアルール、酢酸エチルなどの水と混合し得る有機溶媒の1種または2種以上を適宜選択して使用するのがよく、特に凍結乾燥で除ける溶媒が好ましい。その使用量は、脂溶性薬物が溶解するのに十分な量であればよい。なお、有機溶媒または含水有機溶媒の留去には、簡便さの点から凍結乾燥が好ましいものである。
【0020】
有機溶媒または含水有機溶媒を留去したあとの残渣を懸濁液とする場合、薬物封入微粒子の凝集、多孔からの脂溶性薬物の流出を抑えるために、分散剤を使用することが好ましい。そのような分散剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)で代表される高分子分散剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(Tween 80)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン界面活性剤、高分子化合物が使用されるが、CMCが好ましい。
【0021】
本発明が提供する脂溶性薬物封入の微粒子は、経口投与、非経口投与によって生体内投与することができる。非経口投与、特に皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射などの注射剤として使用することにより、既存の脂溶性薬物の注射剤がかかえる問題点を改善するという有用性を発揮する。
【0022】
例えば、従来の脂溶性薬物の注射剤の場合は油性溶剤を使用して注射製剤を調製していることが多い。例えばエナント酸テストステロンの注射剤は、ゴマ油を使用するために注射製剤としては粘稠性のものであり、22ゲイジ以上の太い針で筋肉注射をするため、患者の苦痛を招くものであった。これに対し本発明微粒子を使用する場合には、その粒径が1〜8μm、または1〜20μmの均一な微粒子であること、注射剤として使用する溶剤が非粘稠性のものが使用できることから、25〜27ゲイジの針で皮下注射、静脈注射することが可能であり、患者の苦痛を開放するものである。
【0023】
また、シクロスポリンの非経口投与は、シクロスポリンを一旦アルコールに溶解後、多量の水で希釈し点滴投与しているので、アルコール禁忌の患者には使用し難く、かつ点滴投与は不便である。これに対し、本発明の微粒子を使用する場合には、少量の懸濁液として皮下注射、静脈注射、筋肉注射を行うことができる。そのいずれの場合にも、徐放効果が期待できるものである。
【0024】
したがって、本発明が提供する微粒子を使用した注射剤の大きな特徴は、従来の脂溶性薬物の注射製剤として慣用されていた注射剤用の油性溶剤、油性基剤、乳化剤などを使用することなく、分散剤、好ましくはCMCのみを少量用いることにより懸濁注射液として投与できる点である。
【0025】
また、本発明が提供する微粒子を経口投与する場合の製剤としては錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、粉末剤、腸溶性錠剤、腸溶性カプセル剤または腸溶性顆粒剤等をあげることができる。なお、キャリヤとして使用するハイドロキシアパタイトが酸で溶け易いため、腸溶性製剤とすることが好ましく、かかる腸溶性製剤としては、腸溶性の錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの形態をとるのが好ましい。これらの製剤化には、製剤学的に慣用されている各種賦形剤、添加剤、フィルムコーティング基剤、安定化剤、結合剤、崩壊剤、防腐剤などを適宜選択して製剤化することができる。
【0026】
以下に本発明を実施例、試験例等をもってさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
実施例1:
400℃で焼成した平均直径5μmの多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子50mgに、100μLのエナント酸テストステロン溶液(500mgのエナント酸テストステロンを200μLのアセトンに溶解した溶液)を加えた。さらに、アセトン100μLを添加し、ボルテクスで攪拌後、3500rpm/5分間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈殿物を減圧吸引し、アセトンを完全に留去することで、本発明のエナント酸テストステロンを封入したハイドロキシアパタイトの微粒子を得た。
【0028】
以上のようにして作製されたエナント酸テストステロンを封入したハイドロキシアパタイト微粒子を、2mLのアセトン中で37℃、1時間振とうし、3500rpm/5分間遠心分離し、得られた上清中のエナント酸テストステロンの量を、HPLCにより定量した。その結果、ハイドロキシアパタイト微粒子50mgあたりエナント酸テストステロンが47mg封入されていた。
この脂溶性薬物の封入量は、ハイドロキシアパタイトの自重に対して、略同重量のものであり、ハイドロキシアパタイトの多孔性を利用して、脂溶性薬物が多量に封入されている事実を示すものであった。
【実施例2】
【0029】
実施例2:分散性試験
実施例1で調製したエナント酸テストステロン封入ハイドロキシアパタイトの微粒子約100mgを、5mLのTween 80(0.001〜0.1%)、CMC(0.03〜0.3%)、0.1%ポリビニルアルコール、あるいは0.1%プルロニックF68水溶液中に懸濁し、10分間放置後、3500rpm/5分間遠心分離した。得られた上清を、エステラーゼを含むPBS(Esterase (Sigma社、50units)/mL)中で100倍希釈し37℃で1時間インキュベート後、ELISA(Cayman Chemical Company社)により、上清中に含まれるテストステロンを定量した。
上記の界面活性剤、あるいは高分子化合物を添加することにより、ハイドロキシアパタイト微粒子の分散安定性が高まることが判明した。
その結果を、表1に示した。
【0030】
【表1】

TE:エナント酸テストステロン
【0031】
表1中に示した結果からも判明するように、CMC、Tween 80ともに、濃度に依存して微粒子からの主薬であるエナント酸テストステロンの放出量が多くなり、さらに同濃度(0.1%)でも、CMCの方がTween 80より放出量が少ないことが判明した。
また、市販のエナント酸テストステロン油性製剤(125mg/mL)を使用するときは21−22ゲイジの注射針を用いているが、本実施例の懸濁液の場合には25−27ゲイジの注射針で投与が可能であった。
【実施例3】
【0032】
実施例3:生体内吸収性試験(既存薬との比較)
実施例1で調製したエナント酸テストステロン封入ハイドロキシアパタイトの微粒子を0.3%CMCで懸濁した懸濁液(エナント酸テストステロン:23.8mg/匹)およびエナルモンデポー(エナント酸テストステロン29.9mg/匹、帝国臓器製薬社)を、8週齢雌ddy系マウスへ各250μLずつ皮下注射投与した。
投与後1、3、24、48、96および120時間後に眼窩から採血を行い、ERISA(OXFORD BIOMEDICAL RESEARCH社)により、血漿中に含まれるテストステロンを定量した。その結果を表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示した結果からも判明するように、テストステロンの血漿中濃度はエナルモンデポーと本発明の懸濁液ともに投与後3時間をピークに達し、その後徐々に低下し120時間後では、本発明の懸濁液を皮下投与したマウスの血漿中濃度の方がエナルモンデポーを皮下投与した場合よりも高いものであった。
以上からみれば、本発明の懸濁液中に含まれるエナント酸テストステロン封入ハイドロキシアパタイトの微粒子からのテストステロンの放出量が多く、徐放的なものであることが理解される。
【実施例4】
【0035】
実施例4:徐放性試験
実施例1で調製したエナント酸テストステロン封入ハイドロキシアパタイトの微粒子を、0.3%CMCで懸濁した懸濁液(エナント酸テストステロン:1.9mg/匹)を、8週齢雌ddy系マウスへ尾静脈より静脈内注射した。投与直後、投与後1、24および48時間後に眼窩から採血を行い、ERISA(OXFORD BIOMEDICAL RESEARCH社)により血漿中に含まれるテストステロンを定量した。その結果を表3に示した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示した結果からも判明するように、テストステロンの血中濃度は投与後1時間をピークに、徐々に低下していった。このことから、本発明の懸濁液は静脈注射が可能であり、しかも徐放性を示すことが判明した。
【実施例5】
【0038】
実施例5:
400℃で焼成した平均直径5μmの多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子10mgに、シクロスポリンのアセトン溶液(16mgのシクロスポリンを200μLのアセトンに溶解した溶液)、あるいはエタノール溶液(57mgのシクロスポリンを200μLのエタノールに溶解した溶液)を加えた。これらをボルテクスで攪拌後、3500rpm/5分間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈殿物を減圧吸引し、アセトン、エタノールを留去することでシクロスポリンを封入したハイドロキシアパタイト微粒子を得た。
上記で得た各シクロスポリン封入のハイドロキシアパタイト微粒子を900μLのエタノール中で37℃にて1時間振とうし、3500rpm/5分間遠心分離した後、上清中のシクロスポリンの量をHPLCにより定量した。
その結果、ハイドロキシアパタイト微粒子10mgあたり、アセトン溶液で調製した場合にはシクロスポリンが2.5mg、エタノール溶液で調製した場合にはシクロスポリンが7.3mg封入されていた。
【実施例6】
【0039】
試験例6:分散性試験
上記の実施例5で得られたシクロスポリン封入ハイドロキシアパタイトの微粒子について、実施例2で検討した分散性試験と同様に試験行ったところ、界面活性剤を添加することにより本実施例で得られたシクロスポリン封入ハイドロキシアパタイト微粒子の分散安定性が高まることが分かった。また、その懸濁液は25−27ゲイジの注射針を使用することで、注射投与が可能であった。
【実施例7】
【0040】
実施例7:
100℃で焼成した平均直径5μmの多孔性ハイドロキシアパタイト微粒子20mgに、シクロスポリンのエタノール溶液(57mgのシクロスポリンを200mLのエタノールに溶解した溶液)を加え、実施例5と同様にしてシクロスポリン封入ハイドロキシアパタイト微粒子を得た。
作製されたシクロスポリン封入ハイドロキシアパタイト微粒子に0.3%CMC水溶液200μLを加え、8週齢雌ddy系マウスの皮下(2匹)、あるいは尾静脈(2匹)に、シクロスポリン量として1.64mg/匹となるように皮下注射投与あるいは静脈内注射投与した。投与後2、24、48、72および96時間後に試験マウスから採血を行い、ERISA(OXFORD BIOMEDICAL RESEARCH社)により血漿中に含まれるシクロスポリンを定量した。
その結果を図1に示した。
【0041】
図中に示した結果からも判明するように、シクロスポリンの血中濃度の推移は、静脈内注射投与の場合には、投与後2時間をピークに、また皮下注射投与の場合には、投与後24時間をピークに徐々に低下していった。
これは、本発明の懸濁液は、静脈内注射および皮下注射が可能であり、また、ハイドロキシアパタイトの多孔質性を利用し、多孔に封入されているシクロスポリンが徐々に放出している結果、徐放性を示しているものと考えられた。
【実施例8】
【0042】
実施例8:ハイドロキシアパタイトの生分解性に及ぼす焼成温度の影響
焼成温度として、180℃および800℃で焼成したハイドロキシアパタイト微粒子それぞれ各20mgに0.3%CMC溶液5mLを加え、ボルテックスで1分間攪拌しハイドロキシアパタイト微粒子の溶液を調製した。
得られた各溶液を、13週齢雄のWistar系ラットの背中2ケ所に500μLずつ皮下注射投与した。3週間に渡り背中を切開し、ハイドロキシアパタイト微粒子の残存量を写真で撮影し、おおよその量を目で判定した。その結果、いずれの微粒子も2〜3週で生分解され、消失していたが、800℃で焼成したハイドロキシアパタイトの方が消失しにくかった。
【0043】
また、スプレードライする前にハイドロキシアパタイト懸濁液にリン酸カルシウムを10〜50%の割合で加えたものでは消失時間が短く、混合の割合に準じて1〜7日間で消失した。これは、リン酸カルシウムを加えて焼成することによりハイドロキシアパタイト微粒子の体内における生分解を速め、不要となったキャリヤの消失を速める効果があり、副作用を軽減することを示すものであった。
【実施例9】
【0044】
実施例5と同様の方法により調製したシクロスポリンを封入するハイドロキシアパタイトの微粒子(微粒子10mgあたりシクロスポリン10mg封入:以下、「本発明の微粒子」という)を用いた、製剤例を以下に示す。
実施例9:製剤例1(腸溶性錠剤)
配合処方
本発明の微粒子 25mg
乳糖 185mg
トウモロコシデンプン 5mg
ヒドロキシプロピルセルロース 30mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
上記処方により、常法に従い、シクロスポリン25mg含有の250mg錠剤を得、腸溶性コーティング剤(オイドラギット(登録商標)R)によりコーティングを行い、腸溶性錠剤を得た。
【実施例10】
【0045】
実施例10:製剤例2:腸溶性顆粒剤
本発明の微粒子 50mg
乳糖 200mg
トウモロコシデンプン 15mg
ヒドロキシプロピルセルロース 30mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
上記処方により、常法に従って顆粒剤を得、得られた顆粒剤を腸溶性コーティング剤(オイドラギット(登録商標)RS)によりコーティングを行い、腸溶性顆粒を得た。
【実施例11】
【0046】
実施例11:製剤例3:腸溶性カプセル剤
上記実施例10で得た腸溶性コーティング前の顆粒を腸溶性カプセルに充填し、腸溶性カプセル剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明は、生分解性の多孔性無機微粒子、特に生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトをキャリヤとして使用し、脂溶性薬物を経口投与あるいは注射投与等の非経口投与により、良好に生体内吸収性を得ることができる、脂溶性薬物を封入した微粒子を提供するものである。
かかるハイドロキシアパタイトの微粒子は、注射投与された場合には、脂溶性薬物はキャリヤである生分解性ハイドロキシアパタイトから放出され、良好な生体内吸収を示し、その吸収性は徐放的であり、したがって、有機溶剤あるいは油性溶剤を使用することなく、注射用製剤に製剤化しうる利点を有する。
【0048】
また、経口投与の場合においては、脂溶性薬物を経口投与することにより認められた、生体内吸収性の悪さ、薬物によっては吸収性のばらつき、また肝臓で分解・失活等が認められないものであり、医療上の価値は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】シクロスポリン含有ハイドロキシアパタイト微粒子の皮下注射投与および静脈注射投与におけるシクロスポリンの血中濃度の推移を示す図である。(実施例7)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂溶性薬物を、平均粒径が1〜20μmを有する生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子に封入させてなることを特徴とする脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項2】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、100〜800℃で焼成して得たハイドロキシアパタイトである請求項1に記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項3】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、ハイドロキシアパタイトにリン酸カルシウムを加えて焼成して得たハイドロキシアパタイトである請求項2に記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項4】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの平均粒径が1〜8μmであって、注射投与可能な請求項1ないし3のいずれかに記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項5】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの平均粒径が1〜20μmであって、局所投与または経口投与可能な請求項1ないし3のいずれかに記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項6】
脂溶性薬物がステロイドホルモン、脂溶性ビタミン、脂溶性生物由来薬物および脂溶性合成薬物から選ばれるものである請求項1ないし5のいずれかに記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項7】
ステロイドホルモンがエナント酸テストステロン、プロピオン酸テストステロン、テストステロン・エストラジオール、吉草酸エストラジオール、安息香酸エストラジオール、酢酸デキサメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾンおよび酢酸プレドニゾロンから選ばれるものである請求項6に記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項8】
脂溶性生物由来薬物がシクロスポリン、タクロリムス、パクリタキセルおよび塩酸イリノテカンから選ばれるものである請求項6に記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項9】
脂溶性合成薬物がジアゼパム、ケトプロフェン、クロルプロマジン、ニフェジピン、塩酸ニカルジピン、カンデサルタンシレキセチルおよびアシクロビルから選ばれるものである請求項6に記載の脂溶性薬物封入微粒子。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載された脂溶性薬物封入微粒子を有効成分として含有することを特徴とする経口的または非経口的投与用製剤。
【請求項11】
経口的投与用製剤が錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、粉末剤、腸溶性錠剤、腸溶性カプセル剤または腸溶性顆粒剤である請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
非経口的投与用製剤が皮下注射剤、静脈注射剤または筋肉注射剤のいずれかである請求項10に記載の製剤。
【請求項13】
脂溶性薬物を封入し、生体内へ注射投与し得るキャリヤとしての生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子。
【請求項14】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、100〜800℃で焼成して得たハイドロキシアパタイトである請求項13に記載の微粒子。
【請求項15】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの平均粒径が1〜8μmである請求項13に記載の微粒子。
【請求項16】
自重量と同程度以上の脂溶性薬物を封入し得る請求項13ないし15のいずれかに記載の微粒子。
【請求項17】
脂溶性薬物を有機溶媒または含水有機溶媒に溶解し、当該溶液に平均粒子が1〜20μmを有する生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトの微粒子を加え、非封入の薬物を除去したのち、溶媒を凍結乾燥、噴霧乾燥または減圧濃縮によって留去することからなる脂溶性薬物封入微粒子の製造方法。
【請求項18】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、100〜800℃で焼成して得たハイドロキシアパタイトである請求項17に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法。
【請求項19】
生分解性の多孔性ハイドロキシアパタイトが、ハイドロキシアパタイトにリン酸カルシウムを加えて焼成して得たハイドロキシアパタイトである請求項18に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法。
【請求項20】
凍結乾燥後、得られた微粒子を分散剤とともに懸濁することを特徴とする請求項17ないし19のいずれかに記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法。
【請求項21】
分散剤がカルボキシメチルセルロースまたは非イオン性界面活性剤である請求項20に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法。
【請求項22】
有機溶媒がアセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール、エチルエーテルおよび酢酸エチルから選ばれる1種または2種以上である請求項17に記載の脂溶性薬物封入微粒子の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−1865(P2007−1865A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−323287(P2003−323287)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【Fターム(参考)】