説明

自動車

【課題】内燃機関を停止する際に内燃機関の回転中に吸気バルブの開閉タイミングを所定タイミングに変更するときに、内燃機関の状態を状況に応じてより適正なものにできるようにする。
【解決手段】吸気バルブの開閉タイミングを最遅角に変更する最遅角処理を実行するとき、触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときには燃料噴射を停止したエンジンをモータリングし(S110〜S130)、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて(S110,S120)、所要想定時間tdが閾値tdref未満のときにはエンジンをアイドル運転し(S180,S190)、所要想定時間tdが閾値tdref以上のときにはモータによる発電を伴ってエンジンを負荷運転する(S180,S200)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に関し、詳しくは、吸気バルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構が取り付けられてなる内燃機関と、内燃機関の出力軸に動力を出力可能な電動機と、電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を備え、内燃機関を停止する際には内燃機関の回転中に吸気バルブの開閉タイミングが次回の内燃機関の始動性を良好にするための所定タイミングに変更されるよう可変バルブタイミング機構を制御する停止前変更処理を実行する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車としては、インテークバルブの開閉タイミングを変更するインテーク用VVT機構が取り付けられたエンジンと、エンジンのクランクシャフトに動力分割機構を介して接続されたモータと、を備え、エンジン停止指示がなされたときに、その停止指示が運転者によるものである場合にはエンジンでの燃焼停止によるエンジン停止処理を開始すると共にその後にモータによって所定期間だけエンジンをモータリングして空転させ、停止指示が運転者によるものではなく自動停止指示である場合にはモータリングを実行せずに所定期間だけ待機してからエンジン停止処理を開始するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この自動車では、前者ではエンジンを空転させることによってインテーク用VVT機構を次回の始動に適した目標位相に変更させる期間を確保し、後者ではエンジン停止処理の開始を待機することによってインテーク用VVT機構を目標位相に変更させる期間を確保している。こうしてインテーク用VVT機構を目標位相に変更させる期間を確保することにより、次回のエンジンの始動を良好なものにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】2008−267234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の自動車では、エンジン停止処理の開始を待機する場合において、その処理の開始前にエンジンをどのように運転するかについては考慮されていない。また、車両に生じる振動の程度や燃料消費量,エミッションなどは、そのときのエンジンの状態によって異なる。したがって、これらを踏まえて、インテーク用VVT機構を目標位相に変更させる際には、エンジンの状態をそのときの状況に応じてより適正なものとすることが望まれる。
【0005】
本発明の自動車は、内燃機関を停止する際に内燃機関の回転中に吸気バルブの開閉タイミングを次回の内燃機関の始動性を良好にするための所定タイミングに変更するときに、内燃機関の状態を状況に応じてより適正なものにできるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の自動車は、
吸気バルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構が取り付けられてなる内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を備え、前記内燃機関を停止する際には該内燃機関の回転中に前記吸気バルブの開閉タイミングが次回の前記内燃機関の始動性を良好にするための所定タイミングに変更されるよう前記可変バルブタイミング機構を制御する停止前変更処理を実行する自動車であって、
前記停止前変更処理を実行するとき、前記内燃機関の燃料噴射が停止されると共に前記電動機により該内燃機関がモータリングされるよう該内燃機関と該電動機とを制御するモータリング処理と、前記内燃機関が自立運転されるよう該内燃機関を制御する自立運転処理と、前記電動機による発電を伴って前記内燃機関が負荷運転されるよう該内燃機関と該電動機とを制御する負荷運転発電処理と、のうち一つを車両の状態に応じて選択して実行する制御手段、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の自動車では、内燃機関を停止する際には内燃機関の回転中に吸気バルブの開閉タイミングが次回の内燃機関の始動性を良好にするための所定タイミングに変更されるよう可変バルブタイミング機構を制御する停止前変更処理を実行するものにおいて、停止前変更処理を実行するときには、内燃機関の燃料噴射が停止されると共に電動機により内燃機関がモータリングされるよう内燃機関と電動機とを制御するモータリング処理と、内燃機関が自立運転されるよう内燃機関を制御する自立運転処理と、電動機による発電を伴って内燃機関が負荷運転されるよう内燃機関と電動機とを制御する負荷運転発電処理と、のうち一つを車両の状態に応じて選択して実行する。これにより、車両の状態に応じて、モータリング処理と自立運転処理と負荷運転発電処理とのうちより適正な処理を選択して実行することが可能となる。即ち、車両に生じる振動の程度や燃料消費量,エミッションなどの観点から、モータリング処理と自立運転処理と負荷運転発電処理とのうちより適正な処理を実行することが可能となる。ここで、「所定タイミング」は、最も遅いタイミングである、ものとすることもできる。
【0009】
こうした本発明の自動車において、前記内燃機関は、排気を浄化する浄化触媒を有する浄化装置が排気系に取り付けられてなり、前記車両の状態は、前記浄化触媒の温度と前記内燃機関の空燃比と前記停止前変更処理の実行完了までに要すると想定される時間である所要想定時間とである、ものとすることもできる。
【0010】
この浄化触媒の温度と内燃機関の空燃比と所要想定時間とを車両の状態として用いる態様の本発明の自動車において、前記制御手段は、前記停止前変更処理を実行するとき、前記浄化触媒の温度が該浄化触媒が活性化する温度として定めた活性化温度以上である触媒第1条件と前記内燃機関の空燃比が理論空燃比より大きな値として定めた所定値より小さい触媒第2条件とが共に成立しているときには前記モータリング処理を実行し、前記触媒第1条件と前記触媒第2条件とのうち少なくとも一方が成立していないときで前記所要想定時間が予め定められた所定時間未満のときには前記自立運転処理を実行し、前記触媒第1条件と前記触媒第2条件とのうち少なくとも一方が成立していないときで前記所要想定時間が前記所定時間以上のときには前記負荷運転発電処理を実行する手段である、ものとすることもできる。
【0011】
また、浄化触媒の温度と内燃機関の空燃比と所要想定時間とを車両の状態として用いる態様の本発明の自動車において、前記可変バルブタイミング機構は、油圧回路の作動により前記吸気バルブの開閉タイミングを変更する機構であり、前記所要想定時間は、前記油圧回路に用いられる作動油の温度が低いほど長くなる傾向に設定される時間である、ものとすることもできる。
【0012】
さらに、本発明の自動車において、前記制御手段は、前記内燃機関の間欠運転を許容する該内燃機関の温度範囲の下限である間欠許容下限温度が所定温度以下のとき、前記停止前変更処理を実行するときに前記モータリング処理と前記自立運転処理と前記負荷運転発電処理とのうち一つを車両の状態に応じて選択して実行する手段である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】可変バルブタイミング機構150の外観構成を示す外観構成図である。
【図4】可変バルブタイミング機構150の構成の概略を示す構成図である。
【図5】インテークカムシャフト129の角度を進角させたときの吸気バルブ128の開閉タイミングおよびインテークカムシャフト129の角度を遅角させたときの吸気バルブ128の開閉タイミングの一例を示す説明図である。
【図6】ロックピン154の構成の概略を示す構成図である。
【図7】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される最遅角処理実行時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】所要想定時間設定用マップの一例を示す説明図である。
【図9】変形例の最遅角処理実行時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図10】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図11】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図12】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪63a,63bにデファレンシャルギヤ62を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。
【0016】
エンジン22は、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な内燃機関として構成されており、図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入する共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃料室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化触媒(三元触媒)134aを有する浄化装置134を介して外気へ排出される。
【0017】
また、エンジン22は、吸気バルブ128の開閉タイミングVTを連続的に変更可能な可変バルブタイミング機構150を備える。図3および図4に、可変バルブタイミング機構150の構成の概略を示す構成図を示す。可変バルブタイミング機構150は、図示するように、クランクシャフト26にタイミングチェーン162を介して接続されたタイミングギヤ164に固定されたハウジング部152aと吸気バルブ128を開閉するインテークカムシャフト129に固定されたベーン部152bとからなるベーン式のVVTコントローラ152と、VVTコントローラ152の進角室および遅角室に油圧を作用させるオイルコントロールバルブ156とを備え、オイルコントロールバルブ156を介してVVTコントローラ152の進角室および遅角室に作用させる油圧を調節することによりハウジング部152aに対してベーン部152bを相対的に回転させて吸気バルブ128の開閉タイミングVTにおけるインテークカムシャフト129の角度を連続的に変更する。インテークカムシャフト129の角度を進角させたときの吸気バルブ128の開閉タイミングVTおよびインテークカムシャフト129の角度を遅角させたときの吸気バルブ128の開閉タイミングVTの一例を図5に示す。実施例では、エンジン22から効率よく動力が出力される吸気バルブ128の開閉タイミングVTにおけるインテークカムシャフト129の角度を基準角とし、インテークカムシャフト129の角度をその基準角よりも進角させることによりエンジン22から高トルクが出力可能な運転状態とすることができ、インテークカムシャフト129の角度を最遅角させることによりエンジン22の気筒内の圧力変動を小さくしてエンジン22の運転の停止や始動に適した運転状態とすることができるよう構成されている。以下、吸気バルブ128の開閉タイミングVTを早くすること、即ち、インテークカムシャフト129の角度を進角させることを「進角する」といい、吸気バルブ128の開閉タイミングVTを遅くすること、即ち、インテークカムシャフト129の角度を遅角させることを「遅角する」という。
【0018】
また、VVTコントローラ152のベーン部152bには、ハウジング部152aとベーン部152bとの相対回転を固定するロックピン154が取り付けられている。図6にロックピン154の構成の概略を示す構成図を示す。ロックピン154は、図示するようにロックピン本体154aと、ロックピン本体154aがハウジング部152aの方向に付勢されるよう取り付けられたスプリング154bとを備え、インテークカムシャフト129の角度が最遅角に位置されたときにスプリング154bのスプリング力によりハウジング部152aに形成された溝158に嵌合しベーン部152bをハウジング部152aに固定する。また、ロックピン154は、油路159を介してスプリング154bのスプリング力に打ち勝つ油圧を作用させることにより溝158に嵌合されたロックピン本体154aを引き抜くことができるよう図示しない油圧式のアクチュエータが設けられている。なお、実施例では、この油圧式のアクチュエータを作動させるための油圧は、図1に示すように、エンジン22のクランクシャフト26に取り付けられたギヤポンプ23により供給される。
【0019】
エンジン22を制御するエンジンECU24は、CPU24aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU24aの他に処理プログラムを記憶するROM24bと、データを一時的に記憶するRAM24cと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランク角θcrやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温,燃焼室内に取り付けられた圧力センサからの筒内圧力,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128のインテークカムシャフト129や排気バルブを開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカム角θca,スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットル開度TH,吸気管に取り付けられて吸入空気の質量流量を検出するエアフローメータ148からの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温Ta,浄化触媒134aの温度を検出する温度センサ134bからの触媒温度Tc,排気管のうち浄化装置134の上流側に取り付けられた空燃比センサ135aからの空燃比AF,排気管のうち浄化装置134の下流側に取り付けられた酸素センサ135bからの酸素信号,可変バルブタイミング機構150の作動用のオイルの温度を検出する温度センサ151からのオイル温度Toilなどが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングVTの変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。なお、エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのクランクポジションに基づいてクランクシャフト26の回転数即ちエンジン22の回転数Neを演算したり、エアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいて体積効率(エンジン22の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比)KLを演算したり、カムポジションセンサ144からの吸気バルブ128のインテークカムシャフト129のカム角θcaのクランクポジションセンサ140からのクランク角θcrに対する角度(θca−θcr)に基づいて吸気バルブ128の開閉タイミングVTを演算したりしている。
【0020】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0021】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力が駆動軸32に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸32に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0022】
エンジン運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸32の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2に換算係数を乗じて得られる回転数や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPr*を計算すると共に計算した走行用パワーPr*からバッテリ50の残容量(SOC)に基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定し、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50を充放電してもよい最大電力としてバッテリ50の残容量(SOC)やバッテリ50の温度により設定される入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。そして、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御,開閉タイミング制御などを行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。エンジン運転モードでは、要求パワーPe*がエンジン22を効率よく運転するためにエンジン22の運転を停止した方がよいとして予め設定された閾値Pstop未満に至ったときにエンジン22の運転を停止してモータ運転モードに移行する。
【0023】
モータ運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸32に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。モータ運転モードでは、上述の要求パワーPe*がエンジン22を効率よく運転するためにエンジン22を始動した方がよいとして予め設定された閾値Pstart以上に至ったときにエンジン22を始動してエンジン運転モードに移行する。
【0024】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22を停止する際には、次回のエンジン22の始動性を良好なものとする(特に、エンジン22のモータリングを容易なものとする)ために、エンジンECU24は、エンジン22の回転中に、吸気バルブ128の開閉タイミングが最も遅いタイミングである最遅角タイミングに変更されるよう可変バルブタイミング機構150を制御する最遅角処理を実行する。なお、可変バルブタイミング機構150は、具体的には、図示しない油圧式のアクチュエータ(油圧回路)の作動によって機能する。
【0025】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、最遅角処理が実行される際の動作について説明する。図7は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される最遅角処理実行時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジンECU24によって最遅角処理の実行が開始されるときに実行される。
【0026】
最遅角処理実行時制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、温度センサ134bからの触媒温度Tcや、空燃比センサ135aからの空燃比AF,温度センサ151からのオイル温度Toil,カムポジションセンサ144からのインテークカムシャフト129のカム角θcaのクランクポジションセンサ140からのクランク角θcrに対する角度(θca−θcr)に基づいて演算された吸気バルブ128の開閉タイミングVTなどのデータをエンジンECU24から通信により入力し(ステップS100)、入力した触媒温度Tcを閾値Tcrefと比較すると共に(ステップS110)、空燃比AFを閾値AFrefと比較し(ステップS120)、触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときには、エンジン22の燃料噴射が停止されると共にモータMG1によりエンジン22がモータリングされるようエンジン22とモータMG1とを制御するモータリング処理の実行指令をエンジンECU24とモータECU40とに送信する(ステップS130)。モータリング処理の実行指令を受信したエンジンECU24は、エンジン22の燃料噴射を停止し、モータリング処理の実行指令を受信したモータECU40は、エンジン22を所定回転数N1(例えば、1000rpmや1200rpmなど)で回転させるためのトルクがモータMG1から出力されるようインバータ41のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。また、閾値Tcrefおよび閾値AFrefは、モータリング処理を実行すると気筒内などに酸素が多くなることによって次回のエンジン22の始動直後などにエミッション(特に、窒素酸化物(NOx))が許容範囲を超えて悪化するおそれがある状態(以下、エミッション悪化想定状態という)であるか否かを判定するために用いられるものであり、閾値Tcrefについては、浄化触媒134aが活性化する温度範囲の下限(例えば、400℃や420℃,450℃など)を用いることができ、閾値AFrefについては、理論空燃比(例えば、14.5や14.6,14.7など)より若干大きな空燃比(例えば、14.9や15.0,15.1など)を用いることができる。触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときには、エミッション悪化想定状態ではないと判断してモータリング処理を実行することにより、エンジン22を運転する場合に比して車両に生じる振動や燃料消費を抑制することができる。
【0027】
そして、最遅角処理が完了するのを待って(ステップS140,S150)、モータリング処理の終了指令をモータECU40に送信して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。ここで、最遅角処理の完了を待つ処理は、初期値として値0が設定されていると共に最遅角処理が完了したときに値1が設定される最遅角処理完了フラグFcをエンジンECU24から所定時間毎に通信により入力すると共に(ステップS140)、入力した最遅角処理完了フラグFcの値を調べる(ステップS150)、ことによって行なうものとした。
【0028】
ステップS110,S120で、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときには、エミッション悪化想定状態であると判断し、吸気バルブ128の開閉タイミングVTとオイル温度Toilとに基づいて最遅角処理の実行完了までに要すると想定される所要想定時間tdを設定する(ステップS170)。ここで、所要想定時間tdは、実施例では、吸気バルブ128の開閉タイミングVTとオイル温度Toilと所要想定時間tdとの関係を予め実験や解析などによって定めて所要想定時間設定用マップとしてROM74に記憶しておき、吸気バルブ128の開閉タイミングVTとオイル温度Toilとが与えられると記憶したマップから対応する所要想定時間tdを導出して設定するものとした。所要想定時間設定用マップの一例を図8に示す。所要想定時間tdは、図示するように、吸気バルブ128の開閉タイミングVTが早いほど且つオイル温度Toilが低いほど長くなる傾向に定められる。後者については、オイル温度Toilが低いほど可変バルブタイミング機構150の作動用のオイルの粘度が高くなり、このオイルの粘度が高いほど吸気バルブ128の開閉タイミングの変更に要する時間が長くなりやすいためである。
【0029】
続いて、所要想定時間tdを閾値tdrefと比較する(ステップS180)。ここで、閾値tdrefは、エンジン22がアイドル運転(自立運転)されるようエンジン22を制御するアイドル運転処理を実行するとエンジン22のアイドル運転による振動に対する違和感を運転者が感じる可能性が比較的高いと想定される状態(以下、違和感想定状態という)であるか否かを判定するために用いられるものであり、例えば、エンジン22のアイドル運転による振動に対して運転者が違和感を感じると想定される時間範囲の下限(例えば、500msecや1秒,2秒など)などを用いることができる。
【0030】
所要想定時間tdが閾値tdref未満のときには、違和感想定状態ではないと判断し、アイドル運転処理の実行指令をエンジンECU24に送信する(ステップS190)。アイドル運転処理の実行指令を受信したエンジンECU24は、エンジン22が所定回転数N2(例えば、1000rpmや1200rpmなど)でアイドル運転されるようエンジン22を制御する。一方、所要想定時間tdが閾値tdref以上のときには、違和感想定状態であると判断し、モータMG1による発電を伴ってエンジン22が負荷運転されるようエンジン22とモータMG1とを制御する負荷運転発電処理の実行指令をエンジンECU24とモータECU40とに送信する(ステップS200)。負荷運転発電処理の実行指令を受信したエンジンECU24は、効率のよい運転ポイントでエンジン22を運転しながらエンジン22から所定パワー(例えば、数kWなど)が出力されるようエンジン22を制御し、負荷運転発電処理の実行指令を受信したモータECU40は、エンジン22からのパワーを用いて発電を行なうためのトルクがモータMG1から出力されるようインバータ41のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。なお、この場合、エンジン22の運転効率の向上を図るために、エンジン22をアイドル運転するときよりも点火時期を早くするものとしてもよい。こうした制御により、アイドル運転処理を実行する場合には、モータリング処理を実行する場合に比して次回のエンジン22の始動直後のエミッションの悪化を抑制することができると共に負荷運転発電処理を実行する場合に比して燃料消費を抑制することができる。一方、負荷運転発電処理を実行する場合には、モータリング処理を実行する場合に比して次回のエンジン22の始動直後のエミッションの悪化を抑制することができると共にアイドル運転処理を実行する場合に比して車両に生じる振動を抑制することができる。
【0031】
そして、エンジン22をアイドル運転または負荷運転しながら最遅角処理が完了するのを待って(ステップS200,S210)、燃料カット指令をエンジンECU24に送信して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。
【0032】
なお、実施例では、前述したように、最遅角処理を行なうときにおいて、エミッション悪化想定状態ではないときにはモータリング処理を優先して実行し、エミッション悪化想定状態であるが違和感想定状態ではないときにはアイドル運転処理を負荷運転発電処理よりも優先して実行し、エミッション悪化想定状態であり且つ違和感想定状態であるときには負荷運転発電処理を実行する。車両に生じる振動の抑制という観点ではモータリング処理,負荷運転発電処理,アイドル運転処理の順に優位性があり、エミッションの悪化の抑制という観点では負荷運転発電処理やアイドル運転処理の方がモータリング処理よりも優位性があり、燃料消費の抑制という観点ではモータリング処理,アイドル運転処理,負荷運転発電処理の順に優位性があることを考慮すれば、実施例のこうした処理の選択は、エミッション悪化想定状態ではないときには車両に生じる振動の抑制や燃料消費量の抑制をエミッションの悪化の抑制よりも優先することを意味し、エミッション悪化想定状態であるが違和感想定状態ではないときには燃料消費の抑制を振動の抑制よりも優先すること意味する。
【0033】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22を停止する際において、エンジン22の回転中に吸気バルブ128の開閉タイミングが最も遅いタイミングである最遅角タイミングに変更されるよう可変バルブタイミング機構150を制御する最遅角処理を実行するときに、触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときには、エンジン22の燃料噴射が停止されると共にモータMG1によりエンジン22がモータリングされるようエンジン22とモータMG1とを制御するモータリング処理を実行し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて最遅角処理の実行完了までに要すると想定される所要想定時間tdが閾値tdref未満のときにはエンジン22がアイドル運転されるようエンジン22を制御するアイドル運転処理を実行し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて所要想定時間tdが閾値tdref以上のときにはモータMG1による発電を伴ってエンジン22が負荷運転されるようエンジン22とモータMG1とを制御する負荷運転発電処理を実行するから、車両の状態(特に、触媒温度Tcや空燃比AF,所要想定時間td)に応じて、車両に生じる振動や燃焼消費量,エミッションなどの観点から、モータリング処理とアイドル運転処理と負荷運転発電処理とのうちより適正な処理を選択して実行することができる。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときにはモータリング処理を実行し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて所要想定時間tdが閾値tdref未満のときにはアイドル運転処理を実行し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて所要想定時間tdが閾値tdref以上のときには負荷運転発電処理を実行するものとしたが、モータリング処理とアイドル運転処理と負荷運転発電処理とのうちから1つの処理を選択する選択方法はこれに限られず、車両の状態に応じて選択するものであれば如何なるものとしても構わない。図9は、変形例の最遅角処理実行時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、図7の最遅角処理実行時制御ルーチンのステップS170,S180の処理をステップS102,S104の処理としてステップS110の処理の前に実行する点を除いて基本的には図7のルーチンと同一である。したがって、同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な省略する。図9の最遅角処理実行時制御ルーチンでは、触媒温度Tcや空燃比AF,オイル温度Toil,吸気バルブ128の開閉タイミングVTをエンジンECU24から通信により入力すると(ステップS100)、吸気バルブ128の開閉タイミングVTとオイル温度Toilとに基づいて所要想定時間tdを設定し(ステップS102)、設定した所要想定時間tdを閾値tdrefと比較する(ステップS104)。そして、所要想定時間tdが閾値tdref未満のときには、違和感想定状態ではないと判断し、最遅角処理の実行完了までアイドル運転処理を実行する(ステップS190,S210〜S230)。一方、ステップS104で所要想定時間tdが閾値tdref以上のときには、入力した触媒温度Tcを閾値Tcrefと比較すると共に(ステップS110)、空燃比AFを閾値AFrefと比較し(ステップS120)、触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときには、違和感想定状態であるがエミッション悪化想定状態ではないと判断し、最遅角処理の完了までモータリング処理を実行し(ステップS130〜S160)、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときには、違和感想定状態であり且つエミッション悪化想定状態であると判断し、最遅角処理の実行完了まで負荷運転発電処理を実行する(ステップS200〜S230)。この変形例でも、実施例と同様に、車両の状態に応じてモータリング処理とアイドル運転処理と負荷運転発電処理とのうちより適正な処理を選択して実行することができる。なお、この変形例では、違和感想定状態ではないときには、エンジン22の次回の始動直後のエミッションの悪化や燃料消費量の抑制を車両に生じる振動の抑制よりも優先し、違和感想定状態であるがエミッション悪化想定状態ではないときには、車両に生じる振動の抑制や燃料消費量の抑制をエミッションの悪化の抑制よりも優先することになる。
【0035】
実施例のハイブリッド自動車20では、車両の状態として、触媒温度Tcと空燃比AFと所要想定時間tdとを考慮するものとしたが、これらの一部や全部に代えてまたはこれらの全部に加えて、他のパラメータ、例えば、エンジン22の冷却水温Twやバッテリ50の残容量(SOC)などを考慮するものとしてもよい。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、吸気バルブ128の開閉タイミングVTが早いほど且つオイル温度Toilが低いほど長くなる傾向に所要想定時間tdを設定するものとしたが、オイル温度Toilに代えてまたは加えて、エンジン22の冷却水温Twなどを考慮して所要想定時間tdを設定するものとしてもよい。この場合、エンジン22の冷却水温Twが低いほど長くなる傾向に所要想定時間tdを設定すればよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の間欠運転を許容する間欠運転許容条件については説明していないが、間欠運転許容条件としては、エンジン22の冷却水温Twが閾値Twref以上である条件や、バッテリ50の残容量(SOC)が所定値Sref以上である条件などを用いることができる。ここで、閾値Twrefとして比較的高い温度(例えば、40℃や45℃など)を用いる場合と閾値Twrefとして比較的低い温度(例えば、0℃や5℃など)を用いる場合とを考える。前者の場合、一般に、エンジン22を停止する際のオイル温度Toilがそれほど低くないと考えられるため、所要想定時間tdもそれほど長くならず、前述の違和感想定状態にはほとんど該当しないと考えられる。一方、後者の場合、間欠運転許容条件が成立しやすくなることによるエネルギ効率の向上を期待できるが、エンジン22を停止する際に違和感想定状態に該当する場合がある。これらを踏まえると、閾値Twrefとして比較的低い温度を用いる場合には、所要想定時間tdに応じてアイドル運転処理と負荷運転発電処理とのいずれかを選択して実行する、即ち、車両の状態に応じてモータリング処理とアイドル運転処理と負荷運転発電処理とのうち一つを選択して実行することが好ましいが、閾値Twrefとして比較的高い温度を用いる場合、特に、所要想定時間tdが閾値Tdref未満となる範囲内となるように予め実験や解析などに基づいて閾値Twrefを定めて用いる場合(違和感想定状態に該当することがない場合)には、負荷運転発電処理を選択肢から外してもよいと考えられる。以上のことから、閾値Twrefが、負荷運転発電処理を選択肢に加えた方がよいか否かの境界として予め定められた所定温度(例えば、5℃や10℃など)以下のときには、車両の状態に応じてモータリング処理とアイドル運転処理と負荷運転発電処理との一つを選択して実行し、閾値Twrefが所定温度より高いときには車両の状態に応じてモータリング処理とアイドル運転処理とのうちいずれかを選択して実行するものとしてもよい。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2からの動力を駆動輪63a,63bに連結された駆動軸32に出力するものとしたが、図10の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸32が接続された車軸(駆動輪63a,63bが接続された車軸)とは異なる車軸(図10における車輪64a,64bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸32に出力するものとしたが、図11の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、駆動輪63a,63bに連結された駆動軸に変速機230を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ229を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機230とを介して駆動軸に出力すると共にモータMGからの動力を変速機230を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。また、図12の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、エンジン22からの動力を用いて発電する発電機330と、駆動輪63a,63bに連結された駆動軸に動力を出力するモータMGと、発電機330やモータMGと電力をやりとりするバッテリ50と、を備えるいわゆるシリーズハイブリッドの構成としてもよい。吸気バルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構が取り付けられてなる内燃機関と、内燃機関の出力軸に動力を出力可能な電動機と、電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を備えるものであれば如何なるタイプの自動車としてもよいのである。
【0040】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、可変バルブタイミング機構150を有するエンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG1が「電動機」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、吸気バルブ128の開閉タイミングが最も遅いタイミングである最遅角タイミングに変更されるよう可変バルブタイミング機構150を制御する最遅角処理を実行するときに、触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときには、エンジン22の燃料噴射が停止されると共にモータMG1によりエンジン22がモータリングされるようエンジン22とモータMG1とを制御するモータリング処理の実行指令をエンジンECU24とモータECU40とに送信し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて最遅角処理の実行完了までに要すると想定される所要想定時間tdが閾値tdref未満のときにはエンジン22がアイドル運転されるようエンジン22を制御するアイドル運転処理の実行指令をエンジンECU24に送信し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて所要想定時間tdが閾値tdref以上のときにはモータMG1による発電を伴ってエンジン22が負荷運転されるようエンジン22とモータMG1とを制御する負荷運転発電処理の実行指令をエンジンECU24とモータECU40とに送信する図7の最遅角処理実行時制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70と、モータリング処理の実行指令を受信したときにエンジン22の燃料噴射を停止し、アイドル運転処理の実行指令を受信したときにエンジン22が所定回転数N2でアイドル運転されるようエンジン22を制御し、負荷運転発電処理の実行指令を受信したときに効率のよい運転ポイントでエンジン22を運転しながらエンジン22から所定パワーが出力されるようエンジン22を制御するエンジンECU24と、モータリング処理を受信したときにエンジン22を所定回転数N1で回転させるためのトルクがモータMG1から出力されるようインバータ41のスイッチング素子をスイッチングを制御し、負荷運転発電処理の実行指令を受信したときにエンジン22からのパワーを用いて発電を行なうためのトルクがモータMG1から出力されるようインバータ41のスイッチング素子をスイッチング制御するモータECU40と、が「制御手段」に相当する。
【0041】
ここで、「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど、吸気バルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構が取り付けられてなるものであれば如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG1に限定されるものではなく、誘導電動機など、内燃機関の出力軸に動力を出力可能なものであれば如何なるタイプの電動機であっても構わない。「二次電池」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、電動機と電力のやりとりが可能なものであれば如何なるタイプの二次電池であっても構わない。「制御手段」としては、ハイブリッド用電子制御ユニット70とエンジンECU24とモータECU40とからなる組み合わせに限定されるものではなく単一の電子制御ユニットにより構成されるなどとしてもよい。また、「制御手段」としては、エンジン22の回転中に吸気バルブ128の開閉タイミングが最も遅いタイミングである最遅角タイミングに変更されるよう可変バルブタイミング機構150を制御する最遅角処理を実行するときに、触媒温度Tcが閾値Tcref以上であり且つ空燃比AFが閾値AFref未満のときには、エンジン22の燃料噴射が停止されると共にモータMG1によりエンジン22がモータリングされるようエンジン22とモータMG1とを制御するモータリング処理を実行し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて最遅角処理の実行完了までに要すると想定される所要想定時間tdが閾値tdref未満のときにはエンジン22がアイドル運転されるようエンジン22を制御するアイドル運転処理を実行し、触媒温度Tcが閾値Tcref未満のときや空燃比AFが閾値AFref以上のときにおいて所要想定時間tdが閾値tdref以上のときにはモータMG1による発電を伴ってエンジン22が負荷運転されるようエンジン22とモータMG1とを制御する負荷運転発電処理を実行するものに限定されるものではなく、停止前変更処理を実行するとき、前記内燃機関の燃料噴射が停止されると共に電動機により内燃機関がモータリングされるよう前記内燃機関と前記電動機とを制御するモータリング処理と、内燃機関が自立運転されるよう内燃機関を制御する自立運転処理と、電動機による発電を伴って内燃機関が負荷運転されるよう内燃機関と電動機とを制御する負荷運転発電処理と、のうち一つを車両の状態に応じて選択して実行するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0042】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、24a CPU、24b ROM、24c RAM、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、50 バッテリ、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、64a,64b 車輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、129 インテークカムシャフト、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、134a 浄化触媒、134b 温度センサ、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136,スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、151 温度センサ、152 VVTコントローラ、152a ハウジング部、152b ベーン部、154 ロックピン、154a ロックピン本体、154b スプリング、156 オイルコントロールバルブ、158 溝、159 油路、162 タイミングチェーン、164 タイミングギヤ、229 クラッチ、230 変速機、330 発電機、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブの開閉タイミングを変更する可変バルブタイミング機構が取り付けられてなる内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を備え、前記内燃機関を停止する際には該内燃機関の回転中に前記吸気バルブの開閉タイミングが次回の前記内燃機関の始動性を良好にするための所定タイミングに変更されるよう前記可変バルブタイミング機構を制御する停止前変更処理を実行する自動車であって、
前記停止前変更処理を実行するとき、前記内燃機関の燃料噴射が停止されると共に前記電動機により該内燃機関がモータリングされるよう該内燃機関と該電動機とを制御するモータリング処理と、前記内燃機関が自立運転されるよう該内燃機関を制御する自立運転処理と、前記電動機による発電を伴って前記内燃機関が負荷運転されるよう該内燃機関と該電動機とを制御する負荷運転発電処理と、のうち一つを車両の状態に応じて選択して実行する制御手段、
を備える自動車。
【請求項2】
請求項1記載の自動車であって、
前記内燃機関は、排気を浄化する浄化触媒を有する浄化装置が排気系に取り付けられてなり、
前記車両の状態は、前記浄化触媒の温度と前記内燃機関の空燃比と前記停止前変更処理の実行完了までに要する時間である所要想定時間とである、
自動車。
【請求項3】
請求項2記載の自動車であって、
前記制御手段は、前記停止前変更処理を実行するとき、前記浄化触媒の温度が該浄化触媒が活性化する温度として定めた活性化温度以上である触媒第1条件と前記内燃機関の空燃比が理論空燃比より大きな値として定めた所定値より小さい触媒第2条件とが共に成立しているときには前記モータリング処理を実行し、前記触媒第1条件と前記触媒第2条件とのうち少なくとも一方が成立していないときで前記所要想定時間が予め定められた所定時間未満のときには前記自立運転処理を実行し、前記触媒第1条件と前記触媒第2条件とのうち少なくとも一方が成立していないときで前記所要想定時間が前記所定時間以上のときには前記負荷運転発電処理を実行する手段である、
自動車。
【請求項4】
請求項2または3記載の自動車であって、
前記可変バルブタイミング機構は、油圧回路の作動により前記吸気バルブの開閉タイミングを変更する機構であり、
前記所要想定時間は、前記油圧回路に用いられる作動油の温度が低いほど長くなる傾向に設定される時間である、
自動車。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つの請求項に記載の自動車であって、
前記制御手段は、前記内燃機関の間欠運転を許容する該内燃機関の温度範囲の下限である間欠許容下限温度が所定温度以下のとき、前記停止前変更処理を実行するときに前記モータリング処理と前記自立運転処理と前記負荷運転発電処理とのうち一つを車両の状態に応じて選択して実行する手段である、
自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−31742(P2012−31742A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169586(P2010−169586)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】