説明

薄膜製造方法

【課題】結晶c軸を一定方向に配向させることができる薄膜製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る薄膜製造方法は、電子ビーム蒸着法によって基板に薄膜を堆積させつつ基板10に対してイオンビームを照射するとともに、基板10とイオンビームの照射方向とのなす角度を略垂直とすることで、基板10上に形成される薄膜の結晶c軸を基板面内方向で一方向に配向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛などの(0001)面に最密面を有する結晶等は、基板に薄膜蒸着させると、その結晶のc軸が基板に垂直な方向に配向して成長するという性質を有するため、この結晶c軸を基板面内方向に配向させることは非常に困難である。そして、この結晶c軸が基板に垂直な方向に配向されて形成された薄膜は、縦波やレイリー波を励振することができるが、横波や横波型弾性表面波(SH型SAW)を励振することはできないため、横波等を利用するデバイスに応用することができないといった問題がある。この問題を解消するため、すなわち、横波等を励振できるようにするためには、結晶c軸を基板に平行な方向に配向させる必要がある。例えば、特許文献1では、アルミニウム電極層上に、アルミニウム又はアルミニウム酸化物をドープしたZnO薄膜を形成することで、その結晶c軸を基板と平行な方向に配向させている。
【特許文献1】特公昭50−23918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記薄膜製造方法では、結晶c軸を基板と平行な方向に配向することができても、その結晶c軸は基板面内で種々の方向を向いており、結晶c軸を面内の一定の方向に配向させることはできない。このため、膜を構成する微結晶で発生した圧電分極,応力は打ち消し合い,横波を励振することができないといった問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、結晶c軸を基板面内の一定の方向に配向させることができる薄膜製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る薄膜製造方法は、上記課題を解決するためになされたものであり、電子ビーム蒸着法によって基板に薄膜を堆積させつつ前記基板に対してイオンビームを照射するとともに、前記基板と前記イオンビームの照射方向とのなす角度を略垂直とすることで、基板上に形成される結晶c軸を基板面内方向で一方向に配向させている。
【0006】
このように、基板に薄膜を堆積させながらその基板に向けて略垂直にイオンビームを照射することによって、基板に堆積された薄膜の結晶c軸を基板面内方向に一方向に配向させることができる。このように結晶c軸を一方向に配向させることにより、膜を構成する微結晶で発生した圧電分極,応力が同じ方向となり,横波を効率良く励振するという効果を得ることができる。また、その基板とイオンビームの照射方向とがなす角度を略垂直とすることによって、結晶c軸を基板面内方向に配向させることができる。このように結晶c軸の配向方向を基板面内方向とすることで、横波やSH型SAWを励振することが可能な薄膜を製造することができる。なお、上記「基板とイオンビームの照射方向とのなす角度を略垂直」とは、必ずしも完全な垂直のことを指しているのではなく、イオンビームを照射することによって薄膜の結晶c軸が基板面内方向に配向できる角度であればよく、垂直の90°から±20°、より好ましくは±10°、さらに好ましくは±5°の範囲内であっても本発明の目的を達することができる。
【0007】
上記薄膜製造方法は、種々の変更を加えることができるが、例えば、上記薄膜の結晶は、圧電性を有するウルツ鉱型であることが好ましく、その中でも特に圧電性が高く薄膜化
が容易な酸化亜鉛により薄膜を構成することが好ましい。
【0008】
また、より効率的に所定の結晶軸を配向させるために、上記イオンビームの加速電圧は100〜2000Vであることが好ましい。
【0009】
また、イオンビームを基板に照射する際、コリメートスリットを介してイオンビームを照射してもよい。このように、スリットを介してイオンビームを照射することで、イオンビームの発散角を抑え,イオンビームの指向性を高めることができる。これにより結晶c
軸の配向性も高まる.
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、結晶c軸を基板面内の一方向に配向させることが可能な薄膜製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る薄膜製造方法の実施形態を添付図面に従って説明する。図1は、本実施形態に係る薄膜製造方法に使用する薄膜製造装置を示す概略図である。
【0012】
図1に示すように、薄膜製造装置1は、内部で成膜を行うための反応容器2を備えており、この反応容器2内に成膜対象となる基板10を保持する基板ホルダ3と、この基板ホルダ3上の基板10を加熱するヒータ5と、薄膜の原料を電子ビームによって蒸発させる電子ビーム蒸発源4とを有している。また、容器2には、その一方の側面(図1の左側)にターボ分子ポンプ61及びロータリポンプ62からなる真空装置6が設置されており、他方の側面(図1の右側)には、基板10にイオンビームを照射するためのイオンビーム照射装置7が設置されている。
【0013】
ヒータ5は、板状に形成されており、反応容器2内の上部壁面に取り付けられている。そして、外部の電源(図示省略)と接続され、その外部電源からの電力の供給により、基板10を加熱して基板温度を上昇させるように構成されている。
【0014】
基板ホルダ3は、ヒータ5の下面に設置されており、基板ホルダ3上の基板10が反応容器2内の下方を臨むように配置される。この基板ホルダ3は、ヒータ5と45°の角度をなす基板保持面31を有している。この基板保持面31上に、薄膜が形成される基板10が保持されている。
【0015】
このように構成された基板ホルダ3の下方には、基板ホルダ3と対向するように電子ビーム蒸発源4が設置されている。電子ビーム蒸発源4は、薄膜の原料である酸化亜鉛焼結体のインゴットが収容されたるつぼ41と、るつぼ41内から亜鉛を蒸発させるための電子ビームを発生させる電子ビーム源42とを有している。
【0016】
イオンビーム照射装置7は、ビームを照射する筒状の照射部71が反応容器2内に突出しており、イオンビームの照射方向が図面の上下方向に延びる鉛直線に対して45度の傾斜角度をなすように設置されている。このため、イオンビームの照射方向と基板10とは垂直に交わっている。また、イオンビーム照射装置7は、酸素イオンビームを照射するよう構成されており、イオンビーム照射装置7から照射される酸素イオンビームは基板10に対して垂直に照射される。
【0017】
次に、上記のように構成された薄膜製造装置1による薄膜製造方法について図1を参照しつつ説明する。
【0018】
まず、基板ホルダ3の基板保持面31に基板10を取り付ける。そして、反応容器2内を密閉し、真空装置6を作動させ反応容器2内を排気して真空状態にする。反応容器2内の成膜中の圧力は0.01〜0.04Paとすることが好ましい。また、ヒータ5を作動させて、基板10を加熱する。このときの基板温度は200〜400度とすることが好ましい。
【0019】
次に、反応容器2内が真空状態になると、電子ビーム源42から電子ビームを発生させて、その電子ビームをるつぼ41内の酸化亜鉛焼結体のインゴットに照射する。この電子ビームの照射によって、るつぼ41内の酸化亜鉛が加熱されて昇華し、亜鉛が基板10に到達する。
【0020】
このように、亜鉛を基板10に到達させるとともに、イオンビーム照射装置7から酸素イオンビームを基板10に対して照射する。このときのイオンビームの加速電圧は、100〜2000Vとすることが好ましい。このように基板温度が上昇している基板10に亜鉛と酸素イオンが到達することによって、基板10に酸化亜鉛の薄膜が形成される。
【0021】
本実施形態では、以上のように基板10に対して垂直にイオンビームを照射することにより、基板10に形成される酸化亜鉛の薄膜の結晶c軸を基板10の面内に配向させることができる。この現象は、以下の理由により生じると考えられる。すなわち、酸化亜鉛は(0001)面に最密面を持つため、通常、薄膜化すると結晶c軸が基板10に対して垂直になるように成長する。しかし、本実施形態では、イオンビーム照射装置7によって、基板10に対して垂直な方向からイオンビームを照射している。このため、イオンビームの照射方向に対して原子が密に詰まった面を向けた状態の結晶粒、すなわち、結晶c軸が基板10に対して垂直になっている結晶粒は、イオンビーム照射装置7により照射されたイオンビームのイオンと衝突して損傷を受け、成長が阻害される。これに対して、原子が詰まっていない面がイオンビームの照射方向を向いている結晶粒、すなわち、結晶c軸が基板と平行な方向に配向している結晶粒は、イオンビームのイオンと衝突しにくく損傷を受けにくいため、全体として、基板10に形成される薄膜の結晶c軸は基板10と平行な方向に配向させることができると考えられる。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、基板10に薄膜を堆積させながらその基板10に向けてイオンビームを照射することによって、基板10に堆積された薄膜の結晶c軸を基板面内の一方向に配向させることができる。このため、膜を構成する微結晶で発生した圧電分極、応力が同一方向となり、音波を効率よく励振することができる。また、基板10とイオンビーム照射方向とのなす角度を90°としているため、結晶c軸の配向方向を基板10と平行な方向である基板面内方向とすることでき、横波やSH型SAWを励振することが可能な薄膜を製造することが可能になる。そして、このように製造された薄膜は、種々の圧電デバイスに応用することができ、例えば、図2に示すような横波モード薄膜共振子30に応用することができる。この薄膜共振子30は、窒化ケイ素板31の上面に、空洞部を有するシリコン基板32が形成されている。また、窒化ケイ素板31の下面には、第1の電極膜34が形成され、その下面に圧電薄膜35が形成され、さらにその下面に第2の電極膜36が形成されている。圧電薄膜35は、窒化ケイ素板31と平行な方向(図面右方向)に結晶c軸が配向されているため、横波を励振することができる。
【0023】
また、結晶c軸が基板と平行な方向に配向されている薄膜は、図3に示すような、SH型SAWデバイスに応用することもできる。図3に示すSH型SAWデバイス20は、圧電基板21の上面に圧電性薄膜22が形成されており、さらにこの圧電性薄膜22上の両端部に櫛形電極23がそれぞれ形成されている。この圧電性薄膜22は、その結晶c軸が圧電基板21と平行な方向に配向している。このため、SH型SAWデバイス20は、SH型SAWを励振することができる。その他、基板10とイオンビーム照射方向との角度
を調整して、結晶c軸の配向が調整された種々の薄膜を製造することが可能であり、この薄膜をその結晶c軸の配向に応じたデバイスに適用することができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、イオンビーム照射装置7と基板10との間には何も配置されていないが、イオンビームの発散角を抑えイオンビームの指向性を高めるために、コリメートスリットを介在させることができる。
【0025】
また、上記実施形態では、薄膜の原料として、ウルツ鉱型の結晶を使用しているが、ウルツ鉱型以外の六方晶系の結晶を使用することができ、さらには立方晶系や斜方晶系などのその他の晶系に属する結晶を使用することもできる。また、上記実施形態では酸化亜鉛を使用しているが、特にこれに限定されるものではなく、窒化アルミニウム、窒化ガリウム等のウルツ鉱型結晶を使用することもできる。
【0026】
さらには、上記実施形態では、基板10に酸化亜鉛の薄膜を形成するために、電子ビーム蒸発源4から亜鉛を昇華させるとともに、イオン照射装置7から酸素イオンビームを照射しているが、イオン照射装置7から酸素イオンではなく不活性イオンを照射させることもできる。このときは、別途酸化亜鉛粒子源を設置し,基板10に酸化亜鉛の薄膜が形成されるようにする。
【実施例】
【0027】
以下本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例として、図1に示す薄膜製造装置1及び上記実施形態における薄膜製造方法において、Cu薄膜を蒸着した合成石英基板10に酸化亜鉛の薄膜を形成する。基板10の寸法は、長さ75mm、奥行き25mm、厚さ0.5mmであり、イオンビーム照射装置7によるイオンビームの加速電圧を50,250,500,750,1000Vの5パターンで実施した。基板温度は300℃となるよう、ヒータ5で基板10を加熱した。到達圧力は4×10−4Pa、薄膜形成時の圧力である成膜圧力は3×10−2Pa、成膜速度は19.9〜30.3nm/min、酸素ガス流量7ccmであった。また、。このとき、基板10の右端部から40mmの点での膜厚は4.8〜6.7μmであった。
【0029】
比較例としてイオンビームを照射しない場合についても測定した。基板は上記実施例と同様のものを使用した。また、基板温度は350℃、到達圧力は4×10−4Pa、成膜圧力は2×10−2Pa、酸素ガス流量5ccm、成膜速度1.8nm/minであり、膜厚は0.69μmであった。
【0030】
以上の各条件で形成された酸化亜鉛薄膜のX線回折(XRD)パターンを図6に示す。図6に示すように、イオンビーム加速電圧が50Vの場合(実施例1)及びイオンビームを照射しない場合(比較例)では、(0002)面の回折ピークを観察することができる。これにより、実施例1及び比較例1で形成された薄膜の結晶c軸は、基板に垂直な方向に配向していることがわかる。
【0031】
これに対して、イオンビーム加速電圧が250,500,750,1000Vの場合(実施例2、3,4,5)では、(0002)面の回折ピークを観察することができず、(10−10)面の回折ピークを観察することができる。これにより、薄膜の結晶c軸が基板に垂直な方向に配向しておらず、基板面内方向に配向していることがわかる。また、イオンビーム加速電圧が大きくなるにつれ、回折ピークも大きくなることがわかる。
【0032】
また、イオンビーム加速電圧が1000Vの場合(実施例5)の(10−11)面の極点図を図4に示す。図4に示されるように、ψ=29°付近に(10−11)面と(−1011)面における極の集中が観測された。(10−11)面と(10−10)面とのなす角は約29°であることから、実施例5により形成された薄膜の結晶c軸は、基板10と平行な方向で且つ一方向に配向していることが分かる。また、実施例5によって形成した薄膜のSEM写真を図5に示す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る薄膜製造方法に使用する薄膜製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る薄膜製造方法により製造された薄膜の応用例を示す正面断面図である。
【図3】本実施形態に係る薄膜製造方法により製造された薄膜の他の応用例を示す斜視図である。
【図4】実施例1によって製造された薄膜の(10−11)面の極点図である。
【図5】実施例1によって製造された薄膜のSEM写真である。
【図6】本実施形態に係る薄膜製造方法により製造された薄膜や比較例に係る薄膜のXRDパターンを示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 薄膜製造装置
7 イオンビーム照射装置
10 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム蒸着法によって基板に薄膜を堆積させつつ前記基板に対してイオンビームを照射するとともに、前記基板と前記イオンビームの照射方向とのなす角度を略垂直とすることで、基板上に形成される薄膜の結晶c軸を基板面内方向で一方向に配向させる、薄膜製造方法。
【請求項2】
前記薄膜の結晶は、ウルツ鉱型である、請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記薄膜は、酸化亜鉛からなる、請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記イオンビームの加速電圧は、100〜2000Vである、請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
コリメートスリットを介してイオンビームを前記基板に照射する、請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−147214(P2008−147214A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329005(P2006−329005)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】