説明

表示用電極膜および表示用電極パターン製造方法

【課題】表示パターンや引き回し配線の微細化に伴う表示ムラ等の発生を防止することができる低欠陥で表示品質の高い表示装置を形成するための表示用電極膜および表示用電極膜を用いた表示用電極パターンの製造方法を提供する。
【解決手段】表示装置を形成するための表示用電極膜1であって、基板10上に直接又は透明薄膜を介して間接的に形成された透明導電膜20と、透明導電膜20上に形成された低抵抗薄膜30と、を備え、透明導電膜20は、表面処理を行うことなく表面平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmaxが10nm以下に形成され、低抵抗薄膜30は、面抵抗値が0.1Ω/□以下に形成されると共に、透明導電膜にダメージを与えることなく選択エッチング可能な材料で形成された。低抵抗薄膜は、2層又は3層の薄膜を膜厚合計が500nm以下となるように積層して構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示用電極膜および表示用電極パターン製造方法に係り、特に、フラットパネルディスプレイ等の表示装置に用いられる配線および表示電極の低抵抗化を図ることが可能な表示用電極膜および表示用電極パターン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話,電子辞書等の小型電子機器やOA・FA機器等の表示機器には液晶表示素子が用いられているが、これに続いて有機及び無機EL素子の開発が盛んに行われている。特に有機EL素子は、高輝度・自発光・高速応答性の点で今後の表示機器として期待されている。
【0003】
TFT方式,STN方式等の液晶表示装置において、透過タイプでは対向する2枚の透明基板(又は、カラー表示装置の場合には一方がカラーフィルター機能付き基板)の表面に透明導電膜が形成してある。一方、反射タイプ又は半透過タイプでは、一方の基板に導電性の半透明膜又は全反射膜が形成されている。
【0004】
また、一般的な有機EL素子は、ガラス基板,樹脂基板,フレキシブルな基板等の透明な基板上に形成される透明電極と背面電極との間に、少なくとも一層以上の発光層と、発光層の両面又は一方の面に形成された電荷輸送層と、さらに必要により形成される絶縁層とを有している。発光は表示設計により単色から複数色でありフルカラー表示も可能である。
また、一方の基板に白色発光機能のみを持たせて、他方に着色したガラスや樹脂を配設したり、透明なガラス上に色の三原色のうちの1色又は複数色の有機層・無機層を配設したりしてカラーフィルター機能を持たせた方式の表示素子もある。
【0005】
これらの表示機器には、駆動電極として陽極及び陰極のそれぞれに導電性の薄膜が利用される。例えば、有機EL素子では、光引き出し側の電極膜には、その機能から極めて透明度が高く導電性の高い電極膜(透明導電膜)が必要とされる。
透明電極材料としては、発熱体,電磁波防止,センサー,太陽電池,液晶用等としてITO,SnO,ZnO,IZO,GZO,AZO等が知られている。特に、ITO透明電極薄膜は、比抵抗1.2〜2.0×10−4Ω・cmの常用抵抗と、可視光域400nm〜700nmで80%〜91%のガラス上透過率を有しており、低抵抗かつ透過率が良好なため液晶用として多用されている。
【0006】
ところで、最近、表示素子の視認性向上と表示面積の拡大化を図るうえで微細な表示が要求されており、これに伴って表示パターンの微細化,引き回し配線の微細化が図られている。しかし、これらの微細化により透明電極の抵抗値が増大し、これに伴う電圧降下に起因して、輝度や色度等の表示ムラが発生してしまうという問題がある。
このような透明電極の抵抗値が増大してしまうことを防止する技術としては、透明電極の膜厚を厚くしたり、金属薄膜による補助電極を透明電極と接するように形成したりすることが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平5−299177号公報
【特許文献2】特開平7−296969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、透明電極の低抵抗化のために透明導電膜の膜厚を厚く形成すると、その分だけ成膜工程において時間が掛かってしまうと共に、一般的にはスパッタリング法,イオンプレーティング法,蒸着法のいずれの製法においても透明導電膜の表面凹凸が増大してしまう。例えば、イオンプレーティング法や蒸着法ではグレインの成長により、また、スパッタリング法ではドメイン間の段差の増大とドメイン内のグレインの成長により、表面凹凸が増大してしまう。
【0009】
また、透明導電膜の抵抗値を低くするためには高温での成膜が必要となるが、高温での成膜はドメイン,グレインの増大につながる。
このような透明導電膜の成膜過程に生じる大きな結晶成長及び表面凹凸は、絶縁破壊や電極間ショートによる表示欠陥を発生させてしまうおそれがある。
【0010】
一方、透明電極上に金属薄膜による補助電極を形成する方法では、金属薄膜材料として純金属を用いた場合には、酸化による抵抗値の増加、大気の影響による窒化や硫化による抵抗値の増加、水分による腐食等が発生するという問題がある。
また、金属薄膜材料として合金を用いた場合には、工程での耐久性は増すものの、添加物によって抵抗値が上昇してしまう。このため、膜厚が薄く且つ十分に抵抗値を低くするのは困難な状況である。
【0011】
また、透明導電膜上に形成された金属薄膜をパターニングする場合には、透明導電膜と金属薄膜とを選択的にエッチング可能とする必要があるため、金属薄膜の種類別によるエッチング液の選定が煩雑であると共に、エッチング液中での薄膜間の電位差に伴う電池効果によるオーバーエッチングや、それぞれの材料のエッチングレート違いにより明瞭なパターンエッヂ形状を確保しにくいという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、表示パターンや引き回し配線の微細化に伴う表示ムラ等の発生を防止することができる低欠陥で表示品質の高い表示装置を形成するための表示用電極膜および表示用電極膜を用いた表示用電極パターンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、本発明によれば、表示装置を形成するための表示用電極膜であって、基板上に直接又は透明薄膜を介して間接的に形成された透明導電膜と、該透明導電膜上に形成された低抵抗薄膜と、を備え、前記透明導電膜は、表面処理を行うことなく表面平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmaxが10nm以下に形成され、前記低抵抗薄膜は、面抵抗値が0.1Ω/□以下に形成されると共に、前記透明導電膜にダメージを与えることなく選択エッチング可能な材料で形成されることにより解決される。
【0014】
このように本発明の表示用電極では、表面平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmax10nm以下に表面処理を施すことなく形成された平坦な透明導電膜上に、面抵抗値が0.1Ω/□以下で、透明導電膜にダメージを与えず選択エッチング可能な低抵抗薄膜で構成されている。これにより、電極表面における凹凸や段差を抑えると共に、低抵抗化を図ることが可能となり、これらに起因する絶縁破壊,電極間ショート,電圧降下等の欠陥を低減して表示品質を向上させることができる。
【0015】
また、具体的には、前記透明導電膜は、In,Zn,Sn,Ga,Al,Ta,V,Nbのうち2以上の材料を含む酸化物によって、比抵抗が5.0×10−4Ω・cm以下に形成されると好適である。
これらの材料を選択することにより、比抵抗が5.0×10−4Ω・cm以下の低抵抗値の透明導電膜を確保できると共に、表面平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmaxが10nm以下の平坦な透明導電膜を得ることができる。これによって絶縁膜破壊や電極間ショートに起因する表示欠陥の低減を図ることができる。
【0016】
また、具体的には、前記低抵抗薄膜は、Ag,Al,Cu,Cr,Mo,Ni,Ag合金,Al合金,Cu合金,Mo合金,Ni合金のいずれかからなる薄膜及び酸化物導電膜の中から少なくとも2つを選択して2層以上に積層してなるものであると好適である。
これらの材料を適宜に選択して積層することにより、面抵抗値が0.1Ω/□以下で、透明導電膜にダメージを与えず選択エッチング可能な薄膜を形成することができる。これにより、電極全体を低抵抗に構成して素子内の電圧降下を防止し、表示バラツキを低減することができる。
【0017】
さらに具体的には、前記低抵抗薄膜は、2層又は3層の薄膜を積層したものであり、前記透明導電膜側から順に、Mo又はMo合金からなる薄膜と,Al又はAl合金からなる薄膜と,Mo,Mo合金又はNiからなる薄膜を3層積層した構成か、Mo−Al合金からなる薄膜と,Mo又はNiからなる薄膜を2層積層した構成か、又は、Ag合金からなる薄膜と,ITOからなる薄膜を2層積層した構成のいずれかであり、膜厚の合計を500nm以下に形成することができる。
このように構成すると、最上層が保護膜として機能して、例えばこの上に形成する電化輸送層及び発光層の積層時の欠陥を減少させることができる。また、最下層は透明導電膜に対する保護膜として機能する。これにより、レジスト除去等の処理に対する低抵抗薄膜の耐久性を確保すると共に、低抵抗薄膜を他の積層物や水分等に対して安定化させて、表示品質を確保することができる。
【0018】
また、前記低抵抗薄膜は、硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液、又は、燐酸,硝酸,酢酸のいずれか2つ以上の混合液であるエッチング液によって一括でエッチング可能であり、前記透明導電膜は、前記エッチング液によってエッチング不可、又は、前記エッチング液によるエッチング量が前記低抵抗薄膜と比べて微小であると好適である。このように、積層された低抵抗薄膜を一つのエッチング液で一括でエッチングすることが可能となるため、製造工程の短縮と簡素化を図ることができる。そして、このとき透明導電膜には影響が及ばないか、影響があっても微小であるので、別途行う透明導電膜のパターニング処理の自由度を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の表示装置を形成するための表示用電極パターンの製造方法は、基板上に直接又は透明薄膜を介して間接的に透明導電膜を形成する透明導電膜形成工程と、前記透明導電膜上に低抵抗薄膜を形成する低抵抗薄膜工程と、前記低抵抗薄膜のみを選択的にエッチングしてパターニングする低抵抗薄膜パターニング工程と、前記透明導電膜のみを選択的にエッチングして表示用電極パターンを形成する透明導電膜パターニング工程と、を含み、前記透明導電膜形成工程では、前記透明導電膜を、表面処理を行うことなく表面平均粗さRaを1nm以下,表面突起Rmaxを10nm以下に形成し、前記低抵抗薄膜工程では、前記低抵抗薄膜を、面抵抗値を0.1Ω/□以下に形成することを特徴とする。
【0020】
このように本発明では、透明導電膜形成工程で表面平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmax10nm以下に表面処理を施すことなく平坦な透明導電膜を形成し、この上に、低抵抗薄膜工程で面抵抗値が0.1Ω/□以下で、透明導電膜にダメージを与えず選択エッチング可能な低抵抗薄膜を形成する。そして、低抵抗薄膜パターニング工程で低抵抗薄膜、透明導電膜パターニング工程で透明導電膜のパターニングをそれぞれ行うので、電極表面における凹凸や段差を抑えると共に、低抵抗化を図ることが可能となり、これらに起因する絶縁破壊,電極間ショート,電圧降下等の欠陥を低減して表示品質を向上させることができる。
【0021】
また、前記透明導電膜形成工程では、In,Zn,Sn,Ga,Al,Ta,V,Nbのうち2以上の材料を含む酸化物によって、比抵抗が5.0×10−4Ω・cm以下となるように前記透明導電膜を形成することができる。これらの材料を選択することにより、低抵抗かつ平坦な透明導電膜を確保できるので、絶縁膜破壊や電極間ショートに起因する表示欠陥の低減を図ることができる。
【0022】
また、前記低抵抗薄膜工程では、Ag,Al,Cu,Cr,Mo,Ni,Ag合金,Al合金,Cu合金,Mo合金,Ni合金のいずれかからなる薄膜及び酸化物導電膜の中から少なくとも2つを選択して2層以上に積層して前記低抵抗薄膜を形成することができる。これらの材料を適宜に選択して積層することにより、低抵抗かつ透明導電膜にダメージを与えず選択エッチング可能な薄膜を形成することができるので、電極全体を低抵抗に構成して素子内の電圧降下を防止し、表示バラツキを低減することができる。
【0023】
また、前記低抵抗薄膜工程では、Mo又はMo合金からなる薄膜と,Al又はAl合金からなる薄膜と,Mo,Mo合金又はNiからなる薄膜の3層の薄膜か、Mo−Al合金からなる薄膜と,Mo又はNiからなる薄膜の2層の薄膜か、又は、Ag合金からなる薄膜と,ITOからなる薄膜の2層の薄膜のいずれかを、前記透明導電膜側から順に膜厚の合計が500nm以下となるように積層して、前記低抵抗薄膜を形成することができる。このように構成すると、例えば、この上に形成する電化輸送層及び発光層の積層時の欠陥を減少させることができる。
【0024】
また、前記低抵抗薄膜パターニング工程では、硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液、又は、燐酸,硝酸,酢酸のいずれか2つ以上の混合液であるエッチング液によって前記低抵抗薄膜のみを一括でエッチングすることができる。このように、積層された低抵抗薄膜のみを一つのエッチング液で一括でエッチングすることにより、製造工程の短縮と簡素化を図ることができる。そして、このとき透明導電膜には影響が及ばないので、別途行う透明導電膜のパターニング処理の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の表示装置形成用の表示用電極膜および表示用電極パターン製造方法によれば、表面平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmaxが10nm以下の平坦な透明導電膜上に、面抵抗値が0.1Ω/□以下で、透明導電膜にダメージを与えず選択エッチング可能な低抵抗薄膜が積層される。これにより、パターニング処理によって形成される表示パターンや引き回し配線が微細化されても、電極全体の抵抗値を低く保持することが可能となると共に、高抵抗化や表面粗さ等に起因する絶縁破壊,電極間ショート,電圧降下等の欠陥を低減して表示品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置、手順等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
図1〜図7は本発明の一実施形態に係るものであり、図1は表示用電極膜の断面図、図2は表示用電極パターンの断面図、図3はITO透明導電膜の表面凹凸の温度依存性を示すグラフ、図4はITO透明導電膜の表面凹凸形状を示すSEM写真及びAFM写真、図5は表示用電極膜の断面図、図6は表示用電極パターン形成工程の説明図、図7は比較例に係る表示用電極膜の断面図である。
【0027】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。図1に示すように、本例の表示用電極膜1は、ガラス,樹脂,フィルム,結晶体等の透明な基板10の表面に平坦な透明導電膜20が形成され、この上に複数層の合金薄膜等からなる低抵抗薄膜30が形成された構造を有するものである。なお、基板10上にシリカ系等の透明薄膜であるバリア層を介して透明導電膜20を設けてもよい。
本発明では、基板10上の表示用電極膜1をパターニングすることにより、図2に示すような透明導電膜20および低抵抗薄膜30からなる表示用電極パターン2を形成することができる。本例では表示用電極パターン2は、透明導電膜20および低抵抗薄膜30から構成されていることから、表示電極および配線電極の全体の低抵抗化を図ることができる。
【0028】
(透明導電膜)
表示用電極パターン2は、図2に示すように、主に表示部2aと、表示部2a外周に配置される配線引き回し部2bから構成される。表示部2aの透明導電膜20は表示面側(視認側)に設けられ、より良い表示を求めるために、透明導電膜20にはできるだけ高い透過率と低い抵抗値が要求される。
また、配線引き回し部2bは、線幅が細く形成されるため透過性は要求されないが、可能な限り低い抵抗値であることが要求される。
【0029】
透明導電膜20は、In,Zn,Sn,Ga,Al,Ta,V,Nbのうち2つ以上を含む酸化物によって形成された薄膜である。具体的には、透明導電膜20は、SnO(酸化錫)、ITO(酸化錫添加の酸化インジウム)、ATO(酸化アンチモン添加の酸化錫)、IZO(酸化亜鉛添加の酸化インジウム)、GZO(酸化ガリウム添加の酸化亜鉛)、AZO(酸化アルミニウム添加の酸化亜鉛)、その他酸化インジウムベース又は酸化錫ベースにZn,Sn,Ge,Al,Ta,V,Nb等のうちから1つ以上を含む酸化物を添加させたものからなる薄膜である。
これらの材料からなる透明導電膜20は、エッチング性を考慮すると、膜厚500nm以下が理想的であり、表面凹凸をも考慮すると150nm以下がより好ましい。また、本例の透明導電膜20は、低抵抗かつ良好な透過率を有することが望ましく、比抵抗値が5.0×10−4Ω・cm以下、透過率が80%以上に形成される。
【0030】
透明導電膜20は、電子ビーム照射による蒸着法,各種のイオンプレーティング法(RF,DC,プラズマ),レーザー又は紫外線によるアシスト成膜法,スパッタリング法等によって形成することができる。
透明導電膜20は、面抵抗20Ω/□程度でも表示素子として使用可能ではあるが、より高精細で明るく応答速度の早い表示素子が得られる面抵抗10Ω/□以下であることが望ましい。
【0031】
有機ELに使用する場合には、透過率,抵抗値のほかに、パターニング後の膜厚段差や、さらには透明導電膜20の表面凹凸が、その後の薄膜形成に影響を与えて表示欠陥を生じさせるおそれがある。
透明導電膜20を形成する上記材料は、比抵抗値が5.0×10−4Ω・cm以下の低抵抗に設定される。そして、これらのうちITOはより比抵抗値を小さくすることができると共に、表示欠陥を生じさせるおそれが極めて低い。
【0032】
ITOを用いる場合、より低抵抗な透明導電膜20を得るために膜厚を厚く設定すると、後述するパターニングにおけるエッヂのパターン形状の精度が低下したり、エッチング時間が長大化したり、膜厚増加による表面凹凸が増大したりしてしまうという不都合が生じる。
また、低抵抗なITO膜を得るためには、成膜時に基板加熱温度を高くする必要があるが、加熱温度を高くすると結果的に表面のドメイン段差とドメイン内のグレインが大きく成長するとともに部分的に大きい結晶成長が発生してしまうおそれがある。
【0033】
ITO膜の成膜過程に生じる大きな結晶成長及び表面凹凸は、絶縁破壊や電極間ショートによる表示欠陥を発生させてしまうおそれがあるため好ましくない。
例えば、有機ELでは、特に基板、透明導電膜、ホール注入層までのスパイク状異物や工程異物、突起、膜のピンホール等が表示欠陥を誘発していることが知られている。また、透明導電膜の平坦性と表示欠陥とに関係があることも知られている。すなわち、表面凹凸は、表示欠陥の原因になったり、表示に影響を与えたりするものであり、特に白点と称される表示欠陥は、上記異物、突起以外に透明導電膜の成膜段階で発生する結晶の大きさや段差にも関係することが分かってきている。
【0034】
このため、本例の透明導電膜20では、このような表示欠陥を生じさせるおそれが極めて低い表面平均粗さRa1nm以下、表面突起Rmax10nm以下に形成している。
ITO膜の表面を研磨等の表面処理を施して表面を平坦化することも可能である。しかしながら、例えば表面処理として表面の研磨を行うと、研磨処理や研磨後の表面クリーニング処理等に多大な時間を要するという問題がある。また、表示欠陥を生じさせるおそれが増大してしまうという問題もある。
【0035】
このため、できるだけ低温での成膜と添加物による非結晶質の薄膜を形成することで透明導電膜20の表面凹凸を小さく抑えることが望ましい。図3に表面凹凸(表面平均粗さRaおよび表面突起Rmax)と成膜温度の関係を示す。図3の例では、成膜温度を約130℃以下に設定すると、表面平均粗さRaを1nm以下、表面突起Rmaxを10nm以下とすることができることが分かる。
【0036】
すなわち、ITOは、製法,装置にもよるが、成膜時の基板温度が130℃前後まではアモルファスであり、150℃以上の高温になるほど(222)、(400)、(440)の混在した結晶方位を持つようになる。低抵抗が得られる高温成膜では、SEM(走査電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)によって、グレインと呼ばれる柱状の微細結晶(〜20nm)や、それが集団化したドメイン(200〜600nm)と呼ばれる結晶集団が形成されることが観察され、膜厚の増加と共にグレインの成長とドメイン間の段差が大きくなる(Rmaxが30nm〜70nm)。
【0037】
しかしながら、本例では、成膜時の条件(酸素分圧,成膜レート,温度等)を適度に制御することにより、比抵抗が5.0×10−4Ω・cm以下で、これらの表面凹凸の形成を防止している。具体的には、表面平均粗さRaが1nm以下、表面突起Rmaxが10nm以下に形成することが可能であり、表面の平滑化処理を行わずとも平坦な透明導電膜を形成することができる。以下の実施例に示すように、基板温度が130℃以上であっても、成膜条件を制御することによって、透明導電膜20を、比抵抗が5.0×10−4Ω・cm以下、かつ、平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmaxが10nm以下に形成することができる。
【0038】
図4にSEM写真及びAFM写真を示す。図4の左側は通常の成膜条件で成膜したITO膜を示しており、右側は成膜条件を適正化して表面を平坦化したITO膜を示している。図4に示すように、成膜条件を適正化することにより表面平均粗さRa1nm以下および表面突起Rmax10nm以下の表面凹凸を維持し、かつ、比抵抗1.5×10−4Ω・cm以下の透明導電膜を形成することができる。
【0039】
(低抵抗薄膜)
本例では、透明導電膜20上に面抵抗0.1Ω/□以下の低抵抗薄膜30が形成される。この低抵抗薄膜30は、表示部2aの電極としての機能(機能1)、表示部2aの透明導電膜20の抵抗値を低下させるための補助電極としての機能(機能2)、配線引き回し部2bの配線電極としての機能(機能3)、コネクタとの接続部分としての機能(機能4)を有している。
本例の低抵抗薄膜30は、Ag,Al,Au,C,Cu,Cr,In,Mo,Ni,Nb,Sn,Ta,Ti,Zr,W等とこれらの合金やITO等の酸化物導電膜で構成することができる。低抵抗で透明導電膜20にダメージを与えずパターニング可能な金属としては、Ag,Al,Cu,Cr,Mo,Ni,Ag合金,Al合金,Cu合金,Mo合金,Ni合金が望ましい。
【0040】
低抵抗薄膜30の厚さはより薄いことが望ましい。上述のように透明導電膜20の膜厚はエッチング性を考慮すると、500nm以下が理想的であり、表面凹凸をも考慮すると150nm以下がより望ましい。低抵抗薄膜30も同様であり、本例では膜厚は500nm以下に形成される。
【0041】
低抵抗薄膜30の抵抗値はバルク抵抗値とは異なって高くなるが、本例では、Ag,Al,Cu,Cr,Mo,Ni,Ag合金,Al合金,Cu合金,Mo合金,Ni合金,ITOの中から複数を選択し、これらを適切に組み合わせて積層させることによって面抵抗値を全体として0.1Ω/□以下に構成している。
【0042】
すなわち、本例では、図1に示すように低抵抗薄膜30は3層構造で構成されており、透明導電膜20側から順に第1薄膜30a,第2薄膜30b,第3薄膜30cが積層されている。第1薄膜30aおよび第3薄膜30cは、エッチング工程を含む素子作成工程における耐久性確保のための保護機能を備えた薄膜である。また、第2薄膜30bには、比抵抗の低い金属で形成された薄膜である。
【0043】
第1薄膜30aおよび第3薄膜30cは、膜厚を5nm〜100nmの範囲で形成することができるが、0.1Ω/□以下の面抵抗を確保するために膜厚を10nm〜50nmの範囲で形成することがより望ましい。これらは、同一材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。
また、図5に示すように低抵抗薄膜30を2層構造としてもよい。2層構造とする場合は、第1薄膜30aを形成しない構成にすることができる。
【0044】
保護膜としての第1薄膜30aおよび第3薄膜30cには、Mo,Ni,Mo合金,Ni合金,ITO等を用いることができる。また、低抵抗膜としての第2薄膜30bには、Ag,Al,Cu,Cr,Ag合金,Al合金,Cu合金等を用いることができる。
【0045】
(表示用電極パターンの形成)
表示用電極パターン2を形成するには、まず基板10上に透明導電膜20を形成した後、透明導電膜20上に低抵抗薄膜30を積層して表示用電極膜1を形成する。そして、フォトリソグラフ工程によって、この表示用電極膜1に所定のパターンを形成することによって形成される。
フォトリソグラフ工程では、まず、低抵抗薄膜30をパターニングする処理を行う。この処理では、低抵抗薄膜30上に所定パターンのレジストを形成し、所定のエッチング液を用いてウェットエッチング法により低抵抗薄膜30のみをエッチングした後、レジストを除去する(図6)。このとき用いるエッチング液は、低抵抗薄膜30のみに作用し、透明導電膜20には影響を与えることがないか、もしくは、実質上ほとんど影響を与えることないものが選択される。具体的には、エッチング液には、硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液、又は、燐酸,硝酸,酢酸のいずれか2つ以上の混合液を用いることができる。これにより、補助電極,引き回し配線電極,コネクタとの接続用電極を形成することができる。
【0046】
次に低抵抗薄膜30をパターニングした後、透明導電膜20をパターニングする処理を行う。この処理では、表面にレジストを形成し、エッチング液を変更して透明導電膜20をエッチングし、レジストを除去する(図2)。このときのエッチング液としては、塩酸と硝酸と水の混合液,塩化第二鉄と水と塩酸の混合液,蓚酸のいずれかを用いることができる。これにより基板10上に表示用電極パターン2が形成される。
【0047】
なお、表示用電極パターン2を形成する方法は、上記方法に限られない。例えば、基板10上に透明導電膜20のみを成膜し、フォトリソグラフ工程によってパターニングした後、低抵抗薄膜を成膜して、再びフォトリソグラフ工程によって低抵抗薄膜をパターニングしてもよい。
また、素子設計によっては、透明導電膜20および低抵抗薄膜30を形成した後、フォトリソグラフ工程で低抵抗薄膜30をパターニングし、さらに、同一レジストを用いてエッチング液のみを変更して透明導電膜20をパターニングしてもよい。
【0048】
いずれの場合においても、2層又は3層の低抵抗薄膜30は1つのエッチング液で一括してエッチングされる材質と構造を有するものである。なお、第3薄膜30cにITOを用いた場合は、まず最上面の第3薄膜30cのみをエッチングした後、第2薄膜30bおよび第1薄膜30aを別のエッチング液を用いてエッチングする。さらに、この後、エッチング液を変更して透明導電膜20をエッチングする。
【0049】
以下に本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にMo(第1薄膜30a),Al(第2薄膜30b),Mo(第3薄膜30c)を用いた例である。本例では、低抵抗薄膜30を図1に示すような3層構造としている。
本例では、まず透明なガラス基板10をスパッタリング装置にセットし、ITOターゲット(酸化インジウム90%:酸化錫10%)を使用して透明導電膜20を作成した。酸化錫の添加量は5%〜15%の範囲であれば特に限定されないが、より好ましくは7%〜12.5%がよい。
基板加熱温度、アルゴン(Ar)/酸素(O)の比率と投入パワーを制御することにより必要とする特性の透明導電膜が得られる。本例では、基板温度300℃、スパッタ圧力1.3Pa、Ar:O比率95:5、投入パワー4.0W/cmの条件で膜厚150nmのITO膜を成膜した。
【0050】
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚50nmのMo薄膜(第1薄膜30a)、その上に膜厚400nmのAl薄膜(第2薄膜30b)、さらにその上に膜厚50nmのMo薄膜(第3薄膜30c)を連続して成膜した。
【0051】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、それぞれ複数漕で構成されるアルカリ洗剤漕,中性洗剤漕,純水漕で超音波洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、低抵抗薄膜30のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は燐酸,硝酸,水の混合液である。このエッチング液は、低抵抗薄膜30のみの選択エッチング処理においては、透明導電膜20にほとんどダメージを与えないものである。すなわち、選択エッチング処理に要する時間を越えて長時間、このエッチング液にさらされる場合には、透明導電膜20はわずかなエッチング量が観察される。本例では、低抵抗薄膜30の選択エッチング処理後に、透明導電膜20にダメージは確認されなかった。さらに、透明導電膜20の膜厚調査目的のため、透明導電膜20の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0052】
透明導電膜20であるITOの表面形状と凹凸を日本電子製のフィールドエミッションタイプの走査電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察した結果、ドメインが形成されず、グレインのみの結晶形状であり、オリンパス製の原子間力顕微鏡(AFM)による観察では、Rmax9.75nm、Ra0.91nmの平坦性を有する良好な薄膜であることが確認された。
【0053】
電気特性である面抵抗値を三菱油化(現三菱化学)製の表面抵抗計ロレスタAPによる4端子4探針法によって、また、膜厚をアルバック製の触針式表面形状測定器Dectakによって測定した。この結果、面抵抗値は9.3Ω/□、膜厚は152nmで、比抵抗値は1.42×10−4Ω・cmであった。
また、透過率を日立ハイテクノロジーズ製の自記分光光度計U−4000で測定した。この結果、波長550nmにおいて透過率は90.1%であった。
さらに、結晶性を日本電子製のX線回折装置(XRD)で確認した。この結果、(222),(400),(440)の結晶方位を持つ安定性の良い透明導電膜20であることが確認された。
【0054】
また、低抵抗薄膜30の膜厚をアルバック製の触針式表面形状測定器Dectak、面抵抗値を三菱油化(現三菱化学)製の表面抵抗計ロレスタAPで、パターン形状を日本電子製の走査電子顕微鏡およびオリンパス製の原子間力顕微鏡で、それぞれ測定した。この結果、膜厚は495nm、面抵抗値0.089Ω/□の低抵抗な薄膜であることが確認された。また、パターン形状についてはエッヂの直線性が良く、オーバーエッチ寸法が0.55μmであり、オーバーエッチ量の少ないクリアーなパターンが得られたことが確認された。
これらの結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(実施例2)
本実施例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にMo(第1薄膜30a),Al(第2薄膜30b),Ni(第3薄膜30c)を用いた例である。本例でも実施例1と同様に低抵抗薄膜30を図1に示すような3層構造としている。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
【0057】
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚50nmのMo薄膜(第1薄膜30a)を、その上に膜厚400nmのAl薄膜(第2薄膜30b)、さらにその上に膜厚50nmのNi薄膜(第3薄膜30c)を連続して成膜した。
【0058】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、低抵抗薄膜30のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は燐酸,硝酸,水の混合液である。さらに、透明導電膜20の膜厚調査目的のため、透明導電膜20の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0059】
そして、実施例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、低抵抗薄膜30の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0060】
(実施例3)
本実施例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にMo合金(第1薄膜30a),Al(第2薄膜30b),Mo合金(第3薄膜30c)を用いた例である。本例でも実施例1と同様に低抵抗薄膜30を図1に示すような3層構造としている。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
【0061】
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚50nmのMo合金薄膜(第1薄膜30a)、その上に膜厚400nmのAl薄膜(第2薄膜30b)、さらにその上に膜厚50nmのMo合金薄膜(第3薄膜30c)を連続して成膜した。
【0062】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、低抵抗薄膜30のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は燐酸,硝酸,水の混合液である。さらに、透明導電膜20の膜厚調査目的のため、透明導電膜20の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0063】
そして、実施例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、低抵抗薄膜30の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0064】
(実施例4)
本実施例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にMo合金(第1薄膜30a),Al合金(第2薄膜30b),Mo合金(第3薄膜30c)を用いた例である。本例でも実施例1と同様に低抵抗薄膜30を図1に示すような3層構造としている。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
【0065】
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚30nmのMo合金薄膜(第1薄膜30a)、その上に膜厚450nmのAl合金薄膜(第2薄膜30b)、さらにその上に膜厚20nmのMo合金薄膜(第3薄膜30c)を連続して成膜した。
【0066】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、低抵抗薄膜30のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は燐酸,硝酸,水の混合液である。さらに、透明導電膜20の膜厚調査目的のため、透明導電膜20の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0067】
そして、実施例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、低抵抗薄膜30の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0068】
(実施例5)
本実施例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にMo(第1薄膜30a),Al合金(第2薄膜30b),Mo(第3薄膜30c)を用いた例である。本例でも実施例1と同様に低抵抗薄膜30を図1に示すような3層構造としている。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
【0069】
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚30nmのMo薄膜(第1薄膜30a)、その上に膜厚450nmのAl合金薄膜(第2薄膜30b)、さらにその上に膜厚20nmのMo薄膜(第3薄膜30c)を連続して成膜した。
【0070】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、低抵抗薄膜30のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は燐酸,硝酸,水の混合液である。さらに、透明導電膜20の膜厚調査目的のため、透明導電膜20の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0071】
そして、実施例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、低抵抗薄膜30の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0072】
(実施例6)
本実施例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にAg合金(第2薄膜30b),ITO(第3薄膜30c)を用いた例である。本例では実施例1〜5と異なり低抵抗薄膜30を図5に示すような2層構造としている。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
【0073】
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚350nmのAg合金薄膜(第2薄膜30b)、その上に膜厚10nmのITO薄膜(第3薄膜30c)を連続して成膜した。
【0074】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、低抵抗薄膜30のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は塩酸,硝酸の混合液と、燐酸,硝酸,水の混合液である。さらに、透明導電膜の膜厚調査目的のため、透明導電膜20の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0075】
そして、実施例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、低抵抗薄膜30の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0076】
(比較例1)
本比較例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にCrのみを用いた例である。本例では、実施例1〜6と異なり、低抵抗薄膜30を図7に示すような一層のみで構成した例である。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚300nmのCr薄膜を形成した。
【0077】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、Cr膜のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は硝酸セリウムアンモニウム,水,硝酸の混合液である。さらに、透明導電膜の膜厚調査目的のため、透明導電膜の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0078】
そして、実施例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、Cr膜の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0079】
透明導電膜20であるITOの表面形状と凹凸を観察した結果、ドメインは形成されず、グレインのみの結晶形状であった。また、Rmaxは9.53nm、Raは0.94nmの平坦性有する良好な薄膜であることが確認された。
【0080】
また、面抵抗値は9.5Ω/□、膜厚は150nmで、比抵抗は1.43×10−4Ω・cmであった。透過率は波長550nmにおいて90.2%であり、結晶性を確認した結果(222)、(400)、(440)の結晶方位を持つ安定性の良い透明導電膜であることが確認された。
【0081】
Cr膜は、膜厚が302nmであり、面抵抗値は0.68Ω/□であった。面抵抗値については、実施例1〜6の低抵抗薄膜30と比較して7〜9倍程度高い抵抗値であった。パターン形状については、エッヂの直線性が良く、オーバーエッチ寸法が0.45μmと少ないクリアーなパターンを得た。
このように、比較例1では、低抵抗薄膜30のパターン形状は良好であるものの、面抵抗が実施例1〜6と比較して大きいため、全体として表示用電極パターンの抵抗値をそれほど低下させることができない。
【0082】
(比較例2)
本比較例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にMoのみを用いた例である。本例では、比較例1と同様に、低抵抗薄膜30を図7に示すような一層のみで構成した例である。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚300nmのMo薄膜を形成した。
【0083】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、Mo膜のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は硝酸セリウムアンモニウム,水,硝酸の混合液である。さらに、透明導電膜の膜厚調査目的のため、透明導電膜の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0084】
そして、比較例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、Mo膜の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0085】
本例では、パターン形状については、オーバーエッチ寸法が0.76μmであり、実施例1〜6と比較してやや大きな値となっているもののクリアーなパターン形状を得た。また、面抵抗値、実施例1〜6の低抵抗薄膜30と比較して5〜6倍程度高い抵抗値であった。
このように、比較例2では、低抵抗薄膜30のパターン形状は良好である。しかしながら、面抵抗が実施例1〜6と比較して大きいため、全体として表示用電極パターンの抵抗値をそれほど低下させることができない。
【0086】
(比較例3)
本比較例は、基板10にガラス基板、透明導電膜20にITO、低抵抗薄膜30にAlのみを用いた例である。本例では、比較例1と同様に、低抵抗薄膜30を図7に示すような一層のみで構成した例である。
本例でも、透明なガラス基板10上に膜厚150nmの透明導電膜20(ITO膜)を実施例1と同条件でスパッタリング法にて成膜した。
次に、透明ガラス基板10上に形成された透明導電膜20の上に、スパッタリング装置にて膜厚300nmのAl薄膜を形成した。
【0087】
その後、成膜完了基板を装置から取り出し、実施例1と同様に洗浄を実施した後に、レジストを塗布して、Al膜のみを選択エッチングして簡易パターンを形成した。この時のエッチング液は燐酸,硝酸,水の混合液である。さらに、透明導電膜の膜厚調査目的のため、透明導電膜の一部を塩酸,硝酸の混合液でエッチングをした。
【0088】
そして、比較例1と同じ評価機器を使用し、同様に透明導電膜20の表面形状(Ra,Rmax),膜厚,抵抗値(面抵抗),透過率と、Al膜の膜厚,抵抗値(面抵抗),オーバーエッチ寸法,パターン形状を測定して膜評価を実施した。これらの得られた結果を表1に記す。
【0089】
本例では、パターン形状については、オーバーエッチ寸法が0.96μmと実施例1〜6と比較してやや大きいもののエッヂの直線性が良く、クリアーなパターン形状を得た。また、面抵抗値は0.112Ω/□であり、実施例1〜6の低抵抗薄膜30と比較してやや高いものの低抵抗な薄膜が得られた。
ただし、本例の構成では、湿度や温度に対する耐久性において、表面からの酸化が激しく、また、エッチング工程での水分,アルカリへの耐久性が低いため、利用上の注意が必要である。
【0090】
以上のように、比較例1〜3では、低抵抗薄膜30を1層構造としている。比較例1〜3では、エッチング後の面抵抗値が0.1Ω/□よりも大きいか、オーバーエッチ寸法が0.7μmよりも大きくなってしまう。面抵抗値が大きい場合は、全体として表示用電極パターンの抵抗をそれほど低下させることができない。また、面抵抗値が比較的小さな値である場合でも、1層構造であるため、表面からの酸化や、その後の表示装置形成工程におけるエッチング工程での水分やアルカリに対する耐久性が低く、取扱いが面倒となる不都合がある。
【0091】
これに対して、実施例1〜6では、低抵抗薄膜30を3層構造又は2層構造としている。この構成により、実施例1〜6では、低抵抗薄膜30の面抵抗値をいずれも0.1Ω/□以下として、全体として表示用電極パターンの抵抗を低下させることができる。また、低抵抗薄膜30のパターン形状としては、オーバーエッチ寸法が0.7μm以下と良好に形成することが可能である。
さらに、最上層には保護膜としての第3薄膜30cが形成されているため、表面からの酸化や、その後のエッチング工程での水分やアルカリに対する耐久性を確保することができ、取扱いが極めて容易となる。
【0092】
また、低抵抗薄膜30の膜構成としては、上記構成に限らず、第1薄膜30aにMoまたはMo合金、第2薄膜30bにAlまたはAl合金、第3薄膜30cにMo,Mo合金またはNiを適宜に選択して3層構成としてもよい。また、2層構成とする場合は、透明導電膜20側からの積層順が、Mo−Al合金,Moの組合せや、Mo−Al合金,Niの組合せであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係る表示用電極膜の断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る表示用電極パターンの断面図である。
【図3】ITO透明導電膜の表面凹凸の温度依存性を示すグラフである。
【図4】ITO透明導電膜の表面凹凸形状を示すSEM写真,AFM写真である。
【図5】本発明の実施形態に係る表示用電極膜の断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る表示用電極パターン形成工程の説明図である。
【図7】比較例に係る表示用電極膜の断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1‥表示用電極膜
2‥表示用電極パターン
2a‥表示部
2b‥配線引き回し部
10‥基板
20‥透明導電膜
30‥低抵抗薄膜
30a‥第1薄膜
30b‥第2薄膜
30c‥第3薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置を形成するための表示用電極膜であって、
基板上に直接又は透明薄膜を介して間接的に形成された透明導電膜と、該透明導電膜上に形成された低抵抗薄膜と、を備え、
前記透明導電膜は、表面処理を行うことなく表面平均粗さRaが1nm以下,表面突起Rmaxが10nm以下に形成され、
前記低抵抗薄膜は、面抵抗値が0.1Ω/□以下に形成されると共に、前記透明導電膜にダメージを与えることなく選択エッチング可能な材料で形成されたことを特徴とする表示用電極膜。
【請求項2】
前記透明導電膜は、In,Zn,Sn,Ga,Al,Ta,V,Nbのうち2以上の材料を含む酸化物によって、比抵抗が5.0×10−4Ω・cm以下に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の表示用電極膜。
【請求項3】
前記低抵抗薄膜は、Ag,Al,Cu,Cr,Mo,Ni,Ag合金,Al合金,Cu合金,Mo合金,Ni合金のいずれかからなる薄膜及び酸化物導電膜の中から少なくとも2つを選択して2層以上に積層してなることを特徴とする請求項1に記載の表示用電極膜。
【請求項4】
前記低抵抗薄膜は、2層又は3層の薄膜を積層したものであり、前記透明導電膜側から順に、Mo又はMo合金からなる薄膜と,Al又はAl合金からなる薄膜と,Mo,Mo合金又はNiからなる薄膜を3層積層した構成か、Mo−Al合金からなる薄膜と,Mo又はNiからなる薄膜を2層積層した構成か、又は、Ag合金からなる薄膜と,ITOからなる薄膜を2層積層した構成のいずれかであり、膜厚の合計が500nm以下に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の表示用電極膜。
【請求項5】
前記低抵抗薄膜は、硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液、又は、燐酸,硝酸,酢酸のいずれか2つ以上の混合液であるエッチング液によって一括でエッチング可能であり、
前記透明導電膜は、前記エッチング液によってエッチング不可、又は、前記エッチング液によるエッチング量が前記低抵抗薄膜と比べて微小であることを特徴とする請求項1に記載の表示用電極膜。
【請求項6】
表示装置を形成するための表示用電極パターンの製造方法であって、
基板上に直接又は透明薄膜を介して間接的に透明導電膜を形成する透明導電膜形成工程と、
前記透明導電膜上に低抵抗薄膜を形成する低抵抗薄膜工程と、
前記低抵抗薄膜のみを選択的にエッチングしてパターニングする低抵抗薄膜パターニング工程と、
前記透明導電膜のみを選択的にエッチングして表示用電極パターンを形成する透明導電膜パターニング工程と、を含み、
前記透明導電膜形成工程では、前記透明導電膜を、表面処理を行うことなく表面平均粗さRaを1nm以下,表面突起Rmaxを10nm以下に形成し、
前記低抵抗薄膜工程では、前記低抵抗薄膜を、面抵抗値を0.1Ω/□以下に形成することを特徴とする表示用電極パターン製造方法。
【請求項7】
前記透明導電膜形成工程では、In,Zn,Sn,Ga,Al,Ta,V,Nbのうち2以上の材料を含む酸化物によって、比抵抗が5.0×10−4Ω・cm以下となるように前記透明導電膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の表示用電極パターン製造方法。
【請求項8】
前記低抵抗薄膜工程では、Ag,Al,Cu,Cr,Mo,Ni,Ag合金,Al合金,Cu合金,Mo合金,Ni合金のいずれかからなる薄膜及び酸化物導電膜の中から少なくとも2つを選択して2層以上に積層して前記低抵抗薄膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の表示用電極パターン製造方法。
【請求項9】
前記低抵抗薄膜工程では、Mo又はMo合金からなる薄膜と,Al又はAl合金からなる薄膜と,Mo,Mo合金又はNiからなる薄膜の3層の薄膜か、Mo−Al合金からなる薄膜と,Mo又はNiからなる薄膜の2層の薄膜か、又は、Ag合金からなる薄膜と,ITOからなる薄膜の2層の薄膜のいずれかを、前記透明導電膜側から順に膜厚の合計が500nm以下となるように積層して、前記低抵抗薄膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の表示用電極パターン製造方法。
【請求項10】
前記低抵抗薄膜パターニング工程では、硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液、又は、燐酸,硝酸,酢酸のいずれか2つ以上の混合液であるエッチング液によって前記低抵抗薄膜のみを一括でエッチングすることを特徴とする請求項6に記載の表示用電極パターン製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−101622(P2007−101622A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287977(P2005−287977)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】