説明

表面処理装置

【課題】 材料ガスによるプラズマガン内の汚染を防止する。
【解決手段】 プラズマガン18内で発生されたプラズマ34は、アパーチャ24を介して真空槽12内に供給される。この状態で、真空槽12内に材料ガスとしてのTMSガスおよびアセチレンガスが導入されると、これらのガスはプラズマ化され、プラズマ化されたガスは、被処理物54,54,…の表面において化学反応を起こす。これによって、被処理物54,54,…の表面に、シリコンを含有するDLC膜が形成される。
なお、TMSガスおよびアセチレンガスは、アパーチャ24を介してプラズマガン18内にも流入する。そして、特にアセチレンガスに含まれる炭素によって、プラズマガン18内が汚染される。しかし、この炭素は、エッチングガスとしての酸素ガスと反応して、二酸化炭素となり、真空ポンプ16によって真空槽12の外部に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマCVD装置に関し、特に例えばDLC(Diamond Like Carbon)膜等のように炭素(C)を含む被膜を形成するのに適したプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマCVD装置として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術は、内部に被処理物が配置される概略円筒形の真空槽を備えている。この真空槽の底部には、排気口が設けられており、この排気口には、排気手段としての真空ポンプが結合されている。一方、真空槽の上部略中央には、中空のプラズマガンが設けられている。このプラズマガンの内部は、当該プラズマガンの底部略中央に設けられたプラズマ出力口を介して、真空槽内と連通しており、当該プラズマガンの内部には、熱陰極,陽極および電子注入電極という3つの電極が、設けられている。さらに、プラズマガンの側壁には、当該プラズマガン内にアルゴンガス(Ar)等の放電用ガスを導入するためのガス供給口が、設けられている。また、真空槽の側壁には、当該真空槽内に材料ガス(反応ガス)としてのTMS(Tetramethyl
silane;Si(CH)ガスおよびアセチレン(C)ガスを導入するためのガス供給口が設けられている。
【0003】
かかる構成により、DLC膜、特にシリコン(Si)を含有するDLC膜を形成する場合は、まず、プラズマガン内を含む真空槽内が、真空ポンプによって排気される。そして、プラズマガン内に放電用ガスが導入され、この状態で、熱陰極,陽極および電子注入電極のそれぞれが通電される。すると、熱陰極が加熱され、当該熱陰極から熱電子が放出される。この熱電子は、陽極に向かって加速され、その加速過程で、放電用ガスの粒子(分子または原子)に衝突し、その衝撃によって、放電用ガスの粒子が電離して、プラズマが発生する。発生したプラズマは、プラズマ出力口を介して真空槽内に供給される。ここで、真空槽内にTMSガスおよびアセチレンガスが導入されると、これらTMSガスおよびアセチレンガスは当該プラズマによってプラズマ化される。そして、プラズマ化されたガスは、被処理物の表面において化学反応を起こし、その結果、当該被処理物の表面にシリコンを含有するDLC膜が形成される。
【0004】
なお、電子注入電極は、プラズマガン内の空間電位を安定させ、ひいては当該プラズマガン内を含む真空槽内での異常放電を抑制するために、設けられている。また、上述の如くシリコンを含有することで、DLC膜の潤滑性が向上する。ただし、シリコンの含有量が多いと、DLC膜の耐摩耗性(硬度)が低下するため、当該シリコンの含有量は、僅少とされる。かかるシリコンの含有量は、TMSガスの導入量とアセチレンガスの導入量との比率(流量比)によって調整され、具体的には、TMSガスの導入量はアセチレンガスの導入量よりもかなり少なめ(数分の1〜数十分の1)に設定される。
【特許文献1】特開2004−292934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の従来技術では、真空槽内に導入されたTMSガスおよびアセチレンガスが、プラズマ出力口を介してプラズマガン内にも流入(言わば逆流)する。プラズマガン内においては、高密度なプラズマが発生しているので、かかるプラズマガン内に流入したこれらのガスは、当該プラズマによってプラズマ化される。そして、プラズマ化されたガス、特に導入量の多いアセチレンガスに含まれる炭素が、プラズマガン内の各要素、例えばプラズマガンの内壁,熱陰極,陽極および電子注入電極に付着し、固体化される。つまり、プラズマガン内が当該炭素によって汚染される、という問題がある。しかも、熱陰極については、炭化されるため、その寿命が短くなる、という重大な欠点もある。
【0006】
そこで、この発明は、プラズマガンのようにプラズマを供給するための手段の材料ガスによる汚染を防止できるプラズマCVD装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、この発明のプラズマCVD装置は、内部に被処理物が配置されると共に、当該内部が排気される真空槽を備える。そして、この真空槽の内部と連通する中空部を有し、当該中空部でプラズマを発生させると共に、発生したプラズマを真空槽の内部に供給するプラズマ供給手段をも、備える。さらに、真空槽の内部に被膜の材料となる材料ガスを導入する材料ガス導入手段と、プラズマ供給手段の中空部にエッチングガスを導入するエッチングガス導入手段とを、具備することを特徴とするものである。なお、エッチングガスは、材料ガスが中空部に流入し、この流入した材料ガスの成分が当該中空部において固体化されることで形成される物質を、除去(ドライエッチング)するためのものである。
【0008】
即ち、この発明では、真空槽の内部、つまり真空槽内に、被処理物が配置される。そして、この真空槽内は、プラズマ供給手段の中空部、言わばプラズマ供給手段内と共に、排気される。さらに、プラズマ供給手段内において、プラズマが発生され、発生されたプラズマは、当該プラズマ供給手段内から真空槽内に供給される。この状態で、材料ガス導入手段によって真空槽内に材料ガスが導入されると、この材料ガスは当該プラズマによってプラズマ化される。そして、プラズマ化された材料ガスは、被処理物の表面において化学反応を起こし、その結果、当該被処理物の表面に材料ガスの成分に従う被膜が形成される。
【0009】
ここで、真空槽内に導入された材料ガスは、プラズマ供給手段内にも流入する。プラズマ供給手段内においては、高密度なプラズマが発生しているので、かかるプラズマ供給手段内に流入した材料ガスは、当該プラズマによってプラズマ化される。そして、プラズマ化された材料ガスが、プラズマ供給手段内の例えば壁面等に付着し、固体化される。しかし、プラズマ供給手段内には、エッチングガス導入手段によってエッチングガスが導入される。従って、プラズマ供給手段内で固体化された物質は、エッチングガスによって除去され、詳しくは当該エッチングガスと反応して気体となる。そして、この気体は、真空槽の外部に排出される。
【0010】
なお、エッチングガス導入手段は、プラズマ供給手段内のうちプラズマの真空槽内への供給口に近い位置、換言すれば材料ガスが流入してくる口に近い位置に、エッチングガスを導入するのが、好ましい。即ち、材料ガスの流入口に近い位置ほど、上述の物質、つまり当該材料ガスが固体化されることで形成される言わば汚染物質の量が多い。従って、かかる材料ガスの流入口に近い位置にエッチングガスを導入することで、当該汚染物質を効果的に除去することができる。
【0011】
また、例えば複数種類の材料ガスが導入された場合は、複数種類の汚染物質が形成されることがある。このような場合、全種類の汚染物質を除去するべく複数種類のエッチングガスを導入してもよいが、最も量の多い汚染物質を除去するべく1種類のエッチングガスのみを導入してもよい。複数種類のエッチングガスを導入した場合、本来形成しようとする被膜に悪影響を及ぼす可能性が高くなるからである。
【0012】
さらに、例えば汚染物質が炭素を含むものである場合には、エッチングガスとして酸素(O)を含むものを採用するのが、好ましい。このようにすれば、汚染物質に含まれる炭素をエッチングガスに含まれる酸素と反応させて二酸化炭素(CO)に変換することができ、当該炭素を無害かつ効果的に除去(言わばアッシング)することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、真空槽内に導入された材料ガスが、プラズマ供給手段内にも流入し、当該プラズマ供給手段内において固体化されるが、この固体化された物質は、エッチングガスによって除去される。従って、プラズマ供給手段内が当該材料ガスによって汚染されるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の一実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
【0015】
この実施形態の表面処理装置10は、プラズマCVD法による成膜処理の他に、マグネトロンスパッタリング法(以下、単にスパッタリング法と言う。)による成膜処理をも行うことができる、言わば複合型のものであり、図1に示すように、概略円筒形の真空槽12を備えている。この真空槽12は、当該円筒形の両端面に当たる面を、上下に位置させた状態、つまり上面および下面とした状態で、配置されている。なお、真空槽12の内径は、例えば約1100[mm]であり、当該真空槽12内の高さ寸法は、例えば約800[mm]である。また、真空槽12は、耐食性および耐熱性の高い金属、例えばSUS304等のステンレス製とされており、その壁部は、接地電位(GND)に接続されている。
【0016】
そして、真空槽12の底部(図1において下側の壁部)の適宜位置(中心から外れた位置)には、排気口14が設けられており、この排気口14には、図示しない排気管を介して、真空槽12の外部にある排気手段としての真空ポンプ16が結合されている。さらに、真空槽12の上部(図1において上側の壁部)の略中央には、プラズマ供給手段としてのプラズマガン18が、絶縁性フランジ20を介して、つまり真空槽12と絶縁された状態、換言すれば電気的に絶縁電位(フローティング電位)とされた状態で、結合されている。
【0017】
このプラズマガン18は、概略円筒形のステンレス製の筺体22を有している。そして、この筺体22の底面(図1において下側の壁部)の中央には、中空部としての当該筺体22の内部と真空槽12内とを連通させる円筒形のアパーチャ24が、当該筺体22の底面から下方に突出した状態で設けられている。なお、筺体22の内径は、真空槽12の内径よりも小さく、例えば約200[mm]とされている。また、当該筺体22内の高さ寸法もまた、真空槽12の高さ寸法よりも小さく、例えば約200[mm]とされている。そして、アパーチャ24の内径は、筺体22の内径よりも小さく、例えば約80[mm]とされており、当該アパーチャ24の突出量は、約50[mm]とされている。また、アパーチャ24は、任意に着脱可能とされている。
【0018】
そして、筺体22の内部には、電子放出手段としての熱陰極26と、陽極手段としての陽極28とが、設けられている。このうち、熱陰極26は、直径が0.8[mm]〜1.0[mm]のタングステン製フィラメントで構成されており、筺体22の上面付近において、アパーチャ24と対向するように設けられている。そして、この熱陰極26の両端は、筺体22(真空槽12)の外部にある直流電源装置30に接続されている。熱陰極26は、この直流電源装置30から直流電力、言わばカソード電力Ecが供給されることによって2000[℃]以上に加熱される。そして、このように加熱されることで、当該熱陰極26から熱電子が放出される。
【0019】
一方、陽極28は、モリブデン製の扁平な環状体であり、その中空部をアパーチャ24に対向させた状態で、熱陰極26の下方に設けられている。なお、当該熱陰極26から陽極28までの距離は、例えば50[mm]〜100[mm]程度とされている。そして、この陽極28は、筺体22の外部において接地電位に接続されると共に、上述とは別の直流電源装置32を介して、熱陰極26(直流電源装置30の陽極端子)に接続されている。これによって、陽極28には、熱陰極26の電位を基準とする正極の直流電圧、言わばアノード電圧Vaが印加される。
【0020】
なお、上述の熱陰極26に供給されるカソード電力Ecの大きさ(熱陰極26の温度)、および陽極28に印加されるアノード電圧Vaの大きさによって、後述するプラズマ34のパワー、言わばプラズマガン出力Pgが、決定される。また、アノード電圧Vaが変わると、陽極28および熱陰極26間に流れる電流、言わば放電電流Iaも、変わる。この実施形態では、熱陰極26用の直流電源装置30は、最大で40[V]−60[A]の容量を有し、陽極28用の直流電源装置32は、最大で60[V]−100[A]の容量を有する。これによって、最大で6000[W]のプラズマガン出力Pgを得ることができる。なお、熱陰極26用の直流電源装置30に代えて、交流の電源装置を用いることもできる。
【0021】
さらに、筺体22の側壁には、当該筺体22内に放電用ガス、例えばアルゴンガスおよび水素(H)ガスを導入するための放電用ガス供給口36が設けられている。このため、図には示さないが、当該放電用ガス供給口36には、放電用ガス供給手段としての放電用ガス配管路が結合される。そして、この放電用ガス配管路および放電用ガス供給口36を介して、筺体22内に、アルゴンガスおよび水素ガスが個別に導入される。なお、放電用ガス配管路には、アルゴンガスおよび水素ガスのそれぞれの流量を調整するための放電用ガス流量調整手段、例えばマスフローコントローラが設けられている。また、放電用ガス供給口36は、熱陰極26と陽極28との間に放電用ガスが供給されるように設けられており、詳しくは熱陰極26に近い位置に設けられている。
【0022】
そしてさらに、筺体22の側壁には、当該筺体22内にエッチングガスを導入するためのエッチングガス供給口38も設けられている。ここで、エッチングガスとは、筺体22(プラズマガン18)内を洗浄(浄化)するためのものであり、具体的には、後述するシリコン含有DLC膜の成膜過程において筺体22内を汚染する炭素を除去するためのものである。この実施形態では、当該エッチングガスとして、例えば酸素ガスが用いられる。このため、エッチングガス供給口38には、エッチングガス供給手段としての図示しないエッチングガス配管路が結合され、このエッチングガス配管路およびエッチングガス供給口38を介して、筐体22内に、当該エッチングガスとしての酸素ガスが導入される。なお、エッチングガス配管路にも、エッチングガス流量調整手段としての図示しないマスフローコントローラが設けられている。また、エッチングガス供給口38は、上述の放電用ガス供給口36よりもアパーチャ24に近い位置に設けられており、詳しくは陽極28の少し下側の位置に設けられている。
【0023】
かかるプラズマガン18と対向するように、真空槽12内の底部側の位置に、反射手段としての反射電極40が設けられている。この反射電極40は、プラズマガン18から真空槽12内に供給されるプラズマ34の粒子、特に電子(一次電子および熱化したプラズマ電子)を上方に向けて反射させるためのものであり、概略円皿状(厳密には上方端が開口された高さの低い円筒状)の収容器42と、この収容器42内に収容された金属製ウール44と、によって構成される。このうち、収容器42は、耐食性および耐熱性の高い金属、例えばステンレスによって形成されており、電気的には絶縁電位とされている。そして、金属製ウール44は、直径が数[μm]〜数十[μm]の繊維状の金属が海綿状に形成されたものであり、例えば10[mm]〜20[mm]程度の厚さで、かつ上面が略平坦になるように、収容器42内に敷き詰められている。なお、金属製ウール44についても、高い耐食性および耐熱性が要求され、この実施形態では、当該金属製ウール44として、例えばスチール製またはステンレス製のもの、コストを考慮するとスチール製のものが、用いられる。
【0024】
また、真空槽12内の上面近傍には、阻止手段としての円板状のプラズマ安定電極46が、当該真空槽12内の上面を覆うように設けられている。なお、このプラズマ安定電極46の直径は、真空槽12の内径よりも少し小さく、例えば1000[mm]とされている。そして、厚さ寸法は、数[mm]、例えば3[mm]〜5[mm]程度とされている。また、当該プラズマ安定電極46の中央には、アパーチャ24との干渉を回避するため、換言すれば当該アパーチャ24を挿通させるための、円形の貫通孔48が穿設されている。この貫通孔48の直径は、アパーチャ24の外径よりも少し大きめ、例えば約100[mm]とされている。かかるプラズマ安定電極46もまた、耐食性および耐熱性の高い金属、例えばステンレスまたはアルミニウム(詳しくは耐食処理が施されたアルミニウム)製とされており、電気的に絶縁電位とされている。また、このプラズマ安定電極46は、真空槽12の横方から任意に着脱可能とされており、このため、図には示さないが、真空槽12の内周壁には、当該プラズマ安定電極46を横方向に案内するための案内レールが、設けられている。
【0025】
そして、真空槽12の外部には、当該真空槽12の上面および下面のそれぞれの周縁に沿うように、一対の電磁コイル50および52が設けられている。このうち上面側の電磁コイル50は、プラズマガン18(筺体22)の周囲を取り巻くように設けられており、真空槽12の外部にある図示しない第1磁界発生用電源装置から直流電流Icaが供給されることによって、当該プラズマガン18内の放電を助勢する磁場(磁界)を発生する。一方、真空槽12の下面側の電磁コイル52は、当該真空槽12を間に挟んで上面側の電磁コイル50と対向するように設けられており、真空槽12の外部にある図示しない第2磁界発生用電源装置から直流電流Icbが供給されることによって、上面側の電磁コイル50と共に真空槽12内にプラズマ34(プラズマ領域)をビーム状に閉じ込めるための磁場(ミラー磁場)を発生する。なお、各電磁コイル50および52に供給される直流電流IcaおよびIcbの大きさは、任意に調整可能とされており、この実施形態では、当該直流電流IcaおよびIcbを制御することで、真空槽12内の中央付近において20[G]〜100[G]の磁場を得ることができる。
【0026】
そして、ビーム状に整形されたプラズマ34を中心としてこれを取り囲むように、表面処理の対象である複数(例えば数個〜十数個)の被処理物54,54,…が、真空槽12内に配置される。即ち、真空槽12内には、プラズマ34から距離を置いてこれを取り囲むように、支持手段としての複数のホルダ56,56,…が、当該プラズマ34を中心とする円周方向に沿って等間隔に設けられている。そして、各被処理物54,54,…は、これらのホルダ56,56,…によって1つずつ支持される。なお、それぞれのホルダ56は、ギア機構58を介して、円盤状の公転台60の周縁部分に結合されている。そして、公転台60の底面(図1において下側の面)の中央には、回転軸62の一端が固定されており、当該回転軸62の他端は、真空槽12の外部にあるモータ64のシャフト66に結合されている。
【0027】
即ち、モータ64のシャフト66が例えば図1に矢印68で示す方向に回転すると、公転台60が同方向に回転し、これに伴って、各被処理物54,54,…がプラズマ34の周りを回転し、言わば公転する。さらに、それぞれのギア機構58による回転伝達作用によって、それぞれのホルダ56は図1に矢印70で示す方向に回転する。そして、このホルダ56自体の回転に伴って、それぞれの被処理物54もまた同方向に回転し、言わば自転する。このように各被処理物54,54,…が自公転することで、当該各被処理物54,54,…に対するプラズマ34の影響力が均一化される。なお、公転速度(回転数)は、例えば0.5[rpm]〜1[rpm]であり、自転速度は、例えば30[rpm]〜60[rpm](公転速度の60倍)である。
【0028】
さらに、それぞれの被処理物54には、ホルダ56,ギア機構58,公転台60および回転軸62を介して、真空槽12の外部にあるバイアス印加手段としてのパルス電源装置72から、バイアス電圧としての非対称パルス電圧が印加される。この非対称パルス電圧は、ハイレベル(Hレベル)の電圧値が+37[V]、ローレベル(Lレベル)の電圧値が−37[V]以下の、いわゆる負パルス電圧であり、その周波数は、10[kHz]〜250[kHz]の範囲で任意に調整可能とされている。また、当該非対称パルス電圧のデューティ比(1周期に対するハイレベル期間の比率)およびローレベルの電圧値も、任意に調整可能とされている。そして、これら周波数,デューティ比およびローレベル電圧値を調整することで、当該非対称パルス電圧の平均電圧値(直流換算値)Vdcを0[V]〜−1000[V]の範囲で任意に制御することができる。
【0029】
そしてさらに、真空槽12内の側壁の近傍であって、公転台60の外周縁(被処理物54,54,…公転経路)よりも外側の或る位置に、温度制御手段としての電熱ヒータ74が設けられている。この電熱ヒータ74は、被処理物54,54,…を加熱するためのものであり、その加熱温度は、真空槽12の外部にある図示しないヒータ用電源装置によって制御される。
【0030】
また、真空槽12内の側壁の近傍であって、電熱ヒータ74と対向する位置に、マグネトロンスパッタカソード76が、配置されている。このマグネトロンスパッタカソード76は、真空槽12の中央に向けて配置された平板状のターゲット78と、このターゲット78の背面(真空槽12の外側に向いた面)に近接して設けられたマグネット80とによって、構成されている。このうち、ターゲット78は、例えば純度が99.9[%]以上(いわゆる3N)のチタン(Ti)によって形成されており、その高さ寸法は700[mm]、幅寸法は140[mm]、厚さ寸法は10[mm]とされている。そして、このターゲット78には、真空槽12の外部にある図示しないスパッタ用電源装置から最大で15[kW]の負極の直流電力が供給される。一方、マグネット80は、ターゲット78のスパッタ効率を向上させるためのものであり、図には詳しく示さないが、永久磁石とヨークとを適宜組み合わせたものである。なお、この実施形態では、マグネトロンスパッタカソード76を1つのみ設けているが、生産性を向上させるために複数設けてもよい。
【0031】
そして、真空槽12の側壁には、当該真空槽12内に材料ガスとしてのTMSガスおよびアセチレンガスを導入するための材料ガス供給口82が設けられている。このため、図には示さないが、当該材料ガス供給口82には、材料ガス供給手段としての材料ガス配管路が結合される。そして、この材料ガス配管路および材料ガス供給口82を介して、真空槽12内に、TMSガスおよびアセチレンガスが個別に導入される。なお、材料ガス配管路にも、TMSガスおよびアセチレンガスのそれぞれの流量を調整するための材料ガス流量調整手段としてのマスフローコントローラが設けられている。そして、材料ガス供給口82は、真空槽12内の上面に近い位置であって、上述したプラズマ安定電極46よりも下方の位置に材料ガスが供給されるように設けられている。また、真空槽12内において材料ガスが効率よく散布されるように、図には示さないが、当該材料ガス供給口82には、真空槽12内に向けて水平に延伸するガスノズルが設けられており、このガスノズルには、その長さ方向に沿って複数のガス噴出孔が穿設されている。
【0032】
このように構成された表面処理装置10によれば、例えば図2に示すように、それぞれの被処理物54の表面に中間層としてのチタン膜100を形成し、さらにこのチタン膜100の上にシリコンが含有されたDLC膜102を形成することができる。なお、チタン膜100は、スパッタリング法による成膜処理によって形成され、シリコン含有DLC膜102は、プラズマCVD法による成膜処理によって形成される。また、これらの成膜処理に先立って、被処理物54に含まれる不純物ガスを取り除くための脱ガス処理、および当該被処理物54の表面に付着した不純物を取り除くため放電洗浄処理が、この順番で行われる。そして、この実施形態の表面処理装置10によれば、これらの脱ガス処理,放電洗浄処理,スパッタリング法による成膜処理およびプラズマCVD法による成膜処理を、連続して(つまり真空を破らずに1バッチで)行うことができる。
【0033】
即ち、まず、真空ポンプ16によって、プラズマガン18(筺体22)内を含む真空槽12内が排気される。そして、被処理物54,54,…を自公転させるべく、モータ64が駆動される。さらに、電熱ヒータ74が通電され、被処理物54,54,…が百[℃]〜数百[℃]に加熱される。これによって、被処理物54,54,…内の不純物ガスが排出され、つまり脱ガス処理が行われる。この脱ガス処理の終了後、電熱ヒータ74への通電が停止され、続いて放電洗浄処理が行われる。
【0034】
放電洗浄処理においては、プラズマガン18内に、アルゴンガスおよび水素ガスが導入される。そして、熱陰極26,陽極28,電磁コイル50および52のそれぞれが通電される。さらに、被処理物54,54,…に対して、バイアス電圧(非対称パルス電圧)が印加される。すると、熱陰極26が加熱され、当該熱陰極26から熱電子が放出される。この熱電子は、陽極28に向かって加速される。そして、加速された熱電子は、アルゴンガスの粒子および水素ガスの粒子に衝突し、その衝撃によって、アルゴンガス粒子および水素ガス粒子が電離し、プラズマ34が発生する。また、このとき、プラズマガン18内には、上方側の電磁コイル50による磁場が作用しているので、熱電子は螺旋運動する。これによって、熱電子がアルゴンガス粒子および水素ガス粒子に衝突する回数および確率が増大し、放電効率が向上する。
【0035】
そして、プラズマガン18内で発生したプラズマ34は、プラズマ供給口としてのアパーチャ24を介して真空槽12内に供給され、反射電極40に向かって流れる。しかし、この反射電極40は、絶縁電位とされているので、プラズマ34内の電子は、ここで反射されて、上方、つまりプラズマガン18に向かって流れる。ところが、プラズマガン18(筺体22)もまた、絶縁電位とされているので、当該プラズマ34内の電子は、プラズマガン18と反射電極40との間で電界振動する。さらに、真空槽12内には、上述の如く電磁コイル50および52によって、当該プラズマ34をビーム状に閉じ込めるべく磁場が作用している。従って、プラズマ34内の電子の動きが活性化され、当該プラズマ34の密度が向上する。この実施形態では、例えば真空槽12内の圧力が0.1[Pa]という比較的に低い圧力であるにも拘らず、1011[cm−3]台という高密度なプラズマ34を得ることができる。つまり、この実施形態では、上述した熱陰極26および陽極28を含むプラズマガン18,反射電極40,1対の電磁コイル50および52によって、いわゆる熱陰極PIG(Penning Ionization Gauge)型プラズマ源が構成されており、かかる構成とすることで、高密度なプラズマ34を得ることができる。
【0036】
なお、プラズマガン18内にある陽極28は、上述の如く接地電位に接続されており、当該陽極28には、熱陰極26の電位を基準とする正極のアノード電圧Vaが印加されている。従って、プラズマガン18内の空間電位は、接地電位を基準として安定化される。このようにプラズマガン18内の空間電位が安定化されることで、当該プラズマガン18内、ひいては真空槽12内での異常放電が抑制される。つまり、上述した従来技術のように電子注入電極という第3の電極を設けることなく、プラズマガン18内の空間電位を安定化させることができる。
【0037】
さて、真空槽12内においては、被処理物54,54,…にバイアス電圧が印加されているので、当該被処理物54,54,…の表面に、プラズマ34内のアルゴンイオンおよび水素イオンが衝突する。これによって、被処理物54,54,…の表面が洗浄される。そして、かかる放電洗浄処理の終了後、水素ガスの導入が停止され、続いてスパッタリング法による成膜処理が行われる。
【0038】
スパッタリング法による成膜処理においては、上述したスパッタ用電源装置によってターゲット78が通電される。すると、このターゲット78の表面にアルゴンイオンが衝突し、その衝撃によって当該ターゲット78からチタン粒子が叩き出される(スパッタされる)。そして、このチタン粒子は、被処理物54,54,…の表面に衝突し、堆積する。これによって、被処理物54,54,…の表面にチタン膜100が形成される。そして、このスパッタリング法による成膜処理の終了後、ターゲット78への通電が停止され、続いてプラズマCVD法による成膜処理が行われる。
【0039】
プラズマCVD法による成膜処理においては、真空槽12内に、TMSガスおよびアセチレンガスが導入される。なお、TMSガスの導入量は、アセチレンガスの導入量よりもかなり少なめに設定され、例えば当該アセチレンガスの導入量の数分の1〜数十分の1に設定される。また、これと同時に、プラズマガン18内に、酸素ガスが導入される。すると、真空槽12内においては、プラズマ34の作用によって、TMSガスおよびアセチレンガスが電離され、つまりプラズマ化される。そして、プラズマ化されたTMSガスおよびアセチレンガスは、被処理物54,54,…の表面(チタン膜100の上)において化学反応を起こし、これによってシリコン含有DLC膜102が形成される。
【0040】
また、このとき、TMSガスおよびアセチレンガスは、アパーチャ24を介してプラズマガン18(筐体22)内に流入する。このプラズマガン18内においては、高密度なプラズマが発生しているので、かかるプラズマガン18内に流入したTMSガスおよびアセチレンガスは、当該プラズマによってプラズマ化される。そして、プラズマ化されたガス、特に導入量の多いアセチレンガスに含まれる炭素が、プラズマガン18内の各要素、つまり当該プラズマガン18の内壁,アパーチャ24の内壁、熱陰極26および陽極28に付着し、固体化される。つまり、プラズマガン18内が当該炭素によって汚染される。
【0041】
しかし、プラズマガン18内には、上述の如くエッチングガスとしての酸素ガスが導入されているので、当該プラズマガン18内で固体化された炭素は、この酸素ガスと反応して、二酸化炭素となる。そして、この二酸化炭素は、真空ポンプ16によって、真空槽12の外部に排出される。つまり、プラズマガン18内に酸素ガスが導入されることで、当該プラズマガン18内の炭素による汚染が防止される。このことは、プラズマガン18内のメンテナンスを行う上で、特に熱陰極26の炭化を防止してその寿命を延ばす上で、極めて有効である。
【0042】
かかるプラズマCVD法による成膜処理の終了後、全ての通電、およびガスの導入が停止される。そして、暫くの冷却期間が置かれた後、真空槽12内が大気に開放され、当該真空槽12内から被処理物54,54,…が取り出される。これで、この表面処理装置10による一連の処理が完了する。
【0043】
ところで、上述の放電洗浄処理等の表面処理においては、真空槽内12内に供給されたプラズマ34内の電子が、接地電位に接続された当該真空槽12の内壁に流れ込もうとする。より具体的には、真空槽12の内壁のうち、上面部分、つまり反射電極40が存在せず、また電磁コイル50および52による磁場によって拘束されない部分に、プラズマ34内の電子が流れ込もうとする。しかし、上述したように真空槽12の上面部分はプラズマ安定電極46によって覆われており、このプラズマ安定電極46は電気的に絶縁電位とされている。従って、例えば図1に矢印90,90,…で示すように、プラズマ34内の電子が真空槽12の上面部分に流れ込もうとしても、その進行はプラズマ安定電極46によって阻止される。よって、当該上面部分を含む真空槽12内壁にプラズマ34内の電子が流れ込むことはなく、換言すれば真空槽12の内壁が電極として作用することはない。
【0044】
このことは、プラズマ34を安定化させる上で、極めて重要である。即ち、表面処理、特にシリコン含有DLC膜102を形成するための成膜処理においては、真空槽12の内壁に、シリコンを含有する軟質な炭素(Polymer Like Carbon)が付着する。この軟質な炭素は、絶縁性物質であるため、成膜処理が進むに連れて(または繰り返される度に)、真空槽12の内壁の導電率が変化する。従って、かかる真空槽12の内壁が電極として作用すると、プラズマ34の諸量が変化し、当該プラズマ34が不安定になる。しかしながら、この実施形態では、上述の如くプラズマ安定電極46によって真空槽12の内壁が電極として作用するのが防止されるので、再現性の良い安定したプラズマ34を得ることができる。
【0045】
また、シリコン含有DLC膜102の成膜処理においては、反射電極40、特に当該反射電極40の主体である金属製ウール44の表面に、炭素が付着する。そして、この金属製ウール44に付着した炭素が剥離して、被処理物54,54,…の表面に再付着し、これによって被処理物54,54,…の表面が汚染されることが、懸念される。しかし、この実施形態によれば、金属製ウール44に付着した炭素が剥離しない(または剥離し難い)ことが、確認された。これは、金属製ウール44の表面積が大きいこと、およびその柔軟性に起因すると、推察される。
【0046】
即ち、金属製ウール44の表面積は、例えば平板のような平面的なものに比べて、極めて大きい。よって、その分、金属製ウール44に対する炭素の密着力が増大し、当該金属製ウール44に付着した炭素が剥離し難くなるものと、推察される。また、金属製ウール44に付着した炭素は、当該金属製ウール44に応力が働くことによって剥離する。ところが、金属製ウール44は、上述したように細長い繊維状の金属によって形成されているので、これに応力が働いても、その応力に追随して金属製ウール44(繊維状の金属)自体も柔軟に変形し(撓り)、これによっても炭素の剥離が抑制されるものと、推察される。従って、金属製ウール44の表面に付着した炭素によって、被処理物54,54,…の表面が汚染されることはない。
【実施例】
【0047】
被処理物54として、直径が31[mm]で、厚さ寸法が3[mm]の円板状のSCM415浸炭鋼(表面粗さ;Rmax≦0.1[μm])を用い、かかる被処理物54の一方主面にのみ、図2に示したようなチタン膜100およびシリコン含有DLC膜102を形成する実験を行った。なお、シリコン含有DLC膜102については、シリコンの含有量が比較的に多い層と少ない層とがこの順番で積層された2層構造とした。
【0048】
即ち、まず、真空ポンプ16によって、真空槽12内を2×10−3[Pa]まで排気する。そして、モータ64を駆動させて、被処理物54,54,…を自公転させる。さらに、電熱ヒータ74に通電して、被処理物54,54,…を150[℃]に加熱して、脱ガス処理を行う。そして、この脱ガス処理を40分間にわたって行った後、電熱ヒータ74への通電を停止し、続いて放電洗浄処理を行う。
【0049】
放電洗浄処理においては、プラズマガン18内に、40[SCCM]の流量でアルゴンガスを導入すると共に、150[SCCM]の流量で水素ガスを導入する。このとき、真空槽12内の圧力を0.15[Pa]に維持する。この圧力は、図示しないコンダクタンスバルブによって調整される。さらに、熱陰極26,陽極28,電磁コイル50および52に通電して、プラズマ34を発生させる。なお、プラズマガン出力Pgは、500[W]とする。そして、各電磁コイル50および52に供給する電流IcaおよびIcbを、それぞれ8[A]とする。さらに、各被処理物54,54,…に対し平均電圧値Vdcが−600[V]のバイアス電圧を印加する。そして、この条件による放電洗浄処理を20分間にわたって行う。
【0050】
かかる放電洗浄処理の後、続いて、チタン膜100を形成するための成膜処理を行う。即ち、水素ガスの導入を停止する。そして、アルゴンガスの流量を80[SCCM]とすると共に、真空槽12内の圧力を0.5[Pa]に調整する。さらに、ターゲット78に8[kW](−400V/20A)の直流電力を供給する。これ以外の条件は、放電洗浄処理のときと同様である。そして、かかる条件下で、3分間にわたってプレスパッタ処理(ターゲット78の前面側に設けられた図示しないシャッタを閉じた状態で当該ターゲット78のみをスパッタする処理)を行った後、本編の成膜処理を10分間にわたって行う。これによって、膜厚が約0.2[μm]のチタン膜100が形成された。
【0051】
そして、チタン膜100の成膜後、シリコン含有DLC膜102を形成するための成膜処理を行う。即ち、ターゲット78への通電を停止する。そして、アルゴンガスの流量を40[SCCM]とする。さらに、真空槽12内に、60[SCCM]の流量でTMSガスを導入すると共に、150[SCCM]の流量でアセチレンガスを導入する。そして、真空槽12内の圧力を0.3[Pa]とし、被処理物54,54,…に印加するバイアス電圧の電圧値Vdcを−550[V]とする。これ以外の条件は、チタン膜100の成膜時と同様である。これによって、シリコン含有DLC膜102のうちシリコンの含有量が比較的に多い層が形成される。この層の成膜時間を5分間とすることで、膜厚は約0.2[μm]となる。
【0052】
続いて、TMSガスの流量を10[SCCM]に低減すると共に、アセチレンガスの流量を200[SCCM]に増加させる。そして、プラズマガン18内に、酸素ガスを10[SCCM]の流量で導入する。さらに、プラズマガン出力Pgを、2000[W]に増大させる。これ以外の条件は、上述と同様である。これによって、シリコンの含有量が少ない層が形成され、かかる成膜処理を60分間にわたって行うことで、膜厚は約3[μm]となる。
【0053】
なお、このシリコン含有DLC膜102の形成過程において、プラズマガン18内に酸素ガスを導入することで、当該プラズマガン18内の炭素による汚染を防止できることが、確認された。また、この酸素ガスは、アパーチャ24を介して真空槽12内に流入し、シリコン含有DLC膜102にも入り込み、詳しくは当該シリコン含有DLC膜102のうちシリコンの含有量が少ない言わば上層部分にも入り込む。そして、このように酸素が入り込むことで、当該上層部分での潤滑性が保たれる。
【0054】
即ち、酸素は、シリコン含有DLC膜102の潤滑性を向上させる性質を有する。一方、シリコンもまた、上述したように潤滑性を向上させる性質を有する。ただし、シリコン含有DLC膜102の上層部分では、下層部分に比べて、シリコンの含有量が少ないので、その分、潤滑性が低下する。ところが、この上層部分に酸素が入り込むことで、当該潤滑性の低下分が補償される。つまり、酸素ガスは、プラズマガン18内を洗浄するという作用の他に、シリコン含有DLC膜102の上層部分の潤滑性を維持するという作用をも、奏する。
【0055】
なお、シリコン含有DLC膜102の下層部分は、チタン膜100との密着性を向上させるために設けられる。即ち、シリコンの含有量が多いほど、当該シリコン含有DLC膜102の内部応力が小さくなり、チタン膜100との密着性が向上する。従って、シリコン含有DLC膜102のうちチタン膜100に近い下層部分においてシリコンの含有量を多めにすることで、当該シリコン含有DLC膜102とチタン膜100との密着性を向上させている。そして、シリコン含有DLC膜102の上層部分においてはシリコンの含有量を減らすことで、当該上層部分での耐摩耗性を維持している。
【0056】
かかるシリコン含有DLC膜102の成膜後、全ての通電、およびガスの導入を停止する。そして、20分間の冷却期間を置いた後、真空槽12を開けて、被処理物54,54,…を取り出し、一連の処理を終了する。
【0057】
ここで、この一連の処理が施された被処理物54,54,…について、一般に知られているボールオンディク試験により、被膜全体の密着強度(剥離荷重)を測定したところ、4000[N]という極めて高い値が得られた。この値は、例えばエンジン部品用や金型部品用として十分に適用可能な値である。つまり、この実施例によれば、エンジン部品や金型部品等のように高い密着性が要求される用途に十分に対応可能な被膜を得られることが、証明された。
【0058】
以上のように、この実施形態の表面処理装置10によれば、シリコン含有DLC膜102の成膜過程においてプラズマガン18内に炭素が付着するが、この付着した炭素は、エッチングガスとしての酸素ガスによって除去される。従って、当該炭素によるプラズマガン18内の汚染を防止することができる。しかも、熱陰極26については、その炭化を防止し、ひいては寿命を延ばすことができる。例えば、上述した従来技術では約20時間であった熱陰極の寿命を、この実施形態によれば約40時間にまで延ばせることが、確認された。
【0059】
なお、プラズマガン18内には、炭素の他に、微量のシリコンも形成される。しかしながら、このシリコンによる影響は、炭素による影響に比べて極めて小さいので、この実施形態においては、当該シリコンを除去するための手段は、特に講じていない。なお、参考までに、このシリコンを除去するには、エッチングガスとして四フッ化炭素(CF)を導入すればよい。このようにすれば、当該シリコンは四フッ化炭素と反応し、四フッ化珪素(SiF)となって除去される。
【0060】
また、この実施形態においては、プラズマCVD法による成膜処理によってシリコン含有DLC膜102を形成する場合について説明したが、これに限らない。例えば、シリコンを含有しないDLC膜を形成してもよいし、DLC膜以外の被膜を形成してもよい。換言すれば、材料ガスとして、TMSガスおよびアセチレンガス以外のガスを用いてもよい。そして、この場合、材料ガスの種類に応じて、エッチングガスの種類を適宜選択すればよい。
【0061】
さらに、放電用ガス供給口36よりもアパーチャ24に近い位置にエッチングガス供給口38を設けたが、これに限らない。例えば、これら放電用ガス供給口36およびエッチングガス供給口38を並べて配置してもよいし、一体化(共通化)してもよい。
【0062】
そして、プラズマガン18については、従来技術のものから電子注入電極を取り除いた構成としたが、これに限らない。即ち、従来技術と同様の構成のプラズマガンに、この発明を適用し、つまりエッチングガス供給口38を設けてもよい。
【0063】
この実施形態で説明した各構成要素の形状や寸法,材質,或いは各ガスの種類や流量等は、飽くまで一例であり、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の一実施形態の概略構成を示す図解図である。
【図2】同実施形態において形成される被膜の断面を示す図解図である。
【符号の説明】
【0065】
10 表面処理装置
12 真空槽
16 真空ポンプ
18 プラズマガン
22 筺体
24 アパーチャ
34 プラズマ
38 エッチングガス供給口
82 材料ガス供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマCVD法によって被処理物の表面に被膜を形成するプラズマCVD装置において、
内部に上記被処理物が配置されると共に該内部が排気される真空槽と、
上記真空槽の内部と連通する中空部を有し該中空部でプラズマを発生させると共に該プラズマを上記真空槽の内部に供給するプラズマ供給手段と、
上記真空槽の内部に上記被膜の材料となる材料ガスを導入する材料ガス導入手段と、
上記材料ガスが上記中空部に流入し該中空部において固体化されることで形成される物質を除去するためのエッチングガスを該中空部に導入するエッチングガス導入手段と、
を具備することを特徴とする、プラズマCVD装置。
【請求項2】
上記エッチングガス導入手段は上記中空部のうち上記プラズマの上記真空槽の内部への供給口に近い位置に上記エッチングガスを導入する、
請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
複数種類の上記物質が形成され、
上記エッチングガスは上記複数種類の物質のうち最も量の多い物質を除去する、
請求項1または2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
上記物質は炭素成分を含み、
上記エッチングガスは酸素成分を含む、
請求項1ないし3のいずれかに記載のプラズマCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−169589(P2006−169589A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364149(P2004−364149)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000192567)神港精機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】