記憶素子及びメモリ
【課題】飽和磁化の低い材料を記憶層に用いた場合においても、熱安定性を改善することができる記憶素子を提供する。
【解決手段】情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層17を有し、この記憶層17に対して、絶縁体から成る中間層16を介して磁化固定層31が設けられ、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層17の磁化M1の向きが変化して、記憶層17に対して情報の記録が行われ、記憶層17を構成する強磁性層の上面に、もしくはこの強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造11A,17Aが形成されている記憶素子を構成する。
【解決手段】情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層17を有し、この記憶層17に対して、絶縁体から成る中間層16を介して磁化固定層31が設けられ、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層17の磁化M1の向きが変化して、記憶層17に対して情報の記録が行われ、記憶層17を構成する強磁性層の上面に、もしくはこの強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造11A,17Aが形成されている記憶素子を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性層の磁化状態を情報として記憶する記憶層と、磁化の向きが固定された磁化固定層とから成り、膜面に垂直な方向に電流を流して、スピン偏極した電子を注入することにより記憶層の磁化の向きを変化させる記憶素子及びこの記憶素子を備えたメモリに係わり、不揮発メモリに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の情報機器では、ランダム・アクセス・メモリとして、動作が高速で、高密度なDRAMが広く使われている。
しかし、DRAMは電源を切ると情報が消えてしまう揮発性メモリであるため、情報が消えない不揮発のメモリが望まれている。
【0003】
そして、不揮発メモリの候補として、磁性体の磁化で情報を記録する磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM)が注目され、開発が進められている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
MRAMは、ほぼ直交する2種類のアドレス配線(ワード線、ビット線)にそれぞれ電流を流して、各アドレス配線から発生する電流磁場によって、アドレス配線の交点にある磁気記憶素子の磁性層の磁化を反転して情報の記録を行うものである。
【0005】
一般的なMRAMの模式図(斜視図)を、図11に示す。
シリコン基板等の半導体基体110の素子分離層102により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域108、ソース領域107、並びにゲート電極101が、それぞれ形成されている。
また、ゲート電極101の上方には、図中前後方向に延びるワード線105が設けられている。
ドレイン領域108は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域108には、配線109が接続されている。
そして、ワード線105と、上方に配置された、図中左右方向に延びるビット線106との間に、磁化の向きが反転する記憶層を有する磁気記憶素子103が配置されている。この磁気記憶素子103は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。
さらに、磁気記憶素子103は、水平方向のバイパス線111及び上下方向のコンタクト層104を介して、ソース領域107に電気的に接続されている。
ワード線105及びビット線106にそれぞれ電流を流すことにより、電流磁界を磁気記憶素子103に印加して、これにより磁気記憶素子103の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うことができる。
【0006】
そして、MRAM等の磁気メモリにおいて、記録した情報を安定に保持するためには、情報を記録する磁性層(記憶層)が、一定の保磁力を有していることが必要である。
一方、記録された情報を書き換えるためには、アドレス配線にある程度の電流を流さなければならない。
ところが、MRAMを構成する素子の微細化に従い、アドレス配線も細くなるため、充分な電流が流せなくなってくる。
【0007】
そこで、より少ない電流で磁化反転が可能な構成として、スピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリが注目されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献2、非特許文献3参照)。
スピン注入による磁化反転とは、磁性体の中を通過してスピン偏極した電子を、他の磁性体に注入することにより、他の磁性体において磁化反転を起こさせるものである。
【0008】
例えば、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)や磁気トンネル接合素子(MTJ素子)に対して、その膜面に垂直な方向に電流を流すことにより、これらの素子の少なくとも一部の磁性層の磁化の向きを反転させることができる。
【0009】
そして、スピン注入による磁化反転は、素子が微細化されても、電流を増やさずに磁化反転を実現することができる利点を有している。
【0010】
上述したスピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリの模式図を図9及び図10に示す。図9は斜視図、図10は断面図である。
シリコン基板等の半導体基体60の素子分離層52により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域58、ソース領域57、並びにゲート電極51が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極51は、図9中前後方向に延びるワード線を兼ねている。
ドレイン領域58は、図9中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域58には、配線59が接続されている。
そして、ソース領域57と、上方に配置された、図9中左右方向に延びるビット線56との間に、スピン注入により磁化の向きが反転する記憶層を有する記憶素子53が配置されている。
この記憶素子53は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。図中61及び62は磁性層を示しており、2層の磁性層61,62のうち、一方の磁性層を磁化の向きが固定された磁化固定層として、他方の磁性層を磁化の向きが変化する磁化自由層即ち記憶層とする。
また、記憶素子53は、ビット線56と、ソース領域57とに、それぞれ上下のコンタクト層54を介して接続されている。これにより、記憶素子53に電流を流して、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させることができる。
【0011】
このようなスピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリの場合、図11に示した一般的なMRAMと比較して、デバイス構造を単純化することができる、という特徴も有している。
また、スピン注入による磁化反転を利用することにより、外部磁界により磁化反転を行う一般的なMRAMと比較して、素子の微細化が進んでも、書き込みの電流が増大しないという利点がある。
【0012】
ところで、MRAMの場合は、記憶素子とは別に書き込み配線(ワード線やビット線)を設けて、書き込み配線に電流を流して発生する電流磁界により、情報の書き込み(記録)を行っている。そのため、書き込み配線に、書き込みに必要となる電流量を充分に流すことができる。
【0013】
一方、スピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリにおいては、記憶素子に流す電流によりスピン注入を行って、記憶層の磁化の向きを反転させる必要がある。
そして、このように記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタに流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさに制限される。
このため、選択トランジスタの飽和電流以下の電流で書き込みを行う必要があり、スピン注入の効率を改善して、記憶素子に流す電流を低減する必要がある。
【0014】
また、読み出し信号を大きくするためには、大きな磁気抵抗変化率を確保する必要があり、そのためには記憶層の両側に接している中間層をトンネル絶縁層(トンネルバリア層)とした記憶素子の構成にすることが効果的である。
このように中間層としてトンネル絶縁層を用いた場合には、トンネル絶縁層が絶縁破壊することを防ぐために、記憶素子に流す電流量に制限が生じる。この観点からも、スピン注入時の電流を抑制する必要がある。
【0015】
この電流値を下げるためには、電流値は記憶層の膜厚に比例し、または飽和磁化の2乗に比例するので、これらを調節すれば良いことがわかる(例えば、非特許文献4参照)。
そして、記憶層の材料の飽和磁化量(Ms)を低減することにより、電流値を下げる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0016】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2001.2.12号(第164頁−171頁)
【非特許文献2】Phys.Rev.B 54.9353(1996)
【非特許文献3】J.Magn.Mat. 159.L1(1996)
【非特許文献4】F.J.Albert,et Al.,Appl.Phy.Lett.77,3809(2000)
【特許文献1】特開2003−17782号公報
【特許文献2】米国特許第6256223号明細書
【特許文献3】米国特許公開2005−0184839号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させる構成の記憶素子が、メモリとして存在し得るためには、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要な電流量(閾値電流)を、トランジスタの飽和電流以下に減らすと共に、熱等に対しても書き込まれた情報をしっかり保持する安定性を確保する必要がある。
【0018】
閾値電流を低減するためには、例えば、上記特許文献3のように、記憶層に飽和磁化Msの低い材料を使用することにより、記憶層の飽和磁化Msを低減することが有効である。
しかしながら、単純に飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合には、熱に対する安定性(熱安定性)を充分に確保することができない。
【0019】
上述した問題の解決のために、本発明は、飽和磁化の低い材料を記憶層に用いた場合においても、熱安定性を改善することができる記憶素子、並びにこの記憶素子を有するメモリを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の記憶素子は、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、中間層が絶縁体から成り、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われ、記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくは強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されているものである。
また、本発明のメモリは、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、記憶素子は上記本発明の記憶素子の構成であり、2種類の配線の交点付近かつ2種類の配線の間に記憶素子が配置され、これら2種類の配線を通じて記憶素子に積層方向の電流が流れ、スピン偏極した電子が注入されるものである。
【0021】
上述の本発明の記憶素子の構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して中間層を介して磁化固定層が設けられ、中間層が絶縁体から成り、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われるので、積層方向に電流を流してスピン偏極した電子を注入することによって情報の記録を行うことができる。
また、記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくはこの強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されていることにより、記憶層の実効的な異方性磁界を増大させることができる。これにより、記憶層の熱安定性を向上することが可能になる。そして、記憶層の飽和磁化を増大させなくても、記憶層の熱安定性を向上することが可能になる。
即ち、記憶層に飽和磁化量の低い材料を使用しても、充分に記憶層の熱安定性を確保することが可能になる。これにより、記憶層に飽和磁化量の低い材料を使用して、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる、書き込み電流量を低減することも可能になる。
【0022】
上述の本発明のメモリの構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、記憶素子は上記本発明の記憶素子の構成であり、2種類の配線の交点付近かつ2種類の配線の間に記憶素子が配置され、これら2種類の配線を通じて記憶素子に積層方向の電流が流れ、スピン偏極した電子が注入されるものであることにより、2種類の配線を通じて記憶素子の積層方向に電流を流してスピン注入による情報の記録を行うことができる。
また、充分に記憶層の熱安定性を確保することが可能になると共に、記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる、書き込み電流量を低減することが可能になるため、メモリの消費電力を増大させることなく、メモリセルに記録された情報を安定して保持することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
上述の本発明によれば、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる電流量(閾値電流)を低減させるために、飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合でも、情報保持能力である熱安定性を確保することができるため、特性バランスに優れた記憶素子を構成することができる。
これにより、動作エラーをなくして、記憶素子の動作マージンを充分に得ることができる。
【0024】
また、メモリとして必要な熱安定性を確保しても、書き込み電流が増えることがないので、大きな電圧をかける必要がなくなることから、中間層である絶縁体が破壊されることもなくなる。
従って、安定して動作する、信頼性の高いメモリを実現することができる。
【0025】
さらにまた、書き込み電流を低減しても、メモリとして必要となる熱安定性を充分に確保することが可能となるため、書き込み電流を低減して、記憶素子に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
従って、メモリ全体の消費電力を低減することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明は、前述したスピン注入により、記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うものである。記憶層は、強磁性層等の磁性体により構成され、情報を磁性体の磁化状態(磁化の向き)により保持するものである。
【0027】
スピン注入により磁性層の磁化の向きを反転させる基本的な動作は、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)もしくは磁気トンネル接合素子(MTJ素子)から成る記憶素子に対して、その膜面に垂直な方向に、ある閾値(Ic)以上の電流を流すものである。このとき、電流の極性(向き)は、反転させる磁化の向きに依存する。
この閾値よりも絶対値が小さい電流を流した場合には、磁化反転を生じない。
【0028】
スピン注入によって、磁性層の磁化の向きを反転させるときに、必要となる電流の閾値Icは、現象論的に、下記(式1)により表される(例えば、F.J.Albert他著、Appl.Phys.Lett.,77,p.3809,2000年、等を参照)。
【0029】
【数1】
なお、(式1)において、Aは定数、αはスピン制動定数、ηはスピン注入効率、Msは飽和磁化量、Vは磁性層(記憶層)の体積である。
【0030】
本発明では、(式1)で表されるように、電流の閾値が、磁性層の体積V、磁性層の飽和磁化Ms、スピン注入効率と制動定数を制御することにより、任意に設定することが可能であることを利用する。
そして、磁化状態により情報を保持することができる磁性層(記憶層)と、磁化の向きが固定された磁化固定層とを有する記憶素子を構成する。
メモリとして存在し得るためには、書き込まれた情報を保持することができなければならない。情報を保持する能力の指標として、前述した熱安定性指標Δの値で判断される。磁性層(記憶層)の熱安定性指標Δは、下記(式2)により表される。
【0031】
【数2】
なお、(式2)において、Hkは実効的な異方性磁界、kBはボルツマン定数、Tは温度、Msは飽和磁化量、Vは記憶層の体積である。
【0032】
実効的な異方性磁界Hkには、形状磁気異方性、誘導磁気異方性、結晶磁気異方性等の影響が取り込まれており、単磁区のコヒーレントローテンションモデルを仮定した場合、保磁力と同等である。
【0033】
一般に、記憶された情報を85℃で10年間保持するためには、熱安定性指標Δの値として60以上が必要とされる。この熱安定性指標Δと電流の閾値Icとは、トレードオフの関係になることが多く、メモリ特性を維持するには、これらの両立が課題となることが多い。
【0034】
記憶層の磁化状態を変化させる電流の閾値は、実際には、例えば記憶層の厚さが2nmであり、平面パターンが100nm×150nmの略楕円形のトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)において、+側の閾値+Ic=+0.5mAであり、−側の閾値−Ic=−0.3mAであり、その際の電流密度は約3.5×106A/cm2である。これらは、上記の(式1)にほぼ一致する。
【0035】
一方、電流磁場により磁化反転を行う通常のMRAMでは、書き込み電流が数mA以上必要となる。
これに対して、スピン注入により磁化反転を行う場合には、上述のように、書き込み電流の閾値が充分に小さくなるため、集積回路の消費電力を低減させるために有効であることがわかる。
また、通常のMRAMで必要とされる、電流磁界発生用の配線(図11の105)が不要となるため、集積度においても通常のMRAMに比較して有利である。
【0036】
そして、スピン注入により磁化反転を行う場合には、記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。
この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタに流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさに制限されるため、書き込み電流の許容範囲も制限されることになる。
【0037】
これに対して、記憶層の磁化量を減らせば、書き込み電流の閾値を低減して許容範囲を広げることが可能になるが、前述したように、記憶層の熱安定性指標を損なうことになる。メモリを構成するためには、熱安定性指標がある程度以上の大きさである必要がある。
選択トランジスタの飽和電流よりスピン注入による磁化反転の臨界電流Icを小さくするためには、(式1)より、記憶層の飽和磁化量Msを減らせば良いが、単純に減らした場合(例えば、前記特許文献3参照)、記憶層の情報保持の熱安定性が著しく損なわれ、メモリとしての機能を果せなくなる。
【0038】
本願の発明者等が種々の検討を行った結果、記憶層を構成する強磁性層よりも下層、もしくは、強磁性層の上面に、一軸異方性を持ったテクスチャー構造を有する層を導入することにより、実効的な異方性磁界Hkを増加させることができ、飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合においても、熱安定性指標Δ(=KV/kBT)を向上することができ、安定したメモリを形成できることを見出した。
【0039】
記憶層を構成する強磁性層よりも下層にテクスチャー構造を導入する場合には、記憶層を構成する強磁性層よりも下層にある各層のうち、いずれか1層以上の上面にテクスチャー構造を形成する。
例えば下地層等、記憶素子の比較的下方にある層にテクスチャー構造を形成した場合でも、その上の層にもテクスチャー構造による凹凸が反映されていくので、記憶層の下面にも反映されて凹凸が形成されるため、記憶層の異方性磁界を増加させることができる。
【0040】
なお、記憶層よりも下層にある、いずれの層でもテクスチャー構造を形成することが可能であるが、TMR素子のトンネル絶縁層は、他の層よりも薄く、テクスチャー構造を形成すると膜の状態や特性を損なうおそれがあるため、トンネル絶縁層以外の層にテクスチャー構造を形成することが望ましい。
【0041】
テクスチャー構造の形成には、研磨やエッチング等、物理的な形成手法及び化学的な形成手法を用いることができる。
【0042】
テクスチャー構造の面粗度は、平均粗さ(算術平均粗さ)Raで1.1nm以上とすることが望ましい。そして、平均粗さRaを1.1nm以上とすることにより、テクスチャー構造を形成して記憶層の実効的な異方性磁界を高める効果を、充分に発揮させることができる。
平均粗さ(算術平均粗さ)Raは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLを抜き取り、この抜き取った部分の方向をx軸、表面に対する高さ方向をy軸にとり、曲線をy=f(x)で表したときに、下記の(式3)によって求めることができる。
【数3】
【0043】
ここで、記憶素子に形成するテクスチャー構造について、図4A〜図4Dを参照して説明する。
まず、図示しないが、テクスチャー構造を形成する膜又は層を、ウェハ表面に形成する。
次に、形成した膜又は層にテクスチャー構造を形成する。このときのウェハの要部の拡大平面図を、図4Aに示す。図4Aに示すように、ウェハ全体にわたって、テクスチャー構造41を、特定の方向Xに揃えて平行に形成する。
テクスチャー構造41の具体的な断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば、図4Bに示す三角形状の断面や、図4Cに示す矩形状の断面とすることができ、その他の形状の断面としてもよい。また、テクスチャー構造41の側面の少なくとも一部が曲面であってもよい。
そして、テクスチャー構造41を形成した膜又は層よりも、上層の各層を形成して、記憶素子を構成する積層膜を作製する。
その後、各メモリセルに対応する記憶素子毎に、所定のパターン(例えば、楕円形等)にパターニングして記憶素子を形成する。このとき、記憶素子のパターンを、テクスチャー構造41の方向と所定の関係にあるように、形成する。ここで、楕円形にパターニングした場合の、テクスチャー構造が形成された膜又は層の分解平面図を図4Dに示す。図4Dに示すように、楕円形にパターニングされた記憶素子42に、楕円の長軸に平行である、一定方向Xに揃って平行なテクスチャー構造41が形成されている。なお、図4Dの方向Xは、ウェハの状態の図4Aの方向Xと、同一方向である。
【0044】
そして、図4Dに示すように、テクスチャー構造41の方向Xが楕円形の長軸と平行である構成とすることにより、テクスチャー構造41による一軸異方性と、楕円形パターンによる形状異方性とを、一致した方向に形成することができる。これにより、記憶層の異方性磁界を効果的に強めることができる。
【0045】
さらに、本発明では、選択トランジスタの飽和電流値を考慮して、記憶層と磁化固定層との間の非磁性の中間層として、絶縁体から成るトンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成する。
トンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成することにより、非磁性導電層を用いて巨大磁気抵抗効果(GMR)素子を構成した場合と比較して、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができ、読み出し信号強度を大きくすることができるためである。
【0046】
また、トンネル絶縁層の材料として、特に、酸化マグネシウム(MgO)を用いることにより、これまで一般的に用いられてきた酸化アルミニウムを用いた場合よりも、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができる。
一般に、スピン注入効率はMR比に依存し、MR比が大きいほど、スピン注入効率が向上し、磁化反転電流密度を低減することができる。
従って、中間層であるトンネル絶縁層の材料として酸化マグネシウムを用い、同時に上述の構成の記憶層を用いることにより、スピン注入による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
これにより、MR比(TMR比)を確保して、スピン注入による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
【0047】
トンネル絶縁層を酸化マグネシウム(MgO)膜により形成する場合には、MgO膜が結晶化していて、001方向に結晶配向性を維持していることがより望ましい。
【0048】
なお、本発明において、記憶層と磁化固定層との間の中間層は、酸化マグネシウムから成る構成(トンネル絶縁層)とする他にも、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、SiO2、Bi2O3、MgF2、CaF、SrTiO2、AlLaO3、Al−N−O等の各種の絶縁体、誘電体、半導体を用いて構成することもできる。
【0049】
さらにまた、中間層に酸化マグネシウムを用いた場合に優れた磁気抵抗効果特性(MR特性)を得るためには、アニール温度を300℃以上、望ましくは340℃〜360℃の高い温度とすることが要求される。これは、従来中間層に用いられていた酸化アルミニウムの場合のアニール温度の範囲(250℃〜280℃)と比較して、高温になっている。
これは、酸化マグネシウム等のトンネル絶縁層の適正な内部構造や結晶構造を形成するために必要になるからである、と考えられる。
【0050】
このため、記憶素子の強磁性層にも、この高い温度のアニールに耐性を有するように、耐熱性のある強磁性材料を用いることにより、優れたMR特性を得ることができる。
【0051】
トンネル絶縁層の面積抵抗値は、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させるために必要な電流密度を得る観点から、数十Ωμm2程度以下に制御する必要がある。
そして、MgO膜から成るトンネル絶縁層では、面積抵抗値を上述の範囲とするために、MgO膜の膜厚を1.5nm以下に設定する必要がある。
【0052】
また、記憶層の磁化の向きを、小さい電流で容易に反転できるように、記憶素子を小さくすることが望ましい。
従って、好ましくは、記憶素子の面積を0.04μm2以下とする。
【0053】
なお、上述した構成条件を有する記憶層と、材料又は組成範囲の異なる他の強磁性層とを直接積層させることも可能である。また、強磁性層と軟磁性層とを積層させたり、複数層の強磁性層を軟磁性層や非磁性層を介して積層させたりすることも可能である。このように積層させた場合でも、本発明の効果が得られる。
特に複数層の強磁性層を非磁性層に介して積層させた構成としたときには、強磁性層の層間の相互作用の強さを調整することが可能になるため、記憶素子の寸法がサブミクロン以下になっても、磁化反転電流が大きくならないように抑制することが可能になるという効果が得られる。この場合の非磁性層の材料としては、Ru,Os,Re,Ir,Au,Ag,Cu,Al,Bi,Si,B,C,Cr,Ta,Pd,Pt,Zr,Hf,W,Mo,Nbまたはそれらの合金を用いることができる。
【0054】
磁化固定層は、一方向の異方性を有していることが望ましく、記憶層は一軸異方性を有していることが望ましい。
また、磁化固定層及び記憶層のそれぞれの膜厚は、1nm〜30nmであることが好ましい。
【0055】
記憶素子のその他の構成は、スピン注入により情報を記録する記憶素子の従来公知の構成と同様とすることができる。
【0056】
磁化固定層は、強磁性層のみにより、或いは反強磁性層と強磁性層の反強磁性結合を利用することにより、その磁化の向きが固定された構成とする。
また、磁化固定層は、単層の強磁性層から成る構成、或いは複数層の強磁性層を非磁性層を介して積層した積層フェリ構造とする。
磁化固定層を積層フェリ構造としたときには、磁化固定層の外部磁界に対する感度を低下させることができるため、外部磁界による磁化固定層の不要な磁化変動を抑制して、記憶素子を安定して動作させることができる。さらに、各強磁性層の膜厚を調整することができ、磁化固定層からの漏洩磁界を抑えることができる。
積層フェリ構造の磁化固定層を構成する強磁性層の材料としては、Co,CoFe,CoFeB等を用いることができる。また、非磁性層の材料としては、Ru,Re,Ir,Os等を用いることができる。
【0057】
反強磁性層の材料としては、FeMn合金、PtMn合金、PtCrMn合金、NiMn合金、IrMn合金、NiO、Fe2O3等の磁性体を挙げることができる。
また、これらの磁性体に、Ag,Cu,Au,Al,Si,Bi,Ta,B,C,O,N,Pd,Pt,Zr,Hf,Ir,W,Mo,Nb等の非磁性元素を添加して、磁気特性を調整したり、その他の結晶構造や結晶性や物質の安定性等の各種物性を調整したりすることができる。
【0058】
また、記憶素子の膜構成は、記憶層が磁化固定層の上側に配置される構成でも、下側に配置される構成でも全く問題はない。
【0059】
なお、記憶素子の記憶層に記録された情報を読み出す方法としては、記憶素子の記憶層に薄い絶縁膜を介して、情報の基準となる磁性層を設けて、絶縁層を介して流れる強磁性トンネル電流によって読み出してもよいし、磁気抵抗効果により読み出してもよい。
【0060】
続いて、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の一実施の形態として、メモリの概略構成図(斜視図)を図1に示す。
このメモリは、互いに直交する2種類のアドレス配線(例えばワード線とビット線)の交点付近に、磁化状態で情報を保持することができる記憶素子が配置されて成る。
即ち、シリコン基板等の半導体基体10の素子分離層2により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域8、ソース領域7、並びにゲート電極1が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極1は、図中前後方向に延びる一方のアドレス配線(例えばワード線)を兼ねている。
ドレイン領域8は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域8には、配線9が接続されている。
【0061】
そして、ソース領域7と、上方に配置された、図中左右方向に延びる他方のアドレス配線(例えばビット線)6との間に、記憶素子3が配置されている。この記憶素子3は、スピン注入により磁化の向きが反転する強磁性層から成る記憶層を有する。
また、この記憶素子3は、2種類のアドレス配線1,6の交点付近に配置されている。
この記憶素子3は、ビット線6と、ソース領域7とに、それぞれ上下のコンタクト層4を介して接続されている。
これにより、2種類のアドレス配線1,6を通じて、記憶素子3に上下方向の電流を流して、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させることができる。
【0062】
また、本実施の形態のメモリの記憶素子3の断面図を図2に示す。
図2に示すように、この記憶素子3は、スピン注入により磁化M1の向きが反転する記憶層17に対して、下層に磁化固定層31を設けている。磁化固定層31の下に反強磁性層12が設けられ、この反強磁性層12により、磁化固定層31の磁化の向きが固定される。
記憶層17と磁化固定層31との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)となる絶縁層16が設けられ、記憶層17と磁化固定層31とにより、MTJ素子が構成されている。
また、反強磁性層12の下には下地層11が形成され、記憶層17の上にはキャップ層18が形成されている。
【0063】
磁化固定層31は、積層フェリ構造となっている。
具体的には、磁化固定層31は、2層の強磁性層13,15が、非磁性層14を介して積層されて反強磁性結合した構成である。
磁化固定層31の各強磁性層13,15が積層フェリ構造となっているため、強磁性層13の磁化M13が右向き、強磁性層15の磁化M15が左向きとなっており、互いに反対向きになっている。これにより、磁化固定層31の各強磁性層13,15から漏れる磁束が、互いに打ち消し合う。
【0064】
磁化固定層31の強磁性層13,15の材料としては、特に限定はないが、鉄、ニッケル、コバルトの1種もしくは2種以上からなる合金材料を用いることができる。さらにNb,Zr,Gd,Ta,Ti,Mo,Mn,Cu等の遷移金属元素やSi,B,C等の軽元素を含有させることもできる。また、例えばCoFe/NiFe/CoFeの積層膜といったように、材料が異なる複数の膜を直接(非磁性層を介さずに)積層して、強磁性層13,15を構成してもよい。
磁化固定層31の積層フェリを構成する非磁性層14の材料としては、ルテニウム、銅、クロム、金、銀等が使用できる。
【0065】
本実施の形態においては、特に、記憶素子3が、記憶層17の上面、もしくは、記憶層17よりも下層に、前述した一軸異方性のテクスチャー構造を有する構成である。
なお、図2は、記憶素子3の記憶層17及び磁化固定層31(13,15)の磁化容易軸方向の断面図であるため、テクスチャー構造が現れていない。
そこで、テクスチャー構造が現れるように、記憶素子3の記憶層17及び磁化固定層31(13,15)の磁化困難軸方向の断面図を、図3A及び図3Bに示す。図3Aは、記憶層17の上面にテクスチャー構造を形成した場合を示している。図3Bは、記憶層17よりも下層にある下地層11の上面にテクスチャー構造を形成した場合を示している。
【0066】
図3Aに示すように、記憶層17の上面にテクスチャー構造17Aを形成した場合には、記憶層17の上面に、テクスチャー構造17Aによる一軸異方性の凹凸が形成されており、その上にキャップ層18が形成される。
【0067】
図3Bに示すように、下地層17の上面にテクスチャー構造11Aを形成した場合には、下地層11の上面のテクスチャー構造11A上に、反強磁性層12が形成される。
そして、下地層11の上面のテクスチャー構造11Aの凹凸が、図示しないが、上層の各層12,13,14,15,16に反映されていき、記憶層17の下の絶縁層16にも一軸異方性の凹凸が形成される。
これにより、記憶層17の下面にも一軸異方性の凹凸が形成される。
【0068】
記憶層17よりも下層にテクスチャー構造を形成する場合、記憶素子3の特性を損なわない限りは、下地層11の以外の層にテクスチャー構造を形成してもよい。
下地層11から絶縁層16までのいずれの層にテクスチャー構造を形成しても、上層にある記憶層17に反映される。
なお、絶縁層16は、前述したように他の層よりも薄く、テクスチャー構造を絶縁層16に形成すると層の状態や特性(耐圧やMR比)等を損なうおそれがある。このため、テクスチャー構造を、テクスチャー絶縁層16以外の層に形成することが望ましい。
【0069】
テクスチャー構造の形成には、前述したように、研磨やエッチング等の方法を用いることができる。
【0070】
さらに、本実施の形態において、中間層である絶縁層16を、酸化マグネシウム層とした場合には、磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。
このようにMR比を高くすることによって、スピン注入の効率を向上して、記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要な電流密度を低減することができる。
【0071】
本実施の形態の記憶素子3は、下地層11からキャップ層18までを真空装置内で連続的に形成して、その後エッチング等の加工によって記憶素子3のパターンを形成することにより、製造することができる。
【0072】
上述の本実施の形態によれば、記憶層17の上面、もしくは、記憶層17よりも下層に、前述した一軸異方性のテクスチャー構造を有することにより、記憶層17の上面又は下面に、一軸異方性の凹凸が形成されている。これにより、記憶層17の実効的な異方性磁界を増大させることができるため、記憶層17の熱安定性を向上することが可能になる。
そして、記憶層17の飽和磁化量Msを増大させなくても、記憶層17の熱安定性を向上することができるので、記憶層17に飽和磁化量Msの低い材料を使用しても、充分に記憶層17の熱安定性を確保することが可能になる。これにより、記憶層17に飽和磁化量Msの低い材料を使用して、記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要となる、書き込み電流量を低減することも可能になる。
【0073】
記憶層17の熱安定性が向上することにより、記憶素子3に対して電流を流して情報を記録する、動作領域を拡大することが可能になり、動作のマージンを広く確保し、記憶素子3を安定して動作させることができる。
【0074】
また、記憶素子3の記憶層17に充分な熱安定性を確保しても、書き込み電流が増えることがないので、大きな電圧をかける必要がなくなることから、中間層である絶縁層16が絶縁破壊されることもなくなる。
従って、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができる。
【0075】
さらにまた、書き込み電流を低減しても、熱安定性を充分に確保することが可能となるため、書き込み電流を低減して、記憶素子3に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
これにより、本実施の形態の記憶素子3によりメモリセルを構成した、メモリ全体の消費電力を低減することも可能になる。
【0076】
従って、情報保持特性が優れた、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができ、記憶素子3を備えたメモリにおいて、消費電力を低減することができる。
【0077】
また、図2に示した記憶素子3を備え、図1に示した構成のメモリは、メモリを製造する際に、一般の半導体MOS形成プロセスを適用できるという利点を有している。例えば、340℃〜360℃のアニールにも、記憶層17の磁気特性が劣化することがなく、耐えうるようになる。
従って、本実施の形態の記憶素子3を備えたメモリを、汎用メモリとして適用することが可能になる。
【0078】
ここで、本発明の記憶素子の構成において、具体的に記憶層を構成する強磁性材料等、各層の材料や膜厚等を選定して、特性を調べた。
具体的に記憶層を構成する強磁性層のより下層、もしくは、強磁性層上面に一軸異方性を持ったテクスチャー構造を有する層を導入した素子を作製し、
実際のメモリでは、図1や図9に示したように、記憶素子以外にもスイッチング用の半導体回路等が存在するが、選択用のトランジスタや下層配線の製造工程については、説明を省略する。
【0079】
厚さ0.725mmのシリコン基板上に、厚さ300nmの熱酸化膜を形成し、その上に図2に示した構成の記憶素子3を形成した。
具体的には、図2に示した構成の記憶素子3において、各層の材料及び膜厚を、下地膜11を膜厚10nmのTa膜、反強磁性層12を膜厚20nmのPtMn膜、磁化固定層31を構成する強磁性層13を膜厚2nmのCoFe膜、強磁性層15を膜厚2.5nmのCoFeB膜、積層フェリ構造の磁化固定層31を構成する非磁性層14を膜厚0.8nmのRu膜、トンネル絶縁層となる絶縁層(バリア層)16を膜厚0.9nmの酸化マグネシウム膜、記憶層17の強磁性層を膜厚2.5nmのCoFeB膜、キャップ層18を膜厚5nmのTa膜と選定し、また下地膜11と反強磁性層12との間に図示しない膜厚100nmのCu膜(後述するワード線となるもの)を設けて、各層を形成した。
上記膜構成で、記憶層17の強磁性層のCoFeB膜の組成はCo45Fe30B25(原子%)、PtMn膜の組成はPt50Mn50(原子%)、CoFe膜の組成はCo90Fe10(原子%)とした。
【0080】
テクスチャー構造は、下地層11の膜厚10nmのTa膜を成膜した後、もしくは記憶層17のCoFeB膜を成膜した後に導入した。記憶層17の上面にテクスチャー構造17Aを導入する際は、記憶層17の実効的な膜厚が2.5nmになるように調整した。
テクスチャー構造は、エッチングにより形成した。
酸化マグネシウム膜から成る絶縁層16以外の各層は、DCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
酸化マグネシウム(MgO)膜から成る絶縁層16は、RFマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
さらに、記憶素子3の各層を成膜した後に、磁場中熱処理炉で、10kOe・360℃・2時間の熱処理を行い、反強磁性層12のPtMn膜の規則化熱処理を行った。
ただし、テクスチャー構造による異方性磁界を評価する試料における熱処理は、0kOe(磁界を印加しない)・360℃・2時間の条件で行った。
【0081】
次に、ワード線部分をフォトリソグラフィによってマスクした後に、ワード線以外の部分の積層膜に対してArプラズマにより選択エッチングを行うことにより、ワード線(下部電極)を形成した。この際に、ワード線部分以外は、基板の深さ5nmまでエッチングされた。
その後、電子ビーム描画装置により記憶素子3のパターンのマスクを形成し、積層膜に対して選択エッチングを行い、記憶素子3を形成した。記憶素子3部分以外は、ワード線のCu層直上までエッチングした。
なお、特性評価用の記憶素子には、磁化反転に必要なスピントルクを発生させるために、記憶素子に充分な電流を流す必要があるため、トンネル絶縁層の抵抗値を抑える必要がある。そこで、記憶素子3のパターンを、短軸0.09μm×長軸0.18μmの楕円形状として、記憶素子3の面積抵抗値(Ωμm2)が20Ωμm2となるようにした。
次に、記憶素子3部分以外を、厚さ100nm程度のAl2O3のスパッタリングによって絶縁した。
その後、フォトリソグラフィを用いて、上部電極となるビット線及び測定用のパッドを形成した。
このようにして、記憶素子3の試料を作製した。
なお、異方性磁界の評価のために、さらに、8mm×8mm角のベタ膜状の試料を作製した。
【0082】
上述の製造方法により、それぞれ下地層11もしくは記憶層17に導入するテクスチャー構造11A,17Aの面粗度(平均粗さRa)を変化させた記憶素子3を有する各試料を作製した。また、比較例として、テクスチャー構造を形成していない試料を作製した。各試料の形成条件は、表1に示している。試料No.1が比較例の試料、試料No.2〜No.5が記憶層17の上面にテクスチャー構造17Aを形成した試料、試料No.6〜No.10が下地層11の上面にテクスチャー構造11Aを形成した試料である。
面粗度としては、前述した平均粗さRaを採用した。そして、テクスチャー構造11A,17Aの平均粗さRaを、デジタルインスツルメンツ社製のNano Scope III contact AFMを使用して、測定した。なお、比較例の平均粗さRaは、記憶層17の上面を測定した値である。
【0083】
【表1】
【0084】
作製した記憶素子3の各試料に対して、それぞれ以下のようにして、特性の評価を行った。
測定に先立ち、反転電流のプラス方向とマイナス方向の値を対称になるように制御することを可能にするため、記憶素子3に対して、外部から磁界を与えることができるように構成した。また、記憶素子3に印加される電圧が、絶縁層16が破壊しない範囲内の1Vまでとなるように設定した。
【0085】
(異方性磁界及び飽和磁化量の測定)
テクスチャー構造と平行な方向と垂直な方向にそれぞれ磁場を印加した場合において、VSM(Vibrating Sample Magnetometer )測定を行い、垂直方向に磁場を印加したときに記憶層の磁化が飽和する磁場を求めることにより、異方性磁界の大きさを決定した。なお、異方性磁界測定用の試料には、印加磁場0kOe(磁場の印加なし)・360℃・2時間の条件で熱処理を行っている。
また、飽和磁化量も、VSM測定によって求めた。
【0086】
(保磁力の測定)
記憶素子の保磁力の測定を行った。
まず、記憶素子に連続的に変化する外部磁場を加えながら、記憶素子の抵抗値を測定した。このとき、温度を室温25℃として、ワード線の端子とビット線の端子にかかるバイアス電圧が10mVとなるように調節した。
そして、記憶層の磁化の向きとは反対の方向に外部磁場を加えていき、外部磁界が記憶層の保磁力を上回ると、記憶層の磁化の向きが反転する。磁化の向きが反転することにより、記憶素子の抵抗値が変化するので、この抵抗値が変化したときの外部磁界の大きさを記憶素子の保磁力と等しいとみなして、記憶素子の保磁力を得た。
【0087】
(反転電流値及び熱安定性の測定)
本発明による記憶素子の書き込み特性を評価する目的で、反転電流値の測定を行った。
記憶素子に10μsから100msのパルス幅の電流を流して、その後の記憶素子の抵抗値を測定した。さらに、記憶素子に流す電流量を変化させて、この記憶層の磁化が反転する電流値を求めた。この電流値のパルス幅依存性をパルス幅1nsに外挿した値を、反転電流値とした。
【0088】
また、反転電流値のパルス幅依存性の傾きは、記憶素子の前述した熱安定性指標(Δ=KV/kBT)に対応する。反転電流値がパルス幅によって変化しない(傾きが小さい)ほど、熱の擾乱に強いことを意味する。前述したように、メモリに用いるためには、60以上の熱安定性指標が必要である。
そして、記憶素子間のばらつきを考慮するために、同一構成の記憶素子を20個程度作製して、上述の測定を行い、反転電流値及び熱安定性指標の平均値を求めた。
各試料の測定結果を、図5〜図8に示す。なお、図5〜図8において、「下地層タイプ」はNo.6〜No.10の試料の測定結果を示し、「記憶層タイプ」はNo.2〜No.5の試料の測定結果を示しており、比較例のNo.1の試料の測定結果は、下地層タイプ及び記憶層タイプの0.68nmの値として示している。
【0089】
テクスチャー構造の平均粗さRaと異方性磁界Hanとの関係を、図5に示す。
図5より、下地層11及び記憶層17のいずれの層に一軸異方性を有するテクスチャー構造を導入した場合においても、その平均粗さRaが1.1nm以上のときは、異方性磁界Hanが50[Oe]以上になっていることが確認できる。異方性磁界Hanは、平均粗さRaが1.5nm程度のときにピークをとっているように見える。これは平均粗さRaが必要以上に大きくなった場合、その凹凸により、記憶層の磁気特性が劣化することによるものである。
【0090】
テクスチャー構造の平均粗さRaと保磁力Hcとの関係を、図6に示す。
図6より、図5に示した異方性磁界Hanの増加に対応して、保磁力の増大が確認された。
【0091】
テクスチャー構造の平均粗さRaと熱安定性指標KV/kBTとの関係を、図7に示す。
図7より、熱安定性指標KV/kBTは、図6に示した保磁力と対応して、平均粗さRaが1.1nm以上のときに大きく増大していることが分かる。図7から、テクスチャー構造を導入することにより、テクスチャー構造が無い場合と比較して、熱安定性指標KV/kBTが30%程度以上向上していることが分かる。
【0092】
テクスチャー構造の平均粗さRaと記憶層17の飽和磁化量Msとの関係を、図8に示す。
図8より、テクスチャー構造を導入した場合においても、記憶層の飽和磁化量Msの変動が無いことが確認される。このことにより、図7に示した熱安定性指標KV/kBTの増大は単なる記憶層の飽和磁化量Msの増加によりもたらされたものではないことが分かる。
【0093】
以上の図5〜図8の結果から、テクスチャー構造を導入し、かつテクスチャー構造の平均粗さRaを1.1nm以上とすることにより、異方性磁界が50[Oe]以上の場合に熱安定性指標KV/kBTが大きく向上していることが確認された。
このことから、本発明の構成を用いることにより、意図的に熱安定性指標KV/kBTを向上させることができ、飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合においても、情報記録の熱安定性を保つことが可能になる。
【0094】
本発明では、上述の各実施の形態で示した記憶素子3の膜構成に限らず、様々な膜構成を採用することが可能である。
【0095】
上述の各実施の形態では、磁化固定層31が2層の強磁性層13,15と非磁性層14から成る積層フェリ構造となっているが、例えば、磁化固定層を単層の強磁性層により構成してもよい。
【0096】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施の形態のメモリの概略構成図(斜視図)である。
【図2】図1の記憶素子の断面図(磁化容易軸方向の断面図)である。
【図3】A、B 図1の記憶素子の磁化困難軸方向の断面図である。
【図4】A〜D テクスチャー構造の状態を説明する図である。
【図5】平均粗さRaと異方性磁界Hanとの関係を示す図である。
【図6】平均粗さRaと保磁力Hcとの関係を示す図である。
【図7】平均粗さRaと熱安定性指標KV/kBTとの関係を示す図である。
【図8】平均粗さRaと飽和磁化量Msとの関係を示す図である。
【図9】スピン注入による磁化反転を利用したメモリの概略構成図(斜視図)である。
【図10】図9のメモリの断面図である。
【図11】従来のMRAMの構成を模式的に示した斜視図である。
【符号の説明】
【0098】
3,42 記憶素子、11 下地層、11A,17A,41 テクスチャー構造、12 反強磁性層、13,15 強磁性層、14 非磁性層、16 絶縁層、17 記憶層、18 キャップ層、31 磁化固定層
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性層の磁化状態を情報として記憶する記憶層と、磁化の向きが固定された磁化固定層とから成り、膜面に垂直な方向に電流を流して、スピン偏極した電子を注入することにより記憶層の磁化の向きを変化させる記憶素子及びこの記憶素子を備えたメモリに係わり、不揮発メモリに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の情報機器では、ランダム・アクセス・メモリとして、動作が高速で、高密度なDRAMが広く使われている。
しかし、DRAMは電源を切ると情報が消えてしまう揮発性メモリであるため、情報が消えない不揮発のメモリが望まれている。
【0003】
そして、不揮発メモリの候補として、磁性体の磁化で情報を記録する磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM)が注目され、開発が進められている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
MRAMは、ほぼ直交する2種類のアドレス配線(ワード線、ビット線)にそれぞれ電流を流して、各アドレス配線から発生する電流磁場によって、アドレス配線の交点にある磁気記憶素子の磁性層の磁化を反転して情報の記録を行うものである。
【0005】
一般的なMRAMの模式図(斜視図)を、図11に示す。
シリコン基板等の半導体基体110の素子分離層102により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域108、ソース領域107、並びにゲート電極101が、それぞれ形成されている。
また、ゲート電極101の上方には、図中前後方向に延びるワード線105が設けられている。
ドレイン領域108は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域108には、配線109が接続されている。
そして、ワード線105と、上方に配置された、図中左右方向に延びるビット線106との間に、磁化の向きが反転する記憶層を有する磁気記憶素子103が配置されている。この磁気記憶素子103は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。
さらに、磁気記憶素子103は、水平方向のバイパス線111及び上下方向のコンタクト層104を介して、ソース領域107に電気的に接続されている。
ワード線105及びビット線106にそれぞれ電流を流すことにより、電流磁界を磁気記憶素子103に印加して、これにより磁気記憶素子103の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うことができる。
【0006】
そして、MRAM等の磁気メモリにおいて、記録した情報を安定に保持するためには、情報を記録する磁性層(記憶層)が、一定の保磁力を有していることが必要である。
一方、記録された情報を書き換えるためには、アドレス配線にある程度の電流を流さなければならない。
ところが、MRAMを構成する素子の微細化に従い、アドレス配線も細くなるため、充分な電流が流せなくなってくる。
【0007】
そこで、より少ない電流で磁化反転が可能な構成として、スピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリが注目されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献2、非特許文献3参照)。
スピン注入による磁化反転とは、磁性体の中を通過してスピン偏極した電子を、他の磁性体に注入することにより、他の磁性体において磁化反転を起こさせるものである。
【0008】
例えば、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)や磁気トンネル接合素子(MTJ素子)に対して、その膜面に垂直な方向に電流を流すことにより、これらの素子の少なくとも一部の磁性層の磁化の向きを反転させることができる。
【0009】
そして、スピン注入による磁化反転は、素子が微細化されても、電流を増やさずに磁化反転を実現することができる利点を有している。
【0010】
上述したスピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリの模式図を図9及び図10に示す。図9は斜視図、図10は断面図である。
シリコン基板等の半導体基体60の素子分離層52により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域58、ソース領域57、並びにゲート電極51が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極51は、図9中前後方向に延びるワード線を兼ねている。
ドレイン領域58は、図9中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域58には、配線59が接続されている。
そして、ソース領域57と、上方に配置された、図9中左右方向に延びるビット線56との間に、スピン注入により磁化の向きが反転する記憶層を有する記憶素子53が配置されている。
この記憶素子53は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。図中61及び62は磁性層を示しており、2層の磁性層61,62のうち、一方の磁性層を磁化の向きが固定された磁化固定層として、他方の磁性層を磁化の向きが変化する磁化自由層即ち記憶層とする。
また、記憶素子53は、ビット線56と、ソース領域57とに、それぞれ上下のコンタクト層54を介して接続されている。これにより、記憶素子53に電流を流して、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させることができる。
【0011】
このようなスピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリの場合、図11に示した一般的なMRAMと比較して、デバイス構造を単純化することができる、という特徴も有している。
また、スピン注入による磁化反転を利用することにより、外部磁界により磁化反転を行う一般的なMRAMと比較して、素子の微細化が進んでも、書き込みの電流が増大しないという利点がある。
【0012】
ところで、MRAMの場合は、記憶素子とは別に書き込み配線(ワード線やビット線)を設けて、書き込み配線に電流を流して発生する電流磁界により、情報の書き込み(記録)を行っている。そのため、書き込み配線に、書き込みに必要となる電流量を充分に流すことができる。
【0013】
一方、スピン注入による磁化反転を利用する構成のメモリにおいては、記憶素子に流す電流によりスピン注入を行って、記憶層の磁化の向きを反転させる必要がある。
そして、このように記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタに流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさに制限される。
このため、選択トランジスタの飽和電流以下の電流で書き込みを行う必要があり、スピン注入の効率を改善して、記憶素子に流す電流を低減する必要がある。
【0014】
また、読み出し信号を大きくするためには、大きな磁気抵抗変化率を確保する必要があり、そのためには記憶層の両側に接している中間層をトンネル絶縁層(トンネルバリア層)とした記憶素子の構成にすることが効果的である。
このように中間層としてトンネル絶縁層を用いた場合には、トンネル絶縁層が絶縁破壊することを防ぐために、記憶素子に流す電流量に制限が生じる。この観点からも、スピン注入時の電流を抑制する必要がある。
【0015】
この電流値を下げるためには、電流値は記憶層の膜厚に比例し、または飽和磁化の2乗に比例するので、これらを調節すれば良いことがわかる(例えば、非特許文献4参照)。
そして、記憶層の材料の飽和磁化量(Ms)を低減することにより、電流値を下げる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0016】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2001.2.12号(第164頁−171頁)
【非特許文献2】Phys.Rev.B 54.9353(1996)
【非特許文献3】J.Magn.Mat. 159.L1(1996)
【非特許文献4】F.J.Albert,et Al.,Appl.Phy.Lett.77,3809(2000)
【特許文献1】特開2003−17782号公報
【特許文献2】米国特許第6256223号明細書
【特許文献3】米国特許公開2005−0184839号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させる構成の記憶素子が、メモリとして存在し得るためには、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要な電流量(閾値電流)を、トランジスタの飽和電流以下に減らすと共に、熱等に対しても書き込まれた情報をしっかり保持する安定性を確保する必要がある。
【0018】
閾値電流を低減するためには、例えば、上記特許文献3のように、記憶層に飽和磁化Msの低い材料を使用することにより、記憶層の飽和磁化Msを低減することが有効である。
しかしながら、単純に飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合には、熱に対する安定性(熱安定性)を充分に確保することができない。
【0019】
上述した問題の解決のために、本発明は、飽和磁化の低い材料を記憶層に用いた場合においても、熱安定性を改善することができる記憶素子、並びにこの記憶素子を有するメモリを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の記憶素子は、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、中間層が絶縁体から成り、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われ、記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくは強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されているものである。
また、本発明のメモリは、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、記憶素子は上記本発明の記憶素子の構成であり、2種類の配線の交点付近かつ2種類の配線の間に記憶素子が配置され、これら2種類の配線を通じて記憶素子に積層方向の電流が流れ、スピン偏極した電子が注入されるものである。
【0021】
上述の本発明の記憶素子の構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して中間層を介して磁化固定層が設けられ、中間層が絶縁体から成り、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われるので、積層方向に電流を流してスピン偏極した電子を注入することによって情報の記録を行うことができる。
また、記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくはこの強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されていることにより、記憶層の実効的な異方性磁界を増大させることができる。これにより、記憶層の熱安定性を向上することが可能になる。そして、記憶層の飽和磁化を増大させなくても、記憶層の熱安定性を向上することが可能になる。
即ち、記憶層に飽和磁化量の低い材料を使用しても、充分に記憶層の熱安定性を確保することが可能になる。これにより、記憶層に飽和磁化量の低い材料を使用して、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる、書き込み電流量を低減することも可能になる。
【0022】
上述の本発明のメモリの構成によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、記憶素子は上記本発明の記憶素子の構成であり、2種類の配線の交点付近かつ2種類の配線の間に記憶素子が配置され、これら2種類の配線を通じて記憶素子に積層方向の電流が流れ、スピン偏極した電子が注入されるものであることにより、2種類の配線を通じて記憶素子の積層方向に電流を流してスピン注入による情報の記録を行うことができる。
また、充分に記憶層の熱安定性を確保することが可能になると共に、記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる、書き込み電流量を低減することが可能になるため、メモリの消費電力を増大させることなく、メモリセルに記録された情報を安定して保持することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
上述の本発明によれば、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる電流量(閾値電流)を低減させるために、飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合でも、情報保持能力である熱安定性を確保することができるため、特性バランスに優れた記憶素子を構成することができる。
これにより、動作エラーをなくして、記憶素子の動作マージンを充分に得ることができる。
【0024】
また、メモリとして必要な熱安定性を確保しても、書き込み電流が増えることがないので、大きな電圧をかける必要がなくなることから、中間層である絶縁体が破壊されることもなくなる。
従って、安定して動作する、信頼性の高いメモリを実現することができる。
【0025】
さらにまた、書き込み電流を低減しても、メモリとして必要となる熱安定性を充分に確保することが可能となるため、書き込み電流を低減して、記憶素子に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
従って、メモリ全体の消費電力を低減することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明は、前述したスピン注入により、記憶素子の記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うものである。記憶層は、強磁性層等の磁性体により構成され、情報を磁性体の磁化状態(磁化の向き)により保持するものである。
【0027】
スピン注入により磁性層の磁化の向きを反転させる基本的な動作は、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)もしくは磁気トンネル接合素子(MTJ素子)から成る記憶素子に対して、その膜面に垂直な方向に、ある閾値(Ic)以上の電流を流すものである。このとき、電流の極性(向き)は、反転させる磁化の向きに依存する。
この閾値よりも絶対値が小さい電流を流した場合には、磁化反転を生じない。
【0028】
スピン注入によって、磁性層の磁化の向きを反転させるときに、必要となる電流の閾値Icは、現象論的に、下記(式1)により表される(例えば、F.J.Albert他著、Appl.Phys.Lett.,77,p.3809,2000年、等を参照)。
【0029】
【数1】
なお、(式1)において、Aは定数、αはスピン制動定数、ηはスピン注入効率、Msは飽和磁化量、Vは磁性層(記憶層)の体積である。
【0030】
本発明では、(式1)で表されるように、電流の閾値が、磁性層の体積V、磁性層の飽和磁化Ms、スピン注入効率と制動定数を制御することにより、任意に設定することが可能であることを利用する。
そして、磁化状態により情報を保持することができる磁性層(記憶層)と、磁化の向きが固定された磁化固定層とを有する記憶素子を構成する。
メモリとして存在し得るためには、書き込まれた情報を保持することができなければならない。情報を保持する能力の指標として、前述した熱安定性指標Δの値で判断される。磁性層(記憶層)の熱安定性指標Δは、下記(式2)により表される。
【0031】
【数2】
なお、(式2)において、Hkは実効的な異方性磁界、kBはボルツマン定数、Tは温度、Msは飽和磁化量、Vは記憶層の体積である。
【0032】
実効的な異方性磁界Hkには、形状磁気異方性、誘導磁気異方性、結晶磁気異方性等の影響が取り込まれており、単磁区のコヒーレントローテンションモデルを仮定した場合、保磁力と同等である。
【0033】
一般に、記憶された情報を85℃で10年間保持するためには、熱安定性指標Δの値として60以上が必要とされる。この熱安定性指標Δと電流の閾値Icとは、トレードオフの関係になることが多く、メモリ特性を維持するには、これらの両立が課題となることが多い。
【0034】
記憶層の磁化状態を変化させる電流の閾値は、実際には、例えば記憶層の厚さが2nmであり、平面パターンが100nm×150nmの略楕円形のトンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)において、+側の閾値+Ic=+0.5mAであり、−側の閾値−Ic=−0.3mAであり、その際の電流密度は約3.5×106A/cm2である。これらは、上記の(式1)にほぼ一致する。
【0035】
一方、電流磁場により磁化反転を行う通常のMRAMでは、書き込み電流が数mA以上必要となる。
これに対して、スピン注入により磁化反転を行う場合には、上述のように、書き込み電流の閾値が充分に小さくなるため、集積回路の消費電力を低減させるために有効であることがわかる。
また、通常のMRAMで必要とされる、電流磁界発生用の配線(図11の105)が不要となるため、集積度においても通常のMRAMに比較して有利である。
【0036】
そして、スピン注入により磁化反転を行う場合には、記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。
この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタに流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさに制限されるため、書き込み電流の許容範囲も制限されることになる。
【0037】
これに対して、記憶層の磁化量を減らせば、書き込み電流の閾値を低減して許容範囲を広げることが可能になるが、前述したように、記憶層の熱安定性指標を損なうことになる。メモリを構成するためには、熱安定性指標がある程度以上の大きさである必要がある。
選択トランジスタの飽和電流よりスピン注入による磁化反転の臨界電流Icを小さくするためには、(式1)より、記憶層の飽和磁化量Msを減らせば良いが、単純に減らした場合(例えば、前記特許文献3参照)、記憶層の情報保持の熱安定性が著しく損なわれ、メモリとしての機能を果せなくなる。
【0038】
本願の発明者等が種々の検討を行った結果、記憶層を構成する強磁性層よりも下層、もしくは、強磁性層の上面に、一軸異方性を持ったテクスチャー構造を有する層を導入することにより、実効的な異方性磁界Hkを増加させることができ、飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合においても、熱安定性指標Δ(=KV/kBT)を向上することができ、安定したメモリを形成できることを見出した。
【0039】
記憶層を構成する強磁性層よりも下層にテクスチャー構造を導入する場合には、記憶層を構成する強磁性層よりも下層にある各層のうち、いずれか1層以上の上面にテクスチャー構造を形成する。
例えば下地層等、記憶素子の比較的下方にある層にテクスチャー構造を形成した場合でも、その上の層にもテクスチャー構造による凹凸が反映されていくので、記憶層の下面にも反映されて凹凸が形成されるため、記憶層の異方性磁界を増加させることができる。
【0040】
なお、記憶層よりも下層にある、いずれの層でもテクスチャー構造を形成することが可能であるが、TMR素子のトンネル絶縁層は、他の層よりも薄く、テクスチャー構造を形成すると膜の状態や特性を損なうおそれがあるため、トンネル絶縁層以外の層にテクスチャー構造を形成することが望ましい。
【0041】
テクスチャー構造の形成には、研磨やエッチング等、物理的な形成手法及び化学的な形成手法を用いることができる。
【0042】
テクスチャー構造の面粗度は、平均粗さ(算術平均粗さ)Raで1.1nm以上とすることが望ましい。そして、平均粗さRaを1.1nm以上とすることにより、テクスチャー構造を形成して記憶層の実効的な異方性磁界を高める効果を、充分に発揮させることができる。
平均粗さ(算術平均粗さ)Raは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLを抜き取り、この抜き取った部分の方向をx軸、表面に対する高さ方向をy軸にとり、曲線をy=f(x)で表したときに、下記の(式3)によって求めることができる。
【数3】
【0043】
ここで、記憶素子に形成するテクスチャー構造について、図4A〜図4Dを参照して説明する。
まず、図示しないが、テクスチャー構造を形成する膜又は層を、ウェハ表面に形成する。
次に、形成した膜又は層にテクスチャー構造を形成する。このときのウェハの要部の拡大平面図を、図4Aに示す。図4Aに示すように、ウェハ全体にわたって、テクスチャー構造41を、特定の方向Xに揃えて平行に形成する。
テクスチャー構造41の具体的な断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば、図4Bに示す三角形状の断面や、図4Cに示す矩形状の断面とすることができ、その他の形状の断面としてもよい。また、テクスチャー構造41の側面の少なくとも一部が曲面であってもよい。
そして、テクスチャー構造41を形成した膜又は層よりも、上層の各層を形成して、記憶素子を構成する積層膜を作製する。
その後、各メモリセルに対応する記憶素子毎に、所定のパターン(例えば、楕円形等)にパターニングして記憶素子を形成する。このとき、記憶素子のパターンを、テクスチャー構造41の方向と所定の関係にあるように、形成する。ここで、楕円形にパターニングした場合の、テクスチャー構造が形成された膜又は層の分解平面図を図4Dに示す。図4Dに示すように、楕円形にパターニングされた記憶素子42に、楕円の長軸に平行である、一定方向Xに揃って平行なテクスチャー構造41が形成されている。なお、図4Dの方向Xは、ウェハの状態の図4Aの方向Xと、同一方向である。
【0044】
そして、図4Dに示すように、テクスチャー構造41の方向Xが楕円形の長軸と平行である構成とすることにより、テクスチャー構造41による一軸異方性と、楕円形パターンによる形状異方性とを、一致した方向に形成することができる。これにより、記憶層の異方性磁界を効果的に強めることができる。
【0045】
さらに、本発明では、選択トランジスタの飽和電流値を考慮して、記憶層と磁化固定層との間の非磁性の中間層として、絶縁体から成るトンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成する。
トンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成することにより、非磁性導電層を用いて巨大磁気抵抗効果(GMR)素子を構成した場合と比較して、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができ、読み出し信号強度を大きくすることができるためである。
【0046】
また、トンネル絶縁層の材料として、特に、酸化マグネシウム(MgO)を用いることにより、これまで一般的に用いられてきた酸化アルミニウムを用いた場合よりも、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができる。
一般に、スピン注入効率はMR比に依存し、MR比が大きいほど、スピン注入効率が向上し、磁化反転電流密度を低減することができる。
従って、中間層であるトンネル絶縁層の材料として酸化マグネシウムを用い、同時に上述の構成の記憶層を用いることにより、スピン注入による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
これにより、MR比(TMR比)を確保して、スピン注入による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
【0047】
トンネル絶縁層を酸化マグネシウム(MgO)膜により形成する場合には、MgO膜が結晶化していて、001方向に結晶配向性を維持していることがより望ましい。
【0048】
なお、本発明において、記憶層と磁化固定層との間の中間層は、酸化マグネシウムから成る構成(トンネル絶縁層)とする他にも、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、SiO2、Bi2O3、MgF2、CaF、SrTiO2、AlLaO3、Al−N−O等の各種の絶縁体、誘電体、半導体を用いて構成することもできる。
【0049】
さらにまた、中間層に酸化マグネシウムを用いた場合に優れた磁気抵抗効果特性(MR特性)を得るためには、アニール温度を300℃以上、望ましくは340℃〜360℃の高い温度とすることが要求される。これは、従来中間層に用いられていた酸化アルミニウムの場合のアニール温度の範囲(250℃〜280℃)と比較して、高温になっている。
これは、酸化マグネシウム等のトンネル絶縁層の適正な内部構造や結晶構造を形成するために必要になるからである、と考えられる。
【0050】
このため、記憶素子の強磁性層にも、この高い温度のアニールに耐性を有するように、耐熱性のある強磁性材料を用いることにより、優れたMR特性を得ることができる。
【0051】
トンネル絶縁層の面積抵抗値は、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させるために必要な電流密度を得る観点から、数十Ωμm2程度以下に制御する必要がある。
そして、MgO膜から成るトンネル絶縁層では、面積抵抗値を上述の範囲とするために、MgO膜の膜厚を1.5nm以下に設定する必要がある。
【0052】
また、記憶層の磁化の向きを、小さい電流で容易に反転できるように、記憶素子を小さくすることが望ましい。
従って、好ましくは、記憶素子の面積を0.04μm2以下とする。
【0053】
なお、上述した構成条件を有する記憶層と、材料又は組成範囲の異なる他の強磁性層とを直接積層させることも可能である。また、強磁性層と軟磁性層とを積層させたり、複数層の強磁性層を軟磁性層や非磁性層を介して積層させたりすることも可能である。このように積層させた場合でも、本発明の効果が得られる。
特に複数層の強磁性層を非磁性層に介して積層させた構成としたときには、強磁性層の層間の相互作用の強さを調整することが可能になるため、記憶素子の寸法がサブミクロン以下になっても、磁化反転電流が大きくならないように抑制することが可能になるという効果が得られる。この場合の非磁性層の材料としては、Ru,Os,Re,Ir,Au,Ag,Cu,Al,Bi,Si,B,C,Cr,Ta,Pd,Pt,Zr,Hf,W,Mo,Nbまたはそれらの合金を用いることができる。
【0054】
磁化固定層は、一方向の異方性を有していることが望ましく、記憶層は一軸異方性を有していることが望ましい。
また、磁化固定層及び記憶層のそれぞれの膜厚は、1nm〜30nmであることが好ましい。
【0055】
記憶素子のその他の構成は、スピン注入により情報を記録する記憶素子の従来公知の構成と同様とすることができる。
【0056】
磁化固定層は、強磁性層のみにより、或いは反強磁性層と強磁性層の反強磁性結合を利用することにより、その磁化の向きが固定された構成とする。
また、磁化固定層は、単層の強磁性層から成る構成、或いは複数層の強磁性層を非磁性層を介して積層した積層フェリ構造とする。
磁化固定層を積層フェリ構造としたときには、磁化固定層の外部磁界に対する感度を低下させることができるため、外部磁界による磁化固定層の不要な磁化変動を抑制して、記憶素子を安定して動作させることができる。さらに、各強磁性層の膜厚を調整することができ、磁化固定層からの漏洩磁界を抑えることができる。
積層フェリ構造の磁化固定層を構成する強磁性層の材料としては、Co,CoFe,CoFeB等を用いることができる。また、非磁性層の材料としては、Ru,Re,Ir,Os等を用いることができる。
【0057】
反強磁性層の材料としては、FeMn合金、PtMn合金、PtCrMn合金、NiMn合金、IrMn合金、NiO、Fe2O3等の磁性体を挙げることができる。
また、これらの磁性体に、Ag,Cu,Au,Al,Si,Bi,Ta,B,C,O,N,Pd,Pt,Zr,Hf,Ir,W,Mo,Nb等の非磁性元素を添加して、磁気特性を調整したり、その他の結晶構造や結晶性や物質の安定性等の各種物性を調整したりすることができる。
【0058】
また、記憶素子の膜構成は、記憶層が磁化固定層の上側に配置される構成でも、下側に配置される構成でも全く問題はない。
【0059】
なお、記憶素子の記憶層に記録された情報を読み出す方法としては、記憶素子の記憶層に薄い絶縁膜を介して、情報の基準となる磁性層を設けて、絶縁層を介して流れる強磁性トンネル電流によって読み出してもよいし、磁気抵抗効果により読み出してもよい。
【0060】
続いて、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の一実施の形態として、メモリの概略構成図(斜視図)を図1に示す。
このメモリは、互いに直交する2種類のアドレス配線(例えばワード線とビット線)の交点付近に、磁化状態で情報を保持することができる記憶素子が配置されて成る。
即ち、シリコン基板等の半導体基体10の素子分離層2により分離された部分に、各メモリセルを選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域8、ソース領域7、並びにゲート電極1が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極1は、図中前後方向に延びる一方のアドレス配線(例えばワード線)を兼ねている。
ドレイン領域8は、図中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域8には、配線9が接続されている。
【0061】
そして、ソース領域7と、上方に配置された、図中左右方向に延びる他方のアドレス配線(例えばビット線)6との間に、記憶素子3が配置されている。この記憶素子3は、スピン注入により磁化の向きが反転する強磁性層から成る記憶層を有する。
また、この記憶素子3は、2種類のアドレス配線1,6の交点付近に配置されている。
この記憶素子3は、ビット線6と、ソース領域7とに、それぞれ上下のコンタクト層4を介して接続されている。
これにより、2種類のアドレス配線1,6を通じて、記憶素子3に上下方向の電流を流して、スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させることができる。
【0062】
また、本実施の形態のメモリの記憶素子3の断面図を図2に示す。
図2に示すように、この記憶素子3は、スピン注入により磁化M1の向きが反転する記憶層17に対して、下層に磁化固定層31を設けている。磁化固定層31の下に反強磁性層12が設けられ、この反強磁性層12により、磁化固定層31の磁化の向きが固定される。
記憶層17と磁化固定層31との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)となる絶縁層16が設けられ、記憶層17と磁化固定層31とにより、MTJ素子が構成されている。
また、反強磁性層12の下には下地層11が形成され、記憶層17の上にはキャップ層18が形成されている。
【0063】
磁化固定層31は、積層フェリ構造となっている。
具体的には、磁化固定層31は、2層の強磁性層13,15が、非磁性層14を介して積層されて反強磁性結合した構成である。
磁化固定層31の各強磁性層13,15が積層フェリ構造となっているため、強磁性層13の磁化M13が右向き、強磁性層15の磁化M15が左向きとなっており、互いに反対向きになっている。これにより、磁化固定層31の各強磁性層13,15から漏れる磁束が、互いに打ち消し合う。
【0064】
磁化固定層31の強磁性層13,15の材料としては、特に限定はないが、鉄、ニッケル、コバルトの1種もしくは2種以上からなる合金材料を用いることができる。さらにNb,Zr,Gd,Ta,Ti,Mo,Mn,Cu等の遷移金属元素やSi,B,C等の軽元素を含有させることもできる。また、例えばCoFe/NiFe/CoFeの積層膜といったように、材料が異なる複数の膜を直接(非磁性層を介さずに)積層して、強磁性層13,15を構成してもよい。
磁化固定層31の積層フェリを構成する非磁性層14の材料としては、ルテニウム、銅、クロム、金、銀等が使用できる。
【0065】
本実施の形態においては、特に、記憶素子3が、記憶層17の上面、もしくは、記憶層17よりも下層に、前述した一軸異方性のテクスチャー構造を有する構成である。
なお、図2は、記憶素子3の記憶層17及び磁化固定層31(13,15)の磁化容易軸方向の断面図であるため、テクスチャー構造が現れていない。
そこで、テクスチャー構造が現れるように、記憶素子3の記憶層17及び磁化固定層31(13,15)の磁化困難軸方向の断面図を、図3A及び図3Bに示す。図3Aは、記憶層17の上面にテクスチャー構造を形成した場合を示している。図3Bは、記憶層17よりも下層にある下地層11の上面にテクスチャー構造を形成した場合を示している。
【0066】
図3Aに示すように、記憶層17の上面にテクスチャー構造17Aを形成した場合には、記憶層17の上面に、テクスチャー構造17Aによる一軸異方性の凹凸が形成されており、その上にキャップ層18が形成される。
【0067】
図3Bに示すように、下地層17の上面にテクスチャー構造11Aを形成した場合には、下地層11の上面のテクスチャー構造11A上に、反強磁性層12が形成される。
そして、下地層11の上面のテクスチャー構造11Aの凹凸が、図示しないが、上層の各層12,13,14,15,16に反映されていき、記憶層17の下の絶縁層16にも一軸異方性の凹凸が形成される。
これにより、記憶層17の下面にも一軸異方性の凹凸が形成される。
【0068】
記憶層17よりも下層にテクスチャー構造を形成する場合、記憶素子3の特性を損なわない限りは、下地層11の以外の層にテクスチャー構造を形成してもよい。
下地層11から絶縁層16までのいずれの層にテクスチャー構造を形成しても、上層にある記憶層17に反映される。
なお、絶縁層16は、前述したように他の層よりも薄く、テクスチャー構造を絶縁層16に形成すると層の状態や特性(耐圧やMR比)等を損なうおそれがある。このため、テクスチャー構造を、テクスチャー絶縁層16以外の層に形成することが望ましい。
【0069】
テクスチャー構造の形成には、前述したように、研磨やエッチング等の方法を用いることができる。
【0070】
さらに、本実施の形態において、中間層である絶縁層16を、酸化マグネシウム層とした場合には、磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。
このようにMR比を高くすることによって、スピン注入の効率を向上して、記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要な電流密度を低減することができる。
【0071】
本実施の形態の記憶素子3は、下地層11からキャップ層18までを真空装置内で連続的に形成して、その後エッチング等の加工によって記憶素子3のパターンを形成することにより、製造することができる。
【0072】
上述の本実施の形態によれば、記憶層17の上面、もしくは、記憶層17よりも下層に、前述した一軸異方性のテクスチャー構造を有することにより、記憶層17の上面又は下面に、一軸異方性の凹凸が形成されている。これにより、記憶層17の実効的な異方性磁界を増大させることができるため、記憶層17の熱安定性を向上することが可能になる。
そして、記憶層17の飽和磁化量Msを増大させなくても、記憶層17の熱安定性を向上することができるので、記憶層17に飽和磁化量Msの低い材料を使用しても、充分に記憶層17の熱安定性を確保することが可能になる。これにより、記憶層17に飽和磁化量Msの低い材料を使用して、記憶層17の磁化M1の向きを反転させるために必要となる、書き込み電流量を低減することも可能になる。
【0073】
記憶層17の熱安定性が向上することにより、記憶素子3に対して電流を流して情報を記録する、動作領域を拡大することが可能になり、動作のマージンを広く確保し、記憶素子3を安定して動作させることができる。
【0074】
また、記憶素子3の記憶層17に充分な熱安定性を確保しても、書き込み電流が増えることがないので、大きな電圧をかける必要がなくなることから、中間層である絶縁層16が絶縁破壊されることもなくなる。
従って、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができる。
【0075】
さらにまた、書き込み電流を低減しても、熱安定性を充分に確保することが可能となるため、書き込み電流を低減して、記憶素子3に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
これにより、本実施の形態の記憶素子3によりメモリセルを構成した、メモリ全体の消費電力を低減することも可能になる。
【0076】
従って、情報保持特性が優れた、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができ、記憶素子3を備えたメモリにおいて、消費電力を低減することができる。
【0077】
また、図2に示した記憶素子3を備え、図1に示した構成のメモリは、メモリを製造する際に、一般の半導体MOS形成プロセスを適用できるという利点を有している。例えば、340℃〜360℃のアニールにも、記憶層17の磁気特性が劣化することがなく、耐えうるようになる。
従って、本実施の形態の記憶素子3を備えたメモリを、汎用メモリとして適用することが可能になる。
【0078】
ここで、本発明の記憶素子の構成において、具体的に記憶層を構成する強磁性材料等、各層の材料や膜厚等を選定して、特性を調べた。
具体的に記憶層を構成する強磁性層のより下層、もしくは、強磁性層上面に一軸異方性を持ったテクスチャー構造を有する層を導入した素子を作製し、
実際のメモリでは、図1や図9に示したように、記憶素子以外にもスイッチング用の半導体回路等が存在するが、選択用のトランジスタや下層配線の製造工程については、説明を省略する。
【0079】
厚さ0.725mmのシリコン基板上に、厚さ300nmの熱酸化膜を形成し、その上に図2に示した構成の記憶素子3を形成した。
具体的には、図2に示した構成の記憶素子3において、各層の材料及び膜厚を、下地膜11を膜厚10nmのTa膜、反強磁性層12を膜厚20nmのPtMn膜、磁化固定層31を構成する強磁性層13を膜厚2nmのCoFe膜、強磁性層15を膜厚2.5nmのCoFeB膜、積層フェリ構造の磁化固定層31を構成する非磁性層14を膜厚0.8nmのRu膜、トンネル絶縁層となる絶縁層(バリア層)16を膜厚0.9nmの酸化マグネシウム膜、記憶層17の強磁性層を膜厚2.5nmのCoFeB膜、キャップ層18を膜厚5nmのTa膜と選定し、また下地膜11と反強磁性層12との間に図示しない膜厚100nmのCu膜(後述するワード線となるもの)を設けて、各層を形成した。
上記膜構成で、記憶層17の強磁性層のCoFeB膜の組成はCo45Fe30B25(原子%)、PtMn膜の組成はPt50Mn50(原子%)、CoFe膜の組成はCo90Fe10(原子%)とした。
【0080】
テクスチャー構造は、下地層11の膜厚10nmのTa膜を成膜した後、もしくは記憶層17のCoFeB膜を成膜した後に導入した。記憶層17の上面にテクスチャー構造17Aを導入する際は、記憶層17の実効的な膜厚が2.5nmになるように調整した。
テクスチャー構造は、エッチングにより形成した。
酸化マグネシウム膜から成る絶縁層16以外の各層は、DCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
酸化マグネシウム(MgO)膜から成る絶縁層16は、RFマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
さらに、記憶素子3の各層を成膜した後に、磁場中熱処理炉で、10kOe・360℃・2時間の熱処理を行い、反強磁性層12のPtMn膜の規則化熱処理を行った。
ただし、テクスチャー構造による異方性磁界を評価する試料における熱処理は、0kOe(磁界を印加しない)・360℃・2時間の条件で行った。
【0081】
次に、ワード線部分をフォトリソグラフィによってマスクした後に、ワード線以外の部分の積層膜に対してArプラズマにより選択エッチングを行うことにより、ワード線(下部電極)を形成した。この際に、ワード線部分以外は、基板の深さ5nmまでエッチングされた。
その後、電子ビーム描画装置により記憶素子3のパターンのマスクを形成し、積層膜に対して選択エッチングを行い、記憶素子3を形成した。記憶素子3部分以外は、ワード線のCu層直上までエッチングした。
なお、特性評価用の記憶素子には、磁化反転に必要なスピントルクを発生させるために、記憶素子に充分な電流を流す必要があるため、トンネル絶縁層の抵抗値を抑える必要がある。そこで、記憶素子3のパターンを、短軸0.09μm×長軸0.18μmの楕円形状として、記憶素子3の面積抵抗値(Ωμm2)が20Ωμm2となるようにした。
次に、記憶素子3部分以外を、厚さ100nm程度のAl2O3のスパッタリングによって絶縁した。
その後、フォトリソグラフィを用いて、上部電極となるビット線及び測定用のパッドを形成した。
このようにして、記憶素子3の試料を作製した。
なお、異方性磁界の評価のために、さらに、8mm×8mm角のベタ膜状の試料を作製した。
【0082】
上述の製造方法により、それぞれ下地層11もしくは記憶層17に導入するテクスチャー構造11A,17Aの面粗度(平均粗さRa)を変化させた記憶素子3を有する各試料を作製した。また、比較例として、テクスチャー構造を形成していない試料を作製した。各試料の形成条件は、表1に示している。試料No.1が比較例の試料、試料No.2〜No.5が記憶層17の上面にテクスチャー構造17Aを形成した試料、試料No.6〜No.10が下地層11の上面にテクスチャー構造11Aを形成した試料である。
面粗度としては、前述した平均粗さRaを採用した。そして、テクスチャー構造11A,17Aの平均粗さRaを、デジタルインスツルメンツ社製のNano Scope III contact AFMを使用して、測定した。なお、比較例の平均粗さRaは、記憶層17の上面を測定した値である。
【0083】
【表1】
【0084】
作製した記憶素子3の各試料に対して、それぞれ以下のようにして、特性の評価を行った。
測定に先立ち、反転電流のプラス方向とマイナス方向の値を対称になるように制御することを可能にするため、記憶素子3に対して、外部から磁界を与えることができるように構成した。また、記憶素子3に印加される電圧が、絶縁層16が破壊しない範囲内の1Vまでとなるように設定した。
【0085】
(異方性磁界及び飽和磁化量の測定)
テクスチャー構造と平行な方向と垂直な方向にそれぞれ磁場を印加した場合において、VSM(Vibrating Sample Magnetometer )測定を行い、垂直方向に磁場を印加したときに記憶層の磁化が飽和する磁場を求めることにより、異方性磁界の大きさを決定した。なお、異方性磁界測定用の試料には、印加磁場0kOe(磁場の印加なし)・360℃・2時間の条件で熱処理を行っている。
また、飽和磁化量も、VSM測定によって求めた。
【0086】
(保磁力の測定)
記憶素子の保磁力の測定を行った。
まず、記憶素子に連続的に変化する外部磁場を加えながら、記憶素子の抵抗値を測定した。このとき、温度を室温25℃として、ワード線の端子とビット線の端子にかかるバイアス電圧が10mVとなるように調節した。
そして、記憶層の磁化の向きとは反対の方向に外部磁場を加えていき、外部磁界が記憶層の保磁力を上回ると、記憶層の磁化の向きが反転する。磁化の向きが反転することにより、記憶素子の抵抗値が変化するので、この抵抗値が変化したときの外部磁界の大きさを記憶素子の保磁力と等しいとみなして、記憶素子の保磁力を得た。
【0087】
(反転電流値及び熱安定性の測定)
本発明による記憶素子の書き込み特性を評価する目的で、反転電流値の測定を行った。
記憶素子に10μsから100msのパルス幅の電流を流して、その後の記憶素子の抵抗値を測定した。さらに、記憶素子に流す電流量を変化させて、この記憶層の磁化が反転する電流値を求めた。この電流値のパルス幅依存性をパルス幅1nsに外挿した値を、反転電流値とした。
【0088】
また、反転電流値のパルス幅依存性の傾きは、記憶素子の前述した熱安定性指標(Δ=KV/kBT)に対応する。反転電流値がパルス幅によって変化しない(傾きが小さい)ほど、熱の擾乱に強いことを意味する。前述したように、メモリに用いるためには、60以上の熱安定性指標が必要である。
そして、記憶素子間のばらつきを考慮するために、同一構成の記憶素子を20個程度作製して、上述の測定を行い、反転電流値及び熱安定性指標の平均値を求めた。
各試料の測定結果を、図5〜図8に示す。なお、図5〜図8において、「下地層タイプ」はNo.6〜No.10の試料の測定結果を示し、「記憶層タイプ」はNo.2〜No.5の試料の測定結果を示しており、比較例のNo.1の試料の測定結果は、下地層タイプ及び記憶層タイプの0.68nmの値として示している。
【0089】
テクスチャー構造の平均粗さRaと異方性磁界Hanとの関係を、図5に示す。
図5より、下地層11及び記憶層17のいずれの層に一軸異方性を有するテクスチャー構造を導入した場合においても、その平均粗さRaが1.1nm以上のときは、異方性磁界Hanが50[Oe]以上になっていることが確認できる。異方性磁界Hanは、平均粗さRaが1.5nm程度のときにピークをとっているように見える。これは平均粗さRaが必要以上に大きくなった場合、その凹凸により、記憶層の磁気特性が劣化することによるものである。
【0090】
テクスチャー構造の平均粗さRaと保磁力Hcとの関係を、図6に示す。
図6より、図5に示した異方性磁界Hanの増加に対応して、保磁力の増大が確認された。
【0091】
テクスチャー構造の平均粗さRaと熱安定性指標KV/kBTとの関係を、図7に示す。
図7より、熱安定性指標KV/kBTは、図6に示した保磁力と対応して、平均粗さRaが1.1nm以上のときに大きく増大していることが分かる。図7から、テクスチャー構造を導入することにより、テクスチャー構造が無い場合と比較して、熱安定性指標KV/kBTが30%程度以上向上していることが分かる。
【0092】
テクスチャー構造の平均粗さRaと記憶層17の飽和磁化量Msとの関係を、図8に示す。
図8より、テクスチャー構造を導入した場合においても、記憶層の飽和磁化量Msの変動が無いことが確認される。このことにより、図7に示した熱安定性指標KV/kBTの増大は単なる記憶層の飽和磁化量Msの増加によりもたらされたものではないことが分かる。
【0093】
以上の図5〜図8の結果から、テクスチャー構造を導入し、かつテクスチャー構造の平均粗さRaを1.1nm以上とすることにより、異方性磁界が50[Oe]以上の場合に熱安定性指標KV/kBTが大きく向上していることが確認された。
このことから、本発明の構成を用いることにより、意図的に熱安定性指標KV/kBTを向上させることができ、飽和磁化Msの低い材料を記憶層に用いた場合においても、情報記録の熱安定性を保つことが可能になる。
【0094】
本発明では、上述の各実施の形態で示した記憶素子3の膜構成に限らず、様々な膜構成を採用することが可能である。
【0095】
上述の各実施の形態では、磁化固定層31が2層の強磁性層13,15と非磁性層14から成る積層フェリ構造となっているが、例えば、磁化固定層を単層の強磁性層により構成してもよい。
【0096】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施の形態のメモリの概略構成図(斜視図)である。
【図2】図1の記憶素子の断面図(磁化容易軸方向の断面図)である。
【図3】A、B 図1の記憶素子の磁化困難軸方向の断面図である。
【図4】A〜D テクスチャー構造の状態を説明する図である。
【図5】平均粗さRaと異方性磁界Hanとの関係を示す図である。
【図6】平均粗さRaと保磁力Hcとの関係を示す図である。
【図7】平均粗さRaと熱安定性指標KV/kBTとの関係を示す図である。
【図8】平均粗さRaと飽和磁化量Msとの関係を示す図である。
【図9】スピン注入による磁化反転を利用したメモリの概略構成図(斜視図)である。
【図10】図9のメモリの断面図である。
【図11】従来のMRAMの構成を模式的に示した斜視図である。
【符号の説明】
【0098】
3,42 記憶素子、11 下地層、11A,17A,41 テクスチャー構造、12 反強磁性層、13,15 強磁性層、14 非磁性層、16 絶縁層、17 記憶層、18 キャップ層、31 磁化固定層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、
前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、
前記中間層が、絶縁体から成り、
積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われ、
前記記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくは前記強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されている
ことを特徴とする記憶素子。
【請求項2】
前記記憶層を構成する強磁性層の異方性磁界の大きさが50[Oe]以上であることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項3】
前記テクスチャー構造の平均粗さRaが、1.1nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項4】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、
互いに交差する2種類の配線を備え、
前記記憶素子は、前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、前記中間層が絶縁体から成り、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われ、前記記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくは前記強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されている構成であり、
前記2種類の配線の交点付近かつ前記2種類の配線の間に、前記記憶素子が配置され、
前記2種類の配線を通じて、前記記憶素子に前記積層方向の電流が流れる
ことを特徴とするメモリ。
【請求項1】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、
前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、
前記中間層が、絶縁体から成り、
積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われ、
前記記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくは前記強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されている
ことを特徴とする記憶素子。
【請求項2】
前記記憶層を構成する強磁性層の異方性磁界の大きさが50[Oe]以上であることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項3】
前記テクスチャー構造の平均粗さRaが、1.1nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の記憶素子。
【請求項4】
情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有する記憶素子と、
互いに交差する2種類の配線を備え、
前記記憶素子は、前記記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられ、前記中間層が絶縁体から成り、積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、前記記憶層の磁化の向きが変化して、前記記憶層に対して情報の記録が行われ、前記記憶層を構成する強磁性層の上面に、もしくは前記強磁性層よりも下層に、一軸異方性を持つテクスチャー構造が形成されている構成であり、
前記2種類の配線の交点付近かつ前記2種類の配線の間に、前記記憶素子が配置され、
前記2種類の配線を通じて、前記記憶素子に前記積層方向の電流が流れる
ことを特徴とするメモリ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−317734(P2007−317734A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143101(P2006−143101)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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