説明

試料作製方法および試料解析方法

【課題】 薄膜の表面状態および表面と平行な面内における状態の解析に適した試料を、容易に作製することの可能な方法を提供する。
【解決手段】 積層膜10Zに対してFIB15A,15Bを照射することにより、可溶膜12に達するエッチング溝16を、解析対象領域10Rを取り囲むように形成したのち、ウェハ11、可溶膜12および中間膜13Zのうち、可溶膜12のみを溶解可能な酸性溶液を用いて中間膜パターン13と接する部分である底部12Bを溶解除去することにより、解析用試料10を形成する。得られた解析用試料10を、その側面10Wを把持することにより取り出す。これにより解析対象膜パターン14の表面を汚すことなく、SEMやTEMなどを用いた表面状態および表面と平行な面内における状態の解析に好適な解析用試料10を、高精度かつ容易に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された薄膜から所定形状の薄膜パターンを含む解析用試料の切り出しをおこなう試料作製方法、およびこの試料の解析を行う試料解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ウェハ上に形成された薄膜の微小部分の解析をおこなうにあたって、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)や走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による観察がおこなわれている。このようなTEMやSEMを利用した薄膜の微小部分の解析をおこなう場合には、装置構成上の都合などにより、ウェハ上の薄膜から、解析対象としたい領域(解析対象領域)を含むように所定の大きさの薄膜パターンを切り出す必要がある。
【0003】
この薄膜パターンを含む解析用試料を切り出す方法としては、ダイヤモンド・ソーなどを用いて切断をおこなう機械加工が挙げられる。しかしながら、このような機械加工では、その寸法精度上の問題から、およそ100μm以下の寸法とすることが困難であった。その上、加工時に試料に与えるダメージも小さくなかった。そこで、集束イオンビーム(Focused Ion Beam)を照射して選択的に薄膜をエッチングすることにより、微小寸法の解析用試料を切り出す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、ウェハ上の薄膜における解析対象とする領域に対して2つの方向からFIBを照射することにより、ウェハを傷つけることなく、薄膜の表面を含むブロック状の解析用試料を切り出すようにしている。この際、外部からのプローブを、切り出す前の薄膜の表面と予め接合しておき、切り出した解析用試料を支持するようにしている。
【特許文献1】特開平5−52721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ウェハ上に形成された薄膜の表面およびその表面と平行な成膜面内における成分分析および密度分布ならびに薄膜の膜厚分布などの解析が必要となる場合がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された作製方法では、断面解析に適した試料の作製は可能であるものの、薄膜の表面状態の解析や、その表面と平行な成膜面内における状態の解析に適した解析用試料を作製することが非常に困難であった。
【0007】
例えば、特許文献1の解析用試料における薄膜の表面をSEM観察しようとした場合、その薄膜の表面にはプローブが接続されているうえ、そのプローブとの固着材としての堆積膜が形成されているので、事実上、観察することは不可能である。そこで、より大きな表面積を有する解析用試料を切り出し、プローブや堆積膜が設けられていない薄膜表面を確保する方法が考えられる。しかし、その方法を採用する場合、特に解析用試料の底面(表面とは反対側の面)をエッチングにより形成する際の加工時間が、表面積の大きさに応じて増大してしまうという問題がある。その上、集束イオンビームの入射方向を薄膜表面と平行にすることは不可能であり、斜め方向とせざるを得ないことから、必然的に解析用試料の底面は、薄膜表面に対して傾斜してしまう。このため、表面積の増大が解析用試料自体の厚みの増大を伴うこととなるので、現実的には20μm角程度の表面積が上限となる(すなわち、解析対象領域の表面積は薄膜の膜厚に制限される)。仮にこのような方法を採用したとしても、解析用試料が傾斜した底面を有しているので、そのままではSEM観察には不適である。したがって、SEM観察に適した薄片試料とするために、さらなる追加工が必要となる。
【0008】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、薄膜の表面状態および表面と平行な面内における状態の解析に適した試料を容易に作製することの可能な試料作製方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、そのような作製方法によって得られた試料を用いて、薄膜の表面状態および表面と平行な面内における状態の解析を容易におこなうことの可能な試料解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る試料作製方法は、以下に示す(1)から(3)の各工程を含むようにしたものである。
(1)基板上に、可溶膜と中間膜と解析対象領域を含む解析対象膜とが基板の側から順に積層された積層膜を形成する工程。
(2)ドライエッチング法またはレーザエッチング法を用いて積層膜を選択的にエッチングすることにより、解析対象領域の外縁に沿って少なくとも可溶膜に達するエッチング溝を設け、解析対象膜パターンおよび中間膜パターンを形成する工程。
(3)基板、可溶膜および中間膜のうち可溶膜のみを溶解可能な溶剤を用いて、少なくとも中間膜パターンと接する部分の可溶膜を溶解除去することにより、解析対象膜パターンおよび中間膜パターンからなる解析用試料を形成する工程。
【0010】
本発明に係る試料作製方法では、ドライエッチング法またはレーザエッチング法により、少なくとも可溶膜に達するエッチング溝が、解析対象膜における解析対象領域の外縁に沿って連続的に形成され、さらに、可溶膜のみを溶解可能な溶剤によって、少なくとも中間膜パターンと接する部分の可溶膜が溶解除去される。この結果、解析用試料が、他の部材や手段によって支持されることなく中間膜の底面に沿って分離される。
【0011】
本発明に係る試料作製方法では、さらに、解析用試料を、その側面を把持することにより取り出す工程を含むことが望ましい。
【0012】
本発明に係る試料作製方法では、集束イオンビームまたはレーザビームを照射することにより、エッチング溝を形成することが可能である。その際、可溶膜を、半分未満の厚みとなるまで除去することが望ましい。
【0013】
本発明に係る試料作製方法では、さらに、基板上の前記解析対象領域を除く領域に、エッチング溝と連結したバッファ槽を形成する工程を含むことが望ましく、特に、エッチング溝よりも大きな領域を占めるようにバッファ槽を形成することが望ましい。
【0014】
本発明に係る試料作製方法では、金属材料を用いて可溶層を形成すると共に、溶剤として酸性溶液を用いることができる。その場合、酸化アルミニウム(Al23)を用いて基板および中間層を形成することが望ましい。さらに、酸性溶液としては、塩酸、硝酸、王水または硫酸を用い、金属材料としては、アルミニウム(Al)、金(Au)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)およびチタン(Ti)のうちの少なくとも1つを含むものを用いることができる。
【0015】
また、本発明に係る試料作製方法では、酸化シリコン(SiO2)を用いて可溶層を形成すると共に、溶剤としてフッ酸を用いるようにしてもよい。その場合、ケイ素(Si)を用いて基板および中間層を形成することが望ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る試料作製方法では、酸化アルミニウム(Al23)を用いて可溶層を形成すると共に、溶剤としてアルカリ溶液を用いるようにしてもよい。あるいは有機材料を用いて可溶層を形成すると共に、溶剤として有機溶剤を用いるようにしてもよい。その場合、有機材料としてノボラック系レジストまたはアクリル系レジストを用い、有機溶剤としては少なくともN−メチルピロリドンを含むものを用いる。
【0017】
本発明に係る試料解析方法は、解析用試料の作製をおこなう試料作製工程と、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて解析用試料を解析する試料解析工程とを含むようにしたものである。上記試料作製工程は、以下に示す(1)から(3)の各工程を含んでいる。
(1)基板上に、可溶膜と中間膜と解析対象領域を含む解析対象膜とが基板の側から順に積層された積層膜を形成する工程。
(2)ドライエッチング法またはレーザエッチング法を用いて積層膜を選択的にエッチングすることにより、解析対象領域の外縁に沿って少なくとも可溶膜に達するエッチングを溝を設け、解析対象膜パターンおよび中間膜パターンを形成する工程。
(3)基板、可溶膜および中間膜のうち可溶膜のみを溶解可能な溶剤を用いて、少なくとも中間膜パターンと接する部分の可溶膜を溶解除去することにより、解析対象膜パターンおよび中間膜パターンからなる解析用試料を形成する工程。
【0018】
本発明に係る試料解析方法では、試料作製工程において、ドライエッチング法またはレーザエッチング法により、少なくとも可溶膜に達するエッチング溝が、解析対象膜における解析対象領域の外縁に沿って連続的に形成され、さらに、可溶膜のみを溶解可能な溶剤によって、少なくとも中間膜パターンと接する部分の可溶膜が溶解除去される。この結果、中間膜の底面に沿って解析用試料が分離される。
【0019】
本発明に係る試料解析方法では、試料作製工程において、さらに、解析用試料を、その側面を把持することにより取り出す工程を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る試料作製方法によれば、ドライエッチング法またはレーザエッチング法により、少なくとも可溶膜に達するエッチング溝を解析対象膜における解析対象領域の外縁に沿って連続的に形成し、さらに、可溶膜のみを溶解可能な溶剤によって、少なくとも中間膜パターンと接する部分の可溶膜を溶解除去するようにしたので、底面が平坦である解析用試料を作製することができる。中間膜および解析対象膜の厚みを成膜時に制御することにより、所望の厚みをなす解析用試料が得られる。よって、追加工をおこなわずとも解析の目的や用途に応じた解析用試料とすることができる。
【0021】
本発明に係る試料作製方法によれば、特に、解析用試料の側面を把持することにより取り出すようにすると、解析対象膜パターンの表面に触れることなく、容易に解析用試料を取り出すことができる。したがって、解析対象膜の表面状態や解析対象膜の表面と平行な面内における状態の解析に適した試料とすることができる。
【0022】
本発明に係る試料解析方法によれば、試料作製工程において、底面が平坦であると共に走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡における解析に適した厚みをなす解析用試料を作製することができ、より簡便に試料の解析をおこなうことができる。
【0023】
本発明に係る試料解析方法によれば、試料作製工程において、特に、解析用試料の側面を把持することにより取り出すようにすると、解析対象膜パターンの表面に触れることなく、容易に解析用試料を取り出すことができる。したがって、解析対象膜の表面状態や解析対象膜の表面と平行な面内における状態についての正確な解析を、容易におこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
最初に、図1〜図6を参照して、本発明の一実施の形態に係る試料作製方法を説明する。本実施の形態の試料作製方法は、図1に示したように、所定のウェハ上に形成された積層膜10Zから解析対象とする領域(解析対象領域)10Rに相当する部分を取り出すことにより、解析用試料10(図5)を作製するものである。特に、本実施の形態では、集束イオンビーム(FIB)エッチング法と化学的エッチング法とを併用する。
【0026】
具体的には、まず、図2に示したように、例えば酸化アルミニウム(Al23)やアルティック(Al23・TiC)からなるウェハ11の上に、可溶膜12と、中間膜13Zと、解析対象膜14Zとを順に積層することにより積層膜10Zを形成する。ここでは、例えばスパッタリング法を用いることができる。
【0027】
解析対象膜14Zは例えば金属からなる単層膜または積層膜であり、具体例としては、薄膜磁気ヘッドにおける磁気抵抗効果素子である。可溶膜12は、アルミニウム(Al)、金(Au)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)およびチタン(Ti)の単体、あるいはこれらの元素を任意に組み合わせた合金などの金属材料を用いて形成される。例えば、上記のように磁気抵抗効果膜を解析対象膜14Zとした場合、薄膜磁気ヘッドのシールド層(例えば2μm厚)や電極膜(例えば5nm厚のチタン層と50nm厚の銅層との積層膜)が可溶膜12に相当する。中間膜13Zは、例えば30nm〜50nmの厚みをなすAl23層である。また、解析対象膜14Zを薄膜磁気ヘッドにおける書込用磁極先端部(ポール)とし、可溶膜12をシールド層とした場合には、中間膜13Zは、例えば2μm〜3μmの厚みをなすAl23層である。中間膜13Zは、試料作製上の容易性を確保するため、5μm以下であることが望ましい。
【0028】
積層膜10Zを形成したのち、解析対象膜14Zにおける解析対象領域10Rを取り囲むように走査しながら集束イオンビーム(FIB)を照射する。ここでは、解析対象領域10Rを、例えば一辺が200μmである正方形とする。図3に示したように、この正方形の輪郭に沿って、積層膜10Zの表面(すなわち、解析対象膜14Zの表面)14Sに対して垂直な方向にFIB15Aを照射すると共に、FIB15Aと角度θをなすFIB15Bを照射することにより、厚み方向において積層膜10Zの表面14Sから可溶膜12に達するまで選択的に除去する。ここで、可溶膜12を、もとの厚みの半分未満の厚みとなるまで除去することが望ましい。この結果、エッチング溝16が、解析対象領域10Rを取り囲むように形成され、解析対象膜パターン14および中間膜パターン13が形成される。この際、FIB15AとFIB15Bとが互いに角度θをなすようにしたので、エッチング溝16の断面形状が、表面14Sへ向かうほど幅が拡がるくさび形となる。このような断面形状とすることにより、次の工程でのエッチング液17(図4)の注入が容易となるうえ、最終的に得られる解析用試料10を取り出す際の作業性が向上する。
【0029】
次に、図4に示したように、このエッチング溝16へ、エッチング液17を注入する。その際、エッチング液17によって解析対象膜14Zの表面14Sを汚さないようにする。エッチング液17は、ウェハ11、可溶膜12および中間膜13Zのうち、可溶膜12のみを溶解可能な酸性溶液である。具体的には、塩酸、硝酸、王水または硫酸を用いる。このようなエッチング液17を注入することにより、可溶膜12のうち、中間膜パターン13と接する部分(底部12B)およびその周辺部分を溶解除去することができる(図5参照)。この際、必要に応じてエッチング液17を追加注入する。
【0030】
底部12Bを溶解することにより、解析対象領域10Rにおける中間膜13Zおよび解析対象膜14Zの周囲が全て除去されて孤立することとなり、解析用試料10が形成される。解析用試料10は、中間膜パターン13と解析対象膜パターン14との積層体であり、側面10Wおよび底面10Bを有するものである。ここでは、エッチング液17を注入したのち、超音波を加えるなどして振動を与えることにより底部12Bの溶解を促進するようにしてもよい。
【0031】
十分に底部12Bが溶解したのち、図6に示したように、ピンセット等により解析用試料10を取り出す。この際、解析用試料10の両側面10Wを把持するようにすると、表面14Sに触れることなく取り出せる。また、エッチング溝16の断面形状を表面14Sへ向かうほど幅が拡がるようなくさび型としたことにより、比較的容易に取り出すことができる。以上により、解析対象膜パターン14の表面14Sに汚れのない解析用試料10を得ることができる。なお、TEMなどを用いて解析対象膜パターン14の内部構造を観察する場合には、電子線を透過させるため、必要に応じて、さらに解析用試料10を電解研磨(electrical polishing)などによって数十〜100nmの厚みとなるように調整する。
【0032】
また、図7(A),(B)に示したように、予めウェハ11上の解析対象領域10Rを除く領域に、流路19によってエッチング溝16と連結したバッファ槽18を設けるようにすることが好ましい。図7(A)は平面構成を表し、図7(B)は、図7(A)に示したVII−VII切断線に沿った矢視方向における断面構成を表すものである。バッファ槽18はエッチング溝16よりも大きな面積を占めており、平面形状がほぼ円形である。流路19は、その深さがバッファ槽18の底面よりも浅く、バッファ槽18とエッチング溝16とを結ぶ方向に細長く延びている。このため、解析対象領域10Rから離れたバッファ槽18へエッチング液17を注入することで、流路19を介して間接的にエッチング溝16へ注入することができる。さらに、流路19の底面がバッファ槽18の底面よりも浅いことから、バッファ槽18へ注いだエッチング液17の液面高さが流路19の底面19Bよりも高くなるようにしたときに、エッチング溝16への注入がおこなわれる。したがって、バッファ槽18およびエッチング溝16における両者の液面高さを比較しながら、適宜、バッファ槽18へエッチング液17を追加することにより、流路19を通じて必要量のエッチング液17をエッチング溝16に満たすことができる。この際、バッファ槽18はエッチング溝16よりも大きな面積を占めていることから、エッチング溝16へ直接注ぐ場合と比べ、液面高さの変化が緩やかになる。したがって、表面14Sを汚さないようにするための過度な注意が不要となり、比較的容易にエッチング液17を注入することができる。なお、バッファ槽18の平面形状は円形に限定されるものではなく、四角形やその他の多角形をなすようにしてもよい。
【0033】
続いて、図8および図9を参照して、本発明の一実施の形態に係る試料解析方法を説明する。本実施の形態の試料解析方法は、上記の試料作製方法によって得られた解析用試料10を、SEMまたはTEMを用いて解析するものである。
【0034】
図8は、本実施の形態の試料解析方法において使用するSEM20の構成を表すものである。このSEM20は、解析用試料10に対して電子線を照射することによって得られる(解析用試料10からの)二次電子等を用いて、その表面における微細構造の観察をおこなうものである。TEMとは異なり立体像が得られるうえ、解析用試料10の表面14Sが大きな凹凸を有する場合であっても観察域のほぼ全面に焦点を合わせることができる。また、電子線が照射された解析用試料10は、二次電子のほか、反射電子、オージェ電子あるいはX線(特性X線および連続X線)を放出するので、これを所定の検出器で検出することにより、各種の解析が可能となる。例えば、特性Xを検出することにより、元素分析(元素の定性分析や元素の分布状態の調査)をおこなうことができる。
【0035】
このSEM20は、解析用試料10の側から順に光軸Z1に沿って走査コイル22、対物レンズ23、集束レンズ24、電子銃25を備えており、解析用試料10と共に筐体(図示せず)に収容されている。さらに、筐体には、解析用試料10からの二次電子等を検出する検出器26が設けられている。検出器26は、光電子倍増管(PMT)などの映像増幅器27を介して陰極線管(CRT)28に接続されている。
【0036】
電子銃25は、熱電子放射型と呼ばれる電子線源であり、主に、カソード(フィラメント)25A、ウェーネルト25Bおよびアノード(加速電極)25Cによって構成されている。カソード25Aは例えばタングステン(W)からなり、電圧の印加によって加熱され、電子を放出するようになっている。また、アノード25Cをアース電位として、カソード25Aにはマイナスの電圧が印加される。ウェーネルト25Bに対しては、カソード25Aよりも僅かに低いマイナス電圧(バイアス電圧)が印加される。ウェーネルト25Bは、カソード25Aからの電子を集束して電子密度の高い電子線束を形成するものである。ウェーネルト25Bを通過した直後の電子線束の直径は、例えば10μm〜30μm程度である。アノード25Cは、ウェーネルト25Bからの電子線束を加速するように機能する。
【0037】
対物レンズ23および集束レンズ24は、電子レンズと呼ばれ、電界や磁界を発生することにより、電子銃25からの電子線束を、最終的に解析用試料10の表面14Sに照射するまでの間に数nm程度のスポット径となるように縮小させるものである。必要に応じて電子絞りを設けるようにしてもよい。
【0038】
走査コイル22は一組の偏向コイルであり、磁界を発生することにより電子銃25からの電子線束を任意の方向に走査するためのものである。走査コイル22は、図8に示したように対物レンズ23よりも解析用試料10側へ配置されてもよいし、あるいは集束レンズ24と対物レンズ23との間に配置されるようにしてもよい。
【0039】
このような構成のSEM20においては、まず、筐体の内部を真空状態とする。次に、カソード25Aを加熱することにより電子を放出させ、ウェーネルト25Bにおいてこれを集束して電子線束を形成し、さらにアノード25Cによってその電子線束を加速して集束レンズ24へ向けて放射させる。電子線束を、集束レンズ24および対物レンズ23を通過させることにより微小なスポット径に絞り込むと共に、走査コイル22によって解析用試料10の解析対象膜パターン14における所望の領域へ導く。解析用試料10に電子線束を照射することにより、二次電子等が放出されるので、これらを検出器26によって捕獲する。検出器26における蛍光面と衝突した二次電子は、光に変換される。この光を映像増幅器27によって増幅したのち、陰極線管28へ投入することにより、画面上に、解析用試料10の表面14Sの観察像を表示させることができる。
【0040】
一方、図9は、本実施の形態の試料解析方法において使用するTEM30の構成を表すものである。TEM30は、解析用試料10を透過させることによって得られる解析用試料10の情報を有する電子線を用いて、その内部の微細構造の観察をおこなうものである。TEMでは、数万倍以上の投影像を得ることにより原子レベルの観察を行うことができるうえ、SEMと同様、電子線を照射することにより解析用試料10が反射電子、オージェ電子あるいはX線(特性X線および連続X線)を放出するので、これを利用して各種の解析をおこなうことができる。TEM30は、図示しない筐体の内部に、電子線源としての電子銃31と、照射レンズ系32と、結像レンズ系33と、撮像素子34とが順に配設されたものである。解析用試料10は、照射レンズ系32と結像レンズ系33との間に設けられる。電子銃31は、SEM20における電子銃25と同様の構成であり、カソード31A、ウェーネルト31Bおよびアノード31Cを備えている。照射レンズ系32は、第1および第2の集束レンズ32A,32Bを有し、電子銃31からの電子線束を解析用試料10に照射するものである。結像レンズ系33は、解析用試料10を透過した電子線束を拡大するための対物レンズ33Aおよび中間レンズ33Bと、撮像素子34の上に結像させるための投影レンズ33Cとを有している。撮像素子34は、例えば電荷結合素子(CCD;Charge Coupled Device )である。
【0041】
このような構成のTEM30においては、まず、筐体の内部を真空状態とする。次に、カソード31Aを加熱することにより電子を放出させ、ウェーネルト31Bにおいてこれを収束して電子密度の高い電子線束を形成し、さらにアノード31Cによってその電子線束を加速して照射レンズ系32へ向けて放射させる。電子線束を、照射レンズ系32によって微小なスポット径に絞り込み、解析用試料10へ照射する。照射された電子線束は解析用試料10を透過するので、これを結像レンズ系33を介して撮像素子34へ投影することにより、解析用試料10の内部構造の観察像を得ることができる。なお、撮像素子34のかわりに蛍光板を用いるようにしてもよい。
【0042】
以上のように、本実施の形態によれば、まず、積層膜10Zに対してFIB15A,15Bを照射することにより、解析対象領域10Rを取り囲むように可溶膜12に達するエッチング溝16を形成したので、すなわち、FIBエッチング法により側面10Wを形成するようにしたので、フォトリソグラフィ法などと比べ、より高い寸法精度を確保することができる。
【0043】
一方、化学的ウェットエッチング法により底面10Bを形成するようにしたので、(具体的には、ウェハ11、可溶膜12および中間膜13Zのうち可溶膜12のみを溶解可能なエッチング液17を用いて底部12Bおよびその周辺部分を溶解除去するようにしたので、)解析対象領域10Rが比較的大きな、例えば、20μm×20μmを超えるような寸法を有する場合(例えば200μm×200μm)であっても、FIBエッチング法で底面を形成する場合とは異なり、表面14Sと平行な底面10Bを形成することができるうえ、解析用試料10全体の厚みも低減できる。さらに、得られた解析用試料10の側面10Wを把持して取り出すようにしたので、解析対象膜パターン14の表面14Sの汚れを防ぐことができる。
【0044】
このような解析用試料10の解析対象領域10Rについて、SEMまたはTEMを用いて解析するようにしたので、表面14Sの状態や表面14Sと平行な面内の状態についての正確な解析を容易におこなうことができる。なお、解析用試料10を切断して積層断面を形成した場合、その積層断面の解析も可能である。
【0045】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、金属材料を用いて可溶膜を形成すると共に溶剤として酸性溶液を用いるようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、酸化シリコン(SiO2)を用いて可溶膜を形成すると共に溶剤としてフッ酸を用いるようにしてもよい。その場合には、ケイ素(Si)を用いて基板および中間膜を形成することが望ましい。また、金属材料を用いて基板および中間膜を形成することもできる。その場合、例えば酸化アルミニウム(Al23)を用いて可溶膜を形成すると共に溶剤としてアルカリ溶液を用いるようにすればよい。あるいは、有機材料を用いて可溶膜を形成すると共に溶剤として有機溶剤を用いるようにしてもよい。具体例としては、有機材料としてノボラック系レジストまたはアクリル系レジストを用い、有機溶剤として少なくともN−メチルピロリドンを含むものを用いることが挙げられる。
【0046】
また、上記実施の形態では、解析対象膜が、金属からなる単層膜または積層膜であるとしたが、これに限らず、レジスト膜(有機機能膜)やダイヤモンドライクカーボン(DLC)、またはその他の絶縁材料によって構成された単層膜または積層膜であってもよい。
【0047】
また、上記実施の形態では、FIBを照射することにより、エッチング溝を形成し、解析対象膜パターンを得るようにしたが、これに限らず、レーザビームを照射するようにしてもよい。あるいは、所定形状のフォトレジストマスクを設けたのち、ミリングによりエッチング溝を形成するようにすることもできる。
【0048】
また、上記実施の形態では、SEMおよびTEMを用い、電子線を照射して解析用試料の解析を行う場合について説明するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、X線やイオンビームを照射して解析を行う解析手法を用いることもできる。そのような解析手法の例としては、X線光電子分光法(XPS;X-ray Photoelectron Spectroscopy)、2次イオン質量分析法(SIMS;Secondary Ion Mass Spectrometry)またはラザフォード後方散乱分析法(RBS;Rutherford Backscattering Spectrometry )などが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の試料作製方法および試料解析方法は、例えば、半導体素子や磁気抵抗効果素子などの電子・磁気デバイスに含まれる各種の薄膜パターンの解析に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る試料作製方法における一工程を表す平面図である。
【図2】図1に示した平面図に対応する断面図である。
【図3】図1に続く一工程を表す断面図である。
【図4】図3に続く一工程を表す断面図である。
【図5】図4に続く一工程を表す断面図である。
【図6】図5に続く一工程を表す断面図である。
【図7】図4に示した工程の変形例を表す断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係る試料解析方法において用いるSEMの構成を表す概略図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る試料解析方法において用いるTEMの構成を表す概略図である。
【符号の説明】
【0051】
10…解析用試料、10R…解析対象領域、10Z…積層膜、11…ウェハ、12…可溶膜、12B…底部、13…中間膜パターン、13Z…中間膜、14…解析対象膜パターン、14S…表面、14Z…解析対象膜、15(15A,15B)…集束イオンビーム(FIB)、16…エッチング溝、17…エッチング液、18…バッファ槽、19…流路、20…SEM、22…走査コイル、23…対物レンズ、24…集束レンズ、25…電子銃、26…検出器、27…映像増幅器、28…陰極線管(CRT)、30…TEM、31…電子銃、32…照射レンズ系、33…結像レンズ系、34…撮像素子。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、可溶膜と中間膜と解析対象領域を含む解析対象膜とが前記基板の側から順に積層された積層膜を形成する工程と、
ドライエッチング法またはレーザエッチング法を用いて前記積層膜を選択的にエッチングすることにより、前記解析対象領域の外縁に沿って少なくとも前記可溶膜に達するエッチング溝を設け、解析対象膜パターンおよび中間膜パターンを形成する工程と、
前記基板、可溶膜および中間膜のうち前記可溶膜のみを溶解可能な溶剤を用いて、少なくとも前記中間膜パターンと接する部分の前記可溶膜を溶解除去することにより、前記解析対象膜パターンおよび中間膜パターンからなる解析用試料を形成する工程と
を含むことを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
さらに、前記解析用試料を、その側面を把持することにより取り出す工程を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の試料作製方法。
【請求項3】
集束イオンビームまたはレーザビームを照射することにより前記エッチング溝を形成する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の試料作製方法。
【請求項4】
前記可溶膜を、半分未満の厚みとなるまで溶解除去する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項5】
さらに、前記基板上の前記解析対象領域を除く領域に、前記エッチング溝と連結したバッファ槽を形成する工程を含む
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項6】
前記エッチング溝よりも大きな領域を占めるように前記バッファ槽を形成する
ことを特徴とする請求項5に記載の試料作製方法。
【請求項7】
金属材料を用いて前記可溶膜を形成すると共に、前記溶剤として酸性溶液を用いる
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項8】
前記酸性溶液として、塩酸、硝酸、王水または硫酸を用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の試料作製方法。
【請求項9】
前記金属材料として、アルミニウム(Al)、金(Au)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)およびチタン(Ti)のうちの少なくとも1つを含むものを用いる
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の試料作製方法。
【請求項10】
酸化アルミニウム(Al23)を用いて前記基板および中間膜を形成する
ことを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項11】
酸化シリコン(SiO2)を用いて前記可溶膜を形成すると共に、前記溶剤としてフッ酸を用いる
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項12】
ケイ素(Si)を用いて前記基板および中間膜を形成する
ことを特徴とする請求項11に記載の試料作製方法。
【請求項13】
酸化アルミニウム(Al23)を用いて前記可溶膜を形成すると共に、前記溶剤としてアルカリ溶液を用いる
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項14】
有機材料を用いて前記可溶膜を形成すると共に、前記溶剤として有機溶剤を用いる
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項15】
前記有機材料としてノボラック系レジストまたはアクリル系レジストを用い、前記有機溶剤として少なくともN−メチルピロリドンを含むものを用いる
ことを特徴とする請求項14に記載の試料作製方法。
【請求項16】
金属材料を用いて前記基板および中間膜を形成する
ことを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項17】
前記金属材料として、アルミニウム(Al)、金(Au)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)およびチタン(Ti)のうちの少なくとも1つを含むものを用いる
ことを特徴とする請求項16に記載の試料作製方法。
【請求項18】
解析用試料の作製をおこなう試料作製工程と、
走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて前記解析用試料を解析する試料解析工程とを含み、
前記試料作製工程は、
基板上に、可溶膜と中間膜と解析対象領域を含む解析対象膜とが前記基板の側から順に積層された積層膜を形成する工程と、
ドライエッチング法またはレーザエッチング法を用いて前記積層膜を選択的にエッチングすることにより、前記解析対象領域の外縁に沿って少なくとも前記可溶膜に達するエッチングを溝を設け、解析対象膜パターンおよび中間膜パターンを形成する工程と、
前記基板、可溶膜および中間膜のうち前記可溶膜のみを溶解可能な溶剤を用いて、少なくとも前記中間膜パターンと接する部分の前記可溶膜を溶解除去することにより、前記解析対象膜パターンおよび中間膜パターンからなる解析用試料を形成する工程と
を含むことを特徴とする試料解析方法。
【請求項19】
前記試料作製工程は、さらに、前記解析用試料を、その側面を把持することにより取り出す工程を含む
ことを特徴とする請求項18に記載の試料解析方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−10397(P2006−10397A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185030(P2004−185030)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】