説明

負荷回路の保護装置

【課題】負荷回路でデッドショートが発生した場合に、即時にこの負荷回路のみを遮断して負荷回路を保護する負荷回路の保護装置を提供する。
【解決手段】複数の負荷回路と電源VBを接続する共通配線に生じる逆起電力E1を検出するE1検出回路13と、各負荷回路を接続する負荷接続配線の一部に生じる逆起電力E2を検出するE2検出回路12を備える。そして、E1検出回路13にて共通配線に生じる逆起電力E1が所定の閾値を超えたことが検出され、且つ、E2検出回路12にて負荷接続配線にE1と同一の向きとなる逆起電力E2が発生した場合に、この負荷回路を遮断する。従って、短絡事故が発生した場合には即時にこの負荷回路を遮断することができる。また、その他の負荷回路を継続して作動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一の電源に複数系統の負荷回路を接続し、このうち任意の負荷回路にて短絡事故が発生した場合に、この短絡事故が発生した負荷回路のみを遮断して保護する負荷回路の保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両に搭載されるランプ、モータ等の負荷は、半導体スイッチを介して電源(バッテリ)と接続される。即ち、車両に搭載される電源には、半導体スイッチと負荷が直列接続された負荷回路が複数系統接続され、各負荷回路に設けられた半導体スイッチをオン、オフ操作することにより、各負荷の駆動、停止が制御される。
【0003】
また、各負荷回路のうちのいずれかにて、デッドショート等の短絡事故に起因する過電流が生じた場合に、いち早く半導体スイッチを遮断して負荷回路を保護するために、保護装置が設けられている。このような負荷回路の保護装置の従来例として、例えば特開2006−24997号公報(特許文献1)、特開2007−85861号公報(特許文献2)に記載されたものが知られている。
【0004】
図4は、特許文献1に記載された負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。図4に示す回路では、電源VBに対して2系統の負荷回路(第1の負荷回路「A」、第2の負荷回路「B」)が並列的に接続される例について示している。即ち、電源VBには、MOSFET(T101;半導体スイッチ)と、負荷111(ランプ、モータ等)との直列接続からなる第1の負荷回路「A」、及び、MOSFET(T101-1)と、負荷111-1との直列接続からなる第1の負荷回路「B」が接続されている。なお、第1の負荷回路「A」と第2の負荷回路「B」は同一構成であるので、以下では第1の負荷回路「A」についてのみ説明し、第2の負荷回路「B」については、サフィックス「-1」を付して説明を省略する。
【0005】
図4に示す回路において、MOSFET(T101)のドレインである点P1は、E1検出回路112に接続されている。該E1検出回路112は、負荷回路「A」、「B」に共通して設けられ、点P1と電源VBのプラス端子との間の配線(抵抗Rw1、インダクタンスL1)に発生する逆起電力E1を検出し、この逆起電力E1が所定のレベルに達した場合に、Hレベルの検出信号をアンド回路AND102の一方の入力端子に出力する。
【0006】
MOSFET(T101)の両端はVDS検出回路113に接続され、該VDS検出回路113では、MOSFET(T101)の両端電圧を測定し、この両端電圧が所定値に達した場合には、Hレベルの検出信号をアンド回路AND102の他方の入力端子に出力する。
【0007】
そして、電源VBと抵抗R106の間に設けられたスイッチSW101がオンとされると、アンド回路AND101を介してドライバ114に駆動指令が入力され、ドライバ114はこの駆動指令を受けて、MOSFET(T101)のゲートにHレベルの駆動信号を出力する。これにより、MOSFET(T101)がオンとなって、負荷111が駆動する。
【0008】
また、負荷回路「A」のいずれか地点にて、デッドショート等の短絡事故が発生した場合には、過大な逆起電力E1が発生し、且つ、MOSFET(T101)の両端電圧が所定値を超えるので、アンド回路AND102の出力信号がHレベルとなり、このHレベル信号はラッチDF101に供給される。その結果、アンド回路AND101の出力をLレベルとし、且つ、MOSFET(T103)をオンとすることにより、MOSFET(T101)のゲートをグランドに接地して、負荷回路「A」を遮断する。つまり、短絡事故が発生した負荷回路「A」は遮断されて回路が保護されることになる。
【0009】
この際、負荷回路「B」では、負荷回路「A」の遮断とは関係なく、駆動状態を維持することができる。つまり、図4に示す回路では、複数系統の負荷回路のうち、短絡事故が発生した負荷回路のみを遮断し、それ以外の負荷回路を通常通りに作動させることができる。
【特許文献1】特開2006−24997号公報
【特許文献2】特開2007−85861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された従来例では、負荷回路「A」でデッドショートが発生した場合には、E1検出回路112では逆起電力E1の発生を即時に検出するものの、MOSFET(T101)の両端に生じる電圧が所定値を超えるまでに長時間を要してしまうので、VDS検出回路113の出力信号がHレベルとなるまでに、長時間を要してしまい、ひいてはMOSFET(T101)の遮断が遅れるという欠点があった。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、負荷回路でデッドショートが発生した場合に、即時にこの負荷回路のみを遮断して負荷回路を保護する負荷回路の保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、負荷接続配線を介して半導体スイッチと負荷が接続された負荷回路を複数個並列接続し、前記各負荷回路と電源を、各負荷回路に対して共通となる共通配線を介して接続し、少なくとも一つの負荷回路にて過電流が発生した際に、該過電流が発生した負荷回路を遮断する負荷回路の保護装置において、前記共通配線に生じる第1の逆起電力を検出する第1の逆起電力検出手段と、少なくとも一つの負荷回路に設けられ、前記負荷接続配線に、前記第1の逆起電力と同一方向となる第2の逆起電力が発生するか否かを検出する第2の逆起電力検出手段と、前記第1の逆起電力が所定の閾値を超え、且つ、前記負荷接続配線に前記第2の逆起電力が発生した場合に、この負荷接続配線を有する負荷回路を遮断する遮断制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記負荷接続配線は、前記共通配線から各負荷回路に分岐する分岐点と、各負荷回路がグランドに接地される接地点との間に用いられる配線であり、前記第2の逆起電力検出手段は、前記負荷接続配線の一部に存在するインダクタンス成分に起因して生じる逆起電力を検出することを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、負荷接続配線を介して半導体スイッチと負荷が接続された負荷回路を複数個並列接続し、前記各負荷回路と電源を、各負荷回路に対して共通となる共通配線を介して接続し、少なくとも一つの負荷回路にて過電流が発生した際に、該過電流が発生した負荷回路を遮断する負荷回路の保護装置において、前記共通配線に生じる第1の逆起電力を検出する第1の逆起電力検出手段と、少なくとも一つの負荷回路に設けられ、前記半導体スイッチ及び前記負荷接続配線の一部からなる区間を設定し、前記区間に生じる電圧降下を測定し、前記第1の逆起電力が所定の閾値を超え、且つ、前記区間での電圧降下が所定の判定値を超えた場合に、この負荷接続配線を有する負荷回路を遮断する遮断制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る負荷回路の保護装置では、共通配線(点P1〜VB間の配線)に発生する第1の逆起電力E1が所定値を超えたか否かついての判定は、第1の逆起電力検出手段により短絡が発生した瞬間に実施可能であり、その後の短絡が発生した負荷回路の識別についても極めて短時間に実施できるので、短絡発生から遮断までに要する時間を従来と比較して短くすることができる。
【0016】
このため、半導体スイッチ及び配線に短絡電流が流れることにより発生する電力損失及びこれに伴う発熱を抑制することができ、配線系の保護性能、特に半導体スイッチの保護性能が向上する。また、共通配線に発生する逆起電力E1が所定値を超えるという現象は、いずれかの負荷回路の負荷接続配線に短絡接地が発生したときに起こる特有の現象であり、その他の要因で発生することはないので、判定時間を短く設定しても誤判定の恐れは無い。従って、本発明により、高速遮断でありながら、信頼性の高い負荷回路の保護装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1実施形態の構成説明]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。同図に示す負荷回路は、例えば、車両に搭載されるランプ、モータ等の負荷11(抵抗Rz、インダクタンスLz)を駆動させるための回路であり、MOSFET(T1;半導体スイッチ)と負荷11との直列接続回路を備えている。そして、負荷回路は複数系統が設けられており(図では2系統のみを記載)、各負荷回路の結合点である点P1は、抵抗Rw1、インダクタンスL1を有する配線(以下、「共通配線」と称する)を介して、電源VBのプラス端子に接続されている。
【0018】
また、点P1はE1検出回路13(第1の逆起電力検出手段)に接続され、MOSFET(T1)のゲートは制御回路14(遮断制御手段)に接続され、MOSFET(T1)のソースである点P2、及びMOSFET(T1)と負荷11を接続する配線(以下、「負荷接続配線」と称する)の中間に設定した点P3は、それぞれE2検出回路12(第2の逆起電力検出手段)に接続されている。ここで、点P2とP3の間の負荷接続配線にはインダクタンスが存在し、このインダクタンスをLxとする。また、点P3と負荷11との間の負荷接続配線の抵抗をRw2、インダクタンスをL2とする。
【0019】
制御回路14は、スイッチSW1と、チャージポンプ141と、ドライバ142と、ラッチ回路DF1と、MOSFET(T3)等を備えている。スイッチSW1の一端は電源VBに接続され、他端は2系統に分岐しこのうち一方の分岐線は抵抗R11を介してグランドに接地され、他方の分岐線はアンド回路AND1の一方の入力端子に接続されている。また、該アンド回路AND1の他方の入力端子は、ラッチDF1の−Q出力に接続されている。
【0020】
アンド回路AND1の出力端子は、ドライバ142に接続され、該ドライバ142はチャージポンプ141と接続され、更に、該ドライバ142の出力端子は、抵抗R10を介してMOSFET(T1)のゲートに接続されている。そして、アンド回路AND1の出力信号がHレベルとなった場合に、電源電圧VBよりも高い電圧となる駆動信号を、MOSFET(T1)のゲートに出力して該MOSFET(T1)をオンとする。
【0021】
抵抗R10の一端は、MOSFET(T3)を介してグランドに接地されており、該MOSFET(T3)のゲートは、ラッチDF1の+Q出力に接続されている。また、ラッチDF1には、アンド回路AND2の出力端子が接続されている。なお、図中の抵抗、コンデンサの符号の下に示す数値は、これらの具体的な値を示している。例えば、抵抗R10の抵抗値は、一例として1.5[KΩ]である。
【0022】
E1検出回路13は、複数の負荷回路に対して一つ設けられ、コンパレータCMP2を備え、該コンパレータCMP2の反転側入力端子は点P1に接続されている。また、抵抗R1とR2の直列接続回路を備え、該直列接続回路は点P1とグランドとの間に設けられ、抵抗R1とR2の接続点である点P4(電圧V4)はコンパレータCMP2の正転側入力端子に接続されている。更に、点P4はコンデンサC1を介してグランドに接地されている。コンパレータCMP2の出力端子は、アンド回路AND2の一方の入力端子に接続される。なお、コンパレータCMP2の出力端子は、複数の系統に分岐し、各負荷回路に設けられるアンド回路AND2に接続される。
【0023】
E2検出回路12は、点P2〜P3間に生じる電圧を監視することにより、負荷回路に逆起電力E1と同一方向の逆起電力E2が発生したか否かを判定するものであり、アンプAMP1と、コンパレータCMP1と、MOSFET(T2)、及び抵抗R3,R4,R5,R6を備えている。
【0024】
MOSFET(T1)のソースである点P2(電圧V2)は、抵抗R3、MOSFET(T2)、及び抵抗R4の直列接続回路を介してグランドに接地されており、抵抗R3とMOSFET(T2)の接続点はアンプAMP1の正転側入力端子に接続されている。また、点P3はアンプAMP1の反転側入力端子に接続されて、該アンプAMP1の出力端子はMOSFET(T2)のゲートに接続されている。
【0025】
更に、MOSFET(T2)のソースである点P5は、コンパレータCMP1の正転側入力端子に接続されている。また、抵抗R5とR6の直列接続回路が点P1とグランドとの間に設けられ、抵抗R5とR6の接続点である点P6(電圧V6)は、コンパレータCMP1の反転側入力端子に接続されている。電圧V6は、逆起電力E2が発生したか否かを判定するための判定電圧(所定の判定値)として用いられる。
【0026】
また、図示を省略しているが、図1に示すMOSFET(T1-1)、負荷11-1を備える負荷回路においても、上述した制御回路14、及びE2検出回路12を備えている。
【0027】
[第1実施形態の動作説明]
次に、上記した負荷回路の保護装置の動作について説明する。スイッチSW1がオンとされると、アンド回路AND1の一方の入力端子にHレベル信号が入力され、且つ、ラッチDF1の−Q出力がHレベルであるので、アンド回路AND1の出力がHレベルとなってドライバ142に供給される。これにより、ドライバ142はチャージポンプ141より出力される電圧が加えられて電源VBの出力電圧よりも10〜14[V]程度高い電圧をMOSFET(T1)のゲートに出力するので、該MOSFET(T1)がオンとなって、負荷11が駆動する。
【0028】
配線に異常がなく、負荷11が通常に駆動されているときには、P2→P3の向きに流れる電流が増加すれば、図中矢印の向きに逆起電力E2が発生し、P2→P3の向きに流れる電流が減少すれば、図中矢印の向きと反対の向きに逆起電力E2が発生する。P2→P3に流れる電流に変化がなければ、逆起電力E2はゼロである。配線に異常がないとき、図中矢印の向きに逆起電力E2が発生し、それを増幅した電圧V5が逆起電力E2の判定電圧であるV6を超えて、コンパレータCMP1の出力がHレベルに反転したとしても、配線が正常である限り、E1検出回路13が働かないようにE1検出の判定値V4が設定され、コンパレータCMP2の出力がLレベルを維持するので、アンド回路AND2の出力がHレベルに判定することはない。
【0029】
いま、点P3と負荷11とを接続する負荷接続配線でデッドショート等の短絡事故が発生し、負荷接続配線が抵抗Rw3、インダクタンスL3からなる経路によりグランドに接地された場合には、この短絡事故の発生により共通配線に逆起電力E1が発生する。そして、この逆起電力E1の発生により、点P1の電圧V1が急激に減少する。この際、時定数が存在することにより点P4の電圧V4は急激に減少できないので、電圧V1が点P4の電圧V4を下回り、その結果コンパレータCMP2の出力信号がLレベルからHレベルに反転する。即ち、逆起電力E1(第1の逆起電力)が所定の閾値を超えた場合には、コンパレータCMP2の出力信号がHレベルとなる。このHレベルの信号は、各負荷回路におけるアンド回路AND2の一方の入力端子に供給される。
【0030】
また、点P1、MOSFET(T1)、負荷11、グランドを接続する配線(負荷接続配線)にも逆起電力が発生する。ここで、点P3からP2に向く方向に発生する逆起電力E2は、点P2〜P3間のインダクタンスLx、負荷電流をIDとした場合に、下記(1)式で示される。
【0031】
E2=Lx*(dID/dt) ・・・(1)
逆起電力E2が発生すると、アンプAMP1、及びMOSFET(T2)により、逆起電力E2と抵抗R3の両端に発生する電圧が等しくなるように、該抵抗R3に流れる電流I1が制御される。従って、点P5に発生する電圧V5は、逆起電力E1を(R4/R3)倍した電圧となる。図1に示す例では、R3=5[KΩ]、R4=120[KΩ]であるので、点P5に生じる電圧V5は逆起電力E1の24倍の電圧となる。
【0032】
そして、コンパレータCMP1では、点P5の電圧V5と判定電圧V6とを比較し、電圧V5が判定電圧V6を上回った場合には、コンパレータCMP1の出力信号がLレベルからHレベルに反転する。つまり、短絡事故により逆起電力E2が発生し、該逆起電力E2を増倍した電圧V5が判定電圧V6を上回った場合に、コンパレータCMP1の出力信号がHレベルとなる。この際、逆起電力E1が発生していることにより、判定電圧V6が減少しているので、電圧V5が判定電圧V6を上回りやすくなり、ひいてはコンパレータCMP1の出力信号は反転しやすくなる。
【0033】
ここで、E2検出回路12では、逆起電力E1と同一方向の逆起電力E2が発生したか否かを検出できれば良いので、判定電圧V6は正の値であれば良いことになる。しかし、実際にはノイズ等による誤作動を回避するために、インダクタンスLxに起因して生じる逆起電力E2が20[mV]を上回った場合にV5>V6となるように(即ち、コンパレータCMP1の出力信号が反転するように)判定電圧V6を決める。
【0034】
そして、アンド回路AND2の2つの入力端子にHレベルの信号が供給されると、アンド回路AND2の出力がLレベルからHレベルに反転し、Hレベルの信号がラッチDF1に供給される。ラッチDF1の−Q出力はLレベルとなり、+Q出力はHレベルとなるので、アンド回路AND1の出力信号がLレベルとなって、MOSFET(T1)の駆動が停止する。更に、MOSFET(T3)がオンとなって、MOSFET(T1)のゲートがグランドに接地される。従って、ラッチDF1がリセットされるまで、MOSFET(T1)は遮断状態が維持される。
【0035】
この場合、短絡事故が発生した負荷回路にのみ逆起電力E2が発生するので、逆起電力E2が発生していない他の負荷回路は遮断されず、駆動状態を維持することができる。
【0036】
このようにして、第1実施形態に係る負荷回路の保護装置では、複数設けられた各負荷回路のうち、いずれかの負荷回路でデッドショート等の短絡事故が発生した場合には、複数の負荷回路で共通となる共通配線(点P1〜電源VB間の配線)に逆起電力E1(第1の逆起電力)が発生するので、この逆起電力E1がE1検出回路13にて検出され、また、短絡事故が発生した負荷回路では、負荷接続配線(点P2〜P3間の配線)に逆起電力E2が図1中の矢印の向き(即ち、逆起電力E1と同一の向き)に発生するので、この逆起電力E2がE2検出回路12で検出される。
【0037】
そして、逆起電力E1が発生し、且つ、この逆起電力E1と同一の向きに逆起電力E2が発生した場合には、MOSFET(T1)を遮断して負荷11を保護する。従って、負荷回路に短絡事故が発生した場合には、即時に負荷回路を遮断できると共に、短絡事故が発生していない他の負荷回路を継続して作動させることができる。
【0038】
なお、上記した第1実施形態では、逆起電力E2を検出する区間として、MOSFET(T1)と負荷11との間の配線の、MOSFET(T1)のソース側の一部の区間(P2〜P3間)を設定したが、本発明はこれに限定されるものではなく、点P1〜グランド間に設けられる配線のうちの一部の区間を逆起電力E2を検出する区間として設定することができる。また、上記した第1実施形態では、抵抗R3、R4を用いて逆起電力E2を増幅した電圧V5を生成する例について説明したが、増幅せずに逆起電力E2と同一の電圧を生成して判定電圧と比較する構成とすることも可能である。
【0039】
[第1実施形態の変形例]
次に、上述した第1実施形態に係る負荷回路の保護装置の変形例について説明する。図2は、変形例に係る負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。図2に示す回路では、E2検出回路12の点P6とグランドとの間にコンデンサC2が設けられている点で、図1に示した回路と相違する。そして、コンデンサC2を備えることにより、点P6の電圧V6は時定数をもって変化することになり、デッドショート等の短絡事故発生時に、点P1の電圧V1が減少した場合であっても、判定電圧V6をほぼ一定値に保持することができる。
【0040】
そして、このような構成とすることにより、前述した第1実施形態と対比して、コンパレータCMP1の出力信号の反転タイミングが若干遅くなるものの、より安定した判定電圧とすることができるので、ノイズ等に起因する誤作動の発生をより一層低減することができる。
【0041】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図3は、第2実施形態に係る負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。図3に示す回路は、前述した図1に示した回路と対比して、E2検出回路12に設けられる抵抗R3の一端が点P1に接続されている点で相違する。即ち、第1実施形態で説明した図1では、抵抗R3の一端がMOSFET(T1)のソースに接続されていたが、第2実施形態に係る図3では、点P1に接続されている。また、図3の点P2〜P3間に示すインダクタンスLxは、点P1〜P3間のインダクタンス全体を示している。即ち、インダクタンスLxは、MOSFET(T1)が有するインダクタンス成分を含んでいる。それ以外の構成は、図1と同様であるので、詳細な構成説明を省略する。
【0042】
以下、第2実施形態に係る負荷回路の保護装置の動作について説明する。図3に示すアンプAMP1及びMOSFET(T2)は、抵抗R3の両端に生じる電圧と、点P1〜P3間に生じる電圧(これをVaとする)が等しくなるように、抵抗R3に流れる電流I1を制御する。ここで、電圧VaはMOSFET(T1)のドレイン〜ソース間電圧VdsとインダクタンスLxに起因して生じる逆起電力E2の合計の電圧となる。従って、電圧Vaは、下記の(2)式で示すことができる。
【0043】
Va=E2+Vds=Lx*(dID/dt)+Ron*ID ・・・(2)
但し、RonはMOSFET(T1)のオン抵抗、IDは負荷電流である。
【0044】
そして、第2実施形態では、負荷回路で短絡事故が発生した場合に、点P1と電源VBを接続する共通配線にて逆起電力E1が発生して、前述した第1実施形態と同様にコンパレータCMP2の出力信号がHレベルとなる。
【0045】
また、短絡事故が発生した負荷回路では、インダクタンスLxに起因して生じる逆起電力E2、及び負荷電流IDが増加することにより増大するMOSFET(T1)の両端電圧Vdsの合計(=Va)が上昇し、点P5の電圧V5を上昇させる。その結果、電圧V5が判定電圧V6を上回るので、コンパレータCMP1の出力信号がHレベルに反転する。即ち、点P1〜P3の区間での電圧降下が所定の判定値を超えた場合に、コンパレータCMP1の出力信号がHレベルとなる。
【0046】
その結果、アンド回路AND2の2つの入力端子に供給される信号が共にHレベルとなって、ラッチDF1により、MOSFET(T1)のゲートをグランドに接地して、該MOSFET(T1)をオフとする。これにより、短絡事故が発生した負荷回路を保護することができ、且つ、短絡事故が発生していない他の負荷回路を継続して作動させることができる。
【0047】
このようにして、第2実施形態に係る負荷回路の保護装置では、複数設けられた各負荷回路のうち、いずれかの負荷回路でデッドショート等の短絡事故が発生した場合には、複数の負荷回路で共通となる共通配線に逆起電力E1(第1の逆起電力)が発生するので、この逆起電力E1がE1検出回路13にて検出される。また、短絡事故が発生した負荷回路では、点P1〜P3間の配線(負荷接続配線)に逆起電力E2が図3中の矢印の向き(即ち、逆起電力E1と同一の向き)に発生し、且つMOSFET(T1)の両端に発生する電圧Vdsが上昇するので、これらの合計電圧Va(=E2+Vds)が上昇し、点P5に生じる電圧V5が判定電圧V6を上回ることがE2検出回路12で検出される。その結果、ラッチDF1が作動してMOSFET(T1)を遮断し、負荷11を保護する。従って、負荷回路に短絡事故が発生した場合には、即時に負荷回路を遮断できると共に、短絡事故が発生していない他の負荷回路を継続して作動させることができる。
【0048】
ここで、第2実施形態では、E2検出回路12は、逆起電力E2とMOSFET(T1)の両端電圧Vdsとを加算して求められる電圧Vaを検出し、且つこの電圧Vaを増幅して電圧V5を生成し、該電圧V5が判定電圧V6を上回った場合に、短絡事故が発生したことを検出している。従って、第2実施形態では、判定電圧V6は配線が正常なとき(短絡事故が発生していないとき)の負荷電流IDとMOSFET(T1)のオン抵抗Ronの積(Ron*ID)を抵抗比(R4/R3)倍した電圧より大きい電圧に設定する必要がある。
【0049】
このため、前述した第1実施形態よりもデッドショート等の短絡事故が発生した負荷回路を特定するまでに長時間を要することになる。しかし、一方では第2実施形態に示した負荷回路の保護装置では、逆起電力E1やE2が判定電圧V4,V6を超えないような緩やかな増加勾配の過電流が発生した場合であっても、この過電流の発生を検出することが可能となる。
【0050】
また、従来技術で説明した図4に示す回路が、過電流の大きさのみを用いて短絡事故が発生した負荷回路を特定する構成であるのに対し、第2実施形態では過電流の大きさに比例した電圧Vds(=Ron*ID)に、過電流の増加勾配に比例した電圧(E2)を加算した電圧Va(=Vds+E2)を用いて短絡事故が発生した負荷回路を特定するので、短絡事故が発生した負荷回路を特定するまでの時間が短縮される。その短縮量も短絡電流の増加勾配の大きいほど、即ち、デッドショートの程度が大きい程大きくなる。このように、第2実施形態に係る負荷回路の保護装置では、短絡事故が発生した負荷回路を特定するまでの時間を従来に比べて大幅に短縮することができる。
【0051】
以上、本発明の負荷回路の保護装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
負荷回路に短絡が発生した場合に、短絡が発生している負荷回路のみを迅速に遮断して負荷回路を保護する上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態に係る負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。
【図2】本発明の第1実施形態の変形例に係る負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。
【図4】従来における負荷回路の保護装置の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0054】
11 負荷
12 E2検出回路(第2の逆起電力検出手段)
13 E1検出回路(第1の逆起電力検出手段)
14 制御回路(遮断制御手段)
141 チャージポンプ
142 ドライバ
T1 MOSFET(半導体スイッチ)
VB 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷接続配線を介して半導体スイッチと負荷が接続された負荷回路を複数個並列接続し、前記各負荷回路と電源を、各負荷回路に対して共通となる共通配線を介して接続し、少なくとも一つの負荷回路にて過電流が発生した際に、該過電流が発生した負荷回路を遮断する負荷回路の保護装置において、
前記共通配線に生じる第1の逆起電力を検出する第1の逆起電力検出手段と、
少なくとも一つの負荷回路に設けられ、前記負荷接続配線に、前記第1の逆起電力と同一方向となる第2の逆起電力が発生するか否かを検出する第2の逆起電力検出手段と、
前記第1の逆起電力が所定の閾値を超え、且つ、前記負荷接続配線に前記第2の逆起電力が発生した場合に、この負荷接続配線を有する負荷回路を遮断する遮断制御手段と、
を備えたことを特徴とする負荷回路の保護装置。
【請求項2】
前記負荷接続配線は、前記共通配線から各負荷回路に分岐する分岐点と、各負荷回路がグランドに接地される接地点との間に用いられる配線であり、
前記第2の逆起電力検出手段は、前記負荷接続配線の一部に存在するインダクタンス成分に起因して生じる逆起電力を検出することを特徴とする請求項1に記載の負荷回路の保護装置。
【請求項3】
負荷接続配線を介して半導体スイッチと負荷が接続された負荷回路を複数個並列接続し、前記各負荷回路と電源を、各負荷回路に対して共通となる共通配線を介して接続し、少なくとも一つの負荷回路にて過電流が発生した際に、該過電流が発生した負荷回路を遮断する負荷回路の保護装置において、
前記共通配線に生じる第1の逆起電力を検出する第1の逆起電力検出手段と、
少なくとも一つの負荷回路に設けられ、前記半導体スイッチ及び前記負荷接続配線の一部からなる区間を設定し、前記区間に生じる電圧降下を測定し、前記第1の逆起電力が所定の閾値を超え、且つ、前記区間での電圧降下が所定の判定値を超えた場合に、この負荷接続配線を有する負荷回路を遮断する遮断制御手段と、
を備えたことを特徴とする負荷回路の保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−56602(P2010−56602A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216388(P2008−216388)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】