説明

走行支援装置

【課題】運転者が違和感や恐怖感を覚えることを抑制できる運転支援装置を提供する。
【解決手段】運転者の注視点を設定し、その注視点に基づいて走行軌道を設定する。一般的に、コーナーを走行する際には、運転者はコーナー出口付近を注視しつつ操舵を行なう。従って、運転者の注視点を設定し、注視点に基づいて走行軌道を設定すると、その走行軌道は、運転者が自分で操舵した場合の走行軌道に近い軌道となることから、運転者が違和感や恐怖感を覚えることを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の走行軌道を設定し、その設定した走行軌道に基づいて走行支援を行なう走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の走行軌道を制御する方法として、道路の幾何学情報から走行軌道を設定し、その設定した走行軌道に基づいて移動体の走行制御を行う方法が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1の軌道制御方法は、幾何学的に設定した経路と、その経路に対する車両の向きとからステアリング切り角を設定している。
【特許文献1】特開平7−248819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、運転者が運転する移動体において、幾何学情報に基づいて走行軌道を設定すると、その走行軌道は、運転者が安心感を覚える走行軌道と必ずしも一致せず、その走行軌道に基づいて走行制御を行うと、運転者が違和感や恐怖感を覚えることがある。
【0004】
このことを具体的に説明すると、旋回時、ドライバが自分で操舵している場合、車両はコーナーの出口方向を向いている。一方、幾何学情報から設定した走行軌道を車両が走行する場合、車両はコーナー出口方向を十分に向いていない。そのため、コーナーに突っ込む感じを受け、違和感や恐怖感を覚えることになる。
【0005】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、運転者が違和感や恐怖感を覚えることを抑制できる運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その目的を達成するための請求項1記載の発明は、移動体の運転者の注視点を設定する注視点設定手段と、その注視点設定手段で設定した注視点に基づいて前記移動体の走行軌道を設定する走行軌道設定手段とを含むことを特徴とする走行支援装置である。
【0007】
一般的に、移動体がコーナーを走行する際には、その移動体の運転者はコーナー出口付近を注視しつつ操舵を行なう。本発明では、運転者の注視点を設定して、その注視点に基づいて走行軌道を設定する。そのため、設定した走行軌道は、運転者が自分で操舵した場合の走行軌道に近い軌道となることから、運転者が違和感や恐怖感を覚えることを抑制できる。
【0008】
また、前述の目的を達成するための請求項2記載の発明は、移動体の周囲環境に存在する物体の位置を周囲環境情報として取得する周囲環境情報取得手段と、前記移動体の運動情報を取得する運動情報取得手段と、前記移動体の運転者の網膜をモデル化した網膜球面モデルと、前記周囲環境情報および前記運動情報とに基づいて、その網膜球面モデルに前記運転者の視認する物体を投射した場合の物体の運動情報を示す視覚運動量を算出する視覚運動量算出手段と、その視覚運動量に基づいて前記移動体の走行軌道を設定する走行軌道設定手段とを含むことを特徴とする走行支援装置である。
【0009】
このように、本発明では、運転者の視認する物体を網膜球面モデルに投射した場合の物体の運動情報を示す視覚運動量を算出している。この視覚運動量は、物体の運動量を運転者の知覚量に変換した量である。そして、この視覚運動量に基づいて走行軌道を設定しているので、設定した走行軌道は、運転者が自分で操舵した場合の走行軌道に近い軌道となる。そのため、運転者が違和感や恐怖感を覚えることを抑制できる。
【0010】
請求項3は、請求項1において、請求項2記載の周囲環境情報取得手段、運動情報取得手段をさらに備え、前記注視点設定手段は、前記周囲環境情報取得手段で取得した周囲環境情報と前記運動情報取得手段で取得した移動体の運動情報とに基づいて、前記移動体の運転者の注視点を設定することを特徴とする。
【0011】
道路形状などの周囲環境および移動体の速度やヨーレートなどの運動情報によって、移動体の運転者が本来見るべき注視点は推定できる。そこで、このように、周囲環境情報と運動情報とに基づいて注視点を設定してもよい。
【0012】
また、請求項4は、請求項3において、請求項2記載の視覚運動量算出手段をさらに備え、前記注視点設定手段は、前記視覚運動量算出手段で算出した視覚運動量に基づいて前記運転者の注視点を設定することを特徴とする。
【0013】
視覚運動量は、前述のように、物体の運動量を運転者の知覚量に変換した量である。そのため、この請求項4のように、視覚運動量に基づいて運転者の注視点を設定することができる。
【0014】
請求項5は、請求項4において、前記移動体は道路を走行するものであり、前記視覚運動量算出手段は、前記移動体が走行する道路上の複数の点の前記視覚運動量を算出し、前記注視点設定手段は、前記移動体が走行する道路上において前記視覚運動量が最小となる位置を前記注視点として設定することを特徴とする。
【0015】
移動体が道路を走行している場合、その移動体の運転者は、遠方の道路上を注視していることが多い。運転中は当然、道路上を注視している場合が多いが、道路上において特に遠方を注視している理由は、遠方の方が視覚的な物体の流れが遅く、安心感があるからである。一方で、本発明のようにすれば、道路上において視覚運動量が最小となる地点が注視点に設定されることになり、この地点は、道路上において視覚的な流れが最も遅い地点を意味する。従って、運転者が安心感を得つつ運転している際の実際の注視点を表していると言える。そのため、このようにして注視点を設定し、その注視点に基づいて走行軌道を設定することで、運転者が一層安心感を覚える走行軌道を設定することができる。
【0016】
請求項6は、請求項1において、前記移動体の運転者の眼球を含む画像を撮像する運転者カメラをさらに備え、前記注視点設定手段は、前記運転者カメラによって撮像された運転者の眼球を含む画像を解析することで前記注視点を設定することを特徴とする。このようにすれば、運転者の注視点を直接検出することができる。
【0017】
請求項7は、前記移動体に搭載され、移動体の進行方向の画像を連続的に撮像する前方カメラをさらに備え、前記注視点設定手段は、その前方カメラが撮像した画像上のオプティカルフローに基づいて前記注視点を設定することを特徴とする。このようにして、間接的に注視点を設定してもよい。
【0018】
請求項8は、請求項5において、前記視覚運動量算出手段は、走行軌道の候補点となる格子点が複数配列されている格子点列を、前記移動体が走行中の道路上に所定間隔で道路に直交するように設定し、各格子点について前記視覚運動量を算出するものであり、前記走行軌道設定手段は、前記視覚運動量の最小点を前記格子点列毎に決定し、格子点列毎の視覚運動量の最小点および前記注視点を繋ぐことで走行軌道を設定することを特徴とする。
【0019】
このようにして走行軌道を設定すれば、この走行軌道は、運転者が自分で運転する際の走行軌道により合致することになるので、運転者がより一層安心感を覚える走行軌道を設定することができる。
【0020】
請求項9は、請求項1〜8のいずれか1項において、前記走行軌道設定手段で設定した走行軌道を目標軌道とする一方、前記移動体の現在の運動状態から現在軌道を決定し、それら目標軌道と現在軌道との比較に基づいて前記移動体の軌道制御を行う軌道制御手段をさらに備えていることを特徴とする。このようにすれば、運転者が違和感や恐怖感を覚えることが少ない軌道制御を行うことができる。
【0021】
上記軌道制御手段は、請求項10のように荷重バランスを制御することで軌道制御を行ってもよいし、請求項11のように操舵アシストトルクを制御することで軌道制御を行ってもよい。
【0022】
その請求項10は、請求項9において、前記移動体は前後輪を備えており、前記軌道制御手段は、前記移動体の前後輪荷重バランスを変化させることで軌道を制御することを特徴とする。また、請求項11は、前記軌道制御手段は、操舵アシストトルクを変化させることで軌道を制御することを特徴とする。
【0023】
請求項12は、請求項1〜8のいずれか1項において、前記走行軌道設定手段で設定した走行軌道を目標軌道とする一方、前記移動体の現在の運動状態から現在軌道を決定し、それら目標軌道と現在軌道との比較に基づいて運転者の覚醒判定を行う覚醒判定手段をさらに備えていることを特徴とする。このように、目標軌道と現在軌道との比較から、運転者の覚醒判定を行ってもよい。
【0024】
請求項13は、前記視覚運動量算出手段は、前記運転者の視野欠損領域に対応する領域を除いた前記網膜球面モデル上の領域において前記視覚運動量を算出することを特徴とする。運転者に視野欠損領域がある場合、その視野欠損領域には物体が映らない。そのため、このように、運転者の視野欠損領域に対応する領域を除いた網膜球面モデル上の領域において視覚運動量を算出するようにすれば、より、運転者の視覚感覚に適合した走行軌道を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の走行支援装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態の走行支援装置1は、四輪の車両(以下、単に車両という)の走行支援を行なうものであり、周囲環境情報取得手段10と、運動情報取得手段20と、視覚運動量算出手段30と、注視点設定手段40と、走行軌道設定手段50と、走行軌道制御手段60とを備えている。これらの各手段は、車両に搭載されているコンピュータによって実現される。
【0026】
周囲環境情報取得手段10は、車両の周囲環境に存在する物体の車両を基準とする位置および車両との距離を周囲環境情報として取得する。車両の周囲環境に存在する物体は、車両走行中に運転者が視認する物体であればよく、本実施形態では、車両の周囲環境に存在する物体として車両が走行中の道路上に設定した格子点を含ませている。従って、本実施形態の周囲環境情報取得手段10は、車両が走行中の道路上の格子点の位置および距離を取得する。なお、その他に、車両前方に存在する障害物を車両の周囲環境に存在する物体に含ませてもよい。
【0027】
車両が走行中の道路上の格子点は走行軌道の候補点となる仮想点であり、図2に示すように、車両が走行中の道路の道路中央線に直交するように格子点が等間隔に複数配列されて格子点列Lが形成される。また、複数の格子点列Lが所定間隔で形成される。
【0028】
この格子点の位置および距離を取得するには、たとえば、車両の進行方向の画像を連続的に撮像する前方カメラ11を備えておき、その前方カメラ11で撮像した画像を解析すればよい。また、前方カメラ11に代えて、或いは前方カメラ11に加えてミリ波レーダ等のレーダを用いてもよい。また、格子点は道路上の点であるので、道路地図情報データベース12を備えておき、その道路地図情報データベース12から自車前方の道路形状等の道路地図情報を取得し、その取得した道路地図情報に基づいて格子点の車両に対する位置を算出してもよい。なお、道路地図情報データベース12から自車前方の道路地図情報を取得する際には自車の現在位置を決定する必要がある。この現在位置の決定には、たとえば、GPS24と道路地図情報データベース12とに基づいたマップマッチング法を用いることができる。また、道路地図情報、前方カメラ11によって撮像した画像、レーダから得られる情報を複数組み合わせて用いてもよい。
【0029】
運動情報取得手段20は車両の運動情報を取得する。この運動情報とは、速度V、ヨーレートγ等であり、車速Vおよびヨーレートγは、それぞれ車速センサ21、ヨーレートセンサ22の信号に基づいて算出する。或いは、GPS24によって逐次検出される現在位置の変化に基づいて車速Vおよびヨーレートγの一方または両方を算出してもよい。
【0030】
運動情報取得手段20は、さらに、車両の運転者の首振り角の変化率Θも逐次算出する。この首振り角の変化率Θを算出するために、運転者の顔を撮像範囲とするように車内に設けられた運転者カメラ23によって運転者の顔画像を撮像する。そして、その顔画像を解析することで、運転者の首振り角を連続的に算出し、その連続的に算出した首振り角から首振り角の変化率Θを算出する。
【0031】
視覚運動量算出手段30は、周囲環境情報取得手段10が位置および距離を取得した物体を次に説明する網膜球面モデルに投射した場合の運動量(以下、視覚運動量という)を算出する。図3は網膜球面モデルを示す図である。網膜球面モデルは、運転者の網膜を球面としてモデル化したものであり、網膜球面モデル上の物体の位置は網膜座標系における物体の位置に対応する。
【0032】
ここで、方位角をθ、仰角をφとし、物体Aの網膜球面モデル上での像(網膜像)をaとすると、網膜像aの位置は(θ、φ)と記述することができる。そして、この視覚運動量算出手段30では、離心角ωの変化率(離心角変化率)の絶対値を視覚運動量として算出する。離心角変化率は、車速をV、物体Aまでの距離をR、ヨーレートをγ、運転者の首振り角の変化率をΘとすると、次の式1で表すことができる。
【0033】
【数1】

従って、視覚運動量算出手段30は、周囲環境情報取得手段10で取得した物体(すなわち道路上の格子点)の位置および距離Rと、運動情報取得手段20で取得した車速V、ヨーレートγ、運転者の首振り角の変化率Θから、式1を用いて、各格子点の離心角変化離率を連続的に算出する。なお、周囲環境情報取得手段10では、物体の位置は網膜座標系(θ、φ)ではなく直交座標系(x,y,z)で求められるが、下記式3,4の関係からθ、φを算出する。
【0034】
上記離心角変化率は、網膜球面モデルを用いて算出したものであることから、運転者の視覚感覚を示していると言える。すなわち、視覚運動量算出手段30は、道路上の格子点の物理的運動(並進運動、回転運動)を、視覚的な運動量に変換していると言える。
【0035】
ここで、上記式1の導出について説明する。離心角ωは方位角θ、仰角φを用いて式2のように表すことができる。また、図3に示すように、網膜座標系と原点を同じくする直交座標系のY軸方向を進行方向とした場合、網膜座標系の方位角θ、仰角φ、離心角ωと、直交座標系x、y、zとの関係は、次の式3〜式7のように示すことができる。
【0036】
【数2】

【0037】
【数3】

【0038】
【数4】

【0039】
【数5】

【0040】
【数6】

【0041】
【数7】

ここで、式8に示す公式を用いて式2を微分すると式9が得られる。
【0042】
【数8】

【0043】
【数9】

また、進行方向の速度すなわち車速V、ヨーレートγ、ドライバ首振り角の変化率Θを考慮すると、φとθの微分値は、式3、4からそれぞれ次の式10、式11のように導くことができる。
【0044】
【数10】

【0045】
【数11】

この式10、式11を式9に代入して整理すると式1が得られる。
【0046】
注視点設定手段40は、視覚運動量算出手段30で算出した各格子点の離心角変化率に基づいて運転者の注視点を逐次設定する。具体的には、視角運動量算出手段30で算出した各格子点の離心角変化率の絶対値のうちの最小値を探索し、この最小値を注視点に設定する。
【0047】
前述のように離心角変化率は道路上の格子点の視覚運動量を示しており、運転者は、運転中に視角運動量の最小点を注視する傾向にあることが、経験的に、また、心理学的に明らかである。また、運転者は、運転中は道路上のどこかを注視していると推定できる。そのため、視角運動量である離心角変化率の絶対値が最小となる格子点を注視点として設定するのである。
【0048】
図4は、視覚運動量算出手段30が算出した各格子点の離心角変化率の大きさを、各格子点上に線分の長さで示した図である。この図4に示されるように、車両側(図下側)は離進角変化率が大きく、遠方側は離心角変化率が小さい。そして、注視点は、たとえば、この図4に示す位置に設定される。
【0049】
走行軌道設定手段50は、格子点列L毎に、離進角変化率の絶対値が最小となる格子点を決定する。そして、格子点列L毎に決定した離心角変化率の絶対値の最小点と、注視点設定手段40で設定した注視点を繋ぐことで走行軌道を設定する。図5は、格子点列L毎の離心角変化率の絶対値の最小点(図中の□)と注視点(図中の●)とを示す図である。この図5に示す「□」と「●」とを繋ぐことで走行軌道を設定できる。
【0050】
ただし、離進角変化率は網膜座標系にて算出したものであるので、最終的には、式5〜7を用いて直交座標系に変換する。図6は、直交座標系に変換した走行軌道を示す図である。
【0051】
走行軌道制御手段60は、走行軌道設定手段50が設定した走行軌道を目標軌道とする一方、車両の現在の運動状態から現在軌道を設定して、それら目標軌道と現在軌道とを比較する。比較の結果、目標軌道と現在軌道とが乖離している場合、現在軌道が目標軌道に近づくように車両の軌道制御を行う。
【0052】
現在軌道は、現在のステアリング操舵角やヨーレートなど車両の現在の旋回状態を示す旋回情報を取得し、その旋回情報が保持されるものとして現在軌道を設定する。また、それまでの走行軌跡を延長した軌道を現在軌道としてもよい。軌道制御は、旋回特性を変化させることで行なう。また、操舵アシストを行なうことで軌道制御を行ってもよい。
【0053】
旋回特性は、前後輪荷重バランスを変化させることで変化させることができる。荷重バランスを前輪側に移動させると回頭性が向上する。従って、図7(a)に示すように現在軌道の曲率半径が目標軌道の曲率半径よりも大きい場合、荷重バランスを前輪側に移動させることになる。一方、荷重バランスを後輪側に移動させると、安定性が向上する。従って、図7(b)に示すように現在軌道の曲率半径が目標軌道の曲率半径よりも小さい場合、荷重バランスを後輪側に移動させることになる。なお、前後輪荷重バランスを変化させる方法としては、公知の種々の方法を用いることができ、たとえば、駆動力/制動力を制御する方法や、スタビリティファクタを管理する方法などを用いることができる。
【0054】
また、操舵アシストを行なう場合、現在軌道から将来の車両姿勢を推定し、その推定した将来の車両姿勢が目標軌道上での将来の車両姿勢となるように、ヨーレートを管理しつつ、操舵アシストトルクを加えることになる。
【0055】
以上、説明した本実施形態によれば、運転者の視認する物体を網膜球面モデルに投射した場合の物体の運動情報である離心角変化率を算出している。この離心角変化率は、物体の運動量を運転者の知覚量に変換した量であり、この離心角変化率に基づいて注視点を設定している。そのため、実際に運転者が注視している点に近い注視点を設定することができる。
【0056】
そして、そのようにして設定した注視点に基づいて走行軌道を設定している。そのため、設定した走行軌道は、運転者が自分で操舵した場合の走行軌道に近い軌道となる。従って、その目標軌道を用いた軌道制御は、運転者が違和感や恐怖感を覚えることが少ない制御となる。
【0057】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0058】
たとえば、前述の実施形態では、離心角変化率を用いて運転者の注視点を設定していたが、これに限られず、前述の運転者カメラ23によって撮像された顔画像から運転者の黒目の位置を検出し、その黒目の位置に基づいて注視点を設定してもよい。
【0059】
また、前方カメラ11が撮像した画像において、物体の動きをベクトル表現し(すなわち、オプティカルフローを算出し)、そのオプティカルフローが最小となる点を注視点に設定してもよい。なお、この場合にも、前述の実施形態と同様に、オプティカルフローを算出する点を道路上に限定してもよい。
【0060】
また、ナビゲーション装置は、案内経路を設定する際には車速Vも予測している。そこで、この予測した車速Vを用いるとともに、予測した車速Vとナビゲーション装置が記憶している道路形状とからヨーレートγも予測して、それら予測した車速Vとヨーレートγから式1を用いて離心角変化率を予め算出することで、注視点を予め設定しておいてもよい。なお、この場合、運転者の首振り角の変化率Θは、運転者の首振り角を、車両の進行方向と仮定したり、案内経路上の所定距離前方と仮定したりすることで推定し、その推定した首振り角に基づいて算出する。また、この注視点と同様に、各格子点の離心角変化率も予め算出し、それらを用いて走行軌道を予め設定してもよい。なお、走行中に走行軌道を設定する際にも、運転者の首振り角の変化率Θを上述のようにして推定してもよい。また、ナビゲーション装置を用いることに代えて、これら注視点や格子点の離心角変化率を算出するための情報を外部の情報センタから取得してもよい。
【0061】
また、注視点および走行軌道の設定に際して、運転者の視野欠損領域を考慮してもよい。たとえば、図8に示す欠損領域が運転者にあった場合、この欠損領域を除いた領域において離心角変化率の絶対値が最小となる点を探索する。その結果、図8に示す位置が注視点となる。また、格子点列毎の離心角変化率の最小点も欠損領域を除外して探索する。なお、欠損領域は運転者等が予め入力する。
【0062】
また、前述の実施形態では、目標軌道と現在軌道との比較に基づいて軌道制御を行っていたが、それら目標軌道と現在軌道との比較に基づいて覚醒判定を行ってもよい。この場合、目標軌道と現在軌道の乖離が大きい場合には運転者は覚醒度が低下していると判定する。また、覚醒度が低下していると判定した場合、運転者に対して警告するようにしてもよい。
【0063】
また、軌道制御や覚醒判定を行わず、単に、目標軌道をヘッドアップディスプレイ等の表示器に表示するだけでもよい。
【0064】
また、前述の実施形態では、注視点のみでなく、格子点列上の格子点についても離心角変化率を算出することで、走行軌道上の点も決定していたが、走行軌道上の点を決定することは必須ではなく、車両から注視点までを、道路曲率に基づいて定まる曲率(たとえば、道路中心線の曲率)で結んで走行軌道を設定してもよい。反対に、格子点列上の格子点について離心角変化率を算出して走行軌道上の点を決定する一方、注視点は設定せずに、走行軌道上の点を繋ぐことで走行軌道を設定してもよい。
【0065】
また、前述の実施形態では、移動体として車両を例示していたが、飛行機、二輪車、車椅子等、他の移動体にも本発明は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態の走行支援装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】道路上の格子点を説明する図である。
【図3】網膜球面モデルを示す図である。
【図4】視覚運動量算出手段30が算出した各格子点の離心角変化率の大きさを、各格子点上に線分の長さで示した図である。
【図5】格子点列L毎の離心角変化率の絶対値の最小点と注視点とを示す図である。
【図6】直交座標系に変換した走行軌道を示す図である。
【図7】現在軌道と目標軌道との乖離を例示する図である。
【図8】視野欠損領域がある場合の注視点、走行軌道を例示する図である。
【符号の説明】
【0067】
1:走行支援装置、 10:周囲環境情報取得手段、 11:前方カメラ、 20:運動情報取得手段、 21、車速センサ、 22:ヨーレートセンサ、 23:運転者カメラ、 30:視覚運動量算出手段、 40:注視点設定手段、 50:走行軌道設定手段、 60:走行軌道制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の運転者の注視点を設定する注視点設定手段と、
その注視点設定手段で設定した注視点に基づいて前記移動体の走行軌道を設定する走行軌道設定手段と
を含むことを特徴とする走行支援装置。
【請求項2】
移動体の周囲環境に存在する物体の位置を周囲環境情報として取得する周囲環境情報取得手段と、
前記移動体の運動情報を取得する運動情報取得手段と、
前記移動体の運転者の網膜をモデル化した網膜球面モデルと、前記周囲環境情報および前記運動情報とに基づいて、その網膜球面モデルに前記運転者の視認する物体を投射した場合の物体の運動情報を示す視覚運動量を算出する視覚運動量算出手段と、
その視覚運動量に基づいて前記移動体の走行軌道を設定する走行軌道設定手段と
を含むことを特徴とする走行支援装置。
【請求項3】
請求項1において、
請求項2記載の周囲環境情報取得手段、運動情報取得手段をさらに備え、
前記注視点設定手段は、前記周囲環境情報取得手段で取得した周囲環境情報と前記運動情報取得手段で取得した移動体の運動情報とに基づいて、前記移動体の運転者の注視点を設定することを特徴とする走行支援装置。
【請求項4】
請求項3において、
請求項2記載の視覚運動量算出手段をさらに備え、
前記注視点設定手段は、前記視覚運動量算出手段で算出した視覚運動量に基づいて前記運転者の注視点を設定することを特徴とする走行支援装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記移動体は道路を走行するものであり、
前記視覚運動量算出手段は、前記移動体が走行する道路上の複数の点の前記視覚運動量を算出し、
前記注視点設定手段は、前記移動体が走行する道路上において前記視覚運動量が最小となる位置を前記注視点として設定することを特徴とする走行支援装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記移動体の運転者の眼球を含む画像を撮像する運転者カメラをさらに備え、
前記注視点設定手段は、前記運転者カメラによって撮像された運転者の眼球を含む画像を解析することで前記注視点を設定することを特徴とする走行支援装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記移動体に搭載され、移動体の進行方向の画像を連続的に撮像する前方カメラをさらに備え、
前記注視点設定手段は、その前方カメラが撮像した画像上のオプティカルフローに基づいて前記注視点を設定することを特徴とする走行支援装置。
【請求項8】
請求項5において、
前記視覚運動量算出手段は、走行軌道の候補点となる格子点が複数配列されている格子点列を、前記移動体が走行中の道路上に所定間隔で道路に直交するように設定し、各格子点について前記視覚運動量を算出するものであり、
前記走行軌道設定手段は、前記視覚運動量の最小点を前記格子点列毎に決定し、格子点列毎の視覚運動量の最小点および前記注視点を繋ぐことで走行軌道を設定することを特徴とする走行支援装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、
前記走行軌道設定手段で設定した走行軌道を目標軌道とする一方、前記移動体の現在の運動状態から現在軌道を決定し、それら目標軌道と現在軌道との比較に基づいて前記移動体の軌道制御を行う軌道制御手段をさらに備えていることを特徴とする走行支援装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記移動体は前後輪を備えており、
前記軌道制御手段は、前記移動体の前後輪荷重バランスを変化させることで軌道を制御することを特徴とする走行支援装置。
【請求項11】
請求項9において、
前記軌道制御手段は、操舵アシストトルクを変化させることで軌道を制御することを特徴とする走行支援装置。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項において、
前記走行軌道設定手段で設定した走行軌道を目標軌道とする一方、前記移動体の現在の運動状態から現在軌道を決定し、それら目標軌道と現在軌道との比較に基づいて運転者の覚醒判定を行う覚醒判定手段をさらに備えていることを特徴とする走行支援装置。
【請求項13】
請求項2、4、5、8のいずれか1項において、
前記視覚運動量算出手段は、前記運転者の視野欠損領域を除いた領域において前記視覚運動量を算出することを特徴とする走行支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−36777(P2010−36777A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203410(P2008−203410)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】