説明

走行計画生成方法および走行計画生成装置

【課題】 車両の搭乗者の乗り心地を十分に向上させることができる走行計画生成方法および走行計画生成装置を提供する。
【解決手段】 走行制御ECU1における走行計画生成部10は、車両の車速に基づいて走行軌跡における最大横加速度および最大横ジャークを設定する。また、設定した最大横加速度および最大横ジャークに基づいて、(最大横加速度×π/2)/最大横ジャークから転舵時間を算出する。これらの最大横加速度、最大横ジャーク、および転舵時間に基づいて走行軌跡を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの移動体が走行する際の好適な軌跡を生成する走行計画生成方法および走行計画生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行軌跡および走行速度を含む走行計画を生成する装置として、従来、車両の横加速度とジャークとに基づいて走行軌跡を生成する走行計画生成装置が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。この走行計画生成装置は、車両の前後左右に発生する加速度およびジャーク(加速度変化率)を評価する項を含む評価関数を生成し、この評価関数を用いて走行軌跡を生成するというものである。この走行計画生成装置によれば、車両の前後左右に発生する加速度およびジャークに基づいて走行軌跡を生成することにより、車両に搭乗する人の乗り心地を向上させることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−137410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に開示された走行計画生成装置においては、加速度およびジャークを評価する項を含む評価関数を用いて走行軌跡を生成しているにすぎないものである。このため、生成された経路計画では、横加速度および横ジャークが必ずしも所定値の範囲内に収まるとは限られず、車両に搭乗する人の乗り心地を十分に向上させることができない可能性があるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、車両の搭乗者の乗り心地を十分に向上させることができる走行計画生成方法および走行計画生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明に係る走行計画生成方法は、所定の走行路を走行する際における走行軌跡を含む走行計画を生成する走行計画生成方法であって、生成される走行計画における最大横加速度および最大横ジャークを設定する最大横加速度・最大横ジャーク設定工程と、設定された最大横加速度および最大横ジャークのうちの少なくとも一方に基づいて、最大横加速度となる時間の前後の時間における転舵時間を設定する転舵時間設定工程と、最大横加速度、最大横ジャーク、および転舵時間に基づいて、走行軌跡を生成する走行軌跡生成工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る走行計画生成方法においては、最大横加速度、最大横ジャーク、および転舵時間に基づいて、走行軌跡を生成している。このため、生成された走行計画では、横加速度および横ジャークが所定の範囲内に収まることとなる。したがって、車両の搭乗者の乗り心地を十分に向上させることができる。
【0008】
ここで、転舵時間が、(最大横加速度×π/2)/最大横ジャークで表される態様とすることができる。
【0009】
このように、転舵時間が、(最大横加速度×π/2)/最大横ジャークで表されることにより、転舵時間における横ジャークがサイン半波形となる。このため、ジャークの一次微分までの連続性を確保することができるため、その分乗り心地のよい走行を実現することができる。
【0010】
また、上記課題を解決した本発明に係る走行計画生成装置は、所定の走行路を走行する際における走行軌跡を含む走行計画を生成する走行計画生成装置であって、生成される走行計画における最大横加速度および最大横ジャークを設定する最大横加速度・最大横ジャーク設定手段と、設定された最大横加速度および最大横ジャークのうちの少なくとも一方に基づいて、最大横加速度となる時間の前後の時間における転舵時間を設定する転舵時間設定手段と、最大横加速度、最大横ジャーク、および転舵時間に基づいて、走行軌跡を生成する走行軌跡生成手段と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る走行計画生成方法および走行計画生成装置によれば、車両の搭乗者の乗り心地を十分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る走行計画生成装置を備えた車両の構成を示すブロック構成図である。
【図2】最大横加速度・横ジャークマップである。
【図3】本実施形態に係る走行計画生成部の動作を示すフローチャートである。
【図4】(a)は、横加速度の時間変化を示すグラフ、(b)は、横ジャークの時間変化を示すグラフである。
【図5】(a)は、他の例に係る横加速度の時間変化を示すグラフ、(b)は、他の例に係る横ジャークの時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0014】
本実施形態に係る走行計画生成装置は、車両の走行軌跡を生成する装置であって、たとえば、自動運転機能を備えた車両や、追従運転や車線維持運転などの運転者支援システムを搭載した車両に好適に採用されるものである。図1は、本発明の実施形態に係る走行計画生成装置を備えた車両の構成を示すブロック構成図である。
【0015】
図1に示すように、車両Mは、自動運転機能あるいは運転者支援システムを備えた車両である。車両Mには、走行制御ECU(Electronic Control Unit)1が設けられている。走行制御ECU1は、電子制御する自動車デバイスのコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read OnlyMemory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力インターフェイスなどを備えて構成されている。
【0016】
走行制御ECU1には、GPS(Global Positioning System)受信機2、センサ3、操作部4、およびナビゲーションシステム5が接続されている。また、走行制御ECU1には、操舵アクチュエータ6、スロットルアクチュエータ7、およびブレーキアクチュエータ8を備えている。
【0017】
GPS受信機2は、たとえば、運転者の位置情報を受信する機能を有している。ここで、GPSとは、衛星を用いた計測システムのことであり、自車両の現在位置の把握に好適に用いられるものである。また、GPS受信機2は、位置情報を走行制御ECU1へ出力する機能を有している。
【0018】
センサ3は、車両Mの周囲の走行環境や、自車両の走行状態を取得する機能を有している。センサ3としては、たとえば、車両Mが走行する道路のレーンを認識するためのレーン認識センサや画像センサ、車両Mの周辺障害物を検知する電磁波センサやミリ波センサ、車両Mのヨーレートを計測するヨーレートセンサが用いられる。
【0019】
また、センサ3としては、車両Mのハンドル舵角およびタイヤ角を検知する舵角センサ、車両Mの加速度を検出する加速度センサ、車両Mの車輪速を計測する車輪速センサ、乗員がシートに着座したことを検知する着座センサ、タンク内の燃料を計測できる燃料センサ等が用いられる。また、センサ3は、取得した情報を走行制御ECU1へ出力する機能を有している。
【0020】
操作部4は、運転者の要求する条件を入力する機能を有している。操作部4としては、たとえば、目標通過時間、目標燃費、乗員の乗り心地を優先させる座席等を入力する操作パネル等が用いられる。また、操作部4は、入力した情報を走行制御ECU1へ出力する機能を有している。
【0021】
ナビゲーションシステム5は、主に目的地までの経路案内等を行う機能を有している。また、ナビゲーションシステム5は、たとえば地図データベースから現在走行中の道路の形状情報を読み出し、その道路形状情報をナビ信号として走行制御ECU1へ出力する機能を有している。車両Mは、ナビゲーションシステムの代わりとして、少なくとも道路形状情報を格納したデータベースを備え、そのデータベースに格納された道路形状情報を走行制御ECU1へ出力する機能を有する構成としてもよい。また、通信を介して道路形状情報を参照し、参照した道路形状情報を走行制御ECU1へ出力する機能を有する構成としてもよい。
【0022】
走行制御ECU1は、走行計画生成部10、車両運動制御部11、操舵制御部12、および加減速制御部13を備えている。
【0023】
走行計画生成部10は、車両Mの走行計画のうちの走行軌跡を生成する機能を有している。本実施形態においては、走行計画生成部10では、走行路を走行する際の最大横加速度および最大横ジャークを設定し、設定した最大横加速度および最大横ジャークから転舵時間を算出する。
【0024】
走行計画生成部10は、図2に示す最大横加速度・横ジャークマップを記憶している。最大横加速度・横ジャークマップは、平均車速に応じて設定された最大横加速度(最大横G)および最大ジャークをプロットして生成された設定曲線L1を備えるマップである。最大横加速度・横ジャークマップにおける設定曲線L1では、平均車速が大きい(ペースが速い)ほど、最大横加速度および最大横ジャークがいずれも大きくなる数値に設定されている。
【0025】
一般的に、加速度の最大値およびジャークの最大値を小さくすると乗員の乗り心地が向上することが知られているので、加速度およびジャークを評価することで、乗り心地を向上させた走行軌跡を生成することが可能となる。走行計画生成部10は、算出した走行軌跡を車両運動制御部11へ出力する機能を有している。
【0026】
車両運動制御部11は、走行計画生成部10から出力された走行軌跡およびセンサ3からの周囲の走行環境や自車両の走行状態に基づいて、操舵制御情報および加減速制御情報を算出する。また、車両運動制御部11は、算出した操舵制御情報を操舵制御部12へ出力するとともに、算出した加減速制御情報を加減速制御部13へ出力する。
【0027】
操舵制御部12は、車両運動制御部11から出力された操舵制御情報に基づいて操舵アクチュエータ6を制御するための信号を生成し、生成した制御信号を操舵アクチュエータ6へ出力する。操舵アクチュエータ6は、車両の走行を制御する機械的な構成要素であり、たとえば、操舵角制御モータ等である。
【0028】
加減速制御部13は、車両運動制御部11から出力された加減速制御情報に基づいてスロットルアクチュエータ7およびブレーキアクチュエータ8を制御するための信号を生成し、生成した制御信号をスロットルアクチュエータ7およびブレーキアクチュエータ8へ出力する機能を有している。スロットルアクチュエータ7は、車両の走行を制御する機械的な構成要素であり、たとえば電子スロットル等である。また、ブレーキアクチュエータ8は、たとえば油圧式ブレーキの場合には、各車輪のブレーキ油圧の調整を行うバルブ等である。
【0029】
次に、第1実施形態に係る走行計画生成部10の動作について説明する。図3は、本実施形態に係る走行計画生成部の動作を示すフローチャートである。図3に示す制御処理は、たとえばイグニッションオンされてから所定のタイミングで繰り返し実行される。図3に示すように、本実施形態に係る走行計画生成部10においては、まず、車両Mが走行する走行路における車両Mの通過点を設定する(S1)。通過点の設定にあたっては、走行路の形状や車両Mの道路に対する位置、車両Mの速度などを参照する。
【0030】
車両Mの通過点を設定したら、通過点を通過する走行軌跡における最大横加速度および最大横ジャークを設定する(S2)。最大横加速度および最大横ジャークを設定する際には、図2に示す最大横加速度・横ジャークマップにおける設定曲線L1を参照し、センサ3から出力される車両Mの車輪速から算出される車速に応じた最大横加速度および最大横ジャークを取得して設定する。
【0031】
さらに、設定した最大横加速度および最大横ジャークを、下記(1)式に代入することによって転舵区間の時間(以下「転舵時間」という)を算出する(S3)。転舵区間は、ステアリングの切り込みを行っている区間および切り戻しを行っている区間の両方の区間をいうものである。また、転舵時間は、最大加速度となる時間の前後の時間となり、図4(a)に示す転舵区間HA1,HA2の時間となる。
【0032】
転舵時間=(最大横加速度×π/2)/最大横ジャーク ・・・(1)
【0033】
転舵時間を求めたら、転舵区間HA1,HA2における横加速度の時間変化を求める(S4)。このとき、保舵区間HAの時間は未確定である。続いて、保舵区間HAの時間を未確定の状態としたままで、転舵区間HA1,HA2の間の保舵区間HAにおける横加速度の最大横加速度を設定する(S5)。
【0034】
それから、ステップS1で設定した通過点を通過する走行軌跡の生成を行う(S6)。これらの通過点を通過する軌跡を生成することによって、保舵区間HAの時間が決められる。こうして求められた転舵区間HA1,HA2および保舵区間HAの時間および保舵区間HAにおける横加速度最大値により、図4(a)に示す横加速度曲線LA1が生成される。さらに、横ジャークの時間変化は、図4(b)に示す横ジャーク曲線LJ1で表される。
【0035】
図4(b)に示す横ジャークは、上側が右方向を表し、下側が左方向を表している。最大横ジャーク設定値は、左右に設定されており、図4(b)では、上下の位置に最大横ジャーク設定値が設定されている。また、ここでの転舵区間SA1,SA2における横ジャークはサイン半波形、走行軌跡はサイン半波長逓減曲線とされている。こうして、走行計画生成部10における処理を終了する。
【0036】
このように、本実施形態に係る走行計画生成部10においては、最大横加速度、最大横ジャークおよび転舵時間に基づいて、走行軌跡を生成するようにしている。このため、生成された走行計画では、横加速度および横ジャークが所定の範囲内に収まることとなる。したがって、車両の搭乗者の乗り心地を十分に向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態においては、上記(1)式を用いて転舵時間を算出する。さらには、転舵区間における横ジャークをサイン半波形として求めている。このため、ジャークの一次微分までの連続性を確保することができるため、その分乗り心地のよい走行を実現することができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、転舵時間を(1)式で求めるようにしているが、下記(2)式で求める態様とすることもできる。
【0039】
転舵時間=最大横加速度/最大横ジャーク ・・・(2)
【0040】
上記(2)式を用いて設定される横加速度の時間変化は、図5(a)に示す横加速度曲線LA2で表される。ここで、保舵区間HAにおいて、横加速度が最大横加速度に設定されている。また、横ジャークの時間変化は、図5(b)に示す横ジャーク曲線LJ2で表される。このようにして求めた横加速度、横ジャーク、および転舵時間に基づいて、走行軌跡を生成することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1…走行制御ECU、2…受信機、3…センサ、4…操作部、5…ナビゲーションシステム、6…操舵アクチュエータ、7…スロットルアクチュエータ、8…ブレーキアクチュエータ、10…走行計画生成部、11…車両運動制御部、12…操舵制御部、13…加減速制御部、M…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の走行路を走行する際における走行軌跡を含む走行計画を生成する走行計画生成方法であって、
前記生成される走行計画における最大横加速度および最大横ジャークを設定する最大横加速度・最大横ジャーク設定工程と、
設定された前記最大横加速度および前記最大横ジャークのうちの少なくとも一方に基づいて、前記最大横加速度となる時間の前後の時間における転舵時間を設定する転舵時間設定工程と、
前記最大横加速度、前記最大横ジャーク、および前記転舵時間に基づいて、前記走行軌跡を生成する走行軌跡生成工程と、
を含むことを特徴とする走行計画生成方法。
【請求項2】
前記転舵時間が、(最大横加速度×π/2)/最大横ジャークで表される請求項1に記載の走行計画生成方法。
【請求項3】
所定の走行路を走行する際における走行軌跡を含む走行計画を生成する走行計画生成装置であって、
前記生成される走行計画における最大横加速度および最大横ジャークを設定する最大横加速度・最大横ジャーク設定手段と、
設定された前記最大横加速度および前記最大横ジャークのうちの少なくとも一方に基づいて、前記最大横加速度となる時間の前後の時間における転舵時間を設定する転舵時間設定手段と、
前記最大横加速度、前記最大横ジャーク、および前記転舵時間に基づいて、前記走行軌跡を生成する走行軌跡生成手段と、
を含むことを特徴とする走行計画生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−126259(P2012−126259A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279486(P2010−279486)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】