説明

超音波伝搬時間計測方法及び超音波伝搬時間計測装置

【課題】超音波伝搬媒体の非線形音響特性、さらには超音波トランスデューサの伝達特性や超音波伝搬特性をも考慮した超音波伝搬時間計測を行うことによって高精度に計測方法および装置を提供する。
【解決手段】送信部110により送信パルス信号Vtrans(t)を発生し、送信用超音波トランスデューサ130により超音波パルス信号S(t)に変換して測定対象の超音波伝搬媒体10に入力し、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される前記超音波パルス信号S(t)を受信用超音波トランスデューサ140により受信し増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得て、信号処理部170において、前記超音波伝搬媒体10が有する非線形性を考慮した参照信号と被参照信号との間で相互相関処理をすることによって、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t)の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波伝搬時間の高精度計測を行う超音波伝搬時間計測方法及び超音波伝搬時間計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波伝搬時間の高精度計測は、超音波距離計、超音波厚さ計、超音波流量計、材料の音速測定などの非破壊検査装置や探傷用や医療用の画像診断装置の高精度、高信頼性計測、イメージングに更なる改善が求められている。超音波距離計は超音波伝搬媒体の音速と超音波伝搬時間の積によって距離が、超音波厚さ計は材料の音速と超音波伝搬時間の積によって材料の厚みが、超音波流量計は伝搬距離を超音波伝搬時間で除することによって、超音波伝搬媒体の音速と流速の和および差から流速が求まり、管断面積との積から流量が決定される。また材料の寸法と材料中を超音波が伝搬する時間とからその材料の物性定数としての音速が求まる。いずれも、超音波伝搬時間の高精度化によって、距離、厚さ、流量、音速などが高精度に表示されることになり、探傷装置や医療診断といった画像診断装置においても、画像分解能を向上させ、診断精度の向上を実現させることが求められている。
【0003】
この超音波伝搬時間の高精度計測に対し、これまで種々の方法が考案されている。それらのうち、近年コンピュータの演算処理の高速化に伴って注目を集めているのが相互相関法を用いた超音波伝搬時間の高精度計測技術であり、更にはパルス圧縮技術である。
【0004】
これに関連した技術として、本件発明者等は、気象要因によって変動する変動表面と路面との変動高さを、簡易な構成で容易且つ正確に計測することができる路面変動高さ計測装置および路面変動高さ計測方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、特許文献1には、路面変動高さ計測において、従来課題とされていた、1〜2cmの路面高さ変動計測を可能とする技術を提供しようとするもので、課題解決方法として気象要因によって変動する変動表面と路面との変動高さを計算するに際して、超音波送信素子からチャープ波を変動表面に出力するとともに、このチャープ波の反射波を超音波受信素子から入力し、同チャープ波の基準波形データと反射波の入力波形データとの相互相関処理を行って相互相関値を演算するとともに、最大相互相関値が検出されるまでの時間差に基づいて変動高さを計算することにより、変動高さが1〜2センチ程度であっても、精度良く路面変動高さを計測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−125583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波伝搬媒質は一般に非線形効果を含むが、線形効果に比べ10〜20dB小さいので、それほど高精度の計測が要求されていない場合は無視しても問題なかった。しかしながら、近年のマイクロ、ナノ領域の諸技術の発展に伴い、更なる高精度計測が必要になってきた。例えば、ナノ表面加工技術やナノインプリント技術の進展に伴って厚さ計測精度の更なる高分解能化が求められている。また、薬液等の微量流量制御分野では、細管を流れる粘性液体の高精度流量制御が必要になってきている。また、超音波を使った細胞診断分野においても、そのサイズや音速などの微細情報が必要になり、高分解能超音波伝搬時間高精度計測が必要になってきている。さらには、医療分野においても癌組織の成長に伴う栄養血管に流れる血流診断など、これまで以上の高分解能超音波伝搬時間高精度計測が必要になってきている。さらに、これらの超音波計測では、高周波化が高分解能計測に直接つながるという考え方に基づいて比較的高周波の超音波が用いられ、粘性液体や固体材料を対象とする場合が多く、非線形効果が現れやすい状況での計測となる場合が多い。
【0008】
しかし、従来は、その配慮がされておらず、受信信号に対する参照波は駆動信号そのものであった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、従来配慮されていなかった超音波伝搬媒体の非線形音響特性、さらには超音波トランスデューサの伝達特性や超音波伝搬特性をも考慮した超音波伝搬時間計測を行うことによって、超音波伝搬時間を高精度に計測できるようにした超音波伝搬時間計測方法及び超音波伝搬時間計測装置を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下において図面を参照して説明される実施の形態から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一般に、比較的高周波の超音波を用いる場合や、粘性液体や固体材料を対象とする場合など、非線形効果が現れやすい状況下での計測では、非線形性効果を考慮することによって、より高精度の高分解能超音波伝搬時間計測が可能になると考えられている。また、相互相関処理をする場合の参照波は受信信号に含まれる要素、例えば、超音波トランスデューサや超音波伝搬経路に関する情報を特性として含んでいたほうが、相互相関値が大きくなり、超音波伝搬時間の計測精度を高めることができる。あるいは、受信信号に含まれる超音波トランスデューサの伝達関数と超音波伝搬に伴って発生する高調波成分を含む合成信号で受信信号を除し、この除算信号と駆動信号との相互相関を計算することにより、同等の効果が得られる。高精度に超音波伝搬時間を計測するには、上記の様に相互相関値が大きくなる必要とともに相互相関値が最大になるピーク位置が高精度に超音波伝搬時間τをあらわしていることが必要である。相互相関処理によって高精度に超音波伝搬時間τが現れるには、相互相関処理の原理を考慮すると、相互相関処理をする一方の信号に超音波伝搬時間τ情報があり、他方にτ情報が無いということである。
【0012】
そこで、本発明に係る超音波伝搬時間計測方法において、送信部により送信パルス信号Vtrans(t)を発生し、該送信パルス信号を送信用超音波トランスデューサにより超音波パルス信号に変換して測定対象の超音波伝搬媒体に入力し、該超音波伝搬媒体を介して伝搬される前記超音波パルス信号を受信用超音波トランスデューサにより受信して電気信号に変換し、該受信用超音波トランスデューサにより電気信号に変換された超音波パルス信号を受信部により増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得て、前記超音波伝搬媒体が有する非線形性を考慮した疑似送信パルス信号Vtrans’(t)と前記受信部により得られた受信パルス信号Vrec(t−τ)との相互相関処理、または、送信パルス信号Vtrans(t)と、非線形性を考慮した疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)との相互相関処理により、前記超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波パルス信号の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間として呈示することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、送信パルス信号Vtrans(t)を発生する送信パルス信号発生手段と、該送信パルス信号を前記送信超音波パルス信号に変換する送信用超音波トランスデューサと、前記送信超音波パルス信号を測定対象の超音波伝搬媒体を介して受信し、受信した超音波パルス信号を電気信号に変換する受信用超音波トランスデューサと、前記受信用超音波トランスデューサにより電気信号に変換された超音波パルス信号を増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得る受信部と、非線形性を考慮した疑似送信パルス信号Vtrans’(t)を形成する手段と、前記受信部により得られた受信パルス信号Vrec(t−τ)と前記疑似送信パルス信号Vtrans’(t)との間の相互相関処理手段,または、受信パルス信号Vrec(t−τ)を非線形性を考慮した疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)に変換する手段と、該疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理を行う信号処理手段とを備え、更に、前記超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波パルス信号の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間τとして呈示する呈示手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記参照信号発生手段が、前記送信部で発生された送信パルス信号Vtrans(t)と、他の手段によって発生させた特定の信号Vadd(t)とを加算処理する加算処理手段と、該加算処理によって得られる加算信号を疑似送信パルス信号Vtrans’(t)とし、前記受信信号Vrec(t−τ)との間で相互相関処理をする相互相関処理手段を有することを特徴とする。
【0015】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置では、前記加算処理手段において、前記送信部で発生された送信パルス信号Vtrans(t)に加算する信号Vadd(t)が、前記送信パルス信号Vtrans(t)と同じ振幅で、n倍(nは2以上の整数)の周波数を有したパルス信号とすることを特徴とする。
【0016】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置では、前記加算処理手段において、前記送信部で発生された送信パルス信号Vtrans(t)と加算する信号Vadd(t)との間に位相差を設ける手段を有することを特徴とする。
【0017】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記位相差を設ける手段が、前記相互相関処理手段から出力される相互相関値Rxy(τ)のピーク値が最大に、かつピークにおける半値幅Δtが最小になる位相差を計算によって求める手段を有することができる。
【0018】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置において、送信パルス信号Vtrans(t)を参照信号とし、前記信号処理手段は、前記受信超音波信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換し、その周波数特性Vrec(ω)を得るためのフーリエ変換手段と、その周波数特性の絶対値において、該周波数特性Vrec(ω)の高調波成分のピークレベルを基本波成分のピークレベルにほぼ等しくなるように増幅するピークレベル等化手段と、前記ピークレベル等化手段によって得られるピークレベル等化信号Vrec’(ω)を逆フーリエ変換して時間軸信号である疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)を出力する逆フーリエ変換手段を有し、前記疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と前記送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理をする相互相関処理手段を有することを特徴とする。
【0019】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置において、前記高調波成分は、正極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号と、負極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号との和をとることにより抽出される信号であり、前記基本波成分は、正極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号と、負極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号との差をとることにより抽出される信号であることを特徴とする。
【0020】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記フーリエ変換手段が、フーリエ変換の絶対値を計算する手段を有することを特徴とする。
【0021】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置において、前記送信パルス信号発生手段は、立ち上がり周波数f、立ち下がり周波数fのチャープ波に窓関数W1(t)を積算することにより、前記送信パルス信号Vtrans(t)を発生し、該窓関数W1(t)は、チャープ波の立ち上がり時刻tでの電圧レベルが、周波数が(f+f)/2となる時刻における電圧レベルのα倍、チャープの立ち下がり時刻tでの電圧レベルが、周波数が(f+f)/2となる時刻における電圧レベルのα倍となる波形としたことを特徴とする。
【0022】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記送信パルス信号Vtrans(t)は周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号であり、これに加算する信号Vadd(t)が、同じ振幅でn倍(nは2以上の整数)の周波数、即ちnf〜nfの周波数成分を持つチャープ波とすることを特徴とする。
【0023】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記送信パルス信号発生手段が、δ関数に近似できる広帯域信号を第1の送信パルス信号Vtransδ(t)として発生させる手段と、周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を第2の送信パルス信号Vtrans(t)として発生させる手段と、第1の送信パルス信号と第2の送信パルス信号を出力するタイミングを切り替えるスイッチ手段を有し、前記信号処理手段が、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)の駆動に対する受信信号Vrecδ(t-τ)をフーリエ変換し、その絶対値Abs(Vrecδ(ω))を形成する手段と、これを一時的に記憶する手段と、第2の送信パルス信号Vtrans(t)の駆動に対する受信信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換して得られる周波数特性Vrec(ω)を前記一時的に記憶していた絶対値Abs(Vrecδ(ω))を読み出し、これで除算する除算手段と、該除算信号を逆フーリエ変換して得られる疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)を形成し、前記送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関する機能を有することを特徴とする。
【0024】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記送信パルス信号発生手段が、δ関数に近似できる広帯域信号を第1の送信パルス信号Vtransδ(t)として発生させる手段と、周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を第2の送信パルス信号Vtrans(t)として発生させる手段と、第1の送信パルス信号と第2の送信パルス信号を出力するタイミングを切り替えるスイッチ手段を有し、前記信号処理手段が、第1の送信パルス信号の駆動に対する受信信号Vrecδ(t-τ)をフーリエ変換し、その絶対値Abs(Vrecδ(ω))を計算する手段と、該計算結果を送信信号Vtrans(t)をフーリエ変換して得られる周波数特性Vtrans(ω)に積算して、積算結果を逆フーリエ変換して得られる疑似送信パルス信号Vtrans’(t)と、受信信号Vrec(t−τ)との間で相互相関処理をする相互相関処理手段を有することを特徴とする。
【0025】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記送信用超音波トランスデューサと前記受信用超音波トランスデューサとが測定対象の超音波伝搬媒体の異なる二端面に設けられ、前記測定対象の超音波伝搬媒体の一方の端面から前記送信用超音波トランスデューサにより送信され、前記測定対象の超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波が前記測定対象の超音波伝搬媒体の他方の端面において前記受信用超音波トランスデューサにより受信されるまでの超音波伝搬時間を検出することを特徴とする。
【0026】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記送信用超音波トランスデューサと前記受信用超音波トランスデューサが測定対象の超音波伝搬媒体の一端面に設けられ、前記測定対象の超音波伝搬媒体の一端面から前記送信用超音波トランスデューサにより送信され、前記測定対象の超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波が前記測定対象の超音波伝搬媒体の他端面において反射されて前記測定対象の超音波伝搬媒体の前記一端面において前記受信用超音波トランスデューサにより受信されるまでの超音波伝搬媒体の超音波伝搬時間を検出することを特徴とする。
【0027】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、電極が二つの領域に分割され、それぞれ送信用電極部を含む送信用超音波トランスデューサ部に送信信号Vtrans(t)を印加する端子と、受信用電極部を含む受信用超音波トランスデューサ部で伝搬超音波を受信し、電気信号Vrec(t−τ)を出力する端子とを有する超音波トランスデューサを備えることを特徴とする。
【0028】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置において、前記超音波トランスデューサに於いて、送信時は、前記送信用超音波トランスデューサ部に送信信号Vtrans(t)を印加し、受信時は、前記送信用超音波トランスデューサ部と前記受信用超音波トランスデューサ部が並列接続となるようなスイッチ手段を有することを特徴とする。
【0029】
更に、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置は、前記送信用超音波トランスデューサ部、または前記受信用超音波トランスデューサ部のいずれか一方の超音波トランスデューサ部の出力端子と前記スイッチ手段までの経路に受信信号を減衰、または増幅する手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、送信部により送信パルス信号を発生し、前記送信パルス信号を送信用超音波トランスデューサにより超音波パルス信号に変換して測定対象の超音波伝搬媒体に入力し、前記超音波伝搬媒体を介して伝搬される前記超音波パルス信号を受信用超音波トランスデューサにより受信して電気信号に変換し、前記受信用超音波トランスデューサにより電気信号に変換された超音波パルス信号を受信部により増幅して受信パルス信号を得て、前記超音波伝搬媒体が有する非線形性を考慮した疑似送信パルス信号と、前記受信部により得られた受信パルス信号との相互相関処理、または、送信パルス信号と非線形性を考慮した疑似受信パルス信号との相互相関処理をすることにより、前記超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波パルス信号の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間として検出するので、従来配慮されていなかった超音波伝搬媒体の非線形音響特性、さらには超音波トランスデューサの伝達特性や超音波伝搬特性をも考慮した超音波伝搬時間計測を行い、超音波伝搬時間を高精度に計測することができる。
【0031】
本発明では、超音波伝搬時間を高精度に計測して、その結果を、例えば、板厚等の寸法、欠陥やターゲットの位置、変位、流体の流速、材料の物性値としての音速、又は、生体臓器の位置や状態情報、構造材料の欠陥の位置や形状などの超音波画像診断に用いられる情報のうちのいずれか、又はいくつかを組み合わせた物理情報又は物性情報の精密測定、または材料の物性計測に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る超音波伝搬時間計測装置の基本構成を示すブロック図である。
【図2】前記超音波伝搬時間計測装置に採用されるパルス圧縮法を説明するための波形図である。
【図3】前記超音波伝搬時間計測装置に採用される他のパルス圧縮法を説明するための波形図である。
【図4】本発明を適用した超音波伝搬時間計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図5】前記超音波伝搬時間計測装置の信号処理部において行われる処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明を適用した超音波伝搬時間計測装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図7】本発明を適用した超音波伝搬時間計測装置に用いられる超音波トランスデューサの構成例を示す要部断面図である。
【図8】本発明を適用した超音波伝搬時間計測装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図9】前記超音波伝搬時間計測装置の信号処理部において行われる処理の手順を示すフローチャートである。
【図10】前記超音波伝搬時間計測装置において、信号処理部に入力される受信パルス信号の周波数特性をモデル的に表示した図である。
【図11】前記超音波伝搬時間計測装置において、周波数fからfまで周波数を変化させたチャープ信号Vtrans(t)に、同じ振幅で、周波数が2fから2fまで周波数を変化させた2倍のチャープ信号を加算した加算信号Vtrans’(t)を示す図である。
【図12】前記超音波伝搬時間計測装置において、受信パルス信号Vrec(t−τ)と加算処理信号Vtrans’(t)とを相互相関処理することにより得られるパルス圧縮信号を示す図である。
【図13】前記超音波伝搬時間計測装置の信号処理部において行われる処理の手順を示すフローチャートである。
【図14】本発明を適用した超音波伝搬時間計測装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図15】本発明を適用した超音波伝搬時間計測装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図16】本発明を適用した超音波伝搬時間計測装置の他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
本発明を実施するための形態の具体的な説明に先立って、本発明に係る超音波伝搬時間計測装置100の原理について図1を参照して概略を説明する。
【0035】
この超音波伝搬時間計測装置100は、送信部110により発生される送信パルス信号Vtrans(t)に応じて駆動される送信用超音波トランスデューサ130から超音波伝搬媒体10を介して超音波パルス信号S(t)を送信し、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬されてくる前記超音波パルス信号S(t−τ)を受信用超音波トランスデューサ140により受信して受信部160により受信パルス信号Vrec(t−τ)を得て、信号処理部170において、前記送信パルス信号Vtrans(t)と前記受信パルス信号Vrec(t−τ)との相互相関処理を行うことにより、前記超音波伝搬媒体10を伝搬する超音波の伝搬時間を計測するものである。
【0036】
前記送信部110は、送信パルス信号Vtrans(t)を出力するパルス信号発生器111と、このパルス信号発生器111から出力される送信パルス信号Vtrans(t)を増幅して広帯域で高電圧の駆動信号D(t)を出力する駆動回路112とを備える。
【0037】
この送信部110は、前記パルス信号発生器111が出力した送信パルス信号Vtrans(t)を前記信号処理部170に供給するとともに、この送信パルス信号Vtrans(t)を増幅した駆動信号D(t)を前記駆動回路112から同軸ケーブル120を介して前記送信用超音波トランスデューサ130に供給して、前記駆動信号D(t)により前記送信用超音波トランスデューサ130を駆動する。
【0038】
前記送信用超音波トランスデューサ130は、前記駆動信号D(t)で駆動されることにより、前記送信パルス信号Vtrans(t)を超音波パルス信号S(t)に変換して前記超音波伝搬媒体10を介して送信する。
【0039】
前記受信用超音波トランスデューサ140は、前記送信用超音波トランスデューサ130から送信され前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬されてくる前記超音波パルス信号S(t−τ)を受信し、その受信出力を同軸ケーブル150を介して受信部160に供給する。
【0040】
ここで、この超音波伝搬時間計測装置100において、前記送信信号発生部110のパルス信号発生器111より発生される送信パルス信号Vtrans(t)は、周波数軸上でVtrans(ω)にて示される周波数特性を有し、駆動回路112から出力される駆動信号D(t)は周波数軸上で、D(ω)にて示される周波数特性を有するものとする。
【0041】
また、前記送信部110から前記駆動信号D(t)を送信用超音波トランスデューサ130に伝達する同軸ケーブル120は、伝達特性L(ω)で示される伝達関数を有するものとする。
【0042】
また、前記超音波伝搬媒体10を介して測定用の超音波パルス信号S(t)を送信する送信用超音波トランスデューサ130は、H(ω)で示される伝達関数を有するものとする。
【0043】
また、前記超音波伝搬媒体10を介して測定用の超音波パルス信号S(t−τ)を受信する受信用超音波トランスデューサ140は、H(ω)で示される伝達関数を有するものとする。
【0044】
さらに、前記受信用超音波トランスデューサ4の出力を受信部160に伝達する同軸ケーブル150は伝達特性L(ω)で示される伝達関数を有するものとする。
【0045】
そして、測定対象の超音波伝搬媒体10は、F(ω)で示される伝達関数を有するものとする。
【0046】
前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t)を、以下便宜的にT(t)と表し、その周波数特性をT(ω)とし、また同様にして超音波パルス信号S(t−τ)を、以下便宜的にR(t−τ)と表し、その周波数特性をR(ω)と表す。
【0047】
なお、周波数特性T(ω)およびR(ω)は、それぞれ時間特性T(t)およびR(t−τ)をフーリエ変換(FFT処理)した関係にあるものとする。
【0048】
ここで、超音波伝搬時間を計測する対象は、超音波伝搬媒体の超音波伝搬方向の長さ、材料の音速、伝搬媒体の流速、超音波伝搬媒体の一部にある欠陥等の位置検出、生体組織に存在する異常組織診断や寸法検出、血球等の生体細胞の内部構造観察のいずれでも良い。
【0049】
これらの検出、診断、観察において高精度の超音波伝搬時間計測が、高精度、あるいは高分解能、高信頼性の検出、診断、観察の基礎になることは言うまでもない。超音波伝搬時間計測は、送信用超音波トランスデューサ3から送信超音波パルス信号STX(t)が、超音波伝搬媒体10に送信された瞬間の時刻から受信用超音波トランスデューサ4によって伝搬してきた受信超音波パルス信号SRX(t−τ)を受信した時刻までの時間で定義される。
【0050】
この場合、受信超音波パルス信号SRX(t)のスペクトル特性R(ω)は、
R(ω)=T(ω)×F(ω)×H(ω) (1)
で表される。ここで、T(ω)は送信超音波パルス信号STX(t)の周波数特性、F(ω)は超音波伝搬媒体10の伝搬特性であり、超音波減衰やサイドローブ特性あるいは音響的な非線形特性を含んだ伝達特性を表す。H(ω)は受信用超音波トランスデューサ140の伝達関数である。さらに、送信超音波パルス信号STX(t)の周波数特性T(ω)は、
T(ω)=D(ω)×L(ω)×H(ω) (2)
で表される。ここで、H(ω)は送信用超音波トランスデューサ130の伝達関数、D(ω)は駆動信号D(t)の周数特性であり、L(ω)は前記駆動信号D(t)を送信用超音波トランスデューサ130に伝達する同軸ケーブル150の伝達関数である。
【0051】
前記受信超音波パルス信号SRX(t−τ)を受信用超音波トランスデューサ140が受信することにより前記受信部160に得られる受信パルス信号Vrec(t−τ)は、前記受信用超音波トランスデューサ140により受信した前記受信超音波パルス信号SRX(t−τ)のスペクトル特性R(ω)を
rec(ω)=R(ω)×L(ω)×A(ω) (3)
なる式に基づいて変換したスペクトル特性Vrec(ω)を有するものとなる。
【0052】
前記受信部160に得られる受信パルス信号Vrec(t−τ)は、信号処理部7に供給されて、前記駆動信号D(t)と以下の関係のある参照パルス信号との間で相互相関処理が行われる。
【0053】
前記(3)式におけるA(ω)は、受信部160の増幅度の帯域特性であり、高調波成分を含む周波数帯域で一定の増幅度を持っていれば定数として扱うことができる。
【0054】
D(ω)=Vtrans(ω)×A(ω) (4)
ここで、A(ω)は、前記送信部110に備えられた駆動回路112の増幅度の帯域特性であり、パルス信号発生器111より発生される送信パルス信号Vtrans(t)の周波数特性Vtrans(ω)の帯域内で一定の増幅度を持っていれば定数として扱うことができる。
【0055】
また、同軸ケーブル120,150の伝達関数L(ω),L(ω)を超音波トランスデューサ3,4の伝達関数に含め、それらを新たに超音波トランスデューサの伝達関数H(ω)、H(ω)と定義しなおすと、
rec(ω)=R(ω)×L(ω)×A(ω)
=T(ω)×F(ω)×H(ω)×A(ω)
=Ht(ω)×D(ω)×F(ω)×H(ω)×A(ω) (5)
となり、また、送信パルス信号Vtrans(t)の周波数特性Vtrans(ω)
trans(ω)=D(ω)/A (6)
となる。ここでA、Aは定数である。
【0056】
そして、相互相関関数Rxy(j)は、信号x(t),y(t)の離散データをx(i)(i=0,1,2,・・・,N−1),y(i)(i=0,1,2,・・・,N−1)とすると、次の(7)式にて定義される。
【0057】
【数1】

【0058】
ここで、x(i)=Vtrans(t)、y(i+j)=Vrec(t−τ)でRxy(j)=Rxy(τ)であり、Vtrans(t)、Vrec(t−τ)はVtrans(ω)、Vrec(ω)を逆フーリエ変換したものである。
【0059】
xy(τ)はVtrans(t)とVrec(t−τ)との類似度に従って位相τにおける値が1に近づいてゆき、同時に位相τにおけるメインピークの半値幅Δtが狭くなり、位相τの値の精度が高まることを意味する。
【0060】
超音波伝搬時間は前記位相τに相当するので、相互相関に関する前記説明より分かるように、超音波伝搬時間の測定精度を上げるということは、相互相関関数R(t)のt=τにおける値が1に近く、t=τにおけるメインピークの半値幅が小さい値を示すことであるということが分かる。また、Vtrans(t)とVrec(t−τ)との類似度が高いほど、τの計測精度が向上したことを意味する。Vrec(t−τ)とVtrans(t)の波形の類似度はVrec(ω)とVtrans(ω)の類似度と考えてもよい。
【0061】
すなわち、この超音波伝搬時間計測装置100では、送信部110により送信パルス信号Vtrans(t)を発生し、前記送信パルス信号Vtrans(t)を増幅した信号D(t)を送信用超音波トランスデューサ130に印加することにより超音波パルス信号S(t)に変換して測定対象の超音波伝搬媒体10に入力し、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される前記超音波パルス信号S(t−τ)を受信用超音波トランスデューサ140により受信して電気信号に変換し、前記受信用超音波トランスデューサ140により電気信号に変換された超音波パルス信号S(t−τ)を受信部160により増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得て、信号処理部170において、前記超音波伝搬媒体10が有する非線形性を考慮した疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)又は疑似送信パルス信号Vtrans’(t)を形成し、それぞれ、Vtrans(t)、Vrec(t−τ)との相互相関処理により、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t)の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間として検出することができる。
【0062】
ここで、パルス圧縮の原理を説明する。
【0063】
チャープ波p(t)は振幅P0として、次の式で表せる。
【0064】
【数2】

【0065】
ここで、ωs(=2πfs)は初期角周波数、Tは掃引時間、μは角周波数掃引率である。また、feを最終周波数、2πΔfを掃引角周波数とすると、μ=Δω/T=2π(fe−fs)/Tの関係にある。チャープ波のパルス圧縮比はTΔfで与えられ、Δfを大きくするほどパルス幅は狭くなり、距離分解能は高まる。
【0066】
以上がパルス圧縮の原理である。
【0067】
なお、パルス圧縮の効果があるのは、周波数変調信号であるチャープ波の他、位相変調信号、即ち符号化系列信号であるバーカー系列信号、相補系列信号、M系列信号などでも同様の効果があるが、チャープ波を用いた場合が最もSNが良く好ましい。
【0068】
図2の(A)に示すように、立ち上がり周波数f、停止周波数fでバースト長がΔTのチャープ波駆動信号D(t)を送信用超音波トランスデューサ130に印加した場合に、図2の(B)に示すような受信パルス信号Vrec(t−τ)が得られる。
【0069】
前記チャープ波駆動信号D(t)は、送信パルス信号Vtrans(t)をA倍に増幅した信号の関係になっている。
【0070】
前記受信信号Vrec(t−τ)は、その周波数特性Vrec(ω)を用いて示すと、次のような関係がある。なお、Htr(ω)は、Htr(ω)=H(ω)・H(ω)の関係を表し、Fnl(ω)は、図2に示した超音波伝搬媒体の伝搬特性F(ω)内の非線形成分を示している。すなわち、
rec(ω)=Vtrans(ω)×A×Htr(ω)×Fnl(ω)×A
=Vtrans(ω)×Vrecδ(ω)×C (8)
ここで、
recδ(ω)=Htr(ω)×Fnl(ω)×C C:定数 (9)
である。すなわち、前記受信パルス信号Vrec(t−τ)の周波数特性は、前記チャープ波駆動信号D(t)に
tr(ω)×Fnl(ω)×C’
を積算したものに等しい。C’は定数である。
【0071】
以上から、送信パルス信号Vtrans(ω)にVrecδ(ω)(Vrecδ(ω)=Htr(ω)×Fnl(ω))の絶対値Abs(Vrecδ(ω))を積算した信号Vtrans’(ω)を形成し、これを逆フーリエ変換して得た時間軸信号である疑似送信パルス信号Vtrans’(t)と受信信号Vrec(t−τ)との相互相関を計算すれば最も相関値が高くなるといえる。以上が第一の方法である。
【0072】
あるいは、以下の方法でも同等の効果が得られる。
【0073】
受信信号Vrec(ω)をVrecδ(ω)の絶対値で除算した結果を逆フーリエ変換して、時間軸信号である疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)に変換し、その時間軸信号と、送信パルス信号Vtrans(t)との相互相関処理することによっても同等の効果が得られることは上式(8)の関係から明らかある。尚、ここでVrecδ(ω)の絶対値を用いるのは前記除算結果に超音波伝搬時間τの情報を残すためであり、これによって物理的な考え方に矛盾をもたらすものではない。絶対値をとるのは、除算結果にτに関する情報を残すことが目的であり、この目的が達成されるのであれば、他の方法であっても構わない。以上が第二の方法である。
【0074】
他の方法として、例えば、受信信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換して、周波数特性Vrec(ω)を算出し、この信号Vrec(ω)から絶対値信号、即ち位相情報を含まない周波数特性Abs(Vrec(ω))を算出し、この絶対値周波数特性において、該周波数特性における高調波成分の周波数範囲のレベルを基本波成分のピークレベルにほぼ等しくなるように増幅し、新たな受信信号Abs(Vrec’(ω))を算出し、この信号Abs(Vrec’(ω))を逆フーリエ変換して、新たに時間軸信号である疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)を得る。この疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と、もとの送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理をする方法でも良い。以上が第三の方法である。
【0075】
更には以下に記載する、より簡便な方法もある。
【0076】
送信信号Vtrans(t)の周波数成分を全て、考慮する次数倍した第2の送信信号Vtrans2(t)を形成し、もとの送信信号Vtrans(t)と第2の送信信号Vtrans2(t)とを加算したあらたな疑似送信パルス信号Vtrans’(t)を形成し、もとの送信信号Vtrans(t)に対する受信信号Vrec(t−τ)との間で相互相関処理する方法も、簡便で好ましい方法と言える。例えば、もとの送信信号Vtrans(t)がfからfの周波数掃引されるチャープ波の場合、Vtrans2(t)として2fから2fで周波数掃引されるチャープ波を形成することになる。また3次の高調波までを計算する場合は、更に3fから3fで周波数掃引される第三のチャープ波信号を加算することになる。この様にして得られる広帯域送信パルス信号は相互相関処理に用いるだけであり、送信用超音波トランスデューサに印加する訳ではないので、その次数は適宜決めることが出来るし、より広帯域の送信用超音波トランスデューサを必要とするわけではない。ただし、この方法には超音波トランスデューサが有する伝達関数の効果が配慮されず、超音波トランスデューサの周波数特性に、不要振動が混在する場合には必ずしも好ましい方法とはいえない。以上が第四の方法である。
【0077】
尚、(8)式のVrecδ(ω)にτに関する情報が残っていると、Vtrans’(t)とならずに
trans’(t−τ’)、τ≠τ’
となり、受信信号Vrec(t−τ)との相互相関処理をしても、τの正しい値が得られない。そこで、Vrecδ(ω)の絶対値を計算してτに関する情報を持たない新たなVrecδ’(ω)を計算し、これによる前記第一の方法におけるVtrans(ω)への積算、あるいは前記第二の方法におけるVrec(ω)を除算することに用いる。この操作によって、τに関する情報を含まない疑似送信パルス信号Vtrans’(t)が得られることになり、受信信号Vrec(t−τ)との相互相関処理によって正確なτの値が得られることになる。
【0078】
また、受信信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換して得られるVrec(ω)の絶対値Abs(Vrec(ω))は位相情報を持たないので、この絶対値Abs(Vrec(ω))において、高調波成分のピークレベルが基本波成分に等しくなるような演算処理を行い、その結果得られるVrec’(ω)を逆フーリエ変換して得られる疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理することによって、更に相関値が改善される。
【0079】
[第1の実施の形態]
この実施の形態は前述した第四の方法に対応している。図4に示す超音波伝搬時間計測装置200は、送信パルス信号Vtrans(t)を発生する送信部210と、前記送信部210からの送信パルス信号Vtrans(t)を超音波パルス信号S(t)に変換する送信用超音波トランスデューサ230と、前記送信用超音波トランスデューサ230により変換された超音波パルス信号S(t)を測定対象の超音波伝搬媒体10を介して受信し、受信した超音波パルス信号S(t−τ)を電気信号に変換する受信用超音波トランスデューサ240と、前記受信用超音波トランスデューサ240により電気信号に変換された超音波パルス信号を増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得る受信部260と、前記超音波伝搬媒体10が有する非線形性を考慮した参照信号と前記受信部260により得られた受信パルス信号との相互相関処理により、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t)の送受信間の時間間隔τを超音波伝搬時間として検出する信号処理部270とを備える。
【0080】
この超音波伝搬時間計測装置200は、所謂透過法で超音波伝搬時間を計測するものであって、前記送信用超音波トランスデューサ230と前記受信用超音波トランスデューサ240が測定対象の超音波伝搬媒体10の異なる二端面10A、10Bに設けられ、前記測定対象の超音波伝搬媒体10の一方の端面10Aから前記送信用超音波トランスデューサ230により送信され、前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t−τ)が前記測定対象の超音波伝搬媒体10の他方の端面10Bにおいて前記受信用超音波トランスデューサ240により受信されるまでの超音波伝搬時間を検出する。
【0081】
この超音波伝搬時間計測装置200において、前記送信部210は、前記送信パルス信号Vtrans(t)として周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を発生するパルス信号発生器211と、前記パルス信号発生器211により送信パルス信号Vtrans(t)として発生された周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を増幅して得られる駆動信号D(t)により前記送信用超音波トランスデューサを駆動する駆動回路212からなる。
【0082】
この送信部210は、前記パルス信号発生器211が出力した送信パルス信号Vtrans(t)を前記信号処理部270に供給するとともに、この送信パルス信号Vtrans(t)を増幅した駆動信号D(t)を前記駆動回路212から前記送信用超音波トランスデューサ230に供給して、前記駆動信号D(t)により前記送信用超音波トランスデューサ230を駆動する。
【0083】
前記送信用超音波トランスデューサ230は、前記駆動信号D(t)で駆動されることにより、前記送信パルス信号Vtrans(t)を超音波パルス信号S(t)に変換して前記超音波伝搬媒体10を介して送信する。
【0084】
前記受信用超音波トランスデューサ240は、前記送信用超音波トランスデューサ230から送信され前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬されてくる前記超音波パルス信号S(t−τ)を受信し、前記超音波パルス信号S(t−τ)を電気信号に変換して受信部260に供給する。
【0085】
前記受信部260は、前記受信用超音波トランスデューサ240による受信出力を広帯域増幅器261により増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得て、この受信パルス信号Vrec(t−τ)をAD変換器262によりデジタル化して信号処理部270に供給する。
【0086】
この超音波伝搬時間計測装置200における信号処理部270は、デジタル信号処理回路であって、前記送信パルス信号Vtrans(t)として前記パルス信号発生器により発生された周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号に2f〜2fの周波数成分を持つチャープ波を加算した加算チャープ信号Vadd(t)を疑似送信パルス信号Vtrans’(t)として、前記受信部により得られる受信パルス信号Vrec(t−τ)との相互相関処理を行うことにより、前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t)が前記測定対象の超音波伝搬媒体10の他方の端面10Bにおいて前記受信用超音波トランスデューサ240により受信されるまでの超音波伝搬時間τを検出することができる。
【0087】
なお、本実施の形態における送信信号Vtrans(t)に特定の窓関数W1(t)を積算して得られる信号を新たな疑似送信パルス信号Vtrans’(t)として受信信号Vrec(t−τ)との間で相互相関処理を行ってもよい。上記窓関数W1(t)は、チャープ波の立上り時刻tでの電圧レベルが、周波数が(f+f)/2となる時刻における電圧レベルのα倍、チャープ波の立下り時時刻tでの電圧レベルが、周波数が(f+f)/2となる時刻における電圧レベルのα倍となる波形、例えばTukey window、Hamming window、Hanning windowやBlackman windowなどの窓関数の逆数を用いることができる。本窓関数処理は、Vtransδ(t)とVtransδ(t-τ)の送受信、すなわち超音波振動子が有する伝達関数を用いることに対する代替処理とも言える。従って、この窓関数処理は、前記した第四の方法に対しても適用可能である。
【0088】
[第2の実施の形態]
この実施の形態は前述した第三の方法に対応している。
前記信号処理部270において、図5のフローチャートに示す処理を行うことにより参照信号を生成して用いることもできる。
【0089】
すなわち、この場合、前記信号処理部270は、前記パルス信号発生器211により送信パルス信号Vtrans(t)として発生された周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を前記駆動回路212により増幅して得られる駆動信号D(t)により前記送信用超音波トランスデューサ230を駆動して(ステップST1)、前記受信部260に得られる受信パルス信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換(FFT処理)して周波数軸信号Vrec(ω)に変換し(ステップST2)、前記周波数軸信号Vrec(ω)の絶対値の高調波成分を増幅した周波数軸信号Vrec’(ω)を算出し(ステップST3)、前記周波数軸信号Vrec’(ω)を逆フーリエ変換して時間軸信号である疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)に変換する(ステップST4)。
【0090】
そして、前記信号処理部270は、この疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と送信パルス信号Vtrans(t)との相互相関処理を行うことにより、位相差τを算出し、超音波伝搬時間を求める(ステップST6)。
【0091】
図6に示す超音波伝搬時間計測装置300は、送信パルス信号Vtrans(t)を発生する送信部310と、前記送信部310からの送信パルス信号Vtrans(t)を超音波パルス信号S(t)に変換して測定対象の超音波伝搬媒体10を介して送信し、前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して伝搬され反射されてくる前記超音波パルス信号S(t−τ)を受信し、受信した超音波パルス信号S(t−τ)を電気信号に変換する送受信兼用超音波トランスデューサ340と、前記送受信兼用超音波トランスデューサ340により電気信号に変換された超音波パルス信号を増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得る受信部360と、前記超音波伝搬媒体310が有する非線形性を考慮した参照信号と前記受信部360により得られた受信パルス信号との相互相関処理により、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t)の送受信間の時間間隔τを超音波伝搬時間として検出する信号処理部370を備える。
【0092】
この超音波伝搬時間計測装置300は、所謂反射法で超音波伝搬時間を計測するものであって、前記送受信兼用超音波トランスデューサ340が測定対象の超音波伝搬媒体10の一端面10Aに設けられ、前記測定対象の超音波伝搬媒体10の一方の端面10Aから前記送受信兼用超音波トランスデューサ340により送信され、前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して伝搬される超音波パルス信号S(t)が前記測定対象の超音波伝搬媒体10の他方の端面10Bにおいて反射され前記測定対象の超音波伝搬媒体10の前記一方の端面10Aにおいて前記送受信兼用超音波トランスデューサ340により受信されるまでの超音波伝搬時間τを検出する。
【0093】
この超音波伝搬時間計測装置300において、前記送信部310は、前記送信パルス信号Vtrans(t)として周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を発生するパルス信号発生器311と、前記送信パルス信号Vtrans(t)を増幅して得られる駆動信号D(t)により前記送信用超音波トランスデューサを駆動する駆動回路312からなる。
【0094】
この送信部310は、前記パルス信号発生器311が出力した送信パルス信号Vtrans(t)を前記信号処理部370に供給するとともに、この送信パルス信号Vtrans(t)を増幅した駆動信号D(t)を前記送受信兼用超音波トランスデューサ340の送信用超音波振動子部に供給して送信超音波S(t)を発生させる。
【0095】
前記送受信兼用超音波トランスデューサ340の送信用超音波振動子部は、前記送信パルス信号Vtrans(t)を増幅した駆動信号D(t)を超音波パルス信号S(t)に変換して前記超音波伝搬媒体10に送信し、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬され他方の端面10Bにおいて反射され戻されてくる前記超音波パルス信号S(t−τ)を受信し、前記超音波パルス信号S(t−τ)を電気信号に変換して受信部360に供給する。
【0096】
前記受信部360は、前記送受信兼用超音波トランスデューサ340による受信出力を広帯域増幅器361により増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得て、この受信パルス信号Vrec(t−τ)をAD変換器362によりデジタル化して信号処理部370に供給する。
【0097】
この超音波伝搬時間計測装置300における信号処理部370は、デジタル信号処理回路であって、前記受信パルス信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換して周波数特性Vrec(ω)に変換し、更に周波数特性Vrec(ω)の絶対値Abs(Vrec(ω))を計算し、該絶対値周波数特性Abs(Vrec(ω))の高調波領域の信号レベルを基本波周波数領域のピークレベルに等化した新たな絶対値周波数特性Abs(Vrec’(ω))が得られるような信号処理を施し、この信号処理結果を逆フーリエ変換して、疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)を形成し、これと送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理を行うことにより、前記測定対象の超音波伝搬媒体10を往復するのにかかった超音波伝搬時間τを検出する。しかし実際には、基本波成分に対する高調波成分のレベル比は、相互相関信号のピーク信号のピーク値や半値幅をモニターしながら、ピーク値が最大、半値幅が最小になる最適値に調整することが好ましい。
【0098】
なお、前記絶対値周波数特性Abs(Vrec(ω))の高調波領域の信号と基本波周波数領域の信号は、次のように手法で形成するのが好ましい。すなわち、高調波領域の信号は、正極性のチャープ波駆動信号D(t)を送信用超音波トランスデューサに印加したときに受信用超音波トランスデューサで得られる受信信号Vrec(t−τ)と、負極性のチャープ波駆動信号D(t)を送信用超音波トランスデューサに印加したときに受信用超音波トランスデューサで得られる受信信号Vrec(t−τ)との和をとることにより抽出される信号とし、また、基本波周波数領域の信号は、正極性のチャープ波駆動信号D(t)を送信用超音波トランスデューサに印加したときに受信用超音波トランスデューサで得られる受信信号Vrec(t−τ)と、負極性のチャープ波駆動信号D(t)を送信用超音波トランスデューサに印加したときに受信用超音波トランスデューサで得られる受信信号Vrec(t−τ)との差をとることにより抽出される信号とする。受信用超音波トランスデューサで得られる受信信号の基本波成分は逆位相であるが、高調波成分は同位相であるので、受信信号Vrec(t−τ)と受信信号Vrec(t−τ)の和をとることにより、基本波成分は相殺され、高調波成分は加算されて2倍の信号レベルの信号として抽出され、また、受信信号Vrec(t−τ)と受信信号Vrec(t−τ)の差をとることにより、高調波成分は相殺され、基本波成分は加算されて2倍の信号レベルの信号として抽出され、前記絶対値周波数特性Abs(Vrec(ω))の高調波領域の信号と基本波周波数領域の信号を効率よく形成することができる。
【0099】
尚、伝搬時間と音速との関係から試料の厚さや反射点までの距離を計算する時は前記超音波伝搬時間τに1/2倍した値を用いる必要があることはいうまでも無い。
【0100】
この超音波伝搬時間計測装置300では、前記送受信兼用超音波トランスデューサ340の送信用超音波トランスデューサ部と受信用超音波トランスデューサ部を並列接続し、この並列接続した送受信兼用超音波トランスデューサ340で送信超音波を発生させ、他端面で反射し、戻ってきたエコー信号を検知し送信してから受信するまでの時間τを1/2した時間τ1/2を超音波伝搬時間とし、音速を用い、試料の厚さや異物や欠陥などの対象物までの距離を検出することができる。
【0101】
[超音波トランスデューサの構成例]
ここで、送信用超音波トランスデューサ及び前記受信用超音波トランスデューサには、例えば図7の(A),(B)に示すように、電極が送信用電極部と受信用電極部に分割された分割型広帯域超音波トランスデューサ20を用いることができる。この分割型広帯域超音波トランスデューサ20は、リング状コンポジット圧電振動子24、円板状コンポジット圧電振動子25からなり、前記リング状コンポジット圧電振動子24の内側円内に前記円板状コンポジット圧電振動子25が配置される。両コンポジット圧電振動子24,25は同じ構造と特性を有し、前記円板状コンポジット25の厚さはリング状コンポジット圧電振動子24の厚さの約1/3に設定されており、分割領域36によって両コンポジット圧電振動子24,25が分離されている。この超音波トランスデューサ20において、26は共通接地電極、27はプラノコーンケーブ状の音響レンズ、28はダンピング層、29はエポキシ樹脂封止層である。両コンポジット圧電振動子24,25の図示しない信号入出力側電極は、ハウジング33に取り付けたマイクロドットコネクター34,35に配線31,32を介して接続されている。37は超音波トランスデューサ固定台への取り付けネジであり、ここではUHFコネクターを用いている。
【0102】
このような構造の分割型広帯域超音波トランスデューサ20は、両コンポジット圧電振動子24,25を電気的に並列接続することにより、あたかも単体の超音波トランスデューサかのように用いることができる。
【0103】
また、前記分割型広帯域超音波トランスデューサ20は、送信時は片側の低周波側超音波トランスデューサ部を用い、受信時は他の高周波側超音波トランスデューサ部を使うことができる。この様な使い方はパルス幅が長いチャープ波を送信信号に用いる場合有利となる。即ち、対象物がチャープ波送信信号の時間内に相当する距離にある場合、受信信号とのオーバーラップ領域が出現し、送信波形Vtrans(t)と受信波形Vrec(t−τ)とが峻別できなくなり相互相関処理が難しくなる。送信用超音波トランスデューサは送信駆動のみ行い、受信用超音波トランスデューサは受信のみ行うことによって、両信号が干渉した信号が発生することはない。
【0104】
さらに、前記分割型広帯域超音波トランスデューサ20は、送信時は片側の低周波側超音波振動子を用い、受信時は電気的に並列接続になるようにスイッチ切り替えをして使うこともできる。この場合、受信信号の基本波成分の信号レベルに対して高調波成分の信号レベルの相対比率を可変とする増幅手段を伴う場合もある。
【0105】
[第3の実施の形態]
この実施の形態は前述した第一の方法に対応している。
【0106】
図8に示す超音波伝搬時間計測装置400において、前記送信部410は、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)としてδ関数と近似できるD(ω)=1の広帯域パルス信号、たとえば半波の正弦波信号を発生する広帯域パルス発生器411Aと、立ち上がり周波数f、停止周波数fでバースト長がΔTのチャープ信号を発生するチャープ信号発生器411Bを備える。前記広帯域パルス発生器411Aにより発生される第1の送信パルス信号Vtransδ(t)は、スイッチ制御信号発生器413により発生される第1のスイッチ制御信号によりON・OFF制御される第1のスイッチ414Aを介して駆動回路412に供給され、また、前記チャープ信号発生器411Bにより発生される第2の送信パルス信号Vtrans(t)は、前記スイッチ制御信号発生器413により発生される第2のスイッチ制御信号によりON・OFF制御される第2のスイッチ414Bを介して前記駆動回路412に供給される。前記スイッチ制御信号発生器413は、前記信号処理部470による制御に基づいて前記第1のスイッチ制御信号と第2のスイッチ制御信号を発生する。
【0107】
この超音波伝搬時間計測装置400は、上述の図3を用いて説明したパルス圧縮法を採用して、所謂透過法で超音波伝搬時間を計測するものであって、前記送信用超音波トランスデューサ430と前記受信用超音波トランスデューサ440が測定対象の超音波伝搬媒体10の異なる二端面10A、10Bに設けられている。
【0108】
前記送信用超音波トランスデューサ430と前記受信用超音波トランスデューサ440には、ともに上述の図7に示した構造の分割型広帯域超音波トランスデューサ20の両超音波トランスデューサ部を並列接続したものを用いている。
【0109】
前記送信部410は、前記広帯域パルス発生器411Aにより発生される第1の送信パルス信号Vtransδ(t)を前記駆動回路412により増幅した第1の駆動信号D(t)を、前記送信用超音波トランスデューサ430に供給して、また、前記チャープ信号発生器411Bが発生した第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記信号処理部470に供給するとともに、この第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記駆動回路412により増幅した第2の駆動信号 D(t)を前記送信用超音波トランスデューサ430に印加する。
【0110】
前記送信用超音波トランスデューサ430は、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)を第1の超音波パルス信号S1X(t)に変換して前記超音波伝搬媒体10に送信し、前記第2の送信パルス信号Vtrans(t)を第2の超音波パルス信号S2X(t)に変換して前記超音波伝搬媒体10に送信する。
【0111】
前記受信用超音波トランスデューサ440は、前記送信用超音波トランスデューサ430から送信され前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬されてくる前記第1の超音波パルス信号S1X(t−τ)を受信し、前記第1の超音波パルス信号S1X(t−τ)を電気信号に変換して受信部460に供給し、また、前記送信用超音波トランスデューサ430から送信され前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬されてくる前記第2の超音波パルス信号S2X(t−τ)を受信し、前記第2の超音波パルス信号S2x(t−τ)を電気信号に変換して前記受信部460に供給する。
【0112】
前記受信部460は、前記受信用超音波トランスデューサ440による受信出力を広帯域増幅器461により増幅して、前記第1の超音波パルス信号S1X(t−τ)の受信時に第1の受信信号Vrecδ(t−τ)を得て、この第1の受信パルス信号Vrecδ(t−τ)をAD変換器462によりデジタル化して信号処理部470に供給し、また、前記第2の超音波パルス信号S2X(t−τ)の受信時に第2の受信信号Vrec(t−τ)を得て、この第2の受信パルス信号Vrec(t−τ)を前記AD変換器462によりデジタル化して前記信号処理部470に供給する。
【0113】
この超音波伝搬時間計測装置400における信号処理部470は、デジタル信号処理回路であって、図9のフローチャートに示す処理を行う。前記第1の送信パルス信号Vtransδ(t)を送信用超音波トランスデューサに印加し(ST11)、前記受信部460により得られた第1の受信パルス信号Vrecδ(t−τ)をフーリエ変換して周波数特性Vrecδ(ω)に変換し(ST12)、更に周波数特性Vrecδ(ω)の絶対値周波数特性Abs(Vrecδ(ω))を計算する(ST13)。次にこの絶対値周波数特性Abs(Vrecδ(ω))(=Vrecδ’(ω))を第2の送信信号Vtrans(t)(ST14)の周波数特性Vtrans(ω)(ST15)に積算し(ST16)、該積算信号を逆フーリエ変換して得られる時間軸特性である疑似送信パルス信号Vtrans’(t)(ST17)と、第2の送信信号Vtrans(t)に対する受信信号Vrec(t−τ)との間で相互相関処理(ST18)を行うことにより、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される第2の超音波パルス信号S2X(t)の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間τとして検出して呈示する(ST19)ことが可能となる。
[第4の実施の形態]
この実施の形態は前述した第二の方法に対応している。
【0114】
図8に示す超音波伝搬時間計測装置400において、前記送信部410は、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)としてδ関数と近似できるD(ω)=1の広帯域パルス信号、たとえば半波の正弦波信号を発生する広帯域パルス発生器411Aと、立ち上がり周波数f、停止周波数fでバースト長がΔTのチャープ信号を発生するチャープ信号発生器411Bを備える。前記広帯域パルス発生器411Aにより発生される第1の送信パルス信号Vtransδ(t)は、スイッチ制御信号発生器413により発生される第1のスイッチ制御信号によりON・OFF制御される第1のスイッチ414Aを介して駆動回路412に供給され、また、前記チャープ信号発生器411Bにより発生される第2の送信パルス信号Vtrans(t)は、前記スイッチ制御信号発生器413により発生される第2のスイッチ制御信号によりON・OFF制御される第2のスイッチ414Bを介して前記駆動回路412に供給される。前記スイッチ制御信号発生器413は、前記信号処理部470による制御に基づいて前記第1のスイッチ制御信号と第2のスイッチ制御信号を発生する。
【0115】
この超音波伝搬時間計測装置400は、上述の図3を用いて説明したパルス圧縮法を採用して、所謂透過法で超音波伝搬時間を計測するものであって、前記送信用超音波トランスデューサ430と前記受信用超音波トランスデューサ440が測定対象の超音波伝搬媒体10の異なる二端面10A、10Bに設けられている。
【0116】
前記送信用超音波トランスデューサ430と前記受信用超音波トランスデューサ440には、ともに上述の図7に示した構造の分割型広帯域超音波トランスデューサ20の両超音波トランスデューサ部を並列接続したものを用いている。信号処理フローチャートが示されている図13を併用しながら本実施の形態の作用を説明する。
【0117】
前記送信部410は、前記広帯域パルス発生器411Aにより発生される第1の送信パルス信号Vtransδ(t)を前記駆動回路412により増幅した第1の駆動信号D(t)を、前記送信用超音波トランスデューサ430に供給する(ST21)、また、前記チャープ信号発生器411Bが発生した第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記信号処理部470に供給するとともに、この第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記駆動回路412により増幅した第2の駆動信号D(t)を前記送信用超音波トランスデューサ430に印加する(ST24)。
【0118】
前記送信用超音波トランスデューサ430は、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)を第1の超音波パルス信号S1X(t)に変換して前記超音波伝搬媒体10に送信し、前記第2の送信パルス信号Vtrans(t)を第2の超音波パルス信号S2X(t)に変換して前記超音波伝搬媒体10に送信する。
【0119】
前記受信用超音波トランスデューサ440は、前記送信用超音波トランスデューサ430から送信され前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬されてくる前記第1の超音波パルス信号S1X(t−τ)を受信し、前記第1の超音波パルス信号S1X(t−τ)を電気信号に変換して受信部460に供給し、また、前記送信用超音波トランスデューサ430から送信され前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬されてくる前記第2の超音波パルス信号S2X(t−τ)を受信し、前記第2の超音波パルス信号S2x(t−τ)を電気信号に変換して前記受信部460に供給する。
【0120】
前記受信部460は、前記受信用超音波トランスデューサ440による受信出力を広帯域増幅器461により増幅して、前記第1の超音波パルス信号S1X(t−τ)の受信時に第1の受信信号Vrecδ(t−τ)を得て(ST12)、この第1の受信パルス信号Vrecδ(t−τ)をAD変換器462によりデジタル化して信号処理部470に供給し、また、前記第2の超音波パルス信号S2X(t−τ)の受信時に第2の受信信号Vrec(t−τ)を得て(ST15)、この第2の受信パルス信号Vrec(t−τ)を前記AD変換器462によりデジタル化して前記信号処理部470に供給する。
【0121】
この超音波伝搬時間計測装置400における信号処理部470は、デジタル信号処理回路であって、図13のフローチャートに示す処理を行うことにより、前記第1の送信パルス信号Vtransδ(t)と前記受信部460により得られた第1の受信パルス信号Vrecδ(t−τ)をフーリエ変換して周波数特性Vrecδ(ω)に変換し(ST26)、更に周波数特性Vrecδ(ω)を計算し(ST22)、次いで絶対値周波数特性Abs(Vrecδ(ω))(これをVrecδ’(ω)と表記しなおす)を計算する(ST23)。この信号Vrecδ’(ω)には一度絶対値処理を行っているので、位相情報τを含んでいない。従って、Vtrans(t)に対する受信信号であるVrec(t−τ)をフーリエ変換して得られる周波数特性Vrec(ω)を除算した除算信号にはもとの位相情報τが含まれている(ST27)。そこで、該除算信号Vrec’(ω)を逆フーリエ変換して(ST28)得られる時間軸信号である疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理する(ST29)ことにより前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される第2の超音波パルス信号S2X(t)の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間τとして検出して呈示する(ST30)ことが可能となる。
【0122】
ここで、前記チャープ信号の開始周波数fが例えば2.5MHz、終了周波数fが7.5MHzのとき、超音波トランスデューサの比帯域幅は100%となり、従来のPZTセラミクス等の圧電振動子では実現不可能な値であり、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような高分子圧電体では十分な送信音圧が得られない。しかしながら、送信用超音波トランスデューサ430としては、コンポジット圧電振動子を用い分割型にして両超音波トランスデューサ部を並列接続することにより、単体の超音波トランスデューサとして送受信兼用で使えることが出来る。
【0123】
尚、周波数3fを中心としたピークには、超音波伝搬によって発生した非線形第3高調波成分と、超音波トランスデューサとして圧電振動子を用いる場合の線形成分を加算したものであり、超音波トランスデューサの伝達関数の一部である三次のオーバートーン成分とが含まれている。このように、受信パルス信号Vrec(t−τ)の周波数特性には超音波トランスデューサ430,440の伝達関数H(ω)×H(ω)に相当する成分と、超音波伝搬によって発生した非線形高調波成分Fnl(ω)が含まれる。Fは超音波トランスデューサの伝達関数の基本波成分、Fは超音波伝搬によって発生した非線形成分Fnl(ω)のうちの第二高調波成分、Fは非線形第三高調波成分と送信超音波に既に含まれている三次のオーバートーン成分を加算した成分に対応している。尚、図10に示した周波数特性は受信信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換して得られるVrecδ(ω)の絶対値Abs(Vrecδ(ω))であり、複素信号ではなく、実数信号となっていて、位相τに関する情報を含んでいない。従って、位相τに関する情報を含んでいないAbs(Vrecδ(ω))で位相τに関する情報を含んでいるVrec(t−τ)を除算すると、τに関する情報は除算結果にそのまま残っていて、それを逆フーリエ変換して得られる時間軸信号である疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)にもτに関する情報が同じ様に残っている。従って、その疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と送信信号Vtrans(t)との相互相関処理を行うことによってτを高精度で検出できるようになるのである。
【0124】
また、一般に非線形超音波はn次(n:2以上の整数)の高調波まで含まれ、次数nが高まるほどその振幅レベルが対数的に低減するのでn=3まで考慮すれば十分と言われているが、本発明の技術に於いてもn=3までの非線形成分までを考えれば十分と言える。しかし、nが4以上の次数まで考慮すると支障があるわけではない。また、n=2までを考慮するよりは、n=3までを考慮した相互相関処理を行う方が、受信パルス信号Vrec(ω)と参照信号としてのVtrans(ω)の類似度は高まり、計測精度が向上することは言うまでもない。
【0125】
図10に実線で示した周波数特性は、以上の様にして形成されるn=3までを考慮した周波数特性である。
【0126】
パルス圧縮信号、即ち相互相関信号は、チャープ信号をフーリエ変換することによるSinc関数の要素を持ち、図12に示すように相関値が最大を示すピークPKと、その両側にサイドローブSLを伴う特徴を持つ。該最大を示すピークPKの半値幅Δtが小さいほど、送信超音波の発生時刻と受信信号の受信時間差、即ち超音波伝搬時間の計測分解能が良いことを意味している。参照超音波と被参照信号の波形の類似度が高くなるほど最大を示すピークPKのピーク相関値は1に近くなる。また、本実施の形態のように、チャープ波を使ってパルス圧縮することにより最大を示すピークPKの半値幅Δtは小さくなり、計測精度が向上してくる。
【0127】
[第5の実施の形態]
図14に示す超音波伝搬時間計測装置500は、上述の図3を用いて説明したパルス圧縮法を採用して、反射法で超音波伝搬時間を計測するものであって、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)と第2の送信パルス信号Vtrans(t)を発生する送信部510を備え、送信用超音波トランスデューサ、例えばリング型振動子24と受信用超音波トランスデューサ、例えば円板型振動子25を送受信用超音波トランスデューサ540に別体として構造化された、上述の図7に示した構造の分割型広帯域超音波トランスデューサ20が測定対象の超音波伝搬媒体10の一端面10Aに設けられている。
【0128】
この超音波伝搬時間計測装置500において、前記送信部510は、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)としてδ関数と近似できるD(ω)=1の広帯域パルス信号、たとえば半波の正弦波信号を発生する広帯域パルス発生器511Aと、立ち上がり周波数f、停止周波数fでバースト長がΔTのチャープ信号を発生するチャープ信号発生器511Bを備える。前記広帯域パルス発生器511Aにより発生される第1の送信パルス信号Vtransδ(t)は、スイッチ制御信号発生器513により発生される第1のスイッチ制御信号によりON・OFF制御される第1のスイッチ514Aを介して駆動回路512に供給され、また、前記チャープ信号発生器511Bにより発生される第2の送信パルス信号Vtrans(t)は、前記スイッチ制御信号発生器513により発生される第2のスイッチ制御信号によりON・OFF制御される第2のスイッチ514Bを介して前記駆動回路512に供給される。前記スイッチ制御信号発生器513は、前記信号処理部570による制御に基づいて前記第1のスイッチ制御信号と第2のスイッチ制御信号を発生する。
【0129】
前記送信部510は、前記広帯域パルス発生器511Aにより発生される第1の送信パルス信号Vtransδ(t)を前記駆動回路512により増幅した第1の駆動信号D(t)を前記駆動回路512から前記送受信兼用超音波トランスデューサ540内に構造化された一方の振動子、例えばリング型振動子に供給して、前記駆動信号D(t)により超音波トランスデューサ540内に構造化された一方の振動子、例えばリング型振動子を駆動し、また、前記チャープ信号発生器511Bが発生した第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記信号処理部570に供給するとともに、この第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記駆動回路412により増幅した第2の駆動信号D(t)を前記駆動回路512から前記超音波トランスデューサ540内に構造化された一方の振動子、例えばリング型振動子に供給して、前記駆動信号D(t)により前記送受信兼用超音波トランスデューサ540内に構造化された一方の振動子、例えばリング型振動子を駆動する。
【0130】
ここで、前記チャープ信号発生器511Bで発生するチャープ信号の開始周波数fが例えば2.5MHz、終了周波数fが7.5MHzのとき、超音波トランスデューサの比帯域幅は100%となり、従来のPZTセラミクス等の圧電振動子では実現不可能な値であり、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の様な高分子圧電体では十分な送信音圧が得られない。前記送受信兼用超音波トランスデューサ540は、受信時には基本波と第三高調波成分まで、即ちチャープ信号の開始周波数fが例えば2.5MHz、終了周波数fが7.5MHzのとき、2.5MHzから22.5MHzの帯域を受信できる必要がある。このため、送受信兼用超音波トランスデューサ540として用いる分割型広帯域超音波トランスデューサ20の、一方の圧電振動子、例えばリング型圧電振動子24の厚さをTとしたとき、他の圧電素子、例えば円板型圧電振動子25の厚さはT/3にし、リング型圧電素子24を送信専用に、円板型圧電振動子25を受信専用にして使うことになる。この分割型広帯域超音波トランスデューサ20の一方の圧電振動子、例えばリング型振動子24に、前記チャープ信号発生器511Bで発生するチャープ信号を駆動回路512によって100V程度に増幅した駆動信号D(t)が印加される。
【0131】
前記超音波トランスデューサ540を構成するリング型圧電素子24は、前記駆動信号D(t)で駆動されることにより、前記第1の送信パルス信号Vtransδ(t)を第1の超音波パルス信号S1x(t)に変換して前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して送信し、また、前記駆動信号D(t)で駆動されることにより、前記第2の送信パルス信号Vtrans(t)を第2の超音波パルス信号S2x(t)に変換して前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して送信し、前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して伝搬され前記超音波伝搬媒体10の他方の端面10Bにおいて反射されて戻ってくる前記第1の超音波パルス信号S1x(t−τ)を受信し、前記第1の超音波パルス信号S1x(t−τ)を電気信号に変換して受信部560に供給し、また、前記送信用超音波トランスデューサ540から送信され前記測定対象の超音波伝搬媒体10を介して伝搬され前記超音波伝搬媒体10の他方の端面10Bにおいて反射されて戻れてくる前記第2の超音波パルス信号S2x(t−τ)を受信し、前記第2の超音波パルス信号S2x(t−τ)を電気信号に変換して前記受信部560に供給する。
【0132】
前記受信部560は、前記受信用超音波トランスデューサ540による受信出力を広帯域増幅器561により増幅して、前記第1の超音波パルス信号S1x(t−τ)の受信時に第1の受信パルス信号Vrecδ(t−τ)を得て、この第1の受信パルス信号Vrecδ(t−τ)をAD変換器462によりデジタル化して信号処理部570に供給し、また、前記第2の超音波パルス信号S2x(t−τ)の受信時に第2の受信信号Vrec(t−τ)を得て、この第2の受信パルス信号Vrec(t−τ)を前記AD変換器562によりデジタル化して前記信号処理部570に供給する。
【0133】
この超音波伝搬時間計測装置500における信号処理部570は、デジタル信号処理回路であって、前記超音波伝搬時間計測装置400における信号処理部470と同様に、前記図9又は図13のフローチャートに示した処理を行うことにより、前記第1の送信パルス信号Vtransδ(t)と前記受信部560により得られた第1の受信パルス信号Vrecδ(t−τ)から前記超音波伝搬媒体10が有する非線形性を考慮した疑似送信パルス信号Vtrans‘(t)を形成し、形成した疑似送信パルス信号Vtrans‘(t)を前記受信部560により得られた第2の受信パルス信号Vrec(t−τ)との相互相関処理により、前記超音波伝搬媒体10を介して伝搬される第1の超音波パルス信号S2x(t−τ)の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間τとして検出して呈示する。
【0134】
なお、この図14に示した超音波伝搬時間計測装置500は、前記信号処理部570により、前記送信部510の第1のスイッチ514AをOFF状態とし、第2のスイッチ514BをON状態とするようにスイッチ制御信号発生器513の動作を制御して、前記チャープ信号発生器511Bにより発生される第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記駆動回路512により増幅した第1の駆動信号D(t)を前記駆動回路512から前記送受信兼用超音波トランスデューサ540に供給して、前記駆動信号D(t)により前記送受信兼用超音波トランスデューサ540の一方、例えばリング型振動子24を駆動するものとすることにより、上述の図6に示した超音波伝搬時間計測装置300として用いることもできる。本実施の形態では、送信用圧電振動子には送信駆動にのみ、受信用圧電振動子はエコー信号の受信のみに用いるので、送信信号のパルス幅によらず両信号が重なり合うことがないので、全ての伝搬時間範囲で伝搬時間を高精度に検出して呈示できるようになる。
【0135】
[第6の実施の形態]
図15に示す超音波伝搬時間計測装置500Aは、上述の図14に示した超音波伝搬時間計測装置500における前記送受信兼用超音波トランスデューサ540として用いた分割型広帯域超音波トランスデューサ20を構成しているリング状コンポジット圧電振動子24と円板状コンポジット圧電振動子25を送信用超音波トランスデューサと受信用超音波トランスデューサとして個別に機能させるようにしたものである。
【0136】
すなわち、この超音波伝搬時間計測装置500Aでは、送信用超音波トランスデューサとしてリング状コンポジット圧電振動子24が送信部510の駆動回路512に接続されており、受信用超音波トランスデューサとして円板状コンポジット圧電振動子25が受信部560の広帯域増幅器561に接続されている。
【0137】
そして、超音波伝搬時間計測装置500Aは、信号処理部570により、送信部510の第1のスイッチ514AをOFF状態とし、第2のスイッチ514BをON状態とするようにスイッチ制御信号発生器513の動作を制御して、前記チャープ信号発生器511Bにより発生される第2の送信パルス信号Vtrans(t)を前記駆動回路512により増幅した第1の駆動信号D(t)を前記駆動回路512から前記送受信兼用超音波トランスデューサ540供給して、前記駆動信号D(t)により前記送受信兼用超音波トランスデューサ540を駆動するものとすることにより、上述の図6に示した超音波伝搬時間計測装置300として機能するようにしたものである。
【0138】
この超音波伝搬時間計測装置500Aにおける他の構成要素は、上述の図14に示した超音波伝搬時間計測装置500と同じなので、図14中に同一つ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0139】
この超音波伝搬時間計測装置500Aにおいて、送受信兼用超音波トランスデューサ540として用いた分割型広帯域超音波トランスデューサ20を構成している両コンポジット圧電振動子24,25は互いに面積が等しく、リング状コンポジット圧電振動子24は中心周波数が5MHz、円板圧電振動子25は中心周波数が15MHzに成る厚さに設定されている。比帯域幅がともに100%あるとすると、リング状コンポジット圧電振動子24は2.5MHzから7.5MHzの帯域を有し、送信部510の駆動回路512により駆動信号D(t)が印加され、送信超音波パルス信号を発生することだけに用いられ、円板状コンポジット圧電振動子25は、7.5MHzから22.5MHzの帯域を有し、受信超音波パルス信号を電気信号に変換することだけに用いられる。
【0140】
したがって、リング状コンポジット圧電振動子24に印加される駆動信号D(t)は、開始周波数fが2.5MHz、終了周波数fが7.5MHzのチャープ信号であり、該チャープ信号によって駆動されて、超音波パルス信号を一端面10Aから超音波伝搬媒体10に送信する。そして、その超音波パルス信号が前記超音波伝搬媒体10の他端面10Bに到達し、該他端面10Bで反射された超音波パルス信号がパルスエコー信号となって受信用の円板状コンポジット圧電振動子25で受信され、電気信号に変換される。そして、受信部260において、前記受信用の円板状コンポジット圧電振動子25で受信された超音波パルス信号の電気信号が広帯域増幅器561によって増幅されAD変換器562によってデジタル信号に変換された受信パルス信号Vrec(t−τ)として、信号処理部570に入力される。
【0141】
前記信号処理部570での信号処理内容は、上述の図6に示した超音波伝搬時間計測装置300の場合とほぼ同じであるので、相違点のみを以下に説明する。
【0142】
ここで、送受信兼用超音波トランスデューサ540として用いた分割型広帯域超音波トランスデューサ20の特徴は、受信パルス信号Vrec(t−τ)を得るための受信専用の円板状コンポジット圧電振動子25が、受信超音波パルス信号が有する周波数帯域のうち、当該円板状コンポジット圧電振動子25が有する受信帯域の帯域成分を選択的に受信する機能を有することである。
【0143】
例えば、リング状コンポジット圧電振動子24から2.5MHzから7.5MHzの帯域を有する超音波パルス信号が送信され、超音波の伝搬に伴って、7.5MHzから22.5MHzの帯域を有する高調波成分が加わったとすると、受信専用の円板状コンポジット圧電振動子25は、選択的に7.5MHzから22.5MHzの帯域を有する高調波成分を出力する。2.5MHzから7.5MHzの周波数帯域成分や第二高調波成分の5MHz〜15MHz成分を完全に遮断するわけではないので、前記受信専用の円板状コンポジット圧電振動子25により電気信号に変換された受信パルス信号Vrec(t−τ)は、人為的な操作なしに周波数軸信号Vrec(ω)における各周波数成分の相対的な信号レベル差が低減した信号となる。
【0144】
このレベル差は、前記受信専用の円板状コンポジット圧電振動子25のダンピングを弱め、振動の共振先鋭度Qを高くすれば、それに比例して相対的な信号レベル差が低減してゆく。したがって、受信パルス信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換して、基本波成分に対して高調波成分の信号レベルを同程度まで持ちあげ、それを逆フーリエ変換して再び時間信号Vrec’(t−τ)にするということが不要になる。すなわち、前記信号処理部570では、前記受信専用の円板状コンポジット圧電振動子25の出力に基づいて受信部560において得られる受信パルス信号Vrec(t−τ)の周波数特性Vrec(ω)の絶対値Abs(Vrec(ω))を計算し、レベル調整を行って新規のVrec’(ω)を得る。そして、それを逆フーリエ変換して得られる疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と送信パルス信号Vtrans(t)との間の相互相関を実施すれば良いことになる。その処理手順は前述した図5のフローチャートからステップST3,ST4を省略した処理で良いことになる。それ以外は第2の実施の形態に示した通りであるので省略する。
【0145】
[第7の実施の形態]
図16に示す超音波伝搬時間計測装置500Bは、上述の図15に示した超音波伝搬時間計測装置500Aにおける前記送受信兼用超音波トランスデューサ540が、超音波送信時にはた分割型広帯域超音波トランスデューサ20を構成している送信用超音波トランスデューサ、例えばリング状コンポジット圧電振動子24のみを用い、受信時には送信用超音波トランスデューサ24と受信用超音波トランスデューサ、例えば円板状コンポジット圧電振動子25を並列接続することにより受信用超音波トランスデューサとして機能させるように、第3のスイッチ514Cを設けたものである。
【0146】
この第3のスイッチ514Cは、受信時には、前記リング状コンポジット圧電振動子24と円板状コンポジット圧電振動子25を並列接続することにより受信用超音波トランスデューサとして機能させ、送信時には前記リング状コンポジット圧電振動子24を単独で送信用超音波トランスデューサとして機能させるように、信号処理部570によりON・OFF制御される。この超音波伝搬時間計測装置500Bにおける他の構成要素は、上述の図15に示した超音波伝搬時間計測装置500Aと同じなので、図16中に同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0147】
この超音波伝搬時間計測装置500Bにおいて、前記送受信兼用超音波トランスデューサ540として用いた分割型広帯域超音波トランスデューサ20は、超音波送信には中心周波数が基本波周波数になる厚さのコンポジット圧電振動子、例えば図7に示したリング状圧電振動子24を、また伝搬超音波の受信には高調波成分の周波数が、その共振周波数となる厚さに設定したコンポジット圧電振動子、例えば図7に示した円板状圧電振動子25を対応させ、両圧電振動子は接地側の電極26こそ共通としているものの、信号入出力側の電極は分離してそれぞれ別々の配線31,32が接続されている。
【0148】
この超音波伝搬時間計測装置500Cでは、受信時には、前記リング状コンポジット圧電振動子24と円板状コンポジット圧電振動子25を並列接続することにより受信用超音波トランスデューサとして機能させ、送信時には前記リング状コンポジット圧電振動子24を単独で送信用超音波トランスデューサとして機能させるようにした所謂送受信分離型の構造を採用したので、受信側の圧電振動子の厚さとダンピング層の設計を最適化することによって、広帯域パルス駆動に対する受信信号の周波数特性の高調波成分の信号レベルを基本波成分にほぼ等しくすることができる。
【0149】
なお、前記送受信兼用超音波トランスデューサ540として用いた分割型広帯域超音波トランスデューサ20には、高調波成分の振幅レベルが基本波成分の振幅レベルに対し最適な関係になるように調整するための可変直流抵抗等の信号減衰器580が前記円板状コンポジット圧電振動子25の信号端子と前記第3のスイッチ514Cとの間設けられている。前記信号減衰器580は、前記円板状コンポジット圧電振動子25の信号端子と前記第3のスイッチ514Cとの間に配置するのではなく、前記リング状コンポジット圧電振動子24の入出力端子との間に配置してもよい。また、信号減衰器580として、前記受信パルス信号が伝送される経路にハイパスフィルタを配置しても良い。また減衰させたい方の超音波振動子、たとえば送信用超音波トランスデューサに並列に信号線と接地線との間に直流抵抗を接続しても良い。
【0150】
したがって、この超音波伝搬時間計測装置500Bでは、上述の図15に示した超音波伝搬時間計測装置500Aと同様に、前記信号処理部570に高調波成分増幅の機能は不要となる。
【0151】
送信部510の駆動回路512は、開始周波数f、終了周波数f、パルス長ΔTを有すチャープ波信号を増幅して駆動信号D(t)として、前記送受信兼用超音波トランスデューサ540に印加する。
【0152】
前記送受信兼用超音波トランスデューサ540が前記駆動信号D(t)の印加により駆動され、超音波パルス信号を一端面10Aから超音波伝搬媒体10に送信する。そして、その超音波パルス信号が前記超音波伝搬媒体10の他端面10Bに到達し、該他端面10Bで反射された超音波パルス信号がパルスエコー信号となって前記超音波トランスデューサ540の前記並列接続された受信用超音波トランスデューサで受信され、電気信号に変換される。そして、受信部560において、前記並列接続された受信用超音波トランスデューサで受信された超音波パルス信号の電気信号が広帯域増幅器561によって増幅されAD変換器562によってデジタル信号に変換された受信パルス信号Vrec(t−τ)として、信号処理部570に入力される。受信パルス信号Vrec(t−τ)の周波数特性Vrec(ω)の絶対値特性は、前記したように、基本波成分のみを減衰させる図示していない減衰手段を制御するか、高調波成分を増幅する手段580を制御するかによって受信信号の基本波成分のピーク信号レベルと高調波成分のピークレベルが等化されているので、受信信号Vrec(t−τ)をそのまま用い送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理すれば良いことになる。これは、送信用圧電振動子の共振周波数が送信超音波の基本波周波数に合うような厚さに設計され、受信用圧電素子の共振周波数が受信超音波の高調波成分の中心周波数に合うような厚さに設計されているためであり、受信超音波のうち、高調波成分を選択的に受信する機能があるからである。
【0153】
尚、以上の説明は本実施の形態が最も効果を発揮できる第2の実施の形態を引用して説明したが、他の実施の形態に示した信号処理法に対応させても問題が起こることは無い。減衰も増幅もしないで、第5の実施の形態と同様な使い方が出来る。
【0154】
上述の各実施の形態における信号処理部370,470,570では、上述の図5、図9又は図13に示したいずれかのフローチャートにしたがった信号処理を行うものとすることにより、従来配慮されていなかった超音波伝搬媒体の非線形音響特性、さらには超音波トランスデューサの伝達特性や超音波伝搬特性をも考慮した超音波伝搬時間の計測結果をうることができる。
【0155】
また、前記信号処理部370,470,570において実行される前記図5、図9又は図13に示した各フローチャートにしたがった信号処理は、透過法による超音波伝搬時間の計測及び反射法による超音波伝搬時間の計測処理のどちらにも適用することができる。
【0156】
なお、本発明は、以上の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明では、超音波伝搬時間を高精度に計測することができ、その計測結果を、例えば、板厚等の寸法、欠陥やターゲットの位置、変位、流体の流速、材料の物性値としての音速、又は、生体臓器の位置や状態情報、構造材料の欠陥の位置や形状などの超音波画像診断に用いられる情報のうちのいずれか、又はいくつかを組み合わせた物理情報又は物性情報の精密測定、または材料の物性計測に利用することができる。
【符号の説明】
【0158】
10 超音波伝搬媒体、
20 分割型広帯域超音波トランスデューサ、
110,210,310,410,510 送信部、
111,211,311 パルス信号発生器、
112,212,312,412,512 駆動回路、
120 同軸ケーブル、
130,230,430 送信用超音波トランスデューサ、
140,240,440 受信用超音波トランスデューサ、
150 同軸ケーブル、
160,260,360,460,560 受信部、
170,270,370,470,570 信号処理部、
261,361,461,561 広帯域増幅器、
262,362,462,562 AD変換器、
340,540 送受信兼用超音波トランスデューサ、
411A,511A 広帯域パルス発生器、
411B,511B チャープ信号発生器、
413,513 スイッチ制御信号発生器、
514A,514B,514C スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部により送信パルス信号Vtrans(t)を発生し、
該送信パルス信号を送信用超音波トランスデューサにより超音波パルス信号に変換して測定対象の超音波伝搬媒体に入力し、
該超音波伝搬媒体を介して伝搬される前記超音波パルス信号を受信用超音波トランスデューサにより受信して電気信号に変換し、
該受信用超音波トランスデューサにより電気信号に変換された超音波パルス信号を受信部により増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得て、
前記超音波伝搬媒体が有する非線形性を考慮した疑似送信パルス信号Vtrans’(t)と前記受信部により得られた受信パルス信号Vrec(t−τ)との相互相関処理、または、送信パルス信号Vtrans(t)と、非線形性を考慮した疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)との相互相関処理により、前記超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波パルス信号の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間として呈示する超音波伝搬時間計測方法。
【請求項2】
送信パルス信号Vtrans(t)を発生する送信パルス信号発生手段と、
該送信パルス信号を前記送信超音波パルス信号に変換する送信用超音波トランスデューサと、
前記送信超音波パルス信号を測定対象の超音波伝搬媒体を介して受信し、受信した超音波パルス信号を電気信号に変換する受信用超音波トランスデューサと、
前記受信用超音波トランスデューサにより電気信号に変換された超音波パルス信号を増幅して受信パルス信号Vrec(t−τ)を得る受信部と、
非線形性を考慮した疑似送信パルス信号Vtrans’(t)を形成する手段と、前記受信部により得られた受信パルス信号Vrec(t−τ)と前記疑似送信パルス信号Vtrans’(t)との間の相互相関処理手段,または、受信パルス信号Vrec(t−τ)を非線形性を考慮した疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)に変換する手段と、該疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理を行う信号処理手段とを備え、更に、前記超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波パルス信号の送受信間の時間間隔を超音波伝搬時間τとして呈示する呈示手段とを備えることを特徴とする超音波伝搬時間計測装置。
【請求項3】
前記参照信号発生手段が、前記送信部で発生された送信パルス信号Vtrans(t)と、他の手段によって発生させた特定の信号Vadd(t)とを加算処理する加算処理手段と、該加算処理によって得られる加算信号を疑似送信パルス信号Vtrans’(t)とし、前記受信信号Vrec(t−τ)との間で相互相関処理をする相互相関処理手段を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項4】
前記加算処理手段において、前記送信部で発生された送信パルス信号Vtrans(t)に加算する信号Vadd(t)が、前記送信パルス信号Vtrans(t)と同じ振幅で、n倍(nは2以上の整数)の周波数を有したパルス信号であることを特徴とする請求項3に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項5】
前記加算処理手段において、前記送信部で発生された送信パルス信号Vtrans(t)と加算する信号Vadd(t)との間に位相差を設ける手段を有することを特徴とする請求項4に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項6】
前記位相差を設ける手段が、前記相互相関処理手段から出力される相互相関値 R(τ)のピーク値が最大に、かつピークにおける半値幅が最小になる位相差を計算によって求める手段を有することを特徴とする請求項5に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項7】
前記信号処理手段は、前記受信超音波信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換し、その周波数特性Vrec(ω)を得るためのフーリエ変換手段と、その周波数特性の絶対値において、該周波数特性Vrec(ω)の高調波成分のピークレベルを基本波成分のピークレベルにほぼ等しくなるように増幅するピークレベル等化手段と、前記ピークレベル等化手段によって得られるピークレベル等化信号Vrec’(ω)を逆フーリエ変換して時間特性信号である疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)を出力する逆フーリエ変換手段を有し、前記疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)と前記送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関処理をする相互相関処理手段を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項8】
前記高調波成分は、正極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号と、負極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号との和をとることにより抽出される信号であり、
前記基本波成分は、正極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号と、負極性の駆動信号を前記送信用超音波トランスデューサに印加したときの受信信号との差をとることにより抽出される信号であることを特徴とする請求項7記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項9】
前記フーリエ変換手段が、フーリエ変換の絶対値を計算する手段を有することを特徴とする請求項7記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項10】
前記送信パルス信号発生手段は、立ち上がり周波数f、立ち下がり周波数fのチャープ波に窓関数W1(t)を積算することにより、前記送信パルス信号Vtrans(t)を発生し、該窓関数W1(t)は、チャープ波の立ち上がり時刻tでの電圧レベルが、周波数が(f+f)/2となる時刻における電圧レベルのα倍、チャープの立ち下がり時刻tでの電圧レベルが、周波数が(f+f)/2となる時刻における電圧レベルのα倍となる波形としたことを特徴とする請求項2に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項11】
前記送信パルス信号Vtrans(t)は周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号であり、これに加算する信号Vadd(t)が、同じ振幅でn倍(nは2以上の整数)の周波数、即ちnf〜nfの周波数成分を持つチャープ波であることを特徴とする請求項4記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項12】
前記送信パルス信号発生手段が、δ関数に近似できる広帯域信号を第1の送信パルス信号Vtransδ(t)として発生させる手段と、周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を第2の送信パルス信号Vtrans(t)として発生させる手段と、第1の送信パルス信号と第2の送信パルス信号を出力するタイミングを切り替えるスイッチ手段を有し、
前記信号処理手段が、第1の送信パルス信号Vtransδ(t)の駆動に対する受信信号Vrecδ(t)をフーリエ変換し、その絶対値Abs(Vrecδ(ω))を計算する手段と、これを一時的に記憶する手段と、第2の送信パルス信号Vtrans(t)の駆動に対する受信信号Vrec(t−τ)をフーリエ変換して得られる周波数特性Vrec(ω)を前記一時的に記憶していた絶対値Abs(Vrecδ(ω))を読み出し、これで除算する除算手段と、該除算信号を逆フーリエ変換して得られる疑似受信パルス信号Vrec’(t−τ)を形成し、前記送信パルス信号Vtrans(t)との間で相互相関する機能を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項13】
前記送信パルス信号発生手段が、δ関数に近似できる広帯域信号を第1の送信パルス信号Vtransδ(t)として発生させる手段と、周波数がf〜fの範囲で掃引されたチャープ波信号を第2の送信パルス信号Vtrans(t)として発生させる手段と、第1の送信パルス信号と第2の送信パルス信号を出力するタイミングを切り替えるスイッチ手段を有し、前記信号処理手段が、第1の送信パルス信号の駆動に対する受信信号Vrecδ(t)をフーリエ変換し、その絶対値Abs(Vrecδ(ω))を計算する手段と、該計算結果について、送信信号Vtrans(t)をフーリエ変換して得られる周波数特性Vtrans(ω)と積算して、積算結果を逆フーリエ変換して得られる疑似送信パルス信号Vtrans‘(t)と、受信信号Vrec(t−τ)との間で相互相関処理をする相互相関処理手段を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項14】
前記送信用超音波トランスデューサと前記受信用超音波トランスデューサとが測定対象の超音波伝搬媒体の異なる二端面に設けられ、
前記測定対象の超音波伝搬媒体の一方の端面から前記送信用超音波トランスデューサにより送信され、前記測定対象の超音波伝搬媒体を介して伝搬する超音波が前記測定対象の超音波伝搬媒体の他方の端面において前記受信用超音波トランスデューサにより受信されるまでの超音波伝搬時間を検出することを特徴とする請求項2に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項15】
前記送信用超音波トランスデューサと前記受信用超音波トランスデューサが測定対象の超音波伝搬媒体の一端面に設けられ、
前記測定対象の超音波伝搬媒体の一端面から前記送信用超音波トランスデューサにより送信され、前記測定対象の超音波伝搬媒体を介して伝搬される超音波が前記測定対象の超音波伝搬媒体の他端面において反射されて前記測定対象の超音波伝搬媒体の前記一端面において前記受信用超音波トランスデューサにより受信されるまでの超音波伝搬媒体の超音波伝搬時間を検出することを特徴とする請求項2に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項16】
電極が二つの領域に分割され、それぞれ送信用電極部を含む送信用超音波トランスデューサ部に送信信号Vtrans(t)を印加する端子と、受信用電極部を含む受信用超音波トランスデューサ部で伝搬超音波を受信し、電気信号Vrec(t−τ)を出力する端子とを有する超音波トランスデューサを備えることを特徴とする請求項15に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項17】
前記超音波トランスデューサに於いて、送信時は、前記送信用超音波トランスデューサ部に送信信号Vtrans(t)を印加し、受信時は、前記送信用超音波トランスデューサ部と前記受信用超音波トランスデューサ部が並列接続となるようなスイッチ手段を有していることを特徴とする請求項16に記載の超音波伝搬時間計測装置。
【請求項18】
前記送信用超音波トランスデューサ部、または前記受信用超音波トランスデューサ部のいずれか一方の超音波トランスデューサ部の出力端子と前記スイッチ手段までの経路に受信信号を減衰、または増幅する手段を有することを特徴とする請求項17に記載の超音波伝搬時間計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−42449(P2012−42449A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54576(P2011−54576)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月29日 社団法人電子情報通信学会発行の電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.110 No.213において発表
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】