説明

路面滑り易さ判定システム

【課題】ABS装置等のスリップ防止機能の作動情報を適切に判定して、路面の滑り易さを的確に判定することが可能な路面滑り易さ判定システムを提供する。
【解決手段】路面滑り易さ判定システム1は、車両2が有するスリップ防止機能の作動情報等を検出する検出手段21と、スリップ防止機能の作動情報等に基づいてスリップ防止機能が作動された地点Pの路面の滑り易さを判定する路面状態判定手段3とを備え、路面状態判定手段3は、路面が滑り易いためにスリップ防止機能が作動された可能性が高い走行状態ほど高い値の基準点paを設定するための第1判定条件群に基づいて基準点paを定め、スリップが生じ難い車両状態に対応する車両情報ほど大きな値の重み付け係数w1〜w4を設定するための第2判定条件群に基づいて重み付け係数w1〜w4を選択し、それらに基づいてスリップ防止機能が作動された地点Pの路面の滑り易さをポイントpとして算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面滑り易さ判定システムに係り、特に、車両のABS装置等の作動情報を収集して路面の滑り易さを判定する路面滑り易さ判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に通信装置を搭載させて、車両で検出された種々の情報をプローブカー情報として移動体通信網を介してサーバやデータセンタに送信し、サーバ等で解析して有益な情報を導出し、それをプローブカーに返送してドライバ等に提供するプローブカーを用いた情報収集・提供システムの開発が進められている。
【0003】
このようなシステムの一環として、アンチロックブレーキシステム(Antilock Brake System。以下、ABS装置という。)を搭載したプローブカーからABS装置の作動情報を収集して路面の凍結等を判断するシステムが知られている。
【0004】
例えば、ABS装置の作動情報とともに路面温度や外気湿度の情報、位置情報を送信させてサーバ等に登録しておき、他のプローブカーから定期的に送信されてくる路面温度や外気湿度の情報と一致する路面温度や外気湿度の情報が、そのプローブカーの現在位置の近傍で検出されて登録されている場合には、そのプローブカーに凍結情報等を送信するシステムが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、路面の滑り易さを判定する手法としては、上記のようなプローブカーシステムを用いる代わりに、例えば、気象情報や外気温、時刻、日射量等の情報を用いたり、ABS装置の作動情報や制動時の減速度、スリップ率等の情報を用いたりして、それらの情報を予め記憶されたマップを参照することで路面状態を判定する装置が提案されている(特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特開2003−187371号公報
【特許文献2】特開2000−318634号公報
【特許文献3】特開2006−137266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ABS装置が作動したとしても、必ずしも路面が凍結する等して滑り易くなっていることが原因であるとは限らない。例えば、先行車両に追突しそうになるなど、ドライバの判断ミスや操作ミスで急ブレーキが踏まれたような場合でもABS装置が作動する場合がある。また、道路の段差やマンホール等のために車輪が滑ったり空転したりした場合に、ABS装置が作動したとすれば、それはABS装置の誤作動とも言い得る。
【0007】
また、例えば、タイヤが擦り減っていればタイヤの滑走や空転が生じ易くなる。さらに、運転技量に乏しいドライバはブレーキ操作を行う必要がない場所でブレーキを踏むことが少なくなく、本来ABS装置が作動しないような場所でABS装置の作動情報が収集されてしまう状況が生じ得る。
【0008】
このような状況を考慮せずに、ABS装置が作動したケースをすべて路面の滑り易さに結び付けてしまうと、路面が滑り易くなっているとは言えない場所でABS作動情報が提供されてしまい、情報の信頼性の低下を招く。また、不要な情報が多数提供されると、ドライバの注意力が散漫になるとともに、本当に路面が滑り易く十分に注意しなければならない地点の情報をドライバが軽視したり見過ごしたりして情報が生かされないケースも生じ得る。
【0009】
このように、ABS装置等の作動情報を収集して路面の滑り易さを判定する路面滑り易さ判定システムでは、ABS装置等の作動情報を適切に判定して、例えば、実際に路面が滑り易いためにABS装置等が作動したものである場合には高い評価を与え、ドライバの判断ミスや操作ミス或いはABS装置等の誤作動により作動したものである場合には低い評価を与え或いはデータを排除する等して、路面の滑り易さを的確に判定できるように構成することが望まれる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ABS装置等のスリップ防止機能の作動情報を適切に判定して、路面の滑り易さを的確に判定することが可能な路面滑り易さ判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の問題を解決するために、第1の発明は、路面滑り易さ判定システムにおいて、
車両が有するスリップ防止機能の作動情報と、前記車両の走行状態の情報と、前記車両の位置情報を含む車両情報とを検出する検出手段と、
前記スリップ防止機能の作動情報と前記走行状態と前記車両情報とに基づいて前記スリップ防止機能が作動された地点の路面の滑り易さを判定する路面状態判定手段と
を備え、
前記スリップ防止機能が作動された際の前記走行状態に対する第1判定条件群が予め設定されており、かつ、前記第1判定条件群に属する各第1判定条件には、前記走行状態に鑑みて、路面が滑り易いために前記スリップ防止機能が作動された可能性が高い走行状態ほど高い値となるようにそれぞれ基準点が設定されており、
前記第1判定条件群の各第1判定条件の成立の前提となる前記車両情報に対する第2判定条件群が予め設定されており、かつ、前記第2判定条件群に属する各第2判定条件には、前記車両情報に鑑みて、スリップが生じ難い車両状態に対応する車両情報ほど大きな値となるようにそれぞれ重み付け係数が設定されており、
前記路面状態判定手段は、前記車両の走行状態が当てはまる前記第1判定条件を選択して前記基準点を定め、前記車両の車両情報に応じて前記各第2判定条件に設定された前記重み付け係数を選択し、前記基準点と前記重み付け係数とに基づいて、前記スリップ防止機能が作動された地点の路面の滑り易さをポイントとして算出することを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記各第1判定条件に設定される前記基準点は、前記走行状態に鑑みて、前記スリップ防止機能の誤作動である場合に相当する前記第1判定条件には低い値が設定され、ドライバの判断ミスまたは操作ミスのために前記スリップ防止機能が作動された場合に相当する前記第1判定条件には中位の値が設定され、それ以外の場合に相当する前記第1判定条件には高い値が設定されることを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記車両情報には、前記プローブカーの駆動方式、装着されているタイヤに関する情報、ドライバの運転経験に関する情報の中の少なくとも1つが含まれることを特徴とする。
【0014】
第4の発明は、第3の発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記装着されているタイヤに関する情報には、前記タイヤの種別および前記タイヤの使用年数の少なくとも1つが含まれることを特徴とする。
【0015】
第5の発明は、第3または第4の発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記ドライバの運転経験に関する情報には、当該ドライバ自身の走行距離の情報が含まれることを特徴とする。
【0016】
第6の発明は、第1から第5のいずれかの発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記第2判定条件群には、前記第2判定条件として、前記プローブカーから受信した位置情報により特定される地点における天候に関する条件が含まれることを特徴とする。
【0017】
第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記路面状態判定手段は、所定の位置的領域内で、かつ、過去の所定の時間的範囲内にて前記ポイントの平均値を、当該平均値を当該領域における路面の滑り易さとして算出することを特徴とする。
【0018】
第8の発明は、第7の発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記路面状態判定手段は、前記スリップ防止機能が作動された地点の路面の滑り易さのポイントが所定の閾値未満の場合には、当該ポイントを破棄し、前記平均値の算出に用いないことを特徴とする。
【0019】
第9の発明は、第7または第8の発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記路面状態判定手段は、無線通信を介して前記検出手段に接続され、前記スリップ防止機能の作動情報を受信した際に、当該スリップ防止機能が作動された時刻と当該作動情報を受信した時刻との時間間隔が予め設定された時間間隔以上である場合には、前記スリップ防止機能が作動された時刻にて最寄りの気象観測点で検出された気温に基づいて、当該受信したスリップ防止機能の作動情報を破棄するか否かを決定することを特徴とする。
【0020】
第10の発明は、第7から第9のいずれかの発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、前記路面状態判定手段は、無線通信を介して前記検出手段に接続され、前記スリップ防止機能の作動情報を受信した後、一定時間の間に、当該スリップ防止機能が作動された地点から所定距離内について新規のスリップ防止機能の作動情報を受信しない場合には、最寄りの気象観測点での当該一定時間の間における気温に基づいて、当該受信したスリップ防止機能の作動情報を破棄するか否かを決定することを特徴とする。
【0021】
第11の発明は、第1から第10のいずれかの発明の路面滑り易さ判定システムにおいて、
前記路面状態判定手段は、前記地点または前記領域に対して算出した前記路面の滑り易さの情報を送信し、
当該滑り易さの情報を受信した車両は、当該路面の滑り易さの情報を、ナビゲーション装置の画面に表示された地図上に表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、実際に路面が滑り易いためにスリップ防止機能が作動された可能性が高いと判定される走行状態では、ドライバの判断ミスや操作ミスやABS装置等の誤作動で作動した場合よりも高い値の基準点が設定され、また、例えばタイヤが滑り難くドライバの運転技量が高い場合のようにスリップが生じ難いと判定される車両状態ではより大きな重み付け係数が基準点に乗算されてポイントを算出するため、スリップ防止機能が作動された地点における路面の滑り易さを表すポイントの値が高ければ高いほど実際に路面が滑り易くなっていることを的確に判定し評価することが可能となる。
【0023】
そのため、車両で検出されたスリップ防止機能の作動情報を適切に判定して、路面の滑り易さをポイント化してドライバに提供することが可能となる。また、それにより、ドライバはポイントの値の大きさを見ることで、路面が実際に滑り易いか否かを的確に判断することが可能となるとともに、情報の信頼性を向上させることが可能となる。
【0024】
第2の発明によれば、路面の滑り易さを表すポイント算出の基準となる基準点を、スリップ防止機能の誤作動である場合には低い値とし、ドライバの判断ミスまたは操作ミスである場合には中位の値とし、それ以外の場合には高い値として定めることで、実際に路面が滑り易くなっているためにスリップ防止機能が作動した可能性が高い場合にポイントがより高い値として算出されるようになるため、前記発明の効果がより的確に発揮される。
【0025】
第3の発明によれば、重み付け係数を設定する基準となる車両情報として、車両の駆動方式や車両に装着されているタイヤに関する情報、ドライバの運転経験に関する情報に着目して、それらの条件を加味して重み付け係数を設定することが可能となる。そのため、スリップが生じ難いと考えられる車両状態でスリップ防止機能が作動した場合にポイントの値が高くなるようにすることで、ポイントの高さと路面が実際に滑り易くなっていることとをより的確に対応付けることが可能となり、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0026】
第4の発明によれば、車両に装着されているタイヤに関する情報として、タイヤの種別や使用年数の情報を用いることで、路面の滑り易さを表すポイントの算出においてタイヤに関する情報を容易かつ明確に反映させることが可能となるとともに、スリップが生じ難いタイヤを装着している車両状態でスリップ防止機能が作動した場合にポイントの値が高くなるようにすることで、ポイントの値の高さと路面が実際に滑り易くなっていることとをより的確に対応付けることが可能となり、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0027】
第5の発明によれば、ドライバの運転経験に関する情報として、ドライバ自身の走行距離の情報を用いることで、路面の滑り易さを表すポイントの算出においてドライバの運転経験を容易かつ明確に反映させることが可能となるとともに、運転技量が高いドライバが運転しているようなスリップが生じ難い車両状態でスリップ防止機能が作動した場合にポイントの値が高くなるようにすることで、ポイントの値の高さと路面が実際に滑り易くなっていることとをより的確に対応付けることが可能となり、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0028】
第6の発明によれば、重み付け係数を設定するための第2判定条件群に、スリップ防止機能が作動した地点における天候に関する条件を加えるとともに、降雨や降雪がなくスリップが生じ難い車両状態でスリップ防止機能が作動した場合にポイントの値が高くなるようにすることで、ポイントの値の高さと路面が実際に滑り易くなっていることとをより的確に対応付けることが可能となり、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0029】
第7の発明によれば、前記各発明の効果に加え、地図上の所定の領域内でポイントの平均値を算出し、平均値をその領域における路面の滑り易さとして算出することで、多数のポイントが例えばナビゲーション装置の画面上に表示されて見づらくなることを防止したり、その地点における路面が非常に滑り易いのかさほど滑り易くないのかをドライバが一見して把握しづらくなってしまうことを防止して、ドライバが路面の滑り易さを容易かつ的確に把握することが可能となる。
【0030】
また、スリップ防止機能の作動情報が検出された後、気温が上昇して路面の凍結が解消される等して路面が滑り易い状況が解消されるような場合には、当該スリップ防止機能の作動情報はその価値を失うが、平均値の算出に用いるポイントを、過去の所定の時間的範囲内のポイントに限定し、それ以前のポイントのデータを破棄することで、その地点や領域の現在の路面状況を的確に判定することが可能となり、路面の滑り易さの判定のリアルタイム性を確保することが可能となる。
【0031】
第8の発明によれば、所定の閾値未満の小さな値のポイントを、平均値の算出に用いるポイントから除外することで、路面の滑り易さを表すポイントの平均値から、ドライバの判断ミスや操作ミスやABS装置等の誤作動の可能性やスリップを生じ易い車両状況等の悪影響を的確に排除することが可能となり、情報の信頼性を向上させることが可能となるため、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0032】
第9の発明によれば、スリップ防止機能が作動された時刻から相当の時間をおいて作動情報が受信されたような場合には、スリップ防止機能が作動された地点における路面の滑り易さが変化している可能性があるため、その地点における気温に基づいて、スリップ防止機能が作動された地点における路面の滑り易さが変化しているか否かを判断することで、受信したスリップ防止機能の作動情報を破棄する必要があるか否かを的確に決定することが可能となる。そして、不要なデータを的確に破棄することで、情報の信頼性を向上させることが可能となり、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0033】
第10の発明によれば、スリップ防止機能の作動情報を一旦検出した場合でも、上記と同様に、時間が経てば、スリップ防止機能が作動された地点における路面の滑り易さが変化している可能性があるため、その地点における気温に基づいて、スリップ防止機能が作動された地点における路面の滑り易さが変化しているか否かを判断することで、データセンタ等に記憶されているスリップ防止機能の作動情報を破棄する必要があるか否かを的確に決定することが可能となる。そして、不要となったデータを的確に削除することで、情報の信頼性を向上させることが可能となり、前記各発明の効果がより的確に発揮される。
【0034】
第11の発明によれば、上記のようにして得られたポイントやポイントの平均値を送信してナビゲーション装置の画面に表示された地図上に表示させることで、路面の滑り易さをポイント化して適切にドライバに提供することが可能となる。また、ドライバはポイント等の値を見ることで、路面が実際に滑り易いか否かを的確に判断することが可能となり、前記各発明の効果が効果的に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る路面滑り易さ判定システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0036】
本実施形態に係る路面滑り易さ判定システム1は、図1に示すように、車両としてのプローブカー2と、サーバ3とを備えて構成されている。本実施形態では、プローブカー2は、サーバ3との間で情報を携帯電話網等の移動体通信網の基地局Aやインターネット等のネットワークNを介して送受信するようになっている。また、ネットワークNにはデータセンタ4が接続されており、プローブカー2から受信した情報やサーバ3で解析された情報等がデータセンタ4に集積されるようになっている。
【0037】
プローブカー2は、制御装置21と、スリップ防止機構22と、距離検出装置23と、ナビゲーション装置24と、アンテナ26を有する移動体通信装置25とを備えている。また、制御装置21には、車速や図示しないステアリングホイールの舵角等を計測するセンサ類27が接続されており、センサ類27は所定のサンプリング周期で計測を行い、収集したデータを制御装置21に送信するようになっている。
【0038】
なお、本実施形態では、センサ類27としてプローブカー2に加わる加速度センサ(いわゆるGセンサ)が搭載されており、加速度センサでプローブカー2の減速度αを検出するようになっている。なお、プローブカー2の減速度αは、車速センサにより検出された車速Vを時間微分して求めるようにしても良い。
【0039】
本実施形態では、スリップ防止機構22は、図示を省略するが、ABS装置と、トラクションコントロールシステム(Traction Control System。以下、TCS装置という。)と、VDC(Vehicle Dynamics Control)装置とで構成されている。
【0040】
ABS装置は、ブレーキ操作の際にタイヤがロックして路面上を滑ることを防止するための装置である。TCS装置は、発進や加速の際にタイヤが空転することを防止するための装置である。また、VDC装置は、オーバースピードでコーナーに侵入したり急激なハンドル操作が行われる等して車両姿勢が乱れた際に横滑りを防止するために左右の片側の車輪にブレーキをかける等の制御を行う装置である。これらの各装置で構成されるスリップ防止機構22は、いずれかの装置が作動するとスリップ防止機能の作動情報を制御装置21に送信するようになっている。
【0041】
距離検出装置23は、本実施形態では、図示しない一対のカメラを備えるステレオ撮像装置で例えば自車両の前方等を撮像して得られた一対の画像に対してステレオマッチング処理等の画像処理を行うことで、画像中に撮像された先行車両を含む物体の自車両からの距離を検出するようになっている。距離検出装置23は、例えば、本願出願人により先に提出された特開平10−283461号公報や特開平10−283477号公報等に記載された車外監視装置をベースにして構成することが可能である。
【0042】
なお、距離検出装置23は、少なくとも先行車両と自車両との距離を検出することができればよく、ステレオ撮像装置の画像処理によらずとも、或いはそれとあわせて、例えばレーザ光等を照射してその反射光の情報に基づいて物体との距離を収集するレーダ装置等で行うように構成することも可能である。
【0043】
ナビゲーション装置24は、道路や交差点、標高等の情報を含む地図情報を図示しない記憶手段内に保持しており、自車両周辺の地図情報を読み出して図示しない画面上に地図を表示するなど、通常のナビゲーション装置が有する機能を有している。
【0044】
また、本実施形態では、ナビゲーション装置24は、GPS(Global Positioning System)装置を内蔵しており、自車両の緯度および経度の情報を車両情報における位置情報として制御装置21に送信するようになっている。なお、自車両の位置情報を他の手法によって収集するように構成することも可能であり、また、必ずしもナビゲーション装置24で位置情報の収集を行うように構成する必要はない。
【0045】
さらに、ナビゲーション装置24の図示しない制御手段は、後述するようにサーバ3から路面の滑り易さの情報がプローブカー2の制御装置21を介して送信されてくると、当該路面の滑り易さの情報が算出された地図上の地点に、路面の滑り易さの数値を表示したり、或いは数値に応じて地図上の道路の所定区間を着色して表示する等して、ナビゲーション装置24の画面上に表示した地図上に路面の滑り易さの情報を表示するようになっている。
【0046】
移動体通信装置25は、本実施形態では携帯電話が用いられているが、これに限定されず、例えば専用の移動体通信装置により移動体通信網の基地局Aとの間で情報を送受信するように構成することも可能である。
【0047】
なお、プローブカー2とサーバ3やデータセンタ4との情報の送受信は、必ずしも本実施形態のように移動体通信網やネットワークNを介して行われる必要はなく、例えば、ネットワークや専用回線等を通じてサーバ3等と接続された図示しないホットスポットとプローブカー2の間で情報をやりとりするように構成することも可能である。
【0048】
制御装置21は、ECU、すなわち図示しないCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェース等がバスに接続されたマイクロコンピュータ等で構成されている。
【0049】
制御装置21は、本実施形態では、スリップ防止機構22からスリップ防止機能が作動されたことを表すスリップ防止機能の作動情報が送信されてくると、その時刻tを記録するとともに、各装置から走行状態の情報と車両情報とを収集して、移動体通信網等を介してそれらの情報をサーバ3とデータセンタ4に送信するようになっている。このように、本実施形態では、制御装置21は、各種情報を検出する検出手段として機能するようになっている。
【0050】
具体的には、制御装置21は、スリップ防止機能の作動情報が送信されてくると、走行状態の情報として、距離検出装置23から、スリップ防止機能が作動された時点(時刻t)における先行車両の自車両との距離Zの情報を収集し、ナビゲーション装置24から、スリップ防止機能が作動された地点Pの最寄りの交差点からの距離Zpcや、地点Pにおける道路勾配G、地点Pにおける道路の曲率半径Rcを収集するようになっている。
【0051】
また、制御装置21は、スリップ防止機能の作動情報がABS装置またはTCS装置から送信されたものである場合、一輪のみに対して制動が発生した場合にはその情報も走行状態の情報として収集するようになっている。さらに、制御装置21は、センサ類27から車速Vや減速度αの情報を収集するようになっている。
【0052】
そして、制御装置21は、これらの情報を収集すると、続いて、車両情報として、ナビゲーション装置24から自車両の位置情報を入手するとともに、記憶手段28から自車両の駆動方式(すなわちAWD(全輪駆動)、FF(前輪駆動)、FR(後輪駆動)のいずれか)や装着されているタイヤの種別を含むタイヤに関する情報、自車両の走行距離Lの情報を読み出すようになっている。
【0053】
また、制御装置21は、記憶手段28に記憶されているタイヤの使用開始年月日を読み出し、現在の年月日との差分を算出して、現在のタイヤの使用年数を算出するようになっている。
【0054】
制御装置21は、このようにして収集し算出した走行状態の情報と車両情報とをスリップ防止機能の作動情報とともに移動体通信網等を介してサーバ3とデータセンタ4に送信するようになっている。データセンタ4では、プローブカー2から基地局AやネットワークNを介して受信したそれらの情報を集積するようになっている。
【0055】
なお、上記のように、本実施形態においてプローブカー2からサーバ3やデータセンタ4に送信される情報をまとめると、
(A)スリップ防止機能の作動情報(スリップ防止機能が作動された時刻tを含む。)
(B)走行状態の情報
(b1)スリップ防止機能が作動された時点における先行車両との距離Z
(b2)スリップ防止機能が作動された地点Pの最寄りの交差点からの距離Zpc
(b3)地点Pにおける道路勾配G
(b4)地点Pにおける道路の曲率半径Rc
(b5)一輪のみに対して制動が発生したという情報(ABS、TCSの場合)
(b6)スリップ防止機能が作動された時点における減速度α
【0056】
(C)車両情報
(c1)プローブカー2の位置情報
(c2)プローブカー2の駆動方式(AWD、FF、FR)
(c3)タイヤの種別
(c4)タイヤの使用年数
(c5)現在のプローブカー2の走行距離L
の各情報が送信される。
【0057】
また、上記の車両情報におけるプローブカー2の位置情報とは、スリップ防止機構22から制御装置21にスリップ防止機能の作動情報が送信された時点におけるプローブカー2の位置の情報である。
【0058】
さらに、データセンタ4には、本実施形態に係る路面滑り易さ判定システム1への参加時における各プローブカー2の当初の走行距離Linと、参加時のドライバ自身の当初の走行距離Ldinが予め登録されている。なお、参加時のドライバ自身の当初の走行距離Ldinはドライバの自己申告による。
【0059】
サーバ3は、図示しないCPUやROM、RAM、入出力インターフェース等がバスに接続されたコンピュータ等で構成されている。
【0060】
サーバ3は、プローブカー2から上記の各情報を受信すると、データセンタ4に登録されている当該プローブカー2の当初の走行距離Linとドライバ自身の当初の走行距離Ldinとを読み出して、それらと受信した現在のプローブカー2の走行距離Lとに基づいて、下記(1)式に従って現在のドライバ自身の走行距離Ldを算出するようになっている。
Ld=Ldin+(L−Lin) …(1)
【0061】
すなわち、この現在のドライバ自身の走行距離Ldはドライバが車両の運転を開始してからの総走行距離を表すものであり、以下の処理で、車両情報におけるドライバの運転経験に関する情報として扱われる。
【0062】
また、サーバ3は、プローブカー2から上記の各情報を受信すると、受信した位置情報により特定される地点P、すなわちプローブカー2のスリップ防止機構22によりスリップ防止機能が作動された地点Pの最寄りの気象観測点から晴れや雨等の天候に関する情報を入手し、その地点Pにおける天候に関する情報としてデータセンタ4に保存するようになっている。
【0063】
次に、路面状態判定手段として機能するサーバ3における処理構成について説明する。サーバ3における処理は、図2および図3に示すフローチャートに従って行われるようになっている。以下、このフローチャートに基づいて説明するとともに、本実施形態に係る路面滑り易さ判定システム1の作用についてもあわせて説明する。
【0064】
図2のフローチャートに示すように、サーバ3は、まず、プローブカー2からスリップ防止機能の作動情報とともに送信されてきた走行状態の情報に基づいて、プローブカー2の種々の走行状態に対して、スリップ防止機能が作動された地点Pにおける路面の滑り易さをポイントpとして算出するための基準となる基準点paを定めるようになっている。その際、基準点paは、路面が滑り易いためにスリップ防止機能が作動された可能性が高いか否かに応じて値が決定されるようになっている。
【0065】
具体的には、本実施形態では、基準点paを定めるために、前述した走行状態の情報(B)の各項目(b1)〜(b6)について、下記に示す第1判定条件群を形成する各第1判定条件がそれぞれ設定されている。また、プローブカー2の走行状態が第1判定条件のいずれかを満たした場合にその満たす条件に応じて選択される基準点paが図4のテーブルT1に示すように予め設定されている。
【0066】
[第1判定条件群]
[第1判定条件A]
スリップ防止機能が作動された時点における当該プローブカー2と先行車両との距離Z(上記(b1)参照)が予め設定された閾値以下か(図2のステップS1)。
【0067】
[第1判定条件B]
スリップ防止機能が作動された地点Pの最寄りの交差点からの距離Zpc(上記(b2)参照)が予め設定された閾値以下か(ステップS2)。
【0068】
[第1判定条件C]
スリップ防止機能が作動された地点Pにおける道路勾配G(上記(b3)参照)が予め設定された閾値以上か(ステップS3)。
【0069】
[第1判定条件D]
スリップ防止機能が作動された地点Pにおける道路の曲率半径Rc(上記(b4)参照)が予め設定された閾値以下か(ステップS4)。
【0070】
これらの各第1判定条件A〜Dのいずれかが成立する場合、すなわち、プローブカー2と先行車両との距離Zが近接している場合(第1判定条件A)や、プローブカー2が交差点に接近している場合(第1判定条件B)、道路勾配Gが急な地点でタイヤが空転した場合(第1判定条件C)、或いは、道路の曲がり方が急でタイヤが空転したり車両姿勢が乱れてVDC装置が作動したような場合(第1判定条件D)にスリップ防止機能が作動した場合には、路面が滑り易いことが原因である可能性は残るが、寧ろドライバの判断ミスや操作ミスが原因である可能性が高い。
【0071】
そこで、サーバ3は、第1判定条件A〜Dのいずれかが成立する場合には(ステップS1〜S4;YES)、記憶手段に記憶されたテーブルT1(図4参照)を参照して、基準点paを中位の値(2点)に定めるようになっている(図2のステップS7)。
【0072】
[第1判定条件E]
スリップ防止機能の作動情報がABS装置またはTCS装置から送信されたものである場合に一輪のみに対して制動が発生したという情報(上記(b5)参照)が添付されているか(ステップS5)。
【0073】
[第1判定条件F]
スリップ防止機能が作動された時点における減速度α(上記(b6)参照)の絶対値が予め設定された閾値以上か(ステップS6)。
【0074】
これらの各第1判定条件E、Fのいずれかが成立する場合、すなわち、段差やマンホール等でプローブカー2の1つの車輪のみに滑りや空転が生じてABS装置やTCS装置(VDC装置は除く)が作動した場合(第1判定条件E)や、スリップ防止機能が作動しているにもかかわらずプローブカー2が通常のブレーキングの場合と同様に十分に減速している場合(第1判定条件F)は、路面が滑り易いことが原因ではなく、スリップ防止機能の誤作動が原因であると考えられる。
【0075】
そこで、サーバ3は、第1判定条件E、Fのいずれかが成立する場合には(ステップS5、S6;YES)、記憶手段に記憶されたテーブルT1(図4参照)を参照して、基準点paを中位の値より低い値(下位1点)に定めるようになっている(図2のステップS8)。
【0076】
なお、上記の各第1判定条件における各閾値は、ドライバの判断ミスや操作ミスによると見なすことができ、或いはスリップ防止機能の誤作動と見なすことができる値に設定される。また、各閾値を固定値として設定することも可能であり、或いはプローブカー2の車速等に依存して変化する値として設定することも可能である。
【0077】
例えば、路面が乾燥している状態で通常のブレーキ操作を行った場合の減速度α(の絶対値)は0.2G(Gは重力加速度)程度とされている。そこで、上記の第1判定条件Fにおける減速度αの絶対値に関する閾値を固定値0.2Gに設定することができる。そして、スリップ防止機能が作動したとしても、その時点の減速度αの絶対値が閾値0.2G以上であれば十分にブレーキが効いている状態であり、スリップ防止機能の誤作動であると的確に判定することができる。
【0078】
また、車速がV、減速度がαの状態で走行している車両が停車するまでに走行する距離Lは、
L=V/2α …(2)
で算出できる。
【0079】
そのため、上記の第1判定条件Aにおけるスリップ防止機能が作動された時点でのプローブカー2と先行車両との距離Zに関する閾値Laを、例えば、
La=V/(2×0.2G) …(3)
のように車速Vに依存して変化する値として設定するように構成すれば、車速Vに応じて適切な閾値Laを設定することが可能となり、プローブカー2と先行車両との距離Zが閾値Laよりも小さく近接した状態でスリップ防止機構が作動された場合には、急ブレーキの状態であり、ドライバの判断ミスや操作ミスが原因である可能性が高いと的確に判定することが可能となる。
【0080】
サーバ3は、プローブカー2からスリップ防止機能の作動情報とともに送信されてきた走行状態の情報に基づく上記の各第1判定条件A〜Fの判定処理で、いずれの条件も成立しない場合(ステップS1〜S6;NO)には、第1判定条件G、すなわち、
[第1判定条件G]
上記第1判定条件A〜Fのいずれの条件をも満たさない。
という条件が満たされたものとして、記憶手段に記憶されたテーブルT1(図4参照)を参照して、基準点paを中位の値より高い値(上位3点)に定めるようになっている(図2のステップS9)。
【0081】
このように、第1判定条件群では、スリップ防止機能が作動された際の走行状態を考慮して、路面が滑り易いためにスリップ防止機能が作動された可能性が高い走行状態ほど基準点paを高い値に定めるようになっている。また、サーバ3は、プローブカー2の走行状態が当てはまる第1判定条件A〜Gを選択し、記憶手段に記憶されたテーブルT1(図4参照)を参照して、選択した第1判定条件A〜Gについて設定された基準点paを抽出するようになっている。
【0082】
続いて、サーバ3は、図3のフローチャートに示すように、プローブカー2からスリップ防止機能の作動情報とともに送信されてきた車両情報や、上記のように算出し或いは入手したドライバの運転経験に関する情報や地点Pにおける天候に関する情報に基づいて、上記のように定められた基準点paに重み付けをするための重み付け係数wを設定するようになっている。その際、重み付け係数wは、スリップが生じ難い車両状態であるか否かに応じて値が設定されるようになっている。
【0083】
ドライバの運転経験に関する情報や地点Pにおける天候に関する情報を含む車両情報は、前述した第1判定条件群の各第1判定条件A〜Gの成立の前提となるものである。そのため、本実施形態では、重み付け係数wを設定するために、上記の車両情報(C)の各項目(c2)〜(c4)と、項目(c5)に基づき上記(1)式に従って算出したドライバ自身の走行距離Ldと、項目(c1)に基づいて地点Pの最寄りの気象観測点から入手した天候に関する情報の各車両情報について、下記に示す第2判定条件群を形成する各第2判定条件がそれぞれ設定されている。また、図5〜図8のテーブルT2〜T5に従って重み付け係数w1〜w4が設定されるようになっている。
【0084】
[第2判定条件群]
[第2判定条件A]
プローブカー2の駆動方式(上記(c2)参照)がAWDである場合には第1重み付け係数w1を大きな値に設定し、FFまたはFRである場合には第1重み付け係数w1をより小さな値に設定する。本実施形態では、第1重み付け係数w1は、図5のテーブルT2を参照して設定される。なお、駆動方式をさらに細かく分類して第1重み付け係数w1を設定することも可能である。
【0085】
サーバ3は、プローブカー2から送信されてきた車両情報のうち駆動方式の情報に応じて第2判定条件AのテーブルT2から第1重み付け係数w1を選択し、上記のように定めた基準点paに乗算する(図3のステップS10)。
【0086】
[第2判定条件B]
タイヤの種別(上記(c3)参照)がスタッドレスタイヤである場合には第2重み付け係数w2を大きな値に設定し、ノーマルタイヤである場合には第2重み付け係数w2をより小さな値に設定する。また、タイヤの種別がスタッドレスタイヤである場合に、タイヤの使用年数(上記(c4)参照)が例えば3年以内である場合には第2重み付け係数w2を大きな値に設定し、3年以上である場合には第2重み付け係数w2をより小さな値に設定する(図3のステップS11)。
【0087】
本実施形態では、第2重み付け係数w2は、図6のテーブルT3を参照して設定される。なお、ノーマルタイヤについてもスタッドレスタイヤと同様に使用年数で第2重み付け係数w2を変えるように構成することも可能である。
【0088】
サーバ3は、プローブカー2から送信されてきた車両情報のうちタイヤの種別と使用年数の情報に応じて第2判定条件BのテーブルT3から第2重み付け係数w2を選択し、上記のように算出したpa×w1にさらに第2重み付け計数w2を乗算する(図3のステップS11)。
【0089】
[第2判定条件C]
ドライバ自身の走行距離Ldが長距離になるほど第3重み付け係数w3が大きくなるように設定する(図3のステップS12)。本実施形態では、第3重み付け係数w3は、図7のテーブルT4を参照して設定される。なお、ドライバ自身の走行距離Ldによる分類は図7のテーブルT4に示した3分類に限定されず、また、分類の閾値は図7の場合に限定されない。
【0090】
サーバ3は、上記のように算出したドライバ自身の走行距離Ldに応じて第2判定条件CのテーブルT4から第3重み付け係数w3を選択し、上記のように算出したpa×w1×w2にさらに第3重み付け計数w3を乗算する(図3のステップS12)。
【0091】
[第2判定条件D]
天候に関する情報が晴れや曇りである場合には第4重み付け係数w4を大きな値に設定し、雨や雪である場合には第4重み付け係数w4をより小さな値に設定する(図3のステップS13)。本実施形態では、第4重み付け係数w4は、図8のテーブルT5を参照して設定される。なお、天候をさらに細かく分類して第4重み付け係数w4を設定することも可能である。
【0092】
サーバ3は、上記のように入手した天候に関する情報に応じて第2判定条件DのテーブルT5から第4重み付け係数w4を選択し、上記のように算出したpa×w1×w2×w3にさらに第4重み付け計数w4を乗算する(図3のステップS13)。サーバ3は、このようにして算出されたpa×w1×w2×w3×w4を、当該プローブカー2においてスリップ防止機能が作動された地点Pにおける路面の滑り易さを表すポイントpとして算出するようになっている(ステップS13)。
【0093】
すなわち、本実施形態では、地点Pにおける路面の滑り易さを表すポイントpは、
p=pa×w1×w2×w3×w4 …(4)
に従って算出されるようになっている。
【0094】
なお、プローブカー2がAWDである場合(第2判定条件A)や、タイヤがスタッドレスタイヤである場合(第2判定条件B)、タイヤの使用年数が短い場合(第2判定条件B)、ドライバ自身の走行距離Ldが長距離である場合(第2判定条件C)、降雨や降雪がない場合(第2判定条件D)には、車両の安定性や走行の安定性が高いと考えられる。それにもかかわらず、そのような状況においてスリップ防止機能が作動されたということは、スリップ防止機能が作動した原因は、車両や走行のしかたが原因である可能性は低く、寧ろその地点Pの路面自体が滑り易いためであると判定できる。
【0095】
そして、そのような場合には、路面の滑り易さを表すポイントp、すなわち路面の滑り易さの度合を、より大きな値で表現することが効果的である。そのため、本実施形態では、路面が滑り易い場合ほどポイントpをより大きな値として表現するために、上記のテーブルT2〜T5(図5〜図8)のように、スリップが生じ難い車両状態であるほど大きな値の重み付け係数w1〜w4が設定されるようになっている。
【0096】
なお、図5〜図8に示した各重み付け係数w1〜w4の各数値はあくまで一例であり、それらの値は種々の条件が考慮され、また、路面滑り易さ判定システム1が適切に機能するように適宜設定される。
【0097】
さて、上記のように算出された路面の滑り易さのポイントpをスリップ防止機能が作動された地点Pの情報(緯度、経度)と対応付け、路面の滑り易さの情報として、路面滑り易さ判定システム1に参加するすべてのプローブカー2に送信し、例えば、プローブカー2のナビゲーション装置24の画面上に表示される地図上の当該地点Pに数値として表示させるように構成することが可能である。なお、路面の滑り易さの情報は、路面滑り易さ判定システム1に参加するすべてのプローブカー2に送信せずに、例えば、地点Pから所定距離内(例えば半径50km以内)に存在するプローブカー2に限定して送信するようにしても良い。
【0098】
また、路面の滑り易さのポイントを画面上に表示する際、例えば、図9に示すように、ポイントpの数値に基づいて地点Pにおける路面の滑り易さの度合を分類して、非常に滑り易い可能性がある場合には地図上に表示するポイントpの数値を例えば赤色で示し、滑り易い可能性がある場合には黒色で示すことも可能である。
【0099】
しかし、路面が滑り易い場合には、その地点Pやその近傍を走行したプローブカー2から多数のポイントpの情報が送信されてくることが予想される。その場合、地図上にポイントpの数値を個別に表示すると、異なる数値が重なり合い、或いは近接して表示されるため、ドライバが見づらくなる場合がある。また、種々の数値が表示されると、その地点Pにおける路面の滑り易さを、ドライバが一見しただけでは把握できない虞がある。
【0100】
そのため、本実施形態では、例えば、プローブカー2のナビゲーション装置24の画面上に表示される地図を所定の緯度幅および所定の経度幅で区分して格子状の小領域に区分したり、或いは地図上に表示される道路を所定の距離ごとに小領域に区分する等して、複数の領域Rを設定する。そして、サーバ3は、各領域Rごとに、その領域Rに属する地点Pについて算出されたポイントpの平均値paveを算出する(図3のステップS15)。
【0101】
そして、サーバ3は、当該領域Rにおける路面の滑り易さとして算出した平均値paveを領域Rに対応付けて、すべてのプローブカー2に送信する(ステップS16)とともに、データセンタ4にも送信して保存させるようになっている。
【0102】
なお、地点Pについて算出されたポイントpの値が小さい値である場合には、算出されたポイントpは、当該地点Pにおける路面の滑り易さを表す指標としては価値が低いと考えられる。従って、本実施形態では、図9に示すように、算出されたポイントpの値に対して所定の閾値(図9では1.0)を予め設定し、地点Pについて算出されたポイントpの値が閾値未満の場合には、算出されたポイントpやその元であるスリップ防止機能の作動情報のデータを破棄するようになっている(図3のステップS14)。そのため、閾値未満のポイントpは平均値paveの算出には用いられない。
【0103】
また、プローブカー2からスリップ防止機能の作動情報が送信されてきたとしても、その後、例えば地点Pで気温が上昇して路面の凍結が解消される等して、路面が滑り易い状況が解消される場合がある。そこで、本実施形態では、所定の時間的範囲を予め設定しておき、サーバ3は、ポイントpの平均値paveを算出する際に過去の所定の時間的範囲内のポイントpについてのみ平均値paveを算出し、それ以前のポイントpのデータは破棄するようになっている(ステップS14)。
【0104】
以上のようにして、プローブカー2からスリップ防止機能の作動情報と走行状態の情報と車両情報とを受信した場合のサーバ3における処理が終了する。
【0105】
プローブカー2(図1参照)は、サーバ3から、領域Rに対応付けられたポイントpの平均値paveの情報を受信すると、制御装置21がナビゲーション装置24にその情報を送信し、ナビゲーション装置24の図示しない記憶手段に記憶させる。
【0106】
また、ナビゲーション装置24の制御手段は、画面上に地図を表示する際に、当該領域Rに該当する地図上の格子状の領域や地図上の道路の所定区間に路面の滑り易さである平均値paveの数値を表示したり、或いは平均値paveの値を例えば図9に示したポイントpの分類に準じて分類し、それに応じて領域Rを着色して表示する等して、路面の滑り易さの情報を地図上に表示する。
【0107】
以上のように、本実施形態に係る路面滑り易さ判定システム1によれば、スリップ防止機能が作動された際のプローブカー2の走行状態に対して設定される第1判定条件群では、ドライバの判断ミスや操作ミスではなく、実際に路面が滑り易いためにスリップ防止機能が作動された可能性が高い走行状態ほど高い値となるように基準点paが設定されるように構成した。
【0108】
また、プローブカー2の車両状態に対して設定される第2判定条件群では、スリップが生じ難い車両状態ほど大きな重み付け係数w1〜w4が設定されるように構成して、基準点paと重み付け係数w1〜w4とを乗じて、スリップ防止機能が作動された地点Pにおける路面の滑り易さをポイントpとして算出して評価するように構成した。
【0109】
そのため、実際に路面が滑り易いためにスリップ防止機能が作動された可能性が高いと判定される走行状態では、ドライバの判断ミスや操作ミスやABS装置等の誤作動で作動した場合よりも高い値の基準点paが設定され、また、タイヤが滑り難くドライバの運転技量が高い場合のようにスリップが生じ難いと判定される車両状態ではより大きな重み付け係数wが基準点paに乗算されるため、ポイントpの値が高ければ高いほど実際に路面が滑り易くなっていることを的確に判定し評価することが可能となる。
【0110】
このようにして、本実施形態に係る路面滑り易さ判定システム1では、プローブカー2から送信されたスリップ防止機能の作動情報をサーバで適切に判定して、路面の滑り易さをポイント化してドライバに提供することが可能となる。また、それにより、ドライバはポイントpの値の大きさを見ることで、路面が実際に滑り易いか否かを的確に判断することが可能となるとともに、情報の信頼性を向上させることが可能となる。
【0111】
なお、本実施形態では、プローブカー2で検出された各種情報をサーバ3で収集し、サーバ3において、地点Pにおける路面の滑り易さを算出する構成とした。しかしながら、本発明は、これに限らず、プローブカー2において路面の滑り易さを算出し、その後、位置情報とともにサーバ3に送信するように構成しても良い。この場合、プローブカー2のそれぞれは、サーバ3に代わって、最寄りの気象観測地点から天候に関する情報を受信し、その受信した情報、第1と第2の判定条件群や、基準点paを決定するためのテーブルTなど、各種の情報を記憶できるように構成する。そして、算出された路面の滑り易さのポイントpが閾値未満の場合は当該ポイントpを破棄する一方、閾値を越える場合にはサーバ3に送信する。
【0112】
また、これに限らず、プローブカー2において基準点paと重み付け係数の一部だけを決定し、残りの重み付けをサーバ3において決定するなど、適宜、システムの仕様に応じて各処理を分担させても良い。その際、第2の判定条件群における天候に関する条件については、プローブカー2のそれぞれで天気情報を受信して処理するよりも、サーバ3で処理した方が通信量を削減することができる。
【0113】
ここで、本実施形態のように、プローブカー2からサーバ3へのスリップ防止機能の作動情報等の送信を携帯電話網等の移動体通信網を介して行う場合、プローブカー2のスリップ防止機能が作動した地点Pが、移動体通信網の電波が届かない、いわゆる圏外の位置であると、スリップ防止機能が作動したその時点で作動情報等を送信することができない。そして、プローブカー2が移動体通信網の電波が届く位置まで来た時点で、作動情報等が再送される状態となる。
【0114】
しかし、前述したように、プローブカー2のスリップ防止機能が作動されたとしても、その後、例えばその地点Pで気温が上昇して路面の凍結が解消される等して、路面の滑り易さが変化している場合がある。そのため、再送されたスリップ防止機能の作動情報をサーバ3が受信した時刻とスリップ防止機能が作動された時刻との時間間隔が長い場合、送信されてきたスリップ防止機能の作動情報の現時点での価値は低下していると考えられる。
【0115】
そのため、本実施形態では、受信したスリップ防止機能の作動情報が移動体通信網を介して再送されたものであり、かつ、スリップ防止機能が作動された時刻とその作動情報を受信した時刻との時間間隔が予め設定された時間間隔以上である場合には、サーバ3は、そのスリップ防止機能が作動された地点Pの最寄りの気象観測点から気象情報を取り寄せて、その時間間隔における気温に基づいて、受信したスリップ防止機能の作動情報を破棄するか否かを決定するようになっている。
【0116】
具体的には、その時間間隔の間の平均気温や最高気温が予め設定された平均気温や最高気温に関する閾値以上である場合には、路面の凍結が解消される等して路面が滑り易い状況が解消されている可能性が高いとして、受信したスリップ防止機能の作動情報を破棄するようになっている。この場合、当該スリップ防止機能の作動情報は受信しなかったものとして扱われる。
【0117】
しかし、その時間間隔の間の平均気温や最高気温が予め設定された平均気温や最高気温に関する閾値に達していなければ、路面の凍結等が解消されておらず路面の滑り易さが維持されている可能性が高いとして、受信したスリップ防止機能の作動情報は採用されて、ポイントpや平均値paveの算出等に用いられる。
【0118】
一方、サーバ3は、上記と同様の理由で、スリップ防止機能の作動情報を受信した後、一定時間の間に、当該スリップ防止機能が作動された地点Pから所定距離内の地点で、当該プローブカー2や別のプローブカー2で新たにスリップ防止機能が作動されず、新規のスリップ防止機能の作動情報を受信しない場合には、当該スリップ防止機能が作動された地点Pの最寄りの気象観測点から気象情報を取り寄せて、一定時間の間における気温に基づいて、受信したスリップ防止機能の作動情報を削除するか否かを決定するようになっている。
【0119】
すなわち、当該一定時間の間の平均気温や最高気温が予め設定された平均気温や最高気温に関する閾値以上である場合には、路面の凍結が解消される等して路面が滑り易い状況が解消されている可能性が高いとして、当該スリップ防止機能の作動情報を記憶手段やデータセンタ4から削除するようになっている。なお、この場合、削除されるまで、スリップ防止機能の作動情報は有効な情報として採用される。
【0120】
しかし、この場合も、一定時間の間の平均気温や最高気温が予め設定された平均気温や最高気温に関する閾値に達していなければ、路面の凍結等が解消されておらず路面の滑り易さが維持されている可能性が高いとして、スリップ防止機能の作動情報は記憶手段やデータセンタ4から削除されない。
【0121】
なお、上記の各場合において、図3に示したフローチャートのステップS14の処理で、過去の所定の時間的範囲より以前のポイントpであると判断される場合にはデータが破棄される。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本実施形態に係る路面滑り易さ判定システムの全体構成およびプローブカーの内部構成を示す図である。
【図2】本実施形態のサーバにおける処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態のサーバにおける処理手順を示すフローチャートである。
【図4】プローブカーの走行状態が第1判定条件のいずれかを満たした場合に上位、中位、下位のいずれかの基準点を決定するために用いられるテーブルを示す図である。
【図5】プローブカーの駆動方式と第1重み付け係数とを対応付けるテーブルを示す図である。
【図6】タイヤの種別と使用年数と第2重み付け係数とを対応付けるテーブルを示す図である。
【図7】ドライバ自身の走行距離と第3重み付け係数とを対応付けるテーブルを示す図である。
【図8】天候と第4重み付け係数とを対応付けるテーブルを示す図である。
【図9】ポイントと路面の滑り易さの度合の分類との対応を説明する図である。
【符号の説明】
【0123】
1 路面滑り易さ判定システム
2 車両(プローブカー)
3 路面状態判定手段(サーバ)
21 検出手段(制御装置)
24 ナビゲーション装置
Ld ドライバ自身の走行距離
P 地点
p ポイント
pa 基準点
pave ポイントの平均値
R 領域
w1〜w4 重み付け係数(第1〜第4重み付け係数)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が有するスリップ防止機能の作動情報と、前記車両の走行状態の情報と、前記車両の位置情報を含む車両情報とを検出する検出手段と、
前記スリップ防止機能の作動情報と前記走行状態と前記車両情報とに基づいて前記スリップ防止機能が作動された地点の路面の滑り易さを判定する路面状態判定手段と
を備え、
前記スリップ防止機能が作動された際の前記走行状態に対する第1判定条件群が予め設定されており、かつ、前記第1判定条件群に属する各第1判定条件には、前記走行状態に鑑みて、路面が滑り易いために前記スリップ防止機能が作動された可能性が高い走行状態ほど高い値となるようにそれぞれ基準点が設定されており、
前記第1判定条件群の各第1判定条件の成立の前提となる前記車両情報に対する第2判定条件群が予め設定されており、かつ、前記第2判定条件群に属する各第2判定条件には、前記車両情報に鑑みて、スリップが生じ難い車両状態に対応する車両情報ほど大きな値となるようにそれぞれ重み付け係数が設定されており、
前記路面状態判定手段は、前記車両の走行状態が当てはまる前記第1判定条件を選択して前記基準点を定め、前記車両の車両情報に応じて前記各第2判定条件に設定された前記重み付け係数を選択し、前記基準点と前記重み付け係数とに基づいて、前記スリップ防止機能が作動された地点の路面の滑り易さをポイントとして算出することを特徴とする路面滑り易さ判定システム。
【請求項2】
前記各第1判定条件に設定される前記基準点は、前記走行状態に鑑みて、前記スリップ防止機能の誤作動である場合に相当する前記第1判定条件には低い値が設定され、ドライバの判断ミスまたは操作ミスのために前記スリップ防止機能が作動された場合に相当する前記第1判定条件には中位の値が設定され、それ以外の場合に相当する前記第1判定条件には高い値が設定されることを特徴とする請求項1に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項3】
前記車両情報には、前記プローブカーの駆動方式、装着されているタイヤに関する情報、ドライバの運転経験に関する情報の中の少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項4】
前記装着されているタイヤに関する情報には、前記タイヤの種別および前記タイヤの使用年数の少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項3に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項5】
前記ドライバの運転経験に関する情報には、当該ドライバ自身の走行距離の情報が含まれることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の路面の滑り易さ判定システム。
【請求項6】
前記第2判定条件群には、前記第2判定条件として、前記プローブカーから受信した位置情報により特定される地点における天候に関する条件が含まれることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項7】
前記路面状態判定手段は、所定の位置的領域内で、かつ、過去の所定の時間的範囲内にて前記ポイントの平均値を、当該平均値を当該領域における路面の滑り易さとして算出することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項8】
前記路面状態判定手段は、前記スリップ防止機能が作動された地点の路面の滑り易さのポイントが所定の閾値未満の場合には、当該ポイントを破棄し、前記平均値の算出に用いないことを特徴とする請求項7に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項9】
前記路面状態判定手段は、無線通信を介して前記検出手段に接続され、前記スリップ防止機能の作動情報を受信した際に、当該スリップ防止機能が作動された時刻と当該作動情報を受信した時刻との時間間隔が予め設定された時間間隔以上である場合には、前記スリップ防止機能が作動された時刻にて最寄りの気象観測点で検出された気温に基づいて、当該受信したスリップ防止機能の作動情報を破棄するか否かを決定することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項10】
前記路面状態判定手段は、無線通信を介して前記検出手段に接続され、前記スリップ防止機能の作動情報を受信した後、一定時間の間に、当該スリップ防止機能が作動された地点から所定距離内について新規のスリップ防止機能の作動情報を受信しない場合には、最寄りの気象観測点での当該一定時間の間における気温に基づいて、当該受信したスリップ防止機能の作動情報を破棄するか否かを決定することを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の路面滑り易さ判定システム。
【請求項11】
前記路面状態判定手段は、前記地点または前記領域に対して算出した前記路面の滑り易さの情報を送信し、
当該滑り易さの情報を受信した車両は、当該路面の滑り易さの情報を、ナビゲーション装置の画面に表示された地図上に表示することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の路面滑り易さ判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−20430(P2010−20430A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178606(P2008−178606)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】