説明

車両のクラッチ制御装置

【課題】車体旋回時やコーナー走行時に適切な駆動力が駆動輪へ伝達されるようにする。
【解決手段】変速のためのクラッチ切断時間を車体のロール角に応じて補正する。半クラッチ時間算出部15では、変速操作開始を検出したとき、ジャイロユニット121からロール角を読み込み、半クラッチ接続時間テーブル16を参照して半クラッチ接続時間を算出する。半クラッチ接続時間テーブル16は、ロール角が大きくなるほど、半クラッチ時間が長くなるように設定される。シフトアップ側に変速された場合、点火カット等によりエンジン出力トルクを低下させる。シフトダウン側に変速された場合、スロットルバルブを開いてエンジン回転数を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のクラッチ制御装置に関し、特に、自動二輪車による旋回時やコーナー走行時の走行フィーリングを向上させるのに好適な車両のクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両が旋回する時の走行フィーリングを向上させるための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車両の横方向の姿勢変化を表す物理量を検出する姿勢変化物理量検出手段としてのロールレイトセンサを備え、該ロールレイトセンサで検出された姿勢変化物理量の大きさに応じて、姿勢変化物理量が大きくなるほどエンジン出力を小さくする制御装置が提案されている。
【0003】
また、特許文献2では、ナビゲーション装置の道路情報やジャイロセンサの出力情報により、車両が旋回中であることを検出すると、コーナ中制御が作動して、前方道路コーナ曲率半径等により設定される推奨変速比が、実際の変速比指令値より大きい場合、変速機を推奨変速比に向って制御する変速制御装置が提案されている。
【特許文献1】特開2005−36750号公報
【特許文献2】特開2000−46170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載された従来の装置では、車両が旋回中にエンジン出力を変化させたり、変速比を制御したりすることによって走行フィーリングや運転性能を改良することができる。
【0005】
しかし、特許文献1、2に記載された装置は、いずれも、旋回中にライダが行う変速操作について考慮したものではない。したがって、旋回中にライダが行う変速操作に応じてエンジン出力が適切に駆動輪に伝達されるようにして走行フィーリングや運転性能の向上を図ることが課題となっている。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に対して、旋回中に行われるライダの変速操作に応じたエンジン出力を適切に駆動輪に伝達することができる車両のクラッチ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明は、車載エンジンから変速機へ伝達される駆動力を断接するクラッチと、該クラッチを切断する油圧アクチュエータを有する車両のクラッチ制御装置において、車体の姿勢を検知するジャイロユニットと、前記ジャイロユニットから出力される車体のロール角に応じて半クラッチ状態での前記クラッチの接続時間を長くするように補正する半クラッチ時間補正手段と、シフトペダルに係る荷重により変速操作が開始されたことを検出するペダル荷重検出手段とを具備し、前記ペダル荷重検出手段によって変速操作が開始されたことを検出した場合に、前記補正された接続時間の間、半クラッチ状態を維持するように構成されている点に第1の特徴がある。
【0008】
また、本発明は、前記ペダル荷重検出手段が、シフトペダルがシフトアップ方向に操作されたことを検出するシフトアップ検出手段であり、シフトアップ操作を検出した時に、半クラッチ状態への移行に先だって点火休止および燃料供給休止をする手段をさらに具備している点に第2の特徴がある。
【0009】
また、本発明は、前記ペダル荷重検出手段が、シフトペダルがシフトダウン方向に操作されたことを検出するシフトダウン検出手段であり、シフトダウン操作を検出した時に、半クラッチ状態への移行に先立ってスロットルバルブを開いてエンジン回転数を上昇させる手段をさらに具備している点に第3の特徴がある。
【0010】
また、本発明は、前記半クラッチ時間補正手段が、前記ロール角に対して、ロール角ゼロ度を中心に正負対称の一次関数として時間補正値を決定するように構成されている点に第4の特徴がある。
【0011】
また、本発明は、クラッチを切断する方向にクラッチに油圧を加える油圧回路を具備し、半クラッチ状態での接続時の該油圧回路の油圧が変速段毎に決定されている点に第5の特徴がある。
【0012】
また、本発明は、スロットルバルブをアクチュエータで駆動させるスロットルバイワイヤ方式でスロットルバルブを開いてエンジン回転数を増大させるように構成されている点に第6の特徴がある。
【0013】
また、本発明は、前記ジャイロユニットが、車両のロール角、ヨー角、およびピッチ角を出力し、前記半クラッチ時間補正手段が、これらロール角、ヨー角、およびピッチ角のうちロール角を使用して半クラッチ接続時間を補正している点に第7の特徴がある。
【0014】
また、本発明は、前記シフトアップ検出手段が、シフトペダルに加えられたシフト荷重が、予定のシフトアップ設定値より大きいか否かで、シフトペダルがシフトアップ方向に操作されたことを検出するように構成されている点に第8の特徴がある。
【0015】
さらに、本発明は、前記シフトダウン検出手段が、シフトペダルに加えられたシフト荷重が、予定のシフトダウン設定値より小さいか否かで、シフトペダルがシフトダウン方向に操作されたことを検出するように構成されている点に第9の特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
第1〜第9の特徴を有する本発明によれば、車両のロール角の大きさに応じて半クラッチ接続時間が長くなるように補正することができる。ロール角は旋回半径や車速によって変化するので、ロール角によって車体の旋回状況を把握して、旋回中に変速操作があった場合に、変速ショックを緩和するために適切な変速時間を確保するため、適切な半クラッチ接続時間を設定することができる。
【0017】
第2の特徴を有する本発明によれば、点火休止と燃料供給休止とによって、旋回中のシフトアップ時の変速ショックを緩和して走行フィーリングを向上させることができる。
【0018】
第3、第6の特徴を有する本発明によれば、スロットルバルブを開いてエンジン回転数を増大させることで、旋回中のシフトダウン時の過度のエンジンブレーキを抑えて走行フィーリング向上させることができる。
【0019】
第4の特徴を有する本発明によれば、右旋回中および左旋回中のいずれにおいても、半クラッチ接続時間を同様に補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る車両のクラッチ制御装置を備えた自動二輪車の変速装置のシステム構成を示すブロック図である。変速機1は、シフトドラムを間欠回転させることで変速ギヤ対を順次的に切り換える常時噛み合い式のシーケンシャル式多段変速機である。変速機1は、エンジンケース(不図示)に回転自在に支承される入力軸としてのメインシャフト2と、出力軸としてのカウンタシャフト4とを備え、両者間で回転駆動力を伝達する第1〜第6速用の変速ギヤ対を備えている。
【0021】
変速機1のメインシャフト2と、動力源であるエンジンのクランクシャフト(不図示)との間には、エンジンの回転駆動力の断接状態を切り換えるクラッチ6が設けられている。エンジンの回転駆動力は、クランクシャフトに固定されているプライマリ駆動ギヤ(不図示)と噛合されるプライマリ従動ギヤ5から、クラッチ6を介してメインシャフト2に伝達される。そして、メインシャフト2に伝達された回転駆動力は、変速機構10によって選択された1つの変速ギヤ対を介して、カウンタシャフト4に伝達される。このカウンタシャフト4の一端部にはドライブスプロケット3が固定されており、該ドライブスプロケット3に巻き掛けられるドライブチェーン(不図示)を介して、駆動輪としての自動二輪車の後輪(不図示)にエンジンの回転駆動力が伝達される。
【0022】
クラッチ6は、プライマリ従動ギヤ5に固定されると共に複数の駆動摩擦板を保持するクラッチアウタと、この駆動摩擦板と接触して摩擦力を生じさせる被動摩擦板を保持するクラッチインナとから構成されている。このクラッチインナは、クラッチばねの弾発力によって図示左方に常時押圧されており、この押圧力によって、駆動摩擦板と被動摩擦板との間にエンジンの回転駆動力を伝達可能な摩擦力が生じている。
【0023】
また、クラッチインナは、メインシャフト2を貫通するプッシュロッド7を摺動させることで軸方向に移動可能とされている。これにより、クラッチ6は、プッシュロッド7が押されていない時は接続状態にあり、一方、プッシュロッド7がクラッチばねの弾発力に抗する力で押圧されて図示右方に摺動すると、クラッチ6は切断方向へ作動される。このとき、プッシュロッド7に加える押圧力を調整することで、接続状態と切断状態との間の半クラッチ状態を得ることができる。
【0024】
プッシュロッド7は、エンジンケースに固定されているクラッチスレーブシリンダ8の油圧ピストン9の端部に当接しており、油路123に所定の油圧が供給されると、プッシュロッド7は油圧ピストン9を図示右方に押圧する。
【0025】
変速機構10は、変速機1と同様にエンジンケースの内部に収納されている。変速機構10は、自動二輪車の車体に揺動可能に取り付けられたシフトペダル(不図示)を乗員が操作し、このシフト操作時に与えられる操作力によってシフトドラム42を回動させて、変速動作を実行するものである。本実施形態において、乗員が左足で操作するシフトペダルは、シフトスピンドル50の一端部に固定されたシフトレバー51に連結される。
【0026】
中空円筒状のシフトドラム42の表面には、第1〜第3シフトフォーク37,38,39の一端側とそれぞれ係合する3本の係合溝が形成されている。また、第1〜第3シフトフォーク37〜39の他端側は、メインシャフト2およびカウンタシャフト4に対して軸方向に摺動可能に取り付けられた3つの摺動可能変速ギヤにそれぞれ係合されている。
【0027】
シフトドラム42が回動されると、第1〜第3シフトフォーク37〜39が各変速段に応じた軸方向の所定位置に摺動して、摺動可能変速ギヤと該摺動可能変速ギヤに隣接する変速ギヤとの間に配設されているドグクラッチの断接状態が切り換えられる。これにより、エンジンの回転駆動力を伝達する変速ギヤ対が選択的に切り換えられて、変速動作が実行される。
【0028】
変速機構10には、シフトドラム42の回転角を検知する回転角検知手段としてのギヤポジションセンサ92、シフトドラム42がニュートラル位置にある時にオン状態となって変速機1のニュートラル状態を検知するニュートラルスイッチ110、シフトスピンドル50の回動量を検知するシフトスピンドル回動量センサ100が設けられている。前記ギヤポジションセンサ92によれば、シフトドラムの回転角(回動量)に基づいて変速機1の変速段を検知することができる。
【0029】
前記クラッチスレーブシリンダ8に油圧を供給する液圧モジュレータ20は、アクチュエータとしてのモータ21によって駆動される。ドライバ116からの駆動信号に基づいてモータ21が駆動されると、回転軸22に係合されたウォームギヤ26が回転する。このウォームギヤ26には、揺動軸27を中心にして回動するウォームホイール28が噛合されており、このウォームホイール28の一端が、揺動軸27を中心に揺動可能な揺動部材23に当接することにより回動し、この揺動部材23の一端部のローラが第1油圧ピストン24に当接している。この構成により、モータ21を所定方向に回転駆動させると、揺動部材23の一端部が第1油圧ピストン24を押圧して、油路123に油圧を発生させる。
【0030】
一方、本実施形態においては、自動二輪車の左側ハンドル(不図示)に取り付けられ、乗員が左手で操作するクラッチマスタシリンダ30が設けられている。クラッチマスタシリンダ30は、乗員がクラッチレバー31を握ることで、油圧ピストン32が押圧されて油路124に油圧を発生するように構成されている。クラッチレバー31は、エンジン回転数を変速させる際にクラッチ6を切断するため使用し、走行中は、シフトレバー51の操作に応答してクラッチ6が所定時間の半クラッチ状態に接続される。
【0031】
油路124は、液圧モジュレータ20に接続されており、油路124に所定の油圧が発生すると、液圧モジュレータ20に内装された第2油圧ピストン25が押圧されるように構成されている。この第2油圧ピストン25の一端部は、前記揺動部材23の他端側のローラに当接するように配設されている。揺動部材23は、ウォームホイール28と別個独立して揺動して第1油圧ピストン24を押圧可能に設けられている。これにより、第2油圧ピストン25が押圧されるとモータ21の作動状態に関わらず第1油圧ピストン24が押圧されることとなり、乗員の操作を優先して油路123に油圧を生じさせることが可能となる。
【0032】
液圧モジュレータ20には、揺動部材23の回動量を検知する揺動部材回動量センサ117と、油路123に発生する油圧を検知する油圧センサ118とが設けられている。また、クラッチマスタシリンダ30には、クラッチレバー31の操作量を検知するクラッチ操作量センサ119が設けられている。
【0033】
制御手段としてのECU120には、変速機構10に設けられているシフトスピンドル回動量センサ100、ギヤポジションセンサ92およびニュートラルスイッチ110、さらに、液圧モジュレータ20に設けられている揺動部材回動量センサ117および油圧センサ118からの信号がそれぞれ入力される。このほか、ECU120には、乗員のスロットル操作に連動するスロットル開度を検知するスロットル開度センサ113、自動二輪車の車速を検知する車速センサ114、エンジンの回転数を検知するエンジン回転数センサ115、およびジャイロユニット(詳細は後述する)121からの信号が入力される。ECU120は、上記各種センサからの信号に基づいて、点火装置111、燃料噴射装置112、ドライバ116、スロットルバルブ122をそれぞれ駆動制御する。
【0034】
スロットルバルブ122は図示しないスロットルレバー(またはグリップ)の回動操作量に応じてECU120内で決定されるスロットル開度に従ってスロットルバルブアクチュエータを駆動させる、いわゆるスロットルバイワイヤ(TBW)方式で駆動される。
【0035】
図3は、ジャイロユニット121の構成を示すブロック図である。ジャイロユニット121は、3軸ジャイロセンサ124と、3軸加速度センサ125と、角度演算部126と、電源回路127とを備える。角度演算部126は、CPUで構成できる。角度演算部126は、3軸ジャイロセンサ124および3軸加速度センサ125の検出出力を入力されて、ロール角、ヨー角およびピッチ角をそれぞれ表す信号を出力する演算回路を有している。このような構成のジャイロユニット121としては周知のものを使用することができるので詳細な説明は省略する。
【0036】
ジャイロユニット121の検出出力は、車内LAN(例えば、1MbpsのCANバス)11に接続され、ECU120はCAN通信により車内LAN11を経由してジャイロユニット121で検出されたロール角、ヨー角、およびピッチ角を受信する。
【0037】
図1は、ECU120の要部機能を示すブロック図である。図1において、変速方向検出部12は、シフトスピンドル回動量センサ100およびギヤポジションセンサ92の出力によって、シフトレバー51に加わるシフト荷重を検出し、このシフト荷重が設定値より大きいか否かによってシフトアップ操作が行われたかシフトダウン操作が行われたかを検出する。変速方向がシフトアップ方向であればシフトアップ信号を、変速方向がシフトダウン方向であればシフトダウン信号をそれぞれ出力する。
【0038】
トルク低下部13はシフトアップ信号が入力されると、燃料カット指令と点火カット指令とを出力する。燃料カット指令と点火カット指令は、変速段毎に予め設定された失火サイクル数で出力される。燃料噴射装置112は燃料カット指令に応答して燃料噴射を休止(燃料カット)し、点火装置111は、点火カット指令に応答して点火を休止(点火カット)する。点火カットおよび燃料噴射カットによってエンジンの出力が低下し、変速ショックを緩和することができる。
【0039】
エンジン回転数増大部14は、シフトダウン信号が入力されると、スロットル開指令を出力する。スロットル開指令は所定時間出力され、スロットルバルブ122はスロットル開指令に応答して、予め設定した開度に所定時間開かれる。スロットルバルブ22を開くことによってエンジン回転数が増大し、シフトダウンによる過度なエンジンブレーキを抑えて、減速ショックを緩和することができる。
【0040】
半クラッチ時間算出部15は、シフトアップ信号またはシフトダウン信号に応答して、自動二輪車のロール角に応じた適切な半クラッチ接続時間を算出する。ロール角は前記ジャイロユニット121の出力から算出されるものである。半クラッチ時間テーブル16は、ロール角に応じた半クラッチ接続時間補正値を設定した記憶手段である。半クラッチ時間算出部15は、基準油圧オン時間に半クラッチ接続時間補正値を加算して半クラッチ時間を算出する。半クラッチ時間算出部15と半クラッチ接続時間テーブル16は半クラッチ時間補正手段を構成する。
【0041】
クラッチ油圧決定部17は、ギヤポジションセンサ92の出力によって、変速段毎のクラッチ油圧を決定する。ドライバ116は、半クラッチ時間算出部15で算出された半クラッチ接続時間の間、クラッチ油圧決定部17で決定された油圧を油路123にかけるため、油路123にかかっている油圧を監視しながら、モータ21を駆動する。油路123にかかっている油圧は油圧センサ118で検出されたものである。
【0042】
なお、半クラッチ時間算出部15は、変速方向検出部12でシフトペダルがシフトアップ側およびシフトダウン側のいずれに操作されたかを判断して、クラッチ時間を算出するようにしたが、本発明は、これに限らない。変速方向検出部12に代えて、単に、変速操作が開始されたことを検出する変速操作開始検出手段を設け、この変速操作開始検出手段で変速操作が開始されたと判断したときにロール角を読み込み、ロール角に対応して半クラッチ接続時間を補正するものであればよい。したがって、その場合は、シフトアップ側およびシフトダウン側のいずれに変速されたかによって、トルク低下やエンジン回転数増大のために行う処理は行わない。
図4は、クラッチ切断時間テーブルの一例を示す図である。図4において、横軸はロール角であり、ロール角零度を中心に正負の値を設定している。縦軸は半クラッチ接続時間補正値を示し、ロール角が正負方向のいずれに大きくなった場合も、ロール角に応じて半クラッチ接続時間補正値は大きい値をとる。なお、ロール角に応じたクラッチ切断時間補正値の変化度合は直線的である。
【0043】
図5は、半クラッチ処理のフローチャートである。この半クラッチ処理は、クラッチ操作量センサ119の出力によってクラッチレバー操作が行われたと判断した場合に実行される。
【0044】
図5において、ステップS1では、シフト荷重がシフトアップ設定値より大きいか否かを判断する。この判断が肯定の場合、シフトアップ操作開始と判断されてステップS2に進む。ステップS2では、点火および燃料供給を休止してエンジン出力を低下させる。ステップS3では、半クラッチ接続時間CLtimeを計算する。半クラッチ接続時間CLtimeはロール角の関数である半クラッチ接続時間補正値に基準油圧オン時間T0を加算して求める。ステップS4では、変速段毎のクラッチ油圧PCLを決定する。ステップS5では、半クラッチ接続時間CLtimeの間クラッチ油圧を半クラッチ油圧PCLにする制御を行う。
【0045】
シフト荷重が設定値より大きくない場合は、ステップS1が否定となり、ステップS6に進む。ステップS6では、シフト荷重がシフトダウン設定値より小さいか否かが判断される。ステップS6が肯定の場合、つまりシフトダウン操作開始と判断された場合は、ステップS7に進んで変速段毎に予め設定されているスロットル開度までスロットルバルブ122を開いてエンジン回転数を増大させる。ステップS7の後は、ステップS3に進む。なお、シフトアップ設定値は、シフトダウン設定値より大きい値である。
【0046】
図6は、シフトアップ時のクラッチ切断処理のタイミングチャートである。図6において、タイミングt1でシフト荷重がシフトアップ設定値を超えたときに点火休止および燃料供給休止の指令がオン(カットON)になり、このオン指令はタイミングt2まで維持される。タイミングt1とt2との間のタイミングt3でシフトドラム回転信号がシフトアップ方向へ変化し、タイミングt4でシフトアップ位置に至る。ここで、ギヤポジションセンサ92によりシフトアップされた変速段が判断される。タイミングt3とt4との間のタイミングt5でクラッチが切断開始され、半クラッチ接続時間CLtimeの間クラッチ油圧が半クラッチ油圧PCLに維持されてクラッチが半クラッチ状態で接続される。タイミングt6でクラッチ切断時間CLtimeが終了して、クラッチが接続される。
【0047】
図7は、シフトダウン時のクラッチ切断処理のタイミングチャートである。図7において、タイミングt10でシフト荷重がシフトダウン設定値より小さくなったときにスロットルバルブ122を開いてエンジン回転数を増大させる。エンジン回転数を増大開始させた後、タイミングt11でシフトドラム回転信号がシフトダウン方向へ変化し、タイミングt12でシフトダウン位置に至る。ここで、ギヤポジションセンサ92によりシフトダウンされた変速段が判断される。タイミングt11とt12との間のタイミングt13でクラッチが切断開始され、半クラッチ接続時間CLtimeの間クラッチ油圧が半クラッチ油圧PCLに維持される。タイミングt14で半クラッチ接続時間CLtimeが終了して、クラッチが接続される。
【0048】
上述のように、本実施形態では、ジャイロユニット121で検出された自動二輪車のロール角に応じて半クラッチ接続時間を決定し、旋回中(自動二輪車が左右いずれかに傾いている「バンクしている」)に変速操作が行われた場合、長めの半クラッチ状態を生じさせて変速ショックやエンジンブレーキを緩和するようにしてスムーズな変速が可能になるようにした。
【0049】
本発明は、本実施形態に限らず、変形可能である。変速機1は、乗員がクラッチレバー31を握ることで、油圧ピストン32が押圧されてクラッチマスタシリンダ30が油路124に油圧を発生するように構成した。これは、モータ21の作動状態に関わらず乗員の操作を優先して油路123に油圧を生じさせることができるようにした構成である。したがって、この構成に代えて、液圧モジュレータ20は、クラッチ操作量センサ119の検出出力に応じてECU120がドライバ116を制御し、油路123に油圧をかける構成とする簡単な構成としてもよい。
【0050】
要するに、シフトアップとシフトダウン操作をライダが行い、このシフトアップおよびシフトダウン操作に応答してクラッチを油圧制御するものにおいて、ロール角(つまりバンク角)が発生したときに、正負のロール角に応じて半クラッチ接続時間に補正値を加えて、半クラッチ状態を長くするように構成してあればよい。
【0051】
また、クラッチに油圧を作用させるアクチュエータとしてモータ21を設けたが、アクチュエータはモータに限らず、電磁アクチュエータつまりソレノイド装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係るクラッチ制御装置の要部機能を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両のクラッチ制御装置を備えた自動二輪車の変速装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】ジャイロユニットの構成を示すブロック図である。
【図4】クラッチ切断時間テーブルの一例を示す図である。
【図5】クラッチ切断処理のフローチャートである。
【図6】シフトアップ時のクラッチ切断処理のタイミングチャートである。
【図7】シフトダウン時のクラッチ切断処理のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1…変速機、 8…クラッチスレーブシリンダ、 12…変速方向検出部、 13…トルク低下部、 14…エンジン回転数増大部、 15…半クラッチ時間算出部、 16…半クラッチ接続時間テーブル、 17…クラッチ油圧決定部、 20…液圧モジュレータ、 21…アクチュエータ(モータ)、 31…クラッチレバー、 120…ECU、 121…ジャイロユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載エンジンから変速機へ伝達される駆動力を断接するクラッチと、該クラッチを切断する油圧アクチュエータを有する車両のクラッチ制御装置において、
車体の姿勢を検知するジャイロユニットと、
前記ジャイロユニットから出力される車体のロール角に応じて半クラッチ状態での前記クラッチの接続時間を長くするように補正する半クラッチ時間補正手段と、
シフトペダルに係る荷重により変速操作が開始されたことを検出するペダル荷重検出手段とを具備し、
前記ペダル荷重検出手段によって変速操作が開始されたことを検出した場合に、前記補正された接続時間の間、半クラッチ状態を維持するように構成されていることを特徴とする車両のクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記ペダル荷重検出手段が、シフトペダルがシフトアップ方向に操作されたことを検出するシフトアップ検出手段であり、
シフトアップ操作を検出した時に、半クラッチ状態への移行に先だって点火休止および燃料供給休止をする手段をさらに具備していることを特徴とする請求項1記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記ペダル荷重検出手段が、シフトペダルがシフトダウン方向に操作されたことを検出するシフトダウン検出手段であり、
シフトダウン操作を検出した時に、半クラッチ状態への移行に先立ってスロットルバルブを開いてエンジン回転数を上昇させる手段をさらに具備していることを特徴とする請求項1記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記半クラッチ時間補正手段が、前記ロール角に対して、ロール角ゼロ度を中心に正負対称の一次関数として時間補正値を決定するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項5】
前記クラッチを切断する方向にクラッチに油圧を加える油圧回路を具備し、
半クラッチ状態での接続時の該油圧回路の油圧が変速段毎に決定されていることを特徴とする請求項1〜4記載のいずれかに記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項6】
前記エンジン回転数を上昇させるための手段が、スロットル回動操作量に応じてスロットルバルブをアクチュエータで駆動させるスロットルバイワイヤ方式でスロットルバルブを開くように構成されていることを特徴とする請求項3記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項7】
前記ジャイロユニットが、車両のロール角、ヨー角、およびピッチ角を出力し、前記半クラッチ時間補正手段が、これらロール角、ヨー角、およびピッチ角のうちロール角を使用して半クラッチ接続時間を補正していることを特徴とする請求項1記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項8】
前記シフトアップ検出手段が、シフトペダルに加えられたシフト荷重が、予定のシフトアップ設定値より大きいか否かで、シフトペダルがシフトアップ方向に操作されたことを検出するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の車両のクラッチ制御装置。
【請求項9】
前記シフトダウン検出手段が、シフトペダルに加えられたシフト荷重が、予定のシフトダウン設定値より小さいか否かで、シフトペダルがシフトダウン方向に操作されたことを検出するように構成されていることを特徴とする請求項3記載の車両のクラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−84861(P2010−84861A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255269(P2008−255269)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】