説明

車両の制御装置

【課題】時系列で設定した目標加速度に対する追従制御を行う際に、ロックアップクラッチ13の作動時とロックアップクラッチ13の作動不可時との間の挙動差を抑制乃至無くす。
【解決手段】車両の制御装置CRは、アクセル踏み込み操作時に目標加速度を時系列で設定する目標加速度設定部23と、実加速度が目標加速度に追従するようにエンジン出力を制御するエンジン出力制御部21と、変速制御部22と、ロックアップクラッチ13を作動不可状態を検出する作動不可検出部27とを備える。ロックアップクラッチ13の作動が不可能なときのアクセル踏み込み操作時には、目標加速度設定部23は、予め設定されている、ロックアップクラッチの作動状態での時系列の規範加速度を目標加速度にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、車両の制御に関し、特にエンジン及び変速機を含むパワートレインの制御を通じて、車両の発進時又は加速時において気持ちのよい加速感を演出し得る制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクセルペダルの踏み込み量に応じた目標加速度を設定して、実際の車両の加速度が目標加速度になるように、エンジン及び変速機を含むパワートレインを制御することで、加速時の加速感を向上するものが知られている。
【0003】
ここで例えば特許文献1には、車両の加速感は、「加速の立ち上がりの応答性」と、「加速度のピーク値の大きさ」と、「加速の立ち下がりの持続性」の三点で、気持ちよさが変化するとの観点から、アクセル操作に対して独立に出力が制御可能なエンジンと、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータを介してエンジンに駆動連結された自動変速機とを含むパワートレインの制御装置において、目標加速度を時系列で設定し、この時系列の目標加速度に追従するようにスロットル開度を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−264304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、主に燃費改善の観点から、車両の発進時を含む低車速からロックアップクラッチを作動させる(ここでは、締結状態及びスリップ状態を含んでロックアップクラッチの作動状態といい、ロックアップクラッチの非締結の状態を、非作動状態という場合がある)ことが考えられ、前述したような特許文献1に記載された技術においても、ロックアップクラッチを作動させることを前提に目標加速度を時系列で設定して、発進又は加速時には、ロックアップクラッチの作動制御を行いながら、時系列の目標加速度に基づくエンジン出力制御をすることが考えられる。
【0006】
一方で、例えば冷間時は、クラッチの作動油の粘度が高くクラッチの開放を瞬時に行い得ないことから、ロックアップクラッチを作動させることが不可能であり、この場合にアクセルの踏み込み操作が行われたときには、エンジンと自動変速機とをトルクコンバータを介して駆動連結した状態で、前述した時系列の目標加速度に基づく追従制御を行うことになる。しかしながらこの場合は、トルクコンバータの滑りに起因して、前記のロックアップクラッチを作動させて追従制御を行うときとは、車両の挙動(ここでいう車両の挙動には、例えば加速度の変化特性やエンジン回転数の変化特性等を含み得る)が相違することになる。こうした挙動差は、ドライバに違和感を与える。尚、ロックアップクラッチを作動させることが不可能な時には、前記の冷間時に限らず、例えばロックアップクラッチのフェイル時も含まれ得る。
【0007】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、時系列で設定した目標加速度に対する追従制御を行う際に、ロックアップクラッチの作動時とロックアップクラッチの作動不可時との間の、車両の挙動差を抑制乃至無くすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示する技術は、ロックアップクラッチ作動状態の時系列の目標加速度を、規範として予め設定しておき、ロックアップクラッチの作動不可時には、その規範加速度に追従するようにエンジン出力の制御を行うことで、ロックアップクラッチ作動時と、ロックアップクラッチ作動不可時との挙動差を抑制乃至無くすようにした。
【0009】
具体的に、ここに開示する車両の制御装置は、アクセル操作に対し独立にエンジン出力を制御可能なエンジンと、ロックアップクラッチ付きの、流体を介した動力伝達機構を含みかつ、当該動力伝達機構を介して前記エンジンに駆動連結された自動変速機と、発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時に、目標加速度を時系列で設定する目標加速度設定手段と、前記ロックアップクラッチを作動させた状態で、実加速度が前記設定された時系列の目標加速度に追従するように前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御手段と、前記自動変速機を制御する変速制御手段と、を備え、前記目標加速度設定手段は、加速開始から加速終了まで前記ロックアップクラッチを作動させることを前提に、前記時系列の目標加速度を設定しており、前記ロックアップクラッチを作動させることができない状態を検出する作動不可検出手段をさらに備え、前記ロックアップクラッチの作動が不可能なときのアクセル踏み込み操作時には、前記目標加速度設定手段は、前記目標加速度の設定に代えて、予め設定されている、前記ロックアップクラッチの作動状態での時系列の規範加速度を目標加速度として設定すると共に、前記エンジン出力制御手段は、前記時系列の規範加速度に追従するように、前記エンジンの出力を制御する。
【0010】
ここで、「自動変速機」は、例えば歯車変速機構からなる多段変速機、及び、例えばベルト変速機構からなる無段変速機の双方を含み得る。また、「流体を介した動力伝達機構」には、トルクコンバータやフルードカップリング等が含まれ得る。
【0011】
前記の構成によると、発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時には、目標加速度を時系列で設定し、実加速度が設定された時系列の目標加速度に追従するようにエンジンの出力が制御される。目標加速度を時系列で設定することは、所望の加速度波形を演出し得るため、車両の加速感を高める上で有利になる。
【0012】
設定される時系列の目標加速度は、加速開始から加速終了までロックアップクラッチを作動させることを前提に設定されていると共に、ロックアップクラッチを作動させた状態で目標加速度に追従するようにエンジンの出力が制御される。このことは、燃費改善に大きく寄与する。
【0013】
一方で、ロックアップクラッチを作動させることができないときのアクセル踏み込み操作時には、ロックアップクラッチを非作動で、つまりエンジン及び自動変速機を、滑りを有する動力伝達機構を介して駆動連結した状態で、時系列の目標加速度に基づく追従制御を行わなければならないが、このときに設定される目標加速度は、予め設定されている、ロックアップクラッチの作動状態での時系列の規範加速度であり、当該規範加速度に基づく追従制御を実行することによって、ロックアップクラッチが非作動であっても、車両の挙動はロックアップクラッチの作動時と同じ乃至ほぼ同じになり得る。その結果、ドライバの違和感が軽減乃至無くなる。
【0014】
前記変速制御手段は、前記ロックアップクラッチの作動不可状態でのアクセル踏み込み操作時には、前記加速開始時に前記自動変速機のシフトダウンを実行する、としてもよい。
【0015】
自動変速機のシフトダウンに伴い、動力伝達機構の容量が拡大することにより、動力伝達機構の滑りが減るため、特に加速初期におけるエンジン回転数の吹き上がりが抑制されてエンジン回転数をリニアに高め得る。これにより、ロックアップクラッチの作動不可時であっても、ロックアップクラッチの作動時の車両の挙動に近くなり、前記の挙動差を抑制乃至無くす上で有利である。
【0016】
前記制御装置は、前記ロックアップクラッチの作動が可能なときのアクセル踏み込み操作時における、実加速度の履歴を獲得する加速度履歴獲得手段と、予め設定された学習条件が成立したときに、前記加速度履歴に基づいて前記規範加速度を学習補正する補正手段と、をさらに備えている、としてもよい。
【0017】
ここで「学習条件」は、規範加速度を学習補正することに適した条件であり、時系列の目標加速度に対し、安定した追従制御が実行され得る条件が含まれる。学習条件には例えば車両の走行状態、より具体的には車両が平坦路を走行しているという条件を挙げることができる。また、別の条件として、アクセルの踏み込み量が所定量以上であるという条件を挙げることができる。そうした、1つの条件、又は、複数の条件の全て、若しくは複数の条件の内の幾つかが満たされたときに、学習条件が成立したと判定してもよい。
【0018】
前記の構成によると、予め設定された規範加速度を、当該車両の実際の加速履歴に基づいて学習補正をすることによって、車両個体差を低減乃至無くす上で有利になる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、前記の制御装置によると、発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時に、設定した時系列の目標加速度に実加速度が追従するようにエンジンの出力を制御することで、所望の加速度波形を演出して、車両の加速感を高め得る。また、ロックアップクラッチを作動させた状態で目標加速度の追従制御を行うことで燃費改善の点で有利になる一方で、ロックアップクラッチの作動不可時には、予め設定した規範加速度に基づく追従制御を実行することにより、ロックアップクラッチの作動時と作動不可時との挙動差を抑制乃至無くすことができ、ドライバの違和感を軽減乃至無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】車両のパワートレイン及び制御装置の全体ブロック図である。
【図2】コントローラの機能ブロック図である。
【図3】制御装置が実行するパワートレインの制御に係るフローチャートである。
【図4】ロックアップクラッチ作動時の目標加速度(第1目標加速度)の例と、ロックアップクラッチ非作動時の目標加速度(第2目標加速度)の例とを示す図である。
【図5】予め設定されて記憶されている規範加速度の例と、その補正方法を説明する図である。
【図6】ロックアップクラッチ作動不可時の、アクセル開度、規範加速度、変速段、エンジン回転数及びトルクコンバータの滑り率の変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、車両の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1は車両のパワートレイン及び制御装置の全体ブロック図である。図1においては、パワートレインPTにおける駆動力の伝達経路を示しており、このパワートレインPTは、駆動力を発生するエンジン11と、このエンジン11に対し、駆動力伝達経路の下流側に設置したトルクコンバータ(流体を介した動力伝達機構)12と、このトルクコンバータ12に、駆動力伝達経路の上では並列に配置されるロックアップクラッチ13と、トルクコンバータ12及びロックアップクラッチ13からの出力を受けて変速を行う歯車変速機構(例えば前進6速の多段自動変速機)14と、この歯車変速機構14からの出力を受けて左右に駆動力を配分する差動装置15と、差動装置15からの駆動力を受ける左右の駆動輪16,16とを備えている。
【0022】
車両の制御装置CRは、エンジン11の出力やロックアップクラッチ13の断接、さらには歯車変速機構14の変速状態を制御する装置である。車両の制御装置CRは、ドライバのアクセルペダル(図示せず)の踏み込み状態や踏み込み量、踏み込み速度等を検出するアクセルセンサ31と、車両の前後G、具体的には車両の実加速度を検出する車両Gセンサ32と、これら各センサ31,32からのセンサ信号を取り入れて演算処理するコントローラ2とを備えている。
【0023】
コントローラ2は、例えば通常のマイクロコンピュータであり、図示は省略するが、少なくともCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース回路、及びデータバスを備えて構成される。コントローラ2は、エンジン11、ロックアップクラッチ13、歯車変速機構14等に対して制御信号を出力するものであり、図2に示すように、その機能ブロックとして、エンジン出力制御部(エンジン出力制御手段)21、変速制御部(変速制御手段)22、目標加速度設定部(目標加速度設定手段)23、補正部(補正手段)24、加速度履歴獲得部(加速度履歴獲得手段)25、走行状態検出部(走行状態検出手段)26、及び、ロックアップクラッチ13の作動不可検出部(作動不可検出手段)27を少なくとも備えている。
【0024】
このコントローラ2は、アクセルペダルの踏み込み量等を検出することで、ドライバの加速要求を判別して、このドライバの加速要求を満足するように、エンジン11や歯車変速機構14等を制御する。具体的にエンジン出力制御部21は、図示しないエレキスロットルのスロットル開度、点火プラグの点火タイミング、燃料噴射弁の燃料噴射量等を変化させることで、エンジン11の出力を制御するようにしている。より詳細には、アクセルペダルの踏み込み量と実加速度とを検出することで、車両の目標加速度を算出して、この車両の目標加速度に車両の実加速度が追従するように、いわゆるフィードバック制御で、エンジン11の出力を制御するようにしている。尚、フィードバック制御の制御方法は、一般的なPI制御で行う。もっとも、PID制御等で行ってもよい。また、コントローラ2は、予め設定されかつ、このコントローラ2に記憶されている変速マップに従って、車速及びスロットル開度に基づいて、歯車変速機構14の変速制御を実行すると共に、ロックアップクラッチ13の作動制御(スリップ制御)を行う。ここで、この車両では、燃費改善の観点から、車両の発進時を含めてロックアップクラッチを作動(スリップ状態を含む)させるような、ロックアップクラッチ13の常時作動を基本としている。
【0025】
図3は、前記制御装置CRが実行する、パワートレインPTの制御フローチャートであり、以下、図2に示すコントローラ2の機能ブロックと、図3に示すフローチャートとを参照しながら、制御装置CRによるパワートレインPTの制御について説明する。先ず、ステップS31では、コントローラ2が各種信号を読み込む。アクセルセンサ31や車両Gセンサ32からドライバの加速要求や車両の運転状態を読み込む。尚、その他、図示しない車速センサやシフトセンサや舵角センサやクランク角センサ等から、車両の運転状態の各種信号を検出するようにしてもよい。さらに、詳細は後述するが車両の走行状態の検出に必要な各種の信号の読み込みも行われる(走行状態検出部26)。
【0026】
次に、ステップS32ではアクセル踏み込みか否かを判定する。具体的には、ドライバが所定値以上にアクセルペダルを踏み込んでいるかを判定する。この時、アクセルペダルの開度は、中開度(パーシャル開度)でほぼ一定の状態であることが求められる(図6最上図のアクセル開度の変化も参照)。これは、アクセルペダルの全開時やアクセルペダルの開度変動時では、時系列の目標加速度に基づく加速制御を安定的に行うことができないからである。ステップS32で、アクセルペダルの踏み込みを検出しなかった場合(NOの場合)には、そのままリターンに移行して、次の制御に備える。一方、ステップS32でアクセルペダルの踏み込みを検出した場合(YESの場合)には、ステップS33に移行する。
【0027】
ステップS33では、ロックアップクラッチ13を作動させた状態での加速(又は発進)を行うか、ロックアップクラッチ13を作動させずに、トルクコンバータ12を介した状態で加速(又は発進)を行うか、を決定する。具体的に、特に高い駆動力が必要とされる場合、例えば登坂路での発進時等においては、ロックアップクラッチ13を作動させずにトルクコンバータ12を介した状態で発進することが選択される(トルコン加速ともいう)。尚、登坂路の検出は、例えば路面勾配の情報を含んだ地図情報と自車両の走行位置を検出するGPS(Global Positioning System)との組み合わせによって検出が可能である。一方、そのような特に高い駆動力が必要とされる場合以外、換言すれば特殊な状況を除いた通常の場合は、ロックアップクラッチ13を作動させた状態での加速又は発進が選択される(L/U加速ともいう)。これは、前述したように、主に燃費改善を図るためである。尚、ここでいうロックアップクラッチ13の作動には、ロックアップクラッチ13の締結状態は勿論のこと、スリップ状態も含まれ得る。また、ロックアップクラッチ13を作動させた状態での加速には、加速の開始から加速終了までの全領域においてロックアップクラッチ13を作動させることの他にも、加速の開始時には非締結で、その後、加速終了までの間にロックアップクラッチ13を作動させることも含まれ得る。コントローラ2は、前記ステップS31で読み込んだ信号に基づいて、いずれの加速を実行するかを決定する。ステップS33でロックアップクラッチ13を作動させた状態での加速を選択したときには(L/U加速の場合)、フローは、ステップS34に移行する一方、トルクコンバータ12を介した状態での加速を選択したときには(トルコン加速の場合)、フローはステップS315に移行する。
【0028】
ステップS34では、ロックアップクラッチ13を作動させることが可能か否かを判定する(作動不可検出部27)。具体的にコントローラ2は、例えばロックアップクラッチ13の作動油の温度に関連するパラメータを検出し、当該油温が所定温度以下のとき、つまり、冷間時にはロックアップクラッチ13を作動させることが不可能と判定する。また、ロックアップクラッチ13のフェイル時も当然に、ロックアップクラッチ13を作動させることが不可能と判定される。ステップS34で、ロックアップクラッチ13を作動させることが可能なとき(YESのとき)にはステップS35に移行し、ロックアップクラッチ13を作動させることが不可能なとき(NOのとき)にはステップS311に移行する。
【0029】
ステップS35では、第1目標加速度を時系列で設定する(目標加速度設定部23)。ここで、第1目標加速度は、加速開始から加速終了までロックアップクラッチ13を作動させることを前提に設定される目標加速度である。目標加速度設定部23は、図示は省略するが、予め設定されてコントローラ2に記憶されているマップに基づいて、時系列の第1目標加速度を算出する。このマップでは、例えばアクセルの踏み込み量(アクセル開度)によって、加速度のピーク値の大きさと、加速後半の加速度の立ち下がり勾配が一定比率で変化するような目標加速度の時系列データ(時々刻々変化する複数の値)とを設定している。こうして、図4に実線で例示するように、加速度のピーク値に向かって加速度が立ち上がる(加速前半)と共に、そのピーク値以降は、直線状に緩やかな下り勾配となった(加速後半)、第1目標加速度の時系列データが設定される。
【0030】
続くステップS36では、ステップS35で設定した第1目標加速度の時系列データに基づいて、エンジン出力をフィードバック制御する。具体的には、車両の実加速度が目標加速度となるように、スロットル開度や点火タイミング等を変化させてエンジン出力を制御する(エンジン出力制御部21)。この場合において特に加速後半においては、多くの場合は、エンジン出力を増加方向に制御することになる。なぜなら、一般的なエンジンは、スロットル開度量が一定であると、エンジン回転数が高回転側に移行したときにエンジントルクが低下するため、エンジン回転数が高回転側に移行する加速後半では、車両の実加速度が低下する。このため、高めに設定した目標加速度よりも実加速度の方が低下し、こうした加速後半の車両の実加速度の低下を補うため、前記の制御装置CRでは、目標加速度に実加速度が追従するように、エンジン出力をフィードバック制御で制御しているのである。また、この追従制御中には、ロックアップクラッチ13のスリップ制御も実行される(変速制御部22)。
【0031】
これに対し、前記ステップS34でロックアップクラッチ13が作動不可であると判定されて移行したステップS311では、前述したステップS35の第1目標加速度の時系列データを設定する代わりに、予め設定されてコントローラ2に記憶されている、規範加速度の時系列データを読み込んで、これを目標加速度に設定する。ここで、規範加速度の時系列データは、当該車両がロックアップクラッチ13を作動させている状態において規範となるべき加速度波形を表す時系列データであり、例えば予め行われた実験等を通じて設定されるものである。この規範加速度は、例えば図5に示すように、アクセル開度毎(図例では、100%、75%、50%、及び、25%)に設定されて、コントローラ2に記憶されており、目標加速度設定部23は、アクセル開度に対応する規範加速度の時系列データを選択して、これを目標加速度に設定することになる。これによって、ロックアップクラッチ13が作動不可であるときにも、ロックアップクラッチ13を作動可能な時と同等の目標加速度が設定されることになる。
【0032】
こうして目標加速度を設定した後のステップS312では、歯車変速機構14の、現在の変速段がGearpが1速であるか否か、換言すれば、シフトダウンが可能か否かを判定し、Gearpが1速でないとき(NOのとき)には、ステップS313に移行してシフトダウンを実行(Gearp→Gearp−1)した後に、ステップS314に移行する一方、Gearpが1速であるとき(YESのとき)には、ステップS313に移行せずにステップS314に移行する。ステップS314では、前記ステップS36と同様に、ステップS311で設定した目標加速度(規範加速度)の時系列データに基づいて、エンジン出力をフィードバック制御する。
【0033】
ここで図6を参照しながら、前記フローの、主にステップS311〜S314に係る制御、換言すればロックアップクラッチ13の作動不可時の目標加速度に基づく追従制御について説明する。図6は、アクセル開度(最上図)、規範加速度(上から2番目の図)、変速段(上から3番目の図)、エンジン回転数(上から4番目の図)及びトルクコンバータの滑り率(上から5番目の図)の変化の例を示している。
【0034】
前述したように、アクセルペダルの踏み込み操作が行われることに伴い、ロックアップクラッチ13の作動不可時には、予め設定されている規範加速度の時系列データが目標加速度として設定される。またロックアップクラッチ13の作動不可時には、その加速開始時に、可能な場合は歯車変速機構14のシフトダウンが実行される。このシフトダウンは、図6の最下図に示すように、トルクコンバータ12の滑り率を低下させ、そのことにより、図6の上から4番目の図において一点鎖線で示すように、エンジン回転数が、加速初期に吹き上がってしまうことを抑制して、エンジン回転数をリニアに上昇させることを可能にする。すなわち、ステップS311〜S314に係る、ロックアップクラッチ13の作動不可時の追従制御では、トルクコンバータ12を介してエンジン11及び歯車変速機構14を駆動連結した状態で、ロックアップクラッチ13の作動状態を擬似的に実現することを意図している。そのため、ロックアップクラッチ13の作動状態のときと同様にエンジン回転数がリニアに上昇することは、ロックアップクラッチ13の作動状態を擬似的に実現する上で有利になる。
【0035】
一方、前記ロックアップクラッチ13の作動時の加速であるステップS36の後のステップS37〜S310は、前記予め設定されている規範加速度の学習補正に係るステップである。つまり、ここでの学習補正は、ステップS36で第1目標加速度に基づく追従制御を実際に行っている最中の実加速度の履歴に応じて、前記規範加速度を学習補正するものであり、こうした学習補正は車両の個体差を抑制乃至無くす上で有効である(補正部24)。具体的には、ステップS37で、所定の学習条件が成立したか否かを判定する。ここでの学習条件には、時系列の目標加速度に対し、安定した追従制御が実行され得る条件が含まれる。学習条件はここでは、例えば車両が平坦路を走行しているという条件と、アクセルの踏み込み量が所定量以上であるという条件とが含まれる。また、学習補正の頻度を低下させる、換言すれば、余りに頻繁に学習補正を行わないために、例えば、前述した学習条件の成立が、所定回数以上になったことや、前回の学習補正の実行から所定期間が経過したこと等を、学習条件に含めてもよい。
【0036】
続くステップS38では、前記第1目標加速度に基づく追従制御を実行している最中の加速度の検出値を獲得し、ステップS39では、この加速度の検出値を蓄積する。この加速度の検出値を蓄積することで、実際に車両に生じた実加速度の履歴を持つことができる(加速度履歴獲得部25)。
【0037】
そうしてステップS310では、前記の実加速度の履歴に基づいて、記憶されている規範加速度を補正する。例えば図5に一点鎖線で示すように、実加速度の履歴と規範加速度との偏差に応じて補正量を決定し、その補正量分だけ一定割合で、規範加速度の時系列データの全体を変化させるようにしてもよい。また、所定のアクセル開度での補正量が決定されれば、それを他のアクセル開度における規範加速度の補正に利用してもよい。つまり、ある1つのアクセル開度での補正量を決定すれば、それを用いて全てのアクセル開度の規範加速度を同様に補正してもよい。尚、各アクセル開度での補正量を、個別に決定してもよい。
【0038】
図3のフローに戻り、ステップS33でトルクコンバータ12を介した状態での加速が選択されて移行したステップS315では、第2目標加速度の時系列データが設定される。この第2目標加速度は、前述したように、ロックアップクラッチ13を作動させずに、トルクコンバータ12を介してエンジン11と歯車変速機構14とが駆動連結されることを前提に設定される目標加速度である。目標加速度設定部23は、図示は省略するが、予め設定されてコントローラ2に記憶されているマップに基づいて、時系列の第2目標加速度を算出する。このマップでは、例えばアクセルの踏み込み量(アクセル開度)によって、加速前半の加速度の立ち上がりと、加速度のピーク値の大きさと、加速後半の加速度の立ち下がりと、を含む目標加速度の時系列データとを設定している。ここで、図4に示すように、第1目標加速度(実線参照)と、第2目標加速度(一点鎖線参照)とは、その特性が異なり、第2目標加速度はトルクコンバータ12を介しているため、加速のピーク値が、第1目標加速度よりも高くなり得る。このことは、前述したように登坂路の発進時といった、特に高い駆動力が必要とされる場合において有利になる。
【0039】
そうして、続くステップS316では、ステップS315で設定した第2目標加速度の時系列データに基づいて、エンジン出力をフィードバック制御する。この場合は、前記ステップS36の場合、つまり、ロックアップクラッチ13を作動させる加速時とは、車両の挙動が相違し得ることになる。
【0040】
こうして、アクセルの踏み込み操作時には、設定した時系列の目標加速度の終了時点まで、例えば加速度が0になるまで、目標加速度の追従制御が実行されることになる。これにより、ドライバに気持ちのいい加速感を与えることが実現する。前記の構成では、この追従制御に際し、基本的には、ロックアップクラッチ13を作動させた状態での発進又は加速を行うことにより、大幅な燃費改善を果たす一方で、ロックアップクラッチ13の作動不可時には、ロックアップクラッチ13の作動時の状態に対応する規範加速度を目標加速度として設定することにより、ロックアップクラッチ13の作動不可時であっても、ロックアップクラッチ13の作動時と同様の車両挙動が得られる。その結果、ロックアップクラッチ13の作動時と作動不可時との挙動差を抑制乃至無くすことができ、ドライバの違和感を軽減乃至無くすことができる。
【0041】
また、ロックアップクラッチ13の作動不可時には、その加速開始時に歯車変速機構14のシフトダウンを実行することにより、前述したように、トルクコンバータ12の滑り率の低減に伴い、エンジン回転数をリニアに上昇させることが可能になる。このことは、ロックアップクラッチ13の作動状態を擬似的に実現する上で有利になり、ドライバの違和感のより一層の軽減が図られる。
【0042】
また、前記の規範加速度は、当該車両の実加速度の履歴に応じて適宜、学習補正されることで、アクセル踏み込み操作時における車両挙動の個体差を、縮小乃至無くすことができる。
【0043】
尚、前記のパワートレインPTにおいて、歯車式の多段変速機構14に代えて、例えばベルト式等の無段変速機構を採用してもよい。またエンジン11の出力制御も、エレキスロットルのスロットル開度制御に限定されず、種々の制御を採用し得る。例えば吸気タイミングや排気タイミングを位相可変装置によって変更したり、吸気の過給量を過給機によって変更したりすることで、エンジン11の出力制御を実現してもよい。
【0044】
また、時系列の目標加速度の設定に関し、加速前半は過渡現象であることを考慮して、例えば第1目標加速度、つまり、ロックアップクラッチ13の作動時の加速時には、加速度のピーク値以前の加速前半には目標加速度を設定せず、その加速前半において獲得した実加速度履歴に基づいて加速後半における目標加速度を設定し、加速後半においてのみ目標加速度に基づく追従制御を行うようにしてもよい。具体的にアクセルペダルが踏み込まれた際には、実際に車両の生じた実加速度を検出してその履歴を獲得すると共に、その履歴に基づいて加速度のピーク値を判断する。そうして加速度のピーク値に至ったときには、それまでに獲得した実加速度の履歴から、例えば直線状に緩やかな下り勾配となった、加速後半の目標加速度の時系列データを設定し、その目標加速度に基づいて追従制御を行うようにしてもよい。一方で、第2目標加速度や規範加速度は、特に加速前半における加速度特性を所定の特性にする必要性があることから、加速開始から加速終了までの全体の目標加速度を設定していることが好ましい。
【符号の説明】
【0045】
11 エンジン
12 トルクコンバータ(動力伝達機構)
13 ロックアップクラッチ
14 歯車変速機構(自動変速機)
2 コントローラ
21 エンジン出力制御部(エンジン出力制御手段)
22 変速制御部(変速制御手段)
23 目標加速度設定部(目標加速度設定手段)
24 補正部(補正手段)
25 加速度履歴獲得部(加速度履歴獲得手段)
26 走行状態検出部(走行状態検出手段)
27 作動不可検出部(作動不可検出手段)
CR 制御装置
PT パワートレイン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作に対し独立にエンジン出力を制御可能なエンジンと、
ロックアップクラッチ付きの、流体を介した動力伝達機構を含みかつ、当該動力伝達機構を介して前記エンジンに駆動連結された自動変速機と、
発進又は加速時のアクセル踏み込み操作時に、目標加速度を時系列で設定する目標加速度設定手段と、
前記ロックアップクラッチを作動させた状態で、実加速度が前記設定された時系列の目標加速度に追従するように前記エンジンの出力を制御するエンジン出力制御手段と、
前記自動変速機を制御する変速制御手段と、を備え、
前記目標加速度設定手段は、加速開始から加速終了まで前記ロックアップクラッチを作動させることを前提に、前記時系列の目標加速度を設定しており、
前記ロックアップクラッチを作動させることができない状態を検出する作動不可検出手段をさらに備え、
前記ロックアップクラッチの作動が不可能なときのアクセル踏み込み操作時には、
前記目標加速度設定手段は、前記目標加速度の設定に代えて、予め設定されている、前記ロックアップクラッチの作動状態での時系列の規範加速度を目標加速度として設定すると共に、前記エンジン出力制御手段は、前記時系列の規範加速度に追従するように、前記エンジンの出力を制御する車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記変速制御手段は、前記ロックアップクラッチの作動不可状態でのアクセル踏み込み操作時には、前記加速開始時に前記自動変速機のシフトダウンを実行する制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の制御装置において、
前記ロックアップクラッチの作動が可能なときのアクセル踏み込み操作時における、実加速度の履歴を獲得する加速度履歴獲得手段と、
予め設定された学習条件が成立したときに、前記加速度履歴に基づいて前記規範加速度を学習補正する補正手段と、をさらに備えている制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−190736(P2011−190736A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56968(P2010−56968)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】