説明

車両の操作装置

【課題】 誤入力を防止するとともに運転者の意思および車両の走行状況に応じて、運転者が操作部材を独立的に操作できる車両の操作装置を提供すること。
【解決手段】 電子制御ユニット25は、ステップS11にて回転操作部材13,14の回転角θL,θRを入力し、ステップS12にて副回転操作部材が回転操作されているか否かを判定する。また、ステップS13にて車両が登坂路を走行中であるか否かを判定する。そして、車両が登坂路を走行していなければステップS14にて運転者によって任意に設定された設定条件を満たせば副回転操作部材からの入力を許可する。一方、車両が登坂路にあり停車していればステップS18にて停止優先制御を一旦中止して副回転操作部材の回転操作を有効とする。これにより、誤入力を防止し、運転者の意思および車両の走行状況に応じて回転操作部材13,14を操作できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によって独立的に操作される複数の操作部を有する車両の操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示された車両のステアリング操作ユニットは知られている。この従来のステアリング操作ユニットは、ステアリング操作部材11に配設された左右一対のアクセル操作手段を備えており、運転者がステアリング操作部材のリム部を把持した状態でアクセル操作手段を操作するようになっている。そして、この従来のステアリング操作ユニットにおいては、左右一対のアクセル操作手段のうち、所定時間内におけるアクセル操作量の小さい側が選択され、この選択された側のアクセル操作手段の操作量に対応する走行速度で自動定速走行が行われるようになっている。
【0003】
また、従来から、例えば、下記特許文献2に示された操作要素配置構造も知られている。この従来の操作要素配置構造は、互いに無関係に操作できる2つの制御ノブのうち、一方がプロペラシャフトトンネルに設けられ、他方が運転席ドアに設けられる構造となっている。そして、この従来の操作要素配置構造においては、各操作ノブから異なる制御指令信号が出力された場合には、各制御指令信号を重畳したり、予め優先順序を設定したりして、各制御ノブ間の指令の矛盾を阻止するようになっている。
【特許文献1】特開2004−132194号公報
【特許文献2】特開平9−301193号公報
【発明の開示】
【0004】
ところで、上記従来の各装置のように、運転者がそれぞれの手でアクセル操作手段(制御ノブ)を操作できる状況においては、一般的に、運転者は操作しやすい手(例えば、利き手)に対応する側のアクセル操作手段(制御ノブ)を主に操作する傾向にある。このように、利き手でアクセル操作手段(制御ノブ)を操作することにより、スムーズな操作が可能となり、車両を滑らかに走行させることができる。
【0005】
しかし、上記従来の各装置では、利き手でアクセル操作手段(制御ノブ)を操作している状態において、例えば、運転者が無意識に他方の手でアクセル操作手段(制御ノブ)を操作した場合に、この操作が車両の走行に影響を与える可能性がある。特に、上記特許文献1に示された車両のステアリング操作ユニットにおいては、アクセル操作量の小さい側のアクセル操作手段の操作量に対応して走行速度が設定されるため、走行速度が変化する可能性が高くなる。このため、主に操作しない側のアクセル操作手段(制御ノブ)に対する無意識の操作に伴う入力を効果的に防止することが望ましい。一方で、例えば、疲労等を覚えると、運転者は利き手ではない側の手でアクセル操作手段(制御ノブ)を操作する場合もある。このため、運転者が意識的に利き手ではない側の手でアクセル操作手段(制御ノブ)を操作していることを確実に判断することも必要となる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、誤入力を防止するとともに運転者の意思および車両の走行状況に応じて、運転者が複数の操作部材をそれぞれ独立的に操作できる車両の操作装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、運転者によって把持されてそれぞれ独立的に操作される第1操作部材および第2操作部材と、同第1操作部材および第2操作部材のそれぞれの操作に応じて、車両の走行挙動を設定するための指令値を出力する制御装置とを備えた車両の操作装置において、前記制御装置を、前記第1操作部材の操作量を検出する第1操作量検出手段と、前記第2操作部材の操作量を検出する第2操作量検出手段と、前記第1操作量検出手段によって検出された前記第1操作部材の操作量および前記第2操作量検出手段によって検出された前記第2操作部材の操作量に基づいて、前記第1操作部材および前記第2操作部材のうちの一方を運転者によって主に操作される主操作部材として決定するとともに、前記第1操作部材および前記第2操作部材のうちの他方を副操作部材として決定する主副操作部材決定手段と、前記主副操作部材決定手段により決定された副操作部材が運転者によって操作されているか否かを判定する操作状態判定手段と、前記操作状態判定手段によって前記副操作部材が運転者によって操作されていると判定されたときに、同副操作部材の操作に伴う操作量の入力を許可するために設定された所定の条件が成立するか否かを判定する条件判定手段と、前記条件判定手段によって前記所定の条件が成立していると判定されたときに、前記副操作部材の操作を有効とし、同副操作部材の操作に伴う操作量の入力を許可する入力許可手段と、前記入力許可手段によって許可された前記副操作部材の操作に伴う操作量を少なくとも用いて前記指令値を計算する指令値計算手段とを備えて構成したことにある。
【0008】
この場合、前記制御装置は、さらに、前記条件判定手段が前記所定の条件が成立しないと判定したときに、前記副操作部材の操作に伴う操作量の入力を無効とする副操作部材無効手段を備え、前記指令値計算手段は、前記副操作部材無効手段によって前記副操作部材の操作が無効とされたときは、前記主操作部材の操作に伴う操作量を用いて前記指令値を計算するとよい。また、前記主操作部材決定手段は、前記第1操作部材および前記第2操作部材のうち、例えば、運転者によって操作される時間の長い側を前記主操作部材として決定するとよい。
【0009】
これらによれば、例えば、第1操作部材および第2操作部材のうち、運転者によって操作される時間の長い側を主操作部材として決定するとともに他方を副操作部材として決定することができる。そして、所定の条件が成立する状況においては、副操作部材の操作に伴う操作量の入力を許可し、入力された副操作部材の操作量を用いて指令値を計算して、車両の走行挙動を設定することができる。したがって、運転者が意識的に所定の条件を満たすように副操作部材を操作することにより、副操作部材を独立的に操作して車両の走行挙動を設定したり、主操作部材および副操作部材の両方をそれぞれ独立的に操作して車両の走行挙動を設定することができる。
【0010】
一方、所定の条件が成立しない状況においては、副操作部材の操作を無効、言い換えれば、主操作部材の操作のみを有効として指令値を計算することができる。これにより、所定の条件が成立していない状況において、例えば、運転者が副操作部材を無意識に操作した場合すなわち副操作部材から誤入力があっても、計算される指令値に対する副操作部材の操作は反映されない。したがって、副操作部材からの誤入力を効果的に防止して、車両を安定して走行させることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記副操作部材の操作を有効とするために設定された所定の条件は、例えば、前記副操作部材の操作状態が所定の時間以上継続している条件および前記副操作部材の操作量が所定の操作量以上である条件を含む複数の条件によって構成されるものであり、前記条件判定手段は、前記複数の条件のうち、運転者により任意に選択されて設定された条件が成立するか否かを判定することにもある。
【0012】
これによれば、副操作部材の操作に伴う入力を許可するための所定の条件を複数の条件から構成することができる。ここで、これら複数の条件には、運転者が意思を持って積極的に副操作部材を操作していることを判定するための条件として、例えば、副操作部材の操作状態が所定の時間以上継続している条件および副操作部材の操作量が所定の操作量以上である条件を含むことができる。そして、これら複数の条件のうちから運転者が任意に選択した条件が成立するときに、副操作部材の操作を有効として指令値の計算に反映させることができる。したがって、運転者が任意に選択した条件が成立するか否かを判定し、同条件が成立したときに副操作部材からの入力を許可することにより、運転者の意思を反映して副操作部材の操作を有効とすることができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記制御装置は、さらに、車両の進行方向における傾斜量を検出する傾斜量検出手段と、車両の車速を検出する車速検出手段とを備え、前記条件判定手段は、前記所定の条件として設定された条件であって、前記傾斜検出手段によって検出された車両の進行方向における傾斜量が所定の傾斜量以上であり、かつ、前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて車両が停車している条件が成立するか否かを判定することにもある。この場合、前記傾斜量検出手段は、例えば、車両に搭載されたナビゲーション装置が車両の現在位置に基づいて特定した道路の傾斜量を表す道路形状情報を用いて、前記車両の進行方向における傾斜量を検出するとよい。
【0014】
これらによれば、車両が傾斜した道路(例えば、登坂路など)に停車している条件が成立したときには副操作部材の操作に伴う入力を許可し、副操作部材の操作量を用いて指令値を計算することができる。これにより、車両の走行状況として、例えば、登坂路上で停車した後ふたたび発進する走行状況(所謂、坂道発進)においては、主操作部材と副操作部材の両方を操作して車両を走行させることができる。したがって、車両の走行状況に応じて、運転者は副操作部材を操作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る車両の操作装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両の操作装置を概略的に示している。この車両の操作装置は、運転者によって操作される操作部10と、同操作部10の操作状態に応じて種々の指令値(要求値)を算出して出力する電気制御部20とを備えている。
【0016】
操作部10は、図1および図2に概略的に示すように、車体に回転可能に組み付けられたシャフト11に対して、運転者による回動操作が可能となるように組み付けられた本体部材12を備えている。そして、この本体部材12には、運転者によって把持されるとともに、左右独立的に回動操作される第1および第2操作部材としての回転操作部材13,14が組み付けられている。
【0017】
回転操作部材13,14は、その軸線回りにて左右方向に独立的に回転可能に組み付けられている。そして、回転操作部材13,14は、図示しない弾性部材(例えば、バネなど)によって、運転者による回転操作に対して反力が付与されるようになっている。これにより、運転者が回転操作部材13,14から手を放した場合には、弾性部材による付勢力によって、回転操作部材13,14は、それぞれ初期位置(以下、この初期位置を中立位置ともいう)方向に復帰動作するようになっている。ここで、以下の説明においては、それぞれの回転操作部材13,14はアクセル操作機能とブレーキ操作機能を有するものとして説明する。そして、回転操作部材13,14が、例えば、図2にて矢印で示す右方向に回転操作されたときに運転者が車両を加速させることを意図し、左方向に回転操作されたときに運転者が車両を減速させることを意図するとして説明する。
【0018】
電気制御部20は、運転者による操作部10の操作状態、より詳しくは、本体部材12の回動操作量および回転操作部材13,14の回転操作量に基づいて、後述する車両に搭載された各種電子制御装置30に対する指令値を算出して出力する。このため、電気制御部20は、運転者による本体部材12の回動操作量(実操舵角に対応)を検出する操舵角センサ21と、運転者による回転操作部材13,14の回転操作量をそれぞれ検出する第1および第2操作量検出手段としての回転量検出センサ22,23と、車両の車速を検出する車速センサ24とを備えている。
【0019】
操舵角センサ21は、例えば、本体部材12と一体的に回転するシャフト11に組み付けられており、運転者による本体部材12の回動操作量を操舵角θsとして出力する。回転量検出センサ22,23は、例えば、本体部材12と回転操作部材13,14とをそれぞれ回転可能に連結する図示しないシャフトに組み付けられており、運転者による回転操作部材13,14の回転操作量をそれぞれ回転角θL,θRとして出力する。なお、回転量検出センサ22,23は、それぞれ、運転者によって回転操作部材13,14が中立位置から右方向(加速側)に回転操作されたときに回転角θL,θRを正の値として出力し、回転操作部材13,14が中立位置から左方向(減速側)に回転操作されたときに回転角θL,θRを負の値として出力する。また、回転量検出センサ22,23は、それぞれ、中立位置にあるときには、回転角θL,θRを「0」として出力する。車速センサ24は、車両の車速を検出して車速Vとして出力する。
【0020】
これらセンサ21〜24は、電子制御ユニット25に接続されている。電子制御ユニット25は、CPU、EEPROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、各種プログラムの実行により、各電子制御装置30に対して出力する指令値を算出する。このため、電子制御ユニット25は、車両内に構築された双方向通信可能な通信回線A(例えば、LANなど)に接続されており、この通信回線Aを介して算出した指令値を各電子制御装置30に出力するようになっている。
【0021】
ここで、車両に搭載された各種電子制御装置30として、本実施形態においては、運転者による本体部材12の回動操作に対して付与する反力の大きさを制御する反力制御ユニット31、運転者による本体部材12の回動操作に応じて図示省略の転舵輪を転舵制御する転舵制御ユニット32、運転者による回転操作部材13,14の回転操作に応じて図示省略のエンジンを出力制御するエンジン制御ユニット33および運転者による回転操作部材13,14の回転操作に応じて図示省略のブレーキ装置を作動制御するブレーキ制御ユニット34を採用するものとする。なお、これら反力制御ユニット31、転舵制御ユニット32、エンジン制御ユニット33およびブレーキ制御ユニット34も、CPU、EEPROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものである。そして、図示しない各種プログラムの実行により、それぞれ、制御対象としてのアクチュエータの作動を制御する。また、反力制御ユニット31、転舵制御ユニット32、エンジン制御ユニット33およびブレーキ制御ユニット34は、ぞれぞれ、通信回線Aに接続されており、電子制御ユニット25と通信可能とされている。
【0022】
さらに、電子制御ユニット25には、通信回線Aを介して通信可能に接続されたナビゲーション装置40が接続されている。ナビゲーション装置40は、図3に示すように、通信回線Aに接続されて電子制御ユニット25と通信可能なナビゲーション制御ユニット41と、このナビゲーション制御ユニット41に接続されるGPS(Global Positioning System)受信機42、ジャイロスコープ43および記憶装置44とで構成されている。ナビゲーション制御ユニット41も、CPU、EEPROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品としており、各種プログラムを実行してナビゲーション装置40の作動を統括的に制御する。GPS受信機42は、自車両の現在位置を検出するための電波を衛星から受信し、検出した自車両の現在位置を例えば座標データとして出力する。ジャイロスコープ43は、自車両の進行方向を検出するための車両の旋回速度を検出して出力する。記憶装置44は、例えば、全国に存在する道路の位置を表す地図情報(座標データ)や、道路のカーブ半径、勾配などの道路形状を表す道路形状情報などを互いに関連付けて記憶している。そして、ナビゲーション制御ユニット41は、自車両の現在位置を検出すると、検出した現在位置に対応する道路形状情報(特に、道路の勾配を表す勾配情報)を記憶装置44から取得して電子制御ユニット25に出力するようになっている。
【0023】
次に、上記のように構成した車両の操作装置が運転者によって操作されたときの動作について説明する。運転者は、操作部10の本体部材12を回動操作することによって車両を旋回させ、操作部10の回転操作部材13,14を回転操作することによって車両の前後方向における走行挙動としての車速を設定することができる。以下、このような運転者の操作に対する電子制御ユニット25の動作を具体的に説明する。
【0024】
運転者が回転操作部材13,14を把持して本体部材12を回動操作すると、電子制御ユニット25は、この回動操作に応じて操舵角センサ21によって検出された操舵角θsを通信回線Aを介して反力制御ユニット31と転舵制御ユニット32に出力する。また、電子制御ユニット25は、車速センサ24によって検出された車速Vを通信回線Aを介して転舵制御ユニット32に出力する。これにより、反力制御ユニット31は出力された検出操舵角θsに応じて運転者による回動操作に対する適切な反力を付与し、転舵制御ユニット32は出力された検出操舵角θsおよび検出車速Vに応じて運転者が意図する態様で車両を旋回させるために転舵輪を転舵させる。なお、反力付与制御および転舵動作制御に関しては、直接本発明と関連するものではないため、以下に簡単に説明しておく。
【0025】
まず、反力付与制御から説明すると、反力制御ユニット31は、例えば、図4に示す特性テーブルを用いて、供給された検出操舵角θsの絶対値に対して比例関数的に変化する反力トルクTzを決定する。ここで、反力トルクTzは、検出操舵角θsの絶対値の増大に伴って増大する変化特性であるとよく、比例関数的な変化特性に代えて、例えば、検出操舵角θsの絶対値に対して指数関数的に増大する変化特性や、検出操舵角θsの絶対値に対してべき乗関数的に増大する変化特性を採用することができる。そして、反力制御ユニット31は、例えば、シャフト11に連結された図示しない反力アクチュエータを構成する電動モータを駆動制御することによって、運転者による本体部材12の回動操作に対して適切な反力トルクTzすなわち反力を付与する。
【0026】
また、転舵動作制御を説明すると、転舵制御ユニット32は、供給された検出操舵角θsに応じて、転舵輪の目標転舵角δdを計算する。具体的には、転舵制御ユニット32は、検出操舵角θsを入力すると、同入力した操舵角θsに応じた転舵輪の目標転舵角δdを、例えば、下記式1に従って計算する。
δd=G・θs …式1
ただし、前記式1中のGは、操舵角θsに対する転舵輪の転舵角の比すなわち操舵ゲインである。ここで、操舵ゲインGは、例えば、図5に示すように、車速センサ24によって検出された車速Vに応じて、その大きさが変化するように決定される。すなわち、検出車速Vが小さい場合には、操舵ゲインGは大きく設定されるため、前記式1に従い操舵角θsに対して大きな目標転舵角δdが計算される。一方、検出車速Vが大きい場合には、操舵ゲインGは小さく設定されるため、前記式1に従い操舵角θsに対して小さな目標転舵角δdが計算される。
【0027】
そして、転舵制御ユニット32は、転舵輪の実転舵角が計算した目標転舵角δdと一致するように、図示しない転舵アクチュエータを構成する電動モータを駆動制御する。これにより、転舵アクチュエータと機械的に連結された転舵輪が目標転舵角δdとなるように転舵されるため、運転者は車速Vに応じて、所望の態様により車両を旋回させることができる。
【0028】
次に、運転者によって回転操作部材13,14が回転操作された場合、言い換えれば、運転者によって車両の車速を設定する操作がなされた場合について説明する。ここで、電子制御ユニット25は、運転者による回転操作部材13,14の回転操作に応じて車速を変更するにあたり、回転操作部材13,14が互いに中立位置から異なる方向に回転操作された場合、例えば、回転操作部材13が加速側(右方向)に回転操作されており、回転操作部材14が減速側(左方向)に回転操作された場合には、後述する場合を除き、減速側(左方向)への回転操作を優先する制御(以下、この操作を停止優先制御という)を採用するものとする。
【0029】
本実施形態においては、運転者が車両の車速を設定するにあたり、両手で回転操作部材13,14のそれぞれを回転操作して車両の車速を設定する(以下、この回転操作を両手操作ともいう)ことができ、また、片手で回転操作部材13,14の一方を回転操作して車両の車速を設定する(以下、この回転操作を片手操作ともいう)こともできる。以下、両手操作の場合と片手操作の場合を具体的に説明する。なお、両手操作と片手操作は、運転者が任意に選択できるものであり、例えば、運転者が運転席周辺に配置された選択スイッチを操作することによって選択することができる。
【0030】
まず、両手操作の場合から具体的に説明すると、電子制御ユニット25は、回転操作部材13,14が同一方向に回転操作されている状況において、より大きく回転操作された側の回転操作部材13,14からの入力を優先する。すなわち、電子制御ユニット25は、回転量検出センサ22,23によって検出された回転角θL,θRの絶対値を用いて、運転者によってより大きく回転操作されている回転操作部材13または回転操作部材14を決定する。そして、電子制御ユニット25は、決定した側の回転操作部材13または回転操作部材14の回転角θLまたは回転角θRに対して所定のゲインを加味した指令値を計算し、同計算した指令値を通信回線Aを介してエンジン制御ユニット33とブレーキ制御ユニット34に供給する。
【0031】
これにより、エンジン制御ユニット33とブレーキ制御ユニット34は、供給された指令値に基づき、エンジンの出力およびブレーキ装置の作動を互いに協調して制御する。したがって、電子制御ユニット25は、運転者による回転操作部材13,14のそれぞれの回転操作状態に応じて車速を設定することができて、同設定した車速で車両を走行させることができる。
【0032】
なお、この場合、回転操作部材13,14の両方を回転操作して車速を設定できるため、走行中の車両を減速した後に再度加速する状況、言い換えれば、回転操作部材13,14の少なくとも一方を左方向に回転操作した後ふたたび右方向に回転操作する状況においては、車両が急激に加速する可能性がある。すなわち、上述したように、電子制御ユニット25は、運転者によってより大きく回転操作されている回転操作部材13または回転操作部材14からの入力を有効な操作として決定する。このため、特に、停止優先制御から復帰する状況において、減速から加速に伴って回転操作部材13と回転操作部材14の回転操作量が逆転する場合がある。この場合、車両が急激に加速する可能性があるため、回転操作部材13と回転操作部材14の回転操作状態が減速側(左方向)の回転操作状態から加速側(右方向)の回転操作状態に移行する場合には、エンジンの出力を抑制し、車両の加速を鈍化させて滑らかに加速させることが好ましい。
【0033】
次に、片手操作の場合を具体的に説明する。運転者は、操作容易性や好みによって、回転操作部材13,14のうちの一方のみを回転操作して車両を走行させる場合がある。このため、本実施形態においては、以下に説明するように、運転者が主に回転操作している側の回転操作部材13または回転操作部材14(以下、主に操作される側の回転操作部材13または回転操作部材14を単に主回転操作部材という)を決定しておき、この主回転操作部材の回転操作に伴う入力に基づいて車両を走行させることができる。ここで、片手操作の場合には、回転操作していない側の回転操作部材13または回転操作部材14(以下、この側の回転操作部材13または回転操作部材14を副回転操作部材という)の回転操作は、後述する場合を除き、無効な入力となる。
【0034】
この主回転操作部材の決定に関しては、運転者自身が主回転操作部材を選択して決定する場合と、運転者による回転操作部材13,14の操作状況に応じて電子制御ユニット25が自動的に決定する場合とがある。すなわち、運転者自身が主回転操作部材を選択して決定する場合は、例えば、運転者が運転席周辺に配置された切替スイッチを操作することにより、回転操作部材13,14のうちの一方が主回転操作部材として選択される。また、イグニッションスイッチをオン状態とした後に、例えば、運転者が回転操作部材13または回転操作部材14を最初に回転操作することにより、同最初に回転操作された側が主回転操作部材として選択される。さらには、イグニッションスイッチをオン状態とした直後の停車中において、例えば、運転者が回転操作部材13または回転操作部材14を減速側(左方向)に最大回転量だけ回転操作することにより、同回転操作された側が主回転操作部材として選択される。このように、運転者が主回転操作部材を選択すると、電子制御ユニット25は、運転者によって選択された側の回転操作部材13または回転操作部材14を主回転操作部材として決定する。
【0035】
一方、運転者のよる回転操作部材13,14の操作状況に応じて電子制御ユニット25が自動的に主回転操作部材を決定する場合として、電子制御ユニット25は、例えば、過去の走行において運転者が主に操作している回転操作部材13または回転操作部材14を主回転操作部材として決定する。通常、運転者は、車両の加減速をきめ細かくかつ滑らかに変化させて設定するために、操作しやすい側の手(例えば、自身の利き手)に対応する回転操作部材13または回転操作部材14を主に操作する傾向にある。このため、電子制御ユニット25は、回転操作部材13または回転操作部材14のうち、例えば、運転者が利き手で回転操作する側を主回転操作部材として決定する。
【0036】
具体的に説明すると、電子制御ユニット25は、回転量検出センサ22,23から出力される回転操作部材13,14の回転角θL,θRを入力する。次に、電子制御ユニット25は、回転操作部材13,14が中立位置ではない位置に操作されている状態、言い換えれば、回転量検出センサ22,23から入力した回転角θL,θRが「0」ではない状態で維持される時間(以下、この時間を操作時間という)を計測する。なお、上述したように、回転操作部材13,14には弾性部材によって中立位置方向に反力が付与されているため、運転者が手を放して回転操作していない側の回転操作部材13または回転操作部材14は中立位置(すなわち回転角θLまたは回転角θRが「0」)で維持される。そして、電子制御ユニット25は、計測した操作時間をEEPROM内に記憶するとともに、同記憶した操作時間を累積した累積操作時間の長い側の回転操作部材13または回転操作部材14を主回転操作部材として決定する。
【0037】
このように、主回転操作部材を決定すると、電子制御ユニット25は、例えば、運転者が視認可能な位置に設けられて主回転操作部を示すインジケータを点灯させたり、逆に、副回転操作部材を触感で知覚させたりして、現在決定されている主回転操作部材を運転者に報知する。なお、副回転操作部材を知覚させるための触感に関しては、例えば、副回転操作部材を把持している手に対して伝達される振動、温度変化などで知覚させるとよい。
【0038】
そして、電子制御ユニット25は、運転者による主回転操作部材の回転操作に応じて回転量検出センサ22または回転量検出センサ23によって検出された回転角θLまたは回転角θRの大きさに所定のゲインを加味した指令値を計算し、同計算した指令値を通信回線Aを介してエンジン制御ユニット33とブレーキ制御ユニット34に供給する。
【0039】
これにより、エンジン制御ユニット33とブレーキ制御ユニット34は、供給された指令値に基づき、エンジンの出力およびブレーキ装置の作動を互いに協調して制御する。したがって、電子制御ユニット25は、運転者による主回転操作部材の回転操作状態に応じて車速を設定して、同設定した車速で車両を走行させることができる。
【0040】
ところで、上記のように主回転操作部材を決定する片手操作の場合において、例えば、手の疲労や坂道発進などの走行状態によっては、運転者が副回転操作部材の回転操作に伴う入力を有効にしたい場合がある。このため、電子制御ユニット25は、運転者の意思または走行状態に応じて副回転操作部材の操作に伴う入力を許可する入力許可制御を実行する。以下、この入力許可制御を詳細に説明する。ここで、以下の説明を簡単にするために、回転操作部材13が主回転操作部材として決定され、回転操作部材14が副回転操作部材である場合を例示して説明する。なお、回転操作部材14を主回転操作部材、回転操作部材13を副回転操作部材として実施可能であることはいうまでもない。
【0041】
この入力許可制御を実行するにあたり、電子制御ユニット25は、図6に示す入力許可制御プログラムを実行する。すなわち、電子制御ユニット25は、所定の短時間経過ごとにステップS10にて入力許可制御プログラムの実行を開始し、ステップS11にて、回転量検出センサ22,23によって検出された回転角θL,θR、車速センサ24によって検出された車速Vおよびナビゲーション装置40から供給された道路形状情報を入力する。なお、ナビゲーション装置40のナビゲーション制御ユニット41においては、GPS受信機42およびジャイロスコープ43からの検出値に基づき、車両の現在位置を特定する。そして、ナビゲーション制御ユニット41は、特定した車両の現在位置に基づき記憶装置44を検索して同現在位置に対応する道路形状情報を取得するとともに、同道路形状情報を通信回線Aを介して電子制御ユニット25に供給する。
【0042】
そして、電子制御ユニット25は、続くステップS12にて、前記ステップS11にて入力した回転角θRに基づいて、副回転操作部材(すなわち回転操作部材14)が運転者によって回転操作されているか否かを判定する。すなわち、副回転操作部材が回転操作されていれば、電子制御ユニット25は「Yes」と判定して、ステップS13に進む。一方、副回転操作部材が回転操作されていなければ、電子制御ユニット25は「No」と判定して、後述するステップS15に進む。
【0043】
ステップS13においては、電子制御ユニット25は、現在、車両が登坂路上にあるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット25は、前記ステップS11にてナビゲーション装置40から入力した道路形状情報に基づき、車両が所定の傾斜を有する登坂路上にあれば、「Yes」と判定して、ステップS17以降の各ステップ処理を実行する。一方、車両が登坂路上になければ、電子制御ユニット25は「No」と判定してステップS14に進む。
【0044】
ステップS14においては、電子制御ユニット25は、運転者によって予め設定された副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可するための設定条件が成立しているか否かを判定し、同条件の成立可否に応じて副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可する。以下、この設定条件の成立判定について詳細に説明する。ここで、副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可した場合においては、例えば、現在決定されている主回転操作部と副回転操作部材とを互いに切り替えた片手操作としたり、回転操作部材13,14の両方の入力を許可する両手操作としたりして車両の車速を決定することができる。
【0045】
運転者は、上述した片手操作を選択するにあたり、副回転操作部材を回転操作したときに、この副回転操作部材の回転操作を有効にするか否かを決定するための複数の条件のうち、判定させる条件を任意に選択して設定しておく。すなわち、運転者は、例えば、片手操作において副回転操作部材の回転操作を無効にする条件(以下、条件1という)、副回転操作部材を減速側(左方向)に回転操作した場合に同回転操作が予め設定された所定の時間以上に継続したときに副回転操作部材からの入力を許可する条件(以下、条件2という)、または、副回転操作部材の回転角θRが所定の回転角以上であるときに副回転操作部材からの入力を許可する条件(以下、条件3という)のいずれかを任意に選択する。なお、これらの条件選択は、例えば、操作部10の周辺に配置された選択スイッチを操作することにより選択されるとよい。また、車両の走行状況に応じて、電子制御ユニット25がこれらの条件を自動的に選択するようにしてもよい。
【0046】
そして、電子制御ユニット25は、運転者によって任意に選択された条件が成立しているか否かを判定し、成立した条件に基づいて副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可する。具体的に説明すると、電子制御ユニット25は、条件1が選択されている状況では、副回転操作部材の回転操作を無効とし、現在決定している主回転操作部材の回転操作を有効な回転操作とする。すなわち、この条件1が設定されている状況においては、電子制御ユニット25は、副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可しない。また、電子制御ユニット25は、条件2が選択されている状況では、副回転操作部材の回転操作状態が所定の時間以上継続しているか否かを判定する。そして、副回転操作部材の回転操作状態が所定の時間以上継続していれば、副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可する。さらに、電子制御ユニット25は、条件3が選択されている状況では、副回転操作部材の回転操作量(すなわち回転角θR)が所定の回転操作量以上であるか否かを判定する。そして、副回転操作部材の回転操作量(すなわち回転角θR)が所定の回転操作量以上であれば、副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可する。このように、条件1から条件3に基づいて、より詳しくは、条件2または条件3に基づいて副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可すると、電子制御ユニット25は、ステップS15に進む。
【0047】
ステップS15においては、電子制御ユニット25は、前記ステップS12にて「No」と判定した場合および前記ステップS14にて条件1が成立した場合には主回転操作部材の回転角θLを用いて、また、前記ステップS14にて副回転操作部材からの入力を許可した場合には副回転操作部材の回転角θR(または、主回転操作部材の回転角θLと副回転操作部材の回転角θR)を用いてエンジン制御ユニット33またはブレーキ制御ユニット34に供給する指令値Suを計算する。具体的には、前記ステップS12にて副回転操作部材が操作されていない場合および前記ステップS14にて運転者によって設定された条件1が成立した場合には、引き続き主回転操作部材からの入力のみが有効であるため、電子制御ユニット25は主回転操作部材の回転角θLに対して所定のゲインを加味した指令値Suを計算する。
【0048】
一方、前記ステップS14にて運転者によって設定された条件2または条件3が成立した場合には、副回転操作部材からの入力を許可するため、電子制御ユニット25は副回転操作部材の回転角θR(または、主回転操作部材の回転角θLと副回転操作部材の回転角θR)に対して所定のゲインを加味した指令値Suを計算する。そして、電子制御ユニット25は、指令値Suを計算するとステップS16に進む。
【0049】
ステップS16においては、電子制御ユニット25は、前記ステップS15にて計算した指令値Suを通信回線Aを介してエンジン制御ユニット33およびブレーキ制御ユニット34に供給する。これにより、エンジン制御ユニット33とブレーキ制御ユニット34は、供給された指令値Suに基づき、エンジンおよびブレーキ装置の作動を互いに協調して制御する。したがって、この場合には、運転者の意思を反映して、主回転操作部材または/および副回転操作部材の回転操作状態に応じて車速を設定することができ、運転者は同設定した車速で車両を走行させることができる。このように、指令値Suをエンジン制御ユニット33およびブレーキ制御ユニット34に対して供給すると、電子制御ユニット25は、ステップS23に進み、入力許可制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定に短時間経過後、電子制御ユニット25は同プログラムの実行を開始する。
【0050】
一方、前記ステップS13における「Yes」判定により、電子制御ユニット25は、ステップS17にて現在車両が登坂路上で停止しているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット25は、前記ステップS11にて車速センサ24から入力した検出車速Vが「0」であれば「Yes」と判定してステップS18に進む。一方、車速センサ24から入力した検出車速Vが「0」でなければ、電子制御ユニット25は「No」と判定し、上述したステップS14以降の各ステップ処理を実行する。
【0051】
ステップS18においては、電子制御ユニット25は、停止優先制御の実行を一旦中止する。すなわち、車両は、現在、登坂路上にて停止した状態であり、この状態から車両を発進させるときには、所謂、坂道発進となる。このため、運転者は、車両の後退を防ぎながら車両が前進するように運転する。すなわち、運転者は、ブレーキ装置を作動させた状態でエンジンの出力(すなわちアクセル開度)を大きくしていく一方で、エンジンの出力の増大に伴ってブレーキ装置による制動力を減少させて車両を発進させる。
【0052】
このように、坂道発進の場合には、例えば、主回転操作部材(すなわち回転操作部材13)を右方向に回転操作して車両を加速させ、副回転操作部材(すなわち回転操作部材14)を左方向に回転操作して車両を制動させるように、主回転操作部材と副回転操作部材を互いに異なる方向に回転操作することによって車両を良好に発進させることができる。このため、電子制御ユニット25は、車両が登坂路上で停止している状況では、上述した主回転操作部材と副回転操作部材の異なる方向への回転操作をともに有効な操作とするために、一旦停止優先制御の実行を中止する。そして、電子制御ユニット25は、ステップS19に進む。
【0053】
ステップS19においては、電子制御ユニット25は、主回転操作部材の回転角θLおよび副回転操作部材の回転角θRをそれぞれ用いて、エンジン制御ユニット33に供給する指令値Saおよびブレーキ制御ユニット34に供給する指令値Sbを計算する。具体的に説明すると、今、運転者が車両を坂道発進させようとしている状況において、副回転操作部材が減速側(制動力付与側)に回転操作されており、主回転操作部材が加速側(アクセル開度増大側)に回転操作されている状況を考える。この状況において、電子制御ユニット25は、主回転操作部材の回転角θLの大きさに所定のゲインを加味した指令値Saを計算する。また、電子制御ユニット25は、副回転操作部材の回転角θRの大きさに所定のゲインを加味した指令値Sbを計算する。そして、指令値Saおよび指令値Sbを計算すると、電子制御ユニット25はステップS20に進む。
【0054】
ステップS20においては、電子制御ユニット25は、通信回線Aを介して、前記ステップS19にて計算した指令値Saおよび指令値Sbをそれぞれエンジン制御ユニット33とブレーキ制御ユニット34に供給する。これにより、エンジン制御ユニット33は供給された指令値Saに基づいてエンジンの出力が増大するように制御し、ブレーキ制御ユニット34は供給された指令値Sbに基づいてブレーキ装置の制動力が減少するように制御する。したがって、この場合には、運転者による主回転操作部材の加速側(右方向)への回転操作と副回転操作部材の減速側(左方向)への回転操作とを有効な操作とすることができ、運転者は車両の坂道発進を極めて容易に行うことができる。
【0055】
このように、指令値Saおよび指令値Sbを供給すると、電子制御ユニット25は、ステップS21にて、前記ステップS20における指令値Sa指令値Sbの供給によって走行を開始した車両の検出車速Vが所定の小さな車速V1未満であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット25は、走行開始した車両の検出車速Vが所定の車速V1未満であれば、「Yes」と判定してステップS18に戻り、停止優先制御を中止した状態を継続する。これにより、車両が走行を開始した直後において未だ副回転操作部材が中立位置まで復帰していない状態であっても、停止優先制御を中止した状態を維持できるため、運転者は継続して車両を坂道発進させることができる。
【0056】
一方、走行を開始した車両の検出車速Vが所定の車速V1以上であれば、電子制御ユニット25はステップS21にて「No」と判定してステップS22に進む。ステップS22においては、電子制御ユニット25は、車両が既に坂道発進を完了して走行しているため、停止優先制御の実行を再開する。そして、電子制御ユニット25は、ステップS23にて、入力許可制御プログラムの実行を一旦終了し、所定の短時間経過後に同プログラムの実行を開始する。
【0057】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、電子制御ユニット25は、回転操作部材13,14のうち、運転者によって回転操作される時間の長い側を主操作部材として決定するとともに他方を副操作部材として決定することができる。そして、運転者によって任意に設定された条件2または条件3が成立する状況においては、電子制御ユニット25は、副操作部材として決定された回転操作部材14(または回転操作部材13)の操作を有効とし、回転角θR(または回転角θL)を用いて指令値Suを計算して、車両の走行挙動を設定することができる。したがって、運転者が任意に設定した条件2または条件3を満たすように意識的に回転操作部材14(または回転操作部材13)を回転操作することにより、回転操作部材14(または回転操作部材13)を独立的に操作して車両の車速を設定したり、回転操作部材13,14の両方をそれぞれ独立的に操作して車両の車速を設定することができる。
【0058】
一方、条件1が成立している状況あるいは条件2または条件3が成立しない状況においては、電子制御ユニット25は、副操作部材に決定された回転操作部材14(または回転操作部材13)の回転操作を無効、言い換えれば、主操作部材に決定された回転操作部材13(または回転操作部材14)の回転操作のみを有効として指令値Suを計算することができる。これにより、条件1が成立している状況あるいは条件2または条件3が成立しない状況においては、例えば、運転者が副操作部材としての回転操作部材14(または回転操作部材13)を無意識に回転操作した場合すなわち回転操作部材14(または回転操作部材13)から誤入力があっても、計算される指令値Suに対して影響を与えない。したがって、回転操作部材14(または回転操作部材13)からの誤入力を効果的に防止して、車両を安定して走行させることができる。
【0059】
また、副操作部材としての回転操作部材14(または回転操作部材13)の回転操作を有効とするため条件を条件1〜条件3によって構成し、これらの条件のうちから運転者が任意に条件を選択することができる。これにより、回転操作部材14(または回転操作部材13)の回転操作を有効とすることに関する運転者の意思をより明確に反映することができる。その結果、運転者は、自身の意思に合わせて回転操作部材14(または回転操作部材13)を操作することができる。
【0060】
さらに、車両が登坂路に停車している条件が成立したときには、優先停止制御を中止して、副操作部材としての回転操作部材14(または回転操作部材13)の回転操作を有効とすることができる。これにより、例えば、運転者は、回転操作部材14(または回転操作部材13)を減速側(制動力付与側)に回転操作した状態で、主操作部材としての回転操作部材13(または回転操作部材14)を加速側(アクセル開度増大側)に回転操作することができる。そして、電子制御ユニット25は、回転操作部材13(または回転操作部材14)の回転角θL(または回転角θR)を用いてエンジン制御ユニット33に供給する指令値Saを計算することができ、回転操作部材14(または回転操作部材13)の回転角θR(または回転角θL)を用いてブレーキ制御ユニット34に供給する指令値Sbを計算することができる。これにより、坂道発進を必要とする車両の走行状況においては、回転操作部材13,14の両方を操作して車両を走行させることができる。したがって、車両の走行状況に応じて、運転者は副操作部材としての回転操作部材14(または回転操作部材13)を操作することができる。
【0061】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態においては、回転操作部材13,14の両手操作と片手操作とを運転者が選択するように実施した。しかし、両手操作中において、回転操作部材13,14のうちの一方、例えば、回転操作部材13に異常が発生した場合には、電子制御ユニット25が自動的に片手操作に移行させるとともに正常な回転操作部材14を主回転操作部材として決定するように実施することもできる。この場合、回転操作部材13,14のうちの一方に異常が発生したことを、例えば、主回転操作部材に決定した側の回転操作部材13,14に対応するインジケータを点灯させて運転者に報知するとよい。
【0063】
また、片手操作中において、主回転操作部材に異常が発生した場合には、電子制御ユニット25が自動的に主回転操作部材と副回転操作部材とを切り替えるように実施することもできる。この場合においても、主回転操作部材に異常が発生したことを、例えば、主回転操作部材として切り替えられた副回転操作部材に対応するインジケータを点灯させて運転者に報知するとよい。
【0064】
このように、電子制御ユニット25が正常な回転操作部材13または回転操作部材14を主回転操作部材として自動的に決定することにより、運転者の負担を軽減することができるとともに、車両を安全に走行させることができる。
【0065】
また、上記実施形態においては、電子制御ユニット25がナビゲーション装置40から道路形状情報を取得し、車両が登坂路にあるか否かを判定するように実施した。しかし、車両の傾斜量を検出する傾斜量センサが設けられている場合には、電子制御ユニット25がこの傾斜量センサによって検出された車両の傾斜量に基づいて車両が登坂路にあるか否かを判定するように実施することもできる。この場合においても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0066】
また、上記実施形態においては、回転操作部材13,14がシャフト11に一体的に組み付けられた本体部材12に形成して実施した。しかし、運転者によって独立的に操作可能であれば、例えば、運転席周りに配置されて傾倒動作可能なジョイスティックタイプの操作部本体に対して回転操作部材を形成するようにしてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、第1および第2操作部材として運転者の両手によって回転操作される回転操作部材13,14を設けて実施した。しかし、運転者の両手によって操作可能であれば、例えば、レバータイプやジョイスティックタイプなどいかなるものを用いてもよい。また、上記実施形態においては、左右一対の回転操作部材13,14を設けて実施した。しかし、運転者が独立的に操作できるように設けられていれば、その数に関してはいくつであってもよい。
【0068】
さらに、上記実施形態においては、検出操作量として、回転操作部材13,14の回転操作量を表す回転角θL,θRを採用して実施した。しかし、運転者が操作入力可能であればいかなる値を用いてもよく、例えば、回転操作部材13,14を回転操作するときの操作力を操作量として採用して実施することも可能である。この場合、運転者が回転操作部材13,14を回転操作することによって入力された操作力を検出する力検出センサが設けられ、同センサによって検出されるそれぞれの操作力の大きさに基づいて、電子制御ユニット25は主回転操作部材を決定し、運転者によって主回転操作部材または副回転操作部材が操作されているか否かを判定することができる。そして、電子制御ユニット25は、運転者によって任意に設定された条件1、条件2または条件3の成立可否や車両が登坂路上にて停止しているか否かを判定することによって、副回転操作部材の回転操作に伴う入力を許可することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の操作装置の概略図である。
【図2】運転者によって操作される操作部材をより具体的に示す斜視図である。
【図3】車両に搭載されたナビゲーション装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
【図4】操舵角と反力トルクの関係を示すグラフである。
【図5】車速と操舵ゲインの関係を示すグラフである。
【図6】図1の電子制御ユニットにて実行される入力許可制御プログラムを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
10…操作部、11…シャフト、12…本体部材、13,14…回転操作部材、20…電気制御部、21…操舵角センサ、22,23…回転量検出センサ、24…車速センサ、25…電子制御ユニット、30…電子制御装置、40…ナビゲーション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって把持されてそれぞれ独立的に操作される第1操作部材および第2操作部材と、同第1操作部材および第2操作部材のそれぞれの操作に応じて、車両の走行挙動を設定するための指令値を出力する制御装置とを備えた車両の操作装置において、前記制御装置を、
前記第1操作部材の操作量を検出する第1操作量検出手段と、
前記第2操作部材の操作量を検出する第2操作量検出手段と、
前記第1操作量検出手段によって検出された前記第1操作部材の操作量および前記第2操作量検出手段によって検出された前記第2操作部材の操作量に基づいて、前記第1操作部材および前記第2操作部材のうちの一方を運転者によって主に操作される主操作部材として決定するとともに、前記第1操作部材および前記第2操作部材のうちの他方を副操作部材として決定する主副操作部材決定手段と、
前記主副操作部材決定手段により決定された副操作部材が運転者によって操作されているか否かを判定する操作状態判定手段と、
前記操作状態判定手段によって前記副操作部材が運転者によって操作されていると判定されたときに、同副操作部材の操作に伴う操作量の入力を許可するために設定された所定の条件が成立するか否かを判定する条件判定手段と、
前記条件判定手段によって前記所定の条件が成立していると判定されたときに、前記副操作部材の操作を有効とし、同副操作部材の操作に伴う操作量の入力を許可する入力許可手段と、
前記入力許可手段によって許可された前記副操作部材の操作に伴う操作量を少なくとも用いて前記指令値を計算する指令値計算手段とを備えて構成したことを特徴とする車両の操作装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両の操作装置において、
前記副操作部材の操作を有効とするために設定された所定の条件は、
前記副操作部材の操作状態が所定の時間以上継続している条件および前記副操作部材の操作量が所定の操作量以上である条件を含む複数の条件によって構成されるものであり、
前記条件判定手段は、
前記複数の条件のうち、運転者により任意に選択されて設定された条件が成立するか否かを判定することを特徴とする車両の操作装置。
【請求項3】
請求項1に記載した車両の操作装置において、
前記制御装置は、さらに、
車両の進行方向における傾斜量を検出する傾斜量検出手段と、
車両の車速を検出する車速検出手段とを備え、
前記条件判定手段は、
前記所定の条件として設定された条件であって、前記傾斜検出手段によって検出された車両の進行方向における傾斜量が所定の傾斜量以上であり、かつ、前記車速検出手段によって検出された車速に基づいて車両が停車している条件が成立するか否かを判定することを特徴とする車両の操作装置。
【請求項4】
請求項3に記載した車両の操作装置において、
前記傾斜量検出手段は、
車両に搭載されたナビゲーション装置が車両の現在位置に基づいて特定した道路の傾斜量を表す道路形状情報を用いて、前記車両の進行方向における傾斜量を検出することを特徴とする車両の操作装置。
【請求項5】
請求項1に記載した車両の操作装置において、
前記制御装置は、さらに、
前記条件判定手段が前記所定の条件が成立しないと判定したときに、前記副操作部材の操作に伴う操作量の入力を無効とする副操作部材無効手段を備え、
前記指令値計算手段は、前記副操作部材無効手段によって前記副操作部材の操作が無効とされたときは、前記主操作部材の操作に伴う操作量を用いて前記指令値を計算することを特徴とする車両の操作装置。
【請求項6】
請求項1に記載した車両の操作装置において、
前記主操作部材決定手段は、
前記第1操作部材および前記第2操作部材のうち、運転者によって操作される時間の長い側を前記主操作部材として決定することを特徴とする車両の操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−175120(P2008−175120A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8692(P2007−8692)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】