説明

車両用モータ駆動装置の変速制御方法および自動車の変速制御方法

【課題】2ウェイローラクラッチを用いた車両用モータ駆動装置の変速に要する時間を抑えるとともに、変速ショックを低減する。
【解決手段】変速指令を出す第1ステップSと、1速シフト位置から2速シフト位置にシフトリングを移動させる第2ステップSと、1速の2ウェイローラクラッチの係合を解除するよう電動モータの出力を制御する第3ステップSと、回転数制御によりシンクロ動作を行なう第4ステップSと、電動モータの出力制御を、回転数制御からトルク制御に切り替え、そのトルク制御で電動モータの出力トルクを徐々に立ち上げる第5ステップSとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転を変速して車輪へ伝達する車両用モータ駆動装置の変速制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車およびハイブリッド自動車の駆動装置に用いられる車両用モータ駆動装置として、電動モータと、その電動モータの回転を変速する変速機と、その変速機から出力された回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとからなるものが従来から知られている。
【0003】
この車両用モータ駆動装置を使用すると、走行条件に応じて変速機の変速比を切り換えることにより、駆動および回生時において、効率の高い回転数およびトルク領域で電動モータを使用することが可能となる。また、適切な変速比とすることで、高速走行時の変速機の回転部材の回転速度が下がり、変速機の動力損失が低減して車両のエネルギ効率を向上させることができる。
【0004】
このような車両用モータ駆動装置として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の車両用モータ駆動装置は、電動モータと、その電動モータの回転が入力される入力軸と、入力軸に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた1速入力ギヤおよび2速入力ギヤと、出力軸に設けられ、1速入力ギヤおよび2速入力ギヤにそれぞれ噛合する1速出力ギヤおよび2速出力ギヤと、出力軸の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとを有し、
1速出力ギヤと2速出力ギヤは軸受を介してと出力軸で回転可能に支持され、
1速出力ギヤと出力軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう1速の2ウェイローラクラッチと、2速出力ギヤと出力軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう2速の2ウェイローラクラッチと、1速の2ウェイローラクラッチと2速の2ウェイローラクラッチとを選択的に係合させる変速アクチュエータを設けた構成からなる。
【0005】
ここで、1速の2ウェイローラクラッチは、1速出力ギヤの内周に設けられた円筒面と、出力軸の外周に設けられたカム面と、そのカム面と円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で出力軸に対して相対回転可能に設けられた1速保持器と、その1速保持器を中立位置に弾性保持する1速スイッチばねとからなる構成のものであり、1速保持器を係合位置と中立位置の間で周方向に移動させることにより、トルクの伝達と遮断を切り換えることができるようになっている。2速の2ウェイローラクラッチも、1速の2ウェイローラクラッチと同様の構成である。
【0006】
また、変速アクチュエータは、1速保持器に対して回り止めされかつ1速出力ギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた1速摩擦板と、その1速摩擦板を1速出力ギヤの側面から離反する方向に付勢する1速離反ばねと、2速保持器に対して回り止めされかつ2速出力ギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた2速摩擦板と、その2速摩擦板を2速出力ギヤの側面から離反する方向に付勢する2速離反ばねと、1速摩擦板を押圧して1速出力ギヤの側面に接触させる1速シフト位置と2速摩擦板を押圧して2速出力ギヤの側面に接触させる2速シフト位置との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリングと、そのシフトリングを軸方向に移動させるシフト機構とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−57030号公報
【特許文献2】特開平8−168110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の車両用モータ駆動装置においては、変速段を切り替える変速指令が出たときに、まず、シフト機構を作動させることにより現変速段のシフト位置から次変速段のシフト位置へのシフトリングの移動を開始し、次に、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するよう電動モータの出力トルクを変化させ、その後、入力軸の回転数が次変速段の変速比に対応する目標回転数に変化するよう電動モータをトルク制御で加速または減速させるようにしている。ここで、入力軸の回転数を次変速段の変速比に対応する目標回転数に変化させることをシンクロ動作という。そして、シンクロ動作が完了した後、シフトリングを次変速段のシフト位置に到達させ、次変速段の2ウェイローラクラッチを係合させる。
【0009】
しかしながら、この特許文献1に記載された変速制御方法では、電動モータの出力トルクを予め設定された目標トルクに制御するトルク制御でシンクロ動作を行なっているので、次のような問題がある。すなわち、変速段を切り替えるときの車速は毎回異なるので、シンクロ動作の目標回転数も毎回異なる。そのため、トルク制御の目標トルクを目標回転数によらず一定としたのでは、現在の回転数と目標回転数の差が大きいときにシンクロ動作に要する時間が長くなってしまうという問題がある。また、トルク制御の目標トルクを車速毎に設定するのは煩雑である。
【0010】
また、特許文献2では、速やかで円滑な変速制御方法として、変速開始時の車速に基づいて目標トルクを算出し、変速に要すると見込まれる所定時間が経過するまでの間、電動モータの出力トルクを目標トルクに制御することによってシンクロ動作を行なう方法が開示されている。しかしながら、この方法では、目標トルクが変速開始時の車速のみに基づいて定まるので、変速中に車速が変化するとき(例えば登坂時や降坂時)に、シンクロ動作が十分でない状態で次変速段のクラッチが係合してしまい、大きな変速ショックが生じるおそれがある。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、2ウェイローラクラッチを用いた車両用モータ駆動装置の変速に要する時間を抑えるとともに、変速ショックを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、電動モータと、その電動モータの回転が入力される入力軸と、前記入力軸に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸と、
前記入力軸に設けられた第1入力ギヤおよび第2入力ギヤと、前記出力軸に設けられ、前記第1入力ギヤおよび第2入力ギヤにそれぞれ噛合する第1出力ギヤおよび第2出力ギヤと、前記出力軸の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとを有し、
前記第1入力ギヤと第2入力ギヤと入力軸の組と、前記第1出力ギヤと第2出力ギヤと出力軸の組とのうち一方を、第1クラッチギヤと第2クラッチギヤとこれらのクラッチギヤを軸受を介して回転可能に支持するクラッチギヤ支持軸とし、
前記第1クラッチギヤとクラッチギヤ支持軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第1の2ウェイローラクラッチと、前記第2クラッチギヤとクラッチギヤ支持軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第2の2ウェイローラクラッチと、前記第1の2ウェイローラクラッチと第2の2ウェイローラクラッチとを選択的に係合させる変速アクチュエータを設け、
前記第1の2ウェイローラクラッチは、第1クラッチギヤの内周とクラッチギヤ支持軸の外周のうち一方に設けられた円筒面と、他方に設けられたカム面と、そのカム面と前記円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、前記カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸に対して相対回転可能に設けられた第1保持器と、その第1保持器を前記中立位置に弾性保持する第1スイッチばねとからなり、
前記第2の2ウェイローラクラッチは、第2クラッチギヤの内周とクラッチギヤ支持軸の外周のうち一方に設けられた円筒面と、他方に設けられたカム面と、そのカム面と前記円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、前記カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸に対して相対回転可能に設けられた第2保持器と、その第2保持器を前記中立位置に弾性保持する第2スイッチばねとからなり、
前記変速アクチュエータは、前記第1保持器に対して回り止めされかつ前記第1クラッチギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第1摩擦板と、その第1摩擦板を前記第1クラッチギヤの側面から離反する方向に付勢する第1離反ばねと、前記第2保持器に対して回り止めされかつ前記第2クラッチギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第2摩擦板と、その第2摩擦板を前記第2クラッチギヤの側面から離反する方向に付勢する第2離反ばねと、前記第1摩擦板を押圧して前記第1クラッチギヤの側面に接触させる第1シフト位置と前記第2摩擦板を押圧して前記第2クラッチギヤの側面に接触させる第2シフト位置との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリングと、そのシフトリングを軸方向に移動させるシフト機構とからなる車両用モータ駆動装置の変速制御方法において、
前記第1の2ウェイローラクラッチと第2の2ウェイローラクラッチのうち現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除して次変速段の2ウェイローラクラッチを係合させる変速指令を出す第1ステップと、
この第1ステップで前記変速指令が出たときに、前記シフト機構を作動させることにより前記第1シフト位置と第2シフト位置のうち現変速段のシフト位置から次変速段のシフト位置に前記シフトリングを移動させる第2ステップと、
この第2ステップによるシフトリングの移動が開始した後、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するよう前記電動モータの出力を制御する第3ステップと、
この第3ステップで現変速段の2ウェイローラクラッチの係合が解除された後、前記電動モータの現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータの出力トルクの大きさを変化させる回転数制御により前記入力軸の回転数を次変速段の変速比に対応する目標回転数に変化させる第4ステップと、
この第4ステップで前記入力軸の回転数が次変速段の変速比に対応する目標回転数に変化した後、前記電動モータの出力制御を、前記回転数制御から前記電動モータの出力トルクを予め設定された目標トルクに制御するトルク制御に切り替え、そのトルク制御で電動モータの出力トルクを徐々に立ち上げる第5ステップとを有する変速制御方法を採用した。
【0013】
この変速制御方法を採用すると、電動モータの現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータの出力トルクの大きさを変化させる回転数制御でシンクロ動作を行なうので、現在の回転数と目標回転数の偏差が大きいときは、電動モータの出力トルクの大きさが大きくなり、その結果、変速段を切り替えるときの車速にかかわらず、シンクロ動作に要する時間を抑えることができる。また、シンクロ動作が完了した後は、電動モータの出力制御をトルク制御に切り替え、そのトルク制御で電動モータの出力トルクを徐々に立ち上げるので、次変速段の2ウェイローラクラッチに衝撃トルクが作用しにくく、変速ショックが生じにくい。
【0014】
前記第3ステップは、前記変速指令がシフトアップ指令のとき、前記回転数制御で電動モータの回転数を減速することによって、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するように構成することができる。このようにすると、電動モータの現在の回転数と目標回転数との偏差が大きいときに、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するための出力トルクとして、絶対値の大きい負トルクが電動モータで発生するので、その後のシンクロ動作が完了するまでに要する時間を効果的に抑えることが可能となる。
【0015】
前記第3ステップは、前記変速指令がシフトダウン指令のとき、前記トルク制御で電動モータの出力トルクをゼロまたは負トルクにすることによって、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するように構成することができる。このようにすると、現変速段の2ウェイローラクラッチを係合解除するときの入力軸の減速を最小限に抑えることができ、その後のシンクロ動作が完了するまでに要する時間を効果的に抑えることが可能となる。
【0016】
前記第4ステップは、前記回転数制御を行なう間、予め設定された演算周期ごとに現在の車速に応じて目標回転数を更新するように構成することができる。このようにすると、
変速中に車速が変化するとき(例えば登坂時や降坂時)に、現在の車速に応じて目標回転数が更新されるので、シンクロ動作が十分でない状態で次変速段のクラッチが係合してしまうようなことがなく、変速ショックを確実に抑えることができる。
【0017】
前記第4ステップは、現在の電動モータの回転数の目標回転数に対する偏差がゼロに収束するように電動モータの回転数を制御するように構成することができ、さらに、電動モータの現在の回転数の目標値に対する偏差がゼロに収束した後も、前記シフトリングが次変速段のシフト位置に到達するまでの間は、電動モータの現在の回転数の目標回転数に対する偏差をゼロに維持するように電動モータの回転数を制御するように構成することができる。このような前記第4ステップの回転数制御として、例えば、比例動作に積分動作を加えたPI制御を採用することができる。
【0018】
前記第3ステップは、前記第2ステップによるシフトリングの移動が開始した直後に、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するよう前記電動モータの出力を制御するように構成することも可能である。しかし、前記第3ステップは、前記第2ステップによるシフトリングの移動が開始した後、前記第1シフト位置と第2シフト位置の間に予め設定されたモータ制御開始位置にシフトリングが到達するまでの間は、アクセルペダルの操作量に応じたトルクを出力するよう前記電動モータの出力を制御し、前記モータ制御開始位置にシフトリングが到達したときに、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するよう前記電動モータの出力を制御するように構成すると好ましい。このようにすると、第2ステップによるシフトリングの移動が開始してから、モータ制御開始位置にシフトリングが到達するまでの間は、入力軸と出力軸の間で伝達するトルクが維持され、トルク抜けが生じないことから、第2ステップによるシフトリングの移動が開始した直後に、現変速段の2ウェイローラクラッチの係合を解除するよう電動モータの出力を制御する場合と比較して、トルク抜けの時間が短く済む。
【0019】
電気自動車の左右一対の前輪と左右一対の後輪のうち少なくとも一方を前記車両用モータ駆動装置で駆動する場合、その車両用モータ駆動装置を上記の変速制御方法で制御することができる。
【0020】
また、ハイブリッド自動車の左右一対の前輪と左右一対の後輪のうち一方をエンジンで駆動し、他方を前記車両用モータ駆動装置で駆動する場合、その車両用モータ駆動装置を上記の変速制御方法で制御することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の車両用モータ駆動装置の変速制御方法は、シンクロ動作を行なうときに、電動モータの現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータの出力トルクの大きさが変化するので、シンクロ動作に要する時間が短い。また、シンクロ動作が完了した後は、トルク制御で電動モータの出力トルクを徐々に立ち上げるので、変速ショックが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】車両用モータ駆動装置を搭載した電気自動車の概略図
【図2】車両用モータ駆動装置を搭載したハイブリッド自動車の概略図
【図3】図1、図2に示す車両用モータ駆動装置の断面図
【図4】図3の1速出力ギヤおよび2速出力ギヤ近傍の拡大断面図
【図5】図4のシフトリング近傍の拡大断面図
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図
【図7】図4のVII−VII線に沿った断面図
【図8】図4のVIII−VIII線に沿った断面図
【図9】シフト機構を示す断面図
【図10】図4の2速カム部材近傍の分解斜視図
【図11】図3に示す車両用モータ駆動装置の制御システムを示すブロック図
【図12】自動変速線図を示す図(図中、実線がシフトアップ線、破線がシフトダウン線である)
【図13】自動変速モードでの変速判断の制御を示すフロー図
【図14】この発明の実施形態の変速制御方法を示すフロー図
【図15】シフトアップ時のシフトリングのシフト位置と、入力軸および出力軸の回転数との対応関係の一例を示す図
【図16】電動モータの回転数制御を示すブロック線図
【図17】シフトダウン時のシフトリングのシフト位置と、入力軸および出力軸の回転数との対応関係の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態にかかる車両用モータ駆動装置Aの変速制御方法を説明する。図1は、左右一対の前輪1を車両用モータ駆動装置Aで駆動される駆動輪とし、左右一対の後輪2を従動輪とした電気自動車EVを示す。
【0024】
図2は、左右一対の前輪1をエンジンEによって駆動される主駆動輪とし、左右一対の後輪2をこの発明に係る車両用モータ駆動装置Aで駆動される補助駆動輪としたハイブリッド自動車HVを示す。ハイブリッド自動車HVには、エンジンEの回転を変速するトランスミッションTと、トランスミッションTから出力された回転を左右の前輪1に分配するディファレンシャルギヤDとが設けられている。
【0025】
図3に示すように、車両用モータ駆動装置Aは、電動モータ3と、電動モータ3のモータ軸4の回転を変速して出力する変速機5と、その変速機5から出力された回転を図1に示す電気自動車EVの左右一対の前輪1に分配し、または、図2に示すハイブリッド自動車HVの左右一対の後輪2に分配するディファレンシャルギヤ6とを有する。
【0026】
変速機5は、図3に示すように、モータ軸4の回転が入力される入力軸7と、入力軸7に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸8と、入力軸7に設けられた1速入力ギヤ9Aおよび2速入力ギヤ9Bと、出力軸8に設けられた1速出力ギヤ10Aおよび2速出力ギヤ10Bとを有する。
【0027】
モータ軸4は、入力軸7と同軸上に直列に配置されており、ハウジング11に固定された電動モータ3のステータ12で回転駆動される。入力軸7は、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受13により回転可能に支持され、入力軸7の軸端はスプライン嵌合によってモータ軸4に接続されている。出力軸8は、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受14により回転可能に支持されている。
【0028】
1速入力ギヤ9Aと2速入力ギヤ9Bは軸方向に間隔をおいて配置され、入力軸7を中心として入力軸7と一体に回転するように入力軸7に固定されている。1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bも軸方向に間隔をおいて配置されている。
【0029】
図4に示すように、1速出力ギヤ10Aは、出力軸8を貫通させる環状に形成され、軸受15を介して出力軸8で支持されており、出力軸8を中心として出力軸8に対して回転可能となっている。同様に、2速出力ギヤ10Bも、軸受15を介して出力軸8で回転可能に支持されている。
【0030】
1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aは互いに噛合しており、その噛合によって1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bも噛合しており、その噛合によって2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの減速比は、1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの減速比よりも小さい。
【0031】
1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間には、1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう1速の2ウェイローラクラッチ16Aが組込まれている。また、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間には、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう2速の2ウェイローラクラッチ16Bが組込まれている。
【0032】
1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、左右対称の同一構成なので、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを以下に説明し、1速の2ウェイローラクラッチ16Aについては、2速の2ウェイローラクラッチ16Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0033】
図5〜図7に示すように、2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、2速出力ギヤ10Bの内周に設けられた円筒面17と、出力軸8の外周に回り止めした環状の2速カム部材18Bに形成されたカム面19と、カム面19と円筒面17の間に組み込まれたローラ20と、ローラ20を保持する2速保持器21Bと、2速スイッチばね22Bとからなる。カム面19は、円筒面17との間で周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭くなるくさび形空間を形成するような面であり、例えば、図6に示すように円筒面17と対向する平坦面である。
【0034】
図4、図10に示すように、2速保持器21Bは、ローラ20を収容する複数のポケット23が周方向に間隔をおいて形成された円筒部24と、円筒部24の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部25とを有する。内向きフランジ部25の径方向内端は、2速カム部材18Bの外周で周方向にスライド可能に支持され、この周方向のスライドによって、2速保持器21Bは、カム面19と円筒面17の間にローラ20を係合させる係合位置とローラ20の係合を解除する中立位置との間で出力軸8に対して相対回転可能となっている。また、2速保持器21Bの内向きフランジ部25は軸方向両側への移動が規制され、これにより2速保持器21Bが軸方向に非可動とされている。
【0035】
図6に示すように、各カム面19は、回転中心を含む仮想平面に対して対称に形成され、これにより、各カム面19と円筒面17の間に配置されたローラ20は、正転方向と逆転方向の両方向で係合可能となっている。すなわち、電動モータ3が発生するトルクにより車両を前進させるときは、2速保持器21Bを出力軸8に対して正転方向に相対回転させることにより、2速保持器21Bに保持されたローラ20を、カム面19と円筒面17の間の正転方向側の狭小空間に係合させ、そのローラ20を介して2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間で正転方向のトルクを伝達することが可能となっており、一方、電動モータ3が発生するトルクにより車両を後退させるときは、2速保持器21Bを出力軸8に対して逆転方向に相対回転させることにより、2速保持器21Bに保持されたローラ20を、カム面19と円筒面17の間の逆転方向側の狭小空間に係合させ、そのローラ20を介して2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間で逆転方向のトルクを伝達することが可能となっている。
【0036】
図7、図10に示すように、2速スイッチばね22Bは、鋼線をC形に巻いたC形環状部26と、C形環状部26の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部27,27とからなる。C形環状部26は、2速カム部材18Bの軸方向端面に形成された円形のスイッチばね収容凹部28に嵌め込まれ、一対の延出部27,27は、2速カム部材18Bの軸方向端面に形成された径方向溝29に挿入されている。
【0037】
径方向溝29は、スイッチばね収容凹部28の内周縁から径方向外方に延びて2速カム部材18Bの外周に至るように形成されている。2速スイッチばね22Bの延出部27は、径方向溝29の径方向外端から突出しており、その延出部27の径方向溝29からの突出部分が、2速保持器21Bの円筒部24の軸方向端部に形成された切欠き30に挿入されている。径方向溝29と切欠き30は同じ幅に形成されている。
【0038】
延出部27,27は、径方向溝29の周方向で対向する内面と、切欠き30の周方向で対向する内面にそれぞれ接触しており、その接触面に作用する周方向の力によって2速保持器21Bを中立位置に弾性保持している。
【0039】
すなわち、2速保持器21Bを出力軸8に対して相対回転させて、図7に示す中立位置から周方向に移動させると、径方向溝29の位置と切欠き30の位置が周方向にずれるので、一対の延出部27,27の間隔が狭まる方向にC形環状部26が弾性変形し、その弾性復元力によって2速スイッチばね22Bの一対の延出部27,27が径方向溝29の内面と切欠き30の内面を押圧し、その押圧によって2速保持器21Bを中立位置に戻す方向の力が作用するようになっている。
【0040】
図4に示すように、1速カム部材18Aと2速カム部材18Bの出力軸8に対する回り止めは、スプライン嵌合によって行なわれている。1速カム部材18Aのカム面19と2速カム部材18Bのカム面19は同数かつ同位相となっている。また、1速カム部材18Aと2速カム部材18Bは、出力軸8の外周に嵌合した一対の止め輪31によって軸方向に非可動となっている。1速カム部材18Aと2速カム部材18Bの間には間座32が組み込まれている。
【0041】
1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bは、変速アクチュエータ33により選択的に係合することができるようになっている。
【0042】
図5に示すように、変速アクチュエータ33は、1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bの間に軸方向に移動可能に設けられたシフトリング34と、1速出力ギヤ10Aとシフトリング34の間に組み込まれた1速摩擦板35Aと、2速出力ギヤ10Bとシフトリング34の間に組み込まれた2速摩擦板35Bとを有する。
【0043】
ここで、1速摩擦板35Aと2速摩擦板35Bは、左右対称の同一構成なので、2速摩擦板35Bを以下に説明し、1速摩擦板35Aについては、2速摩擦板35Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0044】
2速摩擦板35Bには、2速保持器21Bの切欠き30に係合する突片36が設けられ、この突片36と切欠き30の係合によって、2速摩擦板35Bが2速保持器21Bに回り止めされている。2速保持器21Bの切欠き30は、2速摩擦板35Bの突片36を軸方向にスライド可能に収容しており、このスライドによって、2速摩擦板35Bは、2速保持器21Bに回り止めされた状態のまま、2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置と離反する位置との間で、2速保持器21Bに対して軸方向に移動可能となっている。
【0045】
2速摩擦板35Bの突片36の先端に凹部37が形成されて、間座32の外周には、凹部37に係合する凸部38が形成されている。そして、凹部37と凸部38は、2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離反した位置にある状態では、凹部37と凸部38が係合することで、2速摩擦板35Bを間座32を介して出力軸8に回り止めし、このとき、2速摩擦板35Bに回り止めされた2速保持器21Bが中立位置に保持されるようになっている。また、2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置にある状態では、凹部37と凸部38の係合が解除することで、2速摩擦板35Bの回り止めが解除されるようになっている。
【0046】
2速摩擦板35Bと2速カム部材18Bの間には、軸方向に圧縮された状態で2速離反ばね39Bが組み込まれており、この2速離反ばね39Bの弾性復元力によって2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離反する方向に付勢されている。
【0047】
2速離反ばね39Bは、間座32の外周に沿って巻回されたコイルスプリングであり、その一端が2速ワッシャ40Bを介して2速カム部材18Bの軸方向端面で支持されている。2速ワッシャ40Bは、2速カム部材18Bの軸方向端面の径方向溝29を覆うように環状に形成されている。
【0048】
シフトリング34は、1速摩擦板35Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させる1速シフト位置SP1fと、2速摩擦板35Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させる2速シフト位置SP2fとの間で軸方向に移動可能に支持されている。また、シフトリング34を1速シフト位置SP1fと2速シフト位置SP2fの間で軸方向に移動させるシフト機構41が設けられている。
【0049】
図8、図9に示すように、シフト機構41は、シフトリング34を転がり軸受42を介して回転可能に支持するシフトスリーブ43と、そのシフトスリーブ43の外周に設けられた環状溝44に係合する二股状のシフトフォーク45と、シフトフォーク45が固定されたシフトロッド46と、シフトモータ47と、シフトモータ47の回転をシフトロッド46の直線運動に変換する運動変換機構48(送りねじ機構等)とからなる。
【0050】
図9に示すように、シフトロッド46は、出力軸8に対して間隔をおいて平行に配置され、ハウジング11内に組み込まれた一対の滑り軸受49で軸方向にスライド可能に支持されている。シフトリング34とシフトスリーブ43の間に組み込まれた転がり軸受42は、シフトリング34とシフトスリーブ43のいずれに対しても軸方向に非可動となるように組み付けられている。
【0051】
このシフト機構41は、シフトモータ47の回転が運動変換機構48により直線運動に変換されてシフトフォーク45に伝達し、そのシフトフォーク45の直線運動が転がり軸受42を介してシフトリング34に伝達することにより、シフトリング34を軸方向に移動させる。
【0052】
図5に示すように、シフトフォーク45と環状溝44の間の両側の軸方向隙間には、軸方向に圧縮可能な予圧ばね50が組み込まれている。これにより、シフトリング34で1速摩擦板35Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させるときに、シフトスリーブ43に対するシフトフォーク45の軸方向の相対位置を調節することによって予圧ばね50のばね力を調節し、1速摩擦板35Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。また、シフトリング34で2速摩擦板35Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させるときも、2速摩擦板35Bと2速出力ギヤ10Bの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。
【0053】
図3に示すように、出力軸8には、出力軸8の回転をディファレンシャルギヤ6に伝達するディファレンシャル駆動ギヤ51が固定されている。
【0054】
ディファレンシャルギヤ6は、一対の軸受52で回転可能に支持されたデフケース53と、デフケース53の回転中心と同軸にデフケース53に固定され、ディファレンシャル駆動ギヤ51に噛合するリングギヤ54と、デフケース53の回転中心と直角な方向にデフケース53に固定されたピニオン軸55と、ピニオン軸55に回転可能に支持された一対のピニオン56と、その一対のピニオン56に噛合する左右一対のサイドギヤ57とからなる。左側のサイドギヤ57には、左側の車輪に接続されたアクスル58の軸端部が接続され、右側のサイドギヤ57には、右側の車輪に接続されたアクスル58の軸端部が接続されている。出力軸8が回転するとき、出力軸8の回転はディファレンシャル駆動ギヤ51を介してデフケース53に伝達され、そのデフケース53の回転がピニオン56とサイドギヤ57を介して左右の車輪に分配される。
【0055】
車両用モータ駆動装置Aは、図11に示す制御システムによって制御される。この制御システムは、統合ECU60と変速ECU61とインバータ62とを有する。統合ECU60は、図示しない車両用ブレーキ装置やステアリング装置と協調して指示を出す電子制御装置である。統合ECU60はアクセルペダル63に接続されており、アクセルペダル63からの信号に基づいて算出されるアクセル開度に対応する信号を変速ECU61に出力する。変速ECU61は、各種入力信号に基づいて変速判断を行ない、変速機5とインバータ62に指令を出す電子制御装置である。
【0056】
変速ECU61には、運転者により操作される変速操作部64(例えば、自動変速モードと手動変速モードを切り替えるタクトスイッチや、手動変速モードにおいて変速段を手動で切り替えるためのシフトレバー)から変速操作の状態を示す信号が入力される。また、変速ECU61には、車速センサ65から現在の車両の速度を示す信号が入力される。
【0057】
変速ECU61には、自動変速モードと手動変速モードとステップモードの3つの変速モードがプログラムされている。自動変速モードと手動変速モードは、運転者による変速操作部64の操作によって切り替えられる。
【0058】
自動変速モードは、アクセル開度と車速と自動変速線図(図12を参照)に基づいて、図13に示すように自動で変速するモードである。この自動変速モードでは、例えば、車速が加速している状態でシフトアップ線を左から右にまたぐときに、シフトアップ動作を行なう。また、車速が一定速度の状態でシフトアップ線を上から下にまたぐときに、シフトアップ動作を行なう。また、車速が減速している状態でシフトダウン線を右から左にまたぐときに、シフトダウン動作を行なう。また、車速が一定速度の状態でシフトダウン線を下から上にまたぐときに、シフトダウン動作を行なう。手動変速モードは、自動変速線図上で変速を行なわない領域でも手動操作によって変速するモードである。ステップモードは、停車状態のときに変速段を選択するモードである。
【0059】
図11に示すインバータ62は、電動モータ3に電力を供給するとともに、その供給電力を変速ECU61からの信号に基づいて制御する。インバータ62には、電動モータ3に取り付けられたレゾルバ66から、電動モータ3の回転数を示す信号が入力される。
【0060】
以下に、車両用モータ駆動装置Aの動作例を説明する。
【0061】
まず、図5に示すように、1速摩擦板35Aが1速出力ギヤ10Aの側面から離反し、かつ、2速摩擦板35Bも2速出力ギヤ10Bの側面から離反した状態では、1速保持器21Aは1速スイッチばね22Aの弾性力により中立位置に保持され、2速保持器21Bも2速スイッチばね22Bの弾性力により中立位置に保持されるので、1速の2ウェイローラクラッチ16Aはローラ20の係合が解除された状態となり、2速の2ウェイローラクラッチ16Bもローラ20の係合が解除された状態となる。
【0062】
この状態では、図3に示す電動モータ3の駆動により入力軸7が回転しても、1速の2ウェイローラクラッチ16Aと2速の2ウェイローラクラッチ16Bによって回転の伝達が遮断されるので、1速出力ギヤ10Aおよび2速出力ギヤ10Bは空転し、入力軸7の回転は出力軸8に伝達されない。
【0063】
次に、シフト機構41を作動させて、図5に示すシフトリング34を1速出力ギヤ10Aに向けて移動させると、1速摩擦板35Aが1速出力ギヤ10Aの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって1速摩擦板35Aが出力軸8に対して相対回転し、この1速摩擦板35Aに回り止めされた1速保持器21Aが1速スイッチばね22Aの弾性力に抗して中立位置から係合位置に移動するので、1速保持器21Aに保持されたローラ20が、円筒面17とカム面19の間のくさび形空間の狭小部分に押し込まれて係合した状態となる。
【0064】
この状態では、1速出力ギヤ10Aの回転は、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転が、ディファレンシャルギヤ6を介してアクスル58に伝達される。その結果、図1に示す電気自動車EVにおいては、駆動輪としての前輪1が回転駆動され、図2に示すハイブリッド自動車HVにおいては補助駆動輪としての後輪2が回転駆動される。
【0065】
次に、シフト機構41の作動により、シフトリング34を1速シフト位置から2速シフト位置に向かって軸方向移動させると、1速摩擦板35Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力が小さくなるので、1速スイッチばね22Aの弾性力により1速保持器21Aが係合位置から中立位置に移動し、この1速保持器21Aの移動によって1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合が解除される。
【0066】
シフトリング34が2速シフト位置に到達すると、2速摩擦板35Bがシフトリング34で押圧されて2速出力ギヤ10Bの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって2速摩擦板35Bが出力軸8に対して相対回転し、2速摩擦板35Bに回り止めされた2速保持器21Bが2速スイッチばね22Bの弾性力に抗して中立位置から係合位置に移動するので、2速保持器21Bに保持されたローラ20が、円筒面17とカム面19の間のくさび形空間の狭小部分に押し込まれて係合した状態となる。
【0067】
この状態では、2速出力ギヤ10Bの回転は、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転がディファレンシャルギヤ6を介してアクスル58に伝達される。
【0068】
同様に、シフトリング34を2速シフト位置から1速シフト位置に軸方向移動させることにより、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除して、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを係合させることができる。
【0069】
ところで、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを係合解除するときに、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを介してトルクが伝達していると、そのトルクがローラ20を円筒面17とカム面19の間のくさび形空間の狭小部分に押し込むように作用し、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合解除が妨げられる。そのため、シフト機構41の作動により、シフトリング34が1速シフト位置SP1fから2速シフト位置SP2fに向かって軸方向移動を開始したときに、1速摩擦板35Aが、1速出力ギヤ10Aの側面から既に離反しているにもかかわらず、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合が解除されない可能性がある。
【0070】
このため、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを確実に係合解除するためには、シフト機構41の作動により、1速摩擦板35Aを1速出力ギヤ10Aの側面から離反させるだけでなく、電動モータ3の出力を制御して、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクを変化させる必要がある。2速の2ウェイローラクラッチ16Bを係合解除するときも同様である。
【0071】
そこで、上記制御システムでは、図14に示すように、電動モータ3とシフトモータ47を制御し、この制御により1速の2ウェイローラクラッチ16Aまたは2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除するときの動作の信頼性を確保している。
【0072】
図14に基づいて、シフトアップ時の制御について説明する。
【0073】
まず、変速ECU61が、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合を解除して、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを係合させるシフトアップの変速指令を出す(第1ステップS)。この変速指令を出すか否かは、自動変速モードのときは、アクセル開度と車速と自動変速線図(図12を参照)に基づいて判断され、手動変速モードのときは、運転者による変速操作部64の操作に基づいて判断される。
【0074】
第1ステップSで変速指令が出たときは、変速機5のシフトモータ47を作動させ、図15の時刻t0〜t1に示すように、1速シフト位置SP1fから2速シフト位置SP2fに向けてシフトリング34の移動を開始する(第2ステップS)。ここで、シフトリング34が1速シフト位置SP1fから2速シフト位置SP2fに向かって移動を開始してから、1速シフト位置SP1fと2速シフト位置SP2fの間に予め設定されたモータ制御開始位置SP1tに到達するまでの間は、アクセルペダル63の操作量に応じたトルクを出力するよう電動モータ3の出力を制御する。この間、アクセルペダル63の操作量に応じたトルクが入力軸7と出力軸8の間で伝達し、そのトルクがローラ20を円筒面17とカム面19の間のくさび形空間の狭小部分に押し込むように作用するので、1速摩擦板35Aと1速出力ギヤ10Aの間の摩擦が解除されても、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合は解除されない。
【0075】
次に、シフトリング34がモータ制御開始位置SP1tに到達したときに、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合を解除するよう電動モータ3の出力を制御する(第3ステップS)。具体的には、図16に示すように、電動モータ3の現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータ3の出力トルクの大きさを変化させる回転数制御により、電動モータ3の回転数を減速することによって、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合を解除する。1速側のトルク制御開始位置SP1tは、例えば、1速摩擦板35Aが1速出力ギヤ10Aの側面と接触しているが、その接触面間の摩擦力が1速スイッチばね22Aの弾性力よりも小さくなる位置とすることができる。
【0076】
この第3ステップSで1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合が解除された後、引き続き、図16に示すように、電動モータ3の現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータ3の出力トルクの大きさを変化させる回転数制御により、入力軸7の回転数を2速の変速比r2に対応する目標回転数に変化させる動作(すなわちシンクロ動作)を行なう(第4ステップS)。ここで、目標回転数は、次変速段の変速比に対応する入力軸7の回転数、すなわち、現在の出力軸8の回転数Ngoに2速の減速比r2を乗じて得られる2速での入力軸7の回転数Ngo×r2である(図15参照)。
【0077】
図16に示す回転数制御を行なう間、目標回転数Ngo×r2は、予め設定された演算周期ごと(例えば1msecごと)に現在の車速に応じて更新する。したがって、変速中に車速が変化するとき(例えば登坂時や降坂時や制動時)にも、車速の変化に追従してシンクロ動作を行なうことができる。ここで、図16に示す回転数制御は、比例動作に積分動作を加えたPI制御であり、レゾルバ66で検出した電動モータ3の実際の回転数をフィードバックし、電動モータ3の実際の回転数と目標回転数の偏差をトルク指令に変換し、そのトルク指令を電動モータ3の電流値に変換して、電動モータ3に印加する。
【0078】
このPI制御は、比例ゲインと積分ゲインを調整することにより、シフトリング34が2速側の待機位置SP2nに到達する前に、現在の電動モータ3の回転数の目標回転数に対する偏差を0rpmに収束させ、その後も、シフトリング34が2速側の待機位置SP2nに到達するまでの間、電動モータ3の現在の回転数の目標回転数に対する偏差DN2を0rpmに維持することが可能である。ここで、比例ゲインと積分ゲインは、インバータ62側で設定することができ、比例ゲインを大きく設定することにより、シンクロ動作に要する時間を短縮することができる。また、電動モータ3の出力トルクの正負もインバータ62側で切り換え可能とされ、これにより1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合解除の応答性を高めるようにしている。2速側の待機位置SP2nは、2速摩擦板35Bが2速出力ギヤ10Bに接触する直前の位置である。
【0079】
この第4ステップで入力軸7の回転数が2速の変速比r2に対応する目標回転数に変化した後、シフトリング34が2速シフト位置SP2fに到達したときに、電動モータ3の出力制御を回転数制御から電動モータ3の出力トルクを予め設定された目標トルクに制御するトルク制御に切り替え、電動モータ3の出力トルクをランプ状に徐々に立ち上げる(第5ステップS)。これにより、次変速段としての2速の2ウェイローラクラッチ16Bが係合する。最後に、電動モータ3の出力トルクをアクセル開度に応じたトルクに変化させる。
【0080】
以上のように、シフトアップの制御を行なうと、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合を解除する際に、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクの方向が逆転するので、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを確実に係合解除することができる。上述したシフトアップの制御による変速時間は300msec以内である。
【0081】
ここで、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクの方向を逆転させる方法としてトルク制御を採用することも可能であるが、この実施形態に示すように、回転数制御で電動モータ3の回転数を減速することによって、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクの方向を逆転させ、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合を解除すると好ましい。このようにすると、電動モータ3の現在の回転数と目標回転数との偏差が大きいときに、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合を解除するための出力トルクとして、絶対値の大きい負トルクが電動モータ3で発生するので、その後のシンクロ動作を迅速に行なうことができ、シンクロ動作が完了するまでに要する時間を効果的に抑えることが可能となる。
【0082】
また、図15において、第2ステップSによるシフトリング34の移動が開始(時刻t0)した直後に、1速の2ウェイローラクラッチ16Aの係合を解除するよう電動モータ3の出力を制御するように構成することも可能である。しかし、上記実施形態に示すように、シフトリング34の移動が開始(時刻t0)した後、1速シフト位置SP1fと2速シフト位置SP2fの間に予め設定されたモータ制御開始位置SP1tにシフトリング34が到達(時刻t1)するまでの間は、アクセルペダル63の操作量に応じたトルクを出力するよう電動モータ3の出力を制御するように構成すると好ましい。このようにすると、時刻t0〜t1の間は入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクが維持されることから、トルク抜けの時間が短く済む。
【0083】
次に、図14に基づいて、シフトダウン時の制御について説明する。
【0084】
まず、変速ECU61が、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除して、1速の2ウェイローラクラッチ16Aを係合させるシフトダウンの変速指令を出す(第1ステップS)。
【0085】
第1ステップで変速指令が出たときは、変速機5のシフトモータ47を作動させ、図17の時刻t0〜t1に示すように、2速シフト位置SP2fから1速シフト位置SP1fに向けてシフトリング34の移動を開始する(第2ステップS)。ここで、シフトリング34が2速シフト位置SP2fから1速シフト位置SP1fに向かって移動を開始してから、2速シフト位置SP2fと1速シフト位置SP1fの間に予め設定されたモータ制御開始位置SP2tに到達するまでの間は、アクセルペダル63の操作量に応じたトルクを出力するよう電動モータ3の出力を制御する。
【0086】
次に、シフトリング34がモータ制御開始位置SP2tに到達したときに、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除するよう電動モータ3の出力を制御する(第3ステップS)。具体的には、電動モータ3の出力トルクを予め設定された目標トルクに制御するトルク制御によって電動モータ3の出力トルクをゼロまたは負トルクにすることによって、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除する。このとき、シフトモータ47を一旦停止し、待ち時間dt2を経た後、シフトモータ47を再び作動させる。
【0087】
この第3ステップで2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合が解除された後、図16に示すように、電動モータ3の現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータ3の出力トルクの大きさを変化させる回転数制御によりシンクロ動作を行なう(第4ステップS)。ここで、目標回転数は、現在の出力軸8の回転数Ngoに1速の減速比r1を乗じて得られる1速での入力軸7の回転数Ngo×r1である。図13に示す回転数制御を行なう間、目標回転数Ngo×r1は、予め設定された演算周期ごとに現在の車速に応じて更新する。
【0088】
この第4ステップSで入力軸7の回転数が次変速段の変速比に対応する目標回転数に変化した後、シフトリング34が1速シフト位置SP1fに到達したときに、電動モータ3の出力制御を回転数制御から電動モータ3の出力トルクを予め設定された目標トルクに制御するトルク制御に切り替え、電動モータ3の出力トルクを徐々に立ち上げる(第5ステップS)。これにより、次変速段としての1速の2ウェイローラクラッチ16Aが係合する。最後に、電動モータ3の出力トルクをアクセル開度に応じたトルクに変化させる。
【0089】
以上のように、シフトダウンの制御を行なうと、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除する際に、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクの方向がゼロになるか、または逆転するので、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを確実に係合解除することができる。上述したシフトダウンの制御による変速時間は300msec以内である。
【0090】
ここで、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクの方向を逆転させる方法としてシフトアップ時と同様の回転数制御を採用することも可能であるが、この実施形態に示すように、トルク制御で電動モータ3の出力トルクをゼロまたは負トルクにすることによって、入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクの方向を逆転させ、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除すると好ましい。このようにすると、2速の2ウェイローラクラッチ16Bを係合解除するときの入力軸7の減速を最小限に抑えることができ、その後のシンクロ動作が完了するまでに要する時間を効果的に抑えることが可能となる。
【0091】
また、図17において、第2ステップによるシフトリング34の移動が開始(時刻t0)した直後に、2速の2ウェイローラクラッチ16Bの係合を解除するよう電動モータ3の出力を制御するように構成することも可能である。しかし、上記実施形態に示すように、シフトリング34の移動が開始(時刻t0)した後、1速シフト位置SP1fと2速シフト位置SP2fの間に予め設定されたモータ制御開始位置SP2tにシフトリング34が到達(時刻t1)するまでの間は、アクセルペダル63の操作量に応じたトルクを出力するよう電動モータ3の出力を制御するように構成すると好ましい。このようにすると、時刻t0〜t1の間は入力軸7と出力軸8の間で伝達するトルクが維持されることから、トルク抜けの時間が短く済む。
【0092】
上述した変速制御方法を採用すると、電動モータ3の現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータ3の出力トルクの大きさを変化させる回転数制御でシンクロ動作を行なうので、現在の回転数と目標回転数の偏差が大きいときは、電動モータ3の出力トルクの大きさが大きくなり、その結果、変速段を切り替えるときの車速にかかわらず、シンクロ動作に要する時間を抑えることができる。また、シンクロ動作が完了した後は、電動モータ3の出力制御をトルク制御に切り替え、そのトルク制御で電動モータ3の出力トルクを徐々に立ち上げるので、次変速段の2ウェイローラクラッチに衝撃トルクが作用しにくく、変速ショックが生じにくい。
【符号の説明】
【0093】
1 前輪
2 後輪
3 電動モータ
6 ディファレンシャルギヤ
7 入力軸
8 出力軸
9A 1速入力ギヤ
9B 2速入力ギヤ
10A 1速出力ギヤ
10B 2速出力ギヤ
15 軸受
16A 1速の2ウェイローラクラッチ
16B 2速の2ウェイローラクラッチ
17 円筒面
19 カム面
20 ローラ
21A 1速保持器
21B 2速保持器
22A 1速スイッチばね
22B 2速スイッチばね
33 変速アクチュエータ
34 シフトリング
35A 1速摩擦板
35B 2速摩擦板
39A 1速離反ばね
39B 2速離反ばね
41 シフト機構
SP1f 1速シフト位置
SP2f 2速シフト位置
A 車両用モータ駆動装置
EV 電気自動車
HV ハイブリッド自動車
第1ステップ
第2ステップ
第3ステップ
第4ステップ
第5ステップ
SP1t モータ制御開始位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(3)と、
その電動モータ(3)の回転が入力される入力軸(7)と、
前記入力軸(7)に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸(8)と、
前記入力軸(7)に設けられた第1入力ギヤ(9A)および第2入力ギヤ(9B)と、
前記出力軸(8)に設けられ、前記第1入力ギヤ(9A)および第2入力ギヤ(9B)にそれぞれ噛合する第1出力ギヤ(10A)および第2出力ギヤ(10B)と、
前記出力軸(8)の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤ(6)とを有し、
前記第1入力ギヤ(9A)と第2入力ギヤ(9B)と入力軸(7)の組と、前記第1出力ギヤ(10A)と第2出力ギヤ(10B)と出力軸(8)の組とのうち一方を、第1クラッチギヤ(10A)と第2クラッチギヤ(10B)とこれらのクラッチギヤ(10A,10B)を軸受(15)を介して回転可能に支持するクラッチギヤ支持軸(8)とし、
前記第1クラッチギヤ(10A)とクラッチギヤ支持軸(8)との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第1の2ウェイローラクラッチ(16A)と、前記第2クラッチギヤ(10B)とクラッチギヤ支持軸(8)との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第2の2ウェイローラクラッチ(16B)と、前記第1の2ウェイローラクラッチ(16A)と第2の2ウェイローラクラッチ(16B)とを選択的に係合させる変速アクチュエータ(33)を設け、
前記第1の2ウェイローラクラッチ(16A)は、第1クラッチギヤ(10A)の内周とクラッチギヤ支持軸(8)の外周のうち一方に設けられた円筒面(17)と、他方に設けられたカム面(19)と、そのカム面(19)と前記円筒面(17)の間に組み込まれたローラ(20)と、そのローラ(20)を保持し、前記カム面(19)と円筒面(17)の間にローラ(20)を係合させる係合位置とローラ(20)の係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸(8)に対して相対回転可能に設けられた第1保持器(21A)と、その第1保持器(21A)を前記中立位置に弾性保持する第1スイッチばね(22A)とからなり、
前記第2の2ウェイローラクラッチ(16B)は、第2クラッチギヤ(10B)の内周とクラッチギヤ支持軸(8)の外周のうち一方に設けられた円筒面(17)と、他方に設けられたカム面(19)と、そのカム面(19)と前記円筒面(17)の間に組み込まれたローラ(20)と、そのローラ(20)を保持し、前記カム面(19)と円筒面(17)の間にローラ(20)を係合させる係合位置とローラ(20)の係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸(8)に対して相対回転可能に設けられた第2保持器(21B)と、その第2保持器(21B)を前記中立位置に弾性保持する第2スイッチばね(22B)とからなり、
前記変速アクチュエータ(33)は、前記第1保持器(21A)に対して回り止めされかつ前記第1クラッチギヤ(10A)の側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第1摩擦板(35A)と、その第1摩擦板(35A)を前記第1クラッチギヤ(10A)の側面から離反する方向に付勢する第1離反ばね(39A)と、前記第2保持器(21B)に対して回り止めされかつ前記第2クラッチギヤ(10B)の側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第2摩擦板(35B)と、その第2摩擦板(35B)を前記第2クラッチギヤ(10B)の側面から離反する方向に付勢する第2離反ばね(39B)と、前記第1摩擦板(35A)を押圧して前記第1クラッチギヤ(10A)の側面に接触させる第1シフト位置(SP1f)と前記第2摩擦板(35B)を押圧して前記第2クラッチギヤ(10B)の側面に接触させる第2シフト位置(SP2f)との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリング(34)と、そのシフトリング(34)を軸方向に移動させるシフト機構(41)とからなる車両用モータ駆動装置(A)の変速制御方法において、
前記第1の2ウェイローラクラッチ(16A)と第2の2ウェイローラクラッチ(16B)のうち現変速段の2ウェイローラクラッチ(16A)の係合を解除して次変速段の2ウェイローラクラッチ(16B)を係合させる変速指令を出す第1ステップ(S)と、
この第1ステップ(S)で前記変速指令が出たときに、前記シフト機構(41)を作動させることにより前記第1シフト位置(SP1f)と第2シフト位置(SP2f)のうち現変速段のシフト位置(SP1f)から次変速段のシフト位置(SP2f)に前記シフトリング(34)を移動させる第2ステップ(S)と、
この第2ステップ(S)によるシフトリング(34)の移動が開始した後、現変速段の2ウェイローラクラッチ(16A)の係合を解除するよう前記電動モータ(3)の出力を制御する第3ステップ(S)と、
この第3ステップ(S)で現変速段の2ウェイローラクラッチ(16A)の係合が解除された後、前記電動モータ(3)の現在の回転数と目標回転数との偏差に応じて電動モータ(3)の出力トルクの大きさを変化させる回転数制御により前記入力軸(7)の回転数を次変速段の変速比(r2)に対応する目標回転数に変化させる第4ステップ(S)と、
この第4ステップ(S)で前記入力軸(7)の回転数が次変速段の変速比(r2)に対応する目標回転数に変化した後、前記電動モータ(3)の出力制御を、前記回転数制御から前記電動モータ(3)の出力トルクを予め設定された目標トルクに制御するトルク制御に切り替え、そのトルク制御で電動モータ(3)の出力トルクを徐々に立ち上げる第5ステップ(S)とを有することを特徴とする車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項2】
前記第3ステップ(S)は、前記変速指令がシフトアップ指令のとき、前記回転数制御で電動モータ(3)の回転数を減速することによって、現変速段の2ウェイローラクラッチ(16A)の係合を解除する請求項1に記載の車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項3】
前記第3ステップ(S)は、前記変速指令がシフトダウン指令のとき、前記トルク制御で電動モータ(3)の出力トルクをゼロまたは負トルクにすることによって、現変速段の2ウェイローラクラッチ(16B)の係合を解除する請求項1または2に記載の車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項4】
前記第4ステップ(S)は、前記回転数制御を行なう間、予め設定された演算周期ごとに現在の車速に応じて目標回転数を更新する請求項1から3のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項5】
前記第4ステップ(S)は、現在の電動モータ(3)の回転数の目標回転数に対する偏差がゼロに収束するように電動モータ(3)の回転数を制御する請求項1から4のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項6】
前記第4ステップ(S)は、電動モータ(3)の現在の回転数の目標値に対する偏差がゼロに収束した後も、前記シフトリング(34)が次変速段のシフト位置(SP2f)に到達するまでの間は、電動モータ(3)の現在の回転数の目標回転数に対する偏差をゼロに維持するように電動モータ(3)の回転数を制御する請求項5に記載の車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項7】
前記第4ステップ(S)の回転数制御が、比例動作に積分動作を加えたPI制御である請求項5または6に記載の車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項8】
前記第3ステップ(S)は、前記第2ステップ(S)によるシフトリング(34)の移動が開始した後、前記第1シフト位置(SP1f)と第2シフト位置(SP2f)の間に予め設定されたモータ制御開始位置(SP1t)にシフトリング(34)が到達するまでの間は、アクセルペダル(63)の操作量に応じたトルクを出力するよう前記電動モータ(3)の出力を制御し、前記モータ制御開始位置(SP1t)にシフトリング(34)が到達したときに、現変速段の2ウェイローラクラッチ(16A)の係合を解除するよう前記電動モータ(3)の出力を制御する請求項1から7のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置の変速制御方法。
【請求項9】
電気自動車(EV)の左右一対の前輪(1)と左右一対の後輪(2)のうち少なくとも一方を前記車両用モータ駆動装置(A)で駆動し、その車両用モータ駆動装置(A)を請求項1から8のいずれかに記載の変速制御方法で制御する電気自動車の変速制御方法。
【請求項10】
ハイブリッド自動車(HV)の左右一対の前輪(1)と左右一対の後輪(2)のうち一方をエンジン(E)で駆動し、他方を前記車両用モータ駆動装置(A)で駆動し、その車両用モータ駆動装置(A)を請求項1から8のいずれかに記載の変速制御方法で制御するハイブリッド自動車の変速制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−253873(P2012−253873A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123433(P2011−123433)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】