説明

車両用交流発電機

【課題】体格の増大を最小限に抑えるとともにベアリングの寿命低下を防止することができる車両用交流発電機を提供すること。
【解決手段】回転子を回転自在に支持するベアリングをそれぞれが保持するフロント側フレーム1およびリア側フレームを備え、回転子の回転軸に取り付けられたプーリがベルトを介して回転駆動される車両用交流発電機であって、フロント側フレーム1は、プーリ側に配置されており、ベアリングを収納する円筒形状のベアリングボックス7を有し、このベアリングボックス7は、ベルトの張力による負荷圏側の径方向厚みが反負荷圏側の径方向厚みよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車やトラック等に搭載される車両用交流発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用交流発電機のプーリがベルト駆動される場合に、ベルトテンションによるラジアル荷重が車両用交流発電機のベアリングに加わる。このラジアル荷重は、ベアリングを収納するベアリングボックスで受けることになる。
【0003】
ベルトテンションによって発生するラジアル荷重がベアリングに加わることでベアリングが発熱する。この熱は、ベアリングと接しているベアリングボックスに伝わり、さらにベアリングボックスの外周面から放熱される。このベアリングボックスとしては、ベアリングから加わるラジアル荷重を受けるために必要な所定の厚みを有する単純な筒形状のものや、外周面における放熱性の向上を目的とした放熱突起を有する筒形状のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実公昭63−5417号公報(第2−3頁、図1−5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1等に開示された従来の車両用交流発電機のベアリングボックスは、厚みや放熱突起の配置等が全周に渡って均一に形成されているため放熱性も全周に渡って均一であり、ベアリングの負荷圏側においてより多く発生する熱を効率よく放熱することができず、負荷圏側のベアリング温度が上昇する。このため、ベアリングの潤滑グリースの熱劣化や、ベアリングに備わったシール部材の熱劣化が生じ、ベアリングの焼き付きによる寿命低下のおそれがあるという問題があった。
【0005】
なお、ベアリングの部分的な許容限界を超える温度上昇を抑えるためにベアリングの体格を大きくすることも考えられるが、これに伴ってベアリングボックスの外径も大きくなるため、その外側にある冷却風の通風路が狭くなったり、通風路面積を維持しながらフレーム剛性も確保しようとすると車両用交流発電機の体格が大きくなるなどの不都合があり、採用は難しい。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、体格の増大を最小限に抑えるとともにベアリングの寿命低下を防止することができる車両用交流発電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の車両用交流発電機は、回転子を回転自在に支持するベアリングをそれぞれが保持するフロント側フレームおよびリア側フレームを備え、回転子の回転軸に取り付けられたプーリがベルトを介して回転駆動されており、フロント側フレームは、プーリ側に配置されており、ベアリングを収納する円筒形状の第1のベアリングボックスを有し、第1のベアリングボックスは、ベルトの張力による負荷圏側の径方向厚みが反負荷圏側の径方向厚みよりも大きい。フロント側フレームに形成されたベアリングボックスの負荷圏側の径方向厚みを大きくすることによりこの部位の伝熱容量を増加させることができるため、フロント側のベアリングの負荷圏側で発生する過大な発熱を効率よく放熱することができ、ベアリングの温度を低減することによって寿命低下を防止することができる。また、ベアリングボックスの径方向厚みを部分的に大きくしているだけであるため、ベアリングの体格を大きくする必要がなく、フロント側フレームおよび車両用交流発電機全体の体格増大を最小限に抑えることができる。
【0008】
また、上述したリア側フレームは、反プーリ側に配置されており、ベアリングを収納する円筒形状の第2のベアリングボックスを有し、第2のベアリングボックスは、ベルトの張力による負荷圏側の径方向厚みが反負荷圏側の径方向厚みよりも大きいことが望ましい。リア側フレームに形成されたベアリングボックスの負荷圏側の径方向厚みを大きくすることによりこの部位の伝熱容量を増加させることができるため、リア側のベアリングの負荷圏側で発生する過大な発熱を効率よく放熱することができ、ベアリングの温度を低減することによって寿命低下を防止することができる。特に、リア側(反プーリ側)のベアリングは、整流装置やブラシ装置などの発熱体に囲まれており、熱の面でより厳しい環境にあるため、ベアリングの冷却性向上による寿命向上の効果はさらに大きくなる。
【0009】
また、上述した第1のベアリングボックスの外周面には、少なくともベルトの張力による負荷圏側に複数の径方向突起が形成されていることが望ましい。あるいは、上述した第2のベアリングボックスの外周面には、少なくともベルトの張力による負荷圏側に複数の径方向突起が形成されていることが望ましい。具体的には、負荷圏側に配置された径方向突起は、反負荷圏側に配置された径方向突起よりも大きさおよび数の少なくとも一方が大であることが望ましい。これにより、ベアリングの負荷圏側の過大な発熱をさらに効率よく放熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用した一実施形態の車両用交流発電機について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、一実施形態の車両用交流発電機の全体構成を示す図である。図1に示す車両用交流発電機100は、フロント側フレーム1、リア側フレーム2、固定子4、回転子10、整流装置24、電圧制御装置25、ブラシ装置26、リアカバー27等を含んで構成されている。
【0011】
プーリ側のフロント側フレーム1および反プーリ側のリア側フレーム2は、共に椀状の形状を有しており、これらの開口部同士を直接当接させた状態で、複数本のボルト3によって相互に固定されている。フロント側フレーム1の内周には固定子4が固定されている。また、フロント側フレーム1には円筒状のベアリングボックス7が、リア側フレーム2には円筒状のベアリングボックス8がそれぞれ一体に形成されている。
【0012】
固定子4は、固定子鉄心5および固定子巻線6を備えている。回転子10は、界磁巻線11、ポールコア12、13、回転軸14等を備えており、ベアリングボックス7、8に収納される一対のベアリング15、16により回転自在に保持されている。ポールコア12、13の軸方向端面には、冷却ファン17、18が取り付けられている。フロント側の冷却ファン17は、界磁巻線11への冷却風を生成するために、ブレードが回転子10の回転方向に対して前傾させた斜流式になっている。また、回転軸14の前端にはプーリ19がナット20により結合されており、図示しない車両エンジンによりベルト110を介して回転駆動される。さらに、リア側フレーム2の外側に位置する回転軸14の後端には、一対のスリップリング21、22が設けられており、界磁巻線11に電気的に接続されている。
【0013】
整流装置24、電圧制御装置25、ブラシ装置26等のいわゆる電気部品は、リア側フレーム2の外側の軸方向端面に、ボルト9等の固定手段によって固定されている。整流装置24は、例えば三相の固定子巻線6の出力電圧である三相交流電圧を整流して直流の出力電圧に変換する。電圧制御装置25は、界磁巻線11に流れる励磁電流を調整することにより、車両用交流発電機100の出力電圧を制御する。ブラシ装置26は、整流装置24から回転子10の界磁巻線11に励磁電流を流すためのものであり、回転子10の回転軸14に形成されたスリップリング21、22のそれぞれに押圧するブラシが備わっている。
【0014】
リアカバー27は、樹脂製(あるいは鋼板製)であって、リア側フレーム2の外側に取り付けられる整流装置24、電圧制御装置25、ブラシ装置26等の電気部品を覆って、これらを保護する。このリアカバー27は、ナット28によってリア側フレーム2から延びるボルト9に、整流装置24を挟み込んだ状態で締め付け固定されている。
【0015】
次に、フロント側フレーム1およびリア側フレーム2のベアリングボックス7、8の詳細について説明する。図2は、フロント側フレーム1の平面図である。図3は、図2のIII−III線断面図である。図2に示すように、フロント側フレーム1は、中央にベアリングボックス7が形成されており、その周囲に等間隔に放射状に延びた4本のスポーク200を有している。ベアリングボックス7の外周側には、4本のスポーク200によって周方向に沿って区画される4つの冷却風の吸入窓210が形成されている。
【0016】
フロント側フレーム1に設けられたベアリングボックス7は、ベアリング固定用プレートを取り付けるために用いられる4箇所のねじ穴71の周辺を除いてほぼ円筒形状を有している。このベアリングボックス7の円筒部分の径方向厚みは、全周に渡って均一ではなく、ベアリング15の負荷圏側が反負荷圏側よりも大きくなっている。図2においては、符号Aが付された矢印によってベルト110を張ったときに発生するラジアル荷重が最大となる方向が示されている。すなわち、図2では、負荷圏側の中心部が矢印Aで指し示されている。本実施形態では、矢印Aで示された負荷圏側の中心部を含むほぼ180°の範囲の径方向厚みが反負荷圏側に向かって徐々に減少するようにベアリングボックス7の径方向厚みが設定されている。
【0017】
図4は、リア側フレーム2の平面図である。図5は、図4のV−V線断面図である。図4に示すように、リア側フレーム2は、中央にベアリングボックス8が形成されており、その周囲に不等間隔に放射状に延びた4本のスポーク250を有している。ベアリングボックス8の外周側には、4本のスポーク250によって周方向に沿って区画される4つの冷却風の吸入窓260が形成されている。
【0018】
リア側フレーム2に設けられたベアリングボックス8は、ほぼ円筒形状を有している。このベアリングボックス8の円筒部分の径方向厚みは、全周に渡って均一ではなく、ベアリング16の負荷圏側が反負荷圏側よりも大きくなっている。図4においては、符号Bが付された矢印によってベルト110を張ったときに発生するラジアル荷重が最大となる方向が示されている。すなわち、図4では、負荷圏側の中心部が矢印Bで指し示されている。本実施形態では、矢印Bで示された負荷圏側の中心部を含むほぼ180°の範囲の径方向厚みが反負荷圏側に向かって徐々に減少するようにベアリングボックス7の径方向厚みが設定されている。
【0019】
このように、本実施形態では、フロント側フレーム1に形成されたベアリングボックス7の負荷圏側の径方向厚みを大きくすることによりこの部位の伝熱容量を増加させることができるため、フロント側のベアリング15の負荷圏側で発生する過大な発熱を効率よく放熱することができ、ベアリング15の温度を低減することによって寿命低下を防止することができる。また、ベアリングボックス7の径方向厚みを部分的に大きくしているだけであるため、ベアリング15の体格を大きくする必要がなく、フロント側フレーム1および車両用交流発電機100全体の体格増大を最小限に抑えることができる。
【0020】
また、リア側フレーム2に形成されたベアリングボックス8の負荷圏側の径方向厚みを大きくすることによりこの部位の伝熱容量を増加させることができるため、リア側のベアリング16の負荷圏側で発生する過大な発熱を効率よく放熱することができ、ベアリング16の温度を低減することによって寿命低下を防止することができる。特に、リア側(反プーリ側)のベアリング16は、整流装置24やブラシ装置26などの発熱体に囲まれており、熱の面でより厳しい環境にあるため、ベアリング16の冷却性向上による寿命向上の効果はさらに大きくなる。
【0021】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。上述した実施形態では、ベアリングボックス7、8の負荷圏側の径方向厚みを大きくしたが、代わりに少なくとも負荷圏側に複数の径方向突起を形成することで、負荷圏側の放熱性を向上させてベアリング15、16の温度低減による寿命向上を図るようにしてもよい。具体的には、負荷圏側に配置された径方向突起の大きさおよび数の少なくとも一方を、反負荷圏側に配置された径方向突起のそれらよりも大とすればよい。
【0022】
図6および図7は、フロント側フレーム1のベアリングボックス7に複数の径方向突起を形成した具体例を示す図である。図6には、ベアリングボックス7の負荷圏側の半分(180°の範囲)に複数の径方向突起300を形成した例が示されている。また、図7には、ベアリングボックス7の全周に渡って複数の径方向突起310が形成されているが、負荷圏側の半分(180°の範囲)に配置された径方向突起310を、残りの半分に配置された径方向突起310よりも大きくした例が示されている。
【0023】
また、図8および図9は、リア側フレーム2のベアリングボックス8に複数の径方向突起を形成した具体例を示す図である。図8には、ベアリングボックス8の負荷圏側の半分(180°の範囲)に複数の径方向突起320を形成した例が示されている。また、図9には、ベアリングボックス8の全周に渡って複数の径方向突起330が形成されているが、負荷圏側の半分(180°の範囲)に配置された径方向突起330を、残りの半分に配置された径方向突起330よりも大きくした例が示されている。
【0024】
また、図6〜図9に示す径方向突起300〜330は、負荷圏側の径方向厚みを大としたベアリングボックス(図2〜図5に示したベアリングボックス7、8)と組み合わせるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態の車両用交流発電機の全体構成を示す図である。
【図2】フロント側フレームの平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】リア側フレームの平面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】フロント側フレームのベアリングボックスに複数の径方向突起を形成した具体例を示す図である。
【図7】フロント側フレームのベアリングボックスに複数の径方向突起を形成した具体例を示す図である。
【図8】リア側フレームのベアリングボックスに複数の径方向突起を形成した具体例を示す図である。
【図9】リア側フレームのベアリングボックスに複数の径方向突起を形成した具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 フロント側フレーム
2 リア側フレーム
4 固定子
10 回転子
24 整流装置
25 電圧制御装置
26 ブラシ装置
27 リアカバー
100 車両用交流発電機
110 ベルト
200、250 スポーク
300、310、320、330 径方向突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子を回転自在に支持するベアリングをそれぞれが保持するフロント側フレームおよびリア側フレームを備え、前記回転子の回転軸に取り付けられたプーリがベルトを介して回転駆動される車両用交流発電機において、
前記フロント側フレームは、プーリ側に配置されており、前記ベアリングを収納する円筒形状の第1のベアリングボックスを有し、
前記第1のベアリングボックスは、前記ベルトの張力による負荷圏側の径方向厚みが反負荷圏側の径方向厚みよりも大きいことを特徴とする車両用交流発電機。
【請求項2】
請求項1において、
前記リア側フレームは、反プーリ側に配置されており、前記ベアリングを収納する円筒形状の第2のベアリングボックスを有し、
前記第2のベアリングボックスは、前記ベルトの張力による負荷圏側の径方向厚みが反負荷圏側の径方向厚みよりも大きいことを特徴とする車両用交流発電機。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1のベアリングボックスの外周面には、少なくとも前記ベルトの張力による負荷圏側に複数の径方向突起が形成されていることを特徴とする車両用交流発電機。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記第2のベアリングボックスの外周面には、少なくとも前記ベルトの張力による負荷圏側に複数の径方向突起が形成されていることを特徴とする車両用交流発電機。
【請求項5】
請求項3または4において、
負荷圏側に配置された前記径方向突起は、反負荷圏側に配置された前記径方向突起よりも大きさおよび数の少なくとも一方が大であることを特徴とする車両用交流発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−154381(P2008−154381A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340689(P2006−340689)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】