車両用運転支援装置及び車両用運転支援方法
【課題】運転者の運転操作に応じて適切に運転支援を行うことができる車両用運転支援装置及び車両用運転支援方法を提供する。
【解決手段】運転者の運転操作と自車両の走行環境とを検出し、検出した運転操作が自車両の走行環境に応じた運転目的(前方物体との接触回避など)を達成不可能な運転操作であるとき、当該運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく、操作支援アクチュエータを駆動制御する。ここでは、操舵および制動の少なくとも一方により運転操作支援を行う。
【解決手段】運転者の運転操作と自車両の走行環境とを検出し、検出した運転操作が自車両の走行環境に応じた運転目的(前方物体との接触回避など)を達成不可能な運転操作であるとき、当該運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく、操作支援アクチュエータを駆動制御する。ここでは、操舵および制動の少なくとも一方により運転操作支援を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の運転操作を支援する車両用運転支援装置及び車両用運転支援方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の操舵負担を軽減するための操舵補助トルクを操舵系に付与するパワーステアリング装置がある。
このようなパワーステアリング装置として、自車両が自車両前方の障害物に接触するまでの余裕時間が短いほど、操舵補助トルクが大きくなるように制御ゲインを設定するものがある(例えば、特許文献1参照)。これにより、運転者は、容易かつ速やかに接触回避のための操舵操作を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−43741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のパワーステアリング装置のように余裕時間に基づいて操舵補助トルクの大きさを変更するだけでは、十分な運転支援効果が得られない場合がある。
例えば、運転者の操舵角が、自車両前方の障害物を回避するうえで十分な大きさでない場合には、ステアリングホイールを切り増しする方向に操舵操作を支援すべきである。一方、運転者の操舵角が大きすぎて車線逸脱が発生する可能性が高い場合には、ステアリングホイールを切り戻しする方向に操舵操作を支援すべきである。このように、運転者の運転操作に応じた適切な運転支援を行うことが望ましい。
そこで、本発明は、運転者の運転操作に応じて適切に運転支援を行うことができる車両用運転支援装置及び車両用運転支援方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用運転支援装置は、運転操作検出手段で運転者の運転操作を検出し、走行環境検出手段で自車両の走行環境を検出する。そして、運転操作検出手段で検出した運転操作が、走行環境検出手段で検出した走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、運転支援制御手段で、前記運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく操作支援アクチュエータを駆動する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、運転者が運転目的の達成に効果的な操作を行っていない場合に、運転者の運転操作を支援する運転支援制御を行うので、運転者に対して上記効果的な操作を促すことができる。また、運転者が運転目的の達成に効果的な操作を行っている場合には、運転支援制御の介入を抑制して運転者の違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
【図2】第1の実施形態におけるマイクロプロセッサ10の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態の運転支援制御処理順を示すフローチャートである。
【図4】本発明で適用する座標系を示す図である。
【図5】第1の実施形態の処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態における適用場面の一例を示す図である。
【図7】障害物回避中の特定の一場面を示す図である。
【図8】第1の実施形態の運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【図9】タイヤ横力関数を示す図である。
【図10】第1の実施形態の運転余裕指標予測値算出処理手順を示すフローチャートである。
【図11】運転余裕指標の関数m^(θs)を示す図である。
【図12】操舵補助トルク補正値の制御則を示す図である。
【図13】第2の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
【図14】第2の実施形態におけるマイクロプロセッサ10の構成を示すブロック図である。
【図15】第2の実施形態の運転支援制御処理順を示すフローチャートである。
【図16】第2の実施形態の運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【図17】運転余裕指標の関数m^c(θs,pB)の断面を示す図である。
【図18】第3の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
【図19】第3の実施形態における適用場面の一例を示す図である。
【図20】第3の実施形態の運転支援制御処理順を示すフローチャートである。
【図21】第3の実施形態の処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
【図22】障害物回避中の特定の一場面を示す図である。
【図23】第3の実施形態の運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【図24】本発明の適用場面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
《第1の実施の形態》
《構成》
図1は、本発明の第1の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
この車両は、運転者が操作するステアリングホイール1を備える。ステアリングシャフト(ステアリングコラム)2は、ステアリングホイール1と一体結合している。ステアリングシャフト2上には、操舵角センサ3と操舵トルクセンサ4と補助トルク発生モータ5とを設ける。
モータコントローラ6は、後述するマイクロプロセッサ10で算出した駆動指令値に基づいて、補助トルク発生モータ5を駆動制御する。これにより、操舵系に操舵補助トルクを付加する。
【0009】
また、車輪速センサ16FL,16FRは、非駆動輪である前左右輪の車輪速度を検出する。加速度センサ17は、車両に発生する横加速度を検出する。ヨーレートセンサ18は、車両に発生するヨーレートを検出する。
さらに、車室内前方には、自車両の走行環境を検出するためのカメラ19を設置する。カメラ19は、自車両前方の道路状況を撮影し、自車両前方の物体(障害物等)や道路境界(白線等)を検出する。本実施形態では、カメラ19を2台設置し、前方物体の方向だけでなく距離も検出可能な構成とする。
【0010】
マイクロプロセッサ10は、A/D変換回路、D/A変換回路、中央演算処理回路、メモリ等を含む集積回路である。このマイクロプロセッサ10は、メモリに格納したプログラムに従って各種センサで検出した信号の処理と、補助トルク発生モータ5の駆動指令値の算出処理とを行う。
本実施形態では、運転者による運転操作が、自車両の走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、当該運転目的を達成するための操舵補助トルク(運転操作支援力)を発生するべく、補助トルク発生モータ5を駆動制御する。ここで、上記運転目的とは、カメラ19で検出した自車両前方の障害物との接触回避、及び道路境界を逸脱しないように走行する車線逸脱回避である。
【0011】
(マイクロプロセッサの構成)
図2は、第1の実施形態における10の構成を示すブロック図である。
この図2に示すように、マイクロプロセッサ10は、センサ信号処理部21と、許容状態集合算出部22と、状態変化算出部23と、運転余裕算出部24と、運転支援動作制御部25とを備える。
マイクロプロセッサ10は、各種センサ群(操舵角センサ3、操舵トルクセンサ4、車速センサ16FL,16FR、加速度センサ17、ヨーレートセンサ18、カメラ19)で検出した信号を入力する。
【0012】
センサ信号処理部21は、各種センサ群から入力した信号を同一の座標系上に展開した情報へと変換し、車両運動と障害物に関する情報とを一つの状態ベクトルにまとめる。具体的な処理については後述する。
許容状態集合算出部22は、カメラ19で検出した障害物との接触を回避できる状態ベクトルの範囲(集合)を算出する。
状態変化算出部23は、車両運動および障害物の状態が現在の状態からどのような状態へ変化するのかを算出(予測)する。
【0013】
運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で算出した状態ベクトルの集合と、センサ信号処理部21で算出した状態ベクトルとの位置関係に基づいて、運転余裕指標を算出する。ここで、運転余裕指標とは、自車両が遭遇している状況が、障害物を回避する上でどれくらいの余裕がある状況であるかを定量的な指標として示すものである。
また、運転余裕算出部24は、状態変化算出部23で予測した状態量ついても運転余裕指標を算出(予測)する。
【0014】
運転支援動作制御部25は、運転余裕算出部24で算出した運転余裕指標を入力する。そして、現在の運転余裕および運転余裕の変化予測に基づいて、回避操作支援の必要性を判定する。回避操作支援の必要性がないと判定した場合には、通常の操舵補助制御における操舵補助トルクを付加するための補助トルク発生モータ5の駆動指令値(モータの電流指令値)を算出する。一方、回避操作支援の必要性があると判定した場合には、回避操作支援のための補正を加えた操舵補助トルクを付加するための補助トルク発生モータ5の駆動指令値(モータの電流指令値)を算出する。算出した駆動指令値はモータコントローラ6に入力する。
【0015】
(運転支援制御処理手順)
次に、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理順について説明する。
図3は、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順を示すフローチャートである。この運転支援制御処理は、所定の制御周期で繰り返し実行する。
先ずステップS1では、マイクロプロセッサ10は、各種センサ群からの信号を読み込み、車両の運動状態、障害物の状態および道路境界に関する情報を、予め設定した座標系上の値として算出する。ここでは、図4に示すように、道路の進行方向に沿ってX軸を、X軸と垂直方向にY軸を設定し、自車両MCの重心位置を原点とした座標系を適用する。
【0016】
車両の運動状態としては、車両速度v、ヨーレートγ、ヨー角θ、車体すべり角β、前輪の転舵角δを用いる。車両速度vは、車輪速センサ16FL,16FRで検出した非駆動輪の車輪速度の平均値とする。ヨーレートγは、ヨーレートセンサ18により検出する。ヨー角θは、自車走行車線が直線であると仮定し、道路境界と自車両の向いている方向とのなす角を画像処理によって推定したり、適当な初期値を定め、ヨーレートセンサ18の検出値を積分したりすることで求める。車体すべり角βは、車輪速度、ヨーレート、横加速度等の信号に基づいて推定する。前輪転舵角δは、操舵角センサ3で検出した操舵角θsと操舵系のギア比Kとに基づいて、次式をもとに算出する。
δ=K・θs ………(1)
【0017】
また、カメラ19で自車両前方の障害物Aを検出している場合には、障害物Aの状態として、障害物Aの中心点の位置座標xP=(xP yP)、および障害物Aの幅σy、奥行きσxを算出する。これら各値は、カメラ19で取得した画像情報を処理することで算出する。奥行きσxは、撮影方向によっては測定が困難な場合もあるが、その場合には便宜的に幅σyと同じ値を設定する。
なお、カメラ19で障害物を検出していない場合には、障害物に関する物理量の算出は行わない。
【0018】
さらに、道路境界に関する情報として、カメラ19で検出した道路の左端および右端の位置を上記座標系上の値に変換し、それぞれY=yL, Y=yRを算出する。
次に、ステップS2では、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルにおける処理内容を決定するための判定を行う。具体的には、現在の制御サイクルが回避支援制御を実行するサイクルであるか、回避支援制御の制御則を更新するサイクルであるか、或いは回避支援制御を停止するサイクルであるかを判定する。
【0019】
図5は、図3のステップS2で実行する処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS201で、マイクロプロセッサ10は、現在、回避支援制御を実行しているか否かを判定する。そして、回避支援制御を実行している場合にはステップS202に移行し、回避支援制御を実行していない場合には後述するステップS204に移行する。
ステップS202では、マイクロプロセッサ10は、回避支援制御の更新時刻であるか否かを判定する。
【0020】
本実施形態では、将来予測に基づいて回避支援制御のための操舵補助トルク補正値の制御則をリアルタイムで構成し、所定の時間間隔毎に新たな予測に基づいて操舵補助トルク補正値の制御則を更新する構成をとる。そのため、構成した制御則に基づいて操舵補助トルク補正値を算出する制御サイクルと、新たな予測に基づいて操舵補助トルク補正値の制御則を更新する制御サイクルの二つが混在する。ここで、上記所定の時間間隔は、操舵補助制御の制御周期より長い時間に設定する。
【0021】
このステップS202では、現在の制御サイクルが、操舵補助トルク補正値の制御則の更新サイクルにあたっているか否かを判定する。そして、更新サイクルにあたっていない場合にはステップS203に移行し、更新サイクルにあたっている場合には後述するステップS204に移行する。
ステップS203では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御の実行サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
【0022】
また、ステップS204では、マイクロプロセッサ10は、自車両と接触する可能性のある障害物を検出しているか否かを判定する。そして、検出している場合にはステップS205に移行し、検出していない場合には後述するステップS206に移行する。
ステップS205では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが操舵補助トルク補正値の制御則の更新サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
【0023】
ステップS206では、マイクロプロセッサ10は、カメラ19では障害物を検出していないが、自車両と接触する可能性のある障害物が存在する可能性があるか否かを判定する。これは、前回の制御サイクルで障害物を検出していたが、障害物がセンサの視野角から一時的に外れることで障害物が検出できなくなった状況でも、回避支援制御を継続するための処理である。
このステップS206で、障害物が存在する可能性が高いと判定した場合にはステップS207に移行し、障害物が存在する可能性が低いと判定した場合には後述するステップS208に移行する。
【0024】
ステップS207では、マイクロプロセッサ10は、最後に障害物を検出したときの検出データに基づいて、現在時刻における障害物の状態を外挿演算等によって予測し、前記ステップS205に移行する。
ステップS208では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、回避支援制御の停止を示す状態にセットして、処理内容判定処理を終了する。
【0025】
図3に戻って、ステップS3では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS2で設定した判定フラグに基づいて処理を分岐する。現在のサイクルが回避支援制御の制御則の更新サイクルであると判定した場合にはステップS4に移行し、回避支援制御の実行サイクルであると判定した場合には後述するステップS8に移行する。また、現在のサイクルが回避支援制御の停止サイクルであると判定した場合には後述するステップS9に移行する。
ステップS4では、マイクロプロセッサ10は、自車両が障害物を回避可能な状態量の集合を表す許容状態集合の算出と、それに基づく現在の状態における運転余裕指標の算出とを行う。
先ず、許容状態集合と運転余裕指標の概念について説明する。
【0026】
(許容状態集合の概念)
ここでは簡単のため、図6の場面において自車両MCが障害物Aを回避する方向を右方向に限定し、回避は操舵のみで行うものと仮定する。
許容状態集合を求めるにあたって、自車両が障害物を回避可能な限界条件とその時の回避挙動を明確にする必要がある。以下、限界条件を導出するために、自車両の運動を質点モデルで近似して運動の解析を行う。ここでは、現在時刻をt=0と定義する。
【0027】
自車両が制動を行わずに走行した場合、図7に示すように、自車両の先端部が障害物の先端部と並ぶ時刻をtx1と定義すると、時刻tx1は次式のように予測することができる。
tx1=(xP−lx)/vx ………(2)
ここで、vxは自車両のX軸方向の速度成分、lxは自車両の先端部と障害物の先端部とが並んだときの自車両と障害物との重心点間のX軸方向の距離であり、それぞれ以下の式で表される。
vx=vcos(θ+β),
lx=(σx+sx)/2 ………(3)
ここで、sxは自車両の長さである。
【0028】
次に、自車両が右方向に回避運動を行う場合の限界挙動について考える。
自車両が最も短い時間で最も右方向へ移動する操作は、自車両が出せる最大横加速度αymaxを出し続ける操作である。しかし、道路境界が存在する場合には車線逸脱を防止する必要がある。そのため、最初に右方向に最大横加速度で移動した後、左方向に最大横加速度を出して道路境界に到達するまでに車両を直進状態に戻す操作が、限界挙動に相当する操作となる。
【0029】
自車両が回避開始時点で横方向の速度成分を持たない場合には、自車両が右方向への移動を開始してから直進状態に戻るまでにかかる時間をtcとすると、先ず、最初の時刻tc/2まで横加速度αymaxを出してy=yR/2まで到達する。そして、その後に時刻tcまで横加速度−αymaxを出してy=yRに到達する。したがって、等加速度運動の公式より、次式が成り立つ。
(1/2)αymax(tc/2)2=yR/2 ………(4)
上記(4)式より、時間tcは次式で求められる。
tc=2√(yR/αymax) ………(5)
【0030】
ところで、一般には自車両がvy=vsin(θ+β)という横方向の速度成分を持つ。この場合には、横加速度の方向が切り替わる時間を、回避開始時点での横方向速度成分vyに応じて補正する必要がある。そこで、自車両の横加速度αyを以下のように切り替えるものする。
0≦t<ty1のとき、 αy(t)=αymax,
ty1≦t<ty2のとき、αy(t)=−αymax,
t≧ty2のとき、 αy(t)=0 ………(6)
ここで、時刻ty1,ty2は次式で表される。
ty1=tc/2−vy/αymax,
ty2=tc−vy/αymax ………(7)
【0031】
なお、ここではty1>0と仮定する。このとき、前記(6)式を2回積分すると、以下のようになる。
0≦t<ty1のとき、 y(t)=vyt+(αymaxt2)/2,
ty1≦t<ty2のとき、y(t)=−(αymaxt2)/2+(αymaxtc−vy)t−αymaxty12,
t≧ty2のとき、 y(t)=−(αymaxty22)/2+(αymaxtc−vy)ty2−αymaxty12 ………(8)
【0032】
限界条件では、時刻t=ty2で自車両が道路境界まで到達するので、上記(8)式の第3式より、以下の関係が成り立つ。
−(1/2)αymaxty22+(αymaxtc−vy)ty2−αymaxty12=yR ………(9)
上記(9)式をtcについて解くと、上記(5)式に代わって下記(10)式が得られる。
tc=√(4yR/αymax+2vy2/αymax2) ………(10)
【0033】
このとき、ty1>0という仮定は、上記(7),(10)式より、以下の条件式に変換される。
vy2≦2αymaxyR ………(11)
これは、時刻t=0の時点で、最大横加速度で左方向に加速すれば車線逸脱を回避できる条件と解釈することができ、車線逸脱しないための必要条件となる。言い換えれば、ty1<0となる条件では車線逸脱が不可避である。
【0034】
以上のように導出した限界運動を用いると、自車両が障害物を回避できる条件は以下のようになる。
y(tx1)−yP≧ly ………(12)
ここで、lyは自車両の左端部と障害物の右端部とが接した場合の自車両と障害物との重心点間のY軸方向の距離であり、次式で表される。
ly=(σy+sy)/2 ………(13)
ここで、syは自車両の幅である。
【0035】
上記(12)式で示す条件式は、上記(8)式を用いることでさらに具体的な条件式に書き下すことができる。このとき、tx1が上記(8)式のどの区間に属するかによって、以下の3通りの場合分けが生じる。
[1]tx1<ty1の場合
vy(xP−lx)/vx+(1/2)αymax((xP−lx)/vx) 2−yP≧ly ………(14)
[2]ty1≦tx1<ty2の場合
−(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2+(αymaxtc−vy)(xP−lx)/vx−αymaxty12≧ly ………(15)
[3]t≧ty2の場合
yR−yP≧ly ………(16)
このうち、上記(16)式は、右方向への回避が物理的に可能であるための必要条件になっている。そのため、実質的には上記(14)式と上記(15)式とが障害物を右方向に回避可能となるための条件となる。
【0036】
以上の条件式を見ると、時間の経過とともに変化する変数と、時間が経過しても変化しないパラメータとの二種類の量が混在していることがわかる。前者に該当するのは、vx,vy,xP,yP,yRの5つ、後者に該当するのは、αymax,lx,lyの3つである。
そこで、車両状態量として、状態ベクトルxとパラメータベクトルpとを、次式で定義する。
x=(vx vy xP yP yR),
p=(αymax lx ly) ………(17)
【0037】
すると、自車両が障害物を回避可能な状態ベクトルの集合である許容状態集合Xは、以下のようになる。
X=Q∩((R1∩F1)∪(R2∩F2)) ………(18)
Q={x|q(x,p)≧0} ………(19)
Ri={x|ri(x,p)≧0}, i=1,2 ………(20)
Fi={x|fi(x,p)≧0}, i=1,2 ………(21)
但し、
【0038】
【数1】
【0039】
r1(x,p)=(1/2)√(4yR/αymax+2vy2/αymax2)−vy/αymax−(xP−lx)/vx ………(23)
r2(x,p)=−r1(x,p) ………(24)
f1(x,p)=vy(xP−lx)/vx+(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2−yP−ly ………(25)
f2(x,p)=−(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2+(αymaxtc−vy)(xP−lx)/vx−αymaxty12−ly ………(26)
である。
このようにして、許容状態集合Xを算出することができる。
【0040】
(運転余裕指標の概念)
各種センサ群の検出信号をもとに構成した状態ベクトルxが、上記許容状態集合Xに含まれているかどうかを判定することで、自車両の障害物回避の可否を判別することができる。
さらに、障害物回避が可能な場合でも、状態ベクトルxが許容状態集合X内のどこに位置しているかによって、実際の回避操作の難度を判別できる。すなわち、状態ベクトルxが許容状態集合Xの境界付近に位置している場合には、上述したような最大横加速度を使った限界挙動に近い運動が必要となる。そのため、操作の自由度も小さくなり、実際の回避操作は困難なものとなる。一方、状態ベクトルxが許容状態集合Xの境界よりも離れている場合には、回避操作に比較的大きな自由度が残っていることになる。そのため、それほど大きな横加速度を出さなくても障害物回避が可能であり、回避操作も容易になる。
【0041】
そこで、上記のような性質に着目し、許容状態集合Xに基づいて、現在の状態量xが障害物を回避するうえでどの程度の余裕が残っているのかを表す運転余裕指標を算出する。
本実施形態では、許容状態集合Xを構成しているパラメータpに注目して運転余裕指標を構成する。パラメータpは、状態ベクトルxとは異なり、基本的には回避運動を行っている間に値が変わらない量であるが、パラメータpの値が変化した場合には許容状態集合全体の形も変化し、パラメータpの値によっては状態ベクトルxが許容状態集合Xに属さなくなる場合がある。
【0042】
許容状態集合Xは、パラメータpに関して連続な式の組み合わせで構成しているので、パラメータpの連続的な変化に対して許容状態集合Xも連続的に変化する。したがって、パラメータpの現在の値から少しずつ変化させたとき、どこかで状態ベクトルxが許容状態集合Xに属さなくなるようなパラメータpの値が存在する。そのようなパラメータpの値と、センサの検出信号から構成したパラメータpの値との差は、回避運動の余裕を表す指標とみなすことができる。
【0043】
上述したように、パラメータpはαymax,lx,lyの3つの成分から構成している。したがって、運転余裕指標もこの3つの成分の何れか、或いは2つ以上の成分の組み合わせによって定義できる。ここでは、その中の最大横加速度αymaxに注目して運転余裕指標を定義する方法を採用する。
最大横加速度αymaxは、障害物回避の際に使うことができると想定している車両横加速度の最大値であり、実際には自車両が走行している路面状態によってその値が変わる。一般に、最大横加速度αymaxが大きくなれば許容状態集合Xも大きくなり、最大横加速度αymaxが小さくなれば許容状態集合Xも小さくなる。
【0044】
今、現在の路面状態から推定した最大横加速度αymaxに対して構成した許容状態集合をX(αymax)とし、現在の状態ベクトルxがX(αymax)に属していると仮定する。このとき、αymaxの値を徐々に小さくしていくと、それ以上値を小さくすると状態ベクトルxが許容状態集合Xに属さなくなるようなαymaxの限界値が現れる。その限界値をα ̄ymaxと定義する。
α ̄ymax=argmin(x∈X(αymax)) ………(27)
【0045】
そして、上記最大横加速度の限界値α ̄ymaxと、現在の路面状態で自車両が発生可能なαymaxとの比較で運転余裕を測る。すなわち、α ̄ymaxとαymaxとの差を、回避運動を行う際の運転余裕指標mとして定義する。
m=αymax−α ̄ymax ………(28)
運転余裕指標mを実際に算出するためには、先ず許容状態集合Xを構成する集合Q,R,Fのそれぞれについて、状態ベクトルxが含まれる最小のαymaxを算出する。次に、各集合に対応するαymaxの最小値を比較することで、状態ベクトルxが許容状態集合Xに含まれる最小のαymax、すなわち最大横加速度限界値α ̄ymaxを決定する。そして、決定した最大横加速度限界値α ̄ymaxから、上記(28)式をもとに運転余裕指標mを算出する。
【0046】
図8は、図3のステップS4で実行する運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS401で、マイクロプロセッサ10は、各種センサ群の検出信号に基づいて、上記(17)式の状態ベクトルxの値を算出し、ステップS402に移行する。
ステップS402では、マイクロプロセッサ10は、各種センサ群の検出信号に基づいて、上記(17)式のパラメータpの値を設定する。このとき、パラメータlx,lyについてはセンサの検出情報から算出し、パラメータαymaxについては予め設定した固定値を用いたり、路面摩擦係数を反映した値を用いたりする。
【0047】
次にステップS403では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS401で算出した状態ベクトルxと、前記ステップS402で設定したパラメータpと、上記(19),(22)式とを用いて、状態ベクトルxが集合Qに属しているか否かを判定する。
そして、状態ベクトルxが集合Qに属していないと判定した場合には、障害物との接触あるいは車線逸脱が回避できない状況であると判断し、直ちに障害物回避の支援を中止して接触被害軽減あるいは車線逸脱被害軽減のための制御へ切り替える。なお、上記被害軽減制御は、多数の公知例の中から適宜適用する。
【0048】
一方、前記ステップS403で、状態ベクトルxが集合Qに属していると判定した場合には、ステップS404に移行する。ステップS404では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが集合R1と集合R2のどちらに属しているのかを、上記(20),(23),(24)式に基づいて判定する。
次に、ステップS405に移行して、前記ステップS404で状態ベクトルxが集合R1に属していると判定した場合には、状態ベクトルxが集合F1に属しているか否かを、上記(21),(25)式に基づいて判定する。また、前記ステップS404で状態ベクトルxが集合R2に属していると判定した場合には、状態ベクトルxが集合F2に属しているか否かを、上記(21),(26)式に基づいて判定する。
【0049】
そして、このステップS405で、状態ベクトルxが集合Fiに属していないと判定した場合には前記被害軽減制御へ切り替え、状態ベクトルxが集合Fiに属していると判定した場合にはステップS406に移行する。
ステップS406では、マイクロプロセッサ10は、集合Q,Ri,Fiのそれぞれについて、状態ベクトルxが含まれる最小のαymaxを算出する。
【0050】
次にステップS407では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS406で算出したαymaxを比較し、その中の最小値を最大横加速度限界値α ̄ymaxとして算出してステップS408に移行する。
ステップS408では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS402で設定したαymaxと前記ステップS407で算出したα ̄ymaxとに基づいて、上記(28)式を用いて運転余裕指標mを算出し、運転余裕指標算出処理を終了する。
【0051】
図3に戻って、ステップS5では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS4で算出した運転余裕指標mが所定の運転余裕指標閾値mTHよりも大きいか否かを判定する。そして、m>mTHである場合には後述するステップS9に移行し、m≦mTHである場合にはステップS6に移行する。ここで、上記運転余裕指標閾値mTHは、障害物を回避する操作を行ううえでの運転余裕の大きさの判定を行うためのものであり、回避支援の要否が判断できる程度の値に設定する。
【0052】
ステップS6では、マイクロプロセッサ10は、ごく近い将来運転者がとり得る運転操作の予測、それに対応する状態ベクトルの予測、および予測した状態ベクトルに対する運転余裕指標の算出を行う。
回避操作の支援を行うためには、運転者がとり得る操作に対して運転余裕指標がどのように変化するかを予測し、運転余裕指標が現在の状態に対する運転余裕指標より小さくならないような操作を運転者に促す必要がある。
【0053】
運転余裕指標の変化を予測するためには、先ず運転者がとり得る操作とそれに対応する状態ベクトルの変化とを予測する必要がある。ここでは、運転者の操作と状態ベクトルとを結びつけるために、以下の車両モデル(二輪モデル)を導入する。
x´=vcos(β+θ) ………(29)
y´=vsin(β+θ) ………(30)
θ´=γ ………(31)
β´=−γ+(2/Mv)(Yf(βf)+Yr(βr)) ………(32)
γ´=(2lf/I)Yf(βf)−(2lr/I)Yr(βr) ………(33)
ここで、Mは車両質量、Iは車両ヨー慣性モーメント、lfは車両重心から前輪軸までの距離、lrは車両重心から後輪軸までの距離である。また、Yf,Yrはタイヤ横力を表す関数であり、それぞれ前輪すべり角βf、後輪すべり角βrの関数である。
【0054】
前輪すべり角βfおよび後輪すべり角βrは、次式により計算することができる。
βf=β+lfγ/v−δ ………(34)
βr=β−lrγ/v ………(35)
また、タイヤ横力関数Yf(βf),Yr(βr)は、次式で表される。
Yf(βf)=−Wf・μ・Y ̄(βf) ………(36)
Yr(βr)=−Wr・μ・Y ̄(βr) ………(37)
ここで、Wfは前輪荷重、Wrは後輪荷重、μは路面摩擦係数である。また、Y ̄は図9に示す非線形関数で表現することができる。
【0055】
前輪舵角δとステアリングホイールの操舵角θsとの間には、上記(1)式の関係がある。したがって、操舵角センサ3で検出した操舵角θsを用いて前輪舵角δを決定できれば、上記(29)〜(33)式の微分方程式を積分することで、将来のx,y,θ,β,γの値を予測することができる。
例えば、現在時刻t=0において、ある操舵角θs(0)を加えた場合に、時刻t=Δtにおける状態予測値x^(Δt),y^(Δt),θ^(Δt),β^(Δt),γ^(Δt)を得たものとする。このとき、x^(Δt),y^(Δt)を座標系の原点に取り直すと、時刻t=Δtにおける状態ベクトルの予測値x^(Δt)を図3のステップS4の処理と同様にして構成することができる。なお、パラメータpは時間が経過しても変化しないので、上記ステップS4で用いた値を引き継ぐものとする。そして、図8のステップS403〜S408の処理をx^(Δt)に対して適用することで、x^(Δt)に対する運転余裕指標m^(Δt)を得ることができる。
【0056】
これを、運転者がとり得る複数の操舵角候補θs(0)=θsj(j=1,2,…,N)に対して繰り返すと、各操舵角候補θsjを加えた場合の時刻t=Δtにおける運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を得る。ここで、上記Nは、操舵角候補の候補数である。
この運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を算出するのが図3のステップS6における処理内容である。
【0057】
図10は、図3のステップS6で実行する運転余裕指標予測値算出処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS601では、マイクロプロセッサ10は、操舵角候補θsjをN個生成する。ここでは、現在運転者が操作している操舵角(運転操作量)と操舵速度(運転操作量変化)との情報をもとに、運転者がこの後の時刻Δtの間に実際に取りうる可能性の高い値を、N個決めることで生成する。
【0058】
次にステップS602に移行して、マイクロプロセッサ10は、反復演算のためのインデックスjの値を“1”に初期化し、ステップS603に移行する。
ステップS603では、マイクロプロセッサ10は、インデックスjが“N”に到達したか否かを判定し、j=Nである場合にはそのまま運転余裕指標予測値算出処理を終了し、j≠Nである場合にはステップS604に移行する。
【0059】
ステップS604では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS601で生成した操舵角候補θsjを用いて、上記(29)〜(33)式を積分した式に基づいて状態予測値x^(Δt),y^(Δt),θ^(Δt),β^(Δt),γ^(Δt)を算出する。
次にステップS605では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS604で算出した状態予測値をもとに、状態ベクトルの予測値x^(Δt;θsj)を算出する。
【0060】
ステップS606では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS605で算出した状態ベクトルの予測値x^(Δt;θsj)に対して、図8のステップS403〜S408と同様の処理を実行して、運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を算出する。なお、x^(Δt;θsj)が許容状態集合Xに属さない場合には、運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を“0”とする。
【0061】
そして、ステップS607では、マイクロプロセッサ10は、インデックスjをインクリメントして前記ステップS603に移行する。
図3に戻って、ステップS7では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS6で算出した運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を用いて、回避支援制御のための操舵補助トルク補正値の制御則を構成(更新)する。
前記ステップS6で、N個の操舵角候補それぞれに対してm^(Δt;θsj)を算出しているので、補間により操舵角θsに対する運転余裕指標の関数m^(θs)を定義することができる。
【0062】
図11は、運転余裕指標の関数m^(θs)を示す図である。ここではN=5の場合を示している。
回避支援を行うにあたっては、現在の状態に対する運転余裕指標m(0)よりも運転余裕指標が小さくならないような運転操作を運転者が取るように支援することが望ましい。逆に現在の状態に対する運転余裕指標m(0)よりも運転余裕指標が大きくなるような運転操作を運転者が取っている場合には、回避支援を行う必要性は低くなる。
そこで、適当な余裕幅Δmを設定し、運転余裕指標がm(0)−Δmよりも小さくなる操舵角θsを運転者が取った場合には、運転余裕指標が小さくならない方向へ操舵補助トルクΔTassistを加えるように、通常の操舵補助トルクを補正する。この操舵補助トルクΔTassistが、運転操作支援力に相当する操舵補助トルク補正値であり、ここでは操舵補助トルク補正値ΔTassistの制御則を構成する。
【0063】
図12は、操舵補助トルク補正値ΔTassistの制御則を示す図である。
運転余裕指標の予測値m(0)−Δmとなる操舵角をθs01,θs02とすると、θs01≦θs≦θs02であるときは補正を行わないように操舵補助トルク補正値ΔTassistを設定する(ΔTassist=0)。そして、θs<θs01である場合には、操舵角が大きくなる方向に操舵補助トルクが付加するように、操舵補助トルク補正値ΔTassistを設定する(ΔTassist>0)。一方、θs>θs02である場合には、逆に操舵角が小さくなる方向に操舵補助トルクが付加するように、操舵補助トルク補正値ΔTassistを設定する(ΔTassist<0)。
【0064】
このとき、運転余裕指標の予測値が小さくなるほど(運転余裕指標が許容水準m(0)−Δmを大きく下回るほど)、操舵補助トルク補正値ΔTassistが大きい値となるように制御則を構成する。
以上のような回避支援制御則を構成することにより、障害物回避を行う上で運転者の操舵操作が足りない場合には、ステアリングホイール1を切り増しする方向の操舵補助トルクが作用する。一方、運転者の操舵操作が大きすぎて車線逸脱の可能性が高まるような場合では、操舵を抑制する方向の操舵補助トルクが作用する。
【0065】
このように、図3のステップS7では、回避支援制御則(操舵補助トルク補正値の制御則)を構成する。なお、既に回避支援制御が起動している場合には、新しく算出した制御則でそれまでの制御則を置き換える処理(更新処理)を行う。
ステップS8では、マイクロプロセッサ10は、操舵角センサ3で検出した操舵角θsに基づいて、最新の回避支援制御則をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassistを算出する。次に、実際に補助トルク発生モータ5が出力する操舵補助トルク指令値Tassistを算出し、運転支援制御処理を終了する。
Tassist=TEPS+ΔTassist(θs) ………(38)
ここで、TEPSは通常の操舵補助制御を行うための操舵補助トルク指令値である。
【0066】
また、ステップS9では、マイクロプロセッサ10は、操舵補助トルク補正値の制御則ΔTassist(θs)をメモリから消去し、回避支援制御を行わないような処理を行ってから前記ステップS8に移行する。このとき、回避支援制御が起動していない場合には、特に処理は行わずにそのまま前記ステップS8に移行する。
したがって、このステップS9を通って前記ステップS8に移行した場合、ΔTassist=0となり、TEPSがそのまま操舵補助トルク指令値Tassistとなる。
【0067】
《動作》
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
今、図6に示すように、自車両MCの走行車線前方に障害物Aが存在するものとする。このとき、カメラ19で取得した自車両前方の画像情報をもとに、センサ信号処理部21で、障害物Aの位置座標xP,yP、幅σyおよび奥行きσxを算出すると共に、道路の左端の位置yLおよび右端の位置yRを算出する。また、センサ信号処理部21は、各種センサ群で検出した信号をもとに、車両の前後方向速度vx及び横方向速度vyを算出する(図3のステップS1)。
【0068】
前回の制御サイクルにおいてカメラ19で障害物Aを検出していなかった場合、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルから回避支援制御を起動するものと判定する。そして、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御の起動・更新サイクルであることを示す状態にセットする(ステップS2)。これにより、回避支援制御の起動処理(操舵補助トルク補正値の制御則の生成処理)を開始する。
先ず、運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で設定した、上記(18)〜(26)に示す許容状態集合Xの境界をもとに、現在の車両状態量について運転余裕指標mを算出する(ステップS4)。算出した運転余裕指標mが運転余裕指標閾値mTH以下であるものとすると、回避支援制御が必要な状態であると判断する(ステップS5でNo)。
【0069】
一方、現在の状態の運転余裕指標mが運転余裕指標閾値mTHより大きい場合には、回避支援制御は不要であると判断し(ステップS5でYes)、通常の操舵補助制御のみを実施する。このように、現在の状態の運転余裕指標mが運転余裕指標閾値mTHより大きい場合には、現在の状態xは障害物Aを回避するうえで十分な余裕が残っている状態であると判断し、回避支援制御を作動しない。そのため、必要以上に回避支援制御を介入して運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0070】
回避支援制御が必要であると判断すると、状態変化算出部23は、近い将来に運転者が取りうる操作(操舵角候補θsj)と、それに対して起こりうる車両状態量(状態ベクトルx^(Δt))とを予測する。次に、運転余裕算出部24は、図11に示すように、複数の操舵角候補θsjをそれぞれ加えた場合の運転余裕指標m^(Δt;θsj)を予測し(ステップS6)、補間により操舵角θsに対する運転余裕指標の関数m^(θs)を定義する。そして、定義した運転余裕指標の関数m^(θs)をもとに、図12に示すように、操舵補助トルク補正値の制御則を構成する(ステップS7)。
【0071】
この時点では、運転者は運転余裕指標m(0)となる操舵操作を行っており、θs01≦θs≦θs02であるため、運転支援動作制御部25は、操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)=0に算出する(ステップS8)。したがって、操舵角θsに応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSがそのまま操舵補助トルク指令値Tassistとなり、回避支援制御は介入しない。
その後、運転者が障害物Aを回避するべく、障害物回避に十分なθs=θs3となる操舵操作を行ったものとする。この場合、予測した運転余裕指標m^のうち操舵角センサ3で検出した操舵角θsに対応する運転余裕指標m^(Δt;θs3)は、m(0)−Δm以上となる。これは、運転者が運転余裕を大きくする適切な運転操作を行っていることを示す。
【0072】
そのため、この場合には、運転者による操舵操作だけで障害物Aを回避する動作を継続するものとして、運転支援動作制御部25は、図12をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)=0に算出する(ステップS8)。これにより、操舵角θs=θs3に応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSがそのまま操舵補助トルク指令値Tassistとなり、回避支援制御は介入しない。
【0073】
一方、運転者が、障害物回避に不十分なθs=θs2となる比較的小さい操舵操作を行ったものとする。この場合には、運転者が運転余裕を悪化させる不適切な運転操作を行っているため、運転支援動作制御部25は、図12をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)>0に算出する(ステップS8)。したがって、操舵角θs=θs2に応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSに、操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)を加算した値が操舵補助トルク指令値Tassistとなる。その結果、障害物Aを回避する方向(ステアリングホイール1を切り増しする方向)に操舵操作を支援することができる。
このように、障害物Aの回避に必要な操舵操作が足りない状態である場合には、運転者の操舵操作を支援する操舵補助トルクを付加するので、適切に運転目的を達成することができる。
【0074】
また、運転者がθs=θs5となる比較的大きい操舵操作を行った場合には、障害物回避としては十分な操舵操作であるものの、車線逸脱の可能性が高い状態となる。この場合には、運転支援動作制御部25は、図12をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)<0に算出する(ステップS8)。したがって、操舵角θs=θs5に応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSから、操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)分を減算した値が操舵補助トルク指令値Tassistとなる。その結果、ステアリングホイール1を中立に戻す方向に操舵補助トルクを付加して車線逸脱を防止することができる。
【0075】
このように、回避支援制御則をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassistを算出し、これを付加することで運転者の操舵操作を支援する。この処理は、現在の状態の運転余裕指標mに基づいて、運転余裕が十分に残っており回避支援制御が不要である(ステップS5でYes)と判定するまで継続する。なお、回避支援制御則は所定期間毎に更新を行い、更新後は新たな回避支援制御則をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassistを算出することになる。
【0076】
以上の制御を行うことにより、運転者が運転余裕指標を悪化させないような適切な回避操作を行っている場合には、回避支援制御を停止し、通常の操舵補助制御のみを作動することができる。そのため、運転者に違和感を与えることがない。一方、運転者が運転余裕指標を悪化させるような不適切な回避操作を行っている場合には、悪化が予測される度合に応じた操舵補助トルクを付加することで、回避支援制御を行う。したがって、運転者が適切な回避操作が取れるような支援を行うことができる。
このように、運転者の違和感の抑制と回避支援効果とを両立した制御を実現することができる。
【0077】
なお、図1において、操舵角センサ3が運転操作検出手段を構成し、カメラ19が走行環境検出手段を構成し、補助トルク発生モータ5及びモータコントローラ6が操作支援アクチュエータを構成している。
また、図2において、許容状態集合算出部22が許容状態集合算出手段を構成し、状態変化算出部23が状態量予測手段を構成し、運転余裕算出部24が運転余裕指標予測手段を構成している。なお、許容状態集合算出部22、状態変化算出部23、運転余裕算出部24及び運転支援動作制御部25が運転支援動作制御手段を構成している。
さらに、図3において、ステップS5が制御停止手段を構成し、図8において、ステップS401及びS402が状態量検出手段を構成し、ステップS403〜S408が運転余裕指標算出手段を構成している。
【0078】
《効果》
(1)運転操作検出手段は運転者の運転操作を検出し、走行環境検出手段は自車両の走行環境を検出し、操作支援アクチュエータは、運転者の運転操作を支援する運転操作支援力を発生する。そして、運転支援制御手段は、運転操作検出手段で検出した運転操作が、走行環境検出手段で検出した走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、前記運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく操作支援アクチュエータを駆動する。
このように、運転者の運転操作が運転目的の達成に効果的な操作でない場合に、運転者の運転操作を支援する運転支援制御を行うので、運転者に対して効果的な操作を促すことができる。また、運転者が効果的な操作を行っている場合には運転支援制御の介入を抑制することができるので、運転者の操作違和感を抑制することができる。
【0079】
(2)走行環境検出手段は、走行環境として自車両前方の物体を検出し、前記運転目的は、走行環境検出手段で検出した前方物体との接触を回避する接触回避である。
これにより、効果的に前方物体との接触回避を行う運転操作を取るように、運転者の運転操作を支援することができる。
(3)走行環境検出手段は、走行環境として自車両前方の道路区画線を検出し、前記運転目的は、走行環境検出手段で検出した道路区画線の内側を走行する車線逸脱回避である。これにより、効果的に車線逸脱を防止する運転操作を取るように、運転者の運転操作を支援することができる。
【0080】
(4)許容状態集合算出手段は、運転目的を達成可能な車両状態量の集合である許容状態集合を算出し、状態量予測手段は、運転者が将来取り得る複数の運転操作に対して、それぞれ起こり得る車両状態量を予測する。運転余裕指標予測手段は、状態量予測手段で予測した車両状態量について、許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の余裕を定量的に示す運転余裕指標を予測する。そして、操作状態検出手段で検出した運転操作と運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標とに基づいて、運転支援制御を行う。
これにより、運転中の各時刻において、運転者の運転操作が運転目的を達成可能な操作であるか否かを、運転余裕指標の予測値に基づいて評価しながら運転支援制御を作動することができる。したがって、運転者の運転技量の巧拙にかかわらず、効果的な運転操作への誘導と操作違和感の抑制とを両立することができる。
【0081】
(5)運転余裕指標予測手段は、自車両が発生可能な最大横加速度と、状態量予測手段で予測した車両状態量が許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合に属するために最低限必要な自車両の最大横加速度との差を、運転余裕指標として予測する。
これにより、操作や制御が難しい車体加速度が大きい運動領域を用いない方向に操作支援を行うことができ、運転目的達成の確実性を高めることができる。
【0082】
(6)運転支援制御手段は、運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、許容水準を下回るとき、運転支援制御を行う。
これにより、一定水準以上の運転余裕を確保するように運転支援制御を行うことができる。一方、運転者が一定水準以上の運転余裕となるような適切な運転操作を行っている場合には、運転操作支援力を弱めたり運転支援制御の介入を停止したりすることができるので、運転者の違和感を効果的に抑制することができる。また、許容水準の設定によって、運転目的達成の確実性と運転支援制御の介入に起因する運転者の違和感の抑制との間のバランスを任意に調整・変更することができる。
【0083】
(7)運転支援制御手段は、運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、許容水準を大きく下回るほど、運転操作支援力を大きく発生する。
これにより、運転操作支援力を段階的あるいは連続的に変化して発生することができるので、より効果的に運転目的達成と運転者の違和感抑制とを実現することができる。
【0084】
(8)状態量予測手段は、現在の運転者の運転操作量および運転操作量変化に基づいて、運転者が将来取り得る運転操作を予測すると共に、それに対して起こり得る車両状態量を予測する。
これにより、現在の運転者の運転操作に応じて適切な運転支援制御則を構成することができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0085】
(9)状態量検出手段は現在の車両状態量を検出し、運転余裕指標算出手段は、状態量検出手段で検出した車両状態量について、許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の現在の余裕を定量的に示す運転余裕指標を算出する。制御停止手段は、運転余裕指標算出手段で算出した運転余裕指標が、運転支援制御手段による運転支援制御の必要性の有無を判定する運転余裕指標閾値より大きいとき、運転支援制御手段を停止する。
このように、現在の運転余裕指標が十分に大きい場合には運転支援制御を停止するので、運転支援が不要な場面で制御が起動することに起因する運転者の違和感を抑制することができる。
【0086】
(10)操作支援アクチュエータは、運転者の操舵操作を支援する運転操作支援力を発生する。これにより、操舵を用いた運転操作を効果的に支援することができる。
(11)運転者の運転操作と自車両の走行環境とを検出し、運転者の運転操作が自車両の走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく、操作支援アクチュエータを駆動制御する。
これにより、運転者の運転技量の巧拙にかかわらず、効果的な運転操作への誘導と操作違和感の抑制とを両立した運転支援制御を行うことができる。
【0087】
《第2の実施の形態》
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態において、回避支援制御として操舵操作を支援する制御を行っているのに対し、制動操作を支援するようにしたものである。
《構成》
図13は、第2の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
この車両の基本的な構成は、図1に示す第1の実施形態の車両と同様であるが、各輪のブレーキ圧をマイクロプロセッサ10から制御できる点が異なる。
【0088】
各輪は、それぞれ制動力を発生するブレーキアクチュエータ(以下、単にブレーキと称す)7FL〜7RRを備える。ブレーキ圧センサ・コントローラ8は、ブレーキ7FL〜7RRのブレーキ圧を検出してマイクロプロセッサ10に入力すると共に、マイクロプロセッサ10で算出したブレーキ圧の目標値に基づいて、各輪のブレーキ圧を制御する。
図14は、マイクロプロセッサ10の構成を示すブロック図である。
この図14に示すように、本実施形態のマイクロプロセッサ10は、ブレーキ制御系(ブレーキ圧センサ・コントローラ8)にも指令値を伝達する構成となっていることを除いては、図2に示す第1の実施形態のマイクロプロセッサ10と同様の構成を有する。
【0089】
(運転支援制御処理手順)
次に、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理順について説明する。
図15は、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順を示すフローチャートである。この運転支援制御処理は、図3に示す運転支援制御処理において、ステップS1をステップS11に、ステップS4をステップS41に、ステップS6をステップS61に、ステップS7をステップS71に置換し、ステップS10を追加したことを除いては、図3と同様の処理を行う。したがって、図3との対応部分には同一符号を付し、処理の異なる部分を中心に説明する。
【0090】
ステップS11では、マイクロプロセッサ10は、図3のステップS1で説明した各信号の処理に加えて、加速度センサ17の検出信号から車体に発生している加速度αを算出する処理、及びブレーキ圧センサ・コントローラ8の検出信号からブレーキ圧PBを算出する処理を行う。
ステップS41では、現在の状態の運転余裕指標を算出する。
図16は、ステップS41で実行する運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【0091】
先ず、ステップ411では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxを構成する。本実施形態では、第1の実施形態で用いた5成分に加えて、加速度センサ17で検出した自車両の減速度のX軸方向成分dxを加えた6成分で状態ベクトルxを構成する。
x=(vx vy xP yP yR dx) ………(39)
なお、dxは、−αで近似できるものとする。
ステップS412では、マイクロプロセッサ10は、パラメータpの設定を行う。本実施形態では、第1の実施形態で用いた3つのパラメータに加えて、自車両の前後減速度の最大値αxmaxを加えた4つのパラメータでpを構成する。
p=(αxmax αymax lx ly) ………(40)
【0092】
ステップS413では、マイクロプロセッサ10は、運転者が障害物回避のための操舵操作を行っているかどうかを判定する。ここでは、例えば、障害物を所定距離以内の場所に検出しており、且つ操舵角θが予め設定した操舵角閾値よりも大きい場合に、回避のための操舵を行っているという判定を下すといった方法を用いる。そして、回避のための操舵操作を行っていると判定した場合には後述するステップS418へ移行し、回避のための操舵操作を行っていないと判定した場合にはステップS414へ移行する。
【0093】
ステップS414では、マイクロプロセッサ10は、ブレーキ操作だけで障害物を回避することを前提とした許容状態集合Xbを算出する。ブレーキ操作だけで障害物を回避するには、障害物の手前で自車両が停止する必要がある。したがって、回避が可能となる条件は以下のようになる。
vx2≦2αxmax(xP−lx) ………(41)
すなわち、ブレーキ操作だけで障害物を回避可能な車両状態量の集合を示す制動回避許容状態集合Xbは、以下のようになる。
Xb={x|2αxmax(xP−lx)−vx2≧0} ………(42)
【0094】
ステップS415では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS411で構成した現在の状態ベクトルxが、上記(42)式の制動回避許容状態集合Xbに属しているか否かを判定する。そして、属している場合にはステップS416へ移行し、属していない場合には後述するステップS418に移行する。
ステップS416では、マイクロプロセッサ10は、制動回避許容状態集合Xbに対応する制動回避運転余裕指標mbを算出する。ここでは、運転余裕指標mbとして、自車両が現在の運転操作を継続したときの状態ベクトルxが制動回避許容状態集合Xbに属さなくなるまでの予測時間を用いる。自車両が減速度dxで運動を続けた場合、自車両のX方向の運動は、
x=vxt−(1/2)dxt2 ………(43)
と予測できる。また、制動回避許容状態集合Xbとの境界に到達する時刻をtmとすると、
2αxmax(xP−vxtm+(1/2)dxtm2−lx)−vx2=0 ………(44)
が成り立つ。
【0095】
したがって、上記(44)式を解くと、以下の式が得られる。
dx>αxmaxvx2/(2αxmax(xP−lx)−vx2)のとき、 tm=∞,
dx=0のとき、 tm=(xP−lx)/vx−vx/2αxmax,
上記以外のとき、 tm=(αxmax2vx2−√(αxmax2vx2−dxαxmax(2αxmax(xP−lx)−vx2)))/dxαxmax ………(45)
ここで、tmは運転余裕指標として用いることができるので、mb=tmと定める。
ステップS417では、マイクロプロセッサ10は、運転余裕指標mbが所定の閾値mb0より大きいか否かを判定する。上記閾値mb0は、操舵による回避支援の必要性の有無を判断できる程度に設定する。
【0096】
そして、mb>mb0であると判定した場合には、現在の減速度を維持しても障害物の手前で止まれるか、或いは減速度を強める必要がある場合でもブレーキの踏み増しを行わなければならない時間余裕が十分にあるため、操舵による回避が不要であると判断する。そのため、後述の操舵も考慮した運転余裕指標の算出を行うことなく運転余裕指標算出処理を終了する。
【0097】
一方、前記ステップS417で、mb≦mb0であると判定した場合には、ステップS418に移行する。
ステップS418では、マイクロプロセッサ10は、制動と操舵を両方用いて障害物回避を行う場合の複合回避許容状態集合Xcを算出する。複合回避許容状態集合Xcを算出する基本的な考え方は、第1の実施形態で説明した許容状態集合Xと同じであるが、自車両の減速を考慮した修正を加える必要がある。先ず、自車両の先端部が障害物の先端部と並ぶ時刻tx1を、上記(2)式から下記(46)式に変更する。
tx1=(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx ………(46)
【0098】
なお、dx=0のときは、上記(2)式を用いてtx1を定める。それ以外の箇所は、基本的に第1の実施形態と同じ手順で集合を定義していくことができるが、tx1が上記(46)式に置き換わったことに対応して、上記(23)〜(26)式をそれぞれ以下のように変更する。
r1(x,p)=(1/2)√(4yR/αymax+2vy2/αymax2)−(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx ………(47)
r2(x,p)=−r1(x,p) ………(48)
f1(x,p)=vy(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx+(1/2)αymax((vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx)2−yP−ly ………(49)
f2(x,p)=−(1/2)αymax((vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx)2+(αymaxtc−vy)(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx−αymaxty12−ly ………(50)
以上の置き換えを行うことにより、複合回避許容状態集合Xcは、上記(18)式と同じ式で構成することができる。
【0099】
ステップS419では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが複合回避許容状態集合Xcに属しているかどうかを判定する。そして、属していると判定した場合にはステップS420に移行する。
ステップS420では、マイクロプロセッサ10は、第1の実施形態における運転余裕指標mの算出と同じ要領で運転余裕指標mcを算出し、運転余裕指標算出処理を終了する。ここでは、図8のステップS406〜S408の手順をそのまま踏襲することでmcを算出する。
【0100】
一方、前記ステップS419で、状態ベクトルxが複合回避許容状態集合Xcに属していないと判定した場合には、運転余裕指標算出処理を終了して被害軽減制御への切替を行う。
図15に戻って、ステップS61では、マイクロプロセッサ10は、将来の予測状態の運転余裕指標を算出する。
本実施形態では減速も考慮しているので、第1の実施形態で用いた上記(29)〜(33)式のモデルに減速のダイナミクスを表す次式を加えたモデルを、状態ベクトルの予測に用いる。
v´=−dx ………(51)
また、減速度dxとブレーキ圧pBとの間には、以下のような関係式を規定することができる。
dx=g(pB) ………(52)
【0101】
したがって、操舵角θsとブレーキ圧pBとを決定すれば、車両モデルを積分することで、将来のx、y、θ、β、γ、vを予測することができる。そこで、第1の実施形態と同様に、運転者が取りうる複数の操舵角候補θs(0)=θsjを生成すると共に、ブレーキ制御系で補正可能な複数のブレーキ圧候補pB(0)=pBkを生成する。ここで、k=1,2,…,M(Mは候補数)である。
【0102】
各候補に対して状態予測と運転余裕指標算出とを繰り返すと、操舵角候補θsjおよびブレーキ圧候補pBkを加えた場合の時刻t=Δtにおける運転余裕指標の予測値m^c(Δt;θsj,pBk)が得られる。
なお、前記ステップ41において制動回避運転余裕指標だけを算出している場合には、θsjの生成は行わずにpBkのみを生成し、制動回避運転余裕指標の予測値m^b(Δt;pBk)を算出する。
【0103】
次にステップS71では、マイクロプロセッサ10は、回避支援制御のための操舵補助トルク補正値の制御則の構成と、ブレーキ圧目標値の制御則の構成とを行う。本実施形態では、操舵角θsとブレーキ圧pBとの二変数について運転余裕指標を算出しているので、補間により運転余裕指標に関する二変数関数m^c(θs,pB)が定義できる。操舵補助トルク補正値の制御則の構成については第1の実施形態と同様であるため、ここではブレーキ圧目標値の制御速の構成について説明する。
【0104】
図17は、運転余裕指標の関数m^c(θs,pB)の断面を示す図である。ここでは、操舵角θsをある値に固定したm^c(θs,pB)の断面を、M=3としてプロットした図を示している。
この図17に示すように、ブレーキ圧pBを大きくするほど運転余裕指標は大きくなる。本実施形態では、ブレーキ圧目標値の制御則として、ブレーキ圧候補pBkのうち最も運転余裕指標が大きくなるブレーキ圧(ここでは、pB3)を、ブレーキ圧目標値pB*として用いる制御則を構成する。
【0105】
なお、ここでは、運転余裕指標が最も大きくなるブレーキ圧をブレーキ圧目標値pB*としているが、ブレーキ圧候補pBkのうち運転余裕指標が許容水準を上回るブレーキ圧を選定し、これをブレーキ圧目標値pB*として用いる制御則を構成することもできる。
また、このステップS71では、制動回避運転余裕指標の予測値m^b(Δt;pBk)だけを算出している場合、第1の実施形態で示した操舵に関する制御則(操舵補助トルク補正値の制御則)の構成は行わない。
また、ステップS10では、実際にブレーキ圧制御系に指令する増圧指令値を算出する。前記ステップS71でブレーキ圧目標値pB*を設定しているので、現在のブレーキ圧がpB*よりも小さければpB*まで増圧する指令値を生成・出力する。一方、現在のブレーキ圧がpB*以上である場合には、増圧指令値を“0”とする。
【0106】
《動作》
次に、第2の実施形態の動作について説明する。
今、図6に示すように、自車両MCの走行車線前方に障害物Aが存在するものとする。このとき、カメラ19で取得した自車両前方の画像情報をもとに、センサ信号処理部21で、障害物Aの位置座標xP,yP、幅σyおよび奥行きσxを算出すると共に、道路の左端の位置yLおよび右端の位置yRを算出する。また、センサ信号処理部21は、各種センサ群で検出した信号をもとに、車両の前後方向速度vx、横方向速度vy及び前後方向減速度dxを算出する(図15のステップS11)。
【0107】
前回の制御サイクルにおいてカメラ19で障害物Aを検出していなかった場合、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルから回避支援制御を起動するものと判定する。そして、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御の起動・更新サイクルであることを示す状態にセットする(ステップS2)。これにより、回避支援制御の起動処理を開始する。
【0108】
運転者が障害物回避のための操舵操作を行っていないものとすると、運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で設定した、上記(42)式に示す制動回避許容状態集合Xbに対応する運転余裕指標mbを算出する(ステップS41)。このとき、運転者の制動操作が、操舵による回避が不要な程度である場合には、運転余裕指標mbが閾値mb0より大きくなり、操舵を考慮した運転余裕指標mcの算出は行わない。
そして、上記運転余裕指標mbが運転余裕指標閾値mbTH以下であるものとすると、回避支援制御が必要な状態であると判断する(ステップS5でNo)。
【0109】
すると、状態変化算出部23は、近い将来に運転者が取りうる操作(ブレーキ圧候補pBk)と、それに対応する車両状態量(状態ベクトルx^(Δt))とを予測する。次に、運転余裕算出部24は、図17に示すように、複数のブレーキ圧候補pBkをそれぞれ加えた場合の運転余裕指標m^b(Δt;pBk)を予測し(ステップS61)、補間によりブレーキ圧候補pBに対する運転余裕指標の関数m^b(pB)を定義する。そして、定義した運転余裕指標の関数m^b(pB)をもとに、最も運転余裕指標が大きくなるブレーキ圧をブレーキ圧の目標値pB*として用いる制御則を構成する(ステップS71)。
【0110】
このとき、運転者は操舵操作を行っていないため、通常の操舵補助トルク指令値TEPS=0となる。また、操舵による回避は不要な状態であるため、操舵による回避支援のための操舵補助トルク補正値ΔTassist=0となる。そのため、運転支援動作制御部25は、操舵補助トルク指令値Tassist=0に算出し(ステップS8)、操舵補助制御は行わない。
【0111】
また、このとき運転者は運転余裕指標mb(0)となる制動操作を行っており、このときのブレーキ圧pB(0)はブレーキ圧の目標値pB*(=pB3)より小さい。そのため、運転支援動作制御部25は、現在のブレーキ圧をブレーキ圧の目標値pB*まで増圧するための指令値を生成し、ブレーキ圧センサ・コントローラ8に出力する(ステップS10)。これにより、障害物Aの手前で自車両が確実に停止するように制動操作を支援することができる。
【0112】
その後、運転者が障害物Aとの接触を回避するべく、ブレーキペダルを大きく踏み込んだものとする。このときのブレーキ圧がブレーキ圧の目標値pB*(=pB3)以上であるものとする。この場合には、運転者による制動操作だけで障害物との接触回避が可能な状態であると判断し、運転支援動作制御部25は、ブレーキ圧の増圧指令値を出力しない。したがって、制動による回避支援制御が介入するのを防止して、必要以上に制動力を付加するのを抑制することができ、運転者の違和感を抑制することができる。
【0113】
このように、運転者が制動操作だけを行っており、なおかつ制動操作だけで障害物との接触を回避できると予想される状況では、必要に応じてブレーキ圧の増圧制御を行うことで、運転者のブレーキ操作を支援する。これにより、運転者の違和感の抑制と運転目的の達成との両立を実現することができる。
一方、制動回避運転余裕指標mbが閾値mb0以下であり制動操作だけでは障害物回避が困難な場合や、運転者が操舵操作も行っている場合には、制動と操舵とを両方用いて回避支援を行う。このとき、運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で設定した、複合回避許容状態集合Xcに対応する運転余裕指標mcを算出する(ステップS41)。
【0114】
そして、上記運転余裕指標mcが運転余裕指標閾値mcTH以下であるものとすると、回避支援制御が必要な状態であると判断する(ステップS5でNo)。
すると、状態変化算出部23は、近い将来に運転者が取りうる操作(操舵角候補θsj,ブレーキ圧候補pBk)と、それに対応する状態(状態ベクトルx^(Δt))とを予測する。次に、運転余裕算出部24は、操舵角候補θsj及びブレーキ圧候補pBkをそれぞれ加えた場合の運転余裕指標m^c(Δt;θsj,pBk)を予測し(ステップS61)、補間により運転余裕指標に関する二変数関数m^c(θs,pB)を定義する。そして、定義した運転余裕指標の関数m^c(θs,pB)をもとに、回避支援制御則を構成する(ステップS71)。すなわち、ここでは操舵補助トルク補正値の制御則と、ブレーキ圧目標値の制御則とを構成する。
【0115】
そして、運転支援動作制御部25は、構成した回避支援制御則をもとに、運転者の操舵操作(操舵角θs)及び制動操作(ブレーキ圧pB)に応じた操舵補助トルク補正値ΔTassist及びブレーキ圧の目標値pB*を算出する(ステップS8,S9)。
これにより、運転者が制動操作だけを行っており、なおかつ制動操作だけでは障害物の回避が困難であると予想される状況では、制動による回避支援制御に加えて、操舵による回避支援制御を行うことができる。また、運転者が操舵操作を行っている場合には、必要に応じて制動と操舵の両方による回避支援制御を行うことができる。このように、制動と操舵を組み合わせた適切な回避支援制御を提供できる。
【0116】
なお、図13において、補助トルク発生モータ5、モータコントローラ6、ブレーキアクチュエータ7FL〜7RR及びブレーキ圧センサ・コントローラ8が操作支援アクチュエータを構成している。
また、図16において、ステップS411及びS412が状態量検出手段を構成し、ステップS415,S416,S419,S420が運転余裕指標算出手段を構成している。
【0117】
《効果》
(12)運転余裕指標予測手段は、状態量予測手段で予測した車両状態量について、当該車両状態量の予測に用いた運転操作を継続したときの車両状態量が、許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合から逸脱するまでの時間を予測し、これを運転余裕指標とする。
これにより、装置側からの運転者への働きかけに対する運転者の反応速度を考慮した上で、適切なタイミングで運転支援制御を開始することができる。
(13)運転支援制御手段は、運転者が将来取り得る運転操作のうち、運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標が最も大きくなる運転操作を実現するための運転操作支援力を発生する。これにより、運転目的達成の確実性をより高めることができる。
(14)操作支援アクチュエータは、運転者の制動操作を支援する運転操作支援力を発生する。これにより、制動を用いた運転操作を効果的に支援することができる。
【0118】
《第3の実施の形態》
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態は、前述した第1の実施形態において、静止している障害物を回避する場面を想定しているのに対し、移動している障害物を回避する場面を想定したものである。
《構成》
図18は、第3の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
この車両の基本的な構成は、図1に示す第1の実施形態の車両と同様であるが、前輪操舵系の自動制御システムが組み込まれている点で異なる。
すなわち、この車両は、前輪操舵系の自動制御システムに関係する要素として、クラッチ31、転舵角センサ32、転舵モータ33及び転舵角サーボコントローラ34を備える。
【0119】
障害物の回避支援が必要であると判断した場合、クラッチ31を切ってステアリングホイール1と転舵機構とを切り離す。そして、マイクロプロセッサ10からの転舵角指令をもとに、転舵角サーボコントローラ34が転舵角センサ32と転舵モータ33とを用いて操舵系のサーボ制御を行うことで、操向輪の転舵角を自動制御して障害物回避モードに移行する。
なお、転舵モータ33は、クラッチ31を締結しているときには、前述した第1の実施形態と同様の通常の操舵補助機能を実現する。
【0120】
本実施形態のマイクロプロセッサ10のブロック図は、図2におけるモータコントローラ6と補助トルク発生モータ5とを、転舵角サーボコントローラ34と転舵モータ33にそれぞれ置き換える点を除いては、図2に示すマイクロプロセッサ10と同様である。
本実施形態では、図19に示すように、障害物がY軸方向に移動する場面で回避支援を行うことを想定し、障害物の移動を想定した許容状態集合および運転余裕指標を算出する。
【0121】
(運転支援制御処理手順)
次に、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順について説明する。
図20は、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS12では、マイクロプロセッサ10は、図3のステップS1で説明した各信号の処理に加えて、障害物のY軸方向の移動速度vPを算出する処理を行う。
ステップS22では、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルにおける処理内容を決定するための判定を行う。
【0122】
図21は、ステップS22で実行する処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS221で、マイクロプロセッサ10は、回避対象となる障害物を検出しているか否かを判定する。そして、障害物を検出している場合にはステップS222へ移行し、障害物を検出していない場合には後述するステップS225へ移行する。
ステップS222では、マイクロプロセッサ10は、現在、回避支援制御を実行しているか否かを判定する。そして、回避支援制御を実行していない場合にはステップS223に移行し、クラッチ開放指令を出力してから、ステップS224へ移行する。一方、回避支援制御を実行している場合には、そのままステップS224に移行する。
【0123】
ステップS224では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御実行サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
また、ステップS225では、マイクロプロセッサ10は、図5のステップS206と同様に、自車両と接触する可能性のある障害物が存在するか否かの判定を行う。そして、障害物が存在する可能性が高い場合にはステップS226に移行し、障害物が存在する可能性が低い場合には後述するステップS227に移行する。
ステップS226では、マイクロプロセッサ10は、最後に障害物を検出したときの検出データから現在時刻における障害物情報を外挿演算等によって予測する処理を行い、前記ステップS222に移行する。
【0124】
ステップS227では、マイクロプロセッサ10は、回避支援制御の実行によりクラッチ31が開放状態になっているか否かを判定する。そして、クラッチ31が開放中である場合にはステップS228へ移行し、クラッチを締結して通常の運転モードに復帰する制御を実行してからステップS229に移行する。このステップS228では、運転者の操舵角と前輪操舵角とが上記(1)式の関係を満たすように前輪舵角を調整する制御を行い、上記(1)式の関係が満たされたところでクラッチを締結するという制御シーケンスを実行する。
一方、前記ステップS227でクラッチ31が締結状態にあると判定した場合には、そのままステップS229に移行する。
ステップS229では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御停止サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
【0125】
図20に戻って、ステップS32では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS2で設定した判定フラグに基づいて処理を分岐する。そして、現在のサイクルが回避支援制御の実行サイクルであると判定した場合にはステップS42に移行し、回避支援制御の停止サイクルであると判定した場合にはそのまま運転支援制御処理を終了する。
ステップS42では、マイクロプロセッサ10は、障害物が移動することを想定した許容状態集合の構成と運転余裕指標の算出とを行う。ここでは、簡単のためにvP>0の場合に限定して説明を行う。
【0126】
具体的な処理内容を説明する前に、自車両が移動する障害物を回避するための条件を整理する。障害物が静止している場合には、図7に示す時刻tx1において自車両と障害物とが接触していなければ、それ以降の時刻において自車両と障害物とが接触する可能性はないとみなすことができる。しかし、障害物が移動している場合には、自車両が障害物の横を通過している間に自車両と障害物とが接触する可能性がある。そのため、自車両の後端部が障害物の後端部を通過するまで、自車両と障害物とが接触しないことを条件として追加する必要がある。
【0127】
そこで、自車両の後端部が障害物の後端部を通過する時刻を新たにtx2と定義する。
図22は、障害物回避中の特定の一場面を示す図であり、時刻tx1および時刻tx2における自車両と障害物との位置関係を示している。
自車両のX軸方向の速度成分がほぼ一定であると仮定すると、時刻tx2は次式のように予測することができる。
tx2=(xP+lx)/vx ………(53)
ここで、障害物の動きが等速直線運動であると仮定すると、自車両が障害物を回避する条件は、
y(tx1)−(yP+vPtx1)≧ly ………(54)
y(tx2)−(yP+vPtx2)≧ly ………(55)
と書き直すことができる。
【0128】
前述した第1の実施形態と同様、これらの条件は、tx1、tx2とty1、ty2との大小関係によって以下の場合分けが生じる。
[1]tx1<ty1かつtx2<ty1
[2]tx1<ty1かつty1≦tx2<ty2
[3]tx1<ty1かつtx2≧ty2
[4]ty1≦tx1<ty2かつty1≦tx2<ty2
[5]ty1≦tx1<ty2かつtx2≧ty2
[6]tx1≧ty2かつtx2≧ty2
これらの場合分けのうち、tx1≧ty2とtx2≧ty2に対応する条件を書き下すと、
yR−(yP+vPtx1)≧ly ………(56)
yR−(yP+vPtx2)≧ly ………(57)
となる。
【0129】
これらは右方向に回避経路が存在するための必要条件になっている。さらに、上記(57)式は(56)式を含むので、上記(57)式を第1の実施形態の上記(16)式に相当する必要条件とみなすことができる。そこで、上記(11)式とあわせて、右方向への回避が可能となる共通の必要条件を定める上記(19)式の集合Qを、
【0130】
【数2】
で表現することができる。
【0131】
場合分け[6]に該当する条件はすべて上記(58)式の集合Qに含まれるので、[6]については考察の対象から外すことができる。
ここで、以下の集合を定義する。
Rij={x|rij(x,p)}, i=1,2, j=1,2 ………(59)
r11(x,p)=r1(x,p) ………(60)
r12(x,p)=r11(x,p) ………(61)
r21(x,p)=(1/2)√(4yR/αymax+2vy2/αymax2)−vy/αymax−(xP+lx)/vx ………(62)
r22(x,p)=−r21(x,p) ………(63)
Fij={x|fij(x,p)≧0}, i=1,2, j=1,2 ………(64)
f11(x,p)=(vy−vP)(xP−lx)/vx+(1/2)αymax(xP−lx)/vx−yP−ly ………(65)
f12(x,p)=−(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2+(αymaxtc−vy−vP)(xP−lx)/vx−αymaxty12−yP−ly ………(66)
f21(x,p)=(vy−vP)(xP+lx)/vx+(1/2)αymax(xP+lx)/vx−yP−ly ………(67)
f22(x,p)=−(1/2)αymax((xP+lx)/vx)2+(αymaxtc−vy−vP)(xP+lx)/vx−αymaxty12−yP−ly ………(68)
【0132】
このとき、許容状態集合Xは以下のように構成される。
X=Q∩((R1121∩F1121)∪(R1122∩F1122)∪(R11∩F11)∪(R1222∩F1222)∪(R12∩F12)) ………(69)
ただし、
R1121=(R11∩R21),R1122=(R11∩R22),R1222=(R12∩R22) ………(70)
F1121=(F11∩F21),F1122=(F11∩F22),F1222=(F12∩F22) ………(71)
である。表現形式は複雑になっているが、基本的には集合Q、Rij、Fijの組み合わせで構成した集合であり、運転余裕指標の算出に関しては第1の実施形態と同様のアルゴリズムで算出することができる。
【0133】
図23は、ステップS42で実行する運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS421では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxを構成する。本実施形態では、第1の実施形態で用いた5成分に加えて、障害物の移動速度vPを加えた6成分で状態ベクトルを構成する。
x=(vx vy xP yP yR vP) ………(72)
【0134】
ステップS422では、マイクロプロセッサ10は、図8のステップS402と同様にパラメータpを構成し、ステップS423に移行する。
ステップS423では、マイクロプロセッサ10は、図8のステップS403と同様に、状態ベクトルxが集合Qに属しているか否かを判定する。そして、xが集合Qに属していないと判定した場合には被害軽減制御への切替を行い、xが集合Qに属していると判定した場合にはステップS424に移行する。
【0135】
ステップS424では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが4つの集合Rij(i=1,2,j=1,2)のどれに属しているかを上記(60)〜(63)式に基づいて判定する。上述した第1の実施形態と異なり、複数の集合に属している可能性もあるので、属している集合のインデックスの組み合わせをすべて記憶しておく。
次にステップS425では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが4つの集合Fij(i=1,2,j=1,2)のどれに属しているかを上記(65)〜(68)式に基づいて判定する。こちらも複数の集合に属している可能性もあるので、属している集合のインデックスの組み合わせをすべて記憶しておく。
【0136】
次にステップS426では、マイクロプロセッサ10は、上記(69)式に基づいて、状態ベクトルxが許容状態集合Xに属しているかどうかを判定する。これは、xが上記(69)式を構成している各集合R****、F****(****は任意のインデックス)に属しているかどうかを判定したうえで、R****とF****について同じ組み合わせのインデックスの集合にxが属しているかどうかをチェックすることで判定することができる。そして、状態ベクトルxが許容状態集合Xに属していない場合には被害軽減制御への切替を行い、属している場合にはステップS427に移行する。
【0137】
ステップS427では、マイクロプロセッサ10は、集合Q,Rij,Fijのそれぞれについてxが含まれる最小のαymaxを算出する。
次にステップS428では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS427で算出したαymaxを比較し、その中の最小値を最大横加速度限界値α ̄ymaxとして算出してステップS429に移行する。
ステップS429では、上記(28)式に基づいて運転余裕指標mの値を算出してから、運転余裕指標算出処理を終了する。
【0138】
図20に戻って、ステップS52では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS42で算出した運転余裕指標mが所定の運転余裕指標閾値mTHよりも大きいか否かを判定する。そして、m>mTHである場合には、回避支援制御が不要であると判断してそのまま運転支援制御処理を終了する。一方、m≦mTHである場合にはステップS62に移行する。
ステップS62では、マイクロプロセッサ10は、将来の予測状態の運転余裕指標を算出する。ここでの処理は、基本的には図3のステップS6と同じであるが、操舵角候補θsjのかわりに前輪舵角候補δjを生成し、運転余裕指標mと前輪舵角候補δjとの対応関係を算出する点で異なる。
【0139】
そして、ステップS72では、マイクロプロセッサ10は、前輪舵角目標値の算出と出力とを行う。先ず、前記ステップS62で算出した運転余裕指標mと前輪舵角候補δjとの対応関係に基づいて、前輪舵角候補δjに関する運転余裕指標mの関数m(δ)を構成する。次に、生成した前輪舵角候補δjの範囲内で運転余裕指標mが最大となる前輪舵角δを、前輪舵角の目標値δ*として算出する。算出した結果は、転舵角サーボコントローラ34に出力する。
以上の回避制御を行うことにより、運転余裕指標を大きく保つように前輪舵角を自動制御することができ、運転者の操作技量によらない確実性の高い回避運動を実現することができる。
【0140】
《効果》
(15)運転目的を達成するための目標とすべき操作量を実現するように、自車両の操舵系を自動制御するので、運転目的達成の確実性をより高めることができる。
《変形例》
(1)上記第1の実施形態においては、最大横加速度の限界値α ̄ymaxと自車両が発生可能な最大横加速度αymaxとの差を運転余裕指標mとして定義する場合について説明したが、最大横加速度の限界値α ̄ymaxをそのまま運転余裕指標mとして用いることもできる。最大横加速度限界値α ̄ymaxが小さいほど回避運動を行う場合の余裕が大きいと考えられる。したがって、この場合にも適切に運転余裕指標mを算出することができる。
【0141】
(2)上記第1の実施形態においては、運転者が運転余裕を大きくする操舵操作を行っているとき(運転余裕指標がm(0)−Δm以上のとき)、回避支援制御を行わないように操舵補助トルク補正値ΔTassist=0とする場合について説明したが、運転者に違和感を与えない程度であれば操舵補助トルク補正値ΔTassistを付加することもできる。
【0142】
(3)上記各実施形態においては、いずれも自車両前方の障害物を回避する操作を支援することを目的としているが、本発明は必ずしも障害物回避だけを想定した装置への適用に留まらない。例えば、図24に示すように、道路の幅が減少している場面にも適用可能である。この場面では障害物は存在していないが、道路幅が広い区間から狭い区間に移行するために操舵操作が必要となる。このとき、図24の点線で示した道路幅が変化する領域を仮想的に障害物が存在しているものとみなせば、上記各実施形態で示したアルゴリズムを用いて運転支援を提供することができる。
【0143】
(4)上記各実施形態においては、現在又は将来の車両状態量に基づいて自車両が接触回避し得る障害物の大きさの最大値を予測し、予測した最大値とカメラ19で検出した障害物の実際の大きさとの差を、運転余裕指標として算出することもできる。このように、障害物の大きさに基づいて運転余裕指標を算出することで、運転目的達成のために必要な車両運動の位置精度を直接的に反映した評価指標に基づいた運転支援を行うことができる。
【符号の説明】
【0144】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 操舵角センサ
4 操舵トルクセンサ
5 補助トルク発生モータ
6 モータコントローラ
7FL〜7RR ブレーキ
8 ブレーキセンサ・コントローラ
10 マイクロプロセッサ
16FL〜16RR 車輪速センサ
17 加速度センサ
18 ヨーレートセンサ
19 カメラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の運転操作を支援する車両用運転支援装置及び車両用運転支援方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の操舵負担を軽減するための操舵補助トルクを操舵系に付与するパワーステアリング装置がある。
このようなパワーステアリング装置として、自車両が自車両前方の障害物に接触するまでの余裕時間が短いほど、操舵補助トルクが大きくなるように制御ゲインを設定するものがある(例えば、特許文献1参照)。これにより、運転者は、容易かつ速やかに接触回避のための操舵操作を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−43741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のパワーステアリング装置のように余裕時間に基づいて操舵補助トルクの大きさを変更するだけでは、十分な運転支援効果が得られない場合がある。
例えば、運転者の操舵角が、自車両前方の障害物を回避するうえで十分な大きさでない場合には、ステアリングホイールを切り増しする方向に操舵操作を支援すべきである。一方、運転者の操舵角が大きすぎて車線逸脱が発生する可能性が高い場合には、ステアリングホイールを切り戻しする方向に操舵操作を支援すべきである。このように、運転者の運転操作に応じた適切な運転支援を行うことが望ましい。
そこで、本発明は、運転者の運転操作に応じて適切に運転支援を行うことができる車両用運転支援装置及び車両用運転支援方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用運転支援装置は、運転操作検出手段で運転者の運転操作を検出し、走行環境検出手段で自車両の走行環境を検出する。そして、運転操作検出手段で検出した運転操作が、走行環境検出手段で検出した走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、運転支援制御手段で、前記運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく操作支援アクチュエータを駆動する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、運転者が運転目的の達成に効果的な操作を行っていない場合に、運転者の運転操作を支援する運転支援制御を行うので、運転者に対して上記効果的な操作を促すことができる。また、運転者が運転目的の達成に効果的な操作を行っている場合には、運転支援制御の介入を抑制して運転者の違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
【図2】第1の実施形態におけるマイクロプロセッサ10の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態の運転支援制御処理順を示すフローチャートである。
【図4】本発明で適用する座標系を示す図である。
【図5】第1の実施形態の処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態における適用場面の一例を示す図である。
【図7】障害物回避中の特定の一場面を示す図である。
【図8】第1の実施形態の運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【図9】タイヤ横力関数を示す図である。
【図10】第1の実施形態の運転余裕指標予測値算出処理手順を示すフローチャートである。
【図11】運転余裕指標の関数m^(θs)を示す図である。
【図12】操舵補助トルク補正値の制御則を示す図である。
【図13】第2の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
【図14】第2の実施形態におけるマイクロプロセッサ10の構成を示すブロック図である。
【図15】第2の実施形態の運転支援制御処理順を示すフローチャートである。
【図16】第2の実施形態の運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【図17】運転余裕指標の関数m^c(θs,pB)の断面を示す図である。
【図18】第3の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
【図19】第3の実施形態における適用場面の一例を示す図である。
【図20】第3の実施形態の運転支援制御処理順を示すフローチャートである。
【図21】第3の実施形態の処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
【図22】障害物回避中の特定の一場面を示す図である。
【図23】第3の実施形態の運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【図24】本発明の適用場面の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
《第1の実施の形態》
《構成》
図1は、本発明の第1の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
この車両は、運転者が操作するステアリングホイール1を備える。ステアリングシャフト(ステアリングコラム)2は、ステアリングホイール1と一体結合している。ステアリングシャフト2上には、操舵角センサ3と操舵トルクセンサ4と補助トルク発生モータ5とを設ける。
モータコントローラ6は、後述するマイクロプロセッサ10で算出した駆動指令値に基づいて、補助トルク発生モータ5を駆動制御する。これにより、操舵系に操舵補助トルクを付加する。
【0009】
また、車輪速センサ16FL,16FRは、非駆動輪である前左右輪の車輪速度を検出する。加速度センサ17は、車両に発生する横加速度を検出する。ヨーレートセンサ18は、車両に発生するヨーレートを検出する。
さらに、車室内前方には、自車両の走行環境を検出するためのカメラ19を設置する。カメラ19は、自車両前方の道路状況を撮影し、自車両前方の物体(障害物等)や道路境界(白線等)を検出する。本実施形態では、カメラ19を2台設置し、前方物体の方向だけでなく距離も検出可能な構成とする。
【0010】
マイクロプロセッサ10は、A/D変換回路、D/A変換回路、中央演算処理回路、メモリ等を含む集積回路である。このマイクロプロセッサ10は、メモリに格納したプログラムに従って各種センサで検出した信号の処理と、補助トルク発生モータ5の駆動指令値の算出処理とを行う。
本実施形態では、運転者による運転操作が、自車両の走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、当該運転目的を達成するための操舵補助トルク(運転操作支援力)を発生するべく、補助トルク発生モータ5を駆動制御する。ここで、上記運転目的とは、カメラ19で検出した自車両前方の障害物との接触回避、及び道路境界を逸脱しないように走行する車線逸脱回避である。
【0011】
(マイクロプロセッサの構成)
図2は、第1の実施形態における10の構成を示すブロック図である。
この図2に示すように、マイクロプロセッサ10は、センサ信号処理部21と、許容状態集合算出部22と、状態変化算出部23と、運転余裕算出部24と、運転支援動作制御部25とを備える。
マイクロプロセッサ10は、各種センサ群(操舵角センサ3、操舵トルクセンサ4、車速センサ16FL,16FR、加速度センサ17、ヨーレートセンサ18、カメラ19)で検出した信号を入力する。
【0012】
センサ信号処理部21は、各種センサ群から入力した信号を同一の座標系上に展開した情報へと変換し、車両運動と障害物に関する情報とを一つの状態ベクトルにまとめる。具体的な処理については後述する。
許容状態集合算出部22は、カメラ19で検出した障害物との接触を回避できる状態ベクトルの範囲(集合)を算出する。
状態変化算出部23は、車両運動および障害物の状態が現在の状態からどのような状態へ変化するのかを算出(予測)する。
【0013】
運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で算出した状態ベクトルの集合と、センサ信号処理部21で算出した状態ベクトルとの位置関係に基づいて、運転余裕指標を算出する。ここで、運転余裕指標とは、自車両が遭遇している状況が、障害物を回避する上でどれくらいの余裕がある状況であるかを定量的な指標として示すものである。
また、運転余裕算出部24は、状態変化算出部23で予測した状態量ついても運転余裕指標を算出(予測)する。
【0014】
運転支援動作制御部25は、運転余裕算出部24で算出した運転余裕指標を入力する。そして、現在の運転余裕および運転余裕の変化予測に基づいて、回避操作支援の必要性を判定する。回避操作支援の必要性がないと判定した場合には、通常の操舵補助制御における操舵補助トルクを付加するための補助トルク発生モータ5の駆動指令値(モータの電流指令値)を算出する。一方、回避操作支援の必要性があると判定した場合には、回避操作支援のための補正を加えた操舵補助トルクを付加するための補助トルク発生モータ5の駆動指令値(モータの電流指令値)を算出する。算出した駆動指令値はモータコントローラ6に入力する。
【0015】
(運転支援制御処理手順)
次に、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理順について説明する。
図3は、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順を示すフローチャートである。この運転支援制御処理は、所定の制御周期で繰り返し実行する。
先ずステップS1では、マイクロプロセッサ10は、各種センサ群からの信号を読み込み、車両の運動状態、障害物の状態および道路境界に関する情報を、予め設定した座標系上の値として算出する。ここでは、図4に示すように、道路の進行方向に沿ってX軸を、X軸と垂直方向にY軸を設定し、自車両MCの重心位置を原点とした座標系を適用する。
【0016】
車両の運動状態としては、車両速度v、ヨーレートγ、ヨー角θ、車体すべり角β、前輪の転舵角δを用いる。車両速度vは、車輪速センサ16FL,16FRで検出した非駆動輪の車輪速度の平均値とする。ヨーレートγは、ヨーレートセンサ18により検出する。ヨー角θは、自車走行車線が直線であると仮定し、道路境界と自車両の向いている方向とのなす角を画像処理によって推定したり、適当な初期値を定め、ヨーレートセンサ18の検出値を積分したりすることで求める。車体すべり角βは、車輪速度、ヨーレート、横加速度等の信号に基づいて推定する。前輪転舵角δは、操舵角センサ3で検出した操舵角θsと操舵系のギア比Kとに基づいて、次式をもとに算出する。
δ=K・θs ………(1)
【0017】
また、カメラ19で自車両前方の障害物Aを検出している場合には、障害物Aの状態として、障害物Aの中心点の位置座標xP=(xP yP)、および障害物Aの幅σy、奥行きσxを算出する。これら各値は、カメラ19で取得した画像情報を処理することで算出する。奥行きσxは、撮影方向によっては測定が困難な場合もあるが、その場合には便宜的に幅σyと同じ値を設定する。
なお、カメラ19で障害物を検出していない場合には、障害物に関する物理量の算出は行わない。
【0018】
さらに、道路境界に関する情報として、カメラ19で検出した道路の左端および右端の位置を上記座標系上の値に変換し、それぞれY=yL, Y=yRを算出する。
次に、ステップS2では、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルにおける処理内容を決定するための判定を行う。具体的には、現在の制御サイクルが回避支援制御を実行するサイクルであるか、回避支援制御の制御則を更新するサイクルであるか、或いは回避支援制御を停止するサイクルであるかを判定する。
【0019】
図5は、図3のステップS2で実行する処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS201で、マイクロプロセッサ10は、現在、回避支援制御を実行しているか否かを判定する。そして、回避支援制御を実行している場合にはステップS202に移行し、回避支援制御を実行していない場合には後述するステップS204に移行する。
ステップS202では、マイクロプロセッサ10は、回避支援制御の更新時刻であるか否かを判定する。
【0020】
本実施形態では、将来予測に基づいて回避支援制御のための操舵補助トルク補正値の制御則をリアルタイムで構成し、所定の時間間隔毎に新たな予測に基づいて操舵補助トルク補正値の制御則を更新する構成をとる。そのため、構成した制御則に基づいて操舵補助トルク補正値を算出する制御サイクルと、新たな予測に基づいて操舵補助トルク補正値の制御則を更新する制御サイクルの二つが混在する。ここで、上記所定の時間間隔は、操舵補助制御の制御周期より長い時間に設定する。
【0021】
このステップS202では、現在の制御サイクルが、操舵補助トルク補正値の制御則の更新サイクルにあたっているか否かを判定する。そして、更新サイクルにあたっていない場合にはステップS203に移行し、更新サイクルにあたっている場合には後述するステップS204に移行する。
ステップS203では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御の実行サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
【0022】
また、ステップS204では、マイクロプロセッサ10は、自車両と接触する可能性のある障害物を検出しているか否かを判定する。そして、検出している場合にはステップS205に移行し、検出していない場合には後述するステップS206に移行する。
ステップS205では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが操舵補助トルク補正値の制御則の更新サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
【0023】
ステップS206では、マイクロプロセッサ10は、カメラ19では障害物を検出していないが、自車両と接触する可能性のある障害物が存在する可能性があるか否かを判定する。これは、前回の制御サイクルで障害物を検出していたが、障害物がセンサの視野角から一時的に外れることで障害物が検出できなくなった状況でも、回避支援制御を継続するための処理である。
このステップS206で、障害物が存在する可能性が高いと判定した場合にはステップS207に移行し、障害物が存在する可能性が低いと判定した場合には後述するステップS208に移行する。
【0024】
ステップS207では、マイクロプロセッサ10は、最後に障害物を検出したときの検出データに基づいて、現在時刻における障害物の状態を外挿演算等によって予測し、前記ステップS205に移行する。
ステップS208では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、回避支援制御の停止を示す状態にセットして、処理内容判定処理を終了する。
【0025】
図3に戻って、ステップS3では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS2で設定した判定フラグに基づいて処理を分岐する。現在のサイクルが回避支援制御の制御則の更新サイクルであると判定した場合にはステップS4に移行し、回避支援制御の実行サイクルであると判定した場合には後述するステップS8に移行する。また、現在のサイクルが回避支援制御の停止サイクルであると判定した場合には後述するステップS9に移行する。
ステップS4では、マイクロプロセッサ10は、自車両が障害物を回避可能な状態量の集合を表す許容状態集合の算出と、それに基づく現在の状態における運転余裕指標の算出とを行う。
先ず、許容状態集合と運転余裕指標の概念について説明する。
【0026】
(許容状態集合の概念)
ここでは簡単のため、図6の場面において自車両MCが障害物Aを回避する方向を右方向に限定し、回避は操舵のみで行うものと仮定する。
許容状態集合を求めるにあたって、自車両が障害物を回避可能な限界条件とその時の回避挙動を明確にする必要がある。以下、限界条件を導出するために、自車両の運動を質点モデルで近似して運動の解析を行う。ここでは、現在時刻をt=0と定義する。
【0027】
自車両が制動を行わずに走行した場合、図7に示すように、自車両の先端部が障害物の先端部と並ぶ時刻をtx1と定義すると、時刻tx1は次式のように予測することができる。
tx1=(xP−lx)/vx ………(2)
ここで、vxは自車両のX軸方向の速度成分、lxは自車両の先端部と障害物の先端部とが並んだときの自車両と障害物との重心点間のX軸方向の距離であり、それぞれ以下の式で表される。
vx=vcos(θ+β),
lx=(σx+sx)/2 ………(3)
ここで、sxは自車両の長さである。
【0028】
次に、自車両が右方向に回避運動を行う場合の限界挙動について考える。
自車両が最も短い時間で最も右方向へ移動する操作は、自車両が出せる最大横加速度αymaxを出し続ける操作である。しかし、道路境界が存在する場合には車線逸脱を防止する必要がある。そのため、最初に右方向に最大横加速度で移動した後、左方向に最大横加速度を出して道路境界に到達するまでに車両を直進状態に戻す操作が、限界挙動に相当する操作となる。
【0029】
自車両が回避開始時点で横方向の速度成分を持たない場合には、自車両が右方向への移動を開始してから直進状態に戻るまでにかかる時間をtcとすると、先ず、最初の時刻tc/2まで横加速度αymaxを出してy=yR/2まで到達する。そして、その後に時刻tcまで横加速度−αymaxを出してy=yRに到達する。したがって、等加速度運動の公式より、次式が成り立つ。
(1/2)αymax(tc/2)2=yR/2 ………(4)
上記(4)式より、時間tcは次式で求められる。
tc=2√(yR/αymax) ………(5)
【0030】
ところで、一般には自車両がvy=vsin(θ+β)という横方向の速度成分を持つ。この場合には、横加速度の方向が切り替わる時間を、回避開始時点での横方向速度成分vyに応じて補正する必要がある。そこで、自車両の横加速度αyを以下のように切り替えるものする。
0≦t<ty1のとき、 αy(t)=αymax,
ty1≦t<ty2のとき、αy(t)=−αymax,
t≧ty2のとき、 αy(t)=0 ………(6)
ここで、時刻ty1,ty2は次式で表される。
ty1=tc/2−vy/αymax,
ty2=tc−vy/αymax ………(7)
【0031】
なお、ここではty1>0と仮定する。このとき、前記(6)式を2回積分すると、以下のようになる。
0≦t<ty1のとき、 y(t)=vyt+(αymaxt2)/2,
ty1≦t<ty2のとき、y(t)=−(αymaxt2)/2+(αymaxtc−vy)t−αymaxty12,
t≧ty2のとき、 y(t)=−(αymaxty22)/2+(αymaxtc−vy)ty2−αymaxty12 ………(8)
【0032】
限界条件では、時刻t=ty2で自車両が道路境界まで到達するので、上記(8)式の第3式より、以下の関係が成り立つ。
−(1/2)αymaxty22+(αymaxtc−vy)ty2−αymaxty12=yR ………(9)
上記(9)式をtcについて解くと、上記(5)式に代わって下記(10)式が得られる。
tc=√(4yR/αymax+2vy2/αymax2) ………(10)
【0033】
このとき、ty1>0という仮定は、上記(7),(10)式より、以下の条件式に変換される。
vy2≦2αymaxyR ………(11)
これは、時刻t=0の時点で、最大横加速度で左方向に加速すれば車線逸脱を回避できる条件と解釈することができ、車線逸脱しないための必要条件となる。言い換えれば、ty1<0となる条件では車線逸脱が不可避である。
【0034】
以上のように導出した限界運動を用いると、自車両が障害物を回避できる条件は以下のようになる。
y(tx1)−yP≧ly ………(12)
ここで、lyは自車両の左端部と障害物の右端部とが接した場合の自車両と障害物との重心点間のY軸方向の距離であり、次式で表される。
ly=(σy+sy)/2 ………(13)
ここで、syは自車両の幅である。
【0035】
上記(12)式で示す条件式は、上記(8)式を用いることでさらに具体的な条件式に書き下すことができる。このとき、tx1が上記(8)式のどの区間に属するかによって、以下の3通りの場合分けが生じる。
[1]tx1<ty1の場合
vy(xP−lx)/vx+(1/2)αymax((xP−lx)/vx) 2−yP≧ly ………(14)
[2]ty1≦tx1<ty2の場合
−(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2+(αymaxtc−vy)(xP−lx)/vx−αymaxty12≧ly ………(15)
[3]t≧ty2の場合
yR−yP≧ly ………(16)
このうち、上記(16)式は、右方向への回避が物理的に可能であるための必要条件になっている。そのため、実質的には上記(14)式と上記(15)式とが障害物を右方向に回避可能となるための条件となる。
【0036】
以上の条件式を見ると、時間の経過とともに変化する変数と、時間が経過しても変化しないパラメータとの二種類の量が混在していることがわかる。前者に該当するのは、vx,vy,xP,yP,yRの5つ、後者に該当するのは、αymax,lx,lyの3つである。
そこで、車両状態量として、状態ベクトルxとパラメータベクトルpとを、次式で定義する。
x=(vx vy xP yP yR),
p=(αymax lx ly) ………(17)
【0037】
すると、自車両が障害物を回避可能な状態ベクトルの集合である許容状態集合Xは、以下のようになる。
X=Q∩((R1∩F1)∪(R2∩F2)) ………(18)
Q={x|q(x,p)≧0} ………(19)
Ri={x|ri(x,p)≧0}, i=1,2 ………(20)
Fi={x|fi(x,p)≧0}, i=1,2 ………(21)
但し、
【0038】
【数1】
【0039】
r1(x,p)=(1/2)√(4yR/αymax+2vy2/αymax2)−vy/αymax−(xP−lx)/vx ………(23)
r2(x,p)=−r1(x,p) ………(24)
f1(x,p)=vy(xP−lx)/vx+(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2−yP−ly ………(25)
f2(x,p)=−(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2+(αymaxtc−vy)(xP−lx)/vx−αymaxty12−ly ………(26)
である。
このようにして、許容状態集合Xを算出することができる。
【0040】
(運転余裕指標の概念)
各種センサ群の検出信号をもとに構成した状態ベクトルxが、上記許容状態集合Xに含まれているかどうかを判定することで、自車両の障害物回避の可否を判別することができる。
さらに、障害物回避が可能な場合でも、状態ベクトルxが許容状態集合X内のどこに位置しているかによって、実際の回避操作の難度を判別できる。すなわち、状態ベクトルxが許容状態集合Xの境界付近に位置している場合には、上述したような最大横加速度を使った限界挙動に近い運動が必要となる。そのため、操作の自由度も小さくなり、実際の回避操作は困難なものとなる。一方、状態ベクトルxが許容状態集合Xの境界よりも離れている場合には、回避操作に比較的大きな自由度が残っていることになる。そのため、それほど大きな横加速度を出さなくても障害物回避が可能であり、回避操作も容易になる。
【0041】
そこで、上記のような性質に着目し、許容状態集合Xに基づいて、現在の状態量xが障害物を回避するうえでどの程度の余裕が残っているのかを表す運転余裕指標を算出する。
本実施形態では、許容状態集合Xを構成しているパラメータpに注目して運転余裕指標を構成する。パラメータpは、状態ベクトルxとは異なり、基本的には回避運動を行っている間に値が変わらない量であるが、パラメータpの値が変化した場合には許容状態集合全体の形も変化し、パラメータpの値によっては状態ベクトルxが許容状態集合Xに属さなくなる場合がある。
【0042】
許容状態集合Xは、パラメータpに関して連続な式の組み合わせで構成しているので、パラメータpの連続的な変化に対して許容状態集合Xも連続的に変化する。したがって、パラメータpの現在の値から少しずつ変化させたとき、どこかで状態ベクトルxが許容状態集合Xに属さなくなるようなパラメータpの値が存在する。そのようなパラメータpの値と、センサの検出信号から構成したパラメータpの値との差は、回避運動の余裕を表す指標とみなすことができる。
【0043】
上述したように、パラメータpはαymax,lx,lyの3つの成分から構成している。したがって、運転余裕指標もこの3つの成分の何れか、或いは2つ以上の成分の組み合わせによって定義できる。ここでは、その中の最大横加速度αymaxに注目して運転余裕指標を定義する方法を採用する。
最大横加速度αymaxは、障害物回避の際に使うことができると想定している車両横加速度の最大値であり、実際には自車両が走行している路面状態によってその値が変わる。一般に、最大横加速度αymaxが大きくなれば許容状態集合Xも大きくなり、最大横加速度αymaxが小さくなれば許容状態集合Xも小さくなる。
【0044】
今、現在の路面状態から推定した最大横加速度αymaxに対して構成した許容状態集合をX(αymax)とし、現在の状態ベクトルxがX(αymax)に属していると仮定する。このとき、αymaxの値を徐々に小さくしていくと、それ以上値を小さくすると状態ベクトルxが許容状態集合Xに属さなくなるようなαymaxの限界値が現れる。その限界値をα ̄ymaxと定義する。
α ̄ymax=argmin(x∈X(αymax)) ………(27)
【0045】
そして、上記最大横加速度の限界値α ̄ymaxと、現在の路面状態で自車両が発生可能なαymaxとの比較で運転余裕を測る。すなわち、α ̄ymaxとαymaxとの差を、回避運動を行う際の運転余裕指標mとして定義する。
m=αymax−α ̄ymax ………(28)
運転余裕指標mを実際に算出するためには、先ず許容状態集合Xを構成する集合Q,R,Fのそれぞれについて、状態ベクトルxが含まれる最小のαymaxを算出する。次に、各集合に対応するαymaxの最小値を比較することで、状態ベクトルxが許容状態集合Xに含まれる最小のαymax、すなわち最大横加速度限界値α ̄ymaxを決定する。そして、決定した最大横加速度限界値α ̄ymaxから、上記(28)式をもとに運転余裕指標mを算出する。
【0046】
図8は、図3のステップS4で実行する運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS401で、マイクロプロセッサ10は、各種センサ群の検出信号に基づいて、上記(17)式の状態ベクトルxの値を算出し、ステップS402に移行する。
ステップS402では、マイクロプロセッサ10は、各種センサ群の検出信号に基づいて、上記(17)式のパラメータpの値を設定する。このとき、パラメータlx,lyについてはセンサの検出情報から算出し、パラメータαymaxについては予め設定した固定値を用いたり、路面摩擦係数を反映した値を用いたりする。
【0047】
次にステップS403では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS401で算出した状態ベクトルxと、前記ステップS402で設定したパラメータpと、上記(19),(22)式とを用いて、状態ベクトルxが集合Qに属しているか否かを判定する。
そして、状態ベクトルxが集合Qに属していないと判定した場合には、障害物との接触あるいは車線逸脱が回避できない状況であると判断し、直ちに障害物回避の支援を中止して接触被害軽減あるいは車線逸脱被害軽減のための制御へ切り替える。なお、上記被害軽減制御は、多数の公知例の中から適宜適用する。
【0048】
一方、前記ステップS403で、状態ベクトルxが集合Qに属していると判定した場合には、ステップS404に移行する。ステップS404では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが集合R1と集合R2のどちらに属しているのかを、上記(20),(23),(24)式に基づいて判定する。
次に、ステップS405に移行して、前記ステップS404で状態ベクトルxが集合R1に属していると判定した場合には、状態ベクトルxが集合F1に属しているか否かを、上記(21),(25)式に基づいて判定する。また、前記ステップS404で状態ベクトルxが集合R2に属していると判定した場合には、状態ベクトルxが集合F2に属しているか否かを、上記(21),(26)式に基づいて判定する。
【0049】
そして、このステップS405で、状態ベクトルxが集合Fiに属していないと判定した場合には前記被害軽減制御へ切り替え、状態ベクトルxが集合Fiに属していると判定した場合にはステップS406に移行する。
ステップS406では、マイクロプロセッサ10は、集合Q,Ri,Fiのそれぞれについて、状態ベクトルxが含まれる最小のαymaxを算出する。
【0050】
次にステップS407では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS406で算出したαymaxを比較し、その中の最小値を最大横加速度限界値α ̄ymaxとして算出してステップS408に移行する。
ステップS408では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS402で設定したαymaxと前記ステップS407で算出したα ̄ymaxとに基づいて、上記(28)式を用いて運転余裕指標mを算出し、運転余裕指標算出処理を終了する。
【0051】
図3に戻って、ステップS5では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS4で算出した運転余裕指標mが所定の運転余裕指標閾値mTHよりも大きいか否かを判定する。そして、m>mTHである場合には後述するステップS9に移行し、m≦mTHである場合にはステップS6に移行する。ここで、上記運転余裕指標閾値mTHは、障害物を回避する操作を行ううえでの運転余裕の大きさの判定を行うためのものであり、回避支援の要否が判断できる程度の値に設定する。
【0052】
ステップS6では、マイクロプロセッサ10は、ごく近い将来運転者がとり得る運転操作の予測、それに対応する状態ベクトルの予測、および予測した状態ベクトルに対する運転余裕指標の算出を行う。
回避操作の支援を行うためには、運転者がとり得る操作に対して運転余裕指標がどのように変化するかを予測し、運転余裕指標が現在の状態に対する運転余裕指標より小さくならないような操作を運転者に促す必要がある。
【0053】
運転余裕指標の変化を予測するためには、先ず運転者がとり得る操作とそれに対応する状態ベクトルの変化とを予測する必要がある。ここでは、運転者の操作と状態ベクトルとを結びつけるために、以下の車両モデル(二輪モデル)を導入する。
x´=vcos(β+θ) ………(29)
y´=vsin(β+θ) ………(30)
θ´=γ ………(31)
β´=−γ+(2/Mv)(Yf(βf)+Yr(βr)) ………(32)
γ´=(2lf/I)Yf(βf)−(2lr/I)Yr(βr) ………(33)
ここで、Mは車両質量、Iは車両ヨー慣性モーメント、lfは車両重心から前輪軸までの距離、lrは車両重心から後輪軸までの距離である。また、Yf,Yrはタイヤ横力を表す関数であり、それぞれ前輪すべり角βf、後輪すべり角βrの関数である。
【0054】
前輪すべり角βfおよび後輪すべり角βrは、次式により計算することができる。
βf=β+lfγ/v−δ ………(34)
βr=β−lrγ/v ………(35)
また、タイヤ横力関数Yf(βf),Yr(βr)は、次式で表される。
Yf(βf)=−Wf・μ・Y ̄(βf) ………(36)
Yr(βr)=−Wr・μ・Y ̄(βr) ………(37)
ここで、Wfは前輪荷重、Wrは後輪荷重、μは路面摩擦係数である。また、Y ̄は図9に示す非線形関数で表現することができる。
【0055】
前輪舵角δとステアリングホイールの操舵角θsとの間には、上記(1)式の関係がある。したがって、操舵角センサ3で検出した操舵角θsを用いて前輪舵角δを決定できれば、上記(29)〜(33)式の微分方程式を積分することで、将来のx,y,θ,β,γの値を予測することができる。
例えば、現在時刻t=0において、ある操舵角θs(0)を加えた場合に、時刻t=Δtにおける状態予測値x^(Δt),y^(Δt),θ^(Δt),β^(Δt),γ^(Δt)を得たものとする。このとき、x^(Δt),y^(Δt)を座標系の原点に取り直すと、時刻t=Δtにおける状態ベクトルの予測値x^(Δt)を図3のステップS4の処理と同様にして構成することができる。なお、パラメータpは時間が経過しても変化しないので、上記ステップS4で用いた値を引き継ぐものとする。そして、図8のステップS403〜S408の処理をx^(Δt)に対して適用することで、x^(Δt)に対する運転余裕指標m^(Δt)を得ることができる。
【0056】
これを、運転者がとり得る複数の操舵角候補θs(0)=θsj(j=1,2,…,N)に対して繰り返すと、各操舵角候補θsjを加えた場合の時刻t=Δtにおける運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を得る。ここで、上記Nは、操舵角候補の候補数である。
この運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を算出するのが図3のステップS6における処理内容である。
【0057】
図10は、図3のステップS6で実行する運転余裕指標予測値算出処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS601では、マイクロプロセッサ10は、操舵角候補θsjをN個生成する。ここでは、現在運転者が操作している操舵角(運転操作量)と操舵速度(運転操作量変化)との情報をもとに、運転者がこの後の時刻Δtの間に実際に取りうる可能性の高い値を、N個決めることで生成する。
【0058】
次にステップS602に移行して、マイクロプロセッサ10は、反復演算のためのインデックスjの値を“1”に初期化し、ステップS603に移行する。
ステップS603では、マイクロプロセッサ10は、インデックスjが“N”に到達したか否かを判定し、j=Nである場合にはそのまま運転余裕指標予測値算出処理を終了し、j≠Nである場合にはステップS604に移行する。
【0059】
ステップS604では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS601で生成した操舵角候補θsjを用いて、上記(29)〜(33)式を積分した式に基づいて状態予測値x^(Δt),y^(Δt),θ^(Δt),β^(Δt),γ^(Δt)を算出する。
次にステップS605では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS604で算出した状態予測値をもとに、状態ベクトルの予測値x^(Δt;θsj)を算出する。
【0060】
ステップS606では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS605で算出した状態ベクトルの予測値x^(Δt;θsj)に対して、図8のステップS403〜S408と同様の処理を実行して、運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を算出する。なお、x^(Δt;θsj)が許容状態集合Xに属さない場合には、運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を“0”とする。
【0061】
そして、ステップS607では、マイクロプロセッサ10は、インデックスjをインクリメントして前記ステップS603に移行する。
図3に戻って、ステップS7では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS6で算出した運転余裕指標予測値m^(Δt;θsj)を用いて、回避支援制御のための操舵補助トルク補正値の制御則を構成(更新)する。
前記ステップS6で、N個の操舵角候補それぞれに対してm^(Δt;θsj)を算出しているので、補間により操舵角θsに対する運転余裕指標の関数m^(θs)を定義することができる。
【0062】
図11は、運転余裕指標の関数m^(θs)を示す図である。ここではN=5の場合を示している。
回避支援を行うにあたっては、現在の状態に対する運転余裕指標m(0)よりも運転余裕指標が小さくならないような運転操作を運転者が取るように支援することが望ましい。逆に現在の状態に対する運転余裕指標m(0)よりも運転余裕指標が大きくなるような運転操作を運転者が取っている場合には、回避支援を行う必要性は低くなる。
そこで、適当な余裕幅Δmを設定し、運転余裕指標がm(0)−Δmよりも小さくなる操舵角θsを運転者が取った場合には、運転余裕指標が小さくならない方向へ操舵補助トルクΔTassistを加えるように、通常の操舵補助トルクを補正する。この操舵補助トルクΔTassistが、運転操作支援力に相当する操舵補助トルク補正値であり、ここでは操舵補助トルク補正値ΔTassistの制御則を構成する。
【0063】
図12は、操舵補助トルク補正値ΔTassistの制御則を示す図である。
運転余裕指標の予測値m(0)−Δmとなる操舵角をθs01,θs02とすると、θs01≦θs≦θs02であるときは補正を行わないように操舵補助トルク補正値ΔTassistを設定する(ΔTassist=0)。そして、θs<θs01である場合には、操舵角が大きくなる方向に操舵補助トルクが付加するように、操舵補助トルク補正値ΔTassistを設定する(ΔTassist>0)。一方、θs>θs02である場合には、逆に操舵角が小さくなる方向に操舵補助トルクが付加するように、操舵補助トルク補正値ΔTassistを設定する(ΔTassist<0)。
【0064】
このとき、運転余裕指標の予測値が小さくなるほど(運転余裕指標が許容水準m(0)−Δmを大きく下回るほど)、操舵補助トルク補正値ΔTassistが大きい値となるように制御則を構成する。
以上のような回避支援制御則を構成することにより、障害物回避を行う上で運転者の操舵操作が足りない場合には、ステアリングホイール1を切り増しする方向の操舵補助トルクが作用する。一方、運転者の操舵操作が大きすぎて車線逸脱の可能性が高まるような場合では、操舵を抑制する方向の操舵補助トルクが作用する。
【0065】
このように、図3のステップS7では、回避支援制御則(操舵補助トルク補正値の制御則)を構成する。なお、既に回避支援制御が起動している場合には、新しく算出した制御則でそれまでの制御則を置き換える処理(更新処理)を行う。
ステップS8では、マイクロプロセッサ10は、操舵角センサ3で検出した操舵角θsに基づいて、最新の回避支援制御則をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassistを算出する。次に、実際に補助トルク発生モータ5が出力する操舵補助トルク指令値Tassistを算出し、運転支援制御処理を終了する。
Tassist=TEPS+ΔTassist(θs) ………(38)
ここで、TEPSは通常の操舵補助制御を行うための操舵補助トルク指令値である。
【0066】
また、ステップS9では、マイクロプロセッサ10は、操舵補助トルク補正値の制御則ΔTassist(θs)をメモリから消去し、回避支援制御を行わないような処理を行ってから前記ステップS8に移行する。このとき、回避支援制御が起動していない場合には、特に処理は行わずにそのまま前記ステップS8に移行する。
したがって、このステップS9を通って前記ステップS8に移行した場合、ΔTassist=0となり、TEPSがそのまま操舵補助トルク指令値Tassistとなる。
【0067】
《動作》
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
今、図6に示すように、自車両MCの走行車線前方に障害物Aが存在するものとする。このとき、カメラ19で取得した自車両前方の画像情報をもとに、センサ信号処理部21で、障害物Aの位置座標xP,yP、幅σyおよび奥行きσxを算出すると共に、道路の左端の位置yLおよび右端の位置yRを算出する。また、センサ信号処理部21は、各種センサ群で検出した信号をもとに、車両の前後方向速度vx及び横方向速度vyを算出する(図3のステップS1)。
【0068】
前回の制御サイクルにおいてカメラ19で障害物Aを検出していなかった場合、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルから回避支援制御を起動するものと判定する。そして、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御の起動・更新サイクルであることを示す状態にセットする(ステップS2)。これにより、回避支援制御の起動処理(操舵補助トルク補正値の制御則の生成処理)を開始する。
先ず、運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で設定した、上記(18)〜(26)に示す許容状態集合Xの境界をもとに、現在の車両状態量について運転余裕指標mを算出する(ステップS4)。算出した運転余裕指標mが運転余裕指標閾値mTH以下であるものとすると、回避支援制御が必要な状態であると判断する(ステップS5でNo)。
【0069】
一方、現在の状態の運転余裕指標mが運転余裕指標閾値mTHより大きい場合には、回避支援制御は不要であると判断し(ステップS5でYes)、通常の操舵補助制御のみを実施する。このように、現在の状態の運転余裕指標mが運転余裕指標閾値mTHより大きい場合には、現在の状態xは障害物Aを回避するうえで十分な余裕が残っている状態であると判断し、回避支援制御を作動しない。そのため、必要以上に回避支援制御を介入して運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0070】
回避支援制御が必要であると判断すると、状態変化算出部23は、近い将来に運転者が取りうる操作(操舵角候補θsj)と、それに対して起こりうる車両状態量(状態ベクトルx^(Δt))とを予測する。次に、運転余裕算出部24は、図11に示すように、複数の操舵角候補θsjをそれぞれ加えた場合の運転余裕指標m^(Δt;θsj)を予測し(ステップS6)、補間により操舵角θsに対する運転余裕指標の関数m^(θs)を定義する。そして、定義した運転余裕指標の関数m^(θs)をもとに、図12に示すように、操舵補助トルク補正値の制御則を構成する(ステップS7)。
【0071】
この時点では、運転者は運転余裕指標m(0)となる操舵操作を行っており、θs01≦θs≦θs02であるため、運転支援動作制御部25は、操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)=0に算出する(ステップS8)。したがって、操舵角θsに応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSがそのまま操舵補助トルク指令値Tassistとなり、回避支援制御は介入しない。
その後、運転者が障害物Aを回避するべく、障害物回避に十分なθs=θs3となる操舵操作を行ったものとする。この場合、予測した運転余裕指標m^のうち操舵角センサ3で検出した操舵角θsに対応する運転余裕指標m^(Δt;θs3)は、m(0)−Δm以上となる。これは、運転者が運転余裕を大きくする適切な運転操作を行っていることを示す。
【0072】
そのため、この場合には、運転者による操舵操作だけで障害物Aを回避する動作を継続するものとして、運転支援動作制御部25は、図12をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)=0に算出する(ステップS8)。これにより、操舵角θs=θs3に応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSがそのまま操舵補助トルク指令値Tassistとなり、回避支援制御は介入しない。
【0073】
一方、運転者が、障害物回避に不十分なθs=θs2となる比較的小さい操舵操作を行ったものとする。この場合には、運転者が運転余裕を悪化させる不適切な運転操作を行っているため、運転支援動作制御部25は、図12をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)>0に算出する(ステップS8)。したがって、操舵角θs=θs2に応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSに、操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)を加算した値が操舵補助トルク指令値Tassistとなる。その結果、障害物Aを回避する方向(ステアリングホイール1を切り増しする方向)に操舵操作を支援することができる。
このように、障害物Aの回避に必要な操舵操作が足りない状態である場合には、運転者の操舵操作を支援する操舵補助トルクを付加するので、適切に運転目的を達成することができる。
【0074】
また、運転者がθs=θs5となる比較的大きい操舵操作を行った場合には、障害物回避としては十分な操舵操作であるものの、車線逸脱の可能性が高い状態となる。この場合には、運転支援動作制御部25は、図12をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)<0に算出する(ステップS8)。したがって、操舵角θs=θs5に応じた通常の操舵補助トルク指令値TEPSから、操舵補助トルク補正値ΔTassist(θs)分を減算した値が操舵補助トルク指令値Tassistとなる。その結果、ステアリングホイール1を中立に戻す方向に操舵補助トルクを付加して車線逸脱を防止することができる。
【0075】
このように、回避支援制御則をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassistを算出し、これを付加することで運転者の操舵操作を支援する。この処理は、現在の状態の運転余裕指標mに基づいて、運転余裕が十分に残っており回避支援制御が不要である(ステップS5でYes)と判定するまで継続する。なお、回避支援制御則は所定期間毎に更新を行い、更新後は新たな回避支援制御則をもとに操舵補助トルク補正値ΔTassistを算出することになる。
【0076】
以上の制御を行うことにより、運転者が運転余裕指標を悪化させないような適切な回避操作を行っている場合には、回避支援制御を停止し、通常の操舵補助制御のみを作動することができる。そのため、運転者に違和感を与えることがない。一方、運転者が運転余裕指標を悪化させるような不適切な回避操作を行っている場合には、悪化が予測される度合に応じた操舵補助トルクを付加することで、回避支援制御を行う。したがって、運転者が適切な回避操作が取れるような支援を行うことができる。
このように、運転者の違和感の抑制と回避支援効果とを両立した制御を実現することができる。
【0077】
なお、図1において、操舵角センサ3が運転操作検出手段を構成し、カメラ19が走行環境検出手段を構成し、補助トルク発生モータ5及びモータコントローラ6が操作支援アクチュエータを構成している。
また、図2において、許容状態集合算出部22が許容状態集合算出手段を構成し、状態変化算出部23が状態量予測手段を構成し、運転余裕算出部24が運転余裕指標予測手段を構成している。なお、許容状態集合算出部22、状態変化算出部23、運転余裕算出部24及び運転支援動作制御部25が運転支援動作制御手段を構成している。
さらに、図3において、ステップS5が制御停止手段を構成し、図8において、ステップS401及びS402が状態量検出手段を構成し、ステップS403〜S408が運転余裕指標算出手段を構成している。
【0078】
《効果》
(1)運転操作検出手段は運転者の運転操作を検出し、走行環境検出手段は自車両の走行環境を検出し、操作支援アクチュエータは、運転者の運転操作を支援する運転操作支援力を発生する。そして、運転支援制御手段は、運転操作検出手段で検出した運転操作が、走行環境検出手段で検出した走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、前記運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく操作支援アクチュエータを駆動する。
このように、運転者の運転操作が運転目的の達成に効果的な操作でない場合に、運転者の運転操作を支援する運転支援制御を行うので、運転者に対して効果的な操作を促すことができる。また、運転者が効果的な操作を行っている場合には運転支援制御の介入を抑制することができるので、運転者の操作違和感を抑制することができる。
【0079】
(2)走行環境検出手段は、走行環境として自車両前方の物体を検出し、前記運転目的は、走行環境検出手段で検出した前方物体との接触を回避する接触回避である。
これにより、効果的に前方物体との接触回避を行う運転操作を取るように、運転者の運転操作を支援することができる。
(3)走行環境検出手段は、走行環境として自車両前方の道路区画線を検出し、前記運転目的は、走行環境検出手段で検出した道路区画線の内側を走行する車線逸脱回避である。これにより、効果的に車線逸脱を防止する運転操作を取るように、運転者の運転操作を支援することができる。
【0080】
(4)許容状態集合算出手段は、運転目的を達成可能な車両状態量の集合である許容状態集合を算出し、状態量予測手段は、運転者が将来取り得る複数の運転操作に対して、それぞれ起こり得る車両状態量を予測する。運転余裕指標予測手段は、状態量予測手段で予測した車両状態量について、許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の余裕を定量的に示す運転余裕指標を予測する。そして、操作状態検出手段で検出した運転操作と運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標とに基づいて、運転支援制御を行う。
これにより、運転中の各時刻において、運転者の運転操作が運転目的を達成可能な操作であるか否かを、運転余裕指標の予測値に基づいて評価しながら運転支援制御を作動することができる。したがって、運転者の運転技量の巧拙にかかわらず、効果的な運転操作への誘導と操作違和感の抑制とを両立することができる。
【0081】
(5)運転余裕指標予測手段は、自車両が発生可能な最大横加速度と、状態量予測手段で予測した車両状態量が許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合に属するために最低限必要な自車両の最大横加速度との差を、運転余裕指標として予測する。
これにより、操作や制御が難しい車体加速度が大きい運動領域を用いない方向に操作支援を行うことができ、運転目的達成の確実性を高めることができる。
【0082】
(6)運転支援制御手段は、運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、許容水準を下回るとき、運転支援制御を行う。
これにより、一定水準以上の運転余裕を確保するように運転支援制御を行うことができる。一方、運転者が一定水準以上の運転余裕となるような適切な運転操作を行っている場合には、運転操作支援力を弱めたり運転支援制御の介入を停止したりすることができるので、運転者の違和感を効果的に抑制することができる。また、許容水準の設定によって、運転目的達成の確実性と運転支援制御の介入に起因する運転者の違和感の抑制との間のバランスを任意に調整・変更することができる。
【0083】
(7)運転支援制御手段は、運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、許容水準を大きく下回るほど、運転操作支援力を大きく発生する。
これにより、運転操作支援力を段階的あるいは連続的に変化して発生することができるので、より効果的に運転目的達成と運転者の違和感抑制とを実現することができる。
【0084】
(8)状態量予測手段は、現在の運転者の運転操作量および運転操作量変化に基づいて、運転者が将来取り得る運転操作を予測すると共に、それに対して起こり得る車両状態量を予測する。
これにより、現在の運転者の運転操作に応じて適切な運転支援制御則を構成することができ、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【0085】
(9)状態量検出手段は現在の車両状態量を検出し、運転余裕指標算出手段は、状態量検出手段で検出した車両状態量について、許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の現在の余裕を定量的に示す運転余裕指標を算出する。制御停止手段は、運転余裕指標算出手段で算出した運転余裕指標が、運転支援制御手段による運転支援制御の必要性の有無を判定する運転余裕指標閾値より大きいとき、運転支援制御手段を停止する。
このように、現在の運転余裕指標が十分に大きい場合には運転支援制御を停止するので、運転支援が不要な場面で制御が起動することに起因する運転者の違和感を抑制することができる。
【0086】
(10)操作支援アクチュエータは、運転者の操舵操作を支援する運転操作支援力を発生する。これにより、操舵を用いた運転操作を効果的に支援することができる。
(11)運転者の運転操作と自車両の走行環境とを検出し、運転者の運転操作が自車両の走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく、操作支援アクチュエータを駆動制御する。
これにより、運転者の運転技量の巧拙にかかわらず、効果的な運転操作への誘導と操作違和感の抑制とを両立した運転支援制御を行うことができる。
【0087】
《第2の実施の形態》
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態において、回避支援制御として操舵操作を支援する制御を行っているのに対し、制動操作を支援するようにしたものである。
《構成》
図13は、第2の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
この車両の基本的な構成は、図1に示す第1の実施形態の車両と同様であるが、各輪のブレーキ圧をマイクロプロセッサ10から制御できる点が異なる。
【0088】
各輪は、それぞれ制動力を発生するブレーキアクチュエータ(以下、単にブレーキと称す)7FL〜7RRを備える。ブレーキ圧センサ・コントローラ8は、ブレーキ7FL〜7RRのブレーキ圧を検出してマイクロプロセッサ10に入力すると共に、マイクロプロセッサ10で算出したブレーキ圧の目標値に基づいて、各輪のブレーキ圧を制御する。
図14は、マイクロプロセッサ10の構成を示すブロック図である。
この図14に示すように、本実施形態のマイクロプロセッサ10は、ブレーキ制御系(ブレーキ圧センサ・コントローラ8)にも指令値を伝達する構成となっていることを除いては、図2に示す第1の実施形態のマイクロプロセッサ10と同様の構成を有する。
【0089】
(運転支援制御処理手順)
次に、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理順について説明する。
図15は、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順を示すフローチャートである。この運転支援制御処理は、図3に示す運転支援制御処理において、ステップS1をステップS11に、ステップS4をステップS41に、ステップS6をステップS61に、ステップS7をステップS71に置換し、ステップS10を追加したことを除いては、図3と同様の処理を行う。したがって、図3との対応部分には同一符号を付し、処理の異なる部分を中心に説明する。
【0090】
ステップS11では、マイクロプロセッサ10は、図3のステップS1で説明した各信号の処理に加えて、加速度センサ17の検出信号から車体に発生している加速度αを算出する処理、及びブレーキ圧センサ・コントローラ8の検出信号からブレーキ圧PBを算出する処理を行う。
ステップS41では、現在の状態の運転余裕指標を算出する。
図16は、ステップS41で実行する運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
【0091】
先ず、ステップ411では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxを構成する。本実施形態では、第1の実施形態で用いた5成分に加えて、加速度センサ17で検出した自車両の減速度のX軸方向成分dxを加えた6成分で状態ベクトルxを構成する。
x=(vx vy xP yP yR dx) ………(39)
なお、dxは、−αで近似できるものとする。
ステップS412では、マイクロプロセッサ10は、パラメータpの設定を行う。本実施形態では、第1の実施形態で用いた3つのパラメータに加えて、自車両の前後減速度の最大値αxmaxを加えた4つのパラメータでpを構成する。
p=(αxmax αymax lx ly) ………(40)
【0092】
ステップS413では、マイクロプロセッサ10は、運転者が障害物回避のための操舵操作を行っているかどうかを判定する。ここでは、例えば、障害物を所定距離以内の場所に検出しており、且つ操舵角θが予め設定した操舵角閾値よりも大きい場合に、回避のための操舵を行っているという判定を下すといった方法を用いる。そして、回避のための操舵操作を行っていると判定した場合には後述するステップS418へ移行し、回避のための操舵操作を行っていないと判定した場合にはステップS414へ移行する。
【0093】
ステップS414では、マイクロプロセッサ10は、ブレーキ操作だけで障害物を回避することを前提とした許容状態集合Xbを算出する。ブレーキ操作だけで障害物を回避するには、障害物の手前で自車両が停止する必要がある。したがって、回避が可能となる条件は以下のようになる。
vx2≦2αxmax(xP−lx) ………(41)
すなわち、ブレーキ操作だけで障害物を回避可能な車両状態量の集合を示す制動回避許容状態集合Xbは、以下のようになる。
Xb={x|2αxmax(xP−lx)−vx2≧0} ………(42)
【0094】
ステップS415では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS411で構成した現在の状態ベクトルxが、上記(42)式の制動回避許容状態集合Xbに属しているか否かを判定する。そして、属している場合にはステップS416へ移行し、属していない場合には後述するステップS418に移行する。
ステップS416では、マイクロプロセッサ10は、制動回避許容状態集合Xbに対応する制動回避運転余裕指標mbを算出する。ここでは、運転余裕指標mbとして、自車両が現在の運転操作を継続したときの状態ベクトルxが制動回避許容状態集合Xbに属さなくなるまでの予測時間を用いる。自車両が減速度dxで運動を続けた場合、自車両のX方向の運動は、
x=vxt−(1/2)dxt2 ………(43)
と予測できる。また、制動回避許容状態集合Xbとの境界に到達する時刻をtmとすると、
2αxmax(xP−vxtm+(1/2)dxtm2−lx)−vx2=0 ………(44)
が成り立つ。
【0095】
したがって、上記(44)式を解くと、以下の式が得られる。
dx>αxmaxvx2/(2αxmax(xP−lx)−vx2)のとき、 tm=∞,
dx=0のとき、 tm=(xP−lx)/vx−vx/2αxmax,
上記以外のとき、 tm=(αxmax2vx2−√(αxmax2vx2−dxαxmax(2αxmax(xP−lx)−vx2)))/dxαxmax ………(45)
ここで、tmは運転余裕指標として用いることができるので、mb=tmと定める。
ステップS417では、マイクロプロセッサ10は、運転余裕指標mbが所定の閾値mb0より大きいか否かを判定する。上記閾値mb0は、操舵による回避支援の必要性の有無を判断できる程度に設定する。
【0096】
そして、mb>mb0であると判定した場合には、現在の減速度を維持しても障害物の手前で止まれるか、或いは減速度を強める必要がある場合でもブレーキの踏み増しを行わなければならない時間余裕が十分にあるため、操舵による回避が不要であると判断する。そのため、後述の操舵も考慮した運転余裕指標の算出を行うことなく運転余裕指標算出処理を終了する。
【0097】
一方、前記ステップS417で、mb≦mb0であると判定した場合には、ステップS418に移行する。
ステップS418では、マイクロプロセッサ10は、制動と操舵を両方用いて障害物回避を行う場合の複合回避許容状態集合Xcを算出する。複合回避許容状態集合Xcを算出する基本的な考え方は、第1の実施形態で説明した許容状態集合Xと同じであるが、自車両の減速を考慮した修正を加える必要がある。先ず、自車両の先端部が障害物の先端部と並ぶ時刻tx1を、上記(2)式から下記(46)式に変更する。
tx1=(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx ………(46)
【0098】
なお、dx=0のときは、上記(2)式を用いてtx1を定める。それ以外の箇所は、基本的に第1の実施形態と同じ手順で集合を定義していくことができるが、tx1が上記(46)式に置き換わったことに対応して、上記(23)〜(26)式をそれぞれ以下のように変更する。
r1(x,p)=(1/2)√(4yR/αymax+2vy2/αymax2)−(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx ………(47)
r2(x,p)=−r1(x,p) ………(48)
f1(x,p)=vy(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx+(1/2)αymax((vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx)2−yP−ly ………(49)
f2(x,p)=−(1/2)αymax((vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx)2+(αymaxtc−vy)(vx−√(vx2−2dx(xP−lx)))/dx−αymaxty12−ly ………(50)
以上の置き換えを行うことにより、複合回避許容状態集合Xcは、上記(18)式と同じ式で構成することができる。
【0099】
ステップS419では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが複合回避許容状態集合Xcに属しているかどうかを判定する。そして、属していると判定した場合にはステップS420に移行する。
ステップS420では、マイクロプロセッサ10は、第1の実施形態における運転余裕指標mの算出と同じ要領で運転余裕指標mcを算出し、運転余裕指標算出処理を終了する。ここでは、図8のステップS406〜S408の手順をそのまま踏襲することでmcを算出する。
【0100】
一方、前記ステップS419で、状態ベクトルxが複合回避許容状態集合Xcに属していないと判定した場合には、運転余裕指標算出処理を終了して被害軽減制御への切替を行う。
図15に戻って、ステップS61では、マイクロプロセッサ10は、将来の予測状態の運転余裕指標を算出する。
本実施形態では減速も考慮しているので、第1の実施形態で用いた上記(29)〜(33)式のモデルに減速のダイナミクスを表す次式を加えたモデルを、状態ベクトルの予測に用いる。
v´=−dx ………(51)
また、減速度dxとブレーキ圧pBとの間には、以下のような関係式を規定することができる。
dx=g(pB) ………(52)
【0101】
したがって、操舵角θsとブレーキ圧pBとを決定すれば、車両モデルを積分することで、将来のx、y、θ、β、γ、vを予測することができる。そこで、第1の実施形態と同様に、運転者が取りうる複数の操舵角候補θs(0)=θsjを生成すると共に、ブレーキ制御系で補正可能な複数のブレーキ圧候補pB(0)=pBkを生成する。ここで、k=1,2,…,M(Mは候補数)である。
【0102】
各候補に対して状態予測と運転余裕指標算出とを繰り返すと、操舵角候補θsjおよびブレーキ圧候補pBkを加えた場合の時刻t=Δtにおける運転余裕指標の予測値m^c(Δt;θsj,pBk)が得られる。
なお、前記ステップ41において制動回避運転余裕指標だけを算出している場合には、θsjの生成は行わずにpBkのみを生成し、制動回避運転余裕指標の予測値m^b(Δt;pBk)を算出する。
【0103】
次にステップS71では、マイクロプロセッサ10は、回避支援制御のための操舵補助トルク補正値の制御則の構成と、ブレーキ圧目標値の制御則の構成とを行う。本実施形態では、操舵角θsとブレーキ圧pBとの二変数について運転余裕指標を算出しているので、補間により運転余裕指標に関する二変数関数m^c(θs,pB)が定義できる。操舵補助トルク補正値の制御則の構成については第1の実施形態と同様であるため、ここではブレーキ圧目標値の制御速の構成について説明する。
【0104】
図17は、運転余裕指標の関数m^c(θs,pB)の断面を示す図である。ここでは、操舵角θsをある値に固定したm^c(θs,pB)の断面を、M=3としてプロットした図を示している。
この図17に示すように、ブレーキ圧pBを大きくするほど運転余裕指標は大きくなる。本実施形態では、ブレーキ圧目標値の制御則として、ブレーキ圧候補pBkのうち最も運転余裕指標が大きくなるブレーキ圧(ここでは、pB3)を、ブレーキ圧目標値pB*として用いる制御則を構成する。
【0105】
なお、ここでは、運転余裕指標が最も大きくなるブレーキ圧をブレーキ圧目標値pB*としているが、ブレーキ圧候補pBkのうち運転余裕指標が許容水準を上回るブレーキ圧を選定し、これをブレーキ圧目標値pB*として用いる制御則を構成することもできる。
また、このステップS71では、制動回避運転余裕指標の予測値m^b(Δt;pBk)だけを算出している場合、第1の実施形態で示した操舵に関する制御則(操舵補助トルク補正値の制御則)の構成は行わない。
また、ステップS10では、実際にブレーキ圧制御系に指令する増圧指令値を算出する。前記ステップS71でブレーキ圧目標値pB*を設定しているので、現在のブレーキ圧がpB*よりも小さければpB*まで増圧する指令値を生成・出力する。一方、現在のブレーキ圧がpB*以上である場合には、増圧指令値を“0”とする。
【0106】
《動作》
次に、第2の実施形態の動作について説明する。
今、図6に示すように、自車両MCの走行車線前方に障害物Aが存在するものとする。このとき、カメラ19で取得した自車両前方の画像情報をもとに、センサ信号処理部21で、障害物Aの位置座標xP,yP、幅σyおよび奥行きσxを算出すると共に、道路の左端の位置yLおよび右端の位置yRを算出する。また、センサ信号処理部21は、各種センサ群で検出した信号をもとに、車両の前後方向速度vx、横方向速度vy及び前後方向減速度dxを算出する(図15のステップS11)。
【0107】
前回の制御サイクルにおいてカメラ19で障害物Aを検出していなかった場合、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルから回避支援制御を起動するものと判定する。そして、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御の起動・更新サイクルであることを示す状態にセットする(ステップS2)。これにより、回避支援制御の起動処理を開始する。
【0108】
運転者が障害物回避のための操舵操作を行っていないものとすると、運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で設定した、上記(42)式に示す制動回避許容状態集合Xbに対応する運転余裕指標mbを算出する(ステップS41)。このとき、運転者の制動操作が、操舵による回避が不要な程度である場合には、運転余裕指標mbが閾値mb0より大きくなり、操舵を考慮した運転余裕指標mcの算出は行わない。
そして、上記運転余裕指標mbが運転余裕指標閾値mbTH以下であるものとすると、回避支援制御が必要な状態であると判断する(ステップS5でNo)。
【0109】
すると、状態変化算出部23は、近い将来に運転者が取りうる操作(ブレーキ圧候補pBk)と、それに対応する車両状態量(状態ベクトルx^(Δt))とを予測する。次に、運転余裕算出部24は、図17に示すように、複数のブレーキ圧候補pBkをそれぞれ加えた場合の運転余裕指標m^b(Δt;pBk)を予測し(ステップS61)、補間によりブレーキ圧候補pBに対する運転余裕指標の関数m^b(pB)を定義する。そして、定義した運転余裕指標の関数m^b(pB)をもとに、最も運転余裕指標が大きくなるブレーキ圧をブレーキ圧の目標値pB*として用いる制御則を構成する(ステップS71)。
【0110】
このとき、運転者は操舵操作を行っていないため、通常の操舵補助トルク指令値TEPS=0となる。また、操舵による回避は不要な状態であるため、操舵による回避支援のための操舵補助トルク補正値ΔTassist=0となる。そのため、運転支援動作制御部25は、操舵補助トルク指令値Tassist=0に算出し(ステップS8)、操舵補助制御は行わない。
【0111】
また、このとき運転者は運転余裕指標mb(0)となる制動操作を行っており、このときのブレーキ圧pB(0)はブレーキ圧の目標値pB*(=pB3)より小さい。そのため、運転支援動作制御部25は、現在のブレーキ圧をブレーキ圧の目標値pB*まで増圧するための指令値を生成し、ブレーキ圧センサ・コントローラ8に出力する(ステップS10)。これにより、障害物Aの手前で自車両が確実に停止するように制動操作を支援することができる。
【0112】
その後、運転者が障害物Aとの接触を回避するべく、ブレーキペダルを大きく踏み込んだものとする。このときのブレーキ圧がブレーキ圧の目標値pB*(=pB3)以上であるものとする。この場合には、運転者による制動操作だけで障害物との接触回避が可能な状態であると判断し、運転支援動作制御部25は、ブレーキ圧の増圧指令値を出力しない。したがって、制動による回避支援制御が介入するのを防止して、必要以上に制動力を付加するのを抑制することができ、運転者の違和感を抑制することができる。
【0113】
このように、運転者が制動操作だけを行っており、なおかつ制動操作だけで障害物との接触を回避できると予想される状況では、必要に応じてブレーキ圧の増圧制御を行うことで、運転者のブレーキ操作を支援する。これにより、運転者の違和感の抑制と運転目的の達成との両立を実現することができる。
一方、制動回避運転余裕指標mbが閾値mb0以下であり制動操作だけでは障害物回避が困難な場合や、運転者が操舵操作も行っている場合には、制動と操舵とを両方用いて回避支援を行う。このとき、運転余裕算出部24は、許容状態集合算出部22で設定した、複合回避許容状態集合Xcに対応する運転余裕指標mcを算出する(ステップS41)。
【0114】
そして、上記運転余裕指標mcが運転余裕指標閾値mcTH以下であるものとすると、回避支援制御が必要な状態であると判断する(ステップS5でNo)。
すると、状態変化算出部23は、近い将来に運転者が取りうる操作(操舵角候補θsj,ブレーキ圧候補pBk)と、それに対応する状態(状態ベクトルx^(Δt))とを予測する。次に、運転余裕算出部24は、操舵角候補θsj及びブレーキ圧候補pBkをそれぞれ加えた場合の運転余裕指標m^c(Δt;θsj,pBk)を予測し(ステップS61)、補間により運転余裕指標に関する二変数関数m^c(θs,pB)を定義する。そして、定義した運転余裕指標の関数m^c(θs,pB)をもとに、回避支援制御則を構成する(ステップS71)。すなわち、ここでは操舵補助トルク補正値の制御則と、ブレーキ圧目標値の制御則とを構成する。
【0115】
そして、運転支援動作制御部25は、構成した回避支援制御則をもとに、運転者の操舵操作(操舵角θs)及び制動操作(ブレーキ圧pB)に応じた操舵補助トルク補正値ΔTassist及びブレーキ圧の目標値pB*を算出する(ステップS8,S9)。
これにより、運転者が制動操作だけを行っており、なおかつ制動操作だけでは障害物の回避が困難であると予想される状況では、制動による回避支援制御に加えて、操舵による回避支援制御を行うことができる。また、運転者が操舵操作を行っている場合には、必要に応じて制動と操舵の両方による回避支援制御を行うことができる。このように、制動と操舵を組み合わせた適切な回避支援制御を提供できる。
【0116】
なお、図13において、補助トルク発生モータ5、モータコントローラ6、ブレーキアクチュエータ7FL〜7RR及びブレーキ圧センサ・コントローラ8が操作支援アクチュエータを構成している。
また、図16において、ステップS411及びS412が状態量検出手段を構成し、ステップS415,S416,S419,S420が運転余裕指標算出手段を構成している。
【0117】
《効果》
(12)運転余裕指標予測手段は、状態量予測手段で予測した車両状態量について、当該車両状態量の予測に用いた運転操作を継続したときの車両状態量が、許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合から逸脱するまでの時間を予測し、これを運転余裕指標とする。
これにより、装置側からの運転者への働きかけに対する運転者の反応速度を考慮した上で、適切なタイミングで運転支援制御を開始することができる。
(13)運転支援制御手段は、運転者が将来取り得る運転操作のうち、運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標が最も大きくなる運転操作を実現するための運転操作支援力を発生する。これにより、運転目的達成の確実性をより高めることができる。
(14)操作支援アクチュエータは、運転者の制動操作を支援する運転操作支援力を発生する。これにより、制動を用いた運転操作を効果的に支援することができる。
【0118】
《第3の実施の形態》
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態は、前述した第1の実施形態において、静止している障害物を回避する場面を想定しているのに対し、移動している障害物を回避する場面を想定したものである。
《構成》
図18は、第3の実施形態における車両用運転支援装置を搭載した車両を示す図である。
この車両の基本的な構成は、図1に示す第1の実施形態の車両と同様であるが、前輪操舵系の自動制御システムが組み込まれている点で異なる。
すなわち、この車両は、前輪操舵系の自動制御システムに関係する要素として、クラッチ31、転舵角センサ32、転舵モータ33及び転舵角サーボコントローラ34を備える。
【0119】
障害物の回避支援が必要であると判断した場合、クラッチ31を切ってステアリングホイール1と転舵機構とを切り離す。そして、マイクロプロセッサ10からの転舵角指令をもとに、転舵角サーボコントローラ34が転舵角センサ32と転舵モータ33とを用いて操舵系のサーボ制御を行うことで、操向輪の転舵角を自動制御して障害物回避モードに移行する。
なお、転舵モータ33は、クラッチ31を締結しているときには、前述した第1の実施形態と同様の通常の操舵補助機能を実現する。
【0120】
本実施形態のマイクロプロセッサ10のブロック図は、図2におけるモータコントローラ6と補助トルク発生モータ5とを、転舵角サーボコントローラ34と転舵モータ33にそれぞれ置き換える点を除いては、図2に示すマイクロプロセッサ10と同様である。
本実施形態では、図19に示すように、障害物がY軸方向に移動する場面で回避支援を行うことを想定し、障害物の移動を想定した許容状態集合および運転余裕指標を算出する。
【0121】
(運転支援制御処理手順)
次に、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順について説明する。
図20は、マイクロプロセッサ10で実行する運転支援制御処理手順を示すフローチャートである。
先ず、ステップS12では、マイクロプロセッサ10は、図3のステップS1で説明した各信号の処理に加えて、障害物のY軸方向の移動速度vPを算出する処理を行う。
ステップS22では、マイクロプロセッサ10は、現在の制御サイクルにおける処理内容を決定するための判定を行う。
【0122】
図21は、ステップS22で実行する処理内容判定処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS221で、マイクロプロセッサ10は、回避対象となる障害物を検出しているか否かを判定する。そして、障害物を検出している場合にはステップS222へ移行し、障害物を検出していない場合には後述するステップS225へ移行する。
ステップS222では、マイクロプロセッサ10は、現在、回避支援制御を実行しているか否かを判定する。そして、回避支援制御を実行していない場合にはステップS223に移行し、クラッチ開放指令を出力してから、ステップS224へ移行する。一方、回避支援制御を実行している場合には、そのままステップS224に移行する。
【0123】
ステップS224では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御実行サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
また、ステップS225では、マイクロプロセッサ10は、図5のステップS206と同様に、自車両と接触する可能性のある障害物が存在するか否かの判定を行う。そして、障害物が存在する可能性が高い場合にはステップS226に移行し、障害物が存在する可能性が低い場合には後述するステップS227に移行する。
ステップS226では、マイクロプロセッサ10は、最後に障害物を検出したときの検出データから現在時刻における障害物情報を外挿演算等によって予測する処理を行い、前記ステップS222に移行する。
【0124】
ステップS227では、マイクロプロセッサ10は、回避支援制御の実行によりクラッチ31が開放状態になっているか否かを判定する。そして、クラッチ31が開放中である場合にはステップS228へ移行し、クラッチを締結して通常の運転モードに復帰する制御を実行してからステップS229に移行する。このステップS228では、運転者の操舵角と前輪操舵角とが上記(1)式の関係を満たすように前輪舵角を調整する制御を行い、上記(1)式の関係が満たされたところでクラッチを締結するという制御シーケンスを実行する。
一方、前記ステップS227でクラッチ31が締結状態にあると判定した場合には、そのままステップS229に移行する。
ステップS229では、マイクロプロセッサ10は、判定フラグを、現在のサイクルが回避支援制御停止サイクルであることを示す状態にセットし、処理内容判定処理を終了する。
【0125】
図20に戻って、ステップS32では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS2で設定した判定フラグに基づいて処理を分岐する。そして、現在のサイクルが回避支援制御の実行サイクルであると判定した場合にはステップS42に移行し、回避支援制御の停止サイクルであると判定した場合にはそのまま運転支援制御処理を終了する。
ステップS42では、マイクロプロセッサ10は、障害物が移動することを想定した許容状態集合の構成と運転余裕指標の算出とを行う。ここでは、簡単のためにvP>0の場合に限定して説明を行う。
【0126】
具体的な処理内容を説明する前に、自車両が移動する障害物を回避するための条件を整理する。障害物が静止している場合には、図7に示す時刻tx1において自車両と障害物とが接触していなければ、それ以降の時刻において自車両と障害物とが接触する可能性はないとみなすことができる。しかし、障害物が移動している場合には、自車両が障害物の横を通過している間に自車両と障害物とが接触する可能性がある。そのため、自車両の後端部が障害物の後端部を通過するまで、自車両と障害物とが接触しないことを条件として追加する必要がある。
【0127】
そこで、自車両の後端部が障害物の後端部を通過する時刻を新たにtx2と定義する。
図22は、障害物回避中の特定の一場面を示す図であり、時刻tx1および時刻tx2における自車両と障害物との位置関係を示している。
自車両のX軸方向の速度成分がほぼ一定であると仮定すると、時刻tx2は次式のように予測することができる。
tx2=(xP+lx)/vx ………(53)
ここで、障害物の動きが等速直線運動であると仮定すると、自車両が障害物を回避する条件は、
y(tx1)−(yP+vPtx1)≧ly ………(54)
y(tx2)−(yP+vPtx2)≧ly ………(55)
と書き直すことができる。
【0128】
前述した第1の実施形態と同様、これらの条件は、tx1、tx2とty1、ty2との大小関係によって以下の場合分けが生じる。
[1]tx1<ty1かつtx2<ty1
[2]tx1<ty1かつty1≦tx2<ty2
[3]tx1<ty1かつtx2≧ty2
[4]ty1≦tx1<ty2かつty1≦tx2<ty2
[5]ty1≦tx1<ty2かつtx2≧ty2
[6]tx1≧ty2かつtx2≧ty2
これらの場合分けのうち、tx1≧ty2とtx2≧ty2に対応する条件を書き下すと、
yR−(yP+vPtx1)≧ly ………(56)
yR−(yP+vPtx2)≧ly ………(57)
となる。
【0129】
これらは右方向に回避経路が存在するための必要条件になっている。さらに、上記(57)式は(56)式を含むので、上記(57)式を第1の実施形態の上記(16)式に相当する必要条件とみなすことができる。そこで、上記(11)式とあわせて、右方向への回避が可能となる共通の必要条件を定める上記(19)式の集合Qを、
【0130】
【数2】
で表現することができる。
【0131】
場合分け[6]に該当する条件はすべて上記(58)式の集合Qに含まれるので、[6]については考察の対象から外すことができる。
ここで、以下の集合を定義する。
Rij={x|rij(x,p)}, i=1,2, j=1,2 ………(59)
r11(x,p)=r1(x,p) ………(60)
r12(x,p)=r11(x,p) ………(61)
r21(x,p)=(1/2)√(4yR/αymax+2vy2/αymax2)−vy/αymax−(xP+lx)/vx ………(62)
r22(x,p)=−r21(x,p) ………(63)
Fij={x|fij(x,p)≧0}, i=1,2, j=1,2 ………(64)
f11(x,p)=(vy−vP)(xP−lx)/vx+(1/2)αymax(xP−lx)/vx−yP−ly ………(65)
f12(x,p)=−(1/2)αymax((xP−lx)/vx)2+(αymaxtc−vy−vP)(xP−lx)/vx−αymaxty12−yP−ly ………(66)
f21(x,p)=(vy−vP)(xP+lx)/vx+(1/2)αymax(xP+lx)/vx−yP−ly ………(67)
f22(x,p)=−(1/2)αymax((xP+lx)/vx)2+(αymaxtc−vy−vP)(xP+lx)/vx−αymaxty12−yP−ly ………(68)
【0132】
このとき、許容状態集合Xは以下のように構成される。
X=Q∩((R1121∩F1121)∪(R1122∩F1122)∪(R11∩F11)∪(R1222∩F1222)∪(R12∩F12)) ………(69)
ただし、
R1121=(R11∩R21),R1122=(R11∩R22),R1222=(R12∩R22) ………(70)
F1121=(F11∩F21),F1122=(F11∩F22),F1222=(F12∩F22) ………(71)
である。表現形式は複雑になっているが、基本的には集合Q、Rij、Fijの組み合わせで構成した集合であり、運転余裕指標の算出に関しては第1の実施形態と同様のアルゴリズムで算出することができる。
【0133】
図23は、ステップS42で実行する運転余裕指標算出処理手順を示すフローチャートである。
先ずステップS421では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxを構成する。本実施形態では、第1の実施形態で用いた5成分に加えて、障害物の移動速度vPを加えた6成分で状態ベクトルを構成する。
x=(vx vy xP yP yR vP) ………(72)
【0134】
ステップS422では、マイクロプロセッサ10は、図8のステップS402と同様にパラメータpを構成し、ステップS423に移行する。
ステップS423では、マイクロプロセッサ10は、図8のステップS403と同様に、状態ベクトルxが集合Qに属しているか否かを判定する。そして、xが集合Qに属していないと判定した場合には被害軽減制御への切替を行い、xが集合Qに属していると判定した場合にはステップS424に移行する。
【0135】
ステップS424では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが4つの集合Rij(i=1,2,j=1,2)のどれに属しているかを上記(60)〜(63)式に基づいて判定する。上述した第1の実施形態と異なり、複数の集合に属している可能性もあるので、属している集合のインデックスの組み合わせをすべて記憶しておく。
次にステップS425では、マイクロプロセッサ10は、状態ベクトルxが4つの集合Fij(i=1,2,j=1,2)のどれに属しているかを上記(65)〜(68)式に基づいて判定する。こちらも複数の集合に属している可能性もあるので、属している集合のインデックスの組み合わせをすべて記憶しておく。
【0136】
次にステップS426では、マイクロプロセッサ10は、上記(69)式に基づいて、状態ベクトルxが許容状態集合Xに属しているかどうかを判定する。これは、xが上記(69)式を構成している各集合R****、F****(****は任意のインデックス)に属しているかどうかを判定したうえで、R****とF****について同じ組み合わせのインデックスの集合にxが属しているかどうかをチェックすることで判定することができる。そして、状態ベクトルxが許容状態集合Xに属していない場合には被害軽減制御への切替を行い、属している場合にはステップS427に移行する。
【0137】
ステップS427では、マイクロプロセッサ10は、集合Q,Rij,Fijのそれぞれについてxが含まれる最小のαymaxを算出する。
次にステップS428では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS427で算出したαymaxを比較し、その中の最小値を最大横加速度限界値α ̄ymaxとして算出してステップS429に移行する。
ステップS429では、上記(28)式に基づいて運転余裕指標mの値を算出してから、運転余裕指標算出処理を終了する。
【0138】
図20に戻って、ステップS52では、マイクロプロセッサ10は、前記ステップS42で算出した運転余裕指標mが所定の運転余裕指標閾値mTHよりも大きいか否かを判定する。そして、m>mTHである場合には、回避支援制御が不要であると判断してそのまま運転支援制御処理を終了する。一方、m≦mTHである場合にはステップS62に移行する。
ステップS62では、マイクロプロセッサ10は、将来の予測状態の運転余裕指標を算出する。ここでの処理は、基本的には図3のステップS6と同じであるが、操舵角候補θsjのかわりに前輪舵角候補δjを生成し、運転余裕指標mと前輪舵角候補δjとの対応関係を算出する点で異なる。
【0139】
そして、ステップS72では、マイクロプロセッサ10は、前輪舵角目標値の算出と出力とを行う。先ず、前記ステップS62で算出した運転余裕指標mと前輪舵角候補δjとの対応関係に基づいて、前輪舵角候補δjに関する運転余裕指標mの関数m(δ)を構成する。次に、生成した前輪舵角候補δjの範囲内で運転余裕指標mが最大となる前輪舵角δを、前輪舵角の目標値δ*として算出する。算出した結果は、転舵角サーボコントローラ34に出力する。
以上の回避制御を行うことにより、運転余裕指標を大きく保つように前輪舵角を自動制御することができ、運転者の操作技量によらない確実性の高い回避運動を実現することができる。
【0140】
《効果》
(15)運転目的を達成するための目標とすべき操作量を実現するように、自車両の操舵系を自動制御するので、運転目的達成の確実性をより高めることができる。
《変形例》
(1)上記第1の実施形態においては、最大横加速度の限界値α ̄ymaxと自車両が発生可能な最大横加速度αymaxとの差を運転余裕指標mとして定義する場合について説明したが、最大横加速度の限界値α ̄ymaxをそのまま運転余裕指標mとして用いることもできる。最大横加速度限界値α ̄ymaxが小さいほど回避運動を行う場合の余裕が大きいと考えられる。したがって、この場合にも適切に運転余裕指標mを算出することができる。
【0141】
(2)上記第1の実施形態においては、運転者が運転余裕を大きくする操舵操作を行っているとき(運転余裕指標がm(0)−Δm以上のとき)、回避支援制御を行わないように操舵補助トルク補正値ΔTassist=0とする場合について説明したが、運転者に違和感を与えない程度であれば操舵補助トルク補正値ΔTassistを付加することもできる。
【0142】
(3)上記各実施形態においては、いずれも自車両前方の障害物を回避する操作を支援することを目的としているが、本発明は必ずしも障害物回避だけを想定した装置への適用に留まらない。例えば、図24に示すように、道路の幅が減少している場面にも適用可能である。この場面では障害物は存在していないが、道路幅が広い区間から狭い区間に移行するために操舵操作が必要となる。このとき、図24の点線で示した道路幅が変化する領域を仮想的に障害物が存在しているものとみなせば、上記各実施形態で示したアルゴリズムを用いて運転支援を提供することができる。
【0143】
(4)上記各実施形態においては、現在又は将来の車両状態量に基づいて自車両が接触回避し得る障害物の大きさの最大値を予測し、予測した最大値とカメラ19で検出した障害物の実際の大きさとの差を、運転余裕指標として算出することもできる。このように、障害物の大きさに基づいて運転余裕指標を算出することで、運転目的達成のために必要な車両運動の位置精度を直接的に反映した評価指標に基づいた運転支援を行うことができる。
【符号の説明】
【0144】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 操舵角センサ
4 操舵トルクセンサ
5 補助トルク発生モータ
6 モータコントローラ
7FL〜7RR ブレーキ
8 ブレーキセンサ・コントローラ
10 マイクロプロセッサ
16FL〜16RR 車輪速センサ
17 加速度センサ
18 ヨーレートセンサ
19 カメラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の運転操作を検出する運転操作検出手段と、
自車両の走行環境を検出する走行環境検出手段と、
運転者の運転操作を支援する運転操作支援力を発生する操作支援アクチュエータと、
前記運転操作検出手段で検出した運転操作が、前記走行環境検出手段で検出した走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、前記運転目的を達成するための前記運転操作支援力を発生するべく前記操作支援アクチュエータを駆動する運転支援制御を行う運転支援制御手段と、を備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
前記走行環境検出手段は、前記走行環境として自車両前方の物体を検出し、
前記運転目的は、前記走行環境検出手段で検出した前方物体との接触を回避する接触回避であることを特徴とする請求項1に記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
前記走行環境検出手段は、前記走行環境として自車両前方の道路区画線を検出し、
前記運転目的は、前記走行環境検出手段で検出した道路区画線の内側を走行する車線逸脱回避であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用運転支援装置。
【請求項4】
前記運転支援制御手段は、
前記運転目的を達成可能な車両状態量の集合である許容状態集合を算出する許容状態集合算出手段と、運転者が将来取り得る複数の運転操作に対して、それぞれ起こり得る車両状態量を予測する状態量予測手段と、前記状態量予測手段で予測した車両状態量について、前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の余裕を定量的に示す運転余裕指標を予測する運転余裕指標予測手段と、を備え、
前記操作状態検出手段で検出した運転操作と前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標とに基づいて、前記運転支援制御を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項5】
前記運転余裕指標予測手段は、自車両が発生可能な最大横加速度と、前記状態量予測手段で予測した車両状態量が前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合に属するために最低限必要な自車両の最大横加速度との差を、前記運転余裕指標として予測することを特徴とする請求項4に記載の車両用運転支援装置。
【請求項6】
前記運転余裕指標予測手段は、前記状態量予測手段で予測した車両状態量が前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合に属するために最低限必要な自車両の最大横加速度を、前記運転余裕指標として予測することを特徴とする請求項4に記載の車両用運転支援装置。
【請求項7】
前記運転余裕指標予測手段は、前記状態量予測手段で予測した車両状態量について、当該車両状態量の予測に用いた運転操作を継続したときの車両状態量が、前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合から逸脱するまでの時間を予測し、これを前記運転余裕指標とすることを特徴とする請求項4に記載の車両用運転支援装置。
【請求項8】
前記運転支援制御手段は、前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち前記操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、許容水準を下回るとき、前記運転支援制御を行うことを特徴とする請求項4〜7の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項9】
前記運転支援制御手段は、前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち前記操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、前記許容水準を大きく下回るほど、前記運転操作支援力を大きく発生することを特徴とする請求項8に記載の車両用運転支援装置。
【請求項10】
前記運転支援制御手段は、運転者が将来取り得る運転操作のうち、前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標が最も大きくなる運転操作を実現するための前記運転操作支援力を発生することを特徴とする請求項4〜7の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項11】
前記状態量予測手段は、現在の運転者の運転操作量および運転操作量変化に基づいて、運転者が将来取り得る運転操作を予測すると共に、それに対して起こり得る車両状態量を予測することを特徴とする請求項4〜10の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項12】
現在の車両状態量を検出する状態量検出手段と、
前記状態量検出手段で検出した車両状態量について、前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の現在の余裕を定量的に示す運転余裕指標を算出する運転余裕指標算出手段と、
前記運転余裕指標算出手段で算出した運転余裕指標が、前記運転支援制御手段による運転支援制御の必要性の有無を判定する運転余裕指標閾値より大きいとき、前記運転支援制御手段を停止する制御停止手段と、を備えることを特徴とする請求項4〜11の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項13】
前記操作支援アクチュエータは、運転者の操舵操作を支援する前記運転操作支援力を発生するように構成されていることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項14】
前記操作支援アクチュエータは、運転者の制動操作を支援する前記運転操作支援力を発生するように構成されていることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項15】
運転者の運転操作と自車両の走行環境とを検出し、前記運転操作が前記走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、前記運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく操作支援アクチュエータを駆動制御することを特徴とする車両用運転支援方法。
【請求項1】
運転者の運転操作を検出する運転操作検出手段と、
自車両の走行環境を検出する走行環境検出手段と、
運転者の運転操作を支援する運転操作支援力を発生する操作支援アクチュエータと、
前記運転操作検出手段で検出した運転操作が、前記走行環境検出手段で検出した走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、前記運転目的を達成するための前記運転操作支援力を発生するべく前記操作支援アクチュエータを駆動する運転支援制御を行う運転支援制御手段と、を備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
前記走行環境検出手段は、前記走行環境として自車両前方の物体を検出し、
前記運転目的は、前記走行環境検出手段で検出した前方物体との接触を回避する接触回避であることを特徴とする請求項1に記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
前記走行環境検出手段は、前記走行環境として自車両前方の道路区画線を検出し、
前記運転目的は、前記走行環境検出手段で検出した道路区画線の内側を走行する車線逸脱回避であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用運転支援装置。
【請求項4】
前記運転支援制御手段は、
前記運転目的を達成可能な車両状態量の集合である許容状態集合を算出する許容状態集合算出手段と、運転者が将来取り得る複数の運転操作に対して、それぞれ起こり得る車両状態量を予測する状態量予測手段と、前記状態量予測手段で予測した車両状態量について、前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の余裕を定量的に示す運転余裕指標を予測する運転余裕指標予測手段と、を備え、
前記操作状態検出手段で検出した運転操作と前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標とに基づいて、前記運転支援制御を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項5】
前記運転余裕指標予測手段は、自車両が発生可能な最大横加速度と、前記状態量予測手段で予測した車両状態量が前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合に属するために最低限必要な自車両の最大横加速度との差を、前記運転余裕指標として予測することを特徴とする請求項4に記載の車両用運転支援装置。
【請求項6】
前記運転余裕指標予測手段は、前記状態量予測手段で予測した車両状態量が前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合に属するために最低限必要な自車両の最大横加速度を、前記運転余裕指標として予測することを特徴とする請求項4に記載の車両用運転支援装置。
【請求項7】
前記運転余裕指標予測手段は、前記状態量予測手段で予測した車両状態量について、当該車両状態量の予測に用いた運転操作を継続したときの車両状態量が、前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合から逸脱するまでの時間を予測し、これを前記運転余裕指標とすることを特徴とする請求項4に記載の車両用運転支援装置。
【請求項8】
前記運転支援制御手段は、前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち前記操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、許容水準を下回るとき、前記運転支援制御を行うことを特徴とする請求項4〜7の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項9】
前記運転支援制御手段は、前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標のうち前記操作状態検出手段で検出した運転操作に対応する運転余裕指標が、前記許容水準を大きく下回るほど、前記運転操作支援力を大きく発生することを特徴とする請求項8に記載の車両用運転支援装置。
【請求項10】
前記運転支援制御手段は、運転者が将来取り得る運転操作のうち、前記運転余裕指標予測手段で予測した運転余裕指標が最も大きくなる運転操作を実現するための前記運転操作支援力を発生することを特徴とする請求項4〜7の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項11】
前記状態量予測手段は、現在の運転者の運転操作量および運転操作量変化に基づいて、運転者が将来取り得る運転操作を予測すると共に、それに対して起こり得る車両状態量を予測することを特徴とする請求項4〜10の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項12】
現在の車両状態量を検出する状態量検出手段と、
前記状態量検出手段で検出した車両状態量について、前記許容状態集合算出手段で算出した許容状態集合の境界との間の現在の余裕を定量的に示す運転余裕指標を算出する運転余裕指標算出手段と、
前記運転余裕指標算出手段で算出した運転余裕指標が、前記運転支援制御手段による運転支援制御の必要性の有無を判定する運転余裕指標閾値より大きいとき、前記運転支援制御手段を停止する制御停止手段と、を備えることを特徴とする請求項4〜11の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項13】
前記操作支援アクチュエータは、運転者の操舵操作を支援する前記運転操作支援力を発生するように構成されていることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項14】
前記操作支援アクチュエータは、運転者の制動操作を支援する前記運転操作支援力を発生するように構成されていることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項15】
運転者の運転操作と自車両の走行環境とを検出し、前記運転操作が前記走行環境に応じた運転目的を達成不可能な運転操作であるとき、前記運転目的を達成するための運転操作支援力を発生するべく操作支援アクチュエータを駆動制御することを特徴とする車両用運転支援方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−260473(P2010−260473A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113620(P2009−113620)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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