説明

車両用遮光装置

【課題】地図情報と自車及び他車の情報に基づいて今後に自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されるか否かを予測して事前に遮光を行う車両用遮光装置を提供する。
【解決手段】ナビゲーション装置3から取得した地図情報と自車及び対象車両の情報から所定時間以内における自車の乗員の視界と対象車両のライトの光軸とをそれぞれ算出し(S6〜S10)、所定時間以内に自車の視線方向と対象車両のヘッドライトの光軸方向とが一致すると判定された場合に一致するタイミングで自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測し(S11)、調光ガラス5A〜5Dの該当領域を遮光状態となるように制御する(S14)ように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車の乗員に対して照射される光を遮光する車両用遮光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車を運転する際において、対向車や後続車のヘッドライトの光などは運転中の乗員の視力を一時的に奪い、事故の原因の一つとなっていた。そこで、例えば特開平8−136955号公報には、後方向からの入射光量を検出してミラーの反射率を連続的に変化させることにより、夜間後続車のヘッドライト等によって急に眩しくなった場合でも自動で適切な遮光を行う車両用遮光装置について記載されている。
【特許文献1】特開平8−136955号公報(第4頁〜第6頁、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記した特許文献1に記載された車両用遮光装置では、後続車のヘッドライトの光を検出してからミラーの反射率を変化させることにより遮光を行っていたので、光を検出した時点での遮光が十分に行われていなかった。従って、短時間ではあるが、後続車のヘッドライトの光が自車の乗員の目に入ってしまい、乗員の視力を奪う結果となっていた。
【0004】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、事前の予測結果に基づいて照射開始時点においても対向車や後続車からのライトの光を遮光することができ、対向車や後続車のライトが乗員の視力を奪うことなく快適な走行を行わせることを可能とした車両用遮光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため本願の請求項1に車両用遮光装置は、自車の乗員に対して照射される光を遮光する遮光手段(5A〜5D、6)と、前記遮光手段を制御する遮光制御手段(8)と、を有する車両用遮光装置(1)において、地図情報を記憶する地図情報記憶手段(16)と、自車の現在位置を検出する自車位置検出手段(21)と、自車の周辺に位置する他車の現在位置を検出する他車位置検出手段(4、7)と、前記地図情報と前記自車位置検出手段及び他車位置検出手段の検出結果に基づいて自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されるか否かを予測する予測手段(8)と、を有し、前記遮光制御手段は前記予測手段によって自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測された場合に前記遮光手段を制御することを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に係る車両用遮光装置は、請求項1に記載の車両用遮光装置であって、前記予測手段(8)によって他車のライトの光が照射されると予測された場合に自車に対する光の入射方向を特定する入射方向特定手段(8)を有し、前記遮光制御手段(8)は自車のガラスの内、前記入射方向特定手段によって特定された入射方向のガラスの所定領域の透過率を低下させるように制御することを特徴とする。
【0007】
更に、請求項3に係る車両用遮光装置は、請求項1又は請求項2に記載の車両用遮光装置であって、前記予測手段(8)は、所定時間以内における自車の乗員の視界を算出する視界算出手段(8)と、前記視界算出手段により算出された自車の乗員の視界と前記他車位置検出手段で検出された他車の現在位置に基づいて所定時間以内に自車の乗員の視界内に対して他車のライトの光源が位置するか否かを判定する視界判定手段(8)と、前記視界判定手段によって所定時間以内に自車の乗員の視界内に対して他車のライトの光源が位置すると判定された場合に所定時間以内における他車のライトの光軸を算出する光軸算出手段(8)と、前記視界算出手段及び前記光軸算出手段の算出結果に基づいて所定時間以内に自車の乗員の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致するか否かを判定する一致判定手段(8)と、を備え、前記一致判定手段によって自車の乗員の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致すると判定された場合に一致するタイミングで自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
前記構成を有する請求項1に係る車両用遮光装置では、地図情報と自車の現在位置及び他車の現在位置に基づいて自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されるか否かを予測し、他車のライトの光が照射されると予測された場合に遮光手段を制御して自車の乗員に対して照射される光を遮光するので、対向車や後続車のヘッドライトが今後に自車の乗員に照射される場合には、事前の予測結果を用いて照射開始時点においても対向車や後続車からのライトの光を確実に遮光することが可能となる。従って、対向車や後続車のライトが乗員の視力を奪うことなく快適な走行を行わせることができる。
【0009】
また、請求項2に係る車両用遮光装置では、自車のガラスの内、光が入射する入射方向のガラスの所定領域の透過率を低下させることによって自車の乗員に対して照射される光を遮光するので、遮光が必要となる方向のみに対して光の遮光を行うことが可能であり、遮光が不要な方向において乗員の視界を狭めることがない。従って、照射光の遮光と、前方の視界の確保とをバランスよく両立させることが可能となる。また、サンバイザ等を駆動させる為のモータ等の駆動部分を必要とせず、遮光を行うことが可能となる。従って、駆動部分の不具合等によって正しく遮光が行われなくなる事態が発生することを防止することができる。
【0010】
更に、請求項3に係る車両用遮光装置では、所定時間以内における自車の乗員の視界と他車のライトの光軸が一致するか否かを判定し、一致すると判定された場合に一致するタイミングで自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測し、遮光手段を制御して自車の乗員に対して照射される光を遮光するので、対向車や後続車のライトによる正確な照射開始時点を予測することが可能となる。従って、照射開始時点において確実に対向車や後続車からのライトの光を遮光することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る車両用遮光装置について具体化した実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。
先ず、本実施形態に係る車両用遮光装置1の概略構成について図1を用いて説明する。図1は本実施形態に係る車両用遮光装置1の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る車両用遮光装置1は、車両2に対して設置されたナビゲーション装置3と、前方レーダ装置(他車位置検出手段)4と、車両2のフロントガラス、ドアガラス、バックガラスに対してそれぞれ設置された調光ガラス5A〜5Dと、液晶駆動回路6と、車車間通信装置7と、遮光ECU(遮光制御手段、予測手段、入射方向特定手段、視界算出手段、視界判定手段、光軸算出手段、一致判定手段)8等で構成されている。尚、調光ガラス5A〜5Dと液晶駆動回路6を合わせたものが遮光手段に相当する。
【0012】
ここで、車両用遮光装置1を構成するナビゲーション装置3は、車両2の室内のセンターコンソール又はパネル面に備え付けられ、地図や目的地までの探索経路を表示する液晶ディスプレイ(図示せず)や経路案内に関する音声ガイダンスを出力するスピーカ(図示せず)等を備えている。そして、GPS等によって車両2の現在位置を特定するととともに、目的地が設定された場合においては目的地までの経路の探索、並びに設定された経路に従った案内を液晶ディスプレイやスピーカを用いて行う。また、本実施形態に係るナビゲーション装置3では、後述するように自車の現在位置情報と自車周辺の道路の勾配や道路形状等の自車周辺情報とを取得し、遮光ECU8に対して取得した情報を出力する。
【0013】
また、前方レーダ装置4は、車両2の前方に装着されたナンバープレートの上中央付近に取り付けられており、電波送信部と電波受信部とから基本的に構成されている。そして、電波送信部から車両2の前方に対してビーム電波を放射するとともに前方の対象物(具体的には他車両)によって反射された反射電波を電波受信部で受信する。その結果、受信した反射電波の強度や波長に基づいて車両2の前方を走行する対向車両までの距離や相対速度を検出することが可能となる。
【0014】
また、調光ガラス5A〜5Dは、液晶駆動回路6から印加される電圧に応じて透過率を変化するフィルム状の液晶シートを挟持したガラス板である。ここで、調光ガラス5A〜5Dは車両2のフロントガラス、ドアガラス、バックガラスにそれぞれ設けられている。また、本実施形態に係る調光ガラス5A〜5Dは、図2に示すように複数の遮光領域10に分割して設けられており、この領域ごとに光透過率の制御が可能となっている。そして、液晶駆動回路6から印加される電圧に応じて所定の遮光領域10の光透過率を変化させ、通常の光が透過する状態である非遮光状態と対向車や後続車のヘッドライトの光等を遮光する遮光状態とを切り替えることができるように構成する。
【0015】
ここで、図2及び図3は特にフロントガラス12に配置された調光ガラス5Aの複数の遮光領域10の内、特定の遮光領域11の透過率を下げて非遮光状態から遮光状態とした場合を示した模式図である。図2に示すように複数個の遮光領域10の内、上から2〜3段目で右から3〜4列目の遮光領域11の透過率を下げると、図3に示すようにフロントガラス12から照射される光が遮光領域11の部分で遮光、若しくは減衰される。それによって、運転席で着席する乗員に対して照射される光を遮光することが可能となる。そして、本実施形態に係る車両用遮光装置1では、後述のように対向車と自車との位置関係を考慮して遮光状態とする遮光領域11の位置を調整することによって、最小範囲の遮光領域10のみを遮光状態として、確実に光が乗員の目に入射することを防止することが可能となる。
【0016】
また、液晶駆動回路6は調光ガラス5A〜5Dに対して電圧を印加することにより調光ガラス5A〜5D中の任意の遮光領域10の透過率を変更させる回路であり、図4に示すように遮光ECU8に対して接続される。そして、遮光ECU8からの指示に基づいて所定の態様で調光ガラス5A〜5Dの液晶シートに電圧を印加させる。
【0017】
また、車車間通信装置7は、例えばミリ波帯の電波による無線方式で情報を通信する通信装置である。そして、車両2に対して予め定められた無線通信可能範囲(例えば、自車両位置を中心とした半径2kmまでの範囲)に位置する他車両(後続車両、前方車両、対向車両等)との間で、無線による情報の通信を行うことが可能となっている。ここで、車車間通信装置7によって車両間で送受信される情報としては、車両の現在位置を特定する絶対座標や車両の速度、加速度に関する情報がある。
【0018】
更に、遮光ECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)8はナビゲーション装置3、前方レーダ装置4及び車車間通信装置7が接続され(図4参照)、ナビゲーション装置3から取得した自車周辺の地図情報及び自車情報と前方レーダ装置4又は車車間通信装置7から取得した対向車又は後続車の情報とに基づいて所定時間内に自車の乗員に対してヘッドライトの光が照射されるか否かを予測する予測処理、光が照射されると判定された場合に更に自車に対する光の入射方向を特定する入射方向特定処理、液晶駆動回路6を制御することにより特定された入射方向のガラスの特定領域の透過率を低下させる透過率制御処理等を行う電子制御ユニットである。尚、遮光ECU8はナビゲーション装置の制御に使用するナビゲーションECUと兼用してもよい。また、遮光ECU8の詳細な構成については後述する。
【0019】
次に、本実施形態に係る車両用遮光装置1の制御系に係る構成について図4に基づき説明する。図4は本実施形態に係る車両用遮光装置1の制御系を模式的に示すブロック図である。
【0020】
図4に示すようにナビゲーション装置3は、自車の現在位置を検出する現在地検出処理部(自車位置検出手段)15と、地図情報が記録された地図情報DB(地図情報記憶手段)16と、入力された情報に基づいて、各種の演算処理を行うナビゲーションECU17と、から構成されている。
【0021】
以下に、ナビゲーション装置3を構成する各構成要素について説明すると、現在地検出処理部15は、GPS21、地磁気センサ22、距離センサ23、ステアリングセンサ24、方位検出部としてのジャイロセンサ25、高度計(図示せず)等からなり、現在の自車の位置、方位、目標物(例えば、交差点)までの距離等を検出することが可能となっている。
【0022】
また、地図情報DB16には経路案内及び地図表示に必要な各種情報が記録されており、例えば、地図を表示するための地図データ、各交差点に関する交差点データ、ノード点に関するノードデータ、道路に関する道路データ、経路を探索するための探索データ、施設に関する施設データ、地点を検索するための検索データ等が記録されている。また、道路データには後述するように乗員の視界と他車のヘッドライトの光軸を算出するための道路形状、道路勾配、中央分離帯の有無などについて記録されている。
【0023】
また、ナビゲーションECU17には車速センサ26及び加速度センサ27が接続されている。車速センサ26は、車両2の車輪の回転に応じて車速パルスを発生させ、車両2の移動距離や車速を検出するセンサである。また、加速度センサ27は、車両2の加速度を検出するセンサである。
【0024】
一方、遮光ECU8は、車両用遮光装置1の全体の制御を行う演算装置及び制御装置としてのCPU31、並びにCPU31が各種の演算処理を行うに当たってワーキングメモリとして使用されるとともに、算出された乗員の視界や他車のヘッドライトの光軸方向等が記憶されるRAM32、制御用のプログラムのほか、自車の乗員に対して他車のヘッドライトの光が照射されるか否かを予測し、照射されると予測された場合に光が入射する入射方向のガラスの透過率を低下させるように調光ガラス5A〜5Dを制御する遮光制御処理プログラム(図5参照)が記録されたROM33等の内部記憶装置を備えている。
【0025】
続いて、前記構成を有する本実施形態に係る車両用遮光装置1の遮光ECU8が実行する遮光制御処理プログラムについて図5に基づき説明する。図5は本実施形態に係る遮光制御処理プログラムのフローチャートである。尚、図5にフローチャートで示されるプログラムは遮光ECU8が備えるROM33やRAM32に記憶されており、CPU31により実行される。
【0026】
遮光制御処理プログラムでは、先ずステップ(以下、Sと略記する)1において、CPU31はナビゲーション装置3から自車位置情報を取得する。ここで、前記S1で取得される自車位置情報は、GPS21によって検出された自車が現在位置する絶対座標に関する情報である。
【0027】
続いて、S2でCPU31は、ナビゲーション装置3から車両周辺情報を取得する。ここで、前記S2で取得される車両周辺情報は、前記S1で取得された自車位置周辺の地図情報であり、具体的には道路形状、道路勾配、中央分離帯の有無、渋滞情報等がある。
【0028】
次に、S3でCPU31は、ナビゲーション装置3から自車の周辺を走行する周辺車両に関する情報を取得する。ここで、前記S3で取得される周辺車両に関する情報としては、車両の位置情報(絶対座標)と車両の走行速度及び加速度がある。そして、周辺車両が前方レーダ装置4によるセンシング範囲にある場合には、前方レーダ装置4によって車両の位置情報と車両の走行速度及び加速度が検出される。一方、周辺車両が前方レーダ装置4によるセンシング範囲外にある場合には、車車間通信装置7を用いた車両間の通信によって車両の位置情報と車両の走行速度及び加速度が取得される。
【0029】
その後、S4でCPU31は、前記S3で取得した周辺車両の情報に基づいて、自車の周辺に対象車両があるか否か判定される。ここで、対象車両となるのは、自車の周辺を走行する車両の内、特にヘッドライトの光を自車方向に照射する可能性のある対向車両と後続車両である。
【0030】
そして、自車の周辺に対象車両があると判定された場合(S4:YES)には、続いて対象車両が自車の後方を走行する後続車両であるか否かが判定される(S5)。一方、自車の周辺に対象車両がないと判定された場合(S4:NO)には、当該遮光制御処理プログラムを終了する。
【0031】
S5の判定の結果、対象車両が自車の前方を走行する対向車両であると判定された場合(S5:NO)には、自車の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における自車の走行予定軌跡を算出し、算出された走行軌跡に基づいて更に所定時間以内における運転者のフロントガラス越しの視界である前方ドライバ視界θ1を算出する(S6)。一方、対象車両が自車の後方を走行する後続車両であると判定された場合(S5:YES)には、算出された走行予定軌跡に基づいて所定時間以内における運転者のバックミラー及びバックガラス越しの視界である後方ドライバ視界θ2を算出する(S7)。
【0032】
以下に、前方ドライバ視界θ1及び後方ドライバ視界θ2の算出方法について図6及び図7を用いて説明する。
前方ドライバ視界θ1は運転者の視線高さhとフロントガラスの大きさに基づいて決定された図6に示す視界が固定された状態で、自車が走行予定軌跡を走行すると仮定して算出される。尚、視線高さhは予めユーザによって入力される値としても良いし、車内に設置したカメラで撮像した画像により算出される値としても良い。
一方、後方ドライバ視界θ2はバックミラーの位置とバックガラスの大きさに基づいて決定された図6に示す視界が固定された状態で、自車が走行予定軌跡を走行すると仮定して算出される。尚、バックミラーの位置情報は予め車両情報として予めRAM32等に入力されている情報を用いても良いし、車内に設置したカメラで撮像した画像により検出されることとしても良い。
【0033】
更に、前方ドライバ視界θ1及び後方ドライバ視界θ2の算出については、前記S2で取得した車両周辺情報についても考慮される。即ち、自車の走行する道路が上り勾配である場合には、地面によってドライバ視界が狭くなることがある。
例えば、図7に示す上り勾配を自車が走行中である場合には、視線の高さhから勾配道路形状曲線への接線を引き、これを前方ドライバ視認線l1とする。そして、前方ドライバ視界θ1の内、特に前方ドライバ視認線l1より上方に位置する視界が実際の視界である実前方ドライバ視界θ1´となる。
また、同様にバックミラーの位置から勾配道路形状曲線への接線を引き、これを後方ドライバ視認線l2とする。そして、後方ドライバ視界θ2の内、特に後方ドライバ視認線l2より上方に位置する視界が実際の視界である実後方ドライバ視界θ2´となる。尚、図7では後方ドライバ視界θ2よりも後方ドライバ視認線l2が下方にあるので、後方ドライバ視界θ2と実後方ドライバ視界θ2´は一致する。また、上記S6、S7が視界算出手段の処理に相当する。
【0034】
次に、S8では前記S1〜S3で取得した情報に基づいて、地図上において自車に対する対象車両の相対位置を特定する。
【0035】
更に、S9では今後所定時間以内(本実施形態では5sec以内)において、ドライバ視界内に対象車両のライト発光部が位置するか否かを判定する。具体的には、CPU31は先ず対象車両の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内における他車の走行軌跡を算出し、更に前記S6又はS7で算出された所定時間以内における各ドライバ視界θ1〜θ2´から、ドライバ視界内に対象車両が位置するか否かに基づいて判定する。尚、上記S9が視界判定手段の処理に相当する。
【0036】
その結果、ドライバ視界内に対象車両のライト発光部が位置すると判定された場合(S9:YES)には、S10へと移行する。一方、ドライバ視界内に対象車両のライト発光部が位置しないと判定された場合(S9:NO)には、調光ガラス5A〜5Dの全領域を非遮光状態とした状態で遮光制御処理プログラムを終了する。
【0037】
そして、S10でCPU31は対象車両の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における他車の走行軌跡を算出し、算出された走行軌跡に基づいて更に所定時間以内における対象車両のヘッドライトの光軸Lを算出する。
【0038】
続いて、S11でCPU31は今後所定時間以内に自車の運転手に対して前記S3で検出された対象車両のヘッドライトの光が照射されるか否かの予測処理を行う。具体的には、所定時間以内に自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致するか否か判定し、一致する場合には一致するタイミングで自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測する。
【0039】
ここで、以下に前記S6〜S11の処理について自車が上り勾配を走行中である場合と下り勾配を走行中である場合とに分けてより詳細に説明する。
先ず、自車が上り勾配を走行中である場合について図8を用いて説明すると、CPU31は自車の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における自車の走行軌跡を算出し、所定時間以内における実前方ドライバ視界θ1´及び実後方ドライバ視界θ2´を算出する。また、CPU31は対象車両の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における他車の走行軌跡を算出し、今後所定時間以内においてドライバ視界内に対象車両のライト発光部が位置すると判定された場合には、所定時間以内における対象車両のヘッドライトの光軸Lを算出する。
そして、所定時間以内に前方ドライバ視認線l1と光軸Lとのなす角θ3が0度となった場合に、自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致すると判定され、自車の運転手に対して対象車両のヘッドライトの光が照射されると予測される。
【0040】
次に、自車が下り勾配を走行中である場合について図9を用いて説明すると、CPU31は自車の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における自車の走行軌跡を算出し、所定時間以内における前方ドライバ視界θ1及び後方ドライバ視界θ2を算出し、更に各ドライバ視界に含まれる地面範囲である視認可能範囲Mを算出する。また、CPU31は対象車両の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における他車の走行軌跡を算出し、今後所定時間以内においてドライバ視界内に対象車両のライト発光部が位置すると判定された場合には、所定時間以内における対象車両のヘッドライトの光軸Lを算出する。
そして、所定時間以内に対象車両が視認可能範囲Mに位置し、且つ光軸Lが自車の視線高さhと一致した場合に、自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致すると判定され、自車の運転手に対して対象車両のヘッドライトの光が照射されると予測される。
【0041】
また、本実施形態に係る車両用遮光装置1は上り勾配や下り勾配の地形以外にも図10に示すようなコーナの地形を走行する際に、自車の運転手に対して前記S3で検出された対象車両のヘッドライトの光が照射されるか否かを予測することもできる。この場合には、CPU31は道路51を走行する自車52の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における自車の走行軌跡を算出し、所定時間以内における前方ドライバ視界θ1を算出する。また、CPU31は対象車両の現在位置、車速及び加速度から所定時間以内(本実施形態では5sec以内)における他車の走行軌跡を算出し、今後所定時間以内においてドライバ視界内に対象車両のライト発光部が位置すると判定された場合には、所定時間以内における対象車両のヘッドライトの光軸Lを算出する。
そして、所定時間以内に対象車両が前方ドライバ視界θ1内に位置し、且つ光軸Lが自車位置と重なった場合に、自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致すると判定され、自車の運転手に対して対象車両のヘッドライトの光が照射されると予測される。
【0042】
更に、本実施形態に係る車両用遮光装置1では所定時間以内に自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致する場合であっても、例外的に自車の運転手に対して前記S3で検出された対象車両のヘッドライトの光が照射されない場合がある。
例えば、自車の現在走行するリンクが渋滞している場合には、計算上において自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致すると判定された場合であっても、実際には他の車両が壁となって対象車両のヘッドライトの光は自車まで届かない。
また、対象車両の走行する車線と自車の走行する車線の間に中央分離帯がある場合には、同じく計算上において自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致すると判定された場合であっても、実際には中央分離帯が壁となって対象車両のヘッドライトの光は自車まで届かない。
従って、前記S2でナビゲーション装置3から取得した中央分離帯の有無に関する情報と渋滞情報に基づいて、自車の現在走行するリンクが渋滞している場合や自車の現在走行するリンクに中央分離帯がある場合には、今後所定時間以内に自車の運転手に対して対象車両のヘッドライトの光が照射されないと予測される。尚、上記S10が光軸算出手段の処理に相当し、S11が一致判定手段の処理に相当し、S6〜S11が予測手段の処理に相当する。
【0043】
そして、S12でCPU31は、前記S11の予測処理の結果に基づいて所定時間(5sec)以内に自車の運転手に対して対象車両のヘッドライトの光が照射されるか否かを判定する。その結果、光が照射されると判定された場合(S12:YES)には、対象車両から自車に対する光の入射方向を特定する(S13)。尚、上記S13が入射方向特定手段の処理に相当する。
【0044】
続いて、S14でCPU31は、前記S13で特定された入射方向のガラス(フロントガラス、ドアガラス、バックガラスのいずれか)に配置された調光ガラス5A〜5Dの所定の遮光領域10を遮光状態とするように制御する。その結果、対象車両からの光が照射される5秒前に予め必要な領域を遮光状態とすることができ、その後、光が入射された場合であっても透過率を下げた遮光領域10に基づいて形成された影によって、運転者の目にヘッドライトの光が入射されることを確実に防止することができる。
一方、所定時間(5sec)以内に自車の運転手に対して対象車両のヘッドライトの光が照射されないと判定された場合(S12:NO)には、調光ガラス5A〜5Dの全領域を非遮光状態とした状態で遮光制御処理プログラムを終了する。
【0045】
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係る車両用遮光装置1では、ナビゲーション装置3から取得した地図情報と自車及び対象車両の情報から所定時間以内における自車の乗員の視界と対象車両のライトの光軸とをそれぞれ算出し(S6〜S10)、所定時間以内に自車の視線方向と対象車両のヘッドライトの光軸方向とが一致すると判定された場合に一致するタイミングで自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測し(S11)、調光ガラス5A〜5Dの該当領域を遮光状態となるように制御する(S14)ので、対向車や後続車のヘッドライトが今後に自車の乗員に照射される場合には、その正確な照射開始時点を予測することが可能となる。そして、事前の予測結果を用いて照射開始時点においても対向車や後続車からのライトの光を確実に遮光することが可能となる。従って、対向車や後続車のライトが乗員の視力を奪うことなく快適な走行を行わせることができる。
また、本実施形態に係る車両用遮光装置1では、自車のガラスの内、光が入射する入射方向のガラスの所定領域の透過率を低下させることによって自車の乗員に対して照射される光を遮光するので、遮光が必要となる方向のみに対して光の遮光を行うことが可能であり、遮光が不要な方向において乗員の視界を狭めることがない。従って、照射光の遮光と、前方の視界の確保とをバランスよく両立させることが可能となる。また、サンバイザ等を駆動させる為のモータ等の駆動部分を必要とせず、遮光を行うことが可能となる。従って、駆動部分の不具合等によって正しく遮光が行われなくなる事態が発生することを防止することができる。
【0046】
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、本実施形態では照射される光を遮光する遮光手段として、調光ガラス5A〜5Dと液晶駆動回路6を用い、フロントガラス等の透過率を下げることにより光を遮光することとしているが、遮光手段としてサンバイザ等の所定形状を有する板状部材と板状部材の位置を変更する駆動手段とを用いることとしても良い。その際には、S13で特定された光の入射方向を遮るように板状部材を移動させることにより適切な遮光が可能となる。
【0047】
また、本実施形態では5秒以内に対象車両からのヘッドライトの光が自車の運転手に照射されると判定した場合には、その時点でガラスの該当領域の透過率を下げることとしているが、予測される照射開始タイミングの1秒前まで待って、その後に透過率を下げるように制御しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態に係る車両用遮光装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る調光ガラスを示した模式図である。
【図3】図2に示す調光ガラスの遮光領域の内、特定の遮光領域の透過率を下げて非遮光状態から遮光状態とした場合を示した模式図である。
【図4】本実施形態に係る車両用遮光装置の制御系を模式的に示すブロック図である。
【図5】本実施形態に係る遮光ECUが実行する遮光制御処理プログラムのフローチャートである。
【図6】運転者の視界の算出方法を示した説明図である。
【図7】特に自車が上り勾配を走行中である場合における運転者の視界の算出方法を示した説明図である。
【図8】自車が上り勾配を走行中である場合において自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向の一致判定方法を示した説明図である。
【図9】自車が下り勾配を走行中である場合において自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向の一致判定方法を示した説明図である。
【図10】自車がカーブ形状の道路を走行中である場合において自車の運転手の視線方向と他車のライトの光軸方向の一致判定方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 車両用遮光装置
2 車両
3 ナビゲーション装置
4 前方レーダ装置
5A〜5D 調光ガラス
6 液晶駆動回路
7 車車間通信装置
8 遮光ECU
15 現在地検出処理部
16 地図情報DB
31 CPU
32 RAM
33 ROM
L 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車の乗員に対して照射される光を遮光する遮光手段と、
前記遮光手段を制御する遮光制御手段と、を有する車両用遮光装置において、
地図情報を記憶する地図情報記憶手段と、
自車の現在位置を検出する自車位置検出手段と、
自車の周辺に位置する他車の現在位置を検出する他車位置検出手段と、
前記地図情報と前記自車位置検出手段及び他車位置検出手段の検出結果に基づいて自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されるか否かを予測する予測手段と、を有し、
前記遮光制御手段は前記予測手段によって自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測された場合に前記遮光手段を制御することを特徴とする車両用遮光装置。
【請求項2】
前記予測手段によって他車のライトの光が照射されると予測された場合に自車に対する光の入射方向を特定する入射方向特定手段を有し、
前記遮光制御手段は自車のガラスの内、前記入射方向特定手段によって特定された入射方向のガラスの所定領域の透過率を低下させるように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用遮光装置。
【請求項3】
前記予測手段は、
所定時間以内における自車の乗員の視界を算出する視界算出手段と、
前記視界算出手段により算出された自車の乗員の視界と前記他車位置検出手段で検出された他車の現在位置に基づいて所定時間以内に自車の乗員の視界内に対して他車のライトの光源が位置するか否かを判定する視界判定手段と、
前記視界判定手段によって所定時間以内に自車の乗員の視界内に対して他車のライトの光源が位置すると判定された場合に所定時間以内における他車のライトの光軸を算出する光軸算出手段と、
前記視界算出手段及び前記光軸算出手段の算出結果に基づいて所定時間以内に自車の乗員の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致するか否かを判定する一致判定手段と、を備え、
前記一致判定手段によって自車の乗員の視線方向と他車のライトの光軸方向とが一致すると判定された場合に一致するタイミングで自車の乗員に対して他車のライトの光が照射されると予測することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用遮光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−126804(P2008−126804A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313102(P2006−313102)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】