車両用障害物回避支援装置及び車両用障害物回避支援方法
【課題】回避操作支援の必要性の判定を精度良く実行可能として、運転者による障害物回避操作をより適切に支援できるようにする。
【解決手段】自車両が所定時間後までの間に障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出する。そして、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性の有無の判定を行う。回避操作支援の必要性がある場合には、運転者の回避操作を支援する。
【解決手段】自車両が所定時間後までの間に障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出する。そして、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性の有無の判定を行う。回避操作支援の必要性がある場合には、運転者の回避操作を支援する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による障害物の回避操作を支援する車両用障害物回避支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者による障害物回避操作を支援する技術としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。この特許文献1に記載の技術は、次のようなものである。
操舵によって障害物との衝突が回避出来る最小の回避距離を、操舵回避距離とする。また、制動によって障害物との衝突が回避出来る最小の回避距離を、介入制動回避距離とする。そして、操舵回避距離が介入制動回避距離未満である条件を満足すると、次のように制御を行う。すなわち、警報後に運転者による操舵操作が行われない場合には、障害物との距離が介入制動回避距離を下回った時点で制動介入制御を開始する。また、警報後に運転者による操舵操作が行われた場合には、障害物との距離が介入制動回避距離を下回っても制動介入制御を開始せず、障害物との距離が操舵回避距離を下回った時点で制動介入制御を開始する。
【0003】
すなわち、障害物までの距離が介入制動回避距離を下回った場合に、運転者の操舵操作を検出しており、且つ障害物までの距離が操舵回避距離以上であれば、制動介入制御を実行しない。一方、障害物までの距離が介入制動回避距離を下回った場合に、運転者の操舵操作を検出していないか、障害物までの距離が操舵回避距離未満であれば、制動介入制御を実行する。
【特許文献1】特開2004−224309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、障害物までの距離に基づいて回避可能性の判定、つまり回避操作支援の必要性の判定を行っている。
ここで、追突事故やそれに類似した場面において、車両の運動状態が直進状態にある場合には、障害物との距離は、回避可能性を判定する良い指標となる。しかし、横から障害物が飛び出してくる場面や、車両が旋回運動を始めて直進状態でなくなっている場合では、車両の姿勢やヨーレートなど様々な車両運動状態が回避の成否に影響してくる。このため、障害物との距離だけに基づいて回避操作支援の必要性の判定を実行すると、当該判定を精度良く行うことが出来ない場合がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、回避操作支援の必要性の判定を精度良く実行可能として、運転者による障害物回避操作をより適切に支援できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、自車両が所定時間後までの間に障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出する。そして、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性の有無の判定を行う。回避操作支援の必要性がある場合には、運転者の回避操作を支援する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、障害物との距離だけに基づいて回避可能性の判定をする場合と比較して、回避操作支援の必要性の判定を精度良く実行可能となる。この結果、運転者による障害物回避操作をより適切に支援できることようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の車両用障害物回避支援装置を装備した自車両の装置構成の概念図である。
(構成)
図1に示す自車両の例は、前輪操舵の車両の例である。
自車両SWには、次のような種々のセンサ類を装備する。そのセンサ類は、複数台のカメラ1、車速センサ2、ヨーレートセンサ3、加速度センサ4、及び操舵角センサ5である。これらセンサ類は、検出信号を回避支援コントローラ6に出力する。
【0008】
カメラ1は、例えば車室内前方に設けてある。カメラ1は、自車両SW前方の道路状況を撮影することで、自車両SW前方の情報を検出する。自車両SW前方の情報としては、障害物、道路境界、白線等がある。カメラ1を2台で構成してステレオ形式とすることにより、物体の方向だけでなく、距離も検出可能な構成としている。なお、自車両SW前方ばかりでなく、側方の情報なども取得しても良い。なお、距離について、別途レーザ光などによって取得しても良い。
【0009】
車速センサ2は、車輪の回転数を検出する。例えば、車輪に取り付けたロータリーエンコーダ等が利用可能である。そして、車輪の回転に比例して発生するパルス信号を検出することで車速を計測する。
ヨーレートセンサ3は、車両に発生するヨーレートを検出する。例えば、水晶振動子や半導体を用いて構成したデバイスを利用する。
加速度センサ4は、車両に発生する特定の方向の加速度を検出する。例えば、圧電素子等を用いて構成したデバイスを利用する。本実施形態では、特に、車両の横方向に発生する加速度を検出する構成を想定する。
【0010】
操舵角センサ5は、操舵の回転角度を検出する。例えば、ステアリングコラム内に設けて、ステアリングホイール8の回転角度を検出する。
また、車両には、警報装置としてのブザー7を備える。ブザー7は、回避支援コントローラ6からの信号に応じて警報音を発する。警報装置は、ステアリングホイール8に振動を付与したり、光を発したりする装置で構成しても良い。
回避支援コントローラ6は、マイクロプロセッサからなる。そのマイクロプロセッサは、A/D変換回路、D/A変換回路、中央演算処理装置、メモリ等から構成した集積回路を備える。そして、メモリに格納したプログラムに従って、各種センサで検出した信号の処理、障害物回避操作量集合の算出、及び回避支援の必要性判定を行い、その結果を、警報装置(ブザー7)に出力する。
【0011】
図2に、以上の装置構成を機能別にまとめたブロック図を示す。
自車両状態検出手段は、車両に取り付けた車速センサ2、操舵角センサ5、ヨーレートセンサ3、加速度センサ4およびカメラ1によって構成する。そして、各センサで検出した信号を統合的に処理して自車両SWの運動・操作状態(車両状態)に関する情報を得る機能を実現する。
これらのセンサのうち、カメラ1は、障害物検出手段および道路境界検出手段としての用途を兼ねており、撮像したイメージを画像処理して障害物や道路境界の情報を抽出する機能を実現する。
【0012】
次に、回避支援コントローラ6について説明する。
回避支援コントローラ6は、図2に示すように、センサ信号処理部6A、回避可能集合算出手段6B、回避支援起動判定手段6C、及び回避支援出力手段6Dを備える。
センサ信号処理部6Aは、各センサからの信号に基づく情報を処理して、同一の座標上に展開した情報へ変換する。変換した情報は、回避可能集合算出手段6Bに出力する。なお、カメラ1からの画像情報について画像処理を行い、障害物や道路境界情報を抽出する。この抽出処理は、カメラ1側に持っていても良い。また、センサ信号処理部6Aは、各センサからの信号に基づく情報から、自車両SWの運動状態(走行状態)、及び操作状態を取得する。
【0013】
上記回避可能集合算出手段6Bは、走行可能領域算出手段6Baと、回避可能操作量集合算出手段6Bbの2つの処理部を備える。
走行可能領域算出手段6Baは、自車両SWが走行可能な走行可能領域Pを算出する。すなわち、道路境界検出手段としてのカメラ1が検出した情報に基づき、道路境界の内側の領域である走路領域を求める。また障害物検出手段としてのカメラ1が検出した情報に基づき、障害物の占有領域を求める。障害物の占有領域は、自車両SWがその占有領域内に進入すると障害物と接触してしまう可能性が高い領域である。そして、走路領域から、障害物の占有領域を除いた領域を、上記走行可能領域Pとして算出する。
【0014】
回避可能操作量集合算出手段6Bbは、自車両SWの運動状態および走行可能領域Pに基づき、回避可能操作量集合を算出する。回避可能操作量集合は、所定時間後の間までに、自車両SWが走行可能領域P内に留まることが可能な車両操作量の時系列の集合である。
このとき、回避可能操作量集合は、運転者が取り得る車両操作量の推定される限界を満たす範囲内に制限する。また、回避可能操作量集合は、許容される自車両の車両運動状態の推定される限界を満たす範囲内に制限する。
【0015】
算出した回避可能操作量集合は、回避支援起動判定手段6Cに出力する。
回避支援起動判定手段6Cは、上記回避可能操作量集合と、センサ信号処理部6Aで算出した現在の自車両SWの操作量(操作状態)とを比較して、運転者に回避支援のための働きかけを行う必要があるか否かを判定する。「運転者に回避支援のための働きかけを行う必要がある」とは、障害物を回避し得る操作量の集合と、運転者の操作量とを比較することによって、障害物との接触リスクを判定し、接触リスクが高いと判定した場合である。
【0016】
本実施形態では、運転者の将来の予測される操作量が、回避可能集合から逸脱すると予測した場合も、運転者に回避支援のための働きかけを行う必要があると判定する。
回避支援出力手段6Dは、回避支援起動判定手段6Cによって、働きかけを行う必要があると判定すると、ブザー7に対し鳴らすための指令信号を発生する。
【0017】
次に、上記回避支援コントローラ6の処理について、図3及び図4を参照して説明する。
ここでは、具体性を持たせて処理を分かりやすくするために、図5に示す場面を想定して説明する。図5に示す場面では、自車両SWが片側車線側の直線道路を走行している時に、自車両SW前方の走行路左側に障害物SMを検出した場面を想定している。
なお、図3の処理は、所定のサンプリング周期で繰り返し実行する。
【0018】
まずステップS100では、各種センサが検出した信号をメモリ上に読み込む。そして、自車両SWの運動状態および障害物SMの状態を、統一した所定の座標系上の値として算出する。上記座標系は、適当に設定することが可能である。本実施形態では、図5に示すように、道路の進行方向に沿った方向にX軸を、そのX軸と垂直方向(路幅方向)にY軸を設定する。また、本実施形態の説明では、上記座標系は、X座標の原点を自車両SWの現在位置に設定し、且つY座標の原点を道路の中心線付近に設定する。
【0019】
上記座標系を設定することで、自車両SW(中心点)の位置を(X、Y)=(x、y)といった形で表記することができるようになる。
また、自車両SWの運動状態を表す状態量として、ヨー角θ、車両の縦方向速度vx、横方向速度vy、ヨーレートγ、前輪の転舵角δが重要な物理量であると考える。これらの自車両SWの運動状態を記述する物理量は、次に説明するように、センサの検出信号を処理することによって、具体的な値を取得できる。
【0020】
すなわち、これらの状態量(物理量)のうち縦方向速度vxに関しては、当該縦方向速度vxに比べて横方向速度vyが十分に小さいとみなせれば、縦方向速度vxは非駆動輪の車輪速で近似することができる。従って、縦方向速度vxは、非駆動輪にとりつけた車速センサ2の検出値から求めることが出来る。
また、ヨーレートγは、ヨーレートセンサ3から得ることができる。
車両ヨー角θは、道路が直線であると仮定すれば、道路境界と自車の向いている方向とのなす角を、画像処理によって推定することで求めることができる。あるいは、適当な初期値を定めて、ヨーレートセンサ3の出力値を積分することで算出してもよい。
また、横方向速度vyは、車両横加速度を測定する加速度センサ4の出力を積分することによって求めることができる。
【0021】
前輪舵角δは、操舵角センサ5から取得することができる。
また、障害物SMを検出している場合には、障害物SMの中心点の位置座標Xp=(xp、yp)、および障害物SMの幅σy、及び奥行きσxの各値を、カメラ1で取得した画像情報を処理することによって算出する。奥行きσxは、撮影方向によっては測定が困難な場合もある。奥行きの測定が困難な場合には、例えば便宜的に、幅σyと同じ値を設定しておく。なお、障害物SMを検出しなかった場合には、障害物SMに関する物理量の算出を行わない。
また、道路の左端および右端の位置を、上記座標系上の値に変換して、それぞれY=YL、Y=YRとする。道路の左端および右端の位置は、カメラ1による道路境界検出によって検出する。
【0022】
図5の場面において導入した座標系と、物理量との例を図6に示す。
以上のように、ステップS100では、統一した座標系を設定し、自車両SW、障害物SMおよび道路境界に関する情報を、導入した座標系上の値として算出する。
次に、ステップS200では、障害物SMの検出の有無によって処理を分岐する。障害物SMを検出した場合には、ステップS300に移行する。一方、障害物SMを検出しなかった場合には、支援の必要性がないと判定し、処理を終了して復帰する。
なお、障害物SMを検出している場合でも、自車両SWとの距離が大きい場合など、自車両SWと接触するリスクが小さい場合には、障害物SMを検出しなかったものとして処理しても良い。
【0023】
ステップS300では、走行可能領域Pの算出を行う。走行可能領域Pとは、自車両SWが障害物SMと接触しない自車両SWの位置座標(x、y)の集合である。
ここで、自車両SWの位置座標(x、y)と障害物SMの位置座標xp(xp、yp)との間の関係として、走行可能領域Pを定義する場合を考える。この場合、自車両SWの長さをL、幅をWとすると、障害物SMの奥行き及び幅よりも、それぞれ(L/2)、(W/2)だけ余計に中心点間の距離を確保する必要がある。これは、自車両SWの位置座標(x、y)を、自車両SWの中心点にとっている為である。
また、図5の場面では、障害物SMは走行路の左方向に存在している。このため、通常はより広い空間が開けている右方向に回避することになる。そこで、障害物SMの左側も便宜上走行不可能領域として扱うことにすると、走行可能領域Pは、図7に示したような領域として、以下のように定義することができる。
【0024】
【数1】
【0025】
以上のようにステップS300は、走行可能領域Pを定義する処理を行う。
続いてステップS400では、回避可能操作量集合の算出を行う。
上記走行可能領域Pは、物理的に自車両SWと障害物SMが接触しない範囲を求めたものである。しかし、自車両SWの運動にはいくつかの物理的拘束が存在する。このために、自車両SWは走行可能領域P内を自由に運動できるわけではない。従って、走行可能領域Pと自車両SWとの位置関係だけで回避支援の必要性を精度良く判定することは、困難となるおそれある。
【0026】
そして、回避支援の必要性を判定するためには、次の2点を把握しておくことが重要である。
その2点とは、
a)現在、運転者が行っている操作量が、自車両SWが将来にわたって走行可能領域P内に留まり続けることができる操作量全体の集合の中に、含まれているかどうかを把握すること。
b)含まれているとすれば、回避不可能となるまでの余裕がどの程度残されているのかを把握すること。
である。
【0027】
そして、回避可能操作量集合を算出するために、まず自車両SWの運動を記述するモデルを導入する。ここでは、車両の運動を記述するモデルとして、四輪車両の運動を二輪車両の運動で近似する二輪モデルを使用する。
この二輪モデルは、走行速度が一定で、ヨー角θが十分に小さく、横方向速度vyが縦方向速度vxと比較して十分に小さく、タイヤ横力の飽和特性が顕著に現れない運動状態では、次式のように近似することができる。
【0028】
【数2】
【0029】
ここで、
m:車両質量
I:車両ヨー慣性モーメント
Lf:車両重心から前輪軸までの距離
Lr:車両重心から後輪軸までの距離
Cf:前輪コーナリングパワー係数
Cr:後輪コーナリングパワー係数
δv:転舵角速度
である。
上記(3)〜(8)式は、自車両SWの運動状態を記述する状態ベクトルとして、
【0030】
【数3】
を定義し、転舵角速度δvを制御入力(操舵入力)、縦方向速度vxをパラメータとみなすと、以下の線形モデルとしてまとめることができる。
【0031】
【数4】
この(10)式の連続時間系モデルを離散時間モデル(サンプリング周期をΔtとする)に変換すると、nを離散化ステップ数として、
【0032】
【数5】
という形のモデルを得ることが出来る。ここでは、n=1が現時刻を表す。
以上のようにして導入したモデルを用いると、操舵入力δvに対する車両運動の予測計算を行うことができる。現時刻において測定した状態ベクトルをx0=x(1)とすると、nステップ先の時刻における状態ベクトルの予測値は(11)式から、
【0033】
【数6】
という式で算出することができる。
ここで、
【0034】
【数7】
【0035】
ここでは、現在からT秒先までの状態ベクトルを予測するものとして、n=1からN=(T/Δt)まで、(12)式に従って状態ベクトルx(n+l)を計算する。計算した状態ベクトルの時系列は、操舵入力δvを加えた場合の自車両SWの予測走行軌跡を表す。ただし、自車両SWの走行軌跡は、(1)式、(2)式で定義した走行可能領域Pの内部に留まっている必要がある。
また、転舵角δは車両操舵系の仕様によって最大転舵角δmaxが決まっており、予側転舵角の値がδmaxを超える走行軌跡は実現不可能である。すなわち、自車両SWの走行軌跡は、次式で定義する実現可能状態Qの内部に留まっていることも要求される。
【0036】
【数8】
そして、状態ベクトルxが、PおよびQの内部に留まるという条件は、
【0037】
【数9】
という行列c、ベクトルcmax(n)を定義すると、
【0038】
【数10】
という条件式で表現することができる。
【0039】
なお、走行可能領域Pは、(1)式において、yの制限値yminが縦方向の位置xに依存して変化するものとして定義している。しかし、縦方向速度vxが一定という条件のもとでは、(3)式から、xの値がステップ数nによって一意に決まる。このため、(14)式では、制限値yminをステップ数nに依存して変化する関数として扱っている。
そして、自車両走行軌跡がPおよびQの内部に留まるためには、(15)式が、n=1、2、…、Nの各ステップについて成立していなければならない。ここで、状態ベクトルxと操作入力の時系列UNとの間には、(12)式の関係が成立する。したがって、(15)式の条件を並べると、
【0040】
【数11】
を得ることが出来る。そして、(16)式を操作入力UNに関する条件に書き換えると、
【0041】
【数12】
という条件を得ることが出来る。この(17)式を満たす操作量UNの集合が、回避可能操作量集合となる。
すなわち、回避可能操作量集合Sは、
【0042】
【数13】
という形式で算出することができる。
【0043】
このように、ステップS400で具体的に実施する処理は、行列F、Gの算出である。
次に、ステップS500では、回避可能操作量集合Sに基づいて運転者の操作を評価する処理を行う。
基本的な考え方は、次の通りである。
すなわち、回避可能操作量集合Sのうち、極力小さな操作量で回避できる回避操作量時系列を、基準として算出する。その算出した基準回避操作量時系列の操作余裕を、回避可能操作量集合との境界との距離として算出し、その距離をもって評価値とする。
続いて、ステップS600では、ステップS500における判定結果をもとに、処理を分岐する。回避支援の必要性あり、あるいは回避不可能と判定した場合には、ステップS700に移行して、ブザー7への駆動信号を生成・出力して処理を終了する。一方、支援が不要であると判定した場合には、そのまま処理を終了する。
【0044】
次に、上記ステップS500で行う、上記操作量の評価を、図4を参照して説明する。
まずステップS510では、ステップS400で算出した回避可能操作量集合Sが空集合であるかどうかの判定を行う。ここで、(18)式で表現できる線形不等式で定義した集合を満足する解があるかどうかの判定は、線形計画法の手法を用いることで、効率的に判定することができる。
【0045】
回避可能操作量集合Sが空集合であると判定した場合には、ステップS580に移行して、回避不可能という判定を下して処理を終了する。ここで、空集合である場合には、障害物SMと接触せずに道路境界内部を走行し続ける操作が存在しないことを意味している。
一方、回避可能操作量集合Sが空集合でないと判定した場合には、ステップS520に移行する。
ステップS520では、回避可能操作量集合の中から極力小さな操作量で回避できる回避操作量時系列を、基準回避操作量時系列として算出する。この基準を求める処理は、回避可能操作量集合Sと運転者操作との間の関係を評価しやすくするために実施する。
具体的には、運転者操作量UNに対する評価関数として、
【0046】
【数14】
を導入する。
ここで、w1、w2、…、wNは重みパラメータである。
現在の運転者の操舵速度δdv(0)を利用する場合には、
【0047】
【数15】
としてもよい。
また、運転者が行うと予想できる操舵速度のパターンを、過去の履歴等から推定して、利用することができる場合には、
【0048】
【数16】
という評価関数を構成することもできる。
【0049】
ここで、(19)式は、最も小さな操作量(転舵速度)で回避する操作を基準として利用する方法である。また、(20)式、及び(21)式は、運転者が行うと予想できる操作に対する補正量を、最も小さくする操作を基準として利用する方法である。
回避可能操作量集合Sの中から(19)式、あるいは(20)式、及び(21)式の評価関数を最小とする操作量時系列を、基準回避操作量時系列とする。
【0050】
具体的な基準回避操作量時系列の算出方法を(19)式を例にとって説明する。
新たなN個の正の変数L1、L2、…、LNを導入し、(19)式における
|δv(i)|、(i=1、2、…、N)を変数Liで置き換えた新たな評価関数L′を、次式のように導入する。
L′= w1・L1 +w2・L2 +…+wN・LN ・・・(22)
【0051】
新たな変数Liと、|δv(i)|とは、以下のような拘束で関連付けてあるとする。
−Li ≦δv(i)≦ Li (i=1、2、…、N)・・・(23)
また、変数Liは正と仮定して導入しているので、
Li ≧ 0 (i=1、2、…、N) ・・・(24)
という拘束も課す必要がある。
ここで、拘束条件(18)式、(23)式、(24)式、及び評価関数(19)式で定義する問題は、線形計画問題となる。したがって、効率良く解くためのアルゴリズムが知られている。そして、その公知のアルゴリズムを用いて、解{δ*v(i)}を得ることができる。
評価関数が(20)式や(21)式の場合も、同様にして解を得ることができる。
【0052】
以上のようにステップS520の処理によって、基準解{δ*v(i)}を算出したら、ステップS530に移行する。
ステップS530では、上記基準解{δ*v(i)}を用いて、回避可能操作量集合Sの次元を小さくする変換を行う。これによって、操作量の評価を実施し易い形とする。
操作支援を考える場合、現在に近い未来の操作の方がより重要である。従って、所定時間経過した後は、基準解に沿った操作が行われるものと仮定しておいて、それよりも手前側の時刻における操作量の集合に注目することにする。
すなわち、操作量UNについて、以下のように、確定部分と未確定部分とに分割する。ここで、確定部分とは、基準解に沿って操作する区間である。未確定部分とは、運転者の自由な操作を想定する区間である。
【0053】
【数17】
ただし、Kは、未確定部分として残したステップ数である。UNの平均を(18)式に適用するために、(18)式の行列F、ベクトルG、及びUNを以下のように分割する。
【0054】
【数18】
このうち、UN-Kの平均を、算出した基準解{δ*v(i)}で置き換えると、最初のKステップに対する回避可能操作量集合SKの平均が、以下のように定義できる。
【0055】
【数19】
【0056】
SKの平均は、最初のKステップで許容できる操作量の集合であると解釈することができる。ただし、(K+1)ステップ以降は、基準回避操作量時系列に沿って回避を行うことを前提とする。以上がステップS530の処理であり、SKの平均の算出が終わると、ステップS540に移行する。
ステップS540では、現在の操作状態がKステップ継続すると仮定した場合の操作に対する回避余裕を、SKの平均に基づいて評価する処理を行う。
ここで、SKの平均は、幾何学的に解釈すると、K次元空間上で定義できる多面体を構成する。一方、現在の操作状態δdv(0)がKステップ継続するということは、K次元空間上の点の中から、
【0057】
【数20】
という一点を制御入力として選択することに相当する。
【0058】
このとき、UKとSKの平均との間の位置関係を調べることで、現在の操作状態を継続した場合の回避余裕を評価することができる。
すなわち、UKが多面体(SKの平均)の外側に出てしまっている場合には、UKを実行したのでは回避が不可能になることを意味している。UKがSKの平均の内部にある場合でも、SKの平均を構成する境界面に近い場所に位置している場合には、計算上は回避可能でも、回避限界までの余裕が小さい。つまり、測定誤差や制御誤差によって回避不可能になるリスクが高いと解釈できる。
【0059】
そこで、まず(29)式のUKがSKの平均に属しているかどうかをチェックする。その後、UKについて、SKの平均の境界面までの距離dKを算出する。そして、算出した距離dKを、回避余裕の指標とする。UKとSKの平均の境界面までの距離dKの求め方には様々な方法を考えることが出来る。ここでは、一例として以下のような方法を例示する。
今、SKの平均に属しているUKの第k成分、すなわちkステップ目の入力がΔukだけ変化したとする。このとき、入力が変化しても障害物回避が可能になるためには、変化した入力もSKの平均に属している必要がある。つまり、
【0060】
【数21】
を満たす必要がある。集合SKの平均は凸多面体であるから、(31)式を満たすΔukは、
【0061】
【数22】
という不等式で表すことができる。
ここで、△mink、及び△maxkが、kステップ目の入力変化として許容される幅を表している。以上の許容範囲は、k=1、2、…、Kの各ステップについて算出することができる。
そこで、UKとSKの平均との距離dKを、以下のように定義する。
【0062】
【数23】
【0063】
K=2の場合を例にとると、SKの平均、UK、△mink、△maxk、dKは、図8のように図示することができる。
なお、UKがSKの平均に属していない場合には、便宜上、距離dKに、適当な負の値を割り当てておく。
以上のようにして、ステップS540では、UKとSKの平均との距離dKを算出する。
続いて、ステップS550では、算出した距離dKに基づいて処理を分岐する。
ここで、距離dKは、上述した通り回避余裕の指標である。そして、適当な閾値dthr(>0)を基準として、十分な回避余裕の有無を判定することができる。
すなわち、dK≧dthrである場合には、ステップS560に移行する。この場合には、十分な回避余裕があるものと判断する。そして、ステップS560で支援不要と判断して復帰する。
【0064】
一方、dK<dthrである場合にはステップS570に移行する。この場合には、回避余裕が十分でないと判断する。そして支援が必要であると判断して復帰する。
以上がステップS500の処理である。
ここで、車速センサ2、操舵角センサ5、ヨーレートセンサ3、加速度センサ4およびカメラ1は、自車両状態検出手段を構成する。また、カメラ1は、障害物SM検出手段及び道路境界検出手段も構成する。回避支援出力手段御及び警報装置(ブザー7)は、回避支援手段を構成する。(20)式及び(21)式が運転者操作量予測手段を構成する。車両モデル、ステップS400、(13)式は、操作限界推定手段、車両運動限界推定手段を構成する。
【0065】
(動作)
定期的に、各センサからの信号に基づき、自車両SWの運動状態や障害物情報、道路境界情報を取得し、同一の座標上に展開した情報に変換する。
その同一座標に展開した情報によって、自車両SWが走行可能な走行可能領域Pを算出する。すなわち、道路境界の内側の領域である走路領域を求めると共に、障害物SMの占有領域を求める。そして、走路領域から、障害物SMの占有領域を除いた領域を、上記走行可能領域Pとして算出する。
【0066】
続いて、車両の運動状態および走行可能領域Pに基づき、回避可能操作量集合を算出する。回避可能操作量集合は、所定時間後の間までに、自車両SWが走行可能領域P内に留まることが可能な車両操作量の時系列の集合である。
そして、上記回避可能操作量集合と、現在の自車両SWの操作量(操作状態)とを比較して、運転者に回避支援のための働きかけを行う必要があるか否かを判定する。働きかけを行う必要があると判定すると、ブザー7(警報装置)に対し警報発生のための指令信号を発生する。
【0067】
以上のことが定期的に繰り返される。
これによって、回避可能な操作量時系列を含む回避可能操作量集合に基づいて運転者の行っている操作を評価することができる。この結果、運転者の回避意図を考慮しつつ回避操作が不十分である場合にのみ警報で運転者に障害物SMとの接触の危険性を報知する動作を実現することができる。
また、回避可能操作量集合は自車両SWが直進状態にはない条件でも算出することができる。したがって、回避の初動段階だけでなく回避操作を開始した後でも運転者の操作が不適切な場合に警報で危険を報知することができる。
【0068】
(本実施形態の効果)
(1)所定時間後までの間に接触することなく走行可能な自車両状態の範囲である回避可能集合を算出し、その回避可能集合の境界と、現在の自車両状態とで回避操作支援の必要性の有無を判定する。
このため、障害物SMとの距離だけに基づいて回避可能性の判定をする場合と比較して、回避操作支援の必要性の判定を精度良く実行可能となる。この結果、運転者による障害物回避操作をより適切に支援できることようになる。
【0069】
(2)回避可能集合算出手段及び回避支援起動判定手段を備える。
回避可能集合算出手段は、自車両SWの任意の走行状態および操作状態に対して、回避成功に至る将来の走行状態の推移としてあり得るパターンのすべてを集合として算出する構成となっている。このため、回避の初動段階だけでなく回避中のすべての局面において適正な運動状態および操作状態の範囲を知ることができる。この結果、回避支援起動判定手段は、回避中のすべての局面において回避操作支援の必要性を精度よく判定することができるようになる、よって、必要な支援の提供と不要な支援の抑制を両立した障害物回避支援を提供することができる。
【0070】
(3)道路境界検出手段を備える。
これによって、障害物SMとの接触に加えて、道路境界を考慮して回避可能集合の算出を行っている。この結果、障害物回避と路外逸脱防止とを両立した回避支援を提供することができる。
(4)走行可能領域算出手段、及び回避可能操作量集合算出手段を備える。
走行可能領域算出手段は、障害物SMの占有領域外を算出し、回避可能操作量集合算出手段は、障害物SMの占有領域外を通過する自車両操作量全体の集合を算出する構成とする。これによって、運転者による現在の操作の適否を直接判定することができる。この結果、適切な回避支援の必要性の判定を、効率良く実施することができる。
【0071】
(5)操作限界推定手段を備える。
すなわち、運転者の車両操作量の限界を考慮して回避可能操作量集合を算出する構成となっている。これによって、運転者が実際には操作できない非現実的な回避方法を想定してしまうことを排除できる。さらに、操作量限界を適切に推定することで運転者の技量に応じた回避支援の必要性の判定を行うことができる。
(6)車両運動限界推定手段を備える。
すなわち、車両運動状態に限界を設定して回避可能操作量集合を算出する構成となっている。これによって、車両の急激な運動による車両挙動予測の誤差が所定の水準以上に大きくなることを防止する。また、回避可能操作量集合の精度を保つことができる。
【0072】
(7)回避可能集合算出手段は、新たな情報を検出するたびに回避可能集合を更新する構成とする。この結果、障害物SMの挙動や車両の運動が当初の予測とは異なるものになった場合でも、新たな状況に迅速に対応した回避支援を提供することができる。
(8)上記回避支援起動判定手段は、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との距離が所定値未満になったと判定すると、回避操作支援が必要であると判定する。
すなわち、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との距離に基づいて回避支援の必要性を判定する構成とする。これによって、障害物回避の成否を分ける限界条件に対して確保すべき余裕を設計者が任意の水準に設定して回避支援装置を設計することができる。
【0073】
(9)運転者操作量予測手段を備える。
これによって、運転者の将来の予測操作量を回避可能操作量集合に基づいて評価している。これによって、運転者の操作が適切な回避操作になっていない場合にそのことを早期に発見して回避支援を始めることができる。つまり、より効果的な回避支援を提供することができる。
(10)警報手段を備える。
これによって、音等の警報によって、回避操作の必要性の注意喚起を行う。これによって、運転者の操作に直接干渉しない支援を提供することができる。
(変形例)
(1)車両前方の障害物SMを検出して処理を行っている。車両側方や後方の障害物SMも検出して、回避可能集合を算出しても良い。より回避操作支援の必要性に判定精度が向上する。
【0074】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記第1実施形態と同様な構成などについては同一の符号を付して説明する。
図9は、本実施形態の車両用障害物回避支援装置を装備した自車両SWの装置構成の概念図である。
(構成)
本実施形態の車両の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。ただし、転舵アシストモータ12およびその周辺部品を備える。これによって、転舵アシストトルクをシステム側から制御できる構成となっている点が異なっている。
【0075】
すなわち、操舵トルクセンサ10、転舵角センサ11、及びモータコントローラ13を備える。モータコントローラ13は、操舵トルクセンサ10、転舵角センサ11からの信号を入力して参照しつつ、回避可能操作量集合算出手段6Bbからの指令に応じて転舵アシストモータ12を駆動制御する。このように、転舵アシストトルクを制御することで回避支援を行う。
本実施形態の回避可能操作量集合算出手段6Bbにおける演算は、第1実施形態とほぼ同様である。ただし、回避操作の支援方法の変更に伴い、第1実施形態と若干の異なる部分がある。
【0076】
次に、本実施形態の回避支援コントローラ6の処理を説明する。
ここで、第1実施形態と同様の図5の場面を想定するが、本実施形態では障害物SMが移動するケースの取り扱いについても説明する。
ここで、第2実施形態における回避支援コントローラ6の処理は、図10に示すように、上記第1実施形態における回避支援コントローラ6の処理(図3参照)と、処理の流れ自体はほぼ同じである。ただし、具体的な処理については相違点がある。
まずステップS1100では、各種センサから信号を読み取り変換処理などを行う。上述のステップS100と基本的に同じである。
【0077】
ただし、障害物SMが移動することも考慮すると、障害物SMに関する情報としては、障害物SMの中心点の位置座標xp=(xp、yp)、障害物SMの幅σy、奥行σxに加えて、移動速度vp=(vxp、xyp)に関する情報も取得する必要がある。移動速度については、位置座標xpの値を数値微分して算出する方法や、カメラ1の差分画像等を用いて直接移動速度を推定する方法等を採用することで、取得することができる。
【0078】
ステップS1200では、障害物SM検出の判定処理を行う。上述のステップS200と同じである。
ステップS1300では、上述と同様に、走行可能領域Pの算出処理を行う。ただし、障害物SMが移動している場合には、移動情報を反映して領域を構成する必要がある。すなわち、障害物SMの中心位置xp=(xp、yp)は時間とともに、以下のように移動していく。
【0079】
【数24】
ただし、t0を現在時刻としている。従って、走行可能領域Pは、時刻tに依存して変化する集合として、以下のように定義できる。
【0080】
【数25】
【0081】
ステップS1400では、回避可能操作量集合の算出を行う。上記第1実施形態での処理と比較して、車両モデルと制約条件を変更する。
第1実施形態の車両モデルでは、転舵速度を入力とみなしたモデルを採用した。この第2実施形態では、運転者の転舵トルクを入力とみなすモデルを採用する場合で説明する。具体的には、上述の(3)〜(8)式に加えて、
【0082】
【数26】
という転舵速度に関するダイナミクスを導入する。
ここで、Tは転舵トルクである。また、ζ、ω、Kは、運転者の転舵トルクから転舵角までの特性を2次振動系近似した場合の特性パラメータを表す。
(39)式を導入したため、自車両SWの運動状態を記述する状態ベクトルは、
【0083】
【数27】
となる。なお、(40)式において、添え字のTは行列・ベクトルの転置を表す。そして、第1実施形態と同様の式展開を行うことにより、車両モデルは以下のような形に纏めることができる。
【0084】
【数28】
ただし、行列Ad、ベクトルbd及びddは、第2実施形態で使用しているモデルに合わせて算出したものを使用している。すなわち、第1実施形態と同じ行列・ベクトルを表しているものではない。
制約条件については、走行可能領域Pを定義する(37)式、及び転舵角制限である(13)式に加えて、ここでは入力転舵トルクTにも、以下のような制限を課す。
【0085】
【数29】
第2実施形態における入力時系列は、
【0086】
【数30】
である。(13)式、及び(37)式で表現できる、xに関する制約条件を、(41)式を用いてUNに関する条件に書き換えると、(17)式と同じ形の制約条件
【0087】
【数31】
を得ることが出来る。ただし、F、Gは第1実施形態とは異なる表現になる。
さらに、(42)式に対応する条件として、
【0088】
【数32】
が加わる。(44)式と(45)式をあわせると、第2実施形態における回避可能操作量集合Sとして、
【0089】
【数33】
を得ることが出来る。
【0090】
ステップS1500の処理は、算出対象が転舵速度δvから転舵トルクTに変わる以外は、第1実施形態の場合と同様である。最終的に、回避可能操作量集合SKの平均と、操作量ベクトルUKとの間の距離dKを算出する。
ステップS1600の処理は、第1実施形態と同じである。
ステップS1700では、算出したSKの平均、dKの値をもとに、転舵アシストトルクの指令値の算出を行う。
転舵アシストトルクを付加する処理は、第1実施形態と同様、dKの値が閾値dthrを下回った時に作用させるものとする。
作用させるアシストトルクの指令値は、回避可能操作量集合SKの平均を算出する過程で算出している基準解、すなわち回避可能操作量集合SNに属し、
【0091】
【数34】
を最小化するトルク指令値系列の先頭値T*(1)を参照し、操舵トルクセンサ10で検出した測定値から換算した運転者の転舵トルクTdとの差をアシストトルク指令値Tαとして決定する。
つまり、
【0092】
【数35】
という式に従って、アシストトルクの指令値を算出する。
【0093】
算出したアシストトルクの指令値は、モータコントローラ13に出力する。モータコントローラ13は、入力した指令値となるようにアシストトルクを操舵軸に入力する。
ここで、(42)式は、操作限界推定手段、車両運動限界推定手段を構成する。またステップS1300は、障害物挙動予測手段を構成する。
【0094】
(動作)
以上の処理を所定の制御周期ごとに繰り返すことで、各時刻におけるアシストトルク指令値を算出・制御することで回避支援を実現する。
この実施形態では、運転者が十分な余裕をもって回避操作を行っている場合にはアシストトルクの発生を抑制して違和感を与えることを抑制している。そして、回避余裕が小さくなったところでアシストトルクを発生させて回避を支援することで、効果的な回避支援を提供することができる。
【0095】
(本実施形態の効果)
(1)上記第1実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
(2)障害物挙動予測手段を備える。
すなわち、障害物SMの移動経路を予測して回避可能操作量集合を算出する構成としている。この結果、移動する障害物SMに対しても有効な回避可能操作量集合を算出することができる。
(3)上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向にステアリング反力トルクを加える。
これによって、ステアリング反力トルクによって回避に有効な操舵方向を提示する。この結果、運転操作と直結したわかりやすい回避支援を提供することができる。
【0096】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記各実施形態と同様な構成などについては同一の符号を使用する。
図11は、本実施形態の車両用障害物回避支援装置を装備した自車両SWの装置構成の概念図である。
(構成)
本実施形態の基本的な車両構成は、図12に示すように、上記第2実施形態と同様である。
【0097】
ただし、ステアリング軸の軸方向途中位置にクラッチ21を介装している。このクラッチ21によって、ステアリングホイール8による操舵を機械的に切り離し、転舵モータ22をシステム側で制御することによって転舵角を運転者操舵とは独立に制御できる構成となっている。
そして、第3実施形態の構成では、回避可能操作量集合算出手段6Bbの計算結果を用いて、回避余裕が所定の水準以下に小さくなったところで、転舵角をシステム側で制御する構成に切り替えることで回避を行う。
【0098】
次に、本実施形態における回避支援コントローラ6の処理について。図12を参照しつつ説明する。
まずステップS2100にて、各種センサから信号を読み込み処理を行う。処理は、第1実施形態におけるステップS100と同じ処理である。
続いて、ステップS2200では、回避制御を実行中かどうかで処理を分岐する。既に以前の制御周期において回避制御が起動している場合には、ステップS3000へ移行する。一方、以前の制御周期において回避制御が起動していない場合にはステップ2300に移行する。
【0099】
ステップS2300では、障害物SM検出の判定を行う。処理は、第1実施形態におけるステップS300と同じ処理である。
続く、ステップS2400〜S2700までの処理も、第1実施形態のステップS300〜S600と同じ処理を行う。
そして、ステップS2700にて、回避余裕が小さいと判定された場合には、ステップS2800に移行する。ステップS2800では、回避制御を起動した後に、ステップS2900に移行する。上記回避制御は、起動する際に、クラッチ21に切り離し指令を出力して、クラッチ21を開放する。
【0100】
ステップS2900では、ステップS2500で算出した基準解{δ*v(i)}のうち、現在時刻に対応したステップ数iに対応した指令値を順番に読み出し、モータコントローラ1310に指令値として出力する。
すなわち、回避制御が起動中は、次の制御周期においてステップS2200でステップS3000に分岐して上記ステップS2900移行することで、基準解として算出した制御指令値が逐次実行していく。そして、ステップ数Nまでのすべての指令値を読み出すと、回避制御終了となって、ステップS3000でからステップS3100に移行する。
ステップS3100では、回避制御を終了するとしてクラッチ21に締結指令を出力して、通常走行状態に復帰する。
【0101】
(動作)
回避余裕が小さくなって回避のために正確な操作が要求される場面では、クラッチ21が開放状態となる。これによって、運転者による操舵操作を停止して、回避支援装置によって操舵制御だけで障害物回避を行う。
また、クラッチ21を開放することで、回避支援装置によって操舵がステアリングホイール8に反映することが無い。
【0102】
(本実施形態の効果)
(1)上記第1及び第2実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
(2)ステアリングホイールから操舵輪までのトルク伝達経路にクラッチを介装し、回避操作を支援する場合には、クラッチを開放状態とする。
これによって、回避余裕が小さくなって回避のために正確な操作が要求されるような局面においては、運転者の操作からシステムに制御が切り替わる。このため、運転者の技量によらず正確な回避操作を実現することができる。
【0103】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記各実施形態と同様な構成等については同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の車両構成は、上記第2実施形態(図9)と同様である。すなわち、回避余裕が小さくなったところで、操舵アシストトルクを発生させて回避操作を支援する構成とする。また、本実施形態では、回避余裕の評価について、第2実施形態とは異なる評価方法を示す。
【0104】
次に、本実施形態に係る回避支援コントローラ6の処理について、図13を参照しつつ説明する。
ステップS4300では、これ以前の制御サイクルにおいて障害物SMを検出し、回避可能集合(詳細は後述)を生成しているか否かを判定する。生成していると判定した場合には、ステップS4500に移行する。一方、回避可能集合を生成していないと判定した場合には、ステップS4400に移行する。
ステップS4400では、回避可能集合の生成を行い、ステップS4500に移行する。回避可能集合の生成については、後述する。
ステップS4500では、回避可能集合を用いた回避余裕の評価を行う。すなわち、ステップS4400で算出した回避可能集合と、現在の車両状態に基づいて回避余裕を表す指標の算出を行う。ここでは、第iステップに相当する時刻における回避余裕の指標d(i)として、
【0105】
【数36】
を考える。
【0106】
d(i)は、2つの基準解の車両軌跡のうち、より近い軌跡との横方向距離を基準解の車両軌跡で定義される許容幅の大きさで正規化した値である。そして、d(i)の値は、小さいほど回避余裕がない状態に対応している。なお、d(i)の値が負の値の場合には、基準解の車両軌跡で挟まれた領域からの逸脱を意味している。
これに基づき、第2実施形態と同様に、d(i)の値と適当な同値を比較することで回避制御の起動判定を行う。なお、ステップ数iは、評価に用いる回避可能集合を算出した時刻を1とした場合の現在時刻のステップ数を用いる。
【0107】
続いて、ステップS4600では、実際に算出した指標d(i)に基づいて、回避支援の必要性を判定する。回避支援が必要であると判定した場合には、ステップS4700に移行する。一方、回避支援が不要と判定した場合には、そのまま処理を終了して復帰する。
ステップS4700では、転舵アシストトルクを作用させるための指令値を出力する。転舵アシストトルクとしては、2つの基準解の車両軌跡のうち、自車両SWに近い方の軌跡から遠ざける方向に加わるトルクとし、その大きさを、d(i)が小さいほど、大きくなるような指令値とする。その後、処理を終了して復帰する。
【0108】
次に、上記ステップS4400の回避可能集合生成処理について、図14を参照しつつ説明する。
ステップS4410及びS4420では、走行可能領域Pの構成を求め、さらに回避可能操作量集合を算出する。この処理は、第2実施形態における、ステップS1300及びS1400と同じ処理である。
次に、ステップS4300では、基準解の算出を行う。
ここで、第2実施形態では、基準解として、(19)式のように操作量の大きさが小さい解、あるいは(20)式及び(21)式のように運転者が取ると予想される操作量に対する補正量の大きさが小さい解を構成している。
これに対して、第4実施形態では、次の2つを基準解として算出する。
a:なるべく障害物SMと接近しつつ接触せずに通過する解
b:なるべく道路境界と接近しつつ路外逸脱せずに通過する解
具体的には、(18)式で定義できる回避可能操作量集合S上で、
【0109】
【数37】
という2つの評価関数の値を最小にする解を基準解として考える。これらの評価関数に対する最適解を算出する問題も線形計画問題になっているので、これらの基準解{T*1(i)}、{T*2(i)}を計算で求めることができる。
【0110】
以上がステップS4430の処理である。
ステップS4440では、(3)式〜(8)式、および(39)式を、基準解{T*1(i)}、{T*2(i)}で積分して、各基準解に対応する車両横位置座標yの時系列{y*1(i)}{y*2(i)}をそれぞれ算出する。
以上のようにして、基準解に対応する車両軌跡を得ることが出来ると、第iステップにおいて、車両の横位置座標は、概ね、
【0111】
【数38】
の範囲内に収まっていることが望ましい、という基準を導き出すことができる。
例えば、図5の場面において(52)式の条件を図示すると、図15のようになる。ステップS4500では、(52)式で定義する領域を回避可能集合として構成して、復帰する。
【0112】
(動作)
自車両SWが基準解から算出した回避限界線に近づくと、回避限界線から遠ざけるアシストトルクが作用する。これによって、自車両SWを(52)式で定義できる回避限界集合内に留める操作が容易になり、障害物回避を支援することができる。
なお、障害物SMが移動するなどして回避可能集合を算出した時刻と状況が変化した場合には、図13のステップS4300において回避可能集合を既に算出している場合でも、新たな回避可能集合を算出するためにステップS4400に移行するという構成としても良い。
【0113】
(本実施形態の効果)
(1)上記各実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
(2)上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向に車輪の転舵角を制御する。すなわち、転舵角をシステム側で制御する。この結果、運転者の操舵操作が不十分な場合にそれを補うことができるようになり、運転者の回避能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る回避支援装置を装備した車両の概念図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る回避支援装置を示すブロック図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図4】本発明に基づく第1実施形態に係る運転操作量の評価の処理を説明する図である。
【図5】想定する場面の一例を示す平面図である。
【図6】自車両SWおよび障害物の状態量の定義のための座標系設定の一例を示す図である。
【図7】図5の場面における走行可能領域の構成例を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る、回避可能操作量集合、および集合と特定の操作量との間の距離計算方法の一例を説明する図である。
【図9】本発明に基づく第2実施形態に係る回避支援装置を装備した車両の概念図である。
【図10】本発明に基づく第2実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図11】本発明に基づく第3実施形態に係る回避支援装置を装備した車両の概念図である。
【図12】本発明に基づく第3実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図13】本発明に基づく第4実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図14】本発明に基づく第4実施形態に係る回避可能集合の構成を算出する処理を説明する図である。
【図15】本発明に基づく第4実施形態に係る回避可能集合の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0115】
1 カメラ
2 車速センサ
3 ヨーレートセンサ
4 加速度センサ
5 操舵角センサ
6 回避支援コントローラ
6A センサ信号処理部
6B 回避可能集合算出手段
6Ba 走行可能領域算出手段
6Bb 回避可能操作量集合算出手段
6C 回避支援起動判定手段
6D 回避支援出力手段
7 ブザー
8 ステアリングホイール
10 操舵トルクセンサ
11 転舵角センサ
12 転舵アシストモータ
13 モータコントローラ
21 クラッチ
22 転舵モータ
P 走行可能領域
S 回避可能操作量集合
SM 障害物
SW 自車両
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による障害物の回避操作を支援する車両用障害物回避支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者による障害物回避操作を支援する技術としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。この特許文献1に記載の技術は、次のようなものである。
操舵によって障害物との衝突が回避出来る最小の回避距離を、操舵回避距離とする。また、制動によって障害物との衝突が回避出来る最小の回避距離を、介入制動回避距離とする。そして、操舵回避距離が介入制動回避距離未満である条件を満足すると、次のように制御を行う。すなわち、警報後に運転者による操舵操作が行われない場合には、障害物との距離が介入制動回避距離を下回った時点で制動介入制御を開始する。また、警報後に運転者による操舵操作が行われた場合には、障害物との距離が介入制動回避距離を下回っても制動介入制御を開始せず、障害物との距離が操舵回避距離を下回った時点で制動介入制御を開始する。
【0003】
すなわち、障害物までの距離が介入制動回避距離を下回った場合に、運転者の操舵操作を検出しており、且つ障害物までの距離が操舵回避距離以上であれば、制動介入制御を実行しない。一方、障害物までの距離が介入制動回避距離を下回った場合に、運転者の操舵操作を検出していないか、障害物までの距離が操舵回避距離未満であれば、制動介入制御を実行する。
【特許文献1】特開2004−224309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、障害物までの距離に基づいて回避可能性の判定、つまり回避操作支援の必要性の判定を行っている。
ここで、追突事故やそれに類似した場面において、車両の運動状態が直進状態にある場合には、障害物との距離は、回避可能性を判定する良い指標となる。しかし、横から障害物が飛び出してくる場面や、車両が旋回運動を始めて直進状態でなくなっている場合では、車両の姿勢やヨーレートなど様々な車両運動状態が回避の成否に影響してくる。このため、障害物との距離だけに基づいて回避操作支援の必要性の判定を実行すると、当該判定を精度良く行うことが出来ない場合がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、回避操作支援の必要性の判定を精度良く実行可能として、運転者による障害物回避操作をより適切に支援できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、自車両が所定時間後までの間に障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出する。そして、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性の有無の判定を行う。回避操作支援の必要性がある場合には、運転者の回避操作を支援する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、障害物との距離だけに基づいて回避可能性の判定をする場合と比較して、回避操作支援の必要性の判定を精度良く実行可能となる。この結果、運転者による障害物回避操作をより適切に支援できることようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の車両用障害物回避支援装置を装備した自車両の装置構成の概念図である。
(構成)
図1に示す自車両の例は、前輪操舵の車両の例である。
自車両SWには、次のような種々のセンサ類を装備する。そのセンサ類は、複数台のカメラ1、車速センサ2、ヨーレートセンサ3、加速度センサ4、及び操舵角センサ5である。これらセンサ類は、検出信号を回避支援コントローラ6に出力する。
【0008】
カメラ1は、例えば車室内前方に設けてある。カメラ1は、自車両SW前方の道路状況を撮影することで、自車両SW前方の情報を検出する。自車両SW前方の情報としては、障害物、道路境界、白線等がある。カメラ1を2台で構成してステレオ形式とすることにより、物体の方向だけでなく、距離も検出可能な構成としている。なお、自車両SW前方ばかりでなく、側方の情報なども取得しても良い。なお、距離について、別途レーザ光などによって取得しても良い。
【0009】
車速センサ2は、車輪の回転数を検出する。例えば、車輪に取り付けたロータリーエンコーダ等が利用可能である。そして、車輪の回転に比例して発生するパルス信号を検出することで車速を計測する。
ヨーレートセンサ3は、車両に発生するヨーレートを検出する。例えば、水晶振動子や半導体を用いて構成したデバイスを利用する。
加速度センサ4は、車両に発生する特定の方向の加速度を検出する。例えば、圧電素子等を用いて構成したデバイスを利用する。本実施形態では、特に、車両の横方向に発生する加速度を検出する構成を想定する。
【0010】
操舵角センサ5は、操舵の回転角度を検出する。例えば、ステアリングコラム内に設けて、ステアリングホイール8の回転角度を検出する。
また、車両には、警報装置としてのブザー7を備える。ブザー7は、回避支援コントローラ6からの信号に応じて警報音を発する。警報装置は、ステアリングホイール8に振動を付与したり、光を発したりする装置で構成しても良い。
回避支援コントローラ6は、マイクロプロセッサからなる。そのマイクロプロセッサは、A/D変換回路、D/A変換回路、中央演算処理装置、メモリ等から構成した集積回路を備える。そして、メモリに格納したプログラムに従って、各種センサで検出した信号の処理、障害物回避操作量集合の算出、及び回避支援の必要性判定を行い、その結果を、警報装置(ブザー7)に出力する。
【0011】
図2に、以上の装置構成を機能別にまとめたブロック図を示す。
自車両状態検出手段は、車両に取り付けた車速センサ2、操舵角センサ5、ヨーレートセンサ3、加速度センサ4およびカメラ1によって構成する。そして、各センサで検出した信号を統合的に処理して自車両SWの運動・操作状態(車両状態)に関する情報を得る機能を実現する。
これらのセンサのうち、カメラ1は、障害物検出手段および道路境界検出手段としての用途を兼ねており、撮像したイメージを画像処理して障害物や道路境界の情報を抽出する機能を実現する。
【0012】
次に、回避支援コントローラ6について説明する。
回避支援コントローラ6は、図2に示すように、センサ信号処理部6A、回避可能集合算出手段6B、回避支援起動判定手段6C、及び回避支援出力手段6Dを備える。
センサ信号処理部6Aは、各センサからの信号に基づく情報を処理して、同一の座標上に展開した情報へ変換する。変換した情報は、回避可能集合算出手段6Bに出力する。なお、カメラ1からの画像情報について画像処理を行い、障害物や道路境界情報を抽出する。この抽出処理は、カメラ1側に持っていても良い。また、センサ信号処理部6Aは、各センサからの信号に基づく情報から、自車両SWの運動状態(走行状態)、及び操作状態を取得する。
【0013】
上記回避可能集合算出手段6Bは、走行可能領域算出手段6Baと、回避可能操作量集合算出手段6Bbの2つの処理部を備える。
走行可能領域算出手段6Baは、自車両SWが走行可能な走行可能領域Pを算出する。すなわち、道路境界検出手段としてのカメラ1が検出した情報に基づき、道路境界の内側の領域である走路領域を求める。また障害物検出手段としてのカメラ1が検出した情報に基づき、障害物の占有領域を求める。障害物の占有領域は、自車両SWがその占有領域内に進入すると障害物と接触してしまう可能性が高い領域である。そして、走路領域から、障害物の占有領域を除いた領域を、上記走行可能領域Pとして算出する。
【0014】
回避可能操作量集合算出手段6Bbは、自車両SWの運動状態および走行可能領域Pに基づき、回避可能操作量集合を算出する。回避可能操作量集合は、所定時間後の間までに、自車両SWが走行可能領域P内に留まることが可能な車両操作量の時系列の集合である。
このとき、回避可能操作量集合は、運転者が取り得る車両操作量の推定される限界を満たす範囲内に制限する。また、回避可能操作量集合は、許容される自車両の車両運動状態の推定される限界を満たす範囲内に制限する。
【0015】
算出した回避可能操作量集合は、回避支援起動判定手段6Cに出力する。
回避支援起動判定手段6Cは、上記回避可能操作量集合と、センサ信号処理部6Aで算出した現在の自車両SWの操作量(操作状態)とを比較して、運転者に回避支援のための働きかけを行う必要があるか否かを判定する。「運転者に回避支援のための働きかけを行う必要がある」とは、障害物を回避し得る操作量の集合と、運転者の操作量とを比較することによって、障害物との接触リスクを判定し、接触リスクが高いと判定した場合である。
【0016】
本実施形態では、運転者の将来の予測される操作量が、回避可能集合から逸脱すると予測した場合も、運転者に回避支援のための働きかけを行う必要があると判定する。
回避支援出力手段6Dは、回避支援起動判定手段6Cによって、働きかけを行う必要があると判定すると、ブザー7に対し鳴らすための指令信号を発生する。
【0017】
次に、上記回避支援コントローラ6の処理について、図3及び図4を参照して説明する。
ここでは、具体性を持たせて処理を分かりやすくするために、図5に示す場面を想定して説明する。図5に示す場面では、自車両SWが片側車線側の直線道路を走行している時に、自車両SW前方の走行路左側に障害物SMを検出した場面を想定している。
なお、図3の処理は、所定のサンプリング周期で繰り返し実行する。
【0018】
まずステップS100では、各種センサが検出した信号をメモリ上に読み込む。そして、自車両SWの運動状態および障害物SMの状態を、統一した所定の座標系上の値として算出する。上記座標系は、適当に設定することが可能である。本実施形態では、図5に示すように、道路の進行方向に沿った方向にX軸を、そのX軸と垂直方向(路幅方向)にY軸を設定する。また、本実施形態の説明では、上記座標系は、X座標の原点を自車両SWの現在位置に設定し、且つY座標の原点を道路の中心線付近に設定する。
【0019】
上記座標系を設定することで、自車両SW(中心点)の位置を(X、Y)=(x、y)といった形で表記することができるようになる。
また、自車両SWの運動状態を表す状態量として、ヨー角θ、車両の縦方向速度vx、横方向速度vy、ヨーレートγ、前輪の転舵角δが重要な物理量であると考える。これらの自車両SWの運動状態を記述する物理量は、次に説明するように、センサの検出信号を処理することによって、具体的な値を取得できる。
【0020】
すなわち、これらの状態量(物理量)のうち縦方向速度vxに関しては、当該縦方向速度vxに比べて横方向速度vyが十分に小さいとみなせれば、縦方向速度vxは非駆動輪の車輪速で近似することができる。従って、縦方向速度vxは、非駆動輪にとりつけた車速センサ2の検出値から求めることが出来る。
また、ヨーレートγは、ヨーレートセンサ3から得ることができる。
車両ヨー角θは、道路が直線であると仮定すれば、道路境界と自車の向いている方向とのなす角を、画像処理によって推定することで求めることができる。あるいは、適当な初期値を定めて、ヨーレートセンサ3の出力値を積分することで算出してもよい。
また、横方向速度vyは、車両横加速度を測定する加速度センサ4の出力を積分することによって求めることができる。
【0021】
前輪舵角δは、操舵角センサ5から取得することができる。
また、障害物SMを検出している場合には、障害物SMの中心点の位置座標Xp=(xp、yp)、および障害物SMの幅σy、及び奥行きσxの各値を、カメラ1で取得した画像情報を処理することによって算出する。奥行きσxは、撮影方向によっては測定が困難な場合もある。奥行きの測定が困難な場合には、例えば便宜的に、幅σyと同じ値を設定しておく。なお、障害物SMを検出しなかった場合には、障害物SMに関する物理量の算出を行わない。
また、道路の左端および右端の位置を、上記座標系上の値に変換して、それぞれY=YL、Y=YRとする。道路の左端および右端の位置は、カメラ1による道路境界検出によって検出する。
【0022】
図5の場面において導入した座標系と、物理量との例を図6に示す。
以上のように、ステップS100では、統一した座標系を設定し、自車両SW、障害物SMおよび道路境界に関する情報を、導入した座標系上の値として算出する。
次に、ステップS200では、障害物SMの検出の有無によって処理を分岐する。障害物SMを検出した場合には、ステップS300に移行する。一方、障害物SMを検出しなかった場合には、支援の必要性がないと判定し、処理を終了して復帰する。
なお、障害物SMを検出している場合でも、自車両SWとの距離が大きい場合など、自車両SWと接触するリスクが小さい場合には、障害物SMを検出しなかったものとして処理しても良い。
【0023】
ステップS300では、走行可能領域Pの算出を行う。走行可能領域Pとは、自車両SWが障害物SMと接触しない自車両SWの位置座標(x、y)の集合である。
ここで、自車両SWの位置座標(x、y)と障害物SMの位置座標xp(xp、yp)との間の関係として、走行可能領域Pを定義する場合を考える。この場合、自車両SWの長さをL、幅をWとすると、障害物SMの奥行き及び幅よりも、それぞれ(L/2)、(W/2)だけ余計に中心点間の距離を確保する必要がある。これは、自車両SWの位置座標(x、y)を、自車両SWの中心点にとっている為である。
また、図5の場面では、障害物SMは走行路の左方向に存在している。このため、通常はより広い空間が開けている右方向に回避することになる。そこで、障害物SMの左側も便宜上走行不可能領域として扱うことにすると、走行可能領域Pは、図7に示したような領域として、以下のように定義することができる。
【0024】
【数1】
【0025】
以上のようにステップS300は、走行可能領域Pを定義する処理を行う。
続いてステップS400では、回避可能操作量集合の算出を行う。
上記走行可能領域Pは、物理的に自車両SWと障害物SMが接触しない範囲を求めたものである。しかし、自車両SWの運動にはいくつかの物理的拘束が存在する。このために、自車両SWは走行可能領域P内を自由に運動できるわけではない。従って、走行可能領域Pと自車両SWとの位置関係だけで回避支援の必要性を精度良く判定することは、困難となるおそれある。
【0026】
そして、回避支援の必要性を判定するためには、次の2点を把握しておくことが重要である。
その2点とは、
a)現在、運転者が行っている操作量が、自車両SWが将来にわたって走行可能領域P内に留まり続けることができる操作量全体の集合の中に、含まれているかどうかを把握すること。
b)含まれているとすれば、回避不可能となるまでの余裕がどの程度残されているのかを把握すること。
である。
【0027】
そして、回避可能操作量集合を算出するために、まず自車両SWの運動を記述するモデルを導入する。ここでは、車両の運動を記述するモデルとして、四輪車両の運動を二輪車両の運動で近似する二輪モデルを使用する。
この二輪モデルは、走行速度が一定で、ヨー角θが十分に小さく、横方向速度vyが縦方向速度vxと比較して十分に小さく、タイヤ横力の飽和特性が顕著に現れない運動状態では、次式のように近似することができる。
【0028】
【数2】
【0029】
ここで、
m:車両質量
I:車両ヨー慣性モーメント
Lf:車両重心から前輪軸までの距離
Lr:車両重心から後輪軸までの距離
Cf:前輪コーナリングパワー係数
Cr:後輪コーナリングパワー係数
δv:転舵角速度
である。
上記(3)〜(8)式は、自車両SWの運動状態を記述する状態ベクトルとして、
【0030】
【数3】
を定義し、転舵角速度δvを制御入力(操舵入力)、縦方向速度vxをパラメータとみなすと、以下の線形モデルとしてまとめることができる。
【0031】
【数4】
この(10)式の連続時間系モデルを離散時間モデル(サンプリング周期をΔtとする)に変換すると、nを離散化ステップ数として、
【0032】
【数5】
という形のモデルを得ることが出来る。ここでは、n=1が現時刻を表す。
以上のようにして導入したモデルを用いると、操舵入力δvに対する車両運動の予測計算を行うことができる。現時刻において測定した状態ベクトルをx0=x(1)とすると、nステップ先の時刻における状態ベクトルの予測値は(11)式から、
【0033】
【数6】
という式で算出することができる。
ここで、
【0034】
【数7】
【0035】
ここでは、現在からT秒先までの状態ベクトルを予測するものとして、n=1からN=(T/Δt)まで、(12)式に従って状態ベクトルx(n+l)を計算する。計算した状態ベクトルの時系列は、操舵入力δvを加えた場合の自車両SWの予測走行軌跡を表す。ただし、自車両SWの走行軌跡は、(1)式、(2)式で定義した走行可能領域Pの内部に留まっている必要がある。
また、転舵角δは車両操舵系の仕様によって最大転舵角δmaxが決まっており、予側転舵角の値がδmaxを超える走行軌跡は実現不可能である。すなわち、自車両SWの走行軌跡は、次式で定義する実現可能状態Qの内部に留まっていることも要求される。
【0036】
【数8】
そして、状態ベクトルxが、PおよびQの内部に留まるという条件は、
【0037】
【数9】
という行列c、ベクトルcmax(n)を定義すると、
【0038】
【数10】
という条件式で表現することができる。
【0039】
なお、走行可能領域Pは、(1)式において、yの制限値yminが縦方向の位置xに依存して変化するものとして定義している。しかし、縦方向速度vxが一定という条件のもとでは、(3)式から、xの値がステップ数nによって一意に決まる。このため、(14)式では、制限値yminをステップ数nに依存して変化する関数として扱っている。
そして、自車両走行軌跡がPおよびQの内部に留まるためには、(15)式が、n=1、2、…、Nの各ステップについて成立していなければならない。ここで、状態ベクトルxと操作入力の時系列UNとの間には、(12)式の関係が成立する。したがって、(15)式の条件を並べると、
【0040】
【数11】
を得ることが出来る。そして、(16)式を操作入力UNに関する条件に書き換えると、
【0041】
【数12】
という条件を得ることが出来る。この(17)式を満たす操作量UNの集合が、回避可能操作量集合となる。
すなわち、回避可能操作量集合Sは、
【0042】
【数13】
という形式で算出することができる。
【0043】
このように、ステップS400で具体的に実施する処理は、行列F、Gの算出である。
次に、ステップS500では、回避可能操作量集合Sに基づいて運転者の操作を評価する処理を行う。
基本的な考え方は、次の通りである。
すなわち、回避可能操作量集合Sのうち、極力小さな操作量で回避できる回避操作量時系列を、基準として算出する。その算出した基準回避操作量時系列の操作余裕を、回避可能操作量集合との境界との距離として算出し、その距離をもって評価値とする。
続いて、ステップS600では、ステップS500における判定結果をもとに、処理を分岐する。回避支援の必要性あり、あるいは回避不可能と判定した場合には、ステップS700に移行して、ブザー7への駆動信号を生成・出力して処理を終了する。一方、支援が不要であると判定した場合には、そのまま処理を終了する。
【0044】
次に、上記ステップS500で行う、上記操作量の評価を、図4を参照して説明する。
まずステップS510では、ステップS400で算出した回避可能操作量集合Sが空集合であるかどうかの判定を行う。ここで、(18)式で表現できる線形不等式で定義した集合を満足する解があるかどうかの判定は、線形計画法の手法を用いることで、効率的に判定することができる。
【0045】
回避可能操作量集合Sが空集合であると判定した場合には、ステップS580に移行して、回避不可能という判定を下して処理を終了する。ここで、空集合である場合には、障害物SMと接触せずに道路境界内部を走行し続ける操作が存在しないことを意味している。
一方、回避可能操作量集合Sが空集合でないと判定した場合には、ステップS520に移行する。
ステップS520では、回避可能操作量集合の中から極力小さな操作量で回避できる回避操作量時系列を、基準回避操作量時系列として算出する。この基準を求める処理は、回避可能操作量集合Sと運転者操作との間の関係を評価しやすくするために実施する。
具体的には、運転者操作量UNに対する評価関数として、
【0046】
【数14】
を導入する。
ここで、w1、w2、…、wNは重みパラメータである。
現在の運転者の操舵速度δdv(0)を利用する場合には、
【0047】
【数15】
としてもよい。
また、運転者が行うと予想できる操舵速度のパターンを、過去の履歴等から推定して、利用することができる場合には、
【0048】
【数16】
という評価関数を構成することもできる。
【0049】
ここで、(19)式は、最も小さな操作量(転舵速度)で回避する操作を基準として利用する方法である。また、(20)式、及び(21)式は、運転者が行うと予想できる操作に対する補正量を、最も小さくする操作を基準として利用する方法である。
回避可能操作量集合Sの中から(19)式、あるいは(20)式、及び(21)式の評価関数を最小とする操作量時系列を、基準回避操作量時系列とする。
【0050】
具体的な基準回避操作量時系列の算出方法を(19)式を例にとって説明する。
新たなN個の正の変数L1、L2、…、LNを導入し、(19)式における
|δv(i)|、(i=1、2、…、N)を変数Liで置き換えた新たな評価関数L′を、次式のように導入する。
L′= w1・L1 +w2・L2 +…+wN・LN ・・・(22)
【0051】
新たな変数Liと、|δv(i)|とは、以下のような拘束で関連付けてあるとする。
−Li ≦δv(i)≦ Li (i=1、2、…、N)・・・(23)
また、変数Liは正と仮定して導入しているので、
Li ≧ 0 (i=1、2、…、N) ・・・(24)
という拘束も課す必要がある。
ここで、拘束条件(18)式、(23)式、(24)式、及び評価関数(19)式で定義する問題は、線形計画問題となる。したがって、効率良く解くためのアルゴリズムが知られている。そして、その公知のアルゴリズムを用いて、解{δ*v(i)}を得ることができる。
評価関数が(20)式や(21)式の場合も、同様にして解を得ることができる。
【0052】
以上のようにステップS520の処理によって、基準解{δ*v(i)}を算出したら、ステップS530に移行する。
ステップS530では、上記基準解{δ*v(i)}を用いて、回避可能操作量集合Sの次元を小さくする変換を行う。これによって、操作量の評価を実施し易い形とする。
操作支援を考える場合、現在に近い未来の操作の方がより重要である。従って、所定時間経過した後は、基準解に沿った操作が行われるものと仮定しておいて、それよりも手前側の時刻における操作量の集合に注目することにする。
すなわち、操作量UNについて、以下のように、確定部分と未確定部分とに分割する。ここで、確定部分とは、基準解に沿って操作する区間である。未確定部分とは、運転者の自由な操作を想定する区間である。
【0053】
【数17】
ただし、Kは、未確定部分として残したステップ数である。UNの平均を(18)式に適用するために、(18)式の行列F、ベクトルG、及びUNを以下のように分割する。
【0054】
【数18】
このうち、UN-Kの平均を、算出した基準解{δ*v(i)}で置き換えると、最初のKステップに対する回避可能操作量集合SKの平均が、以下のように定義できる。
【0055】
【数19】
【0056】
SKの平均は、最初のKステップで許容できる操作量の集合であると解釈することができる。ただし、(K+1)ステップ以降は、基準回避操作量時系列に沿って回避を行うことを前提とする。以上がステップS530の処理であり、SKの平均の算出が終わると、ステップS540に移行する。
ステップS540では、現在の操作状態がKステップ継続すると仮定した場合の操作に対する回避余裕を、SKの平均に基づいて評価する処理を行う。
ここで、SKの平均は、幾何学的に解釈すると、K次元空間上で定義できる多面体を構成する。一方、現在の操作状態δdv(0)がKステップ継続するということは、K次元空間上の点の中から、
【0057】
【数20】
という一点を制御入力として選択することに相当する。
【0058】
このとき、UKとSKの平均との間の位置関係を調べることで、現在の操作状態を継続した場合の回避余裕を評価することができる。
すなわち、UKが多面体(SKの平均)の外側に出てしまっている場合には、UKを実行したのでは回避が不可能になることを意味している。UKがSKの平均の内部にある場合でも、SKの平均を構成する境界面に近い場所に位置している場合には、計算上は回避可能でも、回避限界までの余裕が小さい。つまり、測定誤差や制御誤差によって回避不可能になるリスクが高いと解釈できる。
【0059】
そこで、まず(29)式のUKがSKの平均に属しているかどうかをチェックする。その後、UKについて、SKの平均の境界面までの距離dKを算出する。そして、算出した距離dKを、回避余裕の指標とする。UKとSKの平均の境界面までの距離dKの求め方には様々な方法を考えることが出来る。ここでは、一例として以下のような方法を例示する。
今、SKの平均に属しているUKの第k成分、すなわちkステップ目の入力がΔukだけ変化したとする。このとき、入力が変化しても障害物回避が可能になるためには、変化した入力もSKの平均に属している必要がある。つまり、
【0060】
【数21】
を満たす必要がある。集合SKの平均は凸多面体であるから、(31)式を満たすΔukは、
【0061】
【数22】
という不等式で表すことができる。
ここで、△mink、及び△maxkが、kステップ目の入力変化として許容される幅を表している。以上の許容範囲は、k=1、2、…、Kの各ステップについて算出することができる。
そこで、UKとSKの平均との距離dKを、以下のように定義する。
【0062】
【数23】
【0063】
K=2の場合を例にとると、SKの平均、UK、△mink、△maxk、dKは、図8のように図示することができる。
なお、UKがSKの平均に属していない場合には、便宜上、距離dKに、適当な負の値を割り当てておく。
以上のようにして、ステップS540では、UKとSKの平均との距離dKを算出する。
続いて、ステップS550では、算出した距離dKに基づいて処理を分岐する。
ここで、距離dKは、上述した通り回避余裕の指標である。そして、適当な閾値dthr(>0)を基準として、十分な回避余裕の有無を判定することができる。
すなわち、dK≧dthrである場合には、ステップS560に移行する。この場合には、十分な回避余裕があるものと判断する。そして、ステップS560で支援不要と判断して復帰する。
【0064】
一方、dK<dthrである場合にはステップS570に移行する。この場合には、回避余裕が十分でないと判断する。そして支援が必要であると判断して復帰する。
以上がステップS500の処理である。
ここで、車速センサ2、操舵角センサ5、ヨーレートセンサ3、加速度センサ4およびカメラ1は、自車両状態検出手段を構成する。また、カメラ1は、障害物SM検出手段及び道路境界検出手段も構成する。回避支援出力手段御及び警報装置(ブザー7)は、回避支援手段を構成する。(20)式及び(21)式が運転者操作量予測手段を構成する。車両モデル、ステップS400、(13)式は、操作限界推定手段、車両運動限界推定手段を構成する。
【0065】
(動作)
定期的に、各センサからの信号に基づき、自車両SWの運動状態や障害物情報、道路境界情報を取得し、同一の座標上に展開した情報に変換する。
その同一座標に展開した情報によって、自車両SWが走行可能な走行可能領域Pを算出する。すなわち、道路境界の内側の領域である走路領域を求めると共に、障害物SMの占有領域を求める。そして、走路領域から、障害物SMの占有領域を除いた領域を、上記走行可能領域Pとして算出する。
【0066】
続いて、車両の運動状態および走行可能領域Pに基づき、回避可能操作量集合を算出する。回避可能操作量集合は、所定時間後の間までに、自車両SWが走行可能領域P内に留まることが可能な車両操作量の時系列の集合である。
そして、上記回避可能操作量集合と、現在の自車両SWの操作量(操作状態)とを比較して、運転者に回避支援のための働きかけを行う必要があるか否かを判定する。働きかけを行う必要があると判定すると、ブザー7(警報装置)に対し警報発生のための指令信号を発生する。
【0067】
以上のことが定期的に繰り返される。
これによって、回避可能な操作量時系列を含む回避可能操作量集合に基づいて運転者の行っている操作を評価することができる。この結果、運転者の回避意図を考慮しつつ回避操作が不十分である場合にのみ警報で運転者に障害物SMとの接触の危険性を報知する動作を実現することができる。
また、回避可能操作量集合は自車両SWが直進状態にはない条件でも算出することができる。したがって、回避の初動段階だけでなく回避操作を開始した後でも運転者の操作が不適切な場合に警報で危険を報知することができる。
【0068】
(本実施形態の効果)
(1)所定時間後までの間に接触することなく走行可能な自車両状態の範囲である回避可能集合を算出し、その回避可能集合の境界と、現在の自車両状態とで回避操作支援の必要性の有無を判定する。
このため、障害物SMとの距離だけに基づいて回避可能性の判定をする場合と比較して、回避操作支援の必要性の判定を精度良く実行可能となる。この結果、運転者による障害物回避操作をより適切に支援できることようになる。
【0069】
(2)回避可能集合算出手段及び回避支援起動判定手段を備える。
回避可能集合算出手段は、自車両SWの任意の走行状態および操作状態に対して、回避成功に至る将来の走行状態の推移としてあり得るパターンのすべてを集合として算出する構成となっている。このため、回避の初動段階だけでなく回避中のすべての局面において適正な運動状態および操作状態の範囲を知ることができる。この結果、回避支援起動判定手段は、回避中のすべての局面において回避操作支援の必要性を精度よく判定することができるようになる、よって、必要な支援の提供と不要な支援の抑制を両立した障害物回避支援を提供することができる。
【0070】
(3)道路境界検出手段を備える。
これによって、障害物SMとの接触に加えて、道路境界を考慮して回避可能集合の算出を行っている。この結果、障害物回避と路外逸脱防止とを両立した回避支援を提供することができる。
(4)走行可能領域算出手段、及び回避可能操作量集合算出手段を備える。
走行可能領域算出手段は、障害物SMの占有領域外を算出し、回避可能操作量集合算出手段は、障害物SMの占有領域外を通過する自車両操作量全体の集合を算出する構成とする。これによって、運転者による現在の操作の適否を直接判定することができる。この結果、適切な回避支援の必要性の判定を、効率良く実施することができる。
【0071】
(5)操作限界推定手段を備える。
すなわち、運転者の車両操作量の限界を考慮して回避可能操作量集合を算出する構成となっている。これによって、運転者が実際には操作できない非現実的な回避方法を想定してしまうことを排除できる。さらに、操作量限界を適切に推定することで運転者の技量に応じた回避支援の必要性の判定を行うことができる。
(6)車両運動限界推定手段を備える。
すなわち、車両運動状態に限界を設定して回避可能操作量集合を算出する構成となっている。これによって、車両の急激な運動による車両挙動予測の誤差が所定の水準以上に大きくなることを防止する。また、回避可能操作量集合の精度を保つことができる。
【0072】
(7)回避可能集合算出手段は、新たな情報を検出するたびに回避可能集合を更新する構成とする。この結果、障害物SMの挙動や車両の運動が当初の予測とは異なるものになった場合でも、新たな状況に迅速に対応した回避支援を提供することができる。
(8)上記回避支援起動判定手段は、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との距離が所定値未満になったと判定すると、回避操作支援が必要であると判定する。
すなわち、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との距離に基づいて回避支援の必要性を判定する構成とする。これによって、障害物回避の成否を分ける限界条件に対して確保すべき余裕を設計者が任意の水準に設定して回避支援装置を設計することができる。
【0073】
(9)運転者操作量予測手段を備える。
これによって、運転者の将来の予測操作量を回避可能操作量集合に基づいて評価している。これによって、運転者の操作が適切な回避操作になっていない場合にそのことを早期に発見して回避支援を始めることができる。つまり、より効果的な回避支援を提供することができる。
(10)警報手段を備える。
これによって、音等の警報によって、回避操作の必要性の注意喚起を行う。これによって、運転者の操作に直接干渉しない支援を提供することができる。
(変形例)
(1)車両前方の障害物SMを検出して処理を行っている。車両側方や後方の障害物SMも検出して、回避可能集合を算出しても良い。より回避操作支援の必要性に判定精度が向上する。
【0074】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記第1実施形態と同様な構成などについては同一の符号を付して説明する。
図9は、本実施形態の車両用障害物回避支援装置を装備した自車両SWの装置構成の概念図である。
(構成)
本実施形態の車両の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。ただし、転舵アシストモータ12およびその周辺部品を備える。これによって、転舵アシストトルクをシステム側から制御できる構成となっている点が異なっている。
【0075】
すなわち、操舵トルクセンサ10、転舵角センサ11、及びモータコントローラ13を備える。モータコントローラ13は、操舵トルクセンサ10、転舵角センサ11からの信号を入力して参照しつつ、回避可能操作量集合算出手段6Bbからの指令に応じて転舵アシストモータ12を駆動制御する。このように、転舵アシストトルクを制御することで回避支援を行う。
本実施形態の回避可能操作量集合算出手段6Bbにおける演算は、第1実施形態とほぼ同様である。ただし、回避操作の支援方法の変更に伴い、第1実施形態と若干の異なる部分がある。
【0076】
次に、本実施形態の回避支援コントローラ6の処理を説明する。
ここで、第1実施形態と同様の図5の場面を想定するが、本実施形態では障害物SMが移動するケースの取り扱いについても説明する。
ここで、第2実施形態における回避支援コントローラ6の処理は、図10に示すように、上記第1実施形態における回避支援コントローラ6の処理(図3参照)と、処理の流れ自体はほぼ同じである。ただし、具体的な処理については相違点がある。
まずステップS1100では、各種センサから信号を読み取り変換処理などを行う。上述のステップS100と基本的に同じである。
【0077】
ただし、障害物SMが移動することも考慮すると、障害物SMに関する情報としては、障害物SMの中心点の位置座標xp=(xp、yp)、障害物SMの幅σy、奥行σxに加えて、移動速度vp=(vxp、xyp)に関する情報も取得する必要がある。移動速度については、位置座標xpの値を数値微分して算出する方法や、カメラ1の差分画像等を用いて直接移動速度を推定する方法等を採用することで、取得することができる。
【0078】
ステップS1200では、障害物SM検出の判定処理を行う。上述のステップS200と同じである。
ステップS1300では、上述と同様に、走行可能領域Pの算出処理を行う。ただし、障害物SMが移動している場合には、移動情報を反映して領域を構成する必要がある。すなわち、障害物SMの中心位置xp=(xp、yp)は時間とともに、以下のように移動していく。
【0079】
【数24】
ただし、t0を現在時刻としている。従って、走行可能領域Pは、時刻tに依存して変化する集合として、以下のように定義できる。
【0080】
【数25】
【0081】
ステップS1400では、回避可能操作量集合の算出を行う。上記第1実施形態での処理と比較して、車両モデルと制約条件を変更する。
第1実施形態の車両モデルでは、転舵速度を入力とみなしたモデルを採用した。この第2実施形態では、運転者の転舵トルクを入力とみなすモデルを採用する場合で説明する。具体的には、上述の(3)〜(8)式に加えて、
【0082】
【数26】
という転舵速度に関するダイナミクスを導入する。
ここで、Tは転舵トルクである。また、ζ、ω、Kは、運転者の転舵トルクから転舵角までの特性を2次振動系近似した場合の特性パラメータを表す。
(39)式を導入したため、自車両SWの運動状態を記述する状態ベクトルは、
【0083】
【数27】
となる。なお、(40)式において、添え字のTは行列・ベクトルの転置を表す。そして、第1実施形態と同様の式展開を行うことにより、車両モデルは以下のような形に纏めることができる。
【0084】
【数28】
ただし、行列Ad、ベクトルbd及びddは、第2実施形態で使用しているモデルに合わせて算出したものを使用している。すなわち、第1実施形態と同じ行列・ベクトルを表しているものではない。
制約条件については、走行可能領域Pを定義する(37)式、及び転舵角制限である(13)式に加えて、ここでは入力転舵トルクTにも、以下のような制限を課す。
【0085】
【数29】
第2実施形態における入力時系列は、
【0086】
【数30】
である。(13)式、及び(37)式で表現できる、xに関する制約条件を、(41)式を用いてUNに関する条件に書き換えると、(17)式と同じ形の制約条件
【0087】
【数31】
を得ることが出来る。ただし、F、Gは第1実施形態とは異なる表現になる。
さらに、(42)式に対応する条件として、
【0088】
【数32】
が加わる。(44)式と(45)式をあわせると、第2実施形態における回避可能操作量集合Sとして、
【0089】
【数33】
を得ることが出来る。
【0090】
ステップS1500の処理は、算出対象が転舵速度δvから転舵トルクTに変わる以外は、第1実施形態の場合と同様である。最終的に、回避可能操作量集合SKの平均と、操作量ベクトルUKとの間の距離dKを算出する。
ステップS1600の処理は、第1実施形態と同じである。
ステップS1700では、算出したSKの平均、dKの値をもとに、転舵アシストトルクの指令値の算出を行う。
転舵アシストトルクを付加する処理は、第1実施形態と同様、dKの値が閾値dthrを下回った時に作用させるものとする。
作用させるアシストトルクの指令値は、回避可能操作量集合SKの平均を算出する過程で算出している基準解、すなわち回避可能操作量集合SNに属し、
【0091】
【数34】
を最小化するトルク指令値系列の先頭値T*(1)を参照し、操舵トルクセンサ10で検出した測定値から換算した運転者の転舵トルクTdとの差をアシストトルク指令値Tαとして決定する。
つまり、
【0092】
【数35】
という式に従って、アシストトルクの指令値を算出する。
【0093】
算出したアシストトルクの指令値は、モータコントローラ13に出力する。モータコントローラ13は、入力した指令値となるようにアシストトルクを操舵軸に入力する。
ここで、(42)式は、操作限界推定手段、車両運動限界推定手段を構成する。またステップS1300は、障害物挙動予測手段を構成する。
【0094】
(動作)
以上の処理を所定の制御周期ごとに繰り返すことで、各時刻におけるアシストトルク指令値を算出・制御することで回避支援を実現する。
この実施形態では、運転者が十分な余裕をもって回避操作を行っている場合にはアシストトルクの発生を抑制して違和感を与えることを抑制している。そして、回避余裕が小さくなったところでアシストトルクを発生させて回避を支援することで、効果的な回避支援を提供することができる。
【0095】
(本実施形態の効果)
(1)上記第1実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
(2)障害物挙動予測手段を備える。
すなわち、障害物SMの移動経路を予測して回避可能操作量集合を算出する構成としている。この結果、移動する障害物SMに対しても有効な回避可能操作量集合を算出することができる。
(3)上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向にステアリング反力トルクを加える。
これによって、ステアリング反力トルクによって回避に有効な操舵方向を提示する。この結果、運転操作と直結したわかりやすい回避支援を提供することができる。
【0096】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記各実施形態と同様な構成などについては同一の符号を使用する。
図11は、本実施形態の車両用障害物回避支援装置を装備した自車両SWの装置構成の概念図である。
(構成)
本実施形態の基本的な車両構成は、図12に示すように、上記第2実施形態と同様である。
【0097】
ただし、ステアリング軸の軸方向途中位置にクラッチ21を介装している。このクラッチ21によって、ステアリングホイール8による操舵を機械的に切り離し、転舵モータ22をシステム側で制御することによって転舵角を運転者操舵とは独立に制御できる構成となっている。
そして、第3実施形態の構成では、回避可能操作量集合算出手段6Bbの計算結果を用いて、回避余裕が所定の水準以下に小さくなったところで、転舵角をシステム側で制御する構成に切り替えることで回避を行う。
【0098】
次に、本実施形態における回避支援コントローラ6の処理について。図12を参照しつつ説明する。
まずステップS2100にて、各種センサから信号を読み込み処理を行う。処理は、第1実施形態におけるステップS100と同じ処理である。
続いて、ステップS2200では、回避制御を実行中かどうかで処理を分岐する。既に以前の制御周期において回避制御が起動している場合には、ステップS3000へ移行する。一方、以前の制御周期において回避制御が起動していない場合にはステップ2300に移行する。
【0099】
ステップS2300では、障害物SM検出の判定を行う。処理は、第1実施形態におけるステップS300と同じ処理である。
続く、ステップS2400〜S2700までの処理も、第1実施形態のステップS300〜S600と同じ処理を行う。
そして、ステップS2700にて、回避余裕が小さいと判定された場合には、ステップS2800に移行する。ステップS2800では、回避制御を起動した後に、ステップS2900に移行する。上記回避制御は、起動する際に、クラッチ21に切り離し指令を出力して、クラッチ21を開放する。
【0100】
ステップS2900では、ステップS2500で算出した基準解{δ*v(i)}のうち、現在時刻に対応したステップ数iに対応した指令値を順番に読み出し、モータコントローラ1310に指令値として出力する。
すなわち、回避制御が起動中は、次の制御周期においてステップS2200でステップS3000に分岐して上記ステップS2900移行することで、基準解として算出した制御指令値が逐次実行していく。そして、ステップ数Nまでのすべての指令値を読み出すと、回避制御終了となって、ステップS3000でからステップS3100に移行する。
ステップS3100では、回避制御を終了するとしてクラッチ21に締結指令を出力して、通常走行状態に復帰する。
【0101】
(動作)
回避余裕が小さくなって回避のために正確な操作が要求される場面では、クラッチ21が開放状態となる。これによって、運転者による操舵操作を停止して、回避支援装置によって操舵制御だけで障害物回避を行う。
また、クラッチ21を開放することで、回避支援装置によって操舵がステアリングホイール8に反映することが無い。
【0102】
(本実施形態の効果)
(1)上記第1及び第2実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
(2)ステアリングホイールから操舵輪までのトルク伝達経路にクラッチを介装し、回避操作を支援する場合には、クラッチを開放状態とする。
これによって、回避余裕が小さくなって回避のために正確な操作が要求されるような局面においては、運転者の操作からシステムに制御が切り替わる。このため、運転者の技量によらず正確な回避操作を実現することができる。
【0103】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記各実施形態と同様な構成等については同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の車両構成は、上記第2実施形態(図9)と同様である。すなわち、回避余裕が小さくなったところで、操舵アシストトルクを発生させて回避操作を支援する構成とする。また、本実施形態では、回避余裕の評価について、第2実施形態とは異なる評価方法を示す。
【0104】
次に、本実施形態に係る回避支援コントローラ6の処理について、図13を参照しつつ説明する。
ステップS4300では、これ以前の制御サイクルにおいて障害物SMを検出し、回避可能集合(詳細は後述)を生成しているか否かを判定する。生成していると判定した場合には、ステップS4500に移行する。一方、回避可能集合を生成していないと判定した場合には、ステップS4400に移行する。
ステップS4400では、回避可能集合の生成を行い、ステップS4500に移行する。回避可能集合の生成については、後述する。
ステップS4500では、回避可能集合を用いた回避余裕の評価を行う。すなわち、ステップS4400で算出した回避可能集合と、現在の車両状態に基づいて回避余裕を表す指標の算出を行う。ここでは、第iステップに相当する時刻における回避余裕の指標d(i)として、
【0105】
【数36】
を考える。
【0106】
d(i)は、2つの基準解の車両軌跡のうち、より近い軌跡との横方向距離を基準解の車両軌跡で定義される許容幅の大きさで正規化した値である。そして、d(i)の値は、小さいほど回避余裕がない状態に対応している。なお、d(i)の値が負の値の場合には、基準解の車両軌跡で挟まれた領域からの逸脱を意味している。
これに基づき、第2実施形態と同様に、d(i)の値と適当な同値を比較することで回避制御の起動判定を行う。なお、ステップ数iは、評価に用いる回避可能集合を算出した時刻を1とした場合の現在時刻のステップ数を用いる。
【0107】
続いて、ステップS4600では、実際に算出した指標d(i)に基づいて、回避支援の必要性を判定する。回避支援が必要であると判定した場合には、ステップS4700に移行する。一方、回避支援が不要と判定した場合には、そのまま処理を終了して復帰する。
ステップS4700では、転舵アシストトルクを作用させるための指令値を出力する。転舵アシストトルクとしては、2つの基準解の車両軌跡のうち、自車両SWに近い方の軌跡から遠ざける方向に加わるトルクとし、その大きさを、d(i)が小さいほど、大きくなるような指令値とする。その後、処理を終了して復帰する。
【0108】
次に、上記ステップS4400の回避可能集合生成処理について、図14を参照しつつ説明する。
ステップS4410及びS4420では、走行可能領域Pの構成を求め、さらに回避可能操作量集合を算出する。この処理は、第2実施形態における、ステップS1300及びS1400と同じ処理である。
次に、ステップS4300では、基準解の算出を行う。
ここで、第2実施形態では、基準解として、(19)式のように操作量の大きさが小さい解、あるいは(20)式及び(21)式のように運転者が取ると予想される操作量に対する補正量の大きさが小さい解を構成している。
これに対して、第4実施形態では、次の2つを基準解として算出する。
a:なるべく障害物SMと接近しつつ接触せずに通過する解
b:なるべく道路境界と接近しつつ路外逸脱せずに通過する解
具体的には、(18)式で定義できる回避可能操作量集合S上で、
【0109】
【数37】
という2つの評価関数の値を最小にする解を基準解として考える。これらの評価関数に対する最適解を算出する問題も線形計画問題になっているので、これらの基準解{T*1(i)}、{T*2(i)}を計算で求めることができる。
【0110】
以上がステップS4430の処理である。
ステップS4440では、(3)式〜(8)式、および(39)式を、基準解{T*1(i)}、{T*2(i)}で積分して、各基準解に対応する車両横位置座標yの時系列{y*1(i)}{y*2(i)}をそれぞれ算出する。
以上のようにして、基準解に対応する車両軌跡を得ることが出来ると、第iステップにおいて、車両の横位置座標は、概ね、
【0111】
【数38】
の範囲内に収まっていることが望ましい、という基準を導き出すことができる。
例えば、図5の場面において(52)式の条件を図示すると、図15のようになる。ステップS4500では、(52)式で定義する領域を回避可能集合として構成して、復帰する。
【0112】
(動作)
自車両SWが基準解から算出した回避限界線に近づくと、回避限界線から遠ざけるアシストトルクが作用する。これによって、自車両SWを(52)式で定義できる回避限界集合内に留める操作が容易になり、障害物回避を支援することができる。
なお、障害物SMが移動するなどして回避可能集合を算出した時刻と状況が変化した場合には、図13のステップS4300において回避可能集合を既に算出している場合でも、新たな回避可能集合を算出するためにステップS4400に移行するという構成としても良い。
【0113】
(本実施形態の効果)
(1)上記各実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
(2)上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向に車輪の転舵角を制御する。すなわち、転舵角をシステム側で制御する。この結果、運転者の操舵操作が不十分な場合にそれを補うことができるようになり、運転者の回避能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る回避支援装置を装備した車両の概念図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る回避支援装置を示すブロック図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図4】本発明に基づく第1実施形態に係る運転操作量の評価の処理を説明する図である。
【図5】想定する場面の一例を示す平面図である。
【図6】自車両SWおよび障害物の状態量の定義のための座標系設定の一例を示す図である。
【図7】図5の場面における走行可能領域の構成例を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る、回避可能操作量集合、および集合と特定の操作量との間の距離計算方法の一例を説明する図である。
【図9】本発明に基づく第2実施形態に係る回避支援装置を装備した車両の概念図である。
【図10】本発明に基づく第2実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図11】本発明に基づく第3実施形態に係る回避支援装置を装備した車両の概念図である。
【図12】本発明に基づく第3実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図13】本発明に基づく第4実施形態に係る回避支援コントローラの処理を説明する図である。
【図14】本発明に基づく第4実施形態に係る回避可能集合の構成を算出する処理を説明する図である。
【図15】本発明に基づく第4実施形態に係る回避可能集合の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0115】
1 カメラ
2 車速センサ
3 ヨーレートセンサ
4 加速度センサ
5 操舵角センサ
6 回避支援コントローラ
6A センサ信号処理部
6B 回避可能集合算出手段
6Ba 走行可能領域算出手段
6Bb 回避可能操作量集合算出手段
6C 回避支援起動判定手段
6D 回避支援出力手段
7 ブザー
8 ステアリングホイール
10 操舵トルクセンサ
11 転舵角センサ
12 転舵アシストモータ
13 モータコントローラ
21 クラッチ
22 転舵モータ
P 走行可能領域
S 回避可能操作量集合
SM 障害物
SW 自車両
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の運動状態および操作状態からなる自車両状態を検出する自車両状態検出手段と、
自車両周囲の障害物を検出する障害物検出手段と、
自車両が、所定時間後までの間、障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出する回避可能集合算出手段と、
現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性の有無を判定する回避支援起動判定手段と、
回避支援起動判定手段の判定結果に基づいて、運転者の回避操作を支援する回避支援手段と、を備えることを特徴とする車両用障害物回避支援装置。
【請求項2】
自車両前方の道路境界を検出する道路境界検出手段を備え、
上記回避可能集合算出手段は、検出した道路境界に基づき、自車両が道路境界内に留まりながら障害物と接触することなく走行し得る回避可能集合を算出することを特徴とする請求項1に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項3】
上記回避可能集合算出手段は、
道路境界の内部を構成する平面領域から障害物の占有領域を除いた領域を走行可能領域として算出する走行可能領域算出手段と、
自車両が、所定時間後までにわたって走行可能領域に留まることが可能な車両操作量の時系列を構成要素とする回避可能操作量集合を算出する回避可能操作量集合算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項4】
上記回避可能操作量集合算出手段は、
運転者が取り得る車両操作量の限界を推定する操作限界推定手段を備え、操作限界推定手段が推定した車両操作限界を満たす範囲内に回避可能操作量集合を構成することを特徴とする請求項3に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項5】
上記回避可能操作量集合算出手段は、
自車両の車両運動状態の限界を推定する車両運動限界推定手段を備え、車両運動限界推定手段が推定した車両運動限界を満たす範囲内に回避可能操作量集合を構成することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項6】
障害物の移動経路を予測する障害物挙動予測手段を備え、
上記回避可能操作量集合算出手段は、障害物挙動予測手段が予測した障害物の移動経路に基づく障害物の占有領域の変動を考慮して、回避可能操作量集合を算出することを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項7】
上記回避可能集合算出手段は、
新たな自車両状態または障害物情報を検出するごとに、最新の検出値に基づいて回避可能集合を更新することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項8】
上記回避支援起動判定手段は、
現在の自車両状態と回避可能集合の境界との距離が所定値未満になったと判定すると、回避操作支援が必要であると判定することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項9】
運転者の将来の操作量を予測する運転者操作量予測手段を備え、
上記回避支援起動判定手段は、運転者操作量予測手段で予測した操作量が回避可能集合から逸脱すると予測した場合に回避操作支援が必要であると判定することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項10】
上記回避支援手段は、
運転者の注意を喚起する警報手段を備え、
上記警報手段を介して警報を行うことで、運転者の回避操作を支援するために運転者に働きかけを行うことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項11】
上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向にステアリング反力トルクを加えることで、運転者の回避操作を支援することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項12】
上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向に車輪の転舵角を制御することで、運転者の回避操作を支援することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項13】
ステアリングホイールから操舵輪までのトルク伝達経路にクラッチを介装し、回避操作を支援する場合には、クラッチを開放状態とすることを特徴とする請求項12に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項14】
定期的に、自車両が所定時間後までの間に障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出し、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性があると判定すると、運転者の回避操作を支援することを特徴とする車両用障害物回避支援方法。
【請求項1】
自車両の運動状態および操作状態からなる自車両状態を検出する自車両状態検出手段と、
自車両周囲の障害物を検出する障害物検出手段と、
自車両が、所定時間後までの間、障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出する回避可能集合算出手段と、
現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性の有無を判定する回避支援起動判定手段と、
回避支援起動判定手段の判定結果に基づいて、運転者の回避操作を支援する回避支援手段と、を備えることを特徴とする車両用障害物回避支援装置。
【請求項2】
自車両前方の道路境界を検出する道路境界検出手段を備え、
上記回避可能集合算出手段は、検出した道路境界に基づき、自車両が道路境界内に留まりながら障害物と接触することなく走行し得る回避可能集合を算出することを特徴とする請求項1に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項3】
上記回避可能集合算出手段は、
道路境界の内部を構成する平面領域から障害物の占有領域を除いた領域を走行可能領域として算出する走行可能領域算出手段と、
自車両が、所定時間後までにわたって走行可能領域に留まることが可能な車両操作量の時系列を構成要素とする回避可能操作量集合を算出する回避可能操作量集合算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項4】
上記回避可能操作量集合算出手段は、
運転者が取り得る車両操作量の限界を推定する操作限界推定手段を備え、操作限界推定手段が推定した車両操作限界を満たす範囲内に回避可能操作量集合を構成することを特徴とする請求項3に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項5】
上記回避可能操作量集合算出手段は、
自車両の車両運動状態の限界を推定する車両運動限界推定手段を備え、車両運動限界推定手段が推定した車両運動限界を満たす範囲内に回避可能操作量集合を構成することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項6】
障害物の移動経路を予測する障害物挙動予測手段を備え、
上記回避可能操作量集合算出手段は、障害物挙動予測手段が予測した障害物の移動経路に基づく障害物の占有領域の変動を考慮して、回避可能操作量集合を算出することを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項7】
上記回避可能集合算出手段は、
新たな自車両状態または障害物情報を検出するごとに、最新の検出値に基づいて回避可能集合を更新することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項8】
上記回避支援起動判定手段は、
現在の自車両状態と回避可能集合の境界との距離が所定値未満になったと判定すると、回避操作支援が必要であると判定することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項9】
運転者の将来の操作量を予測する運転者操作量予測手段を備え、
上記回避支援起動判定手段は、運転者操作量予測手段で予測した操作量が回避可能集合から逸脱すると予測した場合に回避操作支援が必要であると判定することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項10】
上記回避支援手段は、
運転者の注意を喚起する警報手段を備え、
上記警報手段を介して警報を行うことで、運転者の回避操作を支援するために運転者に働きかけを行うことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項11】
上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向にステアリング反力トルクを加えることで、運転者の回避操作を支援することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項12】
上記回避支援手段は、自車両状態が回避可能集合の内部に留まる方向に車輪の転舵角を制御することで、運転者の回避操作を支援することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項13】
ステアリングホイールから操舵輪までのトルク伝達経路にクラッチを介装し、回避操作を支援する場合には、クラッチを開放状態とすることを特徴とする請求項12に記載した車両用障害物回避支援装置。
【請求項14】
定期的に、自車両が所定時間後までの間に障害物と接触することなく走行可能な自車両状態の範囲を回避可能集合として算出し、現在の自車両状態と回避可能集合の境界との関係に基づいて、回避操作支援の必要性があると判定すると、運転者の回避操作を支援することを特徴とする車両用障害物回避支援方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−298355(P2009−298355A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157310(P2008−157310)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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