説明

車両用駆動装置

【課題】リバースEV走行が可能であるとともに、リバース走行時に上限加速度を超えるような場合に安全な走行を確保することができる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】車両用駆動装置1は、第1及び第2クラッチ41、42を開放し、第1同期装置51,61を介して奇数段ギヤ群のいずれかのギヤを接続してモータ7を前進走行時とは逆方向に駆動することにより、エンジン6が停止中であっても第1入力軸11が前進走行時とは逆回転しリバースEV走行可能であり、リバースEV走行時に上限車速又は上限加速度を超える場合には、第1及び第2クラッチ41、42の少なくとも一方を締結することにより停止中のエンジン6をブレーキとして利用しながらリバースEV走行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関と、電動機と、を備えるハイブリッド車両用駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の車両用駆動装置200は、図8に示すように、電動機210に接続されるとともに第1断接手段205によって選択的に内燃機関出力軸204と連結される第1入力軸202aと、第2断接手段206によって選択的に内燃機関出力軸204に連結される第2入力軸202bと、被駆動部に動力を出力する出力軸203と、第1入力軸202a上に配置され第1同期装置230、231を介して第1入力軸202aに選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、第2入力軸202b上に配置され第2同期装置216、217を介して第2入力軸202bに選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、出力軸203上に配置され第1ギヤ群のギヤと第2ギヤ群のギヤと噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備えたツインクラッチ式変速機構を備え、電動機210が接続されていない第2入力軸202bには、第2同期装置217を介して第2入力軸202bに選択的に連結されるリバース用ギヤ段Rが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−89594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1の車両用駆動装置200では、リバースギヤ段Rが電動機210が接続されていない第2入力軸202bに設けられているため電動機210でリバース走行をすることができないという問題があった。
【0006】
また、電動機でリバース走行が可能な車両用駆動装置において、リバース走行時に上限車速又は上限加速度を超えるような場合、例えば下り坂にも関わらず運転者が誤ってアクセルペダルを踏みすぎた場合などであっても車両の安全な走行を確保する必要がある。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、その目的は、リバースEV走行が可能であるとともに、リバース走行時に上限車速又は上限加速度を超えるような場合に安全な走行を確保することができる車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
内燃機関(例えば、後述の実施形態のエンジン6)と、
電動機(例えば、後述の実施形態のモータ7)と、
前記電動機に接続されるとともに第1断接手段(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41)を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸(例えば、後述の実施形態の第1主軸11)と、第2断接手段(例えば、後述の実施形態の第2クラッチ42)を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸(例えば、後述の実施形態の第2中間軸16)と、被駆動部(例えば、後述の実施形態の駆動輪DW,DW)に動力を出力する出力軸(例えば、後述の実施形態のカウンタ軸14)と、前記第1入力軸上に配置され第1同期装置(例えば、後述の実施形態のロック機構61、第1変速用シフター51)を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の遊星歯車機構30、第3速用駆動ギヤ23a、第5速用駆動ギヤ25a)よりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され第2同期装置(例えば、後述の実施形態の第2変速用シフター52)を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第2速用駆動ギヤ22a、第4速用駆動ギヤ24a)よりなる第2ギヤ群と、前記出力軸上に配置され前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが噛合する複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第1共用従動ギヤ23b、第2共用従動ギヤ24b)よりなる第3ギヤ群と、を備えた変速機構(例えば、後述の実施形態の変速機20)と、を備えた車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の車両用駆動装置1)であって、
前記第1及び第2断接手段を開放し、前記第1同期装置を介して前記第1ギヤ群のいずれかのギヤを接続して前記電動機を前進走行時とは逆方向に駆動することにより、前記内燃機関が停止中であっても前記第1入力軸が前進走行時とは逆回転しリバースEV走行可能であり、
リバースEV走行時に上限車速又は上限加速度を超える場合には、前記第1及び第2断接手段の少なくとも一方を締結することにより停止中の前記内燃機関をブレーキとして利用しながらリバースEV走行することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
リバースEV走行時に前記第1及び第2断接手段のいずれか一方を締結しても前記上限車速又は前記上限加速度を超えた状態が続いた場合には、前記第1及び第2断接手段の両方を締結することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加えて、
前記変速機構には、前記第1及び第2入力軸と平行に配置されたリバース軸(例えば、後述の実施形態のリバース軸17)が設けられ、
前記リバース軸には、第3同期装置(例えば、後述の実施形態のリバース用シフター53)を介して前記リバース軸に選択的に連結されるリバース用駆動ギヤ(例えば、後述の実施形態のリバース用駆動ギヤ28a)が設けられ、
前記第1入力軸には、前記リバース用駆動ギヤと噛合し前記第1入力軸と一体回転するように取り付けられたリバース用従動ギヤ(例えば、後述の実施形態のリバース用従動ギヤ28b)が設けられ、
前記リバース軸は、アイドルギヤ段(例えば、後述の実施形態の第1アイドルギヤ段27A、第2アイドルギヤ段27B)を介して前記第2入力軸と連結され、
前記第2断接手段を締結して停止中の前記内燃機関をブレーキとして利用する際は、前記第2同期装置又は前記第3同期装置が接続されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加えて、
前記第1入力軸には、前記第1入力軸の前進走行時の回転のみを許容するエアコン用コンプレッサ(例えば、後述の実施形態のエアコン用コンプレッサ112)がエアコン用クラッチ(例えば、後述の実施形態のエアコン用クラッチ121)を介して連結され、
リバースEV走行時であって前記第3同期装置が接続されているときには、前記第1入力軸の逆転を前記エアコン用コンプレッサに伝達しないように前記エアコン用クラッチを開放して前記エアコン用コンプレッサを空転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の車両用駆動装置によれば、第1及び第2断接手段を開放し、第1同期装置を介して前記第1ギヤ群のいずれかのギヤを接続して電動機を前進走行時とは逆方向に駆動することにより、内燃機関が停止中であっても第1入力軸が前進走行時とは逆回転しリバースEV走行可能である。また、リバースEV走行時には、第1入力軸上に配置された第1ギヤ群のギヤを経由して出力軸に動力を伝達するので、走行状況にあわせて第1ギヤ群の複数のギヤのうち最適なギヤを選択することができる。
さらに、リバースEV走行時に上限車速又は上限加速度を超える場合には、第1及び第2断接手段の少なくとも一方を締結することにより停止中の内燃機関をブレーキとして利用しながらリバースEV走行することができ、これにより安全な走行を確保することができる。
【0013】
請求項2の車両用駆動装置によれば、リバースEV走行時に第1及び第2断接手段のいずれか一方を締結しても上限車速又は上限加速度を超えた状態が続いた場合には、第1及び第2断接手段の両方を締結することにより、より大きな制動力を確保することができる。
【0014】
請求項3の車両用駆動装置によれば、第2同期装置を接続しても第3同期装置を接続しても第2断接手段を締結して制動力を付与することができる。
【0015】
請求項4の車両用駆動装置によれば、安価な正転のみのスクロールコンプレッサを使用することができ、スクロールコンプレッサを使用した場合であっても逆転を伝達することのないようエアコン用クラッチを開放することでスクロールコンプレッサを安全に使用することができる。また、エアコン用クラッチを開放することで負荷を低減することができ、トルクが必要なときにも走行トルクを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の車両用駆動装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の概略構成図である。
【図3】モータの動力によるリバース走行時における図であり、(a)は速度共線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図4】エンジンの動力によるリバース走行時に第1クラッチを締結した状態における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図5】エンジンの動力によるリバース走行時に第2クラッチを締結した状態における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図6】第2速走行時における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図7】変形例にかかる車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図8】特許文献1の車両用駆動装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の制御装置を搭載可能なハイブリッド車両用駆動装置の一実施形態ついて図1及び図2を参照しながら説明する。
本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1(以下、車両用駆動装置と呼ぶ。)は、車両(図示せず)の駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、電動機(以下「モータ」という)7と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、を備えている。
【0018】
エンジン6は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、このエンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41(第1断接手段)と第2クラッチ(第2断接手段)が設けられている。
【0019】
モータ7は、3相ブラシレスDCモータであり3n個の電機子71aで構成されたステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有している。各電機子71aは、鉄芯71bと、この鉄芯71bに巻き回されたコイル71cで構成されており、不図示のケーシングに固定され、回転軸を中心に周方向にほぼ等間隔で並んでいる。3n個のコイル71cは、n組のU相、V相,W相の3相コイルを構成している。
【0020】
ロータ72は、鉄芯72aと、回転軸を中心にほぼ等間隔で並んだn個の永久磁石72bを有しており、隣り合う各2つの永久磁石72bの極性は、互いに異なっている。鉄芯72aを固定する固定部72cは、中空円筒状を有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置され、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されている。これにより、ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体に回転するように構成されている。
【0021】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有している。このようにして、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0022】
リングギヤ35には、同期機構(シンクロナイザー機構)を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたロック機構61(第1同期装置)が設けられている。なお、ロック機構61の変わりにブレーキ、スリーブによる摩擦係合装置等を用いてもよい。
【0023】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、後述する複数の変速ギヤ群を備えた、いわゆるツインクラッチ式変速機である。
【0024】
より具体的に、変速機20は、エンジン6のクランク軸6aと同軸(回転軸線A1)上に配置された第1主軸11(第1の入力軸)と、第2主軸12と、連結軸13と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線B1を中心として回転自在なカウンタ軸14(出力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線C1を中心として回転自在な第1中間軸15と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線D1を中心として回転自在な第2中間軸16(第2の入力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線E1を中心として回転自在なリバース軸17を備えている。
【0025】
第1主軸11には、エンジン6側に第1クラッチ41が設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のサンギヤ32とモータ7のロータ72が取り付けられている。従って、第1主軸11は、第1クラッチ41によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結されるとともにモータ7と直結され、エンジン6及び/又はモータ7の動力がサンギヤ32に伝達されるように構成されている。
【0026】
第2主軸12は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、第2主軸12には、エンジン6側に第2クラッチ42が設けられ、エンジン6側とは反対側にアイドル駆動ギヤ27aが一体に取り付けられている。従って、第2主軸12は、第2クラッチ42によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結され、エンジン6の動力がアイドル駆動ギヤ27aへ伝達されるように構成されている。
【0027】
連結軸13は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側とは反対側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、連結軸13には、エンジン6側に第3速用駆動ギヤ23aが一体に取り付けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のキャリア36が一体に取り付けられている。従って、プラネタリギヤ34の公転により連結軸13に取り付けられたキャリア36と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するように構成されている。
【0028】
さらに、第1主軸11には、第1主軸11と相対回転自在に第5速用駆動ギヤ25aが設けられるとともに第1主軸11と一体に回転するリバース用従動ギヤ28bが取り付けられている。さらに第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第1変速用シフター51(第1同期装置)が設けられている。そして、第1変速用シフター51が第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第5速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが一体に回転し、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。なお、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するとき、第1主軸11に取り付けられたサンギヤ32と第3速用駆動ギヤ23aに連結軸13で連結されたキャリア36が一体に回転するとともに、リングギヤ35も一体に回転し、遊星歯車機構30が一体となる。また、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあって、前述のロック機構61が接続されると、リングギヤ35がロックされ、サンギヤ32の回転が減速されてキャリア36に伝達される。
【0029】
第1中間軸15には、第2主軸12に取り付けられたアイドル駆動ギヤ27aと噛合する第1アイドル従動ギヤ27bが一体に取り付けられている。
【0030】
第2中間軸16には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第2アイドル従動ギヤ27cが一体に取り付けられている。第2アイドル従動ギヤ27cは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第1アイドルギヤ段27Aを構成している。また、第2中間軸16には、第1主軸11周りに設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aと対応する位置にそれぞれ第2中間軸16と相対回転可能な第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとが設けられている。さらに第2中間軸16には、第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第2変速用シフター52(第2同期装置)が設けられている。そして、第2変速用シフター52が第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aとが一体に回転し、第2変速用シフター52が第4速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとが一体に回転し、第2変速用シフター52がニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0031】
カウンタ軸14には、エンジン6側とは反対側から順に第1共用従動ギヤ23bと、第2共用従動ギヤ24bと、パーキングギヤ21と、ファイナルギヤ26aとが一体に取り付けられている。
ここで、第1共用従動ギヤ23bは、連結軸13に取り付けられた第3速用駆動ギヤ23aと噛合して第3速用駆動ギヤ23aと共に第3速用ギヤ対23を構成し、第2中間軸16に設けられた第2速用駆動ギヤ22aと噛合して第2速用駆動ギヤ22aと共に第2速用ギヤ対22を構成する。
第2共用従動ギヤ24bは、第1主軸11に設けられた第5速用駆動ギヤ25aと噛合して第5速用駆動ギヤ25aと共に第5速用ギヤ対25を構成し、第2中間軸16に設けられた第4速用駆動ギヤ24aと噛合して第4速用駆動ギヤ24aと共に第4速用ギヤ対24を構成する。
ファイナルギヤ26aは差動ギヤ機構8と噛合して、差動ギヤ機構8は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに連結されている。従って、カウンタ軸14に伝達された動力はファイナルギヤ26aから差動ギヤ機構8、駆動軸9,9、駆動輪DW,DWへと出力される。
【0032】
リバース軸17には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第3アイドル従動ギヤ27dが一体に取り付けられている。第3アイドル従動ギヤ27dは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第2アイドルギヤ段27Bを構成している。また、リバース軸17には、第1主軸11に取り付けられたリバース用従動ギヤ28bと噛合するリバース用駆動ギヤ28aがリバース軸17と相対回転自在に設けられている。リバース用駆動ギヤ28aは、リバース用従動ギヤ28bとともにリバース用ギヤ段28を構成している。さらにリバース用駆動ギヤ28aのエンジン6側とは反対側にリバース軸17とリバース用駆動ギヤ28aとを連結又は開放するリバース用シフター53(第3同期装置)が設けられている。そして、リバース用シフター53がリバース用接続位置でインギヤするときには、リバース軸17とリバース用駆動ギヤ28aとが一体に回転し、リバース用シフター53がニュートラル位置にあるときには、リバース軸17とリバース用駆動ギヤ28aとが相対回転する。
【0033】
なお、第1変速用シフター51、第2変速用シフター52、リバース用シフター53は、接続する軸とギヤの回転数を一致させる同期機構(シンクロナイザー機構)を有するクラッチ機構を用いている。
【0034】
このように構成された変速機20は、2つの変速軸の一方の変速軸である第1主軸11上に第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段ギヤ群(第1ギヤ群)が設けられ、2つの変速軸の他方の変速軸である第2中間軸16上に第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aからなる偶数段ギヤ群(第2ギヤ群)が設けられる。
【0035】
また、車両用駆動装置1には、さらにエアコン用コンプレッサ112とオイルポンプ122とが設けられ、オイルポンプ122は、回転軸線A1〜E1と平行に配置されたオイルポンプ用補機軸19上にオイルポンプ用補機軸19と一体回転可能に取り付けられている。オイルポンプ用補機軸19には、リバース用駆動ギヤ28aと噛合するオイルポンプ用従動ギヤ28cと、エアコン用駆動ギヤ29aとが一体回転可能に取り付けられて、第1主軸11を回転させるエンジン6及び/又はモータ7の動力が伝達される。また、エアコン用コンプレッサ112は、回転軸線A1〜E1と平行に配置されたエアコン用補機軸18上にエアコン用クラッチ121を介して設けられている。エアコン用補機軸18には、エアコン用駆動ギヤ29aからチェーン29cを介して動力が伝達されるエアコン用従動ギヤ29bがエアコン用補機軸18と一体回転可能に取り付けられて、オイルポンプ用補機軸19からエンジン6及び/又はモータ7の動力がエアコン用駆動ギヤ29a、チェーン29c及びエアコン用従動ギヤ29bで構成されるエアコン用伝達機構29を介して伝達される。なお、エアコン用コンプレッサ112は、不図示のエアコン作動用ソレノイドによりエアコン用クラッチ121を開放することで、動力の伝達を遮断することができるように構成される。
【0036】
以上の構成により、本実施形態の車両用駆動装置1は、以下の第1〜第5の伝達経路を有している。
(1)第1伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ対23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。
【0037】
(2)第2伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第1アイドルギヤ段27A(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第2アイドル従動ギヤ27c)、第2中間軸16、第2速用ギヤ対22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ対24(第4速用駆動ギヤ24a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0038】
(3)第3伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、遊星歯車機構30を介さずに、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0039】
(4)第4伝達経路は、モータ7が、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0040】
(5)第5伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第2アイドルギヤ段27B(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第3アイドル従動ギヤ27d)、リバース軸17、リバース用ギヤ段28(リバース用駆動ギヤ28a、リバース用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0041】
また、本実施形態の車両用駆動装置1において、モータ7は、車両全体の各種制御をする制御装置を介してバッテリに接続され、バッテリからの電力供給と、バッテリへのエネルギー回生が制御装置を介して行われるようになっている。即ち、モータ7は、バッテリから制御装置を介して供給された電力によって駆動され、また、減速走行時における駆動輪DW,DWの回転やエンジン6の動力により回生発電を行って、バッテリの充電(エネルギー回収)を行うことが可能である。さらに、制御装置は、加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ回転数、モータ温度、第1,第2主軸11、12の回転数、カウンタ軸14等の回転数、車速、シフトポジション、SOC(State of Charge)などが入力される一方、エンジン6を制御する信号、モータ7を制御する信号、バッテリにおける発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、第1,第2変速シフター51、52、リバース用シフター53を制御する信号、ロック機構61の接続(ロック)と開放(ニュートラル)を制御する信号などが出力される。
【0042】
このように構成された車両用駆動装置1は、第1及び第2クラッチ41、42の断接を制御するとともにロック機構61、第1変速用シフター51、第2変速用シフター52およびリバース用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1〜第5速走行および後述するリバース走行を行うことができる。
【0043】
第1速走行は、第1クラッチ41を締結しロック機構61を接続することで第1伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第2速走行は、第2クラッチ42を締結して第2変速用シフター52を第2速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第3速走行は、第1クラッチ41を締結して第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第3伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。
【0044】
また、第4速走行は、第2変速用シフター52を第4速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第5速走行は、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第3伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。
【0045】
また、エンジン走行中にロック機構61を接続したり、第1及び第2変速用シフター51、52をプレシフトすることでモータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中であってもエンジン6をモータ7で始動したりバッテリを充電することもできる。さらに、第1及び第2クラッチ41、42を切断してモータ7でEV走行を行うこともできる。EV走行の走行モードとしては、第1及び第2クラッチ41、42を切断して、ロック機構61を接続することで第4伝達経路を介して走行する第1速EVモードと、第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第3速EVモードと、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第5速EVモードとが存在する。
【0046】
また、エアコン用コンプレッサ112は第1主軸11に連結されているため、奇数段ギヤで走行中は第1主軸11が必然的に回転するためエアコン用コンプレッサ112を作動させることができるが、偶数段ギヤで走行中にエアコン用コンプレッサ112を作動させるためには、(i)奇数段ギヤをニュートラルにするとともにモータ7で第1主軸11を回転させるか、(ii)ロック機構61又は第1変速用シフター51をプレシフトして第1主軸11を回転させるか、又は(iii)ロック機構61又は第1変速用シフター51をニュートラルにするとともに第1クラッチ41を締結して第1主軸11をエンジン6で回転させる必要がある。
【0047】
従って、エアコンの作動要求があると、奇数段ギヤで走行中であっても偶数段ギヤで走行中であってもエアコン用クラッチ121を締結してエアコン用コンプレッサ112を作動させることができる。
【0048】
ここで、車両用駆動装置1によるリバースEV走行について説明する。
モータ7でリバースEV走行するためには、第1及び第2クラッチ41、42を開放したまま要求トルクに応じて所望の減速比を得るようにロック機構61を接続、又は第1変速用シフター51を第3速用接続位置又は第5速用接続位置にインギヤすることにより、第1主軸11とカウンタ軸14を連結し、この状態でモータ7を逆転駆動することにより、モータ7の動力が第4伝達経路、即ち、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23又は第5速用ギヤ対25、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される。このとき、第1主軸11は前進走行時とは逆回転することとなり、これにより後進走行がなされる。
【0049】
図3は、ロック機構61を接続した状態のリバースEV走行時の車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。図3に示すように、リングギヤ35がロックされ、モータ7によるサンギヤ32の回転が減速されてキャリア36に伝達され、第3速用ギヤ対23を介して駆動輪DW,DWに伝達される。上述したように、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ対23の減速比で第1速相当の減速比が得られるため、大きな駆動トルクを駆動輪DW,DWに伝達することができる。このとき、第1及び第2クラッチ41、42は開放されているためエンジン6の動力が駆動輪DW,DWに伝達されることはなく、エンジン6も停止している。
【0050】
なお、図3では、ロック機構61を接続した状態のリバースEV走行を例示したが、図3においてロック機構61を開放して第1変速用シフター51を第3速用接続位置又は第5速用接続位置にインギヤしてもよい。これにより、坂道の勾配や走行抵抗に応じてこれらの奇数段ギヤ段を選択することで走行状況に見合った最適なギヤを選択することができる。
【0051】
また、本実施形態の車両用駆動装置においては、リバースEV走行時に予め上限車速又は上限加速度が設定されており、例えば急勾配の下り坂でアクセルを踏み込みすぎた場合、平坦な道でもブレーキペダルとアクセルペダルを踏み違えたとき、乗員のパニック時などにアクセルが踏み込まれた場合など上限車速又は上限加速度を超える場合には、第1クラッチ41又は第2クラッチ42の少なくとも一方を締結することで第1主軸11が停止中のエンジン6のクランク軸6aに連結される。即ち、リバースEV走行中に第1主軸11がエンジン6のクランク軸6aに連結されると、駆動輪DW,DWとエンジン6が連結されることとなる。このとき、リバースEV走行中に停止しているエンジン6のクランク軸6aが空転しイナーシャによる減速力が第1主軸11を介して駆動輪DW,DWに作用することとなる。なお、上限車速又は上限加速度とは、例えばリバースEV走行中の速度又は加速度が高くなり、急制動を行なったときの惰性走行距離が定常車間距離(例えば60m)を超えるときであり、登り坂をリバース走行で下るときなどは上限車速又は上限加速度の設定が低くなる。
【0052】
図4は、図3に示したロック機構61を接続した状態のリバースEV走行中に第1クラッチ41を締結した状態を示している。これにより、駆動輪DW,DWには、停止しているエンジン6のクランク軸6aを回転させる負荷が与えられ、これにより制動力が作用し車両にブレーキがかかることとなり車両を減速させて車両の安全な走行が確保される。
【0053】
図5は、図3に示したロック機構61を接続した状態のリバースEV走行中に第2クラッチ42を締結した状態を示している。上限車速又は上限加速度を超えて第2クラッチ42を締結する場合には、第2クラッチ42を締結する前又はそれと同時にリバース用シフター53をリバース用接続位置でインギヤする必要がある。これにより、リバース用駆動ギヤ28aがリバース軸17と一体回転するように連結され、第1主軸11がリバース用ギヤ段28、第2アイドルギヤ段27B、第2主軸12を介してエンジン6に連結される。従って、リバース軸17が空転せずにエンジン6に連結されるため、駆動輪DW,DWには、停止しているエンジン6のクランク軸6aを回転させる負荷が与えられ、車両にブレーキがかかることとなり安全な走行が確保される。
【0054】
ここでリバースEV走行中にリバース用シフター53がリバース用接続位置でインギヤしていると、前進走行時とは反対方向の第1主軸11の回転がリバース用駆動ギヤ28aからオイルポンプ用従動ギヤ28cに伝達され、さらにエアコン用伝達機構29を介してエアコン用コンプレッサ112に伝達されることとなる。このとき、エアコン用クラッチ121を締結すると、エアコン用コンプレッサ112は前進走行時とは逆転方向に回転することとなる。
【0055】
エアコン用コンプレッサ112が両方向の回転を許容するコンプレッサであれば、リバース走行時においても要求に応じてエアコン用クラッチ121を締結することができる。しかしながら、エアコン用コンプレッサ112が一方向の回転のみを許容するスクロールコンプレッサである場合には、スクロールコンプレッサを逆転させることは故障の原因となる。従って、リバース走行時にはエアコン用コンプレッサ112が逆方向に回転しないようにエアコン用クラッチ121を開放してエアコン用コンプレッサ112を空転させる。スクロールコンプレッサは、低速回転であれば逆方向の回転を許容するものもあるが、リバース走行中はエアコン用クラッチ121を開放することで、スクロールコンプレッサを用いても安全に使用することができる。これにより、比較的安価なスクロールコンプレッサを用いることができ、車両用駆動装置1全体のコストを低減できる。
【0056】
図5では、第2クラッチ42を締結する場合にリバース用シフター53をリバース用接続位置でインギヤさせて接続したが、第2変速用シフター52を第2速用接続位置又は第4速用接続位置でインギヤさせて接続してもよい。これにより、第2中間軸16がカウンタ軸14と連結され、第2中間軸16から第1アイドルギヤ段27A、第2主軸12を介してエンジン6に連結される。従って、第2主軸12が空転せずにエンジン6に連結されるため、これによっても駆動輪DW,DWには、停止しているエンジン6のクランク軸6aを回転させる負荷が与えられ、車両にブレーキがかかることとなり安全な走行が確保される。
【0057】
このようにリバースEV走行時であって車速が上限車速又は上限加速度を超える場合には、第1クラッチ41と第2クラッチ42のどちらを締結しても停止したエンジン6のクランク軸6aを回転させることで、車両にブレーキをかけることができる。また、第1クラッチ41又は第2クラッチ42を締結することによりクラッチ締結による摩擦力も発生し、緊急時にも減速感を得ることができる。従って、例えば下り坂にも関わらず運転者が誤ってアクセルペダルを踏みすぎた場合などであっても、車速が上限車速又は上限加速度を超える場合には自動的にブレーキが作用し車両の安全な走行が確保される。また、第1クラッチ41又は第2クラッチ42を締結しても上限車速又は上限加速度を超えた状態が続いた場合には、第1クラッチ41及び第2クラッチ42の両方を締結することでより大きな制動力を付与することができる。なお、リバースEV走行中であってもエンジン6が停止していない場合には、エンジン6からの出力が駆動輪DW,DWに伝達されないように、第1及び第2クラッチ41、42の締結は行なわれない。
【0058】
以上、説明したように本実施形態によれば、エンジン6と、モータ7と、モータ7に接続されるとともに第1クラッチ41を介して選択的にエンジン6に接続される第1入力軸としての第1主軸11と、第2クラッチ42を介して選択的にエンジン6に接続される第2入力軸としての第2中間軸16と、駆動輪DW,DWに動力を出力するカウンタ軸14と、第1主軸11上に配置されロック機構61又は第1変速用シフター51を介して第1主軸11に選択的に連結される複数のギヤよりなる奇数段ギヤ群と、第2中間軸16上に配置され第2変速用シフター52を介して第2中間軸16に選択的に連結される複数のギヤよりなる偶数段ギヤ群と、カウンタ軸14上に配置され奇数段ギヤと偶数段ギヤとが噛合する複数のギヤ群と、を備えた変速機20と、を備えた車両用駆動装置1であって、第1及び第2クラッチ41、42を開放し、ロック機構61又は第1変速用シフター51を介して奇数段ギヤ群のいずれかのギヤを接続してモータ7を前進走行時とは逆方向に駆動することにより、エンジン6が停止中であっても第1主軸11が前進走行時とは逆回転しリバースEV走行可能である。これにより、状況にあわせて奇数段ギヤ群の複数のギヤから最適なギヤを選択することができる。
さらに、リバースEV走行時に上限車速又は上限加速度を超える場合には、第1及び第2クラッチ41、42の少なくとも一方を締結することにより停止中のエンジン6をブレーキとして利用しながらリバースEV走行することができ、これにより車両の安全な走行を確保することができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、リバースEV走行時に第1及び第2クラッチ41、42のいずれか一方を締結しても上限車速又は上限加速度を超えた状態が続いた場合には、第1及び第2クラッチ41、42の両方を締結することにより、より大きな制動力を確保することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、変速機20には、第1主軸11及び第2中間軸16と平行に配置されたリバース軸17が設けられ、リバース軸17には、リバース用シフター53を介してリバース軸17に選択的に連結されるリバース用駆動ギヤ28aが設けられ、第1主軸11には、リバース用駆動ギヤ28aと噛合し第1主軸11と一体回転するように取り付けられたリバース用従動ギヤ28bが設けられ、リバース軸17は、第2アイドルギヤ列27Bを介して第2中間軸16と連結され、第2クラッチ42を締結してエンジン6をブレーキとして利用する際は、第2変速用シフター52又はリバース用シフター53が接続されているので、第2変速用シフター52を接続してもリバース用シフター53を接続しても第2クラッチ42を締結して制動力を付与することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、第1主軸11には、第1主軸11の前進走行時の回転のみを許容するエアコン用コンプレッサ112としてスクロールコンプレッサがエアコン用クラッチ121を介して連結されている場合にも、リバースEV走行時であってリバース用シフター53が接続されているときには、第1主軸11の逆回転をエアコン用コンプレッサ112に伝達しないようにエアコン用クラッチ121を開放してエアコン用コンプレッサ112を空転させることにより、スクロールコンプレッサを安全に使用することができる。また、エアコン用クラッチを開放することで負荷を低減することができ、トルクが必要なときにも走行トルクを確保することができる。
【0062】
なお、本実施形態の車両用駆動装置1は、モータ7によるリバースEV走行に限らず、エンジン6でリバース走行をすることもできる。エンジン6でリバース走行するときには、リバース用シフター53をリバース用接続位置でインギヤするとともに、所望の減速比を得るようにロック機構61を接続、又は第1変速用シフター51を第3速用接続位置又は第5速用接続位置にインギヤした状態で第2クラッチ42を締結することで、エンジン6の動力が第5伝達経路、即ち、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27B、リバース軸17、リバースギヤ段28、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23又は第5速用ギヤ対25、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。このとき、第1主軸11は、前進走行時とは逆回転することとなり、これにより後進走行がなされる。この状態でモータ7を逆転駆動することによりモータ7でアシストしてもよい。
【0063】
なお、図3〜図5においては、ロック機構61又は第1変速用シフター51を接続して奇数段ギヤを介して走行する場合を例示したが、第2変速用シフター52を接続して偶数段ギヤを介して走行する場合についても参考のため記載する。
偶数段ギヤ走行として第2速走行を例に説明すると、図6に示すように、第2変速用シフター52を第2速用接続位置でインギヤして第2速用駆動ギヤ22aを第2中間軸16と一体回転可能に連結するとともに第2クラッチ42を締結することで、第2伝達経路を介してエンジン6の動力が駆動輪DW,DWに伝達される。なお、この状態で、ロック機構61を接続したり又は第1変速用シフター51を第3速用接続位置又は第5速用接続位置でインギヤすることにより、カウンタ軸14と第1主軸11が動力伝達可能に連結され、モータ7でアシスト・回生を行うことができる。
【0064】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、車両用駆動装置1は、ツインクラッチ式変速機のモータ7が接続された入力軸である第1主軸11に奇数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に偶数段ギヤを配置したが、これに限定されず、モータ7が接続された入力軸である第1主軸11に偶数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に奇数段ギヤを配置してもよい。
【0065】
また、奇数段の変速段として第1速用駆動ギヤとしての遊星歯車機構30と、第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに加えて、第7、9・・速用駆動ギヤを、偶数段の変速段として第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに加えて、第6、8・・速用駆動ギヤを設けてもよい。図7は、車両用駆動装置1の変形例として、第1主軸11にさらに第7速用駆動ギヤ97aが設けられ、第2中間軸16にさらに第6速用駆動ギヤ96aが設けられ、カウンタ軸14に第7速用駆動ギヤ97aと噛合して第7速用ギヤ対97を構成するとともに、第6速用駆動ギヤ96aと噛合して第6速用ギヤ対96を構成する第3共用従動ギヤ96bがさらに設けられた車両用駆動装置を示している。なお、図7中、符号51Aは第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第7速用駆動ギヤ97aとを連結又は開放する変速用シフターであり、符号51Bは、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する変速用シフター51Bであり、符号52Aは、第2速用駆動ギヤ22a又は第6速用駆動ギヤ96aとを連結又は開放する変速用シフター52Aであり、符号52Bは、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する変速用シフターである。この車両用駆動装置によれば、変速用シフター52Aが第6速用接続位置でインギヤした状態で第2クラッチ42を接続することで第6速走行を行うことができ、また、変速用シフター51Aが第7速用接続位置でインギヤした状態で第1クラッチ41を接続することで第7速走行を行うことができ、それぞれモータ7でアシスト又は充電することができる。また、変速用シフター51Aを第7速用接続位置でインギヤさせた状態で第2クラッチ42を締結することで、第7速用ギヤ対97を経由してリバース走行することもできる。
【0066】
また、第1共用従動ギヤ23bと第2共用従動ギヤ24bの代わりにそれぞれのギヤとそれぞれ噛合する複数の従動ギヤを設けてもよい。また、第1速用駆動ギヤとして遊星歯車機構30を例示したが、これに限らず第3速用駆動ギヤ23aなどと同様に第1速用駆動ギヤを設けてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 車両用駆動装置
6 エンジン(内燃機関)
7 モータ(電動機)
11 第1主軸(第1入力軸)
14 カウンタ軸(出力軸)
16 第2中間軸(第2入力軸)
20 変速機(変速機構)
22a 第2速用駆動ギヤ
23a 第3速用駆動ギヤ
23b 第1共用従動ギヤ
24a 第4速用駆動ギヤ
24b 第2共用従動ギヤ
25a 第5速用駆動ギヤ
27A 第1アイドルギヤ段
27B 第2アイドルギヤ段
28 リバース用ギヤ段
28a リバース用駆動ギヤ
28b リバース用従動ギヤ
30 遊星歯車機構
41 第1クラッチ(第1断接手段)
42 第2クラッチ(第2断接手段)
51 第1変速用シフター(第1同期装置)
52 第2変速用シフター(第2同期装置)
53 リバース用シフター(第3同期装置)
61 ロック機構(第1同期装置)
112 エアコン用コンプレッサ
121 エアコン用クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
電動機と、
前記電動機に接続されるとともに第1断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸と、第2断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸と、被駆動部に動力を出力する出力軸と、前記第1入力軸上に配置され第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、前記出力軸上に配置され前記第1ギヤ群のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備えた変速機構と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記第1及び第2断接手段を開放し、前記第1同期装置を介して前記第1ギヤ群のいずれかのギヤを接続して前記電動機を前進走行時とは逆方向に駆動することにより、前記内燃機関が停止中であっても前記第1入力軸が前進走行時とは逆回転しリバースEV走行可能であり、
リバースEV走行時に上限車速又は上限加速度を超える場合には、前記第1及び第2断接手段の少なくとも一方を締結することにより停止中の前記内燃機関をブレーキとして利用しながらリバースEV走行することを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
リバースEV走行時に前記第1及び第2断接手段のいずれか一方を締結しても前記上限車速又は前記上限加速度を超えた状態が続いた場合には、前記第1及び第2断接手段の両方を締結することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記変速機構には、前記第1及び第2入力軸と平行に配置されたリバース軸が設けられ、
前記リバース軸には、第3同期装置を介して前記リバース軸に選択的に連結されるリバース駆動ギヤが設けられ、
前記第1入力軸には、前記リバース駆動ギヤと噛合し前記第1入力軸と一体回転するように取り付けられたリバース従動ギヤが設けられ、
前記リバース軸は、アイドルギヤ段を介して前記第2入力軸と連結され、
前記第2断接手段を締結して停止中の前記内燃機関をブレーキとして利用する際は、前記第2同期装置又は前記第3同期装置が接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1入力軸には、前記第1入力軸の前進走行時の回転のみを許容するエアコン用コンプレッサがエアコン用クラッチを介して連結され、
リバースEV走行時であって前記第3同期装置が接続されているときには、前記第1入力軸の逆転を前記エアコン用コンプレッサに伝達しないように前記エアコン用クラッチを開放して前記エアコン用コンプレッサを空転させることを特徴とする請求項3に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−213167(P2011−213167A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81013(P2010−81013)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】