説明

車両用駆動装置

【課題】比較的簡易な構造で安定的に潤滑液を供給できる車両用駆動装置を実現する。
【解決手段】トルク伝達機構30は、回転電機10の出力トルクが伝達される回転電機出力ギヤ13に噛み合う第一ギヤ31と、差動入力ギヤ21に噛み合う第二ギヤ32と、第一ギヤ31と第二ギヤ32とを連結する連結軸33と、を有し、第一ギヤ31は、回転電機10の軸方向Lにおける当該回転電機10と差動入力ギヤ21との間に配置されるとともに、当該第一ギヤ31の一部が潤滑液貯留部61内に位置するように配置され、第一ギヤ31により掻き上げられた潤滑液が、潤滑液供給部63を介して回転電機10に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と、差動入力ギヤを有し当該差動入力ギヤに伝達されるトルクを複数の車輪に分配する差動歯車機構と、回転電機の出力トルクを差動入力ギヤに伝達するトルク伝達機構と、回転電機、差動歯車機構、及びトルク伝達機構を収容するとともに潤滑液を貯留する潤滑液貯留部が形成されたケースと、を備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような車両用駆動装置の従来技術として、例えば下記の特許文献1に記載された技術がある。以下、この背景技術の説明では、特許文献1の符号又は名称を適宜()内に記載して引用する。特許文献1に記載の構成では、差動入力ギヤ(ファイナルドリブンギヤ53)により掻き上げられた潤滑液を回転電機(電動モータ20)に供給する構成を備えることで、作動中に発熱する回転電機の冷却を実現している。
【0003】
ところで、特許文献1の構成では、当該文献の図1に示されているように、軸方向における掻き上げギヤとしての差動入力ギヤと回転電機との間に、当該差動入力ギヤとは別のギヤ(大径ギヤ42)が配置されている。そのため、差動入力ギヤにより掻き上げた潤滑液を、軸方向における当該別のギヤに対して反対側に供給するための構成が必要となる。このような構成として、特許文献1には、軸部材(右側アクスルシャフトAXR)の外周面を経由して潤滑液を供給する構成が示されている。しかしながら、このような構成では、当該軸部材の回転時に潤滑液に対して遠心力が作用するため、潤滑液を安定的に回転電機に対して供給することが困難となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−278319号公報(段落0024、図1、図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、比較的簡易な構造で安定的に潤滑液を供給できる車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回転電機と、差動入力ギヤを有し当該差動入力ギヤに伝達されるトルクを複数の車輪に分配する差動歯車機構と、前記回転電機の出力トルクを前記差動入力ギヤに伝達するトルク伝達機構と、前記回転電機、前記差動歯車機構、及び前記トルク伝達機構を収容するとともに潤滑液を貯留する潤滑液貯留部が形成されたケースと、を備えた車両用駆動装置の特徴構成は、前記トルク伝達機構は、前記回転電機の出力トルクが伝達される回転電機出力ギヤに噛み合う第一ギヤと、前記差動入力ギヤに噛み合う第二ギヤと、前記第一ギヤと前記第二ギヤとを連結する連結軸と、を有し、前記第一ギヤは、前記回転電機の軸方向における当該回転電機と前記差動入力ギヤとの間に配置されるとともに、当該第一ギヤの一部が前記潤滑液貯留部内に位置するように配置され、前記第一ギヤにより掻き上げられた前記潤滑液貯留部内の潤滑液が、潤滑液供給部を介して前記回転電機に供給される点にある。
【0007】
本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0008】
上記の特徴構成によれば、第一ギヤの一部が潤滑液貯留部内に位置するため、当該第一ギヤにより潤滑液貯留部内の潤滑液を掻き上げることができる。そして、第一ギヤにより掻き上げられた潤滑液貯留部内の潤滑液は、潤滑液供給部を介して回転電機に供給されるため、第一ギヤにより掻き上げられた潤滑液を利用して、回転電機を冷却することが可能となる。この際、第一ギヤは、回転電機の軸方向における当該回転電機と差動入力ギヤとの間に配置されるため、差動入力ギヤにより潤滑液貯留部内の潤滑液を掻き上げる場合に比べ、潤滑液の掻き上げ部位と掻き上げられた潤滑液の供給先(回転電機)との間の距離を短くすることが容易となる。これにより、潤滑液供給部の構成を簡易な構成としつつ、安定的に潤滑液を供給できる車両用駆動装置を実現することができる。
【0009】
ここで、前記回転電機と、前記差動入力ギヤと、前記差動歯車機構と前記車輪との間でトルクの伝達を行う出力部材とが同軸状に配置され、前記連結軸の回転軸心が、前記回転電機の回転軸心より下側に配置されていると好適である。
【0010】
この構成によれば、潤滑液貯留部を上方に開口する槽状部とした場合に、連結軸に配置される第一ギヤを小径なギヤとして、装置全体の径方向における小型化を図ることができる。
【0011】
また、前記第一ギヤは、車両の前進走行時に歯先が下降する周方向領域において、前記回転電機出力ギヤに噛み合うように配置されていると好適である。
【0012】
この構成によれば、第一ギヤにおける車両の前進走行時に潤滑液を掻き上げる機能を発揮しない部分が、回転電機出力ギヤに噛み合うように配置することができる。すなわち、回転電機出力ギヤを、車両の前進走行時に第一ギヤによる潤滑液の掻き上げの妨げとならない位置に配置することができ、後進走行時に比べて走行の頻度及び回転電機の冷却の必要性が高い前進走行時において、第一ギヤによる潤滑液の掻き上げを効率良く行うことが可能となる。
【0013】
また、前記潤滑液供給部は、前記第一ギヤにより掻き上げられた潤滑液を受け止める潤滑液受け止め部を備え、前記潤滑液受け止め部は、前記連結軸の回転軸心より上側に配置されるとともに、当該潤滑液受け止め部の内部に潤滑液を導入するための開口部を備えると好適である。
【0014】
この構成によれば、第一ギヤにより掻き上げられた潤滑液を、開口部を介して潤滑液受け止め部の内部に効率良く供給することが可能となり、第一ギヤにより掻き上げられた潤滑液を効率良く回転電機に供給することが可能となる。
【0015】
また、上記のように、前記回転電機と、前記差動入力ギヤと、前記差動歯車機構と前記車輪との間でトルクの伝達を行う出力部材とが同軸状に配置され、前記連結軸の回転軸心が、前記回転電機の回転軸心より下側に配置されている構成において、前記回転電機、前記差動歯車機構、及び前記トルク伝達機構が、車両のフロア下に配置されていると好適である。
【0016】
回転電機と、差動入力ギヤと、出力部材とが同軸状に配置され、連結軸の回転軸心が、回転電機の回転軸心より下側に配置される構成では、上記のように、装置全体の径方向における小型化を図ることができる。そのため、この構成によれば、車両のフロアを構成する部材の形状に大きな影響を与えることなく、車両の最低地上高が適切に確保される形態で車両用駆動装置を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置を軸方向に沿って切断した断面図である。
【図2】図1におけるII−II断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る車両用駆動装置の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係る車両用駆動装置(以下、単に「駆動装置」という。)は、図1に示すように、ケース90内に回転電機10、差動歯車機構20、及びカウンタギヤ機構30を備えている。そして、駆動装置1を搭載した車両100(図3参照)は、カウンタギヤ機構30を介して差動歯車機構20に伝達される回転電機10の出力トルクにより、走行するための駆動力を得ることが可能に構成されている。具体的には、本実施形態では、図3に示すように、駆動装置1は、車両100の後ろ側の車輪50(後輪)を駆動するための駆動装置とされている。以下、本実施形態に係る駆動装置1の構成について詳細に説明する。
【0019】
以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向L」は回転電機10の軸心である第一軸A1(図1、図2参照)を基準として定義している。また、「軸第一方向L1」は、本実施形態では、軸方向Lに沿って回転電機出力ギヤ13からロータコア11側へ向かう方向(図1における右方向)を表し、「軸第二方向L2」は、軸第一方向L1とは反対方向(図1における左方向)を表す。なお、各部材についての方向は、当該各部材が駆動装置1に組み付けられた状態での方向を表す。ここで、各部材についての方向や、2つの部材間の配置方向の関係(例えば、「平行」や「直交」等)は、製造上の誤差に応じたずれを含む概念として用いている。このような製造上の誤差は、例えば、寸法や取付位置の公差の範囲内のずれにより生じる。
【0020】
また、以下の説明では、特に断らない限り、「上」及び「下」は、駆動装置1の車両100への搭載状態での鉛直方向V(図2参照)を基準として定義しており、「上」は図2における上方を表し、「下」は図2における下方を表す。同様に、「前」及び「後」は、駆動装置1の車両100への搭載状態での車両100の前後方向H(図2、図3参照)を基準として定義しており、「前」は図2及び図3における左方(車両前方H1)を表し、「後」は図3における右方(車両後方H2)を表す。そして、本実施形態では、駆動装置1は、軸方向Lが車両100の左右方向に平行となるように、車両100に搭載される。
【0021】
1.駆動装置の全体構成
まず、本実施形態に係る駆動装置1の全体構成について説明する。図1に示すように、駆動装置1は、回転電機10と、差動歯車機構20と、カウンタギヤ機構30と、ケース90と、を備えている。回転電機10は、車輪50(図3参照)の駆動力源として備えられている。回転電機10は、ケース90に固定されたステータ14と、ステータ14の径方向内側に回転自在に支持されたロータコア(ロータ本体部)11と、を備えている。ロータコア11は、ロータ軸12に固定され、当該ロータ軸12を介して、ロータコア11と、回転電機10のトルクを出力するための回転電機出力ギヤ13とが駆動連結されている。
【0022】
なお、本明細書において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦係合要素や噛み合い式係合要素等が含まれていてもよい。
【0023】
本実施形態では、回転電機出力ギヤ13は、ロータ軸12と同軸状に、且つ、ロータ軸12と一体回転するように、ロータコア11に対して軸第二方向L2側に配置されている。具体的には、回転電機出力ギヤ13は、スプライン係合によりロータ軸12に対して相対回転不能に固定されている。これにより、本実施形態では、ロータコア11は、ロータ軸12を介して、回転電機出力ギヤ13と一体回転するように駆動連結されている。
【0024】
回転電機10(より具体的には回転電機10のロータコア11)に対して軸第一方向L1側には、ロータ軸12の径方向外側に配置されて当該ロータ軸12を支持する第一軸受71が備えられ、回転電機10(より具体的には回転電機10のロータコア11)に対して軸第二方向L2側には、ロータ軸12の径方向外側に配置されて当該ロータ軸12を支持する第三軸受73が備えられている。図1に示すように、第一軸受71は、ケース90の端壁92に配置され、第三軸受73は、ケース90の隔壁91に配置されている。
【0025】
本実施形態では、ロータ軸12は、径方向の内側が中空の円筒状に形成されており、当該中空の部分を利用して軸内流路67が形成されている。また、ロータ軸12には、軸内流路67と当該ロータ軸12の外周面とを径方向に連通するための貫通流路68が形成されている。そして、後述するように、駆動装置1には、潤滑液を回転電機10に供給するための潤滑液供給部63が備えられており、潤滑液供給部63により供給された潤滑液が、軸内流路67及び貫通流路68を介して、ステータ14のコイルエンド部15に供給され、当該コイルエンド部15の冷却が行われる。
【0026】
差動歯車機構20は、差動入力ギヤ21を有し、当該差動入力ギヤ21に伝達されるトルク(本例では回転電機10の出力トルク)を複数の車輪50(図3参照)に分配する機構(出力用差動歯車機構)である。本実施形態では、差動歯車機構20は、互いに噛み合う複数の傘歯車を用いた差動歯車機構により構成されている。そして、差動歯車機構20は、軸方向Lの両側に備えられた出力軸40を介して、左右の車輪50のそれぞれに駆動連結されており、差動入力ギヤ21に伝達されたトルクは、差動歯車機構20及び出力軸40を介して左右の車輪50(本例では後輪)に分配される。本実施形態では、差動歯車機構20は、回転電機10に対して軸第二方向L2側に配置されている。本実施形態では、出力軸40が、本発明における「出力部材」に相当する。
【0027】
第一軸受71に対して軸第一方向L1側には、出力軸40の径方向外側に配置されて当該出力軸40を支持する第二軸受72が備えられ、第三軸受73に対して軸第二方向L2側には、出力軸40の径方向外側に配置されて当該出力軸40を支持する第四軸受74が備えられている。なお、本例では、出力軸40は、差動歯車機構20を介して間接的に第四軸受74に支持されている。図1に示すように、第二軸受72は、ケース90の端壁92に配置され、第四軸受74は、ケース90の隔壁91(より正確には、隔壁91に固定された支持部材93)に配置されている。
【0028】
詳細は省略するが、出力軸40における差動歯車機構20との連結部とは反対側には、車輪50に駆動力を伝達するための回転軸51(ドライブシャフト等、図3参照)が連結されており、出力軸40と車輪50とは同方向に回転する。また、図1に示すように、出力軸40の大部分(差動歯車機構20に連結される側の部分)は、ケース90に収容されている。
【0029】
カウンタギヤ機構30は、回転電機10の出力トルクを差動入力ギヤ21に伝達する機構である。具体的には、カウンタギヤ機構30は、回転電機10の出力トルクが伝達される回転電機出力ギヤ13に噛み合う第一ギヤ31と、第一ギヤ31に対して軸第二方向L2側に配置されるとともに差動入力ギヤ21に噛み合う第二ギヤ32と、第一ギヤ31と第二ギヤ32とを連結するカウンタ軸33と、を有している。本実施形態では、第二ギヤ32は、カウンタ軸33の外周面に一体的に形成されており、第一ギヤ31は、スプライン係合によりカウンタ軸33に対して相対回転不能に固定されている。
【0030】
本実施形態では、カウンタギヤ機構30は、回転電機10の軸第二方向L2側に配置されており、更に、回転電機10の径方向視で、差動歯車機構20と重複する部分を有するように配置されている。そして、第一ギヤ31が、軸方向Lにおける回転電機10(より具体的には回転電機10のロータコア11)と差動入力ギヤ21との間に配置されている。本実施形態では、カウンタギヤ機構30及びカウンタ軸33が、それぞれ、本発明における「トルク伝達機構」及び「連結軸」に相当する。なお、本明細書において、2つの部材の配置に関して所定方向視で「重複」とは、当該所定方向を視線方向として当該視線方向に直交する各方向に視点を移動させた場合に、2つの部材が重なって見える視点が少なくとも一部の領域に存在することを指す。
【0031】
上記のような構成を備えることで、車両100の走行時には、車輪50に対して回転電機10の回転方向と同方向のトルクが伝達される。そして、第一ギヤ31は、カウンタギヤ機構30及び差動歯車機構20を介して出力軸40に常時駆動連結されているため、第一ギヤ31は、出力軸40の回転(すなわち、車両の走行)に伴い回転する。後述するように、第一ギヤ31は、回転時にケース90内に貯留された潤滑液(オイル)を掻き上げるように構成されており、第一ギヤ31により掻き上げられた潤滑液が、潤滑液供給部63を介して回転電機10に供給される。
【0032】
上述したように、本実施形態では、駆動装置1は車両100の後輪を駆動するように構成されている。そして、本例では、図3に示すように、車両100には前輪を駆動するための第二の駆動装置(第二駆動装置2)が備えられている。第二駆動装置2として、例えば、本発明に係る駆動装置を適用したり、或いは、内燃機関を車輪の駆動力源として備える駆動装置や、内燃機関及び回転電機の双方を車輪の駆動力源として備える駆動装置を採用することができる。ここで、内燃機関は、燃料の燃焼により動力を出力する原動機であり、例えば、ガソリンエンジン等の火花点火機関やディーゼルエンジン等の圧縮着火機関等を用いることができる。なお、第二の駆動装置(第二駆動装置2)を備えない構成とすることや、駆動装置1を車両の前方に配置して、当該駆動装置1により車両100の前輪を駆動する構成とすることも可能である。
【0033】
ケース90は、回転電機10、差動歯車機構20、及びカウンタギヤ機構30を収容するように構成されている。本例では、更に、出力軸40の一部及びロータ軸12も、ケース90に収容されている。具体的には、ケース90は、当該ケース90の内部に形成されるケース内空間Tの軸第一方向L1側を区画する端壁92を備えるとともに、当該ケース内空間Tを軸方向Lに区画する隔壁91を備えている。この隔壁91により、ケース内空間Tが、軸第二方向L2側の収容空間である第一収容室T1と、軸第一方向L1側の収容空間である第二収容室T2とに区画されている。そして、差動歯車機構20及びカウンタギヤ機構30の双方は、第一収容室T1に収容され、回転電機10は、第二収容室T2に収容されている。
【0034】
本実施形態では、回転電機10及び差動歯車機構20は、ケース90内において同軸状に配置されている。このような配置構成を実現すべく、本実施形態では、ロータ軸12が中空の円筒状に形成され、出力軸40がロータ軸12を貫通して配置されている。また、差動入力ギヤ21は、差動歯車機構20と同軸状に配置されている。よって、本例では、回転電機10と、差動入力ギヤ21と、出力軸40とが同軸状に配置されている。
【0035】
また、本実施形態では、カウンタギヤ機構30は、ケース90内において、回転電機10及び差動歯車機構20が配置される軸(第一軸A1)とは異なる軸(第二軸A2)上に配置されている。本例では、第一軸A1及び第二軸A2は、互いに平行に配置されているとともに、第二軸A2が、第一軸A1よりも下方(図2参照)に配置されている。これにより、本実施形態では、カウンタ軸33の回転軸心が、回転電機10の回転軸心より下側に配置される。なお、本実施形態では、図2に示すように、カウンタ軸33の外周面の最上部が、出力軸40の外周面の最下部と同じ高さ或いはほぼ同じ高さに位置するように、第二軸A2の第一軸A1に対する上下方向の位置が設定されている。
【0036】
そして、本実施形態では、図3に模式的に示すように、回転電機10、差動歯車機構20、及びカウンタギヤ機構30を収容するケース90の全体が、車両100のフロア101下に配置されている。すなわち、駆動装置1は、上方から見てケース90の全体がフロア101と重複するとともに、ケース90がフロア101より下側に位置するように、車両100に搭載されている。
【0037】
2.潤滑液の供給構成
次に、本実施形態に係る駆動装置1の要部である潤滑液の供給構成について、図1及び図2を用いて説明する。図1に示すように、ケース90には、潤滑液を貯留する第一潤滑液貯留部61が形成されている。具体的には、第一潤滑液貯留部61は、本実施形態では、第一収容室T1の下部に形成されており、上方に開口する槽状部とされている。そして、第一ギヤ31は、当該第一ギヤ31の一部が、第一潤滑液貯留部61内に位置するように配置されている。これにより、車両100の走行時に、第一ギヤ31により第一潤滑液貯留部61に貯留された潤滑液を掻き上げることができる。本実施形態では、第一潤滑液貯留部61が、本発明における「潤滑液貯留部」に相当する。
【0038】
なお、第一ギヤ31による潤滑液の掻き上げを適切に行うべく、回転電機10が使用される回転速度域の全て或いは大部分において、第一ギヤ31の最下部が第一潤滑液貯留部61内の潤滑液の液面高さ(液面レベル)よりも下側に位置するように、ケース90の内部に収容される潤滑液の量を設定すると好適である。
【0039】
第一ギヤ31により掻き上げられた第一潤滑液貯留部61内の潤滑液は、潤滑液供給部63を介して回転電機10に供給される。なお、図1においては、潤滑液の流れを概念的に実線及び破線の矢印で表している。ここでは、掻き上げによる流れを破線で表し、潤滑液供給部63による流れを実線で表している。図2においては、掻き上げによる潤滑液の流れを概念的に破線の矢印で表している。本実施形態では、潤滑液供給部63は、潤滑液受け止め部64と、潤滑液流路65,66と、第二潤滑液貯留部62と、を備えている。
【0040】
潤滑液受け止め部64は、第一ギヤ31により掻き上げられた潤滑液を受け止める機能を有している。図2に示すように、第一ギヤ31により掻き上げられた潤滑液は、ケース90の内面を伝う等して、潤滑液受け止め部64に供給される。本実施形態では、潤滑液受け止め部64は、潤滑液を受け止めて貯留するオイルキャッチタンクとして構成されている。
【0041】
潤滑液受け止め部64は、図2に示すように、カウンタ軸33の回転軸心である第二軸A2より上側(第二軸A2を通る水平面よりも上側)に配置されている。なお、重力や表面張力を利用した簡素な構成で潤滑液を回転電機10に供給することを可能とすべく、本例では、潤滑液受け止め部64が、第一収容室T1の上部に配置されているとともに(図2参照)、第一ギヤ31と同じ軸方向L位置に配置されている(図1参照)。
【0042】
具体的には、潤滑液受け止め部64は、潤滑液が貯留される空間である潤滑液貯留空間の下方を覆う底部64bと、側方の周囲を覆う側壁部64cと、潤滑液貯留空間から見て第一収容室T1に開口する開口部64aとを有する。また、潤滑液貯留空間の上方は、ケース90の周壁により覆われている。これにより、第一ギヤ31により掻き上げられ、ケースの内面を伝って流れ落ちてくる潤滑液が、開口部64aを介して潤滑液受け止め部64の内部(潤滑液貯留空間)に供給される。
【0043】
潤滑液流路65,66は、潤滑液受け止め部64にて受け止められた潤滑液を、回転電機10に流通させるための流路である。本実施形態では、潤滑液流路65,66は、ケース90の壁部(壁内)に形成された孔部により構成されている。また、本実施形態では、潤滑液流路65,66は、軸方向Lに延びる第一潤滑液流路66と、回転電機10の径方向に延びる第二潤滑液流路65とにより構成されている。
【0044】
具体的には、第一潤滑液流路66は、一端が、潤滑液受け止め部64の側壁部64cに形成された孔部を介して潤滑液受け止め部64内に開口するとともに、他端が、第二潤滑液流路65に連通するように形成されている。第一潤滑液流路66は、周方向連続空間S(後述する)より上方に位置している。なお、第一潤滑液流路66は、図1に示す例のように延在方向が水平方向に平行となるように形成することも、潤滑液受け止め部64から第二潤滑液流路65側へ向かう(軸第一方向L1側に向かう)延在方向が、水平方向に対して下方に傾斜するように形成することもできる。
【0045】
第二潤滑液流路65は、第一潤滑液流路66との連通部(径方向外側の端部)とは反対側の端部(径方向内側の端部)に、周方向連続空間Sに開口する開口部65aを有している。ここで、周方向連続空間Sは、軸方向Lにおける第一軸受71と第二軸受72との間に形成されたロータ軸12の周方向に連続する空間である。第一潤滑液流路66と第二潤滑液流路65との連通部は、開口部65aより上方に位置している。
【0046】
そして、周方向連続空間Sの下部に、第二潤滑液貯留部62が形成されている。ここで、第二潤滑液流路65の上記開口部65aは、周方向連続空間Sにおける第二潤滑液貯留部62より上側(本例では、周方向連続空間Sにおける最上部)に配置されている。これにより、開口部65aから重力を利用して潤滑液を滴下させるという簡素な構成で、第二潤滑液流路65から第二潤滑液貯留部62に対して潤滑液を適切に供給することが可能となっている。
【0047】
このように、潤滑液受け止め部64にて受け止められた潤滑液は、重力の作用を受けて潤滑液流路65,66を下流側に向かって流通して第二潤滑液貯留部62に供給され、当該第二潤滑液貯留部62に貯留される。そして、図1に示すように、第二潤滑液貯留部62は、上部がロータ軸12の内部に形成された軸内流路67と軸方向Lに連通している。よって、第二潤滑液貯留部62内の液面高さが、軸内流路67との連通部の最下部より高くなると、当該液面高さに応じた量の潤滑液が軸内流路67に供給される。軸内流路67に供給された潤滑液は、ロータ軸12の回転に伴う遠心力により貫通流路68を介してロータ軸12の径方向外側に噴射され、ステータ14のコイルエンド部15に吹きかけられた潤滑液によりコイルエンド部15の冷却が行われる。
【0048】
ところで、回転電機10の冷却は、後進走行に比べて走行の頻度が高く、且つ、回転電機10に要求される出力トルクが大きくなる前進走行時において、効率良く実行できることが望ましい。すなわち、車両100の前進走行時に、第一ギヤ31により掻き上げられた潤滑液を回転電機10に対して効率良く供給できることが望まれる。本実施形態では、以下に説明する構成を備えることで、車両100の前進走行時における回転電機10に対する潤滑液の供給効率を高めることが可能となっている。
【0049】
上記のように、本実施形態では、車両100の走行時に、車輪50に対して回転電機10の回転方向(回転電機出力ギヤ13の回転方向と同じ)と同方向のトルクが伝達される。よって、車両100の前進走行時には、回転電機出力ギヤ13及び当該回転電機出力ギヤ13に噛み合う第一ギヤ31のそれぞれは、図2において実線の矢印で示す方向に回転する。このような前進走行時における第一ギヤ31の回転の向きに鑑み、本実施形態では、第一ギヤ31の回転軸心(第二軸A2)を、回転電機出力ギヤ13の回転軸心(第一軸A1)に対して車両前方H1側に配置する構成を採用している。
【0050】
これにより、第一ギヤ31が、車両100の前進走行時に歯先が下降する周方向領域において、回転電機出力ギヤ13に噛み合うことになる。すなわち、回転電機出力ギヤ13が、車両100の前進走行時における第一ギヤ31による潤滑液の掻き上げの妨げとならない位置に配置されることになり、前進走行時における第一ギヤ31による潤滑液の掻き上げを効率良く行うことが可能となっている。なお、第一ギヤ31における車両100の前進走行時に歯先が下降する周方向領域とは、接線方向の速度(接線上を回転方向側に向かうベクトル)が下向きの成分を有する周方向位置を全て含む領域である。ここで、「接線」とは、第一ギヤ31のピッチ円の接線である。なお、本例では、第二軸A2が第一軸A1よりも下方に配置されているため、第一ギヤ31における接線方向の速度が下向きの成分及び車両後方H2の成分の双方を有する周方向位置において、回転電機出力ギヤ13が第一ギヤ31に噛み合っている。
【0051】
更に、本実施形態では、図2に示すように、潤滑液受け止め部64の開口部64aを、第一ギヤ31の径方向外側において、車両100の前進走行時の第一ギヤ31の回転方向に対向する方向に開口するように形成している。すなわち、開口部64aは、車両100の前進走行時の第一ギヤ31の回転方向とは逆方向、言い換えれば、第二軸A2を基準とする周方向において、前進走行時における第一ギヤ31の回転方向とは反対側に向かう方向に開口している。これにより、車両100の前進走行時において、第一ギヤ31により掻き上げられた潤滑液を潤滑液受け止め部64にて効率良く受け止めて、回転電機10に供給することが可能となっている。なお、本明細書において「ある方向に開口」とは、当該方向を基準方向として、開口部の開口方向が前記基準方向に平行な形状に限らず、開口方向が前記基準方向に交差する方向であっても、その交差角度が所定範囲内(例えば45°未満や60°未満等)である形状も含む概念として用いている。
【0052】
3.その他の実施形態
最後に、本発明に係るその他の実施形態を説明する。なお、以下の各々の実施形態で開示される特徴は、その実施形態でのみ利用できるものではなく、矛盾が生じない限り、別の実施形態にも適用可能である。
【0053】
(1)上記の実施形態では、回転電機10と、差動入力ギヤ21と、出力軸40とが同軸状に配置されるとともに、カウンタ軸33の回転軸心が回転電機10の回転軸心より下側に配置された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、カウンタ軸33の回転軸心が回転電機10の回転軸心と同じ上下方向位置に配置された構成や、カウンタ軸33の回転軸心が回転電機10の回転軸心より上側に配置された構成とすることもできる。また、回転電機10、差動入力ギヤ21、及び出力軸40のそれぞれが互いに別軸上に配置された構成や、回転電機10、差動入力ギヤ21、及び出力軸40の内のいずれか2つ(例えば、差動入力ギヤ21及び出力軸40)が、残る1つとは異なる軸上において同軸状に配置された構成とすることもできる。
【0054】
(2)上記の実施形態では、潤滑液受け止め部64の開口部64aが、第一ギヤ31の径方向外側において、車両100の前進走行時の第一ギヤ31の回転方向に対向する方向に開口している構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、掻き上げた潤滑液が入ってくるのであれば、潤滑液受け止め部64の開口部64aが、車両100の前進走行時の第一ギヤ31の回転方向に対向しない方向に開口している構成とすることもできる。
【0055】
(3)上記の実施形態では、第一ギヤ31が、車両100の前進走行時に歯先が下降する周方向領域において、回転電機出力ギヤ13に噛み合うように配置されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一ギヤ31が、車両100の前進走行時に歯先が下降も上昇もしない周方向位置や、車両100の前進走行時に歯先が上昇する周方向領域において、回転電機出力ギヤ13に噛み合うように配置された構成とすることも可能である。
【0056】
(4)上記の実施形態では、潤滑液流路65,66が、ケース90の壁部に形成された孔部である構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、潤滑液流路65,66の少なくとも一部を、ケース90の壁面に形成された溝等、或いはケース90内やケース90外に配置された管状部材や樋状部材等により形成することも可能である。
【0057】
(5)上記の実施形態では、回転電機10、差動歯車機構20、及びカウンタギヤ機構30を収容するケース90の全体が、車両100のフロア101下に配置された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、ケース90の一部のみがフロア101下に配置された構成とすることもできる。この場合、回転電機10、差動歯車機構20、及びカウンタギヤ機構30の一部のみがフロア下に配置された構成とすることができる。また、ケース90がフロア101下とは異なる位置(例えば、フロア101の上側や、フロア101の前方)に配置された構成とすることもできる。
【0058】
(6)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載された構成及びこれと均等な構成を備えている限り、特許請求の範囲に記載されていない構成の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、回転電機と、差動入力ギヤを有し当該差動入力ギヤに伝達されるトルクを複数の車輪に分配する差動歯車機構と、回転電機の出力トルクを差動入力ギヤに伝達するトルク伝達機構と、回転電機、差動歯車機構、及びトルク伝達機構を収容するとともに潤滑液を貯留する潤滑液貯留部が形成されたケースと、を備えた車両用駆動装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:駆動装置(車両用駆動装置)
10:回転電機
13:回転電機出力ギヤ
20:差動歯車機構
21:差動入力ギヤ
30:カウンタギヤ機構(トルク伝達機構)
31:第一ギヤ
32:第二ギヤ
33:カウンタ軸(連結軸)
40:出力軸(出力部材)
50:車輪
61:第一潤滑液貯留部(潤滑液貯留部)
63:潤滑液供給部
64:潤滑液受け止め部
64a:開口部
90:ケース
100:車両
101:フロア
L:軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、差動入力ギヤを有し当該差動入力ギヤに伝達されるトルクを複数の車輪に分配する差動歯車機構と、前記回転電機の出力トルクを前記差動入力ギヤに伝達するトルク伝達機構と、前記回転電機、前記差動歯車機構、及び前記トルク伝達機構を収容するとともに潤滑液を貯留する潤滑液貯留部が形成されたケースと、を備えた車両用駆動装置であって、
前記トルク伝達機構は、前記回転電機の出力トルクが伝達される回転電機出力ギヤに噛み合う第一ギヤと、前記差動入力ギヤに噛み合う第二ギヤと、前記第一ギヤと前記第二ギヤとを連結する連結軸と、を有し、
前記第一ギヤは、前記回転電機の軸方向における当該回転電機と前記差動入力ギヤとの間に配置されるとともに、当該第一ギヤの一部が前記潤滑液貯留部内に位置するように配置され、
前記第一ギヤにより掻き上げられた前記潤滑液貯留部内の潤滑液が、潤滑液供給部を介して前記回転電機に供給される車両用駆動装置。
【請求項2】
前記回転電機と、前記差動入力ギヤと、前記差動歯車機構と前記車輪との間でトルクの伝達を行う出力部材とが同軸状に配置され、
前記連結軸の回転軸心が、前記回転電機の回転軸心より下側に配置されている請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第一ギヤは、車両の前進走行時に歯先が下降する周方向領域において、前記回転電機出力ギヤに噛み合うように配置されている請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記潤滑液供給部は、前記第一ギヤにより掻き上げられた潤滑液を受け止める潤滑液受け止め部を備え、
前記潤滑液受け止め部は、前記連結軸の回転軸心より上側に配置されるとともに、当該潤滑液受け止め部の内部に潤滑液を導入するための開口部を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記回転電機、前記差動歯車機構、及び前記トルク伝達機構が、車両のフロア下に配置されている請求項2に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−237362(P2012−237362A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106159(P2011−106159)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】