説明

透明バリア層システム

本発明は、基板上の透明バリア層システムに関しており、このバリア層システムには一連の個別層が含まれており、これらの個別層は層Aおよび層Bから交互に構成されており、層Aと層Bとは、水蒸気が透過する際の活性化エネルギが少なくとも1.5kJ/molの差分だけ異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明バリア層システムに関する。このようなバリア層は、コーティングされた基板を通しての透過を低減しまた拡散を阻止するのに使用される。頻繁に使用されるのは、所定の物質、例えば、被包装製品としての食品または有機半導体ベースの電子コンポーネントと、周囲環境からの酸素とが接触し得るかまたは水が周囲環境と交換され得ることを阻止したい個所である。ここで第1に関心の中心にあるのは、保護しようとする物質の酸化変性または腐敗である。この他には殊に、酸化のおそれがある種々異なる物質が層結合物に組み込まれている場合には、このような酸化のおそれがある物質の保護も問題となる。これらの物質の保護が殊に重要になるのは、酸化変性を遅らせることによって製品の寿命が決定される場合である。
【0002】
バリア層は部分的に、種々異なる拡散性の物質に対して極めて異なる抵抗を示す。バリア層を特徴付けるため、所定の条件の下においてバリア層が設けられた基板を通る酸素透過率(OTR)および水蒸気透過率(WVTR)が使用されることが多い。
【0003】
またバリア層は、電気絶縁層の役割を有することが多い。バリア層の重要な使用分野は、ディスプレイ応用または太陽電池である。
【0004】
バリア層を有するコーティングにより、コーティングされた基板を通る透過率は、1桁の範囲内にあるファクタだけまたは数オーダになり得るファクタだけ低減される。
【0005】
あらかじめ設定されたバリア値の他、作製するバリア層には種々異なる別の目標パラメタが期待されることが多い。例えば,これは光学的、機械的ならびに技術的経済的な要求である。バリア層は不可視でなければならないことが多い。すなわち可視スペクトル領域においてほぼ完全に透明でなければならないのである。層システムにバリア層を使用する場合、このシステムの個々の部分を被着するためのコーティングステップを互いに組み合わせると有利であることが多い。
【0006】
プラスチックシートまたは薄い金属シートなどのフレキシブル基板にバリア層を作製するために経済的にみて有利でありまた多くのケースで必須であるのは、コーティングをロールツーロール方式で行うことである。ロールツーロール方式ではコーティングすべき基板を連続してロールから繰り出し、コーティングチャンバを通して案内し、第2のロールに再び巻き取る。ここでプロセスチャンバを通る基板の運動は連続して行われる。これによって高い生産性で極めて大きな面積をコーティングすることができるのである。
【0007】
層のバリア作用は、この層内の透過が主に行われる欠陥の数、大きさおよび密度によって大きく影響を受ける。したがってバリア作用を改善するための努力は、殊にできるだけ欠陥のない層を作製することに注がれるのである。
【0008】
バリア層を作製するため、いわゆるPECVD(plasma enhanced chemical vapor deposition)法が使用されることも多い。これは、さまざまな層材料に対する種々異なる基板に使用される。例えば、13μmのPET基板に厚さ20〜30nmのSiO2およびSi3N4層をデポジットすることが公知である[A. S. da Silva Sobrinho et al., J. Vac. Sei. Technol. A 16(6), Nov/Dec 1998, p. 3190-3198]。これにより、10Paの作動圧力においてWVTR = 0,3 g/m2dおよびOTR = 0,5 cm3/m2dの透過率値を達成することができる。
【0009】
PET基板上の透明バリア層に対し、PECVDを用いてSiOxでコーティングする際には、OTR = 0,7 cm3/m2dの酸素バリアを実現することができる[R. J. Nelson and H. Chatham, Society of Vacuum Coaters, 34th Annual Technical Conference Proceedings (1991) p. 113-117]。この技術についての別の資料も、PET基板上の透明バリア層に対してWVTR = 0,3 g/m2dおよびOTR = 0,5 cm3/m2dのオーダの透過率値を目標にしている[M. Izu, B. Dotter, S. R. Ovshinsky, Society of Vacuum Coaters, 36th Annual Technical Conference Proceedings (1993) p. 333-340]。
【0010】
さらにPECVD法を用いてグラジエントを有するバリア層を作製することが公知である[A.G. Erlat et al, Society of Vacuum Coaters, 48th Annual Technical Conference Proceedings (2005), p. 116-120)]。ここではコーティングプロセス中、すなわち基板に層を成長させる間にプロセスパラメタを変更して、層特性がグラジエントとして構成されるようにする。この方法の利点は、層の欠陥が少ないことである。ここでは10-4 g/(m2d)程度のWVTR値が得られる。この方法の欠点は、光学的な透明度が不十分な層が形成されることである。基本的にこの方法はロールツーロールコーティングにも適していない。それは時間的に変化するプロセス進行によってグラジエント層を形成するためには、定常的なプロセス進行(すなわち基板を動かさない)が必要だからである。
【0011】
さらに例えばEP 0 31 1 432 A2からは、材料特性がグラジエントを有するSiO2層が公知である。これによって透過阻止率(Permeationssperre)をプラスチックシートに機械的に適合させ、ひいては一層良好な機械的な耐性を達成しようとしている。基本的にはこの方法もロールツーロールコーティングに適していない。それは時間的に変化するプロセス進行によってグラジエント層を形成するためには同様に定常的なプロセス進行が必要だからである。
【0012】
バリア層をスパッタリングによって被着することが公知である。スパッタリングされた個別層は、PECVD層よりも良好なバリア特性を示すことが多い。PETにスパッタリングされたAlNOについては透過率値として、例えばWVTR = 0,2 g/m2dおよびOTR = 1 cm3/m2dが示される[Thin Solid Films 388 (2001) 78-86]。また殊に反応性スパッタ法によって透明バリア層を作製するのに使用される数多くの別の材料が公知である。しかしながらこのようにして作製される層もディスプレイ応用に対してはバリア作用が少なすぎる。このような層の別の欠点は、機械的耐負荷能力が低いことである。後続処理または使用中に技術的に不可避な要求によって生じる損傷は、バリア作用の大きな劣化に結び付くことが多い。このことにより、バリア応用に対してスパッタリングされる個別層は、高い要求によって使用できないことが多い。さらにこの方法において同様に注目すべきであるのは、バリア作用が、所定の層厚以上で再び劣化するか、少なくとも層厚の増加と共にもはや改善しないことである。
【0013】
さらに公知であるのは、拡散遮断層、すなわちバリア層をデポジットする際にプラズマ重合に対してマグネトロンプラズマを使用することである(EP 0 815 283 B1); [S. Fujimaki, H. Kashiwase, Y. Kokaku, Vacuum 59 (2000) p. 657-664])。ここでこれは、マグネトロン放電のプラズマによって直接維持されるPECVDプロセスのことである。このことの例はPECVDコーティングに対してマグネトロンプラズマを使用することであり、これによって残留炭素分を有する層をデポジットする。ここではこれは前駆物質CH4として使用される。しかしながらこのような層も同様にディスプレイ応用に対してバリア作用は不十分である。
【0014】
択一的には個別層もバリア層として蒸着される。このようなPVD方により、種々異なる材料を直接または反応性に種々異なる基板にデポジットすることもできる。バリア応用に対して、例えばAl2O3を有するPET基板の反応性の蒸着が公知である[Surface and Coatings Technology 125 (2000) 354-360]。ここではVWTR = 1 g/m2dおよびOTR = 5 cm3/m2dの透過率値が得られる。これらの値も同様に、上記のようにコーティングされる材料をディスプレイにおけるバリア層として使用するのには大きすぎる。これらの層にはスパッタリングされる個別層よりも機械的に負荷をかけられないことが多い。さらに直接の蒸着には高い蒸着速度または蒸着レートが伴うことが多い。このため、バリア応用において慣用の薄い層を作製する際には層材料が基板に強く当たりすぎないようにするため、相応に高い基板速度が必要になる。したがってはるかに低い通過速度を必要とするプロセスステップとの組み合わせは、通過形装置(Durchlaufanlage)においてはほとんど不可能である。このことは例えばスパッタリングプロセスとの組み合わせに当てはまる。
【0015】
さらにバリア層を複数のコーティングステップにおいて被着することが公知である。1つの方法はいわゆるPMLプロセス(Polymer multilayer)である(1999 Materials Research Society, p. 247-254); [J. D. Affinito, M. E. Gross, C. A. Coronado, G. L. Graff, E. N. Greenwell and P.M. Martin, Society of Vacuum Coaters, 39th Annual Technical Conference Proceedings (1996) p. 392-397]。PMLプロセスではエバポレータによって液体のアクリレートフィルムを上記の基板に被着し、このフィルムを電子ビーム技術またはUV照射によって硬化させる。これそのものは特に高いバリア作用を有しない。引き続き、上記の硬化させたアクリレートフィルムを酸化中間層によってコーティングし、この中間層そのものにアクリレートフィルムを被着する。この手法を必要であれば数回繰り返す。このように作製した積層体の透過率値、すなわち個々のアクリレート層と酸化中間層との組み合わせの透過率値は、慣用の透過率測定装置の測定限界を下回っている。
【0016】
欠点は、殊にコストのかかる装置技術を使用しなければならないことである。さらにまず液体のフィルムを上記の基板に形成し、このフィルムを硬化させなければならない。
【0017】
これによって装置の汚れが増大してメンテナンスサイクルが短くなる。アクリレートを蒸着する上記のプロセスも高い搬送バンド速度に最適化されるため、速度の遅いコーティングプロセス、例えばスパッタリングプロセスとインラインで組み合わせるのは困難である。
【0018】
DE 196 50 286 C2からはバリア層システムを無機バリア層と、無機有機ハイブリッドポリマとから構成することが公知である。ここで無機有機ハイブリッドポリマの作用は、殊に無機バリア層における欠陥を封止することである。この方法の欠点は、これが基本的にロールツーロールに使用できないことである。それは、無機有機ハイブリッドポリマは真空において被着することはできないが、無機バリア層は真空において被着しなければならないからである。すなわち各個別層は異なるコーティング装置において被着しなければならないのである。
【0019】
DE 10 2004 005 313 A1では、無機層と、固有のマグネトロンベースのPECVD方式において被着された第2の層とが組み合わせられる。この場合にも無機層としてのAl2O3は、考えられる実施形態のうちの1つを構成している。
【0020】
上に示した公知のすべてのアプローチに共通であるのは、相応のコーティング技術を用いて高い阻止作用を有する少なくとも1つの材料を基板にデポジットすることによって高い阻止作用が得られることである。バリア作用をさらに改善するため、いくつかの方法においては、このバリア層と別の複数の層とを組み合わせて多重層構造によってバリア作用をさらに改善している。
【0021】
まとめると公知の方法においてはつぎのような欠点を挙げることができる。すなわち、個別のバリア層の場合、層材料およびコーティング方式に依存する厚さ以上ではバリア作用をもはや改善することができない。おそらく比較的厚い層は欠陥を形成する傾向があり、これらの欠陥において透過が増大するためである。この問題を回避するため、部分的にグラジエント層がデポジットされる。しかしながらこの層はロールツーロール方式に適していないのである。
【0022】
欠陥の形成を回避するためまたはこれを補償する別の可能性はバリア多重層である。しかしながらバリア多重層を作製する公知の方法は極めてコストがかかり、また一部はロールツーロールに利用できない。さらにこのバリア多重層の阻止作用はまだ完全に説明することはできず、このために見積もることができない。このためにあらかじめ定めた透過特性を有するバリア多重層を作製する際には試行錯誤に頼ることになってしまうのである。
【0023】
課題の設定
したがって本発明の基礎となる技術的課題は、従来技術の欠点を克服することの可能な透明バリア層システムを有するバリアシートを提供することである。殊に上記のバリア層システムが、酸素および水蒸気に対して極めて良好な阻止特性を有するようにする。さらに上記のバリアシートをロールツーロール方式で作製可能とする。また上記のバリア層システムが高いバリア作用を有するようにする。
【0024】
上記の技術的課題の解決手段は、請求項1の特徴部分に記載した特徴的構成によって得られる。本発明の別の有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0025】
層の透過メカニズムについての重要な情報は、活性化エネルギから導出することができる。活性化エネルギの概念は、透過メカニズムの分析的な説明から得られる。層を通る透過率は、つぎの関係式によって表される。すなわち、
P = P0・eEp/RT
である。
【0026】
上記の式においてPは透過率であり、P0は透過係数であり、またRは気体定数、Tは温度またEpは活性化エネルギである。
【0027】
上記の透過率を温度に依存して測定すると、活性化エネルギを求めることができる。測定した透過率の値が対数目盛で温度についてプロットされる場合、個々の値をつなげることによって1本の直線が得られ、この直線の勾配は上記の活性化エネルギを特徴付ける。
【0028】
これによって実験的な方法に基づいて、例えば、コーティングされていない基板の活性化エネルギと、コーティングされた基板の活性化エネルギとを求めて対比することができる。
【0029】
活性エネルギの知識からつぎのようなことがいえる。すなわち、上記のコーティングにより、コーティングしていない基板と比して活性化エネルギが変化しないかまたはわずかにしか変化しない場合、欠陥が支配的な透過であるといえる。すなわち、透過する粒子は、欠陥個所(巨視欠陥とも称される)において阻止されることなく層を通過するのである。しかしながら層それ自体(欠陥を有しない領域において)は、上記の粒子を透過させない。
【0030】
これに対してコーティングされた基板の活性化エネルギと、コーティングされていない基板の活性化エネルギとが大きく異なる場合、上記の層を通る透過は、上記の巨視欠陥を通してだけではなく、上記の層材料それ自体を通しても行われる。このことは固体拡散(Feststoffdiffusion)とも称される。このような層においては欠陥個所を通る透過は、上記の固体拡散に比べて無視できることが多い。
【0031】
驚いたことにも確認されたのは、層システムのバリア特性が、隣接する層ないしは材料の活性化エネルギについての差分が大きければ大きいほど良好になることである。1つの基板上の別個の層として隣接する層または材料の活性化エネルギが少なくとも1.5kJ/molの差分を有する場合、すでに良好なバリア特性が得られる。バリア特性のさらなる質的な改善は、少なくとも3.5kJ/molおよび5kJ/molの差分の際に得られる。
【0032】
したがって1つの基板上の本発明の透明バリア層システムには一連の個別層が含まれており、これらの個別層は、層Aと層Bとから交互に構成されており、個別の層Aを有する上記の基板と、個別の層Bを有する上記の基板とは、水蒸気が透過する際の活性化エネルギが少なくとも1.5kJ/molの差分で異なる。
【0033】
層の活性化エネルギは、多くのファクタに依存する。第1に層材料および層厚は活性化エネルギに影響を与える。しかしながら第2に層の活性化エネルギは、この層が異なる方法によってデポジットされる場合にも変化する。
【0034】
上記の層AおよびBの活性化エネルギは直接簡単には求めることはできない。しかしながら、例えば、層Aを個別層として基板にデポジットしかつ層Bを個別層としてこの基板にデポジットし、対応する活性化エネルギを求めてそれらの差分を計算することは可能である。
【0035】
3つのパラメタ(材料、厚さ、デポジット法)を変更することにより、層AおよびBに対する実験的な層を求めることができる。コーティングすべき基板上の個別層としての層Aおよび層Bの求めた活性化エネルギが十分に大きい差分を有する場合、これによって確実になるのは、基板上の層システムの交互の層として層Aおよび層Bによって良好なバリア特性が保証されることである。
【0036】
層Aに対して、例えば、酸素、窒素元素のうちの少なくとも1つを有するジルコン、アルミニウム、亜鉛、スズ、ケイ素、チタンのグループの少なくとも1つの元素からなる化合物が適している。層Bに対して、例えば、酸素、窒素、炭素元素のうちの少なくとも1つを有するジルコン、アルミニウム、亜鉛、スズ、ケイ素、チタンのグループの少なくとも1つの元素からなる材料が使用される。ここでは個別層として最初に層Aが基板の方を向いていることも層Bが基板の方を向いていることも共に可能である。
【0037】
しかしながら良好なバリア特性の点から有利であるのは、上記の基板に隣接する第1の個別層が、コーティングされていない基板の活性エネルギに対してできるかぎり大きな差分を有する活性化エネルギを有する場合であり、また上記の基板に隣接する第2の個別層が、コーティングされていない基板の活性エネルギとほぼ同じ大きさの活性化エネルギを有する場合である。
【0038】
層Aを、例えばスパッタリングによって、また層BをPECVDによってデポジットすることができる。PECVD方式の固有の実施形態として層Bを、例えばマグネトロンPECVD方式によってデポジットすることも可能である。
【0039】
ここでスパッタリングとは、電場において作動ガスをイオン化することによって発生するプラズマによってターゲット材料の粒子を噴霧するコーティング方法のことであると理解されたい。この場合に上記の基板に凝縮する粒子によって所望の層が得られる。しかしながら純粋の噴霧の他、噴霧される粒子と、作業室に入れられたガスとの化学反応を起こさせることも可能である。この場合に反応生成物は層を形成する。この方法は反応性スパッタリングと称される。
【0040】
PECVDと称される方法では、プラズマ作用によってモノマが断片化されて個々の断片が重合によって基板に層を形成する。マグネトロンPECVDと称される方法ではPECVDプロセスにおけるプラズマ源としてマグネトロンが使用される。
【0041】
本発明による透明バリア層システムは、例えば、OLED、太陽電池または有機電子回路などの電子構成素子を保護するのに適している。このような構成素子は、作製時に数多くが1つの帯状の構成物にまとめられてロールとして巻かれる。これらの電子構成素子へのバリア層システムの被着はふつう2つのパスで行われる。
【0042】
一方では上記の構成素子の直接封止(Direktverkapselung)が行われ、ここでこれは上記のバリア層システムを構成素子に直接デポジットすることによって行われる。ロールツーロール方式では、上記の構成素子は、コーティングすべき基板として直接使用され、連続してロールから繰り出され、コーティングチャンバを通して案内され、第2のロールに再び巻き取られる。ここでプロセスチャンバを通る基板の運動は連続して行われる。これによって高い生産性で極めて大きな面積をコーティングすることができる。この方法の欠点は、層を被着することによる素子への負荷と、バリア層を作製するために構成素子のメーカに技術移転しなければならないこととである。
【0043】
択一的には上記のバリア層システムをポリマシートにデポジットすることも可能である。この場合に構成素子のメーカが有する課題は、適切な技術によって保護すべき表面にシートを被着することだけである。このようなポリマシートは、例えばPET、PEN、ETFE、PC、PMMA、FEPまたはPVDFから構成することが可能である。ここでも上記のポリマシートは、ロールツーロール方式を用いてバリア層に設けられる。ここでは真空ブレーク(Vakuumunterbrechung)なしに上記の層AおよびBを順次にコーティング装置においてデポジットすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明によるバリア層システムを有するバリアシートの概略断面図である。
【図2】透過率と温度との依存性を示すグラフである。
【0045】
実施例
以下では有利な実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0046】
図1には本発明によるバリア層システムを有するバリアシートが断面図で略示されている。このバリアシートにはPETからなる厚さ75μmの基板1が含まれており、この基板にはまずZnSnOxからなる厚さ75nmの層2が、つぎにSiOxCyからなる厚さ65nmの層3が、また最後には同じくZnSnOxからなる厚さ75nmの層4がデポジットされている。
【0047】
しかしながらPET基板1にバリア層システムをデポジットすることができるようになる前に、実験的にZnSnOxからなる厚さ75nmの個別層を反応性マグネトロンスパッタリングによって、また厚さ65nmの個別層SiOxCyをマグネトロンPECVDによってそれぞれ別個にPET基板1にデポジットし、コーティングしたシートを通る水蒸気の透過の対応する活性化エネルギを求める。
【0048】
ZnSnOx層でコーティングしたシートを通る水蒸気の透過の活性化エネルギは、3.6kJ/molである。SiOxCyでコーティングしたシートの場合、活性化エネルギは8.6kJ/molである。層のないPETシートの活性化エネルギは、ZnSnOxでコーティングしたシートと同様に3.6kJ/molである。個別層によってコーティングした2つのシートにおける5kJ/molの活性化エネルギについての差分は、PET基板1に交互にコーティングした際にバリア作用が高くなることを推定させる。
【0049】
引き続いてロールツーロール方式において基板1に以下をデポジットする。まず亜鉛−すず合金からなるターゲットの反応性マグネトロンスパッタリングを用いて層2をデポジットし、つぎにモノマであるHMDSOを入れながらマグネトロンPECVDを用いて層3をデポジットし、引き続いて再び反応性マグネトロンスパッタリングを用いて層4をデポジットする。
【0050】
これによって実現されるバリアシートは、(38℃および90%の相対大気湿度において触媒測定法によって測定した)0.007 g/m2*dの水蒸気透過速度に対する値を有していた。
【0051】
これに対して厚さ75nmのZnSnOxからなる個別層によってコーティングされる基板1では、0.045g/m2*dの値しか求めることができなかった。層圧を2倍の150nmにしても0.02 g/m2*dにしか改善されなかった。
【0052】
温度について対数でプロットした透過率の依存性は、図2においてグラフで示されている。このためにまず種々異なる温度においてコーティングしていない厚さ75μmのPETシートを通る水蒸気の透過率を求め、値の対をグラフにプロットし、得られた点を一本の直線によって接続した。図2の(正方形を有する)上側の直線は、コーティングされていないPETシートに対応する。(三角形を有する)中央の直線は、厚さ75μmのPETシートに対応しており、このシートは、残留炭素分を有する厚さ65nmの酸化シリコン層によって覆われておりかつPECVDによってデポジットされたものである。(丸を有する)下側の直線は、マグネトロンスパッタリングによってデポジットされた厚さ75nmの亜鉛−すず酸化層を有する厚さ75μmのPETシートにおいて得られたものである。
【0053】
上側および下側の直線がほぼ平行に経過し、このことと、水蒸気が透過する際の活性化エネルギがほぼ同じであることとが同意であるのに対して、中央の直線はより急峻な経過を示しており、ひいては水蒸気が透過する際に活性化エネルギがより高いことを示している。したがって図2から導出できるのは、厚さ65nmの酸化シリコン層が挿入された厚さ75nmの2つの亜鉛−スズ層を含む層システムを有する75μmのPETシートが良好なバリア特性を有することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板における透明バリア層システムにおいて、
該透明バリアシステムには一連の個別層が含まれており、
当該の個別層は、層Aと層Bとから交互に構成されており、
個別の層Aを有する前記の基板と、個別の層Bを有する前記の基板とは、水蒸気が透過する際の活性化エネルギが少なくとも1.5kJ/molの差分で異なることを特徴とする
透明バリア層システム。
【請求項2】
個別の層Aを有する前記の基板および個別の層Bを有する前記の基板を水蒸気が透過する際の活性化エネルギの差分は少なくとも5kJ/molである、
請求項1に記載の透明バリア層システム。
【請求項3】
層Aはスパッタリングによって、または層BはPECVDによってデポジットされる、
請求項1または2に記載の透明バリア層システム。
【請求項4】
層BはマグネトロンPECVDによってデポジットされる、
請求項3に記載の透明バリアシステム。
【請求項5】
前記の層Aは、酸素、窒素元素のうちの少なくとも1つを含むジルコン、アルミニウム、亜鉛、スズ、ケイ素、チタンのグループの少なくとも1つの元素の化合物から構成される、
請求項1から4までのいずれか1項に記載の透明バリア層システム。
【請求項6】
前記の層Bは、酸素、窒素、炭素元素のうちの少なくとも1つを含むジルコン、アルミニウム、亜鉛、スズ、ケイ素、チタンのグループの少なくとも1つの元素の化合物から構成される、
請求項1に記載の透明バリア層システム。
【請求項7】
前記の基板側を向いた第1の個別層は層Aである、
請求項1から6までのいずれか1項に記載の透明バリア層システム。
【請求項8】
前記の基板側を向いた第1の個別層は層Bである、
請求項1から6までのいずれか1項に記載の透明バリア層システム。
【請求項9】
前記の基板は、ポリマシートである、
請求項1から8までのいずれか1項に記載の透明バリア層システム。
【請求項10】
前記のポリマシートは、PET、PEN、ETFE、PC、PMMA、FEPまたはPVDFから構成される、
請求項9に記載の透明バリア層システム。
【請求項11】
前記の基板は、保護すべき電子構成素子である、
請求項1から8までのいずれか1項に記載の透明バリア層システム。
【請求項12】
前記の層AおよびBは、1つのコーティング装置にて直接前後してデポジットされる、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の透明バリア層。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−519318(P2011−519318A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504362(P2011−504362)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002678
【国際公開番号】WO2009/127373
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(594102418)フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ (63)
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D−80686 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】