説明

配線基板

【課題】銅を含む低抵抗且つ良熱伝導導体からなる大孔径並びに狭間隔のサーマルビアを絶縁基板との同時焼成により形成可能な安価な配線基板を作製する。
【解決手段】酸化アルミニウムを主成分としMnをMn2 3 換算で2.0〜10.0重量%の割合で含有する相対密度95%以上のセラミックスからなる絶縁基板1と、絶縁基板1の表面に搭載される発熱性素子から発生した熱を放熱するために絶縁基板1表面から裏面に貫通するように形成された複数のサーマルビア2を具備する配線基板において、サーマルビア2を銅10〜60体積%、タングステン及び/もしくはモリブデンを40〜90体積%の割合で含有してなる良熱伝導体によって形成し、且つサーマルビアの最大径を200μm以上、隣接するサーマルビア間の間隔を50〜300μmとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなる絶縁基板とする配線基板に関し、詳細には低抵抗導体からなり、且つ絶縁基板と同時焼成によって形成された該絶縁基板の表面に搭載される発熱性素子から発生した熱を放熱するために前記絶縁基板表面から裏面に貫通するように形成されたサーマルビアを具備した配線基板とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】近年、半導体素子の高集積化に伴い、半導体装置から発生する熱も増加している。半導体装置の誤動作をなくすためには、このような熱を装置外に放出可能な配線基板が必要とされている。一方、電気的な特性としては、演算速度の高速化により、信号の遅延が問題となり、導体損失の小さい、つまり低抵抗の導体を用いることが要求されてきた。
【0003】このような半導体素子を搭載した配線基板としては、その信頼性の点から、アルミナセラミックスを絶縁基板とし、その表面あるいは内部にタングステンやモリブデンなどの高融点金属からなる配線層を被着形成したセラミック配線基板が多用されている。ところが、従来から多用されている高融点金属からなる配線層では、抵抗を高々8mΩ/□程度までしか低くできず、そのため放熱性に関しても放熱フィンの接合やサーマルビア等により改善を図っているが、Wメタライズ自体の熱伝導性が悪い為に、大きな効果は得られない。
【0004】これに対して、近年に至り、低抵抗導体である銅や銀と同時焼成可能な、いわゆるガラスセラミックスを用いた多層配線基板が提案されている。ところが、ガラスセラミックスの熱伝導率は高々数W/m・Kしかなく、前記熱的問題を解決することが難しくなってきている。この問題に対してアルミナなどと同様にサーマルビアを形成することにより、配線基板としての熱伝導率を十数W/m・K程度まで改善することができる。しかし、近年の動向としては、更に小型化が進み、配線基板としてもサーマルビアだけでは対応できない状況にある。
【0005】そこで、この熱的問題点と、電気的問題点を同時に解決する方法として、酸化アルミニウムに、銅、または銅とタングステンまたはモリブデンを組み合わせた導体層を同時焼成により形成する方法が、特開平8−8502号、特開平7−15101号、特許第2666744号に提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平8−8502号は、そもそも酸化アルミニウムを緻密化させるために、1600℃以上の高い温度で焼成するものであるが、このような高温で銅およびタングステンの導体層を焼成すると、タングステンやモリブデンの急激な焼結が進行して大きな凝集粒子を形成するために溶融した銅成分が表面に分離し、表面配線層ににじみが生じたり、銅の揮散が生じるなど、表面配線層形状の保形性が低下し、特にサーマルビアなどのようにビア径が大きい場合、焼成中に溶解した銅が溶出するためにサーマルビアの形成ができないものであった。しかも、導体中の銅成分が、焼成中に絶縁基板のセラミックス中に拡散し、配線層間の絶縁性を劣化させるなどの問題があった。
【0007】また、特開平7−15101号によれば、一旦、すべての配線層を絶縁基板内部に配設して同時焼成した後、研磨等により表面の絶縁層を研磨除去して内部配線層を表面に露出させたり、焼成後の配線基板の表面に、厚膜法や薄膜法によって表面配線層を形成するものである。そのために、表面配線層を形成するためには研磨工程、厚膜形成工程、薄膜形成工程などが不可欠の工程となるために、製造工程が多く、歩留りの低下やコスト高となるような問題があった。そして、内部配線として同時焼成しているために、サーマルビア等の導体層の形成は困難であった。
【0008】さらに、特許第2666744号には、絶縁基板を形成するためのセラミック粉末として、平均粒径が5〜50nmの微細なアルミナ粉末を用いることにより、金、銀、銅等などの低抵抗金属の焼成温度に近づけることにより、絶縁基板と低抵抗金属との同時焼結性を達成したものであるが、このような微粉末は取扱いが非常に難しく、コスト高であるために、量産性に欠けるとともにコスト高となる問題があった。
【0009】なお、従来のアルミナ系配線基板においては、Cu、Ag、W、Moなどの単一配線材料が用いられるが、基板材料とビア配線材料との熱膨張差により焼成後にビアと絶縁基板とのセパレーション或いは、基板割れが発生する。その為、サーマルビア径が高々200μm程度であり、その場合の隣接するビアとビアの間隔を約300μm以上にする必要があるため熱放散性の向上に限界が生じる。
【0010】従って、本発明は、発熱性素子が搭載され、サーマルビアが形成された配線基板であって、発熱性素子から発生した熱を効率的に放熱することのできるとともに、サーマルビア形成部分の周辺にクラックなどの発生がなく、信頼性に優れた配線基板を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題に対して検討を重ねた結果、酸化物セラミックスを絶縁基板とする配線基板において、絶縁基板として、酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスによって形成するとともに、サーマルビアとして、Cuと、W/Moなどの高融点金属との複合導体材料によって形成し、その比率を変化させることにより、絶縁基板とサーマルビアの熱膨張の整合性を図ることができるために、サーマルビアの大孔径化とともにビアの狭間隔化を図ることができ、これによりサーマルビアによる放熱特性を高めることができることを見いだし、本発明に至った。
【0012】即ち、本発明の配線基板は、酸化アルミニウムを主成分とする相対密度95%以上のセラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板の表面に搭載される発熱性素子から発生した熱を放熱するために前記絶縁基板表面から裏面に貫通するように形成された複数のサーマルビアを具備する配線基板において、前記サーマルビアを銅10〜60体積%、タングステン及び/もしくはモリブデンを40〜90体積%の割合で含有してなる良熱伝導体によって形成し、且つサーマルビアの最大径が200μm以上であるとともに、隣接するサーマルビア間の間隔が50〜300μmであることを特徴とするものである。
【0013】なお、前記絶縁基板と前記サーマルビア中の良熱伝導体との40〜400℃における熱膨張係数が5ppm/℃以下であること、前記サーマルビアの横断面形状が略楕円形状からなること、または、前記絶縁基板が、MnをMn2 3 換算で2.0〜10.0重量%の割合で含有することが望ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の配線基板の一実施態様を示す図1の概略断面図を基に説明する。図1の配線基板によれば、酸化アルミニウムを主体とするセラミックスからなる絶縁基板1中にその表面から背面に貫通するサーマルビア2が設けられている。
【0015】本発明の配線基板においては、絶縁基板1のサーマルビア2形成部の上面に直接、あるいは導体層3を介して半導体素子などの発熱性素子4が実装されることにより、発熱性素子4から発生した熱は、直接、あるいは導体層3を介してサーマルビア2を経由して、絶縁基板1の裏面に接合されたヒートシンク5等に伝熱される。
【0016】また、この配線基板の絶縁基板1には、上記サーマルビア2以外に、表面配線層6a及び内部配線層6b、さらにはビアホール導体7が形成されていてもよく、これらのサーマルビア2、配線層6a、6b、ビアホール導体7はいずれも絶縁基板1と同時焼成して形成される。
【0017】(絶縁基板)本発明において、絶縁基板1は、酸化アルミニウムを主体とするものであるが、絶縁基板の熱伝導性および高強度化を達成する上では、相対密度95%以上、特に97%、さらには98%以上の高緻密体から構成されるものであり、さらに熱伝導率は10W/m・K以上、特に15W/m・K以上、さらには17W/m・K以上であることが望ましい。
【0018】本発明では、サーマルビア2などとの同時焼結時による保形性を達成する上で1200〜1500℃の低温で焼成することが必要となるが、本発明によれば、このような低温での焼成においても相対密度95%以上に緻密化することが必要となる。
【0019】かかる観点から、本発明における絶縁基板1は、酸化アルミニウムを主成分とするもので、具体的には酸化アルミニウムを84重量%以上の割合で含有するものであるが、第2の成分として、Mn化合物をMn2 3 換算で2.0〜10.0重量%の割合で含有することが必要である。即ち、Mn化合物量が2.0重量%よりも少ないと、1200〜1500℃での緻密化が達成されず、また10.0重量%よりも多いと絶縁基板1の絶縁性が低下するためである。Mn化合物の最適な範囲は、Mn2 3 換算で3〜7重量%である。
【0020】また、この絶縁基板1中には、第3の成分として、SiO2 およびMgO、CaO、SrO等のアルカリ土類元素酸化物を銅含有導体との同時焼結性を高める上で合計で0.4〜8重量%の割合で含有せしめることが望ましい。
【0021】さらに第4の成分としてW、Moなどの金属を着色成分として2重量%以下の割合で含んでもよい。
【0022】上記酸化アルミニウム以外の成分は、酸化アルミニウム主結晶相の粒界に非晶質相あるいは結晶相として存在するが、熱伝導性を高める上で粒界中に助剤成分を含有する結晶相が形成されていることが望ましい。
【0023】また、絶縁基板1を形成する酸化アルミニウム主結晶相は、粒状または柱状の結晶として存在するが、これら主結晶相の平均結晶粒径は、1.5〜5.0μmであることが望ましい。なお、主結晶相が柱状結晶からなる場合、上記平均結晶粒径は、短軸径に基づくものである。この主結晶相の平均結晶粒径が1.5μmよりも小さいと、高熱伝導化が難しく、平均粒径が5.0μmよりも大きいと基板材料として用いる場合に要求される十分な強度が得られにくくなるためである。
【0024】(サーマルビア)一方、サーマルビア3は、銅を10〜60体積%、W及び/またはMoを40〜90体積%の割合で含有する必要がある。
【0025】銅とWおよび/またはMoとの比率は、サーマルビア3の放熱性、上記絶縁基板1との同時焼結性、サーマルビア3の同時焼成後の保形性の維持、さらには絶縁基板との熱膨張特性の整合を図る上で重要であり、上記銅が10体積%よりも少なく、WやMo量が90体積%よりも多いと、サーマルビアの熱伝導率がWと同等になり低くなるばかりでなく熱膨張差によって絶縁基板にクラックなどの割れが生じる。
【0026】また、銅が60体積%よりも多く、WやMo量が40体積%よりも少ないと、サーマルビアの同時焼成後の保形性が低下しサーマルビア3において、にじみなどが発生したり、サーマルビア部の凹凸が大きくなり、更には焼成時にサーマルビア内の導体が欠落する不具合が生じる。最適な組成範囲は、銅を30〜60体積%、W及び/またはMoを40〜70体積%である。
【0027】また、本発明においては、前記W及び/またはMoは、平均粒径1〜10μmの球状あるいは数個の粒子による焼結粒子として銅からなるマトリックス中に分散含有していることが望ましい。これは、上記平均粒径が1.0μmよりも小さい場合、サーマルビア3中の良熱伝導体の保形性が悪くなるとともに組織が多孔質化し熱伝導性が低くなり、10μmを越えると銅のマトリックスがWやMoの粒子によって分断されてしまい熱伝導路が遮断されて熱抵抗が高くなったり銅成分が分離して、にじみなどが発生するためである。W及び/またはMoは平均粒径1.3〜5μm、特に1.3〜3μmの大きさで分散されていることが最も望ましい。
【0028】なお、本発明によれば、絶縁基板1とサーマルビア2を構成する良熱伝導体との40〜400℃における熱膨張係数差は5ppm/℃以下、特に4ppm以下であることが望ましい。これは、熱膨張差が5ppm/℃よりも高いと、後述するサーマルビア2の径および間隔で配設した場合に、サーマルビア2のビア間の絶縁基板1が熱膨張差に起因した応力によってクラックが発生する恐れがあるためである。
【0029】図2は、サーマルビア3の配置を説明するための平面図であるが、図2に示すように、サーマルビア3の最大径Xが200μm以上、特に210μm以上、さらに250μm以上であり、隣接するサーマルビアとの間隔Zが50〜300μm、特に50〜290μm、さらには50〜250μmであることが配線基板における熱放散性の効率化を高める上で望ましい。
【0030】即ち、サーマルビアの最大径が200μmよりも小さく、隣接するサーマルビアの間隔が300μmよりも大きい場合には、所定領域に数多くのサーマルビアを形成する必要があるばかりでなく、局部的に熱抵抗の高い部分が多くなる為に、良好な放熱性が得られず、素子の発熱に伴う誤作動を誘発する。また、隣接するサーマルビア3間の間隔が50μmよりも小さいと、サーマルビア3間の絶縁基板1にクラックなどが発生するためである。
【0031】また、本発明におけるサーマルビア2は、横断面が円形であるのが一般的であるが、横断面形状が図2に示すように、最大径Xと最小径YとがX>Yの略楕円形状であることが望ましい。これは、円形に比較して、略楕円形状の方が、サーマルビアを図2に示すように格子状に配列した場合のサーマルビアの占める面積が大きくなり、配線基板の単位面積あたりの放熱性を高めることができる。特に略楕円形状における最大径X/最小径Yの比率は1.1以上、特に1.2以上であることが望ましい。
【0032】また、表面配線層6a及び内部配線層6bおよびスルーホール導体7についてもサーマルビア2を形成する良熱伝導体と同様の導体によって形成することが同時焼結性の観点から望ましい。
【0033】本発明の配線基板によれば、後述するように焼成温度及び雰囲気を制御して焼成することによって、絶縁基板1の表面の平均表面粗さRaを1μm以下、特に0.7μm以下の平滑性に優れた表面を形成できるものであり、その結果、絶縁基板1の表面に表面配線層6aを形成する場合、絶縁基板1表面に研磨加工等を施す必要がない。
【0034】さらに、本発明の配線基板においては、酸化アルミニウムとの銅の融点を越える温度での同時焼成によって、サーマルビア2、表面配線層6a、内部配線層6bおよびビアホール導体7の導体層中の銅成分が絶縁基板1中に拡散する場合があるが、本発明によれば、上記導体層の周囲の絶縁基板1のセラミックスへの銅の拡散距離が20μm以下、特に10μm以下であることが望ましい。これは、銅のセラミックス中への拡散距離が20μmを超えると、配線層間の絶縁性が低下し、配線基板としての信頼性が低下するためである。
【0035】(製造方法)次に、本発明の配線基板の製造方法について具体的に説明する。まず、絶縁基板を形成するために、酸化物セラミックスの主成分となる酸化アルミニウム原料粉末として、平均粒径が0.5〜2.5μm、特に0.5〜2.0μmの粉末を用いる。これは、平均粒径は0.5μmよりも小さいと、粉末の取扱いが難しく、また粉末のコストが高くなり、2.5μmよりも大きいと、1500℃以下の温度で焼成することが難しくなるためである。
【0036】そして、上記酸化アルミニウム粉末に対して、適宜、焼結助剤としてMnO2を2〜10重量%、特に3〜7重量%の割合で添加する。また、適宜、SiO2、MgO、CaO、SrO粉末等を0.4〜8重量%、さらにW、Mo、Crなどの遷移金属の金属粉末や酸化物粉末を着色成分として金属換算で2重量%以下の割合で添加する。
【0037】なお、上記酸化物の添加に当たっては、酸化物粉末以外に、焼成によって酸化物を形成し得る炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩などとして添加してもよい。
【0038】そして、この混合粉末を用いて絶縁層を形成するためのシート状成形体を作製する。シート状成形体は、周知の成形方法によって作製することができる。例えば、上記混合粉末に有機バインダーや溶媒を添加してスラリーを調製した後、ドクターブレード法によって形成したり、混合粉末に有機バインダーを加え、プレス成形、圧延成形等により所定の厚みのシート状成形体を作製できる。そしてこのシート状成形体に対して、マイクロドリル、レーザー等により焼成後の直径が0.1〜0.3mmとなるようなサーマルビア用スルーホールを形成する。また、同時に直径が50〜250μmのビアホール導体用スルーホールを形成してもよい。
【0039】このようにして作製したシート状成形体に対して、導体成分として、平均粒径が1〜10μmの銅含有粉末を10〜60体積%、特に40〜60体積%、平均粒径が1〜10μmのWおよび/またはMoを40〜90体積%、特に40〜60体積%の割合で含有してなる導体ペーストを調製し、このペーストを各シート状絶縁層に施した上記スルーホール内にスクリーン印刷法等により充填する。
【0040】これらの導体ペースト中には、絶縁層との密着性を高めるために、酸化アルミニウム粉末や、絶縁層を形成する酸化物セラミックス成分と同一の組成物粉末を0.05〜2体積%の割合で添加することも可能である。
【0041】その後、導体ペーストを充填したシート状成形体を位置合わせして積層圧着した後、この積層体を、この焼成を、非酸化性雰囲気中、焼成最高温度が1200〜1500℃の温度となる条件で焼成する。
【0042】また、表面配線層や内部配線層を形成する際は、上記導体ペーストをシート状成形体の表面にスクリーン印刷、グラビア印刷などの方法により印刷塗布した後、この絶縁層を積層圧着し、上記と同様にして焼成を行なう。
【0043】この時の焼成温度が1200℃より低いと、通常の原料を用いた場合において、酸化アルミニウム絶縁基板が相対密度95%以上まで緻密化できず、熱伝導性や強度が低下し、1500℃よりも高いと、WあるいはMo自体の焼結が進み、銅との均一組織を維持できなく、強いては低抵抗を維持することが困難となりWと同等の放熱性しか得られなくなる。また、酸化物セラミックスの主結晶相の粒径が大きくなり異常粒成長が発生したり、銅がセラミックス中へ拡散するときのパスである粒界の長さが短くなるとともに拡散速度も速くなる結果、拡散距離を20μm以下に抑制することが困難となるためである。好適には、1250〜1400℃の範囲がよい。
【0044】また、この焼成時の非酸化性雰囲気としては、窒素、あるいは窒素と水素との混合雰囲気であることが望ましいが、特に、配線層中の銅の拡散を抑制する上では、水素及び窒素を含み露点+10℃以下、特に−10℃以下の非酸化性雰囲気であることが望ましい。なお、この雰囲気には所望により、アルゴンガス等の不活性ガスを混入してもよい。焼成時の露点が+10℃より高いと、焼成中に酸化物セラミックスと雰囲気中の水分とが反応し酸化膜を形成し、この酸化膜と銅含有導体の銅が反応してしまい、導体の低抵抗化の妨げとなるのみでなく、銅の拡散を助長してしまうためである。
【0045】
【実施例】酸化アルミニウム粉末(平均粒径1.8μm)に対して、Mn2 3 を表1、表2に示すような割合で添加するとともに、SiO2 を3重量%、MgOを0.5重量%の割合で添加混合した後、さらに、成形用有機樹脂(バインダー)としてアクリル系バインダーと、トルエンを溶媒として混合してスラリーを調製した後、ドクターブレード法にて厚さ250μmのシート状に成形した。そして、所定箇所にマイクロドリルによって焼成後のビアホールの形状が表1、表2の最大径X、最小径、ビアホール間間隔Zとなるようにビアホールを形成した。
【0046】次に、平均粒径が5μmの銅粉末と、平均粒径が0.8〜12μmのW粉末あるいはMo粉末とを表1、表2に示す比率で混合し、アクリル系バインダーとをアセトンを溶媒として導体ペーストを作製した。
【0047】そして、シート状成形体上に上記導体ペーストを印刷塗布し、各シート状成形体のビアホール導体にも上記配線層用導体ペーストを充填した。上記のようにして作製した各シート状成形体を位置合わせして積層圧着して成形体積層体を作製した。その後、この成形体積層体を実質的に水分を含まない酸素含有雰囲気中(N2 +O2 または大気中)で脱脂を行った後、表1、表2に示した焼成温度にて、露点−20℃の窒素水素混合雰囲気にて焼成した。
【0048】作製した配線基板における絶縁基板の相対密度をアルキメデス法によって測定するとともに、レーザーフラッシュ法によって熱伝導率(厚さ3mm)を測定した。
【0049】また、組織を走査型電子顕微鏡にて観察を行い、ビアホール周囲の組織観察を行った。その結果を表1、表2に示した。
【0050】
【表1】


【0051】
【表2】


【0052】表1、表2に示すように、絶縁基板中のMn2 3 の含有量が2重量%よりも低く、相対密度が95%よりも小さい試料No.1では、基板の熱伝導性が劣化し、絶縁性の低下も起こり、配線基板として使用できなくなった。また、焼成温度が低く相対密度が95%に満たない試料No.28も同様に基板の熱伝導性が低くなり配線基板全体の熱伝導性が低下した。
【0053】また、サーマルビアの導体において、Cu含有量が10体積%よりも少ない試料No.8では、配線基板全体における熱伝導率が60W/m・Kよりも小さくなり、また、表1、表2に示すビア径、間隔においてビア周辺の絶縁基板にクラックが観察された。またCu含有量が70体積%よりも多い試料No.16では、導体の保形性が悪くなるとともに、組織が不均一となるばかりでなくサーマルビア内の導体の欠落も発生するとともに、導体によるにじみおよび表面の配線層には一部剥離も観察された。
【0054】これらの比較例に対して、本発明の配線基板によれば、絶縁基板が相対密度95%、60W/m・K以上の熱伝導率を有し、しかもサーマルビアのにじみや導体の脱落の発生もなく、良熱伝導のサーマルビアを同時焼成によって形成することができた。
【0055】なお、上記本発明の配線基板において、EPMA(X線マイクロアナライザー)分析において、配線層の端部から同一平面内において、銅元素が検出される領域の最外部までの距離を10箇所測定したところ、各配線層の銅の拡散距離は平均で20μm以下と良好な特性を示した。
【0056】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明の配線基板によれば、高熱伝導性の酸化アルミニウムセラミックスからなる絶縁基板の表面から背面に貫通する大孔径並びに狭間隔のサーマルビアを同時焼成によって低抵抗の銅を含有する導体層として形成することができ、高信頼性の低抵抗、良熱伝導のサーマルビア形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の配線基板の一実施態様を示す概略断面図である。
【図2】本発明の配線基板におけるサーマルビアの形状を説明するための平面図である。
【符号の説明】
1 絶縁基板
1a,1b、1c 絶縁層
2a 表面配線層
2b 内部配線層
3 ビアホール導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】酸化アルミニウムを主成分とする相対密度95%以上のセラミックスからなる絶縁基板と、該絶縁基板の表面に搭載される発熱性素子から発生した熱を放熱するために前記絶縁基板表面から裏面に貫通するように形成された複数のサーマルビアを具備する配線基板において、前記サーマルビアを銅10〜60体積%、タングステン及び/もしくはモリブデンを40〜90体積%の割合で含有してなる良熱伝導体によって形成し、且つサーマルビアの最大径が200μm以上であるとともに、隣接するサーマルビア間の間隔が50〜300μmであることを特徴とする配線基板。
【請求項2】前記絶縁基板と前記サーマルビア中の良熱伝導体との40〜400℃における熱膨張係数差が5ppm/℃以下であることを特徴とする請求項1記載の配線基板。
【請求項3】前記サーマルビアの横断面形状が略楕円形状からなることを特徴とする請求項1記載の配線基板。
【請求項4】前記絶縁基板が、MnをMn2 3 換算で2.0〜10.0重量%の割合で含有することを特徴とする請求項1記載の配線基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−15869(P2001−15869A)
【公開日】平成13年1月19日(2001.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−185831
【出願日】平成11年6月30日(1999.6.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】