説明

酸化亜鉛基板の表面処理方法及び酸化亜鉛結晶の製造方法

【課題】表面の清浄度及び平坦性に優れた酸化亜鉛基板を得るための酸化亜鉛基板の表面処理方法、及び該方法で処理された酸化亜鉛基板を使用する酸化亜鉛結晶の製造方法の提供。
【解決手段】真空チャンバ13内で加熱された酸化亜鉛基板3の表面に、ガリウム蒸発源11からのガリウム分子線ビームを照射して、前記酸化亜鉛基板3の表面をエッチングすることを特徴とする酸化亜鉛基板3の表面処理方法;かかる方法で酸化亜鉛基板3の表面を処理し、次いでその表面において、亜鉛源6、プラズマ励起酸素源56により、酸化亜鉛結晶を成長させることを特徴とする酸化亜鉛結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の清浄度及び平坦性に優れた酸化亜鉛基板を得るための酸化亜鉛基板の表面処理方法、及び該方法で処理された酸化亜鉛基板の表面で結晶成長させる酸化亜鉛結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、酸化亜鉛結系半導体結晶の結晶成長には、サファイア(Al)基板が使用されてきた。しかし、サファイア基板は、酸化亜鉛系半導体とは格子定数が大きく異なるため、該基板上で酸化亜鉛結晶を成長させると、多くの結晶欠陥が生じ、得られた結晶は素子へ使用することが困難であった。
【0003】
一方、近年は、単結晶酸化亜鉛基板が実現され、酸化亜鉛系半導体の結晶成長への応用が期待されている。単結晶酸化亜鉛基板を使用して酸化亜鉛結晶を成長させることで、サファイア基板を使用した時の問題点である結晶欠陥の発生を低減できる。しかし、現在のところ、単結晶酸化亜鉛基板の表面の清浄度や平坦性が不十分であり、酸化亜鉛の結晶成長へ使用するのが困難なのが実状である。
【0004】
例えば、基板表面に異物があると、成長させる半導体結晶は、その異物を起源として結晶欠陥を生じるだけでなく、異物が不純物として半導体結晶内部に混入してしまう。このように結晶欠陥や不純物の混入が生じた半導体結晶は、結晶性や電気的特性が悪化してしまう。そこで通常は、半導体結晶成長に使用する基板の表面は、種々の方法で清浄化処理し、異物を除去している。
一方、基板表面が荒れていると、成長させる半導体結晶も、その荒れた基板表面の形状に起因して、表面が荒れてしまう。例えば、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)は、量子井戸構造と呼ばれる数原子層単位の非常に薄い薄膜を挟むような積層構造を備えるので、適用する薄膜も原子層単位で十分な平坦性を有することが必要となるからである。
したがって、半導体結晶を素子へ応用できるようにするためには、表面の清浄度と平坦性に優れた基板を使用して、半導体結晶を成長させることが重要である。
【0005】
これまでに、基板表面の清浄方法としては、例えば、酸化亜鉛基板の表面を塩酸でエッチングして不純物を除去する方法(非特許文献1参照)、酸化亜鉛基板の表面をトリフルオロ酢酸(TFA)でエッチングして不純物を除去する方法(非特許文献2参照)、金属酸化物基板を酸素雰囲気中で加熱処理してから、その表面を硝酸溶液でエッチングする方法(特許文献1参照)、酸化亜鉛基板を酸素雰囲気中で加熱処理してから、その表面をアルカリ溶液でエッチングする方法(特許文献2参照)、ガリウム酸化物基板の表面を真空チャンバ内で加熱処理する方法(特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−45354号公報
【特許文献2】特開2007−1787号公報
【特許文献3】特開2006−310850号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Appl.Phys.83(2),15,January 1998
【非特許文献2】Superlattices and Microstructures 38(2005)349−363
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に記載の方法では、酸化亜鉛基板の表面の極性によりエッチング速度が異なり、Zn極性面ではほとんどエッチングされないのに対し、O極性面では激しく表面を腐食してしまうという問題点があった。また、基板表面に結晶欠陥に起因する孔(ピット)が存在すると、そこからエッチングが加速度的に進行し、基板表面に大きなピットを形成してしまうという問題点があった。
非特許文献2に記載の方法では、O極性面でのエッチングしか開示されておらず、さらに、70nm以上のエッチング量になると表面が白濁してしまい、基板表面が荒れてしまうという問題点があった。
【0009】
一方、特許文献1に記載の方法は、ReScO(Reは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Cd、Tb、Dy、Ho及びYの一種以上を示す)からなる単結晶基板に対するものであり、酸化亜鉛基板を対象としたものではない。酸化亜鉛基板を酸素雰囲気中で加熱処理すると、基板表面に付着した重金属が基板表面の酸素(O)と結合して安定な酸化物層を形成してしまうので、清浄化できないし、形成された酸化物層も、種類によってはウエットエッチングで除去できない。
また、特許文献2に記載の方法では、アルカリ溶液のpHが高くなるとエッチング速度は上昇するが、基板表面の平坦性が悪化してしまう。さらに、ウエットエッチングは、溶液の状態やpHによってエッチング状態が大きく変化してしまい、基板表面の清浄度及び平坦性の再現性が得られ難い。このように、特許文献2に記載の方法では、表面の清浄度及び平坦性に優れた基板を容易に得られないという問題点があった。
また、特許文献3に記載の方法では、基板表面から酸素が脱離して、基板表面の平坦性を悪化させてしまう。特許文献3には、加熱処理後、基板表面にNビームを照射することも開示されているが、これは基板表面の清浄化ではなく、改質を目的としたものである。そして、特許文献3に記載の方法は、酸化亜鉛基板を対象としたものではない。
【0010】
さらに、これらウエットエッチングによる清浄化では、エッチング後に基板が大気に暴露されることが不可避であり、その後で基板を使用する時には、使用する装置内で再度清浄化する必要があるという問題点もあった。
これに対して、ドライプロセスで基板表面を清浄化する方法も検討されており、真空中でプラズマ処理する方法も開示されているが、プラズマが高エネルギーであるため、基板表面が荒れてしまうという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面の清浄度及び平坦性に優れた酸化亜鉛基板を得るための酸化亜鉛基板の表面処理方法、及び該方法で処理された酸化亜鉛基板を使用する酸化亜鉛結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、真空条件下で加熱された酸化亜鉛基板の表面に、ガリウム分子線ビームを照射して、前記酸化亜鉛基板の表面をエッチングすることを特徴とする酸化亜鉛基板の表面処理方法である。
請求項2にかかる発明は、前記真空条件下における圧力が、1.3×10−8〜5.3×10−3Paであることを特徴とする請求項1に記載の酸化亜鉛基板の表面処理方法である。
請求項3にかかる発明は、前記酸化亜鉛基板の加熱温度が600〜1000℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化亜鉛基板の表面処理方法である。
請求項4にかかる発明は、前記ガリウム分子線ビームの強度が1.3×10−8〜1.3×10−6Paであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板の表面処理方法である。
請求項5にかかる発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法で酸化亜鉛基板の表面を処理し、次いでその表面において、酸化亜鉛結晶を成長させることを特徴とする酸化亜鉛結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面の清浄度及び平坦性に優れた酸化亜鉛基板が得られる。また、該基板を使用して、素子への使用に好適な、高品質な酸化亜鉛結晶が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明で使用する、酸化亜鉛基板の表面の処理装置を例示する概略構成図である。
【図2】本発明で使用する、酸化亜鉛結晶の製造装置を例示する概略構成図である。
【図3】実施例1における基板表面のAFM像であり、(a)はエッチング前のAFM像、(b)は約40nmエッチングした後のAFM像である。
【図4】実施例1における基板表面のRHEED像であり、(a)はエッチング前のRHEED像、(b)は約40nmエッチングした後のRHEED像である。
【図5】実施例2における基板表面のAFM像であり、(a)はエッチング前のAFM像、(b)は数nmエッチングした後のAFM像である。
【図6】実施例2における基板表面のRHEED像であり、(a)はエッチング前のRHEED像、(b)は数nmエッチングした後のRHEED像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<酸化亜鉛基板の表面処理方法>
本発明の酸化亜鉛基板の表面処理方法は、真空条件下で加熱された酸化亜鉛基板の表面に、ガリウム(Ga)分子線ビームを照射して、前記酸化亜鉛基板の表面をエッチングすることを特徴とする。
真空条件下でGa分子線ビームにより基板表面をドライエッチングするという構成は、従来知られておらず、かかる構成を有する本発明により、素子への応用が可能な、これまでに無い高品質の酸化亜鉛結晶が提供される。
以下、図面を参照しながら、本発明について詳しく説明する。
【0016】
図1は、本発明で使用する処理装置を例示する概略構成図である。ここに示す処理装置1は、金属Ga蒸発源11、Ga蒸発源用電源12、真空チャンバ13、電子銃14及び蛍光スクリーン15を備える。金属Ga蒸発源11はさらにヒータ11aを備え、Ga蒸発用電源12と電気的に接続されており、ヒータ11aに通電することで、収納された金属Ga原料2が加熱できるようになっている。また、電子銃14及び蛍光スクリーン15は、反射型高速電子線回折装置(RHEED)を構成するものである。
【0017】
本発明においては、処理装置1を使用して、例えば、以下に示す分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy)法(以下、MBE法と略記する)により、酸化亜鉛基板の表面を処理できる。
真空チャンバ13内の所定箇所に酸化亜鉛基板3を設置し、減圧して真空条件下で金属Ga原料2をヒータで加熱する。これにより、固体の蒸気圧曲線に従い、金属Ga原料2からGa分子線ビームが放出される。このGa分子線ビームを酸化亜鉛基板3の表面に照射することで、該表面を還元してエッチングする。この時、電子銃14から酸化亜鉛基板3の表面に電子線を照射し、その回折像を蛍光スクリーン15で検出することで、エッチング時の酸化亜鉛基板3の表面状態をリアルタイムで観察できる。
【0018】
本発明においては、必ずしも電子銃14及び蛍光スクリーン15を使用する必要はないが、これらを使用して基板表面を観察しながらエッチングすることで、酸化亜鉛基板3の表面処理を一層容易に行うことができる。また、基板表面は、RHEED以外の装置を使用して観察しても良い。
【0019】
前記真空条件下での圧力は、1.3×10−8〜5.3×10−3Pa(1.0×10−10〜4.0×10−5Torr)であることが好ましく、1.3×10−8〜1.3×10−6Pa(1.0×10−10〜1.0×10−8Torr)であることがより好ましい。真空度が高いほど好ましいが、上記範囲の下限値が概ね一般的な真空チャンバにて実現可能な最も低い圧力である。また、上記範囲の上限値以下の圧力とすることで、エッチングを十分に行うことができる。通常、圧力が上記範囲の上限値を超えると、Ga分子線ビームの照射が困難となる。
【0020】
前記酸化亜鉛基板の真空条件下での加熱温度は600〜1000℃であることが好ましい。600℃以上とすることで、エッチングを十分に行うことができる。通常、加熱温度が600℃未満では、基板表面からのGa酸化物の脱離が不十分となる。また、1000℃以下とすることで、加熱による酸化亜鉛基板表面からの酸素や亜鉛の脱離を十分に抑制でき、基板表面の平坦性を一層高くできる。
【0021】
照射する前記Ga分子線ビームの強度は、1.3×10−8〜1.3×10−6Pa(1.0×10−10〜1.0×10−8Torr)であることが好ましい。下限値以上とすることで、Ga分子線ビームの強度を明確に確認でき、照射を容易に制御できると共に、エッチングを十分に行うことができる。また、上限値以下とすることで、基板表面でのGa酸化物の残存を効果的に抑制できる。
【0022】
エッチング速度は、Ga分子線ビームの強度と基板の温度を変化させることで制御できる。本発明においては、エッチング速度は特に限定されないが、基板表面の平坦性を一層高くできることから、5〜40nm/時間であることが好ましく、10〜30nm/時間であることがより好ましい。
【0023】
基板表面のエッチングの深さは、本発明の効果を損なわない範囲内において特に限定されない。通常は、50nm以下程度で十分であり、10nm以下でも良い。
【0024】
Ga分子線ビームの照射に供する酸化亜鉛基板は、Ga分子線ビームによるエッチングを一層高精度に行うために、表面に付着している異物を予め除去しておくことが好ましい。例えば、有機物等は、脱脂処理を行うことで除去すれば良い。
【0025】
本発明においては、酸化亜鉛基板のO極性面及びZn極性面のいずれについても、精密にエッチングできる。その結果、酸化亜鉛基板の表面の平坦性を極めて高くでき、例えば、表面のRMS粗さを1nm以下とすることができる。
【0026】
酸化亜鉛基板の表面の処理装置は、図1に示すものに限定されず、真空条件下で酸化亜鉛基板を加熱し、Ga分子線ビームを照射できるものであれば良い。本発明により表面処理された酸化亜鉛基板は、酸化亜鉛結晶の製造への使用に好適である。したがって、後記するように、処理装置は、酸化亜鉛結晶を製造するための構成もあわせて備えたものが好適である。この場合、金属Gaは、酸化亜鉛結晶においてn型伝導性を発現させるためのドーパントでもあるので、基板表面を処理した後に、直ちにGaドープ酸化亜鉛結晶を成長させることもでき、製造工程の簡略化が可能となる。
【0027】
本発明により表面処理された酸化亜鉛基板は、表面の清浄度が高いので、これを使用して結晶成長させた酸化亜鉛結晶は、結晶欠陥及び不純物の混入が抑制された高品質なものとなる。また、かかる酸化亜鉛基板は、上記のように表面の平坦性にも優れるので、原子層単位で十分な平坦性を有する酸化亜鉛結晶が得られる。
【0028】
<酸化亜鉛結晶の製造方法>
本発明の酸化亜鉛結晶の製造方法は、上記本発明の方法で酸化亜鉛基板の表面を処理し、次いでその表面において、酸化亜鉛結晶を成長させることを特徴とする。
本発明においては、酸化亜鉛結晶の成長を行う酸化亜鉛基板として、本発明により表面処理された酸化亜鉛基板を使用すること以外は、公知の方法で結晶成長させれば良い。
【0029】
図2は、本発明で使用する製造装置を例示する概略構成図である。ここに示す製造装置5は、図1に示す処理装置1に、酸化亜鉛結晶を成長させるための構成を付加したものである。具体的には、金属亜鉛(Zn)蒸発源51、Zn蒸発源用電源52を備え、金属Zn蒸発源51はさらにヒータ51aを備え、Zn蒸発源用電源52と電気的に接続されており、ヒータ51aに通電することで、収納された金属Zn原料6を加熱できるようになっている。また、酸素(O)プラズマ供給源56及びRF電源57を備え、これらは電気的に接続されており、さらにOプラズマ供給源56は、酸素(O)用バルブ58を介して配管で酸素(O)源7と接続されており、RF電源57によって励起されたRFプラズマでOラジカルが発生するようになっている。なお、図2においては、図1で示した処理装置1と同様の構成については、同一の符号を付し、それらの詳細な説明は省略する。
【0030】
本発明においては、製造装置5を使用して、例えば、以下に示すように酸化亜鉛結晶を製造できる。
まず、上記方法により酸化亜鉛基板3の表面処理を行う。次いで、処理された酸化亜鉛基板を製造装置5から取り出すことなく、そのまま加熱を継続する。この時の加熱温度は、酸化亜鉛の結晶成長に必要な温度であれば特に限定されず、例えば、表面処理時の温度と同様でも良い。そして、金属Zn原料6を加熱して、これを真空チャンバ13内へ供給する。この時同時に、O用バルブ58を開放して、O源7から真空チャンバ13内へ酸素(O)ガスを供給する。そして、真空チャンバ13内のO分圧を所定の範囲に設定し、RF電源57を制御して発生させた高周波により、所定の出力でRFプラズマを励起して発生させたOプラズマを、Oプラズマ供給源56から真空チャンバ13内へ供給する。これにより、処理済みの酸化亜鉛基板の表面に、ZnとOプラズマが供給され、酸化亜鉛結晶を成長させることができる。
【0031】
酸化亜鉛結晶の製造装置は、図2に示すものに限定されず、本発明による酸化亜鉛基板の表面処理と、酸化亜鉛結晶の成長を行う構成を有するものであれば良い。
また、結晶成長時のO分圧やOプラズマを発生させる条件は、適宜公知の方法に従って調整すれば良い。
【0032】
本発明により製造された酸化亜鉛結晶は、結晶欠陥及び不純物の混入が抑制され、表面の平坦性にも優れるので、結晶性及び電気的特性に優れ、各種素子への利用に特に好適なものである。
【実施例】
【0033】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(O極性単結晶酸化亜鉛基板の表面処理)
図1に示す処理装置を使用して、MBE法により、単結晶酸化亜鉛基板のO極性面を表面処理した。まず、O極性単結晶酸化亜鉛基板を脱脂処理し、真空チャンバ内に設置して、1.3×10−8Pa(1×10−10Torr)の超高真空状態とし、650℃に加熱した。そして、蒸発源用電源を制御し、ヒータに通電し、金属Ga原料を785℃に加熱した。金属Ga原料は、固体の蒸気圧曲線に従い、金属Ga蒸発源から金属Ga分子線ビームとなって、加熱された酸化亜鉛基板の表面に照射された。この時の金属Ga分子線の強度は、1.2×10−6Pa(9.0×10−9Torr)であった。また、エッチング速度は20nm/時間であった。この状態で、RHEEDにより基板表面の状態を観察しながら、表面処理を行った、図3に基板表面のAFM像を示す。図3(a)はエッチング前のAFM像、(b)は約40nmエッチングした後のAFM像である。図3(b)から明らかなように、エッチング後の基板表面は清浄度が高く、しかもRMS粗さは約0.8nmであり、極めて平坦性が高いことが確認された。また、図4に基板表面のRHEED像を示す。図4(a)はエッチング前のRHEED像、(b)は約40nmエッチングした後のRHEED像である。図4(b)から、エッチング後では、(2×2)の表面再構成が観察され、酸化亜鉛結晶の成長に大きな影響を与える最表面の未結合手の活性度が高いことが確認された。
【0034】
[実施例2]
(Zn極性単結晶酸化亜鉛基板の表面処理)
Zn極性単結晶酸化亜鉛基板を使用し、実施例1と同様に、単結晶酸化亜鉛基板のZn極性面を表面処理した。図5に基板表面のAFM像を示す。図5(a)はエッチング前のAFM像、(b)は数nmエッチングした後のAFM像である。図5(b)から明らかなように、エッチング後の基板表面は清浄度が高く、しかもRMS粗さは約0.2nmであり、極めて平坦性が高いことが確認された。また、図6に基板表面のRHEED像を示す。図6(a)はエッチング前のRHEED像、(b)は数nmエッチングした後のRHEED像である。図6から、バックグラウンドにある表面の結晶状態が不均一であることに起因するハローパターンが減少し、表面の平坦性が高い場合に観測されるストリークパターンが確認された。
【0035】
[実施例3]
(表面処理されたO極性単結晶酸化亜鉛基板を使用した酸化亜鉛半導体結晶の成長)
実施例1と同様の方法で、単結晶酸化亜鉛基板のO極性面を表面処理し、エッチング後に、(2×2)の表面再構成を確認した。
次いで、基板の温度を650℃に保持したまま、酸化亜鉛半導体結晶の成長を行った。原料となる亜鉛(Zn)は、金属Zn蒸発源用電源を制御してヒータに通電し、金属Zn原料を加熱して、金属Zn蒸発源から真空チャンバ内に供給した。一方、酸素(O)は、バルブを操作して酸素源から供給される酸素(O)ガスを真空チャンバ内に導入することで供給した。この時、真空チャンバ内のO分圧を2.7×10−3Pa(2.0×10−5Torr)に設定し、RF電源により発生する13.56MHzの高周波で、RFプラズマを300Wの出力で励起し、これによりOラジカルを発生させた。このOラジカルを、Oプラズマ供給源から、単結晶酸化亜鉛基板の処理された表面に供給して、酸化亜鉛半導体結晶の成長を行った。
製造された酸化亜鉛結晶は、結晶欠陥がなく、不純物の混入が抑制され、表面の平坦性に優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、優れた電気的特性が求められる各種素子の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・酸化亜鉛基板の表面の処理装置、2・・・金属Ga原料、3・・・酸化亜鉛基板、6・・・金属Zn原料、7・・・O源、11・・・金属Ga蒸発源、11a・・・ヒータ、12・・・Ga蒸発源用電源、13・・・真空チャンバ、51・・・金属Zn蒸発源、51a・・・ヒータ、52・・・Zn蒸発源用電源、56・・・Oプラズマ供給源、57・・・RF電源、58・・・O用バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空条件下で加熱された酸化亜鉛基板の表面に、ガリウム分子線ビームを照射して、前記酸化亜鉛基板の表面をエッチングすることを特徴とする酸化亜鉛基板の表面処理方法。
【請求項2】
前記真空条件下における圧力が、1.3×10−8〜5.3×10−3Paであることを特徴とする請求項1に記載の酸化亜鉛基板の表面処理方法。
【請求項3】
前記酸化亜鉛基板の加熱温度が600〜1000℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化亜鉛基板の表面処理方法。
【請求項4】
前記ガリウム分子線ビームの強度が1.3×10−8〜1.3×10−6Paであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化亜鉛基板の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法で酸化亜鉛基板の表面を処理し、次いでその表面において、酸化亜鉛結晶を成長させることを特徴とする酸化亜鉛結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−251633(P2010−251633A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101681(P2009−101681)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】