説明

酸化物半導体材料及びその製造方法、電子デバイス及び電界効果トランジスタ

【課題】 実用に耐え得る酸化物半導体材料、これを用いた電界効果トランジスタ等の電子デバイス、及び酸化物半導体材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 この酸化物半導体材料の製造方法では、Zn及びSnを含有する酸化物ターゲットを用意し、基板をチャンバ内に配置し、酸化物ターゲットをチャンバ内に配置する。酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすることによりターゲット材料を基板上に堆積する。この酸化物半導体材料は、Inを含有せず、且つ、電子キャリア濃度が1×1015/cmより大きく1×1018/cm未満となるようにする。スパッタ時においては、酸化物ターゲットと同時にスパッタされる位置に、ドーパント材料を更に配置することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体活性層として機能する酸化物半導体材料及びその製造方法、及びこれを用いた電界効果トランジスタ等の電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物半導体材料は、電界効果トランジスタ等の電子デバイスの材料として用いられている。電界効果トランジスタとしては、薄膜トランジスタ(TFT)等が例示され、これらの電子デバイスは、液晶ディスプレイやELの駆動素子として用いられている。従来のTFTでは、ガラス基板上に非晶質(アモルファス)や多結晶のSi層を形成し、このSi層の両端にソース電極及びドレイン電極を設け、Si層の中央又は裏面側にゲート電極を設けている。このような電子デバイスに適用できる材料として、幾つかのものが試みられている。
【0003】
特許文献1には、基板上に、下地膜、ZnOからなる酸化物半導体膜、ゲート絶縁膜、及びゲート電極を順次形成してなるTFTが開示されている。ZnOを材料とした酸化物半導体膜は、結晶の形成温度を低減することができる。なお、ZnOにおいては、酸素欠陥が発生しやすく、キャリア電子が多数発生する。
【0004】
特許文献2には、ZnIn(x+3y/2+3z/2)(MはAl又はGa:x,y,zは、適当な係数)からなる非晶質酸化物膜の電極材料が開示されており、この非晶質酸化物膜の電子キャリア濃度は1×1018/cm以上であり、透明電極として好適とされる。すなわち、このようなInを含有する酸化物においては、キャリア電子が多数発生しやすいことを利用して、導電性の高い膜の形成を行うことが知られている。
【0005】
特許文献3には、電子キャリア濃度が1×1018/cm未満の非晶質酸化物膜をチャネル(半導体活性層)に用いたTFTが開示されている。具体的には、非晶質酸化物膜としてInGaO(ZnO)(mは、適当な係数)を用いている。すなわち、InGaO(ZnO)の場合には、成膜時の酸素雰囲気の条件を制御することで、電子キャリア濃度を1×1018/cm未満とすることが可能である旨が記載されている。さらには、不純物イオンを意図的に添加せず、酸素ガスを含む雰囲気中で成膜することが好ましいとの知見が開示され、より具体的には、酸素分圧6.5Pa未満の雰囲気で、透明アモルファス酸化物薄膜を作製して、ノーマリーオフのトランジスタを構成することができることが開示されている。
【0006】
特許文献4には、チャネルの少なくとも一部がZnSnから形成されたTFTが開示されており、これは電子キャリア濃度が1×1018cmを超えるものである。
【0007】
すなわち、従来の電子デバイスでは、例えばTFTにおけるチャネルの酸化物半導体材料として、ZnO(特許文献1)、InGaO(ZnO)(特許文献3)、ZnSn(特許文献4)が知られており、また、例えば、透明電極材料等の酸化物半導体材料としては、ITO(Indium Tin Oxide)が代表的であり、他にも、ZnIn(x+3y/2+3z/2)(特許文献2)、InGaO(ZnO)(特許文献3)等のInを含有する酸化物半導体材料が知られている。
【特許文献1】特開2003−298062号公報
【特許文献2】特開2000−044236号公報
【特許文献3】特開2006−165532号公報
【特許文献4】特表2006−528843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらに提案されている酸化物半導体材料においては、電子キャリア濃度は低くし難く、半導体というよりもむしろ導電体の特性を示してしまう点、換言すれば、従来の上記酸化物半導体材料においては、導電率を低くし難いことにより、バイアス条件によって導体及び絶縁体双方の機能を有する半導体として機能し難い点で十分とは言えず、このような酸化物半導体材料を例えば電界効果トランジスタにおけるチャネル(半導体活性層)に用いた場合には、それがチャネルとして十分に機能するノーマリーオフの電界効果トランジスタを得ることが困難であった。また、酸化物半導体材料に含有され、用いられることがあったInは、希少金属資源であることから、Inを含有しない酸化物半導体材料が求められていた。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、実用に耐え得る酸化物半導体材料、これを用いた電界効果トランジスタ等の電子デバイス、及び酸化物半導体材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る酸化物半導体材料、電界効果トランジスタ等の電子デバイス及び酸化物半導体材料の製造方法は以下の構成を備えることを特徴とする。
【0011】
第1の発明に係る酸化物半導体材料は、Zn及びSnを含有し、Inを含有せず、且つ、電子キャリア濃度が1×1015/cmより大きく1×1018/cm未満であることを特徴とする。
【0012】
第2の発明に係る酸化物半導体材料は、ドーパントを更に含有することを特徴とする。
【0013】
第3の発明に係る酸化物半導体材料においては、ドーパントは、Al、Zr、Mo、Cr、W、Nb、Ti、Ga、Hf、Ni、Ag、V、Ta、Fe、Cu、Pt、Si及びFからなる元素群から選択される元素を少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0014】
第4の発明に係る酸化物半導体材料は、非晶質であることを特徴とする。
【0015】
第5の発明に係る電子デバイスは、酸化物半導体材料からなる半導体層と、半導体層に設けられた電極とを備えることを特徴とする。
【0016】
第6の発明に係る電界効果トランジスタは、酸化物半導体材料からなる半導体層と、半導体層に設けられ互いに離隔したソース電極及びドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極との間に位置する半導体層の領域に、バイアス電位を与えることが可能な位置に設けられたゲート電極とを備えることを特徴とする。
【0017】
第7の発明に係る酸化物半導体材料の製造方法は、Zn及びSnを含有する酸化物ターゲットを用意する工程と、基板をチャンバ内に配置する工程と、酸化物ターゲットをチャンバ内に配置する工程と、チャンバ内に配置された酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすることによりターゲット材料を基板上に堆積する工程とを備え、スパッタ時において、酸化物ターゲットと同時にスパッタされる位置に、ドーパント材料が更に配置されていることを特徴する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の酸化物半導体材料によれば、実用に耐え得る低電子キャリア濃度を有しており、その製造方法によればかかる酸化物半導体材料を容易に製造することができ、この酸化物半導体材料を用いた電界効果トランジスタ等の電子デバイスは実用的に用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
第1の発明に係る酸化物半導体材料は、Zn及びSnを含有し、Inを含有せず、且つ、電子キャリア濃度が1×1015/cmより大きく1×1018/cm未満であることを特徴とする。
【0020】
本願発明者らによって、Inを含有していないにも拘わらず、電子キャリア濃度が1×1015/cmより大きく1×1018/cm未満であるZn−Sn−O系の酸化物半導体材料が提供された。この酸化物半導体材料によれば、電子キャリア濃度が適切な範囲にあり、このような酸化物半導体材料を用いた場合には、半導体活性層として十分に機能することから、特にノーマリーオフの電界効果トランジスタ等の電子デバイスに好適に用いることができる。
【0021】
第2の発明に係る酸化物半導体材料は、ドーパントを更に含有することを特徴とする。
【0022】
酸化物半導体材料は、酸素を既に含有しているが、酸素以外の元素であるドーパントを更に含有することにより、低い電子キャリア濃度、すなわち十分に高いシート抵抗を有する、より実用的な酸化物半導体材料を得ることができる。
【0023】
第3の発明に係る酸化物半導体材料においては、ドーパントは、Al、Zr、Mo、Cr、W、Nb、Ti、Ga、Hf、Ni、Ag、V、Ta、Fe、Cu、Pt、Si及びFからなる元素群から選択される元素を少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0024】
これらの元素をドーパントとして用いた場合、十分に高いシート抵抗を有するより実用的な酸化物半導体材料を得ることができる。
【0025】
第4の発明に係る酸化物半導体材料は、非晶質であることを特徴とする。
【0026】
すなわち、酸化物半導体材料が非晶質の場合には、高いシート抵抗を有する酸化物半導体材料を得ることができ、好ましい。
【0027】
第5の発明に係る電子デバイスは、酸化物半導体材料からなる半導体層と、半導体層に設けられた電極とを備えることを特徴とする。
【0028】
この電子デバイスは、酸化物半導体材料が上述のように十分な特性を有するので、電極を通じて半導体層内を流れる電流をバイアス電位によって制御することができ、好ましい。
【0029】
第6の発明に係る電界効果トランジスタは、酸化物半導体材料からなる半導体層と、半導体層に設けられ互いに離隔したソース電極及びドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極との間に位置する半導体層の領域に、バイアス電位を与えることが可能な位置に設けられたゲート電極とを備えることを特徴とする。
【0030】
この電界効果トランジスタでは、ソース電極とドレイン電極との間に位置する半導体層に所定のバイアス電位を与えると、ソースとドレインの間にチャネルが形成され、ソースとドレインの間に電流が流れる。半導体層のこの領域の抵抗は、上記の如く、バイアス電位を与えない状態では高いため、十分に電界効果トランジスタとして機能させることができ、好ましい。また、本発明における酸化物半導体材料を、液晶ディスプレイ等の画素内に形成されるTFTに用いる場合には、該酸化物半導体材料が透明となることにより、画素の実質的な開口率を増加させることができる。
【0031】
本発明において、酸化物半導体材料は、Zn及びSnを含有する酸化物ターゲットを用意する工程と、基板をチャンバ内に配置する工程と、酸化物ターゲットをチャンバ内に配置する工程と、チャンバ内に配置された酸化物ターゲットを希ガスでスパッタし、スパッタされたターゲット材料を基板上に堆積する工程とを備え、上記スパッタ時において、チャンバ内に酸素ガスを導入する工程を更に備え、希ガスと酸素ガスの混合ガス中に含まれる酸素ガスの体積の割合を適宜設定することにより、製造することができる。
【0032】
酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすると、ターゲット材料が基板上に堆積される。スパッタ時には酸素ガスがチャンバ内に希ガスと共に導入されていてもよい。
【0033】
第7の発明に係る酸化物半導体材料の製造方法は、Zn及びSnを含有する酸化物ターゲットを用意する工程と、基板をチャンバ内に配置する工程と、酸化物ターゲットをチャンバ内に配置する工程と、チャンバ内に配置された酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすることによりターゲット材料を基板上に堆積する工程とを備え、スパッタ時において、酸化物ターゲットと同時にスパッタされる位置に、ドーパント材料が更に配置されていることを特徴する。ドーパント材料としては、前記のドーパントからなる材料、前記のドーパントを含有する酸化物、フッ化物などが例示される。
【0034】
酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすると、ターゲット材料が基板上に堆積される。このターゲット内又はその近傍にはドーパント材料が配置されているので、スパッタして製造された酸化物半導体材料には当該ドーパントが更に含有されている。したがって、酸化物半導体材料は、電子デバイスの実用に耐えるシート抵抗を有することとなり、好ましい。このドーパントの元素としては、上述のものを採用することができる。
【0035】
以下、実施の形態に係る酸化物半導体材料及びこれを用いた薄膜トランジスタ(電界効果トランジスタ:電子デバイス)について、より具体的に説明する。なお、説明において、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0036】
図1は薄膜トランジスタ10の平面図であり、図2は図1に示した薄膜10のII−II矢印断面図である。
【0037】
ゲート電極1G上に、ゲート絶縁層1C、及び、離隔配置されたソース電極1S及びドレイン電極1Dが順次積層され、基板1を構成している。基板1上には、酸化物半導体材料Xからなる半導体層2が堆積されている。ソース電極1Sとドレイン電極1Dとの間の半導体層2の領域は、薄膜トランジスタ10のチャネルとして機能する。
【0038】
薄膜トランジスタ10のソース電極1Sとドレイン電極1Dとの間の距離であるチャネル長L、ソース電極1S又はドレイン電極1Dの幅であるチャネル幅Wは、本例では、以下のように設定されている。
・チャネル長L=20μm
・チャネル幅W=1mm
【0039】
この薄膜トランジスタ10は、N型の酸化物半導体材料Xからなる半導体層2と、半導体層2に設けられた電極(ソース電極1S又はドレイン電極1D)とを備えている。薄膜トランジスタ10は、酸化物半導体材料Xが下記のように十分な特性を有するので、電極を通じて半導体層2内を流れる電流をバイアス電位によって制御することができる。半導体層2と一方の電極とをショットキ接触させ、他方の電極をオーミック接触させれば、双方の電極間の印加電圧に応じて酸化物半導体材料X内を流れる電流を制御することができる電子デバイスとして、ショットキダイオードを構成することができる。
【0040】
なお、本例では、この電子デバイスは薄膜トランジスタ10であり、酸化物半導体材料からなる半導体層2と、半導体層2に設けられ互いに離隔したソース電極1S及びドレイン電極1Dと、ソース電極1Sとドレイン電極1Dとの間に位置する半導体層2の領域に、バイアス電位を与えることが可能な位置に設けられたゲート電極1Gとを備えている。
【0041】
薄膜トランジスタ10では、ソース電極1Sとドレイン電極1Dとの間に位置する半導体層2に所定のバイアス電位を与えると、ソースとドレインの間にチャネルが形成され、ソースとドレインの間に電流が流れる。半導体層2のこの領域の抵抗は、上記の如く、バイアス電位を与えない状態では高いため、十分に電界効果トランジスタとして機能させることができる。
【0042】
ソース電極1S及びドレイン電極1Dに接触する半導体領域はN型であり、通常は半導体層の抵抗によってN型のチャネルには電流が流れず、ゲート電圧の印加によって、チャネル断面積が増加し、ゲート電圧の増加に伴ってチャネルを流れる電流量が増加する。本例では、半導体層の抵抗値は十分に高く、実質的にノーマリーオフ型の薄膜トランジスタとして機能している。
【0043】
ソース電極1S及びドレイン電極1Dと半導体層2とは、オーミック接触しているものとし、この接触領域がソース及びドレインを構成しているものとする。なお、本実施形態の半導体層と、Auのフェルミレベルは比較的類似しており、電荷注入の問題は少ないことが、理研計器社製の大気中光電子分光装置AC2によって確認されている。
【0044】
薄膜トランジスタ10を構成する各要素の材料は、以下の通りである。
・ゲート電極1G:Si
・ゲート絶縁層1C:SiO
・ソース電極1S:Au/Cr
・ドレイン電極1D:Au/Cr
・半導体層2:酸化物半導体材料X
【0045】
なお、ゲート電極1Gを構成するSiには、高濃度にドーパントが添加されており、ゲート電極1Gは金属に近い導電性を有している。
【0046】
次に、酸化物半導体材料Xについて説明する。
【0047】
酸化物半導体材料Xは、Zn及びSnを含有する非晶質の化合物半導体であり、Zn−Sn−O膜(Zn:Sn:Oの組成比は2:1:4)からなる。酸化物半導体材料Xは、Zn、Sn及びOが化合しているが、Inは含有しておらず、且つ、電子キャリア濃度Cが1×1015/cmより大きく1×1018/cm未満である。なお、Inを含有していないとは、これを意図的に添加することなく、Inを実質的に含有していないという意味であり、酸化物半導体材料X内におけるInの含有量は0.01重量%未満である。
【0048】
詳説すれば、酸化物半導体材料Xの物性は、ドーパントとしての元素Dの存在の有無によって、以下のタイプI(元素Dを含有せず)と、タイプII(元素Dを含有する)に分類できる。元素Dは、酸素以外の元素である。また、半導体層中のZn及びSnは主成分であり、これらの各元素の重量の和の全体重量に対する割合はタイプI(元素Dを含有せず)の場合は、78重量%以上である。
【0049】
(タイプI)
ドーパントとしての元素Dが含有されていない場合には、以下の通りである。なお、Vsはボルト秒を示す単位である。
・構成元素:Zn,Sn,O
・電子キャリア濃度C:1×1015/cm<C<1×1018/cm
・膜厚t:10nm≦t≦1000nm
・結晶性:非晶質
・シート抵抗R:10Ω/sq.≦R≦10Ω/sq.
・移動度μ:1cm/Vs≦μ
・Inの含有量WIn:WIn≒0(重量%)
【0050】
(タイプII)
酸化物半導体材料Xの物性は、ドーパントとしての元素Dが含有されている場合には、以下の通りである。
・構成元素:Zn,Sn,O
・電子キャリア濃度C:1×1015/cm<C<1×1018/cm
・膜厚t:10nm≦t≦1000nm
・結晶性:非晶質
・シート抵抗R:10Ω/sq.≦R≦10Ω/sq.
・移動度μ:1cm/Vs≦μ
・Inの含有量WIn:WIn≒0(重量%)
・ドーパント:元素D
・ 元素Dの濃度C:0モル%<C≦10モル%
但し、C=((Dのモル数)/(Dのモル数+Znのモル数+Snのモル数))×100%
【0051】
本願発明者らによって、初めて、Inを含有していないにも拘わらず、電子キャリア濃度Cが1×1015/cmより大きく1×1018/cm未満であるZn−Sn−O系のタイプI及びタイプIIの酸化物半導体材料Xが提供された。この酸化物半導体材料Xによれば、電子キャリア濃度Cが低下しているため、キャリアの移動度μが実用的に使用できる程度に高くなる。
【0052】
すなわち、電子キャリア濃度Cが1×1018/cm未満、1×1015/cmより大きい場合には、酸化物半導体材料Xにおける導電性が適切な範囲となり、バイアスの有無によって導電性と絶縁性が転換する半導体活性層として機能する。
【0053】
電子キャリア濃度Cの更に好ましい範囲は1016/cm以上1017/cm以下であり、Cが下限値以上の場合にはON電流が大きくなるという効果があり、上限値以下の場合にはOFF電流が小さくなるという効果があり、ON電流とOFF電流の比を大きくすることが出来る。
【0054】
また、タイプIIの酸化物半導体材料Xは、酸素以外の元素からなるドーパントとなる元素Dを更に含有している。酸化物半導体材料X内には、酸素が既に含有されているが、酸素以外の元素である元素Dを酸化物半導体材料X内に添加しても、実用的に低い電子キャリア濃度C、すなわち十分に高いシート抵抗Rを有する酸化物半導体材料を得ることができる。半導体層の経時安定性、TFTの製造のしやすさなどから、酸化物半導体材料Xは、ドーピング元素Dが含有されてなる酸化物であることが好ましい。
【0055】
元素Dとしては、以下の金属元素D1、半金属元素D2、及び、非金属元素D3からなる元素群から選択される少なくとも1種の元素を採用することができる。
(元素D)
・金属元素D1:Al、Zr、Mo、Cr、W、Nb、Ti、Ga、Hf、Ni、Ag、V、Ta、Fe、Cu、及びPtからなる群から選ばれた少なくとも1種
・半導体元素D2:Si
・非金属元素D3:F
【0056】
上述の元素Dをドーパントとして用いた場合、十分に高いシート抵抗を有する酸化物半導体材料を得ることができる。
【0057】
また、本実施形態の酸化物半導体材料Xの結晶性は非晶質である。本願発明者によれば、酸化物半導体材料Xが少なくとも非晶質の場合には、実用的な酸化物半導体材料を得ることができる旨が確認できたが、移動度は結晶性の向上に伴って増加するという一般的な傾向があるため、酸化物半導体材料Xが多結晶又は単結晶であっても十分な移動度を有するものと考えられる。
【0058】
上述の酸化物半導体材料は、以下の(工程1)〜(工程4)を順次実行することによって製造される。なお、工程2と工程3の順番は逆にすることができる。
(工程1)Zn及びSnを含有する酸化物ターゲットを用意する工程
(工程2)基板をチャンバ内に配置する工程
(工程3)酸化物ターゲットをチャンバ内に配置する工程
(工程4)チャンバ内に配置された酸化物ターゲットを希ガスでスパッタし、スパッタされたターゲット材料を基板上に堆積する工程
【0059】
(タイプI)
ここで、(タイプI)の場合、(工程4)におけるスパッタ時において、チャンバ内に酸素ガスが導入されている。希ガスと酸素ガスの混合ガス中に含まれる酸素ガスの体積の割合CGAS(vol%)は、0%よりも大きく20%以下とすればよい。また、(タイプII)の場合には、CGAS(vol%)は、0%以上20%以下とすればよい。
【0060】
酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすると、ターゲット材料が基板上に堆積される。スパッタ時には酸素ガスがチャンバ内に希ガスと共に導入されている。
【0061】
Zn−Sn−O系の酸化物半導体材料から構成される膜は、酸素空孔が生じるとこの酸素空孔は電子キャリアを生じさせるが、膜形成時であるスパッタ時に酸素ガスが所定量導入されているので、酸素空孔が減少し、したがって、電子キャリア濃度が実用に耐える程度に低下する。
【0062】
図6は、酸素濃度CGAS(vol%)と電子キャリア濃度(cm−3)の関係を示すグラフであり、CGASが0vol%〜0.1vol%の場合を示している。また、図7も、酸素濃度CGAS(vol%)と電子キャリア濃度(cm−3)の関係を示すグラフであり、CGASが0vol%〜10vol%の場合を示している。
【0063】
GAS(vol%)が0.1vol%以上10vol%以下の場合には、半導体層2は無バイアス時に十分な絶縁性を有していることが確認されており、上記のように、0vol%、0.1vol%、1vol%、10vol%の場合の電子キャリア濃度の関係をグラフ化して電子キャリア濃度を予測すると、酸素濃度CGASが0.07vol%以上の場合にはリークが生じない程度の電子キャリア濃度(=1×1018cm−3)以下にすることが予測され、酸素濃度CGASが20vol%以下の場合にはON電流を大きく出来るという効果がある。
【0064】
GAS(vol%)は0.5vol%以上5vol%以下である場合が更に好ましく、この場合には、CGAS(vol%)が下限値以上の場合にはさらにOFF電流を小さく出来るという効果があり、上限値以下の場合にはさらにON電流を大きく出来るという効果がある。特に、CGAS(vol%)が1vol%以上では、電子キャリア濃度の濃度に対する変化率が急激に低下しており、電子キャリア濃度を高精度に制御することができる。
【0065】
(タイプII)
また、(タイプII)の場合、ターゲット内又はその近傍には酸素以外のドーパントが配置されており、スパッタされたターゲット材料内には当該ドーパントが更に含有されている。酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすると、ターゲット材料が基板上に堆積される。このターゲット材料にはドーパントが更に含有されているので、堆積されたターゲット材料は、電子デバイスの実用に耐えるシート抵抗を有することとなる。このドーパントの元素としては、上述のものを採用することができる。
【0066】
また、(タイプII)の場合、酸素を含まない希ガスでスパッタした時に、酸化物半導体材料中の電子キャリア濃度が最適になるように酸化物半導体材料中にドーパントが含有されるようにしても良いし、酸化物半導体材料中のドーパントを少なくして、酸素を含まない希ガスでスパッタした時は、電子キャリア濃度が多くなってしまうが、酸素を含ませた希ガス中でスパッタすることにより電子キャリア濃度を減らして酸化物半導体材料中の電子キャリア濃度を最適値になるようにしても良い。
【0067】
以下、各工程について、詳説する。
【0068】
(工程1):酸化物ターゲット製造工程
【0069】
酸化亜鉛(ZnO)粉末および酸化錫(SnO)粉末をZn:Snのモル比がM1:M2となるように秤量し、乾式ボールミルにより混合する。得られた混合粉末をアルミナ製のルツボに入れて酸素雰囲気中においてT1(℃)でH1(時間)保持して仮焼し、乾式ボールミルにより粉砕する。得られた仮焼粉末を、金型を用いて一軸プレスによりG1(kg/cm)の圧力で円板状に成形した後、さらに、冷間静水圧プレス(CIP)でG2(kg/cm)の圧力で加圧する。得られた成形体を酸素雰囲気中において、圧力P1(hPa)、T2(℃)でH2(時間)保持して焼成して焼結体を得る。得られた焼結体の両面を平面研削盤で磨き、酸化物ターゲットを作製する。
【0070】
なお、タイプIIの酸化物半導体材料の製造時においては、酸化亜鉛粉末及び酸化錫粉末に加えて元素D(又はその酸化物)の粉末を、最初の混合時に混合するか、或いは、スパッタ時において、元素Dを含有するチップをターゲットの近傍に配置する。
【0071】
(工程2):基板準備工程
【0072】
チャンバは、スパッタ装置のチャンバであり、チャンバ内部にはターゲットの固定部材と、基板1の固定部材が配置されており、これらの固定部材は対向配置されている。基板1は、基板1の固定部材に固定する。なお、基板1の固定部材には、ヒータが設けられており、堆積時の基板温度を調整することができる。
【0073】
なお、ゲート電極1G上に、ゲート絶縁層1C、電極層を順次堆積し、最後の電極層をフォトリソグラフィーでパターニングすることによって、ソース電極1S及びドレイン電極1Dを形成することで、基板1を製造する。
【0074】
(工程3):酸化物ターゲット配置工程
【0075】
酸化物ターゲットは、チャンバ内部のターゲットの固定部材に固定する。酸化物ターゲット及び基板1を固定した後、チャンバを密閉状態とし、真空ポンプを用いて内部の気体を排気し、内部を真空にする。
【0076】
(工程4)成膜工程
【0077】
内部が真空になった後、チャンバ内にガス種1(タイプI)又はガス種2(タイプII)を導入し、高周波(RF)プラズマを発生させて、酸化物ターゲットのスパッタを行い、基板上にターゲット材料を堆積する。本例の希ガスはArであるが、他の種類の希ガスを用いることも可能である。成膜時の条件は以下の通りである。
【0078】
(タイプI)
・製造方法:RFスパッタ法
・ターゲット:Zn−Sn−O焼結体
・ガス種R1:Ar−O混合ガス
・ガス種R1中のOの体積濃度:CGAS(vol%)
・チャンバ内圧力:P2(Pa)
・基板温度:T3(℃)
・スパッタ電力:W(W)
・堆積時間:H3(時間)
【0079】
(タイプII)
・製造方法:RFスパッタ法
・ターゲット:Zn−Sn−O焼結体+元素D含有チップ
・ガス種R2:Arガス
・チャンバ内圧力:P2(Pa)
・基板温度:T3(℃)
・スパッタ電力:W(W)
・堆積時間:H3(時間)
【0080】
各パラメータの好適な範囲は以下の通りである。
(a)0.5≦M1/M2≦3
(b)500≦T1≦1200
(c)1≦H1≦240
(d)100≦G1≦1000
(e)500≦G2≦10000
(f)101.325≦P1≦10132.5
(g)1000≦T2≦1600
(h)1≦H2≦240
(i)0.1≦P2≦10
(j)RT(室温=26)≦T3≦1200
(k)1/60≦H3≦10
(l)10≦W≦1000
(m)0≦CGAS≦20
【0081】
なお、上述のパラメータは以下の関係を満たしている。
(o) G1≦G2
(p) T1≦T2
【0082】
パラメータが少なくとも上述の範囲を満たす場合には、実用的に動作を行うトランジスタを製造可能な酸化物化合物材料が製造できるものと考えられる。
【実施例】
【0083】
(共通条件)
上述の酸化物化合物材料Xを上述の製造方法で基板1上に堆積し、薄膜トランジスタ10を製造した。酸化亜鉛粉末(ZnO)としては、株式会社高純度化学製、純度99.99%を用い、酸化錫粉末(SnO)としては株式会社高純度化学製、純度99.99%を用いた。乾式ボールミルには、直径5mmのジルコニア製のボールを用いた。
【0084】
なお、膜厚や膜特性のモニタのためにガラス基板(コーニング社製1737)を用意して、同スパッタリング装置内に設置した。成膜前処理として、この基板の超音波脱脂洗浄を行った。
【0085】
(実施例1の実験条件)
(1−1)酸化物ターゲットの製造条件
・M1/M2=2
・T1=900(℃)
・H1=5(時間)
・G1=500(kg/cm
・G2=1600(kg/cm
・P1=1013(hPa)
・T2=1200(℃)
・H2=5(時間)
【0086】
製造した酸化物ターゲット(Zn−Sn−O焼結体)の密度は5.43g/cmであった。このようにして得られた焼結体の両面を平面研削盤で磨き、直径76.2mm、厚み6mmに加工し、インジウム系合金を用いてバッキングプレートにボンディングして、酸化物ターゲットを作製した。
【0087】
(1−2)基板の製造条件
・ゲート電極材料:Si
・ゲート絶縁膜材料:SiO
・ソース及びドレイン電極材料:Au/Cr
・チャネル長L=20μm
・チャネル幅W=1mm
【0088】
(1−3)成膜条件
・製造方法:RFスパッタ法
・ターゲット:Zn−Sn−O焼結体
・ガス種R1:Ar−O混合ガス
・酸素濃度CGAS:1vol%
・チャンバ内圧力P2:0.5Pa
・基板温度T3:200℃
・スパッタ電力W:50W
・堆積時間H3:1時間
【0089】
(評価方法及び評価結果)
得られた薄膜に関し、X線回折を行ったところ、明瞭な回折ピークは検出されず、作製したZn−Sn−O膜(半導体層2)の結晶性は非晶質であることが示された。半導体層2の膜厚は、103.7nmであった。また、ガラス基板に形成した薄膜は目視において透明であった。また、ガラス基板を含んだ波長550nmの透過率は87.8%であり、波長380nmから780nmまでの平均の透過率は85.2%であった。また、得られた薄膜の比抵抗及び移動度は、ホール測定にて求めた。得られたZn−Sn−Oアモルファス酸化物膜の電子キャリア濃度は、3.08×1016/cmで、電子移動度は、5.36cm/Vsであった。
【0090】
(実施例1の膜特性)
上述の通り、実施例1で形成された半導体層の膜特性は以下の通りである。
・半導体層材料:Zn−Sn−O(化合物)
・結晶性:非晶質
・膜厚:103.7nm
・電子キャリア濃度C:3.08×1016/cm
・電子移動度μ:5.36cm/Vs
・比抵抗ρ:3.67Ωcm
・シート抵抗R:3.54×10Ω/sq.
【0091】
(実施例1のTFTのIV特性)
形成された半導体層内部に位置するソース電極及びドレイン電極に、半導体層の表面からプローブを立てて、プローブ先端を各電極に接触させ、TFTのIV特性を測定した。
【0092】
図3は、室温下で測定したTFT素子の電流−電圧特性を示す。ドレイン電圧Vdの増加に伴い、ドレイン電流Idが増加したことから、チャネルがn型伝導であることが分かる。これは、非晶質のZn−Sn−O系酸化物膜がN型伝導体であるという事実と矛盾しない。ドレイン電流Idは、ドレイン電圧Vd=30V程度で飽和(ピンチオフ)する典型的な半導体トランジスタの挙動を示した。
【0093】
また、ゲート電圧Vg=60V時には、ドレイン電流Id=9×10−3Aの電流が流れた。これはゲートバイアス電位により、半導体層内にキャリアを誘起できたことに対応する。
【0094】
最大電流Imaxは10mA、逆方向のリーク電流も0.01μA以下であり、良好なトランジスタ特性を示した。トランジスタのオン・オフ時のドレイン電流比は、1×10以上であった。また、ゲート電圧とドレイン電流の関係を示すトランジスタの伝達特性の飽和領域から算出される移動度は約10cm/Vsであった。
【0095】
(実施例2の実験条件)
スパッタ時における酸素濃度CGASを0.1vol%とした以外は、実施例1と同一の条件でTFTを作製した。
【0096】
(評価方法及び評価結果)
得られた膜に関し、X線回折を行ったところ、明瞭な回折ピークは検出されず、作製したZn−Sn−O膜(半導体層2)の結晶性は非晶質であることが判明した。膜厚は、105.5nmであった。ガラス基板(コーニング社製1737)上に成膜した膜は目視において透明であった。スパッタリングの結果、得られた透明導電性薄膜の比抵抗及び移動度は、ホール測定にて求めた。得られた半導体層の電子キャリア濃度は、4.64×1017/cmで、電子移動度は、10.8cm/Vsであった。
【0097】
(実施例2の膜特性)
実施例2で形成された半導体層の膜特性は以下の通りである。
・半導体層材料:Zn−Sn−O(化合物)
・結晶性:非晶質
・膜厚:105.5nm
・電子キャリア濃度C:4.64×1017/cm
・電子移動度μ:10.8cm/Vs
・比抵抗ρ:1.25Ωcm
・シート抵抗R:1.18×10Ω/sq.
【0098】
(実施例2のTFTのIV特性)
図4は、室温下で測定したTFT素子の電流−電圧特性を示す。測定方法は、実施例1と同一である。実施例2によれば、酸素濃度が0.1vol%の場合においても、実施例1ほどではないものの、良好なトランジスタ特性を有するTFT素子を作製できた。
【0099】
(実施例3の実験条件)
スパッタ時における酸素濃度CGASを10vol%とした以外は、実施例1と同一の条件でTFTを作製した。
(評価方法及び評価結果)
得られた膜に関し、X線回折を行ったところ、明瞭な回折ピークは検出されず、作製したZn−Sn−O膜(半導体層2)の結晶性は非晶質であることが示された。半導体層2の膜厚は、89nmであった。ガラス基板(コーニング社製1737)上に成膜した膜は目視において透明であった。スパッタリングの結果、得られた透明導電性薄膜の比抵抗及び移動度は、ホール測定にて求めた。得られた半導体層の電子キャリア濃度は、5.45×1015/cmであり、電子移動度は、5.02cm/Vsであった。
【0100】
(実施例3の膜特性)
実施例3で形成された半導体層の膜特性は以下の通りである。
・半導体層材料:Zn−Sn−O(化合物)
・結晶性:非晶質
・膜厚:89nm
・電子キャリア濃度C:5.45×1015/cm
・電子移動度μ:5.02cm/Vs
・比抵抗ρ:2.28×10Ωcm
・シート抵抗R:2.56×10Ω/sq.
(実施例3のTFTのIV特性)
【0101】
図5は、室温下で測定したTFT素子の電流−電圧特性を示す。測定方法は、実施例1と同一である。実施例3によれば、酸素濃度CGASが10vol%の場合においても、実施例1ほどではないものの、良好なトランジスタ特性を有するTFT素子を作製できた。
【0102】
(比較例1の実験条件)
【0103】
スパッタ時における酸素濃度CGASを0vol%とした以外は、実施例1と同一の条件でTFTを作製した。
【0104】
(評価方法及び評価結果)
得られた膜に関し、X線回折を行ったところ、明瞭な回折ピークは検出されず、作製したZn−Sn−O膜(半導体層2)の結晶性は非晶質であることが示された。膜厚は111.7nmであった。ガラス基板(コーニング社製1737)上に成膜した膜は目視において透明であった。スパッタリングの結果、得られた透明導電性薄膜の比抵抗及び移動度は、ホール測定にて求めた。得られた半導体層の電子キャリア濃度は、6.51×1018/cmで、電子移動度は、14.9cm/Vsであった。
【0105】
(比較例1の膜特性)
比較例1で形成された半導体層の膜特性は以下の通りである。
・半導体層材料:Zn−Sn−O(化合物)
・結晶性:非晶質
・膜厚:111.7nm
・電子キャリア濃度C:6.51×1018/cm
・電子移動度μ:14.9cm/Vs
・比抵抗ρ:6.40×10−2Ωcm
・シート抵抗R:5.73×10Ω/sq.
【0106】
(比較例1のTFTのIV特性)
得られたTFTは、トランジスタ特性を示さなかった。半導体層内のキャリア濃度が高すぎて、ソース・ドレイン間で電流がリークしてしまったためと考えられる。
【0107】
(実施例4の実験条件)
実施例1において得られた酸化物ターゲットをスパッタリング装置のチャンバ内に設置し、バナジウム(V)のチップ(株式会社高純度化学製、純度99.9%、5×5×t1mm)を酸化物ターゲットのエロージョン部の円周に沿って等間隔に8枚固定して設置し、Arガスをスパッタリング装置内に導入した以外は、実施例1と同一の条件で、薄膜を形成した。すなわち、スパッタ時における酸素濃度CGASは0vol%である。
【0108】
すなわち、実施例4の成膜条件は、以下の通りである。
・製造方法:RFスパッタ法
・ターゲット:Zn−Sn−O焼結体+Vチップ
・ガス種R2:Arガス
・酸素濃度CGAS:0vol%
・チャンバ内圧力P2:0.5Pa
・基板温度T3:200℃
・スパッタ電力W:50W
・堆積時間H3:1時間
【0109】
(評価方法及び評価結果)
得られた膜を酸で溶かして、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)で金属元素の定量を行ったところ、Vは酸化膜中の金属元素(Sn、Zn、V)に対して0.54重量%、0.93モル%含まれていた。すなわち、半導体層中の酸素を除く全構成元素に対するドーパントのモル比CDOPANT(CDOPANT=((Vのモル数)/(Vのモル数+Znのモル数+Snのモル数))×100%)は0.93モル%であった。
【0110】
得られた膜に関し、X線回折を行ったところ、明瞭な回折ピークは検出されず、作製したバナジウムドープのZn−Sn−O系膜(半導体層)の結晶性は非晶質であることが示された。この半導体層の膜厚は、115.8nmであった。ガラス基板(コーニング社製1737)上に成膜した膜は目視において透明であった。また、ガラス基板を含んだ波長550nmの透過率は89.3%であり、波長380nmから780nmまでの平均の透過率は85.1%であった。
【0111】
スパッタリングの結果、得られた透明導電薄膜の比抵抗、キャリア濃度及び移動度は、ホール測定にて求めた。得られたバナジウムドープのZn−Sn−O膜の比抵抗は、1.06Ωcm、電子キャリア濃度は3.45×1017/cmで、電子移動度は17.1cm/Vsであった。
【0112】
(実施例4の膜特性)
・実施例4で形成された半導体層の膜特性は以下の通りである。
・半導体層材料:Zn−Sn−O(化合物)
・結晶性:非晶質
・膜厚:115.8nm
・電子キャリア濃度C:3.45×1017/cm
・電子移動度μ:17.1cm/Vs
・シート抵抗R:9.14×10Ω/sq.
・ドーパント含有率CDOPANT:0.93モル%
【0113】
バナジウムの効果により、移動度を大きく下げることなく、キャリア濃度を良好なトランジスタ特性が得られる1018/cm以下にすることができた。また、電子キャリア濃度は、ドーピング元素のドーピング濃度が増えれば増えるほど、減っていく傾向にあることを見出しており、このことにより電子キャリア濃度の制御が可能である。なお、ドーパント含有率CDOPANTの好適な範囲は、以下の通りである。
0モル%<CDOPANT≦10モル%
【0114】
DOPANTが下限値以上の場合には適正値までキャリア濃度を減らすという効果があり、上限値以下の場合にはキャリア濃度を減らし過ぎない、ドーピングの為の固溶がうまく起こり析出相や偏析相を生じない、ドーパント濃度分布の不均一性が生じないなどの効果がある。
【0115】
また、以下の表はGaとFの場合を除いて、金属(半導体)チップ(縦横寸法5mm×5mm、厚み=1mm)1枚を酸化物ターゲットのエロージョン部に固定して設置し、Arガスをスパッタリング装置内に導入した以外は、実施例1と同様にして、成膜した薄膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0116】
ドーピング元素がGaの場合は、酸化ガリウム(Ga23)の焼結体ペレット(直径10mmφ、厚み=3mm)1個を、ドーピング元素がFの場合は、フッ化亜鉛(ZnF)とフッ化スズ(SnF)をドープしたZnSnOの焼結体ペレット(直径10mmφ、厚み=3mm)1個を酸化物ターゲットのエロージョン部に固定して設置し、Arガスをスパッタリング装置内に導入した以外は、実施例1と同様にして、成膜した薄膜のシート抵抗を測定した結果である。
【0117】
以下のドーピング元素(Al、Zr、Mo、Cr、W、Nb、Ti、Ga、Hf、Ni、Si、Ag、Ta、Fe、F、Cu、Pt)を用いれば、上記のVと同様の効果を得ることができる。なお、以下の表ではVも示している。
【表1】

【0118】
(実施例4のTFTのIV特性)
実施例4のトランジスタにおいても、ノーマリーオフの状態が観察された。
【0119】
なお、上述のように、電解効果型トランジスタの製造のしやすさなどから、酸化物半導体材料Xは、さらにドーピング元素を含有されてなる酸化物であることが好ましい。すなわち、ドーピング元素を用いた場合には、酸化物半導体材料X内のキャリア濃度の制御性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】薄膜トランジスタ10の平面図である。
【図2】図1に示した薄膜10のII−II矢印断面図である。
【図3】実施例1のTFTのIV特性を示すグラフである。
【図4】実施例2のTFTのIV特性を示すグラフである。
【図5】実施例3のTFTのIV特性を示すグラフである。
【図6】酸素濃度と電子キャリア濃度の関係を示すグラフである。
【図7】酸素濃度と電子キャリア濃度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0121】
1G・・・ゲート電極、1C・・・ゲート絶縁層、1S・・・ソース電極、1D・・・ドレイン電極、2・・・半導体層。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体材料であって、
Zn及びSnを含有し、
Inを含有せず、且つ、
電子キャリア濃度が1×1015/cmより大きく1×1018/cm未満である、
ことを特徴とする酸化物半導体材料。
【請求項2】
ドーパントを更に含有することを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体材料。
【請求項3】
前記ドーパントは、
Al、Zr、Mo、Cr、W、Nb、Ti、Ga、Hf、Ni、Ag、V、Ta、Fe、Cu、Pt、Si及びFからなる元素群から選択される元素を少なくとも1種含有することを特徴とする請求項2に記載の酸化物半導体材料。
【請求項4】
前記酸化物半導体材料は非晶質であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸化物半導体材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化物半導体材料からなる半導体層と、
前記半導体層に設けられた電極と、
を備えることを特徴とする電子デバイス。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化物半導体材料からなる半導体層と、
前記半導体層に設けられ互いに離隔したソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に位置する前記半導体層の領域に、バイアス電位を与えることが可能な位置に設けられたゲート電極と、
を備えることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項7】
酸化物半導体材料の製造方法であって、
Zn及びSnを含有する酸化物ターゲットを用意する工程と、
基板をチャンバ内に配置する工程と、
前記酸化物ターゲットをチャンバ内に配置する工程と、
前記チャンバ内に配置された前記酸化物ターゲットを希ガスでスパッタすることによりターゲット材料を前記基板上に堆積する工程と、
を備え、
前記スパッタ時において、前記酸化物ターゲットと同時にスパッタされる位置に、ドーパント材料が更に配置されている、
ことを特徴する酸化物半導体材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−123957(P2009−123957A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296984(P2007−296984)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】