説明

量子型赤外線撮像素子およびその製造方法

【課題】
読み出し回路を備えた第一基板と受光素子を備えた第二基板をバンプ接続した量子型赤外線熱感知デバイスにおいて、HgCdTe等で構成された第二基板に影響を与えることなくシリコン基板等で構成された第一基板と、第二基板の熱膨張係数の違いに起因する隣接バンプ間の接触を防止する。
【解決手段】
量子型撮像素子は、読み出し回路を備えた第一基板と、前記第一基板とフリップチップボンディング(FCB)によって電気的に接続された、受光素子を備えた第二基板と、前記第一基板と前記第二基板をFCBによって電気的に接続する導体バンプ群と、各バンプの周囲を囲むように存在し、前記第一基板側にのみ固定され、前記第二基板との間に空隙を設けた絶縁壁とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子型赤外線撮像素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HgCdTe(水銀カドミウムテルル)等の化合物半導体の基板に受光素子を形成し、Si(シリコン)等の基板に読み出し回路を形成し、これらの基板をフリップチップボンディング(FCB:Flip-Chip-Bonding)で電気的に接続する量子型赤外線撮像素子が知られている。
【0003】
このような量子型赤外線撮像素子では、赤外線を受けて励起状態となったHgCdTe等の受光素子が自由電子を放出することで、読み出し回路に電流が流れ、赤外線を検知することが可能となっている。
【0004】
しかし、室温条件下で量子型赤外線撮像素子を動作させると、赤外線を受けなくても受光素子が励起状態になることで、赤外線の有無にかかわらず自由電子が放出され、ノイズが発生してしまうため、77K付近という低温条件で動作させる必要がある。
【0005】
動作に際して上記のような制約条件はあるものの、量子型赤外線撮像素子は非冷却型赤外線検知装置と比較してより高感度な観測が可能であることから、高精度な赤外線観測が必要となる分野で広く用いられている。
【0006】
これら量子型赤外線撮像素子は常時冷却されているわけではなく、使用時には液体窒素等を用いて77K付近まで冷却されるが、非使用時には冷却せずに保管されるのが通常であり、使用時の77K程度の極低温と、非使用時の室温との間で度重なる温度変化にさらされる。
【0007】
このため、受光素子を形成した化合物半導体基板と読み出し回路を形成したシリコン基板との熱膨張係数の違いに起因するストレスによってFCBで用いるバンプに歪みや変形が生じ、使用を重ねることでバンプが変形して隣接バンプ同士の接触が発生することがある。
【0008】
バンプの接触が発生すると、接触した二つのバンプのうち電気抵抗が小さいものに大きな電流が流れ、他方にはほとんど電流が流れなくなるなどの影響により、結果としてどちらのバンプに対応する画素も無効画素となってしまう。
【0009】
このため、この問題は多画素、狭ピッチ化が進む量子型赤外線撮像素子において、特に問題となる。
【0010】
このような隣接バンプ間の接触を防ぐ一般的な方法として、例えば半導体実装分野では、バンプ間に熱硬化型の樹脂を充填させることでバンプ強度を高めつつ隣接バンプ間の絶縁を確保することができるアンダーフィルと呼ばれる手法が知られている。
【0011】
また、隣接バンプ間に例えば樹脂などの絶縁体の壁状構造を持たせることによってバンプ間短絡の回避を試みる手法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6-236981号公報
【特許文献2】特開平8-288335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
量子型赤外線撮像素子は一般的な半導体デバイスと比べて狭ピッチ、高密度バンプ配置であるため、バンプの接触を防ぐためにアンダーフィル手法を適用すると樹脂充填時にボイド(気泡)が発生しやすい。
【0014】
また、HgCdTe等の化合物半導体が非常にもろいことから、アンダーフィル樹脂のストレスでクラックが発生しやすいなどの技術的問題点を抱えている。
【0015】
さらに、アンダーフィル樹脂の代わりに、受光素子基板とシリコン基板にその両端が固定された絶縁壁構造を隣接バンプ間に設置する場合にも、絶縁壁からのストレスによって受光素子基板にクラックが発生することがある。
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、読み出し回路を備えた第一の基板と受光素子を備えた第二の基板をバンプ接続した量子型赤外線検知デバイスにおいて、HgCdTe等で構成される第二の基板に影響を与えることなく前記第一基板と前記第二基板の熱膨張係数の違いに起因する隣接バンプ間の接触を防止する量子型赤外線撮像素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明にかかる量子型赤外線撮像素子は、量子型赤外線受光素子に対する読み出し回路を備えた第一基板と、前記第一基板とFCBによって電気的に接続された、受光素子を備えた第二基板と、前記第一基板と前記第二基板をFCBによって電気的に接続する導体バンプ群と、各バンプの周囲を囲むように存在し、前記第一基板側にのみ固定され、前記第二基板との間に空隙を設けた絶縁壁と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明はバンプ間に、第一の基板側にのみ固定された絶縁体の仕切り構造を持たせることで、熱サイクルに起因するバンプ変形による隣接バンプ間の接触を防止する。
【0019】
しかも、絶縁壁は第一の基板にのみ固定され、第二の基板には固定されていない構造であるために、第二の基板は樹脂壁からのストレスを受けることがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】量子型関外線撮像素子の構成例を示した模式断面図。
【図2】第一の実施形態において、絶縁性樹脂の塗布から樹脂壁の熱硬化処理までの手順を示した模式図。
【図3】レジストの形状の違いに起因する、バンプの蒸着形状の違いを示した模式図。
【図4】第一の実施形態において、第一層目のレジストの塗布から、インジウムの蒸着までの手順を示した模式図。
【図5】第一の実施形態において、レジストの除去から受光素子基板のフリップチップボンディングまでの手順を示した模式図。
【図6】第二の実施形態において、めっきシード層の成膜から感光性ポリイミドの現像までの手順を示した模式図。
【図7】第二の実施形態において、感光性ポリイミドの熱処理からインジウムのめっきまでの手順を示した模式図。
【図8】第二の実施形態において、レジストの除去から受光素子基板のフリップチップボンディングまでの手順を示した模式図。
【図9】第一、第二の実施例に共通して、絶縁壁の平面構造を例示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
まず始めに、図1に本発明で使用する量子型赤外線撮像素子の構成を表す模式図を示す。第一基板はシリコン基板に読み出し回路が形成されており、第二基板は化合物半導体基板に受光素子が形成されている。
【0023】
なお、図1は読み出し回路が形成されている領域ではなく、フリップチップボンディングを行った電極形成領域を示している。それぞれの基板において、電極は次のように構成されている。
【0024】
第一基板側の電極は、読み出し回路を備えたシリコン基板1側から、例えば第1Al-Si層4、第2Al-Si層5、Ti-Pd層6によって形成される3層構造を持ち、層間絶縁膜2上に配置されている。
【0025】
層間絶縁膜2としては、例えばSiO2やPSG(Phospho-Silicate Glass)等を用いることができる。また、第一基板側電極はその周囲を例えばシリコン基板1側からSiO2/SiN層で構成された保護膜3によって覆われている。
【0026】
第二基板側の電極は、受光素子を備えたHgCdTe基板8側から、例えば第1Au層11、Mo層12、Pt層13、第2Au層14によって形成される4層構造を持ち、n+ジャンクジョン9に接続されている。
【0027】
また、第二基板側電極はその周囲を例えばZnSで構成され、受光素子基板8上に形成された保護膜10で覆われている。さらに、第一基板側電極と第二基板側電極は、インジウム等の金属によって形成されたバンプ7によって電気的に接続されている。
【0028】
なお、この量子型赤外線撮像素子の構成は一例であり、量子型赤外線撮像素子として必要な効果を奏することが可能であるなら、他の構造および材質を用いたものであっても構わない。
【0029】
次に、図2乃至図5を基に、本発明における第一の実施形態について説明する。第一基板101はシリコン基板に周知の手法により読み出し回路が形成された構成を有している。
【0030】
ただし、図2乃至図5では、第一基板101は回路を含む基板全体を模式的に表しており、読み出し回路の構成は省略し、ボンディングに用いる電極102のみを記載している。
【0031】
図2(a)は第一基板101上に感光性ポリイミド等の絶縁性樹脂を塗布した状態を示す模式断面図である。電極102が形成された第一基板101上に、絶縁性樹脂として、例えば感光性ポリイミド103をスピンコートもしくはスプレーコートなどの方法で塗布する。
【0032】
このとき、感光性ポリイミド103を塗布する際の膜厚は、現像工程による膜減りや熱硬化処理(キュア)時の熱収縮を考慮し、最終的に所望の絶縁壁の高さとなるように設定する。
【0033】
具体的には、絶縁壁形成領域における両基板間隔の100%〜110%ほどの厚さで感光性ポリイミドを塗布する。前記した両基板の間隔が、10μm程度で設計されている場合には、10〜11μm程度の厚さの感光性ポリイミドを塗布すればよい。
【0034】
次に図2(b)に示すように、例えば格子状、円柱状など所望のパターンの絶縁壁構造に対応するマスクパターンを形成したマスク104を用いて感光性ポリイミド103に露光光105の照射を行う。
【0035】
塗布された感光性ポリイミド103のうち、露光により光が当たった部分103Bのみ物性が変化し、非露光部103Aの物性は変化しない。
【0036】
図2(b)で例示されているようなポジ型の感光性ポリイミドの場合には、物性の変化した部分のみ現像液によって溶解されるので露光後に感光性ポリイミド103に現像処理を行うことで図2(c)に例示されるような所定の絶縁壁パターンが形成される。
【0037】
つづいて250℃〜300℃程度の温度でポリイミドに熱硬化処理(キュア)を行う。図2(d)は熱処理前後での樹脂壁の変化を表す模式図である。
【0038】
点線で表された樹脂壁106は熱処理によって絶縁壁107のように一定の割合で収縮し、硬化する。使用する樹脂によっては紫外線を照射して硬化を促進させることも可能である。硬化後、例えばイオンミリング等の手段によって電極102表面の酸化膜を除去してもよい。
【0039】
次に、バンプを形成するためのレジストパターンを形成する。蒸着リフトオフによってバンプを形成する場合、レジストには例えば図3(a)に例示するような庇構造204を持たせることが好ましい。以下、その理由について説明する。
【0040】
図3(a)は庇構造を持ったレジストパターンを用いてバンプ蒸着を行った結果、図3(b)は庇構造を持たないレジストパターンを用いて同様の行為を行った結果を例示した模式図である。
【0041】
庇構造がない場合、バンプ207の蒸着を行う際に、図3(b)のようにレジスト206が蒸着した金属によって覆われてしまい、レジスト206を除去することが困難となってしまう。
【0042】
しかし、レジストに庇構造を持たせることで、図3(a)のようにバンプ207蒸着後もレジスト206が外部に露出した状態を保つことができるため、現像液によるリフトオフが可能となる。
【0043】
レジストに庇構造を持たせる方法として、2段露光を用いたレジストパターン形成手順について以下で説明する。
【0044】
図4(a)、図4(b)は2段露光による庇構造を持ったレジスト作成手順を例示する模式図である。まず、第一基板101上に第一層目のレジストを塗布し、マスク108を通して露光光109を照射する。
【0045】
露光光109が当たった部分のレジストは変性する。非露光部分のレジストを110A、露光部分のレジストを110Bで表す。
【0046】
次に、塗布されたレジスト110A、110Bに重ねて第二層目のレジストとして新たなレジストを塗布し、マスク108よりも光を通す幅の小さいマスク111を通して露光光109を照射する。
【0047】
光が当たった部分のレジストも同様に変性する。非露光部分のレジストを112A、露光部分のレジストを112Bで表す。現像液によって、露光された部分のレジスト110B、112Bが除去され、図4(c)に例示されるような庇構造を持ったレジストバターンが形成される。
【0048】
なお、庇構造を持ったレジスト全体(レジスト110Aとレジスト112Aの総称)をレジスト113として定義し、以後記載するものとする。
【0049】
本実施例における庇構造の水平突起長は片側3μm程度であるが、この値は使用する装置、蒸着源、膜厚などによって異なるものであり、ここでの記載は庇構造の長さを何ら限定するものではない。
【0050】
レジストパターン形成後、バンプとして使用する金属の蒸着を行う。本実施の形態においては、インジウムをバンプとして使用している。
【0051】
インジウムは柔らかいために、ある程度の変形を吸収する緩衝材の役割を果たすことができ、また融点が低く、他の金属(例えばAu)に程よく接合するなどの特性がある。このため、量子型赤外線撮像素子の製造プロセスとの整合性がよい。
【0052】
このことから、量子型赤外線撮像素子のバンプにはインジウムを用いることが一般的であるが、インジウム以外の金属を用いることも可能であり、ここでの記載はバンプの材質をインジウムのみに限定するものではない。
【0053】
図4(d)はインジウム蒸着後の状態を例示した模式図である。インジウムは電極102上およびレジスト113上にそれぞれ蒸着される。インジウム蒸着後、アセトン等の剥離液によって、リフトオフ洗浄を行う。図5(a)はリフトオフ洗浄後の状態を例示した模式図である。
【0054】
剥離液によってレジスト113が除去されると同時に、レジスト113上に形成されたインジウム114も除去され、電極102上に形成されたインジウム115のみが第一の基板101上(電極102上)に残る。
【0055】
また、ポリイミドからなる絶縁壁107は熱硬化処理が行われているため、リフトオフ剥離液により溶解せずに第一基板101上に残る。
【0056】
次に、200℃程度でインジウム115をリフローする。図5(b)はインジウムをリフローした状態を例示した模式図である。硬化した感光性ポリイミドの樹脂壁107の耐熱性は300℃以上あり、200℃程度のリフロー処理によって影響を受けることはない。
【0057】
次に、図5(c)に示すように、バンプ115のリフロー後、第二基板117側の電極118とリフロー済みバンプ116をフリップチップ接合する。フリップチップ接合時に熱と荷重が加わることで、インジウムと電極との界面で相互拡散が生じ、バンプと電極が接合される。
【0058】
なお、第二基板117は、周知の方法によりHgCdTe基板上に受光素子領域が形成され、第一基板に形成された読み出し回路と接続するための電極118があらかじめ形成された構成を有している。
【0059】
ただし、図中では、第二基板117は受光素子を含む基板全体を模式的に表しており、受光素子の構成は省略し、ボンディングに用いる電極118のみを記載している。
【0060】
図5(c)に示すように、第一基板101側の電極102と第二基板117側の電極118がバンプ116によって電気的に接続されており、隣接バンプ間を仕切る絶縁壁107は第一基板101側のみに固定され、第二の基板117側には接触しない。
【0061】
絶縁壁の高さは、基本的には受光素子が形成されたHgCdTe基板等からなる第二の基板に接しない範囲であれば高いほどよい。
【0062】
しかし、バンプ作成時の誤差等が発生しうることを考慮すると、第二の基板に接触せず、かつバンプ間の接触を防止する絶縁壁として機能し得る高さ、例えばFCB後の絶縁壁形成領域における両基板間隔の70〜90%程度あればよいと考えられる。
【0063】
このような構成にすることにより、本実施形態によれば第二の基板に物理的影響を与えることなく隣接バンプ間の絶縁を確保できるため、デバイスの品質、耐久性を向上させることができる。
【0064】
特許文献1として前記した特開平6-236981号の構造を用いた場合、樹脂壁を受光素子基板であるHgCdTe基板側にも設置する必要がある。
【0065】
しかしながら、HgCdTe基板は熱に弱く、約100℃ほどで変性してしまうため、受光素子に影響を与えずに絶縁性樹脂を熱硬化することは困難である。
【0066】
また、隣接バンプの接触は基板間ギャップの中央部で起こることが多いが、その部分が空隙となっているため絶縁壁が十分に効果を発揮できるとは考えにくい。しかし、本実施の形態によれば、このような問題に対応することが可能である。
【0067】
また、特許文献2として前記した特開平8-288335号の構造を用いた場合、絶縁壁が移動することで微細なゴミが発生しやすくなり、コンタミネーションの原因となる。
【0068】
それ以外にも、絶縁壁がHgCdTe基板に衝突することでクラックが発生する原因となるなどの問題が考えられるが、本実施の形態によれば、このような問題に対応することが可能である。
【0069】
次に、図6乃至図8を基に、本発明の第二の実施形態にかかる量子型赤外線撮像素子の製造方法について説明する。
【0070】
第一の実施形態では、インジウムバンプの形成を蒸着リフトオフ法で行った。第二の実施形態では、インジウムバンプの形成を蒸着リフトオフではなくパターンめっきで行っている。
【0071】
第一基板301は周知の手法により読み出し回路が形成された構成を有している。ただし、図6乃至図8では、第一基板301は回路を含む基板全体を模式的に表しており、読み出し回路の構成は省略し、ボンディングに用いる電極302のみを記載している。
【0072】
図6(a)は第一基板301上にめっきシード膜を成膜した状態を例示する模式断面図である。まず、第一の実施形態と同様に、読み出し回路を備えた第一の基板301上に電極302を形成した後に、めっきシード層303を成膜する。
【0073】
ここで、めっきシード層の材質には、例えば第一基板側からTi/Cuの層状構造等を用いてもよい。第一基板側電極302のとりうる構造および材質は第一の実施形態と同様である。
【0074】
第一の実施形態と同様の手順で、絶縁壁構造の形成までのプロセスを行う。図6(b)はめっきシード層303が成膜された第一基板301上に絶縁性樹脂304を塗布した状態を例示した模式図である。
【0075】
例えば感光性ポリイミド等の絶縁性樹脂をスピンコートもしくはスプレーコートなどの方法でめっきシード層303上に塗布する。
【0076】
感光性ポリイミド304を塗布する際の膜厚は、現像工程による膜減りやキュア時の熱収縮を考慮し、最終的な絶縁壁の高さとなるように設定するのは、第一の実施形態と同様である。
【0077】
具体的には、絶縁壁形成領域における両基板間隔の100%〜110%ほどの厚さで感光性ポリイミドを塗布する。前記した両基板の間隔が、10μm程度で設計されている場合には、10〜11μm程度の厚さの感光性ポリイミドを塗布すればよい。
【0078】
絶縁隔壁の高さは、基本的には受光素子が形成されたHgCdTe基板等からなる第二の基板に接しない範囲であれば高いほどよい。
【0079】
しかし、バンプ形成時の誤差等が発生し得ることを考慮すると、第二の基板に接触せず、かつバンプ間の接触を防止する絶縁壁として機能する高さ、例えばFCB後の絶縁壁形成領域における両基板間隔の70〜90%あればよいと考えられる。
【0080】
次に図6(c)に示すように、例えば格子状、円柱状など所望のパターンの絶縁壁構造に対応するマスクパターンを形成したマスク305を用いて、感光性ポリイミド304に露光光306の照射を行う。
【0081】
塗布された感光性ポリイミド304のうち、露光光306が当たった部分304Bのみ物性が変化し、非露光部304Aの物性は変化しない。
【0082】
図3で例示されているようなポジ型の感光性ポリイミドの場合には、物性の変化した部分のみ現像液によって溶解されるので露光後に感光性ポリイミド304に現像処理を行うことで図6(d)に例示されるような所定の絶縁壁パターンが形成される。
【0083】
第一の実施形態同様、つづいて250℃〜300℃程度の温度でポリイミドに熱硬化処理を行う。図7(a)は熱処理前後での樹脂壁の変化を表す模式図である。
【0084】
点線で表された樹脂壁307は熱処理によって308のように一定の割合で収縮し、硬化する。使用する樹脂によっては紫外線を照射して硬化を促進させる場合もある。硬化後、例えばイオンミリング等の手段によってシード層303表面の酸化膜を除去することもある。
【0085】
次に、バンプを形成するためのレジストパターンを形成する。図7(b)、図7(c)はパターンめっきによるレジストパターン形成手順の一例を示す模式図である。
【0086】
まず、第一基板301上にレジスト311を塗布し、電極302に対応する位置のみ光が通過するよう調整されたフォトマスク309を通して露光光310を照射する。
【0087】
露光光310が当たった部分のレジスト311は変性する。非露光部分のレジストを311A、露光部分のレジストを311Bで表す。
【0088】
現像液によって、露光部分のレジスト311Bが除去され、図7(c)に示されるような、電極302上部が露出したレジストパターンが形成される。
【0089】
なお、前記レジストパターンは、ネガ型レジストを使用した場合でも作成可能である。ネガ型レジストを使用する場合は、電極302に対応する位置のみ光を遮断するよう調整されたフォトマスクを通して露光光310を照射する。
【0090】
露光によって変性しなかった部分のレジストが現像液によって除去され、電極302上部が露出したレジストパターンが形成される。
【0091】
レジストパターン形成後、インジウム等のバンプとして使用する金属のめっきを行う。図7(d)はめっき後の状態を例示した模式図である。
【0092】
レジスト311Aに覆われていない電極302上部のめっきシード層303上にのみインジウム312が付着し、バンプを形成する。
【0093】
インジウムめっき後、レジストの除去を行う。図8(a)はレジスト除去後の状態を示す模式図である。レジスト剥離液によってレジスト311Aが除去され、インジウムバンプ312と絶縁壁構造308が第一基板301上に残る。
【0094】
その後、イオンミリング等によって余分なシード層303を除去する。シード層除去後の状態を図8(b)に例示する。
【0095】
200℃程度でインジウムバンプ312をリフローする。図8(c)はインジウムをリフローした状態を例示した模式図である。硬化した感光性ポリイミド樹脂壁308の耐熱性は300℃以上あり、200℃程度のリフロー処理によって影響を受けることはない。
【0096】
図8(d)はフリップチップボンディング後の状態を例示した模式図である。インジウムバンプ312のリフロー後、第二基板315側の電極314とリフロー済みインジウムバンプ313をフリップチップボンディングする。
【0097】
第二基板315には、周知の方法によりHdCdTe基板上に受光素子領域が形成され、第一基板301に形成された読み出し回路と接続するための電極314があらかじめ形成された構成を有している。
【0098】
ただし、図中では、第二基板315は受光素子を含む基板全体を模式的に表しており、受光素子の構成は省略し、ボンディングに用いる電極314のみを記載している。
【0099】
図8(d)に示すように、第一基板301側の電極302と第二基板315側の電極314がバンプ313によって電気的に接続されており、隣接バンプ間を仕切る絶縁壁308は第一基板301側のみに固定され、第二基板315側には接触しない。
【0100】
図9は絶縁壁の平面構造を例示した模式図である。このように、第一の実施形態、第二の実施形態ともに、前記絶縁壁パターンは、格子状(図9(a))、バンプ周囲を囲む円状構造(図9(b))、隣接バンプ間にある壁状構造(図9(c))等の平面構造をとってもよい。
【0101】
また、第一の実施形態、第二の実施形態ともに絶縁壁の形成はインジウムバンプの形成前に行っている。これは、感光性ポリイミド等のバンプ間隔壁に使用する絶縁体の種類によっては、絶縁体形成途中の熱処理(例えば感光性ポリイミドの熱硬化処理等)の温度がインジウムバンプの融点より高くなる可能性があること、また、バンプを形成後に絶縁樹脂を塗布する場合、大きな凹凸が生じてしまい、十分な露光フォーカスマージンを確保することが難しいという問題があるためである。
【0102】
なお、前記第一、第二の実施の形態では、絶縁壁パターンをポジ型の感光性ポリイミドを使用して作成したが、ネガ型の感光性ポリイミドを使用して作成することも可能である。
【0103】
ネガ型感光性ポリイミドを使用する場合は、露光により光が当たった部分のみ物性が変化し、現像液によって溶解されなくなる。
【0104】
そこで、樹脂壁として残したい部分のみ光を透過させるようなマスクパターンを形成したマスクを使用して、感光性ポリイミドに露光光の照射を行えばよい。
【0105】
また、第一の実施形態及び第二の実施形態では感光性ポリイミドを用いたフォトリソグラフィによって絶縁壁構造を作成する手順について例示したが、絶縁壁パターンを作成する方法はこれに限らない。
【0106】
例えば非感光性の絶縁樹脂に、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィ等を適用することによっても同様の構造を作成することが可能である。
【符号の説明】
【0107】
1 読み出し回路を備えたシリコン基板
2 層間絶縁膜
3 保護膜
4 第1Al-Si層
5 第2Al-Si層
6 Ti-Pd層
7 バンプ
8 受光素子を備えた基板
9 n+ジャンクジョン
10 保護膜
11 第1Au層
12 Mo層
13 Pt層
14 第2Au層
101 読み出し回路を備えた第一の基板
102 第一基板側の電極
103 感光性ポリイミド等の絶縁性樹脂
103A 感光性ポリイミドの非露光部
103B 感光性ポリイミドの露光部
104 フォトマスク
105 露光光
106 熱処理前の樹脂壁
107 絶縁壁
108 第一のフォトマスク
109 露光光
110 第一層目のレジスト
110A第一層目のレジストの非露光部分
110B 第一層目のレジストの露光部分
111 第一のフォトマスクより光を通す幅の小さい第二のフォトマスク
112 第二層目のレジスト
112A 第二層目のレジストの非露光部分
112B 第二層目のレジストの露光部分
113 庇構造を持ったレジスト
114 レジスト上に形成されたインジウム
115 電極上に形成されたインジウム
116 インジウムバンプ(リフロー後)
117 受光素子を備えた第二の基板
118 第二基板側の電極
201 読み出し回路を備えた第一の基板
202 第一基板側の電極
203 樹脂壁
204 庇構造を持ったレジスト
205 レジストと癒着していないバンプ
206 庇構造のないレジスト
207 レジストと癒着したバンプ
301 読み出し回路を備えた第一の基板
302 第一基板側の電極
303 めっきシード層
304 感光性ポリイミド等の絶縁性樹脂
304A 感光性ポリイミドの非露光部分
304B 感光性ポリイミドの露光部分
305 フォトマスク
306 露光光
307 熱処理前の樹脂壁
308 樹脂壁
309 フォトマスク
310 露光光
311 レジスト
311Aレジストの非露光部分
311Bレジストの露光部分
312 インジウムバンプ
313 インジウムバンプ(リフロー後)
314 第二基板側の電極
315 受光素子を備えた第二の基板

401 樹脂壁
402 インジウムバンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子型赤外線受光素子に対する読み出し回路を備えた第一基板と、
前記第一基板とフリップチップボンディングによって電気的に接続される、量子型赤外線受光素子を備えた第二基板と、
前記第一基板と前記第二基板をフリップチップボンディングによって電気的に接続する複数の導体バンプ群と、
各バンプの周囲を囲むように形成し、前記第一基板側にのみ固定され、前記第二基板との間に空隙を設けた絶縁壁と、
を有することを特徴とする量子型赤外線撮像素子。
【請求項2】
前記第一基板はシリコン基板から構成され、前記第二基板は化合物半導体から構成されることを特徴とする請求項1記載の量子型赤外線撮像素子。
【請求項3】
前記第二基板はHdCdTeから構成されることを特徴とする、請求項1又は2記載の量子型赤外線撮像素子。
【請求項4】
前記導体バンプは、インジウムによって形成されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の量子型赤外線撮像素子。
【請求項5】
前記絶縁壁は感光性ポリイミドによって形成されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の量子型赤外線撮像素子。
【請求項6】
前記絶縁壁の高さは、前記絶縁壁形成領域における前記第二基板と前記第一基板との間の間隔の70〜90%の範囲であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の量子型赤外線撮像素子。
【請求項7】
量子型赤外線受光素子に対する読み出し回路を備えた第一基板上に絶縁性樹脂を塗布し、電極領域を囲むように所望の絶縁壁構造となるようにパターニングする手順と、
パターニングされた前記絶縁壁構造を熱硬化させる手順と、
前記第一基板側の電極上に導体バンプを形成する手順と、
形成された前記導体バンプをリフローする手順と、
前記第一基板と、受光素子を備えた第二基板を前記バンプによってフリップチップボンディングする手順と、
を有することを特徴とする、量子型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項8】
前記バンプは、蒸着リフトオフで形成することを特徴とする、請求項7記載の量子型像素子の製造方法。
【請求項9】
前記バンプは、パターンめっきで形成することを特徴とする、請求項7記載の量子型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項10】
前記絶縁性樹脂は感光性ポリイミドであり、フォトリソグラフィによって前記感光性ポリイミドのパターニングを行うことを特徴とする、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の量子型赤外線撮像素子の製造方法。
【請求項11】
前記感光性ポリイミドを塗布する際の膜厚は、絶縁壁形成領域における両基板間隔の100%〜110%であることを特徴とする、請求項10記載の量子型赤外線撮像素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−77689(P2013−77689A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216470(P2011−216470)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】