説明

金属ドープTiO2膜の成膜方法

【課題】金属をドープしたTiO膜を高速にて成膜する方法を提供する。
【解決手段】TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲット21aと、金属をドープしたTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲット21bに、交互にパルスパケット状の電圧を印加する。ターゲット21aのスパッタ時におけるTiの放電の発光波長と発光強度が、PEM31aによって検知される。また、ターゲット21bのスパッタ時におけるTi及びドープ金属の放電の発光波長と発光強度が、コリメータ30b、フィルタ及び光倍増幅管を介して電気信号となり、PEM31bによって検知される。各ターゲット21a,21bのスパッタ速度が算出され、この算出結果に基づき、各ターゲット21a,21bに付与されるパルス電力、パルス量及びパルス幅、カバー26内に導入する酸素量、並びにカバー内の圧力が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属をドープしたTiO膜を成膜する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、TiOはn型の酸化物半導体であり、その薄膜や粒子は光触媒や高屈折率を活かした光学フィルムとして用いられている。また、近年では、二酸化チタンを利用した色素増感型太陽電池が、安価でクリーンな太陽電池として注目されている(例えば特開2003−123853号)。
【0003】
しかし、TiOはキャリア濃度が低いために導電性に乏しく、電子デバイスの用途に用いるためにはキャリア量の制御が必須であった。そのため、最近、TiOにNbをドープすることによって導電性を付与することが行われている。
【0004】
従来、金属をドープしたTiO膜をスパッタ法によって成膜する場合、金属をドープしたTiターゲットを用いて反応性ガス(酸素)でスパッタする反応性スパッタ法が用いられている。
【特許文献1】特開2003−123853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の反応性スパッタ法は、成膜速度が遅く、生産性に乏しい。
【0006】
本発明は、金属をドープしたTiO膜を高速にて成膜する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の金属ドープTiO膜の成膜方法は、金属をドープした酸化チタンターゲットを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、酸素ガスを含む雰囲気にて、ドープ金属を含有する金属ドープTiOターゲット(但し、xは0.5以上1.99以下)を用いてスパッタすることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の金属ドープTiO膜の成膜方法は、反応性スパッタ法によって金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、酸素ガスを含む雰囲気にて、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、ドープ金属よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の金属ドープTiO膜の成膜方法は、反応性スパッタ法によって金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、酸素ガスを含む雰囲気にて、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、ドープ金属を含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜することを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の金属ドープTiO膜の成膜方法は、反応性スパッタ法によって金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、酸素ガスを含む雰囲気にて、ドープ金属を含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、第1のターゲットと同一のドープ金属を第1のターゲットとは異なる含有率にて含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜することを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の金属ドープしTiO膜の成膜方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、スパッタ時におけるTi及び/又はドープ金属の放電の発光波長と発光強度をモニタリングすることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記ターゲットと同数のモニタが設けられ、各ターゲットにおけるTi及び/又はドープ金属の放電の発光波長と発光強度を対応するモニタを用いてモニタリングすることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項6において、前記モニタリングに基づいて、各ターゲットに付与するパルス電力、パルス量、パルス幅及び成膜時の圧力の少なくとも一つを変化させることにより、成膜される膜中のドープ金属の含有量及び/又は成膜される膜の結晶性を制御することを特徴とするものである。
【0014】
請求項8の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項6又は7において、前記モニタリングに基づいて酸素供給量を制御することを特徴とするものである。
【0015】
請求項9の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項1ないし8のいずれか1項において、各ターゲットに交互に間欠的な電圧を印加してスパッタを行うことを特徴とするものである。
【0016】
請求項10の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項1ないし9のいずれか1項において、複数のパルス電圧よりなるパルスパケットを各ターゲットに交互に間欠的に印加することを特徴とするものである。
【0017】
請求項11の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項1ないし10のいずれか1項において、各ターゲットに間欠的に正の電圧を印加することにより、ターゲットのチャージングを防止することを特徴とするものである。
【0018】
請求項12の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項1ないし11のいずれか1項において、スパッタ時に基板を加熱することにより金属をドープしたTiO膜の結晶性と結晶系を制御することを特徴とするものである。
【0019】
請求項13の金属ドープTiO膜の成膜方法は、請求項1ないし12のいずれか1項において、前記ドープ金属は、V,Nb,Ta,Zr,Hf,Sc,Y,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Ag,Au,Zn,Cd,B,Al,Ga,In,C,Si,Ge,Sn,Pb,Bi,Sb,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra,Li,Na,K,Rb,Cs,Fr及びランタノイド元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、酸素ガスを含む雰囲気にて、ドープ金属を含有する金属ドープTiOターゲット(但し、xは0.5以上1.99以下)を1個又は2個以上用いてスパッタする。このように、ターゲット中のTiは部分的に酸化しているため、酸素が理論当量よりも不足しており、TiOよりも導電性が高い。このため、金属をドープした酸化チタンターゲットを用いる場合と比べて、高速で成膜を行うことができる。
【0021】
請求項2の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、ドープ金属よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることから、第1のターゲットのスパッタ速度と第2のターゲットのスパッタ速度の比率を変化させて成膜することにより、上記2種類のターゲットのみから、所望の含有量の金属をドープしたTiO膜を成膜することができる。
【0022】
請求項3の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、ドープ金属を含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることから、第1のターゲットのスパッタ速度と第2のターゲットのスパッタ速度の比率を変化させて成膜することにより、上記2種類のターゲットのみから、所望の含有量の金属をドープしたTiO膜を成膜することができる。なお、第1のターゲットにおけるxの値と第2のターゲットにおけるxの値とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
請求項4の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、ドープ金属を含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、第1のターゲットと同一のドープ金属を第1のターゲットとは異なる含有率にて含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることから、第1のターゲットのスパッタ速度と第2のターゲットのスパッタ速度の比率を変化させて成膜することにより、上記2種類のターゲットのみから、所望の含有量の金属をドープしたTiO膜を成膜することができる。なお、第1のターゲットにおけるxの値と第2のターゲットにおけるxの値とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
特に、請求項3,4の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、成膜すべき膜中のドープ金属の含有量が少ない場合にあっても、第1のターゲットと第2のターゲットのスパッタ量の差を少なくすることができ、より安定かつ高速にて金属をドープしたTiO膜を成膜することができる。
【0025】
請求項5の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、スパッタ時におけるTi及び/又はドープ金属の放電の発光波長と発光強度をモニタリングすることにより、Ti及びドープ金属のスパッタ量を常時、正確に認識することができる。従って、このモニタリングの結果に基づいて成膜条件を制御することにより、所望の含有量の金属をドープし、かつ酸化数が制御されたTiO膜を正確かつ安定的に成膜することができる。
【0026】
請求項6の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、ターゲットと同数のモニタが設けられ、各ターゲットにおけるTi及び/又はドープ金属の放電の発光波長と発光強度を対応するモニタを用いてモニタリングするため、各ターゲットの放電状況を個別に認識することができる。
【0027】
請求項7の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、モニタリングに基づいて、各ターゲットに付与するパルス電力、パルス量、パルス幅及び成膜時の圧力の少なくとも一つを変化させることにより、成膜される膜中のドープ金属の含有量及び/又は成膜される膜の結晶性を精密に制御することができる。
【0028】
請求項8の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、モニタリングに基づいて酸素供給量を制御することにより、酸素供給量を精密に制御することができる。このため、酸化数が精密に制御された金属をドープしたTiO膜を安定して供給することが可能となる。
【0029】
また、酸素の供給量が過剰になると、ターゲットの表面が完全に酸化され、成膜速度が非常に遅くなる。一方、酸素の導入量が少な過ぎると、ターゲット表面が酸化されずに成膜が行われ、その結果、成膜中の酸素量が不足する。しかし、上記の通り、前記モニタリングに基づいて酸素供給量を制御するため、プラズマ中のTi及び/又はドープ金属の密度に基づいて適切な量の酸素を導入することができる。これにより、上記2つの酸素供給量領域の中間領域である「遷移領域」でのスパッタが可能となる。その結果、適切な量の酸素を含有した膜を高速で成膜することができる。
【0030】
請求項9の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、各ターゲットに交互に間欠的な電圧を印加するため、大電流をターゲットに流し、安定した高速成膜を行うことができる。この方法を用いることによって異常放電を大幅に抑制できることから、安定した長時間の放電が可能となりダメージの少ない高品質の膜が作製可能となる。
【0031】
請求項10の金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、各ターゲットにパルスパケットを印加するため、各ターゲットに単一のパルスを印加するときと比べて一層大電流を流すことができ、安定した高速成膜が可能となる。
【0032】
請求項11の金属ドープTiO膜の成膜方法は、ターゲットに間欠的に正の電圧を印加してターゲットのチャージングを防止することにより、各ターゲットにより大電流を流すことができ、安定した高速成膜が可能となる。
【0033】
請求項12のようにスパッタ時に基板を加熱することにより、金属ドープTiO膜の結晶性を制御することができる。また、金属ドープTiO膜をアモルファス状態とすることもできる。
【0034】
請求項13の通り、ドープ金属としては、V,Nb,Ta,Zr,Hf,Sc,Y,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Ag,Au,Zn,Cd,B,Al,Ga,In,C,Si,Ge,Sn,Pb,Bi,Sb,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra,Li,Na,K,Rb,Cs,Fr及びランタノイド元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0036】
図1は実施の形態に係る金属をドープしたTiO膜をデュアルカソード方式マグネトロンスパッタリング法により成膜する方法を説明するための概略図、図2は図1のターゲット電極に印加する電圧の一例を説明する図である。
【0037】
図1の通り、支持体20a上に第1のターゲット21aを設けてなるターゲット電極20Aと、その下方に配置された磁石22aとから、第1のスパッタリング部が構成されている。また、支持体20b上に第2のターゲット21bを設けてなるターゲット電極20Bと、その下方に配置された磁石22bとから、第2のスパッタリング部が構成されている。これら第1のスパッタリング部と第2のスパッタリング部とは隣接して設置され、これらのスパッタリング部に、スイッチングユニット24を介して、交流電源25が接続されている。
【0038】
本実施の形態では、第1のターゲット21aはTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなっており、第2のターゲット21bは金属をドープしたTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなっている。
【0039】
第1のターゲット21a及び第2のターゲット21bにおけるxの値は、0.5以上1.99以下である。xが1.99以上であると、導電率が低下し、成膜速度が遅くなる。一方、xが0.5以下であると、雰囲気中の酸素がターゲット表面に吸着してターゲット表面が酸化され、成膜速度が低下する。
なお、第1のターゲット21aにおけるxの値と第2のターゲット21bにおけるxの値とは同一であってもよく、
第2のターゲット21bのドープ金属としては、例えば、V,Nb,Ta,Zr,Hf,Sc,Y,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Ag,Au,Zn,Cd,B,Al,Ga,In,C,Si,Ge,Sn,Pb,Bi,Sb,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra,Li,Na,K,Rb,Cs,Fr及びランタノイド元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0040】
第2のターゲット21b中のTi100atm%に対するドープ金属のドープ量(atm%)は、成膜すべき金属をドープしたTiO膜中のTi100atm%に対するドープ金属のドープ量(atm%)と同等以上であれば特に制限はないが、各ターゲット21a,21bのスパッタ量に極端な偏りが生じることを防止するためには、第2のターゲット21b中のTi100atm%に対するドープ金属のドープ量(atm%)は、成膜すべき金属をドープしたTiO膜中のTi100atm%に対するドープ金属のドープ量(atm%)の1.1〜10倍特に1.2〜5倍であることが好ましい。
【0041】
これらターゲット電極20A,20Bはカバー26によって覆われている。カバー26は排気口28を介してポンプ(図示略)に接続されており、ガス導入口27を介してガス供給源(図示略)に接続されている。
【0042】
カバー26内にコリメータ30a,30bが設けられており、これらコリメータ30a,30bは、それぞれ図示しないフィルタ及び光倍増幅管を介して、プラズマエミッションモニター(以下PEMと称することがある。)31a,31bに接続されている。これらコリメータ30a,30b、フィルタ、光倍増幅管及びPEM31a,31bにより、第1、第2のモニタが構成されている。
【0043】
PEMは、プラズマの発光をコリメータで集光し、光倍増幅管(PM)で光電変換した電気信号を監視する装置である。PEMはある一定の感度に設定されてプラズマの発光強度をモニタするようになっている。
【0044】
ターゲット21a用のフィルタとしては、少なくともTiの発光スペクトルの波長500〜600nmを通過させることが可能なものが用いられる。ターゲット21b用のフィルタとしては、Tiの発光スペクトルの波長とドープ金属の発光スペクトルの波長を通過させることが可能なフィルタが用いられる。更に好ましくは、2つのターゲットの中心にTiの発光スペクトルとドープ金属の発光スペクトルを別々に通過させるフィルタを用いて、各々の発光量をモニタリングし、金属ドープ量を精密に制御する。なお、第2のモニタを、Ti検知用のコリメータ30b、フィルタ、光倍増幅管及びPEM31bと、ドープ金属検知用のコリメータ30b、フィルタ、光倍増幅管及びPEM31bから構成してもよい。
【0045】
上記装置を用いて金属ドープTiO膜を成膜する際には、先ずカバー26内部におけるターゲット21a,21bの上方に基板1を配置し、ポンプによってカバー26内を真空にした後、アルゴン等の不活性ガス中に酸素を含有させた混合ガスをカバー26内に導入し、カバー26内を所定の圧力とする。この混合ガスの酸素濃度は例えば1%〜300%である。
【0046】
基板1としては、例えばケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラスを使用することができる。また、アクリル等の種々のプラスチック基板等を使用することもできる。またPETなどの高分子フィルム基材も用いることができる。基板の厚さは0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス板は、化学的に、或いは熱的に強化させたものが好ましい。
【0047】
次いで、例えば、図2の通り、ターゲット電極20A,20Bに交互にパルスパケット状の電圧を印加して、グロー放電を形成させる。これにより、ターゲット21a,21bから粒子がスパッタされ、この粒子がターゲット21a,21bの上方の基板1上に付着する。この際、ターゲット21a,21b又はスパッタされた粒子は、酸素ガスによって酸化される。
【0048】
ターゲット21aのスパッタ時におけるTiの放電の発光波長と発光強度が、コリメータ30a、フィルタ及び光倍増幅管を介して電気信号となり、PEM31aによって検知される。また、ターゲット21bのスパッタ時におけるTi及びドープ金属の放電の発光波長と発光強度が、コリメータ30b、フィルタ及び光倍増幅管を介して電気信号となり、PEM31bによって検知される。これらの電気信号から第1のターゲット21aのスパッタ速度と第2のターゲット21bのスパッタ速度が算出され、この算出結果に基づき、各ターゲット21a,21bに付与されるパルス電力、パルス量及びパルス幅、カバー26内に導入する酸素量、並びにカバー内の圧力が制御される。
【0049】
前記パルス電力、パルス量及びパルス幅は、ターゲットの体積、カバー26内の体積、要求される成膜速度等によって異なるが、例えばパルス電力は1kW〜20kW、パルス量は5%〜50%、パルス幅は0.1〜500msecの範囲内で制御される。パルス電力が50kW以上であると異常放電が発生し、組成が精密に制御された金属をドープしたTiO膜を安定して成膜することができず、一方、パルス電力が500W以下であると成膜速度が遅くなる。パルス量が90%以上になると連続放電になり、一方、1%以下だと成膜速度が遅くなる。
【0050】
前記酸素供給量は、例えば1〜50sccm程度である。酸素の導入量が過剰になると、ターゲット21a,21bの表面が完全に酸化され、成膜速度が非常に遅くなる。このような酸素の導入量が過剰な領域を「反応性スパッタ領域」と称する。一方、酸素の導入量が少な過ぎると、ターゲット表面が酸化されずに成膜が行われ、その結果、成膜中の酸素量が不足する。このような領域を「金属的スパッタ領域」と称する。本実施の形態では、上記による制御により、プラズマ中の金属の密度に基づいて適切な量の酸素が導入される。
【0051】
前記成膜時のカバー26内の圧力は好ましくは0.01Pa〜30Pa特に0.1〜10Paの範囲内で制御される。
【0052】
基板1上に成膜された金属ドープTiO膜が所定厚さとなった後、スパッタを終了し、カバー20内を大気圧にして金属ドープTiO膜が積層された基板1を取り出す。
【0053】
金属ドープTiO膜中のドープ金属の含有量としては、例えばTiに対して0.1atm%〜20atm%程度のものが成膜される。また、金属をドープしたTiO膜の膜厚としては、例えば5Å〜5μm程度のものが成膜可能である。
【0054】
本実施の形態に係る金属をドープしたTiO膜の成膜方法にあっては、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲット21aと、ドープ金属を含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲット21bとを用いてスパッタする。このように、第1のターゲット21a中のTi及び第2のターゲット21b中のTiは部分的に酸化しているため、酸素が理論当量よりも不足しており、TiOよりも導電性が高い。このため、金属をドープした酸化チタンターゲットを用いる場合と比べて、高速で成膜を行うことができる。第1のターゲット21aのスパッタ速度と第2のターゲット21bのスパッタ速度の比率を変化させて成膜することにより、上記2種類のターゲット21a,21bのみから、所望の含有量の金属をドープしたTiO膜を成膜することができる。
【0055】
本実施の形態に係る金属ドープTiO膜の成膜方法にあっては、スパッタ時におけるTi及びドープ金属の放電の発光波長と発光強度をモニタリングすることにより、Ti及びドープ金属のスパッタ量を常時、正確に認識することができる。従って、このモニタリングの結果に基づいて成膜条件を制御することにより、所望の含有量の金属をドープしたTiO膜を正確に成膜することができる。
【0056】
また、従来の流量計を用いたガス導入量制御で金属をドープしたTiO膜を作製した場合、金属ドープTiO膜の酸化数を安定して制御することは難しい。その理由として、例えば、ターゲットの消耗が進むにつれて成膜レートが変化し、成膜時の酸素流量を初めとするスパッタ条件が変化するからである。本実施の形態では、成膜時に第1のターゲットにおけるTiの発光波長と発光量をモニタリングし、また第2のターゲットにおけるTi及びドープ金属の発光波長と発光量をモニタリングし、プラズマ中のTi及びドープ金属の密度からチャンパー内に導入する酸素量を制御するPlasma Emission Monitor Control(PEMコントロール)を用いるため、酸化数が制御された金属をドープしたTiO膜を安定して成膜することが可能となる。
【0057】
特に、ターゲット21a,21bと同数(2個)のモニタが設けられ、第1のターゲット21aにおけるTiの放電の発光波長と発光強度を第1のモニタを用いてモニタリングし、第2のターゲット21bにおけるTi及びドープ金属の放電の発光波長と発光強度を第2のモニタを用いてモニタリングするため、各ターゲット21a,21bの放電状況を個別に認識することができる。
【0058】
本実施の形態にあっては、モニタリングに基づいて、各ターゲットに付与するパルス電力、パルス量、パルス幅及び成膜時の圧力の少なくとも一つを変化させることにより、成膜される膜中のドープ金属の含有量及び/又は成膜される膜の結晶性を精密に制御することができる。
【0059】
また、モニタリングに基づいて酸素供給量を制御することにより、酸素供給量を精密に制御することができる。このため、酸化数が精密に制御された金属をドープしたTiO膜を安定して供給することが可能となる。また、適切な量の酸素を導入することにより、「遷移領域」でのスパッタが可能となり、その結果、適切な量の酸素を含有した膜を高速で成膜することができる。
【0060】
本実施の形態にあっては、各ターゲット21a,21bに交互に間欠的な電圧を印加するため、大電流をターゲットに流し、安定した高速成膜を行うことができる。この方法を用いることによって異常放電を大幅に抑制できることから、安定した長時間の放電が可能となりダメージの少ない高品質の膜が作製可能となる。
【0061】
また、各ターゲット21a,21bに単一のパルスを印加してもよいが、図2の通り、各ターゲット21a,21bにパルスパケットを印加することにより、各ターゲット21a,21bに単一のパルスを印加するときと比べて一層大電流を流すことができ、安定した高速成膜が可能となる。
【0062】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では第1のターゲット21aとしてTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)ターゲットを用いたが、ドープ金属含有量の多い膜を成膜するときなどには、第1のターゲット21aとして、第2のターゲットと同一のドープ金属を第2のターゲットとは異なる含有率にて含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなるターゲットを用いてもよい。また、成膜すべき膜中のドープ金属含有量がより多い場合は、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、ドープ金属よりなる第2のターゲットとを用いてもよい。
【0063】
また、通常ターゲットには負の電圧を印加するが、ターゲットに間欠的に正の電圧を印加してターゲットのチャージングを防止してもよい。この場合、負の電圧によってターゲットに蓄積された荷電が正の電圧により解消されるため、スパッタリング中にターゲットの縁部に酸化物等の絶縁膜が形成することが抑えられる。これにより、各ターゲットにより大電流を流すことができ、安定した高速成膜が可能となる。
【0064】
また、スパッタ時に基板を加熱することにより、金属ドープTiO膜の結晶性を制御してもよい。加熱温度は基板の種類によって異なるが、例えば200〜1000℃程度である。
【0065】
上記実施の形態では、第1のターゲット電極20A及び第2のターゲット電極20Bは各々1個ずつであるが、各々2個以上用いられてもよい。
【0066】
上記実施の形態では、2つのスパッタリング部に共通のスイッチングユニット24を設置したバイポーラ型デュアルマグネトロンスパッタリング法を用いたが、各スパッタリング部に個別にスイッチングユニットを設置したユニポーラ型デュアルマグネトロンスパッタリング法を用いてもよい。
【0067】
また、デュアルマグネトロンスパッタリング法に限らず、DC電源を用いた通常の反応性スパッタ法によって金属ドープTiO膜を成膜してもよい。この場合も、上記実施の形態と同様、ターゲットとして金属ドープTiOターゲット(但し、xは0.5以上1.99以下)が用いられる。この反応性スパッタ法によっても、ターゲット中のTiは部分的に酸化しているため、酸素が理論当量よりも不足しており、TiOよりも導電性が高い。従って、金属をドープした酸化チタンターゲットを用いる場合と比べて、高速で成膜を行うことができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例1,2及び比較例1について説明するが、本発明は実施例1に限定されるものではない。
【0069】
〈実施例1〉
Nbを10atm%ドープしたTiOターゲット(x=1.80、縦999mm×横15mm×厚さ5mm)を用い、DC電源を用いた反応性スパッタ法によってNbドープTiO膜を成膜した。ガス流量は、Arが70sccm、Oが70sccmとし、全圧は1.0Pa、印加電力は200Wとした。得られた幕を段差測定器Dektak 6M(Veeco社製)で測定し、成膜速度を確認したところ、1.2nm/minであった。
【0070】
〈実施例2〉
図1の装置を用いて成膜を行った。第1のターゲットとして、Nbを10atm%ドープしたTiOターゲット(x=1.80、縦999mm×横15mm×厚さ5mm)を用いた。第2のターゲットとして、金属をドープしないTiOターゲット(x=1.80、縦999mm×横15mm×厚さ5mm)を用いた。基板にはCORNING社製無アルカリガラス7059(縦80mm×横25mm×厚さ1.1mm)を用いた。
【0071】
先ず、カバー内部に基板を導入し、ポンプによってカバー内を9×10−4Pa以下の真空にした後、アルゴン中に酸素を含有させた混合ガスをカバー26内に導入した。そして、各ターゲット電極に交互にパルス状の電圧を印加することによってNbドープTiO膜を作製した。
【0072】
パルス周波数は50Hzとした。導入酸素量についてはTiのプラズマ発光量をモニターすることによって、酸素欠損が起きない必要十分な量の酸素を導入した。酸素導入量は5〜20sccmの範囲程度であった。また、成膜時の圧力もTiのプラズマ発光量をモニターすることによって制御された。成膜時の圧力は0.3〜10Pa程度であった。
【0073】
ここで、ターゲット1とターゲット2のDuty比(パルス幅の比)は50:50の条件で成膜した。なお、Dutyが100のときの印加電力は5kW×2ターゲットであった。パルス量は50%であった。得られた膜中のNbドープ量をESCAで分析したところ、Ti100atm%に対しNb6.2atm%であった。また、成膜速度は、ほぼ10mm・m/minであった。
【0074】
〈比較例1〉
Nbを10atm%ドープしたTiターゲットを用いたことの他は実施例1と同様にしてNbドープTiO膜を成膜すると共に成膜速度を測定した。その結果、成膜速度は0.5mm・m/minであり、非常にレートが遅かった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】デュアルカソード方式マグネトロンスパッタリング法を説明するための概略図である。
【図2】図1のターゲット電極に印加する電圧の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0076】
1 基板
20a,20b 支持体
20A,20B ターゲット電極
21a,21b ターゲット
22a,22b 磁石
24 スイッチングユニット
25 交流電源
26 カバー
27 ガス導入口
28 排気口
30a,30b コリメータ
31a,31b PEM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属をドープした酸化チタンターゲットを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、
酸素ガスを含む雰囲気にて、ドープ金属を含有する金属ドープTiOターゲット(但し、xは0.5以上1.99以下)を用いてスパッタすることを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項2】
反応性スパッタ法によって金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、
酸素ガスを含む雰囲気にて、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、ドープ金属よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項3】
反応性スパッタ法によって金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、
酸素ガスを含む雰囲気にて、TiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、ドープ金属を含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項4】
反応性スパッタ法によって金属をドープしたTiO膜を成膜する方法において、
酸素ガスを含む雰囲気にて、ドープ金属を含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第1のターゲットと、第1のターゲットと同一のドープ金属を第1のターゲットとは異なる含有率にて含有するTiO(但し、xは0.5以上1.99以下)よりなる第2のターゲットとを用いてスパッタすることにより、金属をドープしたTiO膜を成膜することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、スパッタ時におけるTi及び/又はドープ金属の放電の発光波長と発光強度をモニタリングすることを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記ターゲットと同数のモニタが設けられ、各ターゲットにおけるTi及び/又はドープ金属の放電の発光波長と発光強度を対応するモニタを用いてモニタリングすることを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項7】
請求項6において、前記モニタリングに基づいて、各ターゲットに付与するパルス電力、パルス量、パルス幅及び成膜時の圧力の少なくとも一つを変化させることにより、成膜される膜中のドープ金属の含有量及び/又は成膜される膜の結晶性を制御することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記モニタリングに基づいて酸素供給量を制御することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、各ターゲットに交互にもしくは同時に間欠的な電圧を印加してスパッタを行うことを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、複数のパルス電圧よりなるパルスパケットを各ターゲットに交互にもしくは同時に間欠的に印加することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、各ターゲットに間欠的に正の電圧を印加することにより、ターゲットのチャージングを防止することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、スパッタ時に基板を加熱することにより金属をドープしたTiO膜の結晶性と結晶系を制御することを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項において、前記ドープ金属は、V,Nb,Ta,Zr,Hf,Sc,Y,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Ag,Au,Zn,Cd,B,Al,Ga,In,C,Si,Ge,Sn,Pb,Bi,Sb,Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra,Li,Na,K,Rb,Cs,Fr及びランタノイド元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする金属ドープTiO膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−144052(P2006−144052A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333443(P2004−333443)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】