説明

針状体の製造方法

【課題】先端部の角度を自由に選択可能であり、例えば先端部の角度を小さくし、穿刺抵抗を少なくすることのできる微細な針状体の製造方法を提供すること。
【解決手段】アレイ状に一体成型することの出来る微細な針状体1の製造方法であって、(1)結晶面方位が(100)、(110)および(111)のいずれでもないシリコンウエハの表面に対し、複数の針状体を形成すべき箇所を開口部とするようにマスクを施し、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の胴部を形成するドライエッチングを施す工程と、(2)前記のマスクを剥離し、結晶異方性エッチングを施すことによって、針状体の先端部となるシリコン(111)面である上部斜面を形成する工程と、を有してなることを特徴とする針状体1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば微少電気機械システム(MEMS)デバイス、医療、創薬等に用いる針状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、創薬における分野では、痛みを伴わない無痛針として微細な針状体の開発が進められている。
【0003】
微細な針状体の製造方法としては、一般的にシリコンを加工することにより構造を形成する試みが行われている。シリコンは、MEMSデバイスや半導体製造用途にも使用されているように安価で、且つ微細加工に適している。
【0004】
シリコン製の針状体の製造方法としては、シリコンウエハをエッチングすることにより作製する試みが行われている。それらのマイクロニードルアレイは主に医療用に使用され、それぞれの針は先端部が尖った形態をしている。
【0005】
従来のシリコンウエハのエッチングによる製造されたマイクロニードルとして、例えば図1に示されるような、先端部が尖った形態のものが存在する。それらの形態のシリコン製の針状体は、ウェットエッチングもしくはドライエッチングを用いて形成されたものである。等方性ウェットエッチング、単結晶シリコンの結晶面を利用した異方性ウェットエッチング、あるいはプラズマによってエッチングを行う異方性ドライエッチングが主な手法である。また、シリコンウエハについては表面の結晶面の面方位が(100)の単結晶シリコンが用いられている。
【0006】
このような従来のシリコン製の針状体の製造方法では、針状体の先端部の角度がエッチングの方法によって限定される。例えば、結晶面の面方位を利用した異方性ウェットエッチングを用いた場合は、一般的なウエハの結晶面の都合上、約36度もしくは約71度またはそれらの角度を利用した角度に限定される。そのため、要求されるマイクロニードルの仕様を満足させることが困難となっている。
【0007】
また、他のシリコン製のマイクロニードルの形態として、特許文献1〜3に開示された針状体が挙げられる。これらの特許文献に開示された針状体は、図2に示されるような形状をしている。
【0008】
しかしながら、これらの針状体は、先端部の角度が大きいため、穿刺抵抗が大きくなるという不都合が生じる。
【0009】
また、医療、創薬の分野においては、人体への影響を無視することは出来ない。このため人体へ用いる用途においては、人体への影響が低負荷である材料を用いた針状体が望まれる。このような人体の影響が低負荷である材料としてポリ乳酸などを用いた微細な針状体を形成した例が報告されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2002-239014号公報
【特許文献2】特開2005-199392号公報
【特許文献3】特開2005-198865号公報
【特許文献4】特開2005-21677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明が解決しようとする技術的課題は、先端部の角度を自由に選択可能であり、例えば先端部の角度を小さくし、穿刺抵抗を少なくすることのできる微細な針状体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者の検討の結果、以下の構成によって上記の技術的課題を解決することができた。
請求項1に記載の発明は、アレイ状に一体成型することの出来る微細な針状体の製造方法であって、
(1)結晶面方位が(100)、(110)および(111)のいずれでもないシリコンウエハの表面に対し、複数の針状体を形成すべき箇所を開口部とするようにマスクを施し、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の胴部を形成するドライエッチングを施す工程と、
(2)前記のマスクを剥離し、結晶異方性エッチングを施すことによって、針状体の先端部となるシリコン(111) 面である上部斜面を形成する工程と、
を有してなることを特徴とする針状体の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、前記(1)工程において、シリコンウエハの表面の結晶面方位が(211)であることを特徴とする請求項1に記載の針状体の製造方法である。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法で作製した針状体を母型とし、転写加工成形を行うことにより、生体適合性樹脂を用いた針状体を形成することを特徴とする針状体の製造方法である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする針状体である。
【0012】
シリコンは結晶異方性エッチング加工に対して、面方位によって大きくエッチング速度が異なり、(111)面のエッチング速度は他の面方位に比べて極端に遅い。
このとき、マスクを行うウエハ表面の面方位を制御することにより、ウエハ内部の(111)面を、ウエハ表面に対して任意の角度で配置することができる。
このため、(111)面を、針状体先端部を形成する斜めテーパ面とするようにエッチング加工を行うことで、針状体先端部の角度を自由に選択することが可能となる。
【0013】
また、ドライエッチング加工で縦穴を形成した後、結晶異方性エッチング加工を、ドライエッチング加工を施した面と同じ方向から行うことで、シリコン基板上に一体成形されたアレイ状の針状体を形成することが出来る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、先端部の角度を自由に選択可能であり、例えば先端部の角度を小さくし、極めて穿刺性に優れた針状体の製造方法が提供される。また本発明によれば、当該製造方法により得られた針状体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、シリコン基板上に一体成型されたアレイ状の針状体の製造方法について、図3から図6を参照しつつ、工程順に詳細に説明する。
【0016】
図3は、エッチングの結果、基体2上に形成された複数の針状体を備える本発明のアレイ状の針状体の一部分を示したものであり、図4、図5、図6は本発明の針状体の製造方法を経時的に説明するための概略断面図である。
【0017】
本発明のアレイ状の針状体1は、図3に示されるようにシリコンウエハをエッチングすることにより、基体2の上に一体的に形成されており、その基体2の上に複数立設されている。
【0018】
次に、本発明のアレイ状の針状体1の製造方法を、図4、図5、図6を参照しつつ説明する。
【0019】
本発明におけるアレイ状の針状体1の製造方法は、シリコンウエハ3を所定のステップでエッチングすることにより形成するものであって、基体上に一体的に複数の針状体を立設するように形成する。以下、工程順に説明する。
【0020】
(1)ドライエッチング加工に対応したレジストマスクを形成する工程
一般的に単結晶のシリコンは、ナゲット状の多結晶シリコンから減圧下での加熱溶解などのプロセスにより、(100)面が表出したインゴットの形で製造される。
前記インゴットを輪切りにスライスし、ウエハを製造する際に、スライス方向を(100)面から傾けることにより、表面が(100)面以外であるウエハを得ることができる。
このとき、スライス方向を(100)面から、どの程度傾けるかにより、ウエハ表面の面方位を選択することができる。例えば、(100)面に対して、35.3度傾けた方向からシリコンのインゴットをスライスすることにより、表面の面方位が(211)面であるシリコンウエハを得ることが出来る。
上述の方法により、表面の結晶面方位が結晶面方位が(100)、(110)および(111)のいずれでもない単結晶シリコンウエハ3(例えば(211)ウエハなど)を用意する。その上で、シリコンウェハ3にフォトレジスト4を塗布し、図4に示されるようにパターニングする。フォトレジスト4には、例えば、東京応化工業社製PMER-N-CA3000を用いることができる。フォトレジスト塗布には、例えばスピンコーターを用いる。露光には、アライナを用いる。現像には、東京応化工業社製P-7G現像液を用いる。
【0021】
(2)レジストマスクを用いてドライエッチング加工を施し針状体を形成する工程
次に、針状体の本体の形状を出すために、図5に示すようにシリコンウェハ3の表側の面からドライエッチング加工を施し、四角柱状体を形成する。なお図5において、シリコンウエハ3の断面は(110)面であり、矢印は、図5に記載された面方位方向をそれぞれ有する。
【0022】
ドライエッチングには、例えば、ICP−RIE(誘導結合型プラズマによる反応性イオンエッチング) 装置を用いるのが好適である。
【0023】
このICP−RIE装置を用い、反応ガスとして、例えば、SF6をエッチングガス、C4F8をパッシベーションガスとして、エッチングステップとパッシベーションステップを交互に繰り返す、いわゆるボッシュプロセスを用いるのが好適である。
【0024】
この時、ドライエッチング加工によって突出させる四角柱状体の高さは、エッチングステップとパッシベーションステップを交互に繰り返す回数によって決定される。
【0025】
(3)ドライエッチング用に設けられたレジストマスクを除去する工程
次に、レジストマスクを除去する。レジストマスクは、例えば酸素プラズマによるアッシングによって除去する。
【0026】
(4)結晶異方性ウェットエッチングを施す工程
図6に示される針状体を形成させるために、結晶異方性ウェットエッチング処理がなされる。このエッチング工程によって、図6に示されるように先端に向かって細径化したテーパ状をなす針状体1が形成される。結晶異方性ウェットエッチングを施すことによって、針状体の先端部となるシリコン(111) 面である上部斜面を形成する。
【0027】
以下、上記例で製造したシリコン製の針状体の転写加工成形を行い、生体適合性樹脂を用いた針状体の製造方法について説明を行う。
【0028】
(5)針状体を複製するための原版を作製する工程
シリコンウエハを加工して形成した前記針状体を複製する場合、針状体の全面にめっき法によって金属層を一様に形成する。次いでシリコンからなる針状体をKOHやTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)等の熱アルカリ溶液によるウェットエッチングによって除去し、金属からなる原版を作製する。
【0029】
形成する金属膜の厚さに制限は無いが、少なくとも針状体の高さの2倍以上の厚さに形成することが好ましい。金属の種類には特に制限は無く、例えばニッケルや銅、各種の合金などが好適に用いられる。また、金属以外の材料であるセラミックや樹脂を用いても良い。膜の形成方法としてはめっき法の他に、プラズマ成膜法、スパッタ法、CVD法、蒸着法、焼結法、キャスティング法等も好適に用いることができる。
【0030】
(6)針状体を複製する工程
前記の原版を用い、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、キャスティング法などによって、針状体の複製を行う。複製品の材質は特に制限されないが、生体適合性材料であるデキストラン、ポリ乳酸、シリコーン等を用いることで、生体に適用可能な針状体を形成できる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0032】
(実施例1)
(211)面を表面にもつ、厚さ525μmの単結晶シリコンウェハ3を準備した。次いで、このシリコンウェハ3の基板の両面を熱酸化して、熱酸化膜層を形成した。熱酸化膜層の厚さは表側の面、裏側の面共に3000Åとした。
【0033】
まず、深掘りするためのフォトレジスト4をパターニングし、マスクとした。
【0034】
フォトレジスト4にはPMER-N-CA3000を用い、スピンコーティング法によって厚さ35μmのレジストを、シリコンウェハに形成した。
【0035】
このようにして、フォトレジストを4パターニングしたシリコンウェハを、ICP−RIE装置を用い、反応ガスとしてSF6のエッチングガスと、C4F8のパッシベーションガスを交互にプラズマ化させて、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返す、いわゆるボッシュプロセスによって深掘り処理を施した。
【0036】
エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の高さが200μmに達するまでエッチングを行い、アレイ状の四角柱状体を一体成型した。
【0037】
このようにして形成した四角柱状体は、図5のようにシリコンウェハ上にアレイ状に一体に成型された。
【0038】
このようなエッチング工程を行った後に、針状体の基礎となる側面に堆積した堆積層をH2SO4/H22/H2O混合溶液を用いて除去するとともに、図5のフォトレジスト4を除去した。
【0039】
次いで、以下の要領でドライエッチング加工を施した面と同じ方向から、結晶異方性エッチング処理を施した。
【0040】
エッチング液には12.5%に希釈したTMAH液を6L用意した。
【0041】
この、12.5%に希釈したTMAH液を80℃に昇温し、そこに上記のシリコンウェハを140分間浸漬し、その後20分間、超純水に浸漬するリンス処理を施した。
【0042】
シリコンウェハの表面は(211)面であり、TMAH液でエッチングをする場合には、エッチング速度の遅い(111)面が表面に現れる。
【0043】
このようにして形成した針状体は、図6のようにシリコンウェハ上にアレイ状に一体に成型された。
【0044】
複数の針状体の高さは150μmであり、針状体の基底部の四角形は縦50μm、横50μmであり、先端部の角度は約9度となった。
【0045】
(実施例2)
実施例1で得られたシリコン製の針状体を母型として転写成形加工を行った。
【0046】
実施例1で得られた針状体の全面にめっき法によってニッケルを厚さ600μm形成した。次いでシリコンからなる実施例1で得られた針状体を90℃に加熱したKOH溶液によるウェットエッチングによって除去し、ニッケルからなる原版を作製した。
【0047】
前記のニッケル原版を用い、インプリント法によって、針状体の複製を行った。ここでは生体適合性材料であるポリ乳酸を用いた。これにより、ポリ乳酸から成る針状体を、アレイ状に一体成型された形で形成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により得られる針状体は、例えば、医療、生物現象、創薬に用いる微細な針として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】基体の上に形成された複数の針状体を備える従来のシリコン製マイクロニードルの一部分を示した概略断面図である。
【図2】特許文献1〜3に記載のマイクロニードルの一部分を示した概略断面図である。
【図3】基体の上に形成された複数の針状体を備える本発明のシリコン製の針状体の一部分を示した概略斜視図である。
【図4】本発明の製造方法を経時的に説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の製造方法を経時的に説明するための概略断面図である。
【図6】本発明の製造方法を経時的に説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1……針状体、2……基体(シリコンウエハ部分)、3……シリコンウエハ、4……フォトレジスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ状に一体成型することの出来る微細な針状体の製造方法であって、
(1)結晶面方位が(100)、(110)および(111)のいずれでもないシリコンウエハの表面に対し、複数の針状体を形成すべき箇所を開口部とするようにマスクを施し、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の胴部を形成するドライエッチングを施す工程と、
(2)前記のマスクを剥離し、結晶異方性エッチングを施すことによって、針状体の先端部となるシリコン(111) 面である上部斜面を形成する工程と、
を有してなることを特徴とする針状体の製造方法。
【請求項2】
前記(1)工程において、シリコンウエハの表面の結晶面方位が(211)であることを特徴とする請求項1に記載の針状体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で作製した針状体を母型とし、転写加工成形を行うことにより、生体適合性樹脂を用いた針状体を形成することを特徴とする針状体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする針状体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−35874(P2008−35874A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209533(P2006−209533)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】