説明

長尺テープ線上への蒸着装置

【課題】テープ線の損傷を最小化しながら円滑なテープ線の供給が行われるようにする長尺テープ線上への蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバー10の内部に、外周面に沿って螺旋状のガイド溝が設けられ且つガイド溝に沿って長尺のテープ線が巻き付けられているドラム30と、ドラムの一側から離間して設けられた蒸着ソース40と、ドラムの両軸側にテープ線の送りリール50および巻き戻しリール60とが位置し、ドラムが回転しながら蒸着ソースからテープ線20上に特定の物質が蒸着されるようにするとともに、テープ線の送りと巻き戻しが行われるようにする長尺テープ線上への蒸着装置において、ドラムの内側で円周面に隣接して外側に突出するようにドラムの長手方向に長く設けられ、テープ線の移送方向に回転するスリップローラー100を備え、テープ線の移動の際にガイド溝においてテープ線がスリップされる長尺テープ線上への蒸着装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の超伝導テープ線上に特定の物質を蒸着するための、長尺テープ線上への蒸着装置に係り、特に、外側に突出するようにドラムの長手方向に設けられたスリップローラーによって、テープ線の移動の際にドラムの外周面との摩擦を最小化してテープ線の損傷を最小化するとともに、円滑なテープ線の供給が行われるようにする長尺テープ線上への蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、長尺のテープ線上に特定の物質を蒸着するために、リールツーリール(reel-to-reel)による方式を用いる。この方法によれば、1つのリールがテープ線を供給し(以下「送りリール」という)、もう一つのリールは特定の物質が蒸着されたテープ線を巻き戻すことができるように(以下「巻き戻しリール」という)設けられ、特定の物質の蒸着とテープ線の送りおよび巻き戻しが単一の真空チャンバー内で持続的に行われ得るので、特定の物質が蒸着された長尺のテープ線を得ることができる。
ところが、この方法は、蒸着面積が前記送りリールと巻き戻しリール間の距離によるので、長尺のテープ線を得ることはできるが、蒸着に多くの時間がかかるという問題点がある。
【0003】
前記リールツーリール方式による蒸着時間を短縮するために、真空チャンバーの内部に、外周面に沿って螺旋状のガイド溝が設けられ且つ前記ガイド溝に沿って長尺のテープ線が巻き付けられているドラム(drum)と、前記ドラムの一側に設けられた蒸着ソースとを位置させた後、ドラムを回転させながら前記蒸着ソースから特定の物質が蒸着されるようにして、一度に長尺のテープ線の全表面に特定の物質を蒸着させるバッチ(batch)式の蒸着法がある。
【0004】
ところが、このバッチ式の蒸着法は、ドラムのサイズによって、前記ガイド溝に沿って巻付け可能なテープ線の長さが制限的である。すなわち、特定の物質が蒸着された長尺のテープ線を得るためには、ドラムのサイズを大きくするしかなく、これによりドラムのサイズによる実験室内の空間を大きく占めるうえ、真空チャンバーまたはポンプの大きさの増加による蒸着装置の製作コスト、ドラムの作動時間および作動コストも増加するという問題点がある。
【0005】
したがって、かかる問題点を解決するために、前記リールツーリールによる方法とドラムによるバッチ式蒸着法を組み合わせたものとして、前記ドラムの両軸側に、前記長尺のテープ線を送るための送りリールおよび前記長尺のテープ線を巻き戻すための巻き戻しリールを取り付ける方法がある。すなわち、一側の送りリールから繰り出されたテープ線がドラム上のガイド溝に沿って移動した後、蒸着と同時に他側の巻き戻しリールに巻き戻される形態である。この場合、テープ線は送りリールに十分巻き付けることが可能なので、テープ線の長さに対する制限は緩和される。しかも、ドラムによる大面積蒸着が可能なので、バッチ式の利点を同時に生かすことができる。
【0006】
しかし、このような方法は、前記ドラムのガイド溝に長尺のテープ線が接触しているので、接触面による摩擦力によってテープ線の移動の際に張力が発生してテープ線の縁部が損傷し易く、全体摩擦力が大きい場合にはテープ線の移動自体が不可になるという問題点がある。
【0007】
このような問題点は、前記特定の物質として高温超伝導層を形成させる場合、テープ線上に蒸着された高温超伝導層の超伝導特性を低下させる原因にもなれる。すなわち、一般に、高温超伝導層がセラミック材質で形成されるが、前記テープ線に張力が加えられると、セラミックで形成された超伝導層に引張力が発生し、微細な亀裂によって臨界電流を減少させて超伝導特性を低下させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたもので、その目的とするところは、外側に突出するようにドラムの長手方向に設けられたスリップローラーによって、テープ線の移動の際にドラムの外周面との摩擦を最小化してテープ線に張力が加えられないようにし、テープ線の損傷を最小化しながら円滑なテープ線の供給が行われるようにする長尺テープ線上への蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、真空チャンバーの内部に、外周面に沿って螺旋状のガイド溝が設けられ且つ前記ガイド溝に沿って長尺のテープ線が巻き付けられているドラムと、前記ドラムの一側から離間して設けられた蒸着ソースと、前記ドラムの両軸側に前記テープ線の送りおよび巻き戻しのためにそれぞれ設けられた送りリールおよび巻き戻しリールとが位置し、ドラムが回転しながら前記蒸着ソースから前記テープ線上に特定の物質が蒸着されるようにするとともに、前記テープ線の送りと巻き戻しが行われるようにする長尺テープ線上への蒸着装置において、前記ドラムの内側で円周面に隣接して外側に突出するように前記ドラムの長手方向に長く設けられ、前記テープ線の移送方向に回転するスリップローラーを備え、前記テープ線の移動の際に前記ガイド溝においてテープ線がスリップされることを特徴とする、長尺テープ線上への蒸着装置を提供する。
【0010】
また、前記スリップローラーは、前記ドラムの円周面に沿って多数設けられ、お互い回転チェーンによって連結されて同時に回転することが好ましい。
【0011】
ここで、前記スリップローラーは、前記ドラムの内部に設けられた支持体にベアリングを介して固定結合されることが好ましい。
【0012】
これにより、外側に突出するようにドラムの長手方向に長く設けられたスリップローラーがテープ線の回転方向と同一の方向に回転するようにして、テープ線の移動を補助して前記ドラムの外周面でスリップされるようにすることにより、テープ線とドラムとの摩擦が最小化されてテープ線の移動の際に張力が印加されなくテープ線が損傷しないようにしながら、持続的且つ円滑なテープ線の供給が行われるようにして、特定の物質が蒸着された長尺のテープ線を供給することができるとともに、テープ線上への特定の物質の均質な蒸着を行うことができるという利点がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、外側に突出するようにドラムの長手方向に長く設けられたスリップローラーがテープ線の回転方向と同一の方向に回転するようにして、テープ線の移動を補助して前記ドラムの外周面でスリップされるようにすることにより、テープ線とドラムとの摩擦が最小化されてテープ線の移動の際に張力が印加されなくテープ線が損傷しないようにしながら、持続的且つ円滑なテープ線の供給が行われるようにして、特定の物質が蒸着された長尺のテープ線を供給することができるという効果がある。
また、本発明は、テープ線が損傷していない状態でテープ線上への特定の物質の均質な蒸着が可能であり、特に前記特定の物質が高温超伝導層の場合には超伝導特性を低下させないながら長尺の高温超伝導テープ線を提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明に係る長尺テープ線上への蒸着装置の要部を示す斜視図、図2は本発明に係る長尺テープ線上への蒸着装置の要部を示す側面模式図である。
【0016】
図示したように、本発明では、ドラム30の外周面に沿って設けられた螺旋状のガイド溝31に特定の物質を蒸着させるためのテープ線20が巻き付けられており、前記テープ線20は、ドラム30の一側に位置した送りリール50によって持続的に供給されながら特定の物質の蒸着が行われるとともに、反対側に位置した巻き戻しリール60に巻き戻される。
【0017】
ここで、特定の物質は、真空チャンバー10内で蒸着可能な全体物質を含み、例えば、セラミックからなる高温超伝導層や半導体層、金属層などの様々な物質が挙げられる。
【0018】
本発明を構成する前記構成要素は、いずれも所定の真空状態が維持される真空チャンバー10の内部に位置する。さらに、前記ドラム30の一側からドラム30の長手方向に対して垂直方向に離間してドラム30の長手方向の中心に対応するところには、真空蒸発装置やスパッタリング蒸着装置、その他物理的・化学的薄膜蒸着装置などの蒸着ソース40が少なくとも1つ位置する。
【0019】
特定の物質を成す組成物は、前記蒸着ソース40から蒸気またはプラズマ状態で噴出され、その対向する位置に設けられたドラム30上に巻き付けられたテープ線20の上面に、適切な組成比を持つ特定の物質として蒸着される。この際、ドラム30は、動力モータdmに連結されて持続的に回転しており、ドラム30のガイド溝31に沿って巻き付けられているテープ線20は、前記巻き戻しリール60の動力回転に伴って一定の速度で移動し、前記送りリール50によって持続的に供給される。これにより、大面積の蒸着が短時間内に可能となる。
【0020】
前記送りリール50と巻き戻しリール60は、一定の張力でテープ線20が供給され得るように張力の調節が可能な動力モータtmによって駆動される。前記送りリール50と巻き戻しリール60は、前記ドラム30の内部に位置し、或いは前記蒸着ソース40またはヒータから遮蔽されるように設けられ、特定の物質およびテープ線20に不要な蒸着要素が加えられるようにする。
【0021】
ここで、テープ線20の移動の際にドラム30のガイド溝31とテープ線20とが接触し、特にドラム30のサイズが大きいほど、長尺のテープ線20であるほど、そして幅の広いテープ線20であるほど、接触抵抗による摩擦力が増加する。
【0022】
また、ドラム30の形態上、ヒータによる熱がテープ線20の位置に応じて均一には至らないため熱膨張によるテープ線20の伸び程度が異なり、ドラム30上のある部位ではテープ線20がより長く伸びる。この際、前記送りリール50と巻き戻しリール60の動力モータtmによって張力が調節されると、テープ線20のある部位には過度な張力がかかってテープ線20の損傷をもたらす。
【0023】
前記において接触抵抗による摩擦力を減らし且つテープ線20にかかる過度な張力を防止するために、テープ線20の移動の際に、前記テープ線20が前記ドラム30のガイド溝31に沿って移動せず、特定の部分ではテープ線20がガイド溝31の上側で滑るように、すなわちスリップ(slip)されるように、スリップローラー(slip-roller)100が設けられることが好ましい。
【0024】
前記スリップローラー100は、円筒状をしており、前記ドラム30の内側で円周面に隣接して前記ドラム30の外側に突出するように前記ドラム30の長手方向に長く設けられる。そして、前記スリップローラー100は、動力モータcmに連結されて前記テープ線20の移送方向、すなわちドラム30の回転方向に回転する。
【0025】
また、前記スリップローラー100は、前記ドラム30の円周面に沿って多数設けられ、これらの相互間が、動力モータcmに連結された回転チェーン200によって連結される。これにより、これらのスリップローラーが同時に回転するようにして、必要に応じてテープ線20とガイド溝31との接触程度を調節することができるようにする。
【0026】
ここで、前記スリップローラー100は、前記ドラム30の両側面に前記スリップローラー100の直径よりやや大きく設けられた収容溝に一部が収容され、残りは前記ドラム30の外側に突出するように設けられるか、或いは、ドラム30が両側面のない円筒管状をする場合には単に前記ドラム30の外側に突出するように設けられる。前記スリップローラー100は、前記収容溝からやや離れて収容溝に接触しないように固定させるか、或いは、単にドラム30の外側に突出するように設けられた場合には所定の位置に固定させるために、前記ドラム30の内部に設けられた支持体300と結合させる。前記支持体300は、ドラム30の回転軸と結合し、前記スリップローラー100との摩擦力を最小化するためにベアリングを介して固定結合される。
【0027】
すなわち、前記スリップローラー100がドラム30の円周面の表面からやや突出するように設けられ、ドラム30のガイド溝31に沿って移送されるテープ線20をドラム30のガイド溝31から前記スリップローラー100の付近でやや離れるようにして、テープ線20がガイド溝31に接触して移送されるのではなく、ガイド溝30から離れて円滑に移送されるようにして接触抵抗を減らすのである。
【0028】
また、熱膨張程度の差異によりテープ線20のある部位がより少し伸びている場合には、前記スリップローラー100によるテープ線20の移動方向へのスリップがそれほど小さく発生し、自動的に熱膨張の差異による長さ補正がなされるので、前記送りリール50と巻き戻しリール60によるテープ線20の張力が一定に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る長尺テープ線上への蒸着装置の要部を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る長尺テープ線上への蒸着装置の要部を示す側面模式図である。
【符号の説明】
【0030】
10 真空チャンバー
20 テープ線
30 ドラム
31 ガイド溝
40 蒸着ソース
50 送りリール
60 巻き戻しリール
100 スリップローラー
200 回転チェーン
300 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバーの内部に、外周面に沿って螺旋状のガイド溝が設けられ且つ前記ガイド溝に沿って長尺のテープ線が巻き付けられているドラムと、前記ドラムの一側から離間して設けられた蒸着ソースと、前記ドラムの両軸側に前記テープ線の送りおよび巻き戻しのためにそれぞれ設けられた送りリールおよび巻き戻しリールとが位置し、ドラムが回転しながら前記蒸着ソースから前記テープ線上に特定の物質が蒸着されるようにするとともに、前記テープ線の送りと巻き戻しが行われるようにする長尺テープ線上への蒸着装置において、
前記ドラムの内側で円周面に隣接して外側に突出するように前記ドラムの長手方向に長く設けられ、前記テープ線の移送方向に回転するスリップローラーを備え、
前記テープ線の移動の際に前記ガイド溝においてテープ線がスリップされることを特徴とする、長尺テープ線上への蒸着装置。
【請求項2】
前記スリップローラーは、前記ドラムの円周面に沿って多数設けられ、お互い回転チェーンによって連結されて同時に回転することを特徴とする、請求項1に記載の長尺テープ線上への蒸着装置。
【請求項3】
前記スリップローラーは、前記ドラムの内部に設けられた支持体にベアリングを介して固定結合されることを特徴とする、請求項1または2に記載の長尺テープ線上への蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−69451(P2008−69451A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200549(P2007−200549)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(506018455)コリア エレクトロテクノロジィ リサーチ インスティテュート (2)
【Fターム(参考)】