説明

難燃性炭素繊維強化複合材料

【課題】マトリックス樹脂中にハロゲン原子を含有せず、火災時に有害なガス成分を発生することがなく、優れた難燃性を有し、機械特性に優れた、難燃性炭素繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】リン含有エポキシ樹脂(A)、非リン含有エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂硬化剤(C)、炭素繊維(D)から構成される炭素繊維強化複合材料であって、(A)(B)(C)を必須成分とするマトリックス樹脂中のリン含有量が0.4〜5.0重量%であって、(A)のリン含有エポキシ樹脂が特定のリン含有化合物と、エポキシ樹脂との反応物であることを特徴とする難燃性炭素繊維強化複合材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はそのマトリックス樹脂中にハロゲン原子を含有せず、火災時に有害なガス成分を発生する事がなく、優れた難燃性を有し、機械特性に優れた、炭素繊維強化複合材料を提供するものであり、レジャー及び生活関連用品、自動車、車両、船舶及び航空機等の交通関連用品、一般工業及び産業資材、電子・電気関連資材として広範囲の利用分野で使用される難燃性炭素繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化複合材料は、機械特性、熱的特性に優れ、釣り竿、ゴルフシャフト、テニスラッケト等のレジャー用品、プロペラシャフト、エンジンフード、スポイラー等の自動車部品、工業用ローラー、圧力容器等の工業用部品、電車車体、座席等の鉄道車両、パソコン筐体等の電子材料、船舶、航空機等さまざまな用途に使用されている。
【0003】
炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としては、機械的特性、熱的特性、炭素繊維との密着性に優れるエポキシ樹脂が好適に使用される。エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が主として使用されてきたが、従来のエポキシ樹脂/炭素繊維強化複合材料では難燃性、燃焼時の発煙性に問題があった。特に電子材料用途、自動車部品、鉄道車両、航空機等の用途ではエポキシ樹脂/炭素繊維強化複合材料の難燃化、燃焼時の低発煙化への要求が近年高まってきている。
【0004】
エポキシ樹脂/炭素繊維の難燃化方法としては、臭素化エポキシ樹脂を使用する方法(特許文献1)が広く採用されてきた。臭素化エポキシ樹脂は良好な難燃性を有するものの、火災時に発生するガスの毒性が問題となり、人体への安全性、地球環境保護の観点から代替方法が望まれている。
【0005】
一方、臭素化エポキシ樹脂を代替する難燃化方法として、リン化合物を添加する方法(特許文献2)などがあるが、機械的強度の低下、プリプレグの安定性不良などの問題が多く改良が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開昭54−74899号公報
【特許文献2】特公昭45−28510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、マトリックス樹脂がハロゲン原子を含有せず、火災時に有害なガス成分を発生する事がなく、優れた難燃性を有し、機械特性に優れた、難燃性炭素繊維強化複合材料及び炭素繊維プリプレグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意研究の結果、マトリックス樹脂として特定の構造を有するリン原子含有エポキシ樹脂(A)、非リン含有エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂硬化剤(C)を必須とすることにより、難燃性に優れ、良好な機械的特性を有する炭素繊維プリプレグ、及び、難燃性炭素繊維強化複合材料を得ることを見出し本発明に至った。
【0009】
即ち本発明は、リン含有エポキシ樹脂(A)、非リン含有エポキシ樹脂(B)、とエポキシ樹脂硬化剤(C)を必須成分とするマトリックス樹脂中のリン含有量が0.4〜5.0%であって、リン含有エポキシ樹脂(A)が、一般式(1)及び(2)で表される少なくとも1種のリン化合物と、エポキシ樹脂との反応物であることを特徴とする炭素繊維プリプレグ及び難燃性炭素繊維強化複合材料を提供するものである。
【0010】
【化1】


(式中R、RはC〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、置換アリール基であり、互いに結合して環状構造を形成していても良い。nは0又は1)
【0011】
【化2】

(式中R、RはC〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、置換アリール基であり、互いに結合して環状構造を形成していても良い。mは0又は1。式中Xは一般式(3)又は一般式(4)を示す。)
【0012】
【化3】

(式中RはC〜Cの炭化水素基であり、qは0〜3の整数)
【0013】
【化4】

(式中RはC〜Cの炭化水素基であり、rは0〜5の整数)
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭素繊維プリプレグは硬化させることにより炭素繊維強化複合材料として、優れた機械的強度を維持し、有害なハロゲン系ガスを発生することなく、難燃性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で必須とするリン含有エポキシ樹脂(A)は、前記の一般式(1)又は(2)で表される少なくとも1種のリン化合物と、エポキシ樹脂とを付加反応させて得ることができる。
【0016】
一般式(1)で表される化合物は活性水素を一個もつリン化合物であり、式中のR、Rが炭素数1から12の脂肪族炭化水素基、アリール基または置換アリール基であって、RとRが直接結合して環状構造を形成しても良いものである。また、nの数は0または1である。R、Rの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が挙げられ、RとRは同一でも異なっていてもかまわない。また、RとRが結合して環状構造を形成しているものの例としては、例えば、テトラメチレン、シクロペントレン、シクロヘキシレン、シクロヘブチレン、シクロオクチレン、シクロデシレン、ノルボルニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。これらの中では、一般式(5)で表される9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスフォフェナントレン−10−オキサイドが好ましい。
【0017】
【化5】

一般式(5)で表されるリン化合物である9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスフォフェナントレン−10−オキサイドは、商品名「HCA」(三光化学株式会社製、以下HCAと略記する)として入手することができる。
【0018】
一般式(2)で表される化合物は、Xが一般式(3)又は(4)で示される活性水素を二個もつリン化合物であり、式中のR、Rが炭素数1から12の脂肪族炭化水素基、アリール基または置換アリール基であって、RとRが直接結合して環状構造を形成しても良いものである。また、mの数は0または1である。R1及びR2の具体例は前記〔0012〕と同じものを例示できる。RとRが直接結合して環状構造を形成している例として一般式(5)で表わされるリン化合物である9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスフォフェナントレン−10−オキサイドであり、Xが一般式(3)又は(4)で示されるリン含有化合物である。これらのリン含有化合物は一般式(5)の化合物と単環又は多環キノン化合物との反応によって得られる。これらのキノン化合物の具体例としては、1,4−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明に使用される好ましいリン含有化合物としては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスフォフェナントレン−10−オキサイドと1,4−ベンゾキノンの付加反応物である一般式(6)で示されるリン含有化合物であり、商品名「HCA−HQ」(三光化学株式会社製、以下HCA−HQ略記)として入手することができる。
【0020】
【化6】

【0021】
更に、本発明に使用される好ましいリン含有化合物としては、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスフォフェナントレン−10−オキサイドと1,4−ナフトキノンの付加反応物である一般式(7)で示されるリン含有化合物(以下HCA−NQと略記)である。
【0022】
【化7】

【0023】
本発明でマットリック樹脂に使用されるリン含有エポキシ樹脂(A)は、好ましくは前記のリン化合物(5)から(7)の少なくとも1種と、非リン含有エポキシ樹脂であるビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種以上のエポキシ樹脂との付加反応させて得られるが、HCA−HQ及びHCA−NQを使用した場合、分子末端エポキシ官能基は維持できるが、HCAを使用した場合は減少するので、HCAは主として当該リン含有エポキシ樹脂の粘度、分子量、リン含有量を調整する目的で使用される。
【0024】
リン含有エポキシ樹脂(A)の出発原料となるエポキシ樹脂はグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられ、これらのなかではグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0025】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂が挙げられ、これらのなかではビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0026】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としてはビスフェノール型エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのなかではビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。またノボラック型エポキシ樹脂としてはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらのなかではフェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0027】
リン含有エポキシ樹脂(A)の出発原料となるビスフェノール型エポキシ樹脂としては、分子量の低いものが好ましく、例えば商品名「エポトートYD−8125」、「エポトートYD−127」、「エポトートYD−128」、「エポトートYD−134」、「エポトートYD−011」等のビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名「エポトートYDF−8170」、「エポトートYDF−8170C」、「エポトートYDF−170」、「エポトートYDF−2001」等のビスフェノールF型樹脂、また、ノボラック型エポキシ樹脂としては例えば商品名「エポトートYDPN−638」(いずれも東都化成製)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
リン含有化合物(6)及び/又は(7)の活性水素、または必要に応じてリン化合物(5)の活性水素とエポキシ樹脂のエポキシ基との仕込比率は、エポキシ基が過剰である必要があり、エポキシ基1当量当たり、リン化合物の活性水素の合計が0.1〜0.99当量が好ましく、更に好ましくは0.2〜0.9の範囲である。この反応は公知の方法によれば良く、例えばアルカリ金属水酸化物、三級アミン類、四級アンモニウム塩類、イミダゾール類、トリフェニルフォスフイン、ホスフォニウム塩類、等の触媒の存在下、反応温度50〜250℃、反応時間0.5〜20時間の条件で反応することができる。2種以上のリン化合物と2種以上のエポキシ樹脂を使用する場合、夫々同時に、或いは逐次に反応してもかまわない。
【0029】
リン含有化合物、エポキシ樹脂の種類、リン含有化合物の活性水素とエポキシ樹脂のエポキシ基の仕込比率により、常温で液状から固形のエポキシ当量160〜2,000g/eq、リン含有量0.5〜7.0重量%のリン含有エポキシ樹脂(A)を製造することができる。前記リン含有化合物の仕込み比率の小さい場合は、実質的にリン含有エポキシ樹脂(A)と非リン含有エポキシ樹脂の混合物となる。マトリックス樹脂中のリン含有エポキシ樹脂(A)の含有比率はそのリン含有比率に因るが25〜95重量%、より好ましくは30重量%から90重量%である。
【0030】
本発明の炭素繊維プリプレグはリン含有エポキシ樹脂(A)以外の非リン含有エポキシ樹脂(B)も必須である。係る非リン含有エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート型樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の炭素繊維プリプレグはリン含有エポキシ樹脂(A)、非リン含有エポキシ樹脂(B)の他にフェノキシ樹脂(E)を配合することができる。フェノキシ樹脂は、マトリックス樹脂に、可撓性、耐衝撃性、接着力の付与、適度の粘性を目的に配合されるものであり、その配合量は全マトリックス樹脂に対して、0〜20重量%の範囲で、より好ましくは0.5〜15重量%、更に好ましくは1.0〜13重量%である。フェノキシ樹脂(E)は、一般式(8)で示される。
【0032】
【化8】

ここでMは2価フェノール残基を示す。フェノキシ樹脂を構成する2価フェノールは一種類で構成されているホモポリマーで有ってもよく、また、2種類以上の2価フェノールから構成されるランダムコポリマーまたはブロックコポリマーで有っても良い。更には、本発明の目的を阻害しない範囲での長鎖分岐或いは短鎖分岐をしていても差し支えない。
【0033】
具体的に本発明で使用される2価フェノール類を例示すると、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、2,5−ジターシャリーブチルハイドロキノン等の2価単核フェノール類、ビスフェノールA(以下BPAと略記),ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールK、ビスフェノールF(以下BPFと略記)、ビスフェノールS(以下BPSと略記)、3,3’−5,5’−テトラメチルビスフェノールF等の2価多核ビスフェノール類、1,4−ナフタレンジオール、1,6−ナフタレンジオール等のナフタレンジオール類、4、4’−ビフェノール、3,3’−5,5’テトラメチルビフェノール等のビフェノール類、ビスフェノールフルオレイン等の環を有するビスフェノール類等である。フェノキシ樹脂は、係る2価フェノール類とアルカリ金属水酸化物の存在下にエピクロルヒドリンと反応させる直接製造法で有ってもよく、前記2価フェノール類と2官能のエポキシ樹脂との反応による間接製造法によるものであっても良い。係るフェノキシ樹脂の分子量としては、標準ポリスチレンを標準物質としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された数平均分子量が3,000〜100,000、更に好ましくは、5,000〜80,000程度のものが好ましい。フェノキシ樹脂の具体的な市販品としては何れも東都化成株式会社製である「フェノトートYP−40」、「フェノトートYP−50」、「フェノトートYP−50S」等のBPA型フェノキシ樹脂、「フェノトートYP-70」等のBPA/BPF型フェノキシ樹脂、「フェノトートERF−001」等のリン含有フェノキシ樹脂、「フェノトートYPS−007」等のビスフェノールスルフォン型フェノキシ樹脂を例示することが出来る。
また、フェノキシ樹脂以外の樹脂成分としてポリビニルホルマール、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂を本発明の効果を損なわない範囲で配合することもできる。
【0034】
本発明の炭素繊維プリプレグはエポキシ樹脂硬化剤(C)を必須成分として含有する。好ましい硬化剤としては所謂、潜在性硬化剤とされるものが望ましい。係る硬化剤の例としては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノエチルベンゼン等の芳香族アミン類、フェノールノボラック、アルキルフェノールノボラック、アラルキルフェノールノボラック、トリアジン環含有ノボラックフェノール、ビフェニルアラルキルフェノール、ナフタレンアラルキルフェノール、トリスフェニルメタン、テトラキスフェニルエタン等の多価フェノール類及びそれらのアルキルエステル類、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド等のヒドラジド類、イミダゾール化合物類及びその塩類、ジシアンジアミド、アミノ安息酸エステル類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン等の脂肪族アミン類等が挙げられるがこれらに限定するものではない。また、必要に応じて3−(3,4−ジクロロジフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−フェニルー1,1―ジメチルウレア、イミダゾール類、三弗化硼素モノエチルアミン錯体、三塩化ホウ素モノエチル錯体等の促進剤を併用することもできる。
【0035】
本発明の炭素繊維プリプレグに使用する炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維が挙げられ、これらのなかではPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0036】
本発明の炭素繊維プリプレグを製造する方法は特に制限はなく、先ず、例えばリン含有エポキシ樹脂(A)と非リン含有エポキシ樹脂(B)、フェノキシ樹脂(E)を攪拌により均一に混合後、エポキシ樹脂硬化剤成分(C)を添加して均一に混合しマトリックス樹脂組成物とする。成形後のボイドの発生を少なくする目的で、攪拌時しながら真空脱気する方法が好ましく採用される。その後、炭素繊維にマトリックス樹脂組成物を含浸して炭素繊維プリプレグとすることができる。またプリプレグの形態としてはヤーンプリプレグ、シートプリプレグが挙げられ、シートプリプレグとしては一方向プリプレグ、二方向プリプレグ、不織布プリプレグが挙げられる。
【0037】
本発明の炭素繊維プリプレグ中のリン含有量は0.4〜5.0重量%が好ましい。0.4重量%以下では難燃性が得られず、5.0重量%を超えるとコスト高となり経済性が低下する。本発明ではリン源として一般式(1)又は(2)のリン化合物を使用し、その後のエポキシ樹脂との反応でも、リン原子の損失は起らないので、(1)又は(2)のリン含有量から最終炭素繊維プリプレグ中のリン含有量が簡単な計算により求める事ができる。
因みに一般式(6)のHCA−HQのリン含有量は9.57重量%、一般式(7)のHCA−NQは8.27重量%、一般式(5)のHCAは14.4重量%である。
【0038】
本発明の炭素繊維プリプレグを硬化することにより得られる種々の炭素繊維強化複合材料も本発明の提供するものである。成形方法としては特に制限されるものではなく、プレス成形法、シートワインディング法、オートクレーブ成形法等によって行うことができる。
【0039】
また、本発明難燃性炭素繊維複合材料は、フィラメントワインディング法またはプルトリュージョン法またはレジントランスファーモールディング法により成形、硬化させることによりプリプレグを経由しないで炭素繊維強化複合材料を得る方法も本発明の提供するものである。
【0040】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、3mmの厚みに成形した時の難燃性がUL−94に規定するV−0、V―1及びV−2のものを得ることができる。
【0041】
〔実施例〕
次に実施例及び比較例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに制限されるものではない。尚、実施例、比較例の「部」は重量部を意味する。また、エポキシ当量の測定法はJIS K−7236、プリプレグ中のマトリックス樹脂含有量の測定法はJIS K―7071、繊維体積含有率はJIS H-7401、引張り強度の測定はJIS K-7113に準じた。
【0042】
〔合成例1〕 リン含有エポキシ樹脂(A−1)の合成
攪拌装置、温度計、窒素導入管、コンデンサーを装備したガラス製セパラブルフラスコに、エポトートYDF−170(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量168g/eq 東都化成株式会社製)796.1部、HCA(三光化学株式会社)133.9部、HCA−NQ70.0部及びトリフェニルホスフィン0.15部を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら160℃まで昇温して4時間反応を行った。反応後、冷却して抜き出し、エポキシ当量267.1g/eq、リン含有量2.50重量%の常温で液状のリン含有エポキシ樹脂(A−1)を得た。
【0043】
〔合成例2〕 リン含有エポキシ樹脂(A−2)の合成
合成例1と同じ反応装置にエポトートYDF−8170(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量158g/eq 東都化成株式会社製)286部、エポトートYDPN−638(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量168g/eq 東都化成株式会社製)429部、HCA−NQ71部、HCA(三光化学株式会社)214部及びトリフェニルホスフィン0.3部を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら160℃まで昇温して5時間反応を行った。反応後、冷却して抜き出し、エポキシ当量350g/eq、リン含有量3.66重量%の常温で半固形状のリン含有エポキシ樹脂(A−2)を得た。
【0044】
〔合成例3〕リン含有エポキシ樹脂(A−3)の合成
合成例1と同じ反応装置にエポトートYD―128(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、 エポキシ当量187g/eq 東都化成株式会社製)267部、エポトートYDPN−638 429部、HCA−HQ(三光化学株式会社)133部、HCA200部及びトリフェニルホスフィン0.43部を仕込み、攪拌しながら160℃まで昇温して6時間反応を行った。反応後、冷却して抜き出し、エポキシ当量520g/eq、リン含有量4.16重量%の常温で固形状のリン含有エポキシ樹脂(A―3)を得た。
【実施例1】
【0045】
リン含有エポキシ樹脂(A−1)81部、エポトートYDF―170(B―2)19部、ジシアンジアミド(以下DICYと略記する)4部及び3−(3,4−ジクロロジフェニル)−1,1−ジメチルウレア(以下DCMUと略記する)3部を加熱ニーダーに入れて加熱混合し、リン含有量1.89重量%のマトリックス樹脂(R−1)を得た。
次に市販の高強度炭素繊維(T700 引張強さ4.8GPa、引張弾性率235GPa 東レ株式会社製)を一方向に引き揃えた後に、(R−1)を加熱溶融し、圧力を加えて含浸させマトリックス樹脂含有率35%の一方向炭素繊維プリプレグ(P−1)を得た。
(P−1)を長さ30cm、幅30cmに裁断したものを繊維方向が同一になるように17枚積層して積層体を形成し、リリースクロスを重ねた後、ブリーダークロスを重ね、更にブリーダークロスを重ね、ナイロンパックで包み、成形用スタックを形成した。この形成用スタックを130℃、1時間の条件下でオートクレーブ成形して厚み2mm、繊維体積含有率60%の炭素繊維複合材料を得た。曲げ強度は1.56GPa、曲げ弾性率は125GPaであった。
また、(P−1)を25枚重ね同様にスタック形成、硬化を行い長さ127mm、幅12.7mm、厚み3mmに切り出した試験片を用いたUL−94の垂直燃焼試験による判定はV−0であった。
【実施例2】
【0046】
リン含有エポキシ樹脂(A−2)30部、エポトートYD−128(B−1) 60部、フェノトートYP−50S(E―1)(ビスフェノールA型フェノキシ樹脂)10部を加熱ニーダーに入れ加熱混合した。更にDICY4部、DCMU3部を添加して混合し、リン含有量1.01重量%のマトリックス樹脂(R−2)を得た。
以下実施例1と同様にスタック形成、オートクレーブ成形を行い曲げ強度試験片、燃焼試験片を得た。曲げ強度は1.65GPa、曲げ弾性率は130GPa、燃焼性判定はUL―94 V−1であった。
【実施例3】
【0047】
リン含有エポキシ樹脂(A−3)40部、YDF−170(B−2) 50部、YDPN―638(B−3)10部を加熱ニーダーに入れ加熱混合した。更にDICY 4部、DCMU 4部を添加して混合しリン含有量1.54重量%のマトリックス樹脂(R−3)を得た。
以下実施例1と同様にスタック形成、オートクレーブ成形を行い曲げ強度試験片、燃焼試験片を得た。曲げ強度は1.55GPa、曲げ弾性率は121GPa、燃焼性判定はUL−94でV−0であった。
【0048】
〔比較例1〕
リン含有エポキシ樹脂(A−1)の代わりに、エポキシ樹脂をYDF−170(B―2) 100部とした以外は実施例1と同様の操作を行いマトリックス樹脂(R−4)を得た。また、実施例1と同様にスタック形成、オートクレーブ成形を行い曲げ強度試験片、燃焼試験片を得た。曲げ強度は曲げ強度は1.42GPa、曲げ弾性率は145GPa、燃焼性試験では燃焼した。
【0049】
〔比較例2〕
リン含有エポキシ樹脂(A−2)30部の代わりにYDF−170(B−2) 15部、YDF−2001(B−4)(ビスフェノールF型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量475g/eq)15部とした以外は実施例2と同様の操作を行いエポキシ樹脂組成物(R−5)を得た。以下同様にスタック形成、オートクレーブ成形を行い試験片を得た。曲げ強度は1.58GPa、曲げ弾性率は135GPa、燃焼性試験では燃焼した。
【0050】
〔比較例3〕
リン含有エポキシ樹脂(A−3)40部の代わりにエポトートYD−011(B−5)(ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量=475g/eq 東都化成株式会社製)とした以外は実施例3と同様の操作を行いマトリックス樹脂(R−6)を得た。以下同様にスタック形成、オートクレーブ成形を行い試験片を得た。曲げ強度は1.52GPa、曲げ弾性率は123GPa、燃焼性試験では燃焼した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有エポキシ樹脂(A)、非リン含有エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂硬化剤(C)を必須成分とするマトリックス樹脂と炭素繊維(D)から構成される炭素繊維強化複合材料であって、(A)(B)(C)を必須成分とするマトリックス樹脂中のリン含有量が0.4〜5.0重量%であって、(A)のリン含有エポキシ樹脂が一般式(1)又は(2)で表される少なくとも1種のリン含有化合物と、エポキシ樹脂との反応物であることを特徴とする難燃性炭素繊維強化複材料。
【化1】


(式中R、RはC〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、置換アリール基であり、互いに結合して環状構造を形成していても良い。nは0又は1。)
【化2】


(式中R、RはC〜C12の脂肪族炭化水素基、アリール基、置換アリール基であり、互いに結合して環状構造を形成していても良い。mは0又は1。式中Xは一般式(3)又は一般式(4)を示す。)
【化3】

(式中RはC〜Cの炭化水素基であり、qは0〜3の整数。)
【化4】

(式中RはC〜Cの炭化水素基であり、rは0〜5の整数。)
【請求項2】
成形、硬化手段がフィラメントワインディング法、プルトリュージョン法又はレジントランスファーモールディング法である請求項1記載の難燃性炭素繊維強化複合材料。
【請求項3】
リン含有エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が160〜2000g/eqであり、且つ、リン含有量が0.5〜7.0重量%である請求項1または請求項2記載の難燃性炭素繊維強化複合材料。
【請求項4】
マトリックス樹脂中のリン含有エポキシ樹脂(A)の含有比率が25〜95重量%である請求項1〜3の何れかの項記載の難燃性炭素繊維強化複合材料。
【請求項5】
マトリックス樹脂中にフェノキシ樹脂(E)を含有比率が0〜20重量%配合することを特徴とする請求項1〜4の何れかの項記載の難燃性炭素繊維強化複合材料。
【請求項6】
3mmの厚さの試験片としたときの燃焼性がUL−94でV−0またはV−1またはV−2である請求項1〜5の何れかの項記載の難燃性炭素繊維強化複合材料。
【請求項7】
リン含有エポキシ樹脂(A)、非リン含有エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂硬化剤(C)、炭素繊維(D)から構成され、(A)(B)(C)を必須成分とするマトリックス樹脂中のリン含有量が0.4〜5.0重量%であり、(A)のリン含有エポキシ樹脂が請求項1記載の一般式(1)又は(2)で表される少なくとも1種のリン含有化合物とエポキシ樹脂との反応物であることを特徴とするマトリックス樹脂を含浸してなる難燃性炭素繊維プリプレグ。
【請求項8】
請求項7記載の難燃性炭素繊維プリプレグを硬化させて得られる難燃性炭素繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2007−291227(P2007−291227A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120425(P2006−120425)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000221557)東都化成株式会社 (53)
【Fターム(参考)】