説明

電子材料用洗浄剤

【課題】 砥粒や研磨屑に対する洗浄性が非常に高い電子材料用洗浄剤、および電子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 フラボノイド化合物(A)および水を必須成分として含有する電子材料用洗浄剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用洗浄剤、および電子材料の製造方法に関する。
さらに詳しくは、電子材料の製造において、その表面の研磨の後の砥粒、研磨屑の除去に好適な洗浄剤、およびこの洗浄液を使用した電子材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料、とりわけ磁気ディスクは、年々小型化、高容量化の一途をたどっており、磁気ヘッドの浮上量もますます小さくなってきている。そのため、磁気ディスク基板の製造工程で、砥粒や研磨屑等の残留のない基板が求められている。また、表面粗さ、微少うねりの低減及びスクラッチ、ピット等の表面欠陥の低減も求められている。
【0003】
磁気ディスク製造工程には、平坦化した基板を作成する工程であるサブストレート工程(1)と、磁性層を基板にスパッタする工程であるメディア工程(2)を含む。
このうち、サブストレート工程(1)では、基板の平坦化のために砥粒を含むスラリーによる研磨を行い、その後、スラリーおよび発生した研磨屑等のパーティクルをリンスして洗い流し、さらに、リンスで取り除けなかったパーティクルを後工程の洗浄工程で洗浄して完全に除去する。
【0004】
ところで、磁気ディスクの近年の高記録密度化につれて、サブストレート工程(1)中だけでも2段階以上の研磨プロセスを用いた検討がなされてきている。
すなわち、1段階目の研磨においては基板表面の比較的大きなうねり、大きなピットやその他の表面欠陥を除去することが主たる目的で研磨がなされ、2段階目の研磨により、細かなスクラッチ、ピットを除去しながら極めて平坦な表面を形成する方式を採っている。
【0005】
サブストレート工程中の1段階目の研磨で得られた基板の表面に、その研磨工程で使用した砥粒や研磨屑が残留していると、2段階目の研磨工程中にスクラッチの原因となり、悪影響を及ぼす。また、それらの大部分は2段階目の研磨工程において除去されるが、取りきれずに残留してしまったものは欠陥となる。また2段階目の研磨においても、研磨後にこれらの異物が残留すると続くメディア工程で欠陥となり、品質に悪影響を及ぼす。
これらの問題を解決するには、研磨工程の終了時に砥粒や研磨屑が除去されていることが必要であり、このような残留物除去のために、高性能な洗浄剤が必要となってきている。
【0006】
また、磁性層を基板にスパッタする工程であるメディア工程(2)では、搬送時や保管時に付着した異物を除去し、基板上に磁性層を均一にスパッタリングするために、基板を受け入れ直後に基板表面を再度研磨する工程をおこなうことがある。
この研磨工程においても、砥粒や研磨屑の付着の問題があり、高性能な洗浄剤が必要となってきている。
【0007】
そのため、従来、これらの砥粒や研磨屑を除去する目的のために、界面活性剤を用いて、パーティクルの除去性を向上させる方法が提案されている。
例えば、ポリアクリル酸ナトリウム塩等のアニオン性高分子界面活性剤を用いて、アルミナ砥粒の除去性を向上させる方法(特許文献1)や、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤とグリコールエーテルを用いて、ダイヤモンド砥粒の除去性を向上させる方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−43791号公報
【特許文献2】特開2002−212597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1と特許文献2の洗浄剤では、研磨工程後の砥粒や研磨屑の除去性が、近年ますますの高記録密度化に対して十分には対応できていないのが現状である。磁気ディスクの厳しい高記録密度化を達成するためには、除去困難な砥粒に対するより一層高い洗浄性が求められている。
そこで、各種の砥粒に対する洗浄性が非常に高い電子材料用洗浄剤、および電子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、特定の種類の還元剤を含む洗浄剤を用いた場合、砥粒や研磨屑に対して高効率で洗浄できることがわかった。
その結果、磁性層形成の均一性への悪影響を避けることができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、フラボノイド化合物(A)と水を必須成分として含む電子材料用洗浄剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子材料用洗浄剤および電子材料の製造方法は、磁気ディスク基板(特に磁気ディスク用ガラス基板、磁気ディスク用アルミニウム基板及びニッケル−リン(Ni−P)メッキを施された磁気ディスク用アルミニウム基板)の製造工程において問題となる微細な砥粒や研磨屑に対する洗浄性に優れる。
そのため、高記録密度化で要求され、例えば、磁性膜を均一にスパッタリングするために要求される清浄度の高い電子材料を提供することができる。
【0012】
また、一般的に、磁気ディスク基板製造工程で使用される洗浄槽はSUS製であるため、洗浄液が酸性の場合はSUSが腐食しやすく、SUSに含まれる鉄、ニッケル、コバルトなどの金属成分が洗浄液中に溶出し、この金属イオンは、空気もしくは洗浄剤中の溶存酸素によって酸化され、例えば2価の鉄イオンが酸化され3価の鉄イオンは溶解度が低く、析出しやすいため、磁気特性などの磁気ディスクとしての性能に多大な悪影響を与えることが知られている。
しかし、本発明の電子材料用洗浄剤は、還元性があるので鉄などの3価の金属塩の析出を抑える効果があるため、基板上の凹凸(ピットの発生等)を抑えることができ、磁気特性を悪化させない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の電子材料用洗浄剤は、フラボノイド化合物(A)および水を必須成分として含有することを特徴とする電子材料用洗浄剤である。
【0014】
本発明において、電子材料とは特に限定されるものではなく、磁気ディスク基板(ガラス基板、アルミニウム基板及びNi−Pメッキが施されたアルミニウム基板)、半導体基板(半導体素子及びシリコンウェハ等)、化合物半導体基板(SiC基板、GaAs基板、GaN基板、AlGaAs基板等)、サファイヤ基板(LED等)、光学レンズ、プリント配線基板、光通信用ケーブル、微小電気機械システム(MEMS)並びに水晶振動子等が挙げられ、研磨砥粒の洗浄性の観点で磁気ディスク基板が好ましい。
特に好ましいのは磁気ディスク用アルミニウム基板およびNi−Pメッキが施された磁気ディスク用アルミニウム基板である。
【0015】
本発明の電子材料用洗浄剤の必須成分であるフラボノイド化合物(A)は、一般式(1)で示されるフラバン、およびその誘導体である。
【0016】
【化1】

【0017】
誘導体としては、一般式(1)で表される化学構造中の水素原子は、メチル基等の炭化水素基や、水酸基、メトキシ基等の官能基で置換されていてもよい。
【0018】
フラバンの誘導体の具体例として、フラバン−3−オール(A1)、フラボノール(A2)及びアントシアニジン(A3)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
フラバン−3−オール(A1)として例えば、カテキン、エピカテキン及びエピガロカテキンが挙げられる。
フラボノール(A2)として例えば、ケルセチン及びミリセチンが挙げられる。
アントシアニジン(A3)として例えば、シアニジン、デルフィニジン及びペチュニジンが挙げられる。
【0020】
これらのうち、砥粒の洗浄性と入手容易性の観点で、フラバン−3−オール(A1)が好ましく、さらに好ましくはカテキン、エピカテキンおよびエピガロカテキンであり、最も好ましくはカテキンである。
【0021】
本発明の電子材料用洗浄剤中のフラボノイド化合物(A)の使用時の含有量は、0.001〜5重量%であり、洗浄性の観点で好ましくは0.01〜1重量%である。
【0022】
本発明の電子材料用洗浄剤のもう1つの必須成分である水は、超純水、イオン交換水、逆浸透水、蒸留水が挙げられ、清浄度の観点から超純水が好ましい。
【0023】
本発明の電子材料用洗浄剤には、砥粒の洗浄性を向上させるために、さらに高分子型アニオン性界面活性剤(B)、アスコルビン酸(C)、キレート剤(D)を含有することが好ましい。
【0024】
この目的で併用する高分子型アニオン性界面活性剤(B)としては、スルホン酸(塩)基、カルボン酸(塩)基、硫酸エステル(塩)基、ホスホン酸(塩)基、及びリン酸エステル(塩)基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有し、1,000〜800,000の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法による。以下、Mwと略記する。)を有する高分子型アニオン性界面活性剤が挙げられる。
高分子型アニオン性界面活性剤は、通常、1分子中に少なくとも2個以上の繰り返し単位を有する。
【0025】
スルホン酸(塩)基を有する高分子型アニオン性界面活性剤(B1)の具体例としては、
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリスチレンスルホン酸及びスチレン/スチレンスルホン酸共重合体等並びにこれらの塩等が挙げられる。
【0026】
カルボン酸(塩)基を有する高分子型アニオン性界面活性剤(B2)の具体例としては、ポリ(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸−マレイン酸共重合体等並びにこれらの塩等が挙げられる。
【0027】
(B)が塩を形成する場合の塩としては、アミジン(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1H−イミダゾール、2−メチル−1H−イミダゾール、2−エチル−1H−イミダゾール及び4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール等)塩、アルカリ金属(ナトリウムカチオン及びカリウムカチオン等)塩、アンモニウム塩及び第4級アンモニウム(テトラアルキルアンモニウム等)塩、1級アミン塩、2級アミン塩、3級アミン塩等が挙げられる。また、これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
これらの塩の中で、砥粒の除去性の観点から、好ましいのはアミジン塩及びアルカリ金属塩であり、特に好ましいのはアミジン塩であり、具体的に1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン塩が好ましい。
【0029】
高分子型アニオン性界面活性剤(B)のMwは、砥粒の除去性及び低泡性の観点から、通常1,000〜800,000、好ましくは1,000〜400,000、更に好ましくは2,000〜80,000、特に好ましくは2,000〜40,000である。
【0030】
高分子型アニオン性界面活性剤(B)の、使用時の含有量は、0.0005〜0.2重量%であり、洗浄性の観点で好ましくは0.002〜0.1重量%である。
【0031】
本発明の電子材料用洗浄剤には、前述した通りさらにアスコルビン酸(C)を含有することが好ましい。
フラボノイド化合物(A)は、空気中の二酸化炭素及び水中の溶存酸素により還元性が経時的に低下し易いため、洗浄剤配合時における砥粒除去性能が長期間では持続しない。ここで、アスコルビン酸(C)をあらかじめ洗浄剤に含有することによって、フラボノイド化合物(A)の還元性低下を抑えることができ、高い砥粒除去性を長期間持続することができる。
【0032】
アスコルビン酸(C)の、使用時の含有量は、0.01〜0.5重量%であり、砥粒の洗浄性の観点で好ましくは0.03〜0.2重量%である。
【0033】
キレート剤(D)としては、アミノポリカルボン酸{例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等}、ヒドロキシカルボン酸(例えば、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等)、ホスホン酸{例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸(HEDP)等}および縮合リン酸(例えばトリポリリン酸等)等;およびこれらの塩が挙げられる。本発明のキレート剤は2種以上を併用して使用してもよい。
これらのうち、砥粒の洗浄性の観点でHEDP、DTPAが好ましい。
【0034】
本発明の電子材料用洗浄剤中のキレート剤(D)の使用時の含有量は、0.001〜5重量%であり、砥粒の洗浄性の観点で好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0035】
本発明の電子材料用洗浄剤には、(A)〜(D)以外に、高分子型アニオン性界面活性剤(B)以外の界面活性剤(E)、pH調整剤(F)、ハイドロトープ剤(G)、分散剤(H)、3価以上の多価アルコール(I)、水溶性有機溶剤(J)を含有もしてもよい。
【0036】
高分子型アニオン性界面活性剤(B)以外の界面活性剤(E)としては、ノニオン性界面活性剤(例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル等)、Mwが1,000以下のアニオン性界面活性剤(高級アルコールエチレンオキサイド付加物硫酸エステル塩、高級脂肪酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩)、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0037】
pH調整剤(F)としては、酸(無機酸および有機酸)もしくはアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリおよびジエタノールアミン、イソプロパノールアミン等のアミン)が挙げられる。
本発明の電子材料用洗浄剤の使用時のpHは1.0〜13.0であり、砥粒の洗浄性の観点で4.0〜12.0が好ましく、さらに好ましくは8.0〜12.0である。
【0038】
洗浄剤の安定性の目的で配合するハイドロトロープ剤(G)としては、安息香酸、トルエンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸、クメンスルホン酸およびサリチル酸等が挙げられる。
【0039】
分散剤(H)としては、ポリリン酸等が挙げられる。3価以上の多価アルコール(I)としては、アラビトール及びマンニトール等の糖アルコールが挙げられる。
水溶性有機溶剤(J)としては、プロピレングリコール及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0040】
本発明の別の実施態様は、上記の電子材料用洗浄剤を用いて、研磨工程後の電子材料を洗浄する工程を含む電子材料の製造方法であり、特に磁気ディスク基板の製造方法に適している。
しかし、磁気ディスク基板に限定するものではなく、砥粒や研磨屑を除去する必要がある電子材料の製造であれば、広く電子材料の製造に有用である。
【0041】
本発明の電子材料用洗浄剤を磁気ディスク基板の製造に用いる場合、サブストレート工程の1段階目の研磨後や2段階目の研磨後、あるいはメディア工程で用いることができる。
【0042】
本発明の洗浄剤を用いた磁気ディスク基板の製造工程(サブストレート工程の一部)の一例を、ハードディスク用ガラス基板を例にとり、以下に述べる。
(1)ガラスブランクス基板をラッピング後、流水ですすいでガラス基板を作成する。
(2)基板を研磨装置にセットし、酸化セリウムを含む研磨スラリーで基板を研磨する。
(3)研磨後の基板を流水ですすいだ後に基板を研磨装置から取り出し、本発明の洗浄剤を用いてディップもしくはスクラブ洗浄した後再度流水ですすぐ。
(4)再び基板を研磨装置にセットし、コロイダルシリカを含む研磨スラリーで基板を研磨する。
(5)研磨後の基板を超純水で流水リンスしてすすいだ後に基板を研磨装置から取り出し、本発明の洗浄剤を用いてディップもしくはスクラブ洗浄した後再度流水ですすぐ。
【0043】
また、ハードディスク用アルミ基板の場合は、上記の(2)の工程で、酸化セリウムの代わりに一般にアルミナが使用される。
【0044】
本発明のもう一つの実施態様は、上記の電子材料用洗浄剤を用いて洗浄された磁気ディスク基板である。本発明の磁気ディスク基板は、基板上の砥粒の残留が少ないため、高記録密度の磁気ディスクドライブを容易に、高収率で製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0046】
[製造例1]
温度調節及び攪拌が可能な反応容器にイソプロピルアルコール300部、超純水100部を仕込み、窒素置換後、75℃に昇温した。撹拌下で、アクリル酸の75%水溶液407部及びジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートの15%イソプロピルアルコール溶液95部を3.5時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、75℃で5時間撹拌した後、系内が固化しないように超純水を間欠的に投入し、イソプロピルアルコールが検出できなくなるまで水とイソプロピルアルコールの混合物を留去した。
得られたポリアクリル酸水溶液を1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)約450部を用いてpHが7.0になるまで中和し、超純水で濃度調整することにより、アニオン性界面活性剤であるポリアクリル酸DBU塩(B−1)の40%水溶液を得た。なお、(B−1)のMwは10,000であった。
【0047】
[製造例2]
攪拌付き反応容器にナフタレンスルホン酸21部、超純水を10部仕込み、撹拌下、系内の温度を80℃に保ちながら、37%ホルムアルデヒド8部を3時間かけて滴下した。
滴下終了後、105℃に昇温して25時間反応した後、室温まで冷却して水浴中、25℃に調整しながらDBUを徐々に加え、pH6.5に調整した。
超純水を加えて固形分を40%にして、アニオン性界面活性剤であるナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のDBU塩(B−2)の40%水溶液を得た。
なお、(B−2)のMwは5,000であった。
【0048】
[製造例3]
撹拌および温度調節機能の付いたステンレス製オートクレーブに、ラウリルアルコール186部(1.0モル)、水酸化カリウム0.5部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下で、120℃にて1時間脱水を行った。次いでエチレンオキサイド(以下、EOと略称する。)88部(2.0モル)を150℃にて、ゲージ圧が0.1〜0.3MPaとなるように10時間かけて導入した。反応物をガラス容器に移し、温度を20℃に保ちながら、クロル硫酸120部(1.03モル)を徐々に滴下し、2時間脱塩酸を行った後、水酸化ナトリウム41.2部(1.03モル)を水1110部に溶解した水溶液で硫酸化物を中和し、高級アルコールEO付加物硫酸エステル塩の25%水溶液(E−1)を得た。
【0049】
[製造例4]
撹拌装置及び温度制御装置付きの容積1リットルのステンレス製オートクレーブに、トリデシルアルコール200部(1.0モル部)及びテトラメチルアンモニウムハイドロキサイドの25%水溶液10部(0.027モル部)を仕込み、100℃、4kPa以下の減圧下で30分間脱水した。EO430部(9.8モル部)を、反応温度を100℃に制御しながら、3時間かけて滴下した後、100℃で3時間熟成し、粗生成物を得た。この粗生成物を2.6kPa以下の減圧下に、150℃で2時間保持して、残存するテトラメチルアンモニウムハイドロキサイドを分解して除去し、高級アルコールEO付加物(E−2)630部を得た。
【0050】
[比較製造例1]
攪拌付き反応容器に1,3−ジヒドロキシ−5−クロロベンゼン(和光純薬工業製)145部とアセチルアセトナトパラジウム触媒5部、水酸化カリウム45部、THF500部を仕込み、常温で1時間撹拌した。撹拌下、系内の温度を80℃に保ちながら、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン(和光純薬工業製)126部を3時間かけて滴下した。
滴下終了後、80℃に保ちながらさらに5時間反応して粗生成物を得た。この粗生成物を2.6kPa以下の減圧下で80℃、3時間乾燥させて乾固させた後、メタノールから再結晶することで、化学構造がフラボノイドに類似した化合物である、比較のための1,3−ジヒドロキシ−5−クロロベンゼンと1,2,4−トリヒドロキシベンゼンとの縮合物(A’−1)28部を得た。
【0051】
[比較製造例2]
攪拌付き反応容器に1,3−ジヒドロキシ−5−クロロベンゼン(和光純薬工業製)145部とアセチルアセトナトパラジウム触媒5部、水酸化カリウム45部、THF500部を仕込み、常温で1時間撹拌した。撹拌下、系内の温度を80℃に保ちながら、1,2,3,5−テトラヒドロキシベンゼン(和光純薬工業製)144部を3時間かけて滴下した。
滴下終了後、80℃に保ちながらさらに5時間反応して粗生成物を得た。この粗生成物を2.6kPa以下の減圧下で80℃、3時間乾燥させて乾固させた後、メタノールから再結晶することで、比較のためのフラボノイド類似化合物である、1,3−ジヒドロキシ−5−クロロベンゼンと1,2,3,5−テトラヒドロキシベンゼンとの縮合物(A’−2)36部を得た。
【0052】
実施例1〜13、および比較例1〜4
表1に記載の組成となるように、各成分を配合し、25℃、マグネチックスターラーで40rpm、20分間攪拌して、本発明の洗浄剤および比較のための洗浄剤を得た。
上記洗浄剤をさらに超純水で50倍希釈して、性能試験用のサンプル液を作成した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1中の下記の化合物は、具体的には以下のものを使用し、その他のものは市販の試薬を使用した。
カテキン(A−1):和光純薬工業製
エピカテキン(A−2):和光純薬工業製
エピガロカテキン(A−3):和光純薬工業製
ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム塩:三洋化成工業製「サンモリンOT−70」
【0055】
砥粒や基板材料の材質が異なる各種性能評価試験は下記の方法で行った。
なお、本評価は大気からの汚染を防ぐため、クラス1,000(FED−STD−209D、米国連邦規格、1988年)のクリーンルーム内で実施した。
【0056】
<洗浄性試験−1>
研磨剤として市販のコロイダルシリカスラリー(フジミインコーポレイテッド製「COMPOL80」粒径約80nm)を用いて3.5インチのNi−Pメッキされた磁気ディスク用アルミニウム基板を以下条件で研磨した。
研磨装置:ナノファクター製「NFD−4BL」
スラリー供給速度:50mL/分
荷重:30g重/cm
回転数:定盤30rpm、ギア20rpm
研磨時間:5分
【0057】
基板を研磨した後、超純水で表面を1分間流水リンス、窒素でブローすることにより、汚染基板を調製した。作製した汚染基板を上記調製した各サンプル液1,000部が入った1Lガラス製ビーカーに浸漬し、超音波洗浄機(200kHz)で、30℃、5分間洗浄を行った。洗浄後、基板を取り出し、超純水で再び1分間リンスを行った後、窒素ガスでブローして乾燥し評価用基板を得た。アルミ基板表面を表面検査装置(ビジョンサイテック社製「Micro−Max VMX−7100」)で観察し、画像解析ソフト「Sigmascan」を用いてパーティクル付着数を数えた。
また、洗浄液の代わりにブランクとして超純水で同様に試験した。その際のブランクのパーティクル付着数は510個であった。
以下の判断基準で洗浄性試験を判定し、判定結果を表1に示した。
【0058】
[洗浄性試験の判断基準]
◎:パーティクル付着数がブランクの1/100未満
〇:パーティクル付着数がブランクの1/100〜1/10
△:パーティクル付着数がブランクの1/10〜1/2
×:パーティクル付着数がブランクの1/2以上
【0059】
<洗浄性試験−2>
コロイダルシリカスラリーの代わりに、市販のアルミナスラリー(フジミインコーポレイテッド製「WA#20000」、粒径約0.4μm)を用いた以外は、洗浄性試験−1と同様の操作と判断基準で評価した。なお、ブランクのパーティクル付着数は600個であった。
【0060】
<洗浄性試験−3>
コロイダルシリカスラリーの代わりに、市販のダイヤモンドスラリー(ナノファクター製「1/10PCS−WB2」、粒径約100nm)を用いた以外は、洗浄性試験−1と同様の操作と判断基準で評価した。なお、ブランクのパーティクル付着数は500個であった。
【0061】
<洗浄性試験−4>
3.5インチのNi−Pメッキされた磁気ディスク用アルミニウム基板の代わりに、2.5インチの市販の磁気ディスク用ガラス基板を用いた以外は、洗浄性試験−1と同様の操作と判断基準で評価した。なお、ブランクのパーティクル付着数は550個であった。
【0062】
<洗浄性試験−5>
市販のコロイダルシリカスラリーの代わりに市販のダイヤモンドスラリー(ナノファクター製「1/10PCS−WB2」、粒径約100nm)を用いた以外は、洗浄性試験−4と同様の操作と判断基準で評価した。なお、ブランクのパーティクル付着数は800個であった。
【0063】
表1より、フラボノイド化合物を含む実施例1〜13の洗浄液は、アルミ基板およびガラス基板上に付着するパーティクルの残留が少なく、洗浄性能が高いことがわかる。
とりわけ、高分子アニオン性界面活性剤、アスコルビン酸、キレート剤をさらに含有する洗浄液は、各種の砥粒に対して非常に洗浄性能が高いことがわかる。
一方、フラボノイド化合物を含まない比較例1の洗浄液は、アルミニウム基板、ガラス基板上に付着するパーティクルに対して洗浄性能が低く、高記録容量化を可能にするには程遠いレベルである。また、フラボノイド化合物と類似した構造を有する化合物を含む比較例2、比較例3の洗浄液は、アルミニウム基板、ガラス基板上に付着するパーティクルに対して洗浄性能が低い。
低分子アニオン性界面活性剤としてのジアルキルスルホコハク酸塩とグリコールエーテルを用いた比較例4の洗浄液は、洗浄前後で付着粒子数がブランクとほとんど変わらず洗浄性能が著しく低い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の電子材料用洗浄剤は、砥粒の基板に対する洗浄性を従来の洗浄剤より大幅に低減することができる。そのため、高記録密度化が進んでいる特にハードディスク等の磁気ディスク基板用洗浄剤として使用することができる。
また、本発明の電子材料の製造方法は、残留した砥粒に対して特に高い洗浄レベルが要求されるハードディスク等の磁気ディスク用基板に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイド化合物(A)と水を必須成分として含有することを特徴とする電子材料用洗浄剤。
【請求項2】
該フラボノイド化合物(A)が、フラバン−3−オール、フラボノールおよびアントシアニジンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1記載の電子材料用洗浄剤。
【請求項3】
該フラボノイド化合物(A)がカテキン、エピカテキンおよびエピガロカテキンからなる群から選ばれる1種以上である請求項1または2に記載の電子材料用洗浄剤。
【請求項4】
さらに高分子型アニオン性界面活性剤(B)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の電子材料用洗浄剤。
【請求項5】
さらにアスコルビン酸(C)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の電子材料用洗浄剤。
【請求項6】
さらにキレート剤(D)を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の電子材料用洗浄剤。
【請求項7】
pHが25℃において8.0〜12.0である請求項1〜6のいずれかに記載の電子材料用洗浄剤。
【請求項8】
該電子材料が、磁気ディスク基板である請求項1〜7のいずれかに記載の電子材料用洗浄剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の電子材料用洗浄剤を用いて電子材料を洗浄する工程を含む電子材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の電子材料用洗浄剤を用いて洗浄された磁気ディスク基板。

【公開番号】特開2012−197429(P2012−197429A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42249(P2012−42249)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】