説明

電子素子搭載用基板

【課題】絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面に余剰ろう材が残存せず、かつ冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層の電子素子搭載面のしわが抑制される電子素子搭載用基板を提供する。
【解決手段】絶縁基板(11)の少なくとも一方の面に電子素子(18)を搭載するアルミニウム回路層(12)がろう付された電子素子搭載用基板(1)であって、前記アルミニウム回路層(12)は、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが45N/mm以上となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板に電子素子を搭載するためのアルミニウム回路層がろう付けされた電子素子搭載用基板、およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子搭載用基板として、絶縁基板の一面側に金属回路層が接合したものが知られている。かかる基板において、絶縁基板は電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れているセラミックが用いられ、前記金属回路層は導電性が高くかつ前記絶縁基板と接合可能な金属として高純度アルミニウムが用いられ、これらはAl−Si系合金ろう材によってろう付される(特許文献1参照)。
【0003】
また、前記絶縁基板の他方の面には応力緩和するための緩衝層を介してヒートシンクを積層されることもある。ヒートシンクは軽量性、強度維持、成形性、耐食性が要求されることから、Al−Mn系合金等のアルミニウム合金を用いることが一般的であり、電子素子の熱サイクルにおいて絶縁基板とヒートシンクとの間に発生する応力を緩和するために、緩衝層は高純度アルミニウムを用いるのが一般的である。前記絶縁基板と緩衝層とは、前記金属回路層の接合と同じく、Al−Si系合金ろう材によってろう付けされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3は、ろう付後の絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(100)との接合界面の近傍を拡大して模式的に示した図である。図3に示すように、アルミニウム回路層(100)の表面を構成する結晶粒(101)(102)(103)(104)は必ずしも同じ高さで並んでいるのではなく不揃いの高さで並んでおり、隣接する結晶粒との間に段差が生じて絶縁基板(11)との間に隙間が生じる。結晶粒が大きくなると、前記隙間は絶縁基板(11)の表面に平行な方向の寸法が大きくなるだけでなく、前記段差(材料の積層方向の寸法)も大きくなることがわかっている。上述したように、絶縁基板(11)にろう付されるアルミニウム回路層(100)の材料は高純度アルミニウムであって、高純度アルミニウムは再結晶粒が粗大化する傾向があるので隣接する結晶粒との間に生じる段差も大きくなっている。つまりは、結晶粒径が大きいことにより、結晶粒径の細かいものと比較して段差による体積が多くなることとなる。このため、前記アルミニウム回路層(100)を絶縁基板(11)にろう付すると、絶縁基板(11)の表面からアルミニウム回路層(100)側に退いた結晶粒(101)(103)の部分にろう材溜まり(105)が生じて余剰ろう材が接合界面に残存することになる。
【0006】
また、Al−Si系合金ろう材はアルミニウム回路層を構成する高純度アルミニウムよりも硬質であり、接合界面に硬いろう材溜まりが生じると冷熱サイクルにおいて応力が集中しやすくなるおそれがある。このため、電子素子搭載用基板の冷熱耐久性の向上を図るためにも接合界面に余剰ろう材が残存しないこと、あるいは残存する余剰ろう材量が少ないことが好ましい。
【0007】
さらに、冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層が変形して電子素子搭載面にしわによる凹凸が形成されることがあった。アルミニウム回路層と電子素子とのはんだ付部の接合信頼性を高め、回路基板の冷熱耐久性を向上させる手段の一つとしてしわの発生を抑制することが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述した背景技術に鑑み、絶縁基板にアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面に余剰ろう材が残存せず、かつ冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層の電子素子搭載面の凹凸が抑制される電子素子搭載用基板の提供を目的とする。
【0009】
即ち、本発明は、下記[1]〜[6]に記載の構成を有する。
【0010】
[1]絶縁基板の少なくとも一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが45N/mm以上となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【0011】
[2]前記アルミニウム回路層はアルミニウム純度が97.5〜99.9質量%のアルミニウムからなる前項1に記載の電子素子搭載用基板
[3]前記アルミニウム回路層は少なくとも0.01〜0.8質量%のFeを含有するアルミニウム合金からなる前項1に記載の電子素子搭載用基板。
【0012】
[4]前記アルミニウム回路層を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金は金属化合物の平均粒径が3μm以下となされている1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0013】
[5]前項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板に用いるアルミニウム回路層用材料の製造方法であって、
材料塊に対して複数パスの圧延を行う間に、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延の圧下率を15〜40%とすることを特徴とするアルミニウム回路層用材料の製造方法。
【0014】
[6]前項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。
【発明の効果】
【0015】
上記[1]に記載の電子素子搭載用基板は、アルミニウム回路層が結晶粒の平均結晶粒径が10〜500μmに微細化され、かつ引張強さが45N/mm以上であって高純度アルミニウムよりも強化されている。
【0016】
前記アルミニウム回路層は結晶粒の微細化により、表面において隣接する結晶粒との間に生じる段差が小さいので、絶縁基板との接合界面に生じるろう材溜まりも小さくなる。あるいは、ろう材溜まりが発生しなくなる。また、結晶粒の微細化によって結晶粒界面積率が高くなるので、ろう材が結晶粒界に拡散し接合界面に残存するろう材が減少する。これらによって、接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。また、接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって、冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防いで電子素子搭載用基板の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0017】
また、前記アルミニウム回路層の強化により、冷熱サイクルで絶縁基板との線膨張係数差に起因する電子素子搭載面のしわの発生が抑制される。ひいては、アルミニウム回路層に搭載された電子素子のはんだ付信頼性が高まり、電子素子を搭載した回路基板の冷熱耐久性が向上する。
【0018】
上記[2][3]に記載の電子素子搭載用基板によれば、規定された組成の材料を用いることによって、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmであり、かつ45N/mm以上の引張強さを有するアルミニウム回路層を形成できる。
【0019】
上記[4]に記載の電子素子搭載基板によれば、アルミニウム回路層中の金属間化合物の平均粒径が3μm以下となされているため、結晶粒の平均粒径を10〜500μmに制御することが容易である。
【0020】
上記[5]に記載のアルミニウム回路層用材料の製造方法によれば、規定された条件で中間焼鈍を行い、かつ規定された圧下率で仕上げ圧延を行うことにより、ろう付後に結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなり、かつ45N/mm以上の引張強さを有する材料を作製することができる。
【0021】
上記[6]に記載の放熱装置によれば、電子素子搭載用基板のアルミニウム回路層の結晶粒が微細化されかつ強化されている。このため、絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。また、絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって、冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防いで放熱装置の冷熱耐久性を向上させることができる。また、冷熱サイクルで絶縁基板とアルミニウム回路層との線膨張係数差に起因するしわの発生が抑制される。ひいては、アルミニウム回路層に搭載された電子素子のはんだ付信頼性が高まり、電子素子を搭載した回路基板を組み込んだ放熱装置の冷熱耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる電子素子搭載用基板、およびこの電子素子搭載用基板を用いた放熱装置の仮組物を示す縦断面図である。
【図2】本発明にかかる電子素子搭載用基板において、ろう付後の絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面およびその近傍を示す断面図である。
【図3】従来の電子素子搭載用基板において、ろう付後の絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面およびその近傍を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明の電子素子搭載用基板の一実施形態と、この電子素子搭載用基板を用いて作製する放熱装置の仮組物を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。
【0024】
電子素子搭載用基板(1)は、絶縁基板(11)と、この絶縁基板(11)の一方の面に重ねられた電子素子搭載用のアルミニウム回路層(12)とにより構成されている。図1の仮組物においては、前記絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との間にこれらを接合するためのろう材箔(14)が配置されている。また、放熱装置(2)の仮組物は、前記電子素子搭載用基板(1)の絶縁基板(11)の他方の面に緩衝層(13)を介して複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(16)を重ねたものであり、絶縁基板(11)と緩衝層(13)との間、および緩衝層(13)との間ヒートシンク(16)との間には接合用のろう材箔(15)(17)が配置されている。
【0025】
前記放熱装置(2)は前記仮組物を一括してろう付加熱され、その後アルミニウム回路層(12)上に電子素子(18)がはんだ付される。ろう付後の放熱装置(2)において、アルミニウム回路層(12)がろう付された絶縁基板(11)とヒートシンク(16)とは緩衝層(13)を介して熱的に結合され、電子素子(18)が発する熱はヒートシンク(16)に排熱される。
【0026】
前記電子素子搭載用基板(1)において、アルミニウム回路層(12)は結晶粒の平均粒径および引張強さが規定されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。
【0027】
前記アルミニウム回路層(12)は、ろう付後に結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、高純度アルミニウムよりも微細化された結晶組織を有する。
【0028】
図2は、ろう付後の絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との接合界面およびその近傍を拡大して模式的に示した断面図である。図2に示すように、アルミニウム回路層(12)の表面を構成する結晶粒(31)(32)(33)(34)(35)(36)が必ずしも同じ高さで並んではいなくても、結晶粒が微細化されていることで隣接する結晶粒との間に生じる段差(材料の積層方向の寸法)も小さくなり、絶縁基板(11)の表面からアルミニウム回路層(12)側に退いた結晶粒(32)(34)の部分に生じるろう材溜まり(37)も小さくなる。あるいは、段差が無くなってろう材溜まりが発生しなくなる。
【0029】
結晶粒が小さくなると隣接する結晶粒との間に生じる段差が小さくなる理由は、以下のとおりである。
【0030】
結晶方位の異なる結晶粒は方向によって線膨張係数が異なる。このため、結晶方位の異なる結晶粒が隣接していると、それらの結晶粒はろう付中に線膨張係数の差によって相互に回転力または変形力を受ける。さらに、ろう付中の材料に加わる荷重や摩擦力等は結晶粒を回転させる力または変形させる力となって作用する。そして、結晶粒の回転角度が同じであっても結晶粒が大きくなるほどずれは大きくなり、結晶粒が小さくなるほどずれは小さくなる。また変形力を受ける場合おいても、大きい結晶粒で変形力を受けることで粒界でのずれが大きくなり、小さい結晶粒の粒界ではずれが小さくなる。隣接する結晶粒の段差はこのようなずれによって生じるために、結晶粒が小さくなるほど段差が小さくなる。
【0031】
従って、結晶粒が小さくなると、接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなって、ろう材の使用量が抑えられる。また、結晶粒が細かいために結晶粒界面積率が高くなるので、結晶粒界に拡散するろう材量が増えることによっても絶縁基板(11)との接合界面に残存する余剰ろう材が減少する。
【0032】
また、前記絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことは、冷熱サイクルにおいてろう材溜まりへの応力集中を防ぐ上でも好ましいことであり、電子素子搭載用基板(1)の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0033】
ろう付後のアルミニウム回路層(12)において結晶粒の平均粒径が500μmを超えると上記効果が少なく、平均粒径が10μm未満ではろう付時にろう材による侵食が大きくなって接合性が低下するおそれがある。よって、本発明におけるアルミニウム回路層(12)のろう付後の結晶粒の平均粒径は10〜500μmとする。好ましい結晶粒の平均粒径は40〜450μmである。前記結晶粒の平均粒径はろう付後、即ちろう付加熱を受けることによって達成される平均粒径であるから、ろう付前のアルミニウム回路層(12)においては必ずしも平均粒径が上記範囲内であるとは限らない。本発明はろう付条件を限定するものではないが、ろう付条件として590〜620℃で5〜30分の加熱を推奨できる。
【0034】
前記アルミニウム回路層(12)は、結晶粒の平均粒径とともに引張強さが45N/mm以上に規定されている。45N/mm以上という引張強さは高純度アルミニウムよりも強度が高く、このため冷熱サイクルにおいて絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との線膨張係数差に起因して電子素子搭載面に発生するしわが抑制される。引張強さが45N/mm未満ではしわの発生を抑制する効果が少なく、50N/mm以上が好ましい。また、150N/mmであれば十分に効果が得られるので、引張強さの好ましい範囲は50〜150N/mmであり、特に好ましい範囲はである60〜130N/mmである。
【0035】
前記アルミニウム回路層(12)における結晶粒の平均粒径および引張強さを制御する要因として、アルミニウム回路層(12)を構成する材料の化学組成、材料中の金属間化合物の粒径、材料の加工条件を挙げることができる。
【0036】
前記アルミニウム回路層(12)を構成する材料の一つとして、アルミニウム純度が97.5〜99.9質量%のアルミニウムを推奨できる。アルミニウム純度が99.9質量%を超えると結晶粒が粗大化するおそれがあり、アルミニウム純度が97.5質量%未満では引張強さが高くなって応力緩和力が低下するおそれがある。特に好ましいアルミニウム純度は97.5〜99質量%である。また、もう一つの材料として、結晶粒を微細化する効果のあるFeを0.01〜0.8質量%含有するアルミニウム合金を推奨できる。Fe濃度が0.01質量%未満では結晶粒の微細化効果が少ない。一方、0.8質量%を添加すれば十分な結晶粒微細化効果が得られるので、0.8質量%を超えるFeの添加は不経済である。特に好ましいFe濃度は0.1〜0.6質量%である。前記アルミニウム合金の残部はAlおよび不可避不純物であるが、少なくとも0.01〜0.8質量%のFeを含有していれば結晶粒微細化効果が得られるので、アルミニウム純度が97.5質量%以上であればFe以外の不純物元素を含有することが許容される。
【0037】
上述したアルミニウムおよびアルミニウム合金は、高い導電性および熱伝導性を有し、かつ絶縁基板(11)とのろう付性が良好であるから、絶縁基板(11)にろう付される材料としての条件を満たしている。
【0038】
前記アルミニウム回路層(12)を構成する材料において、金属間化合物の平均粒径が3μm以下であることが好ましい。金属間化合物の平均粒径が3μmを超えると結晶粒を所定の大きさに制御することが困難になる傾向があり、また大きな金属間化合物が絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との接合界面に多く存在する状態はろう付による接合信頼性を維持する上で好ましいことではない。このため、結晶粒制御の容易性および接合信頼性の観点から、金属間化合物の平均粒径は3μm以下が好ましい。特に好ましい金属間化合物の平均粒径は1μm以下である。
【0039】
前記アルミニウム回路層(12)は薄板状であり、材料塊に対して熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延の複数パスの圧延を行うことにより作製する。結晶粒の平均粒径を10〜500μmの範囲に微細化しかつ45N/mm以上の引張強さを発現させ、かつ金属間化合物の平均粒径を3μm以下に制御するには、この作製工程において中間焼鈍条件および仕上げ圧延の圧下率を規定することが有効である。中間焼鈍は330〜450℃で1〜8時間保持することが好ましい。330℃未満または1時間未満の焼鈍では結晶粒が過度に微細化されるおそれがあり、450℃超または8時間超の焼鈍はエネルギーコストの点で不経済である。中間焼鈍の特に好ましい条件は350〜420℃で2〜6時間である。また、前記条件による中間焼鈍を行う時期は熱間圧延後もしくは仕上げ圧延前が好ましい。仕上げ圧延の圧下率は15〜40%が好ましい。15%未満の圧下率では再結晶せずろう付時に侵食が大きくなるおそれがあり、40%超の圧下率では結晶粒が過度に小さくなるおそれがある。特に好ましい圧下率は15〜30%である。仕上げ圧延は単パス、複数パスのどちらで行っても良く、仕上げ圧延を複数パスで行う場合の圧下率は合計の圧下率である。
【0040】
前記電子素子搭載用基板(1)および放熱装置(2)を構成する他の部材の好ましい材料は以下のとおりである。
【0041】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0042】
緩衝層(13)は、剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(16)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、前記アルミニウム回路層(12)と同等のアルミニウムまたはアルミニウム合金、あるいは高純度アルミニウムを使用することが好ましい。また、図1に示した緩衝層(13)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴を有するパンチングメタルであるが、応力吸収空間の有無や形状は任意に設定することができる。
【0043】
ヒートシンク(16)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(16)は緩衝層(13)側の外面がフラットであれば緩衝層(13)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、緩衝層(13)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0044】
前記ろう材箔(14)(15)(17)の材料は限定されないが、上述したアルミニウム回路層(12)、絶縁基板(11)、緩衝層(13)、ヒートシンク(16)の材料の接合に好適なろう材としてAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金を推奨できる。
【0045】
図1の電子素子搭載用基板(1)は絶縁基板(11)の一方の面にのみアルミニウム回路層(12)を積層したものであるが、他方の面にもアルミニウム回路層をろう付し、絶縁基板(11)の両面に電子素子を搭載するように構成した電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。両面にアルミニウム回路層をろう付する場合、少なくとも一方が本発明で規定する結晶粒の平均粒径および引張強さの条件を満たしていれば本発明に含まれる。また、前記絶縁基板(11)の一方の面にのみアルミニウム回路層(12)を積層した電子素子搭載用基板(1)において、他方の面に緩衝層(13)やヒートシンク(16)が積層されていることにも限定されない。
【実施例】
【0046】
図1に参照される積層構造の電子素子搭載用基板(1)を含む放熱装置(2)を、アルミニウム回路層および緩衝層の材料を変えて作製した。前記放熱装置(2)において積層した部材は、積層順に、アルミニウム回路層(12)、ろう材箔(14)、絶縁基板(11)、ろう材箔(15)、緩衝層(13)、ろう材箔(17)、ヒートシンク(16)である。使用した部材の詳細は以下のとおりである。
【0047】
[アルミニウム回路層および緩衝層]
実施例1〜3において、アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)の材料として、表1に記載した濃度のFeを含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を用いた。実施例1〜3で異なるアルミニウム合金を用いたが、各実施例におけるアルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)の材料は共通である。
【0048】
アルミニウム回路層(12)用材料として、材料塊に対し、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延を施し、厚さ0.6mmの薄板を作製した。また、緩衝層(13)用材料として、材料塊に対し、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延を施し、厚さ1.6mmの薄板を作製した。これらの薄板を作製する工程において、仕上げ圧延前で板厚が2.13mmのときに420℃×4時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延を25%の圧下率で実施した。
【0049】
作製したアルミニウム回路層(12)用の薄板は28mm×28mmに切断したものを放熱装置(2)の仮組みに使用した。また緩衝層(13)用の薄板は28mm×28mmに切断し、さらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴を形成したものを放熱装置(2)の仮組みに使用した。
【0050】
一方、比較例のアルミニウム回路層はおよび緩衝層は、Feを0.003質量%を含有する高純度アルミニウムを材料に用いたことを除き、実施例1〜3と同じ工程で薄板を作製し、実施例1〜3と同じ形状の仮組み用部材に加工した。
【0051】
[他の部材]
前記アルミニウム回路層および緩衝層を除く部材は各例で共通のものを用いた。
【0052】
前記絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。前記ヒートシンク(16)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。前記ろう材箔(14)(15)(17)は厚さ30μmのAl−10質量%Si−1質量%Mg合金箔である。
【0053】
[ろう付]
実施例1〜3および比較例の仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0054】
[評価]
ろう付した放熱装置(2)について、各例のアルミニウム回路層(12)の結晶粒の平均粒径、金属間化合物の平均粒径、引張強さを調べた。また、断面観察により、絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との接合界面における余剰ろう材(ろう材溜まり)の有無を調べた。
【0055】
さらに、ろう付した放熱装置(2)に対して125℃と−40℃の冷熱サイクル試験を2000サイクル行い、冷熱サイクル試験後のアルミニウム回路層(12)の電子素子搭載面におけるしわの有無を調べた。
【0056】
これらの評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示したように、アルミニウム回路層の材料として結晶粒の平均粒径および引張強さを所定範囲に制御することによって、絶縁基板との接合界面における余剰ろう材を無くし、冷熱サイクルおいて電子素子搭載面にしわが発生しないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の電子素子搭載基板は、絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクがろう付された放熱装置の製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1…電子素子搭載用基板
2…放熱装置
11…絶縁基板
12…アルミニウム回路層
13…緩衝層
14、15、17…ろう材箔
18…電子素子
16…ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の少なくとも一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は、ろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、かつ引張強さが45N/mm以上となされたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【請求項2】
前記アルミニウム回路層はアルミニウム純度が97.5〜99.9質量%のアルミニウムからなる請求項1に記載の電子素子搭載用基板
【請求項3】
前記アルミニウム回路層は少なくとも0.01〜0.8質量%のFeを含有するアルミニウム合金からなる請求項1に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項4】
前記アルミニウム回路層を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金は金属化合物の平均粒径が3μm以下となされている1〜3のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板に用いるアルミニウム回路層用材料の製造方法であって、
材料塊に対して複数パスの圧延を行う間に、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延の圧下率を15〜40%とすることを特徴とするアルミニウム回路層用材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−89865(P2013−89865A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230861(P2011−230861)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】