説明

電気車制御装置

【課題】 列車の惰行走行時や停止時も回転子位置や周波数を推定可能な電気車制御装置
を提供することを達成する。
【解決手段】 永久磁石同期電動機1を駆動制御する装置において、永久磁石同期電動機
1の電圧値を検出する電圧センサ2から得た情報を電気車の駆動制御に用いる。本発明の
電気車制御装置は、電力を直流から交流に変換するインバータ5と、前記インバータ5か
ら供給される交流電力により駆動される永久磁石同期電動機1と、前記永久磁石同期電動
機1の電動機電圧を検出する電圧センサ2と、前記インバータ5と前記永久磁石同期電動
機1を開放する開放用接触器3と、前記電圧センサ2から得た電動機電圧を元に前記電気
車の駆動制御に用いる手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機の出力トルクの制御は、電動機回転子位置に基づいて行われる。その
ため、回転子位置を検出するための装置として回転子位置センサを取付ける必要があった
。しかしながら、回転位置センサは比較的体積が大きいため、車両の床下など狭いスペー
スにおいて配置上の制約が大きいこと、回転子位置センサの出力を永久磁石同期電動機の
制御装置まで伝送するための制御伝送線の接続が困難であること、更に制御伝送線の断線
などの故障要員が増加すること、などの問題点がある。
【0003】
これに対して、センサレスベクトル制御が実用化され始めている。センサレスベクトル制
御とは、永久磁石同期電動機が永久磁石磁束に起因して回転中に発生する電動機逆起電圧
を検出することで間接的に回転子位置を知ることができ、それに基づいて高速高精度なト
ルク制御を行う制御である。
【0004】
センサレスベクトル制御においては、インバータの動作中に永久磁石同期電動機に印加し
たインバータ電圧指令と、永久磁石同期電動機に流れた電流検出値とから永久磁石同期電
動機の逆起電圧を推定演算するのが一般的である。このような構成上、インバータ動作開
始前には永久磁石同期電動機の回転子の位置を把握することができない。インバータ再起
動時に回転子位置が把握できていないことにより、電流制御不安定による突発的なトルク
発生や、過電流保護動作により、再駆動できなくなる場合もあった。
【0005】
(構成)
以上のようなセンサレスベクトル制御においては、インバータが停止中に電動機逆起電圧
を検出することが出来る電圧センサを取付け、電圧センサの検出値をもとに回転子位置、
回転周波数を推定した結果に基づいてインバータを再起動することで、スムーズなインバ
ータの再起動を行っているものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−65410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電気車制御装置では、インバータの再起動時のみ回転子位置や磁
極位置を検出する構成のため、列車の惰行走行時や、停止時においては、永久磁石同期電
動機の回転子位置や磁極の位置を検出することができず、所定の列車速度と実際の列車速
度が乖離し、列車の走行に乱れが生じることにより、ダイヤの乱れや遅延が発生する虞が
あった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、列車の惰行走行時や停止時も
回転子位置や周波数を推定可能な電気車制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の永久磁石同期電動機と、前記永久磁石同期電動機と
接続され、前記永久磁石同期電動機の電動機電圧を検知する電圧センサと、前記永久磁石
動機電動機と前記電圧センサを介して接続され、直流電力を交流電力に変換し、前記永久
磁石同期電動機に供給するインバータと、前記電動機電圧をもとに列車の惰行走行時、停
止時に前記永久磁石動機電動機の磁極位置を推定する推定手段と備えていることを特徴と
する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インバータの停止時もモータの状態を検知するため、インバータ再起動
時の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態の電力変換回路のブロック図。
【図2】本発明の第2の実施形態の電力変換回路のブロック図。
【図3】本発明の第3の実施形態の電力変換回路のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)(後退判定部)
図1は、本発明の第1の実施形態に基づく電力変換制御のブロック図(後退判定)である

【0014】
(構成)
図1で示すように、永久磁石同期電動機1がVu、Vv、Vwの3相線と接続されている

【0015】
Vu線とVv線上に電圧センサ2が接続され、各3相線上に開放器3が設けられ、Vu、
Vw上に電流センサ2が接続されている。インバータ5は、永久磁石同期電動機1と電圧
センサ2、開放器3、電流センサ4を介して接続されている。
【0016】
またフィルタコンデンサ6は永久磁石同期電動機1とは反対側の出力線に接続されている

【0017】
電圧センサ2、開放器3、電流センサ4、インバータ5、フィルタコンデンサ6は制御ユ
ニット10と接続されている。
【0018】
制御ユニット10内にはトルクパターン生成部11、ベクトル制御12、PWMゲートパ
ルス生成部29、電動機周波数演算部20、ゲートスタート・ストップ制御部15、OR
部23、後退判定部23が備えられている。
【0019】
トルクパターン生成部11は、ベクトル制御12、後退判定部23、電動機周波数演算部
20と接続されている。
【0020】
ベクトル制御部12は、トルクパターン生成部11、PWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13、電動機周波数演算部20、電流センサ4、フィルタコンデンサ6と接続され
ている。
【0021】
PWMゲートパルス生成ゲートロジック部13は、インバータ5、ゲートスタート・スト
ップ制御部15と接続されている。
【0022】
ゲートスタート・ストップ制御部16は、PWMゲートパルス生成ゲートロジック部13
、AND論理部24と接続されている。
【0023】
電動機周波数20は、電圧センサ2、トルクパターン生成部11、ベクトル制御部12、
後退判定部23と接続されている。
【0024】
後退判定部23は、トルクパターン生成部11、電動機周波数演算部20、AND論理部
24と接続されている。
【0025】
AND論理部24は、ゲートスタート・ストップ制御部15、後退判定部23、と接続さ
れている。
【0026】
(作用)
制御ユニット内に存在するトルクパターン生成部11、ベクトル制御12、PWMゲートパ
ルス生成ゲートロジック部13、ゲートスタート・ストップ制御部15、電動機周波数演
算部20、後退判定部23、AND論理部24は制御手段として作用する。以下に制御手
段について説明する。
【0027】
トルクパターン生成部11は、運転指令、応荷重指令、ブレーキ力指令および電動機周波
数演算部20の出力である電動機周波数のωmotを入力として、トルク指令である“T
rqRef”を出力する。
【0028】
ベクトル制御部12は、“TrqRef”、ωmot、電流センサ30により検出した電
動機電流Iu、Iw、およびフィルタコンデンサ電圧のEFCを入力としてインバータ5
の3相電圧指令“VuRef”、“VvRef”、“VwRef”をPWMゲート生成ゲ
ートロジック部13へ出力する。
【0029】
PWMゲートパルス生成ゲートロジック部13は、“VuRef”、“VvRef”、“
VwRef”、及びゲートスタート・ストップ制御部15から出力されるゲートスタート
・ストップ信号が入力される。ゲートスタート・ストップ信号=“H”の時はゲートスタ
ートとして、“VuRef”、“VvRef”、“VwRef”をパルス幅変調(PuL
se WidtH ModuLation)により変調し、インバータ5へ3相ゲート信
号として”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力する。また、ゲートス
タート・ストップ信号=“L”の時はゲートストップとして、インバータ5を停止する。
【0030】
インバータ5は、入力された直流電力を、パルス幅制御された可変電圧・可変周波数の3
相の交流電圧Vu、Vv、Vwに変換し、出力する。この交流電圧は、通常は閉じている
開放用接触器11を通して、永久磁石同期電動機1を回転させる。
【0031】
電動機周波数演算部20は、電圧センサ2の出力Vuv
を入力として電動機周波数ωmot
を後退判定部32およびトルクパターン生成部11、ベクトル制御部12へ出力する。な
お、電動機周波数演算部20は、電圧センサ2より得られた電動機電圧Vuv(UV間電
圧)により計算した
電動機速度”Vmot”を求めているが、電圧センサ2で得られる電動機電圧として、V
Vw(VW間電圧)もしくはVwu(WU間電圧)を用いても良い。
【0032】
後退判定部32は、電動機周波数演算部20から出力された
電動機周波数ωmotと後退検知周波数“ωback”

を比較する。
【0033】
ωmot≦ωback
である場合、電動機周波数ωmotが後退検知周波数“ωback”以下のため、後退し
ていると判定し、AND論理部24へ“H”を出力する。
【0034】
ωmot>ωback
である場合、電動機周波数ωmotが後退検知周波数“ωback”よりも大きいため後
退していないと判定し、AND論理部24へ“L”を出力する。
【0035】
後退検知周波数“ωback”は、車両が後退していることを判定するための周波数であ
る。例えば、車両が後退している場合に電動機周波数がマイナスの値をとるとすると、後
退検知周波数ωbackもマイナスの値に設定する。
【0036】
AND論理部24は、運転指令の出力信号が“H”の場合でかつ、後退判定部32の出力
信号が“H”の場合に、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“H”を出力する。
また、AND論理部24は、運転指令の出力信号と後退判定部32の出力信号の両方で“
H”が揃わない場合に、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0037】
AND論理部24から“H”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップは、出力
信号ゲートスタート・ストップ信号=“H”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック部
13へ出力する。AND論理部24から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・
ストップ制御部15は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生
成ゲートロジック部13へ出力する。
【0038】
以下に、後退判定部23の判定結果がωmot>ωbackである場合について述べる。
【0039】
電動機周波数演算部20は、電動機電圧Vuvから演算した電動機周波数ωmotを後退
判定部23に出力する。
【0040】
後退判定部23は後退検知周波数“ωback”と電動機周波数ωmotを比較する。比
較結果が、
ωmot>ωback
である場合、電動機周波数ωmotが後退検知周波数“ωback”以下のため、後退し
ていないと判定し、後退判定部32はAND論理部24へ“L”を出力する。
【0041】
AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“L”で運転指令の出力信号が“
H”の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0042】
また、AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“L”で運転指令の出力信
号が“L”の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0043】
このように、AND論理部24から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・スト
ップ制御部15は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生成ゲ
ートロジック部13へ出力する。
【0044】
ゲートスタート・ストップ信号=“L”を受け取ったPWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力せず、インバー
タ5は稼動しない。そのため、車両は惰行走行を維持する。
【0045】
以下に、後退判定部23の判定結果がωmot≦ωbackである場合について述べる。
【0046】
電動機周波数演算部20は、電動機電圧Vuvから演算した電動機周波数ωmotを後退
判定部23に出力する。
【0047】
後退判定部23は後退検知周波数“ωback”と電動機周波数ωmotを比較する。比
較結果が、
ωmot≦ωback
である場合、電動機周波数ωmotが後退検知周波数“ωback”以上のため、後退し
ていると判定し、後退判定部32はAND論理部24へ“H”を出力する。
【0048】
AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“H”で運転指令の出力信号が“
L”の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0049】
AND論理部24から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップ制御部1
5は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック
部13へ出力する。
【0050】
ゲートスタート・ストップ信号=“L”を受け取ったPWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力せず、インバー
タ5は稼動しない。そのため、車両は惰行走行を維持する。
【0051】
また、AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“H”で運転指令の出力信
号が“H” ゲートスタート・ストップ信号=“L”を受け取ったPWMゲートパルス生
成ゲートロジック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力せ
ず、インバータ5は稼動しない。そのため、車両は惰行走行を維持する。
【0052】
の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“H”を出力する。
【0053】
AND論理部24から“H”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップ制御部1
5は、ゲートスタート・ストップ信号=“H”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック
部13へ出力する。
【0054】
ゲートスタート・ストップ信号=“H”を受け取ったPWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力し、インバータ
5は稼動を再開し、後退して列車の補正を実施する。
【0055】
(効果)
本実施形態では、電動機電圧より演算した電動機の回転周波数をインバータがゲートオフ
中の回転周波数とするため、センサレス制御を適用した際の列車の惰行走行時や停止時に
も電動機周波数を把握することができる。電動機周波数の情報を得られることによって、
列車の運転パターンに合わせて、列車が後退しているかどうかを判定することが可能とな
る。そのため、省エネを実現しながら安全に車両走行をさせることができる。
【0056】
(第2の実施形態)(オーバースピード判定部)
本発明に基づく第2の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図3は、本発明の
第2の実施形態に基づく電力変換回路の冷却部の正面図(車両停車時)である。尚、図1
乃至図2と同一の構成をとるものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0057】
本実施形態は第1の実施形態とは、後退判定部23に代わってオーバースピード判定部3
2が、が接続されていることが異なっている。以下、その点について詳細に説明する。
【0058】
(構成)
図3で示すように、オーバースピード判定部25は、トルクパターン生成部11、ベクト
ル制御12、電動機周波数演算部20、AND論理部22と接続されている。
【0059】
(作用)
電動機周波数演算部20は、電圧センサ2の出力Vuv
を入力として電動機周波数ωmot
をオーバースピード判定部25およびトルクパターン生成部11、ベクトル制御部12へ
出力する。なお、電動機周波数演算部20は、電圧センサ2より得られた電動機電圧Vu
v(UV間電圧)により計算した
電動機速度”Vmot”を求めているが、電圧センサ2で得られる電動機電圧として、V
Vw(VW間電圧)もしくはVwu(WU間電圧)を用いても良い。
【0060】
オーバースピード判定部25は、電動機周波数演算部20から出力された
電動機周波数ωmotとオーバースピード検知周波数“ωover”

を比較する。
【0061】
ωmot≦ωover
である場合、電動機周波数ωmotがオーバースピード検知周波数“ωover”以下の
ため、オーバースピードしていないと判定し、AND論理部24へ“L”を出力する。
【0062】
ωmot>ωover
である場合、電動機周波数ωmotがオーバースピード検知周波数“ωover”よりも
大きいためオーバースピードしていると判定し、AND論理部24へ“H”を出力する。
【0063】
オーバースピード検知周波数ωoverは、車両の速度が運転最高速度を超過しているこ
とを判定するための周波数である。例えば、車両の運転最高速度に値する電動機周波数に
許容周波数として数Hzを加えた値を設定する。
【0064】
AND論理部24は、運転指令の出力信号が“H”の場合でかつ、オーバースピード判定
部25の出力信号が“H”の場合に、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“H”
を出力する。また、AND論理部24は、運転指令の出力信号とオーバースピード判定部
25の出力信号の両方で“H”が揃わない場合に、ゲートスタート・ストップ制御部15
へ信号“L”を出力する。
【0065】
AND論理部24から“H”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップは、出力
信号ゲートスタート・ストップ信号=“H”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック部
13へ出力する。AND論理部24から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・
ストップ制御部15は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生
成ゲートロジック部13へ出力する。
【0066】
電動機周波数演算部20は、電動機電圧Vuvから演算した電動機周波数ωmotをオー
バースピード判定部25に出力する。
【0067】
オーバースピード判定部25はオーバースピード検知周波数“ωover”と電動機周波
数ωmotを比較する。比較結果が、
ωmot≦ωover
である場合、電動機周波数ωmotがオーバースピード検知周波数“ωover”以下の
ため、後退していないと判定し、オーバースピード判定部25はAND論理部24へ“L
”を出力する。
【0068】
AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“L”で運転指令の出力信号が“
H”の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0069】
また、AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“L”で運転指令の出力信
号が“L”の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0070】
このように、AND論理部24から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・スト
ップ制御部15は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生成ゲ
ートロジック部13へ出力する。
【0071】
ゲートスタート・ストップ信号=“L”を受け取ったPWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力せず、インバー
タ5は稼動しない。そのため、車両は惰行走行を維持する。
【0072】
以下に、後退判定部23の判定結果がωmot>ωoverである場合について述べる。
【0073】
電動機周波数演算部20は、電動機電圧Vuvから演算した電動機周波数ωmotを後退
判定部23に出力する。
【0074】
後退判定部23はオーバースピード検知周波数“ωover”と電動機周波数ωmotを
比較する。比較結果が、
ωmot>ωover
である場合、電動機周波数ωmotがオーバースピード検知周波数“ωover”より大
きいため、後退していると判定し、オーバースピード判定部25はAND論理部24へ“
H”を出力する。
【0075】
AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“H”で運転指令の出力信号が“
L”の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0076】
AND論理部24から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップ制御部1
5は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック
部13へ出力する。
【0077】
ゲートスタート・ストップ信号=“L”を受け取ったPWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力せず、インバー
タ5は稼動しない。そのため、車両は惰行走行を維持する。
【0078】
また、AND論理部24は、後退検知判定部32の出力信号が“H”で運転指令の出力信
号が“H”の場合、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“H”を出力する。
【0079】
AND論理部24から“H”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップ制御部1
5は、ゲートスタート・ストップ信号=“H”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック
部13へ出力する。
【0080】
ゲートスタート・ストップ信号=“H”の出力信号によって、インバータ5は稼動を再開
し、永久磁石動機電動機1が回転を始める。そのため、車両は永久磁石同期電動機1によ
り、速度を減速させる。
【0081】
(効果)
本実施形態では、電動機電圧より演算した電動機の回転周波数をインバータがゲートオフ
中の回転周波数とするため、センサレス制御を適用した際の列車の惰行走行時や停止時に
も電動機周波数を把握することができる。電動機周波数の情報を得られることによって、
列車の運転パターンに合わせて、列車が所定速度を超過しているかどうかを判定すること
が可能となる。そのため、省エネを実現しながら安全に車両走行をさせることができる。
【0082】
(第3の実施形態)(磁束補正判定部)→(磁束補正部)
本発明に基づく第3の実施形態について図を参照し、詳細に説明する。図4は、本発明の
第3の実施形態に基づく電力変換回路の冷却部の正面図(車両停車時)である。尚、図1
乃至図3と同一の構成をとるものについては、同符号を付して説明を省略する。
【0083】
本実施形態は第1の実施形態とは、後退判定部23に代わって磁束補正判定部26が接続
されていることが異なっている。以下、その点について詳細に説明する。
【0084】
(構成)
図4で示すように、磁束補正判定部26は、ベクトル制御12、電圧センサ2、電動機周
波数演算部20、OR論理部27と接続されている。
【0085】
(作用)
電動機周波数演算部20は、電圧センサ2の出力Vuv
を入力として電動機周波数ωmot
を磁束補正判定部26へ出力する。なお、電動機周波数演算部20は、電圧センサ2より
得られた電動機電圧Vuv(UV間電圧)により計算した
電動機速度“ωmot”を求めているが、電圧センサ2で得られる電動機電圧として、V
vw(VW間電圧)もしくはVwu(WU間電圧)を用いても良い。
【0086】
電動機周波数演算部20から
電動機周波数“ωmot2が磁束補正判定部26へ出力される。また、電圧センサ2から
電動機電圧Vuvが磁束補正判定部26へ出力される。
【0087】
磁束補正判定部26では、電動機周波数ωmotと電動機電圧Vuvが入力されると、電
動機磁束“Φmot”

が演算される。電動機磁束“Φmot”は、例えば、インバータゲートオフ時の電動機周
波数ωmotと電動機電圧Vuvと、この時の電動機磁束をΦmotとすると、
Vuv = ωmot× Φmot (Vuv:無負荷誘起電圧)
となる。よって、インバータゲートオフ時の電動機磁束は、
Φmot = ωmot / Vuv
となる。
【0088】
磁束補正判定部26は、内部で演算された電動機磁束“Φmot”と電動機磁束補正値
“Φout”を比較する。電動機磁束補正値“Φout”は、永久磁石同期電動機1の温
度上昇に伴い変化する電動機磁束を判定し、補正するための磁束値である。
【0089】
電動機の定格仕様等のデータを元に予め設定しておいた電動機磁束パラメータを電動機磁
束補正値“Φout”とし、“Φout=Φmot”を維持するように永久磁石同期電動
機1の補正するために用いられる。また、電圧センサのオフセットやノイズ等による誤差
を考慮して、Φmot×Φout(100%±数%)で電動機磁束補正域することも可能
である。
【0090】
磁束補正判定部26では、電動機磁束“Φmot”が電動機磁束補正域“Φout”の領
域を外れていないかどうかが判定される。
【0091】
電動機磁束“Φmot”が電動機磁束補正域“Φout”から外れていない場合、磁束補
正が必要ないと判定し、磁束補正判定部26は、OR論理部27に“L”を出力する。電
動機磁束“Φmot”が電動機磁束補正域“Φout”から外れていた場合、磁束補正が
必要と判定し、磁束補正判定部26は、OR論理部27に“H”を出力する。補正が必要
ありと判定された場合、OR論理部27への“H”の出力と同時に、ベクトル制御部12
へ補正指令“Φcomp”が出力される。補正指令“Φcomp”は、ベクトル制御部1
2へ、補正が必要な磁束を伝えるための出力である。
【0092】
OR論理部27では、運転指令の出力信号と磁束補正判定部26の出力信号のどちらかが
“H”の場合に、ゲートスタート・ストップ信制御部15へ信号“H”を出力する。また
、OR論理部27は、運転指令の出力信号が“L”の場合でかつ、磁束補正判定部26の
出力信号も“L”の場合において、ゲートスタート・ストップ制御部15へ“L”を出力
する。
【0093】
OR論理部27から“H”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップは、出力信
号ゲートスタート・ストップ信号=“H”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック部1
3へ出力する。OR論理部27から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・スト
ップ制御部15は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生成ゲ
ートロジック部13へ出力する。
【0094】
以下に、磁束補正判定部26の判定結果が“ωout=Φmot”である場合について述
べる。
【0095】
磁束補正判定部26で、“ωcomp=Φmot”と判定され補正の必要無しと判定され
た場合、出力信号“L”がOR論理部27へ出力される。補正の必要無しと判定された場
合は、磁束補正判定部26からベクトル制御部12への補正指令“Φcomp”は出力さ
れない。
【0096】
OR論理部27は、運転指令の出力信号が“H”の場合で、磁束補正判定部26の出力
信号が“L”の場合に、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0097】
また、OR論理部27へ補正指令“L”と運転指令“H”が入力される場合、OR論理部
27は判定信号“L”をゲートスタート・ストップ制御部15へ出力する。
【0098】
OR論理部27から“H”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップは、出力
信号ゲートスタート・ストップ信号=“H”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック部
13へ出力する。
【0099】
OR論理部27から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップ制御部15
は、ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック部
13へ出力する。
【0100】
ゲートスタート・ストップ信号=“L”を受け取ったPWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力せず、インバー
タ5は稼動しない。そのため、車両は惰行走行を維持する。
【0101】
以下に、磁束補正判定部26の判定結果が“Φout≠Φmot”である場合について述
べる。
【0102】
磁束補正判定部26の判定結果が“Φout≠Φmot”で補正が必要と判定された場合
、出力信号“H”がOR論理部27へ出力され、補正指令“Φcomp”がベクトル制御
部12へ出力される。
【0103】
OR論理部27は、運転指令の出力信号が“H”の場合でかつ、磁束補正判定部26の
出力信号が“H”の場合に、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“H”を出力す
る。
【0104】
OR論理部27から“H”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップは、出力
信号ゲートスタート・ストップ信号=“H”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック部
13へ出力する。
【0105】
ゲートスタート・ストップ信号=“H”の出力信号に伴い、補正指令“Φcomp”をも
とに演算された”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を受けて、インバータ
5は稼動を再開し、永久磁石動機電動機1が回転を始める。その際に、磁束が補正される
ことにより、永久磁石同期電動機1の安定した温度に維持することが可能になる。
【0106】
また、OR論理部27は、運転指令が“L”の場合で、磁束補正判定部26の出力信号が
“H”の場合は、ゲートスタート・ストップ制御部15へ信号“L”を出力する。
【0107】
OR論理部27から“L”の出力信号を受け取ったゲートスタート・ストップは、出力信
号ゲートスタート・ストップ信号=“L”をPWMゲートパルス生成ゲートロジック部1
3へ出力する。
【0108】
ゲートスタート・ストップ信号=“L”を受け取ったPWMゲートパルス生成ゲートロジ
ック部13は、”VuINV”、”VvINV”、”VwINV”を出力せず、インバー
タ5は稼動しない。そのため、車両は惰行走行を維持する。
【0109】
(効果)
本実施形態では、電動機電圧より演算した電動機磁束を使用することで、センサレス制御
を適用した際の列車の惰行走行時や停止時にも永久磁石同期電動機の温度上昇を把握する
ことができる。そのため、列車走行中に発生する永久磁石動機電動機1の温度上昇に伴い
、電動機磁束を変化させ、永久磁石同期電動機1が高温になり損傷することを防ぐことが
可能である。そのため、省エネを実現しながら安全に車両走行をさせることができる。
【符号の説明】
【0110】
1 永久磁石同期電動機
2 電圧センサ
3 開放器
4 電流センサ
5 インバータ
6 フィルタコンデンサ
7 伝送線
8 制御部
10 制御ユニット
11 トルクパターン生成部
12 ベクトル制御
13 PWMゲートパルス生成ゲートロジック部
15 ゲートスタート・ストップ部
16 AND論理ゲート
17 故障判定手段
20 電動機周波数演算部
23 後退判定部
24 AND理論部
25 オーバースピード判定部
26 磁束判定・補正指令部
27 OR論理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期電動機と、
前記永久磁石同期電動機と接続され、前記永久磁石同期電動機の電動機電圧を検知する電
圧センサと、
前記永久磁石動機電動機と前記電圧センサを介して接続され、直流電力を交流電力に変換
し、前記永久磁石同期電動機に供給するインバータと、
前記電動機電圧をもとに列車の惰行走行時、停止時に前記永久磁石動機電動機の磁極位置
を推定する推定手段と
を有することを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
前記推定手段は、
運転席からの運転指令、応荷重指令、ブレーキ指令をもとにトルクパターンを生成するト
ルクパターン生成部と、
電圧センサが検出する電動機電圧の値をもとに、電動機周波数を推定する電動機周波数演
算部と、
前記電動機周波数と、予め設定された車両が後退していることを判定するための周波数で
ある後退検知周波数を比較する後退判定部と、
前記後退判定部からの判定結果と前記運連指令の有無を以って判定するAND論理部を有
し、
前記電圧センサによって検出された前記電動機電圧をもとに、前記電動機周波数演算部か
ら算出された電動機周波数が後退検知周波数以下であった場合に、列車が後退していると
判定し、列車の後退判定と、前記運転指令の有を検知して、インバータを再稼動する
ことを特徴とする請求項1記載の電気車制御装置。
【請求項3】
前記推定手段は、
運転席からの運転指令、応荷重指令、ブレーキ指令をもとにトルクパターンを生成するト
ルクパターン生成部と、
電圧センサが検出する電動機電圧の値をもとに、電動機周波数を推定する電動機周波数演
算部と、
前記電動機周波数と、予め設定された列車の速度が運転最高速度を超過していることを判
定するための周波数であるオーバースピード周波数を比較するオーバースピード判定部と

前記オーバースピード判定部からの判定結果と前記運連指令の有無を以って判定するAN
D論理部を有し、
前記電圧センサによって検出された前記電動機電圧をもとに、前記電動機周波数演算部か
ら算出された前記電動機周波数が前記オーバースピード周波数以上であった場合に列車が
オーバースピードしていることを検知し、列車のオーバースピード判定と、前記運転指令
の有を検知して、インバータを再起動する
ことを特徴とする請求項1記載の電気車制御装置。
【請求項4】
前記推定手段は、
運転席からの運転指令、応荷重指令、ブレーキ指令をもとにトルクパターンを生成するト
ルクパターン生成部と、
電圧センサが検出する電動機電圧の値をもとに、電動機周波数を推定する電動機周波数演
算部と、
前記電動機周波数をもとに演算される電動機磁束と、予め設定された永久磁石同期電動機
の温度上昇に伴い変化する電動機磁束を判定するための正常な磁束域である電動機磁束域
を比較する磁束補正判定部と、
前記磁束補正判定部からの判定結果と前記運連指令の有無を以って判定するAND論理部
を有し、
前記電動機周波数演算部から検出される前記電動機周波数をもとに演算される前記電動機
磁束が、前記電動機磁束補正域よりも外れていた場合に列車の磁束を補正する必要がある
ことを検知し、列車の磁束補正と、前記運転指令の有を検知して、インバータを再起動す

ことを特徴とする請求項1記載の電気車制装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−62013(P2011−62013A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210544(P2009−210544)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】