説明

電波レンズアンテナ装置

【課題】バイスタティック方式が採用される電波レンズアンテナ装置において、安価かつ簡単な構成で、ボリュームスキャンを行うことができる電波レンズアンテナ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】電波レンズアンテナ装置1は、球形の送信用の電波レンズ2と、球形の受信用の電波レンズ3と、電波レンズ2の焦点部に配置された一次放射器4と、電波レンズ3の焦点部に配置された一次放射器5と、一次放射器4、5を保持するとともに、電波レンズ2、3の中心点を結ぶ軸Aを回動軸として、仰角方向Yに回動可能に設けられたアーム12と、軸Aに垂直な軸Bを回動軸として、方位角方向Xに回動可能に設けられたテーブル8を備えている。そして、一次放射器4、5が、アーム12の回動動作に連動して、軸Aを回動軸として、仰角方向Yに回動するとともに、テーブル8の回動動作に連動して、軸Bを回動軸として、方位角方向Xに回動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を送受信する電波レンズを用いた電波レンズアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気象観測や航空管制等の目的で、種々のレーダー装置が使用されている。これらのレーダー装置は、アンテナからマイクロ波等の高周波電波を対象物に向けて照射し、当該対象物からの反射波を受信することにより、対象物の大きさや形状、距離、移動速度等の検知を行うものである。例えば、気象状態を観測するための気象レーダー装置の場合は、雨等の水滴に対して電波を照射し、受信した反射波の解析を行うことにより、降水域の大きさや降水量等を検知する。
【0003】
ここで、このようなレーダー装置においては、一般に、信号の送受信を1つのアンテナで行い、アンテナと送受信器との接続を切り替えて行うモノスタティック方式と、送信器に接続された送信用のアンテナと、受信器に接続された受信用のアンテナを用いるバイスタティック方式が採用されている。
【0004】
より具体的には、モノスタティック方式においては、例えば、パルス状の高周波信号を生成して出力する送信器と、送信器により生成された高周波信号を高周波電波として空間へ放射するとともに、物体から反射された高周波電波を受けるアンテナと、当該アンテナを介して、物体から反射された高周波電波を受信する受信器と、送信器からアンテナへの高周波信号の伝送とアンテナから受信器への高周波信号の伝送とを切り替える切替手段としてのサーキュレーターとを備えるレーダー装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、一般に、レーダー装置においては、観測レンジ(観測可能な距離)を大きくするために、送信電力を大きく(数十W〜数kW)するとともに、受信器が、極めて小さな信号を受信できる(ダイナミックレンジで、150dB以上)必要がある。しかし、上述のモノスタティック方式においては、送信器から、送信電力の100分の1(−20dB)程度の電力が、受信器に漏洩するため、上述の観測レンジが大幅に劣化するとともに、当該送信器からの漏れ電力により、受信器が損傷するという問題があった。
【0006】
そこで、これらの問題点を解消するために、上述の特許文献1に記載のレーダー装置のごとく、送信器により、パルス状の高周波信号を生成して出力するモノスタティックパルス方式が採用されている。このモノスタティックパルス方式においては、例えば、サーキュレーターと受信器との間に受信器を保護するための保護用スイッチを設け、送信の際には、当該保護用スイッチをオンにして、送信器からの漏れ電力を遮断して受信器を保護し、受信の際には、送信器自身の電源をオフにして、漏れ電力の発生を抑制して受信器のダイナミックレンジを確保する構成となっている。
【0007】
しかし、当該モノスタティックパルス方式においては、上述のごとく、送信する高周波信号をパルス状にするため、送信する高周波信号をパルス状にしない場合と送信ピーク電力が同じ場合であっても、平均送信電力が小さくなる。一般に、レーダーの最大観測レンジは、平均送信電力と、使用するアンテナの利得で決定されるが、送信する高周波信号をパルス状にすることにより、例えば、平均送信電力が1/2になると、同様の最大観測レンジを得るためには、アンテナの面積を2倍にする必要があるため、レーダー装置が大型化してしまい、コストアップになるという問題があった。また、パルス状の高周波信号のDuty比(=送信時間/パルス繰り返し周期)が、一般的には数%程度になるため、レーダー装置の観測レンジが著しく低下するという問題があった。
【0008】
そこで、これらの問題点を解消するために、上述のバイスタティック方式が採用されている。このようなバイスタティック方式を採用することにより、送信用のアンテナと受信用のアンテナが別個に設けられているため、送信器からの漏れ電力を効果的に抑制することができるとともに、送信器が常に高周波信号を生成して出力できるため、モノスタティックパルス方式を採用する場合に比し、上述の観測レンジが飛躍的に向上する。
【特許文献1】特開平11−14749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、一般に、レーダー装置等に使用されるアンテナのサイズは、その径が、数十cm〜数mにも及び、上記従来のバイスタティック方式においては、当該アンテナを2個使用する構成としている。従って、例えば、上述の気象レーダー装置として、このバイスタティック方式のレーダー装置を使用し、地表面より上の全空間をビームスキャン(以下、「ボリュームスキャン」という。)することにより、降水域の大きさや降水量等を検知する場合、アンテナの駆動機構が、極めて大掛かりなものとなってしまうため、アンテナ装置の構造が複雑化するという問題があった。また、例えば、60RPM(即ち、1秒間に1回転)の回転速度で横方向(方位角方向)に回転させながら、縦方向(仰角方向)にも回転させるような高速回転の場合、上記従来のバイスタティック方式のレーダー装置においては、アンテナのトルクが大きくなるため、アンテナの駆動機構への負荷が大きくなるとともに、アンテナ装置が損傷を受けやすくなる。その結果、アンテナ装置の長寿命化を図ることができないという問題があった。また、このような大きなトルクに耐え得る強固かつ重量の大きいアンテナ用の支持部材や駆動機構を設ける必要があるため、アンテナ装置全体が大型化して重量が大きくなるとともに、コストアップになるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、バイスタティック方式が採用される電波レンズアンテナ装置において、安価かつ簡単な構成で、ボリュームスキャンを行うことができるとともに、小型軽量化、および長寿命化を図ることができる電波レンズアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、誘電体を用いて比誘電率が半径方向に所定の割合で変化するように形成された2個の球形の送受信用電波レンズと、2個の送受信用電波レンズの各々の焦点部に配置された2個の送受信用一次放射器と、2個の送受信用一次放射器を保持するとともに、2個の送受信用電波レンズの各々の中心点を結ぶ軸を回動軸として、仰角方向に回動可能に設けられた保持部材と、保持部材を回動自在に支持する支持部材と、支持部材が取り付けられ、中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、方位角方向に回動可能に設けられた回動部材と、を備え、2個の送受信用一次放射器が、保持部材の回動動作に連動して、中心点を結ぶ軸を回動軸として、仰角方向に回動するとともに、回動部材の回動動作に連動して、中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、方位角方向に回動することを特徴とする電波レンズアンテナ装置である。
【0012】
同構成によれば、送受信用一次放射器を保持する保持部材を仰角方向に回動させるとともに、回動部材を方位角方向に回動させることにより、ボリュームスキャンを行うことが可能になる。従って、ボリュームスキャンを行うための大掛かりな駆動機構が不要になるため、アンテナ装置の構造が簡素化され、簡単な構成で、ボリュームスキャンを行うことが可能になる。また、上述した従来技術のごとく、径の大きなアンテナを回転させる場合のトルクに比し、保持部材と回動部材を回動させる際のトルクが小さくなるため、大きなトルクに耐え得る強固かつ重量の大きいアンテナ用の支持部材や駆動機構を設ける必要がなくなり、結果として、アンテナ装置のコストアップを抑制することができるとともに、小型軽量化を図ることができる。また、ボリュームスキャンを行う際の、アンテナ装置への負荷が軽減されるため、アンテナ装置の長寿命化を図ることが可能になる。なお、送受信用一次放射器から送受信用電波レンズを経由して空間へ向けて放射される高周波電波の放射方向は、送受信用電波レンズと送受信用一次放射器の各中心を結ぶ延長線上になる。また、送受信用電波レンズを経由して、送受信用一次放射器に入射される、上空で反射されて戻ってくる微弱な高周波電波の入射方向は、送受信用電波レンズと送受信用一次放射器の各中心を結ぶ延長線上になる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電波レンズアンテナ装置であって、保持部材が、仰角方向において、水平方向を0°、鉛直方向下向きを−90°とした時に、−90°以上90°以下の回動が可能となるように設けられていることを特徴とする。同構成によれば、簡単な構成で、複雑なボリュームスキャンを容易に行うことが可能になる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の電波レンズアンテナ装置であって、送受信用電波レンズを支持する他の支持部材を更に備え、他の支持部材に、送受信用一次放射器を収納するための収納部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
同構成によれば、例えば、送受信用一次放射器から送受信用電波レンズを経由して高周波電波を天頂方向に放射する場合、または、上空で反射された高周波電波を、天頂方向において、送受信用電波レンズを経由して送受信用一次放射器で受ける場合に、送受信用一次放射器と他の支持部材との干渉を回避することが可能になる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電波レンズアンテナ装置であって、送受信用一次放射器が、前記仰角方向において、複数個設けられていることを特徴とする。
【0017】
同構成によれば、仰角方向において、複数の信号を同時に送受信することが可能になるため、収集されるデータの同時性の向上を図ることができるとともに、仰角方向におけるスキャンの時間を短縮することが可能になる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電波レンズアンテナ装置であって、保持部材として導波管を用いるとともに、導波管が、送受信用一次放射器に接続されていることを特徴とする。同構成によれば、保持部材を、低損失な伝送路として使用することができるとともに、省スペース化を図ることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電波レンズアンテナ装置であって、保持部材が複数個設けられていることを特徴とする。同構成によれば、1個の保持部材のみを設ける場合に比し、スキャン時間を短縮することができるため、高速なビームスキャンを行うことが可能になる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、誘電体を用いて比誘電率が半径方向に所定の割合で変化するように形成された2個の球形の送受信用電波レンズと、2個の送受信用電波レンズの各々の焦点部に配置された2個の送受信用一次放射器と、2個の送受信用一次放射器が、焦点部に配置された状態を維持しながら、仰角方向において移動自在となるように、送受信用一次放射器を支持する支持部材と、2個の送受信用電波レンズの各々の中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、方位角方向に回動可能に設けられた回動部材と、を備え、2個の送受信用一次放射器が、支持部材に沿って、仰角方向に移動するとともに、回動部材の回動動作に連動して、中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、方位角方向に回動することを特徴とする電波レンズアンテナ装置である。
【0021】
同構成によれば、送受信用一次放射器を、支持部材に沿って、仰角方向に移動させるとともに、回動部材を方位角方向に回動させることにより、ボリュームスキャンを行うことが可能になる。従って、ボリュームスキャンを行うための大掛かりな駆動機構が不要になるため、アンテナ装置の構造が簡素化され、簡単な構成で、ボリュームスキャンを行うことが可能になる。また、上述した従来技術のごとく、径の大きなアンテナを回転させる場合のトルクに比し、回動部材を回動させる際のトルクが小さくなるため、大きなトルクに耐え得る強固かつ重量の大きいアンテナ用の支持部材や駆動機構を設ける必要がなくなり、結果として、アンテナ装置のコストアップを抑制することができるとともに、小型軽量化を図ることができる。また、ボリュームスキャンを行う際の、アンテナ装置への負荷が軽減されるため、アンテナ装置の長寿命化を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、バイスタティック方式が採用される電波レンズアンテナ装置において、安価かつ簡単な構成で、ボリュームスキャンを行うことが可能になるとともに、アンテナ装置の小型軽量化を図ることができる。また、アンテナ装置の長寿命化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置の全体構成を示す概略図であり、図2は、本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置における一次放射器の回動動作を説明するための図であり、図1の電波レンズアンテナ装置を送信用の電波レンズ側から見た場合の図である。図1に示すように、この電波レンズアンテナ装置1は、2個の送受信用電波レンズ2、3と、当該送受信用電波レンズ2、3の各々の焦点部に配置された2個の送受信用一次放射器4、5と、を備えている。より具体的には、電波レンズアンテナ装置1は、送信用の電波レンズ2と、受信用の電波レンズ3と、送信用の電波レンズ2の焦点部に配置される一次放射器4と、受信用の電波レンズ3の焦点部に配置される一次放射器5と、を備えている。
【0024】
この電波レンズ2、3は、球形状を有するルーネベルグレンズであり、中心の球核とそれを取り巻く複数の異径球殻により球形状のレンズとして形成され、誘電体を用いて比誘電率が半径方向に所定の割合で変化するように形成されたものである。このルーネベルグレンズからなる電波レンズ2、3は、各球殻部の比誘電率εγが、およそεγ=2−(r/R)2 の式に従うように形成されており、中心部の比誘電率を約2に設定するとともに、当該中心部から外側へ向かって誘電率が約1となるように変化させたものである。なお、上記式において、Rは球の半径であり、rは球の中心からの距離である。また、本実施形態においては、電波レンズ2、3の直径が、例えば、600mmや450mmのものが使用できる。また、誘電体とは、常誘電性、強誘電性、若しくは反強誘電性を示し、かつ電気伝導性を有さないものをいう。
【0025】
このルーネベルグレンズ用の誘電体として一般的に用いられているものは、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等のポリオレフィン系の合成樹脂の発泡体であり、当該合成樹脂に酸化チタン、チタン酸塩、ジルコン酸塩等の無機高誘電フィラーを加えてそれを発泡させたものも使用できる。そして、これらの誘電発泡体の比誘電率は、発泡倍率を異ならせて比重を制御することにより目標値に調整され、高比重である程高い比誘電率を得ることができる。
【0026】
また、誘電発泡体の製造方法としては、例えば、原料(合成樹脂単体や合成樹脂と無機高誘電フィラーの混合物)に対して、加熱により分解して窒素ガス等の気体を発生する発泡剤を添加し、これを所望の形状の金型に入れて発泡させる化学発泡法が挙げられる。また、揮発性発泡剤を含浸させたペレット状材料を予め金型外で予備発泡させ、得られた予備発泡ビーズを所望形状の金型に充填した後、水蒸気等で加熱して再度発泡させると同時に、隣接ビーズを互いに融着させるビーズ発泡法が挙げられる。
【0027】
また、図1に示すように、電波レンズ2、3の各々は、支持部材6、7により支持されており、当該支持部材6、7の各々は、方位角方向(即ち、電波レンズ2、3の中心点を結ぶ軸Aに垂直な軸Bを回動軸とする方向であって、図中の矢印Xの方向)に回動可能に設けられた回動部材であるテーブル8に取り付けられている。このテーブル8は、当該テーブル8上に設けられる電波レンズ2、3や支持部材6、7の重量に耐えることができるとともに、高速回転に耐えることができる強度が要求される。従って、テーブル8は軽量なものが好ましく、当該テーブル8を構成する材料として、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)材が、好適に使用できる。繊維強化プラスチック材の繊維強化材としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維又は石英繊維が挙げられる。また、繊維強化プラスチック材のマトリックスとなるプラスチックとしては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂が挙げられる。また、テーブル8を、金属板により形成することもできるが、軽量化を図るために、例えば、金属板に絞り加工を施してリブを形成したものを使用することができる。
【0028】
また、より一層の軽量化を図るために、当該テーブル8を、サンドイッチ構造により形成する構成としても良い。より具体的には、例えば、ポリエステル等の発砲体と、当該発砲体の外表面を覆った繊維強化プラスッチックからなるサンドイッチ構造が挙げられる。また、当該発砲体の代わりに、ハニカム(アルミニウム、アラミド等)を使用する構成としても良い。
【0029】
図1に示すテーブル8の駆動手段9は、テーブル8を駆動するための駆動源であり、正逆方向に回転可能なモータ10と、当該モータ10に接続され、モータ10により正逆方向に回転させられる軸部11とを備えている。なお、図1に示すように、駆動手段9は、土台部30の内部に収納されているとともに、テーブル8は、当該土台部30上に載置される構成となっている。そして、後述するコンピュータ56(図4参照)により、モータ10が駆動し、軸部11が回転すると、モータ10の駆動力が、軸部11を介してテーブル8に伝達されて、当該テーブル8が、電波レンズ2、3の中心点を結ぶ軸A(以下、「電波レンズ2、3の中心軸A」という。)に垂直な軸Bを回動軸として、上述の方位角方向Xに回動する構成となっている。即ち、スキャンを行う際に、当該テーブル8は、電波レンズ2、3の中心軸Aに垂直な軸Bを回動軸として、方位角方向Xにおいて回動自在となるように構成されている。このような構成により、方位角方向Xの全てにおいて、スキャンを行うことが可能になる。
【0030】
一次放射器4、5は、その断面形状が略矩形状や略円形状の開口部を有する電磁ホーンアンテナや、導波管に誘電体ロッドを装着した誘電体ロッドアンテナ等が一般的に使用されるが、マイクロストリップアンテナや、スロットアンテナ等を使用することもできる。また、一次放射器4、5から送受信される電波の電界の方向性(偏波)は、直線偏波(例えば、垂直偏波や水平偏波)や円偏波(例えば、右旋偏波や左旋偏波)のいずれであっても良い。
【0031】
また、一次放射器4、5の各々は、電波レンズ2、3の表面に沿って、仰角方向(即ち、電波レンズ2、3の中心軸Aを回動軸とする方向であって、図中の矢印Yの方向)に回動可能に設けられている。より具体的には、図1に示すように、一次放射器4、5の各々は、略コ字形状に形成された保持部材であるアーム12に保持されるとともに、当該アーム12は、上述のテーブル8に取り付けられた支持部材13の軸部14に取り付けられることにより、当該支持部材13により回動自在に支持されている。なお、当該アーム12は、軽量な材料により形成されているものであれば、特に限定されず、例えば、略コ字形状に形成された金属製のものが使用できる。また、後述のレドーム19に覆われることにより、外気との接触を回避できる構成であれば、木製のアーム12も使用できる。そして、アーム12は、電波レンズ2、3の中心軸Aを回動軸として、上述の仰角方向Yに回動可能に設けられている。また、図1、図2に示す駆動手段15は、アーム12を駆動するための駆動源であり、正逆方向に回転可能なモータ16と、当該モータ16に接続され、モータ16により正逆方向に回転させられる上述の軸部14とを備えている。そして、後述するコンピュータ56(図4参照)により、モータ16が駆動し、軸部14が回転すると、モータ16の駆動力が、軸部14を介してアーム12に伝達される。そうすると、当該アーム12が回動するとともに、アーム12の回動動作に連動して、アーム12に保持された一次放射器4、5が、電波レンズ2、3の中心軸Aを回動軸として、上述の仰角方向Yに回動する構成となっている。なお、スキャンを行う際に、アーム12(または、一次放射器4、5)は、電波レンズ2、3の中心軸Aを中心として、仰角方向Yにおいて、水平方向を0°、鉛直方向下向きを−90°とした時に、−90°以上90°以下の回動が可能となるように構成されている。より具体的には、例えば、一次放射器4においては、図2に示すように、水平方向(即ち、矢印Zの方向)を0°とした時に、仰角方向Yにおいて、天頂方向(即ち、矢印Cの方向であって、鉛直上向きの方向)をスキャンする状態(即ち、一次放射器4aの状態であって、−90°回動した状態)から、地表方向(即ち、矢印Dの方向であって、鉛直下向きの方向)をスキャンする状態(即ち、一次放射器4bの状態であって、90°回動した状態)まで回動可能となるように構成されている。このような構成により、仰角方向Yの広範囲において、スキャンを行うことが可能になる。
【0032】
また、上述のごとく、一次放射器4、5の各々は、アーム12に保持されるとともに、当該アーム12は、上述のテーブル8に取り付けられた支持部材13に支持されている。従って、テーブル8の方位角方向Xにおける回動動作に連動して、一次放射器4、5の各々が、電波レンズ2、3の中心軸Aに垂直な軸Bを回動軸として、方位角方向Xに回動する構成となっている。即ち、本実施形態においては、スキャンを行う際に、一次放射器4、5の各々が、電波レンズ2、3の中心軸Aに垂直な軸Bを中心として、方位角方向Xにおいて、回動自在となるように構成されている。このような構成により、方位角方向Xの全てにおいて、ボリュームスキャンを行うことが可能になる。
【0033】
このように、本実施形態の電波レンズアンテナ装置1は、送信用の一次放射器4と受信用の一次放射器5を保持するとともに、送信用の電波レンズ2と受信用の電波レンズ3の中心軸Aを回動軸として、仰角方向Yに回動可能に設けられたアーム12を備えている。また、当該アーム12を回動自在に支持する支持部材13と、当該支持部材13が取り付けられ、中心軸Aに垂直な軸Bを回動軸として、方位角方向Xに回動可能に設けられたテーブル8を備えている。そして、一次放射器4、5が、アーム12の回動動作に連動して、中心軸Aを回動軸として、仰角方向Yに回動するとともに、テーブル8の回動動作に連動して、中心軸Aに垂直な軸Bを回動軸として、方位角方向Xに回動する構成としている。従って、アーム12を仰角方向Yに回動させるとともに、テーブル8を方位角方向Xに回動させることにより、ボリュームスキャンを行うことが可能になる。その結果、ボリュームスキャンを行うための大掛かりな駆動機構が不要になるため、電波レンズアンテナ装置1の構造が簡素化され、簡単な構成で、ボリュームスキャンを行うことが可能になる。また、上述した従来技術のごとく、径の大きなアンテナを回転させる場合のトルクに比し、アーム12とテーブル8を回動させる際のトルクが小さくなるため、大きなトルクに耐え得る強固かつ重量の大きいアンテナ用の支持部材や駆動機構を設ける必要がなくなる。従って、電波レンズアンテナ装置1のコストアップを抑制することができるとともに、小型軽量化を図ることができる。また、ボリュームスキャンを行う際の、電波レンズアンテナ装置1への負荷が軽減されるため、電波レンズアンテナ装置1の長寿命化を図ることが可能になる。
【0034】
また、上述のごとく、アーム12が、仰角方向Yにおいて、水平方向を0°、鉛直方向下向きを−90°とした時に、−90°以上90°以下の回動が可能となるように設けられている。従って、簡単な構成で、複雑なボリュームスキャンを容易に行うことが可能になる。
【0035】
また、一次放射器4から電波レンズ2を経由して空間へ向けて放射される高周波電波の放射方向は、電波レンズ2と一次放射器4の各中心を結ぶ延長線上になる。また、電波レンズ3を経由して、一次放射器5に入射される、上空で反射されて戻ってくる微弱な高周波電波の入射方向は、電波レンズ3と一次放射器5の各中心を結ぶ延長線上になる。従って、本実施形態においては、一次放射器4と支持部材6、または一次放射器5と支持部材7の干渉を回避するために、図3に示すように、電波レンズ2、3を支持する支持部材6、7の各々に、一次放射器4、5を収納するための収納部17、18が形成されている。即ち、当該収納部17、18を形成することにより、例えば、一次放射器4から電波レンズ2を経由して高周波電波を天頂方向(即ち、図3に示す矢印Cの方向)に放射する場合、または、上空で反射された高周波電波を、上述の天頂方向Cにおいて、電波レンズ3を経由して一次放射器5で受ける場合に、一次放射器4と支持部材6、または一次放射器5と支持部材7の干渉を回避することが可能になる。なお、本実施形態における収納部17、18は、図3に示すように、断面略コ字形状を有している。
【0036】
また、図1に示すように、電波レンズアンテナ装置1は、電波レンズ2、3、一次放射器4、5、支持部材6、7等を雨風や積雪から保護するためのレドーム19を備えている。このレドーム19は、上述のテーブル8により支持されており、電波レンズ2、3、一次放射器4、5、支持部材6、7等は、レドーム19の内部に収納されている。
【0037】
また、レドーム19は、優れた電波透過性を有することが必要になるため、本実施形態では、優れた電波透過性を確保するために、レドーム19を構成する材料として、例えば、上述の繊維強化プラスチック(FRP)材が好適に使用される。
【0038】
次に、本実施形態に係る電波レンズアンテナ装置を使用したレーダー装置について説明する。図4は、本実施形態に係る電波レンズアンテナ装置を使用したレーダー装置の全体構成を示す概略図である。なお、本実施形態においては、電波レンズアンテナ装置が使用されるレーダー装置として、気象レーダー装置を例に挙げて説明する。また、図4においては、電波レンズアンテナ装置1における、電波レンズ2、3、および一次放射器4、5のみを示し、他の部材については、図示を省略する。
【0039】
図4に示す様に、レーダー装置50は、電波レンズアンテナ装置1と、高周波信号を生成する発振器51と、当該発振器51、および一次放射器4に接続され、発振器51により生成された高周波信号を増幅する送信器52と、一次放射器5に接続され、反射、または後方散乱されて戻ってきた微弱な高周波電波の信号を増幅する受信器53を備えている。また、受信器53に接続され、当該受信器53により受信された信号を検出する信号検出器54と、信号検出器54に接続され、当該信号検出器54により検出された信号を処理して、降水域の大きさや降水量等の各種気象情報を演算する信号処理器55を備えている。
【0040】
また、レーダー装置50は、制御手段としてのコンピュータ56を備えている。このコンピュータ56は、例えば、UNIX(登録商標)、Linux(登録商標)、Windouws(登録商標)等のOSを有しており、レーダー装置制御プログラムを起動することにより、発振器51、送信器52、受信器53、信号検出器54、および信号処理器55、および上述した駆動手段9、15の制御を行う。また、コンピュータ56は、LAN等により信号処理器55と接続されており、当該信号処理器55で演算されたデータをハードディスクに保存するとともに、データのグラフィック表示をリアルタイムで行う。
【0041】
以上の構成の下、ビームスキャンを行う際には、まず、発振器51により、所定の高周波信号が生成され、当該高周波信号が送信器52に送り出される。次いで、送信器52により、高周波信号が増幅されて、一次放射器4に送り出され、増幅された高周波信号が、高周波電波60として、当該一次放射器4から送信用の電波レンズ2を経由して空間へ向けて放射される。次いで、上空で反射されて戻ってくる微弱な高周波電波61を受信用の電波レンズ3を経由して一次放射器5で受け、当該電波の信号が受信器53に送り出される。次いで、受信器53において、高周波信号が増幅されて、信号検出器54を経由して信号処理器55に送り出され、当該信号処理器55により、信号検出器54により検出された信号を処理して、降水域の大きさや降水量等の各種気象情報が得られる構成となっている。
【0042】
この際、一次放射器4、5の各々を、電波レンズ2、3の表面に沿って、所定の速度により、仰角方向Yにおいて所定の角度範囲(即ち、−90°以上0°以下)で回動させるとともに、方位角方向Xにおいて回動させることにより、地表面より上の全空間のビームスキャン(即ち、ボリュームスキャン)を行うことが可能になる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の設計変更をすることが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0044】
例えば、上述の実施形態においては、1個の送信用の一次放射器4と1個の受信用の一次放射器5をアーム12に保持する構成としたが、アーム12を仰角方向Yに屈曲させて延設するとともに、一次放射器4、5の各々を、仰角方向Yにおいて、複数個設け、アーム12の延設部分に保持する構成としても良い。例えば、図5に示すように、仰角方向Yに屈曲させて延設したアーム12の延設部分20に、受信用の一次放射器5を3個保持する構成とすることができる。このような構成により、仰角方向Yにおいて、複数の信号を同時に送受信することが可能になるため、収集されるデータの同時性の向上を図ることができるとともに、仰角方向Yにおけるスキャンの時間を短縮することが可能になる。なお、受信用の一次放射器5のみを複数個設けて、複数の信号を同時に受信する場合は、例えば、仰角方向Yにおいて5°間隔で、複数個(例えば、15個)の一次放射器5を設けることができる。
【0045】
また、上述のアーム12を、導波管により構成することもできる。一般に、導波管は、同軸ケーブルに比し、高周波伝送損失が少なく、また機械的強度に優れている。本実施形態においては、上述のごとく、一次放射器4、5は、各々、送信器52、受信器53に接続されるため、アーム12として導波管を用いるとともに、当該導波管を一次放射器4、5と接続することにより、アーム12を、低損失な伝送路として使用することができる。また、一次放射器4、5との接続用の同軸ケーブルが不要になるため、省スペース化を図ることができる。
【0046】
また、図6に示すように、一次放射器4、5を保持するとともに、電波レンズ2、3の中心点を結ぶ軸Aを回動軸として、仰角方向Yに回動可能に設けられたアーム12を複数個(図6においては、2個)設ける構成としても良い。この場合、例えば、図6に示すように、一次放射器4、5を保持する保持部材であるアーム21は、テーブル8に取り付けられた支持部材31の軸部32に取り付けられることにより、当該支持部材31により回動自在に支持されている。また、図6に示す駆動手段34は、アーム21を駆動するための駆動源であり、正逆方向に回転可能なモータ33と、当該モータ33に接続され、モータ33により正逆方向に回転させられる上述の軸部32とを備えている。そして、上述のコンピュータ56により、モータ33が駆動し、軸部32が回転すると、モータ33の駆動力が、軸部32を介してアーム21に伝達される。そうすると、当該アーム21が回動するとともに、アーム21の回動動作に連動して、アーム21に保持された一次放射器4、5が、電波レンズ2、3の中心軸Aを回動軸として、上述の仰角方向Yに回動する構成となっている。なお、上述の支持部材31を設ける代わりに、駆動手段34を、支持部材13に設ける構成としても良い。また、アーム21(または、アーム21に保持された一次放射器4、5)は、上述のアーム12(または、アーム12に保持された一次放射器4、5)と同様に、スキャンを行う際に、電波レンズ2、3の中心軸Aを中心として、仰角方向Yにおいて、水平方向を0°、鉛直方向下向きを−90°とした時に、−90°以上90°以下の回動が可能となるように構成されている。さらに、送信器52は、切替手段であるスイッチ(不図示)を介して、アーム12の一次放射器4とアーム21の一次放射器4に接続され、コンピュータ56からの切替信号により、いずれか一方の一次放射器4を選択できる構成となっている。また、同様に、受信器53は、切替手段であるスイッチ(不図示)を介して、アーム12の一次放射器5とアーム21の一次放射器5に接続され、コンピュータ56からの切替信号により、いずれか一方の一次放射器5を選択できる構成となっている。なお、上述のスイッチは電子スイッチであるため、その切替に要する時間は、機械的動作に比し、充分に無視できるほど高速である。また、当該スイッチは、一次放射器4、5と送信器52の間や、一次放射器4、5と受信器53の間に設けることができる。
【0047】
そして、例えば、アーム12を第一の基準位置(仰角0度)に配置するとともに、アーム21を第2の基準位置(仰角45度)に配置し、かつ、テーブル8を方位角基準位置(方位角0度)に配置した状態でボリュームスキャンを開始する。より具体的には、まず、上述のスイッチにより、アーム12に取り付けられた一次放射器4、5に切り替えた状態で、テーブル8を方位角方向Xに回動させ、方位角方向Xにおいて1度毎(仰角0度固定)にスキャンを行う。そして、方位角方向Xが359度回動し、360度(即ち、上述の方位角基準位置)に回動するまでの間に、スイッチにより、アーム21に取り付けられた一次放射器4、5に切り替える。次いで、仰角45度固定で、方位角基準位置から360度まで1度毎にスキャンを行う。そして、アーム21によるスキャンが行われている間に、アーム12を仰角方向Yに1度回動させ、第3の基準位置(仰角1度)に配置しておく。次いで、テーブル8が359度回動し、360度(即ち、上述の方位角基準位置)に回動するまでの間に、上述のスイッチにより、再びアーム12の一次放射器4、5に切り替える。次いで、仰角1度固定で、方位角基準位置から360度まで1度毎にスキャンを行う。そして、アーム12によるスキャンが行われている間に、アーム21を仰角方向に1度回動させ、第4の基準位置(仰角46度)に配置しておく。そして、以下同様の切り替えを行いながら、2個のアーム12、21を回動させてスキャンを行う。このような構成により、テーブル8の方位角方向Xの回動は止める必要が無く、加減速をともなわないため、アーム12のみを設ける場合に比し、スキャン時間を短縮することができるため、高速なビームスキャンが可能となる。
【0048】
なお、上述のスイッチは、一次放射器4、5と送信器52の間や、一次放射器4、5と受信器53の間に設ける構成としたが、例えば、送信器52と受信器53を各々2個設けるとともに、スイッチを、2個の送信器52の前段側、および2個の受信器53の後段側に設ける構成としても良い。
【0049】
また、上述の実施形態においては、レドーム19をテーブル8により支持する構成としたが、図7に示すように、テーブル8、駆動手段9、および土台部30をレドーム19の内部に収納し、電波レンズアンテナ装置1の全体を当該レドーム19により覆う構成としても良い。このような構成により、テーブル8上の重量が軽減されるため、当該テーブル8を回動する際の、駆動手段9に対する負荷が軽減されるとともに、電波レンズアンテナ装置1の外観が向上する。
【0050】
また、図8に示すように、テーブル8の中央部に、テーブル8の上部と下部にわたって高周波信号の伝送を行う同軸ケーブルや導波管と接続されるコネクタ70を備えるロータリージョイント71を設け、同軸ケーブルや導波管の絡みやねじれの発生を効果的に抑制する構成としても良い。また、当該ロータリージョイント71に、コネクタ72を備えるスリップリング73を組み合わせることにより、例えば、駆動用の電源をテーブル8の下方に設けた場合であっても、テーブル8の上方に設けられたアーム12の駆動手段15におけるモータ16に対して、効率良く電力を供給することが可能になる。
【0051】
また、上述の実施形態における送信用の電波レンズ2と送信用の一次放射器4を受信用に使用(または、受信用の電波レンズ3と受信用の一次放射器5を送信用に使用)することにより、2個の電波レンズ2、3および2個の一次放射器4、5を受信用(または送信用)として使用する構成としても良い。このような構成により、電波レンズアンテナ装置1の利得が2倍になるとともに、ビーム幅がシャープになる。
【0052】
また、図4において説明した送信器52や受信器53等を、テーブル8上の空きスペースに設ける構成とすることができる。このような構成により、スペースの有効活用を図ることができ、レーダー装置50の小型化を図ることが可能になるとともに、電波レンズアンテナ装置1と、送信器52、受信器53間の損失を抑制することができ、観測レンジの向上を実現することが可能になる。
【0053】
また、一次放射器4、5を保持するアーム12を、略コ字形状に形成する構成としたが、送信用の電波レンズ2の焦点部に受信用の一次放射器4を配置することができ、かつ、受信用の電波レンズ3の焦点部に送信用の一次放射器5を配置することができれば、当該アーム12の形状は、特に限定されない。例えば、アーム12を、略円弧形状に形成することができる。
【0054】
また、収納部17、18を、断面略コ字形状に形成する構成としたが、一次放射器4と支持部材6、または一次放射器5と支持部材7の干渉を回避することができれば、当該収納部17、18の形状は、特に限定されない。例えば、当該収納部17、18を、断面略円弧形状に形成することができる。
【0055】
また、図9に示すように、一次放射器4が、電波レンズ2の焦点部に配置された状態を維持しながら、および一次放射器5が、電波レンズ3の焦点部に配置された状態を維持しながら、仰角方向Yにおいて移動自在となるように、当該一次放射器4、5を支持する支持部材であるレール80、81を設ける構成としても良い。この場合、図9に示すように、一次放射器4を支持するレール80は、テーブル8に取り付けられた支持部材82に固定して取り付けられたアーム83と、支持部材6に取り付けられており、また、一次放射器5を支持するレール81は、アーム83と支持部材7に取り付けられる。そして、スキャンを行う際には、電波レンズ2の焦点部に配置された一次放射器4、および電波レンズ3の焦点部に配置された一次放射器5の各々が、レール80、81に沿って、仰角方向Yに移動するとともに、テーブル8の回動動作に連動して、中心軸Aに垂直な軸Bを回動軸として、方位角方向Xに回動する構成となっている。このような構成により、上述の図1において説明した電波レンズアンテナ装置1と同様の効果を得ることができる。
【0056】
なお、この場合、一次放射器4、5を、仰角方向Yにおいて、水平方向を0°、鉛直方向下向きを−90°とした時に、中心軸Aを回動軸として、−90°以上90°以下の回動が可能となるように設けることにより、簡単な構成で、複雑なボリュームスキャンを容易に行うことが可能になる。また、上述の図1において説明した電波レンズアンテナ装置1と同様に、電波レンズ2、3を支持する支持部材6、7の各々に、一次放射器4、5を収納するための収納部17、18を形成する構成としても良い。また、一次放射器4、5の各々を、仰角方向Yにおいて、複数個設けることにより、仰角方向Yにおいて、複数の信号を同時に送受信することが可能になるため、収集されるデータの同時性の向上を図ることができるとともに、仰角方向Yにおけるスキャンの時間を短縮することが可能になる。
【0057】
さらに、上述の実施形態においては、電波レンズアンテナ装置を備えるレーダー装置を例に挙げて説明したが、本発明の電波レンズアンテナ装置1は、例えば、静止衛星や地上の固定アンテナからの放送・通信電波を受信し、これらの衛星やアンテナに向けて電波を送信する通信用のアンテナ装置としても使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の活用例としては、電波を送受信する電波レンズを用いた電波レンズアンテナ装置が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置における一次放射器の回動動作を説明するための図であり、図1の電波レンズアンテナ装置を送信用の電波レンズ側から見た場合の図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置における電波レンズを支持する支持部材を説明するための概略図である。
【図4】本実施形態に係る電波レンズアンテナ装置を使用したレーダー装置の全体構成を示す概略図である。
【図5】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置の変形例を示す概略図であり、一次放射器を、仰角方向において、複数個設けた状態を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置の変形例を示す概略図であり、アームを複数個設けた状態を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置の変形例を示す概略図であり、電波レンズアンテナ装置の全体をレドームにより覆う状態を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置において、ロータリージョイントを設けた状態を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る電波レンズアンテナ装置の変形例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1…電波レンズアンテナ装置、2…送受信用電波レンズ(送信用の電波レンズ)、3…送受信用電波レンズ(受信用の電波レンズ)、4…送受信用一次放射器(送信用の一次放射器)、5…送受信用一次放射器(受信用の一次放射器)、6…支持部材、7…支持部材、8…テーブル、12…アーム、13…支持部材、17…収納部、18…収納部、21…アーム、50…レーダー装置、51…発振器、52…送信器、53…受信器、80…レール、81…レール、A…送信用の電波レンズと受信用電波レンズの中心点を結ぶ軸、B…送信用の電波レンズと受信用電波レンズの中心点を結ぶ軸に垂直な軸、X…方位角方向、Y…仰角方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体を用いて比誘電率が半径方向に所定の割合で変化するように形成された2個の球形の送受信用電波レンズと、
前記2個の送受信用電波レンズの各々の焦点部に配置された2個の送受信用一次放射器と、
前記2個の送受信用一次放射器を保持するとともに、前記2個の送受信用電波レンズの各々の中心点を結ぶ軸を回動軸として、仰角方向に回動可能に設けられた保持部材と、
前記保持部材を回動自在に支持する支持部材と、
前記支持部材が取り付けられ、前記中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、方位角方向に回動可能に設けられた回動部材と、を備え、
前記2個の送受信用一次放射器が、前記保持部材の回動動作に連動して、前記中心点を結ぶ軸を回動軸として、前記仰角方向に回動するとともに、前記回動部材の回動動作に連動して、前記中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、前記方位角方向に回動することを特徴とする電波レンズアンテナ装置。
【請求項2】
前記保持部材が、前記仰角方向において、水平方向を0°、鉛直方向下向きを−90°とした時に、−90°以上90°以下の回動が可能となるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項3】
前記送受信用電波レンズを支持する他の支持部材を更に備え、前記他の支持部材に、前記送受信用一次放射器を収納するための収納部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項4】
前記送受信用一次放射器が、前記仰角方向において、複数個設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項5】
前記保持部材として導波管を用いるとともに、前記導波管が、前記送受信用一次放射器に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項6】
前記保持部材が複数個設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項7】
誘電体を用いて比誘電率が半径方向に所定の割合で変化するように形成された2個の球形の送受信用電波レンズと、
前記2個の送受信用電波レンズの各々の焦点部に配置された2個の送受信用一次放射器と、
前記2個の送受信用一次放射器が、前記焦点部に配置された状態を維持しながら、仰角方向において移動自在となるように、前記送受信用一次放射器を支持する支持部材と、
前記2個の送受信用電波レンズの各々の中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、方位角方向に回動可能に設けられた回動部材と、を備え、
前記2個の送受信用一次放射器が、前記支持部材に沿って、前記仰角方向に移動するとともに、前記回動部材の回動動作に連動して、前記中心点を結ぶ軸に垂直な軸を回動軸として、前記方位角方向に回動することを特徴とする電波レンズアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−181114(P2007−181114A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379858(P2005−379858)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(505186636)SEIハイブリッド株式会社 (52)
【Fターム(参考)】