説明

電磁サスペンション装置および電磁サスペンション装置の制御装置

【課題】 モータによるエネルギ回生を効率的に行うことができる電磁サスペンション装置およびその制御装置を提供することである。
【解決手段】 一方部材1と、一方部材1に対し相対運動を呈する他方部材2と、該相対運動を少なくとも抑制可能なモータMとを備えた電磁サスペンション装置において、モータMに電力を供給する電源の電圧が所定値以下となるとモータMの発電によって電源を充電することが可能な回生領域K内で荷重を発生することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に最適となる電磁サスペンション装置および電磁サスペンション装置の制御装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種、電磁サスペンション装置としては、たとえば、車両のバネ上部材もしくはバネ下部材の一方に連結される筒と、バネ上部材もしくはバネ下部材の一方に連結され筒内に挿通されるロッドと、ロッドの外周に軸方向に並べて装着される複数の永久磁石と、筒の内周に設けられ上記永久磁石に対向する複数の巻線とでリニアモータを構成し、リニアモータの電磁力をロッドと筒との軸方向の相対運動を抑制する荷重(制御力)として利用している。
【0003】
そして、このリニアモータにおける巻線は、U,V,Wの三相とされ、リニアモータとして構成された電磁サスペンション装置は、インバータによってPWM(Pulse Width Modulation)制御され、発生する減衰力を可変にすることが可能とされ、また、この電磁サスペンション装置にあっては、荷重発生源をリニアモータとしているので、上記ロッドと筒との相対運動における運動エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ回生を行うことが可能である。
【特許文献1】特開2003−104025号公報(発明の詳細な説明欄,図15)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した電磁サスペンション装置では、上述したように、エネルギ回生を行うことができるので、車両に搭載された際に、電源となるバッテリに充電することが可能となり、また、車両速度に応じて荷重を発生する領域を制限してモータが発電して得られる電流を有効に使用して省電力化を図るようにしている点で有用ではあるが、以下の不具合があると指摘される可能性がある。
【0005】
すなわち、従来電磁サスペンション装置における完全にエネルギ回生を行える回生領域については限られた範囲であって、上述の制御によっては、必ずしもバッテリに充電可能な回生領域内で荷重を発生できるとは限らず、必ずしも省電力につながらない場合がある。
【0006】
そして、近年では、モータとガソリンエンジンとを搭載し燃費向上を図ったハイブリッド自動車や完全にモータのみで駆動する電気自動車の開発が盛んとなってきており、このような電力消費が激しくなることが予想される車両への搭載を考えると、電磁サスペンション装置での電力消費は車両の駆動に影響を与えるがことがあり得るので、従来電磁サスペンション装置では、電力消費の点で充分でない場合がある。
【0007】
また、従来電磁サスペンション装置にあっては、上記省電力化を達成するためには、都度、伸縮ストロークやその速度によって制御範囲を決定する複雑な制御が必要であり、車両の挙動が制御の切り替わりによって変化することも考えられ、車両搭乗者に違和感や不安感を抱かせて結果的に車両における乗り心地を損ないかねない。
【0008】
そこで、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、モータによるエネルギ回生を効率的に行うことができる電磁サスペンション装置およびその制御装置を提供することである。また、他の目的は、効率的なエネルギ回生を行うと同時に車両における乗り心地を向上することができる電磁サスペンション装置およびその制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段における電磁サスペンション装置は、一方部材と、一方部材に対し相対運動を呈する他方部材と、該相対運動を少なくとも抑制可能なモータとを備え、モータに電力を供給する電源の電圧が所定値以下となるとモータの発電によって電源を充電することが可能な回生領域内で荷重を発生するようにした。
【0010】
また、本発明の課題解決手段における電磁サスペンション装置の制御装置は、一方部材と、一方部材に対し相対運動を呈する他方部材と、該相対運動を少なくとも抑制可能なモータとを備えた電磁サスペンション装置を制御する制御装置であって、モータに電力を供給する電源の電圧が所定値以下となるとモータの発電によって電源を充電することが可能な回生領域内で荷重を発生させる回生制御を行うようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁サスペンション装置およびその制御装置によれば、電源の電圧が低下した場合には、必ず、回生領域K内で荷重を発生するので、電源の電力を消費せず、さらには、電源を充電することができることになり、省電力化が達成されるとともに、電源の充電が必要なときに必ず充電することが可能となることからモータによるエネルギ回生を効率的に行うことができる。
【0012】
そして、電源の電圧が通常制御を充分に行うことができないような状態で、通常制御を行うことを回避可能であり、電源の電圧が低い状態のまま通常制御が行われて、却って車両における乗り心地を悪化させてしまうような事態の発生が防止され、さらには、電源の電圧が低下したまま通常制御が行われつづけてしまい、結果、電源の頻繁に交換しなくてはならなくなるような事態をも防止可能である。
【0013】
また、この回生領域内で荷重を発生する場合に、回生制御中のストローク速度−荷重特性を、パッシブダンパのストローク速度−荷重特性に近似するものとしておくことによって車両における乗り心地を確保しつつ効率的なエネルギ回生を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態における電磁サスペンション装置の概念図である。図2は、電磁サスペンション装置の制御装置のシステム図である。図3は、PWM回路を示す図である。図4は、回生領域を示す図である。図5は、電源Eを最も効率よく充電することが可能なストローク速度と荷重との関係を示す図である。図6は、回生効率が50%以上となる範囲を示す図である。図7は、任意のストローク速度に対して発生される荷重と回生電流値との関係を示す図である。
【0015】
一実施の形態における電磁サスペンション装置は、図1に示すように、一方部材たる螺子軸1と、螺子軸1に対し相対運動を呈するボール螺子ナット2と、モータMと、上記モータMに接続される制御装置20と、警告灯50および警告音発生源51とを備えて構成されている。
【0016】
詳しくは、螺子軸1は、ボール螺子ナット2に回転自在に螺合されるとともに、螺子軸1の図1中上端は、モータMのロータRに連結されている。他方のボール螺子ナット2は、螺子軸1が挿入される筒4の上端に固着されており、この筒4を介して車両のバネ上部材およびバネ下部材のうち一方に連結することが可能なようになっている。
【0017】
また、螺子軸1は、車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に回転自在に連結されるようになっており、具体的には、上記車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に設けたボールベアリングに軸支されるか、モータMを上記車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に固定するなどとされる。
【0018】
したがって、螺子軸1とボール螺子ナット2が軸方向の直線相対運動を呈すると、螺子軸1が回転運動を呈することになり、この螺子軸1の回転運動がモータMのロータRに伝達されることになる。ここで、螺子軸1の回転速度を歯車機構等で構成される減速機を介して減速して上記螺子軸1の回転運動をロータRに伝達するようにしてもよい。
【0019】
なお、上記螺子軸1とボール螺子ナット2が軸方向の直線相対運動を呈するときに、螺子軸1を回転不能として代わりにボール螺子ナット2を回転させるようにする場合には、このボール螺子ナット2の回転運動をモータMのロータRに伝達するようにしてもよい。具体的には、螺子軸1を車両のバネ上部材およびバネ下部材の一方に回転不能に連結し、他方のボール螺子ナット2を車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方にボールベアリング等を介して回転自在に連結し、ボール螺子ナット2の回転運動を歯車機構や摩擦車機構等を介してモータMのロータRに伝達してやればよい。
【0020】
そして、モータMは、この場合、筒状のフレーム10と、フレーム10の内周側に設けた電機子であるステータと、フレーム10に回転自在に軸支されるロータRとを備え三相ブラシレスモータとして構成され、詳しくは、ステータは、複数のティースを備えた環状のステータコア11と、各ティースに巻回されたU,V,W相の各相における巻線12とを備えており、他方のロータRは、シャフト13と、シャフト13の中間部外周に装着された駆動用磁石14とを備えている。
【0021】
なお、駆動用磁石14は、所定数の極数を実現できるようにブロック化された磁石で構成されてシャフト13に埋め込まれており、本モータMは、埋め込み磁石型とされている。無論、駆動用磁石14を所定数の極数を実現できるようにブロック化してシャフト13の外周に接着したり、環状に形成して分割着磁されてシャフト13の外周に嵌着するようにしたりしてもよい。
【0022】
また、このモータMには、ロータRの回転角を検出するために、回転角センサ15が搭載されており、具体的にはたとえば、回転角センサ15は、シャフト13に設けたレゾルバコアとフレーム10に設けられるレゾルバコアに対向するレゾルバステータとで構成されればよく、他にも、光学式のエンコーダを採用してもよいし、ロータRにセンシング用磁石を設ける場合にはホール素子やMR素子等の磁気センサをフレーム10に設けるとした構成としてもよい。
【0023】
上述のように、この電磁サスペンション装置にあっては、駆動源をモータMとしているので、モータMに電気エネルギを与えて駆動する場合には、螺子軸1を回転駆動させて螺子軸1とボール螺子ナット2とを積極的に相対直線運動させる、すなわち、ストロークさせることができ、アクチュエータとしての機能を発揮できる。
【0024】
また、モータMは、螺子軸1から強制的に回転運動が入力されると、誘導起電力や電源からの電力によって巻線12に電流が流れて磁界が形成されて電磁力が発生し、螺子軸1の回転運動を抑制するトルクを発生するので、螺子軸1とボール螺子ナット2の相対直線運動を抑制するように機能する。すなわち、この場合には、モータMが外部から入力される運動エネルギを回生して電気エネルギに変換して得られる電力によって、あるいは、この回生に加えて電源から供給される電力によって、発生するトルクで螺子軸1とボール螺子ナット2の相対直線運動を抑制することができる。
【0025】
したがって、この電磁サスペンション装置は、モータMをアクチュエータとしてもジェネレータとしても機能させ得るので、上記螺子軸1とボール螺子ナット2の相対直線運動を抑制することができると同時に、アクチュエータとしての機能を生かして車両の車体の姿勢制御も同時に行うことができ、これにより、アクティブサスペンションとしての機能をも発揮することができる。
【0026】
そして、上記モータMの巻線12に流れる電流を制御するために、具体的には、U,V,W相の巻線12は、制御装置20に接続され、このモータMは、制御装置20によって駆動制御される。
【0027】
この制御装置20は、図2に示すように、基本的には、上記巻線12の三相のうち二相に流れる電流をdq変換してd相電流値およびq相電流値を演算する二相電流演算手段21と、電流目標値演算部26によって決定される各電流目標値と上記d相およびq相の電流値とに基づいてd相電圧指令値およびq相電圧指令値を演算する比例積分制御部22と、上記d相電圧指令値およびq相電圧指令値をU,V,Wの各相の電圧指令値に変換する三相変換演算手段23と、三相ブラシレスモータのU,V,Wのうち二相に流れる電流値を検出する電流検出器24と、モータ駆動回路としてのPWM回路25と、PWM回路25が具備する電源Eの電圧を検出する電圧センサ28とを備えて構成されている。
【0028】
そして、この制御装置20は、電流目標値演算部26によって決定されるd相およびq相の各電流目標値と、二相電流演算手段21の演算結果として得られるd相、q相の電流値とのそれぞれの偏差に基づいてモータMを比例積分制御する。なお、偏差を微分して得られる要素を追加して比例微分積分制御を行うようにしてもよい。
【0029】
ここで、電流目標値演算部26は、トルク指令としてd相およびq相の電流目標値を上記比例積分制御部22に出力するものであるが、車体姿勢を所定の制御則に則り制御する通常制御時および後述するモータMのエネルギ回生によって後述の電源Eを充電する回生制御時に必要な情報となる車速、操舵角や、バネ上およびバネ下の速度・加速度、ストローク速度、電源Eの電圧等は、回転角センサ15、電圧センサ28以外に適宜車両に設けられる各種センサ等から電圧信号等として電流目標値演算部26に入力されるようになっている。
【0030】
なお、この電磁サスペンション装置の伸縮量、ストローク速度や伸縮加速度については、回転角センサ15から得られる回転角θと螺子軸1のピッチ、減速比から演算すればよく、別途センサを設ける必要は無い。
【0031】
そして、具体的にたとえば、通常制御時の制御則にスカイフック理論を採用する場合には、車両におけるバネ上速度が電流目標値演算部26に入力されるようにしておけばよく、この場合には電流目標値演算部26は、上記バネ上速度からトルク指令としてのd相およびq相の電流目標値を演算して上記比例積分制御部22に出力する。
【0032】
なお、この電流値目標演算部26は、基本的に、後述する回生制御を行う以外では、上記した通常制御時の制御則に則ってd相電流目標値とq相電流指令値を演算するようになっており、特に、通常制御時には、基本的にはd相電流目標値を0としてq相電流目標値を演算するようになっている。
【0033】
また、電流検出器24としては、ホール素子や巻線等を用いた非接触型や、三相の巻線12のそれぞれに直列介装した抵抗の電圧降下から電流値を得る電流センサを用いればよい。
【0034】
なお、上記電流検出器24は、U,V,W相のうち二相に流れる電流値を検出すればよく、これは、二相の電流値が分かればロータRの電気角θから後述する下記(1)式を用いてd相およびq相の電流値に変換可能であるからである。
【0035】
さらに、PWM回路25は、図3に示すように、電源Eと、モータMにおける三相各相の巻線12に電流供給を行う6つのスイッチング素子41と、各スイッチング素子41にPWMパルス信号を与えるマルチバイブレータ等の図示しないパルス発生器とを備えて構成されており、このPWM回路25は、比例積分制御部21が出力する各電圧指令値に基づいて所定のPWMデューティ比で上記各相に電流供給を行う。なお、電源Eについては、車両に搭載されるバッテリとしておけばよい。
【0036】
そして、二相電流演算手段21は、電気角θを用いて、以下の(1)式に示したように、上記各電流値iv,iuをd相およびq相の電流値id,iqへ変換する演算を行い、この変換されたd相およびq相の電流値id,iqを比例積分制御部22へ出力する。
【数1】

比例積分制御部22は、各電流目標値id*,iq*と電流値id,iqの各偏差εd,εqを算出し、算出された偏差εd,εqを積分して得られた積分値に所定の積分ゲインを乗じ、さらには、各偏差εd,εqに所定の比例ゲインを乗算し、積分ゲイン乗算後の値と比例ゲイン乗算後の値を加算して、各電圧指令値Vd,Vqを出力する。
【0037】
そして、さらに、d相電圧指令値Vdおよびq相電圧指令値Vqは、上記したようにU,V,Wの各相の電圧指令値に変換する三相変換演算手段23に入力され、この三相変換演算手段23は、下記(2)式の演算によって、上記d相電圧指令値Vdおよびq相電圧指令値Vqを実際のU,V,W各相の電圧指令値Vu,Vv,Vwへ変換し、この変換された電圧指令値Vu,Vv,VwをPWM回路25に出力する。
【数2】

また、このモータ制御装置は、リミッタ27を備えており、このリミッタ27は、三相変換演算手段23が出力する上記各電圧指令値Vu,Vv,Vwのうち、PWM開度が全開、すなわち、PWMデューティ比が最大値以上となる場合に、PWMデューティ比を最大値とする値に電圧指令値Vu,Vv,Vwを制限する。
【0038】
そして、上記制御装置20のPWM回路25以外の各部は、ハードウェアとして、具体的にはたとえば、電流検出器24、回転角センサ15、電圧センサ28および車体姿勢制御に必要な各種センサが出力する各信号を増幅するためのアンプと、アナログ信号をデジタル信号に変換する変換器と、CPU(Central Prossesing Unit)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置、RAM(Random Access Memory)、水晶発振子及びこれらを連絡するバスラインとを備えた図示しない周知のコンピュータシステムとして構成され、また、PWM回路25に電圧指令値Vu,Vv,Vwを出力することができるようになっている。なお、このハードウェアとして制御装置20のPWM回路25以外の各部は、車両に搭載されるECUに統合されてもよい。
【0039】
そして、この場合、上記電流目標値演算部26における目標値の演算のための通常制御を行うための処理手順と後述する回生制御を行うための処理手順は、プログラムとしてROMや他の記憶装置に予め格納されている。
【0040】
ところで、この電磁サスペンション装置は、モータMのロータRが回転すると、ロータRの駆動用磁石14の磁束が巻線12を横切るので、巻線12に誘導起電力が生じて回生電流が流れることから、巻線12には、PWM回路25で備える電源Eによる電流と上記誘導起電力による回生電流が流れることになるが、モータMの巻線12の誘導起電力によって電源Eを充電可能な回生を行うことができる回生領域Kは、原点を通り短絡特性Tにおけるストローク速度と荷重の曲線に対して接する接線Sとストローク速度軸とで囲まれる範囲となり、図4に示すように、短絡特性Tによって決することができる。なお、モータMのロータRの回転速度は、螺子軸1とボール螺子ナット2の相対速度、すなわち、電磁サスペンション装置のストローク速度に比例し、また、モータMの出力トルクは電磁サスペンション装置の荷重に比例することから、上記短絡特性Tは、モータM自体の回転速度とトルクの関係である短絡特性を上記電磁サスペンション装置のストローク速度と荷重との関係に変換したものである。そして、本明細書で短絡特性という場合、特に断らなければ、上記したようにモータを短絡した状態における電磁サスペンション装置のストローク速度と荷重との関係を言う。
【0041】
ここで、ストローク速度とは、螺子軸1に対するボール螺子ナット2の軸方向の直線相対移動速度であって、荷重とは、モータMが発生するトルクによって生じる螺子軸1とボール螺子ナット2の直線相対運動を抑制あるいは助長する力のことである。
【0042】
図4中、ストローク速度軸において、電磁サスペンション装置が収縮する方向のストローク速度を便宜的に正の値とすると、原点より右方側は収縮方向のストローク速度を示し、電磁サスペンション装置が伸長する方向のストローク速度を便宜的に負の値とすると、原点より左方側は伸長方向のストローク速度を示している。他方、荷重軸において、電磁サスペンション装置を伸長させる方向の荷重を便宜的に正の値とすると原点より上方側は伸長方向の荷重を示し、電磁サスペンション装置を収縮させる方向の荷重を便宜的に負の値とすると原点より下方側は収縮方向の荷重を示している。
【0043】
したがって、図4中、第1象現は、電磁サスペンション装置は、収縮する方向にストロークするのに対しそのストロークを抑制する荷重を発生している状態を示し、第2象現は、電磁サスペンション装置は、伸長する方向にストロークするのに対しそのストロークを助長する方向に荷重を発生している状態を示し、第3象現は、伸長する方向にストロークするのに対しそのストロークを抑制する荷重を発生している状態を示し、第4象現は、収縮する方向にストロークするのに対しそのストロークを助長する荷重を発生している状態を示している。
【0044】
上述のように回生領域Kは、原点を通り短絡特性Tにおけるストローク速度と荷重の曲線に対して接する接線Sとストローク速度軸とで囲まれる範囲(図4中斜線部分)となり、短絡特性Tによって決することができ、さらには、この接線Sにおける傾きは、モータMのトルク定数およびの巻線12とPWM回路25の全体の抵抗、すなわち回路中の抵抗器以外にもリード線の内部抵抗を含んだ全体の抵抗によっても決まる値であるので、トルク定数および上記全体の抵抗の設定によっても回生領域Kを決定することができる。また、上記接線Sの傾きは、螺子軸1のリードによっても調整することも可能である。
【0045】
なお、図4中の各象現の最大あるいは最小荷重を決する水平線aは、電流目標値演算部26で演算されるq相電流目標値iq*を制限することで決せられる荷重発生可能な領域と不可能な領域とを仕切る線であり、また、曲線bもまた荷重発生可能な領域と不可能な領域とを仕切る線である。
【0046】
上記した短絡特性Tは、ストローク速度を増速していくと、あるストローク速度で荷重のピークを迎え、その後のストローク速度の増速に対しては、荷重が漸減していくような曲線を描く。これは、荷重ピークを迎えるまでは、モータMのロータRが強制的に回転させられることによる発電によって得られる電流がストロークを抑制するトルクを有効に発生させるように各相の巻線12に流れるが、荷重ピークを過ぎる程度までストローク速度が速くなるとトルクに寄与しない無効電流が増えて荷重が小さくなることによるものである。なお、このことは、回生領域Kに影響を与えるものではない。
【0047】
なお、モータMの巻線12とPWM回路25の全体の抵抗、すなわち回路中の抵抗器以外にもリード線の内部抵抗を含んだ全体の抵抗、さらには、螺子軸1のリードを変化させると、短絡特性Tをストローク速度軸に沿って圧縮伸長させることができ、上記抵抗を小さくするか螺子軸1のリードを小さくすれば、短絡特性Tはストローク速度軸に沿って原点側に向けて圧縮され、逆に、抵抗を大きくするか螺子軸1のリードを大きくすれば、短絡特性Tはストローク速度軸に沿って高速側に向けて伸長され、これによって接線Sの傾きを変化させることができる。また、トルク定数を大きくすれば接線Sの傾きを大きくでき、逆にトルク定数を小さくすれば接線Sの傾きを小さくすることができる。そして、特に、上記全体の抵抗を小さくするか、あるいは、トルク定数を大きくするか、あるいは、螺子軸1のリードを小さくするか、あるいは、それらの任意の組み合わせで、電磁サスペンション装置は、ストローク速度が低くても大きな荷重が得られ、上記回生領域Kも大きくなることになる。
【0048】
ここで、この電磁サスペンション装置においては、電圧センサ28で検出する電源Eの電圧が所定値以下となる場合には、基本的には、上記制御装置20は、電磁サスペンション装置にモータMの発電によって電源を充電することが可能な回生領域K内で荷重を発生させる回生制御を行う。なお、上記所定値は、任意に設定されればよいが、具体的にたとえば、電磁サスペンション装置がアクティブサスペンションとして充分機能しえなくなる程度の値とされるとよいであろう。
【0049】
すなわち、制御装置20は、上記した通常制御を行いつつ、電源Eの電圧を電圧センサ28で検出してモニタし、電源Eの電圧が所定値以下となると、電磁サスペンション装置のストローク速度と該ストローク速度に対応して発生させる荷重で一義的に決まる点が図4中の回生領域K内となるように制御する。
【0050】
具体的には、この回生制御中にあたり、電流目標値演算部26は、回生制御用の制御則に則りd相およびq相電流目標値を演算する。そして、回生制御用の制御則は、たとえば、いわゆる油圧ダンパ等のパッシブダンパのストローク速度−荷重特性に近似するものとし、そのストローク速度−荷重特性で描かれるラインが回生領域K内に入るように設定されるようにしておくとよい。
【0051】
そうすることで、電源Eを充電しつつ、油圧ダンパ相当のストローク速度−荷重特性が得られるので、乗り心地を満足させることができる。
【0052】
また、この回生制御中、電流目標値演算部26に、任意のストローク速度に対して一義的に荷重を演算可能なように、接線Sの傾きを示す係数より小さい係数を回転角センサθに基づいて演算されるストローク速度を乗算して得られる荷重を発生すべくd相およびq相の電流目標値を演算させるようにしてもよい。このようにしても、回生領域K内で荷重を発生させるように制御可能である。
【0053】
なお、回生制御中のストローク速度−荷重特性については、車両に適するように、経験的、実験的に得られるものであってもよい。
【0054】
このように、この電磁サスペンション装置およびその制御装置によれば、電源Eの電圧が低下した場合には、必ず、回生領域K内で荷重を発生するので、電源Eの電力を消費せず、さらには、電源Eを充電することができることになり、省電力化が達成されるとともに、電源Eの充電が必要なときに必ず充電することが可能となることからモータMによるエネルギ回生を効率的に行うことができる。
【0055】
そして、電源Eの電圧が通常制御を充分に行うことができないような状態で、通常制御を行うことを回避可能であり、電源Eの電圧が低い状態のまま通常制御が行われて、却って車両における乗り心地を悪化させてしまうような事態の発生が防止され、さらには、電源Eの電圧が低下したまま通常制御が行われつづけてしまい、結果、電源Eを頻繁に交換しなくてはならなくなるような事態をも防止可能である。
【0056】
なお、特に、上記電源Eが車両のバッテリとされる場合には、電源Eの電圧が低下してしまうと、ハイブリッド車等のモータを駆動源とする車両では、走行性に影響を与えることになるが、この電磁サスペンション装置およびその制御装置によれば、確実に電圧低下した状態の電源Eを充電することができることから、そのような車両の走行性を向上することができる。
【0057】
また、この回生領域K内で荷重を発生する場合に、回生制御中のストローク速度−荷重特性を、パッシブダンパのストローク速度−荷重特性に近似するものとしておくことによって車両における乗り心地を確保しつつ効率的なエネルギ回生を行うことが可能である。
【0058】
そして、電源Eが上記充電によって、その電圧が所定値を超える値となると、今度は回生制御から通常制御へ切換られ、制御装置20は電磁サスペンション装置に通常制御に則った荷重を発生させることになる。
【0059】
ここで、上記した通常制御と回生制御の切換手法について説明すると、通常制御中に、突然に回生制御が行われると、車体姿勢が異なる制御則に従って制御されることになり、このときの車体の挙動が変化してしまう。なお、電源EがモータMのエネルギ回生によって充分充電され、電圧が所定値を超えた時に生じる回生制御から通常制御への切換の場合にも、同様に、車体の挙動変化が生じることになる。
【0060】
そこで、この電磁サスペンション装置およびその制御装置にあっては、車両の速度がゼロとなることをトリガとして回生制御を行うようにしてある。また、回生制御から通常制御への切換についても、同様に、車速がゼロとなったことを持ってして通常制御へ切り換える。
【0061】
すなわち、電源Eの電圧が所定値以下となった場合に、突然通常制御から回生制御に切換るのではなくて、車速がゼロとなるまで上記切換を行わないようになっている。
【0062】
具体的には、所定ルーチンで電源Eの電圧を都度モニタしておき、車速がゼロをもってして、回生制御に切換るようにしておけばよい。
【0063】
したがって、このように、車速がゼロとなるまで回生制御が行わないので、車両走行中に突然制御が切換ってしまい、車体の挙動を変化させてしまうような事態が防止されることになる。すなわち、この電磁サスペンション装置およびその制御装置によれば、車両の搭乗者に上記挙動変化によって違和感や不安感を与えるような事態が防止され、車両における乗り心地を向上することができるのである。
【0064】
また、この通常制御から回生制御に切換るときには、運転室内に設けた警告灯50および警告音発生源51の一方あるいはその両方を作動させて、搭乗者に電磁サスペンション装置の制御が回生制御に切換る旨を知らせる。そうすることで、搭乗者に通常制御とは異なる回生制御に制御が切換ったことを搭乗者に気づかせることができ、搭乗者に車体の挙動変化による不安感や違和感を与えてしまうことがない。なお、警告灯50のみならず警告音を発生させることで、搭乗者が警告灯50の点灯を目視しなかった場合にも確実に上記制御の切換りに気づかせることができる利点がある。また、この警告灯50の点灯や警告音発生源51の作動については回生制御から通常制御への切換時点においても行うようにしてもよい。
【0065】
上述のように、この電磁サスペンション装置およびその制御装置にあっては、基本的に車速がゼロとなるまでは回生制御を行わないようになっているが、電源Eが電圧低下の状態のまま、車両が走行を続けてしまう恐れがある。
【0066】
そこで、この電磁サスペンション装置およびその制御装置にあっては、電源Eの電圧が所定値以下となってから所定時間が経過しても車速がゼロとならない場合、つまり、車両が走行を続けている場合には、上記警告灯50の点灯および警告音発生源51の作動の一方あるいはその両方を行い、さらに、この警告灯50の点灯等から一定時間経過を持って車速がゼロでなくとも通常制御から回生制御に切換るようにしている。
【0067】
したがって、この電磁サスペンション装置およびその制御装置では、電源Eが電圧低下の状態のまま、車両が走行を続けてしまうことが防止され、電源Eの充電実施と車両における乗り心地の向上とを両立することができる。
【0068】
また、上記した車両走行中における通常制御から回生制御への切換時には、先んじて警告灯50や警告音発生源51を作動させるので、これをきっかけとして搭乗者に車両を停車させることを促せるとともに、そのまま車両を走行させ続ける場合に合っても、上述の制御切換を先んじて搭乗者に知らしめることが可能であり、搭乗者に車体の挙動変化による違和感や不安感を与えずにすむ。
【0069】
つづいて、一実施の形態の一変形例における電磁サスペンション装置およびその制御装置について説明する。
【0070】
この一変形例における電磁サスペンション装置およびその制御装置にあっても、一実施の形態の電磁サスペンション装置およびその制御装置とハードウェアとしては同様の構成を備えており、回生制御中に回生領域K内で荷重を発生するようになっているが、一変形例においては、通常制御から回生制御への切換手法が異なる。なお、一変形例にあっても、回生制御の手法については上述したところと変わりはない。
【0071】
この一変形例の一実施の形態と異なる点は、通常制御から回生制御への切換においては、電源Eの電圧が所定値以下となると通常制御をフェードアウトさせつつ回生制御をフェードインし、また、回生制御から通常制御への切換において、電源Eの電圧が所定値を超えると回生制御をフェードアウトさせつつ通常制御をフェードインするようにしてある点である。
【0072】
具体的には、通常制御から回生制御へ切り換える場合には、電流目標値演算部26は、通常制御の制御則によって演算されるq相の電流目標値iq’に係数α(0≦α≦1)を乗算したものと回生制御の制御側によって演算されるq相の電流目標値id”,iq”とに係数β(0≦β≦1)を乗算したものを合算した電流目標値id*,iq*として出力する。ここで、係数αと係数βはβ=1−αの関係を持っており、電流目標値演算部26は、αの値を任意の時間経過で1から0へ変化させて、電流目標値iq*を演算する。なお、q相のみ電流目標値のみをフェードインフェードアウトの対象とするのは、d相電流目標値は0とされているからである。
【0073】
他方、回生制御から通常制御へ切り換える場合には、電流目標値iq*の演算は、通常制御から回生制御への切換と同様であるが、こんどは、電流目標値演算部26は、αの値を任意の時間経過で0から1へ変化させて電流目標値id*,iq*を演算する。
【0074】
なお、αの変化は時間経過に比例するように変化させてもよいし、指数関数的に変化させるようにしてもよく、また、0から1へおよび1から0への変化に要する任意の時間は、その車両に適するように設定されればよい。
【0075】
このように、この一変形例にあっては、通常制御から回生制御への切換および回生制御から通常制御への切換は、上述のように回生制御がフェードインフェードアウトを用いられて行われることから、車体の挙動が急激に変化するようなことが防止され、車両における乗り心地が向上することになる。
【0076】
なお、この一変形例の上記切換手法を、一実施の形態における車両走行中の切換時に適用することも可能であり、この場合にも、同様に車両における乗り心地を向上することが可能となる。
【0077】
さらに、一実施の形態の他の変形例における電磁サスペンション装置およびその制御装置について説明する。この他の変形例にあっても、ハードウェアは一実施の形態における電磁サスペンション装置およびその制御装置と同様の構成を備えており、回生制御中に回生領域K内で荷重を発生するようになっているが、一変形例においては、通常制御から回生制御への切換手法が異なる。なお、他の変形例にあっても、回生制御の手法については上述したところと変わりはない。
【0078】
この他の変形例の一実施の形態と異なる点は、通常制御から回生制御への切換および回生制御から通常制御への切換においては、電源Eの電圧が所定値以下となると通常制御の電流目標値と回生制御の電流目標値とが同じ値あるいは交差することを持ってして行われる点である。
【0079】
具体的には、電流目標値演算部26は、通常制御の制御則によって演算されるq相の電流目標値iq’と、回生制御の制御側によって演算されるq相の電流目標値iq”とが同じ値となるか、または、それまで電流目標値iq”を上回っている電流目標値iq’が電流目標値iq”を下回る状態、あるいは、それまで電流目標値iq”を下回っている電流目標値iq’が電流目標値iq”を上回る状態、すなわち、通常制御時の電流目標値iq’と回生制御時の電流目標値iq”が交差する場合に、通常制御から回生制御へ切り換えるときは電流目標値iq”を電流目標値iq*として、回生制御から通常制御へ切り換えるときは電流目標値iq’を電流目標値iq*として出力する。
【0080】
なお、上記交差時にも切り換えるのは、電流目標値がデジタルであるときには、分解能によって、必ずしも上記交差時に電流目標値iq’と電流目標値iq”が同じにならない場合があるからであり、また、q相のみ電流目標値を比較するのは、d相電流目標値は0とされているからである。
【0081】
したがって、この他の変形例にあっては、通常制御と回生制御の相互の切換前後において、電磁サスペンション装置が発生する荷重が変化しないのであり、そのようにすることで、搭乗者に車体の挙動変化による違和感や不安感を与えずにすむことから、車両における乗り心地を向上することができる。
【0082】
つづいて、他の実施の形態における電磁サスペンション装置およびその制御装置について説明する。この他の実施の形態における電磁サスペンション装置およびその制御装置にあっても、一実施の形態の電磁サスペンション装置およびその制御装置とハードウェアとしては同様の構成を備えており、回生制御中に回生領域K内で荷重を発生するようになっているが、この他の実施の形態にあっては、その回生制御中のストローク荷重−荷重特性を最も効率的に電源Eを充電することが可能なラインに設定してある。
【0083】
ここで、電源Eを最も効率よく充電すること可能なラインは、図5に示すように、原点を通り短絡特性Tにおけるストローク速度と荷重の曲線に対して接する接線Sの傾きの2分の1の傾きを持ち原点を通る直線Aとなる。
【0084】
したがって、回生制御中にストローク速度−荷重特性が上記直線A上に乗るように、すなわち、ストローク速度に対して荷重が上記直線A上となるように制御してやることで、最も効率のよい電源Eの充電が可能となる。この場合には、パッシブダンパ相当のストローク速度−荷重特性の実現はできなくはなるが、電源Eを最も効率的に充電することが可能となるので、電源Eをもともと発揮していた電圧まで早急に回復させることができることになる。
【0085】
また、最も効率的に電源Eを充電することが可能であるから、電源Eの充電期間、すなわち、回生制御を短縮することができ、通常制御への切換を早めることができる。すなわち、どうしても回生制御中には、電磁サスペンション装置に回生領域K内で荷重を発生させるため車両における乗り心地の点で通常制御時より劣ることになるが、この回生制御期間を短縮することでより早く通常制御にシフトすることが可能となるので、この点で車両における乗り心地を向上することがきる。
【0086】
なお、この他の実施の形態においても、通常制御から回生制御への切換時、および、回生制御から通常制御への切換時には、上述した一実施の形態、その一変形例、さらには他の変形例で説明したような切換手法を採用してよいことを無論であって、そうすることでより一層車両における乗り心地を向上することができることは言うまでもない。また、警告灯50や警告音発生源51を併設してもよい。
【0087】
さらに、他の実施の形態の変形例について説明する。この他の実施の形態の変形例については、この他の実施の形態の変形例における電磁サスペンション装置およびその制御装置にあっても、一実施の形態の電磁サスペンション装置およびその制御装置とハードウェアとしては同様の構成を備えており、回生制御中に回生領域K内で荷重を発生するようになっているが、この他の実施の形態にあっては、そのストローク荷重−荷重特性を効率的に電源Eを充電することが可能なライン近傍となるように設定してある。
【0088】
具体的には、この他の実施の形態における変形例にあっては、図6に示すように、回生制御中、ストローク速度が所定速度範囲内にあっては、ストローク速度−荷重特性が直線Hと直線Lで囲まれた回生効率50%以上となる範囲Y(図6中斜線部分)内になるように設定されている。
【0089】
なお、回生効率が50%以上であることは、図7に示すように、任意のストローク速度で発生される荷重に対して生じる回生電流が最大値となることをもって100%とすると、電磁サスペンション装置が発生する荷重に対しモータが出力する回生電流値が回生電流最大値の50%以上の値となることであって、図7中、回生領域Kは接線Sで仕切られ、回生領域Kにおける最大荷重の値の半分の荷重で回生電流値が最大値となることから回生効率が100%となるのは、接線Sの2分の1の傾きの図5中直線Aとなることがこの図7から容易に理解できる。
【0090】
そして、図6中の直線Hと直線Lは、任意のストローク速度とそのストローク速度に対して回生効率50%を実現する荷重とで決まる点の軌跡である。
【0091】
なお、ストローク速度における上記所定速度範囲は、任意に決定されればよく、この電磁サスペンション装置が採りうる全ストローク速度範囲とされてもよい
上述のように、ストローク速度が所定速度範囲内にあっては、ストローク速度−荷重特性が回生効率50%以上の範囲Y内になるように設定されているので、ストローク速度−荷重特性が採りうる軌跡を上記範囲Y内である程度任意に設定することが可能である。
【0092】
したがって、一方では電源Eの電圧が低下した場合には、電源Eの電力を消費せず、より効率的に電源Eを充電することができることになり、より省電力化が達成されるとともに、他方では上記ストローク速度−荷重特性をパッシブな緩衝器のストローク速度−荷重特性に近似させることが可能となって車両における乗り心地を向上することができる。
【0093】
すなわち、この他の実施の形態の変形例における電磁サスペンション装置およびその制御装置にあっては、効率的な電源Eの充電と車両における乗り心地の向上を両立することが可能である。
【0094】
なお、上記所定速度範囲であるが、上記したように任意に設定することが可能であるが、この所定速度範囲を伸縮時のストローク速度が0.1m/sから0.3m/sの範囲内(伸縮方向で正負の符号を付する場合には−0.3m/sから−0.1m/sおよび0.1m/sから0.3m/sの範囲内)とするとより効果的である。
【0095】
というのは、伸縮時のストローク速度が0.1m/s以下の場合には、比較的高い荷重を発生した方が車両における乗り心地に貢献できる一方、モータMのロータRの回転速度は低く回生電流も小さいので電源Eの充電量は小さいため、このような速度領域では積極的に電源Eを充電するために回生効率を高めるよりは車両における乗り心地を向上させる方が好ましい。
【0096】
転じて、伸縮時のストローク速度が0.1m/sから0.3m/sの範囲内では、回生効率50%の範囲Y内で発生可能な荷重にはある程度巾があり、この範囲Yを接線Sの設定によって、すなわち、トルク定数、短絡特性Tの設定によって乗り心地に寄与可能な荷重を発生できるように設定しておくことによって車両における乗り心地を確保でき、他方、この0.1m/sから0.3/sの範囲ではモータMのロータRの回転速度も電源Eを充分に充電することが可能な程度となっていることから、この伸縮時のストローク速度が0.1m/sから0.3m/sの範囲内では回生効率を高めておく方が好ましいことになる。
【0097】
上記のように設定されることで、伸縮時のストローク速度が0.3m/s以下となる領域は頻繁に使用される領域であり回生効率が高められ、特に、最も頻繁に使用される0.1m/s以下の領域では回生効率は若干劣るものの車両における乗り心地を確保できることから、上記したように、所定速度範囲を伸縮時のストローク速度が0.1m/sから0.3m/sの範囲内に設定しておくと、乗り心地の向上と効率的な電源Eの充電とを高次元で両立させることができるのである。
【0098】
なお、この他の実施の形態の変形例においても、通常制御から回生制御への切換時、および、回生制御から通常制御への切換時には、上述した一実施の形態、その一変形例、さらには他の変形例で説明したような切換手法を採用してよいことを無論であって、そうすることでより一層車両における乗り心地を向上することができることは言うまでもない。また、警告灯50や警告音発生源51を併設してもよい。
【0099】
また、電磁サスペンション装置を、図8に示す他の電磁サスペンション装置のように、一方部材である筒31と、筒31に対し相対運動を呈する他方部材であるロッド32と、該相対運動を少なくとも抑制可能なモータM2とで構成するようにしてもよい。
【0100】
詳しくは、筒31は、車両のバネ上部材およびバネ下部材の一方に連結され、この筒31内には、車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に連結されるロッド32が相通される。
【0101】
また、モータM2は、ロッド32の外周に軸方向にS極とN極が交互に現われるように装着される駆動用磁石33と、筒31内に駆動用磁石33と対向する巻線34とを備えて構成され、巻線34は所定の長さにわたり筒31の軸方向に添ってU,V,Wの各相が交互に並ぶように配置されている。
【0102】
なお、筒31に設けられた巻線34は環状に成型され、少なくとも内周側は、樹脂等によってコーティングされ、この巻線34の内周と、ロッド32の外周あるいは駆動用磁石33と、の間には図示しない環状の軸受が配在され、筒31に対してロッド32の軸ぶれが防止されている。
【0103】
すなわち、この他の電磁サスペンション装置にあっては、筒31に対しロッド32が進退して相対運動を呈すると、駆動用磁石33が巻線34に対して相対移動する、いわゆるリニアモータ型の構成となっており、この他の電磁サスペンション装置にあっても、上記した一実施の形態における電磁サスペンション装置と同様に、モータM2は、モータとしてもジェネレータとしても機能し、モータM2の動作はモータMと同様である。
【0104】
したがって、この他の電磁サスペンション装置にあっても、上記した各実施の形態と同様に、電源Eの電圧が所定値以下になると回生領域K内で荷重を発生させるようにしておけば、上記した各実施の形態と同様の作用効果を奏することができるのである。
【0105】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】一実施の形態における電磁サスペンション装置の概念図である。
【図2】電磁サスペンション装置の制御装置のシステム図である。
【図3】PWM回路を示す図である。
【図4】回生領域を示す図である。
【図5】電源Eを最も効率よく充電することが可能なストローク速度と荷重との関係を示す図である。
【図6】回生効率が50%以上となる範囲を示す図である。
【図7】任意のストローク速度に対して発生される荷重と回生電流値との関係を示す図である。
【図8】他の電磁サスペンション装置の概念図である。
【符号の説明】
【0107】
1 一方部材たる螺子軸
2 他方部材たるボール螺子ナット
10 フレーム
11 ステータコア
12,33 巻線
13 シャフト
14,34 駆動用磁石
15 回転角センサ
20 制御装置
21 二相電流演算手段
22 比例積分制御部
23 三相変換演算手段
24 電流検出器
25 PWM回路
26 電流目標値演算部
27 リミッタ
28 電圧センサ
31 一方部材である筒
32 他方部材であるロッド
41 スイッチング素子
50 警告灯
51 警告音発生源
E 電源
M モータ
R ロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方部材と、一方部材に対し相対運動を呈する他方部材と、該相対運動を少なくとも抑制可能なモータとを備えた電磁サスペンション装置において、モータに電力を供給する電源の電圧が所定値以下となるとモータの発電によって電源を充電することが可能な回生領域内で荷重を発生することを特徴とする電磁サスペンション装置。
【請求項2】
ストローク速度が所定範囲内ではモータが出力する回生電流値が回生電流最大値の50%以上の値となるように荷重を発生することを特徴とする請求項1に記載の電磁サスペンション装置。
【請求項3】
ストローク速度が0.1m/sから0.3m/sの範囲でモータが出力する回生電流値が回生電流最大値の50%以上の値となるように荷重を発生することを特徴とする請求項1または2に記載の電磁サスペンション装置。
【請求項4】
ストローク速度に対し最も効率よく電源を充電可能な荷重を発生することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電磁サスペンション装置。
【請求項5】
ストローク速度に対し荷重を、回生領域を仕切るストローク速度と荷重との関係を示す直線における傾きの2分の1の傾きを持ち原点を通る直線上に乗るように発生することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電磁サスペンション装置。
【請求項6】
一方部材と他方部材に対し他方部材が直線相対運動を呈すると一方部材が回転運動を呈し、該一方部材の回転運動がモータに伝達されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電磁サスペンション装置。
【請求項7】
一方部材と、一方部材に対し相対運動を呈する他方部材と、該相対運動を少なくとも抑制可能なモータとを備えた電磁サスペンション装置の制御装置において、モータに電力を供給する電源の電圧が所定値以下となるとモータの発電によって電源を充電することが可能な回生領域内で荷重を発生させる回生制御を行うことを特徴とする電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項8】
ストローク速度が所定範囲内ではモータが出力する回生電流値が回生電流最大値の50%以上の値となるように荷重を発生させる回生制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項9】
ストローク速度が0.1m/sから0.3m/sの範囲でモータが出力する回生電流値が回生電流最大値の50%以上の値となるように荷重を発生させる回生制御を行うことを特徴とする請求項7または8に記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項10】
ストローク速度に対し最も効率よく電源を充電可能な荷重を発生させる回生制御を行うことを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項11】
ストローク速度に対し荷重を、回生領域を仕切るストローク速度と荷重との関係を示す直線における傾きの2分の1の傾きを持ち原点を通る直線上に乗るように発生させる回生制御を行うことを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項12】
車速がゼロであることをトリガとして回生制御を行うことを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項13】
電源電圧が所定値以下となっても所定時間以内に車速がゼロとならない場合に車両の運転室内に設けた警告灯および警告音発生源の一方あるいは両方を作動させたうえで一定時間経過後に回生制御を行う請求項12に記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項14】
車両の運転室内に設けた警告灯および警告音発生源の一方あるいは両方を作動させたうえで回生制御を行う請求項7から12のいずれかに記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項15】
回生制御はフェードインフェードアウトを用いて開始終了されることを特徴とする請求項7から14のいずれかに記載の電磁サスペンション装置の制御装置。
【請求項16】
車体姿勢を所定の制御則に則り制御する通常制御でモータに与える電流目標値と回生制御でモータに与える電圧指令値が同じ値となるとき、あるいは、交差するときに、通常制御から回生制御へ切換および回生制御から通常制御へ切換の一方あるいはその両方を行う請求項7から11のいずれかに記載の電磁サスペンション装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−83813(P2007−83813A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273519(P2005−273519)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【Fターム(参考)】