説明

4輪駆動車用駆動力伝達装置

【課題】2輪駆動時の後輪駆動系によるフリクションロスを低減させて、燃費の良いFF車ベースの4輪駆動車を実現する。
【解決手段】4輪駆動車用駆動力伝達装置10は、エンジン14からの駆動力の回転方向を変えて後輪へ伝達する第1駆動力伝達方向変換部20への駆動力を断接する第1断接機構28と、後輪差動機構26と右後輪駆動軸75の間に設けられて駆動力を断接する第2断接機構30とを設ける。ECU25は、4輪駆動モードから2輪駆動モードヘの切り替え時は第2断接機構30を非結合とした後に、第1断接機構28の結合を解除して後輪駆動系の回転を停止し、二輸駆動モードから4輪駆動モードヘの切り替え時は第2断接機構30を結合させた後に第1断接機構28を結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2輪駆動時に左右前輪を駆動するFF車ベースの4輪駆動車に用いる4輪駆動車用駆動力伝達装置に関し、特に、2輪駆動時に駆動力の伝達に関らない部分の回転を停止する4輪駆動車用駆動力伝達装置に関する。

【背景技術】
【0002】
従来、FF車ベースの4輪駆動車にあっては、例えば図9に示すように、トランスファー上で噛合いクラッチにより2輪駆動と4輪駆動の切り替えを行う駆動力伝達装置が提案されている。
【0003】
図9において、駆動力伝達装置200は4輪駆動車202に設けられ、エンジン204からの駆動力を変速機206で変速して駆動力伝達装置200内の前輪差動装置208と駆動力伝達方向変換部210に設けた駆動力配分装置212に入力する。
【0004】
駆動力配分装置212は噛合いクラッチ機構を内蔵しており、前輪差動装置208側にクラッチギアを配置し、後輪プロペラシャフト214側にカップリングギアとカップリングスリーブを配置し、モータを使用したアクチュエータによるシフトフォークの操作により、カップリングスリーブをクラッチギアから外した2輪駆動位置とカップリングスリーブをクラッチギアに噛み合せた4輪駆動位置とに切替えるようにしている。
【0005】
2輪駆動の場合は、駆動力配分装置212のクラッチギアからカップリングスリーブが切り離され、駆動力は前輪差動装置208にのみ伝達され、前輪差動装置208は左前輪218と右前輪220の回転速度差を吸収しつつ左前輪218及び右前輪220に等しいトルクを与え回転させる。
【0006】
4輪駆動の場合は、駆動力配分装置212のクラッチギアにカップリングスリーブが噛合され、駆動力は駆動力配分装置212から後輪プロペラシャフト214を介して後輪差動装置216にも伝達され、後輪差動装置216は左後輪222と右後輪224の回転速度差を吸収しつつ左後輪220及び右後輪222に等しいトルクを与え回転させる。
【0007】
また、FF車ベースの4輸駆動車として、図10に示すように、後輪差動装置216の前段に電子制御カップリング装置226を設けた駆動力伝達装置も提案されている。
【0008】
電子制御カップリング装置226はコントローラからの制御信号による後輪差動装置216を介して左後輪222と右後輪224に伝達するトルクを所定の最大トルクから零の間に制御できる。
【0009】
このため2輪駆動の場合は、電子制御カップリング装置226の伝達トルクが零に制御され、駆動力は前輪差動装置208にのみ伝達され、前輪差動装置208は左前輪218と右前輪220の回転速度差を吸収しつつ左前輪218及び右前輪220に等しいトルクを与え回転させる。
【0010】
4輪駆動の場合は、電子制御カップリング装置226の伝達トルクが車両の走行状態に応じた適正トルクに制御され、駆動力は後輪プロペラシャフト214から電子制御カップリング装置226を介して後輪差動装置216にも伝達され、後輪差動装置216は左後輪222と右後輪224の回転速度差を吸収しつつ左後輪222及び右後輪224に等しいトルクを与え回転させる。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−89804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このようなFF車ベースの4輪駆動車に設けた駆動力伝達装置にあっては次の問題がある。
【0013】
まず図9の駆動力伝達装置にあっては、2輪駆動に切替えた時にも、駆動力の伝達は駆動力配分装置212で切り離されるが、右後輪222と左後輪224の回転に伴って後輪プロペラシャフト214及び後輪差動装置216を含む後輪に駆動力を伝える伝達経路が常時回転し、オイルの攪拌や軸受部の摩擦などのその他の原因によりフリクションロスが発生し、燃費が悪くなるという問題がある。
【0014】
また、駆動力配分装置212のクラッチギアに対するカップリングスリーブの切離しと噛合いにより駆動力を断接する。このためモータにより駆動されるアクチュエータによるカップリングスリーブのクラッチギアからの切離しはアクセルを弱めた時など負荷の小さいときにする必要がある。一方、クラッチギアに対するアクチュエータによるカップリングスリーブの結合は、前輪と後輪の回転が合うタイミングで噛み合わせる。この場合、モータの力でクラッチギアの端面にカップリングスリーブを押し当てて前輪と後輪の回転が合うタイミングを待つと、負荷が大きくなりすぎてしまうため、両側にばねによる待ち機構が必要になる。
【0015】
しかし、両側にばねによる待ち機構を設けたアクチュエータは構造が複雑でサイズが大型化し、コストも高くなるし、車両の設置にも制約を受ける。
【0016】
また図10の電子カップリング装置226を用いた駆動力伝達装置200にあっては、電子制御カップリング装置226の伝違トルクを零にすることで2輪駆動となるが、図9の場合と同様に、後輪プロペラシャフト214及び後輪差動装置216を含む後輪に駆動力を伝える伝達経路が常時回転し、オイルの攪拌や軸受部の摩擦などのその他の原因によりフリクションロスが発生し、燃費が悪くなるという問題がある。
【0017】
本発明は、2輪駆動時の後輪駆動系によるフリクションロスを低減させて、燃費の良いFF車ベースの4輪駆動車を実現する4輪駆動車用駆動力伝達装置を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前輪及び後輪に駆動力を伝達する4輪駆動モードと、前輪のみに駆動力を伝達する2輪駆動モードとを切り替え可能な4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、
エンジンからの駆動力を受けて、左右前輪へ駆動力を配分する前輪用差動機構と、
エンジンからの駆動力を回転方向を変えて後輪へ伝達する第1駆動力伝達方向変換部と、
左右後輪へ駆動力を配分する後輪用差動機構と、
第1駆動力伝達方向変換部からの駆動力を受けて、回転方向を変えて後輪用差動機構に伝える第2駆動力伝達方向変換部と、
第1駆動力伝達方向変換部への駆動力を断接する第1断接機構と、
後輪差動機構と後輪左右駆動軸の間の少なくともいずれか一方に設けられて駆動力を断接する第2断接機構と、
4輪駆動モードから2輪駆動モードヘの切り替え時は第2断接機構を非結合とした後に、第1断接機構の結合解除し、2輪駆動モードから4輪駆動モードヘの切り替え時は第2断接機構を結合させた後に第1断接機構を結合するコントローラと、
を設けたことを特徴とする。
【0019】
ここで、第1断接機構は、アクチュエータの操作により、クラッチギアに対するカップリングスリーブの噛み合いによる結合と、クラッチギアからカップリングスリーブを切離す非結合とを切り替える噛み合いクラッチ機構であり、
第2断接機構は、締結力を連続的に変化させて前輪及び後輪に伝達する駆動力の配分を制御する多板クラッチ機構であり、
コントローラは、4輪駆動モードから2輪駆動モードヘの切り替え時は、第2断接機構の多板クラッチ機構の締結力を解除して非結合とした後に、第1断接機構をアクチュエータの操作により噛み合いクラッチ機構を非結合とし、2輸駆動モードから4輪駆動モードヘの切り替え時は、第2断接機構の多板クラッチ機構に締結力を付与して結合させた後に第1断接機構をアクチュエータの操作による結合する。
【0020】
第1断接機構は、
アクチュエータにより前記噛み合いクラッチ機構の結合方向と非結合方向とに往復移動されるシフトロッドと、
シフトロッドに設けられ、シフトロッドの非結合方向への移動に対し一体に移動し、シフトロッドの結合方向への移動に対しフリーとなるフォークと、
フォークを常に結合方向に押すバネと、
を備え、
4輪駆動モードから2輪駆動モードヘの切り替え時は、アクチュエータの操作によるロッドの非結合方向への移動によりシフトフォークを前記バネに抗して一体に移動して噛み合いクラッチ機構のカップリングスリーブをクラッチギアから引き外して結合を解除し、2輪駆動モードから4輪駆動モードヘの切り替え時は、アクチュエータの操作によるロッドの結合方向へ移動によりシフトフォークをフリーとしてバネにより噛み合いクラッチ機構のカップリングスリーブをクラッチギアの端面に押し当て、両者の回転同期時に噛み合わせて結合する。
【0021】
第1断接機構を作動するアクチュエータを、車両に設置した第1駆動力伝達方向変換部の垂直方向上部に設置する。
【0022】
本発明の4輪駆動車用駆動力伝達装置は、第2断接機構に設けた多板クラッチ機構の非結合時の引きずりトルクを、第1駆動力伝達方向変換部から第2駆動力伝達方向変換部までのフリクショントルクより小さくする構造とする。
【0023】
多板クラッチ機構は、クラッチ板相互の間隔を広げる方向に付勢するバネ部材を備える。
【0024】
多板クラッチ機構は、クラッチ板を押圧するピストンとの間に、相互の間隔を広げる方向に付勢するバネ部材を備える。
【0025】
多板クラッチ機構は、ピストンの軸方向移動により動作する切替弁を持ち、ピストンを後退したクラッチ切り離し位置でクラッチ板に対する油の供給を遮断し、ピストンを前進したクラッチ締結位置でクラッチ板に油を供給する。

【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、2輪駆動モード時に、後輪駆動系が完全に停止した状態となるため、フリクションロスが発生しない。そのため、燃費悪化を防止でき、4輪駆動車でありながら2輪駆動モードで使用しているときの燃費を2輪駆動車並みの燃費とすることができる。
【0027】
また、4輪駆動モードから2輪駆動モードに切替える時に、後輪差動装置と後輪駆動軸との間に設けた第2断接機構の締結を解除した後に、エンジンの駆動力の回転方向を変えて後輪に伝達する第1駆動力伝達方向変換部側に設けた第1断接機構の切離し操作をすることで、後輪の回転による駆動力がなくなることで、第1断接機構に作用するトルクが非常に小さくなり、アクチュエータにより第1断接機構の切離し操作ができる。このため、第1断接機構の切離し側に待ち機構が必要なくなり、結合のみの片側の待ち機構を持つ構造とすることで簡素な構造とすることができができ、断接操作系の構造を小型化でき、レイアウトの自由度とコストの低減を図ることができる。
【0028】
また待ち機構は結合側の片側で良いことから、待ち機構を簡素な構造とすることができ、このため待ち機構をアクチュエータに内蔵させる必要がなくなり、アクチュエータの小型化を可能とし、その結果、第1方向変換部を内蔵した駆動力配分装置の上部にアクチュエータを設置することが可能となり、車両に搭載する際のレイアウトの自由度を高めることができる。

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による4輪駆動車用駆動力伝達装置の実施形態を示した説明図
【図2】図1の第1断接機構と第1駆動力伝達方向変換部の実施形態を示した断面図
【図3】図2の第1断接機構に用いる操作機構の実施形態を示した説明図
【図4】図2の第1断接機構と第1駆動力伝達方向変換部の外観を示した説明図
【図5】図1の第2断接機構の実施形態を示した断面図
【図6】図6の第2断接機構における中心線下側のクラッチ締結状態の部分を取り出して示した断面図
【図7】図5の多板クラッチ機構のスペース確保用のバネ部材の取付け状態を示した説明図
【図8】図7のクラッチ板に対するバネ部材の取付け構造を示した組立分解図
【図9】従来の4輪駆動車用駆動力伝達装置を示した説明図
【図10】電子制御カップリング装置を用いた従来の4輪駆動車用駆動力伝達装置を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は本発明による4輪駆動車用駆動力伝達装置の実施形態を示した説明図である。図1において、本実施形態の駆動力伝達装置10は、2輪駆動モードで前輪を駆動するFF車ベースの4輪駆動車12に設けられ、前輪差動装置18、第1駆動力伝達方向変換部20、プロペラシャフト22、第2駆動力伝達方向変換部24、後輪差動装置26を備え、更に第1駆動力伝達方向変換部20に第1断接機構28が内蔵され、また後輪差動装置26と右後輪82の間に第2断接機構30を設けている。
【0031】
更に駆動力伝達装置10の第1断接機構28及び第2断接機構30に対しては、コントローラとして機能するECU(Electronic Control Unit)25からの制御信号E1,E2が与えられている。
【0032】
エンジン14からの駆動力は変速機16で変速された後、変速機16のドライブギア32から前輪差動装置18に入力される。前輪差動装置18はエンジンからの駆動力を受けて左前輪48及び右前輪50への駆動力を伝達する。
【0033】
即ち前輪差動装置18は、リングギア34、デフケース35、ピニオン36,38及びサイドギア40,42で構成され、変速機16のドライブギア32の駆動力をリングギア34で受け、ピニオン36,38、サイドギア40,42を介して左前輪駆動軸44及び右前輪駆動軸46を駆動し、左前輪48及び右前輪50を回転させ、駆動力を路面に伝達する。
【0034】
前輪差動装置18は、コーナリング時や路面状態の変化などにより左前輪48と右前輪50に回転速度差を生じた場合、回転速度を吸収し、左前輪48と右前輪50に等しいトルクを与えて回転させる。
【0035】
変速機16のドライブギア32からの駆動力は、前輪差動装置18のリングギア34及びデフケース35を介して、第1駆動力伝達方向変換部20に設けた第1断接機構28に入力される。
【0036】
第1断接機構28は、2輪駆動モードの際には、ECU25からの制御信号E1による操作で後輪側に対する駆動力を切り離した切断状態となっている。このため2輪駆動モードにあっては、エンジン14からの駆動力は第1断接機構28で切り離され、第1駆動力伝達方向変換部20のギア52,54からプロペラシャフト22を介して後輪側に伝達されることはない。
【0037】
一方、4輪駆動モードにあっては、ECU25からの制御信号E1により第1断接機構28は接続状態にあり、前輪差動装置18を介して入力した変速機16からの駆動力を、ベベルギア52及び出力ピニオン54を介して駆動力伝達方向を変換した後、後輪出力軸55に出力する。
【0038】
第1駆動力伝達方向変換部20の後輪出力軸55から出力された駆動力は、自在継手56、プロペラシャフト22及び自在継手58を介して、第2駆動力伝達方向変換部24のドライブピニオン60に伝達され、ドライブピニオン60から後輪差動装置26のリングギア62に伝達されている。
【0039】
第2駆動力伝達方向変換部24はプロペラシャフト22からの駆動力の方向を直交する後輪車軸の方向に変換して、後輪差動装置26に入力する。
【0040】
後輪差動装置26は、リングギア62、デフケース64、ピニオン66,68、サイドギア70,72で構成され、サイドギア70,72に連結した左後輪駆動軸74及び右後輪駆動軸76を介して、左後輪80及び右後輪82を回転させ、駆動力を路面に伝達している。
【0041】
第2断接機構30は、この実施形態にあっては、後輪差動装置26と右後輪82を連結する右後輪駆動軸76の途中に設けられ、右後輪82に対する駆動力を断接する。
【0042】
第2断接機構30は、2輪駆動モードにあっては、ECU25からの制御信号E2により切断状態に制御され、右後輪82と後輪差動装置26との間の駆動力の伝達を切り離し、一方、4輪駆動モードにあっては第2断接機構30は車両状態検出センサからの信号に応じて、駆動力≒0の2輪駆動状態と完全締結状態の間で最適に制御され、後輪差動装置26を介してエンジン14からの駆動力を右後輪82に伝達している。
【0043】
即ち4輪駆動モードにあっては、後輪差動装置26が有効に動作し、コーナリング時や路面状態の変化などにより左後輪80と右後輪82に回転速度差が生じても、後輪差動装置26は回転速度差を吸収し、左後輪80及び右後輪82に等しいトルクを与えて回転させることができる。
【0044】
ここで第1駆動力伝達方向変換部20に設けた第1断接機構28として、本実施形態にあっては、後の説明で詳細に説明するように噛合いクラッチ機構を使用しており、アクチュエータによるシフト操作により、2輪駆動モードとなる切断状態と4輪駆動モードにおける接続状態を切り替える。
【0045】
また後輪側に設けた第2断接機構30として、本実施形態にあっては、後の説明で詳細に説明するように多板クラッチ機構を使用しており、2輪駆動モードで多板クラッチ機構は切離し状態となり、4輪駆動モードで多板クラッチ機構は連続的に駆動力を調整する。
【0046】
またECU25による第1断接機構28と第2断接機構30の制御は次のようになる。
(1)2輪駆動モードから4輪駆動モードへの切替時には、制御信号E2により第2断接機構30を結合させた後に、制御信号E1により第1断接機構28を結合する。
(2)4輪駆動モードから2輪駆動モードへの切替時には、制御信号E2により第2断接機構30を切り離した後に、第1断接機構28の結合を解除する。
【0047】
ここで、図1の実施形態における2輪駆動モードにおける駆動力伝達装置10の機能を説明する。2輪駆動モードにあっては、ECU25の制御信号E1,E2により、まず第2断接機構30を切り離した後に、制御信号E1により第1断接機構28の結合解除が行われている。このため変速機16からの駆動力は前輪差動装置18のリングギア34及びデフケース35を介して第1断接機構28に入力するが、第1断接機構28は結合解除状態にあるため、ギア52,54を介して後輪出力軸56に駆動力は出力されない。
【0048】
一方、後輪側に設けている第2断接機構30についても、ECU25からの制御信号E2により切離し状態となっているため、後輪差動装置26のリングギア62が回転せず、これによって、2輪駆動モードにあっては、第1駆動力伝達方向変換部20のベベルギア52及び出力ピニオン54、後輪出力軸55、プロペラシャフト22、第1駆動力伝達方向変換部20のドライブピニオン60、更に後輪差動装置26のリングギア62の回転が停止し、2輪駆動時に後輪駆動系が回転することによるフリクションロスにより燃費が低下してしまう問題を解消することができる。
【0049】
更に詳細に説明するならば、図1において第2断接機構30が設けられずに2輪駆動モード時にサイドギア72と右後輪駆動軸76が連結されていたとすると、例えばサイドギア70,72が同方向に同速度で回転する場合、ピニオン66,68は回転(自転)せずにリングギア62が回転する。またサイドギア70,72に回転速度差があったとしても、同方向の回転であれば、回転速度は変化するがリングギア62が回転する。このようにリングギア62が回転すると、連結している第2駆動力伝達方向変換部24のドライブピニオン60、自在継手58、プロペラシャフト22、自在継手56、第1駆動力伝達方向変換部20の後輪駆動軸55、出力ピニオン54、ベベルギア52が回転してしまう。
【0050】
このリングギア62からベベルギア52までの後輪駆動力伝達系は、2輪駆動モードでは回転する必要のない部分であるにも関わらず、この部分が回転することで、オイルの粘性抵抗や軸受け部の摩擦損失などを引き起こし、駆動力の損失となって燃費低下を招いてしまう。
【0051】
そこで本発明にあっては、2輪駆動モードにあっては、第1断接機構28と第2断接機構30によりエンジン14側からの駆動力の入力と車輪側からの駆動力の伝達を断つことで、ベベルギア52からリングギア62に至る後輪駆動力伝達系統の回転を防止している。
【0052】
即ち、第2断接機構30による右後輪82からの駆動力の伝達の切離しでサイドギア72と右後輪駆動軸76の連結が断たれると、右後輪82の回転はサイドギア72に伝わらず、そのため左後輪80によるサイドギア70の回転はピニオン66,68を介してサイドギア72を反対方向に回転させる。このときピニオン66,68及びサイドギア72の回転抵抗よりもリングギア62に繋がるドライブピニオン60からベベルギア52までの回転抵抗のほうが大きいため、リングギア62は回転しない。
【0053】
また第2断接機構30として使用している多板クラッチ機構にあっては、多板クラッチ機構を切り離し状態にしたときの引き摺りトルクを、リングギア62からベベルルギア52までの間の後輪駆動力伝達系のフリクションより小さくすることで、この後輪駆動力伝達系の回転を停止することができる。
【0054】
次に4輪駆動モードに切り替えた場合には、ECU25からの制御信号E2により第2断接機構30を結合させた後に第1断接機構28を結合する。このような4輪駆動モードにあっては、第1断接機構28が結合されることで、変速機16からの駆動力は、前輪差動装置18のリングギア34及びデフケース35を介して結合状態にある第1断接機構28を介してベベルギア52を回転し、出力ピニオン54で方向を変換された後、後輪出力軸55、プロペラシャフト22、更にドライブピニオン60を介して後輪差動装置26に入力し、第2断接機構30の結合により後輪差動装置26が有効に動作し、後輪差動装置26を介して左後輪80及び右後輪82に駆動力を伝達して回転させることができる。
【0055】
もちろん2輪駆動モード及び4輪駆動モードのいずれにおいても、変速機16のドライブギア32からの駆動力は前輪差動装置18を介して右前輪48及び左前輪50に伝達されて回転させることができる。
【0056】
図2は図1の第1断接機構の実施形態を第1駆動力伝達方向変換部と共に示した断面図である。図2において、前輪差動装置18のデフケース35の右側には第1断接機構28の入力軸45が連結され、入力軸45は中空軸であり、内部に右前輪駆動軸46を回転自在に貫通している。
【0057】
入力軸45にはドライブギア84が一体に設けられ、ドライブギア84に対しては中間伝達軸86に回転自在に設けたドリブンギア88が噛み合っている。中間伝達軸86に設けたドリブンギア88の右側にはクラッチギア90が固定され、クラッチギア90の右側に中間伝達軸86に固定されたカップリングギア92が配置され、カップリングギア92の外周に、内周にギアスプラインを形成したカップリングスリーブ94を軸方向に摺動自在に配置している。
【0058】
この中間伝達軸86に設けたドリブンギア88、クラッチギア90及びカップリングギア92により、第1断接機構28において駆動力の断接を行う噛合いクラッチ機構が構成される。
【0059】
更に、噛合いクラッチ機構を設けた中間伝達軸86の左側にはベベルギア52が固定され、ベベルギア52には直交する方向に配置した後輪出力軸55と一体に形成したドライブピニオン54が噛み合い、第1駆動力伝達方向変換部20を構成している。
【0060】
図3は図2の第1断接機構28に設けた噛合いクラッチ機構の切替えに使用する操作機構の実施形態を示した説明図であり、この操作機構にあっては、2輪駆動モードと4輪駆動モードの切替えにつき、4輪駆動モードの切替えとなる片側についてのみ待ち機構を備えたことを特徴とする。
【0061】
図3において、相対するケース96に設けた軸穴102,104に対しては、シフトロッド98が摺動自在に組み込まれている。シフトロッド98にはシフトフォーク100が装着され、シフトフォーク100のフォーク部分が図2に示すカップリングスリーブ94のフォーク溝94aに嵌まり合う。
【0062】
シフトロッド98の左側にはラックギア106が形成され、ここにピニオンギア104が噛み合い、ピニオンギア104はサーボモータを備えたアクチュエータにより左右方向に回転され、ラックギア106を介して、シフトロッド98を右側となる2WD切替位置と左側となる4WD切替位置に移動することができる。
【0063】
シフトロッド98に配置したシフトフォーク100の左側には止め輪108が装着され、反対側にはケース96との間にバネ110を配置し、シフトフォーク100を常に4WD切替方向に付勢している。
【0064】
図3の操作機構において、2輪駆動モードとするために2WD位置に切り替える際には、アクチュエータのサーボモータによりピニオンギア104をA方向に回転し、シフトロッド98を右方向に移動する。このシフトロッド98の右方向の移動に対し、止め輪108による当接を受けてシフトフォーク100は、2WD切替位置にバネ110を圧縮しながら移動する。
【0065】
このようなシフトフォーク100の右方向の移動により、図2に示すクラッチギア90に噛み合って結合状態にあるカップリングスリーブ94が右方向に移動され、クラッチギア90から外れて結合を解除することになる。
【0066】
一方、4輪駆動モードの際には、アクチュエータのサーボモータによりピニオンギア104を矢印B方向に回転し、シフトロッド98を左方向に移動する。シフトロッド98を左方向に移動すると、止め輪108が一体に左方向に移動し、これに伴い、シフトフォーク100はバネ110により押されて左方向に移動する。
【0067】
このようなシフトフォーク100の動きにより、図2におけるカップリングスリーブ94がシフトフォーク100によりバネ110の力で押されて、クラッチギア90に押し当てられる。このとき前輪側と後輪側に回転差がある場合、カップリングスリーブ94はクラッチギア90の右側にバネ110の力により押し当てられて、噛合い待ちとなる待ち状態となる。
【0068】
バネ110によりカップリングスリーブ94がクラッチギア90に押し当てられた待ち状態で、前輪側と後輪側の回転差がなくなると、バネ110の力でカップリングスリーブ94がクラッチギア90に押し込まれて噛合い、噛合いクラッチ機構が結合状態となる。
【0069】
ここで本実施形態にあっては、図1に示したように、2輪駆動モードから4輪駆動モードに切り替える際には、ECU25が制御信号E2により第2断接機構30を結合させた後に、制御信号E1により第1断接機構28を結合している。
【0070】
このため、図3の待ち機構を備えた操作機構により第1断接機構28の結合を行う際には、後輪側の回転が結合された第2断接機構30を介して後輪差動装置26、プロペラシャフト22を回転し、更に後輪出力軸55及びドライブピニオン52を介して中間伝達軸86を回転しており、走行中であることから前後輪の間に速度差は基本的になく、図3の操作機構によりカップリングスリーブ94をクラッチギア90に噛み入れる際には、カップリングスリーブ94とクラッチギア90の間に回転差はほとんどなく、バネ110による力を受けて、短時間の回転待ちでカップリングスリーブ94をクラッチギア90に噛み込ませて結合することができる。
【0071】
一方、4輪駆動モードから2輪駆動モードに切り替える際には、図1のECU25は、第2断接機構30の締結を解除した後に第1断接機構28の結合を解除している。このため図2の第1断接機構28にあっては、図3の操作機構によりカップリングスリーブ94をクラッチギア90から引き外す際には、後輪出力軸55、ベベルギア54及びドライブピニオン52を介して、中間伝達軸86に対する後輪側からの駆動力は開放された状態にあり、クラッチギア90とカップリングスリーブ94の噛合いによる駆動力の伝達はないことから、図3に示したアクチュエータのサーボモータによるピニオンギア104のA方向への回転によるシフトロッド98の移動で、直接、カップリングスリーブ94をクラッチギア90から軽い力で引き外すことができる。
【0072】
このように本実施形態の第1断接機構28に設ける噛合いクラッチ機構にあっては、図3に示す操作機構が4WD側の片側への切替時についてのみ、バネ110による待ち機構を設けるだけでよく、操作機構が極めて簡単な構成とできることで、第1断接機構の断接を行うアクチュエータの構造を簡単にし、軽量化及び小型化を図ることができる。
【0073】
図4は図2の第1断接機構と第1駆動力伝達方向変換部の外観を示した説明図であり、図4(A)に車両搭載状態における横方向から見た状態を示し、図4(B)に上から見た平面方向を示している。
【0074】
図4において、第1断接機構28は左側に前輪差動装置のデフケースが連結される入力軸45を取り出し、入力軸45には右前輪駆動軸46が回転自在に貫通している。第1断接機構28の後方には第1駆動力伝達方向変換部20が組み付けられている。
【0075】
第1断接機構28の上部には、サーボモータ114を備えたアクチュエータ112が搭載されている。アクチュエータ112は図示しないウォーム減速機及びポジションスイッチを内蔵しており、サーボモータ114により図3のピニオンギア104を回動し、シフトロッド98の動きによりシフトフォーク100を操作して、第1断接機構を構成する図2に示した噛合いクラッチ機構の断接を行う。
【0076】
このように第1断接機構28の断接に使用するアクチュエータ112が操作機構の簡略化により小型軽量化できることで、第1断接機構28と第1駆動力伝達方向変換部20を備えたトランスフファーの上部にアクチュエータ112を配置し、車両搭載におけるレイアウトの自由度を十分に高めることができる。
【0077】
図5は図1の後輪側に配置した第2断接機構の実施形態を示した断面図であり、本実施形態にあっては、第2断接機構として多板クラッチ機構を用いたことを特徴とする。
【0078】
図5において、後輪差動装置26のサイドギア72に連結された右後輪駆動軸は、駆動力が入力する左側の入力駆動軸76aと駆動力が出力される右側の出力駆動軸76bに分割され、その間に第2断接機構30を構成する多板クラッチ機構116を設けている。
【0079】
多板クラッチ機構116は、入力駆動軸76aの軸端側外周にインナーハブ118を固定し、その外側に出力駆動軸76bに連結したアウターハブ120を配置し、インナーハブ118とアウターハブ120に交互に嵌め合わされたクラッチ板122,124を複数配置している。
【0080】
多板クラッチ機構116の左側には、クラッチ締結と切離しを行うボールカム機構130が設けられている。ボールカム機構130は、入力駆動軸76aの外周に固定された固定プレート134の右側に、間にボール132を介して回転カムプレートギア131を軸方向に移動自在に配置しており、回転カムプレートギア131の右側にスラストベアリング128を介して、ピストン126を多板クラッチ機構116のクラッチ板122,124に対し軸方向に移動自在に配置している。
【0081】
また固定カムプレート134の左側にはスラストベアリング136を介して固定プレート138が配置され、ピストン126を押圧する際の反力を受け止めるようにしている。ボールカム機構130の回転カムプレートギア131の下側には、サーボモータを用いたアクチュエータにより回転されるドライブギア135が噛み合わされている。
【0082】
ボールカム機構130は、固定カムプレート134及びこれに相対した回転カムプレートギア131の端面に設けられた円周方向のカム溝と、カム溝に嵌め込まれたボール132により構成されている。円周方向に形成されたカム溝の深さは、円周方向に向けて直線的に溝の深さが変化する円周方向のテーパ溝を形成している。
【0083】
ここで図5の断面図にあっては、中心線の上側について多板クラッチ機構116を開放したクラッチ切離し状態を示し、中心線の下側について多板クラッチ機構116を締結したクラッチ締結状態を示している。
【0084】
即ち、ボールカム機構130における回転カムプレートギア131が中心線の上側に示す回転位置のとき、ボール132は円周方向のカム溝の最も深い位置に入っており、このためピストン144は左側に戻されて、クラッチ板122,124の押圧を解除したクラッチ切離し状態となっており、入力駆動軸76aと出力駆動軸76bとの間の駆動力の伝達を切り離している。
【0085】
これに対し、アクチュエータによるカム駆動ギア135の回転により回転カムプレートギア131を所定角度回転すると、中心線の下側に示すように、ボール132はカム溝の最も浅くなる位置が来ることで回転カムプレートギア131を右側に移動し、これによりピストン126が押されて、多板クラッチ機構116におけるクラッチ板122,124を押圧してクラッチ締結状態を作り出し、入力駆動軸76aと出力駆動軸76bとの間の駆動力の伝達を行う。
【0086】
このクラッチ締結時におけるボールカム機構130及び多板クラッチ機構116の状態は、図5の中心線の下側を取り出して示した図6を参照することで、更に明確に動作状態が分かる。
【0087】
図5に示した多板クラッチ機構116を用いた本実施形態の第2断接機構30にあっては、多板クラッチ機構116の切離し状態における引き摺りトルク、即ち図5の中心線の上側に示すようにクラッチ切離し状態でクラッチ板122,124の回転速度差により発生する油の粘性抵抗やクラッチ板同士の接触による摩擦損失となる引摺りトルクが、図1に示したリングギア62からベベルギア52に至る後輪駆動力伝達系のフリクショントルクより小さくなる構造を採用している。
【0088】
この多板クラッチ機構116におけるクラッチ切離し時の引摺りトルクを低減する構造として、本実施形態にあっては次の3つの構造を採用している。
(1)クラッチ板122,124の間隔を広げる方向に付勢するバネ部材を設ける。
(2)ピストン126とクラッチ板124の間に相互の間隔を広げるバネ部材を設ける。
(3)ピストン126の後退位置(切離し位置)でクラッチ板122,124に対する油の供給を遮断し、ピストン126を前進したクラッチ締結位置でクラッチ板122,124に油を供給する弁機構を設ける。
【0089】
まず多板クラッチ機構116のクラッチ板122,124に対する油の供給を制御する弁機構として、本実施形態にあっては、入力駆動軸76aの右側から形成した段付の軸穴に、同じく段付円筒形状を持つ弁部材140を軸方向に摺動自在に配置し、右側をストッパ141により抜け止めしている。
【0090】
弁部材140の右側にはポート148が形成され、このポート148に対応して、クラッチハブ118の装着部分となる入力駆動軸76aに内部から外周に貫通した油供給穴146を形成している。
【0091】
弁部材140はロッド142によりピストン126に連結されており、ロッド142は入力駆動軸76aの部分に開口した軸方向の長手穴144を通って弁部材140に連結されており、ボールカム機構130によるピストン126の軸方向の移動に応じて、連結ピン142を介して弁部材140を軸方向に移動できるようにしている。
【0092】
なお、連結ピン142は、その上部の軸方向に打ち込んだストッパピン143により抜け止めされている。また、出力駆動軸76a側にはオイルポンプ(図示せず)が設けられ、弁部材140を収納した軸穴に油を加圧供給している。
【0093】
図5における中心線の上側となる多板クラッチ機構116の切離し状態にあっては、ボールカム機構130によりピストン126が左側の後退位置にあり、このとき連結ピン142を介して内部の弁部材140も左側に移動した位置にあり、弁部材140のポート148はクラッチハブ118側の油供給穴146から外れた閉鎖位置に置かれている。
【0094】
このため多板クラッチ機構116の切離し状態にあっては、油供給穴146に対し軸内部からの油供給が行われず、開放状態にあるクラッチ板122,124の間に油が入って粘性抵抗を生ずることによる引き摺りトルクの発生を抑えている。
【0095】
一方、図5の中心線の下側及び図6に取り出して示すように、ボールカム機構130によりピストン144が右側に押されて多板クラッチ機構116のクラッチ板122,124が締結状態となると、ピストン144の右側の移動に伴い、連結ピン142を介して弁部材140もストッパ141に当接する右側の位置に移動し、この位置で弁部材140のポート148がクラッチハブ118側の油供給穴146に相対して流路を開き、ピストン126による押圧で締結状態にあるクラッチ板122,124に対し油を供給して、クラッチ板の滑りによる摩擦熱などに対する冷却を行うことができる。
【0096】
特に本実施形態の多板クラッチ機構116にあっては、4輪駆動モードにおいて、図1に示したECUは運転状態に応じて前輪と後輪のトルク配分を制御するように多板クラッチ機構116に対する締結力即ちトルク伝達を変化させており、したがって4輪駆動モードにあっては、クラッチ締結状態でピストン126によるクラッチ締結力即ち伝達トルクが制御され、このときのクラッチ板122,124の滑り状態の発生に対し、ポート148から油供給穴146を通して油を供給することで、クラッチ板の摩擦接触による磨耗と冷却を適切に行うことができる。
【0097】
図7は図5の多板クラッチ機構におけるスペース確保用のバネ部材の取付け状態を示した説明図である。
【0098】
図7において、多板クラッチ機構116におけるインナーハブ118側に装着したクラッチ板122とアウターハブ120側に装着したクラッチ板124との間のクラッチ開放時にスペースを確保するため、クラッチ板124の内周側の端部にバネ部材としてクラッチ用バネスペーサ154を配置し、クラッチ板122,124の間の間隔を確保するようにしている。
【0099】
またピストン144の内周側端面とインナーハブ118の相対する端面との間には、コイルバネを使用したピストン用バネスペーサ152を配置し、ピストン126とクラッチ板122との間にクラッチ切離し状態で隙間を確保し、両者の接触による引き摺りトルクの発生を抑えている。
【0100】
図8は図7のクラッチ板に対するバネ部材の取付構造を示した組立分解図である。図8において、アウターハブ120側のクラッチ板124の内周側にはスペーサ収納部156が円周方向の複数個所に等間隔で形成され、ここにクラッチ用バネスペーサ154を内側から嵌め込むようにしている。
【0101】
クラッチ用バネスペーサ154は、中央の表示部154aの両側に山型に折り曲げた弾性片154bを形成しており、スペーサ収納部156に表示部154aを嵌め入れて固定することで、両側に位置するスペーサハブ118側のクラッチ板122に弾性片154bの張出し部分が当たり、クラッチ開放状態でクラッチ板122,124の間に一定のスペースを形成し、クラッチ板の接触による引き摺りトルクの発生を低減している。
【0102】
なお、上記の実施形態は、図1に示したように、後輪差動装置26と右後輪82との間の右後輪駆動軸76に多板クラッチ機構を用いた第2断接機構30を配置した場合を例に取っているが、第2断接機構30としては後輪差動装置26と左後輪80との間の左後輪駆動軸76に設けてもよく、更には右後輪駆動軸76と左後輪駆動軸74の両方に第2断接機構30を設けるようにしてもよい。
【0103】
また図5に示した多板クラッチ機構116を断接する機構としてボールカム機構130を例に取るものであったが、油圧ポンプから供給される油圧によりピストン126を駆動して締結トルクを制御可能な油圧ピストン型の駆動部を備えた多板クラッチ機構116としてもよい。
【0104】
また本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。

【符号の説明】
【0105】
10:駆動力伝達装置
12:4輪駆動車
14:エンジン
16:変速機
18:前輪差動装置
20:第1駆動力伝達方向変換部
22:プロペラシャフト
24:第2駆動力伝達方向変換部
25:コントロールユニット
26:後輪差動装置
28:第1断接機構
30:第2断接機構
32,60:ドライブピニオン
34,62:リングギア
35,64:デフケース
36,38,66,68:ピニオン
40,42,70,72:サイドギア
44:左前輪駆動軸
46:右前輪駆動軸
48:左前輪
50:右前輪
44:左前輪駆動軸
45:入力軸
46:右前輪駆動軸
56,58:自在継手
74:左後輪駆動軸
76:右後輪駆動軸
90:クラッチギア
92:カップリングギア
94:カップリングスリーブ
98:シフトロッド
100:シフトフォーク
104:ピニオンギア
106:ラックギア
108:止め環
110:バネ
112:アクチュエータ
114:モータ
116:多板クラッチ機構
118:インナーハブ
120:アウターハブドラム
122,124クラッチ板
126:ピストン
128,136:スラストベアリング
130:ボールカム機構
131:回転カムプレートギア
132:ボール
134:固定カムプレート
135:カム駆動ギア
138:固定プレート
140:弁部材
142:連結ピン
144:長手穴
146:油供給孔
148:ポート
150:スペーサ収納溝
152:ピストン用バネスペーサ
154:クラッチ用バネスペーサ
156:スペーサ収納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪に駆動力を伝達する4輪駆動モードと、前輪のみに駆動力を伝達する2輪駆動モードとを切り替え可能な4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、
エンジンからの駆動力を受けて、左右前輪へ駆動力を配分する前輪用差動装置と、
エンジンからの駆動力を回転方向を変えて後輪へ伝達する第1駆動力伝達方向変換部と、
左右後輪へ駆動力を配分する後輪用差動装置と、
前記第1駆動力伝達方向変換部からの駆動力を受けて、回転方向を変えて前記後輪用差動装置に伝える第2駆動力伝達方向変換部と、
前記第1駆動力伝達方向変換部への駆動力を断接する第1断接機構と、
前記後輪差動機構と後輪左右駆動軸の間の少なくともいずれか一方に設けられて駆動力を断接する第2断接機構と、
4輪駆動モードから2輪駆動モードヘの切り替え時は前記第2断接機構を非結合とした後に、第1断接機構の結合解除し、2輸駆動モードから4輪駆動モードヘの切り替え時は第2断接機構を結合させた後、第1断接機構を結合するコントローラと、
を設けたことを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【請求項2】
請求項1記載の4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、
前記第1断接機構は、アクチュエータの操作により、クラッチギアに対するカップリングスリーブの噛み合いによる結合と、前記クラッチギアからカップリングスリーブを切離す非結合とを切り替える噛み合いクラッチ機構であり、
前記第2断接機構は、締結力を連続的に変化させて前輪及び後輪に伝達する駆動力の配分を制御する多板クラッチ機構であり、
前記コントローラは、4輪駆動モードから2輪駆動モードヘの切り替え時は、前記第2断接機構の多板クラッチ機構の締結力を解除して非結合とした後に、第1断接機構をアクチュエータの操作により前記噛み合いクラッチ機構を非結合とし、2輸駆動モードから4輪駆動モードヘの切り替え時は、第2断接機構の多板クラッチ機構に締結力を付与して結合させた後、前記第1断接機構をアクチュエータの操作による結合することを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【請求項3】
請求項2記載の4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、
前記第1断接機構は、
アクチュエータにより前記噛み合いクラッチ機構の結合方向と非結合方向とに往復移動されるシフトロッドと、
前記シフトロッドに設けられ、前記シフトロッドの非結合方向への移動に対し一体に移動し、前記シフトロッドの結合方向への移動に対しフリーとなるフォークと、
前記フォークを常に結合方向に押すバネと、
を備え、
4輪駆動モードから2輪駆動モードヘの切り替え時は、前記アクチュエータの操作による前記ロッドの非結合方向への移動により前記シフトフォークを前記バネに抗して一体に移動して前記噛み合いクラッチ機構のカップリングスリーブをクラッチギアから引き外して結合を解除し、2輪駆動モードから4輪駆動モードヘの切り替え時は、前記アクチュエータの操作による前記ロッドの結合方向へ移動により前記シフトフォークをフリーとして前記バネにより前記噛み合いクラッチ機構のカップリングスリーブをクラッチギアの端面に押し当て、両者の回転同期時に噛み合わせて結合することを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【請求項4】
請求項1記載の4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記第1断接機構を作動するアクチュエータを、車両に設置した前記第1駆動力伝達方向変換部の垂直方向上部に設置することを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【請求項5】
請求項1記載の4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記第2断接機構に設けた多板クラッチ機構の非結合時の引きずりトルクを、第1駆動力伝達方向変換部から第2駆動力伝達方向変換部までのフリクショントルクより小さくする構造としたことを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【請求項6】
請求項5記載の4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、前記クラッチ板相互の間隔を広げる方向に付勢するバネ部材を備えたことを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【請求項7】
請求項5記載の4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、クラッチ板を押し圧するピストンとの間に、相互の間隔を広げる方向に付勢するバネ部材を備えたことを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【請求項8】
請求項5記載の4輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、前記ピストンの軸方向移動により動作する切替弁を持ち、ピストンを後退したクラッチ切り離し位置で前記クラッチ板に対する油の供給を遮断し、ピストンを前進したクラッチ締結位置で前記クラッチ板に油を供給することを特徴とする4輪駆動車用駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−254058(P2010−254058A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104752(P2009−104752)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】